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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022075244
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】ストランドの製造装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 11/16 20060101AFI20220511BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20220511BHJP
   B29C 70/50 20060101ALI20220511BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20220511BHJP
【FI】
B29B11/16
B29C70/16
B29C70/50
B29K105:08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020185913
(22)【出願日】2020-11-06
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹中 真
【テーマコード(参考)】
4F072
4F205
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AA08
4F072AB04
4F072AB06
4F072AB08
4F072AB09
4F072AB10
4F072AB11
4F072AD04
4F072AD05
4F072AD07
4F072AD37
4F072AD41
4F072AD44
4F072AD45
4F072AD46
4F072AG03
4F072AH04
4F072AH13
4F072AH17
4F072AH19
4F072AH46
4F072AH51
4F072AK20
4F072AL01
4F205AC05
4F205AD16
4F205HA06
4F205HA34
4F205HA37
4F205HB02
4F205HC02
4F205HK25
4F205HM02
(57)【要約】
【課題】繊維間に樹脂が十分に含浸された高品質なストランドを製造することが可能なストランドの製造装置及び製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂浴槽25内の溶融した熱可塑性樹脂R中に複数本の繊維束5を導入し、繊維束5に熱可塑性樹脂Rを含浸させ、樹脂浴槽25のストランド引出部29から熱可塑性樹脂Rが含浸された繊維束5を束ねて引き取ることにより、繊維束5によって強化された樹脂製のストランド1を製造する製造装置100であって、樹脂浴槽25は、繊維束5の走行軌道と交差する位置に設けられて繊維束5が接触する複数の含浸ローラ41と、含浸ローラ41に接触しながら走行する繊維束5同士の走行軌道を区画するガイド部材43A,43Bと、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂浴槽内の溶融した樹脂中に複数本の繊維束を導入し、前記繊維束に前記樹脂を含浸させ、前記樹脂浴槽の引出部から前記樹脂が含浸された前記繊維束を束ねて引き取ることにより、前記繊維束によって強化された樹脂製のストランドを製造する製造装置であって、
前記樹脂浴槽は、
前記繊維束の走行軌道と交差する位置に設けられて前記繊維束が接触する複数のローラと、
前記ローラに接触しながら走行する前記繊維束同士の走行軌道を区画するガイド部材と、
を備える、
ストランドの製造装置。
【請求項2】
前記複数のローラの間に前記ガイド部材が配置されている、
請求項1に記載のストランドの製造装置。
【請求項3】
前記樹脂浴槽の下流側に、前記引出部から前記樹脂に前記繊維束が含浸されたストランドを軸芯回りに回転させて引き出す撚り部を備え、
前記樹脂浴槽は、前記複数のローラが配置された樹脂含浸領域を上流側に備え、前記引出部へ案内される前記繊維束に撚りを付与する撚り付与領域を備え、
前記樹脂含浸領域と前記撚り付与領域の境界に、前記繊維束が掛けられる導入ローラを備え、
前記ガイド部材は、前記樹脂浴槽内の前記導入ローラの上流側の前記樹脂含浸領域にのみ配置される、
請求項1または請求項2に記載のストランドの製造装置。
【請求項4】
