(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022075125
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】回転電機用のロータの製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
H02K 15/02 20060101AFI20220511BHJP
B21D 39/08 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
H02K15/02 H
B21D39/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020185711
(22)【出願日】2020-11-06
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(71)【出願人】
【識別番号】000126894
【氏名又は名称】株式会社アミノ
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】特許業務法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】安立 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】河島 孝明
(72)【発明者】
【氏名】三好 功記
(72)【発明者】
【氏名】牧尾 信平
(72)【発明者】
【氏名】杉田 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】原 豊
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 真梨子
(72)【発明者】
【氏名】寺内 祐二
【テーマコード(参考)】
5H615
【Fターム(参考)】
5H615AA01
5H615BB01
5H615BB05
5H615BB14
5H615PP02
5H615PP24
5H615SS09
5H615SS10
5H615SS19
(57)【要約】
【課題】ハイドロフォーミングを利用して、ロータシャフトとロータコアとの間の径方向の締め代を適切に確保する。
【解決手段】回転電機用のロータの製造方法であって、ロータコアと、中空のロータシャフトとを準備する準備工程と、ロータコアとロータシャフトとを製造装置に配置し、製造装置においてロータコアの径方向内側にロータシャフトが位置する状態を形成する配置工程と、配置工程の後に、製造装置によりロータコアの外周面を弾性部材を介して径方向に付勢することで、ロータコアを、製造装置おいて規定される基準軸に対して芯出しするコア芯出し工程と、コア芯出し工程によりロータコアが付勢された状態で、ロータシャフトの中空部の内圧を高めることで、ロータシャフト及びロータコアを締結する締結工程とを含む、製造方法が開示される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機用のロータの製造方法であって、
ロータコアと、中空のロータシャフトとを準備する準備工程と、
前記ロータコアと前記ロータシャフトとを製造装置に配置し、前記製造装置において前記ロータコアの径方向内側に前記ロータシャフトが位置する状態を形成する配置工程と、
前記配置工程の後に、前記製造装置により前記ロータコアの外周面を弾性部材を介して径方向に付勢することで、前記ロータコアを、前記製造装置おいて規定される基準軸に対して芯出しするコア芯出し工程と、
前記コア芯出し工程により前記ロータコアが付勢された状態で、前記ロータシャフトの中空部の内圧を高めることで、前記ロータシャフト及び前記ロータコアを締結する締結工程とを含む、製造方法。
【請求項2】
前記配置工程の後に、固定型に向けて、前記基準軸に平行な軸方向に沿って可動型を移動し、前記軸方向で前記固定型と前記可動型との間に、前記ロータコアと前記ロータシャフトを支持する型締め工程を更に含み、
前記コア芯出し工程は、前記型締め工程に連動して実現される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
回転電機用のロータを製造する製造装置であって、
ロータコアの径方向内側に中空のロータシャフトが位置する状態で、前記ロータコアの外周面を、弾性部材を介して基準軸に向けて径方向に付勢する芯出機構を備え、
前記芯出機構により前記ロータコアが付勢された状態で、前記ロータシャフトの中空部の内圧を高めることで、前記ロータシャフト及び前記ロータコアを締結する、製造装置。
【請求項4】
固定型と、
前記基準軸に平行な軸方向に移動可能であり、前記軸方向で前記固定型との間に前記ロータコアと前記ロータシャフトを支持する可動型と、
前記芯出機構と前記可動型とを連動させるカム機構とを更に備える、請求項3に記載の製造装置。
【請求項5】
前記芯出機構は、
前記弾性部材と、
前記ロータコアの外周面に当接する当接部材と、
前記当接部材に前記弾性部材を介して接続され、径方向に沿って移動可能な可動部材と、
前記可動部材を前記可動型に対して径方向に沿って移動可能に支持するスライド機構とを含む、請求項4に記載の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転電機用のロータの製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄管部材に凸部をハイドロフォーミングで成形する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ロータシャフトとロータコアとの間の必要な径方向の締め代を確保するためには、圧入や焼き嵌めが利用されており、ハイドロフォーミングを利用する技術は知られていない。
【0005】
本開示は、ハイドロフォーミングを利用して、ロータシャフトとロータコアとの間の径方向の締め代を適切に確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、回転電機用のロータの製造方法であって、
ロータコアと、中空のロータシャフトとを準備する準備工程と、
前記ロータコアと前記ロータシャフトとを製造装置に配置し、前記製造装置において前記ロータコアの径方向内側に前記ロータシャフトが位置する状態を形成する配置工程と、
前記配置工程の後に、前記製造装置により前記ロータコアの外周面を弾性部材を介して径方向に付勢することで、前記ロータコアを、前記製造装置おいて規定される基準軸に対して芯出しするコア芯出し工程と、
前記コア芯出し工程により前記ロータコアが付勢された状態で、前記ロータシャフトの中空部の内圧を高めることで、前記ロータシャフト及び前記ロータコアを締結する締結工程とを含む、製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
