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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022074974
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】ハードカプセル製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/48 20060101AFI20220511BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20220511BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20220511BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20220511BHJP
   A61K 35/745 20150101ALI20220511BHJP
   A61K 35/744 20150101ALI20220511BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20220511BHJP
【FI】
A61K9/48
A61K47/38
A61K47/02
A61K47/42
A61K35/745
A61K35/744
A23L33/135
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020185460
(22)【出願日】2020-11-05
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】上野 宏大
【テーマコード(参考)】
4B018
4C076
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018LE02
4B018MD04
4B018MD05
4B018MD18
4B018MD20
4B018MD22
4B018MD35
4B018MD53
4B018MD61
4B018MD71
4B018MD86
4B018MD87
4B018ME14
4C076AA54
4C076AA55
4C076AA67
4C076BB01
4C076CC16
4C076CC40
4C076CC50
4C076DD25A
4C076DD25M
4C076EE32A
4C076EE32M
4C076EE41A
4C076EE41M
4C076FF25
4C076FF31
4C076FF63
4C087AA01
4C087AA10
4C087BC56
4C087BC59
4C087MA05
4C087MA37
4C087MA52
4C087NA12
4C087ZA66
4C087ZA73
(57)【要約】
【課題】本発明は、有用物質の放出を制御して、腸まで到達させるためのハードカプセル製剤を提供することを課題とする。
【解決手段】上記課題を解決するために、(A)有用物質と、(B)ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び(C)炭酸カルシウムを含有する粉末組成物が、ハードカプセルに充填されたことを特徴とする、ハードカプセル製剤を提供する。ハードカプセル製剤の内部の粉末組成物が胃液などの低pHの液体や水に接触すると、粉末組成物の表面にHPMCの層を形成して、内部の有用物質の放出を制御したり、保護したりすることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)有用物質と、(B)ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び(C)炭酸カルシウムを含有する粉末組成物が、ハードカプセルに充填されたことを特徴とする、ハードカプセル製剤であって、前記粉末組成物に対して、前記(B)成分の含有量が0.5~10質量%であることを特徴とする、ハードカプセル製剤。
【請求項2】
前記粉末組成物に(D)酸性で凝固する乳蛋白質を含有することを特徴とする、請求項1に記載のハードカプセル製剤。
【請求項3】
前記(D)酸性で凝固する乳蛋白質は、乳蛋白分解物であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のハードカプセル製剤。
【請求項4】
前記有用物質がビフィズス菌又は乳酸菌であることを特徴とする、請求項1~3に記載のハードカプセル製剤。
【請求項5】
前記粉末組成物に対して、前記(C)成分の含有量が2.0~30質量%であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のハードカプセル製剤。
