(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022075592
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】医療用針の製造方法、及び、医療用針
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20220511BHJP
B29C 33/38 20060101ALI20220511BHJP
B29C 43/34 20060101ALI20220511BHJP
A61M 5/158 20060101ALI20220511BHJP
A61M 5/32 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
A61M37/00 505
B29C33/38
B29C43/34
A61M5/158 500B
A61M5/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021179341
(22)【出願日】2021-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2020185943
(32)【優先日】2020-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】青柳 誠司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 昌人
(72)【発明者】
【氏名】寺嶋 真伍
【テーマコード(参考)】
4C066
4C267
4F202
4F204
【Fターム(参考)】
4C066KK01
4C066PP01
4C267AA71
4C267CC01
4C267FF10
4C267GG01
4C267GG41
4F202AA49
4F202AH63
4F202AJ05
4F202CA09
4F202CB01
4F202CD02
4F202CN01
4F204AA24
4F204AG28
4F204AH63
4F204AJ05
4F204FA01
4F204FB01
4F204FF01
4F204FN11
4F204FN17
4F204FQ15
(57)【要約】
【課題】生分解性樹脂を押付型に押付けた後、離間させるときに、医療用針の形状が崩れることを防止する。
【解決手段】医療用針の製造方法は、医療用針の母型が転写された柔軟材からなる押付型(1)にPLAシート(2)を押付ける押付工程と、PLAシート(2)を押付型(1)から後退させて、押付型(1)及びPLAシート(2)を冷却する後退工程と、PLAシート(2)を押付型(1)から離間させる離間工程とを包含する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用針の母型が転写された柔軟材からなる押付型に生分解性樹脂を押付ける押付工程と、
前記生分解性樹脂により前記押付型に発生する圧力を緩和するように前記生分解性樹脂を前記押付型から後退させてから、前記押付型及び前記生分解性樹脂を冷却する後退工程と、
前記生分解性樹脂を前記押付型から離間させる離間工程とを包含することを特徴とする医療用針の製造方法。
【請求項2】
前記生分解性樹脂の前記押付型からの後退距離が、前記医療用針の全長に基づいて設定される請求項1に記載の医療用針の製造方法。
【請求項3】
前記後退距離が、前記医療用針の全長の60%よりも長い請求項2に記載の医療用針の製造方法。
【請求項4】
前記医療用針の全長と外径との間の比率を表すアスペクト比が、3以上である請求項1に記載の医療用針の製造方法。
【請求項5】
前記医療用針の側面に鋸歯状突起が形成されている請求項1に記載の医療用針の製造方法。
【請求項6】
前記柔軟材がPDMS又はシリコーンゴムを含み、
前記生分解性樹脂がポリ乳酸、ポリグリコール酸、またはポリカプロラクトンを含む請求項1に記載の医療用針の製造方法。
【請求項7】
タイプAデュロメーターで測定された前記PDMSまたは前記シリコーンゴムの硬さが30以上70以下である請求項6に記載の医療用針の製造方法。
【請求項8】
タイプAデュロメーターで測定された前記PDMSまたは前記シリコーンゴムの硬さが40以上60以下である請求項6に記載の医療用針の製造方法。
【請求項9】
前記押付工程の前に前記生分解性樹脂と前記押付型とを加熱する加熱工程をさらに包含し、
前記加熱工程における前記生分解性樹脂の加熱温度が170℃よりも高い請求項1に記載の医療用針の製造方法。
【請求項10】
前記医療用針は先端が先鋭な形状を有する請求項1に記載の医療用針の製造方法。
【請求項11】
前記医療用針が中実針である請求項1に記載の医療用針の製造方法。
【請求項12】
前記医療用針は先端が円錐形状に形成される請求項1に記載の医療用針の製造方法。
【請求項13】
前記医療用針が中空針である請求項1に記載の医療用針の製造方法。
【請求項14】
前記押付工程の前に、前記医療用針の母型を作製する母型作製工程と、
前記離間工程により製造された医療用針の寸法と前記母型の寸法とに基づいて補正値を設定し、前記補正値に基づいて補正母型を作製する補正母型作製工程と、
前記補正母型に基づいて、前記押付工程、前記後退工程、及び前記離間工程を実施して補正医療用針を作製する補正医療用針作製工程とをさらに包含する請求項1に記載の医療用針の製造方法。
【請求項15】
前記医療用針がランセットポイント針である請求項1に記載の医療用針の製造方法。
【請求項16】
前記生分解性樹脂の前記押付型からの後退距離が、前記ランセットポイント針の全長の80%よりも長い請求項15に記載の医療用針の製造方法。
【請求項17】