1つの側面では、本発明によれば、ハイドロフォーミングを利用して、ロータシャフトとロータコアとの間の径方向の締め代を適切に確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施例によるモータの断面構造を概略的に示す断面図である。
【
図2】一実施例による製造装置を概略的に示す断面図である。
【
図3】ロータの製造方法の流れを示す概略フローチャートである。
【
図4A】
図3に示す工程における製造途中の製品状態を概略的に示す断面図(その1)である。
【
図4B】
図3に示す工程における製造途中の製品状態を概略的に示す断面図(その2)である。
【
図4C】
図3に示す工程における製造途中の製品状態を概略的に示す断面図(その3)である。
【
図4D】
図3に示す工程における製造途中の製品状態を概略的に示す断面図(その4)である。
【
図4F】
図3に示す工程における製造途中の製品状態を概略的に示す断面図(その5)である。
【
図4G】
図3に示す工程における製品状態を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率はあくまでも一例であり、これに限定されるものではなく、また、図面内の形状等は、説明の都合上、部分的に誇張している場合がある。例えば、図面上、隙間がない部材間であってもわずかな隙間(例えば必要なクリアランス分の隙間)が形成される場合がありえ、また、図面上、隙間がある部材間であっても隙間がない場合もありえる。
【0010】
図1は、一実施例によるモータ1(回転電機の一例)の断面構造を概略的に示す断面図である。
【0011】
図1には、モータ1の回転軸Iが図示されている。以下の説明において、軸方向とは、モータ1の回転軸(回転中心)Iが延在する方向を指し、径方向とは、回転軸Iを中心とした径方向を指す。従って、径方向外側とは、回転軸Iから離れる側を指し、径方向内側とは、回転軸Iに向かう側を指す。また、周方向とは、回転軸Iまわりの回転方向に対応する。
【0012】
モータ1は、例えばハイブリッド車両や電気自動車で使用される車両駆動用のモータであってよい。ただし、モータ1は、他の任意の用途に使用されるものであってもよい。
【0013】
モータ1は、インナロータタイプであり、ステータ21がロータ30の径方向外側を囲繞するように設けられる。ステータ21は、径方向外側がモータハウジング10に固定される。ステータ21は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板からなるステータコアを含み、ステータコアの内周部には、コイル22が巻回される複数のスロット(図示せず)が形成される。
【0014】
ロータ30は、ステータ21の径方向内側に配置される。ロータ30は、ロータコア32と、ロータシャフト34とを備える。ロータコア32は、ロータシャフト34の径方向外側に固定され、ロータシャフト34と一体となって回転する。ロータシャフト34は、モータハウジング10にベアリング14a、14bを介して回転可能に支持される。なお、ロータシャフト34は、モータ1の回転軸Iを画成する。また、本実施例では、ロータシャフト34は、円形の断面形状であるが、断面形状は任意である。
【0015】
ロータシャフト34は、車輪に動力を伝達する動力伝達機構60に連結される。すなわち、ロータシャフト34には、モータ1の回転トルクを車軸(図示せず)に伝達するための動力伝達機構60が接続される。
図1には、当該動力伝達機構60の一部を形成する軸部材61が図示されている。なお、動力伝達機構60は、減速機構や、差動歯車機構、クラッチ、変速機等を含んでよい。
図1に示す例では、軸部材61は、ロータシャフト34の径方向外側にスプライン結合される。この場合、ロータシャフト34の端部の径方向外側の周面には、スプライン結合部(複数の軸方向の凸条からなる歯車部)を形成する動力伝達部345を有することになる。なお、軸部材61は、ロータシャフト34の径方向内側にスプライン結合されてもよい。
【0016】
ロータコア32は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板からなる。ロータコア32の内部には、永久磁石321が埋め込まれてよい。あるいは、永久磁石321は、ロータコア32の外周面に埋め込まれてもよい。なお、永久磁石321が設けられる場合、永久磁石321の配列等は任意である。
【0017】
ロータコア32の軸方向の両側には、エンドプレート35A、35Bが取り付けられる。エンドプレート35A、35Bは、ロータコア32を支持する支持機能の他、ロータ30のアンバランスの調整機能(切削等されることでアンバランスを無くす機能)を有してよい。
【0018】
ロータシャフト34は、
図1に示すように、中空部343を有する。中空部343は、ロータシャフト34の軸方向の全長にわたり延在する。
【0019】
ロータシャフト34は、
図1に示すように、軸方向で、ロータコア32が設けられる区間SC1の部位と、ベアリング14a、14bが設けられる区間SC2の部位と、後述する第1噴出孔341及び第2噴出孔342が設けられる区間SC3の部位とを含む。区間SC2は、軸方向の両端部にそれぞれ延在し、区間SC3は、軸方向で区間SC1と区間SC2との間に延在する。
【0020】
本実施例では、一例として、ロータシャフト34は、区間SC2において、外周面が径方向内側に凹む形態である。ロータシャフト34は、大径部34Aと、大径部34Aよりも外径が小さい小径部34Bとを含む。小径部34Bは、
図1に示すように、軸方向で大径部34Aの両側に形成される。ベアリング14a、14bは、小径部34Bに設けられる。なお、大径部34Aと小径部34Bとの間の径方向の段差は、回転軸Iに対して略直角に形成されてもよいし、テーパ状に形成されてもよい。本実施例では、一例として、大径部34Aと小径部34Bとの間の径方向の段差は、一端側(図の右側)では、回転軸Iに対して略直角に形成され、他端側(図の右側)では、テーパ状に形成されている。
【0021】
また、ロータシャフト34は、軸方向のベアリング支持面34a、34bを有する。軸方向のベアリング支持面34a、34bは、ベアリング14a、14bのインナレースの軸方向の端面に軸方向に当接することで、ベアリング14a、14bを支持する。軸方向のベアリング支持面34a、34bは、ロータシャフト34の小径部34Bにおいて外周面が径方向内側に凹むことで形成される。軸方向のベアリング支持面34a、34bは、ロータシャフト34の周方向の全周にわたり形成されてよい。
【0022】
