(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022074946
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】電解質、蓄電素子、及び電解質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0565 20100101AFI20220511BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220511BHJP
H01M 4/40 20060101ALI20220511BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20220511BHJP
H01G 11/56 20130101ALI20220511BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01M10/052
H01M4/40
H01B1/06 A
H01G11/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020185401
(22)【出願日】2020-11-05
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 栄人
【テーマコード(参考)】
5E078
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA08
5E078AB01
5E078DA12
5G301CA30
5G301CD01
5H029AJ05
5H029AJ07
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5H050AA07
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5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
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5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050GA10
5H050HA18
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高分子を含む電解質であって、耐酸化性が良好な電解質、このような電解質を用いた蓄電素子、及びこのような電解質の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の一態様は、高分子鎖の主鎖末端及び側鎖末端の少なくともいずれかにヒドロキシ基を有する高分子と、オキサラトボレート塩との双方又はこれらの反応生成物を含む電解質である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子鎖の主鎖末端及び側鎖末端の少なくともいずれかにヒドロキシ基を有する高分子と、オキサラトボレート塩との双方又はこれらの反応生成物を含む電解質。
【請求項2】
固体電解質である請求項1に記載の電解質。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電解質を備える蓄電素子。
【請求項4】
通常使用時の充電終止電圧における正極電位が4.5V vs.Li/Li+以上である請求項3に記載の蓄電素子。
【請求項5】
金属リチウムを有する負極をさらに備える請求項3又は請求項4に記載の蓄電素子。
【請求項6】
高分子鎖の主鎖末端及び側鎖末端の少なくともいずれかにヒドロキシ基を有する高分子と、オキサラトボレート塩とを混合することを備える電解質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質、蓄電素子、及び電解質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記リチウムイオン二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間でリチウムイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、リチウムイオン二次電池以外の蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
近年、電解質として、有機溶媒等の液体に電解質塩が溶解された電解液に替えて、ポリエチレンオキシド、ポリカーボネート等の高分子材料を用いた電解質も注目されている。特許文献1には、脂肪族ポリカーボネートとリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドとを含有する高分子電解質材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような従来の高分子電解質は、耐酸化性に劣る。このため、従来の高分子電解質は、酸化還元電位が高い正極活物質が用いられた蓄電素子への適用が困難である。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、高分子を含む電解質であって、耐酸化性が良好な電解質、このような電解質を用いた蓄電素子、及びこのような電解質の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、高分子鎖の主鎖末端及び側鎖末端の少なくともいずれかにヒドロキシ基を有する高分子と、オキサラトボレート塩との双方又はこれらの反応生成物を含む電解質である。
【0008】
本発明の他の一態様は、本発明の一態様に係る電解質を備える蓄電素子である。
【0009】
本発明の他の一態様は、高分子鎖の主鎖末端及び側鎖末端の少なくともいずれかにヒドロキシ基を有する高分子と、オキサラトボレート塩とを混合することを備える電解質の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、高分子を含む電解質であって、耐酸化性が良好な電解質、このような電解質を用いた蓄電素子、及びこのような電解質の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る蓄電素子(全固体電池)の模式的断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
