(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022075294
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】血中アンモニア濃度を低下させる剤
(51)【国際特許分類】
A61K 35/742 20150101AFI20220511BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20220511BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220511BHJP
A61K 31/702 20060101ALI20220511BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
A61K35/742
A61P7/00
A61P43/00 121
A61K31/702
A61P25/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020185985
(22)【出願日】2020-11-06
(71)【出願人】
【識別番号】000226415
【氏名又は名称】物産フードサイエンス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(71)【出願人】
【識別番号】000114282
【氏名又は名称】ミヤリサン製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】門田 吉弘
(72)【発明者】
【氏名】栃尾 巧
(72)【発明者】
【氏名】寺井 崇二
(72)【発明者】
【氏名】土屋 淳紀
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智彰
(72)【発明者】
【氏名】高橋 志達
(72)【発明者】
【氏名】岡 健太郎
【テーマコード(参考)】
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA01
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA15
4C086ZA51
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC69
4C087MA02
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA15
4C087ZA51
4C087ZC75
(57)【要約】
【課題】 安全かつ効果的に血中アンモニア濃度を低下させる技術を提供する。
【解決手段】 クロストリジウム・ブチリカム、1-ケストース、またはクロストリジウム・ブチリカムおよび1-ケストースを有効成分とする、血中アンモニア濃度を低下させる剤。本発明によれば、安全かつ効果的に血中アンモニア濃度を低下させることができる。よって、高アンモニア血症や肝性脳症の予防または改善を図ることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロストリジウム・ブチリカムを有効成分とする、血中アンモニア濃度を低下させる剤。
【請求項2】
1-ケストースを有効成分とする、血中アンモニア濃度を低下させる剤。
【請求項3】
クロストリジウム・ブチリカムおよび1-ケストースを有効成分とする、血中アンモニア濃度を低下させる剤。
【請求項4】
高アンモニア血症の予防または改善に用いられることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の剤。
【請求項5】
肝性脳症の予防または改善に用いられることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロストリジウム・ブチリカムおよび/または1-ケストースを有効成分とする、血中アンモニア濃度を低下させる剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内では、食餌由来のタンパク質や体を構成するタンパク質および核酸の代謝の過程で、アンモニアが絶えず産生されている。アンモニアは有毒な物質であるため、生体には、下記(i)~(iv)に示すような、アンモニアを除去する複数の系が存在する。
(i)肝臓における尿素回路(オルニチン回路)。
(ii)全組織における酸アミド生成。
(iii)主として肝臓における、ケト酸との反応。
(iv)腎臓における尿への直接排泄。
【0003】
