(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022075505
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】ストランド
(51)【国際特許分類】
B29C 64/118 20170101AFI20220511BHJP
B29C 64/205 20170101ALI20220511BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20220511BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20220511BHJP
B33Y 70/10 20200101ALI20220511BHJP
【FI】
B29C64/118
B29C64/205
B33Y10/00
B33Y70/00
B33Y70/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021148158
(22)【出願日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】P 2020185914
(32)【優先日】2020-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹中 真
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AB11
4F213AB24
4F213AC02
4F213AD02
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL22
4F213WL24
4F213WL26
4F213WL27
4F213WL32
(57)【要約】
【課題】3Dプリンタによる造形を円滑に行うことが可能な曲げ性に優れた樹脂製のストランドを提供する。
【解決手段】3Dプリンタの造形原料として用いられる線状に形成された樹脂製のストランド1であって、外周面に螺旋状の溝部9が軸方向に沿って形成されている。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3Dプリンタの造形原料として用いられる線状に形成された樹脂製のストランドであって、
外周面に螺旋状の溝部が軸方向に沿って形成されている、
ストランド。
【請求項2】
同一方向かつ同一ピッチの螺旋状に形成された複数の前記溝部が、前記軸方向の垂直断面において周方向へ等間隔に形成されている、
請求項1に記載のストランド。
【請求項3】
前記軸方向に沿って複数の繊維または繊維束を含む、
請求項1または請求項2に記載のストランド。
【請求項4】
前記繊維または繊維束が撚り合わされている、
請求項3に記載のストランド。
【請求項5】
前記ストランドの前記軸方向の垂直断面における外周縁のうち、前記溝部の領域を除いた部分は、それぞれ同一円の円弧で形成されている、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のストランド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストランドに関する。
【背景技術】
【0002】
立体的な形状を有する物体を成形する装置として、熱で可塑化状態とした樹脂を1層ずつ積み重ねていく熱融解積層方式を採用した3D(三次元)プリンタが知られている。この3Dプリンタは、金型、治具等を必要とすることなく三次元形状の物体を造形できる。加えて、射出成形技術では成形が困難な三次元形状の物体を造形することもできる。
【0003】
図12に示すように、3Dプリンタとしては、スプール201に巻回された直線状の樹脂製ストランド(フィラメント)203を、チューブ205を通してノズル207へ連続的に送り込み、ストランド203をヒータの熱で可塑化状態としてノズル207から吐出させてベース209上に積層させるものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記の3Dプリンタにおいて、スプール201からノズル207へ送り込まれるストランド203の供給経路に屈曲箇所Kを有する場合、この屈曲箇所Kでストランド203に曲げ力が付与され、ストランド203が破損・損傷するおそれがある。
【0006】