ロータシャフト34は、径方向内側に凸となる凸部の形態の厚肉部347を周方向に沿って有する。厚肉部347は、ロータシャフト34の軸方向の略中心位置(区間SC1における軸方向の略中心位置)に形成される。ただし、変形例では、厚肉部347は、ロータシャフト34の軸方向の中心位置に対して軸方向でわずかにオフセットされてもよいし、形成されなくてもよい。厚肉部347は、例えば鋳造やフローフォーミング、摩擦圧接等により形成されてもよい。フローフォーミングによる厚肉部347の形成方法は、後述する。なお、摩擦圧接の場合、ロータシャフト34は、当該中心位置で軸方向に分割される2ピースにより形成されてもよい。なお、ロータシャフト34が厚肉部347を備える場合、区間SC1のうちの中央部の剛性が端部の剛性よりも高くなる。
【0023】
ロータシャフト34は、第1噴出孔341を有する。第1噴出孔341は、中空部343から外部へと径方向に貫通する。すなわち、第1噴出孔341は、中空部343に開口する開口341aと、コイル22のコイルエンド22Aに対向する開口341bとを有し、開口341a及び開口341b間に延在する。第1噴出孔341の開口341bは、コイル22のコイルエンド22Aに対向する態様で、ロータコア32に対し軸方向にずれた位置に配置される。なお、第1噴出孔341は、周方向に複数個形成されてもよい。
【0024】
ロータシャフト34は、更に、第1噴出孔341とは異なる軸方向の位置に、第2噴出孔342を有する。第2噴出孔342は、中空部343から外部へと径方向に貫通する。すなわち、第2噴出孔342は、中空部343に開口する開口342aと、コイル22のコイルエンド22Bに対向する開口342bとを有し、開口342a及び開口342b間に延在する。第2噴出孔342の開口342bは、コイル22のコイルエンド22Bに対向する態様で、ロータコア32に対し軸方向にずれた位置に配置される。なお、第2噴出孔342は、周方向に複数個形成されてもよい。
【0025】
ロータシャフト34内は、油供給源90に接続される。油供給源90は、ポンプ94を含んでよい。この場合、ポンプ94の種類や駆動態様は任意である。例えば、ポンプ94は、モータ1の回転トルクにより動作するギアポンプであってもよい。ロータシャフト34内には、ロータシャフト34の一端(図の右側の端部)側から油が供給される。なお、ポンプ94は、モータハウジング10に隣接するハウジング(図示せず)であって、動力伝達機構60を収容するハウジング内に配置されてよい。
【0026】
図1では、一例として、油供給源90は、管路部材92と、管路部材92の一端(図の右側の端部)側に接続されるポンプ94とを含む。
【0027】
管路部材92は、中空に形成され、内部が油路801を画成する。すなわち、管路部材92は、油路801として機能する中空部92Aを有する。中空部92Aは、管路部材92の軸方向の全長にわたり延在する。ただし、中空部92Aは、一端側(図の左側の端部であって、ポンプ94側とは逆側の端部)は開口しない。すなわち、管路部材92は、一端(図の左側の端部)が閉塞される。
【0028】
管路部材92は、ロータシャフト34の内周面340に対して径方向で隙間を有する態様でロータシャフト34内に延在する。具体的には、管路部材92は、外径r4を有する。外径r4は、ロータシャフト34の内周面340の、区間SC1、SC3での内径r1、r3よりも有意に小さい(なお、
図1では、区間SC1、SC3での内径r1、r3は同じである)。外径r4は、例えばロータシャフト34の内周面340の、区間SC2での内径r2と略等しい。
【0029】
管路部材92は、内部から外部へと径方向に貫通する吐出孔93を備える。吐出孔93は、ロータコア32の軸方向の略中心位置に対応する軸方向の位置と、その両側とに設けられる。なお、吐出孔93の軸方向の位置や数等は任意である。
【0030】
次に、
図1に示す矢印R1~R6を参照して、油供給源90からの油の流れについて概説する。
図1には、油の流れが矢印R1~R6で模式的に示されている。
【0031】
油供給源90から供給される油は、管路部材92の中空部92Aを通って軸方向に流れ(矢印R1参照)、吐出孔93から径方向外側へと吐出される(矢印R2参照)。吐出孔93から径方向外側へと吐出された油は、ロータシャフト34の内周面340に当たり、ロータシャフト34の内周面340を伝って第1噴出孔341及び第2噴出孔342へと軸方向に流れる(矢印R3、R4参照)。なお、この場合、ロータシャフト34の内周面340を伝って軸方向外側へと流れる油は、区間SC1においてロータコア32の径方向内側から熱を奪うことができ、ロータコア32を効率的に冷却できる。
【0032】
ここで、本実施例では、厚肉部347が設けられるので、吐出孔93から径方向外側へと吐出された油は、第1噴出孔341及び第2噴出孔342のそれぞれへと略均等に分配される。これにより、コイルエンド22A、22Bへと分配して導かれる油の均等化を図ることができる。この結果、ロータコア32を径方向内側から、軸方向に沿って均一に冷却できるとともに、第1噴出孔341及び第2噴出孔342を介してコイルエンド22A、22Bをそれぞれ同様に冷却できる。ただし、変形例では、吐出孔93の軸方向の位置と厚肉部347の軸方向の位置とにズレを設けること等によって、第1噴出孔341及び第2噴出孔342のそれぞれへと流れる油の流量の間に、差(すなわち分配量に関する差)を積極的に設定することも可能である。
【0033】
また、本実施例では、厚肉部347が設けられるので、吐出孔93から径方向外側へと吐出された油は、ある程度の厚みを有しつつ、ロータシャフト34の内周面340を伝うことができる。すなわち、厚肉部347が堰部として機能し、ロータシャフト34の内周面340における油の溜まりが促進される。
【0034】
ロータシャフト34の内周面340を伝って軸方向外側へと流れた油は、モータ1の回転時の遠心力の作用により、第1噴出孔341を通って径方向外側へと吐出される(矢印R5参照)。第1噴出孔341の開口341bは、上述のようにコイルエンド22Aに径方向で対向する。従って、第1噴出孔341を通って径方向外側へと吐出された油は、コイルエンド22Aに当たり、コイルエンド22Aを効率的に冷却できる。
【0035】
また、ロータシャフト34の内周面340を伝って軸方向外側へと流れた油は、モータ1の回転時の遠心力の作用により、第2噴出孔342を通って径方向外側へと吐出される(矢印R6参照)。第2噴出孔342の開口342bは、上述のようにコイルエンド22Bに径方向で対向する。従って、第2噴出孔342を通って径方向外側へと吐出された油は、コイルエンド22Bに当たり、コイルエンド22Bを効率的に冷却できる。
【0036】
このように、本実施例では、ロータシャフト34の内周面340を伝う油の流れを促進することが可能となる。この結果、ロータシャフト34の内周面340を伝う油によりロータコア32を径方向内側から効率的に冷却できるとともに、第1噴出孔341及び第2噴出孔342を介してコイルエンド22A、22Bを効率的に冷却できる。
【0037】
