(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022074902
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】画像処理装置
(51)【国際特許分類】
B65H 3/06 20060101AFI20220511BHJP
B65H 7/14 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
B65H3/06 350C
B65H7/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020185321
(22)【出願日】2020-11-05
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003096
【氏名又は名称】特許業務法人第一テクニカル国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉宗 秀晃
(72)【発明者】
【氏名】謝 添錦
【テーマコード(参考)】
3F048
3F343
【Fターム(参考)】
3F048AA01
3F048AB02
3F048AB05
3F048BA08
3F048BB04
3F048CC03
3F048CC04
3F048DA04
3F048DC05
3F048EB12
3F343FA03
3F343FA09
3F343FB01
3F343FC03
3F343GA02
3F343GB01
3F343GC01
3F343GD01
3F343JA01
3F343KB05
3F343KB19
3F343LA04
3F343LA16
3F343LC21
3F343LC22
3F343LD10
3F343LD29
3F343LD30
3F343MA03
3F343MA14
3F343MA26
3F343MA36
3F343MA54
3F343MB03
3F343MB14
3F343MC06
3F343MC26
(57)【要約】
【課題】シートを連続して給紙する際の搬送異常を抑制する。
【解決手段】給紙ローラ92と、給紙ローラ92より下流側に位置する分離ローラ54と、分離ローラ54より下流側に位置する第1搬送ローラ44と、複合クラッチ160,170を備え、複合クラッチ160は、双方向クラッチ161と一方向クラッチ162を有し、双方向クラッチ161は、伝達部163と、伝達部163に対し1周未満遅れて従動回転する被伝達部164を有し、複合クラッチ170は、双方向クラッチ171と一方向クラッチ172を有し、双方向クラッチ171は、伝達部173と、伝達部173に対し1周未満遅れて従動回転する被伝達部174を有し、双方向クラッチ161において伝達部163と被伝達部164との間に設定される最大遊び角度θ1maxが、双方向クラッチ171において伝達部173と被伝達部174との間に設定される最大遊び角度θ2maxよりも大きい。
【選択図】
図17
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転方向若しくは前記第1回転方向とは反対向きの第2回転方向に回転し対応する駆動力を発生可能な、モータと、
前記モータからの駆動力が伝達されることにより回転し、シートを搬送方向に送り出す給紙ローラと、
前記給紙ローラより前記搬送方向の下流側に位置し、前記モータからの駆動力が伝達されることにより回転し、前記給紙ローラから送り出される前記シートを1枚ずつに分離する分離ローラと、
前記分離ローラより前記搬送方向の下流側に位置し、前記モータからの駆動力が伝達されることにより回転し、前記シートを前記給紙ローラ及び前記分離ローラよりも速い搬送速度で搬送する搬送ローラと、
前記モータから前記給紙ローラへの駆動力の伝達経路に設けられた第1複合クラッチと、
前記モータから前記分離ローラへの駆動力の伝達経路に設けられた第2複合クラッチと、
を備え、
前記第1複合クラッチは、
第1双方向クラッチと、
前記第1双方向クラッチに連結され、前記第1回転方向に回転する前記モータからの第1駆動力を伝達することなく前記第2回転方向に回転する前記モータからの第2駆動力を伝達する第1一方向クラッチと、
を有し、
前記第1双方向クラッチは、
前記第1駆動力又は前記第2駆動力によって第1軸心周りに回転する第1伝達部と、
前記第1軸心周りに回転可能、かつ前記第1軸心の周方向において前記第1伝達部に当接可能であり、前記第1伝達部に対し1周未満遅れて従動回転する第1被伝達部と、
を有し、
前記第2複合クラッチは、
第2双方向クラッチと、
前記第2双方向クラッチに連結され、前記モータからの前記第1駆動力を伝達することなく前記モータからの前記第2駆動力を伝達する第2一方向クラッチと、
を有し、
前記第2双方向クラッチは、
前記第1駆動力又は前記第2駆動力によって第2軸心周りに回転する第2伝達部と、
前記第2軸心周りに回転可能、かつ前記第2軸心の周方向において前記第2伝達部に当接可能であり、前記第2伝達部に対し1周未満遅れて従動回転する第2被伝達部と、
を有し、
前記第1双方向クラッチにおいて前記第1伝達部と前記第1被伝達部との間に設定される第1最大遊び角度が、前記第2双方向クラッチにおいて前記第2伝達部と前記第2被伝達部との間に設定される第2最大遊び角度よりも大きい
ことを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記給紙ローラ、前記分離ローラ、及び前記搬送ローラは、
共通する1つの前記モータからの駆動力が伝達されることにより回転する
ことを特徴とする請求項1記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記シートとしての原稿を読み取って当該原稿の画像に基づく画像データを生成する画像読取部をさらに備え、
前記給紙ローラ、前記分離ローラ、及び前記搬送ローラは、
所定の搬送経路に沿って前記シートを前記画像読取部へ搬送する
ことを特徴とする請求項2記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記第1双方向クラッチにおける前記第1最大遊び角度と前記第2双方向クラッチにおける前記第2最大遊び角度との偏差は、前記第2伝達部の回転駆動による前記第2被伝達部の従動回転が開始された後に、前記第1伝達部の回転駆動による前記第1被伝達部の従動回転が開始されるように、設定されている
ことを特徴とする請求項3記載の画像処理装置。
【請求項5】
搬送される各シートを検知するセンサをさらに備え、
前記偏差は、
第1シート及び第2シートを含む複数の前記シートが前記給紙ローラへと投入された際に、先行して搬送される前記第1シートの後端と前記第1シートに後続して搬送される前記第2シートの前端との離間距離が、前記センサによるシート検知用の第1しきい値以上となるように設定され、
前記第1しきい値は、
前記シートのサイズに応じて可変に設定されている
ことを特徴とする請求項4記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記偏差は、
前記第1シート及び前記第2シートを含む複数の前記シートが前記給紙ローラへと投入された際に、先行して搬送される前記第1シートの後端と前記第1シートに後続して搬送される前記第2シートの前端との離間距離が斜行判断用の第2しきい値以上となるように設定され、
前記第2しきい値は、
前記シートのサイズに応じて可変に設定されている
ことを特徴とする請求項5記載の画像処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータからの駆動力の伝達経路にクラッチを備えた画像処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に記載のように、第1送出ローラ、第2送出ローラ、給紙ローラ、排紙ローラを、それぞれ、送出モータ、給紙モータ、排紙モータの駆動力により回転させる技術が知られている。またこの従来技術では、送出モータからの駆動力は、第1ワンウェイクラッチを介し第1送出ローラに伝達されるとともに第2ワンウェイクラッチを介し第2送出ローラに伝達される。これにより送出モータが正回転したときには駆動力が第1送出ローラ及び第2送出ローラに伝達される一方、送出モータが逆回転したときには駆動力は第1送出ローラ及び第2送出ローラのいずれにも伝達されない構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シートを搬送経路に沿って搬送するとき、分離ローラの下流側に配置された搬送ローラのシート搬送速度を、給紙ローラのシート搬送速度と分離ローラのシート搬送速度よりも速くする場合がある。この場合、給紙ローラと分離ローラに一方向クラッチが設けられることにより、円滑な搬送を行うことができる。