IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 北川工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-熱伝導部材 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022075259
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】熱伝導部材
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/027 20190101AFI20220511BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220511BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20220511BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20220511BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20220511BHJP
   H05K 7/20 20060101ALN20220511BHJP
【FI】
B32B7/027
B32B27/30 A
B32B27/18 Z
H01L23/36 D
H01L23/36 M
H05K7/20 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020185938
(22)【出願日】2020-11-06
(71)【出願人】
【識別番号】000242231
【氏名又は名称】北川工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】舘 直宏
【テーマコード(参考)】
4F100
5E322
5F136
【Fターム(参考)】
4F100AA16A
4F100AA17A
4F100AA17B
4F100AA19A
4F100AA19B
4F100AK01C
4F100AK25A
4F100AK25B
4F100AK41A
4F100AK54A
4F100AL07A
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA27A
4F100BA27B
4F100CA04A
4F100CA23A
4F100CA23B
4F100DE01A
4F100DE01B
4F100EH46B
4F100GB41
4F100JA07A
4F100JK12
4F100JK12B
4F100YY00A
4F100YY00B
5E322AA11
5E322FA04
5F136BC07
5F136EA66
5F136FA11
5F136FA14
5F136FA17
5F136FA51
5F136FA55
5F136FA82
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高い熱伝導率と低い硬度とを兼ね備えた熱伝導部材を提供する。
【解決手段】互いに接する位置に積層される第1層11及び第2層12を含む複数の層が設けられた積層体であって、第1層11は、少なくとも第1アクリル系バインダー、第1熱伝導性フィラー及び分散剤を含有する第1熱伝導性組成物によって構成され、分散剤は、重量平均分子量が1000~2500でリン酸が末端に付いた直鎖状ポリエステル、及び重量平均分子量が1000~2500でリン酸が末端に付いたポリエステル-ポリエーテル共重合体のうち、少なくとも一方を含有する熱伝導部材1。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに接する位置に積層される第1層及び第2層を含む複数の層が設けられた積層体であり、
前記第1層は、少なくとも第1アクリル系バインダー、第1熱伝導性フィラー及び分散剤を含有する第1熱伝導性組成物によって構成され、
前記第2層は、少なくとも第2アクリル系バインダー及び第2熱伝導性フィラーを含有する第2熱伝導性組成物によって構成され、
前記第1熱伝導性組成物には、100質量部の前記第1アクリル系バインダーに対する質量比で、500~1200質量部の前記第1熱伝導性フィラーと、0.2~5質量部の前記分散剤とが配合され、
前記第2熱伝導性組成物には、100質量部の前記第2アクリル系バインダーに対する配合比で、200~400質量部の前記第2熱伝導性フィラーが配合され、
