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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022075066
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】免震装置の施工方法及び建物
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20220511BHJP
【FI】
E04H9/02 331E
E04H9/02 331A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020185609
(22)【出願日】2020-11-06
(71)【出願人】
【識別番号】505419198
【氏名又は名称】スターツCAM株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】521281427
【氏名又は名称】株式会社ダイナミックデザイン
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(74)【代理人】
【識別番号】100123696
【弁理士】
【氏名又は名称】稲田 弘明
(72)【発明者】
【氏名】中西 力
(72)【発明者】
【氏名】千田 卓
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 光生
【テーマコード(参考)】
2E139
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB03
2E139AB04
2E139AC26
2E139AD03
2E139AD04
2E139CA02
2E139CA21
2E139CB05
2E139CC02
2E139CC15
(57)【要約】
【課題】既存の建物を簡素な工程により免震化することができる免震装置の施工方法等を提供する。
【解決手段】免震装置の施工方法を、建物の基礎20の立上り部21に形成された開口Oに滑り支承でありフラットジャッキ150を有する免震装置100を挿入し、免震装置に建物による荷重が載荷された状態で、基礎の開口以外の領域を上下に分割する構成とする。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の基礎の立上り部に形成された開口に免震装置を挿入し、
前記免震装置に前記建物による荷重が載荷された状態で、前記立上り部の前記開口以外の領域を上下に分割すること
を特徴とする免震装置の施工方法。
【請求項2】
前記免震装置を挿入する前に、前記立上り部における前記免震装置の設置箇所に前記開口を形成すること
を特徴とする請求項1に記載の免震装置の施工方法。
【請求項3】
前記建物の既存躯体における前記開口の上方の領域に、前記立上り部の平面視における長手方向に沿った補強材を設置すること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の免震装置の施工方法。
【請求項4】
前記免震装置の上部、下部の少なくとも一方に、水平面に沿った平坦な形状を有するとともに注入材を供給されることにより上下方向に拡張するフラットジャッキを設け、
前記フラットジャッキに前記注入材を供給した後に前記立上り部の前記分割を行うこと
を特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の免震装置の施工方法。
【請求項5】
前記フラットジャッキに供給される前記注入材の圧力を、前記建物の重量分布に基づいて設定すること
を特徴とする請求項4に記載の免震装置の施工方法。
【請求項6】
前記建物の重量分布を、前記建物の形状を三次元測定して生成した三次元モデルを用いて演算したこと
を特徴とする請求項5に記載の免震装置の施工方法。
【請求項7】
前記免震装置は、水平面に沿って延在する滑動面を有するすべり板、及び、前記すべり板の前記滑動面と前記すべり板に対して滑動可能な状態で接触するスライダを有するすべり支承を有すること
を特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の免震装置の施工方法。
【請求項8】
前記すべり板を、前記基礎の平面視における長手方向に沿って分割された複数の部材を組み合わせて構成したこと
を特徴とする請求項7に記載の免震装置の施工方法。
【請求項9】
躯体の下端部と、基礎の立上り部の上端部との間に設置された免震装置を有する建物であって、
前記躯体の下端部及び前記立上り部の上端部は、コンクリート系の材料で形成されるとともに、骨材の切断面が露出していること
