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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022075282
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】蓄電装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/04 20060101AFI20220511BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220511BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20220511BHJP
   H01G 11/26 20130101ALI20220511BHJP
【FI】
H01M10/04 Z
H01M4/62 Z
H01M4/04 A
H01G11/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020185972
(22)【出願日】2020-11-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】牧 剛志
(72)【発明者】
【氏名】近藤 悠史
(72)【発明者】
【氏名】水谷 英二
(72)【発明者】
【氏名】大森 修
(72)【発明者】
【氏名】水野 佳世
(72)【発明者】
【氏名】片山 丈嗣
【テーマコード(参考)】
5E078
5H028
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA15
5E078AB02
5E078BA06
5E078BA07
5E078BA73
5H028AA08
5H028CC01
5H028CC08
5H028CC10
5H028CC11
5H028CC26
5H028HH01
5H050AA14
5H050BA14
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA11
5H050FA02
5H050FA08
5H050HA01
5H050HA12
(57)【要約】
【課題】蓄電装置の外郭を構成する正極集電体及び負極集電体における損傷を抑制する。
【解決手段】正極21は、正極集電体22の第1面22aに正極活物質層23を備える。正極活物質層23は、正極活物質及び結着剤を含む。正極活物質層23は、第1層24及び第2層25を備える。第2層25は、積層方向Zにおいて第1層24よりも正極集電体22寄りに位置する。第2層25は、積層方向Zから見た平面視において、第1層24よりも大きく、且つ第1層24の全体と重なっている。第2層25のうち、第1層24と重ならない露出部は、第1層24と重なる被覆部よりも密度が低い。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体を有する正極と、
負極集電体を有する負極と、
前記正極と前記負極とが重なり合う積層方向において前記正極集電体と前記負極集電体とを連結するシール部材と、を備え、
前記正極集電体及び前記負極集電体が外郭を構成する蓄電装置であって、
前記正極は、前記積層方向における前記正極集電体の一面である第1面に正極活物質層を備え、
前記正極活物質層は、正極活物質及び結着剤を含むとともに、前記積層方向に並ぶ複数の構成層からなり、
前記積層方向において隣り合う2つの前記構成層を、第1層と、前記積層方向において前記第1層よりも前記正極集電体寄りに位置する第2層とするとき、
前記第2層は、前記積層方向から見た平面視において、前記第1層よりも大きく、且つ前記第1層の全体と重なっており、
前記積層方向から前記正極活物質層を見た平面視において、前記第2層のうち、前記第1層と重なる部分を被覆部とし、前記第1層と重ならない部分を露出部とするとき、
前記露出部は、前記被覆部よりも密度が低いことを特徴とする蓄電装置。
【請求項2】
前記第2層は、前記第1層よりも、前記正極活物質の比率が低く、且つ前記結着剤の比率が高い請求項1に記載の蓄電装置。
【請求項3】
前記正極活物質層は、目付量が30mg/cm以上である請求項1又は請求項2に記載の蓄電装置。
【請求項4】
前記積層方向から前記正極活物質層を見た平面視において、前記第2層のうち、前記積層方向において前記第1面から離間して位置する前記露出部の端部を先端部とするとき、
前記先端部は、前記積層方向に沿った前記正極活物質層の断面において、前記積層方向における前記第1層の両端面の間で前記第1層と並んでいる請求項1~請求項3のうちいずれか一項に記載の蓄電装置。
【請求項5】
前記第1面から前記積層方向への延設寸法が最も大きい前記先端部の部分において、前記先端部の表面位置を先端位置とし、
前記先端部の表面と、前記積層方向において前記第1層寄りに位置する前記被覆部の端面と、の境界の位置を境界位置とするとき、
前記先端部は、前記積層方向に沿った前記正極活物質層の断面において、前記境界位置から前記先端位置に近づくほど前記第1層から離間するように傾斜する傾斜面を備える請求項4に記載の蓄電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の蓄電装置は、バイポーラ電極と、シール部材と、を備えている。バイポーラ電極は、積層方向における集電体の一方の面に正極活物質層を備えるとともに、積層方向における集電体の他方の面に負極活物質層を備えている。シール部材は、積層方向において2つの集電体を連結している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-164782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、集電体が蓄電装置の外郭を構成する場合、蓄電装置の充放電による正極活物質層の膨張収縮に伴って、集電体に局所的な変形が生じると、蓄電装置の外郭を構成する集電体が大きく変形するおそれがある。蓄電装置の外郭を構成する集電体が大きく変形することは、電池性能が低下するおそれがあるため好ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する蓄電装置は、正極集電体を有する正極と、負極集電体を有する負極と、前記正極と前記負極とが重なり合う積層方向において前記正極集電体と前記負極集電体とを連結するシール部材と、を備え、前記正極集電体及び前記負極集電体が外郭を構成する蓄電装置であって、前記正極は、前記積層方向における前記正極集電体の一面である第1面に正極活物質層を備え、前記正極活物質層は、正極活物質及び結着剤を含むとともに、前記積層方向に並ぶ複数の構成層からなり、前記積層方向において隣り合う2つの前記構成層を、第1層と、前記積層方向において前記第1層よりも前記正極集電体寄りに位置する第2層とするとき、前記第2層は、前記積層方向から見た平面視において、前記第1層よりも大きく、且つ前記第1層の全体と重なっており、前記積層方向から前記正極活物質層を見た平面視において、前記第2層のうち、前記第1層と重なる部分を被覆部とし、前記第1層と重ならない部分を露出部とするとき、前記露出部は、前記被覆部よりも密度が低いことを特徴とする。