【請求項6】
(A)酸性環境下で不安定な有用物質、(B)ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び(C)炭酸カルシムを含有することを特徴とする、粉末組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐酸性が付与されたハードカプセル製剤に関する。さらに詳しくは、酸性環境下で不安定な有用物質と、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び炭酸カルシウムを含有する粉末組成物が、ハードカプセルに充填されたことを特徴とする、ハードカプセル製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、腸内環境を整えるという意識の高まりと共に、腸内細菌叢や腸内フローラとも称される腸内細菌が注目を浴びている。便秘や下痢の解消だけでなく、美肌効果やむくみの解消、ダイエットなど、健康・美容におけるさまざまな効果が期待できると言われ、腸内環境を整えるためのさまざまな食品やサプリメント等が開発されている。例えば、このような腸内環境に有意な効果が期待される物質を、腸まで調達させて腸内で作用させたい場合、腸に行き着くには強酸性環境である胃を通過しなければない。当該有用物質が酸性環境下で不安定な性質であるならば、腸管到達前の段階でその影響を被り、十分な有用性を発揮することができなくなるといった問題があった。
そのため、酸性環境下で不安定である有用物質を、腸まで調達させる研究が種々行われ、さまざまな提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、酸基を有する腸溶性ポリマー、膜形成助剤、腸溶性ポリマーのカルボン酸基のイオン化度が特定の範囲内であるアルカリ性材料を含む硬カプセル剤シェルを構成要素とする、耐酸性カプセル剤の製造に関する技術が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載の耐酸性カプセル剤の製造工程は複雑さとコスト面で懸念が残る。
また、特許文献2には、耐酸性の低い原薬成分と、ヒドロキシプロピルセルロース及び炭酸カルシウムとがハードカプセルに充填されたことを特徴とする、原薬成分の耐酸性を向上させたハードカプセル製剤が開示されている。
特許文献3には、ビフィズス菌を含む粉末組成物が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースとジェランガムを原材料とするハードカプセルに充填されたカプセル製剤であって、ハードカプセルの水分値が3~4質量%に調整されたカプセル製剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2019-527223号公報
【特許文献2】特開2015-193556号公報
【特許文献3】特開2018-199631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、有用物質の放出を制御して、腸まで到達させるためのハードカプセル製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、有用物質を含む粉末組成物に、ヒドロキシプロピルメチルセルロースと炭酸カルシウムを含有させることで、粉末組成物の表面にヒドロキシプロピルメチルセルロースの層を形成し、有用物質の放出を制御し、腸まで到達し得るハードカプセル製剤を見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、以下のハードカプセル製剤を提供するものである。
[1]
(A)有用物質と、(B)ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び(C)炭酸カルシウムを含有する粉末組成物が、ハードカプセルに充填されたことを特徴とする、ハードカプセル製剤であって、前記粉末組成物に対して、前記(B)成分の含有量が0.5~10質量%であることを特徴とする、ハードカプセル製剤。
[2]
前記粉末組成物に(D)酸性で凝固する乳蛋白質を含有することを特徴とする、[1]に記載のハードカプセル製剤。
[3]
前記(D)酸性で凝固する乳蛋白質は、乳蛋白分解物であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載のハードカプセル製剤。
[4]
前記有用物質がビフィズス菌又は乳酸菌であることを特徴とする、[1]~[3]に記載のハードカプセル製剤。
[5]
前記粉末組成物に対して、前記(C)成分の含有量が2.0~30質量%であることを特徴とする、[1]~[4]のいずれか一項に記載のハードカプセル製剤。
