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  • 特開-歯科用の局所麻酔液 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022075019
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】歯科用の局所麻酔液
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/573 20060101AFI20220511BHJP
   A61K 31/167 20060101ALI20220511BHJP
   A61P 23/02 20060101ALI20220511BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20220511BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
A61K31/573
A61K31/167
A61P23/02
A61P1/02
A61P43/00 121
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020185536
(22)【出願日】2020-11-06
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】520434499
【氏名又は名称】医療法人祥和会
(74)【代理人】
【識別番号】100104802
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 尚人
(72)【発明者】
【氏名】服部 康治
【テーマコード(参考)】
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA10
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA66
4C086NA06
4C086ZB11
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206GA19
4C206GA31
4C206KA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA37
4C206MA86
4C206NA06
4C206ZA21
4C206ZC75
(57)【要約】
【課題】歯科用の局所麻酔剤を口腔内の患部に投与した場合に、治療後に惹起されうる患者の不定愁訴、特に口腔周囲の不快感を軽減することができる新たな歯科用の局所麻酔液を提供すること。
【解決手段】
本発明として、例えば、水溶液中に有効成分として局所麻酔薬およびステロイド薬を有効量含むことを特徴とする歯科用局所麻酔液や、有効成分として局所麻酔薬を含む歯科用の局所麻酔液の一部を抜き取る工程、および抜き取った後に残存している該局所麻酔液に有効成分としてステロイド薬を含むステロイド注射液を補充する工程を含む、歯科用局所麻酔液の製造方法を挙げることができる。
本発明によれば、歯科治療のため局所麻酔を受けた患者の治療後における口腔周りの不快感を軽減することができる
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液中に有効成分として局所麻酔薬およびステロイド薬を有効量含むことを特徴とする、歯科用局所麻酔液。
【請求項2】
有効成分として局所麻酔薬を含む歯科用の局所麻酔液の一部が抜き取られ、残存している該局所麻酔液に有効成分としてステロイド薬を含むステロイド注射液が補充されてなる、請求項1に記載の歯科用局所麻酔液。
【請求項3】
カートリッジに封入されているか、またはカートリッジに封入され、かかるカートリッジが更にシリンジに装填されてなる、もしくはそれに更に注射針が取り付けられてなる、請求項1または2に記載の歯科用局所麻酔液。
【請求項4】
さらに、血管収縮薬を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の歯科用局所麻酔液。
【請求項5】
局所麻酔薬がリドカインまたはその医薬上許容される塩であり、ステロイド薬がデキサメタゾンもしくはそのエステルまたはそれらの医薬上許容される塩である、請求項1~4のいずれか一項に記載の歯科用局所麻酔液。
【請求項6】
ステロイド薬と併用するための、有効成分として局所麻酔薬を含む歯科用局所麻酔液。
【請求項7】
