(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022074991
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】切片作成装置および切片作成装置セット
(51)【国際特許分類】
G01N 1/06 20060101AFI20220511BHJP
【FI】
G01N1/06 F
G01N1/06 A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020185496
(22)【出願日】2020-11-06
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-02-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和 2年 8月27日 株式会社シンテックが、下記アドレスのウェブサイトにて、山口馨および山崎幹夫が発明した切片作成装置および切片作成装置セットについて公開。<https://www.youtube.com/watch?v=QNTa8s2fJa8>
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和 2年 8月27日 株式会社シンテックが、下記アドレスのウェブサイトにて、山口馨および山崎幹夫が発明した切片作成装置および切片作成装置セットについて公開。<https://www.youtube.com/watch?v=1XKaB_y-yNc>
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和 2年 8月28日 株式会社シンテックが、下記アドレスのウェブサイトにて、山口馨および山崎幹夫が発明した切片作成装置および切片作成装置セットについて公開。<https://www.syntek.co.jp/200812%20JUMBO%20WT.pdf>
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和 2年 8月28日 株式会社シンテックが、下記アドレスのウェブサイトにて、山口馨および山崎幹夫が発明した切片作成装置および切片作成装置セットについて公開。<https://www.syntek.co.jp/en/products_en-diamondknives>
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和 2年 8月28日 株式会社シンテックが、下記アドレスのウェブサイトにて、山口馨および山崎幹夫が発明した切片作成装置および切片作成装置セットについて公開。<https://www.syntek.co.jp/category/enews>
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和 2年 9月 4日 株式会社シンテックが、下記アドレスのウェブサイトにて、山口馨および山崎幹夫が発明した切片作成装置および切片作成装置セットについて公開。<https://www.syntek.co.jp/top/products_diamondknives>
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和 2年 9月 4日 株式会社シンテックが、下記アドレスのウェブサイトにて、山口馨および山崎幹夫が発明した切片作成装置および切片作成装置セットについて公開。<https://www.syntek.co.jp/category/jnews>
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和 2年 9月18日 株式会社シンテックが、下記アドレスのウェブサイトにて、山口馨および山崎幹夫が発明した切片作成装置および切片作成装置セットについて公開。<https://www.syntek.co.jp/wp271/wp-content/uploads/2020/10/SYM-JUMBO-WTJ_2020.9.18.pdf>
(71)【出願人】
【識別番号】509308953
【氏名又は名称】株式会社シンテック
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163050
【弁理士】
【氏名又は名称】小栗 眞由美
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】山口 馨
(72)【発明者】
【氏名】山崎 幹夫
