(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022075024
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】布製マスクインナーおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A41D 13/11 20060101AFI20220511BHJP
【FI】
A41D13/11 Z
A41D13/11 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020185542
(22)【出願日】2020-11-06
(71)【出願人】
【識別番号】000184687
【氏名又は名称】小松マテーレ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 泰治
(72)【発明者】
【氏名】山本 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】福井 敏明
(57)【要約】
【課題】マスクのサイズに関わらずマスクに装着でき、マスクへの着脱が容易で、マスクとのずれも抑制できるマスクインナーを提供する。
【解決手段】マスクと肌との間に挟持して使用する布製のマスクインナーであって、布の少なくとも片面に起毛部を有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスクと肌との間に挟持して使用する布製のマスクインナーであって、前記布の少なくとも片面に起毛部を有していることを特徴とする、布製マスクインナー。
【請求項2】
前記起毛部が熱可塑性樹脂からなる繊維により構成され、前記起毛部は、少なくとも一部の毛羽の先端に溶融玉を有することを特徴とする、請求項1に記載の布製マスクインナー。
【請求項3】
前記起毛部を有する面は、ポリプロピレン製不織布との間の静止摩擦係数が0.40以上であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の布製マスクインナー。
【請求項4】
JIS L1096(2010)に規定のA法(フラジール形法)に準じて測定した通気性が75cm3/cm2・s以上であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の布製マスクインナー。
【請求項5】
布製マスクインナーを構成する繊維表面に、銀および光触媒の少なくとも一方が付着していることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の布製マスクインナー。
【請求項6】
基材となる布の少なくとも片面に起毛部を形成した後、加熱により前記起毛部の少なくとも一部の毛羽の先端に溶融玉を形成させることを特徴とする、布製マスクインナーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布製マスクインナーおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
花粉症対策や、インフルエンザなどの感染症対策として、マスクが使用されており、その使用頻度は年々増加している。
【0003】
従来はガーゼを用いたマスクが使用されていたが、近年では不織布を用いた使い捨て用のマスクが主に使用されている。
【0004】
不織布を用いたマスクは、ガーゼを用いたマスクに比べて目が細かいので、埃や花粉、病原体などの有害物質をろ過することにより人体に吸入されることを防いだり、咳やクシャミなどに伴い放出される飛沫の飛散を防いだりする能力が高い。しかも、不織布を用いたマスクは単価が安いので、使い捨て用にしても経済的な負担が小さい。
【0005】
とはいえ、不織布を用いたマスクは洗濯を行うことができず、繰り返し使用できないため、毎日長期にわたり使用するものにとって経済的な負担になったり、大量の廃棄物が発生したりする。
【0006】
