(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022075156
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】粒子形態の制御された炭酸カルシウムおよびその製造方法ならびに結晶成長方法
(51)【国際特許分類】
C01F 11/18 20060101AFI20220511BHJP
C30B 29/16 20060101ALI20220511BHJP
C30B 7/04 20060101ALI20220511BHJP
C09C 3/00 20060101ALI20220511BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
C01F11/18 G
C30B29/16
C30B7/04
C09C3/00
C09D17/00
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020185757
(22)【出願日】2020-11-06
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-06-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ▲1▼ 令和1年11月8日に以下のウェブサイトにて公開 https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2019/ce/c9ce01403a/unauth#!divCitation
(71)【出願人】
【識別番号】391009187
【氏名又は名称】株式会社白石中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】毛塚 雄己
(72)【発明者】
【氏名】吉田 麻弥
【テーマコード(参考)】
4G076
4G077
4J037
【Fターム(参考)】
4G076AA16
4G076BF10
4G076CA01
4G076CA02
4G076CA26
4G076CA28
4G076CA29
4G076DA01
4G076DA02
4G076DA16
4G076DA30
4G077AA01
4G077AB03
4G077AB09
4G077BD10
4G077CB02
4G077HA20
4J037AA10
4J037CC06
4J037CC12
4J037CC24
4J037DD02
4J037DD05
4J037DD07
4J037EE46
4J037FF01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】特定の形状と構造とを有する結晶を含み、ナノオーダーサイズの平均粒子径を有する炭酸カルシウムを提供する。特定の形状と構造とを有する結晶を含み特定の範囲の平均粒子径を有する炭酸カルシウムの製造方法並びに結晶成長方法を提供する。
【解決手段】カルサイト構造を有し、BET比表面積が2~50m
2/gであり、電子顕微鏡で測定した個数基準による平均粒子径が30nm~1.0μmの炭酸カルシウムであって、その一部に、概ね環状の粒子を含む、前記炭酸カルシウムである。及び大気圧下で炭酸カルシウム水分散体に二酸化炭素を添加することにより、該炭酸カルシウム水分散体のpHを9.0以下に低下させる工程;ついで該炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させて、炭酸カルシウムの粒子を成長させる工程;を含む、概ね環状の粒子を含む炭酸カルシウムの製造方法である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルサイト構造を有し、BET比表面積が2~50m2/gであり、電子顕微鏡で測定した個数基準による平均粒子径が30nm~1.0μmの炭酸カルシウムであって、その一部に、概ね環状の粒子を含む、前記炭酸カルシウム。
【請求項2】
脂肪酸およびその誘導体、樹脂酸およびその誘導体、シリカ、有機ケイ素化合物、縮合リン酸および縮合リン酸塩からなる群より選択される表面処理剤で表面処理された、請求項1に記載の炭酸カルシウム。
【請求項3】
樹脂と、請求項1または2に記載の炭酸カルシウムとを含む、樹脂組成物。
【請求項4】
以下の工程:
大気圧下で炭酸カルシウム水分散体に二酸化炭素を添加することにより、該炭酸カルシウム水分散体のpHを9.0以下に低下させる工程;ついで
該炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させて、炭酸カルシウムの粒子を成長させる
工程;
を含む、概ね環状の粒子を含む炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項5】
該概ね環状の粒子を含む炭酸カルシウムが、カルサイト構造を有し、BET比表面積が2~50m2/gであり、電子顕微鏡で測定した個数基準による平均粒子径が30nm~1.0μmの炭酸カルシウムである、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
