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特開2022-75614遊離AIMに特異的なモノクローナル抗体およびその利用
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  • 特開-遊離AIMに特異的なモノクローナル抗体およびその利用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022075614
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】遊離AIMに特異的なモノクローナル抗体およびその利用
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20220511BHJP
   G01N 33/531 20060101ALI20220511BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20220511BHJP
   C07K 17/00 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N33/531 A
C07K16/18 ZNA
C07K17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180177
(22)【出願日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2020185995
(32)【優先日】2020-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】511288304
【氏名又は名称】宮崎 徹
(71)【出願人】
【識別番号】000120456
【氏名又は名称】栄研化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 徹
(72)【発明者】
【氏名】浅尾 麻由
(72)【発明者】
【氏名】稲森 彩香
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA60
4H045DA76
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】 尿検体を含む様々な検体中の遊離AIMを特異的、高感度、かつ汎用的に検出しうるモノクローナル抗体を提供すること。
【解決手段】 AIMのSRCR2ドメインのC末端側の領域からSRCR3ドメインのN末端側の領域を認識するモノクローナル抗体を用いることにより、尿検体を含む様々な検体中の遊離AIMを特異的、高感度、かつ汎用的に検出することが可能であることを見出だした。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離AIMに特異的なモノクローナル抗体であって、AIMの1~229位からなるポリペプチドには結合せず、AIMの1~259位からなるポリペプチドに結合する遊離AIMに特異的なモノクローナル抗体を用いて遊離AIMを免疫学的に分析する方法。
【請求項2】
分析が免疫凝集法、酵素免疫測定法、RIA法、CLIA法およびイムノクロマトグラフィー法のいずれかにより行われる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
分析がサンドイッチ法で行われる請求項1に記載の方法。
【請求項4】
分析が免疫凝集法で行われる請求項1に記載の方法。
【請求項5】
血清、血漿、全血および尿から成る群から選択される生体試料中の遊離AIMを免疫学的に分析する請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
生体試料が尿である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の方法を用いた腎疾患の検査方法。
【請求項8】
遊離AIMに特異的なモノクローナル抗体であって、AIMの1~229位からなるポリペプチドには結合せず、AIMの1~259位からなるポリペプチドに結合するモノクローナル抗体。
【請求項9】
試料中の遊離AIMを検出するための組成物であって、請求項8に記載のモノクローナル抗体を含む組成物。
【請求項10】
試料中の遊離AIMを検出するための固相であって、請求項8に記載のモノクローナル抗体が結合した固相。
【請求項11】
不溶性担体粒子である請求項10に記載の固相。
【請求項12】
試料中の遊離AIMを免疫学的に分析するためのキットであって、請求項9に記載の組成物または請求項10に記載の固相を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊離AIMに特異的なモノクローナル抗体、当該モノクローナル抗体を利用した遊離AIMの免疫学的分析法、当該モノクローナル抗体を含む組成物、および当該組成物を含むキットに関する。
【背景技術】
【0002】
AIM(apoptosis inhibitor of macrophage;CD5L、api6、Spαとも称する)は、組織マクロファージが特異的に産生する約50kDaの分泌型タンパク質として知られ(非特許文献1)、急性腎障害、脂肪肝、肝細胞癌、肥満、真菌性腹膜炎、多発性硬化症などさまざまな疾患に対し抑制的な効果をもち、幅広い疾患に対する新規治療薬となる可能性が明らかにされている。
【0003】
AIMの構造は、システイン残基を多く含む特異的な配列であるscavenger receptor cysteine-rich(SRCR)ドメインがタンデムに3つつながれた構造をしており、それぞれのシステイン残基は各ドメイン内で互いにジスルフィド結合することで、コンパクトな球状の立体構造をしていると考えられている。
【0004】
AIMは、様々な分子と相互作用することが報告されている。その結合パートナーとして様々な分子が報告されている。例えば、lipoteichoic acid(LTA)やlipopolysaccharide(LPS)などの細菌・菌類の病原体関連分子パターン(pathogen-associated molecular patterns:PAMPs)と結合し、細菌を凝集させる能力を持つことが知られている(非特許文献2)。また、体内にはAIMを細胞表面に結合する、あるいは細胞内に取り込む細胞も多く存在し、産生細胞であるマクロファージ自身への取り込みのほか、脂肪細胞ではスカベンジャー受容体CD36を介してエンドサイトーシスにより取り込まれ、脂肪分解を誘導することが報告されている(非特許文献3)。
