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  • 特開-乳酸菌の培養方法及び乳酸菌用培地 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022075480
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】乳酸菌の培養方法及び乳酸菌用培地
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20220511BHJP
【FI】
C12N1/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021090963
(22)【出願日】2021-05-31
(62)【分割の表示】P 2020185675の分割
【原出願日】2020-11-06
(71)【出願人】
【識別番号】501337683
【氏名又は名称】株式会社美山
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正宏
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA30
4B065BB08
4B065BB15
4B065CA41
(57)【要約】
【課題】
乳酸菌を大量培養するために使用可能な乳酸菌用培地を用いた乳酸菌の培養方法及び該乳酸菌用培地を提供することを、本発明が解決しようとする課題とする。
【解決手段】
上記課題は、乳酸菌を、グルコースとグルコン酸とを炭素源として含有する乳酸菌用培地を用いて、培養する工程を含む、乳酸菌の培養方法及びグルコースとグルコン酸とを炭素源として含有する乳酸菌用培地などにより解決される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸菌を、グルコースとグルコン酸とを炭素源として含有する乳酸菌用培地を用いて、培養する工程を含む、乳酸菌の培養方法。
【請求項2】
前記グルコースと前記グルコン酸との割合が乾燥質量比で3:1~1:3である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記乳酸菌がラクトバチルス属(Lactobacillus)乳酸菌、リューコノストック属(Leuconostoc)乳酸菌、エンテロコッカス属(Enterococcus)乳酸菌、ラクトコッカス属(Lactococcus)乳酸菌及びペディオコッカス属(Pediococcus)乳酸菌からなる群から選択される少なくとも1種の乳酸菌である、請求項1~2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
グルコースとグルコン酸とを炭素源として含有する乳酸菌用培地。
【請求項5】
前記グルコースと前記グルコン酸との割合が乾燥質量比で3:1~1:3である、請求項4に記載の培地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌の培養方法及び乳酸菌用培地に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌は代謝によりグルコースなどの糖類から乳酸を産生する微生物の総称であり、醤油、味噌、漬け物、乳製品などに含まれている。乳酸菌は、生菌体及び死菌体を問わずに、摂取されることによって摂取体に様々な生理的効果を与えることが知られている。例えば、乳酸菌の死菌体は、腸内を刺激し、免疫細胞を増殖させ、結果として肌の状態を改善し得ることが知られている。
【0003】
このような乳酸菌の生理的効果を期待する場合、大量の乳酸菌を摂取することが望まれる。しかし、乳酸菌の大量培養は、乳酸菌が産生する乳酸などによって培養液中のpHが下がり、困難という問題がある。このような問題を解消して、乳酸菌を大量に培養するために、乳酸菌、培養方式、培養条件、培地などについて種々検討されている。
【0004】
このうち、培地を改変して乳酸菌の大量培養を試みる方法として、特許文献1には、グルコースの代わりに、スクロース、ラクトース、マルトース又はガラクトースを炭素源として用いる乳酸菌の培養方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-030292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しがしながら、特許文献1に記載の方法は、乳酸菌による乳酸の産生を抑制することが可能であるものの、乳酸菌の増殖促進効果は限定的であり、十分ではない。
【0007】
また、乳酸菌の大量培養に使用し得る培地については、これまでにほとんど知られていない。
【0008】