はじめに、本明細書によって開示される電解質、蓄電素子、及び電解質の製造方法の概要について説明する。
【0013】
本発明の一実施形態に係る電解質は、高分子鎖の主鎖末端及び側鎖末端の少なくともいずれかにヒドロキシ基を有する高分子と、オキサラトボレート塩との双方又はこれらの反応生成物を含む電解質である。
【0014】
本発明の一実施形態に係る電解質は、高分子を含む電解質であって、耐酸化性が良好である。このため、当該電解質は、酸化還元電位が高い正極活物質が用いられた蓄電素子への適用も可能である。当該電解質の耐酸化性が良好である理由は定かではないが、以下の理由が推測される。従来の高分子電解質が耐酸化性に劣る理由の一つとして、ポリエチレンオキシド等の高分子鎖の主鎖末端又は側鎖末端のヒドロキシ基の存在が挙げられる。これに対し、本発明の一実施形態に係る電解質においては、高分子が有するヒドロキシ基がオキサラトボレート塩と反応してホウ酸エステル化している、すなわちヒドロキシ基が保護されることにより耐酸化性が向上していると推測される。具体的には、例えばオキサラトボレートアニオンの一例であるジフルオロオキサラトボレートアニオン(DFOB)の場合、電解質中において下記式(1)で表される平衡状態で存在し、下記式(2)で表されるように高分子(III)の主鎖末端又は側鎖末端のヒドロキシ基との反応が生じると考えられる。
【0015】
【化1】
式(2)中の(III)は、高分子鎖の主鎖末端にヒドロキシ基を有する高分子を模式的に表している。
【0016】
本発明の一実施形態に係る電解質は、固体電解質であることが好ましい。固体電解質は、例えば金属リチウムを有する負極を備える蓄電素子に適用した場合、負極表面における金属リチウムの樹枝状の析出(以下、樹枝状の形態をした金属リチウムを「デンドライト」という。)を効果的に抑制できるなどといった利点を有する。従って、当該電解質は、固体電解質の形態で好適に用いることができる。
【0017】
なお、「固体電解質」とは、実質的に固体成分のみから構成されている電解質をいう。固体成分とは、20℃において固体である成分をいう。電解質が実質的に固体成分のみから構成されているとは、電解質における固体成分の含有割合が99質量%以上であることをいう。
【0018】
本発明の一実施形態に係る蓄電素子は、本発明の一実施形態に係る電解質を備える蓄電素子である。当該蓄電素子は、耐酸化性が良好な電解質を備えるため、例えば酸化還元電位が高い正極活物質が用いられている場合であっても良好な充放電性能が発揮される。
【0019】
本発明の一実施形態に係る蓄電素子においては、通常使用時の充電終止電圧における正極電位が4.5V vs.Li/Li+以上であることが好ましい。当該蓄電素子は、耐酸化性が良好な電解質を備えるため、このように充電終止電圧における正極電位が高い使用形態であっても良好な充放電性能が発揮され、高いエネルギー密度を有する蓄電素子として利用できる。
【0020】
なお、「通常使用時」とは、当該蓄電素子について推奨され、又は指定される充放電条件を採用して当該蓄電素子を使用する場合であり、当該蓄電素子のための充電器が用意されている場合は、その充電器を適用して当該蓄電素子を使用する場合をいう。
【0021】
本発明の一実施形態に係る蓄電素子は、金属リチウムを有する負極をさらに備えることが好ましい。当該蓄電素子の負極が金属リチウムを含む場合、当該蓄電素子のエネルギー密度が高まる。
【0022】
本発明の一実施形態に係る電解質の製造方法は、高分子鎖の主鎖末端及び側鎖末端の少なくともいずれかにヒドロキシ基を有する高分子と、オキサラトボレート塩とを混合することを備える電解質の製造方法である。
【0023】
当該製造方法によれば、高分子を含む電解質であって、耐酸化性が良好な電解質を製造することができる。
【0024】
以下、本発明の一実施形態に係る電解質、電解質の製造方法、及び蓄電素子を順に詳説する。
【0025】
<電解質>
本発明の一実施形態に係る電解質は、高分子鎖の主鎖末端及び側鎖末端の少なくともいずれかにヒドロキシ基を有する高分子(A)と、オキサラトボレート塩(B)との双方又はこれらの反応生成物を含む。上記したように、当該電解質中においてオキサラトボレート塩(B)の少なくとも一部は、高分子(A)のヒドロキシ基と反応していると推測される。高分子(A)のヒドロキシ基の全て、又はオキサラトボレート塩(B)の全てが反応していてもよい。このような電解質の形態においては、高分子(A)とオキサラトボレート塩(B)との双方は含まれていないが、少なくとも高分子(A)とオキサラトボレート塩(B)との反応生成物が含まれることとなる。本発明の一実施形態に係る電解質は、高分子(A)、オキサラトボレート塩(B)及びこれらの反応生成物の三種を含んでいてもよい。また、上記反応生成物は、上記のように高分子(A)のヒドロキシ基がホウ酸エステル化された状態の高分子、換言すれば、高分子(A)のヒドロキシ基がオキサラトボレート塩(B)により保護された状態の高分子であると推測される。
【0026】
(高分子(A))
高分子(A)は、高分子鎖の主鎖末端及び側鎖末端の少なくともいずれかにヒドロキシ基を有する高分子である。
【0027】
高分子鎖の主鎖末端にヒドロキシ基を有する高分子としては、例えば下記式(3)で表される単量体単位を有する脂肪族ポリカーボネート(ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート等)、下記式(4)で表される単量体単位を有するポリアルキレンオキシド(ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等)等が挙げられる。例えば下記式(3)又は式(4)で表される単量体単位の末端酸素原子に水素原子が結合することで、高分子鎖の主鎖末端にヒドロキシ基が存在することとなる。
【0028】
【0029】
式(3)及び式(4)中、R1からR4は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1から10の炭化水素基である。
【0030】
炭素数1から10の炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基のいずれであってもよいが、脂肪族炭化水素基が好ましい。脂肪族炭化水素基としては、鎖状脂肪族炭化水素基及び脂環式炭化水素基のいずれであってもよいが、鎖状脂肪族炭化水素基が好ましく、アルキル基がより好ましい。これらの炭化水素基の炭素数としては、1から6が好ましく、1又は2がより好ましい。