しかしながら、搬送ローラによって搬送されるシートの後端が給紙ローラを抜けた後、後続のシートが給紙ローラによって搬送される際、シワや重送等の搬送異常が生じるおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、シートを連続して給紙する際の搬送異常を抑制することができる画像処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本願発明は、第1回転方向若しくは前記第1回転方向とは反対向きの第2回転方向に回転し対応する駆動力を発生可能な、モータと、前記モータからの駆動力が伝達されることにより回転し、シートを搬送方向に送り出す給紙ローラと、前記給紙ローラより前記搬送方向の下流側に位置し、前記モータからの駆動力が伝達されることにより回転し、前記給紙ローラから送り出される前記シートを1枚ずつに分離する分離ローラと、前記分離ローラより前記搬送方向の下流側に位置し、前記モータからの駆動力が伝達されることにより回転し、前記シートを前記給紙ローラ及び前記分離ローラよりも速い搬送速度で搬送する搬送ローラと、前記モータから前記給紙ローラへの駆動力の伝達経路に設けられた第1複合クラッチと、前記モータから前記分離ローラへの駆動力の伝達経路に設けられた第2複合クラッチと、を備え、前記第1複合クラッチは、第1双方向クラッチと、前記第1双方向クラッチに連結され、前記第1回転方向に回転する前記モータからの第1駆動力を伝達することなく前記第2回転方向に回転する前記モータからの第2駆動力を伝達する第1一方向クラッチと、を有し、前記第1双方向クラッチは、前記第1駆動力又は前記第2駆動力によって第1軸心周りに回転する第1伝達部と、前記第1軸心周りに回転可能、かつ前記第1軸心の周方向において前記第1伝達部に当接可能であり、前記第1伝達部に対し1周未満遅れて従動回転する第1被伝達部と、を有し、前記第2複合クラッチは、第2双方向クラッチと、前記第2双方向クラッチに連結され、前記モータからの前記第1駆動力を伝達することなく前記モータからの前記第2駆動力を伝達する第2一方向クラッチと、を有し、前記第2双方向クラッチは、前記第1駆動力又は前記第2駆動力によって第2軸心周りに回転する第2伝達部と、前記第2軸心周りに回転可能、かつ前記第2軸心の周方向において前記第2伝達部に当接可能であり、前記第2伝達部に対し1周未満遅れて従動回転する第2被伝達部と、を有し、前記第1双方向クラッチにおいて前記第1伝達部と前記第1被伝達部との間に設定される第1最大遊び角度が、前記第2双方向クラッチにおいて前記第2伝達部と前記第2被伝達部との間に設定される第2最大遊び角度よりも大きいことを特徴とする。
【0007】
本願発明においては、モータから給紙ローラ及び分離ローラへの駆動力の伝達経路に第1複合クラッチ及び第2複合クラッチがそれぞれ設けられる。第1複合クラッチには第1一方向クラッチが備えられる。下流側の分離ローラの搬送速度を上流側の給紙ローラよりも速く設定した場合、それら給紙ローラ及び分離ローラの両方にシートがまたがって搬送されている状態では、給紙ローラは分離ローラの回転により高速で搬送されるシートに引っ張られて連れ回りする。第1複合クラッチに第1一方向クラッチが設けられることにより、モータからの第2駆動力により分離ローラが回転してシートが搬送されることによって給紙ローラが上記連れ回りする際に給紙ローラに対し第2駆動力と逆向きの力を作用させないので、ローラ表面とシートとの滑りが生じず円滑な搬送を行うことができる。分離ローラの下流側に分離ローラより高速で搬送するローラが設けられる場合も、上記同様、第2複合クラッチに第2一方向クラッチが設けられることで分離ローラの連れ回り時において円滑な搬送を行うことができる。
【0008】
複数のシートが給紙ローラの上流側から投入された際、先行シートが搬送ローラ、分離ローラ及び給紙ローラにまたがって搬送されている間は、搬送ローラによる搬送速度が給紙ローラ及び分離ローラよりも速いことから、給紙ローラ及び分離ローラは、搬送ローラの搬送速度による連れ回りの状態である。この状態では、第1複合クラッチに備えられる第1双方向クラッチ及び第2複合クラッチに備えられる第2双方向クラッチにおいては、搬送ローラとの速度差により第1伝達部と第1被伝達部との間に生じる第1遊び角度及び第2伝達部と第2被伝達部との間に生じる第2遊び角度が拡大することとなる。
【0009】
その後、先行シートの後端が給紙ローラを抜けると、給紙ローラの連れ回りが終了し回転が停止する結果、モータからの第2駆動力が入力される第1伝達部と、これに周方向に対向する第1被伝達部との間の遊び角度が急激に減少する。減少した遊び角度が0になると、第1伝達部と第1被伝達部とが当接して第2駆動力が給紙ローラに伝達され、先行シートの後端が抜けた後に露出した後続シートに対し給紙ローラによる搬送が開始される。
【0010】
このような挙動のため、例えば給紙ローラに係わる第1双方向クラッチにおける上記遊び角度と分離ローラに係わる第2双方向クラッチにおける上記遊び角度とを略同一値とした場合、先行シートの後端がまだ分離ローラを抜けていない状態で、給紙ローラによる後続シートの分離ローラ側への搬送が開始される場合がある。このように給紙ローラによる搬送開始タイミングが比較的早くなった場合、先行シートと後続シートとの間隔を十分に空けることができず、重送となるおそれがある。また、給紙ローラによって送り込まれる後続シートが先行シートの後端近傍と重なった状態で分離ローラからのニップの負荷が加わることで、後続シートの先端にシワが発生するおそれもある。
【0011】
そこで本願発明においては、給紙ローラへの駆動力伝達を行う第1複合クラッチの第1双方向クラッチにおいて設定される第1遊び角度の最大値である第1最大遊び角度を、分離ローラへの駆動力伝達を行う第2複合クラッチの第2双方向クラッチにおいて設定される第2遊び角度の最大値である第2最大遊び角度よりも大きくする。これにより、少なくとも上記のようにそれら2つの遊び角度を略同一値とする場合に比べれば、給紙ローラによる後続シートの搬送開始タイミングを遅くすることができる。この結果、前述のような先行シートと後続シートとの間隔不足による重送の発生や、分離ローラのニップ負荷によるシワの発生等の搬送異常の発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シートを連続して給紙する際の搬送異常を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態による複合機の概念的な全体構成を表す模式図である。
【
図4】読取ユニットの要部断面構造を後方から見た横断面図である。
【
図5】
図4に示した構造において開閉カバーを開けた状態を表す横断面図である。
【
図6】
図4に示した構造において開閉カバーを開けた状態を表す斜視図である。
【
図7】ストッパがロックレバーに係合した状態を表す断面図、及び、その部分拡大図である。
【
図8】ストッパとロックレバーとの係合が解除された状態を表す断面図、及び、その部分拡大図である。
【
図9】モータからの駆動力の搬送ローラ及び排紙ローラへの伝達構成を表す横断面図である。
【
図10】モータからの駆動力の搬送ローラ及び排紙ローラへの伝達構成を表す横断面図である。
【
図11】モータからの駆動力の分離ローラへの伝達構成を説明するための横断面図である。
【
図12】
図11に示した構造において開閉カバーを開けた状態を表す横断面図である。
【
図13】モータからの駆動力の給紙ローラへの伝達構成を説明するための横断面図である。
【
図14】遊星ギヤの移動による駆動力の伝達及び遮断、並びにホルダの揺動を説明するための部分拡大断面図である。
【
図15】遊星ギヤの移動による駆動力の伝達及び遮断、並びにホルダの揺動を説明するための部分拡大断面図である。
【
図16】複合機の電気的構成を表す機能ブロック図である。
【
図17】モータにより給紙ローラ及び分離ローラの両方が駆動されている状態における、複合クラッチの構成を歯車機構と共に表す部分拡大図、及び、部分拡大図中のXVIIB-XVIIB断面による断面図である。
【
図18】給紙ローラ及び分離ローラの両方が第1搬送ローラの回転により連れ回りされている状態における、複合クラッチの構成を歯車機構と共に表す部分拡大図、及び、部分拡大図中のXVIIIB-XVIIIB断面による断面図である。
【
図19】給紙ローラ側及び分離ローラ側の最大遊び角度を略同一とした場合の比較例における、2枚のシートが給紙ローラへと投入された場合の挙動を概念的に表した説明図である。
【
図20】本実施形態における、2枚のシートが給紙ローラへと投入された場合の挙動を概念的に表した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。なお、各図面は、本開示が採用し得る技術的特徴を説明する為に用いるものであり、記載している装置の構成等は、それのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例である。
【0015】
<複合機の全体概略構成>
図1に本実施形態の複合機1の全体概略構成を概念的に示す。複合機1が画像処理装置の一例である。
図1に示す複合機1において、紙面に向かって手前側を装置の前方と規定し、紙面に向かって左手に来る側を左方と規定して、前後、左右及び上下の各方向を表示する。そして、以降の各図に示す各方向は、全て
図1に示す各方向に対応させて表示する。
【0016】
図1に示すように、複合機1は、本体ユニット2と、読取ユニット3と、を備える。読取ユニット3は、ADF部9と、FB部5とを備える。ADF部9のFB部5の前面には、タッチパネル等である操作パネル40(後述の
図16参照)が設けられている。
【0017】
