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特開2022-75551正弦波出力の電子閃光サングラス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022075551
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】正弦波出力の電子閃光サングラス
(51)【国際特許分類】
A61N 5/06 20060101AFI20220511BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20220511BHJP
G02F 1/133 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
A61N5/06 Z
G02F1/13 505
G02F1/133 505
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021174199
(22)【出願日】2021-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2020184026
(32)【優先日】2020-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021103586
(32)【優先日】2021-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021170069
(32)【優先日】2021-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】719005194
【氏名又は名称】松田 智夫
(72)【発明者】
【氏名】松田 智夫
【テーマコード(参考)】
2H088
2H193
4C082
【Fターム(参考)】
2H088EA35
2H088HA02
2H088JA03
2H088MA20
2H193ZC01
2H193ZE40
2H193ZF02
2H193ZH01
4C082PA02
4C082PA04
4C082PC10
4C082PG15
4C082PG17
4C082PG20
4C082PJ11
(57)【要約】
【課題】電子閃光サングラスによる神経疾患の治療や予防のため、不必要な脳波を誘導する周波数成分を抑制し、SSVEP(定常状態視覚誘発電位)による光刺激の安全性を確保する。
【解決手段】液晶シャッター素子の絶対値駆動電圧に3段階以上の電圧水準を備え、中間階調を含む略正弦波の目標値で透過率を制御する。印加電圧が交流の場合には、絶対値駆動電圧を極性反転する周波数F2を、目標値で指定した基本周波数F1よりも誘導上限周波数(例えば100Hz)以上高く設定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経疾患を治療又は予防するための器具として、液晶シャッター素子70を1眼もしくは2眼のレンズ30としてフレーム20に組み込んで、中間階調を含む透過率目標値150の時系列波形を使用する制御装置40から印加電圧2を付与して透過率3を制御する電子閃光サングラス10であって、
公知の自然現象のSSVEP(定常状態視覚誘発電位)を利用して付与した視覚刺激と同じ周波数の脳波を誘導しうる上限の周波数としての誘導上限周波数400よりも低い周波数において、前記透過率目標値150で指定した時系列波形における指定基本周波数8以外の高調波などの周波数成分が前記透過率3の時間的変化に混入することを抑制する目的で、
前記液晶シャッター素子70の前記印加電圧2から前記透過率3への対応関係を表す写像特性5の逆写像特性9にもとづいて、
前記印加電圧2の絶対値は、入力としての前記透過率目標値150を前記逆写像特性9で変換して出力するにあたり、3段階以上の電圧水準7を備えるとともに、
前記透過率目標値150の時系列波形として略正弦波4を発生する正弦波発生部100を備える
ことを特徴とする、正弦波出力の電子閃光サングラス。
【請求項2】
前記制御装置40は電圧指令部90を備え、
前記電圧指令部90は前記正弦波発生部100と直流出力部300とからなり、
前記正弦波発生部100は、1種類の前記指定基本周波数8を設定した前記略正弦波4を前記透過率目標値150として出力し、
前記直流出力部300は、階段波形を出力する前記電圧水準7を備えるとともに、前記透過率目標値150を入力するにあたり前記電圧水準7の段階の個数よりも1つ少ない入力閾値6を備え、
前記入力閾値6は、前記透過率3の中間階調に設定した値とし、
前記電圧水準7は、前記入力閾値6と前記逆写像特性9とで階段状に定め、
前記透過率目標値150を入力して前記電圧水準7を出力する
ことを特徴とする、請求項1に記載の正弦波出力の電子閃光サングラス。
【請求項3】
前記制御装置40は前記電圧指令部90を備え、
前記電圧指令部90は前記正弦波発生部100と逆写像補正部160とからなり、
前記正弦波発生部100は、1種類または2種類以上の前記指定基本周波数8を設定した前記略正弦波4を前記透過率目標値150として出力し、
前記逆写像補正部160は、前記透過率目標値150を入力し、前記逆写像特性9で変換して絶対値駆動電圧110を出力する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の正弦波出力の電子閃光サングラス。
【請求項4】
前記正弦波発生部100は、2種類以上の前記指定基本周波数8の正弦波波形を重畳して構成した前記透過率目標値150を出力する、
ことを特徴とする、請求項3に記載の正弦波出力の電子閃光サングラス。
【請求項5】
前記正弦波発生部100が発生する前記透過率目標値150の時系列波形は周期Tの1種類の前記指定基本周波数8を持つ複合正弦波200であって、
前記複合正弦波200は、前記周期Tに比べて短い時間Taについて、
周期2×Taを持つ第1正弦波210が単調増加する半周期と、
前記周期Tと前記周期2×Taから算出される周期2×(T-Ta)を持つ第2正弦波220が単調減少する半周期とを、
前記第1正弦波210と前記第2正弦波220がともに最大値をとる接合点230で接合した時系列波形である
ことを特徴とする、請求項2または請求項3に記載の正弦波出力の電子閃光サングラス。
【請求項6】
前記制御装置40は前記電圧指令部90に加えてさらに極性反転部130を備え、
前記極性反転部130は、前記絶対値駆動電圧110と極性反転信号140を入力し、
前記極性反転信号140の周波数で前記絶対値駆動電圧110の時系列波形の極性を正負に反転させて交流駆動電圧120を出力する
ことを特徴とする、請求項2から請求項5に記載の正弦波出力の電子閃光サングラス。
【請求項7】
前記極性反転信号140の周波数は、前記正弦波発生部100で設定した前記指定基本周波数8の数値と前記誘導上限周波数400の数値とを加算したよりも高い周波数である
ことを特徴とする、請求項6に記載の正弦波出力の電子閃光サングラス。
【請求項8】
前記写像特性5を規定するにあたり、
前記印加電圧2としては絶対値を用いるとともに、
前記透過率3としては、
前記印加電圧2の数値が負極性の場合の前記透過率3の数値と、
前記印加電圧2の数値が正極性の場合の前記透過率3の数値と、
の平均値を用いる、
ことを特徴とする、請求項6から請求項7に記載の正弦波出力の電子閃光サングラス。
【請求項9】
前記写像特性5を測定するにあたり、
前記透過率3としては、
前記電子閃光サングラス10に実装する前記極性反転信号140の周波数で極性反転させた前記交流駆動電圧120を印加した場合の数値を用いる
ことを特徴とする、請求項6から請求項8に記載の正弦波出力の電子閃光サングラス。
【請求項10】
前記誘導上限周波数400は100Hzである
ことを特徴とする、請求項1から請求項9に記載の正弦波出力の電子閃光サングラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、公知の自然現象である定常状態視覚誘発電位(SSVEP, Steady State Visual evoked potentials)を利用して脳波を誘導し、神経疾患を治療または予防するデジタル医薬(Digital medicine)の器具に関する。
【背景技術】
【0002】
<知覚刺激によるデジタル医薬の器具>
光刺激、聴覚刺激あるいは振動刺激による特定の周波数の感覚刺激を提供し、患者にとって望ましい脳波(EEG)の周波数を供することにより、医学的障害の症状が弱まり、または認知機能などが改善する可能性が知られている。(特許文献1)
この文献に記載された治療的効果の対象となる神経疾患は、精神障害または精神神経障害、例えば、自閉症スペクトラム障害(ASD)、アルツハイマー病、注意欠陥多動性障害(ADHD)、統合失調症、不安、うつ病、昏睡、パーキンソン病、物質乱用、双極性障害、睡眠障害、摂食障害、耳鳴、外傷性脳損傷、心的外傷後ストレス症候群、および線維筋痛症である。
また、望ましい脳波の周波数としては、患者のδ帯域(<4Hz)、θ帯域(4~8Hz)、α帯域(8~13Hz)、β帯域(13~30Hz)、γ帯域(約40Hz)、またはμ帯域(8~13Hz)内であることも記載されている。
【0003】
電子機器を用いて脳波を誘導して疾患を治療する器具は、最近はデジタル医薬(Digital medicine)とも呼ばれ、例えば脳波のアルファ波に相当する周波数で刺激する経頭蓋磁気刺激法(TMS, Transcranial Magnetic Stimulation)のほか、レーザー光や赤外線の照射などによる神経疾患への薬理効果が研究され始めた。
【0004】
<知覚刺激による薬理効果1(40Hzと10Hzの場合)>
特許文献2では、発光装置、放音装置あるいは振動装置によってガンマ帯域(約40Hz)の周波数の脳波を誘導することにより、認知症を予防、軽減、及び/または治療するための装置、方法、ならびにシステムを提供する。いくつかの実施形態では、該認知症は、アルツハイマー症、血管性認知症、前頭側頭認知症、レビー小体認知症、及び/または加齢関連認知低下と関連することが記載されている。
その作用機序は、アルツハイマー症の原因物質であるアミロイドβとタウ蛋白の蓄積を40Hzの脳波によって食欲増進した免疫細胞ミクログリアが貪食して清掃する自然現象であることが学術的に確認されている。(非特許文献1)
【0005】
従来からアルツハイマー症患者では40Hzを含むガンマ波の脳波が健常者に比べて低下することが知られていたが、低下した40Hzの脳波を増強することで治療効果が得られる作用機序が上記の非特許文献1により解明された。
同様に、アルツハイマー症患者では10Hz付近の特定の周波数を含むアルファ波の脳波が健常者に比べて低下することも知られており、今後研究が進めば、この低下した10Hz付近の脳波を増強すれば治療効果が得られる可能性も指摘されている。(非特許文献2,3)
さらに、40Hz単独や10Hz単独ではなく、40Hzと10Hzの周波数の知覚刺激を同時に用いて脳波を誘導すれば、従来よりも効果の高いデジタル医薬の器具が誕生する可能性もある。
【0006】
<知覚刺激による薬理効果2(60Hzの場合)>
病気治療の観点からは有益なのか禁忌なのかはまだ評価が定まっていないが、60Hzの光刺激によって誘導された脳波によって食欲増進した免疫細胞ミクログリアが成熟した神経周囲網を除去し、少年のような脳の可塑性を回復させるという自然現象も学術的に確認されている。(非特許文献4)
60Hzの脳波を誘導することの影響については、脳の可塑性を回復させることが脳梗塞の後遺症などの治療に有益なのか、あるいは健全な部分の脳に脳波を誘導すると長い年月かけて獲得した記憶が破壊される禁忌事項となるのかは、まだ研究途上にある。
この事例のように、患者の疾患の種類によっては未知の禁忌事項に該当する周波数が存在する可能性には十分注意すべきであろう。
【0007】
<知覚刺激による脳波の誘導>
定常的な繰り返し周波数を有する光刺激を視覚に与えると、その光刺激と同じ周波数の脳波が誘導される。この自然現象は定常状態視覚誘発電位(SSVEP)と呼ばれ、医療機関等の脳波検査でてんかんなどの異常を検知するための視覚刺激方法として臨床の現場で広く活用されている。
視覚刺激に限らず、聴覚刺激あるいは振動刺激などの知覚刺激によって脳波が誘導される自然現象は公知であり、神経疾患の検査や治療に限らず、脳科学の分野での研究に広く利用され、多様な実験装置も提案されている、さらに、視覚や聴覚あるいは振動などの刺激の種類に応じて脳波が誘導される脳内部位が異なることも公知である(非特許文献5)。
【0008】
また、1Hzから100Hzまで1Hzおきに誘導される脳波を調査した研究によれば、1Hzから90Hz程度までは脳波が誘導されて発生する。そして、視覚刺激によって脳波誘導可能な上限値(以下、誘導上限周波数と呼ぶ)として現時点で知られている数値の100Hzを超えると、脳波を誘導して発生させることができなくなることが報告されている(非特許文献6)
【0009】
<液晶シャッター素子の透過率を制御して周囲光を明滅>
前述の特許文献2によると、アルツハイマー症の治療や予防に利用される視覚刺激手段として、動物実験ではレーザー光源を脳内に埋め込み、人間による治験ではLED素子を用いて強烈な閃光を発生させて患者に凝視させる方法が用いられ、記憶力などに関する症状に著しい改善効果が認められた。
