(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022075390
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】全固体リチウムイオン二次電池及び全固体リチウムイオン二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20220511BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20220511BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220511BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/0585
H01M10/052
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020186137
(22)【出願日】2020-11-06
(71)【出願人】
【識別番号】519370658
【氏名又は名称】DAREジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143764
【弁理士】
【氏名又は名称】森村 靖男
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 恒
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ06
5H029AJ12
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL01
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL12
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ22
5H029CJ28
5H029DJ09
5H029EJ05
5H029HJ04
5H029HJ14
5H050AA12
5H050AA15
5H050BA15
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB01
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB12
5H050DA10
5H050DA13
5H050EA11
5H050EA12
5H050GA02
5H050GA22
5H050GA27
5H050HA04
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】安全性に優れ、かつ、電池内部抵抗を小さくし得る全固体リチウムイオン二次電池及び当該全固体リチウムイオン二次電池の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】全固体リチウムイオン二次電池1は、リチウムイオン導電性を有する固体電解質を含有する固体電解質層11と、固体電解質層11の一方の面11U上に積層される正極層13と、固体電解質層11の他方の面11D上に積層される負極層16と、を備える。固体電解質層11の固体電解質は、硫酸リチウム及び硫酸リチウム一水和物の少なくとも一方を含有する酸化物系固体電解質であり、固体電解質層11の厚みが10μm以上100μm以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン導電性を有する固体電解質を含有する固体電解質層と、
前記固体電解質層の一方の面上に積層され、正極活物質、固体電解質、及び導電助剤を含む正極層と、
前記固体電解質層の他方の面上に積層され、負極活物質、固体電解質、及び導電助剤を含む負極層と、
を備え、
前記固体電解質層の前記固体電解質は、硫酸リチウム及び硫酸リチウム一水和物の少なくとも一方を含有する酸化物系固体電解質であり、
前記固体電解質層の厚みが10μm以上100μm以下である
ことを特徴とする全固体リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記固体電解質層の前記厚みが10μm以上75μm以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記固体電解質層の前記厚みが10μm以上50μm以下である
ことを特徴とする請求項2に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記固体電解質層は硫酸リチウム一水和物を含有しない
