(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022075296
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】多層容器
(51)【国際特許分類】
B65D 1/02 20060101AFI20220511BHJP
B32B 1/02 20060101ALI20220511BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20220511BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20220511BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20220511BHJP
C08L 77/02 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
B65D1/02 110
B32B1/02
B32B27/34
B32B27/36
C08L67/00
C08L77/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020185987
(22)【出願日】2020-11-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮部 高徳
(72)【発明者】
【氏名】小田 尚史
【テーマコード(参考)】
3E033
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
3E033AA01
3E033BA17
3E033BA21
3E033BA30
3E033BB08
3E033CA07
3E033CA16
3E033CA20
3E033DA02
3E033FA02
3E033FA03
4F100AK41A
4F100AK41C
4F100AK41E
4F100AK42A
4F100AK42C
4F100AK42E
4F100AK46B
4F100AK46D
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA05
4F100BA06
4F100BA08
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100DA01A
4F100DA01B
4F100DA01C
4F100DA01D
4F100DA01E
4F100GB16
4F100GB23
4F100JD03
4F100JL04
4F100YY00B
4F100YY00D
4J002CF04W
4J002CF05W
4J002CF06W
4J002CL01X
4J002GF00
4J002GG01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】酸素バリア性と熱安定性に優れ、耐デラミネーション性にも優れる多層容器及びその製造方法を提供する。
【解決手段】芳香族ポリエステル樹脂(A)を含有するポリエステル層と、ポリアミド樹脂(B)、ポリグリコール酸(C)及び酸化促進剤(D)を含有する混合樹脂層と、を有し、前記混合樹脂層中のポリアミド樹脂(B)とポリグリコール酸(C)との質量比[(B)/(C)]が25/75~95/5であり、ポリアミド樹脂(B)が、キシリレンジアミンに由来する構成単位を70モル%以上含むジアミンに由来する構成単位と、炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位を70モル%以上含むジカルボン酸に由来する構成単位を有する、多層容器5である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリエステル樹脂(A)を含有するポリエステル層と、
ポリアミド樹脂(B)、ポリグリコール酸(C)及び酸化促進剤(D)を含有する混合樹脂層と、を有し、
前記混合樹脂層中のポリアミド樹脂(B)とポリグリコール酸(C)との質量比[(B)/(C)]が25/75~95/5であり、
ポリアミド樹脂(B)が、キシリレンジアミンに由来する構成単位を70モル%以上含むジアミンに由来する構成単位と、炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位を70モル%以上含むジカルボン酸に由来する構成単位を有する、多層容器。
【請求項2】
2~5層構造である、請求項1に記載の多層容器。
【請求項3】
容器の外側から、ポリエステル層/混合樹脂層の順に積層した2層構造、ポリエステル層/混合樹脂層/ポリエステル層の順に積層した3層構造、又はポリエステル層/混合樹脂層/ポリエステル層/混合樹脂層/ポリエステル層の順に積層した5層構造のいずれかである、請求項1又は2に記載の多層容器。
【請求項4】
酸化促進剤(D)が、コバルトの脂肪族カルボン酸塩である、請求項1~3のいずれか1つに記載の多層容器。
【請求項5】
多層容器の全層の厚さが50~500μmである、請求項1~4のいずれか1つに記載の多層容器。
【請求項6】
容量が200~600mLである、請求項1~5のいずれか1つに記載の多層容器。
【請求項7】
芳香族ポリエステル樹脂(A)が、テレフタル酸に由来する構成単位を90モル%以上含むジカルボン酸に由来する構成単位と、エチレングリコールに由来する構成単位を90モル%以上含むジオールに由来する構成単位を有する、請求項1~6のいずれか1つに記載の多層容器。
【請求項8】
ポリアミド樹脂(B)が、キシリレンジアミンに由来する構成単位を80モル%以上含むジアミンに由来する構成単位と、アジピン酸に由来する構成単位を80モル%以上含むジカルボン酸に由来する構成単位を有する、請求項1~7のいずれか1つに記載の多層容器。
【請求項9】
前記混合樹脂層中のポリアミド樹脂(B)とポリグリコール酸(C)との質量比[(B)/(C)]が55/45~75/25である、請求項1~8のいずれか1つに多層容器。
【請求項10】
ポリエステル層が、芳香族ポリエステル樹脂(A)とポリグリコール酸(C)を含有する、請求項1~9のいずれか1つに記載の多層容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)に代表されるポリエステル樹脂は、透明性、機械的特性、溶融安定性、リサイクル性等に優れるという特徴を有することから、現在、フィルム、シート、中空容器等の各種包装材料に広く利用されている。
一方、特にボトル用途では、ポリエステル樹脂のみからなる中空容器では、炭酸ガス、酸素等に対するガスバリア性が十分ではないため、ガスバリア性に優れる樹脂と多層化を行うことにより、ガスバリア性を向上させる試みがなされている。
たとえば、特許文献1には、高湿度下でのバリア性と耐熱性、成型加工性を向上させるために、芳香族ジアミンを主成分とするジアミン成分とジカルボン酸とから得られる骨格中に芳香環を含むポリアミドと、ポリグリコール酸またはポリエチレンオキサレートをバリア層とする多層構造物が開示されている。