該炭酸カルシウム水分散体を静置すること、該炭酸カルシウム水分散体を撹拌すること、該炭酸カルシウム水分散体を減圧すること、該炭酸カルシウム水分散体を昇温すること、および該炭酸カルシウム水分散体に塩基性物質を添加することからなる群より選択される方法により、該炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させる、請求項4または5に記載の製造方法。
【請求項7】
該炭酸カルシウム水分散体のpHを9.0以下に低下させる工程と、該炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させる工程とを繰り返す、請求項4~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
以下の工程:
大気圧下で炭酸カルシウム水分散体に二酸化炭素を添加することにより、該炭酸カルシウム水分散体のpHを9.0以下に低下させる工程;ついで
該炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させて、炭酸カルシウムの粒子を成長させる工程;
を含む、概ね環状の粒子を含む炭酸カルシウムの結晶成長方法。
【請求項9】
該概ね環状の粒子を含む炭酸カルシウムが、カルサイト構造を有し、BET比表面積が2~50m2/gであり、電子顕微鏡で測定した個数基準による平均粒子径が30nm~1.0μmの炭酸カルシウムである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
該炭酸カルシウム水分散体を静置すること、該炭酸カルシウム水分散体を撹拌すること、該炭酸カルシウム水分散体を減圧すること、該炭酸カルシウム水分散体を昇温すること、および該炭酸カルシウム水分散体に塩基性物質を添加することからなる群より選択される方法により、該炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させる、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
該炭酸カルシウム水分散体のpHを9.0以下に低下させる工程と、該炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させる工程とを繰り返す、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子形態の制御された炭酸カルシウムとその製造方法ならびに結晶成長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸カルシウム(CaCO3)は、各種工業製品の基材や填料として用いられるほか農業や食品の分野でも広く利用されている。炭酸カルシウムは、水酸化カルシウムの水溶液に二酸化炭素を吹き込むことや、塩化カルシウム等の可溶性カルシウム塩水溶液と炭酸ナトリウム等の可溶性炭酸塩水溶液を混合させることで製造される。一方、石灰石(CaCO3)を焼成し脱炭酸して得られた生石灰(CaO)を水と反応させて石灰乳(CaOH2の水懸濁液)を得、石灰乳に焼成時に得られた二酸化炭素を導入して、液中で炭酸カルシウムを製造する白石法が広く知られている。
【0003】
炭酸カルシウムは、用途に応じた所望の粒子径や結晶形を有するものを作り分ける試みが多数行われている。炭酸カルシウムには、カルサイト結晶、アラゴナイト結晶、バテライト結晶等の構造多形が存在するが、これらを作り分ける方法も提案されている。たとえば、特許文献1は、アラゴナイト型炭酸カルシウムを製造する方法を提案する。また特許文献2には、石膏と、シード、鉱酸又はその両方とを含む混合物と少なくとも1つの炭酸塩源とを反応させて、バテライト多形から変換することなく直接カルサイト及び/又はアラゴナイトの形態で沈降炭酸カルシウムを作製することを含む、石膏を沈降炭酸カルシウムへと変換するプロセスが開示されている。一方、特許文献3には、バイオマス発電所の籾殻灰と排煙を利用してナノサイズ二酸化ケイ素とナノサイズ炭酸カルシウムを製造する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-203581号公報
【特許文献2】特表2018-510108号公報
【特許文献3】特表2017-500270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、従来技術においても、粒子径や結晶形の異なる炭酸カルシウムを製造する方法が種々提案されている。しかしながら、粒子径が1~100nm程度の、いわゆるナノスケールのサイズを有する炭酸カルシウムを効率よく得ることができる方法には未だ強い要求が存在する。
【0006】
そこで本発明は、特定の形状と構造とを有する結晶を含み、ナノオーダーサイズの平均粒子径を有する炭酸カルシウムを提供することを目的とする。さらに本発明は、特定の形状と構造とを有する結晶を含み特定の範囲の平均粒子径を有する炭酸カルシウムを製造する方法ならびに結晶成長方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、カルサイト構造を有し、BET比表面積が2~50m2/gであり、電子顕微鏡で測定した個数基準による平均粒子径が30nm~1.0μmの炭酸カルシウムにかかる。ここで、本発明の炭酸カルシウムは、その一部に、概ね環状の粒子を含むことを特徴とする。