前記分散剤は、重量平均分子量が1000~2500でリン酸が末端に付いた直鎖状ポリエステル、及び重量平均分子量が1000~2500でリン酸が末端に付いたポリエステル-ポリエーテル共重合体のうち、少なくとも一方を含有する、
熱伝導部材。
【請求項2】
請求項1に記載の熱伝導部材であって、
前記第1アクリル系バインダーは、少なくともアクリルポリマー及び可塑剤を含有し、
前記第1アクリル系バインダーには、100質量部の前記アクリルポリマーに対する質量比で、15~45質量部の前記可塑剤が配合されている、
熱伝導部材。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の熱伝導部材であって、
前記第1熱伝導性フィラーは、少なくとも平均粒径60~100μmの炭化ケイ素、平均粒径70~100μmの第1の球状アルミナ、平均粒径1~30μmの第2の球状アルミナ及び平均粒径0.5~2μmの第1の水酸化マグネシウムを含有し、
前記第2熱伝導性フィラーは、必須成分として平均粒径5~50μmの水酸化アルミニウムを含有し、任意成分として平均粒径0.5~2μmの第2の水酸化マグネシウムを含有し、
前記第1熱伝導性フィラーには、前記第1熱伝導性フィラー100質量部中に占める質量比で、20~40質量部の前記炭化ケイ素と、20~50質量部の前記第1の球状アルミナと、20~50質量部の前記第2の球状アルミナと、1~10質量部の前記第1の水酸化マグネシウムとが配合され、
前記第2熱伝導性フィラーには、前記第2熱伝導性フィラー100質量部中に占める質量比で、90~100質量部の前記水酸化アルミニウムと、0~10質量部の前記第2の水酸化マグネシウムとが配合されている、
熱伝導部材。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の熱伝導部材であって、
前記第1層は、アスカーC硬度が0.1~22となり、熱伝導率が2~15W/m・Kとなるように構成されている、
熱伝導部材。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の熱伝導部材であって、
前記複数の層には、前記第1層を挟んで前記第2層とは反対側において前記第1層と接する位置に積層される第3層が含まれ、
前記第3層は、厚さ1~15μmの樹脂フィルムによって構成されている、
熱伝導部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱伝導部材に関する。
【背景技術】
【0002】
低硬度層と、低硬度層の片面又は両面に積層された補強層とを備える熱伝導シートが知られている(例えば、特許文献1参照。)。下記特許文献1に記載の熱伝導シートにおいて、低硬度層は、アクリルポリマー、炭化ケイ素、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム及び可塑剤を含有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許6710828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、上述のような熱伝導シートにおいては、低硬度層における熱伝導性フィラーの配合比を高めることにより、熱伝導シートの熱伝導率を高めることができる。しかし、熱伝導性フィラーの配合比を高めると、低硬度層が硬くなる傾向がある。そのため、熱伝導シートの柔軟性が低下し、熱伝導シートが変形しにくくなる。例えば、熱源となる電子部品とヒートシンクとの間に熱伝導シートを挟み込んだ際に、熱伝導シートが圧縮されても変形しにくくなる。その結果、電子部品に対する接触圧が高くなり、その分だけ電子部品に負荷がかかりやすくなる。
【0005】
一方、低硬度層における可塑剤の配合比を高めれば、低硬度層の硬度を低下させることができる。しかし、可塑剤の配合比を高めると、低硬度層の粘着性が高くなる傾向がある。そのため、熱伝導シートの製造時には、例えばカット加工を施しにくくなる等、生産性が低下する。また、熱伝導シートの使用時には、例えばカット箇所同士が粘着して、カット箇所を剥がしにくくなる等、作業性が低下する。また、可塑剤の配合比を高めると、オイルブリードが生じる原因にもなる。したがって、熱伝導シートの熱伝導率と硬度を両立させて改善することは難しい、という問題がある。
【0006】