【0006】
集電体は活物質の膨張収縮に応じて変形する。正極集電体のうち、正極活物質層の周縁部が対峙する部分においては、正極活物質の膨張収縮に伴って応力が集中するため、正極集電体のその他の部分よりも変形が大きくなる。
【0007】
上記構成によれば、正極活物質層は、第1層と、積層方向において第1層よりも正極集電体寄りに位置する第2層とを備える。第2層は、第1層と重なる被覆部と、第1層と重ならない露出部とを備える。そのため、正極活物質の膨張収縮に伴って生じる積層方向における正極集電体の変形は、正極集電体の一部に集中しにくくなり、正極集電体のうち、被覆部と露出部との境界位置に対峙する部位から、露出部に対峙する部位にわたって穏やかな変形となる。
【0008】
また、上記構成によれば、露出部は被覆部よりも密度が低いため、露出部の膨張収縮に伴う変化率は被覆部よりも小さくなる。そのため、積層方向と直交する方向(正極集電体に平行な方向)における露出部の寸法の変化率は被覆部よりも小さくなる。正極活物質層の膨張収縮に伴って、積層方向と直交する方向における正極活物質層の変形も、正極集電体の一部に集中しにくくなり、正極集電体の変形が穏やかになる。
【0009】
したがって、蓄電装置の充放電時に、正極集電体と、正極集電体に接する負極集電体とにおける局所的な変形を抑制できるため、蓄電装置の外郭を構成する正極集電体及び負極集電体の大きな変形による損傷を抑制できる。
【0010】
蓄電装置において、前記第2層は、前記第1層よりも、前記正極活物質の比率が低く、且つ前記結着剤の比率が高くてもよい。
上記構成によれば、第2層は、第1層よりも正極活物質の比率が低く、且つ結着剤の比率が高いため、蓄電装置の充放電時、積層方向と直交する方向における第2層の寸法の変化量は第1層よりも小さくなる。そのため、正極活物質層の全体で正極活物質の比率が同じである場合と比較して、正極活物質層が膨張収縮しても正極集電体が変形しにくい。正極集電体が変形しにくいことで、蓄電装置の外郭を構成する正極集電体及び負極集電体の変形を抑制できる。また、第2層の結着剤の比率が高いため、第2層が正極集電体及び第1層に強固に結合することにより、正極集電体における正極活物質の剥がれや脱落を抑制できる。
【0011】
蓄電装置において、前記正極活物質層は、目付量が30mg/cm以上であることが好ましい。
蓄電装置において、前記積層方向から前記正極活物質層を見た平面視において、前記第2層のうち、前記積層方向において前記第1面から離間して位置する前記露出部の端部を先端部とするとき、前記先端部は、前記積層方向に沿った前記正極活物質層の断面において、前記積層方向における前記第1層の両端面の間で前記第1層と並んでいてもよい。
【0012】
蓄電装置において、前記第1面から前記積層方向への延設寸法が最も大きい前記先端部の部分において、前記先端部の表面位置を先端位置とし、前記先端部の表面と、前記積層方向において前記第1層寄りに位置する前記被覆部の端面と、の境界の位置を境界位置とするとき、前記先端部は、前記積層方向に沿った前記正極活物質層の断面において、前記境界位置から前記先端位置に近づくほど前記第1層から離間するように傾斜する傾斜面を備えてもよい。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、蓄電装置の外郭を構成する正極集電体及び負極集電体における損傷を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】蓄電装置を示す断面図。
図2】正極を示す平面図。
図3】正極の一部を拡大して示す断面図。
図4】正極の製造方法を説明するための模式図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、蓄電装置を具体化した実施形態について、図1図4を用いて説明する。なお、特に断らない限り、本実施形態に記載された数値範囲「x~y」は、下限値x及び上限値yをその範囲に含む。そして、これらの上限値及び下限値、並びに本実施形態中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限値及び下限値とすることができる。蓄電装置は、例えば、フォークリフト、ハイブリッド自動車、電気自動車等の各種車両のバッテリに用いられる蓄電モジュールである。本実施形態の蓄電装置はリチウムイオン二次電池である。
【0016】
図1に示すように、蓄電装置10は、セルスタック11と、正極通電板12aと、負極通電板12bと、を備える。正極通電板12a及び負極通電板12bは、セルスタック11を挟んで互いに対向している。正極通電板12a及び負極通電板12bは、良導電性材料で構成されている。セルスタック11、正極通電板12a、及び負極通電板12bは、積層方向Zに積層している。積層方向Zは、正極通電板12a及び負極通電板12bにおける外面のうち、セルスタック11と隣接する外面に垂直をなす方向である。正極通電板12a及び負極通電板12bは、積層方向Zに直交する方向に延びる矩形板状である。セルスタック11は、複数の蓄電セル20が積層方向Zに積層された積層体である。
【0017】
正極通電板12a及び負極通電板12bは、それぞれセルスタック11と電気的に接続している。図示は省略しているが、正極通電板12a及び負極通電板12bの各々には端子が接続されている。この端子を通じて蓄電装置10の充放電が行われる。
【0018】
各蓄電セル20は、正極21及び負極31を備える。言い換えると、蓄電装置10は、正極21及び負極31を備えるともいえる。正極21は、正極集電体22を備える。正極21は、積層方向Zにおける正極集電体22の一面である第1面22aに正極活物質層23を備える。正極活物質層23は、積層方向Zにおける第1面22aの裏面である第2面22bには位置しない。