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AD32
2G052AD52
2G052EC03
2G052EC22
2G052GA32
2G052GA33
2G052JA04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】基板の配置を選択することができる切片作成装置および切片作成装置セットを提供する。
【解決手段】切片作成装置1は、上側が開放され液体を貯留するボート2であって、ナイフ部3を前端に保持するボート2と、ボート2内に配置される基板を支持する基板支持機構5とを備え、基板支持機構5が、少なくとも第1配置と第2配置との間で基板の配置を変更可能であり、第1配置は、前側が高くなる方向に基板が傾斜する配置であり、第2配置は、基板が水平になる配置である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料をナイフ部によってスライスし切片を作成する切片作成装置であって、
上側が開放され液体を貯留するボートであって、前記ナイフ部を前端に保持するボートと、
該ボート内に配置される基板を支持する基板支持機構とを備え、
該基板支持機構が、少なくとも第1配置と第2配置との間で前記基板の配置を変更可能であり、前記第1配置は、前側が高くなる方向に前記基板が傾斜する配置であり、前記第2配置は、前記基板が水平になる配置である、切片作成装置。
【請求項2】
前記基板支持機構が、
前記ボート内に配置され前記基板の前端部を支持する第1治具と、
前記ボート内に配置され前記基板の後端部を支持し、前記第1治具に対して前記ボートの前後方向にスライド可能である第2治具とを有し、
前記第1治具の後側部分が、後側に向かって漸次低くなる複数のステップを有する階段状であり、
前記第2治具の前側部分が、前側に向かって漸次低くなる複数のステップを有する階段状である、請求項1に記載の切片作成装置。
【請求項3】
前記第2治具が、前記ボートから取り外し可能である、請求項2に記載の切片作成装置。
【請求項4】
前記ボートに設けられ、前記液体を前記ボートの内部から該ボートの外部へ重力によって排出する排水路を備える、請求項1から請求項3のいずれかに記載の切片作成装置。
【請求項5】
請求項4に記載の前記切片作成装置と、
前記排水路に接続されるチューブと、
該チューブに取り付けられるバルブとを備え、
該バルブが、ローラ式チューブクランプまたはネジ式チューブクランプである切片作成装置セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、切片作成装置および切片作成装置セットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ミクロトームまたはウルトラミクロトーム用のダイヤモンドナイフが知られている(例えば、特許文献1参照。)。ダイヤモンドナイフは、光学または電子顕微鏡による観察用の切片を作成するためのものである。特許文献1のダイヤモンドナイフは、水を貯留するボートと、ボートの前端に設けられ試料をスライスするナイフ部とを備える。スライスされた切片は、ボート内の水の水面に浮き、ボート内に配置されたスライドガラスまたはシリコンウエハ等の基板上に回収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
切片の回収時の基板の好適な配置は、ユーザのスキルや切片のサイズ等に応じて異なる。特許文献1のダイヤモンドナイフの場合、後端が高くなる方向に基板が傾斜する配置にしかボート内に基板を置くことができず、ユーザは基板の配置を選択することができない。
本開示は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、基板の配置を選択することができる切片作成装置および切片作成装置セットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、試料をナイフ部によってスライスし切片を作成する切片作成装置であって、上側が開放され液体を貯留するボートであって、前記ナイフ部を前端に保持するボートと、該ボート内に配置される基板を支持する基板支持機構とを備え、該基板支持機構が、少なくとも第1配置と第2配置との間で前記基板の配置を変更可能であり、前記第1配置は、前側が高くなる方向に前記基板が傾斜する配置であり、前記第2配置は、前記基板が水平になる配置である、切片作成装置である。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、基板の配置を選択することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の一実施形態に係る切片作成装置の(a)後方斜視図および(b)前方斜視図である。