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
【請求項5】
硫酸リチウム一水和物が溶解している懸濁液を正極層及び負極層の少なくとも一方の面上に塗布する塗布工程と、
塗布された前記懸濁液を乾燥して硫酸リチウム及び硫酸リチウム一水和物の少なくとも一方を析出させて固体電解質層を形成する乾燥工程と、
前記固体電解質層を介して前記正極層と前記負極層とを貼り合わせる貼り合せ工程と、
を備える
ことを特徴とする全固体リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項6】
前記塗布工程において、前記正極層及び前記負極層の両方の面上に前記懸濁液を塗布する
ことを特徴とする請求項5に記載の全固体リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項7】
前記貼り合わせ工程において、前記正極層及び前記負極層を前記固体電解質層に対して押圧する
ことを特徴とする請求項5又は6に記載の全固体リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項8】
前記乾燥工程の少なくとも一部を130℃以上150℃以下の加熱下で行う
ことを特徴とする請求項5から7のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体リチウムイオン二次電池及び全固体リチウムイオン二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解液の代わりに固体電解質を用いた全固体リチウムイオン二次電池が開発されている。このような全固体リチウムイオン二次電池は、粉末状の正極活物質、固体電解質、及び導電助剤を混合し圧縮成型して得られる正極層と、粉末状の負極活物質、固体電解質、及び導電助剤を混合し圧縮成型して得られる負極層と、正極層と負極層の間に粉末状の固体電解質を圧縮成型して得られる固体電解質層と、を配置して、これら正極層、負極層、及び固体電解質層をプレスにより一体化することで製造される場合がある。しかし、このような製造方法では、粉末状の活物質、固体電解質、及び導電助剤をプレスする際に、個々の粉体の間に隙間が生じて、この隙間に起因して、イオン導電率が低下したり固体電解質層の厚みが大きくなったりし易い。このようにイオン導電率が低下したり固体電解質層の厚みが大きくなったりすると、電池内部抵抗の増大を招く。
【0003】
そのため、固体電解質として硫化物系固体電解質を使用することが検討されている。硫化物系固体電解質は、圧力可塑性が高く、プレスすると形状が変化し易いため、上記のような隙間を小さくできると考えられる。しかし、硫化物系固体電解質は水と容易に反応し硫化水素を発生するため、安全性の確保が難しい。
【0004】
そこで、例えば、下記非特許文献1に記載されるように、固体電解質として硫酸リチウムを使用した全固体リチウムイオン二次電池が知られている。硫酸リチウムは、水と反応した場合でも硫化水素が発生することのない酸化物系固体電解質であるため、安全性に優れる。また、硫酸リチウムは、他の酸化物系固体電解質の多くに比べて圧力可塑性が高いため、圧力により変形し、隙間を埋めることが可能である。上記隙間をある程度小さくし得る。そのため、固体電解質として硫酸リチウムを用いることによって、上述の隙間を埋めることができ、イオン導電率の低下や固体電解質層の厚みの増大を抑制して、電池内部抵抗の増大を抑制できると期待される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】”Preparation and characterization of glass solid electrolytes in the pseudoternary system Li3BO3-Li2SO4-Li2CO3” Solid State IonicsVolume 308, 1 October 2017, Pages 68-76.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記非特許文献1のように固体電解質として硫酸リチウムを使用する場合でも
硫酸リチウムを粉末で用いているため、塑性変形に700MPa以上の大きな圧力が必要であり、各粉末間の小さな隙間を埋めることが難しい。また、中間層である固体電解質層の厚みを100μm程度にすることが限度である。
【0007】