特に、本実施例では、ロータシャフト34の内周面340は、区間SC1での内径r1が、区間SC2での内径r2よりも有意に大きい。すなわち、ロータシャフト34の内周面340は、ロータコア32が設けられる区間SC1において拡径されている。これにより、ロータシャフト34の軽量化が図られるとともに、ロータシャフト34の内周面340と永久磁石321との間の径方向の距離を短くでき(内径r1≒内径r2の場合に比べて短くでき)、磁石冷却性能を効果的に高めることができる。
【0038】
なお、
図1では、特定の構造のモータ1が示されるが、モータ1の構造は、中空部343を有するロータシャフト34にロータコア32が締結される限り、任意である。従って、例えば管路部材92等は、省略されてもよい。例えば、管路部材92が省略される場合、軸部材61の中空部から油が供給されてもよい。この場合、軸部材61は、ロータシャフト34の径方向内側に嵌合されてもよい。
【0039】
また、
図1では、特定の冷却方法が開示されているが、モータ1の冷却方法は任意である。従って、例えば、ロータコア32に油路が形成されてもよいし、モータハウジング10内の油路により径方向外側からコイルエンド22A、22Bに向けて油が滴下されてもよい。また、
図1では、油供給源90の管路部材92は、モータ1における軸方向で動力伝達機構60と接続される側から、ロータシャフト34内に挿入されるが、モータ1における軸方向で動力伝達機構60と接続される側とは逆側から、ロータシャフト34内に挿入されてもよい。また、油冷に加えて、冷却水を利用した水冷方式が利用されてもよい。
【0040】
次に、
図2を参照して、上述した実施例のモータ1におけるロータ30を製造する製造装置200について説明する。
【0041】
図2は、一実施例による製造装置200を概略的に示す断面図であり、基準軸I
0を含む平面で切断した際の断面図である。
図2には、回転軸Iに平行なZ方向とともに、Z方向に沿ったZ1側とZ2側が定義されている。以下では、説明上、一例として、製造工程中において、Z方向が上下方向に対応し、Z2側が下側であるとする。また、
図2には、製造装置200における基準軸I
0が示される。基準軸I
0は、後述するワークの芯出しの際の中心軸を構成し、上述した回転軸Iに対応する。以下の製造装置200に係る説明において、特に言及しない限り、径方向は、基準軸I
0を通りかつ基準軸I
0に垂直な径方向を意味し、径方向外側とは、基準軸I
0から離れる側であり、径方向内側とは、基準軸I
0に近づく側である。
【0042】
製造装置200は、固定的に設置される製造設備の形態であり、以下で説明する各種の治具や型を備える。本実施例では、製造装置200は、固定型201と、シール型202、203と、可動型205と、芯出機構210と、カム機構220とを含む。
【0043】
固定型201は、固定側の金型であり、基準軸I
0を中心とした中空部2011を有する。中空部2011は、後述するように、ワークとしてのロータシャフト34のZ2側を支持する。また、固定型201は、Z1側の表面として支持面2012を有する。支持面2012は、例えばZ方向に垂直に延在する。支持面2012は、後述するように、ワークとしてのロータコア32のZ2側の端面32b(
図4A参照)を支持する。また、固定型201は、基準軸I
0を中心とした貫通穴2013を有する。貫通穴2013には、シール型202が固定される。
【0044】
また、本実施例では、固定型201には、カム機構220の第2カム部材222が固定される。第2カム部材222は、支持面2012よりも径方向外側に配置される。
【0045】
シール型202は、固定型201に対して固定される。シール型202は、基準軸I0に対して芯出しされている。換言すると、シール型202は、シール型203と協動して、基準軸I0を形成する。シール型202は、後述するように、ワークとしてのロータシャフト34のZ2側の端部をシールする。シール型202のうちの、シール機能に係る構造は、後述の製造方法に関連して後述する。なお、シール型202は、固定型201に対して脱着可能であってよい。あるいは、シール型202は、固定型201に対して基準軸I0に沿って移動可能であってもよい。
【0046】
シール型203は、可動型205に固定される。シール型202に対してZ方向で対向する関係で設けられる。シール型203は、基準軸I0に対して芯出しされている。すなわち、シール型203は、シール型202と同様、基準軸I0に対して芯出しされている。シール型203は、可動型205と一体的に基準軸I0に沿って移動可能である。シール型203は、後述するように、ワークとしてのロータシャフト34のZ1側の端部をシールする。シール型203のうちの、シール機能に係る構造は、後述の製造方法に関連して後述する。なお、シール型203は、可動型205に対して脱着可能であってよい。あるいは、シール型203は、可動型205に対して基準軸I0に沿って移動可能であってもよい。
【0047】
可動型205は、固定型201に対してZ方向で対向する関係で設けられる。可動型205は、上下動(Z方向の移動)が可能である。以下では、可動型205の可動範囲のうちの、最もZ1側の位置を「上死点」とも称し、最もZ2側の位置を「下死点」とも称する。可動型205が下死点に位置するとき、Z方向で可動型205と固定型201との間に、ワーク(後述するロータコア32及びロータシャフト34)が支持される。
【0048】
可動型205は、基準軸I0を中心とした中空部2051を有する。中空部2051は、可動型205が下死点に位置するときに、後述するように、ワークとしてのロータシャフト34のZ1側を支持する。また、可動型205は、基準軸I0を中心とした貫通穴2053を有する。貫通穴2053には、シール型203が固定される。なお、シール型203が可動型205に対して軸方向に移動可能な構成の場合は、貫通穴2053の内径は、シール型203の外径よりもわずかに大きくてよい。
【0049】
芯出機構210は、後述するように、ワークとしてのロータコア32を基準軸I
0に対して芯出しする芯出し機能を有する。芯出機構210は、基準軸I
0まわりの周方向に沿って複数設けられる。本実施例では、一例として、4つの芯出機構210が設けられ、
図2には、4つのうちの2つが示されている。なお、変形例では、芯出機構210は、3つだけ設けられてもよいし、5つ以上設けられてもよい。以下では、特に言及しない限り、4つの芯出機構210のうちの、任意の1つについて説明するが、他の3つについても、配置が異なるだけで実質的に同様である。
【0050】
芯出機構210は、弾性部材211と、当接部材212と、可動部材213と、スライド機構214とを含む。
【0051】
弾性部材211は、当接部材212と可動部材213の間に設けられる。弾性部材211は、径方向に沿って伸縮可能である。弾性部材211は、機械的なバネ(スプリング)やゴムにより実現されてもよいし、流体式のバネにより実現されてもよい。また、弾性部材211の弾性特性(荷重に対する伸縮量の特性)は、線形であってもよいし、非線形であってもよい。また、弾性部材211は、弾性変形した際に、径方向のみに弾性力を発生する部材であってもよいし、径方向の弾性力よりも有意に小さい他の方向成分の弾性力を発生してもよい。
