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特開2022-74937重質炭化水素油の水素化処理触媒及びその製造方法ならびに水素化処理方法
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  • 特開-重質炭化水素油の水素化処理触媒及びその製造方法ならびに水素化処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022074937
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】重質炭化水素油の水素化処理触媒及びその製造方法ならびに水素化処理方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/19 20060101AFI20220511BHJP
   B01J 23/883 20060101ALI20220511BHJP
   B01J 23/882 20060101ALI20220511BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20220511BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20220511BHJP
   C10G 45/08 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
B01J27/19 M
B01J23/883 M
B01J23/882 M
B01J37/02 101
B01J37/08
C10G45/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020185379
(22)【出願日】2020-11-05
(71)【出願人】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】新宅 泰
(72)【発明者】
【氏名】山根 健治
(72)【発明者】
【氏名】松元 雄介
【テーマコード(参考)】
4G169
4H129
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA01A
4G169BA01B
4G169BA02A
4G169BA02B
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA05A
4G169BA05B
4G169BA06A
4G169BA06B
4G169BC59A
4G169BC59B
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169BD03A
4G169BD03B
4G169BD07A
4G169BD07B
4G169CC02
4G169DA06
4G169EA02Y
4G169FA02
4G169FB14
4G169FB30
4G169FC02
4G169FC07
4G169FC09
4G169FC10
4H129AA02
4H129CA03
4H129CA08
4H129DA15
4H129KA06
4H129KB03
4H129KB05
4H129KC03X
4H129KC03Y
4H129KC05X
4H129KC05Y
4H129KC06X
4H129KC06Y
4H129KC07X
4H129KC07Y
4H129KC33X
4H129KC33Y
4H129KD06X
4H129KD06Y
4H129KD08X
4H129KD08Y
4H129KD10X
4H129KD10Y
4H129KD15X
4H129KD15Y
4H129KD22X
4H129KD22Y
4H129KD24X
4H129KD24Y
4H129KD37X
4H129KD37Y
4H129KD44X
4H129KD44Y
4H129NA01
4H129NA37
(57)【要約】
【課題】従来の水素化処理触媒よりも高い触媒性能(例えば、脱硫性能、脱窒素性能、脱残炭性能)を示す重質油の水素化処理触媒及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】重質炭化水素油の水素化処理に用いられる触媒であって、アルミナを主成分とする無機酸化物担体、および前記無機酸化物担体に担持された金属成分を含み、比表面積が所定の範囲にあり、前記触媒の昇温還元測定における450℃未満の還元ピーク温度が所定の温度以上であり、前記触媒の硫化処理後の一酸化窒素吸着量が所定の範囲にある、重質炭化水素油の水素化処理触媒。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナを主成分とし、かつ添加酸化物成分を含む無機酸化物担体、および前記無機酸化物担体に担持された金属成分を含む、重質炭化水素油の水素化処理触媒であって、
前記金属成分は、モリブデンを含み、かつニッケルおよび/またはコバルトを含み、
モリブデンの含有量は酸化物換算で5~16質量%であり、ニッケルおよびコバルトの合計の含有量は酸化物換算で1~6質量%であり、
窒素吸着法で測定した比表面積が150~320m2/gであり、
前記触媒の昇温還元測定における450℃未満の還元ピーク温度(℃)の値が、下式で表される値A(℃)以上であり、
値A(℃)=1.0×(触媒中のモリブデンのMoO3換算の含有量(質量%)) + 25×(触媒中のニッケルのNiO換算の含有量及びコバルトのCoO換算の含有量の合計量(質量%)に対するコバルトのCoO換算の含有量(質量%)の割合) + 339
前記触媒の硫化処理後の一酸化窒素吸着量が、前記触媒中のニッケルおよびコバルトの合計量に対するニッケル量のモル比(Ni/(Ni+Co))が0.5以上の場合には4.0ml/g以上であり、前記モル比が0.5未満の場合には5.0ml/g以上である、
重質炭化水素油の水素化処理触媒。
【請求項2】
前記無機酸化物担体が前記添加酸化物成分を1~30質量%含み、前記添加酸化物成分が少なくとも、下記(a)~(c):
(a)マグネシウムまたはホウ素、
(b)ケイ素と、チタニウム、ジルコニウム、ホウ素、マグネシウムおよびリンからなる群から選択される少なくとも一種の元素(群)Mとの組み合わせであって、ケイ素と元素(群)Mとの割合が、(シリカの質量)/(元素(群)Mの酸化物の質量)として0.4~3.5である組み合わせ、
(c)チタニウムとリンとの組み合わせ、またはジルコニウムとリンとの組み合わせ
のいずれか一種の添加元素(群)の酸化物を含む、請求項1に記載の重質炭化水素油の水素化処理触媒。
【請求項3】
前記無機酸化物担体が、水銀圧入法で測定した平均細孔径(PD)が9.0~15.0nmであり、平均細孔径±2nmの範囲の細孔容積の合計が全細孔容積の50%以上であり、細孔径が20nm以上の範囲の細孔容積の合計が全細孔容積の10%以下であり、かつ水のポアフィリング法で測定した細孔容積(PV)が0.5~1.1ml/gである、請求項1または2に記載の重質炭化水素油の水素化処理触媒。
【請求項4】
請求項1に記載された重質炭化水素油の水素化処理触媒を製造する方法であって、
(1)前記無機酸化物担体の前駆体を含む、pHが7~10のスラリーを調製し、次いで前記前駆体を成形する工程、
(2)成形された前記前駆体を400~800℃で焼成して前記無機酸化物担体を得る工程、
(3)前記金属成分の原料と、酸と、水とを含む含浸液を調製し、前記含浸液を前記無機酸化物担体に含浸し、前記金属成分の原料を無機酸化物担体に担持する工程、および
(4)前記金属成分の原料が担持された無機酸化物担体を400~800℃の温度で焼成して前記水素化処理触媒を得る工程
を含み、
前記工程(1)は、酸性アルミニウム塩を含むpHが2~5の水溶液(a)に塩基性アルミニウム塩を含む水溶液(b)を添加してアルミナ水和物を含む前記前駆体のスラリーを調製する操作(1-1)、および前記アルミナ水和物および/またはその原料と、前記添加酸化物成分の原料とを混合する操作(1-2)を含む
重質炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
【請求項5】
前記操作(1-2)において、
(i)酸性アルミニウム塩の水溶液と前記添加酸化物成分の原料とを混合して前記水溶液(a)を調製するか、
(ii)塩基性アルミニウム塩の水溶液と前記添加酸化物成分の原料とを混合して前記水溶液(b)を調製するか、
(iii)前記水溶液(a)と前記水溶液(b)と前記添加酸化物成分の原料とを混合して、前記前駆体を含むスラリーを調製するか、または
(iv)前記アルミナ水和物を含むスラリーと前記添加酸化物成分の原料とを混合して、前記前駆体を含むスラリーを調製する、
請求項4に記載の重質炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか一項に記載の水素化処理触媒の存在下で前記重質炭化水素油を水素化処理する工程を含む、重質炭化水素油の水素化処理方法。
【請求項7】