【
図2】第2治具が取り外された
図1の切片作成装置の(a)後方斜視図および(b)前方斜視図である。
【
図7】
図1の切片作成装置の部分断面図であり、ナイフ部の刃と基板との間の位置関係の(a)一例および(b)他の例を説明する図である。
【
図8】
図1の切片作成装置の変形例の(a)後方斜視図および(b)基板の配置の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本開示の一実施形態に係る切片作成装置および切片作成装置セットについて図面を参照して説明する。
本実施形態に係る切片作成装置1は、試料をスライスし電子顕微鏡または光学顕微鏡による観察用の薄い切片を作成するナイフであり、例えば、超薄切片用のダイヤモンドナイフである。切片作成装置1は、ミクロトームまたはウルトラミクロトームに搭載して使用される。試料は、細菌、ウイルス、動植物の細胞または組織、材料、金属、複合材等である。
【0009】
図1(a),(b)および
図2(a),(b)に示されるように、切片作成装置1は、上側が開放された箱型のボート2と、ボート2に設けられたナイフ部3および排水路4と、ボート2内に配置される基板S(
図3から
図5参照。)を支持する基板支持機構5とを備える。
ボート2は、相互に直交する前後方向、左右方向および上下方向を有し、前後方向および左右方向が水平方向を向き、上下方向が鉛直方向を向くように配置される。
図1(a),(b)において、X方向が前後方向、Y方向が左右方向、Z方向が上下方向である。ボート2は、金属またはプラスチックから形成される。
【0010】
ボート2は、側壁2b,2c,2d,2eによって囲まれた槽2aを有し、切片を浮かせるための液体(例えば、水)を槽2a内に貯留することができる。
図3から
図5に示されるように、ボート2内には、カバーガラス、スライドガラスまたはシリコンウエハ等の基板Sを配置可能である。参照する図面のボート2は、4つの側壁2b,2c,2d,2eを有する四角い箱型である。ボート2は、他の形状の箱型であってもよい。
ボート2の下側には、切片作成装置1をミクロトームまたはウルトラミクロトームに固定するための固定部8が設けられている。
【0011】
ボート2の前端には、ナイフ部3を保持するナイフ保持部6が設けられている。ナイフ保持部6は、例えば、ボート2の前面に開口しボート2の上面から下方に延びる凹部である。ナイフ部3は、ナイフ保持部6の内部に配置され、ボート2に固定されている。ナイフ部3の上端部には、前上方を向くダイヤモンド製の刃3aが設けられている。刃3aによってスライスされた切片は、槽2a内に貯留された水の水面に浮かぶ。
【0012】
排水路4は、水をボート2の内部からボート2の外部へ重力によって排出する。具体的には、排水路4の一端の入口4aは、槽2aの底部、例えば槽2aの底面に設けられ、槽2aの内側に開口する。排水路4の他端の出口(図示略)は、入口4aよりも低い位置に設けられ、槽2aの外側に開口する。入口4aから出口まで重力に従って水が自然落下するように、入口4aから出口までの排水路4の形状は設計されている。槽2aの水平な底面には、前後方向に延び入口4aと接続される溝2fが形成されており、槽2a内に後述する第2治具12が配置されている状態においても溝2fを経由して排水路4へ水が流れることができる。
【0013】
排水路4の出口にはチューブ21が接続可能である(
図6参照。)。切片作成装置1は、排水路4にチューブ21を着脱するための継手7をさらに備えていてもよい。継手7は、排水路4とチューブ21との接続および取り外しをそれぞれワンタッチで行うことができるものが好ましい。例えば、継手7は、排水路4の出口に接続されたソケット7aと、チューブ21の一端に接続されソケット7a内に押し込まれるプラグ7bと、を有するワンタッチカプラである。
【0014】
基板支持機構5は、槽2a内に配置され、基板Sの前端部および後端部をそれぞれ支持する第1治具11および第2治具12を有する。治具11,12は、金属またはプラスチックから形成される。
第1治具11は、ボート2に固定された固定治具である。第1治具11は、槽2a内の前端部に配置され、ナイフ部3の後端と隣接している。第1治具11は、ボート2と同一の材料からボート2と一体成形されていてもよい。