【0019】
負極31は、負極集電体32を備える。負極31は、積層方向Zにおける負極集電体32の一面である負極表面32aに負極活物質層33を備える。負極活物質層33は、積層方向Zにおける負極表面32aの裏面である負極裏面32bには位置しない。
【0020】
正極集電体22、正極活物質層23、負極集電体32、及び負極活物質層33は、積層方向Zにおいて重なり合う。すなわち、積層方向Zにおいて、正極21と負極31とは重なり合うといえる。
【0021】
正極集電体22及び負極集電体32は、積層方向Zから見た平面視で同じ面積を有する長方形状をなす。正極集電体22及び負極集電体32は、積層方向Zから見た平面視で、互いの縁部が重なっている。正極活物質層23は、積層方向Zから見た平面視で、正極集電体22よりも小さい長方形状をなす。負極活物質層33は、積層方向Zから見た平面視で、負極集電体32よりも小さく、且つ正極活物質層23よりも大きい長方形状をなす。
【0022】
図2に示すように、正極集電体22を積層方向Zから見た平面視で、正極集電体22の長辺が延びる方向を第1方向Xといい、正極集電体22の短辺が延びる方向を第2方向Yという。図示は省略しているが、負極集電体32を積層方向Zから見た平面視で、負極集電体32の長辺は第1方向Xに延びており、負極集電体32の短辺は第2方向Yに延びている。第1方向X及び第2方向Yは、積層方向Zと直交する方向である。第1方向Xと第2方向Yとは互いに直交する。
【0023】
図1に示すように、各蓄電セル20は、セパレータ40を備える。セパレータ40は、積層方向Zにおける正極活物質層23と負極活物質層33との間に位置する。積層方向Zにおいて、セパレータ40を介して、正極活物質層23と負極活物質層33とは対向している。積層方向Zから正極活物質層23を見た平面視で、正極活物質層23の全体がセパレータ40を介して負極活物質層33と重なっている。
【0024】
セパレータ40は、積層方向Zから見た平面視で、正極活物質層23及び負極活物質層33よりも大きい長方形状をなす。セパレータ40を積層方向Zから見た平面視で、セパレータ40の長辺は第1方向Xに延びており、セパレータ40の短辺は第2方向Yに延びている。
【0025】
積層方向Zからセパレータ40を見た平面視で、セパレータ40の中央部は、正極活物質層23及び負極活物質層33の各々の全体と重なっている。積層方向Zからセパレータ40を見た平面視で、セパレータ40の端部は、正極活物質層23及び負極活物質層33よりも外側に位置している。積層方向Zにおけるセパレータ40の一面は、負極表面32aに接するとともに負極表面32aに沿って配置されていてもよい。
【0026】
セパレータ40は、正極21と負極31とを隔離する。セパレータ40は、正極21及び負極31の接触による短絡を防止しつつ、リチウムイオン等の電荷担体を通過させる部材である。セパレータ40は、接着剤などによって正極活物質層23及び負極活物質層33に接着していてもよい。ホットプレス等の公知の手法により蓄電セル20に加圧することで、セパレータ40を正極活物質層23及び負極活物質層33に接着してもよい。
【0027】
蓄電装置10はシール部材50を備える。シール部材50は、樹脂製である。シール部材50は、積層方向Zにおいて隣り合う正極集電体22と負極集電体32との間に配置されている。シール部材50は、絶縁材料を含み、正極集電体22と負極集電体32との間を絶縁することによって、それら両集電体間の短絡を防止する。
【0028】
シール部材50を積層方向Zから見た平面視において、シール部材50は四角枠状をなしている。シール部材50は、4つの縁部(面)によって正極活物質層23及び負極活物質層33を囲んでいる。シール部材50の2つの縁部は、第1方向Xにおいて正極活物質層23及び負極活物質層33を囲んでいる。シール部材50の2つの縁部は、第2方向Yにおいて正極活物質層23及び負極活物質層33を囲んでいる。
【0029】
蓄電セル20は、例えば、正極21、シール部材50、セパレータ40、及び負極31の順で、これらを積層することで製造してもよい。セルスタック11として積層する前の蓄電セル20において、シール部材50は、図1に一点鎖線で示すように、積層方向Zにおける正極集電体22と負極集電体32との間に位置するシール本体部56と、正極集電体22と負極集電体32との間の領域外にシール本体部56から延びるシール延設部57と、を備える。なお、図1では、セルスタック11として積層する前の蓄電セル20におけるシール部材50の1つを一点鎖線で示し、そのほかのシール部材50の一点鎖線での図示を省略している。セパレータ40の端部は、積層方向Zにおけるシール本体部56と正極集電体22の間あるいはシール本体部56と負極集電体32との間に位置してもよい。
【0030】
シール本体部56は、積層方向Zにおいて隣り合う正極集電体22及び負極集電体32のうち、正極集電体22の第1面22aと、負極集電体32の負極表面32aと、に固定している。これにより、シール部材50は、積層方向Zにおいて正極集電体22と負極集電体32とを連結する。正極集電体22及び負極集電体32へのシール部材50の固定手段としては、例えば熱溶着や、接着剤による接着等を採用可能である。
【0031】
蓄電セル20の各々の内部には、積層方向Zにおいて隣り合う正極集電体22及び負極集電体32と、シール部材50と、によって空間Sが区画形成されている。空間Sには、正極活物質層23、負極活物質層33、セパレータ40、及び電解液が収容されている。
【0032】
積層方向Zに隣り合う蓄電セル20のシール延設部57同士は接合されて一体化している。積層方向Zにおいて積層する全ての蓄電セル20のシール延設部57が一体化している。一体化されたシール延設部57を封止体57aという。
【0033】
封止体57aは、積層方向Zに並ぶ全ての正極集電体22の周縁部と、積層方向Zに並ぶ全ての負極集電体32の周縁部と、を覆っている。なお、接合方法としては、例えば、熱溶着、超音波溶着、及び赤外線溶着等が挙げられる。
【0034】
シール部材50は、正極21と負極31との間の空間Sを封止する封止部としても機能する。シール部材50は、空間Sに収容された電解液が蓄電装置10の外部に漏れることを防止し得る。シール部材50は、蓄電装置10の外部から空間Sへと水分が侵入することを防止し得る。さらに、シール部材50は、例えば充放電反応等により正極21又は負極31から発生したガスが蓄電装置10の外部に漏れることを防止し得る。
