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特開2022-75321カーボンナノチューブウェブの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022075321
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブウェブの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/62 20120101AFI20220511BHJP
   G03F 1/24 20120101ALI20220511BHJP
   C01B 32/168 20170101ALI20220511BHJP
   B01J 23/745 20060101ALI20220511BHJP
   B01J 23/75 20060101ALI20220511BHJP
   B01J 23/755 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
G03F1/62
G03F1/24
C01B32/168
B01J23/745 M
B01J23/75 M
B01J23/755 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020186039
(22)【出願日】2020-11-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】石川 宏典
(72)【発明者】
【氏名】長島 健太
(72)【発明者】
【氏名】福田 航平
【テーマコード(参考)】
2H195
4G146
4G169
【Fターム(参考)】
2H195BA10
2H195BC33
2H195BC34
2H195CA01
2H195CA07
2H195CA23
4G146AA11
4G146AB06
4G146AB07
4G146AD16
4G146AD17
4G146AD40
4G146BA04
4G146CB07
4G169BB02
4G169BC66
4G169BC67
4G169BC68
4G169CB81
4G169EA07
(57)【要約】
【課題】カーボンナノチューブが均一に分布したカーボンナノチューブウェブを製造可能とする。
【解決手段】本発明のカーボンナノチューブ構造体は、厚さ方向に対して平行な劈開面を生じるように割断可能な基材層31と、前記基材層31の一方の面の上に設けられた触媒層32と、前記触媒層32上で配列し、前記厚さ方向に各々が伸びた複数のカーボンナノチューブ1200からなるカーボンナノチューブアレイ120とを備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ方向に対して平行な劈開面を生じるように割断可能な基材層と、
前記基材層の一方の面の上に設けられた触媒層と、
前記触媒層上で配列し、前記厚さ方向に各々が伸びた複数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブアレイと
を備えたカーボンナノチューブ構造体。
【請求項2】
前記基材層はシリコンからなる請求項1に記載のカーボンナノチューブ構造体。
【請求項3】
前記劈開面はシリコン単結晶の(110)面又は(111)面である請求項2に記載のカーボンナノチューブ構造体。
【請求項4】
前記基材層の他方の面の一部に接合され、第1端面を有する第1支持部と、前記基材層の他方の面の他の一部に接合され、第1端面と向き合った第2端面を有する第2支持部とを含んだ支持体層を更に含み、前記第1端面及び前記第2端面の長さ方向は、前記基材層の前記他方の面及び前記劈開面に対して平行である請求項1乃至3の何れか1項に記載のカーボンナノチューブ構造体。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載のカーボンナノチューブ構造体の前記基材層を割断して、前記劈開面を各々が有する第1及び第2基材片を形成することと、
前記第1及び第2基材片を互いから引き離して、前記カーボンナノチューブアレイのうち前記第1基材片の上に位置した部分と、前記カーボンナノチューブアレイのうち前記第2基材片の上に位置した部分との間に、カーボンナノチューブウェブを生じさせることと
を含んだカーボンナノチューブウェブの製造方法。
【請求項6】
端面同士が突き合わされた第1及び第2基材片と、
前記第1及び第2基材片上に一体に設けられた触媒層と、
前記触媒層上で配列し、前記触媒層の厚さ方向に各々が伸びた複数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブアレイと
を備えたカーボンナノチューブ構造体。
【請求項7】
前記第1及び第2基材片はシリコン層を含んだ請求項6に記載のカーボンナノチューブ構造体。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のカーボンナノチューブ構造体の前記第1及び第2基材片を互いから引き離して、前記カーボンナノチューブアレイのうち前記第1基材片の上に位置した部分と、前記カーボンナノチューブアレイのうち前記第2基材片の上に位置した部分との間に、カーボンナノチューブウェブを生じさせること
を含んだカーボンナノチューブウェブの製造方法。
【請求項9】
請求項5又は8に記載の方法によって得られるカーボンナノチューブウェブ。
【請求項10】
長さ方向が揃った複数のカーボンナノチューブから各々がなり、互いに積層された複数のカーボンナノチューブウェブを含み、前記複数のカーボンナノチューブウェブの1以上は請求項9に記載のカーボンナノチューブウェブであるカーボンナノチューブ膜。