また、特許文献2には、長期にわたるガスバリア性の効果を有する容器として、一層以上のガスバリア層が設けられてなる、複数層から構成されるプラスチック製容器であって、容器内側の全面に無機酸化物を主体とする薄膜が形成されてなる、プラスチック製容器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-211159号公報
【特許文献2】特開2005-271959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、清涼飲料だけでなく、様々な飲料や食品に対してポリエステル樹脂容器が用いられている。たとえば、常時加温して使用する飲料用や、高温で充填する飲料や食品用にも用いられており、ポリエステル樹脂容器には、高温時に寸法の変化の少ない、熱安定性も1つの重要な性能となっている。前記特許文献の容器では、熱安定性についてはいまだ十分ではなく、ガスバリア性は従来のものより向上しているものの、内容物の多様化に伴い、ガスバリア性、特に酸素バリア性にさらに優れたものが求められていた。また、性状や分子構造の異なる樹脂を多層化することにより、各樹脂層間が剥離してしまう(デラミネーション)という問題もあった。
そこで、本発明は、酸素バリア性と熱安定性に優れ、耐デラミネーション性にも優れる多層容器及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上記課題に鑑みて鋭意検討した結果、ポリエステル層と、特定のポリアミド樹脂とポリグリコール酸を特定比率で含み、さらに酸化促進剤を含む混合樹脂層を設けた多層容器により上記の課題が解決されることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は、以下の〔1〕~〔10〕を提供する。
【0006】
〔1〕芳香族ポリエステル樹脂(A)を含有するポリエステル層と、ポリアミド樹脂(B)、ポリグリコール酸(C)及び酸化促進剤(D)を含有する混合樹脂層と、を有し、前記混合樹脂層中のポリアミド樹脂(B)とポリグリコール酸(C)との質量比[(B)/(C)]が25/75~95/5であり、ポリアミド樹脂(B)が、キシリレンジアミンに由来する構成単位を70モル%以上含むジアミンに由来する構成単位と、炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位を70モル%以上含むジカルボン酸に由来する構成単位を有する、多層容器。
〔2〕2~5層構造である、〔1〕に記載の多層容器。
〔3〕容器の外側から、ポリエステル層/混合樹脂層の順に積層した2層構造、ポリエステル層/混合樹脂層/ポリエステル層の順に積層した3層構造、又はポリエステル層/混合樹脂層/ポリエステル層/混合樹脂層/ポリエステル層の順に積層した5層構造のいずれかである、〔1〕又は〔2〕に記載の多層容器。
〔4〕酸化促進剤(D)が、コバルトの脂肪族カルボン酸塩である、〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の多層容器。
〔5〕多層容器の全層の厚さが50~500μmである、〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載の多層容器。
〔6〕容量が200~600mLである、〔1〕~〔5〕のいずれか1つに記載の多層容器。
〔7〕芳香族ポリエステル樹脂(A)が、テレフタル酸に由来する構成単位を90モル%以上含むジカルボン酸に由来する構成単位と、エチレングリコールに由来する構成単位を90モル%以上含むジオールに由来する構成単位を有する、〔1〕~〔6〕のいずれか1つに記載の多層容器。
〔8〕ポリアミド樹脂(B)が、キシリレンジアミンに由来する構成単位を80モル%以上含むジアミンに由来する構成単位と、アジピン酸に由来する構成単位を80モル%以上含むジカルボン酸に由来する構成単位を有する、〔1〕~〔7〕のいずれか1つに記載の多層容器。
〔9〕前記混合樹脂層中のポリアミド樹脂(B)とポリグリコール酸(C)との質量比[(B)/(C)]が55/45~75/25である、〔1〕~〔8〕のいずれか1つに多層容器。
〔10〕ポリエステル層が、芳香族ポリエステル樹脂(A)とポリグリコール酸(C)を含有する、〔1〕~〔9〕のいずれか1つに記載の多層容器。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、酸素バリア性と熱安定性に優れ、耐デラミネーション性にも優れる多層容器及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、コールドパリソン成形の各工程を示す概念模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の多層容器は、芳香族ポリエステル樹脂(A)を含有するポリエステル層と、ポリアミド樹脂(B)、ポリグリコール酸(C)及び酸化促進剤(D)を含有する混合樹脂層と、を有し、前記混合樹脂層中のポリアミド樹脂(B)とポリグリコール酸(C)との質量比[(B)/(C)]が25/75~95/5であり、ポリアミド樹脂(B)が、キシリレンジアミンに由来する構成単位を70モル%以上含むジアミンに由来する構成単位と、炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位を70モル%以上含むジカルボン酸に由来する構成単位を有する。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
[ポリエステル層]
本発明の多層容器を構成するポリエステル層は、芳香族ポリエステル樹脂(A)を含有する。
【0011】
<芳香族ポリエステル樹脂(A)>
本発明に用いられる芳香族ポリエステル樹脂(A)は、ジカルボン酸とジオールの共重合体、ラクトンあるいはヒドロキシカルボン酸の重合体、またこれらモノマーの混合物の共重合体が挙げられ、ジカルボン酸とジオールの共重合体が好ましい。
好ましい芳香族ポリエステル樹脂(A)は、ジカルボン酸に由来する構成単位(以下、「ジカルボン酸単位」ともいう。)と、ジオールに由来する構成単位(以下、「ジオール単位」ともいう。)とを有する。
【0012】
ジカルボン酸単位が、テレフタル酸に由来する構成単位を90モル%以上含むことが好ましく、95モル%以上がより好ましく、99モル%以上が更に好ましい。また、上限には制限はなく、100モル%以下である。ジカルボン酸単位中のテレフタル酸に由来する構成単位が90モル%以上であれば、ポリエステル樹脂が非晶質となりにくく、そのため、該ポリエステル樹脂を使用して容器を作製した場合、熱収縮しにくくなり、耐熱性が良好となる。
また、ジオール単位が、エチレングリコールに由来する構成単位を90モル%以上含むことが好ましく、95モル%以上がより好ましく、99モル%以上が更に好ましい。上限には制限はなく、100モル%以下である。