しかしながら、LEDのような眩しい発光体を凝視することを強制する治療器具を採用すると、患者に外界を自由に観察させて認知機能を刺激する認知療法や運動療法などの非薬物療法を併用することが困難である。このため、米国の治験報告書によると、認知機能の症状のなかには期待したほどの改善が見られない指標もあった。(非特許文献7)
【0010】
一方、近年、患者が周囲環境を自由に観察できるように、サングラスのレンズ部分に組み込んだ液晶シャッター素子の透過率を40Hzで制御して周囲光を明滅させる方式が、日米で相前後して発明された。
米国方式は、宇宙飛行士や軍人などの高度に壮健な健常者の動視力を鍛えるための高価な視覚訓練用の機材を用途変更し、液晶シャッター素子の透過率が最大(透明状態)と最小(不透明状態)の2値だけで構成される矩形波の波形を用いて周囲光を明滅させる。(特許文献3)
【0011】
一方、日本方式は3D動画を鑑賞するための機材(3Dアクティブサングラス)に使われている安価な大量生産品の高速液晶シャッター素子を用い、液晶シャッター素子の透過率として最大(透明状態)と最小(不透明状態)だけでなく中間的な透過率としての中間階調も利用して制御した。その結果、矩形波のみならず階段状波形あるいは正弦波などの波形で透過率を制御することが可能になった。さらに、視覚刺激の強さを調整できるのみならず、視覚による認知能力(スプラリミナル効果)を維持するように波形を調整することにも配慮しながら周囲光を明滅させることができる。(特許文献4)
【0012】
なお、神経疾患や精神疾患を治療するメガネの透過率をレンズ内の複数区画あるいは左右両眼のレンズの間に位相差をつけて明滅させて視覚刺激を与える発明(特許文献6)では、明滅する波形をパルス波形のみならず正弦波とするアイディアも示唆された。ただしこの発明には、SSVEPにおける誘導上限周波数、正弦波の透過率を実現する具体的な制御方法あるいは正弦波の透過率可変メガネの電圧駆動方法と問題点に関する具体的な記載はない。
【0013】
<液晶シャッター素子の長寿命化のための交流電圧駆動>
液晶シャッター素子の透過率を中間階調で制御可能にした動作原理は、パソコンやテレビなどのカラー表示の液晶モニタ装置にも利用され広く知られている。
この中間階調で表示する液晶シャッター素子の特徴として、直流電圧で駆動すると液晶分子が電界方向へ移動して液晶画面に焼き付きのような不具合が生じ、中間階調での表示性能が低下する場合がある。この現象は、カラー表示用のモニタ画面のための液晶シャッター素子に限らず、3Dアクティブサングラス用の液晶シャッター素子においても、透過率を中間階調で正確に制御する性能を劣化させる不具合として作用する。
この不具合を予防するため、液晶シャッター素子の駆動電圧の極性を頻繁に正負に反転させて交流電圧で駆動する必要があることは広く知られている。(特許文献5)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特表2015-519096号公報
【特許文献2】特表2019-502429号公報
【特許文献3】米国特許公開2020-0108270号公報
【特許文献4】特願2020-122248
【特許文献5】国際公開、WO1999-046634号公報
【特許文献6】特表2011-514194号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】H.Iaccarino et.al,”Gamma frequency entrainment attenuates amyloid load and modifies microglia”,Nature volume 540, pages230-235 (2016)
【非特許文献2】Y.Lavy et.al,”Neurofeedback Improves Memory and Peak Alpha Frequency in Individuals with Mild Cognitive Impairment”,Appl Psychophysiol Biofeedback. 2019 Mar;44(1):41-49
【非特許文献3】D.V.Moretti et.al,”Quantitative EEG Markers in Mild Cognitive Impairment: Degenerative versus Vascular Brain Impairment”,Int J Alzheimers Dis. 2012
【非特許文献4】A.Venturino et.al,”Microglia enable mature perineuronal nets disassembly upon anesthetic ketamine exposure or 60-Hz light entrainment in the healthy brain”, Cell Reports,Volume 36, Issue 1, 6 July 2021
【非特許文献5】R. Kus et.al,”Integrated trimodal SSEP experimental setup for visual, auditory and tactile stimulation”, J Neural Eng. 2017 Dec;14(6)
【非特許文献6】C.S.Herrmann,”Human EEG responses to 1-100 Hz flicker: resonance phenomena in visual cortex and their potential correlation to cognitive phenomena”, Experimental Brain Research volume 137, pages346-353 (2001)
【非特許文献7】D.Chan et.al,”40Hz sensory stimulation induces gamma entrainment and affects brain structure, sleep and cognition in patients with Alzheimer’s dementia”,medRxiv,Posted March 03, 2021.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の電子閃光サングラスは、神経疾患の治療や予防のために有用な特定の周波数の視覚刺激を意図的に付与して脳波を誘導するデジタル医薬の器具である。したがって、視覚刺激に含まれる「意図せざる周波数」の成分は、神経疾患の治療や予防への支障を避けるため予め抑制しておく必要がある。
【0017】
「意図せざる周波数」の成分が発生するメカニズムの一例として、視覚刺激としてデューティ比が例えば25%の矩形波の波形を用いると、振幅の大きな高調波成分が混入する。このことは、フーリエ展開にもとづいて数学的に理解されるであろう。
さらに、実際の液晶シャッター素子では、透過率制御結果としての時系列波形の立ち上がりと立下りで応答時間が異なるため、波形の左右対称性に崩れが生じ、透過率の時系列波形に第2高調波などの周波数成分が増加してしまう。
【0018】
具体的に言えば、実際の液晶シャッター素子を用いて例えば基本周波数が11Hzの歪んだ矩形波の透過率波形で視覚刺激を意図的に付与すると、第2高調波(22Hz)、第3高調波(33Hz)、第4高調波(44Hz)、第5高調波(55Hz)、第6高調波(66Hz)、第7高調波(77Hz)、第8高調波(88Hz)などの周波数が重畳し、結果的に11Hz以外の「意図せざる周波数」の脳波を誘導することになる。
【0019】
そして、これらの「意図せざる周波数」の脳波の中に未知あるいは既知の禁忌(例えば12Hzの光刺激によるてんかんの発症など)に該当する周波数が含まれれば、治療結果を悪化させる原因となる可能性がある。
【0020】
本発明が解決しようとする課題は、液晶シャッター素子の透過率を制御するにあたり、液晶シャッター素子で観測される透過率の波形に「意図せざる周波数」の成分が混入することを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
そこでまず、本発明では透過率目標値として有用な特定の周波数に該当する基本周波数を指定し、さらに、高調波が少なく正弦波に近い略正弦波の時系列波形を制御の目標にして液晶シャッター素子を駆動した。
しかしそれでも実際の液晶シャッター素子の透過率の波形にはさまざまな原因で歪が生じ、「意図せざる周波数」の成分が混入する問題が生ずる。
【0022】
「意図せざる周波数」の成分が混入する主要な原因は下記の4つである。
1.液晶シャッター素子の非線形写像
2.極性反転信号の周波数ごとの写像グラフの違い
3.極性反転信号の周波数値に起因する「うなり」の発生
4.液晶シャッター素子の立ち上がりと立下りの応答時間の相違
【0023】
これら4つの課題を解決するためのそれぞれの手段を以下に概説し、具体的な現象と解決手段は後述の実施例で図を用いて詳細に説明する。
【0024】
<課題1.液晶シャッター素子の非線形写像>
液晶シャッター素子に印加する電圧を変化させると、印加電圧に応じて透過率が変化する。この印加電圧から透過率への対応関係(写像特性)は、非線形な写像グラフとして描くことができる。
この写像グラフが非線形であるため、印加電圧として正弦波の時系列波形を付与しても、液晶シャッター素子で観測される透過率は正弦波が歪んだ波形になり、正弦波の基本周波数のみならず高調波の周波数成分が大量に混入して「意図せざる周波数」の成分となる。
【0025】
この非線形な写像に起因する波形の歪みを解決するためには、この写像に対応する逆写像を補償要素として組み込んで、時々刻々の透過率目標値を実現するために必要な印加電圧を逆算すればよい。
なお、逆写像特性を表す逆写像のグラフを複数の区間に分けて精度の高い近似式で表現すれば、より誤差の小さい補償要素を実現することができる。
【0026】
<課題2. 極性反転信号の周波数ごとの写像グラフの違い>
交流駆動する液晶シャッター素子の印加電圧と透過率の間の写像グラフの形状は、駆動電圧の極性を正負に反転させる極性反転信号の周波数を変えると変化する。したがって逆写像グラフの形状もこの周波数で変化する。
この原因は、電子部品としての液晶シャッター素子がコンデンサの性質を持つ容量性負荷であり、駆動電圧の極性を正負に反転させながら容量性負荷を充放電する際の駆動回路を含めたインピーダンスが充放電する周波数で変化することや能動素子を含めた回路定数などに起因する。
【0027】
この写像グラフの形状が極性反転信号の周波数に依存して変化する現象に対応するためには、実機としての最終製品と同じ回路定数(負荷抵抗などのインピーダンスや駆動用半導体の特性など)を持つ極性反転回路を使用し、さらに、実機に用いる極性反転信号の周波数を適用しながら写像グラフの実験データを計測する。あるいは高精度なシミュレーションでデータを算出してもよい。そして、計測または算出したデータにもとづく写像グラフと対応する逆写像グラフを表す近似式を、制御系の補償要素として組み込めばよい。
【0028】
<課題3.極性反転信号の周波数に起因する「うなり」の発生>
本発明では、液晶シャッター素子を交流電圧で駆動する手段として、駆動電圧の波形の絶対値(つまり正の値)を、極性反転信号の周波数のタイミングにあわせて正電圧と負電圧に極性反転させる技術を使用する。
このとき、目標値の略正弦波として基本周波数F1を指定したため、駆動電圧の絶対値を表す波形にも基本周波数F1が含まれる。極性反転信号の周波数の基本周波数をF2とすると、生成した交流電圧で駆動した液晶シャッター素子の透過率には、周波数F1と周波数F2の「うなり」の|F1±F2|の周波数成分が混入することが避けられない。
【0029】
例えば絶対値の駆動電圧波形の基本周波数をF1=40Hzとし、極性反転信号の周波数をF2=20Hzとすれば、F1-F2=20Hzによっててんかんを誘発しやすい周波数に近い信号が発生し、F1+F2=60Hzによってミクログリアが成熟した神経周囲網を除去(非特許文献4)する周波数の信号が発生してしまう。これらはいずれも基本周波数F1=40Hzとは異なる「意図せざる周波数」の成分である。
【0030】
この極性反転信号の周波数F2による「意図せざる周波数」の成分に対応した周波数の脳波が発生する問題を解決するためには、|F1±F2|の周波数成分が、脳波を誘導しなくなる誘導上限周波数としての100Hz以上(非特許文献6)になるようにしてやればよい。
例えば本発明を利用する実機(あるいは製品仕様として)の絶対値駆動電圧の波形に含まれる基本周波数の最大値をF1=90Hzとして設計する場合には、|F1±F2|に相当する周波数成分を誘導上限周波数としての100Hz以上にするためには、|F2-F1|≧100Hz、つまり極性反転信号の周波数をF2≧190Hzにすればよい。
【0031】
<課題4.液晶シャッター素子の立ち上がりと立下りの応答時間の相違>
液晶シャッター素子の印加電圧を頻繁に増減して透過率波形を観察すると、透過率が増加する際と減少する際の応答速度(時間遅れ)が大幅に異なる現象が観測される。
その結果、透過率の時系列波形は周波数f0の正弦波に左右非対称な歪が生じて高調波が重畳する。例えば絶対値駆動電圧の波形の基本周波数をf0=40Hzとすると、第2高調波としての2×f0=80Hzなどの「意図せざる周波数」の成分が発生する。