そこで本発明は、3Dプリンタによる造形を円滑に行うことが可能な曲げ性に優れた樹脂製のストランドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は下記構成からなる。
3Dプリンタの造形原料として用いられる線状に形成された樹脂製のストランドであって、
外周面に螺旋状の溝部が軸方向に沿って形成されている、
ストランド。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、3Dプリンタによる造形を円滑に行うことが可能な曲げ性に優れた樹脂製のストランドを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】本実施形態に係るストランドの斜視図である。
【
図1B】本実施形態に係るストランドの長手方向に垂直な断面図である。
【
図2】本実施形態に係るストランドを製造する製造装置の全体構成図である。
【
図3】製造装置を構成する樹脂浴部のストランド引出部に設けられたダイスの正面図である。
【
図10】ストランドの外周面の一部を拡大して示す概略断面図である。
【
図12】樹脂製ストランドを用いた3Dプリンタの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
(ストランド)
図1Aは、本実施形態に係るストランドの斜視図であり、
図1Bは、本実施形態に係るストランドの長手方向に垂直な断面図である。
【0011】
図1A及び
図1Bに示すように、本実施形態に係るストランド1は、3Dプリンタの造形原料として用いられる線状の樹脂材料である。このストランド1は、熱可塑性樹脂を主成分とする基材3と、この基材3中に含浸され、軸方向に連続して延在する複数本の繊維束5とを有している。繊維束5は、複数本の繊維7を束ねたもので、互いに撚り合わされた状態でストランド1の中心に配置されている。本例では、3本の繊維束5を有し、これらの3本の繊維束5が互いに撚り合わされている。また、基材3の外周、ひいてはストランド1の外周面は、ストランド1の長手方向(軸方向)の垂直断面において、後述の溝部9の部分を除き、略円形状に形成されている。
【0012】
このストランド1は、その外周面に、複数(本例では3つ)の溝部9を有している。これらの溝部9は、軸方向に沿って螺旋状に形成されている。各溝部9は、軸方向の垂直断面において、周方向に等間隔に形成され、螺旋の向き及び螺旋のピッチPが同一とされていることが好ましい。溝部9の螺旋のピッチPとしては、0.001mm~500mmが好ましい。特に好ましくは0.005mm~100mmである。また、溝部9の幅寸法Waは、0.001mm~10mmが好ましく、特に好ましくは0.005mm~5mmである。溝部9の深さ寸法Hは、0.001mm~10mmが好ましく、特に0.005mm~1mmが好ましい。
【0013】
ストランド1の直径dは、0.1mm~10mm程度であり、直径dとピッチPとの比率(P/d)は、0.0001~5000が好ましく、0.001~500がより好ましく、特に0.01~50が好ましい。また、ピッチPと溝部9の幅寸法Waとの比率(P/Wa)は、0.0001~500000が好ましく、0.01~50000がより好ましく、特に0.1~5000が好ましい。上記範囲にすることで、後述するストランド1の曲げ性を向上できる。
【0014】
ストランド1を用いた3Dプリンタは、熱可塑性樹脂成分を熱で融解したストランド1を少しずつ積み重ねていくことで三次元形状の造形物を造形する、いわゆる、熱融解積層方式を採用するものである。この熱融解積層方式では、一層ずつ、先に形成した層と次の層とを半固形(軟化)状態で接着させながら造形を行う。この3Dプリンタは、熱で可塑化状態にある樹脂を少しずつ積み重ねていくことで造形物を形成できるものであれば、特に限定されない。例えば、3Dプリンタとしては、上下、左右及び前後方向に自在に移動可能な支持板と、ストランド1の熱可塑性樹脂成分を可塑化しながら上記支持板に供給する供給部とを備えるものが挙げられる。
【0015】
ストランド1を構成する繊維束5には、ポリエチレン繊維、アラミド繊維、ザイロン繊維等の有機繊維、ボロン繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、岩石繊維等の無機繊維を用いることができる。強化繊維には樹脂と繊維の密着強度を向上させる為に、表面処理をした繊維を使用できる。
【0016】