上記(i)の尿素回路は、アンモニア除去系の中心である。尿素回路に取り込まれたアンモニアは、無毒な尿素に変換され、尿として体外に排泄される。(ii)の酸アミド生成では、アンモニアとグルタミン酸とから、グルタミナーゼの働きによりグルタミンが生成される。また、アンモニアとアスパラギン酸とから、アスパラギナーゼの働きによりアスパラギンが生成される。(iii)ケト酸との反応では、アンモニアとα-ケトグルタル酸とから、グルタミン酸脱水素酵素の働きによりグルタミン酸が生成される。(iv)の直接排泄では、腎臓でグルタミン酸からアンモニアが生成され尿中に直接排泄される(非特許文献1)。
【0004】
これら複数の系が働くことにより、たとえアンモニア除去系の一部に軽度な障害が生じたとしても、血中のアンモニアは低濃度(10~70μg/dL程度)に保たれるようになっている。一方、肝硬変や肝がん、劇症肝炎などの重篤な肝臓疾患や先天性の尿素回路酵素欠損症など、この系に重度な障害を生じた場合は、アンモニアの除去が不十分となり、血中のアンモニアが高濃度(高アンモニア血症)になる。高アンモニア血症が進めば、中枢神経系の機能を阻害して、意識障害を主とした精神神経症状を呈するほか、重篤な場合は昏睡や死に至る。
【0005】
そこで、血中のアンモニアが高濃度となる事態を避けるべく、血中アンモニア濃度を低下させる技術が研究開発されており、例えば、特許文献1には、コラーゲンペプチドを含有する、血中アンモニア濃度を低下させる飲食物または経口投与用医薬組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S.Terada、福岡大学理学部機能生物化学研究室、講義資料、代謝マップ、アミノ酸の代謝、尿素回路、最終更新日 2006/6/3、[online]、[令和2年6月12日検索]、インターネット<URL: http://133.100.212.50/~bc1/Biochem/ureacycl.htm>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、未だに、安全で、かつ効果的に血中アンモニア濃度を低下させる技術は十分に供給されている状況とはいえない。本発明は、係る課題を解決するためになされたものであって、安全かつ効果的に、血中アンモニア濃度を低下させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、クロストリジウム・ブチリカムおよび1-ケストースが、血中アンモニア濃度を低下させることを見出した。そこで、係る知見に基づいて、下記の各発明を完成した。
【0010】
(1)本発明に係る血中アンモニア濃度を低下させる剤(以下、「血中アンモニア濃度の低下剤」あるいは「本剤」という場合がある。)の第1の態様は、クロストリジウム・ブチリカムを有効成分とする。
【0011】
(2)本発明に係る血中アンモニア濃度の低下剤の第2の態様は、1-ケストースを有効成分とする。
【0012】
(3)本発明に係る血中アンモニア濃度の低下剤の第3の態様は、クロストリジウム・ブチリカムおよび1-ケストースを有効成分とする。
【0013】
(4)本発明に係る血中アンモニア濃度の低下剤は、高アンモニア血症の予防または改善に用いることができる。
【0014】
(5)本発明に係る血中アンモニア濃度の低下剤は、肝性脳症の予防または改善に用いることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、血中アンモニア濃度を低下させることができる。
【0016】
クロストリジウム・ブチリカムは、嫌気性のグラム陽性桿菌であり、芽胞を形成する。整腸剤や飼料添加物として広く市販されており、人や家畜などの哺乳動物に長期間にわたって摂取されてきた経験があることから、安全性は高い。よって、本発明によれば、安全に、血中アンモニア濃度を低下させることができる。
【0017】
また、クロストリジウム・ブチリカムは、芽胞の状態では、熱や酸など様々な外的環境に対して高い抵抗性を有する。また、乾燥させて粉末の形態に加工することができ、強いにおいや味を呈さない。これらのことから、クロストリジウム・ブチリカムは、そのまま、あるいは様々な食品や医薬品、飼料等に容易に配合して、日常的に簡便に摂取することができる。したがって、本発明によれば、安全性が高く、そのまま、あるいは様々な食品や医薬品、飼料等に容易に配合して日常的に簡便に摂取することができる、血中アンモニア濃度の低下剤を得ることができる。
【0018】
1-ケストースは、1分子のグルコースと2分子のフルクトースからなる三糖類のオリゴ糖である。1-ケストースは、タマネギやニンニク、大麦、ライ麦などの野菜や穀物にも含まれていて、古来より食経験を有することや、変異原性試験、急性毒性試験、亜慢性毒性試験および慢性毒性試験のいずれにおいても毒性が認められていないことから、安全性は高い。よって、本発明によれば、安全に、血中アンモニア濃度を低下させることができる。
【0019】