【0005】
また、AIMは、これまで、血液中ではIgMに結合することが知られている。近年では、AIMが尿中へ排出されずに血液中で安定的に存在するためにAIMとIgMの結合が重要であること、血清検体中においてAIMの多くはIgM結合型AIMとして存在しており、単量体で存在することがほとんどないことが報告されている(非特許文献4、5)。
【0006】
AIMは、5量体構造のIgMと結合することによって尿中に排泄されなくなり、結果として約5μg/mLという高い血中濃度を維持しているが、その機能は不活性化している。そして、AIMは疾患発症時にIgMから解離、活性化して、疾患の治癒を促進することが明らかになっている(非特許文献4)。
【0007】
血中遊離AIMは特に、肝疾患や急性腎障害の診断に用いられることが報告されている(特許文献1および特許文献2)。
【0008】
血中でIgMから解離した遊離AIMは、糸球体の濾過膜を通過し、近位尿細管へと移行する。遊離AIMは尿細管の中の死細胞塊に付着し、周囲の細胞の貪食を促進することで急性腎障害の治癒に貢献し、この時、遊離AIMは尿中に排出される。実際、急性腎障害患者では、血中遊離AIMおよび尿中AIM濃度の顕著な増大が認められることが記載されている(非特許文献6)。
【0009】
ところで、これまでの報告では、IgM結合型AIMは糸球体の濾過膜を通過できないことから、尿中には遊離AIMのみが存在すると考えられていた。このため、尿中ではIgM結合型AIM、遊離AIMのいずれにかかわらずAIMを測定できればよく、IgM結合型AIMにも交差反応を示す測定法(IgM結合型AIM、遊離AIM両方に反応する測定法)で尿検体を測定しても、遊離AIMを定量できると考えられてきた。
【0010】
このため、遊離AIMを特異的に測定する方法や、遊離AIMに特異的な抗体の報告例はわずかである。例えば、特許文献3では、AIMのSRCR2ドメインを認識するとされるモノクローナル抗体(No.12抗体)が、SRCR3ドメインを認識するとされる特定のモノクローナル抗体との組合せで、NASH-HCC患者血清中の遊離AIMを特異的に検出できるとされている(図1C、D)。しかしながら、No.12抗体が様々な抗体との組合せで汎用的に遊離AIMを特異的に認識できるか否かは不明であり、また、尿検体中で遊離AIMを特異的に検出できることは示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2017/022315号
【特許文献2】国際公開第2017/538533号
【特許文献3】国際公開第2020/158856号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Miyazaki T. et al., J Exp Med 189:413-422, 1999
【非特許文献2】Sarrias MR et al., J Biol Chem 280:35391-35398, 2005
【非特許文献3】Kurokawa J et al., Cell Metab 11:479-492, 2010
【非特許文献4】宮崎ら, 日本臨牀71巻9号(2013-9), 1681頁-1689頁
【非特許文献5】Arai S. et al., ScienceDirect 3(4):1187-1198, 2013
【非特許文献6】北田研人ら, 日腎会誌 58(8):1234-1237, 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、尿検体を含む様々な検体中の遊離AIMを特異的、高感度、かつ汎用的に分析しうるモノクローナル抗体を提供することにある。本発明のさらなる目的は、当該モノクローナル抗体を用いた遊離AIMの免疫学的分析方法、並びに、当該モノクローナル抗体を含む組成物およびキットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、AIMのSRCR2ドメインのC末端側の領域からSRCR3ドメインのN末端側の領域を認識するモノクローナル抗体が遊離AIMに特異的に結合することを見出した。当該モノクローナル抗体は、血清検体のみならず、尿検体中の遊離AIMを特異的に検出することができる。また、当該モノクローナル抗体は、免疫凝集法および酵素免疫測定法、特に、サンドイッチELISA法のみならず、BLEIA(登録商標)法においても優れた検出感度と特異性を有し、幅広い免疫学的検出法に利用可能であった。さらに、これら免疫学的検出法においては、AIMを認識する様々な抗体(例えば、ポリクローナル抗体、AIMのSRCR2ドメインのN末端側の領域を認識する抗体など)との組合せが可能であった。以上から、本発明者らは、当該モノクローナル抗体を用いれば、尿検体を含む様々な検体中の遊離AIMを特異的、高感度、かつ汎用的に検出することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明は、より詳しくは、以下を提供するものである。
【0016】
[1] 遊離AIMに特異的なモノクローナル抗体であって、AIMの1~229位からなるポリペプチドには結合せず、AIMの1~259位からなるポリペプチドに結合する遊離AIMに特異的なモノクローナル抗体を用いて遊離AIMを免疫学的に分析する方法。
【0017】
[2] 分析が免疫凝集法、酵素免疫測定法、RIA法、CLIA法およびイムノクロマトグラフィー法のいずれかにより行われる[1]に記載の方法。
【0018】
[3] 分析がサンドイッチ法で行われる[1]に記載の方法。
【0019】
[4] 分析が免疫凝集法で行われる[1]に記載の方法。
【0020】
[5] 血清、血漿、全血および尿から成る群から選択される生体試料中の遊離AIMを免疫学的に分析する[1]~[4]のいずれか1に記載の方法。
【0021】
[6] 生体試料が尿である[5]に記載の方法。
【0022】
[7] [1]~[6]のいずれか1に記載の方法を用いた腎疾患の検査方法。
【0023】
[8] 遊離AIMに特異的なモノクローナル抗体であって、AIMの1~229位からなるポリペプチドには結合せず、AIMの1~259位からなるポリペプチドに結合するモノクローナル抗体。
【0024】
