IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日星電気株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-編組導体 図1
  • 特開-編組導体 図2
  • 特開-編組導体 図3
  • 特開-編組導体 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022075607
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】編組導体
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/12 20060101AFI20220511BHJP
   H01R 35/02 20060101ALN20220511BHJP
【FI】
H01B5/12
H01R35/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021179922
(22)【出願日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2020184444
(32)【優先日】2020-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000226932
【氏名又は名称】日星電気株式会社
(72)【発明者】
【氏名】河邊 雅行
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 優介
(72)【発明者】
【氏名】小林 拓磨
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、高圧大電流が流れる高圧用配線材料として使用可能であって、放熱性、柔軟性(汎用性)、絶縁性に優れ、さらに省スペース化が可能な編組導体を提供することにある。
【解決手段】導電性を有する複数本の線状材を、チューブ状に編組する導体であって、線状材は、複数本の素線を撚り合わせた撚線構造であることを特徴とする。また、編組導体の形状は扁平形状からなり、線状材の撚線構造は集合撚り構造であることが好ましい。

【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する複数本の線状材を編組する導体であって、
該線状材は、複数本の素線を撚り合わせた撚線構造であることを特徴とする編組導体。
【請求項2】
該編組導体はチューブ状であることを特徴とする、
請求項1に記載の編組導体。
【請求項3】
該編組導体の形状は扁平形状からなり、長径と短径の比率は8:1~2:1であることを特徴とする、
請求項1又は2に記載の編組導体。
【請求項4】
該線状材の撚線構造は、集合撚り構造であることを特徴とする、
請求項1~3の何れか一項に記載の編組導体。
【請求項5】
該集合撚り構造の撚りピッチは、線状材の外径の10倍以上100倍以下であることを特徴とする、
請求項4に記載の編組導体。
【請求項6】
該線状材を構成する素線径は0.05mm以上2.5mm以下であることを特徴とする、
請求項1~5の何れか一項に記載の編組導体。
【請求項7】
編組角度は5°以上54°以下であることを特徴とする、
請求項1~6の何れか一項に記載の編組導体。
【請求項8】
通電試験における導体表面の温度上昇率が、該編組導体と同断面積の丸形状の導体より小さくなるよう形成されることを特徴とする、
請求項1~7の何れか一項に記載の編組導体。
【請求項9】
外被を有することを特徴とする、
請求項1~8の何れか一項に記載の編組導体。
【請求項10】
該外被の材質は、連続使用温度が90℃以上からなることを特徴とする、
請求項9の何れか一項に記載の編組導体。
【請求項11】
高圧用配線材料として用いられることを特徴とする、
請求項1~10の何れか一項に記載の編組導体。
【請求項12】
該線状材の少なくとも一部に、形状保持部材を有することを特徴とする、
請求項1~11に記載の編組導体。
【請求項13】
該形状保持部材は、導電性を有する線状材であって、外径φ0.6mm以上の単線又は撚線であることを特徴とする、
請求項12に記載の編組導体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な用途に用いられる編組導体であって、例えば、配電盤や制御盤、蓄電池、車両内部に用いられる制御回路配線等で、高圧大電流が流れる高圧用配線材料として、好適に使用される編組導体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な配線材料としては、バスバー(ブスバー)と呼ばれる銅やアルミニウム等から成る板状の導体が知られている。バスバーは、形状を容易に変形できないため、使用箇所に応じて新たなバスバーを作製する必要があり汎用性に乏しい。