本開示の一局面においては、高い熱伝導率と低い硬度とを兼ね備えた熱伝導部材を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一局面における熱伝導部材は、互いに接する位置に積層される第1層及び第2層を含む複数の層が設けられた積層体である。第1層は、少なくとも第1アクリル系バインダー、第1熱伝導性フィラー及び分散剤を含有する第1熱伝導性組成物によって構成される。第2層は、少なくとも第2アクリル系バインダー及び第2熱伝導性フィラーを含有する第2熱伝導性組成物によって構成される。第1熱伝導性組成物には、100質量部の第1アクリル系バインダーに対する質量比で、500~1200質量部の第1熱伝導性フィラーと、0.2~5質量部の分散剤とが配合される。第2熱伝導性組成物には、100質量部の第2アクリル系バインダーに対する配合比で、200~400質量部の第2熱伝導性フィラーが配合される。分散剤は、重量平均分子量が1000~2500でリン酸が末端に付いた直鎖状ポリエステル、及び重量平均分子量が1000~2500でリン酸が末端に付いたポリエステル-ポリエーテル共重合体のうち、少なくとも一方を含有する。
【0008】
このように構成された熱伝導部材によれば、従来品に比べ、高い熱伝導率と低い硬度とを兼ね備えた熱伝導部材となる。また、従来品に比べ、第1層の粘着性を抑制することができ、第1層においてオイルブリードが生じるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1Aは熱伝導部材を模式的に示す斜視図である。図1Bは熱伝導部材の使用状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、上述の熱伝導部材について、例示的な実施形態を挙げて説明する。
(1)熱伝導部材の構成
図1Aに示すように、熱伝導部材1は、第1層11、第2層12及び第3層13を含む複数の層が設けられた積層体である。第1層11及び第2層12は互いに接する位置に積層される。第3層13は、第1層11を挟んで第2層12とは反対側において第1層11と接する位置に積層される。
【0011】
第1層11は、第1熱伝導性組成物によって構成される。第1熱伝導性組成物は、少なくとも第1アクリル系バインダー、第1熱伝導性フィラー及び分散剤を含有する。第1熱伝導性フィラーの配合量は、100質量部の第1アクリル系バインダーに対する質量比で、500~1200質量部、より好ましくは600~1000質量部とされる。
【0012】
第1熱伝導性フィラーの配合比を500質量部以上とすると、第1熱伝導性フィラーの配合比を500質量部未満とする場合に比べ、第1層11を熱伝導性に優れた層とすることができる。第1熱伝導性フィラーの配合比を600質量部以上とすれば、第1層11を更に熱伝導性に優れた層とすることができる。一方、第1熱伝導性フィラーの配合比を1200質量部以下にすると、第1熱伝導性フィラーの配合比を1200質量部超過とする場合に比べ、第1層11の硬度が過剰に高くなるのを抑制することができる。第1熱伝導性フィラーの配合比を1000質量部以下にすれば、第1層11をより一層低硬度にすることができる。
【0013】
本実施形態の場合、第1アクリル系バインダーは、少なくともアクリルポリマー及び可塑剤を含有する。可塑剤の配合量は、100質量部のアクリルポリマーに対する質量比で、15~45質量部とされる。可塑剤の配合比を15質量部以上にすると、可塑剤の配合比を15質量部未満とする場合に比べ、第1層11を低硬度にすることができる。可塑剤の配合比を45質量部以下にすると、可塑剤の配合比を45質量部超過とする場合に比べ、第1層11に過剰な粘着性が生じるのを抑制でき、また、第1層11からのオイルブリードを抑制することができる。
【0014】
アクリルポリマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルを含むモノマーを重合してなるポリマーと、(メタ)アクリル酸エステルと、を含むアクリル系樹脂を重合又は共重合させてなるものを利用できる。
【0015】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、i-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、i-アミル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、i-オクチル(メタ)アクリレート、i-ミリスチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、i-ノニル(メタ)アクリレート、i-デシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、i-ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、(共)重合する際に単独で用いる他、2種類以上を併用してもよい。
【0016】