【請求項11】
前記複数のカーボンナノチューブウェブは、隣り合った各2つの間で、前記複数のカーボンナノチューブの前記長さ方向が異なるように積層されている請求項10に記載のカーボンナノチューブ膜。
【請求項12】
請求項10又は11に記載のカーボンナノチューブ膜を備えたペリクル膜。
【請求項13】
請求項12に記載のペリクル膜を備えたペリクル。
【請求項14】
長さ方向が揃った複数のカーボンナノチューブから各々がなる複数のカーボンナノチューブウェブを互いに積層することと、
前記複数のカーボンナノチューブウェブの1以上を請求項5又は8に記載の方法により製造することと
を含むカーボンナノチューブ膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブウェブに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン基板上に成長させたカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブアレイは、例えば、カーボンナノチューブ糸の製造に利用可能である(非特許文献1)。即ち、繭から糸を繰り出すようにして、カーボンナノチューブアレイからカーボンナノチューブ糸として得ることができる。このカーボンナノチューブ糸では、カーボンナノチューブの長さ方向は、カーボンナノチューブ糸の長さ方向とほぼ等しい。また、カーボンナノチューブ同士は、ファンデルワールス力によって互いに結合している。
【0003】
カーボンナノチューブアレイからは、上記と類似した方法により、カーボンナノチューブウェブを得ることも可能である(特許文献1)。カーボンナノチューブウェブでは、カーボンナノチューブの長さ方向はほぼ等しい。
【0004】
カーボンナノチューブウェブは、例えば、複数のカーボンナノチューブウェブを積層してなるカーボンナノチューブ膜として用いる。カーボンナノチューブ膜には、合成樹脂を含浸させて、カーボンナノチューブを固定化することもある(特許文献2)。なお、カーボンナノチューブウェブから撚糸を製造することも可能である(特許文献3)。
【0005】
カーボンナノチューブ膜は、カーボンナノチューブの分散液からなる塗膜を乾燥させることにより得ることもできる(特許文献4)。カーボンナノチューブ膜は、例えば、ペリクルにおいてペリクル膜として利用することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K. Jiang, et al., "Spinning continuous carbon nanotube yarns", Nature Vol.419 (2002)
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-122021号公報
【特許文献2】特開2015-101039号公報
【特許文献3】特開2017-19690号公報
【特許文献4】国際公開第2018/008594号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、カーボンナノチューブが均一に分布したカーボンナノチューブウェブを製造可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面によると、厚さ方向に対して平行な劈開面を生じるように割断可能な基材層と、前記基材層の一方の面の上に設けられた触媒層と、前記触媒層上で配列し、前記厚さ方向に各々が伸びた複数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブアレイとを備えたカーボンナノチューブ構造体が提供される。
【0010】
本発明の他の側面によると、前記基材層はシリコンからなる上記側面に係るカーボンナノチューブ構造体が提供される。
【0011】
本発明の更に他の側面によると、前記劈開面はシリコン単結晶の(110)面又は(111)面である上記側面に係るカーボンナノチューブ構造体が提供される。
【0012】
本発明の更に他の側面によると、前記基材層の他方の面の一部に接合され、前記劈開面に平行な第1端面を有する第1支持部と、前記基材層の他方の面の他の一部に接合され、前記劈開面に平行であり且つ第1端面と向き合った第2端面を有する第2支持部とを含んだ支持体層を更に含み、前記第1端面及び前記第2端面の長さ方向は、前記基材層の前記他方の面及び前記劈開面に対して平行である上記側面の何れかに係るカーボンナノチューブ構造体が提供される。
【0013】
本発明の更に他の側面によると、上記側面の何れかに係るカーボンナノチューブ構造体の前記基材層を割断して、前記劈開面を各々が有する第1及び第2基材片を形成することと、前記第1及び第2基材片を互いから引き離して、前記カーボンナノチューブアレイのうち前記第1基材片の上に位置した部分と、前記カーボンナノチューブアレイのうち前記第2基材片の上に位置した部分との間に、カーボンナノチューブウェブを生じさせることとを含んだカーボンナノチューブウェブの製造方法が提供される。
【0014】
本発明の更に他の側面によると、端面同士が突き合わされた第1及び第2基材片と、前記第1及び第2基材片上に一体に設けられた触媒層と、前記触媒層上で配列し、前記触媒層の厚さ方向に各々が伸びた複数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブアレイとを備えたカーボンナノチューブ構造体が提供される。
【0015】
本発明の更に他の側面によると、前記第1及び第2基材片はシリコン層を含んだ上記側面に係るカーボンナノチューブ構造体が提供される。
【0016】