図1に示すように、本体ユニット2は、扁平な略箱状体であり、内部に画像形成部4を備えている。画像形成部4は、インクジェット方式又はレーザ方式等により、複合機1に接続されたパーソナルコンピューターから受信した画像データ、読取ユニット3によって原稿の画像が読み取られて生成された画像データ、等に基づき、記録紙に画像を形成する。読取ユニット3は、本体ユニット2の上方に配置されている。FB部5は、後述する原稿支持面101A上に載置された原稿の画像を読み取る際に使用される。ADF部9は、供給トレイ12と、排出トレイ14と、搬送部6と、を有している。搬送部6は、供給トレイ12に載置されたシートSHを搬送経路P1に沿って搬送し、排出トレイ14に排出する。ADF部9は、供給トレイ12に載置されたシートSHの画像を搬送経路P1に沿って順次搬送しながら、読み取らせる際に使用される。なお、読取対象のシートは、用紙、OHPシート等であるシートの他、原稿等が含まれる。
【0018】
<ADF部の外観>
ADF部9の外観構成を
図2及び
図3に示す。これら
図2及び
図3に示すように、ADF部9は、後部に配設された図示しないヒンジによって、左右方向に延びる開閉軸心X9周りで揺動可能に支持されている。ADF部9は、
図2及び
図3に示す閉じた状態では、後述する原稿支持面101Aを上方から覆っている。図示は省略するが、ADF部9は、その前端部が上方かつ後方に変位するように上記開閉軸心X9周りで揺動することにより、原稿支持面101Aを露出させる。これにより、ユーザは、読取対象の原稿を原稿支持面101Aに支持させることができる。
【0019】
図2及び
図3に示すように、供給トレイ12は、ADF部9の右部分に形成されている。供給トレイ12の上面は、シートSHを下から支持する給紙面12Aである。給紙面12Aには、搬送部6によって搬送される読取対象の複数枚のシートSHが積載される。給紙面12Aは、左向きに下り傾斜する平坦面である。供給トレイ12には、前ガイド17F及び後ガイド17Rがそれぞれ前後方向にスライド可能に設けられている。前ガイド17Fと後ガイド17Rとが互いに接近又は離間することにより、供給トレイ12に支持されるサイズの異なる複数種類のシートSHを前後から挟む。
図2及び
図3に示すように、排出トレイ14は、供給トレイ12よりも下方に位置している。排出トレイ14の上面は、シートSHを下から支持する排紙面14Aである。排紙面14Aには、イメージセンサ3Sによって画像が読み取られ、搬送部6によって排出されたシートSHが積載される。排紙面14Aは、左から右に向かうにつれて上り傾斜する平坦面である。
【0020】
図2及び
図3に示すように、ADF部9の上部分には、開閉カバー32が設けられている。開閉カバー32は、ADF部9の略中央から左端まで前後左右方向に延在する略平板部材である。開閉カバー32の左端部は下向きに屈曲している。そして、開閉カバー32は、その左端、かつ下端部において、前後方向に延びる開閉軸心X32周りに揺動可能に支持されている。これにより、開閉カバー32は、
図2及び
図3に実線で示す閉鎖位置と、後述の
図5等に示す開放位置との間で変位可能となっている。上記閉鎖位置においては、開閉カバー32は搬送経路P1を覆うように機能する。
【0021】
<読取ユニットの断面構造>
図4は、読取ユニット3の要部断面構造を後方から見た図であり、
図5はその断面構造において開閉カバー32を開いた状態を表す図である。これら
図4及び
図5において、FB部5の上面には、プラテンガラス101が配設されている。プラテンガラス101の上面によって、原稿支持面101Aが形成されている。FB部5内であって、プラテンガラス101の下方には、上記イメージセンサ3Sが左右方向に移動可能に設けられている。原稿支持面101Aは、静止した状態の原稿の画像をイメージセンサ3Sによって読み取る際に、その原稿を下から支持する。
【0022】
プラテンガラス101の上面によって、読取面101Bが形成されている。読取面101Bは、搬送部6によって1枚ずつ搬送されるシートSHの画像をFB部5内のイメージセンサ3Sによって読み取る際に、その搬送されるシートSHを下から案内する。なお、本実施形態においては、原稿支持面101Aを使用して画像が読み取られる対象を原稿と記載し、搬送部6により搬送しながら画像が読み取られる対象をシートSHと記載する。原稿とシートSHとは、実質的に同じものであってもよい。
【0023】
FB部5は、シートSH又は原稿を読み取って当該シートSH又は原稿の画像に基づく画像データを生成する。FB部5は、上記イメージセンサ3Sと、図示しない走査機構と、上記プラテンガラス101と、を有している。走査機構は、イメージセンサ3Sを原稿支持面101A及び読取面101Bの下方で左右方向に往復動させる。原稿支持面101Aに支持されている原稿の画像を読み取る場合には、イメージセンサ3Sが原稿支持面101Aの下方を移動しながら読み取る。シートSHを搬送部6によって搬送しながら画像を読み取る場合には、イメージセンサ3Sを予め決められた静止読取位置に停止させる。ここで、イメージセンサ3Sが停止する静止読取位置は、読取面101Bに下方から対向する位置である。イメージセンサ3Sとしては、CIS(Contact Image Sensor)やCCD(Charge Coupled Device)等の周知の画像読取センサが使用される。なお、イメージセンサ3Sが画像読取部の一例である。
【0024】
ADF部9の下部分には、ベース部材9Aが設けられている。ベース部材9Aは、ADF部9の底部を構成している。ベース部材9Aの右部分は、前述の排出トレイ14を構成している。搬送部6は、ADF部9における開閉カバー32とベース部材9Aの左部分との間に設けられている。搬送部6は、ベース部材9Aに組み付けられたアッパーシュート部材130とロアシュート部材140とを有している。ロアシュート部材140は、アッパーシュート部材130に対して下方に位置している。ロアシュート部材140の下方にベース部材9Aが位置している。
【0025】
図4、
図5、及び
図6に示すように、開閉カバー32の内面には、左右方向に延びるガイドリブ32Rが前後方向に複数本並んで形成されている。それらのガイドリブ32Rの下端縁によって、上案内面32Aが形成されている。上記上案内面32Aは、搬送経路P1のうち、後述する上経路P1Aを上から規定する。
【0026】
アッパーシュート部材130の上面は、第1上搬送面130Aと第2上搬送面130Bとが形成されている。第1上搬送面130Aは、供給トレイ12の左端に隣接し、左向きに下り傾斜する平坦面である。アッパーシュート部材130の第1上搬送面130Aと供給トレイ12の給紙面12Aとにより、積載面150Aが構成されている。積載面150Aには、搬送部6によって搬送される読取対象の複数枚のシートSHが積載される。第2上搬送面130Bは、第1上搬送面130Aに続いて左向きに上り傾斜する略平坦面である。
【0027】
ロアシュート部材140の下面には、下案内面140A1,140A2が形成されている。下案内面140A1は、ADF部9内の左端部の近傍から読取面101Bに向かって右向きに下り傾斜する略平坦面である。下案内面140A2は、下案内面140A1に続いて右向きに上り傾斜する略平坦面である。ベース部材9Aの上面には、下案内面140A1に下から対向する下搬送面140B1と、下案内面140A2に下から対向する下搬送面140B2とが形成されている。
【0028】
搬送部6における搬送経路P1は、アッパーシュート部材130の第1上搬送面130Aと、第2上搬送面130Bと、ロアシュート部材140の下案内面140A1,140A2と、開閉カバー32の上案内面32Aと、ベース部材9Aの下搬送面140B1,140B2と、各種搬送ローラ等に囲まれた空間として規定される。より具体的には、搬送経路P1は、供給トレイ12の給紙面12Aからアッパーシュート部材130の第1上搬送面130A及び第2上搬送面130Bに沿って左向きに延びる部分である上経路P1Aを含んでいる。次に、搬送経路P1は、上経路P1Aに接続し、下向きに湾曲する部分である湾曲経路P1Bを含んでいる。次に、搬送経路P1は、湾曲経路P1Bに接続し、湾曲する部分の下端から読取面101Bに向かって下り傾斜した後、読取面101Bに沿って右方に短く延びる部分と、読取面101Bの右端からさらに右に向かって上り傾斜して排出トレイ14に至る部分とから成る下経路P1Cを含んでいる。上経路P1Aと下経路P1Cとは上下方向に重なっている。搬送部6によって搬送されるシートSHの搬送方向は、搬送経路P1の上経路P1Aでは左向きであり、搬送経路P1の湾曲経路P1Bでは、左向きから変化して右向きになり、搬送経路P1の下経路P1Cでは右向きである。なお、この搬送経路P1の延出する方向や形状は、一例である。
【0029】
<分離ローラ、分離パッド、給紙ローラ等>
図4、
図5、及び
図6に示すように、搬送部6は、分離ユニット50と、分離パッド56Aと、分離バンク56Bと、を備えている。詳細については後述するが、分離ユニット50は、回転軸54Sを備えた分離ローラ54と、ホルダ51と、回転軸92Sを備えた給紙ローラ92と、を備えている。
【0030】
分離ローラ54は、給紙ローラ92よりも左方、すなわち、搬送経路P1における搬送方向の下流に位置している。そして、分離ローラ54は、アッパーシュート部材130の第2上搬送面130Bに対して上方から対向する位置に設けられている。分離ローラ54の回転軸54Sは、シートSHの搬送方向に直交する方向である前後方向に延びる回転軸心X54を軸心として延在する円柱軸体である。
図6に示すように、分離ローラ54の回転軸54Sの前端及び後端は、ADF部9の前端部を形成する前カバー31Fと、ADF部9の後端を形成する後カバー31Rの内部に配置されたフレーム(図示せず)と、にそれぞれ回転可能に支持されている。分離ローラ54は、回転軸54Sの中央部に組み付けられている。
