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特開2022-75026工作機械の主軸回転数調整システム及び主軸回転数調整プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022075026
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】工作機械の主軸回転数調整システム及び主軸回転数調整プログラム
(51)【国際特許分類】
   B23Q 15/12 20060101AFI20220511BHJP
   G05B 19/404 20060101ALI20220511BHJP
   B23Q 17/22 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
B23Q15/12 A
G05B19/404 K
B23Q17/22 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020185544
(22)【出願日】2020-11-06
(71)【出願人】
【識別番号】000117618
【氏名又は名称】安田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118728
【弁理士】
【氏名又は名称】中野 圭二
(74)【代理人】
【識別番号】100114638
【弁理士】
【氏名又は名称】中野 寛也
(72)【発明者】
【氏名】守分 康雅
【テーマコード(参考)】
3C001
3C029
3C269
【Fターム(参考)】
3C001KA07
3C001KB09
3C001TA06
3C001TB08
3C001TC02
3C001TD03
3C029AA32
3C269AB01
3C269AB31
3C269BB03
3C269CC02
3C269EF02
3C269EF21
3C269JJ10
3C269JJ19
3C269MN07
3C269MN14
3C269MN15
(57)【要約】
【課題】主軸に生じる振動を簡単に抑制することができる工作機械の主軸回転数調整システム及び主軸回転数調整プログラムを提供する。
【解決手段】工具3を装着する主軸2を回転駆動すると共に、主軸2を回転軸の軸方向に駆動する工作機械1であって、主軸2の軸方向の位置データを計測する位置計測手段11と、主軸2の回転数を変えて各回転数における該主軸2の軸方向の位置データを計測し、該位置データと基準位置から主軸2の軸方向の偏差量を算出する偏差算出手段12と、主軸2の各回転数における偏差量を記憶する記憶手段20と、加工時に主軸2の回転数を指定された回転数に対する許容範囲内において前記偏差量が最も小さい回転数に調整する回転数調整手段13と、を有する主軸回転数調整システム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具を装着する主軸を回転駆動すると共に、前記主軸を回転軸の軸方向に駆動する工作機械であって、
前記主軸の軸方向の位置データを計測する位置計測手段と、
前記主軸の回転数を変えて各回転数における該主軸の軸方向の位置データを計測し、該位置データと基準位置から前記主軸の軸方向の偏差量を算出する偏差算出手段と、
前記主軸の各回転数における前記偏差量を記憶する記憶手段と、
加工時に前記主軸の回転数を指定された回転数に対する許容範囲内において前記偏差量が最も小さい回転数に調整する回転数調整手段と、
を有する工作機械の主軸回転数調整システム。
【請求項2】
加工時に指定される前記主軸の回転数に対する割合又は/及び許容回転数で前記許容範囲を設定する許容範囲設定手段を備えた請求項1に記載の工作機械の主軸回転数調整システム。
【請求項3】
前記許容範囲設定手段が、加工時に指定される前記主軸の回転数に対する割合及び許容回転数のうち、回転数の幅が狭い方を前記許容範囲として設定する請求項2に記載の工作機械の主軸回転数調整システム。
【請求項4】
前記偏差算出手段が、各回転数において前記主軸の軸方向の偏差を算出するために該軸方向の位置データを2以上の所定回数計測し、偏差量が最も大きいデータを偏差データとして記憶する請求項1乃至3の何れか一項に記載の機械の主軸回転数調整システム。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の機械の主軸回転数調整システムとして、コンピュータを機能させるための主軸回転数調整プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主軸に生じる振動を抑制することができる工作機械の主軸回転数調整システム及び主軸回転数調整プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