すなわち、芳香族ポリエステル樹脂(A)のジカルボン酸単位とジオール単位の組み合わせとして、芳香族ポリエステル樹脂(A)は、テレフタル酸に由来する構成単位を90モル%以上含むジカルボン酸に由来する構成単位と、エチレングリコールに由来する構成単位を90モル%以上含むジオールに由来する構成単位を有することが好ましく、主成分がポリエチレンテレフタレートからなるものであることがより好ましい。
【0013】
芳香族ポリエステル樹脂(A)には、テレフタル酸以外のジカルボン酸、エチレングリコール以外のジオール等の二官能性化合物由来の構成単位を含んでもよい。
テレフタル酸以外のジカルボン酸としては、スルホフタル酸、スルホフタル酸金属塩及びテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸は、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、及び4,4’-ビフェニルジカルボン酸が好ましい。
エチレングリコール以外のジオールは、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノールが好ましい。
【0014】
更に、芳香族ポリエステル樹脂(A)には、モノカルボン酸、モノアルコール等の単官能性化合物由来の構成単位を含んでもよく、カルボキシ基及びヒドロキシ基から選択されるエステル形成基を少なくとも3つ有する多官能性化合物由来の構成単位を含んでいてもよい。
【0015】
芳香族ポリエステル樹脂(A)は、公知の直接エステル化法やエステル交換法によって製造することができる。芳香族ポリエステル樹脂(A)の製造時に使用する重縮合触媒としては、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、アルミニウム化合物等を用いることができる。
また、芳香族ポリエステル樹脂(A)は、リサイクル済みポリエステルを含んでもよく、2種以上の樹脂の混合物でもよい。
【0016】
芳香族ポリエステル樹脂(A)の固有粘度は、特に制限はないが、0.5~2.0dl/gが好ましく、0.6~1.5dl/gがより好ましい。固有粘度が0.5dl/g以上であるとポリエステル樹脂の分子量が充分に高いために、容器は構造物として必要な機械的性質を発現することができる。
なお、固有粘度は、フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン(=6/4質量比)混合溶媒に、測定対象のポリエステル樹脂を溶解して0.2、0.4、0.6g/dL溶液を調製し、25℃にて自動粘度測定装置(マルバーン社製、Viscotek)により固有粘度を測定したものである。
【0017】
<芳香族ポリエステル樹脂(A)以外の樹脂>
本発明の容器において、ポリエステル層には、本発明の効果を損なわない範囲で、芳香族ポリエステル樹脂(A)以外の樹脂を含んでいてもよい。
芳香族ポリエステル樹脂(A)以外の樹脂としては、耐デラミネーション性の観点から、脂肪族ポリエステル樹脂が好ましく、ポリグリコール酸がより好ましい。ポリグリコール酸としては、後述のポリグリコール酸(C)で定義するポリグリコール酸がより好ましい。すなわち、芳香族ポリエステル樹脂(A)以外の樹脂を含む場合、ポリエステル層が、芳香族ポリエステル樹脂(A)とポリグリコール酸(C)を含有することが更に好ましい。ポリエステル層にポリグリコール酸(C)を含有する場合、ポリグリコール酸(C)の含有量は、1~20質量%が好ましく、2~15質量%がより好ましく、5~10質量%が更に好ましい。
芳香族ポリエステル樹脂(A)の含有量は、ポリエステル層中、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上が更に好ましく、99質量%以上がより更に好ましい。また、上限には制限はなく、100質量%以下である。
【0018】
<その他の成分>
本発明の多層容器を構成するポリエステル層が含有するその他の成分としては、リサイクル助剤が例示される。
【0019】
リサイクル助剤は、リサイクル済みポリエステルを得るにあたり、リサイクル工程における黄変を抑制する効果を有する化合物であり、リサイクル助剤として、アルデヒド捕捉剤が好ましい。
前記リサイクル助剤としては、ポリエステル樹脂の黄変を抑制する能力を有し、かつ、アミノ基を含有する化合物が好ましく、具体的には、アントラニルアミド、アントラニル酸、及びナイロン6I/6Tよりなる群から選択される少なくとも1つの化合物であることがより好ましい。
【0020】
ポリエステル層は、前記成分に加え、着色剤、熱安定剤、光安定剤、防湿剤、防水剤、滑剤、展着剤等の添加物を含んでもよい。
【0021】
着色剤としては、白、緑、茶、青、黒色の染料、及び白、緑、茶、青、黒色の顔料が好ましい。着色剤を含むことで遮光性が付与され、内容物を保護することができ、意匠性にも優れるものとなり、好ましい。着色剤は、顔料等が樹脂中に分散されたマスターバッチを用いることが好ましい。
【0022】
[混合樹脂層]
本発明の多層容器を構成する混合樹脂層は、ポリアミド樹脂(B)、ポリグリコール酸(C)及び酸化促進剤(D)を含有する。
前記混合樹脂層中のポリアミド樹脂(B)とポリグリコール酸(C)との質量比[(B)/(C)]は、25/75~95/5であり、30/70~90/10であることが好ましく、40/60~80/20がより好ましく、45/55~75/25が更に好ましく、55/45~75/25がより更に好ましい。ポリアミド樹脂とポリグリコール酸の比を前記の範囲にすることで、高い酸素吸収性を維持しつつ、耐熱性にも優れる。
【0023】
<ポリアミド樹脂(B)>
ポリアミド樹脂(B)は、キシリレンジアミンに由来する構成単位を70モル%以上含むジアミンに由来する構成単位(以下、ジアミン単位ともいう。)と、炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位を70モル%以上含むジカルボン酸に由来する構成単位(以下、ジカルボン酸単位ともいう。)を有する。
【0024】
ポリアミド樹脂(B)のジアミンに由来する構成単位(以下、ジアミン単位ともいう。)を構成する化合物であるジアミンとしては、キシリレンジアミンが好ましい。
ポリアミド樹脂(B)は、ジアミンに由来する構成単位中にキシリレンジアミンに由来する構成単位を70モル%以上含み、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、95モル%以上が更に好ましい。また、上限には制限はなく、100モル%以下である。ジアミン単位の70モル%以上をキシリレンジアミンに由来する構成単位とすることにより、本発明の多層容器に対して高いガスバリア性を付与することができる。
なお、キシリレンジアミンは、オルト、メタ、パラのいずれのキシリレンジアミンでもよいが、入手容易性の観点から、メタキシリレンジアミンであることが好ましい。
【0025】