全長が1mm以下であり、全長と外径との間の比率を表すアスペクト比が3以上であり、生分解性樹脂を含むことを特徴とする医療用針。
【請求項18】
前記医療用針の側面に鋸歯状突起が形成されている請求項17に記載の医療用針。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱ナノインプリント法に基づく医療用針の製造方法、及び、医療用針に関する。
【背景技術】
【0002】
直径や長さが1mm未満のマイクロニードルは、医療分野、細胞操作をするツール、バイオセンサー、電子やイオン液体のエミッターなど幅広く利用されている。
【0003】
特に、医療分野では、神経や血管が存在しない表皮へのドラックデリバリー、神経や血管が存在する真皮・皮下組織への採血や薬剤投与、及び血液検査用ニードルパッチなどの利用分野が存在する。
【0004】
直径や長さが1mm未満のマイクロニードルは、機械加工では製造しにくく、MEMS(メムス、Micro Electro Mechanical Systems)技術やナノインプリント技術の利用が必要となっている。
【0005】
ナノスケール構造を作製する手だての1つであるナノインプリントには、実際のプロセスの形態により、熱ナノインプリント法、及び光硬化式ナノインプリント法が知られている。
【0006】
熱ナノインプリント法により、柔軟性のあるモールドであるPDMS(ジメチルポリシロキサン、dimethylpolysiloxane)製の型を使用して多数の医療用針を量産する医療用針の製造方法が従来技術として知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述のような従来技術のPDMS製の型は、柔軟性を有するので材料を型に押付けた時に圧縮変形して、型と材料とを離間させるときに成形物の形状が崩れるという問題がある。
【0009】
本発明の一態様は、生分解性樹脂を押付型に押付けた後、離間させるときに、医療用針の形状が崩れることを防止することができる医療用針の製造方法、及び、医療用針を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る医療用針の製造方法は、医療用針の母型が転写された柔軟材からなる押付型に生分解性樹脂を押付ける押付工程と、前記生分解性樹脂により前記押付型に発生する圧力を緩和するように前記生分解性樹脂を前記押付型から後退させてから、前記押付型及び前記生分解性樹脂を冷却する後退工程と、前記生分解性樹脂を前記押付型から離間させる離間工程とを包含することを特徴とする。
【0011】
この特徴によれば、医療用針の母型が転写された柔軟材からなる押付型に生分解性樹脂を押付けた後、生分解性樹脂を前記押付型から後退させるので、生分解性樹脂により押付型に発生する圧力が緩和する。このため、柔軟材からなる押付型が、生分解性樹脂を押付けたときの圧力による過剰な変形が阻止される。生分解性樹脂を押付型から離間させる離間工程において成形物の形状が崩れることを防止することができる。
【0012】
本発明の一態様に係る医療用針の製造方法は、前記生分解性樹脂の前記押付型からの後退距離が、前記医療用針の全長に基づいて設定されることが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、生分解性樹脂の押付型からの後退距離が、医療用針の全長に基づいて設定されるので、医療用針の母型が転写された押付型に発生する圧力を緩和することができる。
【0014】
本発明の一態様に係る医療用針の製造方法は、前記後退距離が、前記医療用針の全長の60%よりも長いことが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、成形した医療用針の形状を母型の形状に最も良好に近づけることができる。
【0016】
本発明の一態様に係る医療用針の製造方法は、前記医療用針の全長と外径との間の比率を表すアスペクト比が、3以上であることが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、アスペクト比の大きい医療用針を良好に成形することができる。
【0018】
本発明の一態様に係る医療用針の製造方法は、前記医療用針の側面に鋸歯状突起が形成されていることが好ましい。
【0019】
上記構成によれば、蚊の吸血用口吻を模倣する細い口針を穿刺対象に穿刺する補助機能を医療用針に付加することができる。
【0020】
本発明の一態様に係る医療用針の製造方法は、前記柔軟材がPDMSを含み、前記生分解性樹脂がポリ乳酸を含むことが好ましい。
【0021】
上記構成によれば、押付型に柔軟性を付与することができる。そして、医療目的として認可された生分解性の熱可塑樹脂からなる微小形状の医療用針を成形することができる。
【0022】
本発明の一態様に係る医療用針の製造方法は、前記押付工程の前に前記生分解性樹脂と前記押付型とを加熱する加熱工程をさらに包含し、前記加熱工程における前記生分解性樹脂の加熱温度が170℃よりも高いことが好ましい。
【0023】
上記構成によれば、成形した医療用針の形状のくずれ、上部の膨らみを防止することができる。
【0024】
本発明の一態様に係る医療用針の製造方法は、前記医療用針は先端が先鋭な形状を有することが好ましい。
【0025】
上記構成によれば、先鋭化された先端を有する医療用針を、成形工程の後工程で研磨等により先鋭化する必要なく、簡素な工程により製造することができる。
【0026】
本発明の一態様に係る医療用針の製造方法は、前記医療用針が中実針であることが好ましい。
【0027】
上記構成によれば、生分解性樹脂を押付型から離間させる離間工程において中実針の形状が崩れることを防止することができる。
【0028】
