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特開2022-75569改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022075569
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20220511BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220511BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177454
(22)【出願日】2021-10-29
(31)【優先権主張番号】P 2020185031
(32)【優先日】2020-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 直
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050BA15
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB12
5H050DA09
5H050EA22
5H050GA02
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA10
5H050HA14
(57)【要約】
【解決課題】リチウム二次電池の正極活物質として用いたときに、サイクル特性を高くすることができるLiNiMnCo複合酸化物粒子を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1):LiNiMnCo1+x (1)(式中、xは0.98≦x≦1.20、yは0.30≦y<1.00、zは0<z≦0.50、tは0<t≦0.50、pは0≦p≦0.05を示し、y+z+t+p=1.00である。)で表されるLiNiMnCo複合酸化物粒子を、チタンキレート化合物を含む表面処理液に接触させて、該リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の粒子表面にチタンキレート化合物が付着した被覆粒子を得、次いで、該被覆粒子を加熱処理することにより、改質LiNiMnCo複合酸化物粒子を得る改質工程を有し、前記チタンキレート化合物が、下記一般式(2):Ti(R(2)で表されるチタンキレート又はそのアンモニウム塩であること、を特徴とする改質LiNiMnCo複合酸化物粒子の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
LiNiMnCo1+x (1)
(式中、Mは、Mg、Al、Ti、Zr、Cu、Fe、Sr、Ca、V、Mo、Bi、Nb、Si、Zn、Ga、Ge、Sn、Ba、W、Na及びKから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。xは0.98≦x≦1.20、yは0.30≦y<1.00、zは0<z≦0.50、tは0<t≦0.50、pは0≦p≦0.05を示し、y+z+t+p=1.00である。)
で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子を、チタンキレート化合物を含む表面処理液に接触させて、該リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の粒子表面にチタンキレート化合物が付着した被覆粒子を得、次いで、該被覆粒子を加熱処理することにより、改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子を得る改質工程を有し、
前記チタンキレート化合物が、下記一般式(2):
Ti(R (2)
(式中、Rは、アルコキシ基、水酸基、ハロゲン原子、アミノ基又はホスフィン類を示し、複数存在する場合、同一であってもよく、異なっていてもよい。Lはヒドロキシカルボン酸に由来する基を表し、複数存在する場合、同一であってもよく、異なっていてもよい。mは0以上3以下の数を示し、nは1以上3以下の数を示し、m+nは3~6である。)
で表されるチタンキレート又はそのアンモニウム塩であること、
を特徴とする改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項2】
前記加熱処理の温度が、400~1000℃であることを特徴とする請求項1記載の改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項3】
前記一般式(2)中のLが、1価のカルボン酸であることを特徴とする請求項1又は2記載の改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項4】
前記一般式(2)中のLが、乳酸であることを特徴とする請求項1又は2記載の改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項5】
前記表面処理液のpHが7以上であることを特徴とする請求項1~4いずれか1項記載の改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項6】
前記被覆粒子における前記チタンキレート化合物の付着量が、前記一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子1m当たり、Ti原子換算で0.1~150mgであることを特徴とする請求項1~5いずれか1項記載の改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項7】
前記一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子中の残存アルカリ量が、1.2質量%以下であることを特徴とする請求項1~6いずれか1項記載の改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項8】
前記改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子中の残存アルカリ量が、1.2質量%以下であることを特徴とする請求項1~7いずれか1項記載の改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項9】
前記改質工程において、
前記一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子1m当たりのTi含有量が、Ti原子換算で0.1~150mgとなる添加量で、前記表面改質液を、前記一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子に添加して混合し、全量乾燥させること、
を特徴とする請求項1~8いずれか1項記載の改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項記載の製造方法により得られる平均粒子径が7.5~30.0μmの大きい粒子と、請求項1~9のいずれか1項記載の製造方法により得られる平均粒子径が0.5~7.5μmの小さい粒子とを混合する工程を含むことを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウム二次電池の正極活物質としては、コバルト酸リチウムが用いられてきた。しかし、コバルトは希少金属であるため、コバルトの含有率が低いリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物が開発されている(例えば、特許文献1~2参照)。
【0003】
リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を正極活物質として使用するリチウム二次電池は、複合酸化物中に含まれるニッケル、マンガン、コバルトの原子比を調整することで、低コスト化が可能となり、また、コバルト酸リチウムに比べて高容量となることが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
しかしながら、これらの従来技術の方法であっても、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を正極活物質として用いたリチウム二次電池は、サイクル特性の劣化と言う問題が残されていた。
【0005】
リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を正極活物質として用いたリチウム二次電池のサイクル特性を改善する方法として、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物の粒子表面をTi含有化合物で、被覆する方法が提案されている(例えば、特許文献4、特許文献5等参照)。
【0006】
リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物の粒子表面をTi含有化合物で、被覆する方法としては、特許文献4、5には、Ti等の有機金属化合物からなるアルコキシドモノマーもしくはオリゴマーと、2-プロパノール等のアルコールを混合した後、アセチルアセトン等のキレート剤を加え、更に、水を加えて、平均粒子が1~20nmのTiを含む微粒子の前駆体が分散した分散液を調製し、該分散液によりリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物の粒子表面を被覆処理し、次いで熱処理を行う方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2004/092073号パンフレット