【0008】
さらに本発明は、樹脂と、本発明の炭酸カルシウムとを含む、樹脂組成物にかかる。
【0009】
本発明は、以下の工程:大気圧下で炭酸カルシウム水分散体に二酸化炭素を添加することにより、該炭酸カルシウム水分散体のpHを9.0以下に低下させる工程と;ついで該炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させて、炭酸カルシウムの粒子を成長させる工程と;を含む、概ね環状の粒子を含む炭酸カルシウムの製造方法にかかる。
【0010】
さらに、本発明は、以下の工程:大気圧下で炭酸カルシウム水分散体に二酸化炭素を添加することにより、該炭酸カルシウム水分散体のpHを9.0以下に低下させる工程と;ついで該炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させて、炭酸カルシウムの粒子を成長させる工程と;を含む、概ね環状の粒子を含む炭酸カルシウムの結晶成長方法にかかる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カルサイト構造を有し概ね環状の結晶を含むナノオーダーサイズの平均粒子径を有する炭酸カルシウムを提供することができる。さらに本発明によれば、このような特殊な形状を有するカルサイト結晶を含む炭酸カルシウムを製造する新規の方法ならびに新規の結晶成長方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、加熱前の炭酸カルシウム水分散体中の炭酸カルシウム粒子の電子顕微鏡写真である
【
図2】
図2は、加熱を開始し、水温95℃になった時点の炭酸カルシウム水分散体中の炭酸カルシウム粒子の電子顕微鏡写真である。
【
図3】
図3は、水温95℃になった時点から10分間撹拌した後の炭酸カルシウム水分散体中の炭酸カルシウム粒子の電子顕微鏡写真である。
【
図4】
図4は、水温95℃になった時点から20分間撹拌した後の炭酸カルシウム水分散体中の炭酸カルシウム粒子の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態について、さらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態にのみ限定されるものではない。
【0014】
一の実施形態は、カルサイト構造を有し、BET比表面積が2~50m2/gであり、電子顕微鏡で測定した個数基準による平均粒子径が30nm~1.0μmの炭酸カルシウムにかかる。本実施形態において、炭酸カルシウムは、その一部に、概ね環状の粒子を含むことを特徴とする。
【0015】
実施形態において、炭酸カルシウムは、組成式CaCO3で表されるカルシウムの炭酸塩であり、貝殻、鶏卵の殻、石灰岩、白亜などの主成分である。炭酸カルシウムは、石灰石を粉砕、分級して得られる重質炭酸カルシウム(天然炭酸カルシウム)と化学反応により得られる軽質炭酸カルシウム(合成炭酸カルシウム)とに分類されるが、本実施形態の炭酸カルシウムは、合成炭酸カルシウムである。炭酸カルシウムは、カルサイト結晶(三方晶系菱面体晶)、アラゴナイト結晶(直方晶系)、バテライト結晶(六方晶)等の結晶多形を有するが、実施形態の炭酸カルシウムはカルサイト構造を有する。カルサイト結晶は、一般に方解石として産出される結晶の形状であり、他の結晶形と比較すると常温常圧で最も安定である。
【0016】
実施形態の炭酸カルシウムのBET比表面積は、2~50m2/gであることが好ましい。BET比表面積は、物質に、吸着占有面積のわかった気体分子(窒素等)を吸着させ、その量を測定することにより求めることができる。炭酸カルシウムのBET比表面積は、日本工業規格JIS Z 8830「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」にしたがい測定することができる。実施形態で使用する炭酸カルシウムのBET比表面積は、2~50m2/gであることが好ましく、より好ましくは5~45m2/g、さらに好ましくは20~45m2/gである。
【0017】
実施形態の炭酸カルシウムは、電子顕微鏡で測定した個数基準による平均粒子径が30nm~1.0μmであることが好ましい。粒子径の測定方法にはいくつかの方法が知られているが、本実施形態では、電子顕微鏡を用いて粒子を直接観察および計測し、個数基準による粒子径分布から算出した平均粒子径の値を用いる。実施形態において平均粒子径が30nm~1.0μmであることは、すなわち、ナノオーダーサイズの粒子径の炭酸カルシウム粒子が大部分を占めることを意味する。実施形態の炭酸カルシウムの平均粒子径は、好ましくは40~500nm、さらに好ましくは50~100nmであってよい。
【0018】