前記重質炭化水素油が、密度が0.90~1.05g/cm3であり、硫黄分含有量が1~6質量%であり、かつ沸点が360℃以上の成分を80質量%以上含む、請求項6に記載の重質炭化水素油の水素化処理方法。
【請求項8】
前記重質炭化水素油を水素化処理する工程を、水素分圧が5.0~20MPa、反応温度が350~420℃、かつ液空間速度が0.1~0.5hr-1の条件下で実施する、請求項6または7に記載の重質炭化水素油の水素化処理方法。
【請求項9】
重質炭化水素油の流動床接触分解の前処理として実施される、請求項6~8のいずれか一項に記載の重質炭化水素油の水素化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素存在下で重質炭化水素油(以下「重質油」とも記載する。)中の硫黄分等を効率よく除去するための水素化処理触媒、その製造方法および重質炭化水素油の水素化処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の重質油の水素化処理プロセスにおいては、原料油の更なる重質化や、重質油の水素化処理装置における処理量増加への対応のため、更なる触媒性能の向上が求められている。以上のことから、従来から様々なアプローチによる水素化処理触媒の開発が進められてきた。
【0003】
たとえば、特許文献1には、リンをP25基準で0.5~2.0%含み、かつ水銀圧入法で測定したLog微分細孔容積分布において、細孔直径6~13nmの間に2つの極大ピークを有するアルミナ-リン担体から調製した水素化脱硫触媒が、常圧残渣油の水素化処理反応において高い脱硫活性を示すことが開示されている。
【0004】
特許文献2には、水溶性チタン錯体を用いて調製されたアルミナとチタニアとを含む担体に、ポリエチレングリコールを含む含浸液により金属成分を担持した、重質油水素化脱硫触媒の製造方法が開示されている。また、開示された製法に従って調製したアルミナとチタニアとを含む担体に、活性金属成分を担持して得られた触媒が、高い脱硫活性と高い耐摩耗強度を示すことも記載されている。
【0005】
特許文献3には、アルミナ表面上にシリカ層を形成した構造を有し、シリカを担体全重量基準で2~40重量%含有するシリカ-アルミナ系担体に活性金属成分を担持することで調製される水素化処理用触媒であって、細孔容積分布において細孔直径40~200Åの範囲に第一のピークを有し、細孔直径200~2000Åの範囲に第二のピークを有する、すなわちバイモーダルな分布を有する水素化処理用触媒が開示されている。シリカの添加により、活性成分の分散性向上と、ブレンステッド酸およびルイス酸を高分散かつ均一に分布させることによって分解活性や脱硫活性が増大すると記載されており、この触媒が軽油の水素化処理における脱硫活性の向上や、減圧残渣油の水素化分解処理における脱硫活性の向上やセディメント抑制能に効果を示すことが記載されている。
【0006】
重質油の水素化処理プロセスでは、例えば船舶燃料用途の重油においては、国際海事機関による硫黄分含率の上限規制が2020年に引き下げられるなどしたこともあり、更なる脱硫活性の向上が重要な課題となっている。また、重質油の水素化処理装置における処理量増加への対応が求められている。
【0007】
水素化処理触媒の性能向上のための方策として、担体に担持された活性金属の水素気流下での還元温度に着目する手法が知られている。
特許文献4には、鉄、コバルト、ニッケルである周期律表第8~10族から選ばれる卑金属元素を含む硫化物触媒に、ロジウム、パラジウム、白金等の周期表第8~10族から選ばれる貴金属を添加することにより、スピルオーバー水素の利用によって高い水素化処理性能が示されることが記載されている。また、反応活性点となる触媒成分の還元を受ける挙動が、水素化処理の触媒活性と密接な関係を有し、水素気流下における触媒の鉄、コバルト、ニッケルに帰属する還元ピーク温度が500℃以下であることが望ましいと記載されている。
【0008】
特許文献5には、無機酸化物担体上に、活性金属として、モリブデン及びタングステンのうちの少なくとも一方である活性金属が15~30質量部、またコバルト及びニッケルのうちの少なくとも一方の金属成分が3~7質量部担持され、触媒の昇温還元法に基づいた450℃までの範囲の脱離水のピーク温度が412.0℃以下である触媒が、モリブデンの硫化処理を十分進行させることができるために、高い脱硫活性を示すことが記載されている。
【0009】
非特許文献1には、チタニア添加量を変化させたアルミナ-チタニア混合担体を調製し、さらに活性金属としてモリブデンを担持した触媒について記載されている。昇温還元法によるモリブデンに帰属される還元ピーク温度がチタニア添加により低下し、また水素消費量も増大したことから、チタニアの添加によってモリブデン種の還元が促進されること、更にそのような還元が促進された活性金属を含有する触媒が高い水素化脱硫活性を示すことが記載されている。
【0010】
非特許文献2には、シリカ-アルミナ担体にニッケル及びモリブデンを担持する際のエチレンジアミン四酢酸(EDTA)の有無による水素化脱硫活性及び昇温還元法の測定結果について記載されている。EDTAの添加により、活性金属種の還元が促進され、それによって水素化脱硫活性が向上する可能性について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2016/189982号
【特許文献2】特開2006-61845号公報
【特許文献3】特開2004-73912号公報
【特許文献4】特開2002-210362号公報
【特許文献5】特開2016-203074号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Wei Zhaobinら,Applied Catalysis,75(1991),179-191.
【非特許文献2】Khalida Al-Dalamaら,Thermochimica Acta,520(2011),64-74.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
既存の触媒には、重質油の水素化処理用途に用いるには活性が不足している、あるいは担持される金属成分量が多過ぎて触媒活性面で不適切かつ高価である、という課題があった。
【0014】
本発明の目的は、従来の水素化処理触媒よりも高い触媒性能(例えば、脱硫性能、脱窒素性能、脱残炭性能)を示す重質油の水素化処理触媒及びその製造方法を提供すること、ならびに従来の水素化処理方法よりも高い性能(例えば、脱硫性能、脱窒素性能、脱残炭性能)で重質油を水素化処理する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、触媒の昇温還元測定において特定の温度領域に還元ピークを示す触媒が、重質油の水素化処理において従来よりも高い硫黄、窒素、残炭の除去性能を示すことを見出した。
【0016】
本発明は、たとえば以下の[1]~[9]に関する。
[1]
アルミナを主成分とし、かつ添加酸化物成分を含む無機酸化物担体、および前記無機酸化物担体に担持された金属成分を含む、重質炭化水素油の水素化処理触媒であって、
前記金属成分は、モリブデンを含み、かつニッケルおよび/またはコバルトを含み、
モリブデンの含有量は酸化物換算で5~16質量%であり、ニッケルおよびコバルトの合計の含有量は酸化物換算で1~6質量%であり、
窒素吸着法で測定した比表面積が150~320m2/gであり、
前記触媒の昇温還元測定における450℃未満の還元ピーク温度(℃)の値が、下式で表される値A(℃)以上であり、
値A(℃)=1.0×(触媒中のモリブデンのMoO3換算の含有量(質量%)) + 25×(触媒中のニッケルのNiO換算の含有量及びコバルトのCoO換算の含有量の合計量(質量%)に対するコバルトのCoO換算の含有量(質量%)の割合) + 339
前記触媒の硫化処理後の一酸化窒素吸着量が、前記触媒中のニッケルおよびコバルトの合計量に対するニッケル量のモル比(Ni/(Ni+Co))が0.5以上の場合には4.0ml/g以上であり、前記モル比が0.5未満の場合には5.0ml/g以上である、
重質炭化水素油の水素化処理触媒。
【0017】
[2]
前記無機酸化物担体が前記添加酸化物成分を1~30質量%含み、前記添加酸化物成分が少なくとも、下記(a)~(c):
(a)マグネシウムまたはホウ素、
(b)ケイ素と、チタニウム、ジルコニウム、ホウ素、マグネシウムおよびリンからなる群から選択される少なくとも一種の元素(群)Mとの組み合わせであって、ケイ素と元素(群)Mとの割合が、(シリカの質量)/(元素(群)Mの酸化物の質量)として0.4~3.5である組み合わせ、
(c)チタニウムとリンとの組み合わせ、またはジルコニウムとリンとの組み合わせ
のいずれか一種の添加元素(群)の酸化物を含む、前記[1]の重質炭化水素油の水素化処理触媒。
【0018】
[3]