[9] 試料中の遊離AIMを検出するための組成物であって、[8]に記載のモノクローナル抗体を含む組成物。
【0025】
[10] 試料中の遊離AIMを検出するための固相であって、[8]に記載のモノクローナル抗体が結合した固相。
【0026】
[11] 試料中の遊離AIMを免疫学的に分析するためのキットであって、[9]に記載の組成物または[10]に記載の固相を含むキット。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、様々な検体における遊離AIMを特異的に分析することが可能となった。本発明によれば、例えば、腎疾患によって尿中に排出される遊離AIMを、従来法よりも正確に測定できる。本発明の抗体によって、初めて、尿中に、遊離AIMの他にIgM結合型AIMが存在することが見出されたが、このIgM結合型AIMは、腎障害以外の疾患(尿路からの出血等)に由来する可能性がある。従って、尿中の遊離AIMを特異的に認識可能な本発明のモノクローナル抗体を利用した免疫学的測定法により、腎障害以外の疾患(尿路からの出血等)と区別して、腎疾患(特に、急性腎障害)を正確に診断または診断を補助することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】ゲル濾過クロマトグラフィーにより分画したrAIMを特定のモノクローナル抗体の組み合わせ(試薬1)を用いたサンドイッチELISA法により検出した結果を示す図である。
図2】ゲル濾過クロマトグラフィーにより分画した血清中のAIMを、様々な抗体の組み合わせ(試薬1~5)を用いたサンドイッチELISA法により検出した結果を示す図である。
図3A】抗体クローン(クローン2、クローン8、クローン9)のエピトープマッピングの結果を示す図である。
図3B】抗体クローン(クローン24)のエピトープマッピングの結果を示す図である。
図4】尿検体中のAIMを特定の抗体の組み合わせ(試薬1および2)を用いたサンドイッチELISA法により検出した結果を示す図である。
図5】血清検体中のAIMを、特定の抗体の組み合わせ(試薬3、試薬7)を用いたBLEIA法、および特定の抗体の組み合わせ(試薬1)を用いたサンドイッチELISA法により各々検出した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、遊離AIMに特異的なモノクローナル抗体を提供する。
【0030】
本発明における「AIM」は、組織マクロファージにより産生される、約40~50kDaの分泌型の血中タンパク質である。ヒト由来のAIMの典型的なアミノ酸配列を配列番号:1に示す。ヒト由来のAIMは、システインを多く含む3つのSRCRドメインを含んでおり、SRCR1ドメインは、配列番号:1の24~124位に相当し、SRCR2ドメインは、配列番号:1の138~238位に相当し、SRCR3ドメインは、配列番号:1の244~346位に相当する。「遊離AIM」とは、IgMと結合していない状態で存在するAIMを意味し、本発明においては、IgMとの複合体の状態で存在する複合体AIM(以下、IgM結合型AIMともいう)との対比で用いられる。
【0031】
本発明において「遊離AIMに特異的」とは、実質的にIgM結合型AIMと交差反応しない、すなわち遊離AIMに対する反応性に対し、IgM結合型AIMに対する反応性が十分に低いことを意味する。十分に低い、とは、遊離AIMとの反応性に対するIgM結合型AIMとの反応性の比が20%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは6%以下、さらに好ましくは5%以下である。これらAIMへの反応性は、例えば、評価対象となるモノクローナル抗体を用いたサンドイッチELISA法により評価することができる。サンドイッチELISA法において評価対象となるモノクローナル抗体と組み合わせる抗体としては、AIMを認識できる限り特に制限はなく、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよい。組み合わせるモノクローナル抗体は、評価対象となるモノクローナル抗体とAIMへの結合において競合しないこと(すなわち、異なるエピトープを認識すること)が好ましい。
【0032】
サンドイッチELISA法は、例えば、実施例1に記載の方法に準じて行うことができる。具体的には、まず、評価対象となるモノクローナル抗体を固相化した固相化プレートを作製し、固相化プレートに、試料(遊離AIMを含む試料またはIgM結合型AIMを含む試料)を添加して反応させる。次いで、洗浄後ポリクローナル抗AIM抗体を添加して反応、洗浄後、さらに、標識した二次抗体を添加して反応、洗浄後、最後に、標識のシグナル強度を測定する。標識として、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を用いた場合、発色基質を添加後、マイクロプレートリーダーを用いて、シグナルを測定することができる。測定の結果、例えば、遊離AIMへの反応性が100でIgM結合型AIMへの反応性が4の場合、評価対象となるモノクローナル抗体はIgM結合型AIMへの反応性が遊離AIMへの反応性の4%であるため、遊離AIM特異的抗体と判定することができる。
【0033】
本発明のモノクローナル抗体の好ましい態様は、AIMの1~229位からなるポリペプチドには結合せず、AIMの1~259位からなるポリペプチドに結合するモノクローナル抗体である。当該モノクローナル抗体の認識部位は、典型的には、AIMのSRCR2ドメイン(138~238位)のC末端側の領域からSRCR3ドメイン(244~346位)のN末端側の領域である。特に好ましいモノクローナル抗体は、AIMの230~259位の領域、より好ましくは230~244位の領域を認識するモノクローナル抗体であり、具体例としては、本願実施例に記載のクローン2、クローン24が挙げられる。
【0034】
本発明のモノクローナル抗体の作製においては、一般的に知られている方法で行えばよい。例えば、本願実施例に記載のように、まず、組換えAIM(rAIM)を免疫原としてハイブリドーマを作製し、その中から、当該AIMに対して高い反応性を示すモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選抜し、さらに、選抜したハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体のエピトープ解析を行って、上記特徴を有するモノクローナル抗体を産生するクローンを同定すればよい。一方、免疫原として、AIMの特定の領域(例えば、SRCR2ドメインのC末端側の領域からSRCR3ドメインのN末端側の領域)の部分ペプチドを用いてもよい。