主軸に装着された工具を回転駆動してワークを加工する工作機械は、主軸の回転中に、指令回転数に応じて主軸の軸方向(Z軸)の偏差量が変化する。この工作機械において、面粗さ目標値が高い加工を行う場合には、Z軸偏差量が少ない回転数領域を使用することが求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、主軸または工具の振動周波数を検知するセンサと、振動周波数に基づいて、主軸または工具に生じているびびり振動の振動強度を算出する算出部と、主軸の回転数を制御するための設定値を調整する調整部を備え、びびり振動が生じたことに基づいて、主軸の回転数の変動範囲を決定し、変動範囲内において主軸の回転数を変化させるとともに当該複数の回転数の各々について振動強度を取得し、当該複数の回転数の内、振動強度が主軸の回転数を変化させる前と比較して相対的に小さくなる回転数を設定値として用いるようにした工作機械が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-107751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の工作機械は、主軸または工具に生じているびびり振動を検知するために、主軸または工具の振動周波数を検知するセンサを設ける必要があった。この工作機械には、例えばハウジングに加速度センサが設けられているから、構造が複雑になるという問題があった。
【0006】
また、特許文献1に記載の工作機械は、主軸または工具にびびり振動が生じたことを検知した場合に、主軸の回転数を変化させて各回転数で振動強度を取得することから、探索時間を短くするために主軸の回転数の変動範囲を限定する必要があった。
【0007】
そこで、本発明は、主軸に生じる振動を簡単に抑制することができる工作機械の主軸回転数調整システム及び主軸回転数調整プログラムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、工具を装着する主軸を回転駆動すると共に、前記主軸を回転軸の軸方向に駆動する工作機械であって、前記主軸の軸方向の位置データを計測する位置計測手段と、前記主軸の回転数を変えて各回転数における該主軸の軸方向の位置データを計測し、該位置データと基準位置から前記主軸の軸方向の偏差量を算出する偏差算出手段と、前記主軸の各回転数における前記偏差量を記憶する記憶手段と、加工時に前記主軸の回転数を指定された回転数に対する許容範囲内において前記偏差量が最も小さい回転数に調整する回転数調整手段と、を有する工作機械の主軸回転数調整システムを提供するものである。
【0009】
また、工作機械の主軸回転数調整システムは、加工時に指定される前記主軸の回転数に対する割合又は/及び許容回転数で前記許容範囲を設定する許容範囲設定手段を備えたものである。
【0010】
また、工作機械の主軸回転数調整システムは、前記許容範囲設定手段が、加工時に指定される前記主軸の回転数に対する割合及び許容回転数のうち、回転数の幅が狭い方を前記許容範囲として設定するものである。
【0011】
また、工作機械の主軸回転数調整システムは、前記偏差算出手段が、各回転数において前記主軸の軸方向の偏差を算出するために該軸方向の位置データを2以上の所定回数計測し、偏差量が最も大きいデータを偏差データとして記憶するものである。
【0012】
また、本発明は、上記の何れか一項に記載の機械の主軸回転数調整システムとして、コンピュータを機能させるための主軸回転数調整プログラムを提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の工作機械の主軸回転数調整システムは、工具を装着する主軸を回転駆動すると共に、前記主軸を回転軸の軸方向に駆動する工作機械であって、前記主軸の軸方向の位置データを計測する位置計測手段と、前記主軸の回転数を変えて各回転数における該主軸の軸方向の位置データを計測し、該位置データと基準位置から前記主軸の軸方向の偏差量を算出する偏差算出手段と、前記主軸の各回転数における前記偏差量を記憶する記憶手段と、加工時に前記主軸の回転数を指定された回転数に対する許容範囲内において前記偏差量が最も小さい回転数に調整する回転数調整手段と、を有することにより、主軸の軸方向の位置を計測するスケールなどの位置計測手段を用いて回転数毎の偏差量を計測することができ、この偏差量が小さい回転数に調整することができるから、簡単な構成によって主軸に生じる振動を抑制することができる効果がある。