マスクを汚れから守り、繰り返し使えるようにするため、しばしば、マスクと肌との間に挟むマスクインナーが用いられている。マスクインナーを挟むことでマスクの本体と肌とが直接触れるのを防ぎ、唾液や鼻水、ファンデーションや口紅などによる汚れからマスクの内側を守ることができる。汚れたマスクインナーは取り替えたり、洗濯したりすることにより、マスクの肌側部分を清潔に保つことができる。
【0007】
しかし、口は呼吸や発話などにより比較的よく動く器官であるため、マスクと肌との間に挟持したマスクインナーがずれてしまい、マスクインナー本来の目的を果たせなくなることが多々発生する。
【0008】
そこで、特許文献1では、マスクインナーシートの両端部に切り込み部を設け、切り込み部にマスクの耳掛け部を挿通することで、マスクとインナーシートとを固定する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示されたマスクインナーシートは、マスクへ着脱するたびに、切り込み部にマスクの耳掛け部を通す必要があり、着脱が手間である。また、マスクのサイズの大小により、マスクインナーシートを適切にマスク本体に固定できない場合も発生し、汎用性に欠けるという課題がある。
【0011】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、マスクのサイズに関わらずマスクに装着でき、マスクへの着脱が容易で、マスクとのずれも抑制できるマスクインナーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
(1)本発明に係るマスクインナーは、マスクと肌との間に挟持して使用する布製のマスクインナーであって、前記布の少なくとも片面に起毛部を有していることを特徴とする、布製マスクインナーである。
(2)本発明に係るマスクインナーにおいて、前記起毛部が熱可塑性樹脂からなる繊維により構成され、前記起毛部は少なくとも一部の毛羽の先端に溶融玉を有するとよい。
(3)本発明に係るマスクインナーにおいて、前記起毛部を有する面は、ポリプロピレン製不織布との間の静止摩擦係数が0.40以上であるとよい。
(4)本発明に係るマスクインナーは、JIS L1096(2010)に規定のA法(フラジール形法)に準じて測定した通気性が75cm3/cm2・s以上であるとよい。
(5)本発明に係るマスクインナーにおいて、布製マスクインナーを構成する繊維表面に、銀および光触媒の少なくとも一方が付着しているとよい。
【0013】
また本発明は、以下のものも含む。
(6)本発明に係るマスクインナーの製造方法は、基材となる布の少なくとも片面に起毛部を形成した後、加熱により前記起毛の少なくとも一部の毛羽の先端に溶融玉を形成させることを特徴とする、布製マスクインナーの製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、マスクのサイズや特別な機構の有無に関わらず使用でき、マスクと肌との間に挟持したマスクインナーがずれにくく、マスク本体の内側を汚れから守ることができる布製マスクインナーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態の布製マスクインナーをマスクに装着した状態を示す斜視図である。
【
図2】実施形態の布製マスクインナーの断面を示す説明図である。
【
図3】実施例2の布製マスクインナーの光学顕微鏡写真(30倍)である。
【
図4】比較例2の布製マスクインナーの光学顕微鏡写真(30倍)である。
【
図5】実施例3の布製マスクインナーの片面の起毛部に存在する、先端に溶融玉が形成されている毛羽の光学顕微鏡写真(300倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態における構成要素のうち独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、本発明は、以下の態様のみに限定されるものではなく、本発明の精神と実施の範囲において多くの変形が可能である。
【0017】
図1は、本実施形態の布製マスクインナー1を、マスク10に装着した状態を示す斜視図である。
図2は、布製マスクインナー1の断面を示す説明図である。
