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特開2022-75250発色シート、発色物品、転写箔及び転写箔の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022075250
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】発色シート、発色物品、転写箔及び転写箔の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/28 20060101AFI20220511BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20220511BHJP
   G02B 5/18 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
G02B5/28
G02B5/26
G02B5/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020185923
(22)【出願日】2020-11-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】村田 広大
【テーマコード(参考)】
2H148
2H249
【Fターム(参考)】
2H148FA24
2H148GA12
2H148GA22
2H148GA33
2H148GA60
2H249AA07
2H249AA13
2H249AA60
2H249AA64
2H249AA66
(57)【要約】
【課題】引っ張りによって多層膜層が損傷することを抑制可能な発色シートを提供する。
【解決手段】支持体11と、支持体11上に形成された多層膜層13とを備えるようにした。そして、多層膜層13は、多層膜層13において相互に隣接する層13a,13bの屈折率が互いに異なり、多層膜層13への入射光のうちの特定の波長域での光の反射率が他の波長域での光の反射率よりも高い構成とした。また、支持体11が、硬度が互いに異なる2層である耐圧層11a及びクッション層11bを少なくとも含む構成とした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、前記支持体上に形成された多層膜層とを備え、
前記多層膜層は、当該多層膜層において相互に隣接する層の屈折率が互いに異なり、当該多層膜層への入射光のうちの特定の波長域での光の反射率が他の波長域での光の反射率よりも高く構成され、
前記多層膜層の前記支持体側の面は、複数の凹部を有する第1凹凸構造を有し、
前記多層膜層の厚さ方向に沿った方向から見て、前記凹部が構成するパターンは、第1方向に沿った長さがサブ波長以下であり、前記第1方向と直交する第2方向に沿った長さが前記第1方向に沿った長さ以上である複数の図形要素の集合からなるパターンを含み、
前記複数の図形要素において、前記第2方向に沿った長さの標準偏差は、前記第1方向に沿った長さの標準偏差よりも大きく、
前記支持体は、硬度が互いに異なる2層を少なくとも含む
発色シート。
【請求項2】
前記硬度が互いに異なる2層のうちの、硬度が低い方の層は、その硬度がJIS K6253-3規格のタイプAで95以下であり、硬度が高い方の層は、その硬度がJIS K7215規格のタイプDで20以上である
請求項1に記載の発色シート。
【請求項3】
前記硬度が互いに異なる2層のうちの、硬度が高い方の層は、硬度が低い方の層よりも、前記支持体側に配置されている
請求項1又は2に記載の発色シート。
【請求項4】
前記支持体と前記多層膜層との間に配置された樹脂層を更に備え、
前記樹脂層の前記多層膜層側の面は、前記多層膜層の前記第1凹凸構造の凹凸が反転された凹凸を有する第2凹凸構造を有し、
前記多層膜層の前記樹脂層側の面と反対側の面は、前記樹脂層の第2凹凸構造に追従した複数の凹部を有する第3凹凸構造を有し、
請求項3に記載の発色シート。
【請求項5】
前記第1凹凸構造が有する複数の凹部それぞれの深さは、一定である
請求項1~4のいずれか一項に記載の発色シート。
【請求項6】
前記第1凹凸構造の凹部が構成するパターンは、前記複数の図形要素の集合からなる第1パターンと、前記第2方向に沿って延び、前記第1方向に沿って並ぶ複数の帯状領域からなる第2パターンとが重ね合わされたパターンであり、
前記第1方向に沿った前記帯状領域の配列間隔は、一定ではなく、その平均値が前記入射光に含まれる波長域における最小波長の1/2以上であり、
前記第1凹凸構造の凹部は、前記多層膜層の厚さ方向への投影像が前記第1パターンを構成する要素であって所定の深さを有する凹部要素と、前記多層膜層の厚さ方向への投影像が前記第2パターンを構成する要素であって所定の深さを有する凹部要素とが深さ方向に並んだ多段形状を有する
請求項1~5のいずれか一項に記載の発色シート。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の発色シートと、
前記発色シートが貼り付けられた被着体とを備える
発色物品。
【請求項8】
支持体と、前記支持体上に形成され、前記支持体と反対側の面に凹凸構造を有する凹凸構造層と、前記凹凸構造層上に形成され、前記凹凸構造に追従した表面形状を有する多層膜層と、前記多層膜層上に形成されたアンカー層と、前記アンカー層上に形成された光吸収層と、前記光吸収層上に形成された接着層とを備え、
前記多層膜層は、当該多層膜層において相互に隣接する層の屈折率が互いに異なり、当該多層膜層への入射光のうちの特定の波長域での光の反射率が他の波長域での光の反射率よりも高く構成されており、
前記凹凸構造を構成する凸部は、前記多層膜層側から見て、前記凸部が構成するパターンは、第1方向に沿った長さがサブ波長以下であって、前記第1方向と直交する第2方向に沿った長さが前記第1方向に沿った長さ以上である複数の図形要素の集合からなるパターンを含み、前記複数の図形要素において、前記第2方向に沿った長さの標準偏差は、前記第1方向に沿った長さの標準偏差よりも大きく、
前記支持体は、硬度が互いに異なる2層を少なくとも含む
転写箔。
【請求項9】
前記支持体は、前記凹凸構造層から剥離可能に構成されている
請求項8に記載の転写箔。
【請求項10】
前記アンカー層のガラス転移点及び前記光吸収層のガラス転移点のそれぞれは、前記接着層のガラス転移点より高い
請求項8又は9に記載の転写箔。
【請求項11】
前記アンカー層のガラス転移点及び前記光吸収層のガラス転移点のそれぞれは、25℃以上であり、
前記接着層のガラス転移点は、25℃未満である
請求項10に記載の転写箔。
【請求項12】
前記接着層は、前記光吸収層側から、強粘着層と、基材と、前記強粘着層よりも粘着力が弱い弱粘着層とがこの順に積層されて形成されている
請求項8又は9に記載の転写箔。
【請求項13】
前記強粘着層のガラス転移点及び前記基材のガラス転移点のそれぞれは、前記弱粘着層のガラス転移点より高い
請求項12に記載の転写箔。
【請求項14】
前記強粘着層のガラス転移点及び前記基材のガラス転移点のそれぞれは、25℃以上であり、
前記弱粘着層のガラス転移点は、25℃未満である
請求項13に記載の転写箔。
【請求項15】
支持体の一方の面に、凹凸構造を有する樹脂層を形成する工程と、
前記凹凸構造に沿って、多層膜層を、当該多層膜層において相互に隣接する層の屈折率が互いに異なり、当該多層膜層への入射光のうちの特定の波長域での光の反射率が他の波長域での光の反射率よりも高くなるように形成する工程と、
前記多層膜層の前記樹脂層側の面と反対側の面にアンカー層を形成する工程と、
前記アンカー層の前記多層膜層と反対側の面に光吸収層を形成する工程と、
前記光吸収層の前記アンカー層と反対側の面に接着層を形成する工程とを含み、
前記樹脂層を形成する工程では、前記樹脂層の表面と対向する位置から見て、前記凹凸構造を構成する1段以上の凸部の構成するパターンが、第1方向に沿った長さがサブ波長以下であって、前記第1方向と直交する第2方向に沿った長さが前記第1方向に沿った長さ以上である複数の図形要素の集合からなるパターンを含み、前記複数の図形要素において、前記第2方向に沿った長さの標準偏差が、前記第1方向に沿った長さの標準偏差よりも大きくなるように前記凹凸構造を形成し、
前記支持体は、硬度が互いに異なる2層を少なくとも含む
転写箔の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発色シート、発色物品、転写箔及び転写箔の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モルフォ蝶等の自然界の生物の色として多く観察される構造色は、光の回折や干渉、散乱といった、物体の微細な構造に起因した光学現象の作用によって視認される色である。例えば、多層膜干渉による構造色は、互いに隣り合う薄膜の界面で光が反射し、その反射した光が互いに干渉することによって生じる。多層膜干渉は、モルフォ蝶の翅の発色原理の1つである。モルフォ蝶の翅では、多層膜干渉に加えて、翅の表面の微細な凹凸による光の散乱や回折が生じる結果、鮮やかな青色が広い観察角度において視認される。
【0003】
モルフォ蝶の翅のような構造色を人工的に再現する発色シートとしては、特許文献1に記載のように、不均一に配列された微細な凹凸を有する層に多層膜層を積層した発色シートが提案されている。平面に多層膜層を積層した発色シートでは、視認される反射光の波長が観察角度によって大きく変化するため、発色シートに視認される色が観察角度によって大きく変化する。これに対し、特許文献1に記載の発色シートでは、干渉によって強められた反射光が不規則な凹凸によって多方向に広がるため、観察角度による色の変化が緩やかになる。その結果、モルフォ蝶の翅のように広い観察角度で特定の色が観察される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-112732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載の発色シートの多層膜層には、無機化合物が使用されている。一般的に、無機化合物は脆く、外的刺激により割れや欠け等の不具合が生じやすい。それゆえ、特許文献1に記載の発色シートに接着層を形成してなる転写箔は、例えば、被着体に転写箔を貼り付けた後、転写箔貼り直しのために、転写箔が被着体から剥がれるように、利用者が転写箔を引っ張り、転写箔に引張応力が与えられ、多層膜層が変形したときに、多層膜層に割れや欠け等を生じ、発色シートに外観不良が発生する可能性がある。