前記無機酸化物担体が、水銀圧入法で測定した平均細孔径(PD)が9.0~15.0nmであり、細孔径が20nm以上の範囲の細孔容積の合計が全細孔容積の10%以下であり、平均細孔径±2nmの範囲の細孔容積の合計が全細孔容積の50%以上であり、かつ水のポアフィリング法で測定した細孔容積(PV)が0.5~1.1ml/gである、前記[1]または[2]の重質炭化水素油の水素化処理触媒。
【0019】
[4]
前記[1]の重質炭化水素油の水素化処理触媒を製造する方法であって、
(1)前記無機酸化物担体の前駆体を含む、pHが7~10のスラリーを調製し、次いで前記前駆体を成形する工程、
(2)成形された前記前駆体を400~800℃で焼成して前記無機酸化物担体を得る工程、
(3)前記金属成分の原料と、酸と、水とを含む含浸液を調製し、前記含浸液を前記無機酸化物担体に含浸し、前記金属成分の原料を無機酸化物担体に担持する工程、および
(4)前記金属成分の原料が担持された無機酸化物担体を400~800℃の温度で焼成して前記水素化処理触媒を得る工程
を含み、
前記工程(1)は、酸性アルミニウム塩を含むpHが2~5の水溶液(a)に塩基性アルミニウム塩を含む水溶液(b)を添加してアルミナ水和物を含む前記前駆体のスラリーを調製する操作(1-1)、および前記アルミナ水和物および/またはその原料と、前記添加酸化物成分の原料とを混合する操作(1-2)を含む
重質炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
【0020】
[5]
前記操作(1-2)において、
(i)酸性アルミニウム塩の水溶液と前記添加酸化物成分の原料とを混合して前記水溶液(a)を調製するか、
(ii)塩基性アルミニウム塩の水溶液と前記添加酸化物成分の原料とを混合して前記水溶液(b)を調製するか、
(iii)前記水溶液(a)と前記水溶液(b)と前記添加酸化物成分の原料とを混合して、前記前駆体を含むスラリーを調製するか、または
(iv)前記アルミナ水和物を含むスラリーと前記添加酸化物成分の原料とを混合して、前記前駆体を含むスラリーを調製する、
前記[4]の重質炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
【0021】
[6]
前記[1]~[3]のいずれかの水素化処理触媒の存在下で前記重質炭化水素油を水素化処理する工程を含む、重質炭化水素油の水素化処理方法。
【0022】
[7]
前記重質炭化水素油が、密度が0.90~1.05g/cm3であり、硫黄分含有量が1~6質量%であり、かつ沸点が360℃以上の成分を80質量%以上含む、前記[6]の重質炭化水素油の水素化処理方法。
【0023】
[8]
前記重質炭化水素油を水素化処理する工程を、水素分圧が5.0~20MPa、反応温度が350~420℃、かつ液空間速度が0.1~0.5hr-1の条件下で実施する、前記[6]または[7]の重質炭化水素油の水素化処理方法。
【0024】
[9]
重質炭化水素油の流動床接触分解の前処理として実施される、前記[6]~[8]のいずれかの重質炭化水素油の水素化処理方法。
【0025】
従来の昇温還元測定を活用した水素化処理触媒開発においては、担体への第二成分添加や、含浸液への有機物添加などによって、金属成分の還元ピーク温度を低下させる、すなわち担体上の金属成分の還元を促進することが触媒性能向上に重要であると考えられていたのに対し、本発明の技術的な着想は、金属成分の還元を抑制した触媒が重質油水素化処理に適していると考えた点にある。
【0026】
さらに、上記着想に基づいて鋭意検討を行った結果、特徴的な還元ピーク温度および一酸化窒素吸着量等の性状を示す本発明に係る触媒が、実際に重質油の水素化処理において高い性能を示すことを見出した。更に、そのような触媒は、従来水素化処理触媒で広く用いられているアルミナまたはアルミナ-リン担体ではなく、特定の複合酸化物担体を用いることで得られることを見出し、本発明者らは本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0027】
本発明の水素化処理触媒を用いて重質油の水素化処理を行うと、硫黄分、窒素分、残炭分が従来の重質油水素化処理触媒で達成し得なかった低さである生成油を得られる。更に、そのような生成油は重質油の流動床接触分解反応装置の適した原料油となり、接触分解反応装置において低付加価値な重質残油成分の得率を低下させることができるため、産業上重要なものである。
【0028】
さらに、本発明の水素化処理触媒は、金属成分として貴金属を必要とするものではないため、安価でありかつ重質油の水素化処理に工業的に用いることができる。
また、本発明の触媒を製造する際に、その製造工程上は従来の触媒の製造工程からの大きな変更ないし改造が必要でないので、本発明の製造方法によれば従来触媒と同じ装置を用いて、高い生産性を維持しながら性能が向上した重質油の水素化処理触媒を製造することができる。
【0029】
金属成分の還元を抑制した本発明の触媒が重質油水素化処理に適している理由については、完全には解明されていないものの、本発明者らは以下のような機構を考えている。なお、本発明は以下に述べる機構の仮説に何ら限定されるものではない。
【0030】
ナフサ、灯油、軽油、減圧軽油など様々な原料油が存在する炭化水素油の水素化処理において、重質油の水素化処理は特に過酷な条件で運転されており、高温運転によるコーク生成や金属成分凝集が進行しやすいと考えられる。触媒の還元ピーク温度を所定の温度以上とすること、すなわち金属成分の還元を進み難くすることは、金属成分種の担体上での安定性を向上させ、ひいては金属成分の金属に対するコーク被毒の抑制や、金属成分種の凝集抑制の効果があり、それによって活性点の機能がより長期にわたって保たれると考えている。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、実施例1の触媒(7)の昇温還元法による金属成分の還元温度を測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施態様を説明する。
本発明は、重質油の水素化処理触媒とその製造方法及び重質油の水素化処理方法を提供するものである。本発明に従って製造した触媒(以下「本触媒」とも記載する。)は、重質油の水素化処理装置中の脱メタル部、脱硫部、その間のトランジション部のどの領域においても充填し使用することが可能であるが、特に脱硫部において好適に使用することができる。
【0033】
重質油の水素化処理装置の脱メタル部では、水素ガスの存在下で、脱メタル触媒による脱メタルが主に行われ、原料油中のメタル成分が除去される。一方、脱硫部では、水素ガスの存在下で、主として脱硫触媒による水素化反応が行われ、硫黄分、窒素分及び残炭分などが除去される。
【0034】
[水素化処理触媒]
本発明に係る水素化処理触媒は、
重質炭化水素油の水素化処理に用いられる触媒であって、
アルミナを主成分とする無機酸化物担体、および前記無機酸化物担体に担持された金属成分を含み、
比表面積が所定の範囲にあり、
前記触媒の昇温還元測定における450℃未満の還元ピーク温度が所定の温度以上であり、
前記触媒の硫化処理後の一酸化窒素吸着量が所定の範囲にある
ことを特徴としている。
【0035】
<無機酸化物担体>
本発明に係る触媒に使用される無機酸化物担体は、アルミナを主体とし、添加酸化物成分を含む担体である。
【0036】
無機酸化物担体は、アルミニウムを酸化物(Al23)基準で好ましくは70~99質量%、より好ましくは75~98質量%、さらに好ましくは80~97質量%含む。
前記無機酸化物担体は、上記組成範囲内にあるアルミナを主体としていることから、高い比表面積、重質油の処理に適した細孔径、高い耐圧強度および耐摩耗強度、ならびに押出成形に適するなどの高い生産性を兼ね備えているため、水素化処理触媒用の担体として適している。
【0037】
前記添加酸化物成分は、アルミニウム以外の添加元素(群)の酸化物であり、その例としては、好ましくは下記(a)、(b)または(c)のいずれか一種の添加元素(群)の酸化物が挙げられる。
(a)マグネシウムまたはホウ素、
(b)ケイ素と、チタニウム、ジルコニウム、ホウ素、マグネシウムおよびリンからなる群から選択される少なくとも一種の元素(群)Mとの組み合わせであって、ケイ素と元素(群)Mとの割合が、(シリカの質量)/(元素(群)Mの酸化物の質量)として0.4~3.5である組み合わせ、および
(c)チタニウムとリンとの組み合わせ、またはジルコニウムとリンとの組み合わせ
前記無機酸化物担体は、前記添加元素(群)を酸化物基準で好ましくは1~30質量%、より好ましくは2~25質量%、さらに好ましくは3~20質量%含む。
【0038】
なお、前記無機酸化物担体がアルミナと前記添加酸化物成分とを含むとは、通常、前記無機酸化物がアルミニウムとの前記添加元素(群)との複合酸化物を含むことを意味する。
【0039】
前記無機酸化物担体は、好ましくは以下の要件(i)および(ii)を満たし、より好ましくはさらに以下の要件(iii)を満たす。
要件(i):水銀圧入法で測定した平均細孔径(PD)が9.0~15.0nmであり、好ましくは9.0~14.0nmである。
【0040】