樹脂浴槽内の溶融した樹脂中に複数本の繊維束を導入し、前記繊維束に前記樹脂を含浸させ、前記樹脂浴槽の引出部から前記樹脂が含浸された前記繊維束を束ねて引き取ることにより、前記繊維束によって強化された樹脂製のストランドを製造する製造方法であって、
前記樹脂浴槽内において、
前記繊維束同士の走行軌道を区画するガイド部材によって前記繊維束同士の走行軌道を区画させつつ、
前記樹脂浴槽内における前記繊維束の走行軌道と交差する位置に設けた複数のローラに前記繊維束を接触させて開繊させる、
ストランドの製造方法。
【請求項5】
前記複数のローラの間に配置させた前記ガイド部材によって前記繊維束をガイドする、
請求項4に記載のストランドの製造方法。
【請求項6】
前記樹脂浴槽の下流側に、前記引出部から前記樹脂に前記繊維束が含浸されたストランドを軸芯回りに回転させて引き出す撚り部を備え、
前記樹脂浴槽は、前記複数のローラが配置された樹脂含浸領域を上流側に備え、前記引出部へ案内される前記繊維束に撚りを付与する撚り付与領域を備え、
前記樹脂含浸領域と前記撚り付与領域の境界に、前記繊維束が掛けられる導入ローラを備え、
前記ガイド部材は、前記樹脂浴槽内の前記導入ローラの上流側の前記樹脂含浸領域にのみ配置され、
前記撚り部によって前記引出部から前記樹脂に前記繊維束が含浸されたストランドを軸芯回りに回転させて引き出すことにより、前記撚り付与領域において前記繊維束に撚りを付与する、
請求項4または請求項5に記載のストランドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストランドの製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
造形物の機械的強度を向上させる為に、連続繊維強化樹脂ストランドを用いた熱溶解積層方式(FDM:Fused Deposition Modeling)の3Dプリンタによる繊維強化樹脂(FRP:Fiber Reinforced Plastics)の造形の用途が拡大しており、治具、部品、自転車のフレーム等の製造工程において採用されている。
【0003】
連続繊維強化樹脂ストランドの品質も求められており、強化繊維束に均一に樹脂が含浸し、ストランド中に空隙がないものが求められている。連続繊維強化ストランドの製造方法は、溶融された熱可塑性樹脂浴中に強化繊維束を通過させ、樹脂浴から引抜き冷却固化する。これにより、強化繊維束に樹脂が含浸された連続繊維強化樹脂ストランドが形成される。
【0004】
この製造方法において、機械的強度向上の為、粘度の高い樹脂を使用する場合や、造形時間短縮の為に太い強化繊維束を用いる場合では、熱可塑性樹脂浴中に強化繊維束を通過させる際に、強化繊維束の内部まで樹脂が含浸されず空隙が残るおそれがある。それらの空隙を有する連続繊維強化樹脂ストランドを用いると、結果として造形物自体に空隙が生じ、機械的強度を損なうおそれがある。
【0005】
このため、特許文献1に記載の製造方法では、樹脂浴中に設けられた複数のローラの外周面に繊維束を接触させながら走行させることで、樹脂の運動・攪拌により繊維束への樹脂の含浸を促進している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-175512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、複数本の繊維束を束ねて樹脂に含浸させたストランドを製造する場合、走行する繊維束同士が、樹脂浴中のローラの外周面上で重なり合うことがある。すると、それぞれの繊維束における樹脂の含浸が不十分となり、ストランドの品質の低下を招くおそれがある。
【0008】
そこで本発明は、繊維間に樹脂が十分に含浸された高品質なストランドを製造することが可能なストランドの製造装置及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は下記構成からなる。
(1) 樹脂浴槽内の溶融した樹脂中に複数本の繊維束を導入し、前記繊維束に前記樹脂を含浸させ、前記樹脂浴槽の引出部から前記樹脂が含浸された前記繊維束を束ねて引き取ることにより、前記繊維束によって強化された樹脂製のストランドを製造する製造装置であって、
前記樹脂浴槽は、
前記繊維束の走行軌道と交差する位置に設けられて前記繊維束が接触する複数のローラと、
前記ローラに接触しながら走行する前記繊維束同士の走行軌道を区画するガイド部材と、
を備える、
ストランドの製造装置。
(2) 樹脂浴槽内の溶融した樹脂中に複数本の繊維束を導入し、前記繊維束に前記樹脂を含浸させ、前記樹脂浴槽の引出部から前記樹脂が含浸された前記繊維束を束ねて引き取ることにより、前記繊維束によって強化された樹脂製のストランドを製造する製造方法であって、