マスク10は、布や不織布からなる平面視矩形状のマスク本体11と、マスク本体11の側端部に固定されるゴム紐からなる耳掛け部12と、を有する。
図1におけるマスク本体11の上面が、装着者の顔側へ向けて装着される内側面11aである。本実施形態の布製マスクインナー1は、マスク本体11の内側面11aのうち、装着者の鼻および口と対向する領域に配置される。
【0018】
<布製マスクインナー>
本実施形態の布製マスクインナーは、マスクと肌との間に挟持して使用する布製のマスクインナーであり、布の少なくとも片面に起毛部を有していることを特徴とする。
【0019】
図1および
図2に示すように、本実施形態の布製マスクインナー1は、平面視で概略矩形状の布製シートである。布製マスクインナー1は、
図2における上面がマスク本体11側を向く外側面1aであり、下面が装着者の顔面と対向する内側面1bである。布製マスクインナー1は、マスク本体11側を向く外側面1aに、外側面1aから立ち上がる多数の毛羽2からなる起毛部3を有する。本実施形態の場合、装着者の顔面に接触する内側面1bには、起毛部3は設けられていない。毛羽2は、布製マスクインナー1の布表面から立毛する繊維の端部である。毛羽2には、布製マスクインナー1の布内部に位置する端部は含まれない。なお、毛羽2は、布表面から飛び出している繊維のことを指し、
図2に示すように立毛しているものだけでなく、寝ているものであってもよい。
【0020】
本実施形態において、布製マスクインナー1を構成する布の素材は、ポリエステル、ナイロン、ビニロン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタンなどの合成繊維、アセテートなどの半合成繊維、レーヨンなどの再生繊維、綿、麻、絹、羊毛などの天然繊維、および、これらを混繊、混紡、交織、交編したものであってもよく、特に限定されるものではない。後述する布を起毛加工により起毛させ、毛羽2の先端に溶融玉2aを形成する場合においては、布製マスクインナー1の布として、熱可塑性樹脂からなる繊維、具体的には前記の合成繊維を用いるのがよい。
【0021】
本実施形態において、布製マスクインナー1を構成する布に用いられる糸は、長繊維を用いたフィラメント糸、短繊維を用いたスパン糸のいずれであってもよいが、短繊維は脱落しやすく、着用および脱着操作により毛羽2が抜け、静止摩擦係数の低下を招くおそれがあるため、フィラメント糸を用いることが好ましい。なお、スパン糸は、別途の加工をせずとも毛羽を発生させやすいため、スパン糸を含む布は、特段の工程を経ずとも起毛部3を有している場合が多い。
【0022】
本実施の形態において、布製マスクインナー1を構成する布の組織は、平織や綾織、朱子織などの織物、丸編みや経編、二重編地構造などの編物、スパンボンドやスパンレース、メルトブローンなどの不織布など、特に限定されるものではない。
【0023】
また、布製マスクインナー1は、任意の色に着色されていてもよい。布製マスクインナー1の着色は、布に使用されている素材に応じて、公知の方法で着色処理およびフィックス処理などを行えばよい。
【0024】
本実施の形態に係る布製マスクインナー1は、布の少なくとも片面に起毛部3を有している。起毛部3を有するとは、ルーペや顕微鏡などを用い、布製マスクインナー1の断面方向から6倍~50倍程度の倍率で観察した際、布製マスクインナー1の表面から毛羽が多数飛び出していることが確認できる程度に毛羽が存在していることを指す。
図3に、起毛部を有する布製マスクインナーの一例として、本発明の実施例2(後述する)の布製マスクインナーの光学顕微鏡写真を示す。
図4に、起毛部を有さない布製マスクインナー1の一例として、後述する比較例2の布製マスクインナーの光学顕微鏡写真を示す。
図3および
図4に示すように、起毛部の有無は、布製マスクインナーの表面を拡大観察することで判別可能である。
【0025】
布に起毛部3を与えるための具体的な方法は、後述するが、スパン糸を少なくとも一部に用いて布を製造する方法、布を起毛加工により起毛する方法、毛羽のある布をベースとなる布に積層して一体化する方法、植毛などが挙げられる。毛羽のある不織布などを積層して一体化したり、植毛したりして形成される起毛部3の場合には、起毛部3の素材として布製マスクインナー1の布と異なる素材を用いてもよい。ただし、毛羽2の先端に溶融玉2aを形成する場合には、布製マスクインナー1の布の素材に関わらず、熱可塑性樹脂からなる繊維を用いるのがよい。