本実施形態において、炭酸カルシウムは、その一部に、概ね環状の粒子を含む。本明細書において、環状とは、単孔を有する形状全般(リング)および空洞を有する形状全般(ホロー)を指し、円環形状や輪形状のものだけでなく、三角形状や四角形状等、多角形状のものに単孔や空洞を有するもの、および筒状等も含むものとする。さらに本明細書において、概ね環状とは、完全につながった環形状のものだけでなく、一部が途切れてアルファベットのCの形状になったもの等のように、一部不完全な環形状も含むことを意図する。実施形態の炭酸カルシウムには、その一部に、概ね環状の粒子が含まれている。なお、概ね環状の炭酸カルシウムの大きさは、10~150nm程度である。概ね環状の炭酸カルシウムの粒子は、後述する炭酸カルシウムの製造過程に起因して生成する。実施形態の炭酸カルシウムには、概ね環状の粒子のほか、球状、略立方体状、略直方体状、略菱面体状、紡錘状、針状等の形状の粒子が含まれていて良い。また実施形態の炭酸カルシウムには、球状や略直方体状等の形状の粒子の一部が凹んだ形、すなわち孔が完全には空いていないもの等も含まれていて良い。
【0019】
実施形態の炭酸カルシウムは、脂肪酸およびその誘導体、樹脂酸およびその誘導体、シリカ、有機ケイ素化合物、縮合リン酸および縮合リン酸塩からなる群より選択される表面処理剤で表面処理されていても良い。ここで脂肪酸として、たとえば、酢酸、酪酸等の低級脂肪酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等の高級脂肪酸が挙げられる。樹脂酸として、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、ピマル酸、イソピマル酸、デヒドロアビエチン酸等、樹脂由来の酸を挙げることができる。シリカは、組成式SiO2で表される化合物(二酸化ケイ素)である。また有機ケイ素化合物として、たとえば、一分子内に有機材料に結合する官能基(ビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基等)と、無機材料と結合する官能基(メトキシ基、エトキシ基等)とがケイ素原子(Si)を介して結合したシランカップリング剤を挙げることができる。縮合リン酸として、オルトリン酸を加熱脱水して得られた無機高分子化合物が挙げられる。これらの表面処理剤は、1つまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
本発明の二の実施形態は、樹脂と、一の実施形態の炭酸カルシウムとを含む、樹脂組成物である。実施形態において、炭酸カルシウムは、無機フィラーとして樹脂材料に添加して用いることができる。炭酸カルシウムは、無機フィラーとして従来用いられている硫酸バリウムや酸化チタン等と比較して比重が小さい。このため、無機フィラーとして炭酸カルシウムを用いることにより、樹脂組成物を軽量化することができる。樹脂は、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂組成物、ポリアリレート樹脂組成物、各種ジエン系樹脂等のエラストマー樹脂およびこれらの混合物からなる群より選択されることが好ましい。ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂およびジエン系樹脂等のエラストマー樹脂は、それぞれ単独で、またはこれらを組み合わせて用いることができる。また、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ジエン系樹脂等のエラストマー樹脂およびこれらの混合物以外の樹脂を必要に応じて含むこともできる。
【0021】
ポリオレフィン樹脂とは、オレフィン(アルケン)または環状オレフィン単量体を重合させた単独重合体、共重合体、およびこれらの混合物のことである。ポリオレフィン樹脂として、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4-メチルペンテン-1、ポリブテン-1、ポリ1-ヘキセン、エチレン-テトラシクロドデセン共重合体、ポリアセタールが挙げられる。ポリエステル樹脂とは、多価カルボン酸とポリオールとの重縮合物からなるポリエステル類およびこれらの混合物である。ポリエステル樹脂としては、芳香族ポリエステル樹脂が好ましく用いられる。芳香族ポリエステル樹脂としては、たとえば、ポリメチレンテレフタレート樹脂(PTT)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリプロピレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)、ポリブチレンナフタレート樹脂(PBN)、ポリ(シクロヘキサン-1,4-ジメチレン-テレフタレート)樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂が挙げられる。さらに、アルキレンテレフタレート構成単位を主構成単位とするアルキレンテレフタレートコポリマーや、ポリアルキレンテレフタレートを主成分とするポリアルキレンテレフタレート混合物を挙げることができる。さらに、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)等のエラストマー成分を含有又は共重合したものを用いてもよい。ポリアルキレンテレフタレートの混合物としては、たとえば、PBTとPBT以外のポリアルキレンテレフタレートとの混合物、PBTとPBT以外のアルキレンテレフタレートコポリエステルとの混合物が挙げられる。なかでも、PBTとPETとの混合物や、PBTとポリトリメチレンテレフタレートとの混合物、PBTとPBT/ポリアルキレンイソフタレートとの混合物などが好ましい。ジエン系のエラストマー樹脂として、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン等のジエン系モノマーを重合して得たゴム材料が挙げられる。またウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等のエラストマー樹脂を用いても良い。