前記樹脂浴槽内において、
前記繊維束同士の走行軌道を区画するガイド部材によって前記繊維束同士の走行軌道を区画させつつ、
前記樹脂浴槽内における前記繊維束の走行軌道と交差する位置に設けた複数のローラに前記繊維束を接触させて開繊させる、
ストランドの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、繊維間に樹脂が十分に含浸された高品質なストランドを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る製造装置によって製造するストランドを示す図であって、(A)は斜視図、(B)は断面図である。
図2】本実施形態に係るストランドの製造装置の全体構成図である。
図3】樹脂浴槽の概略側面図である。
図4】樹脂浴槽の樹脂含浸領域における概略構成図である。
図5】繊維束を断面視したガイド部材の平面図である。
図6】変形例に係る樹脂浴槽の概略側面図である。
図7】変形例に係る樹脂浴槽の樹脂含浸領域における概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
(ストランド)
まず、本実施形態に係るストランドの製造装置によって製造するストランドについて説明する。
図1は、本実施形態に係る製造装置100によって製造するストランド1を示す図であって、(A)は斜視図、(B)は断面図である。
【0014】
図1の(A)及び(B)に示すように、ストランド1は、3Dプリンタの造形原料として用いられる線状の樹脂材料である。このストランド1は、熱可塑性樹脂を主成分とする基材3と、この基材3中に含浸され、軸方向に連続して延在する複数本の繊維束5とを有している。繊維束5は、複数本の繊維7を束ねたもので、互いに撚り合わされた状態でストランド1の中心に配置されている。本例では、3本の繊維束5を有し、これらの3本の繊維束5が互いに撚り合わされている。
【0015】
ストランド1を用いた3Dプリンタは、熱可塑性樹脂成分を熱で融解したストランド1を少しずつ積み重ねていくことで三次元形状の造形物を造形する、いわゆる、熱融解積層方式を採用するものである。この熱融解積層方式では、一層ずつ、先に形成した層と次の層とを半固形(軟化)状態で接着させながら造形を行う。この3Dプリンタは、熱で可塑化状態にある樹脂を少しずつ積み重ねていくことで造形物を形成することができるものであれば、特に限定されない。例えば、3Dプリンタとしては、上下、左右及び前後方向に自在に移動可能な支持板と、ストランド1の熱可塑性樹脂成分を可塑化しながら上記支持板に供給する供給部とを備えるものが挙げられる。
【0016】
ストランド1を構成する繊維束5には、ポリエチレン繊維、アラミド繊維、ザイロン繊維等の有機繊維、ボロン繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、岩石繊維等の無機繊維を用いることができる。強化繊維には樹脂と繊維の密着強度を向上させる為に、表面処理をした繊維を使用できる。
【0017】
基材3の主成分である熱可塑性樹脂には、 ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート 、ポリブチレンテレフタレートやポリ乳酸等のポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂 、芳香族ポリアミド系樹脂、ポリエーテルイミド、ポリアリルイミド、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリルエーテルケトン、ポリベンズイミダゾール、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデン樹脂、液晶ポリマー、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール、またはポリフェニレンサルファイド等を用いることができる。
【0018】
これらは、樹脂単独で用いてもよいし、熱可塑性樹脂部の耐熱性、熱変形温度、熱老化、引張特性、曲げ特性、クリープ特性、圧縮特性、疲労特性、衝撃特性、摺動特性を向上させる為に、複数の樹脂をブレンドした熱可塑性樹脂を用いても良い。一例としてPEEK/PTFE、PEEK/PBI等がある。また、樹脂に炭素繊維、ガラス繊維などの短繊維、タルク等を添加した樹脂を使用できる。
【0019】