【0032】
この問題を解決するためには、歪みのない正弦波で制御した結果の波形が歪んで伸長・圧縮されたなら、それを打ち消すように予め正弦波を反対に圧縮・伸長させた透過率目標値の波形を使って制御すればよい。この波形を以下では複合正弦波200と呼ぶ。
この解決策は完全な解とは限らないが、後述する実施例で説明する通り、「意図せざる周波数」の成分を効果的に抑制する調整方法として役立つ。
そこで例えば、製品出荷時の最終調整作業の目安として、調整作業の初期値に利用するにはきわめて実用的で有用な解決策である。
【発明の効果】
【0033】
従来技術(特許文献4、特許文献6)には透過率の制御結果を正弦波状にする着想が示唆されている。
しかし、実際に入手可能な電子部品を使って正確な正弦波波形を発生させようとすると、液晶シャッター素子の非線形特性や制御装置の特性に起因する原因によって、デジタル医薬としての効果を阻害するおそれのある「意図せざる周波数」の成分が混入する問題が生じることが判明した。
このため、「透過率の制御結果として、不都合な周波数成分を含まない正弦波を実現する」というアイディアは容易には実現できなかった。
【0034】
そこで本発明では、「意図せざる周波数」の成分を発生させる4つの主要な原因を解明し、それぞれの原因ごとに具体的な解決策を提供することで神経疾患の治療や予防のために有益でない「意図せざる周波数」の成分による不都合な脳波の発生を抑制することができた。
【0035】
したがって本発明は、神経疾患の治療や予防のために有用な特定の周波数の視覚刺激だけを選択的に付与して脳波を誘導するデジタル医薬の器具として、安全性を確保・向上させる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】電子閃光サングラス10の各種の外観の一例を説明する図
【
図2】電子閃光サングラス10の制御装置40の機能を説明する図
【
図3】実施例1:電圧指令部90の内部の構成を説明する図
【
図4】実施例2:電子閃光サングラス10の構成と回路図の例を示す図。
【
図5】実施例2:透過率目標値の時系列波形の例を示す図。
【
図6】実施例2:制御用マイクロコンピュータのフローチャート
【
図7】実施例3:極性反転信号140の周波数F2を説明する図。
【
図8】実施例4:第2高調波を抑制する事例を説明する図。
【
図9】実施例4:複合正弦波200の生成方法を説明する図
【
図10】実施例5:直流駆動の3段階の電圧水準で正弦波を近似する図。
【
図11】実施例5:交流駆動の3段階の電圧水準で正弦波を近似する図。
【
図12】実施例5:交流駆動の3段階の電圧水準での周波数分析の図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図1は、電子閃光サングラス10の各種の外観の一例を説明する図である。
図1(a)は、密閉型の電子閃光サングラス10の外観図である。電子閃光サングラス10はフレーム20にレンズ30として液晶シャッター素子70を配設し、対象1の頭部に既存のサングラスやゴーグルと同様に装着できる。
密閉型の特徴として、液晶シャッター素子70を通して入射する入射光Liに比べ、液晶シャッター素子70を通過せずに様々な方向の隙間から対象1の目に飛び込む周囲光Laがほぼゼロになるように遮蔽されている。
密閉型は周囲光Laが侵入しないため、入射光Liを制御すれば正確な強さや波形の視覚刺激を付与しやすい。このため、正確さを求める医療用としての利用に適している。
図1(a)には制御装置40、操作器具50、電源装置60を記載していないが、
図1のどの例においても、フレーム20に組み込んでもよいし、後述する別筐体の制御箱170に組み込んで液晶シャッター素子70の駆動電圧を電線190で供給してもよい。
【0038】
図1(b)は開放型の電子閃光サングラス10の外観の例を示す図である。高齢者が日常的に使用するメガネをかけたままで使用できるように大型に作られたサングラスのフレーム20には制御装置40、操作器具50および電池などを含む電源装置60を内蔵する。図示したように周囲光Laを遮蔽する突起をつけて周囲光Laの侵入を減らすこともできるが、遮蔽突起なしの普通のメガネフレームを用いてもよい。
開放型はメガネのフレームの周辺から周囲光Laが侵入しやすく、治療行為を行うための正確な強さの視覚刺激を付与しにくい反面、気軽に取り使える利点があるため、医療用ではなく予防を目的とした健康器具として扱うのに適している。
図1(c)はフレーム20にレンズ30を2つ備えた2眼のサングラスであり、
図1(d)はフレーム20に幅広なレンズ30を1つ備えた1眼のサングラス(ゴーグルと呼ばれる場合もある)であり、いずれも電子閃光サングラス10の外観の一例である。
【0039】
図2は、電子閃光サングラス10の制御装置40の機能を説明する図である。2眼のサングラスでも1眼のサングラスでも、制御装置40から液晶シャッター素子70へ駆動電圧を印加して透過率制御することができる。
図2(a)に示す液晶シャッター素子70に直流電圧を印加したときの実際の透過率(以下、実透過率と呼ぶ)は、光源からの入射光の明るさLi[Lux]に対する透過光の明るさLo[Lux]の比率を用いて実透過率=Lo/Liで表現できる。現在市販されている3Dアクティブサングラスに組み込まれている液晶シャッター素子70の実透過率の最大値は35%程度である。
一方、「印加電圧で変化する実透過率を、その液晶シャッター素子70がとりうる最大の実透過率で除算して正規化した透過率」を、以下では「比透過率」として定義する。
【0040】
図2(b)は、従来技術(特許文献4)と同様に液晶シャッター素子70に正の直流電圧を印加した場合における、印加電圧2から透過率3(以下、比透過率で表す)への対応関係を示す計測例である。
【0041】
図2(c)は、液晶シャッター素子70を正負の電圧極性で交流駆動する必要から、正のみならず負の直流電圧を印加した場合における印加電圧2から透過率3への対応関係を示す計測例である。
【0042】
図2(d)は、横軸に印加電圧2の絶対値をとり、(+側)と表示した正電圧を印加したグラフと、(-側)と表示した負電圧を印加したグラフを比較しやすく重ねて描いた図である。
図2(c)のグラフを一見すると左右対称のように見えるが、
図2(d)に示すように重ね合わせて比較すると、(+側)と(-側)の印加電圧2の絶対値が同じでも比透過率には約10%程度の差異がある場合がある。これが、交流駆動した場合に極性反転の周波数F2が重畳する原因になる。
【0043】
図2(e)は、電子閃光サングラス10の制御装置40の構造を説明する図である。
電子閃光サングラス10の制御装置40は、操作器具50で制御パラメータ80を設定し、電源装置60から電源電力を供給して制御装置40を動作させて液晶シャッター素子70に交流駆動電圧120を印加する。
制御装置40の内部には、入力した制御パラメータ80から基本周波数がF1の絶対値駆動電圧110の時系列波形を供給する電圧指令部90と、絶対値駆動電圧110を周波数F2で極性反転させる極性反転信号140を入力して交流駆動電圧120を出力する極性反転部130を含む。
【実施例0044】
図3は、電圧指令部90の内部の構成を説明する図であって、透過率制御の目標値としての透過率目標値150および絶対値駆動電圧110を発生させる基本的な構成を表す。
【0045】
特許文献4では「透過率制御の目標値の波形を、液晶シャッター素子70の駆動電圧と透過率の間の特性データにもとづいて、液晶シャッター素子70を駆動する電圧の波形に変換」すればよいことが示唆されているが、具体的な装置の構成については記載されていない。
そこで本発明では液晶シャッター素子70を直流駆動する場合でも交流駆動する場合でも共通に利用できる具体的な装置の構造を説明する。
【0046】
<交流駆動における課題1と課題2の解決策>
以下では、課題1の「液晶シャッター素子の駆動電圧と透過率の間の非線形な写像」についての課題と解決策について詳細に説明する。
また、課題2の「極性反転信号の周波数ごとの写像グラフの違い」についての課題と解決策についても詳細に説明する。
【0047】
図3(a)は、絶対値駆動電圧Eを正電圧の極性で印加して計測した比透過率P(+)と、負電圧の極性で印加して計測した比透過率P(-)を平均した平均比透過率Paの算出方法を示す図である。
正負の極性を切り替えながら駆動電圧を印加すると、時々刻々の比透過率は正負の極性で同じ絶対値Eの印加電圧に対して10%程度の誤差が生じる場合がある。
そこで本発明では、
図3(a)に示すように正電圧印加時と負電圧印加時の平均をとった平均比透過率Pa=(P(-)+P(+))/2を、透過率3の指標として用いて写像のグラフを制作する。
【0048】
図3(b)は、絶対値駆動電圧110に対する平均比透過率Paの写像のグラフの形状が、極性を正負に反転させる極性反転信号140の極性反転周波数F2ごとに異なることを示す図である。
つまり、写像のグラフの正確なデータを採取するためには、実際の機器の制御に使用する極性反転周波数F2で極性反転しながら、絶対値駆動電圧Eごとの平均比透過率Paを計測する必要がある。
さらにまた、極性反転周波数F2による写像のグラフ形状は、極性反転部130を構成する交流駆動回路のインピーダンスや負荷特性などの回路特性にも影響されるため、実際に制御に使用する極性反転部120の交流駆動回路を用いて極性反転させながら、絶対値駆動電圧Eごとの平均比透過率Paを計測することが望ましい。
【0049】
図3(c)は、極性反転信号140の周波数F2=400Hzで計測した写像のグラフと、それに対応する逆写像のグラフを示す。さらに、逆写像のグラフを数式で近似できるように、透過率3(数値は比透過率[%]で表現する)の目標値を変数xで表し、変数xの範囲ごとに、絶対値駆動電圧[V]の電圧値を表す変数yを近似するため、変数xの3次式を含んだ4本の近似式で表した。
近似式は必ずしもこの事例のように3次式である必要はなく、実用上で必要十分な精度の得られる数式を適用すればよい。
【0050】
<直流駆動における課題1の解決策>
なお、将来において、直流駆動しても特性劣化のない液晶シャッター素子70が適用可能になった場合には、交流駆動用として説明した平均比透過率Pa=(P(-)+P(+))/2を透過率の指標として用いて制御系を設計する必要は無く、単に正電圧駆動ならPa=P(+)もしくは負電圧駆動ならPa=P(-)とすればよい。
また、直流駆動では印加電圧2と透過率3の対応関係が極性反転周波数F2に依存することも無いため、
図2(c)の印加電圧が正電圧の(+側)もしくは印加電圧が負電圧の(-側)の対応関係のグラフのうち、実装上で適切なほうを選択して適用すればよい。
そのうえで、逆写像のグラフを複数の近似式で表すことは交流駆動の場合と同じである。
【0051】
<正弦波の透過率目標値を発生>
図3(d)は、電圧指令部90の内部構造であり、図示した例では、透過率制御の目標値としての正弦波波形の周波数f0、係数Aおよび平均値Bなどの制御パラメータ80を操作器具50から読み込み、正弦波発生部100で正弦波波形の時系列信号を発生して透過率目標値150とする。
【0052】
この透過率目標値150の時系列信号を
図3(c)の逆写像のグラフに相当する逆写像補正部160に入力し、入力範囲ごとの出力の近似式を用いて、出力としての絶対値駆動電圧110の時系列信号を算出する。
あとは
図2(e)で説明したとおり、絶対値駆動電圧110を極性反転信号140で交流駆動電圧120に変換したうえで液晶シャッター素子70に印加すれば、液晶シャッター素子70は上述の写像のグラフで示す非線形特性を持っているため、液晶シャッター素子70は目標値どおりの波形で透過率制御される。
【0053】
以上の実施例1では、課題1としての「液晶シャッター素子の非線形写像」に関する課題と解決策について、液晶シャッター素子70を交流駆動する場合を中心に説明し、さらに、直流駆動する場合の対応についても説明した。
さらに、課題2としての「極性反転信号の周波数ごとの写像グラフの違い」に関する課題と解決策について、実際に使用する駆動回路と駆動周波数F2を用いて計測することで写像グラフの正確なデータが得られることを説明した。
【実施例0054】
図4は、電子閃光サングラス10の構成と回路図の例を示す図である。
図4(a)は実施例2の外観の一例であり、電子閃光サングラス10のフレーム20とは別筐体の制御箱170に制御装置40、操作器具50および電源装置60を収納し、交流駆動電圧120を液晶シャッター素子70へ電線190を介して供給する事例である。
なお
図1(b)の事例のように別筐体の制御箱170を使わずに電子閃光サングラス10のフレーム20に全ての回路を収納する設計に変更しても構わない。
【0055】
図4(b)も実施例2の別の事例であり、別置きのスマートフォン180に押しボタンやボリウムのような操作器具50の機能を持つアプリを搭載し、制御用マイクロコンピュータ(製品名ESP-WROOM-02)のWIFI(登録商標)機能を利用してスマートフォン180から通信で制御パラメータ80を制御装置40へ送ることができる。もちろん、制御装置40からスマートフォン180へ制御情報などを送信して、スマートフォン180を情報表示装置として利用することも当業者には容易に実現できる。
【0056】
図4(c)は、
図4(a)および
図4(b)の制御箱170に相当する試作品の実際の回路図である。
