(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022075570
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】気体透過性容器、その容器を使用した培養装置および培養システム
(51)【国際特許分類】
C12M 1/04 20060101AFI20220511BHJP
C12N 1/00 20060101ALN20220511BHJP
【FI】
C12M1/04
C12N1/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177505
(22)【出願日】2021-10-29
(31)【優先権主張番号】P 2020185456
(32)【優先日】2020-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020191254
(32)【優先日】2020-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021024723
(32)【優先日】2021-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021032137
(32)【優先日】2021-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000145530
【氏名又は名称】株式会社潤工社
(72)【発明者】
【氏名】四ツ谷 昌人
(72)【発明者】
【氏名】黒田 充
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029AA08
4B029BB01
4B029CC01
4B029DB16
4B029DF01
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4B029GB07
4B029GB09
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA88X
4B065AA90X
4B065BC03
4B065BC05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】優れた気体透過性を有する容器と、その容器を使用した培養装置および培養システムを提供する。
【解決手段】液体を蓄えて使用する容器であって、少なくとも該容器に水の蒸発量の比が約1.1以上の膜材を使用することを特徴とする、気体透過性容器による。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を蓄えて使用する容器であって、
少なくとも該容器に水の蒸発量の比が約1.1以上の膜材を使用する
ことを特徴とする気体透過性容器。
【請求項2】
前記気体透過性容器の単位接液面積あたりの水の蒸発量が、約0.01~約1.0kg/(m2・h)である
ことを特徴とする請求項1に記載の気体透過性容器。
【請求項3】
前記膜材が、ポリオレフィンまたはフッ素樹脂から選択される少なくともいずれかを使用して形成される
ことを特徴とする請求項1に記載の気体透過性容器。
【請求項4】
前記膜材が、少なくともポリテトラフルオロエチレンを使用して形成される
ことを特徴とする請求項1に記載の気体透過性容器。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の気体透過性容器を使用することを特徴とする培養システム。
【請求項6】
前記気体透過性容器内の液体の量を検知するセンサと、前記気体透過性容器内に液体を供給する液体供給装置と、前記気体透過性容器内の液体の温度を調整する温調装置と、を備え、前記気体透過性容器内の液体の量を調整しながら培養する
ことを特徴とする、請求項5に記載の培養システム。
【請求項7】
培養装置であって、
該培養装置は気体透過性容器と、該気体透過性容器の少なくとも一部を覆う外壁と、該気体透過性容器と該外壁との間に気体を送り込む気体連通手段と、を備え、
該気体透過性容器は、液体を蓄えて使用する容器であって、少なくとも該容器に水の蒸発量の比が約1.1以上の膜材を使用する、
ことを特徴とする培養装置。
【請求項8】
前記気体透過性容器の単位接液面積あたりの水の蒸発量が、約0.01~約1.0kg/(m2・h)である
ことを特徴とする請求項7に記載の培養装置。
【請求項9】
前記膜材が、ポリオレフィンまたはフッ素樹脂から選択される少なくともいずれかを使用して形成される
ことを特徴とする請求項7に記載の培養装置。
【請求項10】
前記膜材が、少なくともポリテトラフルオロエチレンを使用して形成される
ことを特徴とする請求項7に記載の培養装置。
【請求項11】
請求項7乃至10のいずれか1項に記載の培養装置を使用することを特徴とする培養システム。
【請求項12】
前記培養装置が備える前記気体透過性容器内の液体の量を検知するセンサと、前記気体透過性容器内に液体を供給する液体供給装置と、前記気体透過性容器内の液体の温度を調整する温調装置と、を備え、前記気体透過性容器内の液体の量を調整しながら培養する
ことを特徴とする、請求項11に記載の培養システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体透過性の容器に関する。例えば本発明は、好気性微生物や動植物細胞の培養に適した容器に関し、また、その容器を使用した培養装置および培養システムに関する。
【背景技術】
【0002】