また、1-ケストースは、砂糖と同等の高い溶解性や耐熱性を有し、甘味度は砂糖の3分の1程度で、砂糖に似た良好な甘味を呈する。このことから、そのまま、あるいは甘味料等の調味料として、日常的に簡便に摂取することができるほか、様々な食品や医薬品、飼料等に容易に配合することができる。したがって、本発明によれば、安全性が高く、そのまま、あるいは様々な食品や医薬品、飼料等に容易に配合して日常的に簡便に摂取することができる、血中アンモニア濃度の低下剤を得ることができる。
【0020】
高アンモニア血症は、アンモニアの血中濃度が基準値(15~70μg/dL)を逸脱して高値となった状態をいう。高アンモニア血症は、肝障害や薬物、感染症などによりアンモニア除去系に重度な障害が生じた場合に起こり、進行すれば、様々な意識障害を呈し最悪の場合は死に至ることもある。本発明によれば、血中アンモニア濃度を低下させることにより、高アンモニア血症の予防または改善に寄与することができる。
【0021】
肝性脳症は、重度の肝機能障害に伴って、精神神経症状(睡眠覚醒リズムの障害、記銘力や見当識の障害、異常言動、うつ状態、傾眠、興奮・せん妄状態、昏睡、てんかん発作、羽ばたき振戦)、ミオクローヌス、筋固縮など)を呈する状態をいう。肝性脳症の主な原因として、肝臓の機能低下により上述の(i)や(iii)といったアンモニア除去系が機能不全に陥り、高濃度のアンモニアが脳に達して脳機能を低下させることが挙げられる。本発明によれば、血中アンモニア濃度を低下させることにより、肝性脳症の予防または改善に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】クロストリジウム・ブチリカムおよび/または1-ケストースを摂取させたマウスにおける、血清アンモニア濃度を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明に係る血中アンモニア濃度の低下剤には、以下1~3の態様がある;
第1の態様:クロストリジウム・ブチリカムを有効成分とする。
第2の態様:1-ケストースを有効成分とする。
第3の態様:クロストリジウム・ブチリカムおよび1-ケストースを有効成分とする。
【0024】
「血中アンモニア濃度」とは、血液中のアンモニアの濃度をいう。血中アンモニア濃度は公知の測定方法(直接比色法、ドライケミストリー法、酵素法(GIDH-UV法)、酵素法(NADS-UV法)、酵素サイクリング法など)に従って測定することができる。測定にあたっては、被験者から血液を採取し、測定方法に応じて、全血のまま、あるいは血漿または血清を調製して検体とする。簡便には、上記測定方法の原理に基づく市販の測定キットや測定試薬を用いて測定することができる。
【0025】
クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)は、市販のものを用いてもよく、カルチャーコレクションに寄託されたものを用いてもよい。市販のものとしては、例えば、ミヤリサン製薬(株)から市販されている生菌剤(商品名:ミヤBM(登録商標)細粒、ミヤBM(登録商標)錠、新ミヤリサンアイジ(登録商標)整腸薬、ミヤリサン(登録商標)錠、強ミヤリサン(登録商標)錠)を例示することができる。
【0026】
また、カルチャーコレクションに寄託されたものとしては、例えば、クロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ588(FERM BP-2789)、クロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ585(FERM BP-6815)、クロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ595(FERM BP-6816)、クロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ630(FERM BP-6817)、クロストリジウム・ブチリカム・NIP1020(FERM BP-5794)、クロストリジウム・ブチリカム・NIP1021(FERM BP-5795)、クロストリジウム・ブチリカム(FERM P-11868)、クロストリジウム・ブチリカム(FERM P-11869)、クロストリジウム・ブチリカム(FERM P-11870)、クロストリジウム・ブチリカム(ATCC859)、クロストリジウム・ブチリカム(NBRC3315)、クロストリジウム・ブチリカム(ATCC860)、クロストリジウム・ブチリカム(ATCC19398)を例示することができる。
【0027】
本発明において、クロストリジウム・ブチリカムは、1種のみが単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。また、クロストリジウム・ブチリカムは、これを培養した培養液、当該培養液を遠心分離して得られるクロストリジウム・ブチリカムを含む残渣、あるいはこれらの乾燥物の形態で用いてもよい。