【0031】
図4に示すように、分離パッド56Aは、第2上搬送面130Bと共にシートSHの搬送面を形成している。分離パッド56Aは、分離ローラ54に下から対向する位置に設けられている。分離パッド56Aは、ゴムやエラストマー等の軟質材料からなる板状体である。分離パッド56Aは、例えば図示しない付勢バネによって、分離ローラ54に向かって押圧される。
図5及び
図6に示すように、分離バンク56Bは、搬送経路P1において給紙ローラ92と分離ローラ54との間に設けられている。
【0032】
図4、
図5、及び
図6に示すように、ホルダ51は、分離ローラ54を上から覆いつつ、前後から挟んだ状態で収容している。詳細については後述する。ホルダ51は、分離ローラ54の回転軸心X54周りに揺動可能に回転軸54Sに支持されている。また、ホルダ51は、回転軸54Sに対して右方、すなわち、搬送方向の上流に向かって延びている。
【0033】
図4、
図5、及び
図6に示すように、給紙ローラ92は、アッパーシュート部材130の第1上搬送面130Aに対して上から対向する位置に設けられている。そして、給紙ローラ92は、積載面150Aに積載されたシートSHに対して、上から接触可能に設けられている。給紙ローラ92は、分離ローラ54に対して右方に位置し、ホルダ51内に収容される。給紙ローラ92は、回転軸心X54と平行な回転軸心X92周りに回転可能にホルダ51に支持されている。よって、ホルダ51が、分離ローラ54の回転軸心X54周りに上方向、あるいは下方向に揺動することで、給紙ローラ92が、積載面150Aに近づく位置と離間する位置とに変位可能に構成されている。
【0034】
図6に示すように、回転軸54Sの後端には、伝達ギヤ55が設けられている。伝達ギヤ55は、後述するモータ70の駆動により、回転軸54Sを回転させる。伝達ギヤ55が回転すると、回転軸54Sが回転し、分離ローラ54及び給紙ローラ92が同期して回転する。給紙ローラ92の外周面92Aは、積載面150Aに積載されたシートSHのうち、最上位置にあるシートSHに搬送力を付与して、そのシートSHを分離ローラ54に向けて送り出す。
図4、
図5、及び
図6に示すように、分離ローラ54は、分離バンク56B及び分離パッド56Aと協働して、給紙ローラ92によって搬送されるシートSHを1枚ずつに分離し、搬送経路P1における搬送方向の下流に搬送する。
【0035】
<搬送ローラ>
図4、
図5、及び
図6に示すように、搬送部6は、搬送経路P1の上経路P1Aにおいて、分離ローラ54よりも左方、すなわち、分離ローラ54に対して搬送方向の下流側となる位置に、第1搬送ローラ44及びピンチローラ44Pを有している。第1搬送ローラ44及びピンチローラ44Pは、モータ70からの駆動力が伝達されることにより回転し、分離ローラ54、分離バンク56B及び分離パッド56Aによって1枚ずつに分離されたシートSHをニップし、搬送経路P1に沿って搬送方向の下流に向かって搬送する。なお、第1搬送ローラ44が搬送ローラの一例である。
【0036】
図4及び
図5に示すように、搬送部6は、搬送経路P1における湾曲経路P1Bにおいて、湾曲案内面45Gと、湾曲案内面45Hと、第2搬送ローラ45と、ピンチローラ45Pと、を有している。湾曲案内面45Gと湾曲案内面45Hとは、所定の間隔を有して対向している。湾曲案内面45Gは、湾曲経路P1Bにおいて下向きに湾曲する部分を外側から規定する。湾曲案内面45Hは、湾曲経路P1Bにおいて下向きに湾曲する部分を内側から規定する。第2搬送ローラ45及びピンチローラ45Pは、湾曲経路P1Bの下端部に配置されている。第2搬送ローラ45及びピンチローラ45Pは、第1搬送ローラ44及びピンチローラ44Pによって搬送されるシートSHをニップし、読取面101Bに向けてさらに搬送する。第1搬送ローラ44及びピンチローラ44Pと読取面101Bとの間には、下案内面140A1と下搬送面140B1とが所定間隔を有して対向することにより、下経路P1Cの左部分を規定している。
【0037】
図4及び
図5に示すように、搬送部6は、さらに、排紙ローラ48及びピンチローラ(図示せず)を有している。読取面101Bと排紙ローラ48及びピンチローラとの間には、下案内面140A2と下搬送面140B2とが所定間隔を有して対向することにより、下経路P1Cの右部分を規定している。
【0038】
下案内面140A2と下搬送面140B2とにより形成される経路は、押圧部材49よりも右方で、排紙ローラ48及びピンチローラに向かって上り傾斜している。排紙ローラ48は、駆動軸48aを備えており、ロアシュート部材140の下案内面140A2の右端部に位置している。ピンチローラは、下搬送面140B2の右端部に位置している。排紙ローラ48とピンチローラとは、読取面101B上を通過したシートSHをニップして、排出トレイ14の排紙面14A上に向けて排出する。
【0039】
<ストッパ>
図5及び
図6に示すように、本実施形態のADF部9は、分離ローラ54と給紙ローラ92との間に位置し、シートSHの搬送方向先端に当接してシートSHの移動を規制する前・後一対のストッパ80F,80Rを備える。なお以下適宜、これら前ストッパ80F及び後ストッパ80Rを総称して単に「ストッパ80」と称する。
【0040】
ストッパ80は、
図7(a)及び
図7(b)に示す規制状態と、
図8(a)及び
図8(b)に示す規制解除状態との間で位置を切替可能に構成されている。この例では、上記規制状態では、ストッパ80は、後述のようにロックレバー100に係合されることでシートSHの搬送経路P1を画定する第1上搬送面130Aに向かって突出し、これによってシートSHの通過を規制する。このときのストッパ80の位置が第1位置の一例である。また上記規制解除状態では、ストッパ80は、後述のように上記ロックレバー100による係合が解除されフリーな状態となることで、シートSHの先端に押され上記第1位置から回動して第1上搬送面130Aより遠ざかるように上方に退避し、シートSHの下流側への移動すなわちシートSHの通過を許容する。このときのストッパ80の位置が第2位置の一例である。なおストッパ80は、分離ローラ54及び給紙ローラ92を備えた上記ホルダ51とともに、開閉カバー32に支持されている。
【0041】
<搬送ローラ・排紙ローラへの駆動力の伝達>
複合機1では、共通の駆動源である上記モータ70から第1搬送ローラ44、第2搬送ローラ45、排紙ローラ48への駆動力の伝達経路及び伝達態様と、分離ローラ54及び給紙ローラ92への駆動力の伝達経路及び伝達態様とが互いに異なる。まず、第1搬送ローラ44、第2搬送ローラ45、排紙ローラ48への駆動力の伝達について、
図9及び
図10を用いて説明する。
【0042】
図9及び
図10に示すように、ADF部9内には、モータ70と、遊星ギヤ機構73と、歯付きプーリ74と、ベルト75と、歯付きプーリ76と、伝達ギヤ61と、第1搬送ローラ44の回転軸44aに固定された駆動ギヤ44bと、第2搬送ローラ45の回転軸45aに固定された駆動ギヤ45bと、中間ギヤ53と、分離ローラ54の回転軸54Sに固定された伝達ギヤ55と、を備えている。
【0043】
モータ70は、非通電時にはトルクが生じないモータ、この例ではステッピングモータであり、後述する制御部110により、その正回転、逆回転、及び回転停止が制御される。また制御部110は、モータ70に対する各方向への回転量を制御することができる。モータ70は、
図9に時計回りで示す回転方向をX方向の回転方向とし、反時計回りで示す回転方向をY方向の回転方向とする。そして、モータ70のX方向の回転を正回転とし、Y方向の回転を逆回転とする。X方向は第2回転方向の一例であり、Y方向は第1回転方向の一例である。
【0044】
遊星ギヤ機構73は、太陽プーリ78、及び遊星ギヤ79によって構成される。モータ70は、図示しないプーリやベルト72を介して、遊星ギヤ機構73の太陽プーリ78と連結されている。遊星ギヤ機構73の遊星ギヤ79は、太陽プーリ78に設けられた図示しないギヤと同軸上で結合され、太陽プーリ78の回転に応じて自転および公転する。遊星ギヤ79の位置は、モータ70の回転方向により、歯付きプーリ74と結合する伝達位置と、歯付きプーリ74から離間する遮断位置に切り替わる。
【0045】
<第1搬送ローラ、第2搬送ローラ45、排紙ローラ48への伝達>
例えばモータ70が図示のX方向に回転すると、太陽プーリ78もX方向に回転する。太陽プーリ78のX方向の回転に伴って遊星ギヤ79はX方向に自転しつつ図示のL方向に公転する。そして、
図9に示すように遊星ギヤ79が歯付きプーリ74と結合して前述の遮断位置から伝達位置になると、歯付きプーリ74によって遊星ギヤ79のL方向の公転が阻止される。これにより、歯付きプーリ74は、遊星ギヤ79のX方向の自転に伴って、X方向に回転する。すなわち、この伝達位置では、モータ70の駆動力は歯付きプーリ74に伝達される。なおこのときのモータ70の正転に伴う駆動力が第2駆動力の一例である。歯付きプーリ74のX方向の回転により、歯付きプーリ74に連結されている駆動軸48aが駆動されることで前述の排紙ローラ48が回転する。
【0046】