を特徴とする建物。
【請求項10】
躯体の下端部と、基礎の立上り部の上端部との間に設置された免震装置を有する建物であって、
前記免震装置は、水平面に沿って延在する滑動面を有するすべり板、及び、前記すべり板の前記滑動面と前記すべり板に対して滑動可能な状態で接触するスライダを有するすべり支承を有し、
前記すべり板は、前記立上り部の平面視における長手方向に沿って分割された複数の部材を組み合わせて構成されること
を特徴とする建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存の建物に免震装置を設置して免震化する免震装置の施工方法、及び、このような免震化が行われた建物に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の免震性を向上するため、建物の基礎部分に、躯体が地震により加振された場合に、基礎に対する水平方向変位を許容する免震装置を設けることが知られている。
建物の免震化に関する従来技術として、例えば特許文献1には、積層ゴム体を有する復元支承、及び、すべり板及びスライダを有し水平方向に滑動可能なすべり支承を基礎構造に分散配置して躯体を支持する建物の免震構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-125183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した免震装置を、例えば竣工後数十年から百年程度経過した既存の建物に後付け(レトロフィット)で施工し、建物を免震化することが提案されている。
既存の建物を免震化する施工方法の一例として、例えば、建物を解体せずに水平方向に移動させる曳家を行い、既存の基礎を撤去し、新築同様の手法により免震装置が設けられた新たな基礎を再構築する手法(基礎免震案)が知られている。
また、別の基礎免震案として、上部建物を一時的に支持する(支える)杭を打設し、その杭で上部建物を仮設的に支えた状態で、既存の基礎を撤去し、基礎を再構築する手法も知られている。
また、建物の土台と基礎とを切り離し、建物を油圧ジャッキによりジャッキアップして得られた間隔に免震装置を挿入する手法(高床免震案)が知られている。
【0005】
しかし、基礎免震案の場合、曳家に要する工数が多大となって工期が長期化し、施工コストも高騰してしまう。
また、高床免震案の場合、建物のジャッキアップを可能とするための躯体の補強工事に多大な工数、コストを要し、水平レベル同期を行った状態で建物を上昇させるジャッキアップ工事の工事難易度が高いという問題があった。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、既存の建物を簡素な工程により免震化することができる免震装置の施工方法及び建物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するため、本発明の免震装置の施工方法の一態様によれば、建物の基礎の立上り部に形成された開口に免震装置を挿入し、前記免震装置に前記建物による荷重が載荷された状態で、前記立上り部の前記開口以外の領域を上下に分割することを特徴とする。
これによれば、基礎の立上り部に形成された開口に免震装置を挿入した後に、立上り部の開口以外の領域を上下に分割することにより、既存の建物を油圧ジャッキ等によって支持したり、さらに曳家や上昇などをさせることなく、簡素な工程により免震装置を設置することができる。
【0007】
本発明において、前記免震装置を挿入する前に、前記立上り部における前記免震装置の設置箇所に前記開口を形成する構成とすることができる。
これによれば、免震装置を挿入するための専用の開口を、立上り部の任意の箇所に新たに形成することにより、既存の開口などを用いる場合に対して、免震装置の設置箇所の設定自由度を高めることができる。
【0008】
本発明において、前記建物の既存躯体における前記開口の上方の領域に、前記立上り部の平面視における長手方向に沿った補強材を設置する構成とすることができる。
これによれば、免震化前後における既存の基礎から新設された免震装置への荷重伝達経路の変化に対応可能なよう既存躯体を効果的に補強し、建物の耐久性、信頼性を向上することができる。
【0009】
本発明において、前記免震装置の上部、下部の少なくとも一方に、水平面に沿った平坦な形状を有するとともに注入材を供給されることにより上下方向に拡張するフラットジャッキを設け、前記フラットジャッキに前記注入材を供給した後に前記立上り部の前記分割を行う構成とすることができる。
これによれば、注入材の圧力を管理することで免震装置の荷重及び高さの調整を精度よく行うことができ、建物の高さ、水平レベルを保ったまま免震装置の施工を行うことができる。