基材3の主成分である熱可塑性樹脂には、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートやポリ乳酸等のポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、芳香族ポリアミド系樹脂、ポリエーテルイミド、ポリアリルイミド、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリルエーテルケトン、ポリベンズイミダゾール、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデン樹脂、液晶ポリマー、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール、またはポリフェニレンサルファイド等を用いることができる。
【0017】
これらは、樹脂単独で用いてもよいし、熱可塑性樹脂部の耐熱性、熱変形温度、熱老化、引張特性、曲げ特性、クリープ特性、圧縮特性、疲労特性、衝撃特性、摺動特性を向上させる為に、複数の樹脂をブレンドした熱可塑性樹脂を用いても良い。一例としてPEEK/PTFE、PEEK/PBI等がある。また、樹脂に炭素繊維、ガラス繊維などの短繊維、タルク等を添加した樹脂を使用できる。
【0018】
フェノール系、チオエーテル系、ホスファイト系等の酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系やトリアジン系等の紫外線吸収剤、ヒドラジド系やアミド系等の金属不活性化剤等を熱可塑性樹脂に添加し、造形物の耐久性を向上させることができる。
【0019】
フタル酸系、ポリエスル系等の可塑剤を添加し、熱可塑性樹脂の柔軟性を向上させ造形時の造形精度、また造形物の柔軟性を向上させることができる。
【0020】
ハロゲン系、リン酸エステル系、無機系、イントメッセント系の難燃剤を熱可塑性樹脂に添加し、造形物の難燃性を向上させることができる。
【0021】
リン酸エステル金属塩系、ソルビトール等の核材を熱可塑性樹脂に添加し、造形時の熱膨張を制御し造形精度の向上ができる。
【0022】
非イオン径、アニオン系、カチオン系等の永久帯電防止剤を熱可塑性樹脂に添加し、造形物の静電気防止性を向上させることができる。
【0023】
炭化水素系、金属石鹸系等の滑剤を熱可塑性樹脂に添加し、連続繊維強化ストランドの滑性を向上させることで、造形時のストランドの送り出しを向上させることができる。
【0024】
ところで、線状の樹脂製ストランドを用いて造形物を造形する3Dプリンタでは、造形物を造形する際に、ストランドは、スプールからノズルへ向かって送り込まれる。このとき、ストランドの供給経路に屈曲箇所があると、この屈曲箇所でストランドに曲げ力が付与され、ストランドが破損・損傷するおそれがある。
【0025】
また、近年では、造形物の機械的強度を向上させる為に、繊維によって強化した連続繊維強化ストランドを用いた熱溶解積層方式(FDM:Fused Deposition Modeling)の3Dプリンタによる繊維強化樹脂(FRP:Fiber Reinforced Plastics)の造形方法が提案されており、その用途が拡大している。しかし、既存の連続繊維強化ストランドを用いて造形物を造形する際、曲率が大きい(曲率半径が小さい)箇所では、連続繊維強化ストランドの屈曲性が低く、内部の繊維が剥がれる繊維剥がれが生じることがある。すると、設計上のパスと実際の造形時におけるパスに差異が生じ、結果として造形物の造形精度の低下を招き、また、造形物に空隙が発生して品質の低下を招くおそれがある。これらの造形精度及び品質の低下は、直径の大きいストランドを用いた場合に顕著に生じる傾向がある。
【0026】
これに対して、本実施形態に係るストランド1によれば、外周面に螺旋状の溝部9が軸方向に沿って形成されているので、外周面における表面積を増加させ、曲げ性を向上させることができる。これにより、3Dプリンタにおいてスプールからノズルへストランド1が送り込まれる際に、その供給経路に屈曲箇所を有しているために屈曲箇所で曲げ力が付与されたとしても、破損・損傷することなく屈曲した供給経路に沿って送り込むことができる。したがって、3Dプリンタによる造形を円滑に行うことができる。また、スプールに対しても破損・損傷させることなく容易に巻き付けることができる。
【0027】
しかも、螺旋状の溝部9が複数形成されているので、曲げ性をさらに向上させることができる。また、複数の溝部9がストランド1の軸方向の垂直断面において周方向へ等間隔に形成されており、これらの溝部9の螺旋が同一方向かつ同一ピッチとされているので、あらゆる方向に対してバランスよく曲げ性を向上させることができる。そして、ストランド1における溝部9の位置と供給経路の屈曲箇所の屈曲方向を考慮することなく、屈曲部におけるストランドの破損・損傷を回避できる。