本発明の一態様に係る医療用針の製造方法は、前記医療用針は先端が円錐形状に形成されることが好ましい。
【0029】
上記構成によれば、先端が円錐形状に形成された医療用針を、成形工程の後工程で研磨等により先鋭化する必要なく、簡素な工程により製造することができる。
【0030】
本発明の一態様に係る医療用針の製造方法は、前記医療用針が中空針であることが好ましい。
【0031】
上記構成によれば、生分解性樹脂を押付型から離間させる離間工程において中空針の形状が崩れることを防止することができる。
【0032】
本発明の一態様に係る医療用針の製造方法は、前記押付工程の前に、前記医療用針の母型を作製する母型作製工程と、前記離間工程により製造された医療用針の寸法と前記母型の寸法とに基づいて補正値を設定し、前記補正値に基づいて補正母型を作製する補正母型作製工程と、前記補正母型に基づいて、前記押付工程、前記後退工程、及び前記離間工程を実施して補正医療用針を作製する補正医療用針作製工程とをさらに包含することが好ましい。
【0033】
上記構成によれば、押付型が柔軟であることが原因となり、母型と成形物の形状・寸法に一部差異が見られる場合に、加工時の変形を考慮して母型の形状を補正することにより、成形物が医療用針として必要な形状、寸法を得ることを可能にする。
【0034】
本発明の一態様に係る医療用針の製造方法は、前記医療用針がランセットポイント針であることが好ましい。
【0035】
上記構成によれば、生分解性樹脂を押付型から離間させる離間工程においてランセットポイント針の形状が崩れることを防止することができる。
【0036】
本発明の一態様に係る医療用針の製造方法は、前記生分解性樹脂の前記押付型からの後退距離が、前記ランセットポイント針の全長の80%よりも長いことが好ましい。
【0037】
上記構成によれば、成形したランセットポイント針の形状を母型の形状に最も良好に近づけることができる。
【0038】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る医療用針は、全長が1mm以下であり、全長と外径との間の比率を表すアスペクト比が3以上であり、生分解性樹脂を含むことを特徴とする。
【0039】
この特徴によれば、医療目的として認可された生分解性樹脂を含み成形により大量生産可能な微小寸法の医療用針を実現することができる。
【0040】
本発明の一態様に係る医療用針は、前記医療用針の側面に鋸歯状突起が形成されていることが好ましい。
【0041】
上記構成によれば、蚊の吸血用口吻を模倣する細い口針を穿刺対象に穿刺する補助機能を医療用針に付加することができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明の一態様によれば、生分解性樹脂を押付型に押付けた後、離間させるときに、医療用針の形状が崩れることを防止することができる医療用針の製造方法、及び、医療用針を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】実施形態1に係るナノインプリント装置の外観を示す正面図である。
【
図3】上記ナノインプリント装置による医療用針の製造方法の加熱工程を示す断面図である。
【
図4】上記医療用針の製造方法の押付工程を示す断面図である。
【
図5】上記医療用針の製造方法の後退工程を示す断面図である。
【
図6】上記医療用針の製造方法の離間工程を示す断面図である。
【
図7】上記医療用針の母型の加工例を示す画像である。
【
図8】上記医療用針の他の母型の加工例を示す画像である。
【
図9】上記ナノインプリント装置に設けられた押付型の作製方法を示す断面図である。
【
図10】上記押付型の作製方法を示す断面図である。
【
図11】上記押付型の作製方法を示す断面図である。
【
図12】上記押付型の作製方法を示す断面図である。
【
図13】上記ナノインプリント装置により製造される中実針の母型の設計例を示す斜視図である。
【
図17】上記母型のさらに他の電子顕微鏡像である。
【
図18】実施形態1に係る医療用針の製造方法により加熱温度190℃で下降無しで製造された中実針を示す画像である。
【
図19】上記加熱温度190℃で200μm下降させて製造された中実針を示す画像である。
【
図20】上記加熱温度190℃で400μm下降させて製造された中実針を示す画像である。
【
図21】上記加熱温度190℃で600μm下降させて製造された中実針を示す画像である。
【
図22】上記加熱温度190℃で700μm下降させて製造された中実針を示す画像である。
【
図23】上記加熱温度190℃で製造された上記中実針の全長と下降距離との間の関係を示すグラフである。
【
図24】実施形態1に係る医療用針の製造方法により加熱温度170℃で下降無しで製造された中実針を示す画像である。
【
図25】上記加熱温度170℃で200μm下降させて製造された中実針を示す画像である。
【
図26】上記加熱温度170℃で400μm下降させて製造された中実針を示す画像である。
【
図27】上記加熱温度170℃で600μm下降させて製造された中実針を示す画像である。
【
図28】上記加熱温度170℃で700μm下降させて製造された中実針を示す画像である。
【
図29】上記加熱温度170℃で製造された上記中実針の全長と下降距離との間の関係を示すグラフである。
【
図30】側面に鋸歯状突起が形成された中実針を示す画像である。
【
図31】側面に鋸歯状突起が形成された中実針を示す画像である。
【
図32】側面に鋸歯状突起が形成された中実針を示す画像である。
【
図33】実施形態2に係る中空針の母型の設計例を示す斜視図である。
【
図34】実施形態2に係る医療用針の製造方法により製造された外径100μm、内径50μmの母型を示す電子顕微鏡像である。