有効成分として局所麻酔薬を含む歯科用の局所麻酔液の一部を抜き取る工程、および抜き取った後に残存している該局所麻酔液に有効成分としてステロイド薬を含むステロイド注射液を補充する工程を含む、歯科用局所麻酔液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品製剤の技術分野に属する。本発明は、局所麻酔剤にステロイド薬を含む、歯科用の局所麻酔液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯を削るときや歯に外科手術を施す場合などには、通常、局所麻酔剤が口腔内の患部付近に注射される。また、神経のあるところに局所麻酔剤を注射し、神経が走っている先端部分まで麻酔することもある。これらの麻酔方法は、それぞれ浸潤麻酔および伝達麻酔と言われる。いずれにしても、治療後において、患者が口腔周りに不快感を覚えることがある。
【0003】
歯科用局所麻酔剤は、リドカインなどの麻酔薬の他に、麻酔薬が抹消血管に移行して取り除かれてしまうことを防ぎ、作用時間を持続させるために、血管収縮剤が添加されているものが多い(例えば、非特許文献1参照)。かかる血管収縮剤としては、例えば、エピネフリン(アドレナリン)が挙げられる。その他、パラベンなどの保存剤やpH調整剤等の添加剤が含まれている。
浸潤麻酔で使用される歯科用局所麻酔剤は、日本においては、通常、1mLまたは1.8mLの薬液が入ったカートリッジタイプで提供されている。このカートリッジを専用のシリンジに装填し、例えば注射針を取り付け使用される。なお、局所麻酔は、手動で行う方法と電動で行う方法とがある。
【0004】
ステロイドは、副腎皮質ホルモンであって、炎症を抑えたり、免疫を抑制させたり、アレルギーを抑えるなどの作用があり、様々な治療に広く用いられている。ステロイドは、錠剤等の経口投与剤や軟膏等の外用剤の他、注射液としても提供されている(例えば、非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】独立行政法人医薬品医療機器総合機構、「歯科用キシロカインカートリッジ」、2017年1月改訂(第13版)、[on line]、[令和2年10月9日検索]、インターネット(https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/2710806U1021_3_07/)
【非特許文献2】独立行政法人医薬品医療機器総合機構、「デカドロン注射液1.65mg」、2020年 7月改訂(第2版)、[on line]、[令和2年10月9日検索]、インターネット(https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/2454405H1024_3_04/)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、歯科用の局所麻酔剤を口腔内の患部付近に投与した場合に、治療後に惹起されうる患者(大人、小児)の不定愁訴、特に口腔周囲の不快感を軽減することができる新たな歯科用の局所麻酔液を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、市販の局所麻酔剤にステロイド薬を含ませることにより幸運にも上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明として、例えば、下記のものを挙げることができる。
[1]水溶液中に有効成分として局所麻酔薬およびステロイド薬を有効量含むことを特徴とする、歯科用局所麻酔液。
[2]有効成分として局所麻酔薬を含む歯科用の局所麻酔液の一部が抜き取られ、残存している該局所麻酔液に有効成分としてステロイド薬を含むステロイド注射液が補充されてなる、上記[1]に記載の歯科用局所麻酔液。
[3]カートリッジに封入されているか、またはカートリッジに封入され、かかるカートリッジが更にシリンジに装填されてなる、もしくはそれに更に注射針が取り付けられてなる、上記[1]または[2]に記載の歯科用局所麻酔液。
[4]さらに、血管収縮薬を含む、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の歯科用局所麻酔液。
[5]局所麻酔薬がリドカインまたはその医薬上許容される塩であり、ステロイド薬がデキサメタゾンもしくはそのエステルまたはそれらの医薬上許容される塩である、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の歯科用局所麻酔液。
[6]ステロイド薬と併用するための、有効成分として局所麻酔薬を含む歯科用局所麻酔液。