液体培地を用いた微生物や細胞の培養は、研究段階において、実験室でペトリディッシュや培養フラスコのような小型の容器を用いて少量で培養されてきた。しかしながら、近年、CHO細胞などを使用して抗体や機能性たんぱく質を製造するバイオ医薬品、iPS細胞などを用いる再生医療、免疫療法などの発展に伴い、細胞や微生物を大量に短期間で培養することが求められている。これらを大量に培養する方法として、袋状の培養バッグに空気と培養液を合わせて封入し、振盪により培養液を撹拌しながら培養する振盪方式(特許文献1)や、ステンレスタンクなどの大型の容器に培地と微生物または細胞を入れて培養する方法が提案されている(特許文献2)。
【0003】
好気性微生物や動植物細胞は、培養液中におけるその存在密度が高くなると酸素の消費量が大きくなり、培養液の溶存酸素濃度が低下し、増殖速度が低下することが知られている。好気性微生物や動植物細胞を一度に大量に培養するには、培養液に十分な酸素を溶存させて微生物や細胞に酸素を供給することが必要である。そのため、ガス透過性の培養バッグなどの培養容器を用いた方法(特許文献3)、高い酸素透過性膜を用いた酸素吸収装置を使用して酸素が供給された疎水性溶媒を培養槽の培養液中に分散させ、疎水性溶媒から培養液へ酸素移動させて酸素を供給する方法(特許文献4)などの検討がされている。
【0004】
しかし、従来の方法では培養液全体に十分な酸素を供給することは難しく、それらは、好気性微生物や動植物細胞を高密度に効率よく培養するのに十分な溶存酸素濃度を得ることができていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019‐107036号公報
【特許文献2】特開2011‐83263号公報
【特許文献3】特開2012‐239401号公報
【特許文献4】特開1999‐187868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のような従来の問題を鑑みて、本発明は、優れた気体透過性を有する容器を提供することを課題とし、また、その容器を使用した培養装置および培養システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を鑑み検討した結果、本発明に至った。具体的には、上述の課題は、液体を蓄えて使用する容器であって、少なくとも該容器に水の蒸発量の比が約1.1以上の膜材を使用することを特徴とする気体透過性容器によって解決することができる。また、前記気体透過性容器は、前記気体透過性容器の単位接液面積あたりの水の蒸発量が、約0.01~約1.0kg/(m2・h)であることが好ましい。
【0008】
また、本発明の気体透過性容器は、前記膜材が、ポリオレフィンまたはフッ素樹脂から選択される少なくともいずれかを使用して形成されることが好ましく、また、前記膜材が、少なくともポリテトラフルオロエチレンを使用して形成されるものであってもよい。
【0009】
また、本発明は、前記気体透過性容器を使用することを特徴とする培養システムに関する。さらに、前記培養システムは、前記気体透過性容器内の液体の量を検知するセンサと、前記気体透過性容器内に液体を供給する液体供給装置とをさらに備えることが好ましい。また、前記培養システムは、前記気体透過性容器内の液体の温度を調整する温調装置を、さらに備えるものであってもよい。また、本発明は、前記培養システムを使用して、前記気体透過性容器内の液体の量を調整しながら培養する培養方法に関する。
【0010】
また、上述の課題は、培養装置であって、該培養装置は気体透過性容器と、該気体透過性容器の少なくとも一部を覆う外壁と、該気体透過性容器と該外壁との間に気体を送り込む気体連通手段と、を備え、該気体透過性容器は、液体を蓄えて使用する容器であって、少なくとも該容器に水の蒸発量の比が約1.1以上の膜材を使用する、ことを特徴とする培養装置によって解決することができる。また、前記気体透過性容器は、前記気体透過性容器の単位接液面積あたりの水の蒸発量が、約0.01~約1.0kg/(m2・h)であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の培養装置が備える気体透過性容器は、前記膜材が、ポリオレフィンまたはフッ素樹脂から選択される少なくともいずれかを使用して形成されることが好ましく、また、前記膜材が、少なくともポリテトラフルオロエチレンを使用して形成されるものであってもよい。
【0012】
また、本発明は、前記培養装置を使用することを特徴とする培養システムに関する。さらに、前記培養システムは、前記培養装置が備える前記気体透過性容器内の液体の量を検知するセンサと、前記気体透過性容器内に液体を供給する液体供給装置とをさらに備えることが好ましい。また、前記培養システムは、前記気体透過性容器内の液体の温度を調整する温調装置を、さらに備えるものであってもよい。また、本発明は、前記培養システムを使用して、前記気体透過性容器内の液体の量を調整しながら培養する培養方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の気体透過性容器は、従来にない優れた気体透過性を有することが可能である。また、本発明の気体透過性容器を使用した培養装置および培養システムにより、好気性微生物や動植物細胞を培養液中で高密度に培養することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の気体透過性容器を使用するときの一例を表す図である。
【
図2】
図2は、本発明の気体透過性容器を使用した培養システムの一例である。
【
図3】
図3は、本発明の培養システムの温調装置の一例を説明する図である。
【
図4】
図4は、本発明の培養システムの実施形態の一例を表す図である。
【
図5】
図5は、本発明の培養システムの実施形態の一例を表す図である。
【
図6】
図6は、本発明の培養システムの実施形態の一例を表す図である。
【
図7】
図7は、本発明の培養システムの実施形態の一例を表す図である。
【
図8】
図8は、耐水圧を測定するときの膜材を支える支持板の図である。
【
図9】
図9は、耐水圧を測定する測定ホルダの模式図である。