【0010】
本発明において、前記フラットジャッキに供給される前記注入材の圧力を、前記建物の重量分布に基づいて設定することができる。
これによれば、免震装置の施工時における建物の高さ、水平レベルの維持を精度よく行うことができる。
本発明において、前記建物の重量分布を、前記建物の形状を三次元測定して生成した三次元モデルを用いて演算した構成とすることができる。
これによれば、例えば地上に設置しあるいはドローン等の移動体に搭載した三次元スキャナを用いた測定結果に基づいて、簡易かつ迅速に三次元モデルを生成し、建物の重量分布を精度よく演算することができる。
【0011】
本発明において、前記免震装置は、水平面に沿って延在する滑動面を有するすべり板、及び、前記すべり板の前記滑動面と前記すべり板に対して滑動可能な状態で接触するスライダを有するすべり支承を有する構成とすることができる。
これによれば、免震装置を上下方向の寸法が小さい薄型の構成とすることができるため、開口の上下方向の寸法を小さくすることが可能となり、既存の建物の基礎の立上り部へ適用する場合の設計自由度を高めることができる。
本発明において、前記すべり板を、前記立上り部の平面視における長手方向に沿って分割された複数の部材を組み合わせて構成した構成とすることができる。
これによれば、開口に免震装置を挿入する段階では、すべり板の一部のみを開口に挿入し、その後免震装置に建物の荷重が負荷され立上り部の開口以外の部分を上下に分離した後に、すべり板の他部を連結することにより、免震装置の当初挿入時に必要とされる開口のサイズを小さくし、既存建物への負担を減らし、また、施工を容易とすることができる。
【0012】
また、上述した課題を解決するため、本発明の建物の一態様によれば、躯体の下端部と、基礎の立上り部の上端部との間に設置された免震装置を有する建物であって、前記躯体の下端部及び前記立上り部の上端部は、コンクリート系の材料で形成されるとともに、骨材の切断面が露出していることを特徴とする。
また、本発明の建物の他の一態様によれば、躯体の下端部と、基礎の立上り部の上端部との間に設置された免震装置を有する建物であって、前記免震装置は、水平面に沿って延在する滑動面を有するすべり板、及び、前記すべり板の前記滑動面と前記すべり板に対して滑動可能な状態で接触するスライダを有するすべり支承を有し、前記すべり板は、前記立上り部の平面視における長手方向に沿って分割された複数の部材を組み合わせて構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、既存の建物を簡素な工程により免震化することができる免震装置の施工方法及び建物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明を適用した免震装置の施工方法の第1実施形態が行われる建物の基礎部分の構成を模式的に示す平面図である。
図2】第1実施形態の建物の布基礎部分を正面から見た図であって建物の土台部分に補強材を設置した状態を示す図である。
図3図2のIII-III部矢視断面図である。
図4】第1実施形態の建物の布基礎部分を正面から見た図であって開口を形成した直後の状態を示す図である。
図5図4のV-V部矢視断面図である。
図6】第1実施形態の建物の布基礎部分を正面から見た図であって免震装置を設置した後の状態を示す図である。
図7】第1実施形態におけるフラットジャッキの模式的二面図である。
図8】第1実施形態におけるフラットジャッキの拡張前後における模式的断面図である。
図9】第1実施形態の建物の布基礎部分を正面から見た図であって立上り部の開口以外の部分を切断した状態を示す図である。
図10】本発明を適用した免震装置の施工方法の第2実施形態における免震装置の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1実施形態>
以下、本発明を適用した免震装置の施工方法及び建物の第1実施形態について説明する。
第1実施形態の免震装置の施工方法において、施工対象となる建物は、例えば、竣工後100年以上を経過しているレンガ造地上2階建ての建物であって、過去に構造体が組積造から鉄筋コンクリート造へ変更される大規模補強が施されている。
【0016】
図1は、本発明を適用した免震装置の施工方法の第1実施形態が行われる建物の基礎部分の構成を模式的に示す平面図である。
基礎1は、建物中央部に設けられたベタ基礎10と、建物外壁部にほぼ沿って設けられた布基礎20とを有する。
ベタ基礎10は、既存躯体の1階床面部及びその下部の基礎を撤去した箇所に新設されたものである。