本発明の更に他の側面によると、上記側面の何れかに係るカーボンナノチューブ構造体の前記第1及び第2基材片を互いから引き離して、前記カーボンナノチューブアレイのうち前記第1基材片の上に位置した部分と、前記カーボンナノチューブアレイのうち前記第2基材片の上に位置した部分との間に、カーボンナノチューブウェブを生じさせることを含んだカーボンナノチューブウェブの製造方法が提供される。
【0017】
本発明の更に他の側面によると、上記側面の何れかに係る方法によって得られるカーボンナノチューブウェブが提供される。
【0018】
本発明の更に他の側面によると、長さ方向が揃った複数のカーボンナノチューブから各々がなり、互いに積層された複数のカーボンナノチューブウェブを含み、前記複数のカーボンナノチューブウェブの1以上は上記側面に係るカーボンナノチューブウェブであるカーボンナノチューブ膜が提供される。
【0019】
本発明の更に他の側面によると、前記複数のカーボンナノチューブウェブは、隣り合った各2つの間で、前記複数のカーボンナノチューブの前記長さ方向が異なるように積層されている上記側面に係るカーボンナノチューブ膜が提供される。
【0020】
本発明の更に他の側面によると、上記側面の何れかに係るカーボンナノチューブ膜を備えたペリクル膜が提供される。
【0021】
本発明の更に他の側面によると、上記側面に係るペリクル膜を備えたペリクルが提供される。
【0022】
本発明の更に他の側面によると、長さ方向が揃った複数のカーボンナノチューブから各々がなる複数のカーボンナノチューブウェブを互いに積層することと、前記複数のカーボンナノチューブウェブの1以上を上記側面の何れかに係る方法により製造することとを含むカーボンナノチューブ膜の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、カーボンナノチューブが均一に分布したカーボンナノチューブウェブを製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係るカーボンナノチューブ構造体を概略的に示す斜視図。
図2】本発明の一実施形態に係るカーボンナノチューブウェブの製造方法における第1工程を示す斜視図。
図3】本発明の一実施形態に係るカーボンナノチューブウェブの製造方法における第2工程を示す斜視図。
図4】本発明の一実施形態に係るカーボンナノチューブウェブの製造方法における第3工程を示す斜視図。
図5】比較例に係る方法によって製造したカーボンナノチューブウェブの走査電子顕微鏡写真。
図6】比較例に係る方法によって製造したカーボンナノチューブウェブの走査電子顕微鏡写真。
図7】実施例に係る方法によって製造したカーボンナノチューブウェブの走査電子顕微鏡写真。
図8】実施例に係る方法によって製造したカーボンナノチューブウェブの走査電子顕微鏡写真。
図9】本発明の一実施形態に係るカーボンナノチューブ膜を概略的に示す斜視図。
図10】実施例に係る方法によって製造したカーボンナノチューブ膜の走査電子顕微鏡写真。
図11】実施例に係る方法によって製造したカーボンナノチューブ膜の走査電子顕微鏡写真。
図12】第1変形例に係るカーボンナノチューブ構造体を概略的に示す斜視図。
図13】フォトマスクに取り付けられた、本発明の一実施形態に係るペリクルを概略的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。以下に説明する実施形態は、上記側面の何れかをより具体化したものである。なお、以下で参照する図において、同様又は類似した機能を有する要素については、同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。また、各図において、寸法比や形状は、実物とは異なる可能性がある。
【0026】
<カーボンナノチューブ構造体>
図1は、本発明の一実施形態に係るカーボンナノチューブ構造体を概略的に示す斜視図である。
【0027】
図1に示すカーボンナノチューブ構造体は、基材層31と触媒層32とカーボンナノチューブアレイ120とを含んでいる。
【0028】
基材層31は、少なくとも一方の面が平坦である。また、基材層31は、厚さ方向に対して平行な劈開面を生じるように割断可能である。
【0029】
基材層31は、例えば、シリコン又はサファイアからなる。基材層31がシリコンからなる場合、上記の劈開面は、シリコン単結晶の(110)面又は(111)面である。ここでは、一例として、基材層31は、(110)面又は(111)面が厚さ方向に平行なシリコン基板であるとする。また、以下の説明では、基材層31の面のうち、触媒層32が設けられた面を「表面」と呼び、その反対側の面を「裏面」と呼ぶ。
【0030】
触媒層32は、基材層31の平坦な上記面上に設けられている。触媒層32は、例えば、鉄、ニッケル及びコバルトなどの金属からなる。
【0031】
基材層31と触媒層32との間には、下地層が介在していてもよい。下地層は、例えば、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、又は酸化シリコンからなる。
【0032】
カーボンナノチューブアレイ120は、多数のカーボンナノチューブ1200の集合体である。これらカーボンナノチューブ1200は、触媒層32上で、触媒層32の表面である支持面から、この面に対して略垂直に伸びている。即ち、カーボンナノチューブ1200は、基材層31の厚さ方向に伸びている。なお、用語「カーボンナノチューブアレイ」は、用語「カーボンナノチューブフォレスト」と同義である。
【0033】
カーボンナノチューブ1200は、シングルウォールナノチューブであってもよく、マルチウォールナノチューブであってもよく、それらの組み合わせであってもよい。また、カーボンナノチューブ1200は、アームチェアチューブ、ジグザグチューブ、カイラルチューブ、及びそれらの2以上の組み合わせの何れであってもよい。