【0026】
布製マスクインナー1は、布製マスクインナー1の少なくとも片面に起毛部3を有していればよいが、布製マスクインナー1の両面に起毛部3を有していてもよい。ただし、着用時にチクチクとした刺激が少ないことや、生産工程を減らしやすいとの観点から、布製マスクインナー1の片面にだけ起毛部3を有していることが好ましい。
【0027】
また、本実施の形態に係る布製マスクインナー1において、毛羽2の先端には溶融玉2aが存在するとよい。
図5に、溶融玉を有する毛羽を含む布製マスクインナーの一例として、後述する実施例3の布製マスクインナーの光学顕微鏡写真を示す。毛羽2の先端に溶融玉2aが存在していることによって、マスク10と布製マスクインナー1との間の静止摩擦係数が大きくなり、マスク10と肌との間に挟持した布製マスクインナー1がずれることを防ぐ能力が高くなる。溶融玉2aとは、熱可塑性樹脂からなる起毛部を加熱することにより、毛羽2の先端を溶融、冷却により固化させた玉状の熱可塑性樹脂である。起毛部3に対する加熱処理により、元の毛羽2の柄と、毛羽2の先端の溶融玉2aによる頭とからなる待針状の毛羽2となり、マスク10と布製マスクインナー1との間の静止摩擦係数を未加工の起毛部と比較してより大きくすることができる。
【0028】
先端に溶融玉2aが存在する毛羽2は、その密度が高いほど静止摩擦係数を高めることができるが、その密度を高める起毛加工および溶融玉2aを形成する加工は、布へダメージを与える加工であるため、求める布製マスクインナー1の静止摩擦係数と布製マスクインナー1の強度とのバランスを考えながら溶融玉2aが存在する毛羽2の密度を調整すればよく、一部の毛羽2の先端にだけ溶融玉2aが存在している形態としてもよい。なお、溶融玉2aは必要に応じて形成すればよく、マスク10との間で十分に大きい静摩擦係数が得られるならば、溶融玉2aを有さない起毛部3としてもよい。
【0029】
また、本実施の形態に係る布製マスクインナー1は、起毛部3を有する面において、ポリプロピレン製不織布との間の静止摩擦係数が0.40以上であるとよい。一般的なマスク10として使用されるポリプロピレン製不織布と、起毛部3を有する面との間の静止摩擦係数が0.40以上であれば、マスク10と肌との間に挟持した布製マスクインナー1がずれることを防ぐ能力が十分に発揮される。この観点から、より好ましい静止摩擦係数は0.50以上、特に好ましい静止摩擦係数は0.60以上である。
一方、起毛部3を有する面における静止摩擦係数の上限は、特に限定されるものではないが、加工の容易性や布製マスクインナー1の強度などの観点から、例えば1.40以下である。
【0030】
また、本実施の形態に係る布製マスクインナー1において、JIS L1096(2010)に規定のA法(フラジール形法)に準じて測定した通気性が75cm3/cm2・s以上であるとよい。一般的に、通気性の低い布に通気性の高い布を重ねる際、通気性の高い布の通気性が、通気性の低い布の通気性と比較して3倍程以上高い場合、通気性はほぼ変わらない。布製マスクインナー1の通気性が75cm3/cm2・s以上であれば、25cm3/cm2・s程度である一般的な不織布製マスクの通気性と比較して3倍程度以上高くなる。上記の通気性を有する布製マスクインナー1であれば、マスク10に重ねて(マスクと肌との間に挟持して)着用しても、マスク10単独で着用した場合と比較して、息のしやすさにほぼ影響を与えない。この観点から、より好ましい通気性は100cm3/cm2・s以上、特に好ましい通気性は120cm3/cm2・s以上である。
一方、布製マスクインナー1の通気性の上限は、特に限定されるものではないが、唾液や鼻水、ファンデーションや口紅などが布製マスクインナーを透過し、マスク本体11の内側が汚れてしまうことを防ぐという観点から、例えば500cm3/cm2・s以下とすることが好ましい。
【0031】