【0006】
本発明は、引っ張りによって多層膜層が損傷することを抑制可能な発色シート、発色物品、転写箔及び転写箔の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る発色シートは、(a)支持体と、支持体上に形成された多層膜層とを備え、(b)多層膜層は、多層膜層において相互に隣接する層の屈折率が互いに異なり、多層膜層への入射光のうちの特定の波長域での光の反射率が他の波長域での光の反射率よりも高く構成され、(c)多層膜層の支持体側の面は、複数の凹部を有する第1凹凸構造を有し、(d)多層膜層の厚さ方向に沿った方向から見て、凹部が構成するパターンは、第1方向に沿った長さがサブ波長以下であり、第1方向と直交する第2方向に沿った長さが第1方向に沿った長さ以上である複数の図形要素の集合からなるパターンを含み、(e)複数の図形要素において、第2方向に沿った長さの標準偏差は、第1方向に沿った長さの標準偏差よりも大きく、(f)支持体は、硬度が互いに異なる2層を少なくとも含むことを要旨とする。
【0008】
また、本発明の一態様に係る発色物品は、上記の発色シートと、発色シートが貼り付けられた被着体とを備えることを要旨とする。
【0009】
また、本発明の一態様に係る転写箔は、(a)支持体と、支持体上に形成され、支持体と反対側の面に凹凸構造を有する凹凸構造層と、凹凸構造層上に形成され、凹凸構造に追従した表面形状を有する多層膜層と、多層膜層上に形成されたアンカー層と、アンカー層上に形成された光吸収層と、光吸収層上に形成された接着層とを備え、(b)多層膜層は、多層膜層において相互に隣接する層の屈折率が互いに異なり、多層膜層への入射光のうちの特定の波長域での光の反射率が他の波長域での光の反射率よりも高く構成されており、(c)凹凸構造を構成する凸部は、多層膜層側から見て、凸部が構成するパターンは、第1方向に沿った長さがサブ波長以下であって、第1方向と直交する第2方向に沿った長さが第1方向に沿った長さ以上である複数の図形要素の集合からなるパターンを含み、複数の図形要素において、第2方向に沿った長さの標準偏差は、第1方向に沿った長さの標準偏差よりも大きく、(d)支持体は、硬度が互いに異なる2層を少なくとも含むことを要旨とする。
【0010】
また、本発明の一態様に係る転写箔の製造方法は、(a)支持体の一方の面に、凹凸構造を有する樹脂層を形成する工程と、(b)凹凸構造に沿って、多層膜層を、多層膜層において相互に隣接する層の屈折率が互いに異なり、多層膜層への入射光のうちの特定の波長域での光の反射率が他の波長域での光の反射率よりも高くなるように形成する工程と、(c)多層膜層の樹脂層側の面と反対側の面にアンカー層を形成する工程と、(d)アンカー層の多層膜層と反対側の面に光吸収層を形成する工程と、(e)光吸収層のアンカー層と反対側の面に接着層を形成する工程とを含み、(f)樹脂層を形成する工程では、樹脂層の表面と対向する位置から見て、凹凸構造を構成する1段以上の凸部の構成するパターンが、第1方向に沿った長さがサブ波長以下であって、第1方向と直交する第2方向に沿った長さが第1方向に沿った長さ以上である複数の図形要素の集合からなるパターンを含み、複数の図形要素において、第2方向に沿った長さの標準偏差が、第1方向に沿った長さの標準偏差よりも大きくなるように凹凸構造を形成し、(g)支持体は、硬度が互いに異なる2層を少なくとも含むことを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、引っ張りによって多層膜層が損傷することを抑制可能な発色シート、発色物品、転写箔、及び転写箔の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態に係る転写箔の断面構造を示す図である。
図2】変形例に係る転写箔の断面構造を示す図である。
図3】転写箔を示す図であって、(a)は樹脂層の第2凹凸構造の平面構造を示す図であり、(b)は樹脂層の第2凹凸構造の断面構造を示す図である。
図4】発色シートの転写方法を示す図であって、(a)は転写箔を貼り付けた被着体を示す図であり、(b)は発色シートが転写された被着体を示す図である。
図5】転写後の発色シートの断面構造を示す図である。
図6】第2実施形態に係る転写箔を示す図であって、(a)は第2凹凸構造の第2凸部要素のみの平面構造を示す図であり、(b)は第2凹凸構造の断面構造を示す図である。
図7】転写箔を示す図であって、(a)は樹脂層の第2凹凸構造の平面構造を示す図であり、(b)は樹脂層の第2凹凸構造の断面構造を示す図である。
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明するが、本発明は以下に示す実施形態に限定されない。以下に示す実施形態では、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定は本発明の必須要件ではない。
【0014】
1.第1実施形態
1-1.全体構造
1-2.第2凹凸構造の構成
1-3.転写箔の製造方法
1-4.発色シートの転写方法
1-5.第1実施形態の効果
2.第2実施形態
2-1.第2凹凸構造の構成
2-2.第2凸部要素の構成
2-3.第2凹凸構造の構成
2-4.第2実施形態の効果
3.実施例・比較例
3-1.実施例
3-2.比較例
3-3.評価
【0015】
〈1.第1実施形態〉
[1-1.全体構造]
図1は、本実施形態に係る転写箔20の構造を示す断面図である。
図1に示すように、転写箔20は、発色シート10上に、光吸収層15と、接着層16とがこの順に積層されて形成されている。これにより、転写箔20は、接着層16を介して、被着体に発色シート10を貼り付け可能となっている(転写可能となっている)。
発色シート10は、支持体11上に、樹脂層12(凹凸構造層の一例)と、多層膜層13と、アンカー層14とがこの順に積層されて形成されている。光吸収層15と接着層16とは、発色シート10の2つの面のうちの、アンカー層14側の面に積層されている。
【0016】
支持体11は、硬度が互いに異なる2層(耐圧層11a、クッション層11b)を少なくとも含んでいる。図1では、支持体11が耐圧層11a、クッション層11bのみからなる場合を例示している。また、図1では、耐圧層11aとクッション層11bとが接着されていない場合を例示しているが、接着層等を介して接着された構成としてもよい。
耐圧層11aは、支持体11を構成する2層のうちの、樹脂層12側に配置された層であって、硬度が高い方の層である。これにより、耐圧層11aは、樹脂層12の第2凹凸構造12c(後述)を形成する際に樹脂層12の変形を抑制でき、版(モールド)の形状に対応して第2凹凸構造12cパターニングできる。耐圧層11aの硬度は、JIS K7215規格のタイプDで20以上であることが好ましい。なお、硬度の測定値としては、例えば、耐圧層11aのフィルム幅方向に略等間隔で5点測定した平均値を採用できる。また、硬度の測定環境は、温度25℃、湿度50%の環境が好ましい。また、耐圧層11aの融点は90℃以上であることが好ましい。このような耐圧層11aであれば、転写時の版圧による樹脂層12の異常変形を抑制できる。すなわち、転写で求められる耐圧性を有する。例えば、耐圧層11aがJIS K7215規格のタイプDで20未満であると、転写箔20の転写時に、転写時の版圧に耐えられず、樹脂層12が異常変形する可能性がある。耐圧層11aの材料としては、例えば、合成石英基板、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエステル、塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン等の樹脂を採用できる。このような樹脂であれば、転写箔20の可撓性を向上できる。耐圧層11aの膜厚は、耐圧性及び加工性の観点から、10μm以上100μm以下が好ましい。
【0017】
クッション層11bは、支持体11を構成する2層のうちの、耐圧層11aから遠い側に配置された層であって、硬度が低い方の層である。これにより、クッション層11bは、支持体11全体として硬度を低減できる。それゆえ、例えば、被着体に転写箔20を貼り付けた後、転写箔20貼り直しのために、転写箔20が被着体から剥がれるように、利用者が転写箔20を引っ張り、転写箔20に引張応力が与えられ、多層膜層13が変形したときに、その変形にあわせて支持体11を変形できる。そのため、例えば、支持体11を耐圧層11aのような高硬度の層だけで形成する方法に比べ、多層膜層13の変形に支持体11の変形を追従でき、多層膜層13と支持体11との変形量の差に起因して多層膜層13が外力を受けることを低減でき、多層膜層13の損傷を抑制できる。すなわち、貼り直しで求められる耐引張性を有する。また、転写箔20の貼付け時に、多層膜層13に加わる外部刺激による多層膜層13の損傷を抑制することもできる。クッション層11bの硬度は、JIS K6253-3規格のタイプAで95以下であることが好ましい。例えば、JIS K6253-3規格のタイプAで95未満であると、転写箔20の貼付け時に、多層膜層13に加わる外部刺激によって多層膜層13が損傷する可能性がある。
クッション層11bの材料としては、例えば、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリアミド等の樹脂を採用できる。クッション層11bの膜厚は、耐圧層11aより厚い方が、多層膜層13を保護しやすく好ましい。例えば、多層膜層13を外的刺激から保護する観点や加工性の観点から、50μm以上300μm以下が好ましい。