【特許文献2】特開2005-25975号公報
【特許文献3】特開2011-23120号公報
【特許文献4】特開2016-24968号公報
【特許文献5】特開2016-72071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、リチウム二次電池は、電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車等の自動車分野での使用が検討されている。このためリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を正極活物質とするリチウム二次電池において、サイクル特性のいっそうの向上が求められている。
【0009】
従って、本発明の目的は、リチウム二次電池の正極活物質として用いたときに、サイクル特性を高くすることができるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、一般式(1)で表されるリチウムマンガンコバルト複合酸化物粒子を、特定の一般式で表されるチタンキレート又はそのアンモニウム塩を含む表面処理液に接触させた後、加熱処理することにより、改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子が得られ、該改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子を正極活物質とするリチウム二次電池は、サイクル特性に優れることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0011】
すなわち、本発明(1)は、下記一般式(1):
LiNiMnCo1+x (1)
(式中、Mは、Mg、Al、Ti、Zr、Cu、Fe、Sr、Ca、V、Mo、Bi、Nb、Si、Zn、Ga、Ge、Sn、Ba、W、Na及びKから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。xは0.98≦x≦1.20、yは0.30≦y<1.00、zは0<z≦0.50、tは0<t≦0.50、pは0≦p≦0.05を示し、y+z+t+p=1.00である。)
で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子を、チタンキレート化合物を含む表面処理液に接触させて、該リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の粒子表面にチタンキレート化合物が付着した被覆粒子を得、次いで、該被覆粒子を加熱処理することにより、改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子を得る改質工程を有し、
前記チタンキレート化合物が、下記一般式(2):
Ti(R (2)
(式中、Rは、アルコキシ基、水酸基、ハロゲン原子、アミノ基又はホスフィン類を示し、複数存在する場合、同一であってもよく、異なっていてもよい。Lはヒドロキシカルボン酸に由来する基を表し、複数存在する場合、同一であってもよく、異なっていてもよい。mは0以上3以下の数を示し、nは1以上3以下の数を示し、m+nは3~6である。)
で表されるチタンキレート又はそのアンモニウム塩であること、
を特徴とする改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法を提供するものである。
【0012】
また、本発明(2)は、前記加熱処理の温度が、400~1000℃であることを特徴とする(1)の改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法を提供するものである。
【0013】
また、本発明(3)は、前記一般式(2)中のLが、1価のカルボン酸であることを特徴とする(1)又は(2)の改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明(4)は、前記一般式(2)中のLが、乳酸であることを特徴とする(1)又は(2)の改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明(5)は、前記表面処理液のpHが7以上であることを特徴とする(1)~(4)いずれかの改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明(6)は、前記被覆粒子における前記チタンキレート化合物の付着量が、前記一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子1m当たり、Ti原子換算で0.1~150mgであることを特徴とする(1)~(5)いずれかの改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法を提供するものである。
【0017】
また、本発明(7)は、前記一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子中の残存アルカリ量が、1.2質量%以下であることを特徴とする(1)~(6)いずれかの改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明(8)は、前記改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子中の残存アルカリ量が、1.2質量%以下であることを特徴とする(1)~(7)いずれかの改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法を提供するものである。
【0019】
また、本発明(9)は、前記改質工程において、
前記一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子1m当たりのTi含有量が、Ti原子換算で0.1~150mgとなる添加量で、前記表面改質液を、前記一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子に添加して混合し、全量乾燥させること、
を特徴とする(1)~(8)いずれかの改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法を提供するものである。
【0020】
また、本発明(10)は、(1)~(9)のいずれか1項記載の製造方法により得られる平均粒子径が7.5~30.0μmの大きい粒子と、(1)~(9)のいずれか1項記載の製造方法により得られる平均粒子径が0.5~7.5μmの小さい粒子とを混合する工程を含むことを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、リチウム二次電池の正極活物質として用いたときに、サイクル特性を高くすることができるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を好ましい実施形態に基づいて説明する。
本発明の改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法は、一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子を、一般式(2)で表されるチタンキレート又は一般式(2)で表されるチタンキレートのアンモニウム塩を含む表面処理液に接触させて、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の粒子表面に、これらのチタンキレート化合物が付着した被覆粒子を得、次いで、得られた被覆粒子を加熱処理することにより、改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子を得る改質工程を有する。以下、一般式(2)で表されるチタンキレート及び一般式(2)で表されるチタンキレートのアンモニウム塩を総称して、「チタンキレート化合物」ということがある。
【0023】
本発明の改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物の製造方法は、基本的には下記の(A)工程~(B)工程を有するものである。
(A)工程:一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子、すなわち、改質対象のリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を、本発明に係るチタンキレート化合物を含む表面処理液に接触させ、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の表面にチタンキレート化合物が付着した被覆粒子を得る工程。
(B)工程:(A)工程を行い得られた被覆粒子を加熱処理して、後述する改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(A)、又は改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(B)を得る工程。
なお、以下では、「改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(A)」及び「改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(B)」を総称して、「改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子」と記載することがある。
【0024】
(B)工程において、被覆粒子を加熱処理することにより、改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(A)及び改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(B)が得られる。