以上に説明した本実施形態の布製マスクインナー1は、起毛部3を有することで、マスク10との間で高い静止摩擦係数を得ることができ、使用中にマスク10の内側でずれるのを抑制できる。これにより、布製マスクインナー1は、マスク10と肌との間に挟み込むだけで、マスク10に対して位置ずれすることなく快適に使用できる。布製マスクインナー1は、装着者の鼻や口の前から位置ずれしにくいので、マスク本体11の内側を汚れから守ることができる。布製マスクインナー1は、摩擦力によってマスク10の内側面11aに保持されるため、マスク10に固定するための特別な構造が不要であり、マスク10への脱着が手間なく簡便に行える。
【0032】
また、本実施の形態における布製マスクインナー1において、本発明の目的を逸脱しない範囲で、消臭性、抗菌性、抗ウイルス性、防汚性、汚れ除去性、撥水性、保湿性、吸水性などの機能を有していてもよい。なかでも、マスク10本来の目的である防疫の機能を強化する抗菌性や抗ウイルス性を有していることが好ましい。
【0033】
本実施の形態に係る布製マスクインナー1に抗菌性や抗ウイルス性を付与するため、抗菌剤や抗ウイルス剤が、繊維の中に練り込まれている、もしくは繊維の表面に付着しているとよい。具体的な抗菌剤や抗ウイルス剤としては、メソポーラスシリカやゼオライトなどの多孔質体、硫酸アルミニウムや酸化亜鉛などの両性物質、銀や銅などの貴金属およびそれらを多孔質体などに担持した粒子、ジンクピリチオンなどの亜鉛系化合物、第4級アンモニウム塩などの陽イオン性界面活性剤、ベタインなどの両性界面活性剤、タンニン酸、酸化チタンや酸化タングステンなどの光触媒などである。なかでも、銀、および光触媒は、真菌、細菌、ウイルスなどの微生物に対し、幅広い抗微生物スペクトルを有しており、かつ口臭の成分であるアンモニアやメルカプタンを吸着または分解する能力も有しているため好ましく、さらに銀と光触媒とを併用することにより、ヒトコロナウイルス229Eなどのプラス鎖RNAウイルスに対して特異的に高い抗ウイルス性が発現されるためより好ましい。
【0034】
銀は、安定的に銀イオンを溶出させるようにするため、メソポーラスシリカやゼオライトなどの多孔質体に担持した銀系化合物の形態で用いるのが好ましい。また、多孔質体は、臭気成分を物理吸着し、消臭剤としての効果も発揮する。
【0035】
これらの抗菌剤や抗ウイルス剤は、微生物と接触する機会が多くなるよう、布製マスクインナーを構成する繊維表面に付着していることが好ましい。その場合、付着量を向上させたり、摩擦や洗濯などで剤が脱落することを防ぐ目的で、バインダー樹脂や架橋剤を併用したり、ビニル基を複数有するモノマーと機能剤とを繊維表面でグラフト重合させ繊維と機能剤との間に共有結合を形成させてもよい。
【0036】
本実施の形態における布製マスクインナー1の形状および大きさは、本発明の目的を逸脱しない範囲であれば、特に限定されるものではない。一例として、布製マスクインナー1の形状は、平面視形状が四角形である。また、布製マスクインナー1の大きさとしては、同時に用いるマスク10の大きさまたはマスク10を着用して行われる作業内容や場所にもよるが、布製マスクインナー1が四角形である場合には、例えば、横方向(着用時の両耳方向)の長さが5~30cm程度で、縦方向(鼻から顎方向)の長さが3~30cm程度である。
【0037】
その他、布製マスクインナー1の形状として、四角形以外の多角形、円や楕円などの曲線を有する形状、野菜や動物、乗り物、キャラクターなどを模した任意の形状であってもよい。また、布製マスクインナー1の頂点や辺に丸みを与え、肌触りを向上させてもよい。
【0038】
また、本実施の形態に係る布製マスクインナー1は、端部に形状保持用のノーズワイヤーが設けられていてもよい。ノーズワイヤーは、例えば、布製マスクインナー1の上側(鼻側)の上辺端部に設けられている。ノーズワイヤーが設けられた布製マスクインナー1を用いる際、着用者の鼻梁に沿ってノーズワイヤーを屈曲させて着用者の鼻梁と布製マスクインナー1を密着させる。これにより、呼気の漏れや眼鏡の曇りを抑制できるという効果が得られる。
【0039】