【0052】
当接部材212は、弾性部材211の径方向内側に設けられる。当接部材212は、後述するように、ワークとしてのロータコア32の外周面に径方向に当接する。当接部材212は、比較的剛性の高い(例えば弾性部材211よりも弾性係数が有意の高い)部材であってよいし、ゴムのような弾性材料により実現されてもよい。また、当接部材212は、弾性部材211と一体的に形成されてもよい。この場合、弾性部材211が、当接部材212の機能を実現してもよい。
【0053】
可動部材213は、可動型205に対して移動可能な部材であり、カム機構220の第1カム部材221(後述)に結合される。可動部材213は、弾性部材211の径方向外側に設けられる。可動部材213は、可動型205に対して、スライド機構214を介して、径方向に沿って移動可能である。
【0054】
スライド機構214は、可動型205に設けられる。スライド機構214は、可動型205に対して、可動部材213を径方向に沿って移動可能に支持する。スライド機構214の構成は、任意であり、例えば機械的なスライド機構であってもよい。この場合、スライド機構214は、レール式やピストン式等のような任意のタイプの往復動機構を利用してよい。
【0055】
また、スライド機構214は、可動型205に対して可動部材213を径方向外側に付勢する付勢手段(図示せず)を有する。この場合、可動部材213は、スライド機構214のストッパ(図示せず)により径方向外側への移動が係止される。従って、可動部材213は、後述するカム機構220が機能しない状態では、径方向の可動範囲のうちの、最も径方向外側の位置(以下、「退避位置」とも称する)に位置する(
図2参照)。
【0056】
このようにして、芯出機構210は、スライド機構214により、可動型205に対して可動部材213及びそれに伴い弾性部材211及び当接部材212が径方向に移動可能である。
【0057】
カム機構220は、芯出機構210と可動型205とを連動させる。具体的には、カム機構220は、可動型205の上下動に連動させて、芯出機構210の径方向の移動を実現する。
【0058】
本実施例では、カム機構220は、第1カム部材221と、第2カム部材222とを含む。
【0059】
第1カム部材221は、芯出機構210側に結合される。
図2では、第1カム部材221は、可動部材213に結合される。なお、第1カム部材221は、可動部材213と一体に形成されてもよい。
【0060】
第1カム部材221は、径方向外側に第1カム面2211を有する。第1カム面2211は、平面状であり、その法線方向は、基準軸I0を含む平面内に延在する。第1カム面2211は、Z1側に向かうほど径方向外側に向かう態様で傾斜する。すなわち、第1カム面2211は、その法線方向(第1カム面2211から離れる方向の法線方向)が、Z2側かつ径方向外側に向かう向きである。
【0061】
第2カム部材222は、径方向内側に第2カム面2221を有する。第2カム面2221は、平面状であり、その法線方向は、基準軸I0を含む平面内に延在する。第2カム面2221は、第1カム部材221の第1カム面2211に対して相補関係の形態であり、互いに平行である。
【0062】
第2カム面2221は、Z方向に視て、第1カム部材221の第1カム面2211に重なる。従って、可動型205のZ2側への移動と一体的に第1カム部材221がZ2側に移動すると、第2カム面2221に第1カム面2211が当たる。そして、第1カム部材221がZ2側に更に移動すると、第2カム面2221と第1カム面2211との間に生じる力(径方向の成分を有する力)に起因して、第1カム部材221と一体の可動部材213が径方向内側へと移動する。このようにして第2カム面2221に第1カム面2211が当接した状態は、カム機構220が機能する状態(又は機能可能な状態)に対応する。第2カム面2221に第1カム面2211が当接した状態では、上述した第1カム面2211及び第2カム面2221の傾斜に起因して、可動型205がZ2側に移動すると、第1カム部材221が径方向内側に移動する。可動型205が下死点に至ると、可動部材213は、その可動範囲のうちの、最も径方向内側の位置(以下、「芯出し位置」とも称する)に至る。
【0063】
逆に、可動型205が下死点からZ1側に移動すると、可動型205のZ1側への移動と一体的に第1カム部材221がZ1側に移動する。この場合、スライド機構214の付勢手段(図示せず)により、第2カム面2221に第1カム面2211が当接した状態が維持される。第2カム面2221に第1カム面2211が当接した状態では、上述した第1カム面2211及び第2カム面2221の傾斜に起因して、可動型205がZ1側に移動すると、第1カム部材221が径方向外側に移動する。そして、可動型205及びそれに伴い第1カム部材221がZ1側に更に移動して、第2カム面2221から第1カム面2211が離間すると、可動部材213は、スライド機構214の付勢手段(図示せず)により、可動範囲内の最も径方向外側の位置(退避位置)へと移動される。
【0064】
このようにして、本実施例では、芯出機構210の可動部材213は、可動型205が上死点に位置するときは、退避位置に位置し、可動型205が下死点に位置するときは、芯出し位置に位置する。特に本実施例では、カム機構220を介して可動型205と芯出機構210とが連動するので、連動しない場合に比べて、限られたスペースを利用して効率的な構成を実現できる。また、スライド機構214を利用することで、可動部材213の動きの自由度を径方向に沿った並進移動だけに限定させることができる。これにより、芯出機構210による芯出し機能を径方向に限定した態様で効果的に実現できる。
【0065】
また、製造装置200は、ハイドロフォーミング用の液圧発生装置240を含む。液圧発生装置240は、例えばシール型203等に連通される。なお、液圧発生装置240は、シール型202、203の双方に連通されてもよい。
【0066】
次に、
図3及び
図4A~
図4Gを参照して、
図2に示した製造装置200を用いたロータ30の製造方法の例について説明する。
【0067】
図3は、ロータ30の製造方法の流れを示す概略フローチャートであり、
図4A~
図4Gは、
図3に示すいくつかの工程におけるロータシャフト34及びロータコア32の状態を概略的に示す断面図である。なお、
図4B~
図4D、及び
図4Fは、基準軸I
0を含む平面で切断した際の断面図であり、
図4Eは、基準軸I
0に垂直な平面で切断した際の断面図である。
【0068】
まず、ロータ30の製造方法は、ワークとして、ロータシャフト34及びロータコア32のそれぞれ(互いに結合されていない状態)を、準備する準備工程(ステップS500)を含む。なお、ロータシャフト34の厚肉部347は、フローフォーミング加工又はスピニング加工等により形成されてよい。