[6]
(A)酸性環境下で不安定な有用物質、(B)ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び(C)炭酸カルシムを含有することを特徴とする、粉末組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、有用物質の放出を制御して、腸まで到達させるためのハードカプセル製剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[ハードカプセル製剤]
本発明のハードカプセル製剤は、(A)有用物質と、(B)ヒドロキシプロピルメチルセルロース(以下、「HPMC」ともいう。)及び(C)炭酸カルシウムを含有する粉末組成物が、ハードカプセルに充填されたことを特徴とする。また、本発明のハードカプセル製剤の一実施態様としては、粉末組成物に、(D)酸性で凝固する乳蛋白質を含有することが好ましい。
【0010】
本発明のハードカプセル製剤は、内部の粉末組成物が胃液などの低pHの液体や水に接触すると、HPMCが粉末組成物の表面でゲル化して粉末組成物を包み込む状態、いわゆる「継粉(ママコ)」状態となる。これにより、粉末組成物に含まれる有用物質の放出を抑制することができる。本発明のハードカプセル製剤は、例えば、酸性環境下で不安定な有用物質を腸で放出するような腸溶性製剤や、水溶性ビタミン類などの有用物質を徐々に溶出させるような徐放性製剤などに利用することができる。
【0011】
以下、本発明の各成分について、詳しく説明する。
(A)有用物質
本発明における有用物質とは、限定的ではないが例えば、医薬品、医薬部外品、獣医科製品、美容食品、健康食品、サプリメント等の有用成分が挙げられる。本発明のハードカプセル製剤は、有用物質と胃液との接触を抑制することができることから、酸性環境下で不安定な有用物質に対して特に優れた効果を発揮することができる。
【0012】
酸性環境下で不安定な有用物質としては、例えば、ビフィズス菌、乳酸菌などが挙げられる。ビフィズス菌の具体例としては、例えば、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・アドレッセンティス、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ビフィドバクテリウム・アニマリス、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム等が挙げられる。乳酸菌の具体例としては、例えば、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・アシドフィルス等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0013】
粉末組成物における有用物質の含有量は、有用物質の活性の強さに応じて適宜設定することができる。例えば、医薬品に使用する有用物質であれば、0.0001~20質量%程度であり、美容食品、健康食品、サプリメントに使用する有用物質であれば、0.1~40質量%程度である。
【0014】
(B)ヒドロキシプロピルメチルセルロース
HPMCとは、メチルセルロースにヒドロキシプロピル基を導入したセルロースエーテルである。HPMCは、水又は胃液などの低pHの液体に接触するとゲル化する作用がある。これにより、粉末組成物の表面にゲル化したHPMCの層が形成され、粉末組成物中の有用物質と胃液などの低pHの液体との接触を抑制することができる。
【0015】
本発明のハードカプセル製剤においては、ハードカプセルが溶解して内部の粉末組成物が胃液と接触すると、HPMCがゲル化して粉末組成物の表面で層を形成し、ハードカプセル崩壊後においても粉末組成物が一定の塊として保持されることを可能にする。
【0016】
粉末組成物におけるHPMCの含有量は、0.5~10質量%である。HPMCの含有量を調整することにより、HPMCにより形成された粉末組成物の塊の崩壊時間を調整することができる。0.5質量%以上とすると、有用物質の放出を抑制する作用や、有用物質と胃液との接触を抑制する作用が向上する。10質量%以下とすると、胃を通過した後の腸内での粉末組成物の溶出性を向上し、また有用成分や炭酸カルシウムなどの他の成分の含有量を高めることができる。HPMCの含有量の下限値は、好ましくは1.0質量%以上であり、より好ましくは3.0質量%以上である。
【0017】
(C)炭酸カルシウム
炭酸カルシウムは、胃内において胃液中の遊離の塩酸を中和、もしくは緩衝する作用を有し、HPMCにより形成された粉末組成物の塊の内部のpHを上昇させることができる。また、炭酸カルシウムは、粉末組成物の塊の内部に浸透した胃液と反応して炭酸ガスを生じるため、粉末組成物の塊に浮力を付与することができる。これにより、粉末組成物の塊が胃液の液面を浮遊するため、胃液との混合が抑制され、本願発明の効果を一層発揮することができる。