【0018】
また、クッション層11bは、樹脂層12に対して剥離性を有している。これにより、支持体11は、樹脂層12と剥離可能となっている。クッション層11bの剥離性は、例えば、クッション層11bと樹脂層12との密着性が低下するように、クッション層11bの材料と樹脂層12の材料とを選択することで実現される。例えば、クッション層11b及び樹脂層12の少なくとも一方に、シリコーンオイルやフッ素化合物を含有させる。
また、クッション層11bの剥離性を、加熱や冷却等の物理的な外部刺激で促進させるようにしてもよい。例えば、樹脂層12が熱可塑性樹脂で形成される場合、加熱によって樹脂層12が軟化させることで、樹脂層12からの支持体11の剥離が促進される。また、クッション層11bの剥離性は、加熱や冷却等の物理的な外部刺激で実現してもよい。
また、クッション層11bの剥離性を、支持体11と樹脂層12との間に離型剤を含む離型層を配置することで実現してもよい。離型剤としては、例えば、シリコーンオイル、フッ素化合物を採用できる。剥離層を配置する場合には、クッション層11b(支持体11)と離型層との界面に凹凸構造を形成してもよい。このような凹凸構造を形成することにより、クッション層11b(支持体11)と離型層との剥離を抑制することができる。
【0019】
なお、第1実施形態では、支持体11が耐圧層11a及びクッション層11bのみから形成される例を示したが、他の構成を採用することもできる。例えば、耐圧層11aとクッション層11bとの間に中間層を配置してもよい。中間層としては、例えば、アクリル接着材、ウレタン接着材、シリコーン接着材等を含む接着層、ワックス、オイル等を含む応力緩和層を採用できる。
【0020】
樹脂層12は、可視領域の光を透過する樹脂で形成された層である。すなわち、可視領域の光に対して透明な樹脂で形成された層である、と言える。これにより、樹脂層12は、支持体11側の面から樹脂層12内に入射した光を多層膜層13まで透過させることができる。可視領域の光としては、例えば、360nm以上830nm以下の波長域の光が挙げられる。また、可視領域の光に対して透明な樹脂としては、例えば、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂を採用できる。また、樹脂層12の多層膜層13側の面には、不規則に配置された複数の凸部12aと、複数の凸部12a間の領域である複数の凹部12bとを含む凹凸構造(以下、「第2凹凸構造12c」とも呼ぶ)を有している。
【0021】
多層膜層13は、相互に隣接する層の屈折率が互いに異なる層である。例えば、高屈折率層13aと、高屈折率層13aよりも屈折率が小さい低屈折率層13bとが交互に積層された層としてもよい。図1では、樹脂層12に高屈折率層13aが接し、アンカー層14に低屈折率層13bが接している。高屈折率層13aと低屈折率層13bとは、可視領域の光を透過する材料、すなわち可視領域の光に対して透明な材料から形成されている。可視領域の光に対して透明な材料としては、例えば、誘電体薄膜を採用できる。誘電体薄膜としては、例えば、無機材料、有機材料を採用できる。特に、無機材料は、密度が高く有機材料に比べて屈折率を高くしやすいため好ましい。また、無機材料は、熱変化が少ないため、薄い層を物理堆積や化学堆積により高品位の多層膜層13を形成しやすい。なお、高屈折率層13aの材料及び低屈折率層13bの材料は、高屈折率層13aの屈折率が、低屈折率層13bの屈折率よりも高ければよく、限定されるものではない。しかし、高屈折率層13aと低屈折率層13bとの屈折率の差が大きいほど、少ない積層数で高い強度の反射光が得られる。それゆえ、例えば、高屈折率層13aの材料及び低屈折率層13bの材料として無機材料を用いる場合には、高屈折率層13aの材料を二酸化チタン(TiO)とし低屈折率層13bの材料を二酸化珪素(SiO)とすることが好ましい。
ここで、無機化合物は、硬いが脆い。それゆえ、例えば、高屈折率層13aの材料及び低屈折率層13bの材料として無機材料を用いた場合、多層膜層13は、有機材料を用いた場合よりも、外部刺激(転写時の版圧、剥離時の引張応力)にさらに弱い構成になる。
【0022】
また、多層膜層13は、樹脂層12の多層膜層13側の面全域を一定の膜厚で覆うように、樹脂層12が有する第2凹凸構造12cに追従した形状を有している。また、多層膜層13は、樹脂層12の凸部12a上の部分と凹部12b上の部分との境界で不連続となるが、樹脂層12の凸部12a上の部分と凹部12b上の部分とのそれぞれで、多層膜層13を構成する各層の材料や膜厚や積層順序が一致している。具体的には、多層膜層13の樹脂層12側の面(つまり、支持体11側の面)は、樹脂層12の第2凹凸構造12cの凹凸が反転された凹凸を有する凹凸構造(以下、「第1凹凸構造13c」とも呼ぶ)を有している。換言すると、樹脂層12の多層膜層13側の面は、第1凹凸構造13cの凹凸が反転された凹凸を有する第2凹凸構造12cを有する、と言える。また、多層膜層13のアンカー層14側の面(つまり、樹脂層12側の面と反対側の面)は、樹脂層12の第2凹凸構造12cに追従した複数の凹部を有する第3凹凸構造13dを有している。
【0023】
このような構成により、多層膜層13は、樹脂層12を透過した光が入射すると、多層膜層13の高屈折率層13aと低屈折率層13bとの各界面で光を反射し、反射した光に干渉を起こさせるとともに、多層膜層13の最外面における不規則な凹凸に起因して進行方向を変える結果、特定の波長域の光が広い角度に出射される。換言すると、多層膜層13は、多層膜層13への入射光のうちの特定の波長域での光の反射率が他の波長域での光の反射率よりも高く構成されている、と言える。特定の波長域は、高屈折率層13aと低屈折率層13bとの材料及び膜厚、並びに凹凸の幅、高さ及び配置で決まる。
【0024】
高屈折率層13aの膜厚及び低屈折率層13bの膜厚は、例えば、発色シート10で発色させる所望の色に応じて転送行列法等で設計された厚みを採用できる。例えば、発色シート10が青色を呈する場合は、TiOからなる高屈折率層13aの膜厚は40nm程度が好ましく、SiOからなる低屈折率層13bの膜厚は75nm程度が好ましい。
【0025】
なお、図1では、多層膜層13が、樹脂層12側から高屈折率層13aと低屈折率層13bとがこの順に交互に積層された10層からなる場合を例示した。しかしながら、多層膜層13が有する層の数や層の積層の順序は、これに限られるものではなく、所望の波長域が出射されるように設計されていればよい。例えば、樹脂層12に接するように低屈折率層13bが配置され、その低屈折率層13b上に高屈折率層13aと低屈折率層13bとが交互に積層された構成としてもよい。また、アンカー層14と接する層も、高屈折率層13aと低屈折率層13bとのいずれであってもよい。さらに、低屈折率層13bと高屈折率層13aとが交互に積層されていれば、樹脂層12に接する層とアンカー層14に接する層との材料が同じであってもよい。さらに多層膜層13は、屈折率が互いに異なる3種類以上の層を備えていてもよい。換言すると、多層膜層13は、多層膜層13における相互に隣接する層の屈折率が互いに異なり、多層膜層13への入射光のうちの特定の波長域での光の反射率が他の波長域での反射率よりも高く構成されていればよいと言える。
【0026】
アンカー層14は、光吸収層15と多層膜層13とを密着性を向上させるための層である。したがって、多層膜層13と光吸収層15とが直接密着する場合、アンカー層14は、必ずしも必要ではなく、省略することができる。アンカー層14の材料としては、例えば、加熱によって接着性を発現する樹脂、常温で接着性を有する樹脂を採用できる。
【0027】
アンカー層14のガラス転移点は、接着層16のガラス転移点より高いことが好ましい。例えば、25℃以上を採用できる。これにより、アンカー層14は、被着体に貼り付ける際に、ガラス状となって適度な硬度を実現できる。アンカー層14の材料としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリウレタン樹脂等の熱可塑性樹脂を採用できる。特に、ポリエステル樹脂は、アンカー性も高く適度な硬度が得やすいため好ましい。また、熱可塑性樹脂は、共重合体であることが好ましい。共重合体を用いることにより、硬度とアンカー性(接着性)とを両立しやすく、多層膜層13の保護に好適となる。
【0028】
光吸収層15は、樹脂層12と多層膜層13とを透過した入射光を吸収するための層である。光吸収層15は、顔料とバインダー樹脂とを含んでいる。顔料としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、チタンブラック、黒色酸化鉄、黒色複合酸化物を採用できる。また、バインダー樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリウレタン樹脂を採用できる。特に、ポリエステル樹脂は、顔料が分散しやすいため好ましい。また、例えば、アンカー層14がポリエステル樹脂である場合に、光吸収層15のバインダー樹脂をポリエステル樹脂とすることで、アンカー層14と光吸収層15との転写時の剥離不良を抑制でき、さらに、アンカー層14と光吸収層15との界面での入射光の反射を抑制できる。また、例えば、アンカー層14と光吸収層15のバインダー樹脂との両方を、水酸基を有する樹脂とすることで、水酸基の水素結合により、アンカー層14と光吸収層15との転写時の剥離不良を抑制できる。
【0029】
光吸収層15のガラス転移点は、接着層16のガラス転移点より高いことが好ましい。例えば、25℃以上を採用できる。これにより、光吸収層15は、被着体に貼り付ける際に、ガラス状となって適度な硬度を実現できる。また、アンカー層14のガラス転移点と光吸収層15のガラス転移点との差は、0度以上70度以下であることが好ましい。また、30度以下がより好ましいい。アンカー層14と光吸収層15とのガラス転移点の差が大きすぎると、転写時の剥離不良が起きやすいが、70度以下とすることで剥離不良を抑制でき、さらに30度以下とすることで、光吸収層15の歪みも抑制できる。