また、本実施の形態に係る布製マスクインナー1は、複数枚積層して用いてもよいし、本発明の目的を逸脱しない範囲であれば、他のシート状物と積層して用いてもよい。特に寒い環境で使用する際には、複数枚積層して用いることにより、暖気を保持する能力が高まり、口の周りを暖かく保つ効果を発揮させられる。
【0040】
<マスクインナーの製造方法>
次に、本発明の布製マスクインナー1の製造方法の一例について説明する。なお、本発明は以下に説明する製造方法で得られるものに限定されるものではなく、本発明の精神と実施の範囲において多くの変形が可能である。
【0041】
本発明に係る布製マスクインナーの製造方法は、布の少なくとも片面に起毛部を形成した後、加熱によりその少なくとも一部の起毛部の毛羽先端に溶融玉を形成させることを特徴とする、布製マスクインナーの製造方法である。
【0042】
まず、布製マスクインナー1の基材となる布を準備する。布としては前記のものが用いられ、必要に応じて、湯洗い、精練、リラックス、染色、捺染、熱セット等の加工を施す。これらの加工は公知の方法で行えばよい。また、本発明の効果を損なわない範囲内において、他の性能を付与するため、特殊な条件にて加工を施してもよい。
【0043】
次に、布の少なくとも片面に起毛部3を形成する。布を起毛させるための具体的な方法は、(A)スパン糸を少なくとも一部に用いて布を製造する方法、(B)布を起毛加工により起毛する方法、(C)毛羽のある布をベースとなる布に積層して一体化する方法、(D)植毛など公知の方法で行えばよい。
【0044】
(A)スパン糸を少なくとも一部に用いて製造されたスパン糸を含む布は、特段の工程を経ずとも起毛部3を有している場合が多いため、改めて布を起毛させる加工を行わずともよいが、一般的に、スパン糸から自然発生する毛羽は毛足が短く、布製マスクインナー1の静止摩擦係数を向上させるのに十分でない場合もあるため、後述する(B)起毛加工をさらに施してもよい。
【0045】
(B)起毛加工としては、軽石やセラミックボールと共に洗濯することにより布表面を荒らすボールウォッシュ加工、ブラシやサンドペーパーなどで布の表面を研削するサンディング加工、針布により繊維を引っ掛けて表面に引き上げる針布起毛加工などが挙げられる。針布起毛加工を行う場合には、引き上げられたループをカットするカット起毛であれば、マスクと布製マスクインナーとの間の静止摩擦係数をより高められるため好ましい。
【0046】
(C)毛羽のある布をベースとなる布に積層一体化する方法としては、前記(A)と同様にして得られる起毛部を有する布や、短繊維を用いて製造されたウェブを、ベースとなる布の片面、または両面に積層し、ニードルパンチ法により一体化する。
【0047】
(D)植毛する方法としては、ベースとなる布の片面、または両面にポリ酢酸ビニルなどの接着剤を塗布し、別途用意した短繊維を静電気を用いてベースとなる布の表面に接着する。
【0048】
これらの起毛部を形成する方法の中で、使用できる布の選択肢が広いこと、生産性が高いことといった観点から、(B)布を起毛加工により起毛する方法が好ましい。
【0049】
次に、加熱により毛羽2の先端に溶融玉2aを形成させる。毛羽2の先端に溶融玉2aを形成させる方法としては、バーナーによる毛焼き、ヒートブロックへの接触など公知の方法で行えばよい。
【0050】
先端に溶融玉2aが存在する毛羽2を含む起毛部3は、毛羽2および溶融玉2aの密度が高いほど静止摩擦係数を高めることができるが、それらの密度を高める起毛加工および溶融玉2aを形成する加工は、布へダメージを与える加工である。そのため、求める布製マスクインナー1の静止摩擦係数と布製マスクインナー1の強度とのバランスを考えながら溶融玉2aが存在する毛羽2の密度を調整すればよく、一部の毛羽2の先端にだけ溶融玉2aが存在している形態としてもよい。溶融玉2aを形成させる密度を安定的に制御しやすいとの観点から、毛焼きにより溶融玉2aを形成することが好ましい。
【0051】
さらに、本発明の目的を逸脱しない範囲で、消臭加工、抗菌加工、抗ウイルス加工、防汚加工、汚れ除去加工、撥水加工、保湿加工、吸水加工などの機能加工を行う場合は、上記した製造工程のいずれの段階で行ってもよい。なかでも、マスク本来の目的である防疫の機能を強化する抗菌加工や抗ウイルス加工を行うことが好ましい。抗菌加工や抗ウイルス加工を行うための機能材としては、銀または銀を多孔質体に担持した銀系化合物、および/または光触媒を用いることが好ましい。