【0035】
セルスタック11は、積層方向Zにおける一端に正極集電体22を備えるとともに、積層方向Zにおける他端に負極集電体32を備える。これにより、正極集電体22及び負極集電体32は、蓄電装置10の外郭を構成している。なお、シール部材50は、第1方向X及び第2方向Yにおいて正極集電体22及び負極集電体32を囲んでいる。そのため、シール部材50は、正極集電体22及び負極集電体32と共に蓄電装置10の外郭を構成している。
【0036】
正極通電板12aは、積層方向Zにおける一端に位置する正極集電体22に電気的に接続する。負極通電板12bは、積層方向Zにおける他端に位置する負極集電体32に電気的に接続する。
【0037】
セルスタック11、正極通電板12a、及び負極通電板12bは、積層方向Zにおける両側から拘束ユニット等によって拘束されている。これにより、積層方向Zにおける拘束荷重がセルスタック11、正極通電板12a、及び負極通電板12bに付与されている。
【0038】
正極通電板12a及び負極通電板12bは、積層方向Zにおける平面視において、正極活物質層23及び負極活物質層33よりも大きく、且つ正極活物質層23及び負極活物質層33の各々の全体を覆っている。そのため、拘束荷重は、正極通電板12a及び負極通電板12bを介して、セルスタック11に位置する全ての正極活物質層23及び負極活物質層33に付与される。これにより、セパレータ40を介して積層方向Zに隣り合う正極活物質層23及び負極活物質層33は、セパレータ40を介して互いに密接している。積層方向Zに隣り合う正極集電体22及び負極集電体32は、互いに密接している。
【0039】
次に、蓄電装置10を構成する各種部材について、材料及び構成の詳細を説明する。
セパレータ40は、例えば、電解質を吸収保持するポリマーを含む多孔性シート又は不織布であってもよい。セパレータ40を構成する材料としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリオレフィン、及びポリエステルなどが挙げられる。セパレータ40は、単層構造又は多層構造を有してもよい。多層構造は、例えば、耐熱層としてのセラミック層等を有してもよい。セパレータ40は、電解質が含浸されてもよく、セパレータ40自体を高分子電解質又は無機型電解質等の電解質で構成してもよい。
【0040】
セパレータ40に含浸される電解質としては、例えば、非水溶媒と非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む液体電解質である電解液、又はポリマーマトリックス中に保持された電解質を含む高分子ゲル電解質等が挙げられる。
【0041】
セパレータ40に電解液が含浸される場合、その電解質塩として、LiClO、LiAsF、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(FSO、LiN(CFSO等の公知のリチウム塩を使用できる。また、非水溶媒として、環状カーボネート類、環状エステル類、鎖状カーボネート類、鎖状エステル類、及びエーテル類等の公知の溶媒を使用できる。なお、これら公知の溶媒材料を二種以上組合せて用いてもよい。
【0042】
シール部材50を構成する材料としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン、ABS樹脂、変性ポリプロピレン(変性PP)、及びアクリロニトリルスチレン(AS樹脂)等、種々の樹脂材料が挙げられる。
【0043】
正極集電体22及び負極集電体32は、化学的に不活性な電気伝導体である。正極集電体22を構成する材料としては、例えば、金属材料、導電性樹脂材料、及び導電性無機材料等を用いることができる。導電性樹脂材料としては、例えば、導電性高分子材料又は非導電性高分子材料に必要に応じて導電性フィラーが添加された樹脂等が挙げられる。正極集電体22は、金属材料又は導電性樹脂材料を含む1以上の層を含む複数層を備えてもよい。
【0044】
正極集電体22及び負極集電体32の少なくとも一方の表面に、メッキ処理又はスプレーコート等の公知の方法により被覆層を形成してもよい。正極集電体22及び負極集電体32は、例えば、板状、箔状、シート状、フィルム状、及びメッシュ状等の形態に形成されていてもよい。
【0045】
金属材料としては、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン又はステンレス鋼等を用いることができる。ステンレス鋼としては、例えばJISG4305:2015にて規定されるSUS316、SUS301、及びSUS304等が挙げられる。正極集電体22及び負極集電体32の少なくとも一方は、上記金属材料の合金箔又はクラッド箔であってもよい。正極集電体22及び負極集電体32を箔状とする場合、各々の厚みは、例えば、1~100μmであってもよい。
【0046】
正極通電板12aを構成する材料には、正極集電体22を構成する材料と同じ材料を用いることができる。負極通電板12bを構成する材料には、負極集電体32を構成する材料と同じ材料を用いることができる。正極通電板12a及び負極通電板12bは、正極集電体22及び負極集電体32よりも厚い金属板で構成してもよい。
【0047】
正極活物質層23は、リチウムイオン等の電荷担体を吸蔵及び放出し得る正極活物質を含む。正極活物質としては、層状岩塩構造を有するリチウム複合金属酸化物、スピネル構造の金属酸化物、及びポリアニオン系化合物等、リチウムイオン二次電池の正極活物質として使用可能なものを採用すればよい。また、2種以上の正極活物質を併用してもよい。
【0048】
負極活物質層33は、リチウムイオンなどの電荷担体を吸蔵及び放出可能である単体、合金、又は化合物であれば、特に限定はなく使用可能である。例えば、負極活物質としては、リチウム、炭素、金属化合物、及びリチウムと合金化可能な元素もしくはその化合物等が挙げられる。炭素としては、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン(難黒鉛化性炭素)、及びソフトカーボン(易黒鉛化性炭素)を挙げることができる。人造黒鉛としては、高配向性グラファイト、メソカーボンマイクロビーズ等が挙げられる。リチウムと合金化可能な元素の例としては、シリコン(ケイ素)及びスズが挙げられる。
【0049】