【0069】
なお、この段階でのロータシャフト34は、
図4Aに示すように、区間SC1に対応する部分の内径r1’が、製品状態の内径r1(
図1参照)よりもわずかに小さくてよい。
【0070】
また、ロータシャフト34と同様に、この段階でのロータコア32は、外径が製品状態の外径よりもわずかに小さくてよい。これは、後述する締結工程においてロータコア32は、ロータシャフト34の拡径に伴って径方向外側にわずかに変形するためである。
【0071】
ついで、ロータ30の製造方法は、
図4Bに示すように、ロータシャフト34及びロータコア32を、製造装置200に対してセットする配置工程(ステップS502)を含む。固定型201の中空部2011内にロータシャフト34のZ2側の部位が挿入される。なお、変形例では、固定型201の中空部2011内にロータシャフト34のZ1側の部位が挿入されてもよい。
【0072】
このようにして、ロータシャフト34及びロータコア32が、製造装置200の固定型201に対してセットされた状態では、製造装置200の固定型201は、ロータシャフト34及びロータコア32を同時にZ2側から支持し、ロータシャフト34及びロータコア32のZ2側への移動(変位)を拘束する。
【0073】
なお、配置工程の際には、可動型205は、
図4Bに示すように、上死点に位置し、それに伴い、芯出機構210の可動部材213は、退避位置に位置している。従って、固定型201のZ1側の空間が開けるので、ロータシャフト34及びロータコア32の配置が容易となる。
【0074】
なお、ロータシャフト34及びロータコア32が、製造装置200の固定型201に対してセットされた状態では、ロータシャフト34の外径r11は、ロータコア32の内径(軸心の孔の径)r12よりもわずかに小さくてもよいし(
図4E参照)、略同じであってもよい。
【0075】
また、ロータシャフト34及びロータコア32は、必ずしも同時に製造装置200の固定型201に対してセットされる必要はなく、順に製造装置200の固定型201に対してセットされてもよい。
【0076】
なお、本実施例では、一例として、配置工程(ステップS502)の際に、シール型202はすでに固定型201にセット(固定)されている。従って、本実施例で、ロータシャフト34は、配置工程の際に、中空部343内にZ2側のシール型202の部位2021が挿入されることによって、Z2側で芯出しされる。シール型202の部位2021の中心軸は、基準軸I
0に対して正確に一致する。シール型202の部位2021は、ロータシャフト34のZ2側の小径部34Bの内径(
図1の内径r2参照)に対応する外径を有する。なお、部位2021は、基準軸I
0に垂直な平面で切断した際の断面の外形が円形であり、当該円形の外径は、ロータシャフト34のZ2側の小径部34Bの内径よりもわずかに小さくてよい。これにより、ロータシャフト34は、Z2側において、基準軸I
0に対して正確に芯出しされたシール型202の部位2021により、径方向内側からある程度芯出しされる。
【0077】
ついで、配置工程が完了すると、Z方向に沿って可動型205を下死点に向けて移動させることで、Z方向で固定型201と可動型205との間に、ロータコア32及びロータシャフト34を支持する型締め工程(ステップS504)が実行される。
【0078】
本実施例では、型締め工程と連動して、シャフト芯出し工程(ステップS504A)と、コア芯出し工程(ステップS504B)、及びシール工程(ステップS504C)が実現される。
【0079】
シャフト芯出し工程(ステップS504A)は、
図4Cに示すように、ロータシャフト34の中心軸I
1(
図4A参照)を、基準軸I
0に合わせる。すなわち、シャフト芯出し工程は、ロータシャフト34を、製造装置200において規定される基準軸I
0に対して芯出しする。
【0080】
本実施例では、
図4Cに示すように、シャフト芯出し工程は、製造装置200のシール型203により実現される。具体的には、ロータコア32の芯出しは、シール型203と一体的に移動する可動型205を上死点から下死点よりもZ1側の位置(以下、「中間点」)まで移動させることで実現される。なお、中間点は、上死点と下死点との間であればよく、厳密に真ん中の位置である必要はない。
【0081】
具体的には、可動型205が中間点まで下降すると、それに伴い、Z1側のシール型203は、ロータシャフト34に対してZ1側からZ方向に沿ってZ2側へと移動して、シール型203の部位2031がロータシャフト34の中空部343内に挿入される。シール型203の部位2031の中心軸は、基準軸I
0に対して正確に一致する。部位2031は、ロータシャフト34のZ1側の小径部34Bの内径(
図1の内径r2参照)に対応する外径を有する。なお、部位2031は、基準軸I
0に垂直な平面で切断した際の断面の外形が円形であり、当該円形の外径は、ロータシャフト34のZ1側の小径部34Bの内径よりもわずかに小さくてよい。これにより、ロータシャフト34は、基準軸I
0に対して正確に芯出しされたシール型203の部位2031により、径方向内側からある程度芯出しされる。
【0082】
なお、本実施例では、上述したように、Z2側では、すでに、配置工程が完了した段階で、Z2側のシール型202により、ロータシャフト34が基準軸I0に対してある程度芯出しされている。
【0083】
このようにして、シャフト芯出し工程が完了すると、ロータシャフト34は、Z2側及びZ1側の双方において、基準軸I0に対して正確に芯出しされたシール型202、203のそれぞれの部位2021、2031により、径方向内側からある程度芯出しされる。この場合、ロータシャフト34の中心軸I1が基準軸I0に対してずれていると、ロータシャフト34は、シール型202、203のそれぞれの部位2021、2031により、中心軸I1が基準軸I0に一致するように、位置や姿勢がある程度矯正される。
【0084】
なお、本実施例では、シール型202、203は、時間差を有する態様でセットされるが、同時にロータシャフト34に対してセットされてもよい。また、シール型203がロータシャフト34に対してセットされ、ついで、シール型202がロータシャフト34に対してセットされてもよい。
【0085】
なお、
図4Cに示す例では、可動型205が中間点に至った段階で、カム機構220が機能し始めている。これにより、可動型205の可動範囲を効率的に利用して、シャフト芯出し工程を実現できる。すなわち、可動型205の可動範囲の最小化を図ることができる。ただし、変形例では、可動型205が中間点に至った段階で、カム機構220が機能し始めていなくてもよい(すなわち、第1カム面2211と第2カム面2221とが離れていてもよい)し、すでにカム機構220が機能していてもよい(すなわち芯出機構210の可動部材213が、退避位置から径方向内側に移動していてもよい)。