【
図35】上記製造方法により製造された外径100μm、内径50μm、全長400μmの母型の電子顕微鏡平面像である。
【
図36】上記製造方法により製造された外径100μm、内径50μm、全長700μmの母型の電子顕微鏡平面像である。
【
図37】上記製造方法により製造された外径100μm、内径50μm、全長1000μmの母型の電子顕微鏡平面像である。
【
図38】実施形態2に係る医療用針の製造方法により製造された外径200μm、内径100μmの母型を示す電子顕微鏡像である。
【
図39】上記製造方法により製造された外径200μm、内径100μm、全長1000μmの母型の電子顕微鏡平面像である。
【
図40】上記製造方法により製造された外径200μm、内径100μm、全長700μmの母型の電子顕微鏡平面像である。
【
図41】上記製造方法により製造された外径200μm、内径100μm、全長400μmの母型の電子顕微鏡平面像である。
【
図42】実施形態2に係る医療用針の製造方法により製造された外径100μm、内径50μmの中空針を示す電子顕微鏡像である。
【
図43】上記製造方法により製造された外径100μm、内径50μm、設計長400μmの中空針の電子顕微鏡平面像である。
【
図44】上記製造方法により製造された外径100μm、内径50μm、設計長700μmの中空針の電子顕微鏡平面像である。
【
図45】上記製造方法により製造された外径100μm、内径50μm、設計長1000μmの中空針の電子顕微鏡平面像である。
【
図46】実施形態2に係る医療用針の製造方法により製造された外径200μm、内径100μmの中空針を示す電子顕微鏡像である。
【
図47】上記製造方法により製造された外径200μm、内径100μm、設計長1000μmの中空針の電子顕微鏡平面像である。
【
図48】上記製造方法により製造された外径200μm、内径100μm、設計長700μmの中空針の電子顕微鏡平面像である。
【
図49】上記製造方法により製造された外径200μm、内径100μm、設計長400μmの中空針の電子顕微鏡平面像である。
【
図50】上記外径100μmの中空針の根元からの距離を中空針の全長で除算した値と、上記中空針の各位置における直径と母型の直径との間の比率との間の関係を示すグラフである。
【
図51】上記外径200μmの中空針の根元からの距離を中空針の全長で除算した値と、上記中空針の各位置における直径と母型の直径との間の比率との間の関係を示すグラフである。
【
図52】実施形態2に係る補正母型の観察画像である。
【
図53】補正前の外径100μm、内径50μmの中空針を示す画像である。
【
図54】上記補正母型に基づいて成形された外径100μm、内径50μmの補正中空針を示す画像である。
【
図55】補正前の外径200μm、内径100μmの中空針を示す画像である。
【
図56】上記補正母型に基づいて成形された外径200μm、内径100μmの補正中空針を示す画像である。
【
図57】実施形態3に係るランセットポイント針の母型を示す画像である。
【
図58】前記母型に基づいて成形されたランセットポイント針を示す画像である。
【
図59】降下距離を900μmにすることにより成形された外径100μmのランセットポイント針を示す画像である。
【
図60】上記ランセットポイント針の先端付近の拡大画像である。
【
図61】降下距離を900μmにすることにより成形された外径200μmのランセットポイント針を示す画像である。
【
図62】上記ランセットポイント針の先端付近の拡大画像である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0045】
本実施形態は、大気圧雰囲気中において加熱した型を熱可塑性樹脂に押し付ける手法(一般的に、熱ナノインプリント法、型押法、熱プレス法、エンボス加工法、等と呼称される)により医療用針を成形する手法、もしくは、上記手法により作製された医療用針に関する。
【0046】
上記加工に用いる型(区別のために、以降では「押付型」と呼称する)は、母型を柔軟性のあるゴム材料、もしくは、エラストマ材料に転写することで得られる。母型は押付型形成のために複数回使用可能である。
【0047】
母型の作成法は一つに限定されないが、本実施形態に際する実験では光造形方式の3Dプリンタを使用した。医療用針は、中実針(空洞の無い針)と中空針(円筒状の針)のいずれも形成可能である。
【0048】
医療用針の先端は母型の形状に依存する。先鋭化された先端を有する母型を利用した場合、得られた成形物は後工程において先鋭化する必要を省くことができる。
【0049】
医療用針の全長と外径との間の比率を表すアスペクト比(全長/外径)は、3以上であることが好ましい。
【0050】
図1は実施形態1に係るナノインプリント装置8の外観を示す正面図である。
図2は
図1に示されるA部の拡大図である。
【0051】
ナノインプリント装置8は、筐体22と、筐体22に格納されてプレス軸11に沿って互いに押付けられる上基板9及び下基板10とを備える。ナノインプリント装置8は例えば名昌機工社製である。
【0052】
図3はナノインプリント装置8による医療用針の製造方法の加熱工程を示す断面図である。
【0053】
ナノインプリント装置8はチャンバ12を備える。チャンバ12の中に、上基板9及び下基板10が収容される。
【0054】
上基板9の下面に厚み約1000μmのステンレスシート14が設けられる。ステンレスシート14の下面に押付型1が配置される。上基板9は一対のカートリッジヒータ13を内蔵する。
【0055】