【0022】
本実施形態で使用する炭酸カルシウムは、単独で用いることが最も好ましいが、必要に応じて、硫酸バリウム、酸化チタン、タルク等の従来から用いられている無機フィラーを混合することもできる。なお、実施形態の樹脂組成物は、通常の添加剤、たとえば、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、繊維状強化剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤、着色剤、顔料を含有することができる。これらの添加剤の含量は、樹脂組成物の10質量%以下であることが好ましい。
【0023】
本発明の三の実施形態は、大気圧下で炭酸カルシウム水分散体に二酸化炭素を添加することにより、該炭酸カルシウム水分散体のpHを9.0以下に低下させる工程と;ついで該炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させて、炭酸カルシウムの粒子を成長させる工程と;を含む、概ね環状の粒子を含む炭酸カルシウムの製造方法にかかる。本実施形態の概略は、原料となる炭酸カルシウム水分散体から結晶を成長させることにより、所望の形状と、BET比表面積と、平均粒子径とを有する炭酸カルシウムを得る方法、すなわちオストワルド熟成に関連した製造方法である。
【0024】
本実施形態で原料として使用する炭酸カルシウム水分散体に分散している炭酸カルシウムは、石灰石を粉砕、分級して得られる重質炭酸カルシウム(天然炭酸カルシウム)、化学反応により得られる軽質炭酸カルシウム(合成炭酸カルシウム)のいずれであっても良い。また原料の炭酸カルシウムは、カルサイト結晶(三方晶系菱面体晶)、アラゴナイト結晶(直方晶系)、バテライト結晶(六方晶)等の結晶多形のうち、いずれのものを使用しても良いが、カルサイト結晶の炭酸カルシウムを使用することが好ましい。炭酸カルシウムの粒子径(電子顕微鏡で測定した個数基準による平均粒子径)は、いかなるのでも良いが、好ましくは20~500nm、さらに好ましくは30~100nmのものを使用することができる。また、炭酸カルシウムのBET比表面積(日本工業規格JIS Z 8830)はいかなるものでも良いが、本実施形態により所望のBET比表面積を有する炭酸カルシウムを製造するためには、2~50m2/g程度のBET比表面積を有する炭酸カルシウムが水に分散した炭酸カルシウム水分散体を用いるのが好適である。
【0025】
まず、炭酸カルシウムが水に分散した、炭酸カルシウム水分散体を用意する。本明細書で炭酸カルシウム水分散体とは、炭酸カルシウムが水に懸濁または分散したスラリーのことである。炭酸カルシウム水分散体を得るには、炭酸カルシウムと水とを混合し、撹拌機による撹拌や超音波を利用した撹拌など、従来から行われている方法を適宜行うことができる。また、従来から知られている白石法により製造した炭酸カルシウム水分散体をそのまま用いることもできる。炭酸カルシウム水分散体を用意した後、この炭酸カルシウム水分散体のpHを9.0以下に低下させる。本実施形態では、大気圧下で炭酸カルシウム水分散体に二酸化炭素を添加することにより、炭酸カルシウム水分散体のpHを9.0以下6.5以上に低下させることが好ましい。炭酸カルシウム水分散体に添加する二酸化炭素は気体状態のものが好ましい。具体的には、大気圧下で、撹拌機等を用いて炭酸カルシウム水分散体を撹拌しながら、二酸化炭素の気体を吹き込みバブリングさせることができる。二酸化炭素が水に溶解して炭酸カルシウム水分散体が酸性側に傾くことにより、微量の炭酸カルシウムが溶解する。すなわち、炭酸カルシウム水分散体中に含まれている比較的粒子径の小さい炭酸カルシウムの少なくとも一部は水に溶解する。一方、比較的粒子径の大きい炭酸カルシウムは、少なくともその周囲部が溶解して、粒子径が若干減少した炭酸カルシウムとなる。
【0026】
ついで、炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させる。炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させるには、炭酸カルシウム水分散体を静置する、炭酸カルシウム水分散体を撹拌する、炭酸カルシウム水分散体を減圧する、炭酸カルシウム水分散体を昇温する、および炭酸カルシウム水分散体に塩基性物質を添加する等の方法を採り得る。先の工程で添加した二酸化炭素気体は、炭酸カルシウム水分散体を静置しているだけでも徐々に水から蒸発していくため、炭酸カルシウム水分散体のpHは上昇する。炭酸カルシウム水分散体のpHをより効率的に上昇させるには、炭酸カルシウム水分散体を撹拌したり、減圧したり、昇温したり、塩基性物質を添加したりするのが良い。