そこで、本発明は、乳酸菌を大量培養するために使用可能な乳酸菌用培地を用いた乳酸菌の培養方法及び該乳酸菌用培地を提供することを、本発明が解決しようとする課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決しようとして、グルコースに代えて、乳酸菌を大量に培養し得るような炭素源について鋭意検討した。その結果、グルコースの代替物として利用できる、有用な物質は見当たらなかった。しかし、驚くべきことに、種々検討した物質のうち、グルコン酸をグルコースの共炭素源とすることにより、グルコースを炭素源とする培地と比較して、乳酸菌を高濃度で培養し得ることを見出した。本発明者は、このような知見に基づいて、遂に、本発明の課題を解決し得るものとして、乳酸菌を、グルコン酸とグルコースとを炭素源として含有する乳酸菌用培地を用いて、培養する工程を含む、乳酸菌の培養方法を創作することに成功した。本発明は、これらの知見及び成功例に基づき完成された発明である。
【0010】
したがって、本発明の一態様によれば、以下の方法及び培地が提供される。
[1]乳酸菌を、グルコン酸とグルコースとを炭素源として含有する乳酸菌用培地を用いて、培養する工程を含む、乳酸菌の培養方法。
[2]前記グルコン酸と前記グルコースとの割合が質量比で3:1~1:3である、[1]に記載の方法。
[3]前記乳酸菌がラクトバチルス属(Lactobacillus)乳酸菌、リューコノストック属(Leuconostoc)乳酸菌、エンテロコッカス属(Enterococcus)乳酸菌、ラクトコッカス属(Lactococcus)乳酸菌及びペディオコッカス属(Pediococcus)乳酸菌からなる群から選択される少なくとも1種の乳酸菌である、[1]~[2]のいずれか1項に記載の方法。
[4]グルコン酸とグルコースとを炭素源として含有する乳酸菌用培地。
[5]前記グルコン酸と前記グルコースとの割合が質量比で3:1~1:3である、[4]に記載の培地。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様の方法及び培地によれば、乳酸菌高濃度で培養することができる。これにより、本発明の一態様の方法及び培地は、工業的規模での乳酸菌の大量生産、更には乳酸菌を高濃度で高含有する飲食品の生産に利用することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、後述する実施例に記載のとおりの、L.brevis、及びL.citriumをGYP培地を改変した培地で培養した培養液の濁度の測定結果を示す図である。AはL.brevis、及びBはL.citriumを用いた場合の結果を示す。
図2図2は、後述する実施例に記載のとおりの、L.brevis、及びL.citriumをGYP培地を改変した培地で培養した培養液のpHの測定結果を示す図である。AはL.brevis、及びBはL.citriumを用いた場合の結果を示す。
図3図3は、後述する実施例に記載のとおりの、L.brevis、及びL.citriumを食品グレード培地を改変した培地で培養した培養液の濁度の測定結果を示す図である。AはL.brevis、及びBはL.citriumを用いた場合の結果を示す。
図4図4は、後述する実施例に記載のとおりの、L.brevis、及びL.citriumを食品グレード培地を改変した培地で培養した培養液のpHの測定結果を示す図である。AはL.brevis、及びBはL.citriumを用いた場合の結果を示す。
図5図5は、後述する実施例に記載のとおりの、L.plantarum及びL.sakeiをGYP培地を改変した培地で培養した培養液の濁度の測定結果を示す図である。AはL.plantarum及びBはL.sakeiを用いた場合の結果を示す。
図6図6は、後述する実施例に記載のとおりの、L.plantarum及びL.sakeiをGYP培地を改変した培地で培養した培養液のpHの測定結果を示す図である。AはL.plantarum及びBはL.sakeiを用いた場合の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一態様である方法及び培地の詳細について説明するが、本発明の技術的範囲は本項目の事項によってのみに限定されるものではなく、本発明はその目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
【0014】
本明細書における各用語は、別段の定めがない限り、当業者により通常用いられている意味で使用され、不当に限定的な意味を有するものとして解釈されるべきではない。また、本明細書においてなされている理論や推測は、本発明者らのこれまでの知見や経験によってなされたものであることから、本発明の技術的範囲はこのような理論や推測のみによって拘泥されるものではない。
【0015】
「含有量」は、濃度と同義であり、組成物の全体量に対する成分の量の割合を意味する。ただし、成分の含有量の総量は、100%を超えることはない。本明細書では、別段の定めがない限り、含有量の単位は「質量%(wt%)」を意味する。
数値範囲の「~」は、本明細書において、その前後の数値を含む範囲であり、例えば、「0質量%~100質量%」は、0質量%以上であり、かつ、100質量%以下である範囲を意味する。
【0016】
[本発明の一態様の培地]
本発明の一態様の培地は、グルコン酸とグルコースとを炭素源として含有する乳酸菌用培地である。本発明の一態様の培地は、乳酸菌の培養のために用いられる。本発明の一態様の培地に含まれる炭素源は、乳酸菌が資化して菌体増殖に利用される有機化合物を意味し、酵母エキス及び肉エキスなどの生物由来エキスは含まれない。
【0017】