【
図10】
図10は、バブルポイントを測定する測定ホルダの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の気体透過性容器とその容器を用いた培養装置および培養システムの実施形態について詳しく説明する。
【0016】
図1は、本発明の気体透過性容器を使用するときの一例を示した図である。
図1の装置100は、気体透過性容器110、底部の支持板や支柱を備えた縦型の装置の例である。本発明の気体透過性容器は、例えば容量100mL程度の開発モデルサイズから、大量に培養するための容量2000L程度のプラントサイズまで適用することが可能である。
図1のように縦型の形態もあるが、ディッシュ形状や封筒状の形状などの横型の形態もあり得る。使用中の内部圧力などによる液漏れを防止する観点から、本発明の気体透過性容器は、耐水圧が300kPa以上であることが好ましく、350kPa以上であることがより好ましい。
【0017】
本発明の気体透過性容器は、気体透過性容器内の液体中の溶存酸素濃度を高めることが可能であり、好気性微生物や動植物細胞の培養用途などに一例として好適である。本発明の気体透過性容器には、水の蒸発量の比が約1.1以上となる膜材を使用することが好ましい。膜材の水の蒸発量の比は、約1.1~約5.0であることがより好ましく、約1.1~約4.0であることがさらに好ましく、約1.1~約3.5であることがさらに好ましい。水の蒸発量の比は、気体透過性容器外から気体透過性容器内の液体への酸素の移動のしやすさの目安と考えることができ、水の蒸発量の比が高い膜材を接液部分の少なくとも一部に使用した気体透過性容器は、液体中の溶存酸素濃度を高く保つことが可能である。
【0018】
培養容器の酸素供給能力の指標として、酸素移動容量係数kLaがよく用いられる。kLaは、気相の酸素が液相へ移動する速度を表すパラメータであり、実験によって求めることができる。酸素移動容量係数kLaは、液側物質移動係数kL[m・h-1]に、単位容積あたりの気液接触面積a[m-1]を乗じた値である。ここで、本発明の気体透過性容器に使用する膜材について、液側物質移動係数kLと、水の蒸発量との相関関係を確認した。本発明の気体透過性容器に使用する膜材について、膜材が水と接触していない状態における液側物質移動係数kL(kL(DRY))、膜材が水と接触している状態における液側物質移動係数kL(kL(WET))、膜材が水と接触していない状態における水の蒸発量(WE(DRY))、及び膜材が水と接触している状態における水の蒸発量(WE(WET))を測定した。測定した結果を以下に示す。
kL(DRY):0.065m/h、kL(WET):0.142m/h、kL(WET)/kL(DRY):2.2
WE(DRY):0.21kg/(m2・h)、WE(WET):0.44kg/(m2・h)、WE(WET)/WE(DRY):2.1
上述した結果から、kL(WET)/kL(DRY)とWE(WET)/WE(DRY)とはほぼ同じ値を示しており、水の蒸発量は液側物質移動係数kLとある程度の相関関係があることが分かる。これ以降、WE(WET)/WE(DRY)を、「水の蒸発量の比」と言う。
【0019】
本発明の気体透過性容器は、水の蒸発量の比が大きい膜材を使用するほど、酸素移動容量係数kLaを大きくすることが可能である。例えば、従来使用されているガラス製の培養容器の酸素移動容量係数kLaを測定するとおよそ、0.72/hであったのに対し、本発明の気体透過性容器の一例ではkLa をおよそ2.0/h以上とすることができている。
上述した水の蒸発量と液側物質移動係数kLに関する実験結果から、この水の蒸発量の比は、微視的に見たときの膜材を介して形成された気液界面の面積の大きさに関連すると考えられる。気液界面の面積の大きさは、一例として、膜材表面の構造(例えば、表面の輪郭曲線要素の平均長さRSmなど)により、調整できる。
【0020】
表面の構造を調整した膜材として、例えば多孔質構造を有する膜材(以下、多孔質構造の膜材と言う)を使用することができる。多孔質構造の膜材としては、延伸して多孔質化したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)や高密度ポリエチレンなどのシートを使用することができる。気体透過性容器の膜材に多孔質構造のシートを使用する場合、多孔質構造のシートと充実構造のシートを積層して膜材とすることもできる。積層したシートを膜材として使用するときは、接液する側の面に多孔質構造のシートを配置することが好ましく、多孔質構造のシート分の厚さが膜材の厚さの5%以上を占めることがより好ましい。多孔質構造のシートのみで気体透過性容器の膜材を構成する場合は、気体透過性容器からの液体漏れを防止する観点から、疎水性の材料で構成することがより好ましい。また、多孔質構造のシートに表面処理を施すなどして、疎水性を付与したものも使用できる。また、多孔質構造のシートのみで気体透過性容器の膜材を構成する場合には、気体透過性容器または気体透過性容器の膜材の耐水圧が300kPa以上であることが好ましく、350kPa以上であることがより好ましい。また、耐水圧試験を実施する前の気体透過性容器の膜材のバブルポイントと、耐水圧試験を実施した後の気体透過性容器の膜材のバブルポイントとで、バブルポイントの変化率が約15%以内であることがより好ましい。耐水圧試験は、気体透過性容器の壁または気体透過性容器を構成する膜材に水圧をかけていき、水が漏れだすまで圧力をかけてその圧力を測定するものである。気体透過性容器の膜材が多孔質構造のシートのみで構成されている場合、膜材は、孔を形成する薄膜や微細な繊維状などの変形しやすい部分を内在しており、高い圧力によってその多孔質構造が変形しやすいものであるが、バブルポイントの変化率が約15%以内に抑えられていることは、膜材の多孔質構造の変形が小さく抑えられていることを表している。