【0031】
上記R1としては、水素原子が好ましい。
上記R2としては、水素原子又はメチル基が好ましい。
上記R3としては、水素原子が好ましい。
上記R4としては、水素原子又はメチル基が好ましい。
【0032】
脂肪族ポリカーボネートの合成に関し、例えば二酸化炭素とアルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシド等)とを交互共重合させることにより、高分子鎖の主鎖の両末端にヒドロキシ基を有する脂肪族ポリカーボネート(ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート等)を合成することができる。また、環状カーボネート(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等)を開環重合させることにより、高分子鎖の主鎖の少なくともいずれかの末端にヒドロキシ基を有する脂肪族ポリカーボネートを合成することができる。
【0033】
ポリアルキレンオキシドの合成に関し、例えばアルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシド等)を開環重合させることにより、高分子鎖の主鎖の少なくともいずれかの末端にヒドロキシ基を有するポリアルキレンオキシド(ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等)を合成することができる。
【0034】
高分子鎖の側鎖末端にヒドロキシ基を有する高分子としては、例えば(メタ)アクリル酸に由来する単量体単位を有する重合体等を挙げることができる。高分子鎖の側鎖末端にヒドロキシ基を有する高分子は、ヒドロキシ基を有するモノマーを単独で重合させること、又は他のモノマーと共重合させることなどにより合成することができる。
【0035】
高分子(A)の数平均分子量としては、例えば1,000以上10,000,000以下が好ましく、10,000以上1,000,000以下がより好ましく、20,000以上200,000以下がさらに好ましい場合もある。高分子(A)の数平均分子量が上記下限以上であることにより、当該電解質の耐酸化性をより良好にすることなどができる。一方、高分子(A)の数平均分子量が上記上限以下であることにより、室温におけるイオン伝導度を高めることに加えて、取扱性、成形性等を高めることなどができる。
【0036】
高分子(A)は、1種又は2種以上を使用することができる。また、高分子(A)は、市販品を使用することができる。
【0037】
(オキサラトボレート塩(B))
オキサラトボレート塩(B)としては、ビスオキサラトボレート塩、ジフルオロオキサラトボレート塩等が挙げられる。オキサラトボレート塩(B)は、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等であってよく、リチウム塩が好ましい。好適なオキサラトボレート塩(B)の具体例としては、リチウムビスオキサラトボレート及びリチウムジフルオロオキサラトボレート等が挙げられる。オキサラトボレート塩(B)は、1種又は2種以上を使用することができる。
【0038】
当該電解質におけるオキサラトボレート塩(B)の含有量としては特に限定されないが、高分子(A)の単量体単位に対して1mol%以上100mol%以下が好ましく、10mol%以上60mol%以下がより好ましく、20mol%以上50mol%以下がさらに好ましく、30mol%以上40mol%以下がよりさらに好ましい。このように、電解質におけるオキサラトボレート塩(B)の含有量を比較的多くすることで、高分子(A)が有するヒドロキシ基を十分にホウ酸エステル化することができるなどの理由により、当該電解質の耐酸化性をより良好にすることができる。なお、上記オキサラトボレート塩(B)の含有量(mol%)とは、高分子(A)を構成する全ての単量体単位の物質量(モル数)に対する、オキサラトボレート塩(B)の物質量(モル数)の比を百分率で表したものである。
【0039】
当該電解質における、高分子(A)、オキサラトボレート塩(B)、及びこれらの反応生成物の合計含有量の下限としては、例えば10質量%が好ましく、20質量%がより好ましく、30質量%、40質量%、50質量%、60質量%、70質量%、80質量%、90質量%、95質量%又は99質量%がさらに好ましい場合がある。このような組成とすることで、当該電解質の耐酸化性がより良好になる傾向にある。当該電解質における、高分子(A)、オキサラトボレート塩(B)、及びこれらの反応生成物の合計含有量は、実質的に100質量%であってもよい。
【0040】
(その他の成分等)
当該電解質は、高分子(A)、オキサラトボレート塩(B)、及びこれらの反応生成物以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0041】
他の成分としては、高分子(A)以外の高分子、オキサラトボレート塩(B)以外の電解質塩、非水溶媒、その他の添加剤等が挙げられる。
【0042】
高分子(A)以外の高分子としては、ポリアクリロニトリル、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフェニレンスルフィド等が挙げられる。但し、変性等によって主鎖末端又は側鎖末端にヒドロキシ基が導入された高分子は、高分子(A)に該当する。当該電解質における高分子(A)以外の高分子の含有量は、高分子(A)に対して、50質量%以下が好ましい場合があり、10質量%以下、さらには1質量%以下がより好ましい場合がある。
【0043】
オキサラトボレート塩(B)以外の電解質塩としては、LiPF6、LiPO2F2、LiBF4、LiClO4、LiN(SO2F)2、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3、LiC(SO2C2F5)3等が挙げられる。当該電解質におけるオキサラトボレート塩(B)以外の電解質塩の含有量は、オキサラトボレート塩(B)に対して、50mol%以下が好ましい場合があり、10mol%以下、さらには1mol%以下がより好ましい場合がある。
【0044】