また、歯付きプーリ74のX方向の回転は、伝達ベルト75を介して歯付きプーリ76に伝達され、歯付きプーリ76がX方向に回転する。歯付きプーリ76がX方向に回転することで、これに噛合する伝達ギヤ61がX方向に回転する。この結果、伝達ギヤ61に噛合する駆動ギヤ44bと駆動ギヤ45bとがX方向に回転し、駆動ギヤ44bに固定された上記回転軸44aが回転することで第1搬送ローラ44が回転するとともに、駆動ギヤ45bに固定された上記回転軸45aが回転することで第2搬送ローラ45が回転する。これにより、供給トレイ12にセットされた後に給紙ローラ92及び分離ローラ54により送られたシートSHの搬送が行われる。この際、第1搬送ローラ44によるシートSHの搬送速度が分離ローラ54及び給紙ローラ92によるシートSHの搬送速度よりも速く、且つ、第1搬送ローラ44と第2搬送ローラ45の搬送速度が互いに略等しくなるように、歯付きプーリ74,76、伝達ギヤ61及び駆動ギヤ44b,45b等のギヤ比、並びに、第1搬送ローラ44、第2搬送ローラ45及び分離ローラ54の各々の半径が、適宜の値に設定されている。なお搬送ローラは、第1搬送ローラ44及び第2搬送ローラ45の2つに限られず、搬送経路P1に沿って適宜に3つ以上設けてもよい。この場合、第1搬送ローラ44及び第2搬送ローラ45以外の搬送ローラについても、上記と同様にしてモータ70からの第2駆動力の伝達が行われる。また上記とは逆に第1搬送ローラ44及び第2搬送ローラ45のうちいずれか1つのみを設けてもよい。
【0047】
上記とは逆に、モータ70がY方向に回転すると、太陽プーリ78もY方向に回転する。なおこのときのモータ70の逆転に伴う駆動力が第1駆動力の一例である。太陽プーリ78のY方向の回転に伴って遊星ギヤ79は、Y方向に自転しつつR方向に公転する。遊星ギヤ79がR方向に公転すると、
図10に示すように、遊星ギヤ79と歯付きプーリ74との結合が外れて前述した駆動力の伝達経路が遮断されることで、第1搬送ローラ44、第2搬送ローラ45、排紙ローラ48へモータ70の駆動力が伝達されなくなる。
【0048】
<分離ローラ・給紙ローラへの駆動力の伝達>
一方、遊星ギヤ79が上記伝達位置にあるか遮断位置にあるかにかかわらず、遊星ギヤ機構73の太陽プーリ78に対し中間ギヤ53が作動連結されている。すなわち、前述のように太陽プーリ78に伝達されたモータ70の駆動力は太陽プーリ78の回転を介し中間ギヤ53に伝達され、中間ギヤ53が回転する。中間ギヤ53が回転すると、図示しないギヤ又はプーリを介し中間ギヤ53に作動連結された中間ギヤ57が回転する。この中間ギヤ57は、
図9及び
図10とは別断面による断面図である
図11に示されるように前述の伝達ギヤ55に噛合しており、上記中間ギヤ57の回転により伝達ギヤ55が回転し、その結果、分離ローラ54の回転軸54Sが回転する。なお、
図12に示されるように、開閉カバー32が開いた場合には分離ローラ54の回転軸54S及び伝達ギヤ55は開閉カバー32とともに上方へ持ち上げられ、中間ギヤ57と伝達ギヤ55との噛合は解消される。
【0049】
例えばモータ70がX方向に回転し太陽プーリ78がX方向に回転すると、中間ギヤ53がX方向に回転し、これによって中間ギヤ57及び伝達ギヤ55がX方向に回転する。この結果、分離ローラ54は、供給トレイ12にセットされた後に給紙ローラ92から送られたシートSHを、さらに下流側の上記第1搬送ローラ44及び第2搬送ローラ45へと搬送する。逆に例えばモータ70がY方向に回転し太陽プーリ78がY方向に回転すると、中間ギヤ53がY方向に回転し、これによって中間ギヤ57及び伝達ギヤ55がY方向に回転する。この伝達ギヤ55のY方向への回転によって上記ストッパ80が切り替えられるが、これについては後述する。
【0050】
<ストッパ切替機構>
ストッパ80の状態は、分離ローラ54への駆動力の伝達を利用して切り替えられる。以下、その詳細を前述の
図7及び
図8と
図13~
図15とにより説明する。
【0051】
図13において、前述したように、分離ローラ54及び給紙ローラ92は、ホルダ51に設けられており、ホルダ51は、分離ローラ54の回転軸54Sに揺動可能に支持されている。ホルダ51にはさらに、回転軸54Sに固定された軸ギヤ154と、軸ギヤ154に噛合しつつ、開閉カバー32に設けられた固定歯32aと噛合して移動可能な遊星ギヤ153と、給紙ローラ92の回転軸92Sに固定された軸ギヤ157に噛合する中間ギヤ156と、この中間ギヤ156に噛合する中間ギヤ155と、が設けられている。これら軸ギヤ154、遊星ギヤ153、中間ギヤ155,156、及び軸ギヤ157が、モータ70から分離ローラ54の回転軸54Sに入力される駆動力を給紙ローラ92の回転軸92Sに伝達する歯車機構15を構成する。
【0052】
前述したようにモータ70のX方向の回転に伴う駆動力が回転軸54Sに対し入力され、回転軸54Sが
図14(a)中のX方向に回転すると、遊星ギヤ153が搬送方向上流側へ移動して
図14(b)に示すように固定歯32aと噛合する。この噛合した状態でさらに回転軸54SがX方向に回転することにより、
図14(c)に示すようにホルダ51が、回転軸心X54を中心にして給紙ローラ92側が下がるように揺動する。これにより給紙ローラ92はシートSHに当接する。
【0053】
図7及び
図8を用いて前述したように、開閉カバー32のうちホルダ51の近傍にストッパ80が設けられている。ストッパ80は、軸部材80cを回転中心として回転可能に開閉カバー32に支持されており、段付部80aとシート規制部80bとを有している。ホルダ51のうち給紙ローラ92の近傍にはロックレバー100が回動可能に支持されている。ロックレバー100は、図示しない適宜のバネ部材によって、
図7(b)及び
図8(b)中に示すS方向に付勢されている。
図13、
図14(a)、
図14(b)に示した、ホルダ51が上記のように給紙ローラ92側が下がるように揺動する前の状態では、
図7(a)及び
図7(b)に示すようにロックレバー100の先端部100aが段付部80aに当接し係合する。これによってストッパ80の回動が阻止されて前述の規制状態となる。
【0054】
上述したような遊星ギヤ153の移動に連動してホルダ51が回転軸54Sの回転軸心X54まわりに回動し
図14(c)に示したように給紙ローラ92側が下がるように揺動すると、ロックレバー100の被当接面100bが、開閉カバー32に設けられた当接リブ132に当接する。これにより、ロックレバー100は、
図8(a)及び
図8(b)に示すように上記S方向と逆方向へと回動するように変位する。この結果、ロックレバー100の先端部100aと上記段付部80aとの係合が外れ、ストッパ80は回動自由な状態、すなわち前述の規制解除状態となる。
【0055】
図14(c)に示した状態の後、さらに遊星ギヤ153が搬送方向上流側へ移動することで、
図15(a)に示すように遊星ギヤ153と固定歯32aとの噛合が外れる。固定歯32aから外れた遊星ギヤ153は、
図15(a)に示すように中間ギヤ155に噛合する。これにより、モータ70からの上記駆動力が、回転軸54S、遊星ギヤ153、中間ギヤ155、及び中間ギヤ156を介して軸ギヤ157に伝達され、給紙ローラ92が回転してシートSHを湾曲経路P1Bへ搬送する。この際、分離ローラ54によるシートSHの搬送速度が給紙ローラ92によるシートSHの搬送速度よりも速くなるように、軸ギヤ154、遊星ギヤ153、中間ギヤ155,156、及び軸ギヤ157のギヤ比、並びに、分離ローラ54及び給紙ローラ92の各々の半径が、適宜の値に設定されている。
【0056】
一方、モータ70のY方向の回転に伴う駆動力が回転軸54Sに対し入力され、回転軸54Sが
図15(a)中のY方向に回転すると、遊星ギヤ153が前述とは逆の搬送方向下流側へ移動して中間ギヤ155との噛合が外れる。これにより、モータ70からの駆動力の給紙ローラ92への伝達は遮断される。その後遊星ギヤ153はさらに移動して
図15(b)に示すように固定歯32aに噛合する。この噛合した状態でさらに回転軸54SがY方向に回転することにより、
図15(c)に示すようにホルダ51が、回転軸心X54を中心にして給紙ローラ92側が上がるように揺動する。これにより給紙ローラ92はシートSHから離間する。
【0057】
上述したような遊星ギヤ153の移動に連動して給紙ローラ92側が上がるようにホルダ51が揺動すると、
図8(a)及び
図8(b)を用いて前述したように被当接面100bが当接リブ132に当接することで持ち上げられていたロックレバー100が、
図7(a)及び
図7(b)に示すように上記S方向へと回動するように変位する。この結果、ロックレバー100の先端部100aと上記段付部80aとが係合し、ストッパ80は前述の規制状態となる。
【0058】
<複合機の電気的構成>
次に、本実施形態における複合機1の電気的構成を説明する。複合機1が備える本体ユニット2には、
図16に示すように、制御部110が設けられている。制御部110は、周知のCPU110A、ROM110B、RAM110C、NVRAM110D、及びインターフェース部110Eなどを備える。CPU110Aは、ROM110B、RAM110C等に記憶された制御プログラムに従って所定の処理を実行し、これにより、複合機1の各部に対する制御が実行される。
【0059】
制御部110による制御対象としては、画像形成部4、LAN通信部111、操作パネル40、イメージセンサ3S、シート搬送センサ113、モータ70、モータ114、及びシート載置センサ112などが設けられている。これらのうち、画像形成部4及びLAN通信部111は、本体ユニット2に設けられている。操作パネル40、イメージセンサ3S、及びモータ114は、FB部5に設けられている。シート載置センサ112、モータ70、及びシート搬送センサ113は、ADF部9に設けられている。