【0030】
接着層16は、転写箔20を被着体に貼り付けるための層である。例えば、被着体に貼り付ける際にゴム状の性質を有する層を採用できる。接着層16の材料としては、例えば、常温でタック性を有する樹脂、常温ではタック性を有しないが加圧や加熱によりタック性を発現する樹脂を採用できる。タック性とは、接着層16の表面のべたつく性質である。接着層16の樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリウレタン樹脂等の熱可塑性の樹脂を採用できる。また、接着層16の樹脂は架橋等で硬化させてもよい。
【0031】
接着層16のガラス転移点は、アンカー層14のガラス転移点及び光吸収層15のガラス転移点よりも低いことが好ましい。例えば、25℃未満を採用できる。これにより、接着層16は、被着体に貼り付ける際に、適度なタック性を発現することができる。
【0032】
また、接着層16は、多層膜層13との密着性に加え、多層膜層13への入射光の吸収性、つまり、樹脂層12と多層膜層13とを透過した光の吸収性を有する構成としてもよい。接着層16の光吸収の程度は、接着層16における可視領域の光の透過率によって評価可能である。接着層16の光透過率としては、例えば、50%以下を採用できる。また、接着層16の光透過率は、40%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。光透過率としては、例えば、JIS K7361に準拠して、JIS K7361に規定される全光線透過率を測定する。また、光透過率の測定に際しては、発色シート10から接着層16を分離して、単独の接着層16に対して測定が行われる。
【0033】
また、接着層16を密着性と光の吸収性とを有する構成とする場合、光吸収性材料としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、チタンブラック、黒色酸化鉄、黒色複合酸化物等の黒色の無機顔料を採用できる。すなわち、接着層16は、黒色の無機顔料を含む黒色の層であることが好ましい。この場合、接着層16の色は、目視によって黒色と認識されればよい。また、接着層16の色において、JIS Z 8781に規定のL*a*b*表色系で規定されるL*値は、小さい数値であることが好ましい。具体的には、L*値は、27以下であることが好ましい。これにより、多層膜層13を透過した光を接着層16により的確に吸収できる。また、接着層16における樹脂の含有量は、接着層16の総質量に対して2質量%以上であることが好ましい。樹脂の含有量が2質量%以上であれば、接着層16の光透過率を50%以下に調整することを容易に行える。
【0034】
また、接着層16は、図2に示すように、光吸収層15側から、強粘着層16aと、基材16bと、強粘着層16aよりも粘着力が弱い弱粘着層16cとがこの順に積層された3層構成としてもよい。これにより、接着層16は、例えば、利用者が転写箔20を引っ張ったときに、弱粘着層16cと被着体との剥がれを生じるため、強粘着層16aと光吸収層15との剥がれを抑制でき、転写箔20を貼り直すことができる。3層構成の接着層16としては、例えば、両面テープを採用することができる。また、強粘着層16a及び弱粘着層16cの材料としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリウレタン樹脂等の熱可塑性の樹脂を採用できる。また、基材16bとしては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂等の樹脂を採用できる。
【0035】
また、接着層16を3層構成とする場合、強粘着層16aのガラス転移点及び基材16bのガラス転移点のそれぞれは、弱粘着層16cのガラス転移点より高いことが好ましい。例えば、25℃以上を採用できる。これにより、強粘着層16a及び基材16bは、被着体に貼り付ける際に、ガラス状となって適度な硬度を実現できる。また、弱粘着層16cのガラス転移点としては、例えば、25℃未満を採用できる。これにより、弱粘着層16cは、被着体に貼り付ける際に、適度なタック性を発現することができる。
【0036】
なお、転写箔20は、上述した各層に加えて、接着層16の多層膜層13側の面と反対側の面を覆う保護フィルム(以下、「セパレーター」とも呼ぶ)を有する構成としてもよい。これにより、セパレーターは、転写箔20の保管時に、接着層16の接着性の低下を抑制できる。セパレーターとしては、例えば、延伸フィルム、無延伸フィルムを採用できる。特に、延伸フィルムは、薄く強靭なフィルムを形成しやすく、薄いセパレーターを実現できるため好ましい。セパレーターの材料としては、例えば、熱可塑性ポリマーを採用できる。熱可塑性ポリマーを採用することにより、強靭な薄膜のフィルムを容易に製造できる。熱可塑性ポリマーとしては、例えば、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレンを採用できる。これらの熱可塑性ポリマーによれば、接着層16との適度な接着性及び剥離性を有し、接着層16を保護することもできる。また、セパレーターには、片面又は両面に剥離処理が施されていてもよい。剥離処理により、接着層16との剥離力を調整でき、セパレーターを剥離する際の剥離力による、多層膜層13の剥離不良を低減できる。
【0037】
[1-2.第2凹凸構造の構成]
次に、樹脂層12が有する第2凹凸構造12cの構成について説明する。
図3(a)は、多層膜層13側から見た場合の樹脂層12の平面図である。また、図3(b)は、図3(a)のI-I線で破断した場合の樹脂層12の断面図である。図3(a)では、第2凹凸構造を構成する凸部12aにドットを付して示している。
【0038】
図3(a)に示すように、多層膜層13側から見た場合に、第2凹凸構造12cの凸部12aは、複数の図形要素の集合からなるパターンを構成している。複数の図形要素の集合からなるパターンとしては、例えば、図中に破線で示した複数の矩形Rの集合からなるパターンを採用できる。矩形Rは、第2方向Dyに沿って延びた形状を有し、第2方向Dyに沿った長さd2が、第1方向Dxに沿った長さd1以上となっている。第1方向Dx及び第2方向Dyとしては、例えば、樹脂層12の厚さ方向と直交する面内に存在する、互いに直交する2つの方向を採用できる。図3(a)では、複数の矩形Rのそれぞれは、第1方向Dx及び第2方向Dyのいずれも互いに重ならないように配列されている。
【0039】
複数の矩形Rそれぞれは、第1方向Dxの長さd1が一定であり、第1方向Dxに、長さd1の配列間隔で配置されている。すなわち、長さd1の周期で配置されている。また、複数の矩形Rそれぞれは、第2方向Dyの長さd2が不規則であり、各矩形Rの長さd2が所定の標準偏差を有する母集団から選択された値となっている。母集団としては、例えば、正規分布が好ましい。複数の矩形Rからなるパターンの形成方法としては、例えば、複数の矩形R(所定の標準偏差で分布する長さd2を有する矩形R)を所定の領域内に仮に敷き詰め、仮に敷き詰めた各矩形Rの実際の配置の有無を一定の確率に従って決定することにより、矩形Rの配置される領域と矩形Rの配置されない領域とを決定する方法を採用できる。多層膜層13からの反射光を効率よく散乱させるためには、長さd2は、平均値が4.15μm以下で、かつ標準偏差が1μm以下の分布を有することが好ましい。
【0040】
矩形Rの配置されている領域に、凸部12aが配置される。また、互いに隣接する矩形Rがある場合には、隣接する矩形Rの配置されている領域が結合された1つの領域に、1つの凸部12aが配置される。これにより、凸部12aの第1方向Dxの長さは、矩形Rの長さd1の整数倍となる。また、矩形Rにおける第1方向Dxの長さd1は、多層膜層13の凹凸で虹色の分光が生じないように、可視領域の光の波長以下が好ましい。すなわち、矩形Rの第1方向Dxに沿った長さd1は、サブ波長以下(入射光の波長域以下)とする。例えば、長さd1としては、830nm以下が好ましく、700nm以下がより好ましい。また、長さd1は、多層膜層13から反射される上述した特定の波長域の光が有するピーク波長よりも小さいことがより好ましい。例えば、発色シート10で青色を発色させる場合には、長さd1は300nm程度であることが好ましく、発色シート10で緑色を発色させる場合には、長さd1は400nm程度であることが好ましく、発色シート10で赤色を発色させる場合には、長さd1は460nm程度であることが好ましい。
【0041】
ここで、多層膜層13からの反射光の広がりを大きくするためには、すなわち、反射光の散乱効果を高めるためには、凹凸構造の起伏が多いことが好ましい。例えば、樹脂層12の表面と対向する位置から見て、単位面積あたりにおいて凸部12aが占める面積の比率は、40%以上60%以下であることが好ましい。例えば、樹脂層12の表面と対向する位置から見て、単位面積あたりにおける凸部12aが占める面積の比率は50%がより好ましい。これにより、凸部12aの面積と凹部12bとの面積の比率は1:1となる。
【0042】
図3(b)が示すように、複数の凸部12aそれぞれの高さh1は一定であり、凸部12aは、凸部12aの基部が位置する平面から1段の段差形状を有する。凸部12aの高さh1は、発色シート10で発色させる所望の色、すなわち、発色シート10で反射させることが望まれる光の波長域に応じて設定された高さを採用できる。例えば、多層膜層13の表面粗さよりも凸部12aの高さh1が大きければ、反射光の散乱効果が得られる。
【0043】
ただし、高さh1が過剰に大きいと、多層膜層13における反射光の散乱効果が高くなりすぎて、反射光の強度が低くなりやすい。それゆえ、例えば、反射光が可視領域の光である場合、高さh1は10nm以上200nm以下であることが好ましい。また、例えば、青色を呈する発色シート10では、効果的な光の広がりを得るためには、高さh1は40nm以上150nm以下の程度であることが好ましい。また、例えば、散乱効果が高くなりすぎることを抑えるためには、高さh1は100nm以下であることが好ましい。