【0018】
粉末組成物における炭酸カルシウムの含有量は、特に制限されないが、例えば、0.1~30質量%である。炭酸カルシウムの含有量を調整することにより、HPMCにより形成された粉末組成物の塊の内部のpHの低下を抑制することができる。また、炭酸ガスの発生量を調整して、粉末組成物の塊の浮力を調整することができる。0.1質量%以上とすると、粉末組成物の塊の内部のpHの低下を抑制する作用や、粉末組成物の塊の浮力が向上する。30質量%以下とすると、有用成分やHPMCなどの他の成分の含有量を高めることができる。炭酸カルシウムの含有量の下限値は、好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは1.0質量%以上であり、更に好ましくは3.0質量%以上である。炭酸カルシウムの含有量の上限値は、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下である。
【0019】
(B)成分及び(C)成分の含有量の比(C/B)(以下、「C/B比」ともいう。)は、特に制限されないが、例えば、0.01~20である。(B)成分及び(C)成分の含有量をバランスよく配合することにより、粉末組成物の表面に形成されたHPMCの層の強度と、炭酸カルシウムから発生する炭酸ガスの発生量を適切に調整して、粉末組成物の塊に付与する浮力を制御することができる。C/B比を大きくすると、炭酸ガスの発生量を増大することができる。一方、C/B比を小さくすると、HPMCの層の強度が増大し、炭酸ガスによるHPMCの層の破損を抑制することができる。C/B比の下限値は、好ましくは0.05以上であり、より好ましくは0.1以上であり、更に好ましくは0.4以上である。C/B比の上限値は、好ましくは10以下であり、より好ましくは5.0以下である。
【0020】
(D)酸性で凝固する乳蛋白質
粉末組成物には、酸性で凝固する乳蛋白質(以下、「乳蛋白質」という。)を含有することが好ましい。乳蛋白質を含有することにより、粉末組成物の表面に形成されたHPMCの層の崩壊を制御することができる。具体的には、乳蛋白質は酸性の溶液ではHPMCの層を維持しつつ、中性の溶液ではHPMCの層の崩壊を促進するという作用効果を有するものである。よって、乳蛋白質を添加することにより、HPMCにより形成された粉末組成物の塊を、胃では崩壊させずに、腸で崩壊させることができる。
【0021】
乳蛋白質は、乳に由来するタンパク質の総称であり、酸性で凝固するという性質を有するものである。なお、本明細書において、「酸性で凝固する」という性質とは、常温(25℃)の塩酸水溶液(pH2.0)100mLに、乳蛋白質0.5gを投入して撹拌すると、凝集物が認められるものである。
また、乳蛋白質は、中性で崩壊することが好ましい。本明細書において、「中性で崩壊する」とは、常温(25℃)の純水100mLに、乳蛋白質0.5gを投入して撹拌すると、凝集物が認められずに分散するものである。
【0022】
乳蛋白質は、酸性で凝固するものであれば特に限定されず、また、乳に由来するタンパク質の分解物である乳蛋白分解物を用いてもよい。
乳蛋白質としては、例えば、カゼイン、ホエイプロテイン等が挙げられる。また、酸性で凝固し中性で崩壊する乳蛋白分解物としては、例えば、森永乳業社製のGFR-Powder(N)等を特に好ましい例として挙げることができる。
【0023】
粉末組成物における乳蛋白質の含有量は、特に制限されないが、例えば、0.1~40質量%である。乳蛋白質の含有量を調整することにより、粉末組成物の表面に形成されたHPMCの層の崩壊性を制御することができる。0.1質量%以上とすると、HPMCの層の腸における崩壊性を向上することができる。40質量%以下とすると、有用成分やHPMCなどの他の成分の含有量を高めることができる。乳蛋白質の含有量の下限値は、好ましくは1.0質量%以上であり、より好ましくは3.0質量%以上であり、更に好ましくは5.0質量%以上であり、特に好ましくは8.0質量%以上である。乳蛋白質の含有量の上限値は、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下であり、更に好ましくは15質量%以下である。
【0024】
(B)成分及び(D)成分の含有量の比(D/B)(以下、「D/B比」ともいう。)は、特に制限されないが、例えば、0.01~20である。(B)成分及び(D)成分の含有量をバランスよく配合することにより、胃内において崩壊を抑制しつつ、腸では崩壊させることができる。D/B比を大きくすると、腸での崩壊を促進することができる。一方、D/B比を小さくとすると、胃内での崩壊を抑制することができる。D/B比の下限値は、好ましくは0.05以上であり、より好ましくは0.1以上であり、更に好ましくは0.4以上である。D/B比の上限値は、好ましくは10以下であり、より好ましくは5.0以下である。