非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、カルボン酸エステル、リン酸エステル、スルホン酸エステル、エーテル、アミド、ニトリル等が挙げられる。当該電解質における非水溶媒の含有量は、90質量%以下が好ましい場合があり、80質量%以下がより好ましい場合があり、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、10質量%以下又は1質量%以下がさらに好ましい場合がある。
【0045】
その他の添加剤としては、一般的な蓄電素子の電解質に添加される従来公知の各種添加剤を用いることができる。当該電解質におけるその他の添加剤の含有量は、例えば0.01質量%以上10質量%以下とすることができ、7質量%以下、3質量%以下又は1質量%以下であってもよい。
【0046】
当該電解質における固体成分の含有割合の下限は、例えば10質量%、20質量%、30質量%、40質量%、50質量%、60質量%、70質量%、80質量%、90質量%又は95質量%であってもよいが、99質量%が好ましく、99.9質量%がより好ましい。当該電解質における固体成分の含有割合は、100質量%であってよい。当該電解質は、固体電解質であることが好ましい。当該電解質が固体電解質である場合、例えば金属リチウムを有する負極を備える蓄電素子に適用したときの、負極表面におけるデンドライトの析出を抑制することなどができる。一方、当該電解質は、上記非水溶媒等が十分な量含有されたゲル状の形態等で使用されてもよい。
【0047】
当該電解質は、リチウムイオン二次電池等の蓄電素子、中でもリチウム電池の電解質として好適に用いることができる。また、当該電解質は、全固体電池の電解質として特に好適に用いることができる。なお、当該電解質は、蓄電素子における正極層、隔離層、負極層等のいずれにも用いることができる。
【0048】
<電解質の製造方法>
本発明の一実施形態に係る電解質の製造方法は特に限定されないが、以下の方法が好ましい。すなわち、本発明の一実施形態に係る電解質の製造方法は、高分子鎖の主鎖末端及び側鎖末端の少なくともいずれかにヒドロキシ基を有する高分子(A)と、オキサラトボレート塩(B)とを混合することを備える。
【0049】
この高分子(A)とオキサラトボレート塩(B)との混合方法は特に限定されない。この混合は、例えば高分子(A)を溶融させた加熱下で行ってもよく、高分子(A)及びオキサラトボレート塩(B)を溶媒中に溶解させた状態で行ってもよい。溶媒中で混合した場合、混合後溶媒を除去することで、固体電解質としての電解質が得られる。この混合の際には、必要に応じて他の成分をさらに混合させることができる。また、混合後に、得られた電解質を所定の形状に成形してもよい。
【0050】
上記混合の際に、高分子(A)とオキサラトボレート塩(B)とを反応させて、反応生成物を生成させてもよい。すなわち、このような混合工程を経ることで、高分子鎖の主鎖末端及び側鎖末端の少なくともいずれかにヒドロキシ基を有する高分子(A)と、オキサラトボレート塩(B)との双方又はこれらの反応生成物を含む電解質が得られる。
【0051】
<蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子として、以下、全固体電池を具体例に挙げて説明する。
図1の蓄電素子10は、全固体電池であり、正極層1(正極)と負極層2(負極)とが隔離層3を介して配置された二次電池である。正極層1は、正極基材4及び正極活物質層5を有し、正極基材4が正極層1の最外層となる。負極層2は、負極基材7及び負極活物質層6を有し、負極基材7が負極層2の最外層となる。
図1に示す蓄電素子10においては、負極基材7上に、負極活物質層6、隔離層3、正極活物質層5及び正極基材4がこの順で積層されている。
【0052】
蓄電素子10は、正極層1、負極層2及び隔離層3の少なくとも1つに、本発明の一実施形態に係る電解質を含有する。より具体的には、正極活物質層5、負極活物質層6及び隔離層3の少なくとも1つに、本発明の一実施形態に係る電解質が含有されている。本発明の一実施形態に係る電解質は、耐酸化性が良好であるため、正極活物質層5及び隔離層3の少なくとも1つに本発明の一実施形態に係る電解質が含有されていることが好ましい。
【0053】
蓄電素子10においては、本発明の一実施形態に係る電解質以外のその他の固体電解質を併せて用いるようにしてもよい。その他の固体電解質としては、硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質、本発明の一実施形態に係る電解質以外の高分子電解質等を挙げることができる。また、蓄電素子10における一つの層中に異なる複数種の固体電解質が含有されていてもよく、層毎に異なる固体電解質が含有されていてもよい。
【0054】
[正極層]
正極層1は、正極基材4と、この正極基材4の表面に積層される正極活物質層5とを備える。正極層1は、正極基材4と正極活物質層5との間に中間層を有していてもよい。
【0055】
(正極基材)
正極基材4は、導電性を有する。「導電性」を有するとは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が107Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、上記体積抵抗率が107Ω・cm超であることを意味する。正極基材4の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、インジウム、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材4としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材4としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)又はJIS-H4160(2006年)に規定されるA1085P、A3003P、A1N30等が例示できる。
【0056】
正極基材4の平均厚さは、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上40μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましく、10μm以上25μm以下が特に好ましい。正極基材4の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極基材4の強度を高めつつ、蓄電素子10の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。正極基材4及び後述する負極基材7の「平均厚さ」とは、所定の面積の基材の質量を、基材の真密度及び面積で除した値をいう。