[7]有効成分として局所麻酔薬を含む歯科用の局所麻酔液の一部を抜き取る工程、および抜き取った後に残存している該局所麻酔液に有効成分としてステロイド薬を含むステロイド注射液を補充する工程を含む、歯科用局所麻酔液の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、歯科治療のため局所麻酔を受けた患者の治療後における口腔周りの不快感を軽減することができる。かかる不快感としては、例えば、唇のしびれ、強張り、ずきずき感、冷感、かゆみ(特に小児)を挙げることができる。かかる不快感の軽減により、特に小児の治療後に見られる、唇を噛んだり、頬を掻きむしったりする行為も減らすことができる。
また、口腔周囲の上記不快感の軽減と共に、アナフィラキシーや神経不可逆性も予防しうる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】カートリッジタイプの歯科用局所麻酔剤(中央)とそれを使用する際に用いる麻酔器具の一例を示した写真。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1 本発明に係る局所麻酔液
本発明に係る局所麻酔液(以下、「本発明局所麻酔液」という。)は、歯科用の局所麻酔液であって、水溶液中に有効成分として局所麻酔薬およびステロイド薬を有効量含むことを特徴とする。本発明局所麻酔液は、有効成分として局所麻酔薬を含む歯科用の局所麻酔液の一部が抜き取られ、残存している該局所麻酔液に有効成分としてステロイド薬を含むステロイド注射液が補充されてなるものでもよい。ここで、補充されるステロイド注射液の液量は、抜き取られる局所麻酔液の液量と同量であっても異なった液量であってもよい。
また、本発明局所麻酔液は、ステロイド薬と併用するための、有効成分として局所麻酔薬を含む歯科用局所麻酔液であってもよい。当該本発明局所麻酔液の場合には、ステロイド薬から独立して存在していてもよく、ステロイド薬は必ずしも含まれていなくてもよい。
【0012】
1.1 局所麻酔薬
本発明局所麻酔液は、有効成分として局所麻酔薬を含む。かかる局所麻酔薬は、いわゆるナトリウムチャネルブロッカーであって、歯科用治療において使用でき、水に溶解するものであれば特に制限されず、短時間作用型であっても長時間作用型であってもよい。具体的には、プロカイン、テトラカインなどのエステル型、リドカイン、メピバカイン、ブピバカイン、レボブピバカイン、ロピバカイン、プロピトカインなどのアミド型を挙げることができる。この中、アミド型局所麻酔薬が好ましく、その中でもリドカイン、メピバカイン、プロピトカインが好ましい。これらは、水への溶解性を図るため、通常、医薬上許容される塩の形態で提供される。かかる医薬上許容される塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩などの無機酸塩;シュウ酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩などの有機酸塩を挙げることができる。局所麻酔薬が塩の場合、リドカイン塩酸塩、メピバカイン塩酸塩が好ましい。リドカイン塩酸塩を含む局所麻酔剤は、例えば、歯科用キシロカイン(登録商標)カートリッジ、オーラ(登録商標)注歯科用カートリッジ、エピリド(登録商標)配合注歯科用カートリッジなどの商品名で販売されている。メピバカイン塩酸塩を含む局所麻酔剤は、例えば、スキャンドネスト(登録商標)カートリッジなどの商品名で販売されている。プロピトカイン塩酸塩を含む局所麻酔剤は、例えば、シタネスト-オクタプレシン(登録商標)カートリッジなどの商品名で販売されている。これら市販品の液量は、1mLまたは1.8mLである。いずれも本発明局所麻酔液において使用することができる。
【0013】
本発明局所麻酔液中における局所麻酔薬の含有量は、局所麻酔薬の種類や他の成分などによって異なるが、12~40mg/mLの範囲内が適当であり、14~35mg/mLの範囲内が好ましく、16~30mg/mLの範囲内がより好ましい。局所麻酔薬がリドカインの場合には、リドカインとして12~25mg/mLの範囲内が適当であり、14~22mg/mLの範囲内が好ましく、16~20mg/mLの範囲内がより好ましい。12mg/mLより少量の含有量や40mg/mLより多い含有量を排除するものではないが、12mg/mLより少量であると麻酔作用を発揮するのに多くの量を投与しなければならない可能性があり、40mg/mLより多いと局所麻酔薬によっては十分に溶解しないおそれがある。
【0014】
1.2 ステロイド薬