そこで、本発明は、安全性に優れ、かつ、電池内部抵抗を小さくし得る全固体リチウムイオン二次電池及び当該全固体リチウムイオン二次電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的の達成のため、本発明の全固体リチウムイオン二次電池は、リチウムイオン導電性を有する固体電解質を含有する固体電解質層と、前記固体電解質層の一方の面上に積層され、正極活物質、固体電解質、及び導電助剤を含む正極層と、前記固体電解質層の他方の面上に積層され、負極活物質、固体電解質、及び導電助剤を含む負極層と、を備え、前記固体電解質層の前記固体電解質は、硫酸リチウム及び硫酸リチウム一水和物の少なくとも一方を含有する酸化物系固体電解質であり、前記固体電解質層の厚みが10μm以上100μm以下であることを特徴とするものである。
【0009】
この全固体リチウムイオン二次電池では、固体電解質が酸化物系固体電解質であるため、固体電解質が硫化物系固体電解質である場合と異なり、硫化水素の発生が抑制される。よって、安全性に優れる。また、この全固体リチウムイオン二次電池の固体電解質層の厚みは10μm以上100μm以下であり、非特許文献1に記載されるような従来の全固体リチウムイオン二次電池の固体電解質層の厚みに比べて小さい。このため、この全固体リチウムイオン二次電池では、電池内部抵抗が従来の上記全固体リチウムイオン二次電池の電池内部抵抗に比べて小さくなり得る。
【0010】
また、前記固体電解質層の前記厚みが10μm以上75μm以下であることが好ましい。
【0011】
このように固体電解質層の厚みをより薄くすることによって、電池内部抵抗がより小さくなり得る。
【0012】
また、前記固体電解質層の前記厚みが10μm以上50μm以下であることがより好ましい。
【0013】
このように固体電解質層の厚みをさらに薄くすることによって、電池内部抵抗がさらに小さくなり得る。
【0014】
また、前記固体電解質層は硫酸リチウム一水和物を含有しないことがより好ましい。
【0015】
固体電解質層に硫酸リチウム一水和物が含まれる場合、高温下で硫酸リチウム一水和物に含まれる結晶水が脱離する傾向がある。この結晶水が全固体リチウムイオン二次電池を構成する種々の材料と反応すると、これらの材料の劣化を招き得る。そのため、固体電解質層に硫酸リチウム一水和物が含まれる場合、当該結晶水が脱離しない温度で全固体リチウムイオン二次電池を使用することが推奨される。一方、固体電解質層に硫酸リチウム一水和物が含まれない場合、高温下でも上記のような結晶水の脱離が抑制されるため、全固体リチウムイオン二次電池の使用温度域の上限を高めることが可能になり得る。例えば、130℃以上の高温下での使用が可能になり得る。
【0016】
また、上記目的の達成のため、本発明の全固体リチウムイオン二次電池の製造方法は、硫酸リチウム一水和物が溶解している懸濁液を正極層及び負極層の少なくとも一方の面上に塗布する塗布工程と、塗布された前記懸濁液を乾燥して硫酸リチウム及び硫酸リチウム一水和物の少なくとも一方を析出させて固体電解質層を形成する乾燥工程と、前記固体電解質層を介して前記正極層と前記負極層とを貼り合わせる貼り合せ工程と、を備えることを特徴とするものである。
【0017】
この全固体リチウムイオン二次電池の製造方法によれば、上記のように固体電解質を析出させることによって固体電解質層を形成することができるため、上述の従来の方法のように粉末状の固体電解質を圧粉して固体電解質層を形成する場合に比べて、固体電解質層の厚みを薄くし得、例えば、固体電解質層の厚みを10μm以上100μm以下程度にし得る。したがって、この全固体リチウムイオン二次電池の製造方法によれば、上記のような全固体リチウムイオン二次電池を製造し得る。
【0018】
また、前記塗布工程において、前記正極層及び前記負極層の両方の面上に前記懸濁液を塗布してもよい。
【0019】
このようにすることで、正極層及び負極層の一方の面のみに溶液を塗布する場合に比べて、固体電解質が多く含まれる固体電解質層を形成し得る。
【0020】
また、前記貼り合わせ工程において、前記正極層及び前記負極層を前記固体電解質層に対して押圧してもよい。
【0021】
このようにすることで、固体電解質層をより薄くすることができ、例えば、10μm以上50μm以下にすることができる。また、固体電解質層が薄くなることによって、固体電解質層における固体電解質の密度を高めることができ、その結果、電池内部抵抗をさらに小さくすることができる。
【0022】
また、前記乾燥工程の少なくとも一部を130℃以上150℃以下の加熱下で行ってもよい。
【0023】