【0057】
中間層は、正極基材4と正極活物質層5との間に配される層である。中間層は、炭素粒子等の導電剤を含むことで正極基材4と正極活物質層5との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば、樹脂バインダー及び導電剤を含む。
【0058】
(正極活物質層)
正極活物質層5は、正極活物質を含む。正極活物質層5は、正極活物質を含むいわゆる正極合剤から形成することができる。正極活物質層5は、必要に応じて、固体電解質、導電剤、バインダー、増粘剤、フィラー等の任意成分を含んでいてよい。これらの各任意成分の1種又は2種以上は、正極活物質層5に実質的に含有されていなくてもよい。
【0059】
正極活物質層5に含まれる正極活物質としては、リチウムイオン二次電池や全固体電池に通常用いられる公知の正極活物質の中から適宜選択できる。上記正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。例えば、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LixNi1-x]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγCo(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixNiγMnβCo(1-x-γ-β]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、LixMn2O4、LixNiγMn(2-γ)O4等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4、Li3V2(PO4)3、Li2MnSiO4、Li2CoPO4F等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。正極活物質は、表面がニオブ酸リチウム、チタン酸リチウム、リン酸リチウム等の化合物で被覆されていてもよい。正極活物質層においては、これら正極活物質の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0060】
正極活物質としては、α-NaFeO2型結晶構造又はスピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、及びニッケル、コバルト又はマンガンを含むポリアニオン化合物(LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4、Li2MnSiO4、Li2CoPO4F等)が好ましく、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物がより好ましい。α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物の中でも、遷移金属としてニッケル、コバルト及びマンガンのうちの1種又は2種以上を含むものがより好ましい。これらの正極活物質は酸化還元電位が特に高く、このような正極活物質を用いることで、二次電池のエネルギー密度等を高めることができる。また、蓄電素子10には、本発明の一実施形態に係る耐酸化性が良好な電解質が用いられているため、酸化還元電位が高いこれらの正極活物質を用いた場合も、良好な充放電性能を持続させることができる。
【0061】
正極活物質の平均粒径は、例えば、0.1μm以上20μm以下とすることが好ましい。正極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、正極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。正極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、正極活物質層5の導電性が向上する。ここで、「平均粒径」とは、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0062】
粒子を所定の形状で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェトミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0063】
正極活物質層5における正極活物質の含有量としては、10質量%以上95質量%以下が好ましく、30質量%以上、さらには50質量%以上がより好ましい。正極活物質の含有量を上記範囲とすることで、蓄電素子10の電気容量を大きくすることができる。
【0064】
正極活物質層5が固体電解質を含有する場合、固体電解質の含有量としては、10質量%以上90質量%以下が好ましく、20質量%以上70質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましい場合もある。固体電解質の含有量を上記範囲とすることで、蓄電素子10の電気容量を大きくすることができる。正極活物質層5に本発明の一実施形態に係る電解質を用いる場合、正極活物質層5中の全固体電解質に対する本発明の一実施形態に係る電解質の含有量としては、50質量%以上が好ましく、70質量以上%がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、実質的に100質量%であることがよりさらに好ましい。正極活物質層5中において、正極活物質と固体電解質とは複合体を形成していてもよい。
【0065】
導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛、非黒鉛質炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電剤としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。これらの中でも、導電性及び塗工性の観点よりカーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。
【0066】