【0052】
上記の機能加工は、紡糸や紡績の際に繊維の原料中に各種機能剤を練り込む、加熱による吸塵で各種機能剤を繊維の中に取り込ませる、各種機能剤(および必要に応じてバインダー樹脂や架橋剤)が溶解または分散している加工液を布に塗布、スプレー、浸漬などで付与後乾燥して繊維表面に機能剤を付着させる、ビニル基を複数有するモノマーと各種機能剤とを湿熱や活性エネルギー線照射により繊維表面でグラフト重合させ繊維と機能剤との間に共有結合を形成させる、など公知の方法で行えばよい。なかでも、抗菌剤や抗ウイルス剤は、微生物と接触する機会が多くなるよう、布製マスクインナーを構成する繊維表面に付着させるのが好ましく、具体的には、塗付、スプレー、浸漬、グラフト重合のいずれかが好ましい。
【0053】
以上の加工を行った布に対し、適宜の形状や大きさに切り出しまたは打抜くなどの方法で布製マスクインナー1を得る。さらに必要に応じて、布製マスクインナー1にノーズワイヤーを固定する。ノーズワイヤーは、布製マスクインナーの端部に接着や縫い付けなどの方法で固定すればよい。
【実施例0054】
以下、本実施の形態における布製マスクインナーおよびその製造方法を実施例により具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例における「%」は、「質量%」を意味する。また、以下の実施例における各評価項目における各種物性などの評価は、次の方法によって行った。
【0055】
(静止摩擦係数)
ガラス板の上に目付40g/m2のポリプロピレン製スパンボンド不織布を本体側試験布として貼り付け、ガラス板を水平な台の上に置いた。その上に、幅60mm×長さ140mmに切り出した布製マスクインナーの試験体と、幅60mm×長さ120mm、質量1000gの金属製ブロックとを順に重ね、試験体の短辺をクリップで把持した。試験体を把持したクリップをバネばかりで水平方向に引っ張り、試験体が動き出した瞬間の荷重を読み取った。前記試験を5回繰り返し、読み取った荷重の平均値を1000で割った値をポリプロピレン製不織布と試験体との間の静止摩擦係数とした。なお、起毛部を有する試験体の測定の際には、起毛面を本体側試験布と接するように配置して試験を行った。
【0056】
(通気性)
JIS L1096(2010)に規定のA法(フラジール形法)に準じて5回測定し、その平均値を通気性とした。測定は、(1)試験体単体、(2)使い捨てマスク「3 Ply Soft Mask アスクル 耳にやさしい やわらかいマスク ホワイト」(販売元 アスクル株式会社、最外層にポリプロピレン製スパンボンド不織布が積層された不織布マスク)単体、(3)試験体と使い捨てマスクを積層した形態でそれぞれ測定した。なお、(2)の使い捨てマスク単体の通気性は24.3cm3/cm2・sであった。
【0057】
(抗菌性)
JIS L1902(2015)に規定の菌液吸収法にて準じて、黄色ブドウ球菌(ATCC 6538P)に対する抗菌活性値を測定した。具体的には、前記黄色ブドウ球菌を菌濃度2.3×105CFU/mLで接種し、白色蛍光灯(ネオルミスーパー FL20SW、三菱電機株式会社製)を用いた400lxの光環境下で18時間培養後、混釈平板培養法にて定量測定を行って得られた試験前後の生菌数、および標準布で同様の試験を行って得られた試験前後の生菌数を基に抗菌活性値を計算した。
【0058】
(抗インフルエンザウイルス性)
JIS L1922(2016)に規定のプラーク測定法に準じ、A型インフルエンザウイルス(H3N2 ATCC VR-1679)をウイルス株として、MDCK細胞(ATCC CCL-34)を宿主細胞として用い、白色蛍光灯(FHF32EX-N-H、パナソニック株式会社製)を用いた1000lxの光環境下で6時間作用させ、測定された試験前後の感染価を用いてA型インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス活性値を計算した。
【0059】
(ずれ性試験)