【0003】
また、高圧用途である場合や狭小部で使用する場合は絶縁性が求められ、絶縁被覆が必要とされる場合がある。一般的な電線で代用可能であるが、バスバーのような板形状に比べて省スペース化に適さないという問題がある。
【0004】
編組導体を用いる高圧用配線材料としては、特許文献1に、車両用のフレキシブルバスバーとして編組線(編組導体)が記載されている。編組線はスズめっき銅線を平編みする構造である。板状のバスバーと比較して、使用箇所に限定されず汎用性に優れる上、柔軟性や伸縮性に優れる。その一方で絶縁性の問題がある。
【0005】
近年、電気自動車やハイブリッド自動車、鉄道等の車両用途をはじめ、高圧大電流下で使用される高圧用配線材料としては、高圧用配線材料の発熱が問題となっている他、更なる柔軟性(汎用性)、絶縁性、省スペース化が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-41330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、高圧大電流が流れる高圧用配線材料として使用可能であって、放熱性、柔軟性(汎用性)、絶縁性に優れ、さらに省スペース化が可能な編組導体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は以下のとおりである。
【0009】
(1)導電性を有する複数本の線状材を編組する導体であって、線状材は、複数本の素線を撚り合わせた撚線構造であることを特徴とする。
(2)編組導体はチューブ状であることが好ましい。
(3)編組導体の形状は扁平形状からなり、長径と短径の比率は8:1~2:1であることが好ましい。
(4)撚線構造は集合撚り構造であることが好ましい。
(5)集合撚り構造の場合、撚りピッチは線状材の外径の10倍以上100倍以下であることが好ましい。
(6)線状材を構成する素線径は0.05mm以上2.5mm以下であることが好ましい。
(7)編組角度は5°以上54°以下であることが好ましい。
(8)通電試験における導体表面の温度上昇率が、編組導体と同断面積の丸形状の導体より小さくなるよう形成されることが好ましい。
(9)編組導体は外被を有することが好ましく、外被の材質は連続使用温度が90℃以上からなることが好ましい。
(10)高圧用配線材料として用いられることが好ましい。
(11)線状材の少なくとも一部に、形状保持部材を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の編組導体によれば、編組を構成する線状材が撚線構造から成るため、柔軟性(汎用性)や屈曲性に優れる上、一般的な編組導体と比較して導体断面積が大きくなるため、導体抵抗が低下することで発熱が抑制される。通電時の温度上昇を抑制できるため、接続先の電子機器の故障防止や作業者のやけど等のリスク低減に寄与する。また、編組導体の厚みが増す分エッジ部がなくなるため、より高圧大電流下の高圧用配線材料として安定して使用可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る編組導体の一例である。
図2】本発明に係る編組導体の他の一例(形状保持部材を使用する例)である。
図3】従来技術の編組導体の一例である。
図4】本発明に係る編組導体の通電試験による電流値と温度上昇の測定値である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1において、本発明である編組導体1は、導電性を有する複数本の線状材2を編組する導体である。平編み状やチューブ状(中空状)等の編組導体1が考えられるが、高圧用途や生産性の観点ではチューブ状が好ましい。
【0013】
さらに線状材2は、複数本の素線を撚り合わせた撚線構造であることを特徴とする。線状材2が撚線構造であるため、柔軟性(汎用性)や屈曲性に優れる上、図3に示すように従来技術の一般的な編組導体と比較して導体断面積が大きくなるため、導体抵抗が低下することで発熱が抑制される。また、編組導体1の厚みが増す分エッジ部がなくなるため、より高圧大電流下の高圧用配線材料として安定して使用可能となる。
【0014】
編組導体1の形状は特に限定されないが、扁平形状が好ましい。扁平形状とは、例えば楕円形状や矩形形状であり、特に好ましくは略矩形形状である。
【0015】