アクリルポリマーは、上述したアクリル系樹脂に、多官能モノマー、重合開始剤、可塑剤等の添加剤を適宜添加し、加熱硬化させることにより得られる。
多官能モノマーとしては、例えば、分子内に2つ以上の(メタ)アクリロイル基を有するもの等が挙げられる。分子内に2つの(メタ)アクリロイル基を有する2官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、2-エチル-2-ブチル-プロパンジオール(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ステアリン酸変性ペンタエリスリトールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス[4-(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(メタ)アクリロキシテトラエトキシフェニル]プロパン等が挙げられる。
【0017】
3官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス[(メタ)アクリロキシエチル]イソシアヌレート等が挙げられ、4官能以上の(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えばジメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0018】
これらの多官能モノマーのうち、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等が好ましい。
上述した多官能モノマーは、アクリル系樹脂20~25質量部に対し、第1層11においては0.005~0.015質量部を配合すると好ましい。
【0019】
重合開始剤としては、ジ-(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ラウロイルパーオキサイド、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート等の有機過酸化物が挙げられる。これらの重合開始剤のうち、ジ-(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートが好ましい。
【0020】
重合開始剤は、アクリル系樹脂20~25質量部に対し、0.1~0.3質量部を配合すると好ましい。
可塑剤としては、汎用のものを使用することができ、例えば、フタル酸系可塑剤、アジピン酸系可塑剤、リン酸系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤、ポリエステル系可塑剤等が好適である。これらの可塑剤は、いずれか一種を単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。可塑剤を配合することにより、第1層11が低硬度になり、熱伝導部材1に柔軟性が付与される。
【0021】
第1層11には、添加剤として、酸化防止剤を加えてもよい。酸化防止剤としては、例えば、ラジカル補足作用をもつフェノール系の酸化防止剤を使用することができる。このような酸化防止剤を配合すると、シート製造時のアクリル系樹脂の重合反応を抑制することができ、もって、シートの硬度を低く抑えることができる。
【0022】
酸化防止剤は、アクリル系樹脂20~25質量部に対し、0.05~0.10質量部を配合すると好ましい。酸化防止剤の配合量が少ないと、アクリル系樹脂の重合反応が進み、シートの硬度が高くなる。また、酸化防止剤の配合量が多いと、樹脂の硬化が妨げられる傾向がある。
【0023】
本実施形態の場合、第1熱伝導性フィラーは、少なくとも平均粒径60~100μmの炭化ケイ素、平均粒径70~100μmの第1の球状アルミナ、平均粒径1~30μmの第2の球状アルミナ及び平均粒径0.5~2μmの第1の水酸化マグネシウムを含有する。本開示でいう平均粒径は、レーザー回折法等によって求められる平均粒径D50である。
【0024】
炭化ケイ素の平均粒径を60μm以上にすると、炭化ケイ素の平均粒径を60μm未満とする場合に比べ、第1層11と第2層12との間の接合強度を向上させることができる。また、炭化ケイ素の平均粒径を100μm以下にすれば、炭化ケイ素の平均粒径を100μm超過とする場合に比べ、熱伝導部材1を製造する際に、炭化ケイ素の粒子が熱伝導部材1から脱落するのを抑制できる。
【0025】
第1の球状アルミナと第2の球状アルミナは、平均粒径が異なる2種類の球状アルミナである。このような2種類の球状アルミナを配合すると、炭化ケイ素の粒子間や平均粒径の大きい球状アルミナの粒子間に、平均粒径の小さい球状アルミナが充填される。これにより、熱伝導性フィラーを構成する粒子間において粒子同士の接触箇所を増大させることができ、第1層11の熱伝導性能を向上させることができる。