第2治具12は、第1治具11の後側に配置され、第1治具11に対して前後方向にスライド可能な可動治具である。第2治具12の位置を前後方向に調節することによって、様々な長さの基板Sを支持することができる。第2治具12は、ボート2とは別体の柱状の部材であり、ボート2から取り外し可能である。
【0015】
第1治具11の後側部分は、後側に向かって漸次低くなる複数のステップ11aを有する階段状である。第2治具12の前側部分は、前側に向かって漸次低くなる複数のステップを有する階段状である。各ステップ11a,12aは、左右方向に延びる水平な平坦面であり、基板Sの端部をステップ11a,12a上に載置可能である。第2治具12の複数のステップ12aは、第1治具11の複数のステップ11aとそれぞれ同一の高さに配置される。
【0016】
図3、
図4および
図5に示されるように、基板支持機構5は、第1配置、第2配置および第3配置で基板Sを支持することができる。
図3に示されるように、第1配置は、前側が高くなる方向に基板Sが傾斜する配置である。すなわち、基板Sの前端部は、基板Sの後端部が載置されるステップ12aよりも高いステップ11a上に載置される。基板Sの前端部を載置するステップ11aおよび基板Sの後端部を載置するステップ12aを変更することによって、第1配置における基板Sの傾斜角度および高さを段階的に変更することができる。
【0017】
図4に示されるように、第2配置は、基板Sが水平になる配置である。すなわち、基板Sの前端部および後端部は、相互に同一の高さのステップ11a,12a上に載置される。基板Sの前端部および後端部を載置するステップ11a,12aを変更することによって、第2配置における基板Sの高さを段階的に変更することができる。
【0018】
図5に示されるように、第3配置は、前側が低くなる方向に基板Sが傾斜する配置である。すなわち、基板Sの前側の端部は、第1治具11のいずれかのステップ11a上に載置され、基板Sの他の部分がボート2の後壁2c上に載置される。この場合、第2治具12はボート2から取り外される。基板Sの前端部を載置するステップ11aを変更することによって、第3配置における基板Sの傾斜角度を段階的に変更することができる。
【0019】
第1治具11の最も高いステップ11aおよび第2治具12の最も高いステップ12aは、ボート2の上面よりも数ミリ、例えば3mm、低い位置に配置されている。切片の作成時、ボート2の上面の近傍まで槽2a内に水が貯留される。したがって、最も高いステップ11a,12a上に基板Sを配置したとき、基板Sの上面が水面の近傍に配置される。
また、第1治具11の最も高いステップ11aは、前後方向においてナイフ部3の近傍に位置する。したがって、最も高いステップ11a上に載置された基板Sの前端は、前後方向および上下方向においてナイフ部3の後端の近傍に配置される。
【0020】
図6に示されるように、切片作成装置1は、切片作成装置セット20として提供されてもよい。切片作成装置セット20は、切片作成装置1と、チューブ21と、チューブ21に取り付けられるバルブ22とを備える。
チューブ21は、シリコーン等の樹脂製であり、排水路4の出口に接続可能である。チューブ21の一端には、前述の継手7、例えば、プラグ7bが接続されていてもよい。
【0021】
バルブ22は、チューブ21に取り付けられ、手動で開閉される。バルブ22を開くことによって槽2aから排水路4およびチューブ21を経由して水を排出することができる。バルブ22は、排水速度を調節する機能を有していてもよく、例えば、ローラ式チューブクランプまたはネジ式チューブクランプであることが好ましい。ユーザは、ローラ22aをスライドさせることによって、またはネジ(図示略)を回転させることによって、排水速度を無段階でかつ直感的に調節することができる。
【0022】
次に、切片作成装置1および切片作成装置セット20の使用方法について説明する。
まず、チューブ21を排水路4の出口に接続し、ボート2をミクロトームまたはウルトラミクロトームに搭載し、槽2a内の第1治具11および第2治具12に基板Sを支持させる。このとき、ユーザは、第1配置、第2配置および第3配置の中から好みの配置を選択することができる。
【0023】
次に、バルブ22を閉じた状態で槽2a内に水を注入し、槽2a内に水を貯留する。次に、ミクロトームまたはウルトラミクロトームを動作させることによって、試料をナイフ部3によってスライスし切片を作成する。切片は、槽2a内の水の水面に浮かぶ。アレイトモグラフィ用の連続切片を作成する場合、前後方向に一列に並ぶ複数枚の切片が水面に浮かぶ。
【0024】