【0034】
カーボンナノチューブ1200の長さは、例えば、0.1mm乃至5mmの範囲内にある。なお、図1におけるカーボンナノチューブ1200の長さと径との比は、実際の比よりも遥かに小さい。
【0035】
カーボンナノチューブアレイ120は、例えば、スーパーグロースCVD(水分添加CVD)などのCVD(Chemical Vapor Deposition)によって製造することができる。カーボンナノチューブアレイ120は、他の方法で製造してもよい。
【0036】
<カーボンナノチューブウェブ>
上記のカーボンナノチューブ構造体を使用すると、例えば、以下の方法によりカーボンナノチューブウェブを製造することができる。
【0037】
図2は、本発明の一実施形態に係るカーボンナノチューブウェブの製造方法における第1工程を示す斜視図である。図3は、本発明の一実施形態に係るカーボンナノチューブウェブの製造方法における第2工程を示す斜視図である。図4は、本発明の一実施形態に係るカーボンナノチューブウェブの製造方法における第3工程を示す斜視図である。
【0038】
この方法では、先ず、図2に示すカーボンナノチューブ構造体を準備する。図2のカーボンナノチューブ構造体は、図1を参照しながら説明したカーボンナノチューブ構造体と同様である。なお、図2乃至図4では、触媒層32を省略している。
【0039】
次に、図3に示すように、基材層31を割断して、第1基材片31a及び第2基材片31bを得る。例えば、基材層31の一対の端部を把持する。これら端部は、上記の劈開面に対して垂直な方向に配列しており、互いから離間している。そして、これら端部に、互いから遠ざかる方向へ力を加える。これにより、これら端部の間の位置で、基材層31の劈開を生じさせる。以上のようにして得られる第1基材片31a及び第2基材片31bの各々は、割断面として、図4に示す劈開面Sを有している。
【0040】
基材層31の割断は、基材層31の裏面が凹になるように上記の端部へ力を加えることにより行ってもよい。或いは、基材層31の割断は、基材層31の裏面が凸になるように上記の端部へ力を加えることにより行ってもよい。
【0041】
なお、割断前の基材層31に対する、形成すべき劈開面の方位は、例えば、X線回折法を利用して確認することができる。或いは、カーボンナノチューブ構造体に使用する基材層31と同様の基材層について、この基材層に対して劈開面がどのような方位で生じるかを予め調べておいてもよい。
【0042】
その後、図4に示すように、第1基材片31a及び第2基材片31bの互いからの距離を増加させる。これにより、カーボンナノチューブアレイ120のうち第1基材片31a上に位置した第1部分120aの端面と、カーボンナノチューブアレイ120のうち第2基材片31b上に位置した第2部分120bの端面とから、カーボンナノチューブをウェブ状に引き出す。
【0043】
なお、図示しない触媒層は、例えば、基材層31を割断した時点で、第1基材片31a上に位置した部分と、第2基材片31b上に位置した部分とに分割される。或いは、図示しない触媒層は、第1基材片31a及び第2基材片31bの互いからの距離を増加させることにより、第1基材片31a上に位置した部分と、第2基材片31b上に位置した部分とに分割される。
【0044】
径方向に隣り合ったカーボンナノチューブ1200には、ファンデルワールス力が作用する。それ故、例えば、カーボンナノチューブアレイ120の端面又はその一部を把持し、これをカーボンナノチューブアレイ120から遠ざかる方向へ引っ張ると、カーボンナノチューブ1200が次々にカーボンナノチューブアレイ120から引き出される。従って、接着剤等を使用することなしに、カーボンナノチューブウェブ121が得られる。これについて、更に詳しく説明する。
【0045】
上記の通り、カーボンナノチューブアレイ120において、カーボンナノチューブ同士は、ファンデルワールス力によって互いに結合している。第1基材片31a及び第2基材片31bを互いから引き離すと、第1部分120aと第2部分120bとの境界近傍に位置したカーボンナノチューブは、ファンデルワールス力による結合を維持しようとする。第1基材片31a及び第2基材片31bの互いからの距離を増加させると、第1部分120a及び第2部分120bからカーボンナノチューブが次々に引き出されるとともに、第1部分120aと第2部分120bとの間に位置したカーボンナノチューブは、ファンデルワールス力による結合を維持するべく、各々の長さ方向が第1基材片31a及び第2基材片31bの互いからの相対的な移動の方向に対して略平行になるように配向を変化させる。その結果、第1基材片31aと第2基材片31bとの間に、カーボンナノチューブウェブ121が生じる。
【0046】
このようにして得られるカーボンナノチューブウェブ121は、それ自体を単独で取り扱うことが可能な自立膜である。このカーボンナノチューブウェブ121では、接着剤等を使用していないにも拘わらず、カーボンナノチューブは互いに結合している。
【0047】
また、このカーボンナノチューブウェブ121では、カーボンナノチューブの多くは、それらを引き出した方向に伸びた形状を有している。即ち、このカーボンナノチューブウェブ121が含んでいるカーボンナノチューブは、長さ方向がほぼ等しい。
【0048】
そして、このカーボンナノチューブウェブ121では、カーボンナノチューブは均一に分布している。
【0049】
図5及び図6は、比較例に係る方法によって製造したカーボンナノチューブウェブの走査電子顕微鏡写真である。図5及び図6に示すカーボンナノチューブウェブは、カーボンナノチューブアレイの端面の一部を把持具で把持し、この状態で把持具をカーボンナノチューブアレイから遠ざけることにより得られたものである。