本発明局所麻酔液は、有効成分としてステロイド薬を含む。かかるステロイド薬は、副腎皮質ホルモンであって、歯科用治療において使用でき、水に溶解するものであれば特に制限されない。また、短時間作用型(半減期:8~12時間)、中時間作用型(半減期:12~36時間)、長時間作用型(半減期:36~54時間)のいずれであってもよい。具体的には、活性本体が、例えば、ヒドロコルチゾン(コルチゾール)、コルチゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、デキサメタゾン、ペタメタゾンやこれらのエステルを挙げることができる。かかるエステルとしては、例えば、リン酸エステル、コハク酸エステル、酢酸エステル、パルミチン酸エステルを挙げることができる。また、これらは、水への溶解性を図るため、通常、医薬上許容される塩の形態で提供される。かかる医薬上許容される塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩を挙げることができる。この中、デキサメタゾンやそのエステルやその塩が好ましく、デキサメタゾンリン酸エステルナトリウムがより好ましい。
【0015】
本発明局所麻酔液中におけるステロイド薬の含有量は、ステロイド薬の種類、局所麻酔薬の種類や他の成分などによって異なるが、1.2~16mg/mLの範囲内が適当であり、1.4~14mg/mLの範囲内が好ましく、1.6~12mg/mLの範囲内がより好ましい。ステロイド薬がデキサメタゾンの場合には、デキサメタゾンとして、0.05~1mg/mLの範囲内が適当であり、0.1~0.7mg/mLの範囲内が好ましく、0.3~0.6mg/mLの範囲内がより好ましい。0.05mg/mLより少量では本発明の効果を十分に得られないおそれがある。
基本的には少量でよい。
【0016】
1.3 血管収縮薬
本発明局所麻酔液は、有効成分として血管収縮薬を含むことができる。かかる血管収縮薬は、通常、局所麻酔薬を局所に停滞しやすくし、作用時間を長くするために加えられる。血管収縮薬の具体例としては、エピネフリン(アドレナリン)やその医薬上許容される塩(例、酒石酸水素塩)、フェリプレシンを挙げることができる。
【0017】
本発明局所麻酔液中における血管収縮薬の含有量は、局所麻酔薬の種類や他の成分などによって異なるが、0.005~0.1mg/mLの範囲内が適当であり、0.008~0.05mg/mLの範囲内が好ましく、0.01~0.02mg/mLの範囲内がより好ましい。血管収縮薬がエピネフリンの場合には、エピネフリンとして、前記と同様の含有量を挙げることができる。
【0018】
1.4 その他
本発明局所麻酔液には、必要に応じて、医薬上許容される、保存剤、pH調節剤、等張化剤、溶解補助剤を適量含むことができる。
保存剤としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピルを挙げることができる。
【0019】
pH調整剤としては、例えば、乳酸、二酸化炭素、コハク酸、グルコン酸、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、リン酸、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムを挙げることができる。
等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、ぶどう糖を挙げることができる。
溶解補助剤としては、例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールを挙げることができる。
【0020】
本発明局所麻酔液は、例えば、図1の中央部に示すような、歯科局所麻酔用の適当なカートリッジに封入されていることが好ましい。また当該カートリッジに封入され、かかるカートリッジが専用のシリンジに装填されていてもよく、更にそれに注射針等が取り付けられていてもよい。本発明局所麻酔液が封入されたカートリッジ、シリンジ、注射針等がセットされたキットも本発明に含むことができる。
【0021】
2 本発明局所麻酔液の製造方法と使用方法
本発明局所麻酔液は、例えば、次のようにして製造することができる。
本発明局所麻酔液は、有効成分として局所麻酔薬を含む歯科用の局所麻酔液の一部を抜き取り、残存している該局所麻酔液に有効成分としてステロイド薬を含むステロイド注射液を補充することにより製造することができる。また、局所麻酔液の一部を抜き取らず、ステロイド注射液を局所麻酔液に単純に追加することによっても製造することができる。あるいは、有効成分として局所麻酔薬を含む歯科用の局所麻酔液の一部を抜き取る工程、および抜き取った後に残存している該局所麻酔液に有効成分としてステロイド薬を含むステロイド注射液を補充する工程を含む方法により、本発明局所麻酔液を製造することができる。また、例えば、注射用水や精製水、蒸留水などの水に、前記した局所麻酔薬やステロイド薬、必要に応じて、前記した血管収縮薬や所望の添加剤を前記した含有量となるよう常法により溶解することにより、本発明局所麻酔液を製造することもできる。