【0028】
また、ストランド1は、繊維7を束ねた繊維束5によって強度を大幅に高めることができるが、繊維束5を含むことにより曲がりにくくなる。しかし、外周面に形成された螺旋状の溝部9によって良好な曲げ性を確保できる。また、このような螺旋状の溝部9を設けることで、副次的効果として、熱溶解積層方式の3Dプリンタによって造形物を造形する際にも、ストランド1を良好に曲げながら造形することができ、造形物の造形精度の低下や造形物に空隙が発生することによる品質低下を抑制し、高品質な造形物を造形できる。
【0029】
しかも、繊維7を束ねた複数本の繊維束5が撚り合わされているので、繊維束5自体の曲げ性も高めることができ、繊維束を含むことによる曲げ性の低下を抑えることができる。
【0030】
(製造装置)
次に、本実施形態に係るストランド1を製造する製造装置の一例について説明する。
図2は、本実施形態に係るストランド1を製造する製造装置100の全体構成図である。
図2に示すように、製造装置100は、繊維材料供給部11と、樹脂浴部13と、冷却部15と、撚り部17とを備える。製造装置100では、繊維材料供給部11から繰り出される繊維束5が、樹脂浴部13によって基材3となる熱可塑性樹脂Rに含浸されてストランド1とされて引き出される。そして、この樹脂浴部13から引き出されたストランド1は、撚り部17によって軸中心回りに回転されながら冷却部15によって冷却され、撚り部17に巻き取られる。
【0031】
繊維材料供給部11は、複数(本例では3つ)のスプール21と、複数のガイドローラ23とを備えている。各スプール21には、それぞれ繊維束5が巻回されており、これらのスプール21から繊維束5が送り出される。スプール21から送り出される各繊維束5は、ガイドローラ23によって互いに間隔をあけた状態に整列されて樹脂浴部13へ導かれる。
【0032】
樹脂浴部13は、上下に延在する筒状の樹脂浴槽25を備えており、この樹脂浴槽25には、溶融状態の熱可塑性樹脂Rが貯留されている。この樹脂浴槽25は、投入された熱可塑性樹脂Rの原料を溶融して樹脂浴槽25内へ押し出す混練押出機(図示略)を備えており、この混練押出機から溶融された熱可塑性樹脂Rが供給される。樹脂浴槽25は、その上部に繊維束導入口27を有しており、この繊維束導入口27から繊維束5が送り込まれる。また、樹脂浴槽25は、その下端における側部に、ストランド引出部29を有しており、このストランド引出部29から繊維束5が基材3に含浸されたストランド1が側方へ引き出される。
【0033】
樹脂浴部13の樹脂浴槽25には、その内部に、それぞれ水平方向の軸心を中心に回転可能に支持された含浸ローラ41及び導入ローラ45が設けられている。含浸ローラ41は、樹脂浴槽25内における鉛直方向に沿って複数設けられ、導入ローラ45は、樹脂浴槽25内の下端に設けられている。
【0034】
含浸ローラ41には、樹脂浴槽25の繊維束導入口27から送り込まれた3本の繊維束5が交互に掛けられて接触されている。これにより、樹脂浴槽25内において、各繊維束5が蛇行するように走行される。なお、この含浸ローラ41は、必ずしも回転可能でなくてもよい。また、繊維束5は、樹脂浴槽25内の下端において、導入ローラ45に掛けられ、その走行軌道が鉛直方向から水平方向に変更されてストランド引出部29に導かれる。
【0035】
繊維束5が基材3に含浸されたストランド1が引き出されるストランド引出部29には、ダイス55が設けられている。ダイス55には、ストランド1の引出方向へ向かって窄まる円形の開口部57を有している。
図3に示すように、開口部57における引出方向側の内径は、製造するストランド1の外径に対応する大きさに形成されている。また、ダイス55は、開口部57の内周面に、内方へ向かって突出する複数(本例では3つ)の溝部形成突起59を有している。これらの溝部形成突起59は、ストランド1の引出方向の垂直断面において、周方向に等間隔に形成されていることが好ましい。
【0036】
図3においては、ダイス55の溝部形成突起59が、ストランド1の引き出し方向に垂直な断面において、周方向に等間隔で形成された例を示しているが、溝部形成突起59は必ずしも等間隔に形成されている必要はない。溝部形成突起59が等間隔に形成されてない場合、溝部9のピッチが等間隔ではなくなるが、溝部9が形成されていることで、溝部9を形成しない場合と比較してストランド1の屈曲性を向上できる。