【0044】
また、多層膜層13の凹凸での反射に起因した光の干渉を抑えるために、高さh1は可視領域の光の波長の1/2以下であることが好ましい。すなわち、415nm以下が好ましい。さらに、上記の光の干渉を抑えるために、高さh1は、多層膜層13から反射される上記特定の波長域の光が有するピーク波長の1/2以下であることがより好ましい。
【0045】
なお、矩形Rは、第1方向Dxに沿って並ぶ2つの矩形Rの一部が重なるように配列されることにより、凸部12aのパターンを構成していてもよい。すなわち、複数の矩形Rは、第1方向Dxに、長さd1よりも小さい配列間隔で配置されていてもよい。また、矩形Rの配列間隔は、一定でなくてもよい。重なり合う矩形Rは、各矩形Rの配置されている領域が結合された1つの領域に、1つの凸部12aが位置する。この場合、凸部12aの第1方向Dxの長さは、矩形Rの長さd1の整数倍とは異なる長さとなる。また、矩形Rの長さd1は、一定でなくてもよい。すなわち、各矩形Rが、第1方向Dxに沿った長さd1がサブ波長以下であり、第2方向Dyに沿った長さd2が第1方向Dxに沿った長さd1以上であって、複数の矩形Rの第2方向Dyに沿った長さd2の標準偏差が、第1方向Dxに沿った長さd1の標準偏差よりも大きい、という条件を満たしていればよい。このような条件を満たすことで、多層膜層13における反射光の散乱効果を得ることができ、多層膜層13からの反射光として特定の波長域の光を広い角度で観察できる。
【0046】
上述のように、多層膜層13の樹脂層12側の面が有する第1凹凸構造13cは、樹脂層12の第2凹凸構造12cの凹凸が反転された凹凸を有している。それゆえ、多層膜層13の厚さ方向に沿った方向から見たとき、第1凹凸構造13cの凹部が構成するパターンも、複数の矩形Rの集合からなるパターンとなり、矩形Rの幅の分布や矩形Rの配置について、樹脂層12の凸部12aの構成するパターンと同様の特徴を有する。また、凹部の深さは、凸部12aの高さh1と一致し、一定となる。換言すると、第1凹凸構造13cの凹部が構成するパターンは、多層膜層13の厚さ方向に沿った方向から見て、第1方向Dxに沿った長さd1がサブ波長以下であり、第1方向Dxと直交する第2方向Dyに沿った長さd2が第1方向Dxに沿った長さ以上である複数の図形要素(矩形R)の集合からなるパターンを含み、複数の図形要素(矩形R)において、第2方向Dyに沿った長さd2の標準偏差は、第1方向Dxに沿った長さの標準偏差よりも大きい、と言える。また、多層膜層13の凹部は凹部の開口する平面から1段窪む形状を有していると言える。
【0047】
[1-3.転写箔の製造方法]
次に、転写箔20の製造方法について説明する。
まず、硬度が互いに異なる2層(耐圧層11a、耐圧層11aよりも硬度が低いクッション層11b)を少なくとも含む支持体11を用意する。続いて、支持体11の耐圧層11a側に、樹脂層12を形成する。樹脂層12の第2凹凸構造12cの形成方法としては、例えば、ナノインプリント法を採用できる。例えば、光ナノインプリント法を用いる場合には、まず、形成対象の凹凸が反転された凹凸を有する凹版であるモールドを形成し、モールドの凹凸面に樹脂層12の材料を含む塗布液を塗布する。モールドの材料としては、例えば、合成石英、シリコンを採用できる。また、モールドの凹凸の形成方法としては、例えば、リソグラフィ、ドライエッチング等の公知の微細加工技術を採用できる。また、樹脂層12の材料としては、例えば、光硬化性樹脂を採用できる。また、塗布液の塗布方法としては、例えば、インクジェット法、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、スリットコート法、グラビアコート法等の公知の塗布法を採用することができる。
【0048】
続いて、塗布液からなる層の表面に、支持体11が重ねられ、支持体11とモールドとが互いに押し付けられた状態で、支持体11の位置する側又はモールドの位置する側から光を照射する。続いて、硬化した樹脂からなる層及び支持体11をモールドから離型させる。これにより、モールドが有する凹凸が樹脂に転写されて、第2凹凸構造12cを有する樹脂層12が形成され、支持体11と樹脂層12とからなる積層体が形成される。
【0049】
また、例えば、塗布液を支持体11表面に塗布し、支持体11上に形成された塗布液からなる層にモールドを押し当て、押し当てた状態で、光の照射を行う構成としてもよい。また、光ナノインプリント法に代えて、熱ナノインプリント法を用いてもよい。この場合、樹脂層12の材料としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂を採用できる。
【0050】
続いて、樹脂層12の支持体11と反対側の面に、多層膜層13を構成するための薄膜層(高屈折率層13a、低屈折率層13b)を交互に積層する。高屈折率層13a及び低屈折率層13bの形成方法としては、例えば、高屈折率層13a及び低屈折率層13bが無機材料から形成される場合には、スパッタリング、真空蒸着、原子層堆積法等の公知の薄膜形成技術を採用できる。また、例えば、高屈折率層13a及び低屈折率層13bが有機材料から形成される場合には、自己組織化等の公知の技術を採用できる。
【0051】
続いて、多層膜層13の樹脂層12と反対側の面に、アンカー層14を形成する。アンカー層14の形成方法としては、例えば、インクジェット法、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、スリットコート法、グラビアコート法等の公知の塗布法を採用できる。アンカー層14の形成のための塗布液には、アンカー層14の材料に加え、必要に応じて、溶媒を混合してもよい。溶媒としては、アンカー層14の材料の樹脂と相性のよい溶媒を採用できる。例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノメチルエーテル、トルエン、キシレン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等が挙げられる。
【0052】
続いて、アンカー層14の多層膜層13と反対側の面に、光吸収層15を形成する。光吸収層15の形成方法としては、例えば、インクジェット法、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、スリットコート法、グラビアコート法等の公知の塗布法を採用できる。光吸収層15の形成のための塗布液には、光吸収層15の材料に加え、必要に応じて、溶媒を混合してもよい。溶媒としては、アンカー層14の材料の樹脂と相性のよい溶媒を採用できる。例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノメチルエーテル、トルエン、キシレン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等が挙げられる。
【0053】
続いて、光吸収層15のアンカー層14と反対側の面に、接着層16を形成する。接着層16の形成方法としては、例えば、インクジェット法、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、スリットコート法、グラビアコート法等の公知の塗布法を採用できる。接着層16の形成のための塗布液には、接着層16の材料に加え、必要に応じて、溶媒を混合してもよい。溶媒としては、アンカー層14の材料の樹脂と相性のよい溶媒を採用できる。例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノメチルエーテル、トルエン、キシレン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等が挙げられる。また、例えば、接着層16を、フィルム状の熱可塑性樹脂、つまり、ホットメルトフィルム等を用いて形成し、加熱式ラミネーターで加熱して接着に用いる方法を採用することもできる。
【0054】
このような手順により、転写箔20を製造することができる。この製造方法によれば、多層膜層13を透過した光を吸収可能であって、かつ、層間の密着性が良好な転写箔20が得られる。また、ナノインプリント法を用いて樹脂層12の第2凹凸構造12cが形成されるため、微細な凹凸構造を好適であり、かつ、簡便に形成することができる。
【0055】
[1-4.発色シートの転写方法]
次に、転写箔20から被着体への発色シート10の転写方法を説明する。
まず、図4(a)に示すように、接着層16が被着体61と接するように、転写箔20を被着体61に貼り付ける。転写箔20は、被着体61に貼り付けられた状態で、支持体11が外側に向けられる。被着体61は、接着層16を接着可能な表面を有していればよく、特に限定されない。被着体61としては、例えば、カードや立体物等の樹脂成形品、紙が挙げられる。続いて、図4(b)に示すように、転写箔20が被着体61に貼り付けられた後、転写箔20から支持体11を剥離させる。例えば、被着体61と反対側に引っ張る力を支持体11に加えることにより、支持体11を引き剥がす。その際、転写箔20に加熱、加圧、紫外線の照射等を行うことで、被着体61に対する接着層16の接着を促進するとともに、発色シート10からの支持体11の剥離を促進するようにしてもよい。
【0056】
このような手順により、転写箔20から被着体61に発色シート10が転写され、発色シート10が被着体61の表面に固定される。そして、発色シート10と被着体61とから構成される発色物品60が得られる。発色シート10を転写することで、被着体61の意匠性を高めることができ、また、被着体61の偽造の困難性を高めることもできる。
【0057】
図5に示すように、被着体61に転写された後の発色シート10では、樹脂層12が外気に露出された最外面を構成し、アンカー層14が接着層16を介して被着体61に接する最外面を構成する。発色シート10が呈する構造色は、樹脂層12側から観察される。
【0058】
[1-5.第1実施形態の効果]