【0014】
また、本発明の工作機械の主軸回転数調整システムは、工作機械の稼働前や運転休止期間に主軸の各回転数における偏差量を計測して記憶しておくことができるから、運転中は直ぐにこの偏差量が小さい回転数に調整することができる効果がある。
【0015】
また、本発明の工作機械の主軸回転数調整システムは、加工時に指定される前記主軸の回転数に対する割合又は/及び許容回転数で前記許容範囲を設定する許容範囲設定手段を備えたことにより、指定された主軸の回転数に対して許容される範囲内で前記偏差量が最も小さい回転数に調整することができる効果がある。
【0016】
また、本発明の工作機械の主軸回転数調整システムは、前記許容範囲設定手段が、加工時に指定される前記主軸の回転数に対する割合及び許容回転数のうち、回転数の幅が狭い方を前記許容範囲として設定することにより、指定された主軸の回転数に対して、その割合及び許容回転数の双方の条件を満たした範囲内で前記偏差量が最も小さい回転数に調整することができる効果がある。
【0017】
また、工作機械の主軸回転数調整システムは、前記偏差算出手段が、各回転数において前記主軸の軸方向の偏差を算出するために該軸方向の位置データを2以上の所定回数計測し、偏差量が最も大きいデータを偏差データとして記憶することにより、時間経過で偏差量が変動する場合でも偏差量が最も大きいデータを偏差データとして記憶することができる効果がある。
【0018】
また、本発明の主軸回転数調整プログラムは、上記の何れか一項に記載の機械の主軸回転数調整システムとして、コンピュータを機能させることにより、主軸の軸方向の位置を計測するスケールなどの位置計測手段を用いて回転数毎の偏差量を計測することができ、プログラムによってこの偏差量が小さい回転数に調整することができるから、簡単な構成によって主軸に生じる振動を抑制することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る主軸回転数調整システムの一実施例を示す構成図。
図2】本発明のZ軸偏差量の測定手段の一実施例を示すフローチャート。
図3】本発明の主軸回転数の調整手段の一実施例を示すフローチャート。
図4】本発明を使用した工作機械の一実施例を示す斜視図。
図5】本発明に係る主軸回転数調整システムの画面の一例を示す図。
図6】本発明に係る主軸回転数調整システムの画面の一例を示す図。
図7】工作機械のZ軸偏差の変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態を図示する実施例に基づいて説明する。
本発明の工作機械の主軸回転数調整システムは、工具3を装着する主軸2を回転駆動すると共に、主軸2を回転軸の軸方向に駆動する工作機械1であって、主軸2の軸方向の位置データを計測する位置計測手段11と、主軸2の回転数を変えて各回転数における該主軸2の軸方向の位置データを計測し、該位置データと基準位置から主軸2の軸方向の偏差量を算出する偏差算出手段12と、主軸2の各回転数における偏差量を記憶する記憶手段20と、加工時に主軸2の回転数を指定された回転数に対する許容範囲内において前記偏差量が最も小さい回転数に調整する回転数調整手段13と、を有する。
【0021】
工作機械1は、主軸2の回転による振動によって、指令回転数に応じて主軸2の軸方向(Z軸)に偏差が生じる。Z軸の偏差量は、図5及び図6に示すように、機械ごとに異なった変化をし、工作機械1の固有振動が生じる主軸2の回転数周辺で特に大きくなる。そこで、本願発明者らは、機械ごとに、あらかじめ全回転数領域のZ軸偏差量を計測しておき、工作機械1の振動が少なくなるように指令回転数周辺で主軸2の回転数を微調整する機能を考案した。
【実施例0022】
図1は、本発明に係る主軸回転数調整システムの一実施例を示す構成図である。図4は、本発明を使用した工作機械の一実施例を示す斜視図である。
【0023】
本実施例において、工作機械1はマシニングセンタであり、ワークを載置するテーブル4と、工具3を装着して回転駆動する主軸2を有する。テーブル4は、主軸2の回転軸に垂直なX軸方向及びY軸方向に駆動され、主軸2は回転軸の軸方向(Z軸方向)に駆動される。工作機械1は、主軸2の先端に工具3が装着され、工具3を回転させながらワークに対してX,Y,Z軸方向に相対移動させ、ワークを所望の形状に加工する。また、工作機械1は、図示しないが、工具3の加工軌跡を数値制御する制御装置と、加工条件、工具交換、座標設定などの指示を入力する操作パネルと、加工情報や位置情報などを表示するモニターを備えている。