編組導体1の長径と短径は特に限定されないが、少なくとも8:1より正方形に近いことが好ましく、特に好ましくは4:1~2:1である。長径と短径の定義について、編組導体1の直径のうち最大の長さを長径、最小の長さを短径とする。8:1の場合は、短径方向の曲げ性に優れる他、表面積が増えるため放熱性も向上する。4:1~2:1であると、短径方向、長径方向の両方向への曲げ性に優れるため、配線の自由度が増し好ましい。これらの比率に施された扁平形状の編組導体1は、例えば正方形となるよう重ねて設置することで、省スペース化に寄与する。編組導体1に外被が施される場合は、外被を含めた比率が上記となることが好ましい。
【0016】
編組導体1の長短径の比率についてさらに述べると、単相交流または直流で使用される2本使いの電源線においては、長径と短径の比率が2:1であることが好ましい。また、三相交流で使用される電源線においては、3:1で設計されることが好ましい。アース線として使用される場合、表面放散熱抵抗(ケーブルと周囲の空気との温度差に対応する熱抵抗)が最大値となる長径と短径の比率で設計されることが好ましい。
【0017】
撚線構造は特に限定されないが、複数本の素線を束ねて同一方向に撚られた集合撚り構造が好ましい。他の例として、集合撚り構造の導体をさらに複数本束ねて撚られた複合撚り構造、あるいは、同芯撚り構造等であってもよい。
【0018】
集合撚り構造の導体の撚りピッチは特に限定されないが、線状材2の外径の10倍~100倍が好ましい。柔軟性や編組導体1の形状を扁平状に維持する観点で、特に好ましくは30倍~80倍である。また、振動等に対する機械強度の観点では、15倍~35倍が好ましい。
【0019】
線状材2(例えば集合撚り構造の導体)の外径は特に限定されないが、φ0.50mm~φ2.5mm(0.15sq~3.0sq相当)であって、線状材2を構成する素線径はφ0.05mm~φ0.50mmが好ましい。
【0020】
線状材2の材質は導電性を有する材料であって、特に限定されない。例えば、銅線や合金線、アルミニウム線などが挙げられ、好ましくは裸軟銅線またはアルミニウム線である。適宜、錫めっき、銀めっき、ニッケルめっきを表面に施してもよい。線状材2は、全て導電性を有する材料であることが好ましいが、適宜、無機繊維等、絶縁性の材料を混合しても良い。
【0021】
編組構成は特に限定されないが、打数は12打~96打が好ましい。編組角度は、軸方向を0°とする場合、5°~54°が好ましく、柔軟性の観点においてさらに好ましくは5°~30°、最も好ましくは10°~30°である。形状を扁平状等に維持する観点において、編組密度は60%~100%が好ましく、さらに好ましくは80%~100%、最も好ましくは90%~100%である。
【0022】
線状材2の撚線構造のピッチ、及び、編組角度の組合せは特に限定されないが、好ましくは、集合撚り構造のピッチ30倍~80倍、かつ、編組角度5°~54°、好ましくは5°~30°が望ましい。編組角度が小さくなるほど導体抵抗が小さくなり、また重量も小さくなることから、特に輸送機器の高圧用配線材料(電源線)として好適である。
【0023】
通電試験における、編組導体1の表面温度の上昇率について、編組導体1と同じ断面積の丸形状導体より小さくなるよう形成されることが好ましい。通電時の編組導体1の表面温度を測定し、横軸を電流値(2乗)[A]、縦軸を温度上昇[℃]としてプロットすると比例関係のグラフとなる。編組導体1の傾きは丸形状導体と比べて小さくなり、編組導体1は通電試験における表面温度の上昇率が小さいことが示される(図4参照)。線状材2が撚線構造であり、さらに扁平形状であるほど、編組導体の表面積が大きくなるため、放熱効果により温度上昇率を小さく抑えられる。
【0024】
さらに、図2に示すように、本発明の編組導体1のうち、線状材2の少なくとも一部に、形状保持部材3を用いることで形状保持性を付与することが可能である。耐屈曲性の観点において、形状保持部材3は他の線状材2と一緒に編組される構造が好ましい。編組導体1に編み込むことで、比較的容易な製法で形状保持性が得られる。
【0025】
形状保持部材3は、導電性を有する線状材であって、外径はφ0.6mm~φ2.6mmの単線又は撚線が好ましい。単線や撚線の断面形状は、円形の他、楕円、矩形等であっても良い。形状保持部材3の外径と、他の線状材2の外径の比率は、形状保持性及び外観の観点において、同等±20%であることが好ましい。
【0026】