改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(A)は、Tiを含む酸化物がリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の粒子表面に付着して存在するものである。該Tiを含む酸化物がリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の粒子表面に付着して存在することは、改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の粒子表面を、10,000~30,000倍の拡大倍率でSEM-EDXによるTiの元素マッピング分析で分析したときに、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の粒子表面にTiが偏在等の不均一に分布した状態で観察されることにより確認される。
一方、改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(B)では、改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の粒子表面を、10,000~30,000倍の拡大倍率でSEM-EDXによるTiの元素マッピング分析で分析したときに、TiがCo、Ni、Mn等と同様に均一に分布した状態で観察される。本発明者らは、改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(B)はTiの固溶反応が優先的に進行して、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子にTiが固溶して含有されるため、Tiがリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の粒子表面でCo、Ni、Mn等と同様に均一に分布するものと推測している。
【0025】
(A)工程は、改質対象である一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子を、本発明に係るチタンキレート化合物を含む表面処理液に接触させ、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の表面にチタンキレート化合物が付着した被覆粒子を得る工程である。なお、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の粒子表面のチタンキレート化合物は、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の粒子表面の全体を被覆するものであってもよいし又は一部を被覆するものであってもよい。粒子表面の一部を被覆するとは、粒子表面に、チタンキレート化合物以外に被覆対象物の表面が露出する部分を有する状態をいう。
【0026】
(A)工程において、改質対象となるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子は、下記一般式(1):
LiNiMnCo1+x (1)
(式中、Mは、Mg、Al、Ti、Zr、Cu、Fe、Sr、Ca、V、Mo、Bi、Nb、Si、Zn、Ga、Ge、Sn、Ba、W、Na及びKから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。xは0.98≦x≦1.20、yは0.30≦y<1.00、zは0<z≦0.50、tは0<t≦0.50、pは0≦p≦0.05を示し、y+z+t+p=1.00である。)
で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子である。
【0027】
一般式(1)の式中のxは、0.98≦x≦1.20である。xは、初期容量が高くなる点で、1.00≦x≦1.10であることが好ましい。また、一般式(1)の式中のyは、0.30≦y<1.00である。yは、初期容量とサイクル特性を両立できる点で、0.50≦y≦0.95であることが好ましく、0.60≦y≦0.90であることが特に好ましい。また、一般式(1)の式中のzは、0<z≦0.50である。zは、安全性に優れる点で、0.025≦z≦0.45であることが好ましい。また、tは、0<t≦0.50である。tは、安全性に優れる点で、0.025≦t≦0.45であることが好ましい。y+z+t+p=1.00である。y/zは、好ましくは(y/z)>1、特に好ましくは(y/z)≧1.5、より好ましくは3≦(y/z)≦38である。
【0028】
また、式中のMは、サイクル特性、安全性等の電池性能を向上させることを目的として、必要に応じて、一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子に含有させる金属元素であり、Mとしては、Mg、Al、Ti、Zr、Cu、Fe、Sr、Ca、V、Mo、Bi、Nb、Si、Zn、Ga、Ge、Sn、Ba、W、Na及びKから選ばれる1種又は2種以上の金属元素が挙げられる。一般式(1)の式中のpは、0≦p≦0.05、好ましくは0.0001≦p≦0.045である。
【0029】
また、改質対象であるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子は、一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物の粒状物である。一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子は、一次粒子が単分散した単粒子であっても、一次粒子が集合して二次粒子を形成した凝集粒子であってもよい。一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の平均粒子径は、レーザ回折・散乱法により求められる粒度分布における体積換算50%の粒子径(D50)で、好ましくは1.0~30.0μm、特に好ましくは3.0~25.0μmである。また、一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子のBET比表面積は、好ましくは0.05~2.00m/g、特に好ましくは0.15~1.00m/gである。リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の平均粒子径又はBET比表面積が上記範囲にあることにより、正極合剤の調製や塗工性が容易になり、さらには充填性の高い電極が得られる。
【0030】
また、改質対象である一般式(1)であるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子中の残存アルカリ量は、好ましくは1.2質量%以下、特に好ましくは1.0質量%以下である。リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子中の残存アルカリ量が上記範囲にあることにより、残存アルカリに起因するガス発生により生じる電池の膨張や劣化を抑制することができる。
【0031】
なお、本発明において、残存アルカリは、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子を25℃の水に攪拌分散させたときに、水に溶出されるアルカリ成分を示す。そして、残存アルカリ量は、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子5g及び純水100gをビーカーに秤取り、25℃で、マグネチックスターラーで5分間分散させ、次いで、この分散液をろ過し、得られるろ液中に存在するアルカリの量を中和滴定することにより求められる。なお、該残存アルカリ量は、滴定によりリチウム量を測定して炭酸リチウムに換算した値である。
【0032】
改質対象である一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子は、例えば、リチウム源、ニッケル源、マンガン源、コバルト源及び必要に応じて添加するM源を混合して原料混合物を調製する原料混合工程と、次いで、得られる原料混合物を焼成する焼成工程と、を行うことにより製造される。
【0033】
原料混合工程に係るリチウム源、ニッケル源、マンガン源、コバルト源及びM源としては、例えば、これらの水酸化物、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、有機酸塩等が用いられる。リチウム源、ニッケル源、マンガン源、コバルト源及びM源の平均粒子径は、レーザ・散乱法により求められる平均粒子径が、1.0~30.0μm、好ましくは2.0~25.0μmであることが好ましい。
【0034】
原料混合工程に係るニッケル源、マンガン源及びコバルト源は、ニッケル原子、マンガン原子及びコバルト原子を含有する化合物であってもよい。ニッケル原子、マンガン原子及びコバルト原子を含有する化合物としては、例えば、これらの原子を含有する複合酸化物、複合水酸化物、複合オキシ水酸化物、複合炭酸塩等が挙げられる。
【0035】