フェノール系、チオエーテル系、ホスファイト系等の酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系やトリアジン系等の紫外線吸収剤、ヒドラジド系やアミド系等の金属不活性化剤等を熱可塑性樹脂に添加し、造形物の耐久性を向上させることができる。
【0020】
フタル酸系、ポリエスル系等の可塑剤を添加し、熱可塑性樹脂の柔軟性を向上させ造形時の造形精度、また造形物の柔軟性を向上させることができる。
【0021】
ハロゲン系、リン酸エステル系、無機系、イントメッセント系の難燃剤を熱可塑性樹脂に添加し、造形物の難燃性を向上させることができる。
【0022】
リン酸エステル金属塩系、ソルビトール等の核材を熱可塑性樹脂に添加し、造形時の熱膨張を制御し造形精度の向上ができる。
【0023】
非イオン径、アニオン系、カチオン系等の永久帯電防止剤を熱可塑性樹脂に添加し、造形物の静電気防止性を向上させることができる。
【0024】
炭化水素系、金属石鹸系等の滑剤を熱可塑性樹脂に添加し、連続繊維強化ストランドの滑性を向上させることで、造形時のストランドの送り出しを向上させることができる。
【0025】
(製造装置)
次に、上記のストランド1を製造する本実施形態に係る製造装置について説明する。
図2は、本実施形態に係るストランド1の製造装置100の全体構成図である。
図2に示すように、本実施形態に係るストランドの製造装置100は、繊維材料供給部11と、樹脂浴部13と、冷却部15と、撚り部17とを備える。製造装置100では、繊維材料供給部11から繰り出される繊維束5が、樹脂浴部13によって基材3となる熱可塑性樹脂Rに含浸されてストランド1とされて引き出される。そして、この樹脂浴部13から引き出されたストランド1は、撚り部17によって軸芯回りに回転されながら冷却部15によって冷却され、撚り部17に巻き取られる。
【0026】
繊維材料供給部11は、複数(本例では3つ)のスプール21と、複数のガイドローラ23とを備えている。各スプール21には、それぞれ繊維束5が巻回されており、これらのスプール21から繊維束5が送り出される。スプール21から送り出される各繊維束5は、ガイドローラ23によって間隔をあけた状態に整列されて樹脂浴部13へ導かれる。
【0027】
樹脂浴部13は、上下に延在する筒状の樹脂浴槽25を備えており、この樹脂浴槽25には、溶融状態の熱可塑性樹脂Rが貯留されている。この樹脂浴槽25は、熱可塑性樹脂Rの原料を溶融して樹脂浴槽2内へ押し出す混練押出機(図示略)を備えており、この混練押出機から溶融された熱可塑性樹脂Rが供給される。樹脂浴槽25は、その上部に繊維束導入口27を有しており、この繊維束導入口27から繊維束5が送り込まれる。また、樹脂浴槽25は、その下端における側部に、ストランド引出部29を有しており、このストランド引出部29から繊維束5が基材3に含浸されたストランド1が側方へ引き出される。
【0028】
冷却部15は、樹脂浴部13のストランド引出部29から引き出されるストランド1の引出方向に沿って長い冷却槽31を有している。この冷却槽31には、その内部に冷却媒体として冷却水Wが貯留されている。冷却槽31には、ストランド1が引き込まれ、冷却槽31に引き込まれたストランド1は、冷却槽31に貯留された冷却水Wによって基材3となる熱可塑性樹脂Rが冷却されて硬化される。冷却水Wによって熱可塑性樹脂Rが冷却されて硬化されたストランド1は、冷却槽31の撚り部17側から引き出される。
【0029】
撚り部17は、引込ローラ35と、巻取ボビン37と、ケース39とを有している。引込ローラ35は、ケース39における冷却部15側に設けられ、互いに対向するように二対ずつ配置されている。これらの引込ローラ35は、ストランド1を冷却部15からケース39内へ引き込む。巻取ボビン37は、ストランド1の延在方向と直交する軸線を中心として回転される。これにより、巻取ボビン37は、引込ローラ35によってケース39内に引き込まれるストランド1を巻き取る。ケース39は、ストランド1の延在方向に沿う軸線を中心に回転される。これにより、樹脂浴部13から引き出されて冷却部15を通り、撚り部17の巻取ボビン37に巻き取られるストランド1が軸芯回りに回転されて撚りが付与される。なお、ストランド1に撚りを付与する手段としては、様々な機構が採用可能であり、例えば、互いに異なる回転方向に回転する一対のローラによってストランド1を引き取って下流側へ送り出すことにより、ストランド1に撚りを付与する撚り手段であってもよい。
【0030】
次に、製造装置100を構成する樹脂浴部13を詳述する。