炭素源濃度を質量比で同一とした場合、グルコン酸とグルコースとを炭素源として含有する培地が、グルコースのみを炭素源とする培地よりも、乳酸菌の増殖をより促進する理由については定かではない。しかしながら、一部の乳酸菌にはグルコン酸を取り込むチャンネル(ABCトランスポーターやPTS)などがあり、リン酸化され解糖系の下流にある6-ホスホグルコネートとして取り込まれることも知られている(マルガリータ・アンドレエフスカヤら著、BMC Genomics(2016)17:539)。また、キシロースとグルコースの併用系ではカタボライトリプレッションの濃度が変わり、効率よく乳酸生成が行われているという文献も存在する(キムジェハンら著、Microbiology(2009),155,1351-1359、キョンホンチョンら著、J.Microbiol.Biotechnol.(2016),26(7),1182-1189)。そして、後述する実施例に記載があるとおり、グルコースとグルコン酸ナトリウムとを炭素源として含有する培地を用いて培養した場合は、グルコースのみを炭素源として含む培地で培養した場合よりも、乳酸菌がより増殖し、更に培養液中のpH低下が抑制されるという結果を得た。この結果に基づけば、グルコン酸とグルコースとを炭素源として含有する培地は、グルコースのみを炭素源として含む培地よりも、乳酸菌による乳酸その他の有機酸の生産を抑えて、菌体増殖をより促進し得ると推測できる。
【0018】
本発明の一態様の培地は、グルコースのみを炭素源として、その他の成分が同じである培地に比べて、乳酸菌の増殖を促進する作用(乳酸菌増殖促進作用)及び/又は培養液中のpHの下降を抑制する作用(pH下降抑制作用)を有する。
【0019】
グルコースは、通常知られているとおりの、C12の分子式で示される単糖であり、好ましくはD-グルコースである。
【0020】
グルコン酸は、通常知られているとおりの、グルコースの1位の炭素が酸化してカルボキシル基となった構造を示すカルボン酸であり、好ましくはD-グルコン酸である。
【0021】
グルコン酸として、グルコン酸塩及びグルコン酸の環化化合物であるグルコノラクトンを用いてもよい。グルコン酸塩は、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩などが挙げられる。グルコン酸、グルコン酸塩及びグルコノラクトンは、本発明の一態様の培地を溶解してpHを中性付近に調整した液体培地中では、いずれも共通してグルコン酸イオンの形態をなし得る。グルコン酸は、これらの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0022】
グルコース及びグルコン酸は、市販されているものでもよく、公知の方法に従って製造したものでもよい。
【0023】
炭素源であるグルコースとグルコン酸との割合は、培地が乳酸菌増殖促進作用及び/又はpH下降抑制作用を示し得る限り特に限定されないが、これらの乾燥質量比(グルコース:グルコン酸)が3:1~1:3であることが好ましく、2:1~1:3であることがより好ましい。グルコン酸を添加した場合に、グルコースによるpH下降が抑制されることを鑑みれば、上記乾燥質量比は、1:1~1:3であることが更に好ましい。
【0024】
培地中のグルコース及びグルコン酸の合計の含有量は、所望の菌体量の乳酸菌が得られる限り特に限定されないが、例えば、使用した基礎培地で用いられている量又はそれよりも多い量であることが好ましく、液体状の培地中で2質量%以上がより好ましく、4質量%以上が更に好ましく、6質量%以上がなお更に好ましい。培地中のグルコース及びグルコン酸の合計の含有量の上限は特に限定されないが、グルコースの含有量が多いと菌体増殖が妨げられ得ることから、典型的には50質量%程度である。
【0025】
グルコース及びグルコン酸の含有量は、グルコース及びグルコン酸の質量比及びこれらの合計量が上記した関係にある限り、適宜設定することができる。例えば、液体状の培地中でグルコースの含有量は0.5質量%~20質量%が好ましく、1.0質量%~10質量%がより好ましく、1.5質量%~5質量%が更に好ましく;グルコン酸の含有量は0.5質量%~20質量%が好ましく、1.0質量%~10質量%がより好ましく、1.5質量%~5質量%が更に好ましい。
【0026】
本発明の一態様の培地は、グルコースとグルコン酸とを炭素源として含有する限り、乳酸菌の種類などに応じて任意のその他の成分を含有する。その他の成分は特に限定されず、例えば、基礎培地に含まれる成分などが挙げられ、具体的にはペプトン、酵母エキス、カゼイン、肉エキス、酢酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン、硫酸鉄及びオレイン酸エステルなどの脂肪酸などの公知の乳酸菌用培地に含まれる成分などが挙げられる。ただし、その他の成分として、本発明の課題を妨げない限り、グルコース及びグルコン酸以外の炭素源となり得るものを使用してもよいが、炭素源はグルコース及びグルコン酸のみからなることが好ましい。基礎培地は、公知の乳酸菌用培地であり、例えば、GYP培地、食品グレード培地、MRS培地、BCP培地、M17培地、TYG培地などが挙げられる。
【0027】