なお、ニッケル原子、マンガン原子及びコバルト原子を含有する化合物を調製する方法としては、公知の方法が用いられる。例えば、複合水酸化物の場合、共沈法によって調製することができる。具体的には、所定量のニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む水溶液と、錯化剤の水溶液と、アルカリの水溶液とを混合することで、複合水酸化物を共沈させることができる(特開平10-81521号公報、特開平10-81520号公報、特開平10-29820号公報、2002-201028号公報等参照。)。また、複合炭酸塩の場合は、ニッケルイオン、マンガンイオン及びコバルトイオンを含む溶液(A液)と、炭酸イオン又は炭酸水素イオンを含む溶液(B液)とを、反応容器に添加して反応を行う方法(特開2009-179545号公報)、或いはニッケル塩、マンガン塩及びコバルト塩を含む溶液(A液)と、金属炭酸塩又は金属炭酸水素塩を含む溶液(B液)とを、該A液中の該ニッケル塩、該マンガン塩及び該コバルト塩のアニオンと同じアニオンと、該B液中の該金属炭酸塩又は該金属炭酸水素塩のアニオンと同じアニオンと、を含む溶液(C液)に添加して、反応を行う方法(特開2009-179544号公報)等が挙げられる。また、ニッケル原子、マンガン原子及びコバルト原子を含有する化合物は、市販品であってもよい。
【0036】
ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含有する化合物の平均粒子径は、レーザ・散乱法により求められる平均粒子径が、1.0~100μm、好ましくは2.0~80.0μmである。
【0037】
一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造において、ニッケル源、マンガン源及びコバルト源として、ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含有する複合水酸化物を用いることが、反応性が良好になる点で好ましい。
【0038】
原料混合工程において、リチウム源と、ニッケル源、マンガン源、コバルト源及び必要に応じて添加するM源の混合割合は、放電容量が高くなる点で、ニッケル源、マンガン源及びコバルト源中のNi原子、Mn原子、Co原子及びM原子の総モル数(Ni+Mn+Co+M)に対するLi原子のモル比(Li/(Ni+Mn+Co+M))は、0.98~1.20、好ましくは1.00~1.10である。
【0039】
また、原料混合工程において、ニッケル源、マンガン源、コバルト源及び必要に応じて添加するM源の各原料の混合割合については、前記一般式(1)で表されるニッケル、マンガン、コバルト及びMの原子モル比となるよう調整すればよい。
【0040】
なお、原料のリチウム源、ニッケル源、マンガン源、コバルト源及びM源の製造履歴は問われないが、高純度のリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子を製造するため、可及的に不純物含有量が少ないものであることが好ましい。
【0041】
原料混合工程において、リチウム源、ニッケル源、マンガン源、コバルト源及び必要に応じて添加するM源を混合する手段としては、乾式でも湿式でもいずれの方法でもよいが、製造が容易であるため乾式による混合が好ましい。
【0042】
乾式混合の場合は、原料が均一に混合するよう機械的手段にて行うことが好ましい。混合装置としては、例えば、ハイスピードミキサー、スーパーミキサー、ターボスフェアミキサー、アイリッヒミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、リボンブレンダー、V型混合機、コニカルブレンダー、ジェットミル、コスモマイザー、ペイントシェイカー、ビーズミル、ボールミル等が挙げられる。なお、実験室レベルでは、家庭用ミキサーで十分である。
【0043】
湿式混合の場合、混合装置としては、メディアミルを用いることが、各原料が均一に分散したスラリーを調製できる点で好ましい。また、混合処理後のスラリーは、反応性に優れ各原料が均一に分散した原料混合物が得られる観点から噴霧乾燥を行うことが好ましい。
【0044】
焼成工程は、原料混合工程を行い得られる原料混合物を、焼成することにより、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を得る工程である。
【0045】
焼成工程において、原料混合物を焼成して、原料を反応させる際の焼成温度は、600~1000℃、好ましくは700~950℃である。この理由は焼成温度が600℃未満では反応が不十分で未反応のリチウムが多量に残留する傾向があり、一方、1000℃を超えると一度生成したリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物が分解してしまう傾向があるからである。
【0046】
焼成工程における焼成時間は、3時間以上、好ましくは5~30時間である。また、焼成工程における焼成雰囲気は、空気、酸素ガスの酸化雰囲気である。
【0047】
また、焼成工程において、焼成は多段式に行ってもよい。多段式に焼成を行うことにより、いっそうサイクル特性が優れた改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子を得ることができる。多段で焼成を行う場合、650~800℃の範囲で1~10時間焼成した後、更に該焼成温度より高い温度となるように800~950℃に昇温し、そのまま5~30時間焼成することが好ましい。
【0048】
このように得られるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を、必要に応じて複数回の焼成工程に付してもよい。
【0049】
また、残存アルカリ量が上記範囲であるリチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子は、リチウム源、ニッケル源、マンガン源、コバルト源及び必要に応じて添加するM源の原料混合工程において、ニッケル源、マンガン源、コバルト源及びM源中のNi原子、Mn原子、Co原子及びM原子の総モル数(Ni+Mn+Co+M)に対するLi原子のモル比(Li/(Ni+Mn+Co+M))が0.98~1.20となる混合割合とし、700℃以上、好ましくは750~1000℃で、3時間以上、好ましくは5~30時間焼成反応に付して、十分にリチウム源、ニッケル源、マンガン源、コバルト源及び必要に応じて添加するM源とを反応させることにより製造することができる。本製造方法において、前記焼成は、前述した多段式で行うことにより、残存アルカリ量がいっそう低減したリチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子を製造することができる。
【0050】
(A)工程に係る表面処理液は、チタンキレート化合物、すなわち、一般式(2)で表されるチタンキレート又は一般式(2)で表されるチタンキレートのアンモニウム塩を、水及び/又は有機溶媒に溶解又は分散させたものである。
【0051】
(A)工程に係るチタンキレートは、下記一般式(2):
Ti(R (2)
(式中、Rは、アルコキシ基、水酸基、ハロゲン原子、アミノ基又はホスフィン類を示し、複数存在する場合、同一であってもよく、異なっていてもよい。Lはヒドロキシカルボン酸に由来する基を表し、複数存在する場合、同一であってもよく、異なっていてもよい。mは0以上3以下の数を示し、nは1以上3以下の数を示し、m+nは3~6である。)
で表されるチタンキレートである。
【0052】
に係るアルコキシ基としては、炭素数1~4の直鎖状又は分岐状のアルコキシ基が好ましい。Rに係るハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。Rに係るアミノ基としては、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、tert-ブチルアミノ基、ペンチルアミノ基等が挙げられる。Rに係るホスフィン類としては、例えば、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリス-tert-ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等が挙げられる。
【0053】
Lに係るヒドロキシカルボン酸に由来する基としては、ヒドロキシカルボン酸におけるヒドロキシル基の酸素原子又はヒドロキシカルボン酸におけるカルボキシル基の酸素原子が、チタン原子に配位してなる基が挙げられる。また、Lに係るヒドロキシカルボン酸に由来する基としては、ヒドロキシカルボン酸におけるヒドロキシル基の酸素原子及びヒドロキシルカルボン酸におけるカルボキシル基の酸素原子が、チタン原子に2座で配位してなる基が挙げられる。これらの中、ヒドロキシカルボン酸におけるヒドロキシル基の酸素原子及びヒドロキシカルボン酸におけるカルボキシル基の酸素原子が、チタン原子に2座で配位してなる基であることが好ましい。mが0の場合はm+nは3であることが好ましく、mが1以上3以下の場合はm+nは4又は5であることが好ましい。
【0054】
チタンキレートの製造方法であるが、例えば、チタンアルコキシドを溶媒で希釈して希釈液を得、該希釈液とヒドロキシカルボン酸とを混合することにより、チタンキレートを含む溶液が得られる(WO2019/138989号パンフレット参照)。本発明の改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法では、上記のチタンキレートの製造方法により得られるチタンキレートを含む溶液を、そのまま(A)工程で表面処理液として用いることができる。また、チタンキレートを含む溶液に水を添加して、表面処理液として用いてもよい。これにより、表面処理液として、チタンキレートの水含有溶媒の分散液又は溶解液を得ることができる。
【0055】
なお、前記チタンアルコキシドとしては、例えば、テトラメトキシチタン(IV)、テトラエトキシチタン(IV)、テトラ-n-プロポキシチタン(IV)、テトライソプロポキシチタン(IV)、テトラ-n-ブトキシチタン(IV)及びテトライソブトキシチタン(IV)等が挙げられる。
【0056】