要件(ii):平均細孔径±2nmの範囲の細孔容積の合計が全細孔容積の50%以上、好ましくは55%以上を占める。
要件(iii):細孔径が20nm以上の範囲の細孔容積の合計が全細孔容積の10%以下である。
【0041】
また、前記無機酸化物担体は、好ましくは以下の要件(iv)を満たす。
要件(iv):水のポアフィリング法で測定した細孔容積(PV)が0.5~1.1ml/gであり、好ましくは0.6~1.0ml/gである。
【0042】
各物性の測定方法の詳細は、後述する実施例の欄に記載のとおりである。
このような成分及び組成の特性を有する無機酸化物担体を含む触媒は、比較的分子サイズの大きい重質油の高い拡散性と、固体触媒において金属成分の分散性維持に重要な高い比表面積とを併せ持っており、触媒性能に優れると考えられる。
【0043】
<金属成分>
本発明に係る触媒は、前記無機酸化物担体に担持された金属成分を含む。前記金属成分は、モリブデンを含み、かつニッケルおよび/またはコバルトを含む。
【0044】
本発明に係る触媒中のモリブデンの含有量は、酸化物(MoO3)換算で5~16質量%、好ましくは6~15質量%である。
本発明に係る触媒中のニッケル及びコバルトの合計の含有量は、酸化物(NiO、CoO)換算で1.0~6.0質量%、好ましくは1.5~5.0質量%である。
【0045】
<比表面積>
本発明に係る触媒の、窒素吸着法(測定方法の詳細は、後述する実施例の欄に記載のとおりである。)で測定される比表面積は、150~320m2/gである。
【0046】
比表面積が150m2/g未満であると、無機酸化物担体上で金属成分が十分に分散せず金属成分の凝集体が生成していることがあるため好ましくない。また触媒の比表面積が320m2/gを超える場合には、細孔径が小さくなり、分子サイズの大きな重質油を原料油とする反応では重質油分子の拡散性が低下するため、好ましくない。
【0047】
<還元ピーク温度>
本発明者らは、触媒の昇温還元測定に基づいた新規な重質油水素化処理触媒の開発に取り組み、当業者において従来使用していたアルミナ担体を用いて調製した触媒と比較して、一定以上に高い還元ピーク温度を示す触媒が重質油の水素化処理に対して高い性能を示すことを見出した。更に、還元ピーク温度が、触媒中のモリブデン量、及び、ニッケル及びコバルトの合計量に対するコバルト量の割合との相関性を有することを見出し、以下の条件を提案するに至った。
【0048】
すなわち、本発明に係る触媒の昇温還元測定における450℃未満の還元ピーク温度の値(℃)が、以下の式(1)により算出される値A以上、好ましくは以下の式(1’)により算出される値A’以上、より好ましくは以下の式(1”)により算出される値A”以上である触媒は、重質油の水素化処理において高い触媒活性を示す。
【0049】
値A (℃)=1.0×B + 25×C + 339 …(1)
値A’(℃)=1.0×B + 25×C + 340 …(1’)
値A”(℃)=1.0×B + 25×C + 342 …(1”)
(式(1)、(1’)および(1”)において、
Bは、触媒中のモリブデンのMoO3換算の含有量(質量%)であり、
Cは、触媒中のニッケルのNiO換算の含有量及びコバルトのCoO換算の含有量の合計量(質量%)に対するコバルトのCoO換算の含有量(質量%)の割合である。)
なお、昇温還元測定および還元ピーク温度の詳細は、後述する実施例の欄に記載のとおりである。
【0050】
触媒の還元ピーク温度の値が値A以上、好ましくは値A’以上、より好ましくは値A”以上であることは、アルミナおよび添加酸化物成分を含む従来の担体を用いて調製された触媒よりも、触媒上の金属成分が還元されにくいことを示し、このような還元ピーク温度を有する本発明の触媒は、活性点の構造と機能が維持されやすく、結果として水素化処理活性が高くなるため、重質油の脱硫触媒用途として適している。
【0051】
式(1)、式(1’)および式(1”)は、触媒中のMoO3量が増えるほど還元ピーク温度が上昇し、また触媒中のNiO及びCoOの合計量に対するCoO量の割合が増えるほど還元ピーク温度が上昇するという知見と、本発明に係る触媒と比較例で製造された触媒についての還元ピーク温度及び水素化処理性能の比較評価とから求めたものである。
【0052】
このような還元ピーク温度を有する触媒を製造する方法の一つとして、後述する水素化処理触媒の製造方法が例示されるが、これに限定されるものではない。
還元ピーク温度の上限値は、たとえば(値A+10)℃程度であってもよい。
【0053】
<一酸化窒素吸着量>
水素化処理触媒の金属成分の分散性は、硫化処理済触媒の一酸化窒素吸着量測定で評価することが出来る。硫化処理方法および測定方法の詳細は、後述する実施例の欄に記載のとおりである。ニッケル及びコバルトに対するニッケルのモル比によって、担持される金属成分の構造が異なり、一般にニッケルのモル比が高い場合には一酸化窒素吸着量が低いと考えられている。
【0054】
本発明に係る触媒の硫化処理後の一酸化窒素吸着量は、触媒中のニッケル及びコバルトの合計量に対するニッケル量のモル比(Ni/(Ni+Co))が0.5以上の場合には4.0ml/g以上であり、前記質量比が0.5未満の範囲の場合には5.0ml/g以上である。一酸化窒素吸着量が上記範囲よりも低いことは、触媒上の金属成分の分散性が低いことを意味し、活性点の数が少ないため、好ましくない。
【0055】
一酸化窒素吸着量の上限値は、たとえば9.0ml/g程度であってもよい。
一酸化窒素吸着量は、たとえば後述する水素化処理触媒の製造方法において、担体や触媒の焼成温度を変更すること、活性金属を含む含浸液に任意のキレート剤を添加すること、などにより増減させることができる。
【0056】
無機酸化物担体の性状および形状は、担持する金属成分の種類や組成等の種々の条件および触媒の用途に応じて、適宜選択される。
前記金属成分を担体に高分散状態に有効に担持して触媒活性を十分に確保するためには、通常、多孔質で所定の細孔を有する担体が好適に使用される。また、担体あるいは触媒体の機械的強度や耐熱性等の物性を制御するために、担体あるいは触媒の形成に際して適当なバインダー成分や添加剤を含有させてもよい。
【0057】
担体は、更に前記添加酸化物成分以外の添加剤を含んでいてもよく、その例としては、アルミノケイ酸塩等の鉱物等(例えば、ゼオライト、タルク、カオリナイト、モンモリロナイト)が挙げられる。
【0058】
更に、担体の調製法を特に限定するものではないが、以下の調製法で得た担体前駆体に対して、前記添加剤を添加することによって、水素化分解活性、圧壊強度等が向上した触媒を製造することができる。
【0059】
[水素化処理触媒の製造方法]
本発明に係る水素化処理触媒の製造方法は、
(1)担体前駆体を成形する工程、
(2)担体前駆体を焼成して無機酸化物担体を得る工程、
(3)金属成分原料を無機酸化物担体に担持する工程、および
(4)金属成分原料が担持された無機酸化物担体を焼成して水素化処理触媒を得る工程
を含むことを特徴としている。
【0060】
(工程(1))
工程(1)は、前記無機酸化物担体の前駆体(以下「担体前駆体」とも記載する。)を含む、pHが7~10のスラリーを調製し、次いで前記担体前駆体を成形する工程であり、
酸性アルミニウム塩を含む水溶液(a)に塩基性アルミニウム塩を含む水溶液(b)を添加してアルミナ水和物を含む前記担体前駆体を調製する操作(1-1)、および
前記アルミナ水和物および/またはその原料と、前記添加酸化物成分の原料(以下「添加酸化物成分原料」とも記載する。)とを混合する操作(1-2)
を含んでいる。
【0061】
操作(1-2)は、その具体的態様に応じて、操作(1-1)と共に、または操作(1-1)とは別に実施される。
また、前記担体前駆体は、前記アルミナ水和物および前記添加酸化物成分原料を含んでいる。
【0062】
《操作(1-1)》
操作(1-1)では、酸性アルミニウム塩を含む水溶液(a)に塩基性アルミニウム塩を含む水溶液(b)を添加してアルミナ水和物を含む担体前駆体のスラリーを調製する。
【0063】
酸性アルミニウム塩を含む水溶液(a)は、例えば、敷き水に酸性アルミニウム塩を添加して調製される。
この水溶液(a)は、例えば、アルミニウム含有量がAl23換算で例えば0.1~2.0質量%であり、かつpHが2.0~5.0となるように調製され、撹拌しながらその液温が例えば50~80℃となるように加温される。
【0064】
酸性アルミニウム塩は水溶性の塩であり、その例としては、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、酢酸アルミニウム、硝酸アルミニウムが挙げられる。
敷き水に酸性アルミニウム塩を添加して水溶液(a)を調製する際に、酸性アルミニウム塩は、好ましくはAl23換算で0.5~20質量%含む水溶液の形態で添加される。
【0065】
次に、この酸性アルミニウム塩を含む水溶液(a)を撹拌しながら、ここにpHが7~10となるように、塩基性アルミニウム塩を含む水溶液(b)を例えば30~200分間かけて添加することにより、アルミナ水和物を含む担体前駆体のスラリーが得られる。