【0060】
また、制御部110は、シート載置センサ112及びLAN通信部111からの信号を監視する。LAN通信部111は、無線LANに対応した通信インターフェース装置、及び有線LANに対応した通信インターフェース装置によって構成されている。モータ114は、イメージセンサ3SをFB部5内において、左右方向に移動させるための動力源である。シート載置センサ112は、積載面150AにシートSHが載置されたことを検出するセンサである。シート搬送センサ113は、ADF部9において搬送されるシートSHの搬送方向先端や搬送方向後端が、搬送経路P1における所定の検出位置を通過したことを検出するセンサである。
【0061】
<本実施形態の特徴>
本実施形態の特徴は、モータ70から給紙ローラ92及び分離ローラ54へ駆動力が伝達されて各ローラが回転駆動する際に、分離ローラ54が回転を開始した後に給紙ローラ92が回転を開始するように、駆動力の伝達経路を構成したことにある。以下、これらの詳細について説明する。
【0062】
前述の
図9及び
図10に示すように、モータ70は、Y方向に逆回転、若しくは、反対向きの回転方向であるX方向に正回転し、対応する駆動力を発生する。給紙ローラ92は、正回転するモータ70からの駆動力が伝達されることによりX方向に回転し、シートSHを搬送方向に送り出す。分離ローラ54は、給紙ローラ92より搬送方向の下流側に位置し、正回転するモータ70からの駆動力が伝達されることによりX方向に回転し、給紙ローラ92から送り出されるシートSHを1枚ずつに分離する。
【0063】
モータ70から給紙ローラ92への駆動力の伝達経路には、複合クラッチ160が設けられ、モータ70から分離ローラ54への駆動力の伝達経路には、複合クラッチ170が設けられている。なお、複合クラッチ160が第1複合クラッチの一例であり、複合クラッチ170が第2複合クラッチの一例である。
図17及び
図18に、複合クラッチ160,170の詳細構成を示す。
【0064】
図17(a)は、モータ70により給紙ローラ92及び分離ローラ54の両方が駆動されている状態における、複合クラッチ160,170の構成を歯車機構15と共に表す部分拡大図である。
図17(b)は、
図17(a)中XVIIB-XVIIB断面による断面図である。
図18(a)は、給紙ローラ92及び分離ローラ54の両方が第1搬送ローラ44の回転により連れ回りされている状態における、複合クラッチ160,170の構成を歯車機構15と共に表す部分拡大図である。
図18(b)は、
図18(a)中XVIIIB-XVIIIB断面による断面図である。なお、
図17(a)及び
図18(a)は、前述の
図15(a)に示したように、遊星ギヤ153が中間ギヤ155に噛合し、モータ70からの駆動力が、軸ギヤ154に伝達されると共に、遊星ギヤ153、中間ギヤ155、及び中間ギヤ156を介して軸ギヤ157に伝達されている状態を示している。
【0065】
なお、前述のように第1搬送ローラ44によるシートSHの搬送速度は分離ローラ54及び給紙ローラ92によるシートSHの搬送速度よりも速いため、それら第1搬送ローラ44、分離ローラ54及び給紙ローラ92のそれぞれにシートSHがまたがって搬送されている状態では、分離ローラ54及び給紙ローラ92は、第1搬送ローラ44により搬送されるシートSHに引っ張られる形で回転することとなる。本明細書では適宜、このような回転態様を「連れ回り」と称する。
【0066】
図17(a)及び
図17(b)並びに
図18(a)及び
図18(b)に示すように、複合クラッチ160は、Y方向に回転するモータ70からの駆動力、及び、X方向に回転するモータ70からの駆動力、の両方を伝達可能な双方向クラッチ161と、当該双方向クラッチ161に連結され、モータ70からのY方向の回転駆動力を伝達することなくモータ70からのX方向の回転駆動力を伝達する一方向クラッチ162と、を有する。なお、双方向クラッチ161が第1双方向クラッチの一例であり、一方向クラッチ162が第1一方向クラッチの一例である。双方向クラッチ161は、逆回転又は正回転するモータ70からの駆動力によって回転軸心X92周りに回転する1つの突起状の伝達部163と、回転軸心X92周りに回転可能、かつ回転軸心X92の周方向において伝達部163に当接可能であり、当該伝達部163に対し1周未満遅れて従動回転する1つの突起状の被伝達部164と、を有する。伝達部163は一方向クラッチ162に連結されており、被伝達部164は給紙ローラ92に連結されている。なお、回転軸心X92が第1軸心の一例であり、伝達部163が第1伝達部の一例であり、被伝達部164が第1被伝達部の一例である。
【0067】
一方向クラッチ162は、軸ギヤ157に連結され、給紙ローラ92側にギヤ歯を備えた固定側クラッチ162aと、当該固定側クラッチ162aのギヤ歯と噛合するギヤ歯を備え、図示しない付勢手段により固定側クラッチ162a側に付勢された可動側クラッチ162bと、を有する。
図17(a)に示すように、給紙ローラ92に連れ回りが生じていない場合には、固定側クラッチ162aと可動側クラッチ162bのギヤ歯が噛合し、軸ギヤ157の駆動力が給紙ローラ92に伝達される。一方、
図18(a)に示すように、給紙ローラ92に連れ回りが生じている場合には、可動側クラッチ162bが回転軸心X92の軸方向に移動して固定側クラッチ162aと可動側クラッチ162bのギヤ歯の噛合が解除され、給紙ローラ92の駆動力が軸ギヤ157に伝達されないように構成されている。
【0068】
複合クラッチ170は、Y方向に回転するモータ70からの駆動力、及び、X方向に回転するモータ70からの駆動力、の両方を伝達可能な双方向クラッチ171と、当該双方向クラッチ171に連結され、モータ70からのY方向の回転駆動力を伝達することなくモータ70からのX方向の回転駆動力を伝達する一方向クラッチ172と、を有する。なお、双方向クラッチ171が第2双方向クラッチの一例であり、一方向クラッチ172が第2一方向クラッチの一例である。双方向クラッチ171は、逆回転又は正回転するモータ70からの駆動力によって回転軸心X54周りに回転する2つの突起状の伝達部173と、回転軸心X54周りに回転可能、かつ回転軸心X54の周方向において伝達部173に当接可能であり、当該伝達部173に対し1周未満遅れて従動回転する2つの突起状の被伝達部174と、を有する。伝達部173は一方向クラッチ172に連結されており、被伝達部174は分離ローラ54に連結されている。なお、回転軸心X54が第2軸心の一例であり、伝達部173が第2伝達部の一例であり、被伝達部174が第2被伝達部の一例である。
【0069】
一方向クラッチ172は、軸ギヤ154に連結され、分離ローラ54側にギヤ歯を備えた固定側クラッチ172aと、当該固定側クラッチ172aのギヤ歯と噛合するギヤ歯を備え、図示しない付勢手段により固定側クラッチ172a側に付勢された可動側クラッチ172bと、を有する。
図17(a)に示すように、分離ローラ54に連れ回りが生じていない場合には、固定側クラッチ172aと可動側クラッチ172bのギヤ歯が噛合し、軸ギヤ154の駆動力が分離ローラ54に伝達される。一方、
図18(a)に示すように、分離ローラ54に連れ回りが生じている場合には、可動側クラッチ172bが回転軸心X54の軸方向に移動して固定側クラッチ172aと可動側クラッチ172bのギヤ歯の噛合が解除され、分離ローラ54の駆動力が軸ギヤ154に伝達されないように構成されている。
【0070】
複合クラッチ160の双方向クラッチ161において、伝達部163と被伝達部164との間には、周方向の隙間角度である遊び角度θ1が形成されている。遊び角度θ1は、給紙ローラ92に連れ回りが生じていない場合には減少し、
図17(b)に示すように最小遊び角度θ1min(=0°)となって、伝達部163が被伝達部164の周方向一方側に当接する。その結果、軸ギヤ157の駆動力が給紙ローラ92に伝達される。一方、遊び角度θ1は、給紙ローラ92に連れ回りが生じている場合には増大し、
図18(b)に示すように最大遊び角度θ1maxとなって、伝達部163が被伝達部164の周方向他方側に当接する。その結果、給紙ローラ92の駆動力が可動側クラッチ162bに伝達されるが、上述のように固定側クラッチ162aと可動側クラッチ162bのギヤ歯の噛合が解除されるので、給紙ローラ92の駆動力は軸ギヤ157に伝達されない。なお、最大遊び角度θ1maxが第1最大遊び角度の一例である。
【0071】
同様に、複合クラッチ170の双方向クラッチ171において、伝達部173と被伝達部174との間には、周方向の隙間角度である遊び角度θ2が形成されている。遊び角度θ2は、分離ローラ54に連れ回りが生じていない場合には減少し、
図17(b)に示すように最小遊び角度θ2min(=0°)となって、伝達部173が被伝達部174の周方向一方側に当接する。その結果、軸ギヤ154の駆動力が分離ローラ54に伝達される。一方、遊び角度θ2は、分離ローラ54に連れ回りが生じている場合には増大し、
図18(b)に示すように最大遊び角度θ2maxとなって、伝達部173が被伝達部174の周方向他方側に当接する。その結果、分離ローラ54の駆動力が可動側クラッチ172bに伝達されるが、上述のように固定側クラッチ172aと可動側クラッチ172bのギヤ歯の噛合が解除されるので、分離ローラ54の駆動力は軸ギヤ154に伝達されない。なお、最大遊び角度θ2maxが第2最大遊び角度の一例である。