【0026】
第1の球状アルミナの平均粒径を70μm以上にし、第2の球状アルミナの平均粒径を30μm以下にすると、第1の球状アルミナと第2の球状アルミナの粒径差が十分に大きくなる。これにより、粒径差が小さい場合に比べ、平均粒径が異なる球状アルミナを配合したことにより効果が顕著になる。第1の球状アルミナの平均粒径を100μm以下にすれば、第1の球状アルミナの平均粒径を100μm超過とする場合に比べ、熱伝導部材1を製造する際に、第1の球状アルミナの粒子が熱伝導部材1から脱落するのを抑制できる。第2の球状アルミナの平均粒径を1μm以上にすると、第2の球状アルミナの平均粒径が1μm未満となる場合に比べ、第1熱伝導性フィラーの粘度が過剰に高くなるのを抑制することができる。
【0027】
第1の球状アルミナと第2の球状アルミナは、双方とも低ソーダアルミナとされている。本実施形態でいう低ソーダアルミナは、不純物として含まれるNa成分がNa2O換算で0.1質量%以下に抑制されたアルミナである。
【0028】
第1の水酸化マグネシウムの平均粒径を0.5~2μmにすると、第1熱伝導性フィラーの粘度を適度に高くすることができる。
分散剤は、重量平均分子量が1000~2500でリン酸が末端に付いた直鎖状ポリエステル、及び重量平均分子量が1000~2500でリン酸が末端に付いたポリエステル-ポリエーテル共重合体のうち、少なくとも一方を含有する。このような分散剤を配合することにより、第1アクリル系バインダー中における第1熱伝導性フィラーの分散性を改善することができる。そのため、同様な分散剤が配合されない場合に比べ、第1層11の熱伝導率を向上させることができる。分散剤の配合量は、100質量部のアクリルポリマーに対する質量比で、0.2~5質量部、より好ましくは0.2~2.0質量部とされる。
【0029】
以上のように構成される第1層11は、本実施形態の場合、アスカーC硬度が0.1~22となるように構成される。これにより、第1層11を十分に低硬度にすることができる。また、本実施形態の場合、第1層11は、熱伝導率が2~15W/m・Kとなるように構成される。これにより、第1層11を十分に高熱伝導率にすることができる。
【0030】
第2層12は、少なくとも第2アクリル系バインダー及び第2熱伝導性フィラーを含有する第2熱伝導性組成物によって構成される。この第2熱伝導性組成物には、100質量部の第2アクリル系バインダーに対する配合比で、200~400質量部(より好ましくは250~350質量部。)の第2熱伝導性フィラーが配合される。
【0031】
本実施形態の場合、第2アクリル系バインダーは、少なくともアクリルポリマーを含有する。アクリルポリマーとしては、第1アクリル系バインダーに含まれるアクリルポリマーと同様なアクリルポリマーを利用できる。ただし、第2層12は、第1層11よりも硬度の高い層とされる。そのため、例えば、多官能モノマーの配合量は、第1層11よりも多くてもよく、例えば、第2層12においては0.05~0.10質量部の多官能モノマーを配合すると好ましい。
【0032】
本実施形態の場合、第2熱伝導性フィラーには、第2熱伝導性フィラー100質量部中に占める質量比で、必須成分として90~100質量部の水酸化アルミニウムと、任意成分として0~10質量部の第2の水酸化マグネシウムとが配合される。すなわち、100質量部の第2熱伝導性フィラーは、必須成分である100質量部の水酸化アルミニウムで構成されていてもよいし、必須成分である水酸化アルミニウムに対し、10質量部以下となる範囲内で任意成分としての第2の水酸化マグネシウムが配合されて、水酸化アルミニウム及び第2の水酸化マグネシウムの合計で100質量部となるように構成されていてもよい。
【0033】
このように構成される第2層12は、第1層11よりも硬度が高い層であり、第1層11よりも粘着性が低い層である。そのため、第1層11の一面を第2層12で覆えば、第2層12が設けられない熱伝導部材に比べ、熱伝導部材1の一面に粘着性が生じるのを抑制することができる。
【0034】
第3層13は、厚さ1~15μmの樹脂フィルムによって構成される。樹脂フィルムを構成する樹脂は、熱伝導部材1としての熱伝導性能を過剰に阻害しないような樹脂であれば、どのような樹脂であってもよいが、一例を挙げれば、例えばPETフィルム等のポリエステルフィルムを挙げることができる。なお、PETはポリエチレンテレフタラートの略称である。
【0035】