硫酸リチウム一水和物に含まれる結晶水は、130℃以上で脱離する。そのため、乾燥工程を130℃以上の加熱下で行う場合、硫酸リチウム一水和物に含まれる結晶水を脱離除去することができ、上述の硫酸リチウム一水和物が含まれない固体電解質層を形成し得る。なお、加熱温度が150℃以下であれば、集電箔の酸化を抑制し得る。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明によれば、安全性に優れ、かつ、電池内部抵抗を小さくし得る全固体リチウムイオン二次電池及び当該全固体リチウムイオン二次電池の製造方法が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン二次電池の厚み方向に沿った断面の概略を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン二次電池の製造方法の他の例を示すフローチャートである。
【
図3】
図2に示す製造方法における正負極層形成工程の様子を示す図である。
【
図4】
図2に示す製造方法における塗布工程の様子を示す図である。
【
図5】
図2に示す製造方法における貼り合わせ工程の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る全固体リチウムイオン二次電池及び全固体リチウムイオン二次電池の製造方法を実施するための形態が添付図面とともに例示される。以下に例示する実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、以下の実施形態から変更、改良することができる。また、本明細書では、理解を容易にするために、各部材の寸法が誇張して示されている場合がある。
【0027】
図1は、実施形態に係る全固体リチウムイオン二次電池1の厚み方向に沿った断面の概略を示す図である。
図1に示すように、本実施形態の全固体リチウムイオン二次電池1は、いわゆるバルク型の全固体リチウムイオン二次電池として構成されており、包材10内に電池素体1bが配置されたものである。電池素体1bは、固体電解質層11と、正極12と、負極15とを主な構成として備える。
【0028】
正極12は、正極集電体層14と、正極層13とを含んでいる。
【0029】
正極集電体層14は、導電性かつ非イオン導電性の材料から成る層である。このような材料としては、金属やカーボンを挙げることができ、例えば、このような金属として、銅、アルミニウム、鉄ニッケル合金等を挙げることができる。
【0030】
本実施形態の正極層13は、正極活物質と、固体電解質としての酸化物系固体電解質と、導電助剤とを含んでなる層である。この正極層13は、正極集電体層14の一方の面側において正極集電体層14に積層されている。
【0031】
正極活物質を構成する材料としては、リチウムを含有し、リチウムイオンの取り込みと放出ができるものであれば、特に限定されないが、例えば、マンガン酸リチウム(LMO)、コバルト酸リチウム(LCO)、ニッケル酸リチウム(LNO)、三元系(NMC)、リン酸鉄リチウム(LFP)、リン酸バナジウム系酸化物(LVP)、リン酸コバルトマンガン酸化物(LCMP)、及びこれらの混合物等を挙げることができる。なお、ここで言う三元系とは、例えば、ニッケル、マンガン、コバルトを含有することを指す。
【0032】
正極層13に含まれる上記酸化物系固体電解質としては、リチウムイオン導電性を有する材料を挙げることができ、後述する固体電解質層11に含まれる酸化物系固体電解質と同じ材料であっても異なる材料であってもよい。
【0033】
正極層13に含まれる導電助剤としては、例えば、AB(アセチレンブラック)やCNT(カーボンナノチューブ)などを挙げることができる。
【0034】
なお、正極層13には、必要に応じてバインダ等が含まれてもよい。
【0035】
負極15は、負極集電体層17と、負極層16とを含んでいる。
【0036】
負極集電体層17は、導電性かつ非イオン導電性の材料から成る層である。負極集電体層17の材料としては、例えば、正極集電体層14と同様の材料を挙げることができる。
【0037】
本実施形態の負極層16は、負極活物質と、固体電解質としての酸化物系固体電解質と、導電助剤とを含んでなる層である。この負極層16は、負極集電体層17の一方の面側において負極集電体層17に積層されている。
【0038】
負極活物質を構成する材料としては、リチウムイオンの取り込みと放出ができるものであれば、特に限定されないが、例えば、易黒鉛化カーボン、難黒鉛化カーボン、LTO、LMO、Si、Li、及びこれらの混合物等を挙げることができる。
【0039】
負極層16に含まれる上記酸化物系固体電解質としては、リチウムイオン導電性を有する材料を挙げることができ、後述する固体電解質層11に含まれる酸化物系固体電解質と同じ材料であっても異なる材料であってもよい。
【0040】
負極層16に含まれる導電助剤としては、例えば、AB(アセチレンブラック)やCNT(カーボンナノチューブ)などを挙げることができる。