図3は、樹脂浴槽25の概略側面図である。図4は、樹脂浴槽25の樹脂含浸領域A1における概略構成図である。図5は、繊維束5を断面視したガイド部材43A,43Bの平面図である。
【0031】
図3及び図4に示すように、樹脂浴部13の樹脂浴槽25は、鉛直方向に沿う領域が樹脂含浸領域A1とされており、下端におけるストランド引出部29を有する水平方向に沿う領域が撚り付与領域A2とされている。樹脂含浸領域A1には、複数(本例では5つ)の含浸ローラ41と、複数(本例では2つ)のガイド部材43A,43Bとが設けられている。また、樹脂含浸領域A1と撚り付与領域A2との境界部には、導入ローラ45が設けられている。
【0032】
含浸ローラ41は、水平方向の軸心を中心に回転可能に支持されており、鉛直方向に間隔をあけて配置されている。これらの含浸ローラ41には、樹脂浴槽25の繊維束導入口27から送り込まれた3本の繊維束5が交互に掛けられて接触される。これにより、樹脂含浸領域A1では、各繊維束5が蛇行するように走行される。なお、この含浸ローラ41は、必ずしも回転可能でなくてもよい。
【0033】
樹脂含浸領域A1において、ガイド部材43Aは、含浸ローラ41の配列の上流位置に配置され、ガイド部材43Bは、含浸ローラ41の配列の下流位置に配置されている。
【0034】
図5に示すように、ガイド部材43A,43Bは、複数(本例では3つ)の角孔からなるガイド孔51を有している。これらのガイド孔51は、各繊維束5に対応して設けられており、それぞれの繊維束5が挿通される。これらのガイド部材43A,43Bは、隣接するガイド孔51の間が隔壁53とされており、繊維束5は、ガイド孔51に挿通されることにより、隔壁53によって互いの走行軌道が区画される。なお、ガイド部材43A,43Bのガイド孔51は、繊維束5が挿通可能であれば、角孔に限らず丸孔でもよい。
【0035】
導入ローラ45は、水平方向の軸心を中心に回転可能に支持されており、樹脂含浸領域A1を通過した繊維束5が掛けられる。そして、導入ローラ45に掛けられた繊維束5は、その走行軌道が鉛直方向から水平方向に変更されて撚り付与領域A2へ水平に導かれる。なお、ガイド部材43A,43Bは、樹脂浴槽25内の撚り付与領域A2には配置されず、導入ローラ45の上流側の樹脂含浸領域A1にのみ配置されている。
【0036】
撚り付与領域A2の下流側のストランド引出部29には、ダイス55が設けられている。ダイス55は、ストランド1の引出方向へ向かって窄まる円形の開口部57を有している。開口部57における引出方向側の内径は、製造するストランド1の外径に対応する大きさに形成されている。
【0037】
(製造方法)
次に、製造装置100によってストランド1を製造する製造方法の一例について説明する。
製造装置100では、含浸工程、撚り工程、冷却工程及び巻取工程を行うことによってストランド1を製造する。
【0038】
(1)含浸工程
含浸工程は、製造装置100の樹脂浴部13によって繊維束5に熱可塑性樹脂Rを含浸させる工程である。この含浸工程では、繊維材料供給部11から繰り出されて樹脂浴部13の繊維束導入口27から導入された繊維束5が樹脂浴部13の樹脂含浸領域A1を通過することにより、樹脂浴槽25の内部に貯留された溶融状態の熱可塑性樹脂Rが繊維束5に含浸される。
【0039】
樹脂含浸領域A1において、それぞれの繊維束5は上流側のガイド部材43Aのガイド孔51に通され、複数の含浸ローラ41に交互に掛けられ、下流側のガイド部材43Bのガイド孔51に通される。このとき、各繊維束5は、複数の含浸ローラ41の外周面に接触しながら走行することにより、それぞれの繊維束5を構成する複数本の繊維7が開繊される。
【0040】
また、それぞれの繊維束5は、含浸ローラ41の上流側及び下流側に設けられたガイド部材43A,43Bのガイド孔51に通されることにより、各ガイド部材43A,43Bの隔壁53によって走行軌道が区画されて互いに間隔が維持される。これにより、繊維束5は、複数の含浸ローラ41の外周面に接触しながら走行する際の重なり合いが抑制される。
【0041】
つまり、繊維束5は、互いに重なり合うことなく、それぞれ繊維7が開繊されることにより、各繊維7間に熱可塑性樹脂Rが十分に含浸される。
【0042】
(2)撚り工程
撚り工程は、熱可塑性樹脂Rが含浸された繊維束5を撚り合わせる工程である。この撚り工程では、樹脂含浸領域A1を通過した繊維束5が撚り付与領域A2を通過することにより互いに撚り合わされる。
【0043】