押付型1は、医療用針の母型が負型(凹凸が反転した型)として転写されたゴム性またはエラストマ性を有する柔軟材で構成される。ただし、この押付型1は後の押付加工(熱ナノインプリント法)で使用可能な耐熱性と機械強度が必要である。上記柔軟材の具体的な材料としては、シリコーン樹脂の一種であるポリジメチルシロキサン(略称:PDMS、名称:DOWSILTM(登録商標) SILPOT 184 W/C、製造社名:デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル)が挙げられる。このPDMSは、2液性であり、混合後加熱することで硬化する。未硬化時の粘度は3500cPであり、硬化後の引張弾性率は3MPa以下である。硬度(Shore A)は約43である。
シリコーンゴムとしては、耐油耐溶剤性配合ゴム、耐アルカリ性配合ゴム、及び、タイプAデュロメーターで測定された硬さ(デュロメータータイプA)が30以上70以下のPDMSまたはシリコーンゴムが利用できる。このPDMSまたはシリコーンゴムは、40以上60以下の硬さ(デュロメータータイプA)がより望ましい。
硬さ(デュロメータータイプA)が60のシリコーンゴムが、先鋭化された針を得るには良好な結果が得られる傾向がある。具体的な例として、信越化学製のSIM-260を用いることで、より良好な先鋭化された針が得られた。
さらに、シリコーンゴム以外の柔軟材としては、αオレフィンコポリマー、ポリフェニレンサルファイド樹脂(加硫黄ゴム、柔軟性PPS(ポリフェニレンサルファイド、Poly Phenylene Sulfide)樹脂)、環状オレフィン共重合体なども利用できる。
【0056】
下基板10の上面に厚み約650μmのシリコンウェハ16が設けられる。シリコンウェハ16の上に厚み約100μmのCOPシート17が設けられる。COPシート17の上に厚み約1200μmのPLAシート2(生分解性樹脂)が配置される。
【0057】
PLAシート2は、医療目的として認可された生分解性の熱可塑樹脂を含むことが好ましく、例えば、ポリ乳酸(PLA、polylactic acid、polylactide)を原料としている。上記生分解性の熱可塑樹脂は、PGA(ポリグリコール酸、Polyglycolic acid)、PCL(ポリカプロラクトン、Poly(ε-caprolactone))などの生分解性ポリエステルでもよい。
【0058】
このように構成されたナノインプリント装置8は、以下のように動作する。
【0059】
まず、上基板9にPDMSで作られた押付型1を固定する。そして、下基板10にPLAシート2を固定する。次に、下基板10を一対のカートリッジヒータ13により加熱する。その後、PLAシート2が目標温度に到達するまで待機する。
【0060】
このようにして、PLAシート2と押付型1とを加熱する加熱工程が実施される。
【0061】
図4は上記医療用針の製造方法の押付工程を示す断面図である。
【0062】
PLAシート2が目標温度に到達した後、下基板10を一定速度で上昇させる。そして、PLAシート2と押付型1とが接触したら、下基板10の上昇速度を落とす。次に、上基板9に対して下基板10側から作用する圧力が一定圧力になった時点で、その上基板9及び下基板10の状態を保持する。このとき、押付型1は高圧力により大きく変形する。
【0063】
このようにして、医療用針の母型が転写された柔軟材からなる押付型1にPLAシート2を押付ける押付工程が実施される。
【0064】
図5は医療用針の製造方法の後退工程を示す断面図である。下基板10を僅かに降下させて後退させ、その状態を保持する。そして、下基板10の冷却を開始する。このように、押付型1は、PLAシート2を押付けられた後に除荷される。
【0065】
ナノインプリント(押し付け加工)の後、通常は対象の樹脂を冷却してモールドを外す(離型)。本実施形態においては、押付加工後に少しだけ樹脂(PLAシート2)をモールド(押付型1)から離した状態で樹脂を冷却し、その後に離型を行う。
【0066】
本発明における作業ではモールド(押付型1)を固定した状態で樹脂(PLAシート2)を上昇させることで押付を行い、樹脂(PLAシート2)を降下させることで離型を行う。
【0067】
このことから、上記の「少しだけ樹脂からモールドを離す」作業を「押付後の降下工程」と称し、またその際の樹脂の移動距離を便宜上「降下距離」(後退距離)と命名した。
【0068】
図6は医療用針の製造方法の離間工程を示す断面図である。PLAシート2の温度が室温まで戻ったら、下基板10を初期位置まで降下させ、PLAシート2と押付型1とを離間させる(離型)。
【0069】
このようにして、PLAシート2を押付型1から離間させる離間工程が実施される。
【0070】
図7は医療用針の母型の加工例を示す画像である。
図8は医療用針の他の母型の加工例を示す画像である。
【0071】
押付型1に転写される医療用針の母型は、高精度3次元プリンタを用いて作製する。高精度3次元プリンタは、例えば、超精密3D光造形機(Nanoscribe(分解能0.2μm))を用いることができる。
図7には中空針の種種の寸法、アスペクト比の母型の加工例が示されている。
図8には、ランセットポイント針の種種の寸法、アスペクト比の母型の加工例が示されている。
【0072】
図9~
図12は、ナノインプリント装置8に設けられた押付型1の作製方法を示す断面図である。
【0073】
まず、
図9に示すように、高精度3次元プリンタを用いて作製した医療用針の母型4をガラス板18上に載置する。母型4の表面には離型剤21(オプツール)が塗布される。そして、
図10に示すように、母型4及びガラス板18をシャーレ19に収容する。次に、シャーレ19の中にPDMS20を流し込む。その後、