【0025】
(その他の成分)
本発明のハードカプセルの粉末組成物は、(A)成分~(D)成分の他、硬化油脂、賦形剤、滑沢剤、流動化剤、崩壊剤、結合剤、界面活性剤、光沢剤、甘味料、香料、着色料、保存料などを含有することができる。
【0026】
硬化油脂としては、例えば、菜種油、大豆油、パーム油、米油、牛脂、豚脂、魚油などの硬化油脂が挙げられる。酸化安定性の観点から極度硬化油が好ましい。硬化油脂を含有することにより、粉末組成物の塊の内部への浸水を抑制することができる。また、浮力を向上することもできる。粉末組成物における硬化油脂の含有量は、特に制限されないが、例えば、0.1~20質量%である。硬化油脂の下限値は、好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは1.0質量%以上である。硬化油脂の上限値は、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5.0質量%以下である。
【0027】
賦形剤としては、例えば、結晶セルロース、乳糖、白糖、ブドウ糖、D-マンニトール、粉末還元麦芽糖水あめ、マルチトール、キシリトール、エリスリトール、D-ソルビトール、マルトース、デンプン及びデンプン誘導体、アスパルテーム、グリチルリチン酸及びその塩、サッカリン及びその塩、ステビア及びその塩、スクラロース、アセスルファムカリウム、リン酸水素カルシウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、デキストリン、デンプン及びデンプン誘導体、グァーガム、アラビアゴム、トラガント、アルギン酸及びその塩、プルラン、カラギーナン、ゼラチン、寒天、カルボキシビニルポリマー、カルメロースナトリウム、デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
【0028】
滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、水素添加植物油等が挙げられ、その中でもステアリン酸カルシウムは好ましい。これらの滑沢剤は、1種または2種以上を適宜組み合わせて任意の配合量で用いることができる。
流動化剤としては、例えば、微粒二酸化ケイ素などが挙げられる。
【0029】
(剤形)
本発明の粉末組成物は、胃液などの低pHの液体や水に接触すると、粉末組成物の表面でHPMCがゲル化し、内部の有用物質の放出を制御したり、低pHの液体から有用物質を保護したりするものである。よって、粉末組成物は、所定量がまとまった状態で低pHの液体や水に接触すればよく、散剤、顆粒、細粒等の剤形でもよい。
所定量の粉末組成物をまとまった状態で低pHの液体や水に接触させるという観点から、ハードカプセルに充填したハードカプセル製剤が好ましい。
【0030】
本発明に用いるハードカプセルは、商業的に入手可能な市販品を用いてよい。また、ハードカプセルのサイズとしては、00号、0号、1号、2号、3号、4号、5号などがあるが、本発明ではいずれのサイズのハードカプセルも使用することができる。
なお、本発明に用いるハードカプセルは、耐酸性を有するハードカプセルを使用することもできる。耐酸性を有するハードカプセルとは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースとジェランガムを含有するハードカプセルである。
【実施例0031】
以下に実施例を示し更に本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<試験サンプル調製方法>
表1~表3に示す原材料のうち、ステアリン酸カルシウム以外の原料を量り取り、V型混合器(筒井理化学器械社製:ミクロ型透視式混合器)で10分間混合した後、ステアリン酸カルシウムを加え、5分間混合し、カプセル充填用の粉末組成物を得た。次いで、カプセル充填機(Fetoninternational社製:CAPSULEFILLER&LOADER)を使用し、1カプセル当り300mgの粉末組成物を充填し試験サンプル(実施例1~9及び比較例1~7)を調製した。
【0032】
なお、表1~3に示す原材料の詳細は下記のとおりである。
<(A)有用物質>
・ビフィズス菌末(1)(森永乳業社製:高濃度ビフィズス菌末BB536-EX)生菌末(BB536株培養物)
・ビフィズス菌末(2)(森永乳業社製:森永ビフィズス菌末B-3-EX)生菌末(B-3株培養物)
・N-アセチルグルコサミン(焼津水産化学工業社製:マリンスウィート(R)YSK)