【0028】
クロストリジウム・ブチリカムの培養は、公知の培養、例えば、特願平08-252088号に開示された方法により行うことができる。培養条件は、用いる微生物株に応じて適宜設定することができるが、例えば、クロストリジウム・ブチリカムを培地(1.0(w/v)%ペプトン、1.0(w/v)% 酵母エキス、1.0(w/v)% コーンスターチおよび0.2(w/v)% 沈降炭酸カルシウム、pH6.5~7.5)に105~106個/mLになるように接種し、37℃にて48時間静置培養すればよい。なお、クロストリジウム・ブチリカムは偏性嫌気性であるため、通気しない、または窒素もしくは炭酸ガスを通気しながら、または培地中に還元剤を加えることにより酸化還元電位を下げるなどによって嫌気的条件下培養されることが好ましい。これにより得られた培養液を遠心分離して沈殿物を回収すれば、クロストリジウム・ブチリカムを含む培養液残渣が得られる。また、この残渣を風乾または減圧乾燥により処理すれば、乾燥物を得ることができる。風乾の条件としては、0~80℃、好ましくは10~20℃で、1~24時間、好ましくは5~18時間を例示することができる。減圧乾燥の条件としては、0~80℃、好ましくは10~20℃、0.05~500Torr、好ましくは1~100Torrで、1~24時間、好ましくは2~15時間を例示することができる。
【0029】
1-ケストースは、スクロースを基質として、特開昭58-201980号公報に開示されているような酵素による酵素反応を行うことにより作ることができる。具体的には、まず、β-フルクトフラノシダーゼをスクロース溶液に添加し、37℃~50℃で20時間程度静置することにより酵素反応を行って、1-ケストースを生成させる。生成した1-ケストースを含有する酵素反応液を、特開2000-232878号公報で開示されているようなクロマト分離法に供することにより、1-ケストースと他の糖(ブドウ糖、果糖、ショ糖、4糖以上のオリゴ糖)とを分離して精製する。これにより得られた、高純度で1-ケストースを含有する溶液を濃縮した後、特公平6-70075号公報に開示されているような結晶化法で結晶化することにより、1-ケストースの結晶、あるいは、純度98質量%以上で1-ケストースを含有する組成物を得ることができる。
【0030】
また、1-ケストースは市販のフラクトオリゴ糖に含まれているため、これをそのまま、あるいは、フラクトオリゴ糖から上述の方法により1-ケストースを分離精製して用いてもよい。すなわち、本発明の1-ケストースとして、1-ケストースを含有するオリゴ糖などの1-ケストース含有組成物を用いてもよい。1-ケストース含有組成物を用いる場合、1-ケストースの純度は80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。なお、本発明において、1-ケストースの「純度」とは、糖の総質量を100とした場合の、1-ケストースの質量%をいう。
【0031】
本発明の剤は、ヒトまたは動物に経口摂取させることにより使用することができるほか、有効成分を経腸栄養剤に添加して、これを、胃や小腸などの消化管に挿入したチューブを経由して経腸栄養法により投与する方法で使用してもよい。
【0032】
本発明の剤は、有効成分であるクロストリジウム・ブチリカムおよび/または1-ケストースのみからなるもののほか、医薬品や医薬部外品、食品添加剤、サプリメント、食品組成物(飲料、調味料、パン、菓子、惣菜、健康食品、乳幼児食品、その他加工食品など)、飼料、飼料添加物などの形態で用いることができる。
【0033】
本発明の剤を医薬品や食品添加剤、サプリメントの形態とする場合、その剤型としては、例えば、散剤、錠剤、糖衣剤、カプセル剤、顆粒剤、ドライシロップ剤、液剤、シロップ剤、ドロップ剤、ドリンク剤等の固形または液状の剤型を挙げることができる。各剤型は、当業者に公知の方法で製造することができ、例えば、散剤(第2の態様)であれば、1-ケストース800gおよび乳糖200gをよく混合した後、90%エタノール300mLを添加して湿潤させる。続いて、湿潤粉末を造粒した後、60℃で16時間通風乾燥し、その後、整粒して、適当な細かさの散剤1000g(1-ケストース含有量800mg/1g)を得ることができる。また、錠剤であれば、1-ケストース300g、粉末還元水飴380g、コメデンプン180gおよびデキストリン100gをよく混合した後、90(v/v)%エタノール300mLを添加して湿潤させ、湿潤粉末を得る。この湿潤粉末を押し出し造粒した後、60℃で16時間通風乾燥して顆粒を得る。この顆粒を850μmの篩を用いて整粒した後、顆粒470gに対してショ糖脂肪酸エステル50gを添加して混合する。これを、ロータリー打錠機(6B-2、菊水製作所)に供して打錠することにより、直径8mm、重量200mgの錠剤5000錠(1-ケストース含有量60mg/1錠)を得ることができる。