電源装置60の機能を実現するために、概ね5Vの外部電源(例えばACアダプタ、PCのUSB電源、スマートフォンの充電用外部バッテリーなど)から定電圧電源回路を介して正確に5.0Vの電圧を供給する。
操作器具50の機能を実現するために、デジタル入力としての4点のスイッチ(s1,s2,s3,s4)と、可変抵抗器で分圧した電圧VAを検出する1点のアナログ入力回路(製品名:MCP3425)を備える。
【0057】
電圧指令部90の機能を実現する制御用マイクロコンピュータは、著名な開発ツールArduino(登録商標)でプログラム開発し、アナログ出力回路(製品名:MCP4725)のD/A変換器から絶対値駆動電圧110を出力する。また極性反転信号140をデジタル出力端子から出力する。
極性反転部130の機能はトランジスタアレイ(製品名TD62003APG)を用いて構成し、絶対値駆動電圧110を極性反転信号140で正負の電圧に極性反転して交流駆動電圧120を発生させる。
【0058】
なお、電圧指令部90の出力に用いた上記の1000段階以上の電圧水準を持つD/A変換器の代わりに、128段階の電圧水準を持つデジタルポテンショメータ(例えば製品名MCP4018-103E/LT)を用いて電源電圧を分圧してリアルタイムに分圧比を制御しても、正弦波を3段階以上の電圧水準を使って階段状波形に近似した時系列波形を生成できる。
【0059】
ちなみに、
図4(c)の回路部品のうち、電圧レベル変換器(製品名:FXMA2102)は、3Vでデジタル入出力する制御用マイクロコンピュータと5Vの液晶シャッター素子70の駆動系からなる電圧の異なるデジタル信号系を連接する目的で使用した市販部品である。またオペアンプ(NJM2737)は、0Vから5Vの電源電圧の範囲で出力をフルスイングさせながら、絶対値駆動電圧110の出力インピーダンスを十分に下げるための部品である。
【0060】
図5は、実施例2で選択できる透過率目標値150の時系列波形の例を示す。
図5(a)は、
図4(a)のスイッチa1,a2,a3またはa4だけを選択してONにした場合に比透過率で表した目標値を設定した波形を示す。
この事例では、スイッチS1は指定基本周波数8が40Hzの正弦波、スイッチS2は指定基本周波数8が11Hzの正弦波、スイッチS3は40Hzと11Hzの2つの指定基本周波数8の正弦波の重畳、スイッチS4は最大透過率(比透過率100%)での透過状態を継続させる。
【0061】
図5(b)は、複数の指定基本周波数8の正弦波を重畳させた波形の一事例である。この例では周波数f1と周波数f2の2つの周波数を重畳させ、平均値が0で振幅が±1の範囲の波形になるように、
図5(b)に記載した数式で関数F(t)を定義する。なお係数a1とa2は周波数f1とf2の2つの正弦波の振幅の比率である。
この
図5(b)ではf1とf2の2つの指定基本周波数8の正弦波を重畳させた場合の関数F(t)を例示した。
さらに、
図5(b)に記載した関数G(t)を関数F(t)の代わりに使用すれば、n個の基本周波数の正弦波を重畳させることもできる。例えば40Hzと10Hzと10.5Hzのように3つ以上の基本周波数を重畳させた場合でも、波形の平均値が0で振幅が±1の範囲の波形になる。なお係数a1、a2からanまでは、周波数f1、f2からfnまでのn個の正弦波の振幅の比率である。
【0062】
複数の周波数の正弦波が重畳した波形を、この比透過率の目標値の変動範囲に収納するためには、
図5(b)に記載した関数F(t)を用いて、例えば
図5(c)や
図5(d)に記載した数式P(t)で透過率目標値150を定義する。
図5(c)は、比透過率の上限値を100%に固定し、係数b(0と1の間の実数)を用いて変動範囲をb×100%とした透過率目標値150を関数P(t)で表す。係数bの数値は、例えば
図4(c)のアナログ入力のVAで調整する。
図5(d)は、比透過率の上限値を係数a(0と1の間の実数)で(1-a)×100[%]に調整する。この場合、係数aと係数bの2つを調整するために、
図4(b)のスマートフォン180のアプリを使用することもできる。
【0063】
図6は、実施例2における電圧指令部90を収めた制御用マイクロコンピュータのフローチャートである。
ステップS001では、電源スイッチPSを押すと以下のフローが起動する。
ステップS002は初期値の代入であり、正弦波の周波数f1とf2の初期値としてf1=40Hzとf2=0Hzに設定し、起動後の経過時間this_time(マイクロ秒単位)をArduinoのプログラムの実行を開始してからの経過時間を返す関数micros()で読み取って、さらに最新のサンプル開始時刻pass_time(マイクロ秒単位)に代入するなどの初期化を行う。
【0064】
ステップS003は起動後1時間経過したら動作を終了するための判定であり、起動後の経過時間this_timeの数値を更新して、その数値が1時間を越えたかどうか判断する。1時間以上経過していれば終了サブルーチンSR01へ進み、そうでなければ次のステップへ進む。
【0065】
ステップS004はデジタル入力としての4点のスイッチ(スイッチ番号はs1,s2,s3,s4)のON-OFFの状態を読みとる操作である。
もし、どのスイッチもOFF(押されていない)であれば、何も読み込まずに次のステップへ進む。
またもし、2つ以上のスイッチが同時にON(押された)でも、何も読み込まずに次のステップへ進む。
【0066】
さらにもし、1つのスイッチだけが同時にONの場合に限り、そのスイッチ番号を読み取る。さらに、読み取ったスイッチ番号に応じて、下記のように液晶シャッター素子70の明滅の繰り返し周波数と係数の選択を行って、
図5(b)のF(t)に代入する。
周波数に関しては、スイッチs1を押せば正弦波の周波数f1=40Hzとf2=0Hzとし、スイッチs2を押せば正弦波の周波数f1=11Hzとf2=0Hzとする。スイッチs3を押せば周波数f1=40Hzと周波数f2=11Hzの正弦波の重畳した波形へと切り替えることができる。
また係数に関しては、スイッチs1またはs2の場合にはa1=1でa2=0とする。また、スイッチs3ではa1=a2=1を設定する。
スイッチs4を押せばf1=0Hz、f2=0Hz、a1=a2=1に設定して、一定繰り返し周期での明滅を止める設定とする。
【0067】
ステップS005は、
図4(c)の可変抵抗器で分圧した電圧VAをアナログ入力回路で読み取る操作である。可変抵抗器のつまみの回転角に応じて0%~100%の値に換算して比率b=0~1として読み取る。
【0068】
ステップS006は、制御用のマイクロコンピュータの三角関数計算の誤差防止のための準備を行う処理である。
すなわち、Arduinoの関数micros()で読み取って起動後の経過時間this_time(マイクロ秒単位)に代入し、起動後の繰り返し周期100秒ごとにリセットする経過時間t_time(秒単位の浮動小数点の変数)が0以上100未満になるように算出する。この経過時間t_timeは、以降のステップで正弦波の値を計算するために時間変数tとして利用する。
このように、時間関数tを0秒から100秒未満に限定したのは、デジタル医薬の器具としての周波数設定の分解能の実用性を確保しながら、Arduinoの三角関数を使用する際の過大な入力値による計算誤差等を予防するためである。
【0069】
ステップS007は正弦波発生部100の処理である。
以下では2種類の周波数f1とf2の正弦波を重畳させる事例を例にとって説明する。
正弦波の周波数f1と周波数f2のそれぞれの振幅の比をa1:a2とすると、f1とf2が重畳した波形の振幅範囲を±1に収めるために、
図5(b)に記載したように、F(t)={a1*sin(2π*f1*t)+a2*sin(2π*f2*t)}/(a1+a2)とする。
なお上記の数式における時間変数tにはステップ006で作成した100秒周期での経過時間t_time(秒単位の浮動小数点の変数)を用いる。
【0070】
そこでさらに、透過率目標値150の最大比透過率を100%、最小比透過率を(1-b)*100%とする範囲で制御する
図5(c)に記載した事例で説明する。比率b(数値範囲は0~1)を透過率目標値150の振れ幅とすると、透過率目標値150の時系列波形は上記のF(t)を用いてP(t)=(b/2)*F(t)+(1-b/2)となる。
【0071】
また、ステップ004でスイッチs4だけが押されていた場合には、透過率目標値P(t)=100%に設定して次のステップへ進む。
【0072】
ステップS008は逆写像補正部160の処理であり、
図3(c)で説明した逆写像グラフの近似式を用い、透過率目標値x[%]の適用範囲に合わせて、透過率目標値P(t)の数値を透過率目標値xに代入する。
この近似式の出力yとして絶対値駆動電圧110が得られる。
【0073】
ステップS009は絶対値駆動電圧110を
図4(c)で説明したD/A変換器(部品名:MCP4725)からアナログ出力するステップである。
【0074】
ステップS010はサンプル時間の調整であり、この実施例では1サンプル時間Ts=250マイクロ秒とする。
まず、起動後の経過時間this_time(マイクロ秒単位)をArduinoの関数micros()で読み取って、記録されている最新のサンプル開始時刻pass_time(マイクロ秒単位)と比較し、最新のサンプル開始時刻から250マイクロ秒以上が経過するまでステップS010でループして待機する。
【0075】
250マイクロ秒以上が経過したら、読み取った起動後の経過時間this_time(マイクロ秒単位)の数値を最新のサンプル開始時刻pass_time(マイクロ秒単位)に代入して更新し、次のステップへ進む。
【0076】
ステップS011は極性反転信号140を生成する。この実施例では極性反転信号140の周波数は400Hzなので、1秒間に800回の極性反転をする。つまり、1秒/800回=1,250マイクロ秒に1回の極性反転を行うから、1サンプル時間Ts=250マイクロ秒なので5サンプル時間ごとに極性反転すればよい。
すなわち、ステップS011が5回実行されるたびに、
図4の制御用マイクロコンピュータのデジタル出力端子の論理値を1から0、または0から1へと反転させる。
このデジタル出力端子の出力の論理値は、極性反転信号140として
図4(c)や
図2(e)の極性反転部130に入力される。
【0077】
ステップS011が終了すれば、ステップS003へ戻り、1時間以上経過していなければ、ステップS004へ進み、ループして実行を継続する。
ステップS003に戻って、1時間以上経過していれば終了サブルーチンSR01へ進む。
【0078】
終了サブルーチンSR01は、起動開始から1時間経過したので電子閃光サングラス10の使用を終了するタイミングになったことを知らせるものであり、一定繰り返し周期での明滅を止める。
つまり、液晶シャッター素子70の透過率の正弦波波形の出力を停止し、液晶シャッター素子70の最大透過率(比透過率100%)に相当する絶対値電圧110を
図3(c)の近似式に従って0Vに設定し、その電圧値をアナログ出力する。
なお液晶シャッター素子70に印加する駆動電圧が0Vになれば、電界強度もゼロになって液晶シャッター素子70の直流駆動による経年劣化も起きないので極性反転信号140を生成する必要もない。
【0079】
<変化例(極性変換部130をソフトウエアで実現する)>
なお、
図4(c)の試作品ではアナログ出力用のD/A変換器として正電圧のみ出力できる安価な部品を用いたため、
図4(c)の回路図の中で、後に
図11(b)で詳しく説明するハードウエアを用いた極性変換部130を使用した。もしアナログ出力用のD/A変換器として正負両極性の電圧を高速に出力できる比較的高価な部品を用いれば、このハードウエアによる極性変換部130をソフトウエアで実現することができる。
ソフトウエアで極性変換部130の機能を実現する場合には、
図6のフローチャートにおけるS011の「極性反転信号140を生成する」の名称を「交流駆動電圧120を出力する」と名称変更したうえで、処理内容を下記のように変更すればよい。
【0080】
変形例のステップS011は交流駆動電圧120を出力する。ソフトウエア上で仮想的に実現する極性反転信号140の周波数が400Hzならば、1秒間に800回の極性反転をする。つまり、1秒/800回=1,250マイクロ秒に1回の極性反転を行う。
制御用マイクロコンピュータのサンプル時間Ts=250マイクロ秒とすると、5サンプル時間ごとに極性反転すればよい。
すなわち、ステップS011を5回通過したことを計数するごとに、正負両極性のアナログ出力用のD/A変換器から、絶対値駆動電圧110の極性を正電圧又は負電圧に反転させて出力すると、これが交流駆動電圧120そのものになる。
この場合、液晶シャッター素子70の2つの入力端子は、片方は正負両極性のアナログ出力用のD/A変換器の出力電圧、残りの片方は電圧0Vに接続すればよい。
【0081】
以上のように、この実施例2では課題1から課題4までを解決する各実施例で使用するハードウエアとソフトウエアの基本的な構造を説明した。
【実施例0082】
図7は、極性反転信号140の周波数F2の選択について説明する。
この実施例は、透過率目標値150で指定した1つの正弦波による周波数F1と、極性反転信号140の周波数F2の、液晶シャッター素子70における透過率制御結果への影響を説明する周波数分析の計測事例である。
【0083】
図7(a)は、実施例2で説明した