正極活物質層23及び負極活物質層33を単に活物質層ともいう。活物質層は、必要に応じて電気伝導性を高めるための導電助剤、結着剤、電解質(ポリマーマトリクス、イオン伝導性ポリマー、電解液等)、及びイオン伝導性を高めるための電解質支持塩(リチウム塩)等をさらに含み得る。活物質層に含まれる成分、当該成分の配合比、及び活物質層の厚さは、リチウムイオン二次電池についての従来公知の知見を適宜参照して設定可能である。活物質層の厚みは、例えば100~800μmである。正極活物質層23の厚みは、例えば200~800μmである。負極活物質層33の厚みは、例えば100~600μmである。正極集電体22及び負極集電体32の表面に活物質層を形成させるには、ロールコート法等の従来から公知の方法を用いてもよい。
【0050】
正極21及び負極31の熱安定性を向上させるために、第1面22a、負極表面32a、又は活物質層の表面に、耐熱層を設けてもよい。耐熱層は、例えば、無機粒子と結着剤とを含み、その他に増粘剤等の添加剤を含んでもよい。
【0051】
導電助剤は、正極21又は負極31の導電性を高めるために添加される。導電助剤は、例えばアセチレンブラック、カーボンブラック、及びグラファイト等である。
結着剤は、正極集電体22又は負極集電体32に対する活物質の結着性を向上させるために添加される。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸等のアクリル系樹脂、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸アンモニウム等のアルギン酸塩、水溶性セルロースエステル架橋体、デンプン-アクリル酸グラフト重合体を例示することができる。これらの結着剤は、単独で又は複数で用いられ得る。溶媒には、例えば、水、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等が用いられる。
【0052】
本実施形態において、正極集電体22はアルミニウム箔である。正極活物質層23は、正極活物質及び結着剤を含む。より詳細には、正極活物質層23は、正極活物質、導電助剤、及び結着剤で構成される。正極活物質層23の正極活物質は、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO)である。正極活物質層23の導電助剤は、アセチレンブラックである。正極活物質層23の結着剤は、ポリフッ化ビニリデンである。
【0053】
本実施形態において、負極集電体32は銅箔である。負極活物質層33は、負極活物質及び結着剤で構成される。負極活物質層33の負極活物質は、黒鉛である。負極活物質層33の結着剤は、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)及びカルボキシメチルセルロースである。
【0054】
次に、正極活物質層23についてさらに詳細に説明する。
正極活物質層23は、積層方向Zに並ぶ複数の構成層23aからなる。正極活物質層23の各々は、2つの構成層23aによって構成されてもよい。2つの構成層23aは、積層方向Zにおいて隣り合う。2つの構成層23aを、第1層24及び第2層25とする。第2層25は、積層方向Zにおいて第1層24よりも正極集電体22寄りに位置する。
【0055】
第2層25は、第1層24よりも、正極活物質の比率が低く、且つ結着剤の比率が高い。
第1層24における正極活物質の含有量は、例えば、正極合材に含有される固形分の合計質量、すなわち、水系溶媒を除いた正極合材の質量(以下、固形分質量と記載する。)を100質量部としたとき、85~95質量部であることが好ましい。
【0056】
第1層24における結着剤の含有量は、例えば、固形分質量を100質量部としたとき、2~8質量部であることが好ましい。
第1層24における導電助剤の含有量は、例えば、固形分質量を100質量部としたとき、2~13質量部であることが好ましい。導電助剤が少なすぎると効率のよい導電パスを形成できず、また、導電助剤が多すぎると活物質層の電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0057】
第2層25における正極活物質の含有量は、例えば、正極合材に含有される固形分の合計質量、すなわち、水系溶媒を除いた正極合材の質量を100質量部としたとき、75~85質量部であることが好ましい。
【0058】
第2層25における結着剤の含有量は、例えば、固形分質量を100質量部としたとき、8~20質量部であることが好ましい。
第2層25における導電助剤の含有量は、例えば、固形分質量を100質量部としたとき、2~17質量部であることが好ましい。
【0059】
第1層24及び第2層25の被覆部26における密度は、例えば、1.8~2.1mg/cmを例示できる。
第1層24及び第2層25の被覆部26における空隙率は、例えば、30~40%を例示できる。
【0060】
正極活物質層23の目付量は、例えば30mg/cm以上100mg/cm以下、50mg/cm以上100mg/cm以下を例示できる。
第1層24及び第2層25の空隙率は、以下の測定方法により得ることができる。即ち、各領域から測定用の試料を採取し、この試料の質量(g)を体積(cm)で除して、空隙を含む試料の電極密度(g/cm)を算出する。また、この試料に含まれている材料の体積比率(体積%)及び真密度(g/cm)に基づき、空隙が存在しないと仮定した場合の試料の電極密度(g/cm)を算出する。
【0061】
上記により得られた空隙を含む試料の電極密度(g/cm)を、空隙が存在しないと仮定した場合の試料の電極密度(g/cm)で除することにより、試料の充填率(%)が得られる。そして、この充填率(%)を100%から差し引いた値が空隙率(%)である。
【0062】
例えば、第1層24に含まれる成分の配合比は、正極活物質、導電助剤、及び結着剤の順で、90:5:5である。例えば、第2層25に含まれる成分の配合比は、正極活物質、導電助剤、及び結着剤の順で、80:6:14である。例えば、第1層24の目付量は、44.8mg/cmである。例えば、第2層25の目付量は、6.7mg/cmである。
【0063】
図2に示すように、積層方向Zから正極活物質層23を見た平面視において、第1層24及び第2層25は共に矩形状をなしている。第2層25は、積層方向Zから見た平面視において、第1層24よりも大きく、且つ第1層24の全体と重なっている。
【0064】