炭酸カルシウム水分散体を緩やかに撹拌しながら昇温することが非常に好ましく、また簡便である。なお炭酸カルシウム水分散体を昇温させる場合、室温(25℃)よりは高い温度、具体的には約50℃、好ましくは約70℃、さらに好ましくは約100℃になるように徐々に昇温させるのが好ましい。また炭酸カルシウム水分散体を減圧する場合、大気圧未満、具体的には102~1×105Pa程度の圧力まで減圧することが好ましい。炭酸カルシウム水分散体に添加することができる塩基性物質として、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の無機塩基、アミン類、ピリジン類等の有機塩基およびこれらの組み合わせを挙げることができる。炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させると、先の工程で溶解した炭酸カルシウムが結晶化していく。この際、炭酸カルシウム水分散体中に残っていた粒子に集まるように凝集して再結晶していく現象が見られ、略立方体状、略直方体状あるいは略菱面体状の粒子が形成される。一方、この工程で概ね環状の炭酸カルシウムも形成されることがわかっている。概ね環状の炭酸カルシウムが生成する仕組みは必ずしも明らかではないが、pHを低下させる工程にて生成した比較的サイズの小さい回転楕円体形の炭酸カルシウムの所々に格子欠陥が存在し、pHを上昇させる工程でこの格子欠陥周囲部に孔が空いていくために生成すると考えられる。なお本実施形態において、環状とは、先にも説明したとおり、単孔を有する形状全般(リング)および空洞を有する形状全般(ホロー)を指し、円環形状や輪形状のものだけでなく、三角形状や四角形状等、多角形状のものに単孔や空洞を有するもの、および筒状等も含むものとする。さらに本実施形態において、概ね環状とは、完全につながった環形状のものだけでなく、一部が途切れてアルファベットのCの形状になったもの等のように、一部不完全な環形状も含むことを意図する。実施形態の製造方法で得られる炭酸カルシウムには、その一部に、上記のような概ね環状の粒子が含まれている。なお、概ね環状の炭酸カルシウムの大きさは、10~150nm程度である。なお、実施形態の製造方法において、炭酸カルシウム水分散体のpHを低下させる工程と、炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させる工程とを繰り返し、所望のBET比表面積および/または平均粒子径を有する炭酸カルシウムを製造することができる。
【0027】
実施形態の製造方法で得られる炭酸カルシウムには、概ね環状の粒子のほか、球状、略立方体状、略直方体状、略菱面体状、紡錘状、針状等の形状の粒子が含まれている。また実施形態の製造方法で得られる炭酸カルシウムには、球状、略直方体状、略菱面体状等の形状の粒子の一部が凹んだ形、すなわち孔が完全には空いていないもの等も含まれていて良い。実施形態の製造方法で得られる炭酸カルシウムは、好ましくは、カルサイト構造を有し、BET比表面積が2~50m2/gであり、電子顕微鏡で測定した個数基準による平均粒子径が30nm~1.0μmの炭酸カルシウムであって、その一部に、概ね環状の粒子を含む、一の実施形態の炭酸カルシウムである。この炭酸カルシウムには、脂肪酸およびその誘導体、樹脂酸およびその誘導体、シリカ、有機ケイ素化合物、縮合リン酸および縮合リン酸塩からなる群より選択される表面処理剤で表面処理することもできる。またこの炭酸カルシウムを適切な樹脂と混合し、樹脂組成物を製造することも可能である。
【0028】
本発明の四の実施形態は、大気圧下で炭酸カルシウム水分散体に二酸化炭素を添加することにより、該炭酸カルシウム水分散体のpHを9.0以下に低下させる工程と;ついで該炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させて、炭酸カルシウムの粒子を成長させる工程と;を含む、概ね環状の粒子を含む炭酸カルシウムの結晶成長方法にかかる。本実施形態の概略は、原料となる炭酸カルシウム水分散体から結晶を成長させることにより、所望の形状と、BET比表面積と、平均粒子径とを有する炭酸カルシウムを得る方法、すなわちオストワルド熟成に関連した結晶成長方法である。
【0029】
本実施形態で原料として使用する炭酸カルシウム水分散体に分散している炭酸カルシウムは、三の実施形態と同様、石灰石を粉砕、分級して得られる重質炭酸カルシウム(天然炭酸カルシウム)、化学反応により得られる軽質炭酸カルシウム(合成炭酸カルシウム)のいずれであっても良い。また炭酸カルシウムは、カルサイト結晶(三方晶系菱面体晶)、アラゴナイト結晶(直方晶系)、バテライト結晶(六方晶)等の結晶多形のうち、いずれのものを使用しても良いが、カルサイト結晶の炭酸カルシウムを使用することが好ましい。炭酸カルシウムの粒子径(電子顕微鏡で測定した個数基準による平均粒子径)は、いかなるものでも良いが、好ましくは20~500nm、さらに好ましくは30~100nmのものを使用することができる。また、炭酸カルシウムのBET比表面積はいかなるものでも良いが、本実施形態により所望のBET比表面積を有する炭酸カルシウムを得るためには、2~50m2/g程度のBET比表面積を有する炭酸カルシウムが水に分散した炭酸カルシウム水分散体を用いるのが好適である。