また、前記ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、乳酸、グルコール酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸等の1価のカルボン酸、タルトロン酸、リンゴ酸、酒石酸等の2価のカルボン酸、クエン酸、イソクエン酸等の3価のカルボン酸等が挙げられる。これらの中、乳酸が、室温で容易に溶液となり、チタンアルコキシド希釈液と混合しやすく、容易にチタンキレートが製造できる観点から好ましい。
【0057】
また、希釈液として用いる溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-ペンタン等のアルコールを好ましく用いることができる。
【0058】
また、希釈液とヒドロキシカルボン酸とを混合する際、又はチタンキレートを含む溶液に、高い生産性により効率的にチタンキレートを得ることを目的として、ヒドロキシカルボン酸以外に、チタンに配位可能な配位子化合物を添加してもよい。そのような配位子化合物としては、例えば、ハロゲン原子含有化合物、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、t-ブチルアミノ基、ペンチルアミノ等の官能基を有するアミン類、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリス-tert-ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等のホスフィン類が挙げられる。
【0059】
チタンキレートのアンモニウム塩としては、チタンラクテートアンモニウム塩(Ti(OH)〔(OCH(CH)COO)〕(NH )が好ましい。
【0060】
また、チタンキレート及びそのアンモニウム塩は、マツモトファインケミカル社で一部市販されており、市販品を用いてもよい。
【0061】
また、(A)工程に係る表面処理液中のTi濃度は、Ti原子として、0.1~1500mmol/L、好ましくは0.2~1000mmol/Lであることが、Ti溶液の安定性と被覆処理の操作性が容易になる観点から好ましい。
【0062】
(A)工程に係る表面処理液のpHは、7以上、好ましくは8以上11以下、特に好ましくは8より大きく10以下であることが、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子と、表面処理液が接触したときに、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子からのLiの溶出が抑制される点で、好ましい。なお、表面処理液のpHについては、上記範囲のpHとなるように、表面処理液に酸やアルカリを添加してpHを調整することができる。
【0063】
(A)工程において、一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子と、チタンキレート化合物を含む表面処理液とを接触させる方法は、特に制限されるものではないが、例えば、一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子とチタンキレート化合物を含む表面処理液とを混合処理する方法等が挙げられる。なお、一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子とチタンキレート化合物を含む表面処理液との混合物は、粉末状であっても、ペースト状であっても又はスラリー状であってもよい。該混合物が、粉末状、ペースト状又はスラリー状のものは、一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子に対するチタンキレート化合物を含む表面処理液の添加量を調製することで、何れの形態のものも得ることができる。例えば、一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子とチタンキレート化合物を含む表面処理液との混合物が粉末状のものは、一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子に対して液の体積が少量のチタンキレート化合物を含む表面処理液を添加することにより得られ、また、一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子とチタンキレート化合物を含む表面処理液との混合物がスラリー状のものは、液の体積が多量のチタンキレート化合物を含む表面処理液に対して、少量の一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子を添加することにより得られる。
【0064】
また、一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子と、チタンキレート化合物を含む溶液との接触は、一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子を、チタンキレート化合物を含む溶液に浸漬する方法であってもよい。
【0065】
これらのうち、本発明の改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法において、一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子と、チタンキレート化合物を含む表面処理液とを接触させる方法としては、一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の表面全体にチタンキレート化合物を容易に付着させることができる点で、混合物がスラリー状となる方法が好ましい。
【0066】
一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子を、チタンキレート化合物を含む表面処理液に接触させた後、そのまま溶媒を全量乾燥することにより、一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の粒子表面がチタンキレート化合物で被覆された被覆粒子を得ることが好ましい。乾燥の際の乾燥温度は、溶媒が蒸発する温度であれば、特に制限されないが、好ましくは60~180℃、特に好ましくは90~150℃である。
【0067】
また、乾燥については、噴霧乾燥装置、ロータリーエバポレーター、流動層乾燥コーティング装置、振動乾燥装置等により全量乾燥を行ってもよい。
【0068】
(A)工程において、一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子と、チタンキレート化合物を含む表面処理液とを含有するスラリーを、噴霧乾燥装置で溶媒を全量乾燥することがチタンキレート化合物の被覆量をコントロールすることが容易になるという点で、好ましい。
【0069】
(B)工程は、(A)工程で得られた被覆粒子を加熱処理することで、改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物(A)あるいは改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物(B)を得る工程である。
【0070】
改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(A)において、Ti原子は、主に、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子に固溶せずに、Tiを含む酸化物の状態で、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の表面に存在している。なお、改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(A)においては、少量の一部のTi原子が、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の内部に固溶していてもよい。
【0071】
改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(B)において、Ti原子は、主に、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の粒子内部に固溶した状態で存在していると考えられる。なお、改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(B)においては、改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の粒子表面をSEM-EDXでTiの元素マッピング分析で分析したときに、TiがCo、Ni、Mn等と同様に均一に分布した状態で観察される範囲であれば、Ti原子が、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の表面にTiを含む酸化物の状態で存在していてもよい。
【0072】
よって、改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(A)であるか、改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(B)であるかは、SEM-EDXでサンプル粒子の粒子表面をTiの元素マッピング分析で分析することにより確認される。すなわち、改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(A)である場合は、サンプル粒子の粒子表面を、10,000~30,000倍の拡大倍率でSEM-EDXによるTiの元素マッピング分析で分析したときに、サンプル粒子表面にTiが偏在等の不均一に分布して存在することが観察される。また、改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(B)である場合は、サンプル粒子の粒子表面を、10,000~30,000倍の拡大倍率でSEM-EDXによるTiの元素マッピング分析で分析したときに、サンプル粒子表面にTiが均一に分布して存在することが観察される。