【0066】
次いで、アルミナ水和物を例えば40~70℃の純水で洗浄し、ナトリウム、硫酸根等の不純物である副生成塩を除去すると、ケーキ状のアルミナ水和物が得られる。
塩基性アルミウム塩としては、アルミン酸ソーダ、アルミン酸カリウムなどが挙げられる。塩基性アルミウム塩の水溶液は、アルミニウムをAl23換算で好ましくは2~30質量%含む。
【0067】
《操作(1-2)》
操作(1-2)では、前記アルミナ水和物および/またはその原料と、前記添加酸化物成分の原料とを混合する。
【0068】
前記アルミナ水和物の原料と前記添加酸化物成分原料とを混合する態様としては、たとえば
(i)酸性アルミニウム塩の水溶液と前記添加酸化物成分の原料とを混合して前記水溶液(a)を調製する、
(ii)塩基性アルミニウム塩の水溶液と前記添加酸化物成分の原料とを混合して前記水溶液(b)を調製する、
(iii)前記水溶液(a)と前記水溶液(b)と前記添加酸化物成分の原料とを混合して、前記前駆体を含むスラリーを調製する、および
(iv)前記アルミナ水和物を含むスラリーと前記添加酸化物成分の原料とを混合して、前記前駆体を含むスラリーを調製する
という態様が挙げられる。
【0069】
(i)の態様としては、アルミナ水和物を得る際の敷水への前記添加酸化物成分原料の添加、酸性アルミニウム塩の水溶液への前記添加酸化物成分原料の添加が挙げられる。
(ii)の態様としては、塩基性アルミニウム塩の水溶液への前記添加酸化物成分原料の添加が挙げられる。
【0070】
(iv)の態様としては、アルミナ水和物を得た後のスラリーへの前記添加酸化物成分原料の添加、洗浄脱塩後のアルミナ水和物への前記添加酸化物成分原料の添加、高温熟成後のアルミナ水和物への前記添加酸化物成分原料の添加、ニーダーでの捏和時のアルミナ水和物への前記添加酸化物成分原料の添加などが例示される。
【0071】
操作(1-2)の具体的態様は、これらに限定されるものではなく、添加する成分の種類や組成等の種々の条件および触媒の用途に応じて、適宜選択される。
添加酸化物成分原料の例としては、水溶性の塩、酸化物の粉末、酸化物または水酸化物のゾル、酸化物または水酸化物のゲルが挙げられる。
【0072】
リンを含む添加酸化物成分原料の例としては、リン酸アンモニア、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸、亜リン酸などの水中でリン酸イオン又は亜リン酸イオンを生じるリン酸化合物が挙げられる。
【0073】
ケイ素を含む添加酸化物成分原料の例としては、ケイ酸ナトリウム、四塩化ケイ素、シリカ粉末、シリカゾル、シリカゲルが挙げられる。ケイ酸ナトリウムは安価であるので特に好ましい。
【0074】
チタニウムを含む添加酸化物成分原料の例としては、四塩化チタン、三塩化チタン、硫酸チタン、硫酸チタニル、硝酸チタン、水酸化チタンゲル、メタチタン酸、チタニア粉末が挙げられる。硫酸チタン、硫酸チタニルは安価であるので特に好ましい。
【0075】
ジルコニウムを含む添加酸化物成分原料の例としては、硫酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、ジルコニア粉末が挙げられる。
【0076】
ホウ素を含む添加酸化物成分原料の例としては、ホウ酸、ホウ酸アンモニウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸アルミニウムが挙げられる。
マグネシウムを含む添加酸化物成分原料の例としては、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、硫酸マグネシウムが挙げられる。
【0077】
<添加物>
得られた担体前駆体のスラリーに、必要に応じて、有機酸類または糖類から選ばれる少なくとも一種の有機添加剤を添加した後、担体前駆体を熟成してもよい。有機酸類としては、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸、酢酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)が挙げられる。また糖類としては、単糖類、二糖類、多糖類等があげられる。
【0078】
《担体前駆体の成形》
アルミナ水和物および添加酸化物成分原料を含む担体前駆体は、たとえばスチームジャケット付双腕式ニーダーに入れて加熱捏和して成形可能な捏和物とした後、押し出し成形などによりシリンダー型、三つ葉型、四葉型などの所望の形状に成形される。
【0079】
(工程(2))
工程(2)では、工程(1)で得られた担体前駆体の成形物を焼成して無機酸化物担体を製造する。焼成前に成形物を例えば70~150℃、好ましくは90~130℃で加熱乾燥してもよい。焼成温度は、例えば400~800℃、好ましくは400~600℃であり、焼成時間は、例えば0.5~10時間、好ましくは2~5時間である。低すぎる温度での焼成は、有機添加物の残存または平均細孔径の低下の原因となり、好ましくない。また高すぎる温度での焼成は、比表面積低下の原因となり、好ましくない。
【0080】
(工程(3))
工程(3)では、前記金属成分の原料と、酸と、水とを含む含浸液を調製し、前記含浸液を前記無機酸化物担体に含浸し、金属成分の原料を無機酸化物担体に担持する。
【0081】
<金属成分の原料>
得られた担体に、前記金属成分の原料を含む含浸液を接触させる。前記金属成分の原料としては、例えば、三酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウム、硝酸コバルト、炭酸コバルト、硝酸ニッケル、炭酸ニッケルが挙げられる。
【0082】
各金属成分の原料の配合量は、製造される水素化触媒中でのモリブデンの量、ならびにニッケルおよび/またはコバルトの量が上述した範囲内となるように設定される。金属成分の原料の量または組成は、水素化処理を実施する原料油の種類、または生成油の用途に応じて、適宜に選択される。
【0083】
金属成分の原料を無機酸化物担体に担持させる際、前記金属成分の原料を溶解した含浸液を調製して、担体に担持を行う。
【0084】
<含浸液>
含浸液を調製する際には、無機酸あるいは有機酸を用いて含浸液のpHを4以下にして、金属成分の原料を溶解させることが好ましい。無機酸としては、リン酸類や硝酸などが挙げられ、リン酸類としては、リン酸、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、トリメタリン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸などが用いられる。有機酸としては、例えば、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、酢酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)が使用でき、特に、クエン酸、リンゴ酸が好適に用いられる。
【0085】
(工程(4))
工程(4)では、前記金属成分の原料が担持された無機酸化物担体を焼成して、本発明に係る水素化処理触媒を製造する。
【0086】
焼成温度は、例えば400~800℃、好ましくは400~700℃、さらに好ましくは450~650℃であり、焼成時間は、例えば0.5~10時間、好ましくは1~8時間である。高すぎる温度での焼成は、金属成分の凝集による触媒活性低下の原因となり好ましくない。
【0087】
上述した本発明に係る水素化処理触媒は、本発明に係る水素化処理触媒の製造方法により製造することができる。
【0088】
[水素化処理方法]
本発明に係る重質炭化水素油(重質油)の水素化処理方法は、本発明に係る水素化処理触媒の存在下で重質炭化水素油(重質油)を水素化処理する工程を含むことを特徴としている。
【0089】
本発明に係る触媒で処理される重質油は、原油の蒸留残渣を主成分とするものであり、灯軽油留分と比べて分子量分布が広く、また原油の産地によって性状が大きく異なる。代表的な中東系や中南米系の重質油は、硫黄分やアスファルテンの含有量が多く、またアスファルテン含有量の高いものは残留炭素およびバナジウム、ニッケル等の不純物金属を多く含んでいる。重質油は、重質油の水素化処理装置での水素化精製処理によって低硫黄重油の原料や流動接触分解装置(RFCC)の原料油となる。
【0090】
前記重質油としては、特に制限はなく、例えば原油の常圧蒸留残渣油(AR)および減圧蒸留残渣油(VR)、接触分解残油、ビスブレーキング油、ビチューメンなどの密度の高い石油留分を挙げることができる。これらの重質油は、通常アスファルテンが1質量%以上含まれているが、これらの重質油から抽出したアスファルテンも原料油として用いることができる。本発明においては、原料油として、これらを単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、コーカー油、合成原油、ナフサカット原油、重質軽油、減圧軽油、LCO、GTL(Gas To Liquid)油、ワックス等を常圧蒸留残渣油等と混合して重質油として水素化処理をすることもできる。