【0050】
このカーボンナノチューブウェブでは、カーボンナノチューブの長さ方向はほぼ等しい。しかしながら、幅方向におけるカーボンナノチューブの密度には、大きなばらつきがある。これは、カーボンナノチューブアレイの端面の一部を把持具で把持した際に、カーボンナノチューブを均一に把持できなかったためである。
【0051】
図7及び図8は、実施例に係る方法によって製造したカーボンナノチューブウェブの走査電子顕微鏡写真である。図7及び図8に示すカーボンナノチューブウェブは、図2乃至図4を参照しながら説明した方法により得られたものである。
【0052】
このカーボンナノチューブウェブでは、カーボンナノチューブの長さ方向はほぼ等しい。そして、幅方向におけるカーボンナノチューブの密度に、大きなばらつきはない。これは、カーボンナノチューブアレイの端面の一部を把持する把持具を使用する代わりに、劈開面Sを生じるように基材層31を割断することにより、把持具の使用に起因した不均一さを排除できたためである。
【0053】
カーボンナノチューブウェブは、劈開面Sを生じないように基材層31を割断することにより製造することも可能である。しかしながら、そのような方法では、図2乃至図4を参照しながら説明した方法ほどカーボンナノチューブが均一に分布したカーボンナノチューブウェブを製造することはできない。これについて、以下に説明する。
【0054】
基材層31の裏面に溝を設けると、基材層31を溝に沿って割断することができる。しかしながら、例えば、基材層31がシリコン単結晶からなる場合であって、溝の長さ方向がシリコン単結晶の(110)面又は(111)面に対して平行でないときには、割断ラインに凹凸を生じ易い。そのような凹凸は、カーボンナノチューブウェブにおけるカーボンナノチューブの粗密の原因となる。
【0055】
また、基材層の裏面に対して、直線状にレーザビームを照射することにより、照射部を脆弱化することができる。それ故、照射部で基材層を割断することにより、割断が容易になる。しかしながら、レーザビーム照射は、カーボンナノチューブアレイ120へダメージを与える虞がある。カーボンナノチューブアレイ120がダメージを受けると、カーボンナノチューブが均一に分布したカーボンナノチューブウェブを製造することができなくなるか、又は、カーボンナノチューブウェブの製造自体が不可能となる。
【0056】
これに対し、図2乃至図4を参照しながら説明した方法では、上記の通り、劈開面Sを生じるように基材層31を割断する。この方法では、割断面は、劈開面Sであるので平滑性に優れている。即ち、この方法では、割断ラインに凹凸を生じ難い。それ故、割断ラインの凹凸に起因して、カーボンナノチューブウェブにおけるカーボンナノチューブの粗密を生じる可能性は低い。
【0057】
また、図2乃至図4を参照しながら説明した方法では、劈開面Sを生じるように基材層31を割断するため、レーザビーム照射なしでも、基材層31を容易に割断することができる。それ故、この方法では、レーザビーム照射に起因したカーボンナノチューブアレイ120のダメージは生じない。
【0058】
従って、図2乃至図4を参照しながら説明した方法によると、カーボンナノチューブが均一に分布したカーボンナノチューブウェブ121を製造することができる。
【0059】
また、レーザビーム照射によって照射部を脆弱化させたカーボンナノチューブ構造体は、取り扱いに注意を要する。例えば、レーザビーム照射から把持具で基材層の一対の端部を把持するまでの期間内に、基材層31の変形等に伴うカーボンナノチューブアレイ120のダメージを防止するための工夫が必要になる。
【0060】
図2乃至図4を参照しながら説明した方法では、上記の通り、レーザビーム照射は行わない。それ故、この方法では、レーザビーム照射を行う方法ほど、カーボンナノチューブ構造体の取り扱いに注意を払う必要はない。
【0061】
なお、2つの基材層31の各々の上に触媒層32及びカーボンナノチューブアレイ120を順次形成し、それら基材層31の端面同士を突き合わせてカーボンナノチューブアレイ120を接触させ、その後、基材層31を互いから引き離しても、カーボンナノチューブウェブ121は形成されない。これは、ファンデルワールス力による結合が十分に形成されないためである。
【0062】
<カーボンナノチューブ膜>
カーボンナノチューブウェブ121は、単独で使用してもよい。或いは、カーボンナノチューブウェブ121は、カーボンナノチューブ膜において使用してもよい。
【0063】
カーボンナノチューブ膜は、複数のカーボンナノチューブウェブの積層体を含んでいる。例えば、カーボンナノチューブ膜は、長さ方向が揃った複数のカーボンナノチューブから各々がなり、互いに積層された複数のカーボンナノチューブウェブを含む。一例によれば、カーボンナノチューブ膜は、カーボンナノチューブのみからなる。これらカーボンナノチューブウェブの1以上、例えば、これらカーボンナノチューブウェブの全ては、図4を参照しながら説明したカーボンナノチューブウェブである。これらカーボンナノチューブウェブは、隣り合った各2つの間で、カーボンナノチューブの長さ方向が異なるように積層されていることが好ましい。
【0064】
図9は、本発明の一実施形態に係るカーボンナノチューブ膜を概略的に示す斜視図である。
【0065】
図9のカーボンナノチューブ膜12は、第1カーボンナノチューブウェブ121aと第2カーボンナノチューブウェブ121bとを含んでいる。第1カーボンナノチューブウェブ121a及び第2カーボンナノチューブウェブ121bは重なり合っている。
【0066】
第1カーボンナノチューブウェブ121aは、複数の第1カーボンナノチューブ1200aによって形成されている。第1カーボンナノチューブ1200aは、第1方向D1に各々が伸び、径方向に配列している。