【0021】
その他の表面の構造を調整した膜材として、エレクトロスピニング法で製造されたシートやレーザーで加工するなどして微細な孔を形成したシートや、不織布等があげられる。これらには、様々な樹脂が使用できる。
【0022】
本発明の気体透過性容器は、その容器の単位接液面積あたりの水の蒸発量が、約0.01~約1.0kg/(m2・h)であることが好ましい。より好ましくは、約0.05~約0.8kg/(m2・h)であり、さらに好ましくは、約0.05~約0.5kg/(m2・h)であり、最も好ましくは、約0.1~約0.5kg/(m2・h)である。蒸発により減少した液体を系外から供給する場合、その供給された液体には十分な酸素が溶存されているため、培養のパフォーマンスには好適である。ただし、水の蒸発量があまりにも大きくなっていっても、かえって水の蒸発による弊害が生じ好ましくない。
【0023】
本発明の気体透過性容器は、ポリオレフィンまたはフッ素樹脂から選択される少なくともいずれかを使用して形成される膜材を使用していることが好ましい。ポリオレフィンとして、例えば低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリプロピレンなどが挙げられる。また、ポリウレタン(PUR)、ポリスチレン(PS)、ポリイミド(PI)などを用いることもできる。また、本発明の気体透過性容器は熱可塑性樹脂を使用して形成することが好ましい。
【0024】
また、本発明の気体透過性容器は、少なくともポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が使用された膜材を使用して形成してもよい。膜材に使用するPTFEとしては、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」と言う)のホモポリマーであっても良いし、またはTFE以外の少量のモノマーを含む、変性PTFEであっても良い。
【0025】
本発明の気体透過性容器の膜材に使用する樹脂には、必要に応じてフィラーまたはその他の樹脂が含まれていても良い。フィラーとして、例えば、カーボン、アルミナなどの金属酸化物及び樹脂フィラーが挙げられ、その他の樹脂として、例えば、熱可塑性フッ素樹脂、ポリスチレン、熱可塑性ポリイミド、熱硬化性樹脂などが挙げられる。これらは、1種類または複数種類を合わせて使用することができる。
【0026】
以下で、本発明の気体透過性容器を構成する膜材に、PTFEの多孔質構造のシートを用いる場合を例に、本発明の気体透過性容器の製造方法について説明する。
【0027】
本発明の気体透過性容器の膜材に使用するPTFEの多孔質構造のシートは、PTFEのファインパウダーと助剤とを混合してシート形状に成形した後、そのシート形状のPTFEを延伸することにより作成することが可能である。例えば、密度が0.25g/cm3~1.5g/cm3の多孔質構造のシートとすることができる。
【0028】
本発明の気体透過性容器の膜材は、PTFEの多孔質構造のシートを含む複数のシートを積層したものでもよく、PTFEの多孔質構造のシート以外に、異なる樹脂の多孔質構造のシート、充実構造のシートなどを含んだものでもよい。その場合、膜材の厚さのうち、多孔質構造のシート分が5%以上を占めることが好ましく、10%以上を占めることがより好ましい。気体透過性容器の膜材の厚さは、容器としての強度、耐水圧、水の蒸発量が好適な範囲となるように設定することができる。例えば気体透過性容器の膜材の厚さは0.01mm~3.0mmであることが好ましく、0.03mm~2.0mmとすることがより好ましい。
【0029】
気体透過性容器は、例えば気体透過性容器の膜材として複数のシートを積層したものを用いる場合、例えば次のようにして成形することができる。円筒状のマンドレルにシートを巻回して容器の側面となる積層体を形成し、その一方の端部に容器の底となる円形のシートを貼り合わせ、ビーカー形状の積層体を得る。このビーカー形状の積層体にさらに蓋を取り付けると、容器を得ることができる。このように成形すると、継ぎ目や溝などの段差がない容器内面を得ることができる。使用する円筒状のマンドレルは、作成する容器の大きさに合わせて選択するとよく、この方法で容器を作成する場合には、マンドレル直径は、例えば50mm程度~1000mm程度のものを用いるのが、取り扱いやすく好適であり、一例として、直径100mm、長さ500mmのアルミ製のマンドレルが挙げられ、その場合、容量が約3.5Lの容器が作成できる。気体透過性容器の膜材にPTFEの多孔質構造のシートを使用した例としては、このマンドレル上にPTFEの多孔質構造のシートを必要回数巻回して円筒状のPTFE積層体を作成し、その一方の端部に容器の底となる円形のシートを貼り合わせてビーカー形状の積層体を形成し、マンドレルに被せた状態で、温度360℃以上で、40分以上加熱して焼成する。焼成したPTFE積層体を冷却してビーカー形状が維持されるようにマンドレルから取り外した後、蓋を取り付けると、容器が得られる。
また、気体透過性容器の膜材に多孔質構造のシートと、充実構造のシート(充実シート)、樹脂が異なるなどの異種材料を組み合わせて使用することができる。その場合、例えばマンドレルにシートを巻回するときに各種シートを必要な位置に配置して積層してもよい。また、シートを積層して円筒状に成形した積層体を使用し、その一部を切り取って別のシートと貼り合わせて容器を形成したり、マンドレルに各種シートを巻回して円筒状の積層体を作成した後、切り開いてシート状にし、それらを組み合わせて容器を形成することも可能である。
【0030】
図2は、本発明の気体透過性容器を使用した培養システムの一例を説明する図である。
図2の例は、本発明の培養システムにおいて、いちばん簡素な構成の培養システムの例のひとつである。本発明の気体透過性容器は、微生物や細胞の培養に使用する場合、十分な酸素の供給が可能であり、また、培養中に発生する二酸化炭素など不要なガス性老廃物を排出することが可能であり、簡素な構造のシステムで培養することができる。例えば、