【0035】
ハイブリドーマ法としては、代表的には、ケーラーおよびミルスタインの方法(Kohler&Milstein,Nature,256:495(1975))が挙げられる。この方法における細胞融合工程に使用される抗体産生細胞は、抗原(標的タンパク質、その部分ペプチド、またはこれらを発現する細胞など)で免疫された動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、サル、ヤギ、ヒツジ、ロバ、ラクダ、アルパカ、ニワトリ)の脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血白血球などである。免疫されていない動物から予め単離された上記の細胞またはリンパ球などに対して、抗原を培地中で作用させることによって得られた抗体産生細胞も使用することが可能である。ミエローマ細胞としては公知の種々の細胞株を使用することが可能である。抗体産生細胞およびミエローマ細胞は、それらが融合可能であれば、異なる動物種起源のものでもよいが、好ましくは、同一の動物種起源のものである。ハイブリドーマは、例えば、抗原で免疫されたマウスから得られた脾臓細胞と、マウスミエローマ細胞との間の細胞融合により産生され、その後のスクリーニングにより、抗原に特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる。抗原に対するモノクローナル抗体は、ハイブリドーマを培養することにより、また、ハイブリドーマを投与した哺乳動物の腹水から、取得することができる。
【0036】
また、目的とするモノクローナル抗体をコードするDNAが取得できれば、組換えDNA法によって作製することもできる。この方法は、上記抗体をコードするDNAをハイブリドーマやB細胞などからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主細胞(例えば哺乳類細胞株、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞など)に導入し、組換え抗体として産生させる手法である(例えば、P.J.Delves,Antibody Production:Essential Techniques, 1997、WILEY、P.Shepherd and C.Dean, Monoclonal Antibodies, 2000, OXFORD UNIVERSITY PRESS、Vandamme A.M. et al.,Eur.J.Biochem.192:767-775, 1990)。抗体をコードするDNAの発現においては、重鎖または軽鎖をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよく、重鎖および軽鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよい(国際公開第94/11523号参照)。組換え抗体は、上記宿主細胞を培養し、宿主細胞内または培養液から分離・精製し、実質的に純粋で均一な形態で取得することができる。抗体の分離・精製は、通常のポリペプチドの精製で使用されている方法を使用することができる。トランスジェニック動物作製技術を用いて、抗体遺伝子が組み込まれたトランスジェニック動物(ウシ、ヤギ、ヒツジまたはブタなど)を作製すれば、そのトランスジェニック動物のミルクから、抗体遺伝子に由来するモノクローナル抗体を大量に取得することも可能である。
【0037】
本発明のモノクローナル抗体は、完全な抗体のみならず、抗原を認識しうる限り、抗体断片であってもよい。抗体断片は、例えば、F(ab’)、Fab’、Fab、Fv、単鎖抗体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
本発明は、また、試料中の遊離AIMを免疫学的に分析する方法であって、上記モノクローナル抗体を用いる方法を提供する。
【0039】
本発明の方法に用いられる「試料」としては、AIM(遊離AIM、IgM結合型AIM)が存在し得る試料である限り特に制限はない。組織または体液を用いてもよく、組織としては、卵巣、子宮、乳房、甲状腺、脳、食道、舌、肺、膵臓、胃、小腸、十二指腸、大腸、膀胱、腎臓、肝臓、前立腺、胆嚢、咽頭、筋肉、骨および皮膚などが挙げられるがこれらに限定されない。体液としては、血清、血漿または全血などの血液、リンパ液、組織液、体腔液、消化液、鼻汁、尿などが挙げられるが、遊離AIMに関連する疾患の診断の補助を目的とする場合においては、一般的には、採取の容易性から、診断対象(好ましくはヒト)から採取された、血清、血漿、または全血などの血液、尿などの体液試料が用いられる。
【0040】
本発明の方法における「分析」は、遊離AIMの定量、遊離AIMの存在の検出、遊離AIMの局在の解析など、遊離AIMを対象とした様々な分析が含まれる。
【0041】
遊離AIMを免疫学的に分析する方法は、試料中の遊離AIMと本発明の抗体を接触させ、抗原抗体反応を生じさせ、形成した免疫複合体に基づいて当該試料中の遊離AIMを検出または測定するものである。免疫学的に分析する方法としては、例えば、標識物質で標識された抗原または抗体を用いる標識イムノアッセイが挙げられ、免疫凝集法(ラテックス凝集法、金コロイド凝集法等)、標識として酵素を用いる酵素免疫測定法(EIA法)、標識として放射性同位元素を用いるRIA法(放射免疫測定法)、標識として化学発光性化合物を用いるCLIA法(化学発光免疫測定法)、電気化学発光免疫測定法、蛍光免疫測定法、及びイムノクロマトグラフィー法などのサンドイッチ法、ウェスタンブロット法、イムノブロット法などが挙げられるが、これらに制限されない。酵素免疫測定法としては、例えば、ELISA法、CLEIA法(化学発光酵素免疫測定法)や生物発光酵素免疫測定法が挙げられ、生物発光酵素免疫測定法としては、例えば、BLEIA法が挙げられる。免疫学的な測定は、非競合的測定法であっても、競合的測定法であってもよい。
【0042】