【0041】
なお、負極層16には、必要に応じてバインダ等が含まれてもよい。
【0042】
固体電解質層11は、リチウムイオン導電性を有する固体電解質を含有する層である。本実施形態において、この固体電解質は、硫酸リチウム(Li2SO4)及び硫酸リチウム一水和物(Li2SO4・H2O)の少なくとも一方が含まれる酸化物系固体電解質である。後述するように、本実施形態では、硫酸リチウム一水和物は後述する懸濁液から析出させることで得られ、硫酸リチウムは、析出した硫酸リチウム一水和物に含まれる結晶水を脱離除去することによって得られる。
【0043】
なお、固体電解質層11には、酸化物系固体電解質として、硫酸リチウム及び硫酸リチウム一水和物以外の他の酸化物系固体電解質が含まれてもよい。このような他の酸化物系固体電解質としては、例えば、リン酸リチウムアルミニウムチタン(LATP)、リチウムランタンジルコニウム酸化物(LLZO)、リチウムランタンチタン酸化物(LLTO)、アルミニウム置換リン酸ゲルマニウムリチウム(LAGP)等を挙げることができる。LATPには、ケイ素(Si)やゲルマニウム(Ge)が添加されてもよい。また、固体電解質層11には、上記酸化物系固体電解質の他に、リチウムイオン導電性高分子材料(PEO、PEG、PVDF等)、リチウム塩(LiPF6、LiBF4、LiBOB、LiTFSI、LiFSI等)、及びバインダ等が含まれてもよい。
【0044】
この固体電解質層11は正極12と負極15とによって挟まれており、正極12の正極層13は固体電解質層11の一方の面11U上に積層され、負極15の負極層16は固体電解質層11の他方の面11D上に積層される。本実施形態において、固体電解質層11の一方の面11Uから他方の面11Dまでの厚みThは100μm以下であり、少なくとも10μm以上100μm以下である。なお、後述するように、この厚みThを10μm以上75μm以下にすることもでき、さらに10μm以上50μm以下にすることもできる。
【0045】
包材10は、正極12、固体電解質層11、及び負極15を収容して封止する部材である。なお、正極12の正極集電体層14及び負極集電体層17の一部は、電極として包材10の外部に導出される。
【0046】
包材10の構成は、外部の酸素や水分等が包材10で包囲された領域内に侵入することが抑制され、当該領域と導通しなければ、特に限定されないが、例えば、アルミニウム等の金属箔が樹脂層でラミネートされたものを用いることができる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態に係る全固体リチウムイオン二次電池1は、リチウムイオン導電性を有する固体電解質を含有する固体電解質層11と、固体電解質層11の一方の面11U上に積層され、正極活物質、固体電解質、及び導電助剤を含む正極層13と、固体電解質層11の他方の面11D上に積層され、負極活物質、固体電解質、及び導電助剤を含む負極層16と、を備えている。また、この全固体リチウムイオン二次電池1において、固体電解質層11の固体電解質は、硫酸リチウム及び硫酸リチウム一水和物の少なくとも一方が含まれる酸化物系固体電解質であり、固体電解質層11の一方の面11Uから他方の面11Dまでの厚みThが10μm以上100μm以下である。
【0048】
この全固体リチウムイオン二次電池1では、固体電解質層11の固体電解質が酸化物系固体電解質であるため、固体電解質が硫化物系固体電解質である場合と異なり、硫化水素の発生が抑制される。よって、安全性に優れる。また、この全固体リチウムイオン二次電池1の固体電解質層11の厚みThは10μm以上100μm以下である。従来、酸化物系固体電解質として硫酸リチウムが使用される全固体リチウムイオン二次電池が知られているが、このような全固体リチウムイオン二次電池の固体電解質層の厚みは概ね100μm以上である。このため、本実施形態の全固体リチウムイオン二次電池1の固体電解質層11の厚みThは、このような従来の全固体リチウムイオン二次電池の固体電解質層の厚みに比べて小さい。したがって、本実施形態に係る全固体リチウムイオン二次電池1によれば、電池内部抵抗が従来の全固体リチウムイオン二次電池の電池内部抵抗に比べて小さくなり得る。
【0049】
なお、厚みThを10μm以上75μm以下、あるいは、10μm以上50μm以下にすることによって、電池内部抵抗をさらに小さくすることができる。
【0050】