【0037】
なお、後述のとおり、溝部形成突起59のないダイスが用いられてもよい。
【0038】
冷却部15は、樹脂浴部13のストランド引出部29から引き出されるストランド1の引出方向に沿って長い冷却槽31を有している。この冷却槽31には、その内部に冷却媒体として冷却水Wが貯留されている。冷却槽31には、樹脂浴部13側からストランド1が引き込まれる。冷却槽31に引き込まれたストランド1は、冷却槽31に貯留された冷却水Wによって基材3となる熱可塑性樹脂Rが冷却されて硬化される。冷却水Wによって熱可塑性樹脂Rが冷却されて硬化されたストランド1は、冷却槽31の撚り部17側から引き出される。
【0039】
撚り部17は、引込ローラ35と、巻取ボビン37と、ケース39とを有している。引込ローラ35は、ケース39における冷却部15側に設けられ、互いに対向するように二対ずつ配置されている。これらの引込ローラ35は、ストランド1を冷却部15からケース39内へ引き込む。巻取ボビン37は、ストランド1の延在方向と直交する軸線を中心として回転される。これにより、巻取ボビン37は、引込ローラ35によってケース39内に引き込まれるストランド1を巻き取る。ケース39は、ストランド1の延在方向に沿う軸線を中心に回転される。これにより、樹脂浴部13から引き出されて冷却部15を通り、撚り部17の巻取ボビン37に巻き取られるストランド1が、軸芯回りに回転されて撚りが付与される。なお、ストランド1に撚りを付与する手段としては、様々な機構が採用可能であり、例えば、互いに異なる回転方向に回転する一対のローラによってストランド1を引き取って下流側へ送り出すことにより、ストランド1に撚りを付与する撚り手段であってもよい。
【0040】
(製造方法)
次に、製造装置100によってストランド1を製造する製造方法の一例について説明する。
製造装置100では、含浸工程、撚り工程、冷却工程及び巻取工程を行うことによってストランド1を製造する。
【0041】
(1)含浸工程
含浸工程は、製造装置100の樹脂浴部13によって繊維束5に熱可塑性樹脂Rを含浸させる工程である。この含浸工程では、繊維材料供給部11から繰り出されて樹脂浴部13の繊維束導入口27から導入された繊維束5が樹脂浴部13を通過することにより、樹脂浴槽25の内部に貯留された溶融状態の熱可塑性樹脂Rが繊維束5に含浸される。
【0042】
それぞれの繊維束5は複数の含浸ローラ41に交互に掛けられ、これらの含浸ローラ41の外周面に接触しながら走行することにより、それぞれの繊維束5を構成する複数本の繊維7が開繊される。これにより、繊維束5は、各繊維7間に熱可塑性樹脂Rが十分に含浸される。
【0043】
(2)撚り工程
撚り工程は、熱可塑性樹脂Rが含浸された繊維束5を撚り合わせる工程である。繊維束5は、互いに間隔をあけた状態で導入ローラ45に巻回されて走行軌道が水平方向に変換され、ストランド引出部29へ導かれる。このとき、樹脂浴部13の下流側へ引き出されるストランド1が撚り部17によって軸芯回りに回転される。これにより、繊維束5は、導入ローラ45からストランド引出部29へ向かって、互いに間隔をあけた状態から互いに撚り合わされる。
【0044】
撚り合わされる繊維束5は、ダイス55の開口部57の中心部分に集結され、これにより、撚り合わされた繊維束5の外周が熱可塑性樹脂Rによって周方向にわたって均等に覆われた状態となる。したがって、ダイス55の開口部57から、撚り合わされた繊維束5の周囲が熱可塑性樹脂Rからなる基材3によって均等に被覆され、繊維束5を構成する繊維7の外周からの露出のないストランド1が引き出される(
図3参照)。
【0045】
また、このダイス55の開口部57からストランド1として引き出される際に、ストランド1の外周面には、ダイス55の開口部57の溝部形成突起59によって溝部9が形成される。このとき、ストランド1は、撚り部17によって軸芯回りに回転されていることにより、外周面の溝部9は、それぞれ螺旋状に形成される。なお、後述のとおり、溝部形成突起59のないダイスが用いられてもよく、この場合、ストランド1を撚ること自体によって基材3に溝部9が形成される。
【0046】
(3)冷却工程
冷却工程は、ストランド1を冷却部15によって冷却する工程である。この冷却工程では、樹脂浴部13のストランド引出部29から引き出されたストランド1が冷却部15の冷却槽31に引き込まれ、その後、引き出される。これにより、ストランド1は、冷却槽31に貯留された冷却水Wによって基材3となる熱可塑性樹脂Rが冷却されて硬化される。