図2では、培養システム200は、気体透過性容器210と、気体透過性容器210を保持するホルダ220と、気体透過性容器210内の液体の量を検知して容器内に液体を供給する液体供給装置240を備えている。気体透過性容器210を保持するホルダ220は、水の蒸発、つまりは気体の透過を阻害しない構造であることが好ましく、例えば金属や硬質のプラスチックなどのメッシュ構造を有し、気体透過性容器210が容器内の液体の重量などにより大きく変形することを制限することが可能な強度を有するものであることが好ましい。ここで本発明の気体透過性容器とは、液体を蓄えて使用することが可能であり、内部に液体を満たした状態において、内側の表面が液体と接しており、その反対の外側の表面が気体と接している状態であり、液体の漏れがないように密閉することができる最小の機能単位のものを言う。
図2の例では、気体透過性容器210は使用時に内部に液体を蓄えており、気体透過性容器210を構成する膜材の容器内側の表面は液体と接している。その膜材の容器外側の表面は気体(空気)と接している。
微生物または細胞を培養中の容器内は、コンタミを防ぐため外部とは隔離された状態であることが好ましい。本発明の培養システムには、培養容器内の培養液の濃度や液体の量を適正にするために、容器内の液体の量を検知するセンサ(図示せず)と、容器内に液体を供給して容器内の液体の量を調節することが可能な、液体供給装置240とを備えることが好ましい。液体の量を検知するセンサは、例えば容器内にフロートタイプの液面変位センサを配置してもよいし、容器の外部から液面を光学的に検知するセンサを用いてもよい。センサと連動する液体供給装置240は、例えば培養液中の水分が蒸発するなどして液体の量が変化したことをセンサが検知したとき、容器内へ培養液を補給して水分の蒸発により濃縮した培養液の成分濃度を調整することが可能である。また、必要に応じて供給する培養液の成分を追加、除去することにより、容器内の培養液の成分を調整することが可能である。
【0031】
図3A~Cは、本発明の培養システムにおいて、気体透過性容器内の液体の温度を調整する温調装置の一例を表した図である。微生物や細胞の培養においては、培養液を一定の温度に保持することが必要な場合が多く、本発明の培養システムにおいて、気体透過性容器内の液体の温度を調整するための温調装置をさらに備えていることが好ましい。
図3を用いて気体透過性容器内の液体の温度を上昇させる方法の例について説明する。
図3Aは、気体透過性容器310aが金属メッシュ製のホルダ320a内に配置されており、気体透過性容器310aの下に配置されたヒーター(ホットプレートなど)330aにより暖められたホルダ320aを介して気体透過性容器310a内の液体が加温されるものである。
図3Bは、気体透過性容器310bがホルダ320b内に配置されており、ホルダ320bの外側には、ホルダ320bと間隔を開けて恒温槽340bが配置されている。ホルダ320bと340bの間は、空気などの媒体で満たされており、恒温槽340bの下に配置されたヒーター(ホットプレートなど)330bにより恒温槽340b内の媒体が暖められて気体透過性容器310b内の液体が加温されるものである。
図3Cは、上部が解放された槽340c内に気体透過性容器310cが配置されており、槽340cは温風送風機330cから温度が調節された空気が送風されることにより暖められ、槽340c内の気体透過性容器310c内の液体が加温されるものである。
【0032】
図4は、本発明の気体透過性容器を備えた培養装置を使用した培養システムの実施形態の一例である。
図4は、培養システムのうち気体透過性容器周辺を表した図であり、培養システム400として、気体透過性容器410と、気体透過性容器410周辺を覆う外壁450を備えている。気体透過性容器410は使用時に内部に液体を蓄えており、気体透過性容器410を構成する膜材の、気体透過性容器内側の表面は液体と接している。その気体透過性容器の膜材の容器外側の表面は気体(空気)と接している。
外壁450は、ある程度のバリア性を有する材料、例えば充実構造の樹脂または金属で構成されていることが好ましい。また、外壁450の一部は開口し、その開口部は滅菌フィルタなどを備えた継手460が気体連通手段として接続された構造であってもよい。気体透過性容器410と外壁450との間は、スペーサー470などにより、一定の間隔を確保できる構造であることが好ましい。気体透過性容器410と外壁450との間の空間に、滅菌フィルタなどを備えた継手460を通して、気体を送り込むことができる。例えば温度や湿度を調整した気体を送り込んだり、酸素などの気体成分の濃度を調整した気体を送り込むことで、気体透過性容器の内部の環境を一定に調整することが可能である。
【0033】
また、
図5は、本発明の気体透過性容器を備えた培養装置を使用した培養システムの実施形態のさらに別な一例である。培養システム500は、気体透過性容器510と、気体透過性容器510周辺を覆う外壁550を備えている。
図4の例と同様に、気体透過性容器510は使用時に内部に液体を蓄えており、気体透過性容器510を構成する膜材の、気体透過性容器内側の表面は液体と接している。その気体透過性容器の膜材の容器外側の表面は気体(空気)と接している。外壁550は、ある程度のバリア性を有する材料、例えば充実構造の樹脂または金属で構成されていることが好ましい。また、外壁550の一部は開口し、その開口部は滅菌フィルタなどを備えた継手560が気体連通手段として接続された構造であってもよい。気体透過性容器510と外壁550との間は、スペーサー570などにより、一定の間隔を確保できる構造であることが好ましい。気体透過性容器510と外壁550との間の空間に、滅菌フィルタなどを備えた継手560を通して、気体を送り込むことができる。例えば温度や湿度を調整した気体を送り込んだり、酸素などの気体成分の濃度を調整した気体を送り込むことで、気体透過性容器の内部の環境を一定に調整することが可能である。