【0067】
第2カーボンナノチューブウェブ121bは、複数の第2カーボンナノチューブ1200bによって形成されている。第2カーボンナノチューブ1200bは、第1方向D1と交差する第2方向D2に各々が伸び、径方向に配列している。一例によれば、第1方向D1と第2方向D2とは直交している。第1方向D1と第2方向D2とは、斜めに交差していてもよい。
【0068】
上述したカーボンナノチューブ膜12は、例えば、以下の方法により製造することができる。
先ず、図2乃至図4を参照しながら説明した方法により、第1カーボンナノチューブウェブ121a及び第2カーボンナノチューブウェブ121bを製造する。次に、第1カーボンナノチューブウェブ121a及び第2カーボンナノチューブウェブ121bを、第1カーボンナノチューブ1200aの長さ方向と第2カーボンナノチューブ1200bの長さ方向とが交差するように重ね合わせる。そして、この積層体をプレスする。このプレスは、積層体の全体に対して行ってもよく、1以上の部分に対してのみ行ってもよい。また、プレスは行わなくてもよい。以上のようにして、カーボンナノチューブ膜12を得る。
【0069】
このカーボンナノチューブ膜12では、第1カーボンナノチューブウェブ121a及び第2カーボンナノチューブウェブ121bの各々は、図2乃至図4を参照しながら説明した方法によって得られたものである。それ故、第1カーボンナノチューブウェブ121aにおいては、第1カーボンナノチューブ1200aが均一に分布している。また、第2カーボンナノチューブウェブ121bにおいては、第2カーボンナノチューブ1200bが均一に分布している。
【0070】
図10及び図11は、実施例に係る方法によって製造したカーボンナノチューブ膜の走査電子顕微鏡写真である。
【0071】
図10及び図11のカーボンナノチューブ膜は、図2乃至図4を参照しながら説明した方法によって得られた2つのカーボンナノチューブウェブを、それらのカーボンナノチューブの長さ方向が直交するように重ね合わせ、この積層体をプレスすることにより得られたものである。図10及び図11に示すように、このカーボンナノチューブ膜では、各カーボンナノチューブウェブにおいてカーボンナノチューブは均一に分布していた。また、このカーボンナノチューブ膜では、カーボンナノチューブの交差部は均一に分布していた。
【0072】
なお、第1カーボンナノチューブウェブ121aには、第1方向D1以外の方向に伸びたカーボンナノチューブや、屈曲したカーボンナノチューブが不可避的に存在し得る。同様に、第2カーボンナノチューブウェブ121bには、第2方向D2以外の方向に伸びたカーボンナノチューブや、屈曲したカーボンナノチューブが不可避的に存在し得る。
【0073】
また、図9では、第1カーボンナノチューブウェブ121aは、第1カーボンナノチューブ1200aが面内方向にのみ配列し、厚さ方向に積層されていない単分子膜の如く描かれているが、第1カーボンナノチューブ1200aは、面内方向に配列するとともに、厚さ方向に積層されていてもよい。同様に、図9では、第2カーボンナノチューブウェブ121bは、第2カーボンナノチューブ1200bが面内方向にのみ配列し、厚さ方向に積層されていない単分子膜の如く描かれているが、第2カーボンナノチューブ1200bは、面内方向に配列するとともに、厚さ方向に積層されていてもよい。
【0074】
図9では、第1カーボンナノチューブ1200aは同じ径を有しているが、それらの径は同じでなくてもよい。同様に、図9では、第2カーボンナノチューブ1200bは同じ径を有しているが、それらの径は同じでなくてもよい。また、図9では、第1カーボンナノチューブ1200aと第2カーボンナノチューブ1200bとは同じ径を有しているが、それらの径は同じでなくてもよい。
【0075】
また、図9では、第1カーボンナノチューブウェブ121aと第2カーボンナノチューブウェブ121bとは接しているが、それらは互いから離間していてもよい。即ち、第1カーボンナノチューブ1200aと第2カーボンナノチューブ1200bとは、互いに接触していてもよく、互いから離間していてもよい。
【0076】
カーボンナノチューブ膜12は、3以上のカーボンナノチューブウェブを含んでいてもよい。この場合、カーボンナノチューブ膜12は、2以上の第1カーボンナノチューブウェブ121aと、1以上の第2カーボンナノチューブウェブ121bとを含んでいてもよい。或いは、カーボンナノチューブ膜12は、1以上の第1カーボンナノチューブウェブ121aと、2以上の第2カーボンナノチューブウェブ121bとを含んでいてもよい。或いは、カーボンナノチューブ膜12は、1以上の第1カーボンナノチューブウェブ121aと、1以上の第2カーボンナノチューブウェブ121bと、それらとはカーボンナノチューブの長さ方向が異なること以外は同様の構造を有する1以上のカーボンナノチューブウェブとを含んでいてもよい。
【0077】
<変形例>
上述したカーボンナノチューブ構造体及びそれを用いた方法には、様々な変形が可能である。
【0078】
(第1変形例)
図12は、第1変形例に係るカーボンナノチューブ構造体を概略的に示す斜視図である。なお、図12では、触媒層32を省略している。
【0079】
図12に示すカーボンナノチューブ構造体は、支持体層33を更に含んでいること以外は、図1及び図2を参照しながら説明したナノチューブ構造体と同様である。
【0080】
支持体層33は、第1支持部33aと第2支持部33bとを含んでいる。第1支持部33aは、基材層31の裏面の一部に接合され、第1端面を有している。第2支持部33bは、基材層31の裏面の他の一部に接合され、第1端面と向き合った第2端面を有している。第1端面及び第2端面の長さ方向は、基材層31の裏面及び上記劈開面に対して平行である。