ポリアミド樹脂(B)のジアミン単位を構成する化合物として、キシリレンジアミン以外のジアミンとして、芳香環構造を有するジアミン、脂肪族ジアミン、脂環式構造を有するジアミンが挙げられ、入手性が容易であり、無色性と接着性を高める点から、脂肪族ジアミンが好ましい。
【0026】
脂肪族ジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、及び5-メチルノナメチレンジアミン等が挙げられる。
脂環式構造を有するジアミンとしては、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1-アミノ-3-アミノメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、及びアミノエチルピペラジン等が挙げられる。
なお、本発明の効果を損なわない範囲で、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン等の3価以上の多価アミンやブチルアミン、ヘキシルアミン、及びオクチルアミン等のモノアミンを用いてもよい。
【0027】
ポリアミド樹脂(B)は、ジカルボン酸単位中に炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位を70モル%以上含むことが好ましく、80モル%以上がより好ましく、90モル%以上が更に好ましく、95モル%以上がより更に好ましい。また、上限には制限はなく、100モル%以下である。ジカルボン酸単位の70モル%以上を炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位とすることにより、得られる多層容器の無色性と耐デラミネーション性を効率よく高めることができる。
【0028】
炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,10-デカンジカルボン酸、1,11-ウンデカンジカルボン酸、1,12-ドデカンジカルボン酸が挙げられ、アジピン酸、セバシン酸が好ましく、アジピン酸がより好ましい。これらのα、ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
ポリアミド樹脂(B)のジカルボン酸単位を構成しうる化合物として、炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸以外に、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸、ペンタシクロドデカンジカルボン酸、イソホロンジカルボン酸、及び3,9-ビス(2-カルボキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン等の脂環式構造を有するジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、オルソフタル酸、2-メチルテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸などの芳香環構造を有するジカルボン酸等が例示できる。
なお、本発明の効果を損なわない範囲で、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、及びトリカルバリル酸等の3価以上の多価カルボン酸を用いてもよく、モノカルボン酸を用いてもよい。
【0030】
なお、ポリアミド樹脂(B)を構成する単位として、上述のジアミン単位、ジカルボン酸単位以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で、アミノカルボン酸等に由来する構成単位を含んでもよく、具体的には、脂肪族アミノカルボン酸類に由来する構成単位、芳香族アミノカルボン酸等に由来する構成単位が挙げられる。
【0031】
前記ジカルボン酸単位に用いられるジカルボン酸、多価カルボン酸及びモノカルボン酸を構成する化合物には、無水物及び短鎖アルキルエステルが含まれる。短鎖アルキルエステルとしては、具体的には炭素数1~3、すなわちメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル及びイソプロピルエステルが挙げられ、なかでもメチルエステルが好ましい。また、アミノカルボン酸に由来する構成単位を構成する化合物には、無水物であるラクタムが含まれる。
【0032】
また、ポリアミド樹脂(B)のジアミン単位とジカルボン酸単位の組み合わせは、ポリアミド樹脂(B)が、キシリレンジアミンに由来する構成単位を70モル%以上含むジアミンに由来する構成単位と、炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位を70モル%以上含むジカルボン酸に由来する構成単位を有するものであるが、ポリアミド樹脂(B)が、キシリレンジアミンに由来する構成単位を80モル%以上含むジアミンに由来する構成単位と、アジピン酸に由来する構成単位を80モル%以上含むジカルボン酸に由来する構成単位を有することが好ましい。
【0033】
本発明におけるポリアミド樹脂(B)の具体例としては、ポリアミドMXD6(ポリメタキシリレンアジパミド)、ポリアミドMXD10(ポリメタキシリレンセバカミド)、ポリアミドMXD6I(イソフタル酸共重合ポリメタキシリレンアジパミド)等が挙げられ、入手性、ガスバリア性及び無色性の観点から、ポリアミドMXD6又はポリアミドMXD10が好ましく、ポリアミドMXD6がより好ましい。これらのポリアミド樹脂は単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0034】
(ポリアミド樹脂(B)の製造方法)
ポリアミド樹脂(B)は、溶融重縮合法により製造されることが好ましい。
溶融重縮合法は、ジアミンを溶融状態のジカルボン酸に直接加えて、重縮合する方法によって製造する方法が好ましい。この場合、反応系を均一な液状状態に保つために、ジアミンをジカルボン酸に連続的に加え、その間、反応温度が生成するオリゴアミド及びポリアミドの融点よりも下回らないように反応系の温度を上昇させながら、重縮合を進めることが好ましい。
【0035】
ポリアミド樹脂(B)の重縮合反応系内にはアミド化反応を促進する効果や、重縮合反応時の着色を防止する効果を得るために、リン原子含有化合物を添加することが好ましい。
リン原子含有化合物としては、アミド化反応を促進する効果が高く、かつ着色防止効果にも優れる点から、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸リチウム、次亜リン酸カルシウム等の次亜リン酸金属塩が好ましく、次亜リン酸ナトリウムがより好ましい。
【0036】
ポリアミド樹脂(B)の重縮合反応系内に添加するリン原子含有化合物の添加量は、ポリアミド樹脂(B)中のリン原子濃度換算で、1~500ppmが好ましく、5~450ppmがより好ましく、10~400ppmが更に好ましい。リン原子含有化合物の添加量を前記範囲内にすることで重縮合反応中のポリアミドの着色を防止すると共に、ポリアミドのゲル化を抑制することができるため、得られる容器の外観を良好に保つことができる。