【0072】
図18(b)に示すように、最大遊び角度θ1maxは最大遊び角度θ2maxよりも大きい。最大遊び角度θ1maxと最大遊び角度θ2maxとの偏差は、伝達部173の回転駆動による被伝達部174の従動回転が開始された後に、伝達部163の回転駆動による被伝達部164の従動回転が開始されるように、設定されている。言い換えると上記偏差は、分離ローラ54が回転を開始した後に給紙ローラ92が回転を開始するように、設定されている。一例として、最大遊び角度θ1maxは例えば約295°、最大遊び角度θ2maxは例えば約50°に設定される。
【0073】
なお、前述のシート搬送センサ113は、ADF部9において搬送されるシートSHの搬送方向先端や搬送方向後端が、搬送経路P1における所定の検出位置を通過したことを検出する。仮に、先行するシートSHの後端と後続するシートSHの前端との離間距離である紙間が十分でない場合、シート搬送センサ113がシートSHの前端や後端を検出できなくなる可能性がある。そこで、シート搬送センサ113による検出が可能となる紙間の下限値が設定されている。上記偏差は、複数のシートSHが給紙ローラ92へと投入された際に、先行するシートSHの後端と後続するシートSHの前端との紙間が、上記シート検知用の下限値以上となるように設定されている。シート検知用の下限値は、シートSHのサイズに応じて異なる値に設定されており、上記偏差は最も大きな値となる場合の下限値、例えばシートサイズが対象範囲の中で最も小さなA6サイズである場合の下限値、よりも大きい値となるように設定されている。なお、シート搬送センサ113がセンサの一例であり、上記下限値が第1しきい値の一例である。
【0074】
また、前述の制御部110は、FB部5で生成された画像に基づいてシートSHの斜行の有無を検出し、シートSHの斜行を検出した場合に画像の傾きをソフトウェア処理により補正する機能を有する。仮に、先行するシートSHの後端と後続するシートSHの前端との離間距離である紙間が十分でない場合、それら後端と前端が重なり、FB部5で読み取った画像のエッジからシートSHの傾きを判断できなくなる可能性がある。そこで、斜行の判断が可能となる紙間の下限値が設定されている。上記偏差は、複数のシートSHが給紙ローラ92へと投入された際に、先行するシートSHの後端と後続するシートSHの前端との紙間が、上記斜行判断用の下限値以上となるように設定されている。斜行判断用の下限値は、シートSHのサイズに応じて異なる値に設定されており、上記偏差は最も大きな値となる場合の下限値、例えばシートサイズが対象範囲の中で最も大きなA3サイズである場合の下限値、よりも大きい値となるように設定されている。なお、上記下限値が第2しきい値の一例である。
【0075】
<実施形態の効果>
以上説明した本実施形態の複合機1により得られる効果について、
図19に示す比較例と比較しつつ、
図20を用いて説明する。
図19及び
図20は、例えば2枚のシートSH1,SH2が給紙ローラ92へと投入された場合の挙動を概念的に表した説明図であり、
図19は最大遊び角度θ1maxと最大遊び角度θ2maxを略同一とした場合の比較例における挙動を示し、
図20は本実施形態における挙動を示している。
【0076】
本実施形態では、モータ70から給紙ローラ92及び分離ローラ54への駆動力の伝達経路に複合クラッチ160,170がそれぞれ設けられる。複合クラッチ160には一方向クラッチ162が備えられ、複合クラッチ170には一方向クラッチ172が備えられる。前述のように、下流側の第1搬送ローラ44の搬送速度は、上流側の分離ローラ54及び給紙ローラ92よりも速く設定されている。このため、第1搬送ローラ44、給紙ローラ92及び分離ローラ54のそれぞれにシートSHがまたがって搬送されている状態では、分離ローラ54及び給紙ローラ92は第1搬送ローラ44の回転により搬送されるシートSHに引っ張られて連れ回りする。複合クラッチ160に一方向クラッチ162が設けられ、複合クラッチ170に一方向クラッチ172が設けられることにより、分離ローラ54及び給紙ローラ92が上記連れ回りする場合でも、給紙ローラ92が軸ギヤ157に対し駆動力と逆向きの力を作用させず、且つ、分離ローラ54が軸ギヤ154に対し駆動力と逆向きの力を作用させないので、給紙ローラ92及び分離ローラ54のローラ表面とシートSHとの滑りが生じず円滑な搬送を行うことができる。
【0077】
例えば、2枚のシートSH1,SH2が給紙ローラ92の上流側からストッパ80に当接するように投入されて搬送が開始されると、
図19(a)に示すように、先行するシートSH1が第1搬送ローラ44、分離ローラ54及び給紙ローラ92にまたがって搬送されている間は、分離ローラ54及び給紙ローラ92の各々は、第1搬送ローラ44の搬送による連れ回りの状態となる。なお、前述の
図18(a)及び
図18(b)に示す状態がこの連れ回りの状態である。この状態では、給紙ローラ92の複合クラッチ160に備えられる双方向クラッチ161においては、第1搬送ローラ44との速度差により、伝達部163と被伝達部164との間に生じる遊び角度θ1が拡大して最大遊び角度θ1maxとなる。また、分離ローラ54の複合クラッチ170に備えられる双方向クラッチ171においては、伝達部173と被伝達部174との間に生じる遊び角度θ2が拡大して最大遊び角度θ2maxとなる。なお、後続するシートSH2は先端がストッパ80の位置で停止する場合もあるが、
図19(a)に示すように先行するシートSH1に引っ張られて先端が分離ローラ54によるニップ位置に到達するまで移動する場合もある。後者の場合、シートSH2の先端が分離ローラ54の位置から開始されることとなり、シートSH1,SH2の紙間が小さくなりやすい。なお、シートSH1が第1シートの一例であり、シートSH2が第2シートの一例である。
【0078】
その後、
図19(b)に示すように、シートSH1の後端が給紙ローラ92を抜けると、給紙ローラ92の連れ回りが終了して回転が停止する結果、モータ70からの駆動力が入力される伝達部163と、これに周方向に対向する被伝達部164との間の遊び角度θ1が減少する。本比較例のように、給紙ローラ92の双方向クラッチ161における上記最大遊び角度θ1maxと分離ローラ54の双方向クラッチ171における上記最大遊び角度θ2maxとを略同一値とした場合、減少した遊び角度θ1が比較的早く0°になる。これにより、伝達部163と被伝達部164とが当接して駆動力が給紙ローラ92に伝達され、先行するシートSH1の後端が抜けた後に露出した後続するシートSH2に対し給紙ローラ92による搬送が開始される。この結果、給紙ローラ92による搬送開始タイミングが比較的早くなる。
【0079】
その後、
図19(c)に示すように、シートSH1の後端が分離ローラ54を抜けると、分離ローラ54の連れ回りが終了し回転が停止する結果、モータ70からの駆動力が入力される伝達部173と、これに周方向に対向する被伝達部174との間の遊び角度θ2が減少する。減少した遊び角度θ2が0°になると、伝達部173と被伝達部174とが当接して駆動力が分離ローラ54に伝達され、先行するシートSH1の後端が抜けた後に露出した後続するシートSH2に対し分離ローラ54による搬送が開始される。この分離ローラ54による搬送が開始された直後の状態が、前述の
図17(a)及び
図17(b)に示す状態である。
【0080】
その後、
図19(d)に示すように、先行するシートSH1は第1搬送ローラ44により搬送されると共に、後続するシートSH2は分離ローラ54により搬送される。シートSH2は分離ローラ54及び給紙ローラ92にまたがって搬送されるので、給紙ローラ92は分離ローラ54の搬送による連れ回りの状態となる。
【0081】
以上のような挙動となるため、本比較例においては、
図19(b)に示すように、先行するシートSH1の後端がまだ分離ローラ54を抜けていない状態で、給紙ローラ92による後続するシートSH2の搬送が開始される可能性がある。この場合、給紙ローラ92によって送り込まれる後続のシートSH2に、先行するシートSH1と重なった状態で分離ローラ54からのニップの負荷が加わる。これにより、後続のシートSH2が例えば薄紙である場合のように剛性が低い場合には、シートSH2の先端にシワが発生するおそれがある。また、シートSH2の剛性が高くシワが生じなかった場合でも、先行するシートSH1と後続するシートSH2との間隔を十分に空けることができず、
図19(d)に示すように第1搬送ローラ44においてシートSH1,SH2が重なり、重送となるおそれがある。このように、比較例においてはシワの発生や重送の発生等の搬送異常が生じるおそれがある。
【0082】
そこで本実施形態においては、前述のように、給紙ローラ92への駆動力伝達を行う複合クラッチ160の双方向クラッチ161において設定される最大遊び角度θ1maxを、分離ローラ54への駆動力伝達を行う複合クラッチ170の双方向クラッチ171において設定される最大遊び角度θ2maxよりも大きくする。これにより、少なくとも上記比較例のようにそれら2つの遊び角度を略同一値とする場合に比べれば、給紙ローラ92による後続のシートSH2の搬送開始タイミングを遅くすることができる。
【0083】
具体的には、