【0091】
原料重質油としては、好ましくは、密度が0.90~1.05g/cm3、硫黄分含有量(硫黄濃度)が1~6質量%、360℃以上の沸点である成分が80質量%以上の蒸留性状を有するものが使用される。原料重質油の窒素分含有量(窒素濃度)は、好ましくは2000質量ppmを超え10000質量ppm以下である。
【0092】
本発明の触媒を使用した水素化処理は、たとえば、固定床反応装置に、流通方向に、脱メタル部、トランジション部、脱硫部となるように前記触媒を積層して充填し、水素雰囲気下、高温高圧条件で、重質油を通液して行なわれる。
【0093】
得られた処理油は、必要に応じて、流動接触分解装置にて接触分解処理される。上記流動接触分解装置による接触分解処理は、特に制限はなく、公知の方法、条件で行えばよい。例えば、シリカ-アルミナ、シリカ-マグネシアなどのアモルファス触媒や、フォージャサイト型結晶アルミノシリケートなどのゼオライト触媒を用い、反応温度450~650℃程度、好ましくは480~580℃、再生温度550~760℃程度、反応圧力0.1~5MPa程度、好ましくは0.2~2MPaの範囲で適宜選定すればよい。最終工程である流動接触分解装置にて接触分解処理された生成油は、燃料や石油化学製品の原料として使用することができる。
【実施例0094】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
【0095】
<担体成分(アルミニウム、リン、チタン、ジルコニウム、ホウ素、ケイ素、マグネシウム等)および金属成分(モリブデン、コバルト、ニッケル等)の含有量の測定方法>
測定試料約10gを乳鉢で粉砕したのちに約0.5gを採取し、加熱処理(200℃、20分)し、焼成(700℃、5分)した後、Na22 2gおよびNaOH 1gを加えて15分間溶融した。さらに、H2SO4 25mlと水200mlを加えて溶解したのち、純水で500mlになるよう希釈して試料とした。得られた試料について、ICP発光分析装置(島津製作所(株)製、ICPS-8100、解析ソフトウェアICPS-8000)を用いて、アルミニウム以外の各成分の含有量を酸化物換算基準で測定した。アルミニウムの含有量(Al23換算)は、測定試料の量から他の成分の含有量を差し引いた値とした。
【0096】
<窒素吸脱着測定のBET一点法により求められる触媒の表面積(比表面積N2)の測定方法>
測定試料を磁製ルツボ(B-2型)に約30mL採取し、500℃の温度で1時間加熱処理後、デシケータに入れて室温まで冷却し、測定用サンプルを得た。次に、このサンプルを1g取り、全自動表面積測定装置(湯浅アイオニクス社製、マルチソーブ12型)を用いて、試料の比表面積(m2/g)をBET法にて測定した。
【0097】
<担体の平均細孔径の測定方法>
測定試料を磁製ルツボに約3g採取し、500℃の温度で1時間加熱処理後、デシケータに入れて室温まで冷却し、測定用サンプルを得たのち、水銀圧入法(カンタクローム社製 ポアマスター GT-60、水銀の接触角:150度、表面張力:480dyn/cm)によって測定した。平均細孔径は細孔容積の50%に相当する細孔直径とした。
【0098】
<担体の細孔容積の測定方法>
測定試料を磁製ルツボに約30g採取し、500℃の温度で1時間加熱処理後、デシケータに入れて室温まで冷却し、測定用サンプルを得たのち、水のポアフィリング法により細孔容積を測定した。
【0099】
<硫化処理した触媒の一酸化窒素吸着量の測定方法>
一酸化窒素吸着量の測定は、全自動触媒ガス吸着量測定装置(大倉理研社製)を用い、硫化処理した水素化処理触媒に、ヘリウムガスと一酸化窒素ガスとの混合ガス(一酸化窒素濃度10容量%)をパルスで導入し、水素化処理触媒1gあたりの一酸化窒素分子吸着量を測定した。具体的には、60メッシュ以下に粉砕した触媒を約0.2g秤取り、これを石英製のセルに充填し、当該触媒を360℃に加熱して、硫化水素5容量%/水素95容量%のガスを0.2L/分の流量で通流させて1時間硫化処理を行い、その後340℃で1時間保持し、物理吸着している硫化水素を系外に排出した。その後にヘリウムガスと一酸化窒素ガスとの混合ガスにより一酸化窒素分子を50℃で吸着させ、一酸化窒素分子吸着量をTCD(熱伝導度検出器)により測定した。
【0100】
<昇温還元法の測定方法>
昇温還元法においては、全自動触媒ガス吸着量測定装置(大倉理研社製)を用い、250~710μmに整粒した触媒0.05gを400℃で1時間、アルゴンガスの流通下で前処理を施した後に50℃まで冷却し、アルゴンガスを、供給量を24ml/分に設定した水素濃度が65%である水素/アルゴン混合ガスに切り換え、50℃から600℃まで3℃/分で昇温した。昇温時の流通ガスをTCD(熱伝導度検出器)にて測定し水素ガス消費スペクトルを得て、水素ガス消費スペクトルから金属成分の還元ピーク温度を読み取った。
【0101】
図1に、昇温還元法による分析結果の一例であるグラフを示す。横軸は触媒試料温度、縦軸は水素ガス消費量の相対値である。本発明において「還元ピーク温度」とは、図1に示す例においても読み取れるように、450℃未満の温度範囲において最も水素消費量が高い時点の触媒試料温度のことである。
【0102】
<炭化水素油の分析方法>
硫黄濃度はJIS K 2541-7に準拠して測定した。窒素濃度はJIS K 2609に準拠して測定した。メタル(ニッケル及びバナジウム)濃度は石油学会JPI-5S-62に準拠して測定した。残炭分はJIS K 2270-2:2009に準拠して測定した。密度はJIS K 2249-1に準拠して測定した。蒸留性状はASTM D2892に準拠して測定した。
【0103】
<製造例1:担体Dの調製>
薬液添加口2箇所を持つ循環ラインを設けたタンクに純水60.4kgを張り込み、撹拌しながら酸性アルミニウム塩水溶液である硫酸アルミニウム水溶液(Al23として濃度7質量%)19.2kgを添加し、得られた希釈水溶液を60℃に加温して循環させた。水溶液のpHは2.3であった。希釈水溶液を撹拌しながら、希釈水溶液に硫酸チタニル水溶液(TiO2として濃度5質量%)を5.00kg、及びケイ酸ナトリウム水溶液(水ガラス、SiO2として濃度24質量%)1.04kgを順次添加し、酸性アルミニウム塩水溶液(D1)を得た。
【0104】
次に、塩基性アルミニウム塩水溶液であるアルミン酸ナトリウム水溶液14.3kg(Al23として濃度22質量%)を、撹拌及び循環させ、かつ60℃に保ちながら、上記の酸性アルミニウム塩水溶液(D1)に60分かけて添加してスラリーを形成し、次いでスラリーのpHを9.5となるように調整した。pHの調整は、他の製造例、比較製造例も含めて、特段の断りのない限り、15質量%アンモニア水溶液又は10質量%硫酸水溶液の添加により行った。得られたアルミナ主体複合酸化物水和物を60℃の純水で洗浄し、ナトリウム、硫酸根等の不純物を除去し、洗浄ケーキを得た。洗浄ケーキに純水を加えて、Al23濃度が8質量%となるように調製した後、還流器のついた熟成タンクにて95℃で3時間熟成し、さらに脱水することでケーキ状のアルミナ主体複合酸化物水和物(D)を得た。
【0105】
ケーキ状のアルミナ主体複合酸化物水和物(D)を、スチームジャケットを備えた双腕式ニーダーにて練りながら所定の水分量(他の製造例、比較製造例も含めて40~70%程度)となるまで濃縮捏和した。得られた捏和物を押出成形機にて1.7mmの四つ葉型の柱状に押し出し成形した。得られた成形品を、110℃で12時間乾燥した後、さらに500℃で3時間焼成して、担体Dを得た。担体Dの化学組成を表1に示す。
【0106】
<製造例2:担体Eの調製>
薬液添加口2箇所を持つ循環ラインを設けたタンクに純水64.1kgを張り込み、撹拌しながら酸性アルミニウム塩水溶液である硫酸アルミニウム水溶液(Al23として濃度7質量%)19.2kgを添加し、得られた希釈水溶液を60℃に加温して循環させた。希釈水溶液のpHは2.3であった。希釈水溶液を撹拌しながら、希釈水溶液に硫酸ジルコニウム水溶液(ZrO2として濃度18.2質量%)を1.65kg、及びケイ酸ナトリウム水溶液(SiO2として濃度24質量%)0.83kgを順次添加し、酸性アルミニウム塩水溶液(E1)を得た。
【0107】
次に、塩基性アルミニウム塩水溶液であるアルミン酸ナトリウム水溶液14.3kg(Al23として濃度22質量%)を、撹拌及び循環させ、かつ60℃に保ちながら、上記の酸性アルミニウム塩水溶液(E1)に60分かけて添加してスラリーを形成し、次いでスラリーのpHを9.5となるように調整した。得られたアルミナ主体複合酸化物水和物を60℃の純水で洗浄し、ナトリウム、硫酸根等の不純物を除去し、洗浄ケーキを得た。洗浄ケーキに純水を加えて、Al23濃度が8質量%となるように調製した後、還流器のついた熟成タンクにて95℃で3時間熟成し、さらに脱水することでケーキ状のアルミナ主体複合酸化物水和物(E)を得た。
【0108】