積層方向Zから正極活物質層23を見た平面視において、第2層25のうち、第1層24と重なる部分を被覆部26とし、第1層24と重ならない部分を露出部27とする。積層方向Zから正極活物質層23を見た平面視において、露出部27は、第2層25の第1方向Xにおける両端部と、第2層25の第2方向Yにおける両端部と、に位置している。積層方向Zから正極活物質層23を見た平面視において、露出部27は、被覆部26を囲むように位置している。露出部27は、被覆部26よりも密度が低い。
【0065】
図3に示すように、積層方向Zにおいて正極集電体22の第1面22aから離間して位置する露出部27の端部を先端部27aとする。露出部27のうち、積層方向Zにおいて先端部27aよりも第1面22a寄りに位置する部分を基端部27bとする。第2層25の第1方向Xにおける両端部に位置する露出部27では、基端部27bが第1方向Xにおいて被覆部26と並んでいる。第2層25の第2方向Yにおける両端部に位置する露出部27では、基端部27bが第2方向Yにおいて被覆部26と並んでいる。
【0066】
第1面22aから積層方向Zへの延設寸法が最も大きい先端部27aの部分において、先端部27aの表面位置を先端位置P1とする。先端部27aの表面と、積層方向Zにおいて第1層24寄り位置する被覆部26の端面と、の境界の位置を境界位置P2とする。先端部27aは、境界位置P2と先端位置P1との間で傾斜する傾斜面27cを備える。傾斜面27cは、積層方向Zに沿った正極活物質層23の断面において、境界位置P2から先端位置P1に近づくほど第1層24から離間するように傾斜する。
【0067】
第2層25の第1方向Xにおける両端部に位置する露出部27において、傾斜面27cは、境界位置P2から先端位置P1にかけて、第1方向Xにおいて第1層24から徐々に離間するように傾斜する。第2層25の第2方向Yにおける両端部に位置する露出部27において、傾斜面27cは、境界位置P2から先端位置P1にかけて、第2方向Yにおいて第1層24から徐々に離間するように傾斜する。積層方向Zに沿った正極活物質層23の断面において、先端部27aは半円状をなしているとともに、傾斜面27cは湾曲面である。
【0068】
第1層24の積層方向Zにおける寸法を第1寸法T1とする。被覆部26の積層方向Zにおける寸法を第2寸法T2とする。露出部27の積層方向Zにおける寸法を第3寸法T3とする。なお、第3寸法T3は、基端部27bと、基端部27bから積層方向Zへの延設寸法が最も大きい先端部27aの部分と、の積層方向Zにおける寸法の和である。第1寸法T1と第2寸法T2との和が、正極活物質層23の積層方向Zにおける寸法に相当する。第2寸法T2は第1寸法T1よりも小さくてもよい。第3寸法T3は、第1寸法T1と第2寸法T2との和よりも小さい。すなわち、先端部27aは、積層方向Zに沿った正極活物質層23の断面において、積層方向Zにおける第1層24の両端面の間で第1層24と並んでいる。なお、以下では上記の積層方向Zにおける各寸法を厚み方向ともいう。
【0069】
露出部27における密度は、例えば、1.0~1.2mg/cmを例示できる。
露出部27における空隙率は、例えば、45~65%を例示できる。
露出部27の厚みは、例えば40~100μmである。
【0070】
次に、正極21の製造装置及び製造手順の一例について説明する。
正極21の製造装置60は、一対の第1ローラ61と、一対の第2ローラ62と、を備える。一対の第1ローラ61にはキャリア箔71が供給される。一対の第1ローラ61に供給されるキャリア箔71は、一面に第1層24の前駆体である第1前駆体124を備えている。第1前駆体124は、搬送方向Dに長辺が延びる長四角板状である。キャリア箔71は搬送方向Dに延びる長尺シート状である。第1前駆体124は、搬送方向Dにおいて互いに等間隔を有するように複数位置している。第1前駆体124は、例えば押し出し成形や圧縮成形によって形成される。キャリア箔71は、高強度の材料である。例えば、キャリア箔71はステンレス箔であってもよい。
【0071】
キャリア箔71が一対の第1ローラ61に至ると、一対の第1ローラ61によって第1前駆体124が押圧されつつキャリア箔71が搬送方向Dに搬送される。第1前駆体124は、一対の第1ローラ61からの押圧によって密度が高まることで、成形体としての第1層24となる。一対の第1ローラ61よりも搬送方向Dの下流では、一面に第1層24を備えたキャリア箔71が搬送される。
【0072】
一対の第2ローラ62は、一対の第1ローラ61よりも搬送方向Dの下流に位置する。一対の第2ローラ62には、一対の第1ローラ61によるプレスを受けたキャリア箔71と、金属箔72と、が供給される。金属箔72は、正極集電体22と同材料からなる箔である。一対の第2ローラ62に供給される金属箔72は、一面に第2層25の前駆体である第2前駆体125を備えている。金属箔72は、搬送方向Dに延びる長尺シート状である。第2前駆体125は、搬送方向Dにおいて互いに等間隔を有するように複数位置している。
【0073】
第2前駆体125は、半乾状態のペースト状である。第2前駆体125は、乾燥工程を経てはいるが、絶乾状態ではない。第2前駆体125は、例えば、金属箔72に塗工されることによって、金属箔72上に形成される。
【0074】
なお、第2前駆体125の厚み寸法は、完成体としての正極21に位置する正極活物質層23の厚み寸法よりも小さい。例えば、完成体としての正極21に位置する正極活物質層23の厚み寸法に対して、第2前駆体125の厚み寸法の比率は、20%程度に設定される。ただし、当該厚さの比率の範囲は特に限定されず、5%~100%の範囲で適宜設定可能である。
【0075】
また、第2前駆体125の厚み寸法は、完成体としての正極21に位置する第2層25の厚み寸法とは異なっている。参考に、図3に第2前駆体125を一点鎖線で示す。第2前駆体125の厚み寸法、すなわち第2前駆体125の積層方向Zにおける寸法を第4寸法T4という。
【0076】
図4に示すように、一対の第2ローラ62に至るキャリア箔71及び金属箔72は、第1層24と第2前駆体125とが重なっている。こうした位置関係になるように、キャリア箔71及び金属箔72の搬送速度、キャリア箔71における第1前駆体124の搬送方向Dでの配置間隔、及び金属箔72における第2前駆体125の搬送方向Dでの配置間隔が設定されている。
【0077】