第3層13は、第1層11よりも硬度が高い層であり、第1層11よりも粘着性が低い層である。そのため、第1層11の一面を第3層13で覆えば、第3層13が設けられない熱伝導部材に比べ、熱伝導部材1の一面に粘着性が生じるのを抑制することができる。
【0036】
以上のように構成される熱伝導部材1は、例えば図1Bに示すように、電子回路基板21の一面に実装された電子部品22と、電子機器の筐体を構成する金属パネル23との間に介装される。これにより、電子部品22において発生する熱を、熱伝導部材1を介して金属パネル23へと伝導し、電子部品22からの排熱を促すことができる。図1Bに示す例では、第2層12を金属パネル23に接触させ、第3層13を電子部品22に接触させてあるが、第2層12を電子部品22に接触させ、第3層13を金属パネル23に接触させてもよい。
【0037】
第1層11の厚さは、0.7~5.9mm程度に構成されると好ましい。第2層12の厚さは、0.1~0.3mm程度に構成されると好ましい。第1層11及び第2層12の厚さを上述の下限値以上に構成することにより、熱伝導部材1に外力が作用した際に、熱伝導部材1が千切れるのを抑制できる。また、第1層11及び第2層12の厚さを上述の上限値以下に構成することにより、良好な熱伝導性能を発現させることができる。
【0038】
(2)熱伝導部材の製造例
次に、熱伝導部材の製造例について説明する。
(2.1)第1層の製造例
[実施例1]
平均粒径60~100μmの炭化ケイ素29.14質量部と、平均粒径70~100μmの第1の球状アルミナ34.30質量部と、平均粒径1~30μmの第2の球状アルミナ32.65質量部と、平均粒径0.5~2μmの第1の水酸化マグネシウム3.91質量部を混合することにより、第1熱伝導性フィラーを調製した。
【0039】
続いて、第1アクリル系バインダー100質量部に対して、上記第1熱伝導性フィラー671.58質量部と、分散剤0.62質量部とを配合し、第1熱伝導性組成物を調製した。第1アクリル系バインダーとしては、アクリルポリマー100質量部に対し、可塑剤22.52質量部が配合された組成物を利用した。
【0040】
上記第1熱伝導性組成物をシート状に成形し、第1層11に相当する成形品を得た。アスカーC硬度及び熱伝導率を測定したところ、アスカーC硬度は3、熱伝導率は2.369W/m・Kであった。
【0041】
[実施例2]
第1アクリル系バインダー100質量部に対して、上記実施形態1と同様の第1熱伝導性フィラー852.81質量部と、分散剤0.57質量部とを配合し、第1熱伝導性組成物を調製した。第1アクリル系バインダーとしては、アクリルポリマー100質量部に対し、可塑剤22.40質量部が配合された組成物を利用した。
【0042】
上記第1熱伝導性組成物をシート状に成形し、第1層11に相当する成形品を得た。アスカーC硬度及び熱伝導率を測定したところ、アスカーC硬度は7、熱伝導率は3.372W/m・Kであった。
【0043】
[実施例3]
第1アクリル系バインダー100質量部に対して、上記実施形態1と同様の第1熱伝導性フィラー948.58質量部と、分散剤0.63質量部とを配合し、第1熱伝導性組成物を調製した。第1アクリル系バインダーとしては、アクリルポリマー100質量部に対し、可塑剤22.49質量部が配合された組成物を利用した。
【0044】
上記第1熱伝導性組成物をシート状に成形し、第1層11に相当する成形品を得た。アスカーC硬度及び熱伝導率を測定したところ、アスカーC硬度は7、熱伝導率は3.899W/m・Kであった。
【0045】
[比較例1]
第1アクリル系バインダー100質量部に対して、上記実施形態1と同様の第1熱伝導性フィラー1302.10質量部と、分散剤0.56質量部とを配合し、第1熱伝導性組成物を調製した。第1アクリル系バインダーとしては、アクリルポリマー100質量部に対し、可塑剤22.51質量部が配合された組成物を利用した。
【0046】
上記第1熱伝導性組成物をシート状に成形し、第1層11に相当する成形品を得た。アスカーC硬度及び熱伝導率を測定したところ、アスカーC硬度は29、熱伝導率は5.124W/m・Kであった。第1熱伝導性フィラーの配合比を1302.10質量部としたことにより、アスカーC硬度は29となった。
【0047】
[比較例2]
第1アクリル系バインダー100質量部に対して、上記実施形態1と同様の第1熱伝導性フィラー853.29質量部を配合し、第1熱伝導性組成物を調製した。第1アクリル系バインダーとしては、アクリルポリマー100質量部に対し、可塑剤22.40質量部が配合された組成物を利用した。
【0048】
上記第1熱伝導性組成物をシート状に成形し、第1層11に相当する成形品を得た。アスカーC硬度を測定したところ、アスカーC硬度は29であった。第1熱伝導性フィラーの配合量は実施例2に近いが、分散剤を配合していないため、アスカーC硬度は29となった。