所望の数の切片を作成した後、バルブ22を開き槽2aから水を排出する。このとき、水は、槽2aの底部の入口4aから重力による自然落下によって、水面を揺らすことなく排出される。水が排出するにつれて水面が次第に低下し、切片が基板Sの上面に付着し基板S上に回収される。水の排出が完了した後、切片が付着した基板Sを槽2a内から取り出し、基板S上の切片を乾燥させる。
【0025】
このように、本実施形態によれば、基板支持機構5によって、基板Sの配置を第1配置、第2配置および第3配置の間で変更可能である。したがって、ユーザは、後述するように、ユーザのスキルおよび切片のサイズ等に応じて基板Sの配置を選択することができる。
【0026】
第1配置は、連続切片の操作に不慣れなユーザに好適である。第1配置において、高いステップ11a上に載置される基板Sの前端が、刃3aの近傍に配置される。基板Sが刃3aから離れた位置に配置される場合、まつ毛プローブ等を使用して連続切片を刃3aから離し基板S上へ移動させる熟練の作業が必要となる。第1配置の場合、刃3aから後側に延びる連続切片を刃3aから離す操作および水面に浮く連続切片を移動させる操作が不要であり、連続切片の作成後、水を排出するだけで連続切片を基板S上に容易に回収することができる。
【0027】
また、第1配置は、しわが生じやすい切片、例えば柔らかい切片の回収に好適である。第1配置の場合、基板Sが傾斜していることによって、基板Sの良好な水切れを実現することができる。すなわち、水の排出中、基板Sの前端から後端に向かって連続的に水面が移動し、水が基板Sの上面上に残ることが防止される。水の排出後に上面上に水が残った場合、乾燥の際に水の表面張力によって切片にしわが生じ得る。第1配置の場合、良好な水切れによって、切片にしわが生じることを抑制することができる。
【0028】
第2配置は、長いリボン状の連続切片の回収に好適である。すなわち、第1配置および第3配置と比較して、水中に配置される基板Sの上面の長さが長くなる。したがって、より多くの切片を含む長い連続切片を1つの基板S上に回収することができる。
また、第2配置は、第1配置と同様に、連続切片の操作に不慣れなユーザに好適である。すなわち、高いステップ11a,12a上に基板Sを載置することによって、基板Sの前端が刃3aの近傍に配置される。したがって、連続切片を刃3aから離す操作および水面に浮く連続切片を移動させる操作を不要とし、連続切片を基板S上に容易に回収することができる。
【0029】
第3配置は、第1配置と同様に、しわが生じやすい切片の回収に好適である。すなわち、第3配置の場合、基板Sが傾斜していることによって、基板Sの良好な水切れを実現することができ、切片にしわが生じることを抑制することができる。
また、第3配置において、低いステップ11a上に基板Sの前端部を配置することによって、基板Sを刃3aから離れた位置に配置することができ、基板Sが刃3aと接触することをより確実に防止することができる。また、第3配置の場合、ユーザは、ボート2の外側に配置される基板Sの後端部を持ち、基板Sをハンドリングすることができる。このように、第3配置は、第1配置および第2配置と比較して基板Sの取り扱いが容易である。
【0030】
また、本実施形態によれば、各治具11,12に複数のステップ11a,12aが設けられていることによって、第1配置および第3配置では基板Sの傾斜角度が調節可能であり、第1配置、第2配置および第3配置では基板Sの高さが調節可能である。したがって、ユーザは、試料の種類および切片のサイズ等の条件に応じて基板Sの傾斜角度および高さを選択することができる。
【0031】
例えば、傾斜する基板Sの上面上での水の排出中の水面の移動速度は、排水路4による排水速度に加えて、基板Sの傾斜角度にも依存する。つまり、基板Sの傾斜角度が小さい程、基板Sの上面上での水面の移動速度は速くなる。試料の種類や切片のサイズ等に応じて、基板Sの上面上での水面の移動速度は、遅い方が好ましい場合と速い方が好ましい場合がある。ユーザは、基板Sの傾斜角度によって、基板Sの上面上での水面の移動速度をより細かく調節することができる。
【0032】
また、水の排出中、水面に浮いている切片は、鉛直下方に真っすぐに移動するとは限らず、水平方向にも移動し得る。基板Sが水面から深い位置に配置されている場合、水面が基板Sの上面まで低下するまでの間に切片が水平方向に移動し、基板Sの所望の位置に切片を搭載することが難しいことがある。本実施形態によれば、基板Sの上面が水面の近傍に配置される浅い位置(高い位置)に基板Sを配置することができ、基板Sの所望の位置に確実に切片を搭載させることができる。例えば、浅い位置に水平にまたは小さな傾斜角度で基板Sを配置することによって、長いリボン状の連続切片を基板Sの意図する位置に容易に回収することができる。