【0073】
なお、本発明において、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の粒子表面を被覆するTiを含む酸化物とは、Tiの酸化物、Tiと、Li、Ni、Mn、Co及びMから選ばれる1種又は2種以上を含む複合酸化物等を示すものである。
【0074】
(B)工程に係る加熱処理において、加熱処理温度は、400~1000℃、好ましくは450~950℃である。この理由は、加熱処理温度が400℃未満では被覆処理用のチタンキレートの十分な分解及び酸化反応が行われず十分な効果が得られず、一方、加熱処理温度が1000℃を超えるとTiとリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子との固溶反応が進行し過ぎて、粒子表面近郊だけでなく奥までTiの固溶が進行するため粒子表面近傍のTi量が不足して本発明の改質効果が得られ難くなるからである。
【0075】
(B)工程に係る加熱処理において、加熱処理の時間は、本製造方法において臨界的ではなく、通常は1時間以上、好ましくは2~10時間で、満足の行く性能の改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子を得ることができる。
【0076】
(B)工程に係る加熱処理において、加熱処理の雰囲気は、空気、酸素ガス等の酸化雰囲気であることが好ましい。
【0077】
また、本発明の改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法において、好ましい実施形態では、一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子を、チタンキレート化合物を含む表面処理液に接触させた後、そのまま溶媒を全量乾燥することから、改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(A)でのリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子に対するTiを含む酸化物の被覆量(付着量)及び改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(B)でのリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子に対するTiの固溶量(含有量)は、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の量と使用したチタンキレート化合物を含む表面処理液中のTi含有量とから求められる理論上の被覆量(付着量)及び固溶量(含有量)として表すことができる。
【0078】
改質工程の(A)工程では、後述するTiを含む酸化物の付着量の範囲となるように、前記一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子1m当たりのTi含有量が、Ti原子換算で0.1~150mg、好ましくは0.5~120mgとなる添加量で前記表面改質液を、前記一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子に添加して混合し、全量乾燥させることが、チタンキレート化合物の被覆量及び固溶量をコントロールすることが容易になるという点で、好ましい。
【0079】
なお、本発明において「リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子1m当たりのTi原子換算のTi含有量」は下記の計算式により求められるものである。
k=x×(1/t)
k:リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子1m当たりのTi原子換算のTi含有量(mg)
x:リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物1gに対するTi原子換算のTi含有量(mg)
t:リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子のBET比表面積(m/g)
【0080】
本発明の改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法において、得られる改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子中のTiを含む酸化物の付着量及びTiの固溶量(含有量)は、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子1m当たり、Ti原子換算で0.1~150mg、好ましくは0.5~120mgである。改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子中のTiを含む酸化物の付着量及びTiの固溶量(含有量)が、上記範囲にあることにより、改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(A)及び/又は改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(B)をリチウム二次電池の正極活物質として用いたときに、サイクル特性が一層高くなる点で、好ましい。つまり、本発明の改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物の製造方法では、得られる改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子1m当たり、Ti原子換算で0.1~150mg、好ましくは0.5~120mgとなるように、(A)工程において、接触させる一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の量と、表面処理液の中のチタンキレート化合物の濃度及び表面処理液の量を調製することが好ましい。
【0081】
なお、本発明において「Tiを含む酸化物のリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子1m当たりのTi原子換算の付着量」は、下記の計算式により求められるものである。
k’=x×(1/t)
k’:Tiを含む酸化物のリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子1m当たりのTi原子換算の付着量(mg)
x:リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物1gに対するTi原子換算のTi含有量(mg)
t:リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子のBET比表面積(m/g)
【0082】
また、本発明の改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法を行い得られる改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子中の残存アルカリ量は、1.2質量%以下、好ましくは1.0質量%以下であることが、残存アルカリに起因するガス発生により生じる電池の膨張や劣化を抑制できる点で好ましい。
【0083】
本発明の改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法を行い得られる改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子は、リチウム二次電池の正極活物質として好適に用いられ、また、該改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子を正極活物質として用いたリチウム二次電池は、改質されていないLi、Ni、Mn及びCoが同組成のリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子を用いた場合と比べて、サイクル特性が高くなる。
【0084】
また、本発明の改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法を行い得られる改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物の大きい粒子と、本発明の改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法を行い得られる改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物の小さい粒子とを混合することにより、体積当たりの容量を向上させることができる。この場合、大きい粒子の平均粒子径が7.5~30.0μm、好ましくは8.0~25.0μmであり、小さい粒子の平均粒子径が0.5~7.5μm、好ましくは1.0~7.0μmであることが、体積当たりの容量を向上させる観点から好ましい。また、混合物を0.65tonf/cmで圧縮処理した時の加圧密度が、2.7g/cm以上、好ましくは2.8~3.3g/cmであることが、体積当たりの容量が一層高くなる点で好ましい。
【0085】