・ブラックジンジャーエキス(丸善製薬社製:ブラックジンジャー抽出物)
<賦形剤>
・(B)ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学工業社製:メトローズNE-4000)
・ヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達社製:セルニーH微粉)
・(C)炭酸カルシウム(キューピー社製:カルホープ)
・(D)乳蛋白分解物(森永乳業社製:GFR-Powdr(N))
・菜種硬化油脂(川研ファインケミカル社製:ラブリワックス-102H)
・結晶セルロース(旭化成社製:セオラスFD-301)
<流動化剤>
・微粒二酸化ケイ素(富士シリシア化学社製:サイロページ760)
<滑沢剤>
・ステアリン酸カルシウム(堺化学工業社製:食品添加物ステアリン酸カルシウム)
<ハードカプセル>
・非耐酸性ハードカプセル(CAPSUGEL社製:Vcaps)
【0033】
<試験の方法>
崩壊試験機(富山産業社製:NT-40HS、補助盤不使用)を使用し、37℃の日本薬局方1液(pH1.2)及び精製水中においてハードカプセルを遊泳させ、崩壊するまでの時間を測定した。なお、「崩壊」とは、ハードカプセル製剤の内容物の粉末組成物の塊が崩壊することを意味する。「崩壊性」については、1液での崩壊性が180分以上のものは胃内においてもビフィズス菌の生存数が十分に担保できるものと考える。また、水での崩壊性が150分以内のものは腸内で内容物が容易に分散できるものと考える。
その際の表2に示されるカプセルの浮き沈みについては目視確認の結果である。
その後、1液での崩壊試験120分時点でカプセルを取り出し、表面を精製水ですすいだ後、生理食塩水に分散させた。生理食塩水を用いて任意の濃度に希釈させた後、TOSプロピオン酸寒天培地(ヤクルト薬品工業社製)へ混釈培養した。アネロパウチ・ケンキ(三菱ガス化学社製)を用いて嫌気状態にし、37℃、72時間の培養後にビフィズス菌のコロニー数をカウントした。
なお、崩壊試験で120分以内に崩壊するサンプルにおいては120分後の試験液を中和処理後、当試験液を生理食塩水で十分に希釈して測定に用いた。
【0034】
また、ビフィズス菌の生存数はコロニー形成単位を用いて示すものとする。このコロニー形成単位とは、ある量の微生物を、それが生育する固体培地上にまいた時に生じるコロニーの数を言う。集落形成単位ともいい、略称でCFUとも呼ばれる。まいた微生物中に含まれる増殖可能な微生物細胞の数、つまり生存細胞の数を表す指標として用いられる。
【0035】
試験結果を表1~3に示す。
【表1】
【0036】
表1に示されるように、カプセル内容物中の粉末組成物にHPMCを含有する場合には、粉末組成物は、継粉状態となり塊を形成した。この粉末組成物の塊は、1液中で180分間以上も崩壊しなかった。一方、カプセル内容物中の粉末組成物にHPMCを含有しない場合には、粉末組成物の塊は1液中で70分以内に崩壊した(比較例1)。
また、HPMCに替えてHPCを用いた場合、そのどちらも含まない場合と比べて1液での崩壊時間が長くなり、耐酸性の向上が見られた(比較例2)。しかしながら、胃内での滞留時間を想定した場合、140分という崩壊時間は、機能成分の安定性を担保するには不十分であり、HPMCを含有した時の方がより一層耐酸性が向上し、その効果は顕著である事が示された。
また、HPMCの含有量が15質量%である場合、精製水中での崩壊性が低下した(比較例3)。
【0037】
【表2】
【0038】
表2に示されるように、炭酸カルシウムを含まない場合、ハードカプセル製剤が沈降し、ビフィズス菌の耐酸性が悪化した。
【0039】
【表3】
【0040】
表3に示されるように、カプセル内容物中の粉末組成物にHPMCを含有する場合には、粉末組成物は、継粉状態となり塊を形成した(実施例5~9)。この粉末組成物の塊は、1液中で180分間以上も崩壊しなかった。また、HMPCの含有量が10質量%以下の場合、精製水中での崩壊性に優れることがわかった。一方、カプセル内容物中の粉末組成物にHPMCを含有しない場合には、粉末組成物の塊は1液で崩壊した(比較例5~7)。
これらのハードカプセル製剤について、ビフィズス菌の生存数を確認したところ、実施例5~9では、ビフィズス菌の生存数が高いことが認められた。
【0041】
これらの結果から、酸性環境下で不安定な有用物質に、HPMCと炭酸カルシウム、または、更に乳蛋白質を特定の比率で含有させることにより、酸性環境下で不安定な有用物質の耐酸性が著しく向上することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のハードカプセル製剤及び粉末組成物は、有用物質の放出を制御し、腸まで到達させるためのハードカプセル製剤に利用することができる。