図20(a)に示すように、先行するシートSH1が第1搬送ローラ44、分離ローラ54及び給紙ローラ92にまたがって搬送されている間に、分離ローラ54及び給紙ローラ92の各々は連れ回りの状態となり、給紙ローラ92の双方向クラッチ161における遊び角度θ1が拡大して最大遊び角度θ1maxとなり、分離ローラ54の双方向クラッチ171における遊び角度θ2が拡大して最大遊び角度θ2maxとなる。
【0084】
その後、
図20(b)に示すように、シートSH1の後端が給紙ローラ92を抜けると、給紙ローラ92の双方向クラッチ161における遊び角度θ1が減少する。しかしながら、最大遊び角度θ1maxが大きく設定されていることから、給紙ローラ92による搬送はすぐには開始されない。
【0085】
その後、
図20(c)に示すように、シートSH1の後端が分離ローラ54を抜けても、最大遊び角度θ1maxが大きく設定されていることから、給紙ローラ92による搬送はまだ開始されていない。一方で、分離ローラ54の連れ回りが終了し回転が停止する結果、分離ローラ54の双方向クラッチ171における遊び角度θ2が減少する。給紙ローラ92の遊び角度θ1が0°になる前に、分離ローラ54の遊び角度θ2が0°になると、伝達部173と被伝達部174とが当接して駆動力が分離ローラ54に伝達され、先行するシートSH1の後端が抜けた後に露出した後続するシートSH2の先端に対し分離ローラ54による搬送が開始される。
【0086】
その後、
図20(d)に示すように、先行するシートSH1は第1搬送ローラ44により搬送されると共に、後続するシートSH2は分離ローラ54により搬送される。第1搬送ローラ44による搬送速度は分離ローラ54よりも速いことから、シートSH1の後端とシートSH2の先端との間隔は拡大され、シートSH2の先端が第1搬送ローラ44に到達した時点で十分な間隔Dが確保される。この結果、前述のような先行するシートSH1と後続するシートSH2との間隔不足による重送の発生を抑制できる。また、
図20(c)に示すように、給紙ローラ92による搬送が開始される前に分離ローラ54による搬送を開始することが可能となるので、前述のようなシートSH2の先端のシワの発生を抑制できる。このようにして、シワの発生や重送の発生等による搬送異常の発生を抑制することができる。
【0087】
また、本実施形態では特に、給紙ローラ92、分離ローラ54、及び第1搬送ローラ44は、共通する1つのモータ70からの駆動力が伝達されることにより回転する。仮に、給紙ローラ92、分離ローラ54及び第1搬送ローラ44を別々のモータで駆動するとした場合、先行するシートSH1の後端が給紙ローラ92を抜けた後、給紙ローラ92の遊び角度θ1が0°になったとしても、給紙ローラ92のモータをしばらく駆動しないことで給紙ローラ92による搬送開始タイミングを遅らせることが可能となり、上記搬送異常の発生を防止できることとなる。しかしながら、モータが複数必要となるため複合機1の大型化や重量の増大及びコストの増大を招く。
【0088】
本実施形態においては、給紙ローラ92、分離ローラ54及び第1搬送ローラ44が、共通する1つのモータ70からの駆動力が伝達されることにより回転する。その上で、前述したクラッチ構成とすることで給紙ローラ92による搬送開始タイミングを分離ローラ54よりも遅らせ、上記搬送異常の発生を抑制できる。これにより、上記のように複数のモータを使用する場合に比べて複合機1を小型化及び軽量化できると共にコストを削減できる。
【0089】
また、本実施形態では特に、給紙ローラ92、分離ローラ54、及び第1搬送ローラ44等が、上述のようにしてシートSHを順次搬送することにより、搬送経路P1に沿った下流側に位置するFB部5へとシートSHを送り込み、FB部5において各シートSHが読み取られて当該シートSHの画像に基づく画像データが生成される。本実施形態によれば、このようなシートSHをFB部5へ順次送り込む機構であるADF部9を備えた複合機1の構成において、前述の搬送異常の抑制効果を得ることができる。
【0090】
また、本実施形態では特に、給紙ローラ92側の最大遊び角度θ1maxを分離ローラ54側の最大遊び角度θ2maxよりも大きくする際、その偏差を、双方向クラッチ171の駆動力伝達により分離ローラ54が回転開始した後に双方向クラッチ161の駆動力伝達により給紙ローラ92が回転開始するように、設定する。これにより、給紙ローラ92による搬送開始タイミングを確実に遅くできるので、より確実に前述の搬送異常の発生を抑制することができる。また、重送を抑制するために第1搬送ローラ44と分離ローラ54とのローラ間の距離を長くする場合のように、複合機1全体の大型化を招くことがない。
【0091】
また、本実施形態では特に、搬送されるシートSHの前端や後端がシート搬送センサ113によって検知される。その際、前述の最大遊び角度θ1maxと最大遊び角度θ2maxとの偏差が比較的小さいと、給紙ローラ92の連れ回りが終了して伝達部163と被伝達部164との間の遊び角度θ1が0°になるまでの時間が短くなる結果、続行して順次搬送される2つのシート同士の間の空隙が小さくなる。そのため、シートSHのサイズによっては、シート搬送センサ113が、互いに離間して順次搬送される上記2つのシート同士の間の上記空隙を検知できずに長尺の1つのシートであると誤検知するおそれがある。そこで本実施形態では、先行するシートSH1の後端と後続のシートSH2の前端との離間距離において、シート搬送センサ113が検知可能となる下限値をシートSHのサイズに対応して定め、搬送時の上記離間距離が当該下限値以上となるように最大遊び角度θ1maxと最大遊び角度θ2maxとの偏差を設定する。これにより、シート搬送センサ113による上記誤検知を抑制することができる。
【0092】
また、本実施形態では特に、複数のシートSHが前述のようにして互いに離間して順次搬送される際、シート間の離間距離が十分でない場合、制御部110がFB部5によって生成された画像データから画像の傾きを判断できないおそれがある。そこで本実施形態では、先行するシートSH1の後端と後続のシートSH2の前端との離間距離において、画像データから画像の傾きを判断可能となる下限値をシートSHのサイズに対応して定め、その下限値以上となるように最大遊び角度θ1maxと最大遊び角度θ2maxとの偏差を設定する。これにより、シートSHが斜行していても、FB部5によって生成された画像データの傾きを検出することができる。
【0093】
なお、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、その趣旨及び技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。これらの変形例も技術的範囲に含まれる。
【0094】
すなわち、以上においては、分離ローラ54によるシートSHの搬送速度が給紙ローラ92によるシートSHの搬送速度よりも速くなる構成としたが、これに限られない。例えば、分離ローラ54による搬送速度と給紙ローラ92による搬送速度とが略同じ速度となる構成としてもよい。
【0095】
また、以上においては、ホルダ51の揺動についてもモータ70からの駆動力を利用して実現したが、これに限られない。すなわち、モータ70とは別の駆動源からの駆動力を用いてホルダ51を揺動させてもよい。
【0096】
また、以上においては、ユーザにより原稿がADF部9に差し込まれたときのADF部9内の原稿給紙機構に対し本発明が適用された場合を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、本体ユニット2に別途設けられる手差し給紙口からユーザにより記録紙が差し込まれるときの手差し給紙機構に対し本発明を適用してもよい。この場合も、上記同様の効果を得る。
【0097】
さらに、以上は、画像処理装置の一例として複合機1を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、画像処理装置の他の一例として、上述した画像形成部4に相当する部分を有さず読取ユニット3に相当する部分のみを有する読み取り装置に対し本発明を適用してもよい。この場合も、上記同様の効果を得る。
【0098】
また、以上既に述べた以外にも、上記実施形態や各変形例による手法を適宜組み合わせて利用しても良い。
【0099】
その他、一々例示はしないが、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0100】
1 複合機(画像処理装置の一例)
5 FB部(画像読取部の一例)
44 第1搬送ローラ(搬送ローラの一例)
54 分離ローラ
70 モータ
92 給紙ローラ
113 シート搬送センサ(センサの一例)
160 複合クラッチ(第1複合クラッチの一例)
161 双方向クラッチ(第1双方向クラッチの一例)
162 一方向クラッチ(第1一方向クラッチの一例)
163 伝達部(第1伝達部の一例)
164 被伝達部(第1被伝達部の一例)
170 複合クラッチ(第2複合クラッチの一例)
171 双方向クラッチ(第2双方向クラッチの一例)
172 一方向クラッチ(第2一方向クラッチの一例)
173 伝達部(第2伝達部の一例)
174 被伝達部(第2被伝達部の一例)
SH シート
SH1 シート(第1シートの一例)
SH2 シート(第2シートの一例)
P1 搬送経路
X54 回転軸心(第2軸心の一例)
X92 回転軸心(第1軸心の一例)
θ1max 最大遊び角度(第1最大遊び角度の一例)
θ2max 最大遊び角度(第2最大遊び角度の一例)