ベタ基礎10は、設置される領域全面に鉄筋コンクリート(RC)スラブにより一体に形成された床部を形成したものである。
ベタ基礎10を上方から見た平面形は、例えば、実質的に矩形状に形成されている。
【0017】
ベタ基礎10の四隅には、免震装置である免震ゴム支承30が設けられる。
免震ゴム支承30は、例えば、積層ゴム体などの弾性を介して建物の荷重を受けるとともに、地震等による加振に応じて建物の水平方向変位を許容する機能を有する。
また、免震ゴム支承30は、建物の水平方向変位が生じた場合に、積層ゴム体の弾性力によって、中立位置へ復元させる復元力を発生する。
【0018】
図2は、第1実施形態の建物の布基礎部分を正面から見た図であって建物の土台部分に補強材を設置した状態を示す図(図3のII-II部矢視図)である。
図3は、図2のIII-III部矢視断面図である。
布基礎20は、例えば鉄筋コンクリートによって一体に形成された立上り部21、フーチング部22を有する連続フーチング基礎である。
立上り部21は、フーチング部22から上方へ立設された平板状の部分である。
立上り部21の上端部は、図示しないアンカーボルト等を介して、建物の外壁40の下端部に設けられた土台部分に結合されている。
外壁40は、例えば、レンガの組積造により形成されている。
外壁40における建物内側の面部には、鉄筋コンクリート製の補強壁50が設けられている。
フーチング部22は、立上り部21の下端部に設けられ、立上り部21に対して水平方向に突出して形成されている。
【0019】
第1実施形態の免震装置の施工方法においては、先ず、建物の外壁40、補強壁50の下端部(建物の土台部分)を、補強材60によって補強する。
図3に示すように、補強材60は、例えば、いわゆるコの字断面を有するチャンネル鋼材(溝型鋼)を用いることができる。
補強材60は、外壁40、補強壁50の下端部に、これらを壁の厚さ方向に挟持するよう一対が設けられている。
これら一対の補強材60は、外壁40、補強壁50を貫通して形成されたボルト穴に挿通されるボルト61により建物に締結される。
【0020】
補強材60の取付に引き続いて、布基礎20の立上り部21に、免震装置100が挿入される開口Oを形成する。
図4は、第1実施形態の建物の布基礎部分を正面から見た図であって開口を形成した直後の状態を示す図(図5のIV-IV部断面図)である。
図5は、図4のV-V部矢視断面図である。
開口Oの高さ及び幅は、後述するフラットジャッキ150を拡張させる前の状態において、免震装置100を挿入可能なよう設定される。
開口Oは、例えば、カッターなどを用いた機械的加工により形成することができる。
【0021】
開口Oの形成後、開口Oの内部に免震装置100を挿入、設置する。
図6は、第1実施形態の建物の布基礎部分を正面から見た図であって免震装置を設置した後の状態を示す図である。
【0022】
免震装置100は、スライダ110、すべり板120、すべり板保持部130、ベースプレート140、フラットジャッキ150等を有して構成されたすべり支承である。
スライダ110は、立上り部21の開口Oの上面部に、ベースプレート140及びフラットジャッキ150を介して取り付けられる部材である。
スライダ110の下面部は、水平面に沿って形成され、すべり板120の上面部に対して滑動可能な状態で載置される。
スライダ110の上面部は、フラットジャッキ150の下側支圧板155の下面部と固定される。
【0023】
すべり板120は、立上り部21の開口Oの下面部に、すべり板保持部130を介して、取り付けられる平板状の部材である。
すべり板120の上面部は、例えばテトラフルオロエチレンなどの固体潤滑性を有する材質によって水平面に沿って形成され、スライダ110の下面部と滑動可能な状態で当接する滑動面となっている。
すべり板120の平面形状、サイズは、地震時に想定される建物の最大横変位時に、スライダ110が脱落しないよう設定されている。
すべり板120の下部には、すべり板保持部130を構成するRCスラブに埋設され、すべり板保持部130との結合に用いられる頭付きスタッドSが複数設けられている。
【0024】
すべり板保持部130は、開口Oの下面部とすべり板120の下面部との間に設けられた部分である。
すべり板保持部130は、すべり板120を介して入力される建物からの荷重を、布基礎20の下部に伝達する機能を有する。
すべり板保持部130は、例えば、RC造のスラブとして平板状に構成されている。
【0025】
ベースプレート140は、開口Oの上面部とフラットジャッキ150の上面部との間に設けられる平板状の部材である。
ベースプレート140は、建物の荷重を、フラットジャッキ150に伝達する機能を有する。
ベースプレート140の上面部は、開口Oの上面部に固定されている。