図4の制御箱170のハードウエアの一部を利用し、
図5のフローチャートの周波数F1と周波数F2の数値のみ設計変更して液晶シャッター素子70を制御して実験した事例である。
【0084】
一定電圧で駆動する白色LEDを光源として照度が時間的に一定の入射光Liを生成し、液晶シャッター素子70を透過した透過光Loを半導体照度センサとしての入出力特性を持つフォトトランジスタ(商品名NJL7502L)で受光し、岩崎通信製のシンクロスコープ(商品名DS-5105B)で受光電圧を検出するとともに、透過光Loの明るさの時間的変化に含まれる周波数を分析した。
入射光Liは一定であるから、透過光Loの時間的変化は液晶シャッター素子70の透過率の時間的変化に等しい。
【0085】
図7(b)は、実施例2で紹介した周波数F1=40Hzの正弦波の透過率目標150にもとづいて、周波数F2=400Hzの極性反転信号140を使って交流駆動した液晶シャッター素子70の透過率の時間的変化の周波数分析結果を模式的に示した図である。縦軸には基本周波数成分としてのF1=40Hzの大きさとして計測した電圧(ミリボルト単位)の実効値(mVrms)を100%として正規化し、各周波数成分の相対的な大きさを表示した。
周波数を分析すると、F1の基本周波数40Hzと第2高調波80Hzが現れ、さらにF2=400Hzと、F1およびF2の唸りに相当するF2-F1=360HzとF1+F2=440Hzが主に観測される。
この
図7(b)の場合、誘導上限周波数400としての100Hzよりも低い周波数成分は、基本周波数成分としてのF1=40Hzとその第2高調波の80Hzのみである。
【0086】
図7(c)は、F1=40HzのままF2=100Hzに変更した事例である。F1の基本周波数40Hzと第2高調波80Hzは
図7(b)と同様だが、新たに60Hzの周波数成分が発生しており、この60Hz成分によって誘導される脳波によって、非特許文献4に記載された60Hzの脳波に起因する脳の可塑性を回復する薬理効果が発生する。現時点ではこの薬理効果が有用なのか禁忌なのか未知であるため、この「意図せざる周波数」の成分を抑制することが現時点では望ましい。
【0087】
ここで発生した60Hzの正体は、F1とF2の唸りによる低いほうの周波数(F2-F1)としての100-40=60Hzである。
F1とF2の唸りによる高いほうの周波数(F2+F1)としての100+40=140Hzは、100Hzを超えるため脳波誘導に寄与しないので問題ない。
【0088】
図7(d)は電子閃光サングラス10としての、ある製品で発生させうる仕様上の上限周波数をF1=90Hzと仮定した事例である。
その製品の仕様上の上限周波数90Hzで誘導上限周波数400としての100Hzよりも低い「意図せざる周波数」の成分を発生しないように極性反転信号140の周波数F2を選択するには、F1とF2の唸りによる低いほうの周波数(F2-F1)を、誘導上限周波数400としての100Hz以上の周波数にすれば脳波誘導に寄与しないので問題なくなる。
すなわち、F1=90HzでF2-F1=100Hzであるから、F2は190Hzよりも高く設定すればよい。
非特許文献6によれば90Hzを超えて100Hzあたりからは視覚刺激による脳波誘導が起きなくなるといわれるが、実際には多数の被験者の間には脳科学的な個人差がある。したがって、F2-F1の値を「100Hz以上にする」と表記しても、「100Hzを超える」と表記しても、本発明の技術思想も効果も同じである。
【0089】
図7(d)の周波数分析結果を説明すると、F1の基本周波数が90Hz、第2高調波が180Hzであり、F2が190Hzなので、F1とF2の唸りによる周波数がF2-F1=100HzとF2+F1=280Hzである。
なお、
図7では
図7(a)のシンクロスコープを用いた周波数分析結果を説明したが、実際のシンクロスコープの周波数分析の画面上にはF1やF2の高次の高調波などによる比較的振幅の小さい周波数成分が多数描かれ、煩雑な画面が表示される。従って、説明を簡単にするため、微小な周波数成分を省略して模式的に周波数スペクトルを描いたのが
図7の各周波数分析結果の図である。
【0090】
以上のように、実施例3では課題3の極性反転信号140の周波数値に起因する「うなり」の発生に伴う、誘導上限周波数400としての100Hzよりも低い周波数の「意図せざる周波数」の成分の発生を回避する解決策を提示した。
【実施例0091】
図8は透過率目標値150の波形を改善することによって第2高調波を抑制する事例を説明する。
図8(a)は、矩形波を透過率目標値150とした場合の、液晶シャッター素子70の透過率を計測した事例である。
図8(a)の左上段に透過率目標値、左下段に透過率を制御した出力としての透過率の波形、右側には透過率を
図7(a)の計測装置を用いて周波数分析した透過率の周波数分析結果をスケッチした模式図を示す。
【0092】
図8(a)の左上段のグラフでは透過状態と遮断状態をデューティ比が約42%の矩形波で繰り返す透過率目標値の例を示す。左下段のグラフでは、透過率が遮断状態から透過状態まで10.0ミリ秒、透過状態から遮断状態まで2.6ミリ秒で透過率(出力)が変化することを示している。
つまり、この事例の液晶シャッター素子70は、遮断状態から透過状態(つまり暗→明の変化)がその逆(明→暗)に比べて4倍程度の遅れを持っていることがわかる。
【0093】
図8(b)の左上段のグラフでは透過状態と遮断状態を25ミリ秒の周期で繰り返す40Hzの正弦波波形を透過率目標値150に使っている。つまり、遮断状態から透過状態(つまり暗→明の変化)に12.5ミリ秒(前半)、その逆(明→暗)も12.5ミリ秒(後半)である。
図8(b)の左下段のグラフの透過率(出力)では遮断状態から透過状態(つまり暗→明の変化)に13.8ミリ秒(前半)、その逆(明→暗)は11.2ミリ秒(後半)である。つまり、
図8(a)と同様に、遮断状態から透過状態(つまり暗→明の変化)までの所要時間がその逆(明→暗)に比べて長くなることがわかる。
つまり、透過率目標値150に正弦波波形を使っても、透過率制御の制御結果としての透過率(出力)の時系列波形は正弦波から歪んだ波形になる。
【0094】
図8(c)が
図8(b)と違うのは、透過率制御の制御結果としての透過率(出力)の時系列波形が正弦波に近づくように改善した点である。
つまり、
図8(c)の左下段のグラフでは、透過率(出力)の遮断状態から透過状態(つまり暗→明の変化)に12.5ミリ秒(前半)、その逆(明→暗)も12.5ミリ秒(後半)であり、波形の明暗が変化する前半と後半の所要時間が等しくなっている。
【0095】
このように透過率(出力)の波形が正弦波に近づいた理由は、
図8(c)左上段の透過率目標値150の前半に相当する遮断状態から透過状態(つまり暗→明の変化)では応答時間が伸びることを考慮して、半周期が短めの11.2の第1正弦波210を用い、その逆(明→暗の変化)に半周期が長めの13.8ミリ秒の第2正弦波220を用いたことによる。
上記のように第1正弦波210と第2正弦波220を接ぎ合わせて組み合わせた波形を本発明では複合正弦波200と呼ぶ。
【0096】
図8(a)の右図は、デューティ比42%の矩形波の透過率目標値150に対する透過率(出力)の時系列信号を周波数分析したものである。基本周波数40Hzの振幅を100%として正規化すると、意図せざる脳波を誘導する100Hz以下の周波数としての第2高調波80Hzの振幅は25%である。
【0097】
同様に、
図8(b)の右図は、正弦波の透過率目標値150に対する透過率(出力)の時系列信号を周波数分析したものである。第2高調波80Hzの振幅は15%であり、矩形波を用いた
図8(a)の事例と比べて「意図せざる周波数」の成分は減少している。
本実施例の効果を示す
図8(c)の右図は、透過率目標値150に複合正弦波200を使用した場合の透過率(出力)の時系列信号を周波数分析したものである。第2高調波80Hzの振幅は7%であり、
図8(a)や
図8(b)の事例と比べて、誘導上限周波数400としての100Hzよりも低い周波数の「意図せざる周波数」の成分はさらに抑制されている。
【0098】
図9は、本発明の複合正弦波200を生成する方法を説明する図である。
図9(a)は複合正弦波200の構成を表す図であり、繰返し周期240をTミリ秒とする。周期内時間250は、複合正弦波200が最小値をとる瞬間からの経過時間をtミリ秒で表す。複合正弦波200が最小値をとる瞬間から増大し続ける期間を第1正弦波210が単調増加する前半の半周期とし、複合正弦波200が最大値をとる瞬間としての接合点230を過ぎてから減少し続ける期間を第2正弦波220が単調減少する後半の半周期とする。
【0099】
従って接合点230を周期内時間250としての経過時間tであらわせば、第1正弦波210の周期2×Taの半分のt=Taとなる。また接合点230から周期Tの終わりまでの時間の長さは、第2正弦波220の周期2×(T-Ta)の半分の(T-Ta)となる。
【0100】
図9(b)は複合正弦波200を発生させる演算式である。
つまり、周期内時間250が0≦t≦Taの期間では第1正弦波210の周期の前半の単調増加する半周期(式1)であり、周期内時間250がTa<t<Tの期間では第2正弦波220の後半の単調減少する半周期(式2)である。
この演算式を
図3(d)の正弦波発生部100に組み込んで使用する。つまり、
図6のフローチャートのステップS007の正弦波発生部100の関数F(t)として実行する。
【0101】
ちなみに
図8(b)で周期25ミリ秒の正弦波の透過率目標値150を与えたところ、制御結果としての透過率(出力)として前半が伸びて13.8ミリ秒、後半が縮んで11.2ミリ秒の複合正弦波200の波形が現れている。
そこで
図8(c)のように前半と後半を入れ替えて、前半が11.2ミリ秒、後半が13.8ミリ秒の複合正弦波200の波形を透過率目標値150として付与したところ、制御結果としての透過率(出力)として前半が伸びて12.5ミリ秒、後半が縮んで12.5ミリ秒の、より正弦波に近い波形が現れた。
【0102】
このように、まず、正弦波の透過率目標値150を付与して制御結果としての透過率(出力)に発生した複合正弦波200の波形を計測する。そして、時間軸の前後を反転させて、それを新たな複合正弦波200の波形として透過率目標値150として用いることで、
図8(c)に示すように波形の歪みを低減して第2高調波を小さくすることができる。
【0103】
もちろん、上記の時間軸を前半・後半で反転させる操作をひとつの目安として扱い、接合点230の周期内時間t=Taをこの目安よりも増減させながら制御結果としての透過率(出力)の周波数分析を行って、第2高調波の振幅をさらに小さくできるTaの数値を試行錯誤的に調整することも、装置設計や製品出荷段階などの調整作業としては可能である。
【0104】
以上のように、この実施例4では、課題4の「液晶シャッター素子の立ち上がりと立下りの応答時間の相違」に起因して発生する左右対称性に関する波形の歪みに対応する第2高調波を、透過率目標値150に複合正弦波200を適用することで抑制できた。
【実施例0105】
図4(c)の試作品では、液晶シャッター素子70を駆動する電圧波形の原型としての絶対値駆動電圧110を生成するために1000段階以上の電圧水準を出力できるD/A変換器を使用した結果、
図5に示すように、例えば40Hzと11Hzのような「複数の指定基本周波数8を持つ正弦波を重畳させて視覚刺激する」ことが可能であるという、デジタル医薬の器具としての利点が明らかになった。
【0106】
一方で、例えば40Hzなどの「単一の指定基本周波数8」の正弦波だけを出力する単純な用途では、透過率の時系列波形に残る「意図せざる周波数」の成分を、実施例4に記載した複合正弦波200を用いて第2高調波を7%まで抑制することができた。
【0107】
してみると、特に「単一の指定基本周波数8」の用途においては、制御用マイクロコンピュータのデジタル出力を2bit分だけ使って3段階の電圧水準を切り替えて正弦波を近似し、「もし、第2高調波を7%程度まで低減させることが可能」であるならば、高価なD/A変換器を省略して電子閃光サングラス10の製造コストを削減できる可能性が期待される。
【0108】
以下では、「単一の指定基本周波数8」の用途について、わずか3段階の電圧水準を用いて第2高調波を7%近くまで低減することに成功した実施例を紹介する。
【0109】
図10は、直流駆動の3段階の電圧水準を用いて正弦波を近似する事例である。
図10(a)は、直流駆動で3段階の電圧水準を実現するために必要なシステム構成である。制御装置40には正弦波発生部100と直流出力部300とで構成した電圧指司令部90を備える。
直流出力部300は直流駆動電圧310を出力し、液晶シャッター素子70を駆動する。後述するが、この直流駆動電圧310は、液晶シャッター素子70を交流駆動する事例では絶対値駆動電圧110という別名で呼ばれる。
【0110】
一般に、この発明を執筆している段階では、購入可能な液晶シャッター素子70を直流駆動すると液晶分子が電界に沿って移動してしまい、中間階調での表示品質が短時間で劣化する傾向がある。そのため現在は直流駆動よりも交流駆動することが一般的である。
しかし、将来において直流駆動可能な液晶シャッター素子70が誕生すれば、
図10(a)による簡素な直流駆動の制御装置40を利用することができる。
【0111】
制御装置40は、