正極活物質層5における導電剤の含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。導電剤の含有量を上記範囲とすることで、蓄電素子10の電気容量を大きくすることができる。
【0067】
バインダーとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリ(メタ)アクリルアミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0068】
正極活物質層5におけるバインダーの含有量は1質量%以上10質量%が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。バインダーの含有量を上記範囲とすることで、活物質を安定して保持することができる。
【0069】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。
【0070】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。
【0071】
正極活物質層5は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を正極活物質、固体電解質、導電剤、バインダー、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0072】
正極活物質層5の平均厚さとしては、30μm以上1,000μm以下が好ましく、60μm以上500μm以下がより好ましい。正極活物質層5の平均厚さを上記下限以上とすることで、高いエネルギー密度を有する蓄電素子10を得ることができる。正極活物質層5の平均厚さを上記上限以下とすることで、蓄電素子10の小型化を図ることなどができる。正極活物質層5の平均厚さは、任意の5ヶ所で測定した厚さの平均値とする。後述する負極活物質層6及び隔離層3の平均厚さも同様である。
【0073】
[負極層]
負極層2は、負極基材7と、当該負極基材7に直接又は中間層を介して配される負極活物質層6とを有する。中間層の構成は特に限定されず、例えば正極層1で例示した構成から選択することができる。
【0074】
(負極基材)
負極基材7は、導電性を有する。負極基材7の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、アルミニウム等の金属又はこれらの合金、炭素質材料等が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。負極基材としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0075】
負極基材7の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極基材7の平均厚さを上記下限以上とすることで、負極基材7の強度を高めることができる。負極基材7の平均厚さを上記上限以下とすることで、蓄電素子10の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0076】
(負極活物質層)
負極活物質層6は、負極活物質を含む。負極活物質層6は、例えば、負極活物質を含むいわゆる負極合剤から形成することができる。負極活物質層6は、必要に応じて、固体電解質、導電剤、バインダー、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。これらの負極活物質層6における任意成分の種類及び好適な含有量は、上述した正極活物質層5の各任意成分と同様である。これらの各任意成分の1種又は2種以上は、負極活物質層6に実質的に含有されていなくてもよい。
【0077】
負極活物質層6は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を負極活物質、固体電解質、導電剤、バインダー、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0078】
負極活物質としては、リチウムイオン二次電池や全固体電池に通常用いられる公知の負極活物質の中から適宜選択できる。上記負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。負極活物質としては、例えば、金属Li;Si、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Ti酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;Li4Ti5O12、LiTiO2、TiNb2O7等のチタン含有酸化物;ポリリン酸化合物;炭化ケイ素;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。負極活物質層6においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0079】
「黒鉛」とは、充放電前又は放電状態において、エックス線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。安定した物性の材料を入手できるという観点で、人造黒鉛が好ましい。
【0080】
「非黒鉛質炭素」とは、充放電前又は放電状態においてエックス線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.34nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。非黒鉛質炭素としては、難黒鉛化性炭素や、易黒鉛化性炭素が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、例えば、樹脂由来の材料、石油ピッチ由来の材料、アルコール由来の材料等が挙げられる。
【0081】
ここで、「放電状態」とは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されるように放電された状態を意味する。例えば、負極活物質として炭素材料を含む負極を作用極として、金属Liを対極として用いた単極電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態である。
【0082】
「難黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.36nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。