ベースプレート140の下面部は、フラットジャッキ150の上側支圧板154の上面部に固定されている。
【0026】
フラットジャッキ150は、例えばセメント系の流動体である注入材の圧力を用いて揚力、揚程を得る平坦かつ薄型のジャッキ装置である。
図7は、第1実施形態におけるフラットジャッキの模式的二面図である。
図7(a)は、フラットジャッキを鉛直方向に沿った面で切って見た断面図であり、図7(b)のa-a部矢視断面図である。
フラットジャッキ150は、本体部151、注入口152、排出口153、上側支圧板154、下側支圧板155等を有する。
また、フラットジャッキ150は、例えば、容器状の部材であるフラットジャッキ箱に収容された構成とすることができる。
【0027】
本体部151は、外周縁部に沿って半円形の断面形状を有する凹みが形成された2枚の薄い軟鋼製の円盤を、外周縁部で溶接により接合して容器状に形成したものである。
本体部151は、拡張前(注入材注入前)の状態においては、平面視における中央部は、上面部と下面部とが当接した状態となっている。
本体部151の外周縁部に沿って、ほぼ円筒状の断面形状を有する環状の空間部が形成される。
【0028】
注入口152は、本体部151から外径側に突出し、本体部151に注入材を注入するために用いられる管路である。
排出口153は、本体部151から外径側に突出し、本体部151から余剰な注入材を排出するために用いられる管路である。
【0029】
上側支圧板154は、本体部151の平面視における中央部の上方に固定された円盤状の部材である。
下側支圧板155は、本体部151の平面視における中央部の下方に固定された円盤状の部材である。
上側支圧板154、下側支圧板155は、例えば補強用の鉄筋のメッシュMが埋設された補強コンクリート(RC)により形成されている。
上側支圧板154、下側支圧板155の外周縁部には、拡張前の本体部151の外周縁部に設けられる円筒状の空間部を収容する凹面部が形成されている。
【0030】
図8は、第1実施形態におけるフラットジャッキの拡張前後における模式的断面図である。
図8(a)は、本体部が拡張する前の状態(免震装置100の開口Oへの挿入時の状態)を示す。
図8(b)は、本体部が拡張した後の状態(免震装置100の施工終了時の状態)を示す。
フラットジャッキ150は、注入口152から注入材を注入することにより、図8(a)に示す状態から、図8(b)へ示す状態へ、本体部151が展開拡張し、上側支圧板154は下側支圧板155に対して上昇する。
ここで、注入材として例えばモルタルを主成分とするセメント系注入材を用いると、本体部151の内部で注入材が硬化し、フラットジャッキ150を永続的に(少なくとも免震装置100の寿命にわたって)建物を支持した状態で維持することができる。
セメント系注入材として、例えば、高炉セメントB種とCS系収縮低減材を主成分としたものを用いることができる。
【0031】
フラットジャッキ150が発生する揚力は、本体部151に供給される注入材の圧力と相関する。
第1実施形態においては、布基礎20に設けられる複数のフラットジャッキ150における注入材の圧力を、ビルディングインフォメーションモデリング(Building Information Modeling,以下、「BIM」と称する)を用いて設定している。
BIMは、3D CADソフトウェアがインストールされたコンピュータ上において、建物の立体モデル(BIMモデル)を再現することにより、建物の重量分布などを算出することができる。
BIMモデルは、例えば、地上に設置され、あるいは、ドローン(マルチコプター)などの移動体に搭載された3Dスキャナを用いて、建物の外観及び内部構造を計測し、その計測結果を3Dの点群データ又はフレームデータ化して構成される。
【0032】
BIMモデルは、例えば、壁部、床部、梁、柱などの各部材を表現するオブジェクトの集合体であり、各オブジェクトの形状や位置に関する情報を含む。
BIMモデルにおける各部位を構成する材料の比重が既知であれば、BIMモデルに基づいて、建物の重量や、重量分布を算出することができる。
この重量、重量分布に基づいて、各フラットジャッキ150に要求される揚力、揚程を算出することが可能であり、これに基づいて各フラットジャッキ150への注入材の供給圧力が設定される。
また、免震建物における重要な周期設定は、重量によって変化するため、その算出された重量の精度は非常に重要であるが、このようなBIMモデルを用いることにより、容易かつ高精度に算出することができる。
また、このようなBIMモデルを用いることにより、施工の各段階における3Dビューを生成し、施工手順のシミュレーションや検証などを行うことができる。
【0033】