【0081】
第1及び第2端面は、互いに接していてもよく、互いから離間していてもよい。支持体層33又は第1支持部33a及び第2支持部33bの材料としては、例えば、ガラス、シリコン又はサファイアを使用することができる。
【0082】
支持体層33を設けると、図2乃至図4を参照しながら説明した方法において、第1若しくは第2端面の位置で又は第1端面と第2端面との間の位置で劈開を生じさせることができる。即ち、所望の位置に劈開面を生じさせることができる。
【0083】
また、支持体層33を設けると、割断ラインに凹凸を更に生じ難くなる。それ故、このカーボンナノチューブ構造体を用いた場合、カーボンナノチューブが更に均一に分布したカーボンナノチューブウェブを製造することができる。
【0084】
更に、支持体層33を設けると、例えば、第1基材片31a及び第2基材片31bの破壊を生じ難くなる。即ち、取り扱いが更に容易になる。
【0085】
第1支持部33a及び第2支持部33bは、ここでは、一体化されていない。第1支持部33a及び第2支持部33bは、第1端面及び第2端面をそれぞれ有していれば、一体化されていてもよい。
【0086】
例えば、支持体層33として溝を有する層を設けた場合、支持体層33のうち溝によって仕切られた2つの部分を第1支持部33a及び第2支持部33bとすることができる。この場合、溝の一方の側壁は第1端面であり、溝の他方の側壁は第2端面である。
【0087】
或いは、第1支持部33a及び第2支持部33bは、互いに対して接合していてもよい。例えば、第1支持部33a及び第2支持部33bを、互いに対して弱く接合させてもよい。或いは、第1支持部33a及び第2支持部33bを、光照射や加熱等によって接着力が低下する接着剤で互いに対して接合させてもよい。
【0088】
第1支持部33a及び第2支持部33bが一体化されている場合、カーボンナノチューブ構造体の取り扱いが更に容易になる。
【0089】
(第3変形例)
第2変形例に係るカーボンナノチューブ構造体は、基材層31の代わりに、第1基材片31a及び第2基材片31bを含んでいること以外は、図1及び図2を参照しながら説明したカーボンナノチューブ構造体と同様である。即ち、第2変形例に係るカーボンナノチューブ構造体は、端面同士が突き合わされた第1基材片31a及び第2基材片31bと、それらの上に一体に設けられた触媒層32と、触媒層32上で配列し、触媒層32の厚さ方向に各々が伸びた複数のカーボンナノチューブ1200からなるカーボンナノチューブアレイ120とを備えている。
【0090】
このカーボンナノチューブ構造体を用いて、図4を参照しながら説明した工程を実施すると、カーボンナノチューブウェブ121を得ることができる。即ち、第1基材片31a及び第2基材片31bを互いから引き離して、カーボンナノチューブアレイ120のうち第1基材片31aの上に位置した第1部分120aと、カーボンナノチューブアレイ120のうち第2基材片31bの上に位置した第2部分120bとの間に、カーボンナノチューブウェブ121を生じさせることができる。
【0091】
このカーボンナノチューブ構造体の製造においては、第1基材片31a及び第2基材片31bの表面が面一となり且つ端面間に隙間を生じないように、端面同士を突き合わさせ、その状態を維持する必要がある。そして、この状態は、図4を参照しながら説明した工程を開始するまで維持する必要がある。それ故、この構造は、上述した他の構造と比較して、取り扱いに注意を要する。
【0092】
但し、このカーボンナノチューブ構造体を用いたカーボンナノチューブウェブの製造では、基材層31の割断は行わない。それ故、割断ラインに凹凸を生じることに起因して、カーボンナノチューブウェブにおけるカーボンナノチューブの分布に不均一さを生じることはない。従って、第1基材片31a及び第2基材片31bの端面を十分に平滑にし、第1基材片31a及び第2基材片31bの表面が面一となり且つ端面間に隙間を生じないように、端面同士を突き合わさせ、その状態を、図4を参照しながら説明した工程を開始するまで維持することにより、カーボンナノチューブが均一に分布したカーボンナノチューブウェブを製造することができる。
【0093】
<応用例>
上記のカーボンナノチューブウェブ121から得られるカーボンナノチューブ膜12は、例えば、ペリクルにおいてペリクル膜又はその一部として使用することができる。
【0094】
図13は、フォトマスクに取り付けられた、本発明の一実施形態に係るペリクルを概略的に示す断面図である。
図13において、ペリクル1が取り付けられたフォトマスク2は、露光光として波長が13.5nmの極端紫外線(EUV光)を使用するEUVリソグラフィ用の反射型フォトマスクである。ペリクル1は、他のフォトマスクに取り付けてもよい。
【0095】
フォトマスク2は、基板21と、多層反射膜22と、キャッピング膜23と、吸収層24とを含んでいる。
【0096】
基板21は、平坦な表面を有している。基板21は、例えば、合成石英のように熱膨張率が小さい材料からなる。
【0097】
多層反射膜22は、基板21の上記表面上に設けられている。多層反射膜22は、EUV光に対する屈折率が異なる2以上の層を含んでいる。多層反射膜22は、繰り返し反射干渉により、EUV光に対して高い反射率を示し、他の光に対して低い反射率を示すように設計されている。
【0098】
ここでは、多層反射膜22は、EUV光に対する屈折率が互いに異なり、交互に積層された反射層22a及び22bを含んでいる。反射層22a及び22bは、例えば、一方が珪素からなり、他方がモリブデンからなる。なお、図13では、多層反射膜22は、反射層22a及び22bの組み合わせを3つ含んでいるが、通常は、より多くの組み合わせを、例えば、40程度の組み合わせを含む。
【0099】