一方の第2ローラ62は、金属箔72の両面のうち、第2前駆体125を備えない面を押圧する。他方の第2ローラ62は、キャリア箔71の両面のうち、第1層24を備えない面を押圧する。第2ローラ62から金属箔72への押圧により、第2前駆体125は第1層24に押し付けられる。第2ローラ62からキャリア箔71の押圧により、第1層24は第2前駆体125に押し付けられる。第1層24は、キャリア箔71の一面から剥がれるとともに、キャリア箔71から金属箔72に転写される。
【0078】
なお、第2前駆体125のうち、第2ローラ62と第1層24とで挟まれる部分が、第2層25での被覆部26となる。図3に、第2前駆体125において被覆部26となる部分を、被覆部前駆体126として一点鎖線で示す。被覆部前駆体126は、第2ローラ62と第1層24とで挟まれることにより厚み寸法が小さくなる。被覆部前駆体126の厚み寸法は、第2ローラ62からの押圧を受ける前の第2前駆体125の第4寸法T4よりも小さくなる。
【0079】
一方、第2前駆体125のうち、第2ローラ62と第1層24とで挟まれない部分が、第2層25での露出部27となる。図3に、第2前駆体125において露出部27となる部分を、露出部前駆体127として一点鎖線で示す。露出部前駆体127は、第2ローラ62と第1層24とで挟まれないため、一対の第2ローラ62によるキャリア箔71及び金属箔72の押圧時に、被覆部前駆体126の厚み寸法が小さくなるとともに、露出部前駆体127の厚み寸法が大きくなる。露出部前駆体127の厚み寸法は、第2ローラ62からの押圧を受ける前の第2前駆体125の第4寸法T4よりも大きくなる。
【0080】
また、第2前駆体125における密度は、第2ローラ62による押圧の前後で異なる。第2ローラ62による押圧後における被覆部前駆体126の厚み寸法は押圧前よりも小さくなるため、第2ローラ62による押圧後での被覆部前駆体126の密度は、押圧前よりも大きくなる。第2ローラ62による押圧後での露出部前駆体127の厚み寸法は押圧前よりも大きくなるため、第2ローラ62による押圧後における露出部前駆体127の密度は、押圧前よりも小さくなる。
【0081】
一対の第2ローラ62の少なくとも一方がヒータを有してもよい。この場合、一対の第2ローラ62によって、第2前駆体125を加熱しながら第1層24に押し付けることができる。一対の第2ローラ62を金属箔72が経由することで、第2前駆体125が硬化して成形体としての第2層25となる。第2層25は、被覆部26及び露出部27を備えたものとなる。露出部27の厚み寸法は被覆部26よりも大きい。露出部27の密度は被覆部26よりも低い。
【0082】
一対の第2ローラ62よりも搬送方向Dの下流においては、金属箔72の一面に、第1層24及び第2層25が互いに重なって構成される正極活物質層23が位置する。そして、搬送方向Dにおいて隣り合う正極活物質層23の間で金属箔72を切断することで、正極21が形成される。
【0083】
次に、本実施形態の作用について説明する。
図1に示すように、蓄電装置10の充放電時には、正極活物質の膨張収縮が発生する。正極活物質層23は、正極活物質の膨張時に大きくなるとともに、正極活物質の収縮時に小さくなる。正極活物質層23は第1層24及び第2層25から構成されている。正極活物質が膨張収縮すると、積層方向Zにおいて第1層24及び第2層25が膨張収縮する。第1層24及び第2層25の膨張収縮に伴って、正極集電体22が変形する。
【0084】
第2層25は、第1層24と重なる被覆部26と、第1層24と重ならない露出部27とを備える。被覆部26の周りは、第1層24と重ならない露出部27によって囲まれている。そのため、積層方向Zにおける正極集電体22の変形は、正極集電体22のうち、被覆部26と露出部27との境界位置に対峙する部位から、露出部27に対峙する部位にわたって穏やかな変形となる。
【0085】
また、露出部27は被覆部26よりも密度が低いため、露出部27の膨張収縮に伴う変化率は被覆部26よりも小さくなる。そのため、積層方向Zと直交する方向(正極集電体22に平行な方向)における露出部27の寸法の変化率は被覆部26よりも小さくなる。正極活物質層23の膨張収縮に伴って、積層方向Zと直交する方向における正極活物質層23の変形も、正極集電体22の一部に集中することなく、正極集電体22の変形が穏やかになる。
【0086】
正極集電体22が変形しにくいと、正極集電体22から、積層方向Zに並ぶ正極21及び負極31を介して、蓄電装置10の外郭を構成する正極集電体22及び負極集電体32に伝わる変形量が小さくなる。そのため、蓄電装置10の外郭を構成する正極集電体22及び負極集電体32が変形しにくくなる。
【0087】
次に、蓄電装置10に関して行った実験結果について説明する。
蓄電装置10の外郭を構成する正極集電体22及び負極集電体32の変形と蓄電装置10の出力とは相関関係にある。そのため、蓄電装置10の外郭を構成する正極集電体22及び負極集電体32の変形量の大小を確かめるべく、蓄電装置10の出力を計測する実験1を行った。
【0088】
実験1では、SOC(State of Charge)が5%である蓄電装置10を、外気温が25度の条件下で5秒間放電した場合での蓄電装置10の出力を計測した。また、実験1は、異なる条件下の実施例1と比較例1とについて行った。
【0089】
実施例1での蓄電装置10としては、正極活物質層23が第1層24及び第2層25から構成されたものを用いた。比較例1での蓄電装置10としては、正極活物質層23が単一層から構成されたものを用いた。実施例1での第1層24の目付量及び比較例1での正極活物質層23の目付量は、44.8mg/cmとした。第2層25の目付量は、6.7mg/cmとした。実施例1の正極活物質層23の目付量は、第1層24の目付量である44.8mg/cmと、第2層25の目付量である6.7mg/cmとの合計の51.5mg/cmである。実施例1での第1層24及び第2層25の密度と、比較例1での正極活物質層23の密度は、2.0g/cmとした。露出部27の密度は、1.1g/cmであった。実施例1及び比較例1でのその他の各種条件は、上記実施形態と同一にした。
【0090】
実験1の結果、蓄電装置10の出力は、比較例1が461mWであったのに対して、実施例1が比較例1よりも大きい1071mWであった。そのため、正極活物質層23が第1層24及び第2層25で構成される場合は、正極活物質層23が単一層である場合よりも、蓄電装置10の出力が大きいことが分かった。
【0091】