フラットジャッキ150に注入材を所定の圧力で注入し、その後注入材が硬化して建物の荷重が免震装置100に載荷された後に、布基礎20の立上り部21の開口O以外の領域を上下方向における中間部で切断し、立上り部21を上部21Uと下部21Lに分離し、直接荷重や振動が伝搬することがないよう絶縁する。
図9は、第1実施形態の建物の布基礎部分を正面から見た図であって立上り部の開口以外の部分を切断した状態を示す図である。
立上り部21を切断、分離することによって、建物は免震ゴム支承30、及び、すべり支承である免震装置100により支えられた状態となる。
これにより、地震の加振力に応じて、建物の地盤に対する水平方向変位が許容された状態となり、免震効果が得られる。
免震装置の施工後における建物においては、立上り部21の下部21Lは、布基礎20の新たな上端部として機能する。
一方、立上り部21の上部21Uは、下部21Lと切断されることにより基礎としての機能は失い、建物の土台部分として機能する。
【0034】
上記工法により免震化を行った建物は、免震装置100を上下に挟んで配置される基礎の上端部(立上り部21の下部21Lの上面部)と、建物の下端部(立上り部21の上部21Uの下面部)とに、コンクリートを切断した場合に特有の表面が現れる。
この表面においては、立上り部21の切断時に、コンクリートに含まれる骨材がモルタルとともに切断され、骨材の切断面が表面に露出する。こうした骨材断面の露出は、一般的な型枠を用いたコンクリート部材の形成では見られないものであり、このような特徴を有する建物は、本発明の免震装置の施工方法を実施したものと推定される。
【0035】
以上説明した、第1実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)布基礎20の立上り部21に形成された開口Oに、免震装置100を挿入した後に、立上り部21の開口O以外の領域を上下に分割することにより、既存の建物を油圧ジャッキ等によって支持したり、さらに曳家、上昇などをさせることなく、簡素な工程により免震装置100を設置することができる。
(2)免震装置100を挿入するための専用の開口Oを、立上り部21の任意の箇所に新たに形成することにより、既存の開口などを用いる場合に対して免震装置100の設置箇所の設定自由度を高めることができる。
(3)開口Oの上方の外壁40等に沿って、立上り部21の平面視における長手方向に沿った補強材60を設置したことにより、免震化前後における既存の布基礎20から、新設された免震装置100への荷重伝達経路の変化に対応可能なよう、既存の躯体を効果的に補強し、建物の耐久性、信頼性を向上することができる。
(4)免震装置100が注入材の圧力に応じて拡張するフラットジャッキ150を有する構成としたことにより、注入材の圧力を管理することで免震装置100の荷重及び高さの調整を精度よく行うことができ、建物の高さ、水平レベルを保ったまま免震装置100の施工を行うことができる。
(5)フラットジャッキ150に供給される注入材の圧力を、建物の重量分布に基づいて設定することにより、免震装置の施工時における建物の高さ、水平レベルの維持を精度よく行うことができる。
(6)建物の重量分布を、前記建物の形状を三次元測定して生成した三次元モデルを用いて演算することにより、地上に設置しあるいはドローン等の移動体に搭載した三次元スキャナを用いた測定結果に基づいて、簡易かつ迅速に三次元モデルを生成し、建物の重量分布を精度よく演算することができる。
(7)免震装置100としてスライダ110及びすべり板120を有するすべり支承を用いたことにより、免震装置100を上下方向の寸法が小さい薄型の構成とすることができる。これにより、開口Oの上下方向の寸法を小さくすることが可能となり、既存の建物の基礎の立上り部へ適用する場合の設計自由度を高めることができる。
【0036】
<第2実施形態>
次に、本発明を適用した免震装置の施工方法及び建物の第2実施形態について説明する。
第2実施形態において、上述した第1実施形態と同様の箇所については同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
図10は、第2実施形態における免震装置の模式的断面図である。
図10(a)は免震装置100が布基礎20に組み込まれた状態を示し、図10(b)はすべり板120を分解した状態を示している。
なお、第2実施形態においては、フラットジャッキ150は、フラットジャッキ箱156の内部に収容されている。
【0037】
第2実施形態においては、すべり板120を、第1部材121、第2部材122、第3部材123に三分割するとともに、これらの下方に設けられた連結部材124によって連結した構成としている。