樹脂含浸領域A1を通過した繊維束5は、互いに間隔をあけた状態で導入ローラ45に巻回されて走行軌道が水平方向に変換され、撚り付与領域A2へ導かれる。このとき、樹脂浴部13の下流側へ引き出されるストランド1が撚り部17によって軸芯回りに回転される。これにより、撚り付与領域A2では、各繊維束5は、導入ローラ45からストランド引出部29へ向かって、互いに間隔をあけた状態から互いに撚り合わされる。
【0044】
このように、撚り付与領域A2において、複数の繊維束5を束ねることで、繊維束5の中心から外側に向かって熱可塑性樹脂Rが絞られる。これにより、ストランド引出部29では、ダイス55の開口部57を通過する際に、繊維束5の外周に熱可塑性樹脂Rが多く集まることとなる。ここで、ガイド部材43A,43Bは、樹脂浴槽25内の導入ローラ45の上流側の樹脂含浸領域A1にのみ配置される。つまり、繊維束5に撚りを付与する撚り付与領域A2にはガイド部材43A,43Bが無いため、撚られて繊維束5の繊維7の周囲に絞り出された熱可塑性樹脂Rがガイド部材43A,43Bに接触し、こそぎ落されて繊維7がストランド1の表面に露出することを防げる。
【0045】
また、撚り付与領域A2では、導入ローラ45によって繊維束5の走行軌道がダイス55の開口部57の中心軸に対して平行とされる。これにより、撚り付与領域A2で撚り合わされる繊維束5は、ダイス55の開口部57の中心部分に集結され、撚り合わされた繊維束5の外周が熱可塑性樹脂Rによって周方向にわたって均等に覆われた状態となる。したがって、ダイス55の開口部57から、撚り合わされた繊維束5の周囲が熱可塑性樹脂Rからなる基材3によって均等に被覆され、繊維束5を構成する繊維7の外周からの露出のないストランド1が引き出される。
【0046】
(3)冷却工程
冷却工程は、ストランド1を冷却部15によって冷却する工程である。この冷却工程では、樹脂浴部13のストランド引出部29から引き出されたストランド1が冷却部15の冷却槽31に引き込まれ、その後、引き出される。これにより、ストランド1は、冷却槽31に貯留された冷却水Wによって基材3となる熱可塑性樹脂Rが冷却されて硬化される。
【0047】
(4)巻取工程
巻取工程は、ストランド1を撚り部17に巻き取らせる工程である。この巻取工程では、冷却部15で冷却されたストランド1が撚り部17の引込ローラ35によってケース39内に引き込まれ、ケース39内の巻取ボビン37に巻き取られる。
【0048】
以上、説明したように、本実施形態に係るストランド1の製造装置100及び製造方法によれば、複数の繊維束5を熱可塑性樹脂Rに含浸させてストランド1を製造する際に、走行軌道と交差する位置に設けられた複数の含浸ローラ41に繊維束5を接触させることにより、各繊維束5を開繊させて繊維7間に熱可塑性樹脂Rを良好に含浸させることができる。しかも、含浸ローラ41に接触しながら走行する繊維束5同士の走行軌道をガイド部材43A,43Bによって区画するので、繊維束5同士の重なり合いを抑制し、各繊維束5へ十分に熱可塑性樹脂Rを含浸させることができる。
【0049】
つまり、樹脂浴槽25内において繊維束5を互いに重なり合わせることなく開繊させることにより、繊維7間に熱可塑性樹脂Rが十分に含浸された高品質なストランド1を製造することができる。
【0050】
したがって、熱可塑性樹脂Rの含浸が不十分になりやすい大径のストランド1を製造する場合や粘度の高い樹脂を含浸させる場合であっても、必要量の繊維7を小径の繊維束5に分けて、樹脂浴槽25へ通すことにより、繊維7間に樹脂が十分に含浸されて内部に空隙のないストランド1を製造することができる。
【0051】
また、樹脂浴槽25の下流側に、ストランド引出部29から熱可塑性樹脂Rに繊維束5が含浸されたストランド1を軸芯回りに回転させて引き出す撚り部17を備えている。しかも、樹脂浴槽25は、複数の含浸ローラ41が配置された樹脂含浸領域A1を上流側に備え、ストランド引出部29へ案内される繊維束5に撚りを付与する撚り付与領域A2を備えている。したがって、撚り付与領域A2において繊維束5を良好に撚り合わせることができる。これにより、ストランド引出部29において、繊維束5から外周側へ押し出された熱可塑性樹脂Rによって繊維束5の外周側に熱可塑性樹脂Rを良好に被覆させることができる。ここで、ガイド部材43A,43Bは、樹脂浴槽25内の導入ローラ45の上流側の樹脂含浸領域A1にのみ配置される。つまり、繊維束5に撚りを付与する撚り付与領域A2にはガイド部材43A,43Bが無いため、撚られて繊維束5の繊維7の周囲に絞り出された熱可塑性樹脂Rがガイド部材43A,43Bに接触し、こそぎ落されて繊維7がストランド1の表面に露出することを防げる。