次に、第1実施形態の効果について説明する。
第1実施形態では、支持体11が、硬度が互いに異なる2層(耐圧層11a、クッション層11b)を少なくとも含んでいる。それゆえ、硬度の高い耐圧層11aを含むことで、耐圧層11aに直接接する樹脂層12をパターニングする際に、版圧による樹脂層12の異常変形を抑制でき、所望のパターンを形成しやすくなる。特に、耐圧層11aがJIS K7215規格のタイプDで20以上であると、版圧による樹脂層12の異常変形をより適切に抑制できる。これに対し、例えば支持体11をクッション層11b単体で構成した場合、樹脂層12をパターニングする際に樹脂層12が異常変形する可能性がある。
【0059】
また、硬度の低いクッション層11bを含むことで、支持体11全体として硬度を低減できる。それゆえ、例えば、被着体に転写箔20を貼り付けた後、転写箔20貼り直しのために、転写箔20が引っ張られたときに多層膜層13が損傷することを抑制でき、また、転写箔20の貼付け時に、多層膜層13に加わる外部刺激による多層膜層13の損傷を抑制できる。特に、クッション層11bがJIS K6253-3規格のタイプAで95以下であると、転写箔20を被着体61に貼り付ける際に十分な柔軟性を有するため、多層膜層13に加わる外部刺激を吸収でき、多層膜層13の損傷をより適切に抑制できる。
【0060】
したがって、支持体11を、硬度が互いに異なる耐圧層11a及びクッション層11bを少なくとも含む層構成にすることで、樹脂層12を正常にパターニングでき、かつ、多層膜層13に加わる外部刺激の衝撃を抑制できる。つまり、樹脂層12を所望の形状に成形でき、多層膜層13の割れや欠け、延いては発色シート10の外観不良を抑制できる。
【0061】
また、第1実施形態では、支持体11を剥離後に、多層膜層13の第1凹凸構造13cが樹脂層12に覆われるようにした。また、多層膜層13の第3凹凸構造13dがアンカー層14、光吸収層15及び接着層16に覆われるようにした。したがって、発色シート10の転写に際して、多層膜層13が保護された状態を保ったまま支持体11が剥離されるため、発色シート10の不具合を抑制でき、また発色シート10の厚みを低減できる。
【0062】
また、第1実施形態では、多層膜層13に順次積層されるアンカー層14のガラス転移点と光吸収層15のガラス転移点とのそれぞれを25℃以上とし、次いで積層される接着層16のガラス転移点を25℃以下とした。それゆえ、硬度が高いアンカー層14と光吸収層15とで引っ掻き等による多層膜層13の物理的損傷による不具合から保護でき、かつ、被着体61に直接接する、高度が低く柔軟性のある接着層16により折れや曲げによる外部刺激による損傷、延いては発色シート10の外観不良を抑制することができる。
【0063】
また、第1実施形態では、クッション層11bが、樹脂層12に対して剥離性を有する構成とした。それゆえ、発色シート10の転写後に支持体11、つまり、製造時の基材である支持体11を剥離できるため、発色シート10の柔軟性を向上できる。したがって、被着体の表面が曲面である場合にも、被着体の表面に発色シート10を追従させやすい。その結果、貼付け時に発色シート10にかかる負荷を軽減でき、また、貼付け後の発色シート10の剥がれも抑制できる。さらに、発色シート10が製造時の基材を有している場合と比較して、発色シート10の厚さを薄くすることができ、発色物品において発色シート10が貼り付けられている部分が盛り上がることを抑制できる。それゆえ、例えば、発色シート10が装飾のために用いられる場合には、装飾性を高めることができる。
【0064】
また、第1実施形態では、転写後の発色シート10において、多層膜層13が有する第2凹凸構造12cが、樹脂層12で覆われる。また、多層膜層13の第3凹凸構造13dが、アンカー層14、光吸収層15及び接着層16で覆われる。そのため、多層膜層13の第1凹凸構造13c及び第3凹凸構造13dが保護されるため、第1凹凸構造13c及び第3凹凸構造13dが外部に露出されている場合と比較して、光学的機能を有する多層膜層13の第1凹凸構造13c及び第3凹凸構造13dの変形や損傷を抑制できる。
【0065】
〈2.第2実施形態〉
[2-1.第2凹凸構造の構成]
次に、図6及び図7を参照して、発色シート、発色物品、転写箔及び転写箔の製造方法の第2実施形態を説明する。以下では、第2実施形態と第1実施形態との相違点を中心に説明し、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0066】
図6(a)は、多層膜層13側から見た場合の、凹凸構造の第2凸部要素のみを示した平面図である。また、図6(b)は、図6(a)のII-II線で破断した場合の凹凸構造の断面図である。図6(a)では、第2凸部要素にドットを付して示している。また、図7(a)は、多層膜層13側から見た場合の樹脂層12の平面図である。また、図7(b)は、図7(a)のIII-III線で破断した場合の樹脂層12の断面図である。図7(a)では、第1凸部要素と第2凸部要素とに異なる密度のドットを付して示している。
第2実施形態は、図6及び図7に示すように、樹脂層12の第2凹凸構造12cの構成が、第1実施形態と異なっている。第2実施形態の転写箔20及び発色シート10は、第2凹凸構造12cの構成以外は、第1実施形態と同様の構成を有する。具体的には、樹脂層12の第2凹凸構造12cの凸部12aは、第1実施形態の凸部12aと同様の構成を有する図7(a)に示した第1凸部要素12Eaと、図6(b)に示した帯状に延びている第2凸部要素12Ebとが、樹脂層12の厚さ方向に重畳された構造を有している。
【0067】
ここで、第1実施形態の発色シート10では、反射光の散乱効果によって視認される色の観察角度による変化は緩やかになるものの、散乱に起因した反射光の強度の低下によって、視認される色の鮮やかさは低下しやすくなる。発色シート10の用途によっては、より鮮やかな色を広い観察角度で観察可能なシートが求められる場合もある。これに対し、第2実施形態の発色シート10では、第2凸部要素は、入射光が特定の方向へ強く回折されるように配列されており、第1凸部要素12Eaに基づく光の散乱効果と第2凸部要素に基づく光の回折効果とによって、より鮮やかな色を広い観察角度で観察できる。
【0068】
[2-2.第2凸部要素の構成]
次に、第2凹凸構造12cが有する第2凸部要素12Ebの構成について説明する。
図6(a)に示すように、多層膜層13側から見た場合に、第2凸部要素12Ebは、第2方向Dyに沿って延びた一定幅の帯形状を有し、第1方向Dxに、間隔をあけて並んでいる。換言すれば、第2凸部要素12Ebが構成するパターンは、第2方向Dyに沿って延び、第1方向Dxに沿って並ぶ複数の帯状領域からなるパターン、と言える。第2凸部要素12Ebにおける第1方向Dxの長さd3は、第1凸部要素12Eaのパターンを決定する矩形Rの長さd1(図3(a)参照)と同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0069】
第1方向Dxにおける第2凸部要素12Ebの配列間隔de、すなわち第1方向Dxにおける帯状領域の配列間隔は、第2凸部要素12Ebが構成する凹凸構造の表面での反射光の少なくとも一部が、一次回折光として観測されるように設定される。一次回折光は、回折次数mが1又は-1である回折光である。すなわち、入射光の入射角度をθ、反射光の反射角度をφ、回折する光の波長をλとした場合、配列間隔deは、de≧λ/(sinθ+sinφ)を満たすように設定する。例えば、λ=360nmの可視光線を対象とするとき、第2凸部要素12Ebの配列間隔deは180nm以上であればよい。すなわち、配列間隔deは、入射光に含まれる波長域における最小波長の1/2以上であればよい。なお、配列間隔deは、互いに隣り合う2つの第2凸部要素12Ebの端部のうちの同一の側(図7(a)では右側)に位置する端部間の第1方向Dxに沿った距離である。
【0070】
また、第2凸部要素12Ebが構成するパターンの周期性は、樹脂層12の第2凹凸構造12cの周期性に反映され、多層膜層13の最外面における第1凹凸構造13cの周期性に反映される。それゆえ、複数の第2凸部要素12Ebの配列間隔deが一定である場合には、多層膜層13の最外面での回折によって、多層膜層13からは、所定の波長の反射光が所定の角度に出射される。回折による光の反射強度は、第1実施形態の凸部12a(第2実施形態の第1凸部要素12Ea)に基づく光の散乱効果によって生じる反射光の反射強度と比較して非常に強いため、金属光沢のような輝きを有する光が視認されるが、一方で、回折による分光が生じ、観察角度の変化に応じて視認される色が変化する。
【0071】
したがって、例えば、青色を呈する発色シート10が得られるように第1凸部要素12Eaの構造を設計しても、第2凸部要素12Ebの配列間隔deを400nm~5μm程度の一定値とすると、観察角度によっては、回折に起因した強い緑色から赤色の表面反射による光が観察される。また、例えば、第2凸部要素12Ebの配列間隔deを50μm程度に大きくすると、可視領域の光が回折される角度の範囲が狭くなるため、回折に起因した色の変化が視認され難くなるが、金属光沢のような輝きを有する光は特定の観察角度でのみしか観察されない。これに対し、例えば、配列間隔deを一定の値とせず、第2凸部要素12Ebのパターンを、周期が異なる複数の周期構造が重ね合わされたパターンとすることで、回折による反射光に複数の波長の光が混じり合うため、分光された単色性の高い光は視認されにくくなる。したがって、光沢感のある鮮やかな色が広い観察角度で観察される。配列間隔deを一定としない場合、例えば、配列間隔deは、360nm以上5μm以下の範囲から選択し、さらに複数の第2凸部要素12Ebの配列間隔deの平均値が、入射光に含まれる波長域における最小波長の1/2以上となるようにすればよい。
【0072】