第1部材121、第2部材122、第3部材123は、布基礎20の平面視における長手方向に沿って配列されている。
連結部材124は、第2部材122の下面部に固定されるとともに、その両端部は、第1部材121、第3部材123の下方側へ突き出している。
第1部材121、第3部材123は、連結部材124の両端部に固定されることにより、第2部材122と固定される。
すべり板保持部130との結合に用いられる頭付きスタッドSは、第1部材121、第3部材123、連結部材124の下面部から下方へ突出して設けられる。
【0038】
第2実施形態においては、布基礎20の立上り部21に開口Oを形成する際、開口Oの幅Wは、免震装置100におけるすべり板120の第1部材121、第3部材123、及び、その下方のすべり板保持部130の両端部を除く部分を挿入可能な程度に設定される。
この幅Wは、施工完了後における免震装置100の幅よりも小さくなっている。
免震装置100におけるすべり板120の第1部材121、第3部材123、及び、その下方のすべり板保持部130の両端部を除く部分を挿入した後、開口Oを拡幅するようにして立上り部21を上下に分割し、その後、第1部材121、第3部材123、及び、その下方のすべり板保持部130の両端部が設けられる。
【0039】
以上説明した第2実施形態によれば、上述した第1実施形態の効果と同様の効果に加えて、免震装置100の主要部分(すべり板120の第1部材121、第3部材123、及び、その下方のすべり板保持部130の両端部を除く部分)を挿入する際の開口Oの幅を縮小することにより、立上り部21の開口O以外の部分の強度を十分に確保した状態で免震装置100の設置を行うことができる。
これにより、建物の補強や、油圧ジャッキなどを用いた補助的な建物の支持を簡素化することができる。
その後、免震装置100に建物の荷重が載荷された状態で、立上り部21を切断、分割し、第1部材121、第3部材123、及び、すべり板保持部130の両端部を設けることにより、すべり板120のサイズを拡大し、建物の水平変位許容量を、十分な免震効果が得られるよう確保することができる。
【0040】
なお、すべり支承のすべり板は、通常は一体に形成されるものであり、上述したようにすべり板が基礎の立上り部の長手方向に沿って分割されている場合には、当該建物は本発明の免震装置の施工方法を実施したものと推定される。
【0041】
(変形例)
本発明は、以上説明した各実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)基礎を含む建物の構成は、上述した各実施形態に限定されず、適宜変更することができる。
例えば、各実施形態において、建物は一例としてレンガ組積造をRC造へ変更する大規模補強を行ったものであったが、建物の構造、材質、形状、用途などはこれに限定されることなく、適宜変更することができる。
また、免震構造が設けられる箇所も、連続フーチング基礎の立上り部に限らず、例えば、水平面に沿って形成された基礎スラブを有するベタ基礎から上方へ突出した立上り部などであってもよい。
(2)各実施形態においては、免震装置は例えばすべり支承を有する構成としているが、免震装置の構成はこれに限らず適宜変更することができる。
例えば、開口の上下方向寸法を比較的大きくとれる場合には、積層ゴムを有する免震ゴムを有する免震ゴム支承としてもよい。
(3)各実施形態においては、フラットジャッキをすべり支承のスライダ及びすべり板の上側に設けているが、これに限らず下側に設けてもよい。
また、各実施形態においては平面視において円形の形状を有するフラットジャッキを用いているが、これに限らず、例えば矩形など他の形状を有するフラットジャッキを用いてもよい。
(4)各実施形態においては、免震装置を挿入するために専用の開口を新たに形成しているが、既存の基礎に免震装置を挿入するために適当な開口が既に存在する場合には、この開口に免震装置を挿入し、その後他部を切断、分離する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 建物 10 ベタ基礎
20 布基礎 21 立上り部
21U 上部 21L 下部
O 開口 22 フーチング部
30 免震ゴム支承 40 外壁
50 補強壁 60 補強材
61 ボルト
100 免震装置 110 スライダ
120 すべり板 S 頭付きスタッド
121 第1部材 122 第2部材
123 第3部材 124 連結部材
130 すべり板保持部 140 ベースプレート
150 フラットジャッキ 151 本体部
152 注入口 153 排出口
154 上側支圧板 155 下側支圧板
M メッシュ
図1
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図10