アルミナ主体複合酸化物水和物(D)をアルミナ主体複合酸化物水和物(E)に変更したこと以外は製造例1と同様にして、担体Eを得た。担体Eの化学組成を表1に示す。
【0109】
<製造例3:担体Fの調製>
薬液添加口2箇所を持つ循環ラインを設けたタンクに純水63.8kgを張り込み、撹拌しながら酸性アルミニウム塩水溶液である硫酸アルミニウム水溶液(Al23として濃度7質量%)20.5kgを添加し、得られた希釈水溶液を60℃に加温して循環させた。希釈水溶液のpHは2.3であった。希釈水溶液を撹拌しながら、希釈水溶液にリン酸(P25として濃度61.6質量%)を0.08kg、及びケイ酸ナトリウム水溶液(ケイ酸ナトリウム、SiO2として濃度24質量%)0.63kgを順次添加し、酸性アルミニウム塩水溶液(F1)を得た。
【0110】
次に、塩基性アルミニウム塩水溶液であるアルミン酸ナトリウム水溶液15.3kg(Al23として濃度22質量%)を、撹拌及び循環させ、かつ60℃に保ちながら、上記の酸性アルミニウム塩水溶液(F1)に60分かけて添加してスラリーを形成し、次いでスラリーのpHを9.5となるように調整した。得られたアルミナ主体複合酸化物水和物を60℃の純水で洗浄し、ナトリウム、硫酸根等の不純物を除去し、洗浄ケーキを得た。洗浄ケーキに純水を加えて、Al23濃度が10質量%となるように調製した後、還流器のついた熟成タンクにて95℃で3時間熟成し、さらに脱水することでケーキ状のアルミナ主体複合酸化物水和物(F)を得た。
【0111】
アルミナ主体複合酸化物水和物(D)をアルミナ主体複合酸化物水和物(F)に変更したこと以外は製造例1と同様にして、担体Fを得た。担体Fの化学組成を表1に示す。
【0112】
<製造例4:担体Gの調製>
薬液添加口2箇所を持つ循環ラインを設けたタンクに純水59.6kgを張り込み、撹拌しながら酸性アルミニウム塩水溶液である硫酸アルミニウム水溶液(Al23として濃度7質量%)20.3kgを添加し、得られた希釈水溶液を60℃に加温して循環させた。希釈水溶液のpHは2.3であった。希釈水溶液を撹拌しながら、希釈水溶液に硫酸マグネシウム水溶液(MgOとして濃度5質量%)を5.0kg添加し、酸性アルミニウム塩水溶液(G1)を得た。
【0113】
次に、塩基性アルミニウム塩水溶液であるアルミン酸ナトリウム水溶液15.2kg(Al23として濃度22質量%)を、撹拌及び循環させ、かつ60℃に保ちながら、上記の酸性アルミニウム塩水溶液(G1)に60分かけて添加してスラリーを形成し、次いでスラリーのpHを9.5となるように調整した。得られたアルミナ主体複合酸化物水和物を60℃の純水で洗浄し、ナトリウム、硫酸根等の不純物を除去し、洗浄ケーキを得た。洗浄ケーキに純水を加えて、Al23濃度が7質量%となるように調製した後、還流器のついた熟成タンクにて95℃で3時間熟成し、さらに脱水することでケーキ状のアルミナ主体複合酸化物水和物(G)を得た。
【0114】
アルミナ主体複合酸化物水和物(D)をアルミナ主体複合酸化物水和物(G)に変更したこと以外は製造例1と同様にして、担体Gを得た。担体Gの化学組成を表1に示す。
【0115】
<製造例5:担体Hの調製>
薬液添加口2箇所を持つ循環ラインを設けたタンクに純水60.9kgを張り込み、撹拌しながら酸性アルミニウム塩水溶液である硫酸アルミニウム水溶液(Al23として濃度7質量%)20.7kgを添加し、得られた酸性アルミニウム塩水溶液(H1)を60℃に加温して循環させた。希釈水溶液のpHは2.3であった。希釈水溶液を撹拌しながら、希釈水溶液にホウ酸を266g添加し、酸性アルミニウム塩水溶液(H1)を得た。
【0116】
次に、塩基性アルミニウム塩水溶液であるアルミン酸ナトリウム水溶液15.5kg(Al23として濃度22質量%)を、撹拌及び循環させ、かつ60℃に保ちながら、上記の酸性アルミニウム塩水溶液(H1)に60分かけて添加してスラリーを形成し、次いでスラリーのpHを9.5となるように調整した。得られたアルミナ水和物を60℃の純水で洗浄し、ナトリウム、硫酸根等の不純物を除去し、洗浄ケーキを得た。洗浄ケーキに純水を加えて、Al23濃度が10質量%となるように調製した後、還流器のついた熟成タンクにて95℃で3時間熟成し、さらに脱水することでケーキ状のアルミナ水和物(H)を得た。
【0117】
アルミナ主体複合酸化物水和物(D)をアルミナ主体複合酸化物水和物(H)に変更したこと以外は製造例1と同様にして、担体Hを得た。担体Hの化学組成を表1に示す。
【0118】
<製造例6:担体Iの調製>
薬液添加口2箇所を持つ循環ラインを設けたタンクに純水60.2kgを張り込み、撹拌しながら酸性アルミニウム塩水溶液である硫酸アルミニウム水溶液(Al23として濃度7質量%)19.8kgを添加し、得られた希釈水溶液を60℃に加温して循環させた。希釈水溶液のpHは2.3であった。希釈水溶液を撹拌しながら、希釈水溶液に硫酸チタニル水溶液(TiO2として濃度5質量%)を5.00kg、及びリン酸(P25濃度61.6質量%)162gを順次添加し、酸性アルミニウム塩水溶液(I1)を得た。
【0119】
次に、塩基性アルミニウム塩水溶液であるアルミン酸ナトリウム水溶液14.8kg(Al23として濃度22質量%)を、撹拌及び循環させ、かつ60℃に保ちながら、上記の酸性アルミニウム塩水溶液水溶液(I1)に60分かけて添加してスラリーを形成し、次いでスラリーのpHを9.5となるように調整した。得られたアルミナ主体複合酸化物水和物を60℃の純水で洗浄し、ナトリウム、硫酸根等の不純物を除去し、洗浄ケーキを得た。洗浄ケーキに純水を加えて、Al23濃度が8質量%となるように調製した後、還流器のついた熟成タンクにて95℃で3時間熟成し、さらに脱水することでケーキ状のアルミナ主体複合酸化物水和物(I)を得た。
【0120】
アルミナ主体複合酸化物水和物(D)をアルミナ主体複合酸化物水和物(I)に変更したこと以外は製造例1と同様にして、担体Iを得た。担体Iの化学組成を表1に示す。
【0121】
<製造例7:担体Jの調製>
薬液添加口2箇所を持つ循環ラインを設けたタンクに純水63.4kgを張り込み、撹拌しながら酸性アルミニウム塩水溶液である硫酸アルミニウム水溶液(Al23として濃度7質量%)20.5kgを添加し、得られた希釈水溶液を60℃に加温して循環させた。希釈水溶液のpHは2.3であった。希釈水溶液を撹拌しながら、希釈水溶液にリン酸(P25として濃度61.6質量%)を0.08kg添加し、酸性アルミニウム塩水溶液(J1)を得た。
【0122】
次に、塩基性アルミニウム塩水溶液であるアルミン酸ナトリウム水溶液15.3kg(Al23として濃度22質量%)を、撹拌及び循環させ、かつ60℃に保ちながら、上記の酸性アルミニウム塩水溶液(J1)に60分かけて添加した後に、シリカゾル(日揮触媒化成株式会社製カタロイドSN、SiO2濃度として20質量%)を0.75kg添加してスラリーを形成し、次いでスラリーのpHを9.5となるように調整した。得られたアルミナ主体複合酸化物水和物を60℃の純水で洗浄し、ナトリウム、硫酸根等の不純物を除去し、洗浄ケーキを得た。洗浄ケーキに純水を加えて、Al23濃度が10質量%となるように調製した後、還流器のついた熟成タンクにて95℃で3時間熟成し、さらに脱水することでケーキ状のアルミナ主体複合酸化物水和物(J)を得た。
【0123】
アルミナ主体複合酸化物水和物(D)をアルミナ主体複合酸化物水和物(J)に変更したこと以外は製造例1と同様にして、担体Jを得た。担体Jの化学組成を表1に示す。
【0124】
<比較製造例1:担体Aの調製>
スチームジャケット付タンクに純水31kgを張り込み、撹拌しながら塩基性アルミニウム塩水溶液であるアルミン酸ナトリウム水溶液(Al23として濃度22質量%)9.1kgを添加し、得られた塩基性アルミニウム塩水溶液(A1)を60℃に加温した。塩基性アルミニウム塩水溶液(A1)のpHは13であった。
【0125】
次に、上記の塩基性アルミニウム塩水溶液(A1)に、酸性アルミニウム塩水溶液である硫酸アルミニウム水溶液40kg(Al23として濃度2.5質量%)を、得られる水溶液のpHが7.2となるまでローラーポンプを用いて一定速度で添加(添加時間:10分)した。得られたアルミナ水和物を60℃の純水で洗浄し、ナトリウム、硫酸根等の不純物を除去し、洗浄ケーキを得た。洗浄後のケーキ状のスラリーをAl23濃度換算で10質量%となるようにイオン交換水で希釈した後、15質量%アンモニア水でpHを10.5に調整した。これを還流器のついた熟成タンクにて95℃で10時間熟成したのちに、さらに脱水することでケーキ状のアルミナ水和物(A)を得た。
【0126】
アルミナ主体複合酸化物水和物(D)をアルミナ水和物(A)に変更したこと以外は製造例1と同様にして、担体Aを得た。担体Aの化学組成を表1に示す。
【0127】
<比較製造例2:担体Bの調製>
薬液添加口2箇所を持つ循環ラインを設けたタンクに純水62.7kgを張り込み、撹拌しながら酸性アルミニウム塩水溶液である硫酸アルミニウム水溶液(Al23として濃度7質量%)21.3kgを添加し、得られた酸性アルミニウム塩水溶液(B1)を60℃に加温して循環させた。酸性アルミニウム塩水溶液(B1)のpHは2.3であった。