図11に示すように、PDMS20の硬化を確認し、硬化したPDMS20を母型4及びガラス板18から離型する。そして、母型4及びガラス板18から離型してシャーレ19から抜き出したPDMS20は押付型1となる。
【0074】
図13は高精度3次元プリンタを用いて作製する中実針の母型4の設計例を示す斜視図である。
図14は
図13に示されるB部の拡大図である。
【0075】
【0076】
中実針の母型4は、
図13に示すように、先端が先鋭な形状を有しており、先端が円錐形状に形成される。中実針の母型4は、全長1.00mmであり、直線部0.85mmとテーパ部0.15mmとを含む。直線部0.85mmの直径は0.10mmである。
【0077】
母型4の先端部は、
図14に示すように、潰れ防止のために、2段階に分けて先鋭化している。1段階目の先鋭化部分の長さは0.10mm、先鋭角23°であり、2段階目の先鋭化部分の長さは0.05mm、先鋭角60°である。
【0078】
図15は高精度3次元プリンタを用いて作製した母型4の電子顕微鏡像である。
図16は上記母型4の他の電子顕微鏡像である。
図17は上記母型4のさらに他の電子顕微鏡像である。
【0079】
【0080】
高精度3次元プリンタを用いて作製した中実針の母型4の全長は1.0mmであり、直線部は0.8mmであった。
【0081】
本実施形態に係る加工(熱ナノインプリント法)において制御したパラメータは、成形時の温度、押付圧力、離型時の速度である。加工対象物である熱可塑性樹脂(PLAシート2)、および押付型1の双方を加熱する。
【0082】
【0083】
本実施形態では、通常の熱ナノインプリント法と異なり、一度加圧した後、PLAシート2をわずかに後退させて押付型1に掛かる圧力を緩和させ、そのまま加工温度を降下させる工程を設けた(
図5)。これは従来手法より柔軟な押付型1が加工時の圧力により過剰に変形し、成形物の形状が崩れることを防ぐためである。
【0084】
図18は実施形態1に係る医療用針の製造方法により加熱温度190℃で下降無しで製造された中実針を示す画像である。
図19は加熱温度190℃で200μm下降させて製造された中実針を示す画像である。
図20は400μm下降させて製造された中実針を示す画像である。
図21は600μm下降させて製造された中実針を示す画像である。
図22は700μm下降させて製造された中実針を示す画像である。
図23は加熱温度190℃で製造された上記中実針の全長と下降距離との間の関係を示すグラフである。
【0085】
中実針の成形結果は、
図18~
図22に示されるように、降下距離の相違に関わらず良好である。但し、降下距離が不足すると、成形された中実針が、母型4と比べて太く短くなる。
【0086】
図23に示すように、降下距離が0μm、200μm、400μm、及び600μmのときは、成形された中実針の全長は、母型4の全長よりも短い。降下距離を、母型4の全長の70%に相当する700μmとすると、中実針の全長と母型4の全長とが一致する。PLAシート2の加熱温度は190℃である。
【0087】
図24は実施形態1に係る医療用針の製造方法により加熱温度170℃で下降無しで製造された中実針を示す画像である。
図25は上記加熱温度170℃で200μm下降させて製造された中実針を示す画像である。
図26は上記加熱温度170℃で400μm下降させて製造された中実針を示す画像である。
図27は上記加熱温度170℃で600μm下降させて製造された中実針を示す画像である。
図28は上記加熱温度170℃で700μm下降させて製造された中実針を示す画像である。
図29は上記加熱温度170℃で製造された上記中実針の全長と下降距離との間の関係を示すグラフである。
【0088】
中実針の成形結果は、
図24~
図28に示されるように、PLAシート2の加熱温度190℃の場合と比較すると、成形された中実針の形状のくずれが目立つ。特に、降下距離を長く取った場合に、中実針の上部に膨らみが生じる。PLAシート2の加熱温度は、170℃より高くてもよく、180℃より高くてもよく、または190℃以上でもよい。PLAシート2の加熱温度は、210℃以下でもよい。
【0089】
図29に示すように、加熱温度が190℃である
図23の場合と同様に、降下距離が0μm、200μm、400μm、及び600μmのときは、成形された中実針の全長は、母型4の全長よりも短い。降下距離を、母型4の全長の70%に相当する700μmとすると、中実針の全長と母型4の全長とが一致する。PLAシート2の加熱温度は170℃である。降下距離は、母型4の全長の60%より長くてもよく、65%よりも長くてもよく、または70%以上でもよい。降下距離は、母型4の全長の100%以下でもよく、90%以下でもよく、80%以下でもよい。
【0090】
図30~
図32は側面に鋸歯状突起が形成された中実針を示す画像である。
【0091】
成形する医療用針の側面(外側面、内側面)に、様々な構造を付与することができる。ここでいう構造とは、突起、くぼみを指す。例えば本実施形態に際する実験においては、
図30~
図32に示すように、高さ2~10μm、幅5~50μmの鋸歯状突起(形状は薔薇の棘に似る)を有する外径200μm、全長1mmの中実針を作製した。この鋸歯状突起は蚊の吸血用口吻(口針とも呼称される)を模倣したものである。蚊の口針における鋸歯状突起は細い口針を穿刺対象に穿刺する補助機能があることが判明しており、本実施形態において作製した突起付きの医療用針でも、同様の効果が期待される。
【0092】
上記のような針側面への突起の付与は、従来の硬い押付型を使用した場合は成形不可能である。成形物が型に食い込んだ状態で成形されるため、離型時に突起が引っかかって正常な離型を妨げるからである。この場合、一般的には成形物が破壊され、一部が押付型の内部に残存する。
【0093】