また、ポリアミド樹脂(B)の重縮合反応系内には、リン原子含有化合物と併用してアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を添加してもよい。
【0037】
溶融重縮合法で得られたポリアミド樹脂(B)は、ペレット化した後、乾燥して使用することが好ましく、更に重合度を高めるために固相重合することがより好ましい。
固相重合は、減圧下、ペレットを加熱して行うことが好ましい。
【0038】
(ポリアミド樹脂(B)の特性等)
ポリアミド樹脂(B)の相対粘度は、好ましくは1.5~4.2、より好ましくは1.6~4.0、更に好ましくは1.7~3.8、より更に好ましくは1.9~3.0である。
ポリアミド樹脂(B)の相対粘度を前記範囲に設定することで成形加工性が安定し、外観の良好な容器を得ることができる。
なお、本発明において、ポリアミド樹脂(B)の相対粘度は、以下の方法により測定される。具体的には、ポリアミド樹脂を0.2g精秤し、96質量%硫酸20mlに20~30℃で撹拌溶解する。完全に溶解した後、速やかにキャノンフェンスケ型粘度計に溶液5mlを取り、25℃の恒温漕中で10分間放置後、当該溶液の落下時間(t)を測定する。また、96質量%硫酸の落下時間(t0)も同様に測定する。下記式より、測定したt及びt0の値を用いて、ポリアミド樹脂の相対粘度を算出する。
相対粘度=t/t0
【0039】
ポリアミド樹脂(B)の混合樹脂層中の含有量は、25質量%以上が好ましく、55質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましく、75質量%以上がより更に好ましい。また、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましい。
ポリアミド樹脂(B)の含有量が25質量%以上であると、酸素透過性を十分に抑制し、熱安定性も良好とすることができ、含有量が95質量%以下であると、得られる容器の耐デラミネーション性が良好となる。
また、特に耐デラミネーション性をより向上させる観点から、ポリアミド樹脂(B)の混合樹脂層中の含有量は、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、45質量%以上が更に好ましく、55質量%以上がより更に好ましい。また、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、75質量%以下が更に好ましい。
【0040】
<ポリグリコール酸(C)>
ポリグリコール酸(C)は、グリコール酸の重合体であり、グリコール酸を由来とする[-O-CH2-CO-]を構成単位として含有する。
前記構成単位の割合は70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましい。上限は100質量%である。
前記構成単位以外の構成単位としては、[-O-(CH2)n-O-CO-(CH2)m-CO-](ただしn=1~10、m=0~10)、[-O-CH(CH2)jH-CO-](ただしj=1~10)、[-O-(CR1R2)k-CO-](ただし、R1、R2はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、k=2~10)、[-O-CH2-CH2-CH2-O-CO-]、[-O-CH2-O-CH2-CH2-]等が挙げられ、これらの構成単位により、ポリグリコール酸(C)の融点、分子量、粘度などを調節することができる。
【0041】
ポリグリコール酸(C)は、公知の方法によって製造することができる。たとえば、グリコール酸、又はグリコール酸のエステルの縮重合、グリコリドの開環重合等が挙げられる。
【0042】
ポリグリコール酸(C)のガラス転移温度は、好ましくは30~45℃であり、より好ましくは35~40℃であり、融点は、好ましくは215~230℃であり、より好ましくは220~225℃であり、結晶化温度は、好ましくは60~100℃であり、より好ましくは80~95℃であり、更に好ましくは85~95℃である。これらの温度は、JIS K7121に準拠して測定される。
【0043】
ポリグリコール酸(C)の混合樹脂中の含有量は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、また、75質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、30質量%以下が更に好ましく、25質量%以下がより更に好ましい。ポリグリコール酸(C)の含有量が5質量%以上であると、得られる容器の耐デラミネーション性を高めることができ、75質量%以下とすると、酸素バリア性、熱安定性も良好にすることができる。
また、特に耐デラミネーション性をより向上させる観点から、ポリグリコール酸(C)の混合樹脂中の含有量は、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、25質量%以上が更に好ましい。また、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、55質量%以下が更に好ましく、45質量%以下がより更に好ましい。
【0044】
<酸化促進剤(D)>
本発明において、混合樹脂層は、樹脂の酸化反応を誘起させて酸素吸収機能を高め、酸素バリア性を更に高める目的で、酸化促進剤(D)を含有する。
酸化促進剤(D)は、遷移金属を含む化合物であることが好ましく、遷移金属単体、酸化物、無機酸塩、有機酸塩、及び錯体からなる群より選ばれる少なくとも1つであることがより好ましい。
無機酸塩としては、塩化物や臭化物等のハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩等が挙げられる。
有機酸塩としては、カルボン酸塩、スルホン酸塩、ホスホン酸塩等が挙げられる。
錯体としては、β-ジケトン又はβ-ケト酸エステル等との錯体が挙げられる。
遷移金属を含む化合物に含まれる遷移金属としては、元素周期律表の第VIII族の遷移金属、マンガン、銅、及び亜鉛よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、酸素吸収能を発現させる観点から、コバルト、鉄、マンガン及びニッケルよりなる群から選択される少なくとも1種がより好ましく、コバルトが更に好ましい。
カルボン酸塩は、脂肪族カルボン酸塩が好ましい。脂肪族カルボン酸塩としては、オクタン酸塩、ネオデカン酸塩、ナフテン酸塩、ステアリン酸塩、酢酸塩等が挙げられ、なかでもステアリン酸塩が好ましい。
酸素吸収能を良好に発現させる観点から、遷移金属の脂肪族カルボン酸塩、遷移金属のアセチルアセトナート錯体よりなる群から選択される少なくとも1種を使用することが好ましく、オクタン酸塩、ネオデカン酸塩、ナフテン酸塩、ステアリン酸塩、酢酸塩及びアセチルアセトナート錯体よりなる群から選択される少なくとも1種を使用することがより好ましく、コバルトの脂肪族カルボン酸塩が更に好ましく、オクタン酸コバルト、ナフテン酸コバルト、酢酸コバルト、ステアリン酸コバルトから選ばれる1種以上であることがより更に好ましい。