本発明の改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法において、改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物の大きい粒子は、改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(A)が好ましく、改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物の小さい粒子は、改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(B)であることが、サイクル特性が一層高くなる点で好ましい。
【0086】
本発明の改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法においては、(A)工程でチタンキレート化合物を付着させるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の平均粒子径が小さい方が、付着したチタンキレート化合物やその加熱分解生成物であるTiを含む酸化物がリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の粒子表面に均一に嵩張ることなく高分散し易く、高分散して付着したチタンキレート化合物の加熱分解生成物であるTiを含む酸化物とリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子との反応性がリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子表面上で高くなる。そのため、本発明の改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法においては、(A)工程でチタンキレート化合物を付着させるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の平均粒子径が小さい方が、付着したチタンキレート化合物やその加熱分解生成物であるTiを含む酸化物がリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の粒子表面に均一に一層高分散し易く、高分散して付着したチタンキレート化合物の加熱分解生成物であるTiを含む酸化物は、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子との反応性がリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子表面上で高くなるので、(B)工程での加熱処理温度が同じであっても、(A)工程でチタンキレート化合物を付着させるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の平均粒子径が小さい方が、改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(B)が生成し易くなる。また、(B)工程での加熱処理温度が高い方が、付着したチタンキレート化合物の加熱分解生成物であるTiを含む酸化物とリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子との反応性がリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子表面上で高くなるので、(B)工程での加熱処理温度が高い方が、改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(B)が生成し易くなる。
言い換えると、本発明の改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法においては、(A)工程でチタンキレート化合物を付着させるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の平均粒子径が大きい方が、付着したチタンキレート化合物やその加熱分解生成物であるTiを含む酸化物がリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の粒子表面に不均一に嵩張って分散し易く、嵩張って付着したチタンキレート化合物の加熱分解生成物であるTiを含む酸化物は、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子との反応性がリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子表面上で低くなるので、(B)工程での加熱処理温度が同じであっても、(A)工程でチタンキレート化合物を付着させるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の平均粒子径が大きい方が、改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(A)が生成し易くなる。また、(B)工程での加熱処理温度が低いほど、付着したチタンキレート化合物とリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子との反応性がリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子表面上で低くなるので、(B)工程での加熱処理温度が低いほど、改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(A)が生成し易くなる。
そのため、本発明の改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造方法では、(A)工程で用いる一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の平均粒子径と(B)工程での加熱処理温度の組み合わせを、適宜選択することにより、改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(A)と改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(B)を造り分けることができる。
【0087】
例えば、本発明の好ましい実施形態において、改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(A)は、(A)工程において一般式(1)であるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子として、平均粒子径が7.5~30.0μm、好ましくは8.0~25.0μmの粒子を用い、(B)工程の加熱処理温度を750℃以上1000℃以下、好ましくは750℃以上900℃以下として上記(A)工程及び(B)工程を行うことにより製造することができる。
また、改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(B)は、(A)工程において一般式(1)であるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子として、平均粒子径が0.5~7.5μm、好ましくは1.0~7.0μmの粒子を用い、(B)工程の加熱処理温度を750℃以上1000℃以下、好ましくは750℃以上900℃以下として上記(A)工程及び(B)工程を行うことにより製造することができる。
【実施例0088】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(LNMC)試料の調製>
<LNMC試料1>
炭酸リチウム(平均粒子径5.7μm)及びニッケルマンガンコバルト複合水酸化物(Ni:Mn:Co=6:2:2(モル比)、平均粒子径9.8μm)を秤量し、家庭用ミキサーで十分混合処理し、Li/(Ni+Mn+Co)のモル比が1.01の原料混合物を得た。なお、ニッケルマンガンコバルト複合水酸化物は市販のものを用いた。
次いで、得られた原料混合物を、アルミナ製の鉢で700℃で2時間、つづいて850℃で10時間、大気雰囲気中で焼成した。焼成終了後、該焼成品を粉砕、分級した。得られた焼成品をXRDで測定した結果、単相のリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物であることを確認した。また、得られたものは、平均粒子径が10.2μmで、BET比表面積が0.21m/gで、二次凝集した球状のリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(LiNi0.6Mn0.2Co0.2)であった。
【0089】
<LNMC試料2>
炭酸リチウム(平均粒子径5.7μm)及びニッケルマンガンコバルト複合水酸化物(Ni:Mn:Co=6:2:2(モル比)、平均粒子径3.7μm)を秤量し、家庭用ミキサーで十分混合処理し、Li/(Ni+Mn+Co)のモル比が1.01の原料混合物を得た。なお、ニッケルマンガンコバルト複合水酸化物は市販のものを用いた。
次いで、得られた原料混合物を、アルミナ製の鉢で700℃で2時間、つづいて850℃で10時間、大気雰囲気中で焼成した。焼成終了後、該焼成品を粉砕、分級した。得られた焼成品をXRDで測定した結果、単相のリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物であることを確認した。また、得られたものは、平均粒子径が5.4μmで、BET比表面積が0.69m/gで、二次凝集した球状のリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(LiNi0.6Mn0.2Co0.2)であった。
【0090】