【0083】
「易黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.34nm以上0.36nm未満の炭素材料をいう。
【0084】
負極活物質としては、金属リチウムが好ましい。金属リチウムは、実質的にリチウムのみからなる純金属リチウムとして存在してもよいし、他の金属元素を含むリチウム合金として存在してもよい。リチウム合金としては、リチウム銀合金、リチウム亜鉛合金、リチウムカルシウム合金、リチウムアルミニウム合金、リチウムマグネシウム合金、リチウムインジウム合金等が挙げられる。リチウム合金は、リチウム以外の複数の金属元素を含有していてもよい。
【0085】
負極活物質層6は、実質的に金属リチウムのみからなる層であってもよい。負極活物質層6におけるリチウムの含有量は、90質量%以上であってもよく、99質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。負極活物質層6は、金属リチウム箔又はリチウム合金箔であってもよい。
【0086】
負極活物質は、粒子(粉体)であってもよい。負極活物質の平均粒径は、例えば、1nm以上100μm以下とすることができる。負極活物質が例えば炭素材料である場合、その平均粒径は1μm以上100μm以下が好ましい場合がある。負極活物質が、金属、半金属、金属酸化物、半金属酸化物、チタン含有酸化物、ポリリン酸化合物等である場合、その平均粒径は、1nm以上1μm以下が好ましい場合がある。負極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、負極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。負極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、活物質層の導電性が向上する。粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法及び粉級方法は、例えば、正極層1で例示した方法から選択できる。
【0087】
負極活物質層6における負極活物質の含有量としては、10質量%以上95質量%以下であってよく、30質量%以上、さらには50質量%以上がより好ましい。負極活物質の含有割合を高めることで、蓄電素子10の電気容量を大きくすることができる。
【0088】
負極活物質層6が固体電解質を含有する場合、固体電解質の含有量としては、10質量%以上90質量%以下が好ましく、20質量%以上70質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましい場合もある。固体電解質の含有量を上記範囲とすることで、当該蓄電素子10の電気容量を大きくすることができる。負極活物質層6に本発明の一実施形態に係る電解質を用いる場合、負極活物質層6中の全固体電解質に対する本発明の一実施形態に係る電解質の含有量としては、50質量%以上が好ましく、70質量以上%がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、実質的に100質量%であることがよりさらに好ましい。
【0089】
負極活物質層6の平均厚さとしては特に限定されず、例えば1nm以上であればよく、1μm以上1,000μm以下がより好ましく、10μm以上500μm以下がさらに好ましい。負極活物質層6の平均厚さを上記下限以上とすることで、蓄電素子10の充放電性能等を高めることができる。なお、特に負極活物質が金属リチウムである場合などは、負極活物質層6の平均厚さが1μm未満といった薄さであっても十分に充放電が可能である。負極活物質層6の平均厚さを上記上限以下とすることで、蓄電素子10の小型化を図ることなどができる。
【0090】
[隔離層]
隔離層3は、固体電解質を含有する。隔離層3に含有される固体電解質としては、上述した本発明の一実施形態に係る電解質以外にも、各種固体電解質を用いることができる。隔離層3における固体電解質の含有量としては、70質量%以上が好ましく、90質量以上%がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましく、実質的に100質量%であることがよりさらに好ましいこともある。また、隔離層3に本発明の一実施形態に係る電解質を用いる場合、隔離層3中の全固体電解質に占める本発明の一実施形態に係る電解質の含有量としては、50質量%以上が好ましく、70質量以上%がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、実質的に100質量%であることがよりさらに好ましい。
【0091】
隔離層3には、電解質の他、フィラー等の任意成分が含有されていてもよい。フィラー等の任意成分は、正極活物質層5で例示した材料から選択できる。また、隔離層3には、機械的強度を高めるなどのために、織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が配置されていてもよい。
【0092】
隔離層3の平均厚さとしては、1μm以上200μm以下が好ましく、3μm以上100μm以下がより好ましい。隔離層3の平均厚さを上記下限以上とすることで、正極層1と負極層2とを確実性高く絶縁することが可能となる。隔離層3の平均厚さを上記上限以下とすることで、蓄電素子10のエネルギー密度を高めることが可能となる。
【0093】
当該蓄電素子10の通常使用時の充電終止電圧における正極電位は、例えば3.5V vs.Li/Li+以上又は4.0V vs.Li/Li+以上であってよいが、4.2V vs.Li/Li+以上であることが好ましく、4.5V vs.Li/Li+以上であることがより好ましく、4.6V vs.Li/Li+以上であることがさらに好ましく、4.7V vs.Li/Li+以上であることがよりさらに好ましいこともある。通常使用時の充電終止電圧における正極電位を上記下限以上とすることで、エネルギー密度や電圧を高めることができ、放電容量を大きくすることもできる。また、当該蓄電素子10には、本発明の一実施形態に係る耐酸化性が良好な電解質が用いられているため、通常使用時の充電終止電圧における正極電位が高い場合も、良好な充放電性能を持続させることができる。
【0094】