局所麻酔薬、ステロイド薬、血管収縮薬、添加剤等の用語は、前記と同義である。
【0022】
局所麻酔薬を含む歯科用の前記局所麻酔液としては、例えば、市販のカートリッジタイプの歯科用局所麻酔剤(1mLまたは1.8mL)を挙げることができる。市販のカートリッジタイプの歯科用局所麻酔剤をそのまま使用して製造することができる。その場合、市販品に使われているカートリッジはそのまま流用することができる。かかる歯科用局所麻酔剤としては、例えば、前記した、歯科用キシロカイン(登録商標)カートリッジ、オーラ(登録商標)注歯科用カートリッジ、エピリド(登録商標)配合注歯科用カートリッジ、スキャンドネスト(登録商標)カートリッジ、シタネスト-オクタプレシン(登録商標)カートリッジを挙げることができる。
【0023】
ステロイド薬を含む前記ステロイド注射液としては、例えば、歯科用に使用することができる市販のステロイド注射液を挙げることができる。市販のステロイド注射液をそのまま用いることができる。かかるステロイド注射液としては、例えば、水溶性ハイドロコートン注射液(ヒドロコルチゾンリン酸エステルナトリウムを含む)、ソル・コーテフ(登録商標)注(ヒドロコルチゾンコハク酸エステルナトリウムを含む)、サクシゾン(登録商標)注(ヒドロコルチゾンコハク酸エステルナトリウムを含む)、水溶性プレドニン(登録商標)注(プレドニゾロンコハク酸エステルナトリウムを含む)、ソル・メドロール(登録商標)注(メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウムを含む)、デポ・メドロール(登録商標)注(メチルプレドニゾロン酢酸エステルを含む)、デカドロン(登録商標)注(デキサメタゾンリン酸エステルナトリウムを含む)、オルガドロン(登録商標)注(デキサメタゾンリン酸エステルナトリウムを含む)、リメタゾン(登録商標)注(デキサメタゾンパルミチン酸エステルを含む)、リンデロン(登録商標)注(ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムを含む)を挙げることができる。。
【0024】
歯科用の局所麻酔液の一部を抜き取る液量としては、例えば、市販のカートリッジタイプの歯科用局所麻酔剤から抜き取る場合、全容量の1~60%の範囲内が適当であり、5~50%の範囲内が好ましく、10~45%の範囲内がより好ましい。
補充するステロイド注射液の液量としては、使用する局所麻酔液やステロイド注射液の種類などによって異なるが、例えば、抜き取った局所麻酔液の液量の10~150%の範囲内が適当であり、20~100%の範囲内が好ましく、30~60%の範囲内がより好ましい。必要に応じて、10%より少なくても、あるいは150%より多くてもよい。
【0025】
本発明局所麻酔液は、例えば、歯科局所麻酔用の適当なカートリッジに常法により封入することができる。また本発明局所麻酔液が封入されたカートリッジを専用のシリンジに装填することができる。そして、更にそれに注射針等を取り付けることができる。
【0026】
本発明局所麻酔液は、例えば、市販の手動または電動の麻酔器具を用い、市販のカートリッジタイプの歯科用局所麻酔剤と同じように使用することができる。具体的には、適当なカートリッジに封入された状態で、専用のシリンジに装填し、注射針を取り付け、手動または電動により口腔内の治療を行う患部の周辺に、通常、0.8mL~2mL(好ましくは、1mL~1.8mL)の範囲内の適当量を注射することによって使用することができる。なお、本発明局所麻酔液は、大人にも小児にも、また性別や年齢(若年者、高齢者)に関係なく使用することができる。
注射針は、歯科用で使用されるものであれば特に制限されないが、その針の太さとしては、例えば、30ゲージ(G)前後、具体的には、26~32Gの範囲内のものを挙げることができ、28~31Gの範囲内のものが好ましい。
【0027】
本発明局所麻酔液が、ステロイド薬と併用するための、有効成分として局所麻酔薬を含む歯科用局所麻酔液の場合は、例えば、本発明局所麻酔液(ステロイド薬を含まない)を口腔内の治療を行う患部の周辺に適当量注射し、続いて有効成分としてステロイド薬を含むステロイド注射液を同患部周辺に注射することができる。また、本発明局所麻酔液(ステロイド薬を含まない)を口腔内の治療を行う患部の周辺に適当量注射し、続いて有効成分としてステロイド薬を含むステロイド注射液を同患部周辺に注射して後、再度、本発明局所麻酔液(ステロイド薬を含まない)を同患部周辺に適当量注射することもできる。
上記使用のために、本発明局所麻酔液(ステロイド薬を含まない)とステロイド注射液とをキット等として提供することもでき、そのようなキット等も本発明に含まれる。