さらには、本発明のハードカプセル製剤及び粉末組成物は、酸性環境下で不安定な有用物質に耐酸性を付与することで、当該有用物質を胃では崩壊させずに腸まで到達させて腸内で作用させることができる。
本発明のハードカプセル製剤及び粉末組成物は、医薬品、医薬部外品、獣医科製品、食品、サプリメント等さまざまな分野において活用できるものである。

【手続補正書】
【提出日】2021-07-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項6
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項6】
(A)酸性環境下で不安定な有用物質、(B)ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び(C)炭酸カルシムを含有することを特徴とする、粉末組成物。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
すなわち、本発明は、以下のハードカプセル製剤を提供するものである。
[1]
(A)有用物質と、(B)ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び(C)炭酸カルシウムを含有する粉末組成物が、ハードカプセルに充填されたことを特徴とする、ハードカプセル製剤であって、前記粉末組成物に対して、前記(B)成分の含有量が0.5~10質量%であることを特徴とする、ハードカプセル製剤。
[2]
前記粉末組成物に(D)酸性で凝固する乳蛋白質を含有することを特徴とする、[1]に記載のハードカプセル製剤。
[3]
前記(D)酸性で凝固する乳蛋白質は、乳蛋白分解物であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載のハードカプセル製剤。
[4]
前記有用物質がビフィズス菌又は乳酸菌であることを特徴とする、[1]~[3]に記載のハードカプセル製剤。
[5]
前記粉末組成物に対して、前記(C)成分の含有量が2.0~30質量%であることを特徴とする、[1]~[4]のいずれか一項に記載のハードカプセル製剤。
[6]
(A)酸性環境下で不安定な有用物質、(B)ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び(C)炭酸カルシムを含有することを特徴とする、粉末組成物。
【手続補正書】
【提出日】2021-08-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項3
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項3】
前記(D)酸性で凝固する乳蛋白質は、乳蛋白分解物であることを特徴とする、請求項2に記載のハードカプセル製剤。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項6
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項6】
(A)酸性環境下で不安定な有用物質、(B)ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び(C)炭酸カルシムを含有することを特徴とする、粉末組成物。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
すなわち、本発明は、以下のハードカプセル製剤を提供するものである。
[1]
(A)有用物質と、(B)ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び(C)炭酸カルシウムを含有する粉末組成物が、ハードカプセルに充填されたことを特徴とする、ハードカプセル製剤であって、前記粉末組成物に対して、前記(B)成分の含有量が0.5~10質量%であることを特徴とする、ハードカプセル製剤。
[2]
前記粉末組成物に(D)酸性で凝固する乳蛋白質を含有することを特徴とする、[1]に記載のハードカプセル製剤。
[3]
前記(D)酸性で凝固する乳蛋白質は、乳蛋白分解物であることを特徴とする、[2]に記載のハードカプセル製剤。
[4]
前記有用物質がビフィズス菌又は乳酸菌であることを特徴とする、[1]~[3]に記載のハードカプセル製剤。
[5]
前記粉末組成物に対して、前記(C)成分の含有量が2.0~30質量%であることを特徴とする、[1]~[4]のいずれか一項に記載のハードカプセル製剤。
[6]
(A)酸性環境下で不安定な有用物質、(B)ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び(C)炭酸カルシムを含有することを特徴とする、粉末組成物。