上記で得られたリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物試料(LNMC試料)の諸物性を表1に示す。
なお、LNMC試料の平均粒子径、残存アルカリ量及び加圧密度は下記のようにして測定した。
<平均粒子径>
平均粒子径はレーザ回折・散乱法により求めた。
<残存アルカリ量の測定>
LNMC試料の残存アルカリ量については、試料5g、超純水100gをビーカーに計り採りマグネチックスターラーを用いて25℃で5分間分散させた。次いで、この分散液をろ過し、そのろ液70mlを自動滴定装置(型式COMTITE-2500)にて0.1N-HClで滴定し、試料中に存在している残存アルカリ量(リチウム量を測定して炭酸リチウムに換算した値)を算出した。
<加圧密度>
試料2.25gを秤取り直径1.5cmの両軸成形器内に投入し、プレス機を用いて0.65tonf/cmの圧力を1分間加えた状態で、圧縮物の高さを測定し、その高さから計算される圧縮物の見掛け体積と計り採った試料の質量とから、試料の加圧密度を算出した。
【0091】
【表1】
【0092】
<表面処理液の調製>
<乳酸チタンキレート含有表面処理液の調製>
マツモトファインケミカル社製チタンラクテートアンモニウム塩(Ti(OH)〔(OCH(CH)COO)〕(NH )水溶液(製品名 TC-335、pH 4.4)にアンモニア水を加えてpHを8.5になるように調整して、下記の表2に示す濃度の乳酸チタンキレート含有表面処理液を作成した。
【0093】
【表2】
【0094】
(実施例1~6)
LNMC試料及び表面処理液を用い、表3に示す割合となるように秤量し、固形分濃度が25質量%のスラリーとなるように調製した。
次いで、出口の温度を120℃に設定したスプレードライヤーにスラリーの供給速度が65g/分で供給し、乳酸チタンキレートがLNMC試料の粒子表面に付着した被覆粒子を得た。
次いで、被覆粒子を800℃で5時間、加熱処理を行いLNMC試料の粒子表面にTiの酸化物が付着した改質LNMC試料(A)及びLNMC試料にTiを固溶させて含有させた改質LNMC試料(B)を得た。
なお、Tiの酸化物が付着した改質LNMC試料及びLNMC試料にTiを固溶させて含有させた改質LNMC試料であるかは、20,000倍の拡大倍率でサンプル粒子の粒子表面をSEM-EDX(日立ハイテクノロジーズ社製電界放出形走査電子顕微鏡SU-8220およびBRUKER社製エネルギー分散型X線分析装置XFlash5060FlatQUAD)でTiの元素マッピング分析を行って確認した。LNMC試料としてLNMC試料1を用いたものはSEM-EDXにより、サンプル粒子の粒子表面をTiの元素マッピング分析した結果、Tiが偏在して不均一に分布しているものであることから改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(A)であることが確認できた。一方、LNMC試料としてLNMC試料2を用いたものはSEM-EDXにより、サンプル粒子の粒子表面をTiの元素マッピング分析した結果、Co、Ni及びMnと同様にTiが均一に分布しているものであることから改質リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(B)であることが確認できた。
なお、SEM-EDXの測定条件は下記のとおりである。
加速電圧:15kV、拡大倍率:20,000倍、ワーキングディスタンス:9.5~11.5mm、測定時間:6分間
また、改質LNMC試料についても、LNMC試料と同様な方法で、残存アルカリ量を測定した。
なお、表3中の表面処理液の添加量は、該表面処理液を添加したときに、LNMC試料1m当たりのTi原子換算のTi含有量になる計算値で、下記計算式により求めた。
k=x×(1/t)
k:LNMC試料1m当たりのTi原子換算のTi含有量(mg)
x:LNMC試料1gに対するTi原子換算のTi含有量(mg)
t:LNMC試料のBET比表面積(m/g)
【0095】
(参考例1)
市販のコバルト酸リチウム(LiCoO:平均粒子径9.5μm、BET比表面積0.37m/g)を用い、実施例1~3と同様にして、コバルト酸リチウム(LCO)試料の粒子表面にTiの酸化物が付着した改質LCO試料を得た。
また、改質LCOについても、LNMC試料と同様な方法で、残存アルカリ量を測定した。
なお、表3中の表面処理液の添加量は、該表面処理液を添加したときに、LCO試料1m当たりのTi原子換算のTi含有量になる計算値で、下記計算式により求めた。
k’’=x’’×(1/t’’)
k’’:LCO試料1m当たりのTi原子換算のTi含有量(mg)
x’’:LCO試料1gに対するTi原子換算のTi含有量(mg)
t’’:LCO試料のBET比表面積(m/g)
【0096】
【表3】
【0097】
以下のようにして、電池性能試験を行った。
<リチウム二次電池の作製1>
実施例で得られた改質LNMC試料95質量%、黒鉛粉末2.5質量%、ポリフッ化ビニリデン2.5質量%を混合して正極剤とし、これをN-メチル-2-ピロリジノンに分散させて混練ペーストを調製した。該混練ペーストをアルミ箔に塗布したのち乾燥、プレスして直径15mmの円盤に打ち抜いて正極板を得た。
【0098】
この正極板を用いて、セパレータ、負極、正極、集電板、取り付け金具、外部端子、電解液等の各部材を使用してコイン型リチウム二次電池を製作した。このうち、負極は金属リチウム箔を用い、電解液にはエチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートの1:1混合液1リットルにLiPF1モルを溶解したものを使用した。
次いで、得られたリチウム二次電池の性能評価を行った。その結果を、表4に示す。なお、参考例1で調製した改質LCO試料、改質を行わないLNMC試料1(比較例1)及びLNMC試料2(比較例2)についても同様な方法でリチウム二次電池を作成し、同様な評価を行った。その結果を、表4に併記した。
【0099】
<電池の性能評価1>
作製したコイン型リチウム二次電池を室温で下記試験条件で作動させ、下記の電池性能を評価した。
(1)サイクル特性評価の試験条件
先ず、0.5Cにて4.3Vまで2時間かけて充電を行い、更に4.3Vで3時間電圧を保持させる定電流・定電圧充電(CCCV充電)を行った。その後、0.2Cにて2.7Vまで定電流放電(CC放電)させる充放電を行い、これらの操作を1サイクルとして20サイクル繰り返した。
(2)初回充電容量、初回放電容量(活物質重量当たり)
サイクル特性評価における1サイクル目の充電容量及び放電容量を初回充電容量、初回放電容量とした。
(3)20サイクル目放電容量(活物質重量当たり)
サイクル特性評価における20サイクル目の放電容量を20サイクル目放電容量とした。
(4)容量維持率
サイクル特性評価における1サイクル目と20サイクル目のそれぞれの放電容量(活物質重量当たり)から、下記式により容量維持率を算出した。
容量維持率(%)=(20サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100
(5)エネルギー密度維持率
サイクル特性評価における1サイクル目と20サイクル目のそれぞれの放電時のWh容量(活物質重量当たり)から、下記式によりエネルギー密度維持率を算出した。
エネルギー密度維持率(%)=(20サイクル目の放電Wh容量/1サイクル目の放電Wh容量)×100
【0100】
【表4】
【0101】
<リチウム二次電池の作製2>
実施例1~6で得られた改質LNMC試料及び改質前のLNMC試料を用いて、家庭用ミキサーで十分に混合して表5に示す組成の混合物を調製し、正極活物質試料とした。また、上記LNMC試料と同様にして正極活物質試料の加圧密度を測定し、その結果を表5に併記した。
【0102】
【表5】
【0103】
正極活物質試料95質量%、黒鉛粉末2.5質量%、ポリフッ化ビニリデン2.5質量%を混合して正極剤とし、これをN-メチル-2-ピロリジノンに分散させて混練ペーストを調製した。該混練ペーストをアルミ箔に塗布したのち乾燥、プレスして直径15mmの円盤に打ち抜いて正極板を得た。
【0104】
この正極板を用いて、セパレータ、負極、正極、集電板、取り付け金具、外部端子、電解液等の各部材を使用してコイン型リチウム二次電池を製作した。このうち、負極は金属リチウム箔を用い、電解液にはエチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートの1:1混合液1リットルにLiPF1モルを溶解したものを使用した。
次いで、得られたリチウム二次電池の性能評価を行った。その結果を、表6に併記した。
【0105】
<電池の性能評価2>
作製したコイン型リチウム二次電池を室温で下記試験条件で作動させ、サイクル特性評価、 初回充電容量、初回放電容量(活物質重量当たり)、初回充電容量、初回放電容量(活物質重量当たり)、容量維持率、エネルギー密度維持率を前記電池の性能評価1と同様な方法で評価した。また、更に体積当たりの放電容量も評価し、その結果を表6に示す。なお、実施例2、実施例5の改質LNMC試料を正極活物質試料とし、同様な方法で評価を行った。その結果を、表6に併記した。
(6)体積当たりの放電容量
体積当たりの放電容量は、初期放電容量と、電極密度により下記計算式から求めた。
体積当たりの放電容量(mAh/cm)=1サイクル目の放電容量(mAh/g)×電極密度(g/cm)×0.95(正極材中の活物質量の割合)
なお、電極密度は、測定対象試料から作製した電極の質量と厚みを測定し、ここから、集電体の厚みと質量を差し引いて、正極材の密度として算出した。また、正極材は、正極活物質試料95質量%、黒鉛粉末2.5質量%、ポリフッ化ビニリデン2.5質量%の混合物であり、電極作製時のプレス圧は線圧で0.38ton/cmとした。
【0106】
【表6】