標識物質としては、抗体に結合させて検出できるものであれば特に制限はないが、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ(ALP)、βガラクトシダーゼ(β-gal)、ホタルルシフェラーゼなどの酵素、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)やローダミンイソチオシアネート(RITC)などの蛍光色素、アロフィコシアニン(APC)やフィコエリスリン(R-PE)などの蛍光蛋白質、125Iなどの放射性同位元素、ラテックス粒子、金コロイド粒子、アビジン、ビオチンなどが挙げられる。
【0043】
標識物質として酵素を用いた場合には、基質として、過酸化物および/または発色基質(例えば、過酸化水素の存在下、ペルオキシダーゼによる酸化触媒反応により発色する3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB))、蛍光基質、あるいは化学発光基質などを添加することにより、基質に応じて種々の検出を行うことができる。
【0044】
標識物質を結合させた本発明のモノクローナル抗体を用いて遊離AIMを直接的に検出する方法以外に、本発明のモノクローナル抗体には標識物質を結合せず、標識物質が結合した二次抗体などを利用して間接的に検出する方法を利用することもできる。また、後述するサンドイッチ法においては、捕捉用抗体として本発明のモノクローナル抗体を用い、検出用抗体として他の抗体を用いる場合には、当該他の抗体を標識して用いることができる。当該他の抗体を標識しない場合には、同様に、標識された二次抗体などを利用することができる。ここで「二次抗体」とは、抗原に直接結合する抗体(一次抗体)に対して反応性を示す抗体である。例えば、一次抗体をマウス抗体とした場合には、二次抗体として抗マウスIgG抗体を使用することができる。ウサギ、ヤギ、マウスなどの様々な生物種に由来する抗体に対して、使用可能な標識二次抗体が市販されており、一次抗体の由来する生物種に応じて、適切な二次抗体を選択して使用することができる。二次抗体に代えて、標識物質を結合させたプロテインGやプロテインAなどを用いることも可能である。
【0045】
抗体と標識物質との結合には、ビオチン-アビジン系を利用することもできる。この方法においては、例えば、抗体をビオチン化し、これに、アビジン化した標識物質を作用させ、ビオチンとアビジンの相互作用を利用して、抗体に標識物質を結合させる。
【0046】
本発明の方法における遊離AIMの検出原理としては、高感度な検出システムを構築することができる点で、サンドイッチ法が好適である。サンドイッチ法においては、例えば、サンドイッチELISA法のように、固相化した捕捉用抗体で検出対象物質を捕捉し、それを標識物質が結合した検出用抗体に認識させ、B/F分離(洗浄)後、標識物質の種類に応じた検出を行う。また、イムノクロマトグラフィー法のように、標識物質が結合した検出用抗体で検出対象物質を認識させ、B/F分離を行いつつ、固相化した捕捉用抗体で検出対象物質を捕捉し、標識物質の種類に応じた検出を行うようにしてもよい。固相としては、例えば、プラスチックプレートなどのプレート、ニトロセルロースなどの繊維状物質、磁性粒子やラテックス粒子などの粒子を用いることができる。
【0047】
捕捉用抗体は固相に直接固定してもよいが、間接的に固定してもよい。例えば、捕捉用抗体に結合する物質を固相に固定し、当該物質に捕捉用抗体を結合させることにより、補足用抗体を固相に間接的に固定することができる。捕捉用抗体に結合する物質としては、例えば、上記の二次抗体、プロテインG、プロテインAなどが挙げられるが、これらに制限されない。また、捕捉用抗体がビオチン化されている場合には、アビジン化した固相を利用することができる。
【0048】
サンドイッチ法においては、抗原捕捉用抗体および検出用抗体の少なくとも一方に、本発明のモノクローナル抗体を用いる。他の一方の抗体は、AIMに結合し得る抗体(抗AIM抗体)であればよく、本発明のモノクローナル抗体以外の抗体を用いることもできる。他の一方の抗体は、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であってもよい。本発明のモノクローナル抗体と組み合わせるモノクローナル抗体は、AIMとの結合において競合しないこと(すなわち、異なるエピトープを認識すること)が好ましい。実際、本願実施例においては、本発明のモノクローナル抗体(クローン2、クローン24)とAIM上の他の領域を認識するモノクローナル抗体(クローン8、クローン9)との組み合わせでも、本発明のモノクローナル抗体(クローン2、クローン24)とポリクローナル抗体との組み合わせでも、遊離AIMを特異的かつ高感度で検出することに成功している。
【0049】
得られた測定値からの遊離AIMの定量は、一般的に、標準検体による測定値との比較により行うことができる。この場合、例えば、標準検体による測定値に基づいて作成された標準曲線上のどの位置に、実際の測定値が位置づけられるかを調べることにより、試料中の遊離AIM量を求めることができる。
【0050】
本発明の方法における遊離AIMの分析方法としては、遊離AIMの検出前にB/F分離の工程が不要であり、簡便かつ迅速に遊離AIMの検出が可能である点で、免疫比ろう法、免疫比濁法等による免疫凝集法(例えば、ラテックス凝集法、金コロイド凝集法等)が好適である。免疫凝集法は、液相中で、抗原に特異的な抗体が固定(結合)された不溶性担体粒子(固相)を用いる。当該不溶性担体粒子と抗原との免疫複合体の形成により不溶性担体粒子が凝集する性質を利用して、濁度の測定や目視、吸光度の測定により、不溶性担体粒子の凝集を検出する。不溶性担体粒子としては、金属や磁性粒子等を用いることができるが、ラテックス粒子が好ましく、一般に、ポリスチレンラテックスが用いられる。抗体は、固相の表面に公知の技術、例えば物理吸着または化学結合によって固定化することができる。
【0051】
免疫凝集法に用いられる、捕捉用抗体が固定された不溶性担体粒子としては、少なくとも2種以上の抗体を含むことが好ましく、1種の不溶性担体粒子には1種または2種以上のモノクローナル抗体が結合されていてもよい。本発明のモノクローナル抗体が固定されたラテックス粒子と、本発明のモノクローナル抗体以外のモノクローナル抗体が固定されたラテックス粒子との組み合わせが挙げられる。本発明のモノクローナル抗体と組み合わせるモノクローナル抗体は、AIMへの結合において競合しないこと(すなわち、異なるエピトープを認識すること)が好ましい。実際、本願実施例においては、本発明のモノクローナル抗体(クローン2)とAIM上の他の領域を認識するモノクローナル抗体(クローン8)との組み合わせで、遊離AIMを、サンドイッチELISA法と同程度に特異的かつ高感度で検出することに成功している。ラテックス粒子の凝集により遊離AIMを定量する場合には、例えば、光学装置による液相の吸光度を測定して、その変化(増加)を指標とすることができる。