【0024】
図4に示すように、主軸2が回転可能に設けられた主軸ヘッド2aは、ガイド7に沿ってZ軸方向に駆動される。工作機械1の本体には、スケール5がガイド7と平行に設けられ、主軸ヘッド2aが駆動されるときにZ軸上の位置を読み取る基準となる。位置計測手段11は、このスケール5と、主軸ヘッド2aに設けられた検出部6とから構成され、検出部6によってスケール5から主軸2のZ軸方向の位置を計測する。なお、工作機械1は図示の構成に限られず、他の立形マシニングセンタや横形マシニングセンタ、ボール盤、中ぐり盤、フライス盤、研削盤など各種の工作機械に本発明を適用することが可能である。
[主軸回転数調整システムの構成]
【0025】
主軸回転数調整システム10は、主軸2のZ軸方向の位置データをスケール5と検出部6で計測する位置計測手段11と、主軸2の回転数を変えて各回転数における主軸2のZ軸方向の位置データを計測し、該位置データと基準位置から主軸2のZ軸方向の偏差量を算出する偏差算出手段12と、加工時に主軸2の回転数を指定された回転数に対する許容範囲内において偏差量が最も小さい回転数に調整する回転数調整手段13と、加工時に指定される主軸2の回転数に対する割合及び許容回転数で許容範囲を設定する許容範囲設定手段14と、を有している。
【0026】
図1において、20は記憶手段であり、位置計測手段11で計測される主軸2のZ軸方向の位置データ、偏差算出手段12で算出される偏差量、許容範囲設定手段14で設定される許容範囲などを記憶する。記憶手段20は、偏差算出手段12で算出される偏差量を主軸2の回転数と関連付けて記憶する。
【0027】
位置計測手段11は、主軸2のZ軸方向の位置データを検出するために一般的な工作機械1に設けられており、リニアスケールなどのスケール5と検出部6で該位置データを検出する。偏差算出手段12は、位置計測手段11によって計測された位置データに基づいて、基準位置からのズレを偏差量として算出する。図7に示すように、Z軸の偏差量は、時間経過と共に変化(図7の奥行が時間軸)することがある。そこで、偏差算出手段12は、各回転数において主軸2のZ軸方向の偏差を算出するためにZ軸方向の位置データを2以上の所定回数計測し、偏差量が最も大きいデータを偏差データとして記憶手段20に記憶することが好ましい。
【0028】
本実施例において、偏差算出手段12は、1回転数領域につき、1回当たり所定のサンプリング周期で所定時間(約1秒間)の計測を行い、計測されたZ軸の位置データと基準位置からZ軸偏差量を算出する。偏差算出手段12は、1領域ごとに6回の計測を行い、最も大きいZ軸偏差量を偏差データとして記憶手段20に記憶する。Z軸の基準位置としては、例えば、計測されたZ軸の位置データの平均値又は中央値、主軸2の回転前の位置データなどを用いることができる。
【0029】
また、偏差算出手段12は、1回転数領域につき、十分に長い時間(1~2分間)計測した中で偏差量が最も大きいエリアのデータを偏差データとして記憶手段20に記憶する構成としてもよい。このとき、偏差算出手段12は、計測された位置データを約1秒間ごとのエリアに分割し、エリアごとに基準位置からのズレを偏差量として算出する。なお、計測される位置データの量を削減してZ軸偏差量の算出負荷を抑制できることから、偏差算出手段12は、本実施例のように、所定時間(約1秒間)の計測を一定間隔で行うように構成していることが好ましい。
【0030】
偏差算出手段12は、例えばステップアップ幅を100min-1に設定してあり、主軸2の回転数を100min-1ごとにステップアップして計測し、主軸2の最高回転数までステップアップして計測を行う。図5及び図6に示す実施例において、偏差算出手段12は、主軸2の最高回転数40,000min-1まで100min-1ごとにZ軸偏差量を計測している。記憶手段20は、全回転数領域において、回転数領域ごとに最も大きいZ軸偏差量を偏差データとして記憶している。本実施例では、主軸2のZ軸偏差量を計測するとき、主軸2に最高回転数で回転可能な工具3を装着している。
【0031】
本実施例において、許容範囲設定手段14は、加工時に指定される主軸2の回転数に対する割合及び許容回転数のうち、回転数の幅が狭い方を許容範囲として設定する。図5に示す例では、指令回転数10,000min-1に対して、許容変化率が±5%に設定されており、対応する許容範囲は±500min-1になる。また、設定された許容範囲は、±1,000min-1であるから、許容範囲設定手段14は、±500min-1を許容範囲として設定する。
【0032】