【0086】
コア芯出し工程(ステップS504B)は、
図4Dに示すように、ロータコア32の中心軸I
2(
図4A参照)を、基準軸I
0に合わせる。すなわち、コア芯出し工程は、ロータコア32を、製造装置200において規定される基準軸I
0に対して芯出しする工程を含む。
【0087】
本実施例では、
図4Dに示すように、ロータコア32の芯出しは、上述した芯出機構210により実現される。具体的には、ロータコア32の芯出しは、芯出機構210とカム機構220を介して連動する可動型205を中間点から下死点に向けて移動させることで実現される。
【0088】
可動型205が下死点に向かって移動すると、上述したカム機構220が機能し、カム機構220を介して芯出機構210が機能する。すなわち、可動型205が下死点に向かって移動するにつれて、芯出機構210の可動部材213が径方向内側へと移動する。そして、可動型205が下死点まで移動すると、芯出機構210の可動部材213は、上述したように、芯出し位置に至る。
【0089】
芯出機構210は、可動部材213が芯出し位置に位置するときに、ロータコア32の外周面に、当接部材212の径方向内側の先端部2121が当接し、かつ、弾性部材211が弾性変形して、当接部材212の径方向内側の先端部2121がロータコア32の外周面を押圧するように構成される。
【0090】
図4D及び
図4Eには、可動部材213が芯出し位置に位置するときの状態が模式的に示されている。なお、当接部材212は、好ましくは、3つ以上設けられ、本実施例では、4つ設けられる。また、当接部材212は、
図4Dに示すように、好ましくは、ロータコア32の軸方向の略全長にわたり作用するように、ロータコア32の軸方向全体にわたり軸方向に延在する。なお、ロータコア32の外周面に微小な凹凸が設定される場合、当接部材212は、ロータコア32の外周面における当該凹凸を避けた位置で径方向に当接するのが望ましい。
【0091】
図4D及び
図4Eに示す例では、芯出機構210の当接部材212は、4つ、基準軸I
0まわりに90度の間隔をおいて設けられる。上述したようにカム機構220が機能することで各芯出機構210の可動部材213が基準軸I
0に向かって進むと、ロータコア32の外周面に、当接部材212の径方向内側の先端部2121が当接する。そして、各芯出機構210の可動部材213が基準軸I
0に向かって更に進むと、各芯出機構210の弾性部材211が弾性変形して、当接部材212の径方向内側の先端部2121がロータコア32の外周面を押圧する(矢印F30参照)。すなわち、4つの芯出機構210は、周方向の異なる4つの位置から、弾性部材211を介して、ロータコア32を径方向に付勢した状態となる。この際に発生する弾性部材211の弾性力が、ロータコア32の基準軸I
0に対する芯出しを実現する。すなわち、ロータコア32の中心軸I
2が基準軸I
0に対してずれていると、ロータコア32は、弾性部材211の弾性力(径方向内側への力)により、中心軸I
2が基準軸I
0に一致するように、位置や姿勢が矯正される。これにより、ロータシャフト34がロータコア32の径方向内側に配置された状態においても、芯出機構210により径方向外側からロータコア32を精度良く芯出しできる。
【0092】
なお、可動部材213が芯出し位置に位置するときに弾性部材211により発生される弾性力は、上述したように、ロータコア32を芯出しするための力となるので、かかる芯出しが確実に実現されるような大きさに設定される。すなわち、弾性部材211の弾性特性や可動部材213の芯出し位置等は、ロータコア32の芯出しが確実に実現されるように適合される。
【0093】
このようにして、本実施例では、基準軸I0に向かってロータコア32を径方向に付勢する芯出機構210により、ロータコア32を径方向外側から芯出できる。
【0094】
そして、製造装置200においては、ロータコア32は、基準軸I0に対して芯出しされることで、同じ基準軸I0に対して芯出しされたロータシャフト34の中心軸I1に対して、芯出しされることになる。すなわち、ロータコア32の中心軸I2をロータシャフト34の中心軸I1と精度良く一致させることができる。
【0095】
なお、
図4D及び
図4Eに示す例では、芯出機構210は、当接部材212の先端部2121がロータコア32の外周面に対して線接触(軸方向の線接触)するように形成されているが、面接触するように形成されてもよい。この場合、当接部材212の先端部2121は、基準軸I
0に沿った方向に視て、ロータコア32の外周面に沿った湾曲面を有してよい。
【0096】
シール工程(ステップS504C)は、図示しないが、シール型202、203によりロータシャフト34の中空部343をロータシャフト34の外部に対してシールする。例えば、Z1側のシール型203を、ロータシャフト34に対してZ1側からZ方向に沿ってZ2側へと更に移動させることで、ロータシャフト34をシール型202、203によりシールできる。この場合、ロータシャフト34は、ステップS504Aで芯出しされた状態で、製造装置200に対して強固に固定される。このようにして、ロータシャフト34の芯出しは、ステップS504Aではある程度のレベルで実現され、本ステップS504Cにおいて完全なレベルで実現されてもよい。
【0097】
なお、シール工程において、Z1側のシール型203を、ロータシャフト34に対してZ1側からZ方向に沿ってZ2側へと更に移動させる場合は、当該シール工程は、コア芯出し工程(ステップS504B)の最終段階で並列的に実現されてもよい。
【0098】
ついで、ロータ30の製造方法は、
図4Fに示すように、ハイドロフォーミングによりロータシャフト34にロータコア32を固定(締結)する締結工程(ステップS506)を含む。例えば、
図4Fに模式的に示すように、ロータシャフト34がシール型202、203に押さえられた状態で、液圧発生装置240(
図2参照)によってシール型202、203を介して中空部343内に流体が導入され、流体を加圧することで、ロータシャフト34の内周面340に対して内周面340に垂直な力(内圧)を付与する(
図4Fの矢印R31参照)。これにより、ロータシャフト34が拡径し、ロータシャフト34とロータコア32との間の径方向の締め代が確保される(
図4G参照)。すなわち、ロータシャフト34の内径r1’が内径r1へと拡大されるのに伴い、その分だけ外径r11が増加し、締め代が確保される。このようなハイドロフォーミングによれば、圧入のような、ロータシャフト34とロータコア32の嵌合方法で生じうる不都合(例えば圧入の際のロータコア32の倒れ等)を防止できる。
【0099】
本実施例では、締結工程は、可動型205が下死点に維持された状態、すなわち芯出機構210の可動部材213が芯出し位置に維持された状態で実現される。
【0100】