【0047】
(4)巻取工程
巻取工程は、ストランド1を撚り部17に巻き取らせる工程である。この巻取工程では、冷却部15で冷却されたストランド1が撚り部17の引込ローラ35によってケース39内に引き込まれ、ケース39内の巻取ボビン37に巻き取られる。
【0048】
このように、製造装置100では、上記の工程によって、外周面に螺旋状の溝部9が形成されて屈曲性に優れたストランド1を容易に製造できる。
【0049】
なお、ストランド1の構造は上記実施形態に限定されない。例えば、上記実施形態では、3本の繊維束5を有するストランド1を例示したが、繊維束5の本数は3本に限定されない。また、断面視円形状のストランド1の製造後に、このストランド1の外周面に螺旋状の溝部9を切削等によって形成してもよい。
【0050】
以下、他の構造のストランドについて説明する。
図4~
図8は、それぞれ他の構造のストランドの斜視図である。
【0051】
図4に示すストランド1Aは、複数の繊維7を束ねた繊維束5を有している。この繊維束5は、基材3の中心に設けられ、溝部9に沿って回転しながら軸方向に沿って延在している。なお、基材3の外周、ひいてはストランド1Aの外周面は、軸方向に垂直な断面において、ストランド1と同様に、溝部9の部分を除き、略円形状に形成されている。つまり、繊維束5は、ストランド1Aの外周面に対する同心円内の領域に設けられる。
【0052】
図5に示すストランド1Bは、
図4に示すストランド1Aの溝部9の周方向の幅寸法を縮小して、溝部9の本数を増加させている。溝部9の周方向の配置ピッチを狭くすることで、ストランド1Bの屈曲性を向上するとともに、曲げ抵抗を曲げの方向によらずに均等にできる。
【0053】
図6に示すストランド1Cは、
図5に示すストランド1Bの繊維束5を、3本(複数)の繊維束5としている。複数の繊維束5は、ストランド1Bの中心を点対称の中心となる位置にそれぞれ配置される。この場合も、ストランド1Cの屈曲性と曲げ抵抗の均等性が向上する。この場合、基材3が比較的硬質である等の理由により、後述する
図7のストランド1Dのように撚りによって溝部が形成されにくい場合であっても、確実に溝部9を形成できる。
【0054】
図7に示すストランド1Dは、3本(複数)の繊維束5を用いて製造したストランドである。この場合のストランド1Dの製造には、溝部形成突起59のないダイスが用いられている。そして、ストランド1Dでは、ストランド1D自体、ひいては3本(複数)の繊維束5自体を撚ることによって溝部9が形成されている。したがって、ストランド1Dでは、外周面に形成された溝部9が凹状でなく、V字状に凹んでいる。これらの溝部9も螺旋状に形成されており、その内側面が、ストランド1Dの外周面に対して滑らかに繋がるように形成されている。この場合、溝部9が繊維束5自体を撚ることで形成されるため、別途に溝部9の加工を施す必要がなくなり、製造工程を簡略化できる。
【0055】
溝部形成突起59のないダイスを用い、ストランド自体、ひいては繊維束自体を撚ることによって溝部を形成した他の例として、
図8のストランド1E、
図9のストランド1Fを示す。
【0056】
図8に示すストランド1Eでは、単一の繊維束5を内包している。ストランド1Eは、ストランド1E自体、ひいてはそれに内包されている単一の繊維束5自体を撚ることによって溝部9が形成されている。この場合の繊維束5は、基材3の中心に設けられ、溝部9に沿って回転しながら軸方向に沿って延在している。
【0057】
また、
図9に示すストランド1Fでは、複数の繊維束5を内包しており、構成されているものとしては、
図8に示すストランド1Eと同一である。ただし、ストランド1Eよりもストランド1Fの方が、撚りの程度が多く(螺線のピッチが狭く)なっている。このため、溝部9の深さは、ストランド1Eよりもストランド1Fの方が深くなっている。これにより、
図7に示すストランド1Dの断面は、3つの円が組み合わさった異形の形状であるのに対し、ストランド1Fの断面は、より円形に近い形状に形成されている。
【0058】
図10は、
図8,
図9に示すストランド1E,1Fの軸方向に垂直な断面の形状を一部拡大して示す概略断面図である。なお、
図10は溝部9を模式的に示しており、溝部9の深さ寸法H、溝部9の幅寸法Wa、溝部9同士の周方向間隔Lは一例である。