【0030】
まず、炭酸カルシウムが水に分散した、炭酸カルシウム水分散体を用意する。本明細書で炭酸カルシウム水分散体とは、炭酸カルシウムが水に懸濁または分散したスラリーのことである。炭酸カルシウム水分散体を得るには、炭酸カルシウムと水とを混合し、撹拌機による撹拌や超音波を利用した撹拌など、従来から行われている方法を適宜行うことができる。また、従来から知られている白石法により製造した炭酸カルシウム水分散体をそのまま用いることもできる。炭酸カルシウム水分散体を用意した後、炭酸カルシウム水分散体のpHを9.0以下に低下させる。本実施形態では、大気圧下で炭酸カルシウム水分散体に二酸化炭素を添加することにより、炭酸カルシウム水分散体のpHを9.0以下6.5以上に低下させることが好ましい。炭酸カルシウム水分散体に添加する二酸化炭素は気体状態のものが好ましい。具体的には、大気圧下で、撹拌機等を用いて炭酸カルシウム水分散体を撹拌しながら、二酸化炭素の気体を吹き込みバブリングさせることができる。二酸化炭素が水に溶解して炭酸カルシウム水分散体が酸性側に傾くことにより、微量の炭酸カルシウムが溶解する。すなわち、炭酸カルシウム水分散体中に含まれている比較的粒子径の小さい炭酸カルシウムの少なくとも一部は水に溶解する。一方、比較的粒子径の大きい炭酸カルシウムは、少なくともその周囲部が溶解して、粒子径が若干減少した炭酸カルシウムとなる。
【0031】
ついで、炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させる。炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させるには、炭酸カルシウム水分散体を静置する、炭酸カルシウム水分散体を撹拌する、炭酸カルシウム水分散体を減圧する、炭酸カルシウム水分散体を昇温する、および炭酸カルシウム水分散体に塩基性物質を添加する等の方法を採り得る。先の工程で添加した二酸化炭素気体は、炭酸カルシウム水分散体を静置しているだけでも徐々に水から蒸発していくため、炭酸カルシウム水分散体のpHは上昇する。炭酸カルシウム水分散体のpHをより効率的に上昇させるには、炭酸カルシウム水分散体を撹拌したり、減圧したり、昇温したり、塩基性物質を添加したりするのが良い。炭酸カルシウム水分散体を緩やかに撹拌しながら昇温することが非常に好ましく、また簡便である。なお炭酸カルシウム水分散体を昇温させる場合、室温(25℃)よりは高い温度、具体的には約50℃、好ましくは約70℃、さらに好ましくは約100℃になるように徐々に昇温させるのが好ましい。また炭酸カルシウム水分散体を減圧する場合、大気圧未満、具体的には102~1×105Pa程度の圧力まで減圧することが好ましい。炭酸カルシウム水分散体に添加することができる塩基性物質として、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の無機塩基、アミン類、ピリジン類等の有機塩基およびこれらの組み合わせを挙げることができる。炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させると、先の工程で溶解した炭酸カルシウムが結晶化していく。この際、炭酸カルシウム水分散体中に残っていた粒子に集まるように凝集して再結晶していく現象が見られ、略立方体状、略直方体状あるいは略菱面体状の粒子が形成される。一方、この工程で概ね環状の炭酸カルシウムも形成される。概ね環状の炭酸カルシウムが生成する仕組みは必ずしも明らかではないが、pHを低下させる工程にて生成した比較的サイズの小さい回転楕円体形の炭酸カルシウムの所々に格子欠陥が存在し、pHを上昇させる工程でこの格子欠陥周囲部に孔が空いていくために生成すると考えられる。なお本実施形態において、環状とは、先にも説明したとおり、単孔を有する形状全般(リング)および空洞を有する形状全般(ホロー)を指し、円環形状や輪形状のものだけでなく、三角形状や四角形状等、多角形状のものに単孔や空洞を有するもの、および筒状等も含むものとする。さらに本実施形態において、概ね環状とは、完全につながった環形状のものだけでなく、一部が途切れてアルファベットのCの形状になったもの等のように、一部不完全な環形状も含むことを意図する。実施形態の製造方法で得られる炭酸カルシウムには、その一部に、上記のような概ね環状の粒子が含まれている。なお、概ね環状の炭酸カルシウムの大きさは、10~150nm程度である。なお、実施形態の結晶成長方法において、炭酸カルシウム水分散体のpHを低下させる工程と、炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させる工程とを繰り返し、所望のBET比表面積および/または平均粒子径を有する炭酸カルシウムにまで成長させることができる。
【0032】