【0033】
また、本実施形態によれば、ボート2に設けられた排水路4によって、槽2a内の水が自然落下で排水される。シリンジ等によって強制的に槽2aの水を吸引し排出する場合、排水速度の制御が困難であり水面に揺れが生じやすい。水面の揺れは、切片の移動やしわを引き起こす。これに対し、排水路4によれば、水面を揺らすことなく水を排出することができる。バルブ22が流量調節機能を有する場合、排水速度の調節によって、水面の揺れをより確実に防止することができる。特に、ローラ式チューブクランプ22またはネジ式チューブクランプの場合、ユーザは、槽2a内の水面の低下速度またはチューブ21の他端からの水の滴下速度を観察しながら、排水速度を容易に微調節することができる。
【0034】
第1配置および第2配置の基板Sはナイフ部3の近傍に配置される。したがって、刃3aを基板Sとの接触から保護する保護構造がボート2に設けられていることが好ましい。
図1(a),(b)に示されるように、保護構造の一例は、ナイフ部3の左側および右側において前壁2bに形成された凹部9である。各凹部9は、前壁2bの内面(後面)と上面との間の角部を切り欠くことによって形成され、前壁2bの内面および上面に開口する。
【0035】
各凹部9の内面は、ナイフ部3に近付くにつれて前壁2bの外面(前面)に近付く曲面である。刃3aは、前後方向において前壁2bの内面よりも前側(外側)に配置され、上下方向において前壁2bの上面よりも低い位置に配置される。また、右側の凹部9の右端から左側の凹部9の左端までの左右方向の距離D(
図1(a)参照。)は、一般に使用される基板Sの幅よりも小さい。
【0036】
したがって、
図7(a)に示されるように、槽2a内において前側が高くなる方向に傾斜する基板Sは、2つの凹部9の左右方向外側おいて前壁2bの角と接触し、刃3aと接触することはない。
図7(b)に示されるように、槽2a内において平行に配置された基板Sは、2つの凹部9の左右方向外側において前壁2bの内面と接触し、刃3aと接触することはない。同様に、槽2a内において後側が高くなる方向に傾斜する基板S(
図7(b)の二点鎖線参照。)も、2つの凹部9の左右方向外側において前壁2bの内面と接触し、刃3aと接触することはない。
【0037】
本実施形態において、基板支持機構5が、第1配置、第2配置、第3配置および第4配置の間で基板Sの配置を変更可能であってもよい。第4配置は、基板Sが左右方向に傾斜する配置である。
例えば、
図8(a),(b)に示されるように、基板支持機構5が、槽2a内に配置可能であり、基板Sを第4配置に支持するための第3治具13をさらに備えていてもよい。
【0038】
第3治具13は、ボート2とは別体であり、槽2a内において前後方向に移動可能かつボート2から取り外し可能な可動治具である。
図8(a),(b)において、基板Sは、左側が低くなる方向に傾斜している。第3治具13の向きを水平方向に180°変更することによって、基板Sを、右側が低くなる方向にも傾斜させることができる。第1治具11および第2治具12と同様に、第3治具13は、基板Sの傾斜角度を変更するための複数のステップ13aを有していてもよい。
【0039】
本実施形態において、第1治具11が、ボート2に固定されていることとしたが、第2治具12と同様に、ボート2とは別体であり、ボート2から取り外し可能であってもよい。
本実施形態において、第2治具12が、ボート2とは別体であり、ボート2から取り外し可能であることとしたが、これに代えて、前後方向に移動可能にボート2に取り付けられていてもよい。この場合、後壁2cに代えて第2治具12上に基板Sを載置することによって、基板Sを第3配置に配置してもよい。
【0040】
本実施形態において、各治具11,12が複数のステップ11a,12aを有することとしたが、これに代えて、単一のステップを有していてもよい。各治具11,12のステップが1つのみである場合、基板Sの傾斜角度および高さの段階的な調節を行うことはできないが、第1配置と第2配置との間で基板Sの配置を変更することができる。
本実施形態において、切片作成装置1が、排水路4を備えることとしたが、切片作成装置1は、必ずしも排水路4を備えていなくてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 切片作成装置
2 ボート
3 ナイフ部
4 排水路
5 基板支持機構
11 第1治具
12 第2治具
11a,12a ステップ
20 切片作成装置セット
21 チューブ
22 バルブ、ローラ式チューブクランプ
S 基板