これに対して、本実施形態では、柔軟な押付型1を利用しているため、離型時に押付型1が変形して突起部分での引っ掛かりを防止する(
図6)。
【0094】
本実施形態の方法により成形した針は直線形状を基本とするが、湾曲させることもできる。
【0095】
以上のように、押し付け(ナノインプリント)加工後にPLAシート2を降下させる(押付型1とPLAシート2とを少し離す)ことにより、成形物(中実針)の形状を母型に近づけることが可能となる。
【0096】
PLAシート2の降下を、行わないか、又は、降下が不十分である場合は、成形物が母型と比較して太くなり、そして、短くなる。特に成形物の根本側で太さが増す傾向がある。
【0097】
PLAシート2の降下を行うことで、成形物の形状が母型に近づく。本実施形態においては、降下距離を母型の全長の70%とすることで、最も良好な結果が得られた。
【0098】
【0099】
(表4)に示すように、成形加工時のPLAシート2の加熱温度は190℃が適していた。加熱温度が170℃の場合は、形の崩れ(針上部での膨らみ)が発生した。
【0100】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0101】
図33は実施形態2に係る中空針の母型の設計例を示す斜視図である。
【0102】
【0103】
高精度3次元プリンタを用いて作製する中空針の母型は、(表5)及び
図33に示すように、外径200μm、内径100μmの太い針と、外径100μm、内径50μmの細い針とについて、それぞれ、全長長さ400μm、700μm、1000μmの合計6種類作製された。
【0104】
【0105】
図34は実施形態2に係る医療用針の製造方法により製造された外径100μm、内径50μmの母型を示す電子顕微鏡像である。
図35は上記製造方法により製造された外径100μm、内径50μm、全長400μmの母型の電子顕微鏡平面像である。
図36は上記製造方法により製造された外径100μm、内径50μm、全長700μmの母型の電子顕微鏡平面像である。
図37は上記製造方法により製造された外径100μm、内径50μm、全長1000μmの母型の電子顕微鏡平面像である。
図38は実施形態2に係る医療用針の製造方法により製造された外径200μm、内径100μmの母型を示す電子顕微鏡像である。
図39は上記製造方法により製造された外径200μm、内径100μm、全長1000μmの母型の電子顕微鏡平面像である。
図40は上記製造方法により製造された外径200μm、内径100μm、全長700μmの母型の電子顕微鏡平面像である。
図41は上記製造方法により製造された外径200μm、内径100μm、全長400μmの母型の電子顕微鏡平面像である。
【0106】
図34~
図41に示されるように、細い針、太い針共に設計通り作成されている。
【0107】
図42は実施形態2に係る医療用針の製造方法により製造された外径100μm、内径50μmの中空針を示す電子顕微鏡像である。
図43は上記製造方法により製造された外径100μm、内径50μm、設計長400μmの中空針の電子顕微鏡平面像である。
図44は上記製造方法により製造された外径100μm、内径50μm、設計長700μmの中空針の電子顕微鏡平面像である。
図45は上記製造方法により製造された外径100μm、内径50μm、設計長1000μmの中空針の電子顕微鏡平面像である。
図46は実施形態2に係る医療用針の製造方法により製造された外径200μm、内径100μmの中空針を示す電子顕微鏡像である。
図47は上記製造方法により製造された外径200μm、内径100μm、設計長1000μmの中空針の電子顕微鏡平面像である。
図48は上記製造方法により製造された外径200μm、内径100μm、設計長700μmの中空針の電子顕微鏡平面像である。
図49は上記製造方法により製造された外径200μm、内径100μm、設計長400μmの中空針の電子顕微鏡平面像である。
【0108】
図42~
図49に示すように、各中空針とも、母型の全長よりも全長が短く成形されている。そして、中空針の直径は軸方向に沿って変化する傾向が現れている。
【0109】
本実施形態においては、押付型1が柔軟であることが原因となり、母型と成形物の形状・寸法に一部差異が見られる場合がある。このような場合は、加工時の変形を考慮して母型の形状を補正することにより、成形物が医療用針として必要な形状、寸法を得ることを可能にする。
【0110】
実施形態2では、成形した中空針の全長を補正する。中空針の全長の補正方法としては、まず、成形した中空針の走査型電子顕微鏡(SEM)画像から中空針の長さを測定する。そして、縮小率を、
(縮小率)=(成形物の全長)/(目標値(設計値))、
の式により計算する。
【0111】
【0112】
【0113】
次に、計算した縮小率の逆数を補正値として設定する。
【0114】
図50は外径100μmの中空針の根元からの距離を中空針の全長で除算した値と、上記中空針の各位置における直径と母型の直径との間の比率との間の関係を示すグラフである。
【0115】
縦軸は中空針の軸方向に沿った各位置における直径(d)と母型の直径(d0)との間の比率(d/d0)を示す。横軸は中空針の根元からの距離(x)を中空針の全長(L)で除算した値(x/L)を示す。
【0116】
走査電子顕微鏡(SEM)を利用して、外径100μm、全長の設計長400μm、700μm、及び1000μmの各中空針の根元から等間隔に10点の位置の直径を計測し、最小二乗法を用いた近似曲線から各位置における直径(d)を推測した。そして、この推測結果に基づいて、母型の設計値に対する成形物(中空針)の直径の拡大率を計算した。
【0117】