【0052】
本発明の方法は、遊離AIMに関連する疾患の診断(罹患やそのリスクの評価)に利用することができる。「遊離AIMに関連する疾患」としては、遊離AIMをマーカーとしうる疾患であれば制限はない。好適な診断対象疾患としては、例えば、腎疾患(特に、急性腎障害)、感染症、炎症、動脈硬化、肥満関連炎症性疾患、COPD、癌、肝疾患、喘息、肺結核、変形性関節症、関節リウマチ、敗血症などが挙げられるが、これに制限されない。
【0053】
また、本発明は、試料中の遊離AIMを検出するための組成物であって、本発明のモノクローナル抗体を含む組成物を提供する。本発明の組成物に含まれるモノクローナル抗体は、上記の通り、標識物質が結合したものであってもよい。本発明の組成物においては、抗体成分の他、必要に応じて、滅菌水、生理食塩水、緩衝剤、保存剤など、他の成分を含むことができる。
【0054】
また、本発明は、試料中の遊離AIMを検出するための固相であって、本発明のモノクローナル抗体が結合した固相を提供する。本発明のモノクローナル抗体が結合した固相としては、サンドイッチELISA法などのサンドイッチ法を検出原理とする場合には、本発明のモノクローナル抗体が結合したプレート、繊維状物質、粒子などが挙げられる。イムノクロマトグラフィーを検出原理とする場合には、本発明のモノクローナル抗体が標識試薬ゾーン(検出用抗体の場合)または検出ゾーン(捕捉用抗体の場合)に結合したイムノクロマトデバイスが挙げられる。また、免疫凝集法を検出原理とする場合には、本発明のモノクローナル抗体が結合した不溶性担体粒子、例えばラテックス粒子が挙げられる。
【0055】
また、本発明は、試料中の遊離AIMを免疫学的に分析するためのキットを提供する。本発明のキットは、本発明のモノクローナル抗体を含む組成物または本発明のモノクローナル抗体が結合した固相を含む。必要に応じて、さらに、標準試薬(各濃度の遊離AIMを含む試薬)、対照試薬、試料の希釈液、希釈用カートリッジ、洗浄液などを組み合わせることができる。検出に酵素標識を利用する場合には、標識の検出に必要な基質や反応停止液などを含めることができる。間接的に遊離AIMを検出する場合においては、一次抗体に結合する物質(二次抗体、プロテインAなど)を標識したものを含めることができる。また、本発明のモノクローナル抗体をビオチン化している場合には、アビジン化した標識を含めることができる。本発明のキットには、さらに、当該キットの使用説明書を含めることができる。
【0056】
本発明の組成物、固相、およびキットは、例えば、体外診断用医薬品として、上記遊離AIMに関連する疾患の診断の基礎となる遊離AIM濃度の測定などに利用することができる。
【実施例0057】
[参考例1] 抗AIM抗体の作製
<動物感作>
抗原としてヒトrAIM(2mg/mL)を等量のTiterMaxGold(G-1フナコシ)と混合し、エマルジョンを作製した。免疫動物にはJcl:Wistarラット(日本クレア(株))6週齢のメス2匹を用い、後ろ足底部へ50μLを投与した。2週間後に同様の投与を行い、さらに2週間以上をおいて抗原溶液50μgを足底部へ投与し3日後の細胞融合に備えた。
【0058】
<ミエローマ細胞>
ミエローマ細胞にはマウスP3U1を用い、増殖培養には、RPMI1640(11875-119 GIBCO)にグルタミンとピルビン酸を加えFBS(S1560 BWT社)を10%になるように添加した培地を用いた。抗生物質としてはペニシリン、ストレプトマイシンを適量加えた。
【0059】
<細胞融合>
麻酔下にて心臓採血を行ったラットから無菌的に膝窩リンパ節を摘出し、#200メッシュ付ビーカーにのせ、シリコン棒で押しながら細胞浮遊液を調製した。細胞はRPMI1640にて2回の遠心洗浄を行った後、細胞数をカウントした。対数増殖期の状態のミエローマ細胞を遠心により集め洗浄後、リンパ細胞に対して5対1となるように調整し、混合遠心を行った。
【0060】
細胞融合はPEG1500(783641 ロシュ)を用いて行った。すなわち細胞ペレットへ1mLのPEG液を3分間かけて反応させ、その後段階的に希釈を行い、遠心にて洗浄した後、培地を加え96ウェルプレート15枚へ200μLずつ入れ、1週間の培養を行った。培地には、ミエローマ細胞用培地にHATサプリメント(21060-017 GIBCO)を加え、FBS濃度を15%にしたものを用いた。
【0061】
<マウス腹水採取>
凍結保存された細胞を解凍し、増殖培養を行った後、1週間以上前に0.5mLのプリスタン(42-002 コスモバイオ)を腹腔内投与したヌードマウス(BALB/cAJcl-nu/nu 日本クレア)の腹腔へ1×10乗個を投与し、およそ2週間後に4~12mLの腹水を得た。遠心処理にて固形物を除去した後、凍結保存を行った。
【0062】
<電気泳動解析>
解凍し5μmのフィルターにて腹水を処理した後、セルロースアセテート膜電気泳動にて腹水中に含まれるモノクローナル抗体のバンドの確認を行った。
【0063】
電気泳動条件は、0.05MBarbital Na Buffer pH8.6(020-13415 和光純薬)、SELECA-V(ADVANTEC)、1mA/cm、25分で行い、固定、染色には0.1%ニグロシン(2%酢酸)を用いた。
【0064】
各細胞(クローン名:クローン2,クローン8,クローン9,クローン24)からヒトrAIM抗原と反応を示す各抗体(以下、クローン2,クローン8,クローン9,クローン24と称する)を得た。
【0065】
[参考例2] rAIMの作製
rAIMは、文献(生化学第84巻第7号,機能的なrAIMタンパク質の精製,588-591頁,2012)に記載の方法で作製した。
【0066】
[実施例1]
ウサギにrAIMを免疫して通常の方法で得たウサギポリクローナル抗AIM抗体および参考例1で得た各モノクローナル抗体を用いて、以下の方法で得た遊離AIMまたはIgM結合型AIMとの反応性を測定した。
【0067】
測定試料は、血清検体を緩衝液(0.05M リン酸緩衝液:pH7.0,塩化ナトリウム:0.3M)に溶解し、カラムに添加して、以下の条件にてゲルろ過クロマトグラフィーによる分画を行い得た。
【0068】
ゲルろ過クロマトグラフィー条件