本発明の一態様の培地の調製方法は特に限定されず、例えば、グルコースとグルコン酸と任意のその他の成分とを、常温下又は加温下で、撹拌するなどして混合する方法などが挙げられる。調製後の乳酸菌培地は、オートクレーブ処理、ろ過滅菌処理などの公知の滅菌処理に供して滅菌することが好ましい。
【0028】
本発明の一態様の培地が有する乳酸菌増殖促進作用は、同一の乳酸菌を用いて、同一の条件により、48時間培養して、炭素源含有量が乾燥質量比で同一のグルコースのみを炭素源として含有する培地と比較して、乳酸菌の濃度が高くなる作用をいう。また、本発明の一態様の培地が有するpH下降抑制作用は、同一の乳酸菌を用いて、同一の条件により、48時間培養して、炭素源含有量が乾燥質量比で同一であるグルコースのみを炭素源とする培地と比較して、培養液中のpHの値が高くなる作用をいう。
【0029】
本発明の一態様の培地は、その形態について特に限定されず、例えば、固体状、粉末状、顆粒状、液体状などの形態をとり得るが、溶解性及び保存性が優れていることから、粉末状であることが好ましい。本発明の一態様の培地は、粉末状である場合、乳酸菌の培養に際して水などに溶解して用いられる。
【0030】
[本発明の一態様の方法]
本発明の一態様の方法は、乳酸菌を、本発明の一態様の培地を用いて、培養する工程を少なくとも含む。
【0031】
乳酸菌は、乳酸発酵し得る微生物であれば特に限定されないが、例えば、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、リューコノストック属(Leuconostoc)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)及びペディオコッカス属(Pediococcus)の乳酸菌などが挙げられる。より具体的にはLactbacillus brevisLactobacillus plantarumLactobacillus sakeiLactbacillus gasseriLactobacillus acidophilusLactobacillus buchneriLactobacillus bulgaricusLactobacillus delburveckiLactobacillus caseiLactobacillus crispatusLactobacillus curvatusLactobacillus halivaticusLactobacillus pentosusLactobacilus paracaseiLactobacillus rhamnosusLactobacillus salivariusLactobacillus sporogenesLactobacillus fructivoransLactobacillus hilgardiiLactobacillus reuteriLactobacillus fermentumLeuconostoc citriumLeuconostoc mesenteroidesLeuconostoc oenosEnterococcus faecalisEnterococcus faeciumLactococcus lactisLactococcus cremorisPediococcus acidilacticiPediococcus pentosaceusなどが挙げられる。乳酸菌は、上記したものの1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
乳酸菌の培養は、本発明の一態様の培地を用いて、乳酸菌にとって適した培養条件にて実施する。例えば、本発明の一態様の培地又は公知の乳酸菌用培地を用いて前培養した乳酸菌を、本発明の一態様の培地に加えて、乳酸菌にとって適したpH、温度、通気、時間などの条件にて、静置培養、回分培養、流加培養、連続培養などの公知の培養方式により培養する。
【0033】
乳酸菌の培養の具体例としては、乳酸菌を本発明の一態様の培地 10mL~100mLに植菌して30℃~37℃で一晩培養して前培養し、次いで前培養して得られた乳酸菌を本発明の一態様の培地に添加したものを、30℃~37℃にて、24時間~5日間、静置培養又は撹拌培養することなどを挙げることができる。
【0034】
培養後の培養液は、そのまま乳酸菌含有物としても用いてもよいし、培養液から乳酸菌を回収してもよい。乳酸菌の回収は、公知の方法を採用すればよく、特に限定されないが、例えば、沈降濃縮、遠心分離、ろ過などの公知の菌体分離手段などを挙げることができる。回収した乳酸菌は、凍結乾燥、風乾などの公知の乾燥手段で乾燥してもよく、乾燥粉末の状態にまで乾燥することが好ましい。また、乳酸菌は生菌体であっても、死菌体であってもよい。乳酸菌の死菌体は、培養液又は回収した乳酸菌を加熱することなどにより、得られ得る。
【0035】
乳酸菌の増殖を確認する方法は特に限定されず、公知の微生物増殖の確認方法を採用すればよいが、例えば、培養液中の菌体数、培養液の濁度、pH、溶存酸素濃度(DO)、酸度及びこれらの組み合わせを指標とする方法などが挙げられる。乳酸菌の増殖は、培養液中にて連続的に確認してもよいし、培養液の一部をサンプリングすることにより断続的に確認してもよい。サンプリングの回数は特に限定されず、1回でもよく、複数回でもよい。
【0036】