【0034】
また、本発明の剤を食品組成物の形態とする場合は、通常の飲食物の製造過程で、クロストリジウム・ブチリカムおよび/または1-ケストースを添加して製造すればよい。クロストリジウム・ブチリカムは芽胞形成性で、高い耐熱性や耐酸性を有する。また、乾燥させて粉末の形態に加工することができ、強いにおいや味を呈さない。1-ケストースも耐熱性が高く、砂糖に近い味質・物性・加工性を有する。このことから、クロストリジウム・ブチリカムおよび/または1-ケストースは、各種飲食物の製造過程において、砂糖などの調味料と同様に扱って各種飲食物を製造することができる。
【0035】
本剤をヒトや動物に対して用いる場合の有効成分の摂取量(投与量)としては、例えば、1-ケストースであれば、1日あたり0.04g/kg体重以上を挙げることができる。また、クロストリジウム・ブチリカムであれば、その培養液、培養液を遠心分離して得られる菌を含む残渣、あるいは残渣の乾燥物を、固形分換算で、1日あたり20~360mg/成人1人、40~200mg/成人1人、または60~120mg/成人1人を例示することができる。係る摂取量は、1日1回に限らず、複数回に分割して摂取してもよい。
【0036】
以下、本発明について、各実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例0037】
本実施例においては、「1-ケストース」として、純度98質量%以上で1-ケストースを含有する組成物(物産フードサイエンス社)を用いた。また、「クロストリジウム・ブチリカム」として、受託番号がFERM BP-2789であるクロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ588を含有する粉末(菌数:109~1010/g)を用いた。
【0038】
メラノコルチン4型受容体欠損マウス(MC4R-KOマウス)は、テキサス大学サウスウエスタン・メディカル・センター(米国テキサス州)のJoel K. Elmquist博士より譲渡された。MC4R-KOマウスは、C57BL/6Jマウスを遺伝的背景として、中枢性摂食調節に重要な役割を果たすメラノコルチン4型受容体(MC4R)を欠くマウスで、高脂肪食を摂取させると非アルコール性脂肪肝炎を発症する(M. Itoh et al., The American Journal of Pathology, Vol. 179, No. 5, 2454-2463, November 2011)。
【0039】
8週齢の雄のMC4R-KOマウスを8匹ずつI~IVの4群に分けた。各群のマウスを1匹ずつ個別の檻に入れ、温度22~26℃、湿度40~60%、明期12時間および暗期12時間、自由飲水、ならびに自由摂食の環境下で12週間飼育した。飼料は、下記のとおり、高脂肪食(D12492;524kcal/100g, 総エネルギーに占める脂肪の割合が60%; Research Diets Inc., ニュージーランド)、もしくは、高脂肪食にクロストリジウム・ブチリカムおよび/または1-ケストースを添加したものを与えた。
I群:高脂肪食
II群:高脂肪食にクロストリジウム・ブチリカムを添加したもの(クロストリジウム・ブチリカムの濃度 2.0g/飼料100g)
III群:高脂肪食に1-ケストースを添加したもの(1-ケストースの濃度 2.5g/飼料100g)
IV群:高脂肪食にクロストリジウム・ブチリカムおよび1-ケストースを添加したもの(クロストリジウム・ブチリカムの濃度 2.0g/飼料100g、1-ケストースの濃度 2.5g/飼料100g)
【0040】
飼料の摂取量に基づき、1日のクロストリジウム・ブチリカムおよび1-ケストースの摂取量について、各群の平均値を算出した。また、飼育期間終了後、採血して血清を調製し、酵素サイクリング法に基づく血中アンモニア濃度測定キット「シカリキッドNH
3」(関東化学)によりアンモニア濃度を測定した。測定したアンモニア濃度について、群毎に平均値および標準偏差を算出した。飼料摂取量、クロストリジウム・ブチリカム摂取量、1-ケストース摂取量、およびアンモニア濃度の平均値を表1に示す。また、アンモニア濃度の測定結果を表2に示す。また、アンモニア濃度の平均値の棒グラフを
図1に示す。
【表1】
【0041】
【0042】
表1、表2および
図1に示すように、I群と比較して、II群、III群およびIV群では血清アンモニア濃度が低かった。特に、IV群ではI群よりも顕著に血清アンモニア濃度が低かった。この結果から、クロストリジウム・ブチリカムおよび1-ケストースは、血中アンモニア濃度を低下させることが明らかになった。