【0045】
酸化促進剤(D)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
酸化促進剤(D)の含有量は、ガスバリア性を高め、また、酸素吸収性の観点から、混合樹脂層中、100~10,000ppmが好ましく、200~8,000ppmがより好ましく、500~6,000ppmが更に好ましく、800~5,000ppmがより更に好ましい。
また、酸化促進剤(D)として、遷移金属を含む化合物を用いる場合、酸化促進剤(D)の含有量は、混合樹脂層中、遷移金属換算で、10~1,000ppmが好ましく、20~800ppmがより好ましく、50~600ppmが更に好ましく、80~500ppmがより更に好ましい。なお、「遷移金属換算で」とは、遷移金属を含む化合物中の遷移金属自体の含有量を意味する。また、ppmは、質量基準である。
【0046】
<その他の成分>
本発明の多層容器を構成する混合樹脂層が含有するその他の成分としては、リサイクル助剤が例示される。
【0047】
リサイクル助剤は、リサイクル済みポリエステルを得るにあたり、リサイクル工程における黄変を抑制する効果を有する化合物であり、リサイクル助剤として、アルデヒド捕捉剤が好ましい。
前記リサイクル助剤としては、ポリエステル樹脂の黄変を抑制する能力を有し、かつ、アミノ基を含有する化合物が好ましく、具体的には、アントラニルアミド、アントラニル酸、及びナイロン6I/6Tよりなる群から選択される少なくとも1つの化合物であることがより好ましい。
【0048】
混合樹脂層は、前記成分に加え、熱安定剤、光安定剤、防湿剤、防水剤、滑剤、展着剤等の添加物を含んでもよい。
【0049】
[多層容器]
本発明の多層容器は、中空容器であることが好ましく、該多層容器が中空容器である場合、少なくとも胴部が多層積層構造を有する。
本発明の多層容器は、2~5層構造であることが好ましく、2、3又は5層構造がより好ましく、3又は5層構造が更に好ましく、3層構造がより更に好ましい。
具体的には、容器の外側から、ポリエステル層/混合樹脂層の順に積層した2層構造、ポリエステル層/混合樹脂層/ポリエステル層の順に積層した3層構造、又はポリエステル層/混合樹脂層/ポリエステル層/混合樹脂層/ポリエステル層の順に積層した5層構造のいずれかであることが好ましい。
【0050】
本発明の多層容器は、ポリエステル層と混合樹脂層以外に、その他の層を有していてもよい。その他の層としては、ポリエステル層と混合樹脂層の間に介在される、接着性の樹脂を含有する接着層が挙げられる。ただし、成形加工性及びリサイクル時の分別性を向上させる観点から、接着剤層を含まないことが好ましい。
【0051】
本発明の多層容器の混合樹脂層の厚さは、全体厚さの1%以上が好ましく、1.5%以上がより好ましく、2%以上が更に好ましい。そして、15%以下が好ましく、12.5%以下がより好ましく、10%以下が更に好ましい。混合樹脂層の厚さが上記範囲内であると、十分な酸素バリア性が得られると共に、経済的である。
【0052】
なお、混合樹脂層は、多層容器の底部や首部には積層されていなくてもよく、少なくとも胴部の一部、好ましくは胴部の中央部、より好ましくは胴部の長さの50%以上において、混合樹脂層が上記の厚さ及び位置に存在することが好ましい。
耐デラミネーション性と酸素バリア性をバランスさせる観点からは、混合樹脂層が、後述するプリフォームのサポートリングの下部から、プリフォームの射出ゲート中心から20~40mm程度の位置まであることが好ましい。
【0053】
多層容器の全層の厚さは、50μm~500μmが好ましく、100μm~450μmがより好ましく、200μm~400μmが更に好ましい。ここでいう全層の厚さとは多層容器の胴部における全ての層(樹脂層)の厚さを合計したものの平均値をいう。
多層容器の容量は、酸素バリア性、熱安定性及び耐デラミネーション性、並びに、製造上の観点から、30~3,000mLが好ましく、50~2,000mLがより好ましく、100~1,500mLが更に好ましく、200~1,000mLがより更に好ましく、200~600mLがより更に好ましい。
【0054】
本発明の多層容器は、中空容器の内部に液体を充填して使用される液体用包装容器であることがより好ましく、飲料用包装容器であることが更に好ましい。内部に充填される液体としては、水、炭酸水、酸素水、水素水、牛乳、乳製品、ジュース、コーヒー、コーヒー飲料、炭酸ソフトドリンク類、茶類、アルコール飲料等の飲料;ソース、醤油、シロップ、みりん類、ドレッシング等の液体調味料;農薬、殺虫剤等の化学品;医薬品;洗剤等、種々の物品を挙げることができる。特に、酸素存在下で劣化を起こしやすい飲料や炭酸飲料、たとえば、ビール、ワイン、コーヒー、コーヒー飲料、フルーツジュース、炭酸ソフトドリンク、炭酸水、茶類が好ましく挙げられる。
【0055】
また、本発明の多層容器は、酸素バリア性に優れ、下記の方法で測定された容器の酸素透過率(cc/(day・bottle・0.21atm))が、0.010以下が好ましく、0.005以下がより好ましく、0.001以下が更に好ましい。
測定方法は、容量500mLのボトルに、水を100mL充填し、酸素分圧0.21atmの条件下で、ボトル内部湿度100%RH(相対湿度)、外湿度50%RH、温度23℃の条件にて、ボトル内部に1atmの窒素を20mL/minで流通させ、200時間後のクーロメトリックセンサーにてボトル内部を流通後の窒素中に含まれる酸素量を検出することで、酸素透過率を求めることができる。容器の酸素透過率は、より具体的には実施例に記載された方法によって測定することができる。
【0056】
[多層容器の製造方法]
本発明の多層容器の製造方法は、成形品の構造等を考慮して適切な製造方法が選択される。具体的には、射出成形機から金型中に溶融した樹脂又は樹脂組成物を射出してプリフォームを製造後、ブロー延伸することにより得ることができる(インジェクションブロー成形、インジェクションストレッチブロー成形)。
また、押出成形機から金型中に溶融した樹脂又は樹脂組成物を押し出すことで得られるパリソンを金型内でブローすることにより得ることができる(ダイレクトブロー成形)。
本発明の多層容器はインジェクションブロー成形で作製することが好ましい。
【0057】
本発明の多層容器は、プリフォームを二軸延伸ブロー成形することによって製造することが好ましい。
本発明の多層容器は、コールドパリソン成形してもよく、ホットパリソン成形してもよい。コールドパリソン(2ステージ成形)成形は、射出成形後のプリフォームを室温まで冷やして、保管されたのちに、別の装置で再加熱し、ブロー成形に供給される成形方法である。一方、ホットパリソン成形(1ステージ成形)は、パリソンを室温まで完全に冷却することなく、射出成形時の予熱とブロー前の温調をすることで、ブロー成形する方法である。ホットパリソン成形では、多くの場合は、同一成形機ユニット内に、射出成形機、温調ゾーン及びブロー成形機を備え、プリフォーム射出成形とブロー成形が行われる。