図4(c)のような制御用マイクロコンピュータとソフトウエアを利用して実現しても構わないし、正弦波発生部100に時計用などの水晶発振子を分周する回路を組み込んで正確な周波数の透過率目標値150を生成するなどの方法により全てハードウエアで作っても構わない。
【0112】
正弦波発生部100は、透過率目標値150として正弦波を出力する。
この実施例5では、比透過率の最大値95%、最小値15%で指定基本周波数8が40Hzの正弦波の事例を用いて説明する。
【0113】
直流出力部300は透過率目標値150を入力して直流駆動電圧310を出力する。
図10(b)は実施例5で使用する液晶シャッター素子70の逆写像のグラフであり、直流出力部300の入力に関する2つの入力閾値THとTL、出力に関する3段階の電圧水準VT、VMおよびVBの位置関係を説明する図である。
【0114】
この実施例の逆写像のグラフは単純減少関数であるから、入力(横軸)が増加すれば出力(縦軸)が低下する。そこで、入力が最小値から最大値へ増加するにつれて、電圧水準が順次低下してゆくように入力閾値と電圧水準の対応関係を定めれば、階段状の出力を得ることができる。
具体的には、
図10(b)では、入力閾値はTL=30%とTH=73%であり、電圧水準はVT=5V、VM=3.2V、TB=1.5Vとした。
したがって、入力(透過率目標値)が入力閾値TL以下なら電圧水準VT=5Vを出力し、入力が増加して入力閾値TLを越えたらVM=3.2Vを出力し、入力がさらに増加して入力閾値THを越えたら電圧水準VB=1.5Vを出力する。
【0115】
同様に、逆写像のグラフが単純増加関数の場合には、入力(横軸)が増加すれば出力(縦軸)も増加する。そこで、入力が最小値から最大値へ増加するにつれて、電圧水準が順次増加してゆくように入力閾値と電圧水準の対応関係を定めれば、階段状の出力を得ることができる。
【0116】
なお、液晶シャッター素子70の透過率の階段状の波形の振幅を小さくしたければ、逆写像のグラフを参照して、所望の透過率の振幅の上限値と下限値とその平均値に対応する3つの電圧水準をVT、VM、VBに設定してもよい。
【0117】
図10(c)は、入力としての透過率目標値150の時系列波形を2つの入力閾値(TH,TL)と比較して、上記の説明に基づいて3段階の電圧水準(VT,VM,VB)からなる直流駆動電圧310の波形を出力した状態を描いた図である。
入力波形の透過率目標値150が閾値THおよび閾値TLを上下に通過するたびに、出力波形の直流駆動電圧310が3段階の電圧水準VT,VM,VBの間で階段状に切り替わる様子がわかる。
【0118】
図11は、交流電圧で液晶シャッター素子70を駆動する場合に、直流出力部300の出力としての絶対値駆動電圧110に3段階の電圧水準を使う事例である。
図11(a)は、交流駆動用の制御装置40の構造を示す図であり、
図10(a)と同様に正弦波発生部100と直流出力部300からなる電圧指令部90を備え、新たに極性反転部130を追加した。
【0119】
図11(a)の直流出力部300は、
図10の直流出力部300の出力名だけを直流駆動電圧310から絶対値駆動電圧110へ名称変更して極性反転部130へ入力する。さらに制御装置40の内部で準備した極性反転信号140も入力した上で、交流駆動電圧120を出力して液晶シャッター素子70に印加する。
これにより、液晶シャッター素子70の透過率3は、
図10(a)と同様な波形になる。ただし直流駆動と交流起動とでは
図10(b)に記載した逆写像のグラフの形状が若干異なるため、透過率3の時系列波形も直流駆動と交流起動とでは若干異なった形状になる場合がある。
【0120】
図11(b)は、
図11(a)の極性反転部130の構造と動作を模式的に説明する図である。
極性反転部130は、1又は0からなる論理信号としての極性反転信号140を入力し、インバータINVを用いて2つの能動素子(例えばトランジスタあるいはFETなど)であるTR1とTR2を逆位相で開閉させる。この部分の回路定数が写像グラフの計測精度に影響するため、交流駆動用の写像グラフを計測する際には実際に使用する制御装置40の回路を使用することを推奨する。
【0121】
極性反転部130の負荷抵抗R1,R2の電源側には絶対値駆動電圧110を印加する。負荷抵抗R1,R2の能動素子TR1,TR2側の端子PA、PB間に発生する電位差は、極性反転信号140のタイミングに合わせて極性が反転するので、これを交流駆動電圧120として液晶シャッター素子70の2つの入力電極に印加する。
なお、
図11(a)の極性反転部130と同等な機能の回路を、例えばオペアンプなどの電子部品を用いて実現するように設計変更することは当業者には容易である。
【0122】
液晶シャッター素子70のインピーダンスは十分に高いので、電圧フルスイング型のオペアンプを用いたボルテージフォロワを介して絶対値駆動電圧110を低インピーダンス化したうえで負荷抵抗R1,R2の電源側に印加すれば、
図11(b)の構成で容易に動作させることができる。
図4(c)に記載した極性反転部130の回路図はこの考え方で設計されており、図中のオペアンプNJM2737が上記のボルテージフォロワに相当する。
【0123】
図12は、
図11(a)の交流駆動による制御装置40を使用した計測事例である。
図12(a)は3段階の電圧水準(VT=5V,VM=3.2V,VB=1.5V)にもとづく透過率の波形と周波数分析の結果を示す。
図12(a)の左上図は、透過率目標値150の波形として比透過率が上限95%、下限15%の正弦波であって、閾値THは70%に固定し,閾値TLを20%~70%の間で調節する図である。
【0124】
図12(a)の左下図は、液晶シャッター素子70で実測した透過率3の時系列波形の例を示す。閾値TLを20%~70%の間で調節すると透過率3の波形の形状が変化する。
図12(a)の右図は、閾値TH=70%、閾値TL=43%に設定した場合の周波数分析結果である。
40Hzの周波数成分の振幅を100%に正規化した場合、80Hzの周波数成分の割合は8%まで抑制されており、
図8(c)の複合正弦波200を用いた抑制結果の7%と比べて遜色ないレベルである。
【0125】
図12(a)の右図では、第3高調波の120Hz成分は20%が残存しており、
図8(c)の複合正弦波200を用いた抑制結果の2%と比べて明らかに抑制効果は劣る。
しかし、本発明はSSVEPの自然現象を利用して、視覚刺激で脳波を誘導することが可能な周波数の上限値(誘導上限周波数400)としての100Hzよりも低い脳波を誘導する器具である。そのため、誘導上限周波数400である100Hzを超えた120Hz成分の残存量が多くても「意図せざる周波数」の成分の脳波は発生しないから、問題ないものとみなすことにする。
【0126】
図12(b)の左図は、閾値TH=70%に固定して、閾値TLを20%~70%の間で調整した場合の40Hz成分の振幅の増減を、この区間における40Hz成分の最大値を100%として正規化して表している。閾値TLが40%~50%の間で40Hz成分が最も多くなることがわかる。
【0127】
図12(b)の右図は、閾値TH=70%に固定して、閾値TLを20%~70%の間で調整した場合の80Hz成分と120%成分の比率の増減を表す。なおこの図では、TLがそれぞれの値における40Hz成分の振幅を100%として正規化し、40Hz成分に対する80Hz成分や120%成分の比率を表している。
その結果、閾値TL=43%のときに80Hz成分が最も抑制されて8%である。なお、閾値TLが38%~47%の範囲でも10%以下に抑制されている。
【0128】
図12(c)は3段階の電圧水準で階段状波形を出力するために2つのデジタル出力端子を使用する場合の回路の模式図であり、2つの半導体スイッチSW1、SW2をそれぞれON・OFFして出力電圧を切替える概念を示す。
図4(c)のD/A変換器を使用した出力回路をこの回路を置き換えて、3段階の電圧水準で絶対値駆動電圧110を出力することができる。
この事例では、制御用マイクロコンピュータの2つのデジタル出力端子#1と#2を使用して3段階の電圧水準を切替える。
電圧水準VB=1.5Vを出力する場合は、#1(SW1に対応)と#2(SW2に対応)をOFFにして、ボリウムVR0で調整した1.5VだけをオペアンプOP2から出力する。
電圧水準VM=3.2Vを出力する場合は、#1をON、#2をOFFにして、ボリウムVR1で調整した電圧をVB=1.5Vに加算して、オペアンプOP2から3.2Vを出力する。
電圧水準VT=5.0Vを出力する場合は、#1をOFF、#2をONにして、ボリウムVR2で調整した電圧をVB=1.5Vに加算して、オペアンプOP2から5.0Vを出力する。
【0129】
図12(c)の3段階の電圧水準で階段状波形を出力するソフトウエアは、
図6の制御用マイクロコンピュータのフローチャートを改造すればよい。
すなわち、ステップS008の「写像補正部160」の部分を「直流出力部300」と名称変更し、さらにステップS009の「アナログ出力」の部分を「デジタル出力」と名称変更する。そのうえで、各ステップの実行内容を下記のように内容を書き換える。
【0130】
ステップ008を「直流出力部300」と名称変更した処理の実行内容は、入力値としての透過率目標値150の値Pを2つの入力閾値TL、TH(但しTL<TH)と比較して、比較結果にもとづいて3段階の電圧水準VB,VM,VT(但しVB<VM<VT)を切替えるものである。
具体的には、P<TLならVTを出力し、TL≦P<THならVMを出力し、TH≦PならばVBを出力する。
【0131】
ステップ009を「デジタル出力」と名称変更した処理の実行内容は、電圧水準VB,VM,VTに応じてデジタル出力端子#1と#2を出力するものである。
具体的には上述の
図12(c)の説明に対応して、出力すべき電圧水準がVB=1.5Vならデジタル出力#1と#2をOFFとし、電圧水準VM=3.2Vを出力する場合は、#1をON、#2をOFFとし、VT=5.0Vを出力する場合は#1をOFF、#2をONとする。
【0132】
このように実施例5では、わずか3段階の電圧水準を用いて基本周波数40Hzの正弦波を近似した
図12(a)の透過率3の波形を周波数分析した結果、誘導上限周波数400としての100Hz以下における「意図せざる周波数」の第2高調波(80Hz)の振幅を8%まで抑制できることを確認した。
図8(c)では「1000段階以上の電圧水準」を持つD/A変換器の出力を使用して第2高調波を7%まで抑制できることを示したが、実施例5では電圧水準をわずか3段階まで制限しても同等な水準まで第2高調波を抑制できることを確認した。
【0133】
なお、例えば低い周波数の11Hzの正弦波を近似する場合には、第2高調波(22Hz)、第3高調波(33Hz)、第4高調波(44Hz)、第5高調波(55Hz)、第6高調波(66Hz)、第7高調波(77Hz)、第8高調波(88Hz)第9高調波(99Hz)までが100Hz以下の「意図せざる周波数」の成分の候補となる。その場合には、たった3段階だけの電圧水準を用いた正弦波の近似では十分な抑制ができない可能性が生じる。
その場合には、使用するデジタル出力点数(ビット数)を増やして表現できる電圧水準を3水準よりも増して正弦波を詳しく近似すればよい。その場合、電圧水準をN個にすれば、出力を階段状にするための入力閾値の数は、いわゆる植木算で、N-1個である。
【0134】
以上、実施例5では、SSVEPの自然現象を利用して誘導上限周波数400の100Hz以下の脳波を誘導するデジタル医薬の器具としての電子閃光サングラス10において、例えば認知症等の治療に有益とされる40Hzの光刺激を発生する場合を例にとり、わずか3段階の電圧水準で正弦波を近似すれば、100Hz以下の「意図せざる周波数」の成分としての第2高調波(80Hz)を十分に抑制できることを示した。
【0135】
従って、もし将来の計測技術の発展によってSSVEPの視覚刺激で誘導可能な脳波の周波数の上限値としての誘導上限周波数400が現在の100Hzよりも高い新しい上限値FN(例えば120Hzなど)に変更された場合でも、その上限値FNの4割の基本周波数(0.4×FN)の正弦波を用いて実施例5を例示すれば、上限値FN以下の「意図せざる周波数」の成分としての第2高調波(周波数0.4×2×FN)を十分に抑制することができるという技術思想に変更は生じない。
【0136】
≪発明事項の要旨≫
以上の各実施例では、公知の自然現象であるSSVEPを利用して誘導上限周波数400としての100Hz以下の脳波を誘導して神経疾患を治療または予防するデジタル医薬の器具としての電子閃光サングラス10において、「意図せざる周波数」の脳波の誘導を抑制するための多様な解決策を詳細に説明した。
以下では、本発明を系統的に10項目の発明事項に整理し、各実施例に記載した内容を引用しながら、本発明の技術思想にもとづく若干の変形例についても説明する。
【0137】
≪発明事項1≫
発明事項1は、本発明の課題を解決する基礎となる技術思想であって、デジタル医薬の器具としての電子閃光サングラスの安全性を確保するために「意図せざる周波数」の成分を抑制しようとする着想と、高調波成分の少ない略正弦波4を液晶シャッター素子70の透過率制御における制御目標として設定する制御装置40の構造について記載する。
【0138】
すなわち、