使用機器:SHIMADZU SPD-20AV
カラム:Phenomenex SEC-3000
移動相:0.05M リン酸緩衝液,0.3M NaCl,pH7.0
流量:0.5mL/min
分画:0.5mL/fraction
溶出時間10-17分(溶出液量5-8.5mL)のフラクションを、AIM測定用キット(IBL社製)によって定量、調製し、IgM結合型AIM20ng/mLの試料、同様に、溶出時間19-23分(溶出液量9.5-11.5mL)のフラクションを遊離AIM20ng/mLに調製して試料をそれぞれ得た。
【0069】
測定方法は、まず、固相用抗体を96穴マイクロプレートの各ウェルに分注した後、洗浄し、各固相用抗体50μLを固相化して固相化プレートを作製した。洗浄後、1%BSAを含む溶液を加えて室温で2時間静置した。固相化プレートに試料50μLを加えて室温にて1時間反応させた。続いてウェル内の溶液を吸引除去、洗浄後、ウサギポリクローナル抗AIM抗体50μLを加えて室温にて1時間反応させた。さらにウェル内の溶液を吸引除去、洗浄後、anti-rabbit IgG-HRP50μLを添加し、室温にて1時間反応させた。さらにウェル内の溶液を吸引除去、洗浄後、発色基質としてo-フェニレンジアミン含有基質溶解液50μLを添加し反応させた後、2N硫酸50μLを反応停止液として添加した。マイクロプレートリーダーを用いて測定波長492/650nmにて測定した。
【0070】
測定の結果、各抗体において、遊離AIMの測定値を基準(100)として、遊離AIMの反応性に対するIgM結合型AIMの反応性の比を、表1に示す。抗体クローン2、抗体クローン24は、遊離AIM特異的であることが示された。
【0071】
【表1】
【0072】
表においては、遊離AIMの測定値を基準(100)とし、遊離AIMに対するIgM結合型AIMの測定値の比を示した(単位は、%)。
【0073】
なお、本実施例で用いたポリクローナル抗体は、AIMの20-128位、124-240位、236-337位の各ペプチドと反応することをサンドイッチELISA法で確認している。
【0074】
[実施例2] サンドイッチELISA法によるrAIMの測定
参考例2で得たrAIMをゲル濾過クロマトグラフィーによって溶出時間(溶出液量)ごとに分画し、反応性を測定した。
【0075】
<試料の調製>
rAIMを、実施例1と同様の方法でゲルろ過クロマトグラフィーによる分画を行い、溶出時間8分から28分(溶出液量4-14mL)の0.5mL毎の分画を試料とした。
【0076】
<測定方法>
得られた試料について、国際公開第2011/145725号および国際公開第2017/022315号に記載された抗AIM抗体である、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託されたクローンAIM-CL-6(受託番号:NITE BP-1092)(以下、CL-6、クローン6ともいう)およびAIM-CL-7(受託番号:NITE BP-1093)(以下、CL-7、クローン7ともいう)から得られた抗体を表2に記載の通り組み合わせて、以下のサンドイッチELISA法で測定した。
【0077】
まず、固相用抗体50μLを96穴マイクロプレートの各ウェルに分注した後、洗浄し、各固相用抗体を固相化した。洗浄後、1%BSA溶液を加え、固相化プレートを作製した。また、ビオチン標識試薬Biotin(AC5)2Slufo-osu(同仁化学研究所)を用いて、各標識用抗体をビオチン化標識した。
【0078】
固相化プレートに標準液または試料50μLを加えて室温にて1時間反応させた。続いてウェル内の溶液を吸引除去、洗浄後、ビオチン標識抗体50μLを加えて室温にて1時間反応させた。さらにウェル内の溶液を吸引除去、洗浄後、ストレプトアビジン-HRP50μLを添加し、室温にて1時間反応させた。さらにウェル内の溶液を吸引除去、洗浄後、発色基質としてo-フェニレンジアミン含有基質溶解液50μLを添加し反応させた後、2N硫酸50μLを反応停止液として添加した後、マイクロプレートリーダーを用いて測定波長492/650nmにて測定した。
【0079】
測定結果を図1に示す。試薬1において20分(10mL)付近の分画試料にメインピークが認められた。
【0080】
[実施例3] サンドイッチELISA法による血清検体の測定
rAIMの代わりに血清検体の分画試料を用いた点を除いて、参考例1で得た各モノクローナル抗体を表2に記載の通り組み合わせて、実施例2と同様に測定を行った。
【0081】
【表2】
【0082】
測定結果を図2に示す。試薬1では溶出時間(流量)が20分(10mL)付近のピークに加えて、12分(6mL)付近のピークが認められた。抗体クローン2を用いた試薬2~4では、すべて20分(10mL)付近の分画試料のピークのみが確認され、遊離AIM特異的であることが示された。試薬5では12分(6mL)付近のみにピークが見られた。
【0083】
[実施例4]抗AIM抗体のエピトープマッピング
試薬2~5で用いた抗体クローン2、クローン8およびクローン9、ならびに後述の実施例12の試薬7で用いた抗体クローン24についてエピトープの解析を行った。
【0084】
<AIM欠損変異体の調製>
配列番号1のAIMの全長タンパク質または各欠損変異体の発現ベクター(pcDNA3.3)を作製し(表3)、HEK293T細胞にトランスフェクションした。
【0085】
【表3】
【0086】
トランスフェクションから2日後に細胞を回収し、タンパク質抽出バッファーを添加した。25℃で10分間振盪し、4℃、10000rpm、10分間遠心し、上清を回収した。
【0087】
<ドットブロット>
回収した上清を、ニトロセルロース膜に5μLずつスポットした。NC(陰性対照)として、ベクターを導入していないHEK293T細胞のタンパク抽出液を同様にスポットした。これを5%スキムミルク/PBS中で25℃、1時間振盪した。続いて、PBS-Tを用いて4回洗浄後、抗体クローン2を4℃で1晩反応させた。さらに、PBS-Tを用いて4回洗浄後、anti-mouse IgG-HRP conjugate溶液中で25℃、1時間反応させた。最後に、PBS-Tを用いて4回洗浄後、化学発光検出試薬を用いて1分間反応させ、CCDカメラで化学発光を検出した。
【0088】