【0052】
なお、上記実施形態では、ガイド孔51を有するガイド部材43A,43Bを備えた場合を例示したが、ガイド部材43A,43Bとしては、繊維束5のそれぞれの走行軌道を区画して重なり合わないように間隔を維持させる隔壁53を備えていれば、ガイド孔51を有するものに限らない。
【0053】
次に、製造装置100を構成する樹脂浴部13の樹脂浴槽25の変形例について説明する。
なお、上記実施形態に係る製造装置100と同一構造部分は、同一符号を付して説明を省略する。
図6は、変形例に係る樹脂浴槽25の概略側面図である。図7は、変形例に係る樹脂浴槽25の樹脂含浸領域における概略構成図である。
【0054】
図6及び図7に示すように、変形例に係る樹脂浴槽25は、樹脂含浸領域A1における上下流の中間位置にガイド部材43Cを備えている。ガイド部材43Cは、鉛直方向に沿って間隔をあけて配置された複数の含浸ローラ41の間に配置されている。具体的には、このガイド部材43Cは、上流側の3つの含浸ローラ41と下流側の2つの含浸ローラ41との間に配置されている。このガイド部材43Cも上流側及び下流側のガイド部材43A,43Bと同様に、ガイド孔51を有しており、これらのガイド孔51に繊維束5がそれぞれ挿通される。
【0055】
この変形例では、樹脂含浸領域A1において、それぞれの繊維束5は、含浸ローラ41の上流側及び下流側に設けられたガイド部材43A,43B及び上下流の中間位置に設けられたガイド部材43Cのガイド孔51に通される。これにより、各繊維束5は、上流位置及び下流位置において、各ガイド部材43A,43Bの隔壁53によって互いの走行軌道が区画されて間隔が維持されるとともに、上下流の中間位置においても、ガイド部材43Cの隔壁53によって互いの走行軌道が区画されて間隔が維持される。このように、繊維束5を開繊させる複数の含浸ローラ41の間で繊維束5をガイドするので、樹脂浴槽25内における上下流の間において、複数の含浸ローラ41の外周面に接触しながら走行する際の繊維束5同士の重なり合いをより良好に抑制できる。
【0056】
なお、上記実施形態では、3本の繊維束5を有するストランド1を製造する場合を例示したが、繊維束5の本数は3本に限定されない。
【0057】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0058】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 樹脂浴槽内の溶融した樹脂中に複数本の繊維束を導入し、前記繊維束に前記樹脂を含浸させ、前記樹脂浴槽の引出部から前記樹脂が含浸された前記繊維束を束ねて引き取ることにより、前記繊維束によって強化された樹脂製のストランドを製造する製造装置であって、
前記樹脂浴槽は、
前記繊維束の走行軌道と交差する位置に設けられて前記繊維束が接触する複数のローラと、
前記ローラに接触しながら走行する前記繊維束同士の走行軌道を区画するガイド部材と、
を備える、ストランドの製造装置。
このストランドの製造装置によれば、複数本の繊維束を樹脂に含浸させてストランドを製造する際に、走行軌道と交差する位置に設けられた複数のローラに繊維束を接触させることにより、各繊維束を開繊させて繊維間に樹脂を良好に含浸させることができる。しかも、ローラに接触しながら走行する繊維束同士の走行軌道をガイド部材によって区画するので、繊維束同士の重なり合いを抑制し、各繊維束へ十分に樹脂を含浸させることができる。
つまり、樹脂浴槽内において繊維束を互いに重なり合わせることなく開繊させることにより、繊維間に樹脂が十分に含浸された高品質なストランドを製造することができる。
したがって、樹脂の含浸が不十分になりやすい大径のストランドを製造する場合や粘度の高い樹脂を含浸させる場合であっても、必要量の繊維を小径の繊維束に分けて、樹脂浴槽へ通すことにより、繊維間に樹脂が十分に含浸されて内部に空隙のないストランドを製造することができる。
【0059】
(2) 前記複数のローラの間に前記ガイド部材が配置されている、(1)に記載のストランドの製造装置。
このストランドの製造装置によれば、繊維束を開繊させる複数のローラの間で繊維束をガイドするので、樹脂浴槽内における上下流の間での重なり合いを良好に抑制できる。
【0060】
(3) 前記樹脂浴槽の下流側に、前記引出部から前記樹脂に前記繊維束が含浸されたストランドを軸芯回りに回転させて引き出す撚り部を備え、