また、培養システム500では、気体透過性容器510に取り付けた特殊継手580を介して、温度センサや液体の量を検知するセンサ、酸素濃度センサ、pHセンサなどのセンサ類590を設置したり、特殊継手580を通じて培養液や必要な成分を供給することができる。
【0034】
図6は、上記の
図4で示した培養システムを例に、培養システムの容器周辺を覆う外壁の形態の別の一例を表している。
図6の例では、培養システム600として、気体透過性容器610と、気体透過性容器610周辺を覆う外壁650を備えている。外壁650は、ある程度のバリア性を有する材料、例えば充実構造の樹脂または金属で構成されていることが好ましい。また、外壁650の一部に開口部を設けて滅菌フィルタなどを備えた継手660を気体連通手段として接続した構造であってもよい。外壁650は、気体透過性容器610の方向に向けた突起650aを1か所以上有しており、この突起650aによって、気体透過性容器610と外壁650との間に一定の間隔を確保できる構造になっている。気体透過性容器610と外壁650との間の空間に、滅菌フィルタなどを備えた継手660を通して、気体を送り込むことができる。例えば温度や湿度を調整した気体を送り込んだり、酸素などの気体成分の濃度を調整した気体を送り込むことで、気体透過性容器の内部の環境を一定に調整することが可能である。
また、
図7は、上記の
図5で示した培養システムを例に、培養システムの容器周辺を覆う外壁の形態の別の一例を表している。
図7の例では、培養システム700として、気体透過性容器710と、気体透過性容器710周辺を覆う外壁750を備えている。外壁750は、ある程度のバリア性を有する材料、例えば充実構造の樹脂または金属で構成されていることが好ましい。また、外壁750の一部に開口部を設けて滅菌フィルタなどを備えた継手760を気体連通手段として接続した構造であってもよい。外壁750は、気体透過性容器710の方向に向けた突起750aを1か所以上有しており、この突起750aによって、気体透過性容器710と外壁750との間に一定の間隔を確保できる構造になっている。気体透過性容器710と外壁750との間の空間に、滅菌フィルタなどを備えた継手760を通して、気体を送り込むことができる。例えば温度や湿度を調整した気体を送り込んだり、酸素などの気体成分の濃度を調整した気体を送り込むことで、気体透過性容器の内部の環境を一定に調整することが可能である。
また、培養システム700では、気体透過性容器710に取り付けた特殊継手780を介して、温度センサや液体の量を検知するセンサ、酸素濃度センサ、pHセンサなどのセンサ類790を設置したり、特殊継手780を通じて培養液や必要な成分を供給することができる。
【0035】
一般に、流加培養においては培養の過程で培養容器内へ栄養成分を含む培養液を添加していくため、培養容器内の培養液の量が増大することで添加量に限界がある。本発明の気体透過性容器を使用した培養システムにおいては、気体透過性容器内の不要な水分および気体成分を容易に気体透過性容器の外へ排出できるため、例えば、培養開始から培養終了まで気体透過性容器内の液体の量や栄養成分の濃度などを一定の範囲に調節するとともに、不要な気体成分を排出しながら培養する流加培養が可能になる。また、気体透過性容器内の液体の量をセンサで検知し、気体透過性容器内に液体を供給して気体透過性容器内の液体の量を調節することが可能な、液体供給装置を併用することで、より効果的に流加培養を行うことができる。また、本発明の気体透過性容器は、培養容器内の培養液を濾過および排出し、培養液や必要な成分を培養容器内の液体の量を調節しながら供給して培養する、灌流培養にも好適に使用できる。
【0036】
本発明の気体透過性容器について下記の実施例でより詳細に説明する。下記の実施例は、発明を例示するものであって、本発明の内容が下記の実施例によって限定されるものではない。
【実施例0037】
<水の蒸発量の比の算出>
本発明の水の蒸発量の比は、以下の式で定義される。
水の蒸発量の比=WE(WET)/WE(DRY)
WE(DRY)(kg/(m
2・h):膜材が水と接触していない状態における水の蒸発量
WE(WET)(kg/(m
2・h):膜材が水と接触している状態における水の蒸発量
上述の水の蒸発量とは、透湿カップに水を入れて透湿カップの窓を膜材で塞いで密封した状態で、膜材を通して透湿カップ内部の水の蒸発量を測定したものであり、ASTM E96B法に準拠して測定は行われる。WE(DRY)は、膜材で塞いだ透湿カップの窓を上側にした状態で恒温恒湿槽に静置して測定し、WE(WET)は、膜材で塞いだ透湿カップの窓を下側にした状態で恒温恒湿槽に静置して測定する。
具体的には、以下のように測定を行った。測定する気体透過性容器の膜材からその一部を直径70mmの円形に切り出した。気体透過性容器が複雑な構造をとる場合、水の蒸発量の測定は、気体透過性容器の中で最も酸素透過性が高い部分で測定する。
透湿カップ内に水を30g充填し、透湿カップの窓(直径60mm)を切り出した膜材の一部で塞ぎ、温度37℃、湿度50%RHで安定させた恒温恒湿槽に静置して、一定時間ごとに取り出して水の重量減少量を測定した。透湿カップ内の水の重量が試験前のものから10%減少するまでの時間、そのときの水の重量減少量、透湿カップの窓の面積(膜材が透湿カップの外部に向けて露出している面積)から、上述の水の蒸発量 kg/(m
2・h)を算出した。測定完了までは、透湿カップの窓を塞いだ膜材に異物が触れない状態を保つようにした。
この水の蒸発量の比に関する上述の測定においては、WE(WET)が約0.01kg/(m