実施例1は、第1層24と、第1層24よりも正極活物質の比率が低い第2層25と、で正極活物質層23が構成される点で比較例1と異なっていた。そのため、実験1の結果から、正極活物質層23を複数層で構成し、且つ積層方向Zにおいて第1層24よりも正極集電体22寄りに位置する第2層25の正極活物質の比率を第1層24の正極活物質の比率よりも低くすることで、蓄電装置10の出力は大きくなることが推測できる。
【0092】
上記実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
(1)正極活物質層23は、第1層24と、積層方向Zにおいて第1層24よりも正極集電体22寄りに位置する第2層25とを備える。第2層25は、第1層24と重なる被覆部26と、第1層24と重ならない露出部27とを備える。そのため、正極活物質の膨張収縮に伴って生じる積層方向Zにおける正極集電体22の変形は、正極集電体22の一部に集中しにくくなり、正極集電体22のうち、被覆部26と露出部27との境界位置に対峙する部位から、露出部27に対峙する部位にわたって穏やかな変形となる。
【0093】
また、第2層25のうち、第1層24と重ならない露出部27は、第1層24と重なる被覆部26よりも密度が低いため、露出部27の膨張収縮に伴う変化率は被覆部26よりも小さくなる。そのため、積層方向Zと直交する方向(正極集電体22に平行な方向)における露出部27の寸法の変化率は被覆部26よりも小さくなる。正極活物質層23の膨張収縮に伴って、積層方向Zと直交する方向における正極活物質層23の変形も、被覆部26の存在によって正極集電体22の一部に集中することなく、正極集電体22の変形が穏やかになる。
【0094】
したがって、蓄電装置10の充放電時に、正極集電体22と、正極集電体22に接する負極集電体32とにおける局所的な変形を抑制できるため、蓄電装置10の外郭を構成する正極集電体22及び負極集電体32の大きな変形による損傷を抑制できる。また、密度が低い露出部27は電解液の保持に優れ、正極活物質層23に電解液を引き込みやすくなる。
【0095】
(2)第2層25は、第1層24よりも正極活物質の比率が低く、且つ結着剤の比率が高い。そのため、蓄電装置10の充放電時、積層方向Zと直交する方向(正極集電体22に平行な方向)における第2層25の寸法の変化量は第1層24よりも小さい。正極活物質層23の全体が第1層24と正極活物質の比率が同じである場合と比較して、正極活物質層23が膨張収縮しても正極集電体22が変形しにくい。正極集電体22が変形しにくいことで、蓄電装置10の外郭を構成する正極集電体22及び負極集電体32の変形を抑制できる。また、第2層25の結着剤の比率が高いため、第2層25が正極集電体22及び第1層24に強固に結合することにより、正極集電体22における正極活物質の剥がれや脱落を抑制できる。
【0096】
(3)正極活物質層23の目付量は、51.5mg/cmである。正極活物質層23の目付量が30mg/cm以上の場合には、上記(1)及び(2)の効果がより顕著に得られる。
【0097】
(4)セルスタック11に作用する拘束荷重により、正極集電体22の第1面22aのうち、正極活物質層23の周縁部が位置する部分に応力が集中しやすい。上記実施形態では、正極集電体22の第1面22a上に第2層25が位置する。第2層25において、被覆部26の周りに露出部27が位置する。そのため、正極集電体22の第1面22aのうち、上記の応力が集中しやすい部分に露出部27が位置することになる。露出部27は被覆部26よりも密度が低いため、被覆部26によってセルスタック11への拘束荷重に起因して正極集電体22に作用する応力を緩和できる。したがって、セルスタック11への拘束荷重に起因する応力の集中によって、正極集電体22が変形することを抑制できる。
【0098】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記の各実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0099】
○ 先端部27aの形状は上記実施形態の態様に限らない。例えば、積層方向Zに沿った先端部27aの断面形状は、半円状に限らず、例えば矩形状等であってもよい。先端部27aの傾斜面27cは湾曲しない平面であってもよい。なお、積層方向Zに沿った先端部27aの断面形状が矩形状である場合、先端位置P1と境界位置P2とを繋ぐ面は、傾斜面27cのような傾斜した面ではなく、先端位置P1と境界位置P2との間で第1面22aとの離間距離が変わらない形状であってもよい。
【0100】
○ 露出部27の積層方向Zにおける寸法は、被覆部26の積層方向Zにおける寸法以下であってもよい。すなわち、第3寸法T3は第2寸法T2以下であってもよい。この場合、積層方向Zに沿った正極活物質層23の断面において、先端部27aは被覆部26と並ぶことになる。
【0101】
○ 正極活物質層23は、3つ以上の構成層23aで構成されてもよい。この場合も、3つ以上の構成層23aのうち、積層方向Zにおいて隣り合う2つの構成層23aを、第1層24及び第2層25とする。第2層25は、積層方向Zにおいて第1層24よりも正極集電体22寄りに位置する。第2層25は、第1層24よりも、正極活物質の比率が低く、且つ結着剤の比率が高い。第2層25は、積層方向Zから見た平面視において、第1層24よりも大きく、且つ第1層24の全体と重なっている。
【0102】
○ 第2層25における正極活物質の比率は、第1層24以上であってもよい。第2層25における結着剤の比率は、第1層24以下であってもよい。
○ 正極21は、第1方向Xあるいは第2方向Yに並ぶ複数の正極活物質層23を備えてもよい。負極31は、第1方向Xあるいは第2方向Yに並ぶ複数の負極活物質層33を備えてもよい。
【0103】
○ 正極集電体22の平面視形状は特に限定されるものではない。正極集電体22の平面視形状は、例えば正方形状等の多角形状であってもよいし、円形状や楕円形状であってもよい。負極集電体32の平面視形状についても同様である。
【0104】
○ 蓄電装置10は、例えばニッケル水素二次電池等のリチウムイオン二次電池以外の二次電池であってもよい。蓄電装置10は、電気二重層キャパシタであってもよいし、全固体電池であってもよい。
【符号の説明】
【0105】
P1…先端位置、P2…境界位置、Z…積層方向、10…蓄電装置、21…正極、22…正極集電体、22a…第1面、23…正極活物質層、23a…構成層、24…第1層、25…第2層、26…被覆部、27…露出部、27a…先端部、27c…傾斜面、31…負極、32…負極集電体、50…シール部材。
図1
図2
図3
図4