前記樹脂浴槽は、前記複数のローラが配置された樹脂含浸領域を上流側に備え、前記引出部へ案内される前記繊維束に撚りを付与する撚り付与領域を備え、
前記樹脂含浸領域と前記撚り付与領域の境界に、前記繊維束が掛けられる導入ローラを備え、
前記ガイド部材は、前記樹脂浴槽内の前記導入ローラの上流側の前記樹脂含浸領域にのみ配置される、(1)または(2)に記載のストランドの製造装置。
このストランドの製造装置によれば、撚り付与領域において繊維束を良好に撚り合わせることができる。これにより、引出部において、繊維束から外周側へ押し出された樹脂によって繊維束の外周側に樹脂を良好に被覆させることができる。ここで、ガイド部材は、樹脂浴槽内の導入ローラの上流側の樹脂含浸領域にのみ配置される。つまり、繊維束に撚りを付与する撚り付与領域にはガイド部材が無いため、撚られて繊維の周囲に絞り出された樹脂がガイド部材に接触し、こそぎ落されて繊維がストランドの表面に露出することを防げる。
【0061】
(4) 樹脂浴槽内の溶融した樹脂中に複数本の繊維束を導入し、前記繊維束に前記樹脂を含浸させ、前記樹脂浴槽の引出部から前記樹脂が含浸された前記繊維束を束ねて引き取ることにより、前記繊維束によって強化された樹脂製のストランドを製造する製造方法であって、
前記樹脂浴槽内において、
前記繊維束同士の走行軌道を区画するガイド部材によって前記繊維束同士の走行軌道を区画させつつ、
前記樹脂浴槽内における前記繊維束の走行軌道と交差する位置に設けた複数のローラに前記繊維束を接触させて開繊させる、ストランドの製造方法。
このストランドの製造方法によれば、複数本の繊維束を樹脂に含浸させてストランドを製造する際に、走行軌道と交差する位置に設けられた複数のローラに繊維束を接触させることにより、各繊維束を開繊させて繊維間に樹脂を良好に含浸させることができる。しかも、ローラに接触しながら走行する繊維束同士の走行軌道をガイド部材によって区画するので、繊維束同士の重なり合いを抑制し、各繊維束へ十分に樹脂を含浸させることができる。
つまり、樹脂浴槽内において繊維束を互いに重なり合わせることなく開繊させることにより、繊維間に樹脂が十分に含浸された高品質なストランドを製造することができる。
したがって、樹脂の含浸が不十分になりやすい大径のストランドを製造する場合や粘度の高い樹脂を含浸させる場合であっても、必要量の繊維を小径の繊維束に分けて、樹脂浴槽へ通すことにより、繊維間に樹脂が十分に含浸されて内部に空隙のないストランドを製造することができる。
【0062】
(5) 前記複数のローラの間に配置させた前記ガイド部材によって前記繊維束をガイドする、(4)に記載のストランドの製造方法。
このストランドの製造方法によれば、繊維束を開繊させる複数のローラの間で繊維束をガイドするので、樹脂浴槽内における上下流の間における重なり合いを良好に抑制できる。
【0063】
(6) 前記樹脂浴槽の下流側に、前記引出部から前記樹脂に前記繊維束が含浸されたストランドを軸芯回りに回転させて引き出す撚り部を備え、
前記樹脂浴槽は、前記複数のローラが配置された樹脂含浸領域を上流側に備え、前記引出部へ案内される前記繊維束に撚りを付与する撚り付与領域を備え、
前記樹脂含浸領域と前記撚り付与領域の境界に、前記繊維束が掛けられる導入ローラを備え、
前記ガイド部材は、前記樹脂浴槽内の前記導入ローラの上流側の前記樹脂含浸領域にのみ配置され、
前記撚り部によって前記引出部から前記樹脂に前記繊維束が含浸されたストランドを軸芯回りに回転させて引き出すことにより、前記撚り付与領域において前記繊維束に撚りを付与する、(4)または(5)に記載のストランドの製造方法。
このストランドの製造方法によれば、樹脂付与領域において繊維束を良好に撚り合わせることができる。これにより、引出部において、繊維束から外周側へ押し出された樹脂によって繊維束の外周側に樹脂を良好に被覆させることができる。ここで、ガイド部材は、樹脂浴槽内の導入ローラの上流側の樹脂含浸領域にのみ配置される。つまり、繊維束に撚りを付与する撚り付与領域にはガイド部材が無いため、撚られて繊維の周囲に絞り出された樹脂がガイド部材に接触し、こそぎ落されて繊維がストランドの表面に露出することを防げる。
【符号の説明】
【0064】
1 ストランド
5 繊維束
17 撚り部
25 樹脂浴槽
29 ストランド引出部(引出部)
41 含浸ローラ(ローラ)
43A,43B,43C ガイド部材
45 導入ローラ
100 製造装置
A1 樹脂含浸領域
A2 撚り付与領域
R 熱可塑性樹脂(樹脂)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7