実施形態の結晶成長方法を用いて得られる炭酸カルシウムには、概ね環状の粒子のほか、球状、略立方体状、略直方体状、略菱面体状、紡錘状、針状等の形状の粒子が含まれている。また実施形態の製造方法で得られる炭酸カルシウムには、球状、略直方体状、略菱面体状等の形状の粒子の一部が凹んだ形、すなわち孔が完全には空いていないもの等も含まれていて良い。実施形態の方法を用いて得られる炭酸カルシウムは、好ましくは、カルサイト構造を有し、BET比表面積が2~50m2/gであり、電子顕微鏡で測定した個数基準による平均粒子径が30nm~1.0μmの炭酸カルシウムであって、その一部に、概ね環状の粒子を含む、一の実施形態の炭酸カルシウムである。この炭酸カルシウムには、脂肪酸およびその誘導体、樹脂酸およびその誘導体、シリカ、有機ケイ素化合物、縮合リン酸および縮合リン酸塩からなる群より選択される表面処理剤で表面処理することもできる。またこの炭酸カルシウムを適切な樹脂と混合し、樹脂組成物を製造することも可能である。
【0033】
上記の通り、一の実施形態の炭酸カルシウム、三の実施形態の製造方法で得られる炭酸カルシウム、あるいは四の実施形態の方法で得られる炭酸カルシウムは、その一部に概ね環状の粒子が含まれている。概ね環状の粒子が含まれた炭酸カルシウムを、そのまま用いることができるほか、概ね環状の粒子を選択的に分離することもまた可能である。概ね環状の粒子の分離は、たとえば、篩いにかけて特定の範囲の粒子径の炭酸カルシウム粒子を取り出し、ついで顕微鏡観察により概ね環状の粒子のみを分離することで行うことができる。
【0034】
一の実施形態の炭酸カルシウム、三の実施形態の製造方法で得られる炭酸カルシウム、あるいは四の実施形態の方法で得られる炭酸カルシウムは、各種樹脂と混合して樹脂組成物として使用できる。炭酸カルシウムは樹脂の無機フィラーとして使用するほか、紙、塗料、インキ等の填料として使用可能である。さらに食品、化粧品の等の充填材としての使用もできる。分離操作を行い得られた概ね環状の炭酸カルシウムは、その特殊な形状を利用して、たとえば、ナノ材料の鋳型、薬剤担体、触媒担体、軽量フィラーとして用いることが期待できる。
【実施例0035】
以下に本発明の実施形態を具体的に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
[炭酸カルシウム水分散体の調製]
フラスコ内にBET比表面積54.5m2/g(日本工業規格JIS Z 8830)、電子顕微鏡で測定した個数基準による平均粒子径が30nmの炭酸カルシウムと水とを加え、撹拌機を用いて混合物を激しく撹拌し、固形分含量10重量%となるように炭酸カルシウムの水分散体(炭酸カルシウム水スラリー)を調製した。
【0037】
[炭酸カルシウム水分散体への二酸化炭素の添加]
得られた炭酸カルシウム水分散体を緩やかに撹拌しながら、大気圧下、室温(25℃)で、二酸化炭素(30体積%)とクリーンエア(70体積%)との混合気体を炭酸カルシウム水スラリー固形分100gあたり8.0L/分の条件でバブリングした。炭酸カルシウム水分散体のpHが6.8に低下するまで、二酸化炭素のバブリングを続行した。
【0038】
[炭酸カルシウム水分散体のpH上昇]
こうして得た炭酸カルシウム水分散体を緩やかに撹拌しながら、ヒータを用いてフラスコを加熱し、フラスコ内温度95℃になるまで12℃/分の速度で昇温した。フラスコ内温度が95℃になった後、温度を維持し、所定の時間ごとに試料をサンプリングしながら20分間撹拌を続けた。
【0039】
[サンプリング試料の処理]
所定時間ごとにサンプリングした炭酸カルシウム水分散体を直ちにアセトンで洗浄して結晶成長を停止させ、減圧濾過し、真空乾燥させて白色固体の状態の炭酸カルシウムを得た。得られた炭酸カルシウムをイソプロピルアルコール(IPA)に分散させ、カーボン補強コロジオン支持膜付き銅グリッドに滴下し、IPAを乾燥させ、真空乾燥を行い、透過型電子顕微鏡(TEM)用試料を作製した。試料を電子顕微鏡(装置名:日本電子株式会社 JEM-2100)で観察した。
【0040】
図1は、加熱する前の炭酸カルシウム水分散体中の炭酸カルシウム粒子の電子顕微鏡写真である(4万倍に拡大)。
図2は、加熱を開始し、水温95℃になった時点の炭酸カルシウム水分散体中の炭酸カルシウム粒子の電子顕微鏡写真である(4万倍に拡大)。さらに
図3は、水温95℃になった時点から10分間撹拌した後の炭酸カルシウム水分散体中の炭酸カルシウム粒子の電子顕微鏡写真である(4万倍に拡大)。
図4は、水温95℃になった時点から20分間撹拌した後の炭酸カルシウム水分散体中の炭酸カルシウム粒子の電子顕微鏡写真である(4万倍に拡大)。いずれの写真も、スケールバーの長さは200nmを表す。特に
図2の電子顕微鏡写真には、概ね環状の炭酸カルシウム粒子が複数個観察できる。
図2の下部に観察される概ね環状の炭酸カルシウム粒子の大きさ(外径)は、約60nmである。
図3の写真ならびに
図4の写真にもわずかながら概ね環状の炭酸カルシウム粒子が観察できる。
図1の写真には概ね環状の炭酸カルシウム粒子は見られないので、炭酸カルシウム水分散体を加熱下で撹拌し、炭酸カルシウム水分散体のpHを上昇させる過程で、概ね環状の炭酸カルシウム粒子が形成されていることがわかる。なお、
図1、
図2、
図3および
図4で示されている炭酸カルシウム粒子のBET比表面積(日本工業規格JIS Z 8830に従い測定)と、電子顕微鏡で測定した個数基準による平均粒子径とを測定したところ、各々、54.5m
2/g、43.1m
2/g、25.3m
2/gおよび22.9m
2/g(BET比表面積)、ならびに30.8nm、64.0nm、69.9nmおよび72.4nm(平均粒子径)であった。