形状保持部材3の材質は特に限定されないが、例えば鋼、ステンレス、ニッケル、ニッケル合金(アルメル、クロメル)、銅、アルミニウム、などが挙げられ、必要に応じてスズ等のめっきを施してもよい。電気特性の観点から、他の線状材2と同じ材質であることが好ましい。電気特性が考慮されない場合は、プラスチックも好適に用いられる。プラスチックは、所望の曲げ状態で加熱・冷却することで癖付けされ、形状保持が可能となる。
【0027】
形状保持部材3の使用数量は特に限定されないが、打数に対し5~20%程度の本数施されることが好ましい。
【0028】
形状保持部材3は、必ずしも編組に組み込まれる必要はなく、例えば、編組導体1の内側に接して縦添えされる構造であっても良い。この場合、長手方向に引張に対し強く、編組構造の伸縮を抑制することで径変化し難い効果が得られる。
【0029】
また、絶縁性向上の観点で編組導体1の周囲に外被を施すことが好ましい。外被の材質は特に限定されないが、連続使用温度が90℃以上であることが好ましい。ここで、連続使用温度とは材料を40000時間一定の温度の大気中に放置した場合、その物性値が初期値から50%劣化する温度である。本願発明の編組導体1は、発熱抑制効果に優れるため比較的低い温度の絶縁性材料から使用可能である。薄肉による細径化の点でふっ素樹脂、柔軟性の点でシリコーンゴムが好ましく、その他ポリエチレン、PVC、ふっ素ゴム、ポリエステル、ナイロン、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)、架橋を含むポリエチレン混和物等が挙げられる。
【0030】
用途は特に限定されず、高圧用配線材料として、様々な用途で使用可能である。ここで高圧用とは、AC30V以上又はDC60V以上とする。被覆の表面積が増えることによる放熱性向上の観点から、大電流用のアース線として用いられることが好ましい。また、編組導体1が複数本の撚り線から構成された矩形の構造である場合は、丸型の導体と比較して表面積が大きく、高周波電源のリード線としての利用も好ましい。
【0031】
以下、本発明の編組導体1について実施例を挙げ、さらに具体的に説明するが、本発明の範囲について、これらに限定されるものではない。
【実施例0032】
実施例は本発明の編組導体1であり、実施例1~7である。仕様について、表1に詳細を示す。
【0033】
実施例1~3は、線状材2として集合撚り構造を用い、編組ピッチ(編組角度)がそれぞれ異なる仕様である。編組導体1の形状は扁平形状のうち略矩形であって、長径と短径の比率は2:1である。
【0034】
実施例4は、実施例1~3と同等サイズの複合撚り構造からなる線状材2を用いる編組導体1である。
【0035】
実施例5は、実施例1~3と異なる編組構造だが、同等サイズの編組導体1であって、長径と短径の比率は3:1である。
【0036】
実施例6、7は、実施例1~5より太径の線状材2である。いずれも集合撚り構造で、長径と短径の比率はそれぞれ3:1、4:1である。
【0037】
従来例は、一般的な円形状の導体であって、サイズは実施例6、7と同じである。
【0038】
実施例について導体抵抗の測定を行い、結果を表1に示す。測定方法は、JIS C 2525に基づき、ダブルブリッジ法にて導体抵抗[Ω/km]を測定する。測定長は1mとする。
【0039】
また、実施例6、7及び従来例について、通電試験における編組導体の表面温度上昇率の測定結果を図4に示す。通電の電流値毎に編組導体1の表面温度を測定し、横軸を電流値(2乗)[A]、縦軸を温度上昇[℃]としたグラフである(周囲温度20℃)。
【0040】
【表1】
【0041】
実施例1~3より、編組角度5°以上30°以下では安定した導体抵抗が得られ、編組角度が小さいほど、導体抵抗が低いことが分かる。導体抵抗が低いため発熱を抑制でき、高圧用配線材料に適していると言える。実施例4の複合撚り構造、及び、実施例5の長径と短径の比率3:1で構成される編組導体1も同様に導体抵抗が低く、安定して高圧用配線材料として使用可能である。特に、実施例5は表面積が広い点で放熱効果が期待され、好適である。
【0042】
通電試験の結果(図4)より、実施例6、7の温度上昇率は従来例小さく、放熱性に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の編組導体は、通電時の導体表面の温度上昇を抑えられるため、配電盤や制御盤、蓄電池、車両内部に用いられる制御回路配線等で高圧大電流が流れるバスバー等において好適に使用され、これらに限定されず、アース線、自動車用パワー電線、高周波電源リード線、急速充電ケーブル、インレットハーネス、ドローン用電線などにも応用でき、様々な用途において用いられる。
【符号の説明】
【0044】
1、10 編組導体
2、20 線状材
3 形状保持部材
図1
図2
図3
図4