【0058】
本発明の多層容器の製造方法の第一の実施形態は、コールドパリソン成形によって成形する形態である。
以下、
図1に従って説明する。
図1は、コールドパリソン成形の各工程を示す概念模式図である。しかし、第一の実施形態が
図1に記載の構成に限定されるものではないことはいうまでもない。
図1では、まず、プリフォーム1が加熱される(
図1(1))。加熱は、赤外線ヒータ2等で行われる。
次いで、加熱されたプリフォーム1に、二軸延伸ブロー成形を行う。すなわち、金型3に設置され(
図1の(2))、延伸ロッド4によって延伸しながら、ブロー成形する(
図1の(3)及び(4))。
延伸は、たとえば、プリフォームの表面を加熱した後にコアロッドインサートで押すといった機械的手段により軸方向に延伸し、次いで、通常2~4MPaの高圧空気をブローして横方向に延伸させブロー成形する方法がある。
また、容器の耐熱性を向上させるために、結晶化度を高めたり、残留歪みを軽減するブロー成形方法を組み合わせてもよい。たとえば、多層プリフォームの表面を加熱した後にガラス転移点以上の温度の金型内でブロー成形する方法(シングルブロー成形)がある。
更に、プリフォームを最終形状より大きく二軸延伸ブロー成形する一次ブロー成形工程と、この一次ブロー成形品を加熱して熱収縮させて二次中間成形品に成形する工程と、最後にこの二次中間成形品を最終容器形状にブロー成形する二次ブロー成形工程とからなる所謂ダブルブロー成形であってもよい。
ブロー成形された後、金型3が外され、多層容器5が得られる(
図1の(5))。
【0059】
コールドパリソン成形において、ブロー成形前のパリソン温度は、本発明の多層容器を構成する樹脂のガラス転移温度(Tg)を考慮して決定される。ブロー成形前とは、たとえば、予熱ゾーンを通過した後、ブローされる直前のことをいう。
パリソン温度は、本発明の多層容器を構成する樹脂の中で、最もガラス転移温度が高い樹脂のガラス転移温度(Tgmax)を超える温度が好ましく、(Tgmax+0.1)℃~(Tgmax+50)℃の温度範囲がより好ましい。
また、本発明の多層容器を構成する樹脂の中で最もガラス転移温度が低い樹脂のガラス転移温度(Tgmin)と前記Tgmaxの差は、40℃以下であることが好ましく、30℃以下であることがより好ましい。このような範囲とすることにより、ブロー成形性がより向上する傾向にある。
更に、本発明の多層容器を構成する樹脂の少なくとも1種が結晶性樹脂の場合、前記結晶性樹脂の結晶化温度(Tc)の内、最も低い温度(Tcmin)と、本発明の多層容器を構成する樹脂の中で、最もガラス転移温度が高い樹脂のガラス転移温度(Tgmax)との差が大きい方が好ましい。
具体的には、Tcmin-Tgmaxは、5℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましい。
Tcmin-Tgmaxの上限値としては、100℃以下が実際的である。このような範囲とすることにより、ブロー成形性がより向上する傾向にある。
【0060】
なお、プリフォームの成形の前に、混合樹脂層に用いられるポリアミド樹脂(B)、ポリグリコール酸(C)及び酸化促進剤(D)を混合して、予め混合樹脂を調製することが好ましい。なお、前記混合は、ドライブレンドでもよく、メルトブレンド(溶融混練)でもよい。すなわち、各成分をドライブレンドして、混合樹脂を調製してもよく、各成分をメルトブレンドして、混合樹脂を調製してもよい。これらの中でも、熱履歴を少なくする観点から、ドライブレンドが好ましい。ここで、ドライブレンドとは、粉末状又はペレット状の形態で機械的に混合することを意味する。混合には、タンブラーミキサー、リボンミキサー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー等の混合装置を用いることが好ましい。あるいは、成形加工に供する際に、ポリアミド樹脂(B)の供給フィーダーとは別のフィーダーにてポリグリコール酸(C)を所定量供給することで、パリソンを成形直前に混合樹脂としてもよい。
また、ポリアミド樹脂(B)、ポリグリコール酸(C)及び酸化促進剤(D)を溶融混練する場合には、溶融混練における温度は特に限定されないが、樹脂が十分に溶融し、十分に混練されるという観点から、300~255℃が好ましく、290~260℃がより好ましく、285~265℃が更に好ましい。また、溶融混練する時間は特に限定されないが、樹脂が均一に混合されるという観点から、10~600秒が好ましく、20~400秒がより好ましく、30~300秒が更に好ましい。溶融混練に使用される装置は特に限定されないが、開放型のミキシングロール、非開放型のバンバリーミキサー、ニーダー、連続混練機(単軸混練機、二軸混練機、多軸混練機等)などが挙げられる。
また、ポリエステル層又は混合樹脂層に、その他の樹脂やその他の成分を混合する場合も、前記のポリアミド樹脂(B)、ポリグリコール酸(C)及び酸化促進剤(D)を混合する条件で行うことが好ましい。
【0061】
次に、ポリエステル層を構成する樹脂を第一の押出機から押し出し、混合樹脂層を構成する樹脂を第二の押出機から押し出し、パリソン(多層プリフォーム)を成形する。より具体的には、押出成形法、共射出成形法、又は、圧縮成形法等により、多層プリフォームを成形する工程であることが好ましい。
押出成形では、ポリエステル層を構成する樹脂、及び混合樹脂層を構成する樹脂を、共押出成形して、多層プリフォームを成形する。
また、共射出成形では、ポリエステル層を構成する樹脂、及び混合樹脂層を構成する樹脂を金型にそれぞれ押し出し、共射出成形して、多層プリフォームを成形する。
圧縮成形では、加熱溶融状態のポリエステル層を構成する樹脂が流動する押出流路内に、加熱溶融状態の混合樹脂層を構成する樹脂を間歇的に押し出して、押し出された混合樹脂層を構成する樹脂の実質上全体を囲む、ポリエステル層を構成する樹脂を押出流路の押出口から押し出して、溶融樹脂成形材料として適宜成形金型に供給して、次いで圧縮成形して多層プリフォームを成形する方法が例示される。
これらの中でも、生産性の観点から、共射出成形であることが好ましい。
【実施例0062】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に制限されるものではない。
【0063】
実施例及び比較例で使用した樹脂は以下の通りである。
<ポリエステル樹脂(A)>
・PET:ポリエチレンテレフタレート(固有粘度:0.83dL/g)、商品名:BK2180、三菱ケミカル株式会社製(融点248℃)
<ポリアミド樹脂(B)>
・MXD6:ポリ(メタキシリレンアジパミド)(相対粘度:2.7、融点=240±5℃)、商品名:MXナイロン S6007、三菱ガス化学株式会社製
<ポリグリコール酸(C)>
・PGA(ポリグリコール酸)(ガラス転移温度:38℃、融点:221℃、結晶化温度:91℃)