図6に示す例では、指令回転数26,000min-1に対して、許容変化率が±10%に設定されているから、対応する許容範囲は±2,600min-1になる。また、設定された許容範囲は、±2,000min-1であるから、許容範囲設定手段14は、±2,000min-1を許容範囲として設定する。なお、許容範囲設定手段14は、主軸2の回転数に対する割合又は許容回転数の何れか一方で許容範囲を設定してもよい。
【0033】
回転数調整手段13は、加工時に指定された主軸2の回転数を、指定された回転数に対する許容範囲内において偏差量が最も小さい回転数に調整する。図5に示す例において、回転数調整手段13は、指令回転数10,000min-1に対して、許容範囲±500min-1内で偏差量が最も小さい回転数(9,800min-1)に調整している。図6に示す例において、回転数調整手段13は、指令回転数26,000min-1に対して、許容範囲±2,000min-1内で偏差量が最も小さい回転数(25,050min-1)に調整している。
[診断システムの作用]
【0034】
次に、本発明に係る工作機械の主軸回転数調整システムの作用について説明する。図2は、本発明のZ軸偏差量の測定手段の一実施例を示すフローチャートであり、図3は、本発明の主軸回転数の調整手段の一実施例を示すフローチャートである。
【0035】
図2に示すように、偏差算出手段12は、偏差量を計測する主軸2の回転数(R)として最初に最小回転数を読み込む(ステップS1)。回転数(R)は、最小回転数から所定のステップアップ幅(本実施例では100min-1)で増加するようにしている。最小回転数は、任意の回転数を設定することができ、ステップアップ幅の100min-1に設定してもよい。
【0036】
偏差算出手段12は、ステップS1で読み込まれた主軸2の回転数(R)を工作機械1の最高回転数(Rmax)と比較し(ステップS2)、回転数(R)が最高回転数(Rmax)以下の場合、回転数領域ごとの測定回数nに「1」を入力する(ステップS3)。一方、ステップS1で読み込まれた主軸2の回転数(R)が工作機械1の最高回転数(Rmax)を越えた場合、偏差算出手段12は、全てのZ軸偏差データの単位をmmに換算し、記憶手段20の正規メモリへ記憶して測定を終了する。
【0037】
偏差算出手段12は、主軸2を回転数(R)で回転させ、位置計測手段11で主軸2のZ軸方向の位置データを計測する(ステップS4)。偏差算出手段12は、例えば1回転数領域につき1回当たり所定のサンプリング周期で所定時間(約1秒間)の計測を行っている。偏差算出手段12は、ステップS4で計測されたZ軸の位置データと基準位置からZ軸偏差量を算出する(ステップS5)。
【0038】
偏差算出手段12は、ステップS5で算出したZ軸偏差量と、記憶手段20の一時記憶領域に記憶された測定中の回転数領域のZ軸偏差量と、を比較し(ステップS6)、ステップS5で算出したZ軸偏差量の方が大きい場合、算出したZ軸偏差量を当該回転数領域のZ軸偏差データとして置き換えて記憶手段20の一時記憶領域に記憶する(ステップS7)。測定前のZ軸偏差データには、初期値として「0」又は測定可能な最小数値が記憶されている。一方、ステップS5で算出したZ軸偏差量が、記憶手段20の一時記憶領域に記憶された測定中の回転数領域のZ軸偏差量と同じか、その値より小さい場合、偏差算出手段12は、記憶手段20の一時記憶領域に一時記憶されたZ軸偏差データを書き換えないでステップS8へ移行する。
【0039】
偏差算出手段12は、回転数領域ごとの測定回数nと、所定の測定回数N(本実施例では6回)と、を比較する(ステップS8)。測定回数nが所定の測定回数Nに達していない場合、偏差算出手段12は、測定回数nに「1」を加えた後(ステップS9)、ステップS4に戻り、同じ回転数領域でZ軸偏差データの計測を繰り返す。一方、測定回数nが所定の測定回数Nに達した場合、偏差算出手段12は、ステップS10へ移行し、主軸2の回転数(R)にステップアップ幅である100min-1を加え、ステップS4へ戻る。偏差算出手段12は、主軸2の回転数(R)が最高回転数(Rmax)に達するまで、所定のステップアップ幅の回転数領域でZ軸偏差量の計測を行う。
【0040】
本実施例の主軸回転数調整システム10は、偏差算出手段12によって、工作機械1の最高回転数(Rmax)までの全回転数領域において、主軸2のZ軸方向の位置データを2以上の所定回数計測し、Z軸方向の偏差データを算出して記憶手段20に記憶しておくことができる。これにより、主軸回転数調整システム10は、工作機械1の工場出荷前や稼働していない時間帯を利用して主軸2のZ軸偏差データを計測することができる。
【0041】