『神経疾患を治療又は予防するための器具として、液晶シャッター素子70を1眼もしくは2眼のレンズ30としてフレーム20に組み込んで、中間階調を含む透過率目標値150の時系列波形を使用する制御装置40から印加電圧2を付与して透過率3を制御する電子閃光サングラス10であって、
公知の自然現象のSSVEP(定常状態視覚誘発電位)を利用して付与した視覚刺激と同じ周波数の脳波を誘導しうる上限の周波数としての誘導上限周波数400よりも低い周波数において、前記透過率目標値150で指定した時系列波形における指定基本周波数8以外の高調波などの周波数成分が前記透過率3の時間的変化に混入することを抑制する目的で、
前記液晶シャッター素子70の前記印加電圧2から前記透過率3への対応関係を表す写像特性5の逆写像特性9にもとづいて、
前記印加電圧2の絶対値は、入力としての前記透過率目標値150を前記逆写像特性9で変換して出力するにあたり、3段階以上の電圧水準7を備えるとともに、
前記透過率目標値150の時系列波形として略正弦波4を発生する正弦波発生部100を備える
』
である。
【0139】
本発明が神経疾患を治療又は予防するための器具に関するものであることは技術分野にも記載した。また、液晶シャッター素子70を1眼もしくは2眼のレンズ30としてフレーム20に組み込むことは
図1とその説明箇所に記載した。
本発明が中間階調を含む透過率目標値150の時系列波形を使用する制御装置40から印加電圧2を付与して透過率3を制御する電子閃光サングラス10に関するものであることは実施例1から実施例5において共通である。
【0140】
例えば非特許文献5などで自然現象のSSVEP(定常状態視覚誘発電位)が紹介されている。このSSVEPを利用して付与した視覚刺激と同じ周波数の脳波を誘導しうる上限の周波数としての誘導上限周波数400が存在することは非特許文献6で公知である。
そして例えば、この誘導上限周波数400の100Hzよりも低い60Hzの脳波を誘導すれば、脳内の免疫細胞のミクログリアが成熟した神経周囲網を貪食する自然現象(非特許文献4)が発見されており、この周波数60Hzが一部の記憶の破壊につながる禁忌事項である可能性もあるが現時点では未知である。
このように、40Hzや10Hz付近の脳波を誘導することで認知症やうつ病などの治療や予防に有益(非特許文献1、2,3)である可能性が指摘されている一方で、60Hzのように治療に有害なのか有益なのか未知の周波数がほとんどである。
【0141】
そこで本発明では、誘導上限周波数400としての100Hzよりも低い周波数において、透過率目標値150で指定した時系列波形における指定基本周波数8(例えば40Hzや11Hzなど)以外の高調波などの周波数成分などの「意図せざる周波数」の成分が透過率3の時間的変化に混入しないように抑制することが発明の目的となっている。
【0142】
本発明の課題1において、シャッター素子70の前記印加電圧2から前記透過率3への対応関係を表す写像特性5(
図2や
図3では写像グラフと呼んで解説している)の非線形性が「意図せざる周波数」の成分を発生させる第1の要因であることを指摘した。
さらに、実施例1では、その解決策として写像に対応する逆写像の関係を利用して、写像特性5の逆写像特性9(逆写像グラフと呼んでいる)にもとづいて、印加電圧2の絶対値である絶対値駆動電圧110を生成するにあたり、入力としての透過率目標値150を、逆写像特性9を持った逆写像補正部160で変換して出力することを
図3で説明した。
【0143】
この印加電圧2の絶対値である絶対値駆動電圧110は、シャッター素子70の透過率3の波形としてきれいな正弦波が欲しい場合には出力水準の段階の数が大きいD/A変換器(
図4(c))を使い、正弦波を階段状波形で近似したければ3段階以上の電圧水準7を備える出力手段(実施例5)を使用すればよいことを述べた。
【0144】
なお、本発明で最も重要な点は、透過率目標値150の時系列波形として、もともと高調波の周波数成分が少ない略正弦波4を採用した点である。本発明の実施例では「正弦波(
図5(a))」や「ほぼ正弦波とみなせる波形(
図8、
図9)」あるいは「1種類または2種類以上の正弦波を重畳した波形(
図5)」を略正弦波4と呼ぶが、これらを発生する正弦波発生部100を備える構造は実施例1から実施例5までの全ての実施例の制御装置に共通に適用できる。
【0145】
≪発明事項2≫
発明事項2は、主に電子閃光サングラス10の製造コストを下げるための工夫であり、シャッター素子70の透過率3に正弦波を階段状波形で近似した波形を出力する。
そのため、比較的高価なD/A変換器の代わりに、例えば最少の場合にはデジタル出力2点(2ビット)で表現できる3段階の出力水準を用いて本発明の課題1を解決する。
【0146】
すなわち、
『前記制御装置40は電圧指令部90を備え、
前記電圧指令部90は前記正弦波発生部100と直流出力部300とからなり、
前記正弦波発生部100は、1種類の前記指定基本周波数8を設定した前記略正弦波4を前記透過率目標値150として出力し、
前記直流出力部300は、階段波形を出力する前記電圧水準7を備えるとともに、前記透過率目標値150を入力するにあたり前記電圧水準7の段階の個数よりも1つ少ない入力閾値6を備え、
前記入力閾値6は、前記透過率3の中間階調に設定した値とし、
前記電圧水準7は、前記入力閾値6と前記逆写像特性9とで階段状に定め、
前記透過率目標値150を入力して前記電圧水準7を出力する』
である。
【0147】
本発明の第5実施例では、直流駆動(
図10(a))と交流駆動(
図11(a))の両方について、液晶シャッター素子70の透過率3の波形として正弦波を階段状波形で近似する事例を説明している。どちらの場合も、制御装置40は電圧指令部90を備え、電圧指令部90は正弦波発生部100と直流出力部300とからなり、 正弦波発生部100は、1種類の指定基本周波数8を設定した正弦波(略正弦波4の具体例)を透過率目標値150として出力している。
【0148】
さらに、直流出力部300は、階段波形を出力する電圧水準7を備えるとともに、透過率目標値150を入力するにあたり電圧水準7の段階の個数よりも1つ少ない入力閾値6を備えている。実施例5では、指定基本周波数8が40Hzの場合について、2つの入力閾値6と3つの電圧水準7を備える事例で説明している。
一方、電圧指令部90で低い基本周波数を指定する場合には、誘導上限周波数400よりも低い周波数の範囲にある多数の高調波が「意図せざる周波数」の候補になる。そこで基本周波数が11Hzの場合を例に挙げ、使用するデジタル出力点数(ビット数)を増やして表現できる電圧水準7を3水準よりも増して正弦波を詳しく近似すればよい旨を述べた。その場合、電圧水準7をN個とすれば、出力を階段状にするための入力閾値6の数は、いわゆる植木算で、N-1個であることも記載した。
【0149】
図10(b)には入力閾値6を透過率3の中間階調に設定した事例を記載しているが、これはN-1個の入力閾値6の上下に十分な間隔を置いてN個の有効な電圧水準を設定しようとする意図にもとづく。なぜならば、入力閾値6を透過率3の中間階調ではなく上限値や下限値に設定したのでは、電圧水準7として透過率3の上限値や下限値に相当する電圧が時系列信号として出力される機会が少なくなるからである。
【0150】
図10(b)では逆写像特性9が単純減少関数の事例を示して、電圧水準7は、入力閾値6と逆写像特性9とで階段状に定めている。
すなわち単純減少関数の場合には、入力(横軸)が増加すれば出力(縦軸)が低下する。そこで、入力が最小値から最大値へ増加するにつれて、電圧水準が順次低下してゆくように入力閾値6と電圧水準7の対応関係を定めれば、階段状の出力を得ることができる旨を説明している。
【0151】
しかし、液晶シャッター素子70には多種多様な製品があり、ガラスや樹脂あるいは樹脂フィルムのような基板や素材の相違だけでなく、偏光板の向きや電極を含めた構造などの動作原理の相違がある。製品によっては逆写像特性9が単純増加関数の性質を示す場合もある。その対策として、下記のように記載している
すなわち、逆写像のグラフが単純増加関数の場合には、入力(横軸)が増加すれば出力(縦軸)も増加する。そこで、入力が最小値から最大値へ増加するにつれて、電圧水準が順次増加してゆくように入力閾値と電圧水準の対応関係を定めれば、階段状の出力を得ることができる。
【0152】
以上のように、直流出力部300では、正弦波の透過率目標値150を入力して階段状の電圧水準7の時系列波形を出力する。
ちなみに、実施例5では透過率目標値150として正弦波を用いる事例を紹介したが、
図9の複合正弦波200のような「ほぼ正弦波に近い波形」の略正弦波4も適用できる。
さらに実施例5で説明した制御装置40を利用する場合、正弦波や「ほぼ正弦波に近い波形」に限らず、例えば三角波などのような「横軸を時間、縦軸を透過率目標値とする単純増加関数の区間と単純減少関数の区間を、それぞれの最大値どうしの点と、最小値どうしの点でそれぞれ接合した波形」もまた「(波形の歪みがやや多い)略正弦波4」として利用できる可能性があることを示唆しておく。
【0153】
≪発明事項3≫
発明事項3は、誘導上限周波数400よりも低い周波数の範囲にある低次から高次までの全ての高調波などの「意図せざる周波数」の成分を抑制した「きれいな正弦波」を出力する。
さらに「複数の基本周波数の正弦波を重畳させた波形」で視覚刺激を発生する電子閃光サングラス10の基礎となる制御装置40の構造に関する発明でもある。
【0154】
すなわち、
『前記制御装置40は前記電圧指令部90を備え、
前記電圧指令部90は前記正弦波発生部100と逆写像補正部160とからなり、
前記正弦波発生部100は、1種類または2種類以上の前記指定基本周波数8を設定した前記略正弦波4を前記透過率目標値150として出力し、
前記逆写像補正部160は、前記透過率目標値150を入力し、前記逆写像特性9で変換して絶対値駆動電圧110を出力する、』
である。
【0155】
本発明の第1実施例の
図2(e)に示すように制御装置40は電圧指令部90を備え、
図3(d)に示すように電圧指令部90は正弦波発生部100と逆写像補正部160とからなる。
さらに詳しくは、第2実施例の
図5で説明したように示すように、正弦波発生部100は、1種類または2種類以上の指定基本周波数8を設定した略正弦波4を透過率目標値150として出力し、
図3(d)に示す逆写像補正部160は、透過率目標値150を入力し、逆写像グラフとして描かれる逆写像特性9で変換して絶対値駆動電圧110を出力する。
【0156】
この制御装置40を実際に設計して試作した回路図の事例を
図4(c)に示すとともに、この回路図の制御用マイクロコンピュータのフローチャートを
図6で説明した。
なおこの発明事項3は、液晶シャッター素子70により「きれいな正弦波の透過率3を出力する場合」と「複数の周波数の正弦波を重畳した透過率3を出力する場合」に関する制御装置40の基本的な構造である。
【0157】
≪発明事項4≫
発明事項4は、例えば40Hzと10Hzなど、液晶シャッター素子70に2つ以上の指定基本周波数8の正弦波の波形を重畳して発生させるものである。
【0158】
すなわち、
『前記正弦波発生部100は、2種類以上の前記指定基本周波数8の正弦波波形を重畳して構成した前記透過率目標値150を出力する、』
である。
【0159】
図3(d)の正弦波発生部100は透過率目標値150を出力する。出力された透過率目標値150の時系列波形の例を
図5に示す。
図5(b)の関数G(t)を関数F(t)として使って2種類以上の指定基本周波数8の正弦波を重畳して構成し、例えば
図5(c)や(d)のように透過率目標値150の上限値や下限値を設定した上で透過率目標値150を出力する。
これにより、背景技術でも述べたように、40Hz単独や10Hz単独ではなく、40Hzと10Hzの周波数の知覚刺激を同時に用いて脳波を誘導すれば、従来よりも効果の高いデジタル医薬の器具が誕生する可能性もある。
【0160】
≪発明事項5≫
発明事項5は、単一の正弦波(または正弦波を階段状に近似した)波形の透過率3を発生させる用途において、透過率目標値150として複合正弦波200の略正弦波4を出力し、第2高調波を抑制する事例に関する。
【0161】
すなわち、
『前記正弦波発生部100が発生する前記透過率目標値150の時系列波形は周期Tの1種類の前記指定基本周波数8を持つ複合正弦波200であって、
前記複合正弦波200は、前記周期Tに比べて短い時間Taについて、
周期2×Taを持つ第1正弦波210が単調増加する半周期と、
前記周期Tと前記周期2×Taから算出される周期2×(T-Ta)を持つ第2正弦波220が単調減少する半周期とを、
前記第1正弦波210と前記第2正弦波220がともに最大値をとる接合点230で接合した時系列波形である』
である。
【0162】
複合正弦波200の波形を調整して略正弦波4を出力することで、第2高調波を低減できることは実施例4で
図8を用いて説明した。
さらに正弦波発生部100が発生する透過率目標値150の時系列波形を周期Tの1種類の指定基本周波数8を持つ複合正弦波200とした場合、その複合正弦波200の構成と演算式を
図9で説明した。
【0163】
すなわち複合正弦波200は、
図9(a)に示すように周期Tに比べて短い時間Taについて、 周期2×Taを持つ第1正弦波210が単調増加する半周期と、周期Tと周期2×Taから算出される周期2×(T-Ta)を持つ第2正弦波220が単調減少する半周期とを、 第1正弦波210と前記第2正弦波220がともに最大値をとる接合点230で接合した時系列波形である。