2・h)以上であると、正確に水の蒸発量の比を算出し易い。この点に関し、WE(WET)が約0.02kg/(m
2・h)以上であることが好ましく、約0.05kg/(m
2・h)以上であることが更さらに好ましく、約0.1kg/(m
2・h)以上であることがもっとも好ましい。また、この水の蒸発量の比を上述の測定によって正確に算出する為には、測定の期間が例えば3日を越えないように測定条件を工夫することがある。
<酸素移動容量係数 k
Laの測定>
撹拌翼と電極式溶存酸素計を取り付けた容量3Lの気体透過性容器に、1Lの純水を入れ、回転数80rpmで撹拌翼を回転させ、前述の容器内の純水を撹拌する。前述の容器内の純水は、窒素ガスで十分にバブリングを行い、水の溶存酸素濃度を0mg/Lに近づける。そして溶存酸素濃度が安定した後に、バブリングを停止して、水の溶存酸素濃度が飽和するまで連続的に溶存酸素濃度の測定を行う。溶存酸素濃度と時間の関係から酸素移動容量係数k
La(h
-1)を計算する。
<耐水圧試験>
容器に水を注入する注入口以外からの水の出入りが無いように密封し、容器内に水を注入する。容器への水の注入口手前で注水する水圧を測定し、容器から水が染み出す水圧を観測する。容器が大型であるなどの事情で容器の状態では測定できない場合、容器の中で耐水圧が最も小さいと想定される個所(本発明の容器の場合、気体透過性の膜材の部分であることが多い)の膜材を採って以下の手順に従って測定する。
測定する気体透過性容器の膜材の一部を直径50mmの円形に切り出し、支持板と重ねる。支持板は圧力によって変形しない強度を有するものを用いる。本測定では、支持板800として、厚さ2mm、直径38mmの円形のステンレス板に、直径3mmの穴810を、中心から均等に61個配置したものを用いた(
図8参照)。切り出した膜材の一部を支持板と重ねて、支持板が上になるように、
図9の測定ホルダ900に設置する。注水口910から加圧室920に水を注入して加圧する。徐々に昇圧し、その水が支持板930にサポートされた膜材940を通過して、膜材940の上面の2か所以上で、水滴として確認されるか噴き出したときの圧力を読み取り、膜材の耐水圧とし、その膜材を構成の一部としていた気体透過性容器の耐水圧として採用する。
<容器の単位接液面積あたりの水の蒸発量の測定>
容器の単位接液面積あたりの水の蒸発量については、測定する気体透過性容器の通常の使用方法に基づき測定する。具体的には、次の通りとなる。
1)容器に水を入れる
測定する気体透過性容器の通常の使用方法における上限近くまで純水を入れる。
2)特殊環境に容器を設置する
密閉した気体透過性容器を、温度37℃、湿度50%RHの環境にその容器における通常の使用方法で設置する。
3)経時変化の観察
容器内の水の重量に関し、試験前のものから10%減少するまで経時変化を観察し、10%減少時点までの容器からの水の蒸発量をもとに、1時間あたりの、密閉した容器からの水の蒸発量を算出する。
4)容器の単位接液面積あたりの水の蒸発量を計算する
容器の単位接液面積あたりの水の蒸発量(kg/(m
2・h))を次の式を使用して計算する。
(容器の単位接液面積あたりの水の蒸発量)=(1時間あたりの、密閉した容器からの水の蒸発量)/(容器に水を入れたときの、水と接する容器内面の面積)
<バブルポイント測定>
気体透過性容器の膜材に多孔質構造のシートが使用されている場合、バブルポイントの測定を行う。測定は、JIS K3832に準拠して行う。気体透過性容器の膜材から、その一部を直径50mmの円形に切り出した。気体透過性容器が複数の構造が異なる膜材を用いて作成されたものである場合、バブルポイントの測定は、気体透過性容器を構成する素材の中で最もバブルポイントが小さい部分で測定する。
切り出した膜材の一部は、支持板2枚の間にはさむ。支持板は、上記耐水圧の測定で使用した支持板と同様のものを用いる。支持板にはさんだ膜材は、
図10の測定ホルダ1000に設置する。支持板1030と膜材1040の上部にイソプロピルアルコール(IPA)の層1050を形成させ、注入口1010から窒素ガスを加圧室1020に注入して加圧する。徐々に昇圧し、窒素ガスが膜材1040を通過して膜材上面のIPA層1050に連続した気泡として現れたときの圧力を読み取り、膜材のバブルポイントbpとする。
多孔質構造のシートの耐水圧試験を実施する前のバブルポイントbp1と耐水圧試験を実施した後のバブルポイントbp2との、バブルポイントの変化率Δbpは、以下の式(1)で求められる。
Δbp=(|bp1‐bp2|)/bp1 式(1)
【0038】
実施例1
PTFEの多孔質構造のシートを準備した。直径100mm、長さ500mmのアルミ製のマンドレルを用いて、このマンドレル上に、準備したPTFEの多孔質構造のシートを20回巻回し、円筒状の積層体を形成した。得られた円筒状のPTFEの多孔質構造のシートの積層体の一方の端部に、容器の底となる円形のPTFEの多孔質構造のシートを貼り合わせて、ビーカー形状の積層体を形成した。ビーカー形状に形成したPTFEの多孔質構造のシートの積層体は、マンドレルに被せた状態で、温度360℃以上のオーブンで60分加熱し、焼成された。焼成されたビーカー形状のPTFEの積層体は、オーブン内でそのまま余熱が取れるまで冷まし、マンドレルから取り外した後、フッ素樹脂製の蓋を取り付けて、本発明の気体透過性容器を得た。得られた気体透過性容器は、その側壁部分の厚さが約0.31mm、容量が約3.5Lであった。得られた気体透過性容器について、気体透過性容器の側壁部分から膜材のサンプルを切り出し、上記の方法に従って水の蒸発量の比を算出したところ、2.1であった。
実施例2