ところで、全固体リチウムイオン二次電池1において、固体電解質層11に硫酸リチウム一水和物が含まれないことがより好ましい。固体電解質層11に硫酸リチウム一水和物が含まれる場合、高温下で硫酸リチウム一水和物の結晶水が脱離し得る。この結晶水が全固体リチウムイオン二次電池を構成する種々の材料と反応すると、これらの材料の劣化を招き得る。そのため、固体電解質層11に硫酸リチウム一水和物が含まれる場合、硫酸リチウム一水和物の結晶水が脱離しない温度で全固体リチウムイオン二次電池1を使用することが推奨される。一方、固体電解質層11に硫酸リチウム一水和物が含まれない場合、高温下でも上記のような結晶水の脱離が抑制されるため、全固体リチウムイオン二次電池1の使用温度域の上限をさらに高め得る。例えば、130℃以上の高温下でも全固体リチウムイオン二次電池を使用することが可能になり得る。
【0051】
次に、全固体リチウムイオン二次電池1の製造方法の一例について説明する。
図2は、この例を示すフローチャートである。
【0052】
図2に示すように、この全固体リチウムイオン二次電池1の製造方法は、正負極層形成工程P1と、塗布工程P2と、乾燥工程P3と、貼り合せ工程P4と、封止工程P5と、を含んでいる。
【0053】
(正負極層形成工程P1)
本工程は、正極層13及び負極層16を形成する工程である。
【0054】
まず、上述の正極集電体層14と、上述の正極活物質と、硫酸リチウム一水和物が溶解している溶液と、を混合した懸濁液を準備する。この懸濁液には、上述の導電助剤も含まれる。また、この懸濁液には、必要に応じて、他の酸化物固体電解質やバインダなどの添加剤が含まれてもよい。次に、この溶液を正極集電体層14に塗布して乾燥させる。こうして、
図3に示すように、正極層13が正極集電体層14上に形成され、正極12が形成される。
【0055】
また、上述の負極集電体層17と、上述の負極活物質と、硫酸リチウム一水和物が溶解している溶液と、を混合した懸濁液を準備する。この懸濁液には、上述の導電助剤も含まれる。また、この懸濁液には、必要に応じて、他の酸化物固体電解質やバインダなどの添加剤が含まれてもよい。次に、この懸濁液を負極集電体層17に塗布して乾燥させる。こうして、
図3に示すように、負極層16が負極集電体層17上に形成され、負極15が形成される。
【0056】
(塗布工程P2)
次に、本工程を行う。本工程では、まず、リチウムイオン導電性を有する酸化物系固体電解質として硫酸リチウム一水和物が溶解している溶液と他の酸化物固体電解質とを混合した懸濁液Soを準備する。なお、必要に応じて、上述したリチウムイオン導電性高分子材料、リチウム塩、及びバインダなどを懸濁液Soに添加又は混合して、複合化してもよい。
【0057】
次に、
図4に示すように、正極層13の正極集電体層14側とは反対側の面上に懸濁液Soを塗布するとともに、負極層16の負極集電体層17側とは反対側の面上に懸濁液Soを塗布する。
【0058】
(乾燥工程P3)
塗布工程P2の後、本工程を行う。本工程では、正極12に塗布された懸濁液So及び負極15に塗布された懸濁液Soのそれぞれを室温下において乾燥させる。これにより、硫酸リチウム及び硫酸リチウム一水和物が正極層13及び負極層16のそれぞれの面上に析出する。その結果、それぞれの懸濁液Soが固体電解質層となり、正極側素体半体と負極側素体半体とが形成される。
【0059】
次に、正極側素体半体及び負極側素体半体のそれぞれを130℃以上150℃以下で加熱する。このように、本実施形態では、本工程の一部を130℃以上150℃以下の加熱下で行う。その結果、析出した硫酸リチウム一水和物に含まれる結晶水が脱離除去され、硫酸リチウム一水和物が含まれない固体電解質層が形成され得る。なお、加熱温度が150℃以下であることによって、集電箔の酸化を抑制し得る。
【0060】
(貼り合せ工程P4)
乾燥工程P3の後、本工程を行う。本工程では、
図5に示すように、正極側素体半体1bAを反転させ、正極側素体半体1bAの固体電解質層11Aを負極側素体半体1bBの固体電解質層11B側に向ける。その後、固体電解質層11A,11Bが互いに接触する状態で、正極側素体半体1bAと負極側素体半体1bBとを固体電解質層11A,11Bに対して押圧する。こうして、本工程では、正極層13及び負極層16が固体電解質層11A,11Bに対して押圧される。本工程で印加する圧力は、例えば、0.1MPa以上70MPa以下であってもよい。このように、本工程が押圧下で行われることによって、固体電解質層11A,11Bが一体化して固体電解質層11となり、固体電解質層11を介して正極層13と負極層16とが貼り合わされる。こうして、電池素体1bが形成される。
【0061】
なお、本工程を加熱下で行ってもよい。また、本工程を加熱下で行う場合、その温度は、例えば、100℃以上150℃以下であってもよい。
【0062】
(封止工程P5)
次に、電池素体1bを包材10内に配置し、包材10を封止する。なお、この封止には熱融着等が用いられることが好ましい。