図51は外径200μmの中空針の根元からの距離を中空針の全長で除算した値と、上記中空針の各位置における直径と母型の直径との間の比率との間の関係を示すグラフである。縦軸及び横軸は
図50と同様である。
【0118】
図50の外径100μmの中空針の場合と同様の手法により、母型の設計値に対する成形物(中空針)の直径の拡大率を計算した。
【0119】
図52は実施形態2に係る補正母型の観察画像である。
【0120】
図50及び
図51で前述した母型の設計値に対する成形物(中空針)の直径の拡大率に基づく補正値により、中空針の補正母型を作製した。そして、この補正母型に基づいて、前述した補正前の中空針と同様の成形条件で熱ナノインプリント法により、前記押付工程、前記後退工程、及び前記離間工程とを実施して補正中空針を作製した。
【0121】
図53は補正前の外径100μm、内径50μmの中空針を示す画像である。
図54は補正母型に基づいて成形された外径100μm、内径50μmの補正中空針を示す画像である。
【0122】
図53に示すように、補正前の中空針は、いずれも、先端部が膨らんでおり、全長が母型の設計値よりも短い。
図54に示すように、補正中空針は、いずれも、先端部の膨らみが補正前の中空針よりも抑えられており、補正の効果により、先端部に近づくにつれて直径が小さくなっている。
【0123】
【0124】
図55は補正前の外径200μm、内径100μmの中空針を示す画像である。
図56は補正母型に基づいて成形された外径200μm、内径100μmの補正中空針を示す画像である。
【0125】
図55に示すように、補正前の中空針は、
図53で前述した補正前の外径100μm、内径50μmの中空針と同様に、いずれも、先端部が膨らんでおり、全長が母型の設計値よりも短い。
図56に示すように、補正中空針は、
図54で前述した外径100μm、内径50μmの補正中空針と同様に、先端部の膨らみが補正前の中空針よりも抑えられており、全長1000μmの補正中空針の場合、補正の効果により、全長が母型の設計値よりも長くなっている。
【0126】
概ね補正に成功した。但し、外径100μm、全長700μmの場合のみ、過剰補正により補正前よりも設計値を超過した。
【0127】
【0128】
このように、本実施形態に係る医療用針の製造方法は、押付工程の前に、医療用針の母型を作製する母型作製工程と、離間工程により製造された医療用針の寸法と母型の寸法とに基づいて補正値を設定し、この補正値に基づいて補正母型を作製する補正母型作製工程と、この補正母型に基づいて、押付工程、後退工程、及び離間工程を実施して補正医療用針を作製する補正医療用針作製工程とをさらに包含する。
【0129】
もし得られた成形物の寸法と目標値の誤差が許容範囲を超過していた場合は、成形物と使用した補正母型の寸法比を求め、上記と同様の工程により補正母型の再作製を行う。そして、成形物の寸法と目標値の誤差が許容範囲以下になるまで本工程を繰り返す。
【0130】
〔実施形態3〕
本発明のさらに他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0131】
図57は実施形態3に係るランセットポイント針の母型を示す画像である。
【0132】
前述した中空針と同様に、外径200μm、内径100μmの太い針と外径100μm、内径50μmの細い針とについて、それぞれ、全長長さ400μm、700μm、及び1000μmの6種類の母型を作製した。各ランセットポイント針の母型のポイント形状は、全長によらず一定の形状とした。
【0133】
【0134】
そして、中空針と同様の成形条件で熱ナノインプリント法により、前記押付工程、前記後退工程、及び前記離間工程とを実施して、各ランセットポイント針を成型した。
【0135】
図58は母型に基づいて成形されたランセットポイント針を示す画像である。
【0136】
一部のランセットポイント針では、母型のランセットポイント形状の再現に成功したが、上記成形条件では、成形不良のランセットポイント針もみられる。
【0137】
図59は降下距離を900μmにすることにより成形された外径100μmのランセットポイント針を示す画像である。
図60は上記ランセットポイント針の先端付近の拡大画像である。
図61は降下距離を900μmにすることにより成形された外径200μmのランセットポイント針を示す画像である。
図62は上記ランセットポイント針の先端付近の拡大画像である。
【0138】
前述した中空針の成形条件における最適な降下距離700μmを900μmに変更することにより、ランセットポイント形状に改善が見られ、
図57に示される全長長さ、外径、内径がそれぞれ異なる6種類のランセットポイント針を、実施形態2に係る成型方法により成形することができた。上記ランセットポイント針の降下距離以外の成形条件は、実施形態2に係る中空針の成形条件と同様である。
【0139】
このように、降下距離は、ランセットポイント針の全長の90%が最適値となる。
【0140】
中空針、特にランセットポイント針の場合、降下距離は、母型4の全長の70%より長くてもよく、80%よりも長くてもよく、または90%以上でもよい。降下距離は、母型4の全長の110%以下でもよく、100%以下でもよい。
【0141】
実施形態1~3に係る医療用針の製造方法、及び、医療用針は、経皮投薬用マイクロニードル、皮下へのヒアルロン酸注入、採血用注射針、及び血液検査用ニードルパッチ等に応用することができ、また、医療分野、化粧品分野に利用することができる。
【0142】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0143】
1 押付型
2 PLAシート(生分解性樹脂)
3 医療用針
4 母型
5 側面
6 鋸歯状突起
7 先端
8 ナノインプリント装置
9 上基板
10 下基板