キャッピング膜23は、多層反射膜22上に設けられている。キャッピング膜23は、吸収層24を得るためのパターニングの際やフォトマスク2を洗浄する際に、エッチング剤や洗浄剤から多層反射膜22を保護する役割を果たす。キャッピング膜23は、例えば、ルテニウムからなる。
【0100】
吸収層24は、キャッピング膜23上に設けられている。吸収層24には、半導体ウエハ上のフォトレジスト層に対する露光パターンに対応したパターンの開口部が設けられている。
【0101】
吸収層24は、EUV光に対して高い吸収率を示す材料からなる層である。吸収層24は、例えば、タンタル、酸化インジウム、酸化テルル、又はテルル化錫からなる。
【0102】
ペリクル1は、フォトマスク2に取り付けられている。ペリクル1は、ここでは、フォトマスク2の反射面に埃等が付着するのを防止する。なお、フォトマスクが透過型である場合には、ペリクル1は、フォトマスクの両面に取り付けてもよい。
【0103】
ペリクル1は、フレーム11とカーボンナノチューブ膜12とを含んでいる。
フレーム11は、図示しない接着剤を介して、フォトマスク2に取り付けられている。フレーム11は、カーボンナノチューブ膜12をフォトマスク2から離間させるスペーサとしての役割を果たす。フレーム11は、例えば、アルミニウムからなる。
【0104】
カーボンナノチューブ膜12は、露光光、ここではEUV光に対して高い透過率を示すペリクル膜である。カーボンナノチューブ膜12は、フレーム11を間に挟んでフォトマスク2と向き合うように、フレーム11に支持されている。具体的には、カーボンナノチューブ膜12の周縁部は、例えば、接着剤によってフレーム11に固定されている。
【0105】
カーボンナノチューブ膜12の厚さは、500nm以下であることが好ましい。カーボンナノチューブ膜12を厚くすると、露光光、ここではEUV光に対する透過率が低下する。カーボンナノチューブ膜12の厚さは、10nm以上であることが好ましい。カーボンナノチューブ膜12を薄くすると、その機械的強度が低下するとともに、カーボンナノチューブ膜12を埃等が透過する可能性が高まる。
【0106】
カーボンナノチューブ膜12は、径が30nm超の埃等を透過させないことが好ましい。即ち、カーボンナノチューブ膜12におけるカーボンナノチューブ間の隙間は、径が30nm超の埃等を透過させないものであることが好ましい。
【0107】
このカーボンナノチューブ膜12は、透過率の面内均一性に優れている。これについて、以下に説明する。
【0108】
カーボンナノチューブ膜は、例えば、カーボンナノチューブの分散液から塗膜を形成し、この塗膜から分散媒を除去することによって得ることも可能である。しかしながら、このような方法によると、分散媒を除去する過程でカーボンナノチューブの凝集を生じ得る。それ故、この方法で得られるカーボンナノチューブ膜では、カーボンナノチューブが高密度に存在している部分と、カーボンナノチューブが低密度に存在している部分とを生じ易い。
【0109】
また、カーボンナノチューブの分散液から得られるカーボンナノチューブ膜では、カーボンナノチューブの多くは湾曲及び/又は屈曲した形状を有している。それ故、この方法で得られるカーボンナノチューブ膜は、カーボンナノチューブが交差した部分を数多く含む。EUV光の吸収は交差したそれぞれのカーボンナノチューブによっておこり、交差するカーボンナノチューブの数が多くなるほど吸収されるEUV光の量は多くなる。そのためカーボンナノチューブが交差した部分と、カーボンナノチューブが交差していない部分とでは、吸収されるEUV光の量が異なることが考えられる。また、これら交差部は、均一に分布している訳ではなく、不均一に分布している。
【0110】
従って、カーボンナノチューブの分散液から得られるカーボンナノチューブ膜は、透過率の面内均一性が不十分である。
【0111】
これに対し、カーボンナノチューブウェブ121では、上記の通り、カーボンナノチューブ1200の多くは、それらを引き出した方向に伸びた形状を有している。即ち、カーボンナノチューブ1200は、一方向に各々が伸び、径方向に配列している。また、カーボンナノチューブウェブ121では、上記の通り、カーボンナノチューブ1200は均一に分布している。そして、このカーボンナノチューブウェブ121では、カーボンナノチューブ1200が交差した部分は多くはない。それ故、カーボンナノチューブウェブ121を、それらが含んでいるカーボンナノチューブ1200の長さ方向が交差するように重ね合わせると、カーボンナノチューブ1200の交差部を均一に分布させることができる。
従って、このカーボンナノチューブ膜12は、透過率の面内均一性に優れている。
【0112】
なお、ここでは、カーボンナノチューブ膜12をペリクル膜又はその一部として使用することを説明したが、カーボンナノチューブ膜12は他の用途で使用することも可能である。
【符号の説明】
【0113】
1…ペリクル、2…フォトマスク、11…フレーム、12…カーボンナノチューブ膜、21…基板、22…多層反射膜、22a…反射層、22b…反射層、23…キャッピング膜、24…吸収層、31…基材層、31a…第1基材片、31b…第2基材片、32…触媒層、33…支持体層、33a…第1支持部、33b…第2支持部、120…カーボンナノチューブアレイ、120a…第1部分、120b…第2部分、121…カーボンナノチューブウェブ、121a…第1カーボンナノチューブウェブ、121b…第2カーボンナノチューブウェブ、1200…カーボンナノチューブ、1200a…第1カーボンナノチューブ、1200b…第2カーボンナノチューブ、D1…第1方向、D2…第2方向、S…劈開面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13