次に、図3に基づいて、主軸回転数の自動調整の流れについて説明する。
【0042】
工作機械1でワークの加工を行う際には、図3に示すように、主軸回転数調整システム10は、主軸2の指令回転数に対する許容範囲の設定の有無、許容範囲の設定がある場合に許容範囲とステップアップ幅の比較を行う(ステップS11)。
【0043】
許容変化率(指令回転数に対する割合)及び変化量(許容回転数)がステップアップ幅(本実施例では100min-1)以上の場合、許容範囲設定手段14は、許容変化率と変化量のうち回転数の幅が狭い方を許容範囲(range)として設定する(ステップS12)。一方、許容変化率又は変化量の何れかがステップアップ幅より小さい場合、回転数調整手段13は、回転数自動制御が無効であると判断し、主軸2を指令回転数で回転させる(ステップS22)。
【0044】
次に、回転数調整手段13は、指令回転数をステップアップ幅で除して領域番号(r_cur)を設定する(ステップS13)。領域番号は、ステップアップ幅に相当する回転数の領域(本実施例では100min-1幅)ごとに1の番号が割り振られている。
【0045】
回転数調整手段13は、記憶手段20に記憶されたZ軸偏差データに、ステップS13で設定した現在領域番号におけるZ軸偏差データの有無を確認する(ステップS14)。現在領域番号にZ軸偏差データがある場合、回転数調整手段13は、現在の領域番号(r_cur)に、許容範囲(range)をステップアップ幅で除した数を加算して許容範囲の上限の領域番号(r_max)を設定する。また、回転数調整手段13は、現在の領域番号(r_cur)に、許容範囲(range)をステップアップ幅で除した数を減算して許容範囲の下限の領域番号(r_min)を設定し(ステップS15)、ステップS16へ移行する。一方、現在領域番号にZ軸偏差データがない場合、回転数調整手段13は、回転数自動制御が無効であると判断し、主軸2を指令回転数で回転させる(ステップS23)。
【0046】
ステップS16において、回転数調整手段13は、調整後回転数のZ軸偏差量(min_zerr)の初期値として、計測可能な最大値を記憶手段20の一時記憶領域に記憶する。また、回転数調整手段13は、ステップS15で設定した下限の領域番号(r_min)を、Z軸偏差データが最も小さい領域番号(min_no)として記憶手段20の一時記憶領域に記憶する共に、領域番号iとして記憶手段20の一時記憶領域に記憶する。
【0047】
回転数調整手段13は、記憶手段20に記憶されている領域番号iのZ軸偏差データと一時領域に記憶されたZ軸偏差量(min_zerr)を比較する(ステップS17)。領域番号iのZ軸偏差データがZ軸偏差量(min_zerr)より小さい場合、回転数調整手段13は、Z軸偏差量(min_zerr)を領域番号iのZ軸偏差データで置き換えて記憶手段20の一時記憶領域に記憶すると共に、領域番号(min_no)を領域番号iで置き換えて記憶手段20の一時記憶領域に記憶する(ステップS18)。また、回転数調整手段13は、領域番号iに「1」を加え(ステップS19)、ステップS20へ移行する。
【0048】
一方、領域番号iのZ軸偏差データがZ軸偏差量(min_zerr)と同じか大きい場合、回転数調整手段13は、Z軸偏差量(min_zerr)及び領域番号(min_no)を置き換えないで、ステップS19において領域番号iに「1」を加え、ステップS20へ移行する。
【0049】
ステップS20において、回転数調整手段13は、領域番号iと許容範囲の上限の領域番号(r_max)を比較する。領域番号iが許容範囲の上限の領域番号(r_max)と同じか小さい場合、回転数調整手段13は、ステップS17へ戻ってZ軸偏差データの小さい領域番号(回転数領域)の探索を継続する。
【0050】
一方、領域番号iが許容範囲の上限の領域番号(r_max)より大きい場合、回転数調整手段13は、領域番号(min_no)の主軸回転数で主軸2を回転させる(ステップS21)。以上より、主軸回転数調整システム10は、加工時に主軸2の回転数を指定された回転数に対する許容範囲内において、主軸2のZ軸偏差量が最も小さい回転数に自動的に調整することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 工作機械
2 主軸
3 工具
4 テーブル
5 スケール
6 検出部
7 ガイド
10 主軸回転数調整システム
11 位置計測手段
12 偏差算出手段
13 回転数調整手段
14 許容範囲設定手段
20 記憶手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7