【0128】
次に、塩基性アルミニウム塩水溶液であるアルミン酸ナトリウム水溶液15.9kg(Al23として濃度22質量%)を、撹拌及び循環させ、かつ60℃に保ちながら、上記の酸性アルミニウム塩水溶液(B1)に60分かけて添加し、アルミナ水和物(B)を得た。アルミン酸ナトリウム水溶液の添加後に、スラリーのpHを9.5となるように調整した。得られたアルミナ水和物を60℃の純水で洗浄し、ナトリウム、硫酸根等の不純物を除去し、洗浄ケーキを得た。洗浄ケーキに純水を加えて、Al23濃度が10質量%となるように調製した後、還流器のついた熟成タンクにて95℃で3時間熟成し、さらに脱水することでケーキ状のアルミナ水和物(B)を得た。
【0129】
アルミナ水和物(A)をアルミナ水和物(B)に変更したこと以外は比較製造例1と同様にして、担体Bを得た。担体Bの化学組成を表1に示す。
【0130】
<比較製造例3:担体Cの調製>
スチームジャケット付タンクに純水31kgを張り込み、撹拌しながら塩基性アルミニウム塩水溶液であるアルミン酸ナトリウム水溶液(Al23として濃度22質量%)8.2kgを添加し、得られた希釈水溶液を60℃に加温した。希釈水溶液のpHは13であった。希釈水溶液を撹拌しながら、希釈水溶液に硫酸チタニル水溶液(TiO2として濃度5質量%)を3.00kg、及びケイ酸ナトリウム水溶液(SiO2として濃度24質量%)0.63kgを順次添加し、次いで酸性アルミニウム塩水溶液である硫酸アルミニウム水溶液36.0kg(Al23として濃度2.5質量%)を、得られる水溶液のpHが7.2となるまでローラーポンプを用いて一定速度で添加(添加時間:10分)した。
【0131】
得られたアルミナ主体複合酸化物水和物を60℃の純水で洗浄し、ナトリウム、硫酸根等の不純物を除去し、洗浄ケーキを得た。洗浄後のケーキ状のスラリーをAl23濃度換算で10質量%となるようにイオン交換水で希釈した後、15質量%アンモニア水でpHを10.5に調整した。これを還流器のついた熟成タンクにて95℃で10時間熟成したのちに、さらに脱水することでケーキ状のアルミナ主体複合酸化物水和物(C)を得た。
【0132】
アルミナ水和物(A)をアルミナ主体複合酸化物水和物(C)に変更したこと以外は比較製造例1と同様にして、担体Cを得た。担体Cの化学組成を表1に示す。
【0133】
<含浸液の調製>
含浸液aの調製
三酸化モリブデン73.2gと炭酸ニッケル33.3gを、イオン交換水350mlに懸濁させ、この懸濁液を90℃で5時間液容量が減少しないように適当な還流装置を施して加熱した後、リン酸29.7gとクエン酸27.4gを加えて溶解させ、含浸液aを作製した。
【0134】
含浸液bの調製
炭酸ニッケルを、炭酸コバルト33.3gに変更した以外は、含浸液aの調製法と同様にして、含浸液bを作製した。
【0135】
含浸液cの調製
炭酸ニッケルを、炭酸コバルト19.9gと炭酸ニッケル11.1gに変更した以外は、含浸液aの調製法と同様にして、含浸液cを作製した。
【0136】
含浸液dの調製
炭酸ニッケルを、炭酸コバルト10.0gと炭酸ニッケル22.2gに変更した以外は、含浸液aの調製法と同様にして、含浸液dを作製した。
【0137】
含浸液eの調製
三酸化モリブデン45.5gと炭酸ニッケル20.7gをイオン交換水350mlに懸濁させ、この懸濁液を90℃で5時間液容量が減少しないように適当な還流装置を施して加熱した後、リン酸18.5gとクエン酸17.1gを加えて溶解させ、含浸液eを作製した。
【0138】
含浸液fの調製
三酸化モリブデン96.9gと炭酸ニッケル44.6gをイオン交換水350mlに懸濁させ、この懸濁液を90℃で5時間液容量が減少しないように適当な還流装置を施して加熱した後、リン酸39.9gとクエン酸36.8gを加えて溶解させ、含浸液fを作製した。
【0139】
<比較例1:水素化脱硫触媒(1)の調製>
500gの担体Aに担体の全細孔容積と同容量となるように純水を適量添加した含浸液aを噴霧含浸させた後、250℃で乾燥し、更に電気炉にて550℃で1時間焼成して脱硫触媒(1)(以下、単に「触媒(1)」ともいう。以下の実施例についても同様である。)を得た。
【0140】
<比較例2~6および実施例1~12:水素化脱硫触媒(2)~(18)の調製>
前述のようにして調製した担体と含浸液とを、表1~3に記載のように組み合わせたこと以外は比較例1と同様にして、触媒(2)~(18)を調製した。
【0141】
<触媒の性能評価>
市販の脱メタル触媒、トランジション触媒、脱硫触媒、及び実施例触媒又は比較例触媒を固定床流通式反応装置(触媒充填容積350ml)に以下の順番に充填した。
市販の脱メタル触媒CDS-RS110(日揮触媒化成株式会社製)を35ml
市販の脱メタル触媒CDS-RS210(日揮触媒化成株式会社製)を35ml、
市販のトランジション触媒CDS-RS420(日揮触媒化成株式会社製)を70ml、
市販の脱硫触媒CDS-R38C(日揮触媒化成株式会社製)を105ml、
実施例触媒又は比較例触媒を105ml。
【0142】
充填した触媒に対し、触媒に含まれている酸素原子を脱離させて活性化するために、予備硫化処理した。この処理は、常法により、すなわち硫黄化合物を含む液体または気体を200~400℃の温度、常圧~100MPaの水素圧雰囲気下の管理された反応容器中で流通させることによって行った。
【0143】
固定床流通式反応装置内に、重質油(15℃における密度0.9741g/cm3、硫黄分:4.06質量%、メタル(Ni+V)分:85.1質量ppm、窒素分:2075質量ppm、アスファルテン分:4.2質量%、残留炭素分:10.7質量%)を導入して水素化処理を行なった。その際の反応条件は、水素分圧が13.5MPa、液空間速度が0.3h-1、水素油比が800Nm3/klであった。そして反応温度を360~380℃の範囲で変化させ、最終的に得られる生成油中の硫黄分、窒素分、残留炭素分の分析を行った。
【0144】
活性試験では、アレニウスプロットより反応速度定数を求め、反応温度370℃における脱硫触媒部に触媒(1)を充填した評価結果の反応速度定数を100%とし、他の触媒を脱硫触媒部に充填した際の370℃における脱硫活性、脱窒素活性および脱残炭活性(相対活性)を算出した。反応速度定数は、下記(1)式に基づいて求めた。
【0145】
n=LHSV×1/(n-1)×(1/Pn-1-1/Fn-1) …(1)
ここで、
n:反応速度定数
n:脱硫反応速度、脱窒素反応速度または脱残炭反応速度が、それぞれ原料油の硫黄、窒素または残炭の濃度の何乗に比例するか(脱硫反応ではn=2.0、脱窒素反応ではn=1.0、脱残炭反応ではn=1.0)
P:処理油中の硫黄濃度(質量%)、窒素濃度(質量%)または残留炭素分濃度(質量%)
F:原料油中の硫黄濃度(質量%)、窒素濃度(質量%)または残留炭素分濃度(質量%)
LHSV:液空間速度(hr-1
である。
【0146】
結果を表1~3に示す。比較例の触媒(1)は、アルミナのみからなる担体を用いた比較例であるが、値Aより低い還元ピーク温度を示しており、本発明の触媒と同様の細孔特性を有しているものの、触媒活性が優れなかった。
【0147】
触媒(2)は、モリブデンとコバルトを金属成分として含んでおり、アルミナのみからなる担体を用いた比較例である。同等の金属成分量であり値Aよりも高い還元ピーク温度を示している実施例の触媒(14)と比較すると、触媒活性が劣っていた。
【0148】
比較例の触媒(3)は、担体成分がアルミナ単独であり、値Aより低い還元ピーク温度を示しており、また本発明の触媒と異なる細孔特性を有しており、触媒活性が優れなかった。
【0149】
比較例の触媒(4)は、担体はアルミナ-チタニア-シリカ複合酸化物からなり、本発明同様の細孔特性を有するが、値Aより低い還元ピーク温度を示し、触媒活性が優れなかった。
【0150】
触媒(9)と(13)は、どちらも化学組成はほぼ同等であるが、触媒(9)はケイ酸ナトリウムを用いて調製しており、触媒(13)はシリカゾルを用いて調製しているため、シリカ成分の存在状態が異なっているものと考えられる。しかし、触媒(9)と(13)のどちらも、値Aよりも高い還元ピーク温度を示しており、その他物性も本発明に開示される範囲内であり、優れた触媒活性を示した。
【0151】
他のいずれの実施例の触媒も高い脱硫、脱窒素、脱残炭活性を示した。
表2及び表3では、活性金属量を変動させた場合の触媒活性を比較している。
触媒(5)は、金属成分量が少ない比較例であるが、担体成分がアルミナ単独であり、還元ピーク温度が値Aよりも低かった。一方で、触媒(5)と同量の金属成分量であるが担体として複合酸化物担体が用いられ、還元ピーク温度が値Aよりも高い実施例の触媒(17)は、触媒(5)よりも優れた触媒性能を示した。
【0152】
また、触媒(6)及び(18)の比較から、金属成分量が多い場合でも同様に、還元ピーク温度が値Aよりも高い場合に優れた触媒活性を示すことが分かる。
【0153】
【表1-1】
【0154】
【表1-2】
【0155】
【表2】
【0156】
【表3】
図1