実施例1とは異なるPTFEの多孔質構造のシートを準備した。実施例1と同様に、マンドレル上にPTFEの多孔質構造のシートを厚さ約0.08mmになるように巻回し、円形のPTFEの多孔質構造のシートを貼り合わせて、ビーカー形状の積層体を形成した。ビーカー形状に形成したPTFEの多孔質構造のシートの積層体は、マンドレルに被せた状態で、温度370℃以上のオーブンで40分加熱し、焼成された。焼成されたビーカー形状のPTFEの積層体は、オーブン内でそのまま余熱が取れるまで冷まし、マンドレルから取り外した後、フッ素樹脂製の蓋を取り付けて、本発明の気体透過性容器を得た。得られた気体透過性容器について、気体透過性容器の側壁部分から膜材のサンプルを切り出し、上記の方法に従って水の蒸発量の比を算出したところ、2.8であった。
実施例3
実施例1とは異なるPTFEの多孔質構造のシートを準備した。実施例1と同様に、マンドレル上にPTFEの多孔質構造のシートを厚さ約3.0mmになるように巻回し、円形のPTFEの多孔質構造のシートを貼り合わせて、加熱し、マンドレルから取り外した後、フッ素樹脂製の蓋を取り付けて、本発明の気体透過性容器を得た。得られた気体透過性容器について、気体透過性容器の側壁部分から膜材のサンプルを切り出し、上記の方法に従って水の蒸発量の比を算出したところ、1.3であった。
実施例4
高密度ポリエチレンの不織布(デュポン社製 タイベック 1073B)を準備した。実施例1と同様に、マンドレル上に高密度ポリエチレンの不織布を巻回し、円形のシートを貼り合わせて、加熱し、マンドレルから取り外した後、フッ素樹脂製の蓋を取り付けて、本発明の気体透過性容器を得た。得られた気体透過性容器について、気体透過性容器の側壁部分から膜材のサンプルを切り出し、上記の方法に従って水の蒸発量の比を算出したところ、1.4であった。
実施例5
長辺が約360mm、短辺が約240mmの長方形のPFAの充実構造のシートと、PTFEの多孔質構造のシートを準備した。また、直径120mm、長さ270mmのアルミ製のマンドレルを準備した。このマンドレル上に、準備したPTFEの多孔質構造のシートを5回巻回し、その上に、準備したPFAの充実構造のシートをシートの短辺がマンドレルの軸の方向と平行になるようにして重ねて、さらに5回巻回し、円筒状の積層体を形成した。得られた円筒状の積層体の一方の端部に、容器の底となる円形のPTFEの多孔質構造のシートを貼り合わせて、ビーカー形状の積層体を形成した。ビーカー形状に形成した積層体は、マンドレルに被せた状態で、温度360℃以上のオーブンで60分加熱し、焼成された。焼成されたビーカー形状の積層体は、オーブン内でそのまま余熱が取れるまで冷まし、マンドレルから取り外した後、フッ素樹脂製の蓋を取り付けて、本発明の気体透過性容器を得た。得られた気体透過性容器について、上記の方法に従って容器の単位接液面積あたりの水の蒸発量を測定したところ、0.09kg/(m2・h)であった。
実施例6
実施例1とは異なるPTFEの多孔質構造のシートを準備した。実施例5と同様のマンドレルを用いて、このマンドレル上にPTFEの多孔質構造のシートを10回巻回して、加熱し、マンドレルから取り外した後、四角形になるように切り開いて1枚の積層体を得た。注水口となる継手を積層体に取り付け、半分に折り畳んだ。密閉形状となるように、折り畳んだ積層体の四辺をヒートシーラーで融着して、本発明の気体透過性容器を得た。得られた気体透過性容器について、上記の方法に従って容器の単位接液面積あたりの水の蒸発量を測定したところ、0.19kg/(m2・h)であった。
実施例7
長辺が約380mm、短辺が約240mmの長方形のPFAの充実構造のシートと、PTFEの多孔質構造のシートを準備した。実施例5と同様に、マンドレル上に、準備したPTFEの多孔質構造のシートを5回巻回し、その上に、準備したPFAの充実構造のシートをシートの短辺がマンドレルの軸の方向と平行になるようにして重ねて、さらに5回巻回し、円筒状の積層体を形成した。得られた円筒状の積層体の一方の端部に、容器の底となるPTFEの多孔質構造のシートとPFAの充実構造のシートを積層した円形のシートを貼り合わせて、ビーカー形状の積層体を形成した。ビーカー形状に形成した積層体は、マンドレルに被せた状態で、温度360℃以上のオーブンで60分加熱し、焼成された。焼成されたビーカー形状の積層体は、オーブン内でそのまま余熱が取れるまで冷まし、マンドレルから取り外した後、フッ素樹脂製の蓋を取り付けて、本発明の気体透過性容器を得た。得られた気体透過性容器について、上記の方法に従って容器の単位接液面積あたりの水の蒸発量を測定したところ、0.05kg/(m2・h)であった。
比較例
側壁部分の厚さが0.5mmのシリコーンゴムで形成された容器を準備した。準備したシリコーンゴムで形成された容器から膜材のサンプルを切り出し、上記の方法に従って水の蒸発量を測定したところ、WE(WET)は、0.004kg/(m2・h)であった。
【0039】
実施例1と実施例2の容器について、容器の単位接液面積あたりの水の蒸発量、耐水圧、耐水圧試験前後のバブルポイントの測定を行った結果、表1のようになった。実施例1と実施例2の気体透過性容器は、水の蒸発効率だけではなく、容器としての強度、耐久性にも優れることがわかる。
【表1】
【0040】
以上、本発明に係る気体透過性容器、およびその容器を使用した培養装置および培養システムについて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
本発明の気体透過性容器は、優れた気体透過性を有する。例えば、本発明の気体透過性容器を使用すると、容器内の液体中の溶存酸素濃度を高く維持することが可能であり、また同時に培養液内の二酸化炭素などのガス性の老廃物を適度に排出させることが可能であるため、簡素な構造で培養システムを構成することができる。さらに、本発明の気体透過性容器と、バブリングなどの各種の酸素供給手段を組み合わせることで、好気性微生物や動植物細胞の培養においてより高い効果を得ることができる。また、容器内の液体の量を検知するセンサと、液体の量を調節することが可能な液体供給装置を併用することで、培養液の液体の量を調節しながら培養する培養が可能になる。