乳酸菌の増殖の確認方法の具体例として、培養開始前よりも、培養液中の菌体数、濁度又は酸度が高い場合、又は培養液中のpH又はDOが低い場合は、乳酸菌は増殖しているといえる。培養液中の菌体数は、MRS寒天培地、BCP寒天培地などの乳酸菌用寒天培地を用いて、段階希釈液を混釈して培養することなどにより測定できる。
【0037】
本発明の一態様の培養方法では、本発明の課題を解決し得る限り、上記した工程の前段若しくは後段又は工程中に、種々の工程や操作を加入することができる。
【0038】
本発明の一態様の方法は、効率的に乳酸菌を増殖させることができる方法である。培養して増殖した乳酸菌の利用方法は特に限定されないが、例えば、乳酸菌を含有する素材、食品、食品素材、食品などの添加物として利用方法などが挙げられる。
【0039】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例0040】
[1.培地の調製及び培養方法]
【0041】
Lactobacillus brevis(NBRC 107147)、Lactobacillus plantarum(NBRC 15891)、Lactobacillus sakei(NBRC 15893)及びLeuconostoc citrium(NBRC 113243)を用いた。
【0042】
培地にはGYP培地(標準的なグルコース含有量 1質量%)及び食品グレード培地(標準的なグルコース含有量 4質量%)を改変した培地を用いた。すなわち、表1及び表2の組成になるように、培地1~32を調製した。表中の成分の含有量は「質量%」を示す。なお、表1及び表2に記載の培地について、GYP培地を改変した培地は炭素源の含有量が標準炭素源含有量の2倍量及び4倍量になるようにし、食品グレード培地を改変した培地は炭素源の含有量が標準炭素源含有量の1/2倍量及び2倍量になるようにした。グルコース及びグルコン酸ナトリウムは、5%、10%、20%及び30%水溶液を用いて添加した。スターターは、乳酸菌をMRS培地を用いて一晩培養した前培養液を用いた。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
スターター以外の各成分を表2及び表3に記載の割合で混合し、培地を調製した。調製した培地をオートクレーブ滅菌処理に供した。滅菌後に冷却した培地に、スターターを無菌的に接種した。
【0046】
スターターを接種した培地を、30℃にて、48時間、静置培養した。48時間後、培養液の濁度(OD660nm)及びpHを測定した。
【0047】
[2.培養結果]
乳酸菌としてL.brevis及びL.citriumを用いて、GYP培地を改変した培地1~16により培養して、得られた培養液のOD660nm及びpHを測定した結果を、それぞれ図1及び図2に示す。図中の横軸は培地中のグルコースとグルコン酸ナトリウムとの割合(グルコース:グルコン酸ナトリウム)を示しており、Nはグルコース及びグルコン酸ナトリウムを含まない培地である。図中の丸(●)マーカーは培地中の炭素源合計量が1%の培地、三角(▲)マーカーは培地中の炭素源合計量が2%の培地及びを四角(■)マーカーは培地中の炭素源合計量が4%の培地を示めす。これらの図が示すとおり、グルコースのみを炭素源として含有する培地を用いて培養するよりも、グルコース及びグルコン酸ナトリウムを乾燥質量比3:1~1:3で含有する培地を用いて培養することにより、乳酸菌の増殖が促進し、pHの下降が抑制される傾向を示すという結果が得られた。
【0048】
GYP培地を改変した培地1~16に代えて、食品グレード培地を改変した培地17~32を用いて、上記と同様に培養した結果をそれぞれ図3及び図4に示す。図中の横軸は図1及び2と同様であり、図中の丸(●)マーカーは培地中の炭素源合計量が2%の培地、三角(▲)マーカーは培地中の炭素源合計量が4%の培地及びを四角(■)マーカーは培地中の炭素源合計量が6%の培地を示めす。これらの図から、培地組成を代えた場合であっても、グルコース及びグルコン酸ナトリウムを乾燥質量比3:1~1:3で含有する培地を用いて培養することにより、乳酸菌の増殖が促進し、pHの下降が抑制される傾向を示すという結果が得られた。
【0049】
乳酸菌としてL.brevisと同属異種であるL.plantarum及びL.sakeiを用いて、GYP培地を改変した培地1~16により培養した結果を、それぞれ図5及び図6に示す。図中の横軸及び図中のマーカーは図1及び2と同様である。これらの図から、微生物種に依らずに、グルコース及びグルコン酸ナトリウムを乾燥質量比3:1~1:3で含有する培地を用いて培養することにより、乳酸菌の増殖が促進し、pHの下降が抑制される傾向を示すという結果が得られた。
【0050】
以上の結果より、グルコース及びグルコン酸ナトリウムを乾燥質量比3:1~1:3で含有する培地を用いて培養することにより、乳酸菌の増殖を促進し、pHの下降を抑制することができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の一態様の乳酸菌の培養方法は、効率的に乳酸菌を増殖させることができる方法であることから、食品産業において乳酸菌を含有する素材、食品、食品素材、食品組成物などの添加物として好適に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6