【0049】
[比較例3]
第1アクリル系バインダー100質量部に対して、上記実施形態1と同様の第1熱伝導性フィラー853.29質量部を配合し、第1熱伝導性組成物を調製した。第1アクリル系バインダーとしては、アクリルポリマー100質量部に対し、可塑剤38.94質量部が配合された組成物を利用した。
【0050】
上記第1熱伝導性組成物をシート状に成形し、第1層11に相当する成形品を得た。アスカーC硬度を測定したところ、アスカーC硬度は24であった。第1熱伝導性フィラーの配合量は実施例2に近く、比較例2に比べて可塑剤の配合量も増大させたが、分散剤を配合していないため、アスカーC硬度は24となった。
【0051】
[比較例4]
第1アクリル系バインダー100質量部に対して、上記実施形態1と同様の第1熱伝導性フィラー853.10質量部と、分散剤0.19質量部とを配合し、第1熱伝導性組成物を調製した。第1アクリル系バインダーとしては、比較例3と同じく、アクリルポリマー100質量部に対し、可塑剤38.94質量部が配合された組成物を利用した。
【0052】
上記第1熱伝導性組成物をシート状に成形し、第1層11に相当する成形品を得た。アスカーC硬度を測定したところ、アスカーC硬度は23であった。第1熱伝導性フィラーの配合量は実施例2に近く、可塑剤の配合量は比較例3と同じで実施例2よりも多いが、分散剤の配合量が0.19質量部と少ないため、アスカーC硬度は23となった。
【0053】
[実施例4]
第1アクリル系バインダー100質量部に対して、上記実施形態1と同様の第1熱伝導性フィラー853.00質量部と、分散剤0.29質量部とを配合し、第1熱伝導性組成物を調製した。第1アクリル系バインダーとしては、アクリルポリマー100質量部に対し、可塑剤38.94質量部が配合された組成物を利用した。
【0054】
上記第1熱伝導性組成物をシート状に成形し、第1層11に相当する成形品を得た。アスカーC硬度を測定したところ、アスカーC硬度は20であった。第1熱伝導性フィラーの配合量及び可塑剤の配合量は比較例4とほぼ同じであるが、分散剤の配合量が0.29質量部とされているため、アスカーC硬度は20となった。
【0055】
[実施例5]
第1アクリル系バインダー100質量部に対して、上記実施形態1と同様の第1熱伝導性フィラー852.72質量部と、分散剤0.57質量部とを配合し、第1熱伝導性組成物を調製した。第1アクリル系バインダーとしては、アクリルポリマー100質量部に対し、可塑剤38.94質量部が配合された組成物を利用した。
【0056】
上記第1熱伝導性組成物をシート状に成形し、第1層11に相当する成形品を得た。アスカーC硬度及び熱伝導率を測定したところ、アスカーC硬度は7、熱伝導率は3.354W/m・Kであった。
【0057】
(2.2)第2層の製造例
[実施例6]
平均粒径5~50μmの水酸化アルミニウムを、第2熱伝導性フィラーとし、第2アクリル系バインダー100質量部に対して、上記第2熱伝導性フィラー281.10質量部を配合し、第2熱伝導性組成物を調製した。第2アクリル系バインダーとしては、アクリルポリマーを利用した。
【0058】
上記第2熱伝導性組成物をシート状に成形し、第2層12に相当する成形品を得た。アスカーC硬度及び熱伝導率を測定したところ、アスカーC硬度は45、熱伝導率は1.04W/m・Kであった。
【0059】
[実施例7]
平均粒径5~50μmの水酸化アルミニウム263.67重量部と、平均粒径0.5~2μmの第2の水酸化マグネシウム17.14重量部とを混合することにより、第2熱伝導性フィラーを調製した。第2アクリル系バインダー100質量部に対して、上記第2熱伝導性フィラー280.81質量部を配合し、第2熱伝導性組成物を調製した。第2アクリル系バインダーとしては、アクリルポリマーを利用した。
【0060】
上記第2熱伝導性組成物を第1層11に対して塗工し、第2層12に相当する成形品を得た。
[実施例8]
平均粒径5~50μmの水酸化アルミニウムを、第2熱伝導性フィラーとし、第2アクリル系バインダー100質量部に対して、上記第2熱伝導性フィラー337.25質量部を配合し、第2熱伝導性組成物を調製した。第2アクリル系バインダーとしては、アクリルポリマーを利用した。
【0061】
上記第2熱伝導性組成物を第1層11に対して塗工し、第2層12に相当する成形品を得た。アスカーC硬度及び熱伝導率を測定したところ、アスカーC硬度は64、熱伝導率は1.28W/m・Kであった。
【0062】
[比較例5]