なお周期Tの開始時(t=0)と終了時(t=T)において、第1正弦波210と前記第2正弦波220は、ともに最小値で接合することは
図9(a)に示すとおりである。
【0164】
実施例4では複合正弦波200が第2高調波を効果的に抑制する事例を、透過率3を正弦波に制御して出力する事例で示した。
一方、実施例5の正弦波を階段波形で近似して出力する事例においても、正弦波発生部100が発生する透過率目標値150の「ほぼ正弦波」の略正弦波4として複合正弦波200を適用できる。
【0165】
≪発明事項6≫
発明事項6は、液晶シャッター素子70を交流駆動するための極性反転部130の入出力に関するものである。
【0166】
すなわち、
『前記制御装置40は前記電圧指令部90に加えてさらに極性反転部130を備え、
前記極性反転部130は、前記絶対値駆動電圧110と極性反転信号140を入力し、
前記極性反転信号140の周波数で前記絶対値駆動電圧110の時系列波形の極性を正負に反転させて交流駆動電圧120を出力する』
である。
【0167】
図2(e)と
図11(a)の制御装置40には、電圧指令部90に加えてさらに極性反転部130を備え、極性反転部130は、絶対値駆動電圧110と極性反転信号140を入力し、極性反転信号140の周波数で絶対値駆動電圧110の時系列波形の極性を正負に反転させて交流駆動電圧120を出力することを説明している。
【0168】
また、
図11(b)ではハードウエアで製作した極性反転部130の構造を模式的に説明し、この構造が
図4(c)の試作品の回路図にも織り込まれている旨を説明した。
このように、液晶シャッター素子70の透過率3の波形が正弦波(
図2)でも階段状波形(
図11)でも、液晶シャッター素子70を交流駆動する交流駆動電圧120を出力するために、この発明事項6を使用している。
さらに、実施例2の変形例では、極性反転部130の機能をソフトウエアで実現する方法を
図6のフローチャートのステップS011を書き換える事例で示している。ただし、その場合には交流駆動電圧120を出力する正負両極性のD/A変換器が必要である。
【0169】
≪発明事項7≫
発明事項7は、極性反転信号140の周波数の下限値を設定する基準に関する。
これもまた、脳波を誘導して神経疾患を治療または予防するデジタル医薬の器具としての安全性に関わる重要事項である。
【0170】
すなわち、
『前記極性反転信号140の周波数は、前記正弦波発生部100で設定した前記指定基本周波数8の数値と前記誘導上限周波数400の数値とを加算したよりも高い周波数である』
である。
【0171】
実施例3の
図7では、極性反転信号140の周波数F2の選択について説明している。すなわち、正弦波発生部100で設定した指定基本周波数8の数値をF1とすれば、液晶シャッター素子70の透過率3の波形には周波数F1と周波数F2の唸りによる周波数|F2±F1|が出現する。
そこで、この周波数|F2±F1|を誘導上限周波数400の数値よりも高い周波数にすることで、誘導上限周波数400よりも低い周波数の「意図せざる周波数」の成分が出現しないようにすることが本発明の技術思想である。
それゆえに、極性反転信号140の周波数F2は、正弦波発生部100で設定した指定基本周波数8の数値F1と前記誘導上限周波数400の数値(実施例3の事例では100Hz)とを加算したよりも高い周波数として選定して設定する。
【0172】
なお、
図5では正弦波発生部100で複数種類の正弦波の重畳を出力する事例を示したが、この場合は指定基本周波数8も複数個ある。その場合は、周波数F1と周波数F2の唸りによる周波数を誘導上限周波数400の数値よりも高い周波数にする技術思想に基づいて、複数の指定基本周波数8のうち最大の周波数をF1として取り扱う。
具体的には、指定基本周波数8として例えば10Hzと11Hzと40Hzの3種類を持つ場合には、そのうちの最大値の40Hzを発明事項7における数値F1として採用する。
【0173】
≪発明事項8≫
発明事項8は、液晶シャッター素子70を交流駆動する場合において、写像特性5(写像グラフ)における横軸の印加電圧と、縦軸としての透過率3の定義についての規定に関する。
これは、本発明の制御装置40を設計する上での実用上の工夫である。
【0174】
すなわち、
『前記写像特性5を規定するにあたり、
前記印加電圧2としては絶対値を用いるとともに、
前記透過率3としては、
前記印加電圧2の数値が負極性の場合の前記透過率3の数値と、
前記印加電圧2の数値が正極性の場合の前記透過率3の数値と、
の平均値を用いる、』
である。
【0175】
図2(b)は、液晶シャッター素子70を直流駆動する場合のみを前提とした写像特性5を図示する写像グラフである。
一方、交流駆動する写像特性5を規定するにあたり、印加電圧2として正負の値を横軸にとって描くと、
図2(c)の写像グラフとなる。
【0176】
さらに、この写像グラフを横軸に印加電圧2の絶対値をとって描くと
図2(d)のようになる。印加電圧2の絶対値が同じ正負の印加電圧2に対応する透過率3としては、印加電圧2の数値が負極性の場合の透過率3の数値と、印加電圧2の数値が正極性の場合の透過率3の数値とが異なっている場合がある。原因としては素子特性、製造上のバラツキ、温度変化、経年変化など様々な要因があり誤差を完全にゼロにできないことが多い。
【0177】
そこで、
図3(a)で説明したように、印加電圧2の数値が負極性の場合の透過率3の数値P(-)と、印加電圧2の数値が正極性の場合の透過率3の数値P(+)との平均値としての平均比透過率Paを透過率3として規定して写像特性5を図示する写像グラフに用いる。
【0178】
≪発明事項9≫
発明事項9は、液晶シャッター素子70を交流駆動する場合の写像特性5を図示する写像グラフの計測データを採取する際の重要な注意点を述べる。
【0179】
すなわち、
『前記写像特性5を測定するにあたり、
前記透過率3としては、
前記電子閃光サングラス10に実装する前記極性反転信号140の周波数で極性反転させた前記交流駆動電圧120を印加した場合の数値を用いる
』
である。
【0180】
実施例1の
図3(b)で極性反転信号140で正負を反転させる周波数F2ごとの特性グラフに関して説明したように、写像特性5(写像グラフ)の、横軸としての絶対値駆動電圧110と、縦軸の透過率としての平均比透過率Paを測定する際に留意すべき点がある。
具体的には、絶対値駆動電圧110に対応する透過率3としての平均比透過率Paは、極性反転部130で正負の極性を反転させる極性反転信号140の周波数F2によって
図3(b)に示すようにグラフの形状が異なっていることに留意すべきである。
【0181】
それゆえに、写像グラフの計測データを採取する場合には、電子閃光サングラス10に実装する極性反転信号140の周波数F2で極性反転させた交流駆動電圧120を印加した場合における、絶対値駆動電圧110に対応する透過率3(つまり平均比透過率Pa)の数値を測定する。
これにより、正確な写像グラフに対応する逆写像グラフを用いて「意図せざる周波数」を抑制した視覚刺激を発生できるので、脳波を誘導して神経疾患を治療または予防するデジタル医薬の器具としての安全性を向上させることができる。
【0182】
≪発明事項10≫
発明事項10は、本発明の電子閃光サングラス10の設計における大前提となる「意図せざる周波数」の成分として抑制すべき上限周波数の暫定的な数値設定に関する。
【0183】
すなわち、
『前記誘導上限周波数400は100Hzである』
である。
【0184】
公知のSSVEPの自然現象において、視覚刺激によって脳波誘導可能な上限値としての誘導上限周波数400以上では、その周波数の視覚刺激を付与しても脳波を誘導して発生させることができなくなる。この明細書を執筆している時点の脳波計側装置と計測技術では、誘導上限周波数400が100Hzであることが知られている。
【0185】
しかしながら19世紀に脳波が発見されたあと、脳波計側装置と計測技術はアナログ脳波計からデジタル脳波計へと進歩し、観測可能な脳波の周波数もアルファ波からガンマ波
へ広がり、脳波計は現在の臨床分野の検査装置として広く活用されている。
2001年にはSSVEPで誘導できる脳波の上限が100Hzと報告された(非特許文献6)が、脳活動に関する測定技術の進歩によって、2016年の最新研究では260Hz~280HzのPsi波、400~500HzのOmega波も発見されている。
Omega波まで検出可能な計測技術を使用した場合においても誘導上限周波数400の数値が現在の100Hzのままであるかどうか、今後の研究が待たれるところである
【0186】
そこで本発明では、実施例の説明をわかりやすくするために、ひとまず「誘導上限周波数400は100Hzである」という現時点での公知の知見にもとづいて、実施例1から実施例5までで発明内容を説明し、装置設計の事例を紹介した。
しかしながら今後、脳波計測技術や液晶シャッター素子の製造技術が向上し、新しい研究によって誘導上限周波数400の公知の数値が高い値(例えば120Hzなど)に変更されたとしても、本発明の技術思想には変更なく産業上の利用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0187】
本発明では、公知の自然現象であるSSVEPを利用して誘導上限周波数400として公知の100Hz以下の脳波を誘導して神経疾患を治療するデジタル医薬の器具としての電子閃光サングラス10において、「意図せざる周波数」の脳波の誘導を抑制して安全性を向上させるための多様な解決策を明示した。
【0188】
本発明により「意図せざる周波数」を抑制した基本周波数40Hzの略正弦波4による視覚刺激は、まずは、認知症や軽度認知障害(MCI)の治療や予防に安全性の高い電子閃光サングラス10として適用できる。
【0189】
また、基本周波数40Hzに加え、例えば10Hz付近の周波数も加えて2つ以上の基本周波数の正弦波を重畳した視覚刺激は、認知症や軽度認知障害(MCI)の治療や予防に新たな治療法を切り開く可能性がある。
【0190】
さらに、従来はクリニックに据え付けた設備を用いた磁気治療において臨床的に成果が出ているうつ病などの治療に使用される10Hz付近の周波数の脳波を、被験者本人が簡単に持ち運べる電子閃光サングラス10を用いて容易に発生することが可能になる。従って、うつ病の治療や予防を容易に行える可能性がある。
【0191】
本発明は、公知のSSVEPの自然現象を利用した視覚刺激を用いて、誘導上限周波数400としての100Hz以下の周波数の脳波を被験者(対象1)に発生することができるのみならず、SSVEPによる視覚刺激を付与している間も、被験者は電子閃光サングラス10のレンズ30を通して外界を見続けることができるので、認知症の治療においては運動療法や認知療法などとの併用が可能である。
【0192】
本発明は、誘導上限周波数400よりも低い周波数の「意図せざる周波数」の脳波の誘導を抑制して安全性を確保しながら、操作器具あるいはスマートフォンによって視覚刺激の周波数の組み合わせや刺激強度などの制御パラメータを調整できる。多様な制御パラメータの設定が可能であるため、認知症やうつ病以外の神経疾患を治療するデジタル医薬の器具としても適用範囲を広がることが期待される。
【0193】
本発明により、誘導上限周波数400よりも低い周波数の「意図せざる周波数」の脳波が誘導されることを抑制して安全性を確保することで、視覚刺激を用いて神経疾患を治療するデジタル医薬の器具としての電子閃光サングラス10を提供できる。
これにより、従来は化学物質等を用いた従来型の医薬品だけでは治療できなかった疾患も、デジタル医薬の器具との併用による新たな着想での新薬開発について新たな成果も期待される。
【0194】
本発明では、明細書執筆時点における公知の知識(非特許文献6)にもとづいて「SSVEPの視覚刺激で誘導して発生可能な脳波は100Hz以下である」として発生可能な脳波の上限値としての誘導上限周波数400に100Hzという数値をあてはめて、本発明の技術思想をわかりやすく説明した。
将来における脳波の計測装置や計測技術の発展により、SSVEPの視覚刺激で発生可能な脳波は100Hzを超える新しい上限値(例えば120Hzなど)であることが発見されるかもしれない。しかしその場合でも、本発明ではSSVEPの視覚刺激で発生可能な脳波の上限値の数値を「誘導上限周波数400」と表現したことにより、将来においても産業上の利用可能性を維持することができる。
【符号の説明】
【0195】
1 対象
2 印加電圧
3 透過率
4 略正弦波
5 写像特性
6 入力閾値
7 電圧水準
8 指定基本周波数
9 逆写像特性
10 電子閃光サングラス
20 フレーム
30 レンズ
40 制御装置
50 操作器具
60 電源装置
70 液晶シャッター素子
80 制御パラメータ
90 電圧指令部
100 正弦波発生部
110 絶対値駆動電圧
120 交流駆動電圧
130 極性反転部
140 極性反転信号
150 透過率目標値
160 逆写像補正部
170 制御箱
180 スマートフォン
190 電線
200 複合正弦波
210 第1正弦波
220 第2正弦波
230 接合点
240 繰り返し周期
250 周期内時間
300 直流出力部
310 直流駆動電圧
400 誘導上限周波数
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