ただし、配列間隔deの標準偏差が大きくなるにつれ、第2凸部要素12Ebの配列が不規則となって散乱効果が支配的になり、回折による強い反射を得難くなる。そのため、第2凸部要素12Ebの配列間隔deは、第1凸部要素12Eaに基づく光の散乱効果によって光が広がる角度に応じて、光が広がる範囲と同程度の範囲に回折による反射光が出射されるように決定することが好ましい。例えば、青色の反射光が入射角度に対して±40°の範囲に広がって出射される場合、第2凸部要素12Ebのパターンにおいて、配列間隔deは、その平均値が1μm以上5μm以下となり、標準偏差が1μm程度となるように設定する。このような配列間隔deとすることで、第1凸部要素12Eaに基づく光の散乱効果によって光が広がる角度と同程度の角度に回折による反射光を射出できる。
【0073】
すなわち、第2凸部要素12Ebに基づく凹凸構造は、特定の波長域の光を回折させて取り出す第1実施形態の第2凹凸構造12cとは異なり、配列間隔deの分散により、回折を利用して所定の角度範囲に様々な波長域の光を射出させるための構造、と言える。
【0074】
さらに、より長周期の回折現象を生じさせるために、一辺が10μm以上100μm以下の正方形領域を単位領域とし、単位領域ごとの第2凸部要素12Ebのパターンにおいて、配列間隔deは、その平均値を1μm以上5μm以下とし、標準偏差を1μm程度としてもよい。なお、複数の単位領域のなかには、配列間隔deが1μm以上5μm以下の範囲に含まれる一定の値である領域が含まれてもよい。配列間隔deが一定である単位領域が存在したとしても、この単位領域と隣接する単位領域のいずれかにおいて、配列間隔deが標準偏差1μm程度のばらつきを有していれば、人の目の解像度においてはすべての単位領域で配列間隔deがばらつきを有している構成と同等の効果が期待できる。
【0075】
なお、図6(a)では、第2凸部要素12Ebは、第1方向Dxのみに、配列間隔deに起因した周期性を有する場合を示している。しかし、第1凸部要素12Eaに基づく光の散乱効果は、主として、多層膜層13の表面と対向する位置から見た場合での第1方向Dxに沿った方向への反射光に作用するが、第2方向Dyに沿った方向への反射光の一部にも影響を与え得る。したがって、第2凸部要素12Ebは、第2方向Dyにも周期性を有してもよい。すなわち、第2凸部要素12Ebのパターンは、第2方向Dyに延びる複数の帯状領域が、第1方向Dxと第2方向Dyとの各々に沿って並ぶパターンでもよい。
【0076】
このような第2凸部要素12Ebのパターンにおいて、例えば、帯状領域の第1方向Dxに沿った配列間隔deと第2方向Dyに沿った配列間隔との各々は、各々の平均値が1μm以上100μm以下であるようにばらつきを有していればよい。また、第1凸部要素12Eaに基づく光の散乱効果の第1方向Dxへの影響と第2方向Dyへの影響との違いに応じて、第1方向Dxに沿った配列間隔deの平均値と、第2方向Dyに沿った配列間隔の平均値とが互いに異なっていてもよく、さらに第1方向Dxに沿った配列間隔deの標準偏差と、第2方向Dyに沿った配列間隔の標準偏差とが互いに異なっていてもよい。
【0077】
第2凸部要素12Ebの高さh2は、凸部12a上や凹部12b上における多層膜層13の表面粗さよりも大きければよい。ただし、高さh2が大きくなるほど、凹凸構造が反射光に与える効果において、第2凸部要素12Ebに基づく回折効果が支配的となって、第1凸部要素12Eaに基づく光の散乱効果が得られにくくなる。そのため、高さh2は、第1凸部要素12Eaの高さh1と同程度であることが好ましく、高さh2は、高さh1と一致していてもよい。例えば、第1凸部要素12Eaの高さh1及び第2凸部要素12Ebの高さh2のそれぞれは、10nm以上200nm以下であることが好ましく、青色を呈する発色シート10では、10nm以上150nm以下であることが好ましい。
【0078】
[2-3.第2凸部構造の構成]
次に、樹脂層12が有する第2凹凸構造12cの構成について説明する。
図7(a)に示すように、多層膜層13側から見た場合に、凸部12aが構成するパターンは、第1凸部要素12Eaが構成するパターンである第1パターンと、第2凸部要素12Ebが構成するパターンである第2パターンとが重ね合わされたパターンとなっている。すなわち、凸部12aが位置する領域には、第1凸部要素12Eaのみから構成される領域S1と、第1凸部要素12Eaと第2凸部要素12Ebとが重なっている領域S2と、第2凸部要素12Ebのみから構成される領域S3とが含まれている。なお、図7(a)では、第1凸部要素12Eaと第2凸部要素12Ebとが、第1方向Dxにおいてその端部が揃うように重ねられているが、これに限られるものではなく、第1凸部要素12Eaの端部と第2凸部要素12Ebの端部とがずらされて重ねられていてもよい。
【0079】
図7(b)に示すように、領域S1では、凸部12aの高さは、第1凸部要素12Eaの高さh1である。また、領域S2では、凸部12aの高さは、第1凸部要素12Eaの高さh1と第2凸部要素12Ebの高さh2との合計値である。また、領域S3では、凸部12aの高さは、第2凸部要素12Ebの高さh2である。このように、凸部12aは、樹脂層12の厚さ方向への投影像が第1パターンを構成する所定の高さh1を有する第1凸部要素12Eaと、上記厚さ方向への投影像が第2パターンを構成する所定の高さh2を有する第2凸部要素12Ebとが、高さ方向に重ねられた多段形状を有している。
【0080】
なお、第1凸部要素12Eaが構成するパターン、及び第2凸部要素12Ebが構成するパターンは、第1凸部要素12Eaと第2凸部要素12Ebとが重ならないように配置してもよい。このような配置であっても、第1凸部要素12Eaに基づく光の散乱効果と、第2凸部要素12Ebに基づく光の回折効果とは得られる。ただし、第1凸部要素12Eaと第2凸部要素12Ebとが互いに重ならないように配置しようとすれば、単位面積あたりの第1凸部要素12Eaを配置可能な面積が小さくなり、光の散乱効果が低下する可能性がある。したがって、第1及び第2凸部要素12Ea,12Ebに基づく光の散乱効果と回折効果とを高めるためには、図7(b)に示したように、第1凸部要素12Eaと第2凸部要素12Ebとを重ねて凸部12aを多段形状とすることが好ましい。
【0081】
以上のように、第2実施形態の発色シート10によれば、第1凸部要素12Eaに起因した光の拡散現象と、第2凸部要素12Ebに起因した光の回折現象とを生じる。それゆえ、これらの相乗によって、特定の波長域の反射光が広い観察角度で観察可能となり、また、反射光の強度が高められることによって光沢感のある鮮やかな色が視認される。
【0082】
上述のように、多層膜層13の樹脂層12側の面が有する第1凹凸構造13cは、樹脂層12の第2凹凸構造12cの凹凸が反転された凹凸を有している。それゆえ、多層膜層13の厚さ方向に沿った方向から見たとき、第1凹凸構造13cの凹部が構成するパターンは、第1凸部要素12Eaが反転された第1凹部要素が構成するパターンと、第2凸部要素12Ebが反転された第2凹部要素が構成するパターンとが重ね合わされたパターンとなっている。また、第1凹部要素が構成するパターン、すなわち、多層膜層13の厚さ方向への第1凹部要素の投影像が構成するパターンは、矩形Rの幅の分布や矩形Rの配置について、樹脂層12の第1凸部要素12Eaの構成する第1パターンと同様の特徴を有している。また、第2凹部要素が構成するパターン、すなわち、多層膜層13の厚さ方向への第2凹部要素の投影像が構成するパターンは、帯状領域の幅や配置について、樹脂層12の第2凸部要素12Ebの構成する第2パターンと同様の特徴を有している。
【0083】
そして、多層膜層13の樹脂層12側の面が有する凹部は、第1凹部要素と第2凹部要素とが深さ方向に並んだ多段形状を有する。第1凹部要素のみから構成される領域では、凹部の深さは、第1凸部要素12Eaの高さh1と一致する。また、第1凹部要素と第2凹部要素とが重なっている領域では、凹部の深さは、第1凸部要素12Eaの高さh1と第2凸部要素12Ebの高さh2との合計値と一致する。また、第2凹部要素のみから構成される領域では、凹部の深さは、第2凸部要素12Ebの高さh2と一致する。
【0084】
換言すると、第1凹凸構造13cの凹部が構成するパターンは、複数の図形要素(矩形R)の集合からなる第1パターンと、第2方向に沿って延び、第1方向Dxに沿って並ぶ複数の帯状領域からなる第2パターンとが重ね合わされたパターンであり、第1方向Dxに沿った帯状領域の配列間隔は、一定ではなく、その平均値が入射光に含まれる波長域における最小波長の1/2以上であり、第1凹凸構造13cの凹部は、多層膜層13の厚さ方向への投影像が第1パターンを構成する要素であって所定の深さh1を有する凹部要素と、多層膜層13の厚さ方向への投影像が第2パターンを構成する要素であって所定の深さh2を有する凹部要素とが深さ方向に並んだ多段形状を有している、と言える。
【0085】
第2実施形態の転写箔20から被着体への発色シート10の転写は、第1実施形態と同様に行われる。すなわち、図4(a)に示すように、接着層16が被着体61と接するように、転写箔20を被着体61に貼り付けられた後、図4(b)に示すように、転写箔20から支持体11を剥離させる。これにより、転写箔20から被着体61に発色シート10が転写され、発色シート10と被着体61とから構成される発色物品60が得られる。
【0086】
被着体に転写された後の発色シート10では、第1実施形態と同様に、樹脂層12が外気に露出された最外面を構成し、アンカー層14が接着層16を介して被着体61に接する最外面を構成する。発色シート10が呈する構造色は、樹脂層12側から観察される。
【0087】
また、第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、支持体11が、硬度が互いに異なる2層(耐圧層11a、クッション層11b)を少なくとも含んでいる。それゆえ、例えば、硬度の高い耐圧層11aに直接接する樹脂層12をパターニングする際に版圧による樹脂層12の異常変形を抑制できる。また、例えば、転写箔20を被着体61に貼り付ける際、硬度の低いクッション層11bにより多層膜層13に加わる外部刺激の衝撃を抑制できる。また例えば、被着体に転写箔20を貼り付けた後、転写箔20貼り直しのために、転写箔20が引っ張られたときに、多層膜層13が損傷することを抑制できる。それゆえ、多層膜層13の割れや欠け、延いては発色シート10の外観不良を抑制できる。