<酸化促進剤(D)>
・ステアリン酸コバルト:ステアリン酸コバルト(II)、和光純薬工業株式会社製
【0064】
[測定・評価方法]
<容器の酸素透過率(容器の酸素バリア性)>
酸素透過率測定装置(MOCON社製、商品名「OX-TRAN 2/61」)を使用した。
実施例及び比較例で作製した容量500mLのボトルに、水を100mL充填し、酸素分圧0.21atmの条件下で、ボトル内部湿度100%RH(相対湿度)、外湿度50%RH、温度23℃の条件にて、ボトル内部に1atmの窒素を20mL/minで流通させ、200時間後のクーロメトリックセンサーにてボトル内部を流通後の窒素中に含まれる酸素量を検出することで、酸素透過率(cc/(day・bottle・0.21atm))を測定した。酸素透過率が小さいほど、酸素バリア性に優れる。
【0065】
<寸法変化率(熱安定性)>
各実施例及び比較例で得られた500mLのボトルの側面に2ヵ所のしるしをつけ、ボトルに60℃の水500gを充填して、周囲温度60℃の部屋に24時間保存した。前記2ヵ所のしるしの距離(寸法)を保存前後で測定し、その変化率([保存前の寸法-保存後の寸法]/保存前の寸法(%))を寸法変化率とした。寸法変化率が小さいほど、熱安定性に優れる。
【0066】
<サイドインパクト試験(耐デラミネーション性)>
得られた多層ボトルに炭酸水500mLを入れ、23℃、50%RHの環境で1週間保管したボトルに、サイドインパクト試験機(振り子の先に3kgの錘が付いており、ボトルに対して90°の位置から振り子を下ろし、ボトルの胴部に衝撃性を与える装置)を用いて、1週間保管後の炭酸水が入ったボトル胴部に繰り返し衝撃を与えた。ポリエステル層とポリアミド層が剥離するまでの試験回数によって耐デラミネーション性を評価した。試験回数が40回の時点でポリエステル層とポリアミド層が剥離していないものは評価を「40回以上」とした。ポリエステル層とポリアミド層が剥離するまでの試験回数が大きいほど、耐デラミネーション性に優れる。
【0067】
実施例1
<プリフォームの製造>
混合樹脂層用に表1の中間層に示す比率となるようMXD6(ポリアミド樹脂(B))、PGA(ポリグリコール酸(C))、ステアリン酸コバルトをタンブラーに入れ、ドライブレンドした。ポリエステル層用にはPET(ポリエステル樹脂(A))を用いた。各層の材料をインジェクションブロー成形機のホッパーに投入し、多層ホットランナー金型を使用して、以下に示した条件で、射出して、キャビティーを満たすことにより、ポリエステル層/混合樹脂層/ポリエステル層の3層構造を有するプリフォーム(25g)を得た。各層の厚さは8:1:8となるように調整した。プリフォームの形状は、全長92mm、外形22mm、肉厚3.9mmであった。
スキン側射出シリンダー温度:285℃
コア側射出シリンダー温度:265℃
金型内樹脂流路温度:290℃
金型冷却水温度:15℃
【0068】
<多層ボトルの製造>
上記の製造方法にて作製したプリフォームを用いて、ボトルを成形した。
具体的には、得られたプリフォームを、二軸延伸ブロー成形装置(株式会社フロンティア製、型式EFB1000ET)により二軸延伸ブロー成形してペタロイド型ボトルを得た。ボトルの全長は223mm、外径は65mm、内容積は500mL(表面積:0.04m2、胴部平均厚さ:0.35mm)であり、底部はペタロイド形状である。胴部にディンプルは設けなかった。二軸延伸ブロー成形条件は以下に示した通りである。なお、得られた多層ボトルの首部付近、及び底部は、ポリエステル層のみから形成されていた。
このようにして得られた多層ボトルに対して、前記の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
プリフォーム加熱温度:110℃
一次ブロー圧力:0.9MPa
二次ブロー圧力:2.5MPa
一次ブロー遅延時間:0.30sec
一次ブロー時間:0.30sec
二次ブロー時間:2.0sec
ブロー排気時間:0.6sec
金型温度:30℃
【0069】
実施例2、3及び比較例2
混合樹脂層用のMXD6(ポリアミド樹脂(B))、PGA(ポリグリコール酸(C))を表1に示す比率となるように変更した以外は、実施例1と同様にして、ボトルを成形した。得られた多層ボトルに対して、前記の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0070】
実施例4
内層及び外層に用いられるポリエステル層用のPET(ポリエステル樹脂(A))を、ポリエステル層用のPETと着色剤(商品名HOLCOMER UHT:、Holland Colours社製、顔料を含むポリエステル樹脂のマスターバッチ)を(PET/着色剤)90/10の質量比でドライブレンドしたものに変更した以外は、実施例1と同様にして、ボトルを成形した。得られた多層ボトルに対して、前記の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0071】
実施例5
内層及び外層に用いられるポリエステル層用のPET(ポリエステル樹脂(A))を、ポリエステル層用のPETとPGA(ポリグリコール酸(C))を表1に示す比率でドライブレンドしたものに変更した以外は、実施例1と同様にして、ボトルを成形した。得られた多層ボトルに対して、前記の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0072】
比較例1
混合樹脂層にステアリン酸コバルトを用いなかった以外は、実施例1と同様にして、ボトルを成形した。得られた多層ボトルに対して、前記の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0073】
比較例3
混合樹脂層用のPGA(ポリグリコール酸(C))に替えてPET(ポリエステル樹脂(A))を表1に示す比率となるようにドライブレンドした以外は、実施例1と同様にして、ボトルを成形した。得られた多層ボトルに対して、前記の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0074】
比較例4
混合樹脂層用のMXD6(ポリアミド樹脂(B))を用いず、PGA(ポリグリコール酸(C))を表1に示す比率となるように変更した以外は、実施例1と同様にして、ボトルを成形した。得られた多層ボトルに対して、前記の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0075】
【表1】
表1に示すように、本発明の要件を満たす実施例1~5では、いずれも高い酸素バリア性、高い熱寸法安定性、優れた耐デラミネーション性を有する多層容器が得られた。
本発明によれば、酸素バリア性と熱安定性に優れ、耐デラミネーション性にも優れる多層容器が得られる。そのため、特に、内容物が酸素による酸化を受けやすく、充填時あるいは保存時高温となり、衝撃を受ける機会も多い食品や飲料、たとえば、油、調味料、炭酸飲料、酒類、コーヒー類、フルーツジュース、茶類等を収容する容器として好適に使用できる。