【実施例0028】
以下に試験例や実施例などを掲げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例等により何ら限定されるものではない。
【0029】
[実施例1]本発明局所麻酔液の調製
市販のエピリド(登録商標)配合注歯科用カートリッジ1.8mLの薬液約0.8mLをディスポーサブル注射器で抜き取り、カートリッジ内に残った局所麻酔液約1mLにデカドロン(登録商標)注射液3.3mgの薬液約0.3mLを補充し、本発明局所麻酔液を調製した。かかる本発明局所麻酔液は、元のエピリド(登録商標)注射液のカートリッジ内に封入されている。
【0030】
[試験例1]治療後における患者の不快感軽減効果の検証
カートリッジ内に封入された実施例1の本発明局所麻酔液を専用の麻酔用シリンジに装填し、1G、33G、または35Gの注射針を取り付けて、患者の左歯肉内に注射した。一方、エピリド(登録商標)注を同量抜き取っただけで、デカドロン(登録商標)注射液を補充しなかった局所麻酔液を同様に患者の右歯肉内にほぼ同時に注射した。
【0031】
その結果、注射した左右歯肉付近の麻酔の効き目はいずれも同じようであったが、デカドロン(ステロイド薬)を含む本発明局所麻酔液を注射した左歯肉付近については、いつの間にか麻酔が消失し、その間唇のしびれなどの不快感を訴える患者は特にはいなかった。一方、デカドロン(ステロイド薬)を含まない従来の局所麻酔液を注射した右歯肉付近については、唇のしびれなどの不快感が3~4時間経過しても消失しないと訴える患者が殆どであった。
【0032】
また、別途、デカドロン(ステロイド薬)を含む本発明局所麻酔液を患部付近に注射したところ(約300人)、いつの間にか麻酔が消失し、その間唇のしびれなどの不快感を訴える患者は特にはいなかった。
上記から、本発明局所麻酔液は、患者の歯科治療後における口腔周囲の不快感を軽減することは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明局所麻酔液は、歯科治療後における患者の不定愁訴、特に口腔周囲の不快感を軽減することができることから、歯科領域の治療等において有用である。
図1
【手続補正書】
【提出日】2021-03-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科治療前に口腔内の患部付近に投与するための局所麻酔用注射液であって、リドカイン、メピバカイン、およびプロピトカイン、ならびにこれらの医薬上許容される塩からなる群から選択される一種以上の局所麻酔薬;ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、デキサメタゾン、およびベタメタゾン、およびこれらのエステル、ならびにこれらの医薬上許容される塩からなる群から選択される一種以上のステロイド薬;添加剤;および水のみ、またはこれらに加えて血管収縮薬のみからなることを特徴とする、歯科用局所麻酔用注射液。
【請求項2】
有効成分として前記局所麻酔薬を含む歯科用の局所麻酔液の一部が抜き取られ、残存している該局所麻酔液に有効成分として前記ステロイド薬を含むステロイド注射液が補充されてなる、請求項1に記載の歯科用局所麻酔用注射液。
【請求項3】
カートリッジに封入されているか、またはカートリッジに封入され、かかるカートリッジが更にシリンジに装填されてなる、もしくはそれに更に注射針が取り付けられてなる、請求項1または2に記載の歯科用局所麻酔用注射液。
【請求項4】
前記添加剤が、保存剤、pH調節剤、等張化剤、および溶解補助剤からなる群から選択される一種以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の歯科用局所麻酔用注射液。
【請求項5】
前記局所麻酔薬がリドカインまたはその医薬上許容される塩であり、前記ステロイド薬がデキサメタゾンもしくはそのエステルまたはそれらの医薬上許容される塩である、請求項1~4のいずれか一項に記載の歯科用局所麻酔用注射液。
【請求項6】
有効成分として、リドカイン、メピバカイン、およびプロピトカイン、ならびにこれらの医薬上許容される塩からなる群から選択される一種以上の局所麻酔薬を含む歯科用の局所麻酔液の一部を抜き取る工程、および抜き取った後に残存している該局所麻酔液に有効成分としてヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、デキサメタゾン、およびベタメタゾン、およびこれらのエステル、ならびにこれらの医薬上許容される塩からなる群から選択される一種以上のステロイド薬を含むステロイド注射液を補充する工程を含む、歯科用局所麻酔用注射液の製造方法。