【0088】
〈3.実施例・比較例〉
次に、上述した発色シート、発色物品、転写箔及び転写箔の製造方法について、具体的な実施例及び比較例を用いて説明する。
[3-1.実施例]
まず、光ナノインプリント法で用いる凹版であるモールドを用意した。具体的には、光ナノインプリント法で波長365nmの光を用いるため、この波長の光を透過する合成石英をモールドの材料とした。モールドの形成に際しては、まず、合成石英基板の表面に、クロム(Cr)からなる膜をスパッタリングによって成膜し、電子線リソグラフィによってCr膜上に電子線レジストパターンを形成した。パターンは、複数の矩形Rの集合からなるパターンとした。第1方向Dxにおける矩形Rの長さは300nm、第2方向Dyにおける矩形Rの長さは、平均が2000nm、標準偏差が500nmの正規分布から選択される長さとした。上記パターンにおいて、複数の矩形Rは第1方向に重ならないように配列した。電子線レジストはポジ型を使用し、その膜厚は200nmとした。
【0089】
続いて、塩素(Cl)と酸素(O)との混合ガスに高周波を印加して発生させたプラズマにより、レジストから露出した領域のCr膜をエッチングした。続いて、六弗化エタンガスに高周波を印加して発生させたプラズマによりレジスト及びCr膜から露出した領域の合成石英基板をエッチングした。合成石英基板のエッチングの深さは70nmとした。続いて、残存したレジスト及びCr膜を合成石英基板の表面から除去することにより、第1凸部要素12Eaに対応する凹凸構造が形成された合成石英基板を得た。
【0090】
続いて、凹凸構造が形成された合成石英基板の表面に、Crからなる膜をスパッタリングによって成膜し、電子線リソグラフィによってCr膜上に電子線レジストパターンを形成した。パターンは、複数の帯状領域からなるパターンとした。第1方向Dxにおける帯状領域の長さは200nm、第2方向Dyにおける帯状領域の長さは94μmとした。第1方向Dxの長さが40μm、第2方向Dyの長さが94μmである矩形領域ごとに、第1方向Dxにおける配列間隔を、平均値が1.5μm、標準偏差が0.5μmとして帯状領域を配列した。電子線レジストはポジ型を使用し、その膜厚は200nmとした。
【0091】
続いて、塩素(Cl)と酸素(O)との混合ガスに高周波を印加して発生させたプラズマにより、レジストから露出した領域のCr膜をエッチングした。続いて、六弗化エタンガスに高周波を印加して発生させたプラズマによりレジスト及びCr膜から露出した領域の合成石英基板をエッチングした。合成石英基板のエッチングの深さは65nmとした。続いて、残存したレジスト及びCr膜を合成石英基板の表面から除去した後、合成石英基板の表面に、離型剤としてオプツールHD-1100(ダイキン工業製)を塗布した。これにより、第2凸部要素12Ebに対応する凹凸構造が形成され、第2実施形態の樹脂層12の第2凹凸構造12に対応する凹凸構造が形成されたモールドを得た。
【0092】
続いて、ポリエステルフィルム(耐圧層11a)とポリウレタンフィルム(クッション層11b)との2層構成からなる支持体11のポリエステルフィルム(耐圧層11a)面に、光硬化性樹脂(PAK-02、東洋合成製)を塗布した。続いて、塗布した光硬化性樹脂にモールドの凹凸が形成されている面を押し当てて、モールドの裏面側から365nmの光を照射した。続いて、光の照射によって光硬化性樹脂が硬化して樹脂層12が形成された後、樹脂層12と支持体11とをモールドから剥離させた。これにより、凹凸構造を有する樹脂層12と、ポリエステルフィルム(耐圧層11a)とポリウレタンフィルム(クッション層11b)の2層構成からなる支持体11との積層体が得られた。
【0093】
続いて、積層体の凹凸を有する面に、真空蒸着によって、膜厚が40nmである高屈折率層13aとしてのTiO膜と、膜厚が75nmである低屈折率層13bとしてのSiO膜とを交互に成膜し、高屈折率層13aと低屈折率層13bとの組を5組、すなわち、10層を有する多層膜層13を形成した。続いて、ガラス転移点が60℃の共重合ポリエステルの塗液を多層膜層13の上面に、バーコート法を用いて塗布し、形成された塗膜を80℃で10分間乾燥させて、アンカー層14を形成した。アンカー層14の膜厚は5μm程度とした。続いて、アンカー層14の上にガラス転移点が200℃の黒色顔料をバーコート法で塗布し、形成された塗膜を100℃で20分間乾燥させて、光吸収層15を形成した。光吸収層15の膜厚は10μm程度とした。続いて、光吸収層15の上にガラス転移点が20℃のポリウレタン系の塗液をバーコート法で塗布し、形成された塗膜を80℃で1分間乾燥させて接着層16を形成した。接着層16の膜厚は5μm程度とした。
このような手順により、実施例の転写箔20を作製した。
【0094】
続いて、転写箔20を三次元オーバーレイラミネーション工法を用いて、ポリプロピレン製の被着体に貼り付けた後、支持体11を剥離することで、実施例の発色物品60を得た。詳細には、転写箔20の接着層16を被着体に向けて成形機に設置して、成形機内を真空引きした後に160℃まで加熱し、転写箔20と被着体とを接触させた。この状態で、転写箔20の位置する側から大気圧まで加圧を行うことにより、転写箔20と被着体とを一体化させた。続いて、被着体から支持体11を剥離させた。その後、発色シート10のうちの不要な部分を切り取って、発色シート10で加飾された発色物品を作製した。
【0095】
[3-2.比較例]
(比較例1)
比較例1では、ポリエステルフィルム(耐圧層11a)のみからなる支持体11を採用し、実施例と同様の工程により、比較例1の転写箔20を作製した。続いて、実施例と同様の方法によって、比較例1の転写箔20から、比較例1の発色物品を作製した。
【0096】
(比較例2)
比較例2では、ポリウレタンフィルム(クッション層11b)のみからなる支持体11を採用し、実施例と同様の工程により、比較例1の転写箔20を作製した。続いて、実施例と同様の方法によって、比較例2の転写箔20から、比較例1の発色物品を作製した。
【0097】
(比較例3)
比較例3では、接着層16を、ガラス転移点が100℃のアクリル樹脂の塗液をバーコート法で塗布し、形成された塗膜を120℃で1分間乾燥させて形成した。その他の奥底は、実施例と同様の工程を採用し、比較例3の転写箔20を作製した。続いて、実施例と同様の方法によって、比較例1の転写箔20から、比較例3の発色物品を作製した。
【0098】
[3-3.評価項目]
以下、実施例及び比較例1~3の評価項目について説明する。
(第1外観観察)
実施例及び比較例1~3の発色物品の外観を観察し、外観不良の有無を判定した。
(第2外観観察)
実施例及び比較例1~3の転写箔20を被着体に貼り付けた後、被着体から転写箔20を剥がし、剥がした転写箔20を被着体に再度貼り付けて発色物品を作製した。そして、作製した発色物品の外観を観察し、外観不良の有無を判定した。
【0099】
[3-4.評価結果]
表1は、実施例及び比較例1~3の評価結果を示す表である。
【表1】
【0100】
表1によれば、実施例の「第1外観観察」の評価結果は合格「○」となった。実施例の発色物品を観察したところ、発色シート10に光沢感のある青色が観察され、発色シート10に割れや欠けの外観不良がなかった。一方、比較例1及び比較例3の「第1外観観察」の評価結果は「△」の不合格となった。比較例1の発色物品を観察したところ、発色シート10に青色以外の色が観察され、発色シート10に割れや欠けの外観不良が発生していた。また、比較例3の発色物品を観察したところ、発色シート10に青色が観察されたが、発色シート10に割れや欠けの外観不良が発生した。また、比較例2の「第1外観観察」の評価結果は「×」の不合格となった。比較例2の発色物品を観察したところ、発色シート10に青色以外の色が観察された。走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果、樹脂層12が異常変形していた。これは、支持体11にポリウレタンフィルムのみを用いたため、支持体11が樹脂を支えられず、版圧により樹脂が変形したからである。
【0101】
また、表1によれば、実施例の「第2外観観察」の評価結果は合格「○」となった。実施例の発色物品を観察したところ、「第1外観観察」のときと同様に、発色シート10に光沢感のある青色が観察され、発色シート10に割れや欠けの外観不良がなかった。一方、比較例1及び2の「第2外観観察」の評価結果は「×」の不合格となった。比較例1の発色物品を観察したところ、発色シート10の割れや欠けが広がって外観不良が悪化していた。なお、比較例2の発色物品は、「第1外観観察」時にすでに「×」の不合格であったため、「第2外観観察」でも「×」となった。また、比較例3の「第2外観観察」の評価結果は「△」の不合格となった。比較例3の発色物品を観察したところ、発色シート10の割れや欠けが殆ど広がらなかったため、「第1外観観察」と同じ評価結果となった。
【0102】
これにより、支持体11を、硬度が互いに異なる2層(耐圧層11a、クッション層11b)を少なくとも含む構成とすることで、転写箔20の貼り直しのために、転写箔20が引っ張られたときに、多層膜層13が損傷することを抑制できることが確認できた。
【符号の説明】
【0103】
10…発色シート、11…支持体、11a…耐圧層、11b…クッション層、12…樹脂層、12Ea…第1凸部要素、12Eb…第2凸部要素、12a…凸部、12b…凹部、12c…第2凹凸構造、13…多層膜層、13a…高屈折率層、13b…低屈折率層、13c…第1凹凸構造、13d…第3凹凸構造、14…アンカー層、15…光吸収層、16…接着層、16a…強粘着層、16b…基材、16c…弱粘着層、20…転写箔、60…発色物品、61…被着体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7