【0063】
こうして、
図1に示す全固体リチウムイオン二次電池1を得る。
【0064】
以上説明したように、この全固体リチウムイオン二次電池の製造方法は、硫酸リチウム一水和物が溶解している懸濁液Soを正極層13及び負極層16の一方の面上に塗布する塗布工程P2と、塗布された懸濁液Soを乾燥して硫酸リチウム及び硫酸リチウム一水和物を析出させて固体電解質層11を形成する乾燥工程P3と、固体電解質層を介して正極層13と負極層16とを貼り合わせる貼り合せ工程P4と、を備える。
【0065】
この全固体リチウムイオン二次電池の製造方法によれば、上記のように、懸濁液Soに溶解した固体電解質を析出させることによって固体電解質層を形成することができるため、例えば粉末状の固体電解質を圧粉して固体電解質層を形成する場合に比べて、固体電解質粒子間の隙間が小さくなり得、その結果、固体電解質層11の厚みを10μm以上100μm以下程度に薄くすることができる。したがって、この全固体リチウムイオン二次電池の製造方法によれば、上記のような全固体リチウムイオン二次電池1を製造し得る。
【0066】
また、この全固体リチウムイオン二次電池の製造方法によれば、懸濁液Soから析出した固体電解質が、正極層13の固体電解質層11側の面の凹部や負極層16の固体電解質層11側の面の凹部に入り込み得る。このため、この全固体リチウムイオン二次電池の製造方法によれば、固体電解質層11と正極層13との界面における隙間や固体電解質層11と負極層16との界面における隙間が小さくなり得、電池内部抵抗がさらに小さくなり得る。
【0067】
また、この全固体リチウムイオン二次電池の製造方法では、貼り合わせ工程P4において、正極側素体半体1bAと負極側素体半体1bBとを固体電解質層11A,11Bに対して押圧する。このようにすることで、固体電解質層11をより薄くすることができ、例えば、10μm以上75μm以下にすることができ、あるいは、10μm以上50μm以下にすることができる。また、固体電解質層11をこのように薄くすることによって、固体電解質層11における固体電解質の密度を高めることができ、その結果、電池内部抵抗をさらに小さくすることができる。
【0068】
以上、本発明について上記実施形態を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0069】
また、上述の全固体リチウムイオン二次電池の製造方法では、正極層13と負極層16との両方に懸濁液Soを塗布する例を説明した。しかし、正極層13及び負極層16の一方の面上のみに懸濁液Soを塗布するようにしてもよい。ただし、正極層13及び負極層16の両方の面上に懸濁液Soが塗布されることによって、正極層13及び負極層16の一方の面上のみに懸濁液Soを塗布する場合に比べて、固体電解質が多く含まれる固体電解質層11を形成し得る。
【0070】
また、上述の全固体リチウムイオン二次電池の製造方法では、正極層13及び負極層16を固体電解質層に対して押圧して貼り合わせる例を説明した。しかし、正極層13と負極層16とを固体電解質層を介して貼り合わせる方法はこれに限られない。例えば、正極側素体半体1bAと負極側素体半体1bBとの間に所定の接着層を設けることによって、正極層13と負極層16とを固体電解質層を介して貼り合わせてもよい。
【0071】
また、上述の全固体リチウムイオン二次電池の製造方法では、乾燥工程の一部を130℃以上150℃以下の加熱下で行う例を説明したが、このような加熱下で乾燥工程を行うことは必須ではない。例えば、乾燥工程の全期間を常温下で行ってもよいし、乾燥工程の全期間を常温以上130℃未満の加熱下で行ってもよいし、乾燥工程の全期間を130℃以上150℃以下の加熱下で行ってもよい。ただし、乾燥工程の少なくとも一部を130℃以上150℃以下の加熱下で行うことで、上述のように、析出した硫酸リチウム一水和物に含まれる結晶水が脱離除去され、硫酸リチウム一水和物が含まれない固体電解質層を形成し得る。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、安全性に優れ、かつ、電池内部抵抗を小さくし得る全固体リチウムイオン二次電池及び当該全固体リチウムイオン二次電池の製造方法が提供され、自動車用電池、産業機器用電池、及び民生機器用電池等の分野における利用が期待される。
【符号の説明】
【0073】
1・・・全固体リチウムイオン二次電池
1b・・・電池素体
11・・・固体電解質層
11U・・・固体電解質層の一方の面
11D・・・固体電解質層の他方の面
13・・・正極層
16・・・負極層
P2・・・塗布工程
P3・・・乾燥工程
P4・・・貼り合わせ工程
So・・・懸濁液