図10に示すストランドの外周面(基材3の外周面3a)は、同一の溝部9の周方向端部9a,9bの間の領域を除いて、ストランド1と同様に、その断面形状が略円形状に形成されている。ここでいう略円形状とは、円形状又は円形状に近い形状を意味しており、具体的には、ストランド1の軸方向の垂直断面における外周縁のうち、溝部9の領域を除いた部分が、それぞれ同一円の円弧により形成された形状をいう。また、各円弧は、必ずしも同一円の円弧でなくてもよく、それぞれの円弧が、ストランド1の中心から特定の半径位置を含んで配置されていればよい。或いは、各円弧に外接する円がストランド1の中心と同心であればよい。上記したストランドの溝部9以外の外周面の形状については、
図1A,
図1B,
図4~
図6に示すストランド1,1A,1B,1Cについても同様である。
【0059】
図11に示すストランド1Gは、繊維束5がなく、熱可塑性樹脂からなる基材3のみで構成されている。この場合も、基材3の外周、ひいてはストランド1Gの外周面は、軸方向に垂直な断面において、溝部9の部分を除き、上記したように略円形状に形成されている。
【0060】
以上説明した各ストランド1A,1B,1C,1D,1E,1F,1Gは、いずれも外周面に螺旋状の溝部9が軸方向に沿って形成されているので、外周面における表面積を増加させ、曲げ性を向上させることができる。なお、いずれのストランドについても、造形物の十分な強度の確保のため、ストランド全体に対して繊維が占める割合である繊維体積含有率は、5%以上で85%以下が好ましい。
【0061】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0062】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 3Dプリンタの造形原料として用いられる線状に形成された樹脂製のストランドであって、
外周面に螺旋状の溝部が軸方向に沿って形成されている、ストランド。
このストランドによれば、外周面に螺旋状の溝部が軸方向に沿って形成されているので、外周面における表面積を増加させ、曲げ性を向上させることができる。
これにより、3Dプリンタにおいてスプールからノズルへストランドが送り込まれる際に、その供給経路に屈曲箇所を有しているために屈曲箇所で曲げ力が付与されたとしても、破損・損傷することなく屈曲した供給経路に沿って送り込むことができる。したがって、3Dプリンタによる造形を円滑に行うことができる。また、スプールに対しても破損・損傷させることなく容易に巻き付けることができる。
【0063】
(2) 同一方向かつ同一ピッチの螺旋状に形成された複数の前記溝部が、軸方向の垂直断面において周方向へ等間隔に形成されている、(1)に記載のストランド。
このストランドによれば、螺旋状の溝部が複数形成されているので、曲げ性をさらに向上させることができる。また、複数の溝部が断面視において周方向へ等間隔に形成されており、これらの溝部の螺旋が同一方向かつ同一ピッチとされているので、あらゆる方向に対してバランスよく曲げ性を向上させることができる。
【0064】
(3) 前記軸方向に沿って複数の繊維または繊維束を含む、(1)または(2)に記載のストランド。
このストランドによれば、繊維または繊維束によって強度を大幅に高めることができる。また、繊維または繊維束を含むことにより曲がりにくくなるが、外周面に形成された螺旋状の溝部によって良好な曲げ性を確保できる。これにより、熱溶解積層方式の3Dプリンタによって造形物を造形する際にも、ストランドを良好に曲げながら造形することができ、造形物の造形精度の低下や造形物に空隙が発生することによる品質低下を抑制し、高品質な造形物を造形できる。
【0065】
(4) 前記繊維または繊維束が撚り合わされている、(3)に記載のストランド。
このストランドによれば、繊維または繊維束が撚り合わされているので、繊維または繊維束自体の曲げ性も高めることができ、繊維または繊維束を含むことによる曲げ性の低下を抑えることができる。
【0066】
(5) 前記ストランドの前記軸方向の垂直断面における外周縁のうち、前記溝部の領域を除いた部分は、それぞれ同一円の円弧で形成されている、(1)から(4)のいずれか1つに記載のストランド。
このストランドによれば、断面の外周縁が同一円の円弧で形成され、全体として外周面が略円形状に形成されているため、例えば3Dプリンタで造形物を造形する際、ストランドの供給量を一定にでき、造形物の品質を安定させることができる。
【符号の説明】
【0067】
1、1A,1B,1C ストランド
5 繊維束
7 繊維
9 溝部