当該蓄電素子10の通常使用時の充電終止電圧における正極電位の上限としては、例えば5.0V vs.Li/Li+とすることができ、4.8V vs.Li/Li+であってもよく、4.7V vs.Li/Li+であってもよい。
【0095】
本実施形態の蓄電素子は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、又は電力貯蔵用電源等に、複数の蓄電素子を集合して構成した蓄電ユニット(バッテリーモジュール)として搭載することができる。この場合、蓄電ユニットに含まれる少なくとも一つの蓄電素子に対して、本発明の一実施形態に係る技術が適用されていればよい。
【0096】
図2に、電気的に接続された二以上の蓄電素子10が集合した蓄電ユニット20をさらに集合した蓄電装置30の一例を示す。蓄電装置30は、二以上の蓄電素子10を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット20を電気的に接続するバスバ(図示せず)等を備えていてもよい。蓄電ユニット20又は蓄電装置30は、一以上の蓄電素子の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【0097】
<蓄電素子の製造方法>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子の製造方法は、正極層、隔離層及び負極層の少なくとも1つの作製に、本発明の一実施形態に係る電解質を用いること以外は、通常公知の方法により行うことができる。当該製造方法は、例えば(1)正極合剤、正極基材等の正極層形成材料を用意すること、(2)隔離層用材料を用意すること、(3)負極合剤、負極基材等の負極層形成材料を用意すること、及び(4)正極層、隔離層及び負極層を積層することを備える。例えば負極活物質に金属リチウムを用いる場合は、上記負極層形成材料の一例として金属リチウム箔等を用いることができる。
【0098】
[その他の実施形態]
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。例えば、本発明に係る蓄電素子については、正極層、隔離層及び負極層以外のその他の層を備えていてもよい。正極層、隔離層及び負極層の各構造も上記した構造に限定されるものでは無い。例えば、負極層(負極)は、負極活物質層を有さず、負極基材のみから構成されていてもよい。また、本発明に係る蓄電素子は、各層のうちの1つ又は複数に液体を含むものであってもよい。本発明に係る蓄電素子の正極、負極等は、層構造を有していなくてもよい。本発明に係る蓄電素子は、二次電池である蓄電素子の他、キャパシタ等であってもよい。
【0099】
<実施例>
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0100】
以下に、実施例及び比較例で使用した電解質塩を示す。
LiBOB :リチウムビスオキサラトボレート
LiDFOB:リチウムジフルオロオキサラトボレート
LiFSI :リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド
LiTFSI:リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
LiBETI:リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド
【0101】
[実施例1]
高分子鎖の主鎖末端及び側鎖末端の少なくともいずれかにヒドロキシ基を有する高分子(A)であるポリプロピレンカーボネート(PPC:Aldrich製、数平均分子量=50,000)と、電解質塩としてオキサラトボレート塩(B)であるLiBOBとを、ジメチルホルムアミドに溶解して混合した後、ジメチルホルムアミドを乾燥除去することにより実施例1の電解質を調製した。電解質塩(LiBOB)の含有量は、PPCの単量体単位に対して35.5mol%とした。
【0102】
[実施例2、比較例1から3]
LiBOBに替えて表1に記載の各電解質塩を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2及び比較例1から3の各電解質を得た。
【0103】
[評価]LSV(Linear Sweep Voltammetry)測定
作用極にステンレス箔(直径26mm)、対極に厚さ60μmの金属リチウム箔(直径20mm)、隔離層に実施例及び比較例の各電解質を用い、蓄電素子を作製した。得られた実施例及び比較例の各蓄電素子のLSV測定を行った。電圧掃引速度は1mV/秒とし、開回路電圧から5.5Vまで測定した。
得られた電流-電圧曲線(縦軸:電流、横軸:電圧)において、LSV測定時の最大電流を1に規格化し、電流-電圧曲線の直線部分を延長したときの横軸との交点の電圧を分解電位とした。なお、開回路状態での金属リチウム極の電位は、リチウムの酸化還元電位とほぼ等しいため、上記蓄電素子における電圧を、リチウムの酸化還元電位に対する電位とみなした。測定結果を表1に示す。
【0104】
【0105】
表1に示されるように、実施例1、2の各電解質は、分解電位が4.7V vs.Li/Li+を超え、耐酸化性が良好であることが確認できた。なお、「電池ハンドブック」(電気化学会電池技術委員会著、オーム社、2010年)541頁の記述によれば、プロピレンカーボネート(PC)溶媒中で測定したリチウム塩の極限酸化電位は、Li(C2F5SO2)2N(LiBETI)及びLi(CF3SO2)2N(LiTFSI)の方が、LiB(C2O4)2(LiBOB)より高いとされている。これは、上記表1の実施例1(LiBOB)と比較例2(LiTFSI)及び比較例3(LiBETI)との関係と逆の傾向である。実施例1、2においては、ヒドロキシ基を有する高分子とオキサラトボレート塩(LiBOB、LiDFOB)との組み合わせの作用により耐酸化性が高まっていると推測される。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明に係る電解質は、全固体電池等の蓄電素子の電解質として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0107】
1 正極層(正極)
2 負極層(負極)
3 隔離層
4 正極基材
5 正極活物質層
6 負極活物質層
7 負極基材
10 蓄電素子(全固体電池)
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置