従って、本実施例では、ステップS506の締結工程中も、ロータコア32が芯出機構210により基準軸I0に向けて付勢されるので、ロータコア32が基準軸I0を介してロータシャフト34に対して芯出しされた状態を維持しながら、ロータコア32とロータシャフト34とを締結できる。
【0101】
ところで、締結工程は、上述したように、ロータシャフト34の拡径を引き起こすため、ロータコア32の拡径も引き起こす。換言すると、ロータコア32の拡径が生じるような態様で締結工程を実現することで、ロータシャフト34とロータコア32との間の径方向の締め代が確保される。
【0102】
この点、本実施例の場合とは異なり、締結工程中にロータコア32の拡径が妨げられるように芯出機構を構成した場合、例えば、本実施例における芯出機構210において弾性部材211を省略した構成(以下、「第1比較例」と称する)の場合、ロータコア32の拡径が妨げられることに起因して、ロータシャフト34とロータコア32との間の径方向の締め代を適切に確保できないおそれがある。また、第1比較例の場合、締結工程中に、かかる芯出機構を介して、固定型201や可動型205等に、内圧による大きな力(ロータコア32を拡径させようとする力)がかかることになり、固定型201や可動型205等の変形に起因した製品精度悪化や、それを防ぐための金型剛性の大幅な増加(固定型201や可動型205等の大型化)といった不都合が生じうる。また、同様の理由から、締結工程中に可動型205を下死点で保持するのに必要な軸方向の力が相当に大きくなるといった不都合も生じうる。
【0103】
これに対して、本実施例では、締結工程中に芯出機構210の可動部材213が芯出し位置に維持される場合でも、当接部材212は、弾性部材211の弾性力に抗して径方向外側に変位可能である。
【0104】
従って、本実施例によれば、締結工程中に芯出機構210の可動部材213が芯出し位置に維持される場合でも、弾性部材211の弾性力に抗したロータコア32の拡径(
図4Fの矢印F40参照)が可能である。なお、このような観点から、弾性部材211の弾性力は、上述したように、コア芯出し工程においてロータコア32の芯出しが確実に実現されつつ、締結工程中のロータコア32の拡径が可能なように、適合される。
【0105】
このようにして、本実施例によれば、ロータシャフト34とロータコア32との間の径方向の締め代を適切に確保できる。また、本実施例によれば、上述した第1比較例とは異なり、締結工程中に、弾性部材211が径方向に弾性変形することが可能であることから、締結工程中に、芯出機構210を介して、固定型201や可動型205等に、内圧による大きな力(上述した第1比較例でかかるような大きな力)がかかることがない。従って、本実施例によれば、上述した第1比較例で生じうる不都合(製品精度悪化や、固定型201等の大型化等)を低減できる。
【0106】
ここで、本実施例の場合とは異なり、締結工程中にロータコア32の拡径が芯出機構によって妨げられないように、締結工程に先立って、芯出機構を径方向外側等に退避させる構成(以下、「第2比較例」と称する)も可能である。
【0107】
しかしながら、このような第2比較例の場合、可動型205と固定型201との間でワークを支持した状態(シール状態)を維持しながら、芯出機構を径方向外側等に退避させる必要があり、機構が複雑化する。例えば、可動型205の動きとは独立して、芯出機構を駆動する駆動機構を設定する必要が生じる。
【0108】
これに対して、本実施例によれば、締結工程中に、当接部材212が弾性部材211の弾性力に抗して径方向外側に変位可能であるので、締結工程に先立って、芯出機構210の可動部材213を径方向外側に退避させる必要がない。従って、本実施例によれば、芯出機構210を、上述したように可動型205とカム機構220を介して連動させることが可能である。すなわち、本実施例では、上述した第2比較例とは異なり、可動型205の動きとは独立して、芯出機構210を駆動する駆動機構を設定する必要がない。これにより、芯出機構210を効率的に実現できる。
【0109】
ついで、ロータ30の製造方法は、下死点に位置する可動型205を、上死点まで上昇させる工程(ステップS507)を含む。可動型205が上死点に位置する状態では、上述したように、可動部材213が退避位置に位置する。従って、固定型201のZ1側の空間が開けるので、締結されたロータシャフト34及びロータコア32の取り出しが容易となる。
【0110】
ついで、ロータ30の製造方法は、ロータシャフト34において第1噴出孔341及び第2噴出孔342に対応する孔を形成する噴出孔形成工程(ステップS508)を含む。なお、噴出孔形成工程は、ロータシャフト34を製造装置200から取り出してから実行されてよい。噴出孔形成工程(ステップS508)が終了すると、最終的なロータシャフト34が出来上がる。
【0111】
ついで、ロータ30の製造方法は、その他の仕上げ工程(ステップS510)を含む。その他の仕上げ工程は、回転バランスを調整する工程等を含んでよい。
【0112】
このようにして、
図3及び
図4A~
図4Gを参照して説明したロータ30の製造方法によれば、ロータコア32及びロータシャフト34が、製造装置200の基準軸I
0に対して芯出しされた状態を形成し、かつ、当該状態を維持しつつ、ハイドロフォーミングによりロータコア32とロータシャフト34を一体化(締結)できる。これにより、回転軸Iまわりのアンバランスが低減されたロータ30を製造できる。また、芯出しされた状態でハイドロフォーミングによりロータシャフト34を拡径できるので、ロータコア32とロータシャフト34との締結に係る締め代を周方向に沿って均一化できる。
【0113】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。また、各実施形態の効果のうちの、従属項に係る効果は、上位概念(独立項)とは区別した付加的効果である。
【0114】
例えば、上述した実施例では、ワークは、ロータコア32及びロータシャフト34のみであるが、エンドプレート35A、35Bを形成する部材を含んでもよい。すなわち、エンドプレート35A、35Bも、ロータコア32と同様に、ロータシャフト34にハイドロフォーミングにより締結されてもよい。
【0115】
また、上述した実施例では、型締め工程(ステップS504)と連動して、シャフト芯出し工程(ステップS504A)と、コア芯出し工程(ステップS504B)、及びシール工程(ステップS504C)が実現されるが、シャフト芯出し工程(ステップS504A)及び/又はシール工程(ステップS504C)は、型締め工程と連動しない態様で実現されてもよい。
【符号の説明】
【0116】
1・・・モータ(回転電機)、30・・・ロータ、32・・・ロータコア、34・・・ロータシャフト、343・・・中空部、I0・・・基準軸、200・・・製造装置、211・・・弾性部材、205・・・可動型、210・・・芯出機構、220・・・カム機構、212・・・当接部材、213・・・可動部材、214・・・スライド機構