使い捨てマスク「3 Ply Soft Mask アスクル 耳にやさしい やわらかいマスク ホワイト」(販売元 アスクル株式会社、最外層にポリプロピレン製スパンボンド不織布が積層された不織布マスク)と肌との間に試験体を挟持して着用し、使い捨てマスクのみをつかんで上下に引っ張った時の試験体のずれを以下の評価基準にて評価した。なお、起毛部を有する試験体の試験の際には、起毛面を使い捨てマスクと接するように配置して試験を行った。
◎使い捨てマスクを激しく上下に引っ張っても試験体がずれない。
○使い捨てマスクを上下に引っ張っても試験体がずれない。
×使い捨てマスクを上下に引っ張ると試験体がずれる。
【0060】
(実施例1)
目付30g/m2のポリプロピレン製フィラメント糸を用いて製造されたスパンボンド不織布を用意した。前記不織布の片面をサンドペーパーによりサンディングし、片面に起毛部を形成した。その後カッターで縦60mm×横120mmに切り出し、布製マスクインナーを得た。得られた布製マスクインナーの特性を表1に記した。
【0061】
(実施例2)
表面に110dtexのポリエステル製フィラメント糸からなるメッシュの地組織、裏面に55dtexのポリエステル製フィラメント糸からなる無地の地組織、22dtexのポリエステル製フィラメント糸からなる連結糸を用い、目付172g/m2のポリエステル製二重構造編地をダブルラッセル機を用いて編立し、精練した。前記二重構造編地の裏面側をサンドペーパーによりサンディングし、片面に起毛部を形成した。その後カッターで縦60mm×横120mmに切り出し、布製マスクインナーを得た。得られた布製マスクインナーの特性を表1に記した。
【0062】
(実施例3)
実施例2で用いた二重構造編地の裏面側をサンドペーパーによりサンディングし、さらに、サンディングで形成した起毛部の毛羽先端を毛焼き機で加熱し、毛羽の先端に溶融玉を形成した。その後カッターで縦60mm×横120mmに切り出し、布製マスクインナーを得た。得られた布製マスクインナーの特性を表1に記した。
【0063】
(実施例4)
実施例2で用いた二重構造編地の裏面側をサンドペーパーによりサンディングし、さらに、サンディングで形成した起毛部の毛羽先端を毛焼き機で加熱し、毛羽の先端に溶融玉を形成した。次いで、前記二重構造編地を酸化チタン系光触媒0.5%、銀ゼオライト0.4%、およびシリコーン系バインダー0.05%の水分散液中に浸漬させ、脱水、乾燥し、繊維表面に光触媒と、銀が担持されたゼオライト粒子を付着させた。その後カッターで縦60mm×横120mmに切り出し、布製マスクインナーを得た。得られた布製マスクインナーの特性を表1に記した。
【0064】
(比較例1)
目付30g/m2のポリプロピレン製フィラメント糸を用いて製造されたスパンボンド不織布をカッターで縦60mm×横120mmに切り出し、布製マスクインナーを得た。得られた布製マスクインナーの特性を表1に記した。
【0065】
(比較例2)
実施例2で用いた二重構造編地をカッターで縦60mm×横120mmに切り出し、布製マスクインナーを得た。得られた布製マスクインナーの特性を表1に記した。
【表1】
【0066】
表1から、起毛部を有していない布製マスクインナーである比較例1、比較例2と、同一の布を用いかつ片面に起毛部を有する布製マスクインナーである実施例1、実施例2を比較すると、静止摩擦係数が向上しいていることがわかる。また、比較例1、比較例2のずれ性試験の結果では布製マスクインナーがずれてしまっている一方、実施例1、実施例2では布製マスクインナーがずれることはなかった。
【0067】
さらに起毛部の毛羽先端に溶融玉を形成した実施例3の布製マスクインナーでは、実施例2からいっそう静止摩擦係数が向上し、ずれ性試験でもより高いずれにくさを有していることがわかる。
【0068】
加えて、繊維の表面に光触媒と、銀が担持されたゼオライト粒子を付着している実施例4では、高い抗菌性および抗ウイルス性を有しており、マスク本来の目的である防疫の機能を強化する効果が期待できる。
【0069】
また、全ての布製マスクインナーにおいて、使い捨てマスク単体の通気性24.3cm3/cm2・sと、布製マスクインナーと使い捨てマスクを積層した形態で測定した通気性はほとんど変わらないことがわかる。