平均粒径5~50μmの水酸化アルミニウムを、第2熱伝導性フィラーとし、第2アクリル系バインダー100質量部に対して、上記第2熱伝導性フィラー421.65質量部を配合し、第2熱伝導性組成物を調製した。第2アクリル系バインダーとしては、アクリルポリマーを利用した。
【0063】
上記第2熱伝導性組成物を第1層11に対して塗工し、第2層12に相当する成形品を得た。アスカーC硬度及び熱伝導率を測定したところ、アスカーC硬度は77、熱伝導率は1.55W/m・Kであった。第2熱伝導性フィラーの配合量が過多であるため、第2熱伝導性組成物の性状がジャリジャリしたものとなり、塗工性に劣る組成物となった。
【0064】
[比較例6]
平均粒径5~50μmの水酸化アルミニウムを、第2熱伝導性フィラーとし、第2アクリル系バインダー100質量部に対して、上記第2熱伝導性フィラー137.19質量部を配合し、第2熱伝導性組成物を調製した。第2アクリル系バインダーとしては、アクリルポリマーを利用した。
【0065】
上記第2熱伝導性組成物を第1層11に対して塗工し、第2層12に相当する成形品を得た。アスカーC硬度及び熱伝導率を測定したところ、アスカーC硬度は9、熱伝導率は0.58W/m・Kであった。第2熱伝導性フィラーの配合量が過少であるため、第2熱伝導性組成物の性状がシャビシャビしたものとなり、塗工性に劣る組成物となった。
【0066】
(3)他の実施形態
以上、熱伝導部材1について、例示的な実施形態を挙げて説明したが、上述の実施形態は本開示の一態様として例示されるものにすぎない。すなわち、本開示は、上述の例示的な実施形態に限定されるものではなく、本開示の技術的思想を逸脱しない範囲内において、様々な形態で実施することができる。
【0067】
例えば、上記実施形態では、本開示の熱伝導部材1の構成材料に関し、特定の配合比で配合された具体例をいくつか例示したが、各構成材料の配合比については、本開示に示す数値範囲内で任意に調節することができる。
【0068】
なお、上記実施形態で例示した1つの構成要素によって実現される複数の機能を、複数の構成要素によって実現してもよい。上記実施形態で例示した1つの構成要素によって実現される1つの機能を、複数の構成要素によって実現してもよい。上記実施形態で例示した複数の構成要素によって実現される複数の機能を、1つの構成要素によって実現してもよい。上記実施形態で例示した複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現してもよい。上記実施形態で例示した構成の一部を省略してもよい。上記実施形態のうち、1つの実施形態で例示した構成の少なくとも一部を、当該1つの実施形態以外の上記実施形態で例示した構成に対して付加又は置換してもよい。
【0069】
(4)補足
なお、以上説明した例示的な実施形態から明らかなように、本開示の熱伝導部材は、更に以下に挙げるような構成を備えていてもよい。
【0070】
(A)第1アクリル系バインダーは、少なくともアクリルポリマー及び可塑剤を含有してもよい。また、第1アクリル系バインダーには、100質量部のアクリルポリマーに対する質量比で、15~45質量部の可塑剤が配合されていてもよい。
【0071】
(B)第1熱伝導性フィラーは、少なくとも平均粒径60~100μmの炭化ケイ素、平均粒径70~100μmの第1の球状アルミナ、平均粒径1~30μmの第2の球状アルミナ及び平均粒径0.5~2μmの第1の水酸化マグネシウムを含有してもよい。第2熱伝導性フィラーは、必須成分として平均粒径5~50μmの水酸化アルミニウムを含有し、任意成分として平均粒径0.5~2μmの第2の水酸化マグネシウムを含有してもよい。第1熱伝導性フィラーには、第1熱伝導性フィラー100質量部中に占める質量比で、20~40質量部の炭化ケイ素と、20~50質量部の第1の球状アルミナと、20~50質量部の第2の球状アルミナと、1~10質量部の第1の水酸化マグネシウムとが配合されてもよい。第2熱伝導性フィラーには、第2熱伝導性フィラー100質量部中に占める質量比で、90~100質量部の水酸化アルミニウムと、0~10質量部の第2の水酸化マグネシウムとが配合されていてもよい。
【0072】
(C)第1層は、アスカーC硬度が0.1~22となり、熱伝導率が2~15W/m・Kとなるように構成されていてもよい。
(D)複数の層には、第1層を挟んで第2層とは反対側において第1層と接する位置に積層される第3層が含まれてもよい。第3層は、厚さ1~15μmの樹脂フィルムによって構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0073】
1…熱伝導部材、11…第1層、12…第2層、13…第3層、21…電子回路基板、22…電子部品、23…金属パネル。
図1