その結果を図3Aおよび3Bに示す。抗体クローン2および抗体クローン24は各々、AIM1~AIM8に反応せず、AIM9と反応し、AIM10とより強く反応した。この事から、抗体クローン2、抗体クローン24は、AIMにおけるSRCR2ドメインのC末端側の領域からSRCR3ドメインのN末端側の領域(230~259位)と反応することが確認された。一方、抗体クローン8、クローン9は、AIM4と反応することが確認されたことから、AIMにおけるSRCR2ドメインのN末端側の領域(155~169位)と反応することが確認された。
【0089】
[実施例5] サンドイッチELISA法による尿検体の測定
試料として、リン酸緩衝液(pH7.4)で5倍希釈した尿検体(17例)を用いた点を除いて、実施例3の試薬1または試薬2を使用して測定を行った。
【0090】
測定結果を図4に示す。試薬1と、試薬2で良好な相関を示したが、2例の検体(検体番号#74、#77)で試薬1が高値を示した。2例の検体が、試薬1と、試薬2で乖離した理由として、実施例5から、乖離検体には、本来は尿中には存在しないと考えられてきたIgM結合型AIMが含まれているために、試薬1は高値を示した可能性が考えられた。
【0091】
[実施例6] サンドイッチELISA法によるIgM濃度の測定
実施例5の尿検体#74と、尿検体(6検体)の計7検体をそれぞれリン酸緩衝液(pH7.4)で5倍希釈し、実施例5と同様に測定を行った。測定結果を表4に示す。
【0092】
【表4】
【0093】
各検体のIgM濃度は、20倍希釈した各検体を試料として、Human IgM ELISA Quantitation Set(Betyl,E80-100)を用いて、キットの用法に従って測定した。IgM濃度が高い検体では、試薬1と試薬2で測定したAIM濃度の乖離度が大きくなり、IgM濃度が低い検体では試薬1と試薬2の測定値は乖離せず良好な相関性を示した。この結果より、尿中IgMの存在が確認され、尿中にIgM結合型AIMが存在する可能性が示唆された。
【0094】
[実施例7] サンドイッチELISA法によるIgM結合型AIMの測定
CL-6は、実施例1の結果からIgM結合型AIMおよび遊離AIMと結合すると考えられたことから、固相用抗体としてCL-6を、標識用抗体として実施例6の抗IgM抗体(Human IgM ELISA Quantitation Set(Betyl,E80-100))を用いた点、実施例6の検体をそれぞれリン酸緩衝液(pH7.4)で20倍希釈したものとを用いた点を除いて、実施例2と同様の方法で、IgM結合型AIMを測定した。測定結果を表5に示す。
【0095】
【表5】
【0096】
実施例6に示されているIgM濃度が高い検体(試薬1と試薬2で測定したAIM濃度の乖離度が大きい乖離検体)では吸光度が高く、IgM濃度が低い検体(試薬1と試薬2で測定したAIM濃度が乖離していない相関良好検体)では吸光度が低かったことから、乖離の原因は尿中IgM結合型AIMであることが確認された。これにより、これまで尿中には存在しないと考えられてきたIgM結合型AIMが尿中に含まれることが示された。尿検体においても、試薬1がIgM結合型AIMおよび遊離AIMを測定しているのに対し、試薬2は遊離AIMを特異的に測定していることが判明した。
【0097】
[実施例8] サンドイッチELISA法による血清検体の測定
リン酸緩衝液(pH7.4)で希釈した血清検体を試料とした点を除いて、実施例3と同様の方法で、試薬1~3を用いてサンドイッチELISA法により測定した。
【0098】
結果を表6に示す。
【0099】
【表6】
【0100】
血清検体中においてAIMの多くはIgM結合型AIMとして存在することから、IgM結合型AIMおよび遊離AIMの両方を測定する試薬1の測定値と、遊離AIMのみを測定する試薬2および3の測定値は大きく異なった。
【0101】
本発明の一実施形態である、試薬2、3によれば、血中に遊離AIMが存在する場合であっても、正確に測定できることが示された。
【0102】
[実施例9] サンドイッチELISA法による尿検体の測定
リン酸緩衝液(pH7.4)で5倍希釈した尿検体を試料とした点を除いて、実施例3と同様の方法で、試薬1、2を用いて、サンドイッチELISA法で尿検体を測定した。
【0103】
結果を表7に示す。
【0104】
【表7】
【0105】
尿検体中においてAIMの多くは遊離AIMとして存在することから、IgM結合型AIMおよび遊離AIMの両方を測定する試薬1の測定値はやや高くなったものの、試薬1と試薬2は良好な相関を示した。
【0106】
[実施例10] ラテックス凝集法による血清検体の測定
試薬3の抗体の組み合わせ(クローン8、クローン2)を用いて、ラテックス凝集法で血清検体(6検体)を測定した。
【0107】
<ラテックス試薬の作製>
各々の抗ヒトAIMモノクローナル抗体とカルボキシ基を有するラテックス粒子を混合して、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(以下、WSCと称する(同仁化学社製))を用いる化学結合法による公知の方法で、ラテックス粒子の表面に抗ヒトAIMモノクローナル抗体を固定化し、各モノクローナル抗体を担持するラテックスを得た。そして、50mM HEPES緩衝液(pH7.2)を含む各モノクローナル抗体担持ラテックス溶液(第1試薬)を調製した。
【0108】
<測定方法>
リン酸緩衝液(pH7.4)で100倍希釈した血清検体16.0μLに50mM HEPESを含む緩衝液(pH7.3)120μL(第2試薬)を混合して試料とした。試料にモノクローナル抗体担持ラテックス溶液40μLを混合して37℃で反応させ、TBA120FR pearl(キヤノンメディカル社)を用いて波長660nmでの吸光度変化を測定した。また、実施例3の試薬2,3を用いて、リン酸緩衝液(pH7.4)で希釈した血清検体を実施例3と同様にサンドイッチELISA法で測定した。測定結果を表8に示す。
【0109】
【表8】
【0110】
測定値に乖離はみられず、ラテックス凝集法によって血清検体の測定が可能であることが示された。
【0111】
[実施例11] ラテックス凝集法による尿検体の測定
尿検体(6例)を希釈せずに試料とした点を除いて、実施例10で作製したラテックス試薬を用いて測定した。また、各尿検体をリン酸緩衝液(pH7.4)で5倍希釈して試料とした点を除き、実施例3と同様の方法で、試薬2を用いてサンドイッチELISA法で測定した。測定結果を表9に示す。
【0112】
【表9】
【0113】
測定値に乖離はみられず、ラテックス凝集法によって尿検体の測定が可能であることが示された。
【0114】
[実施例12] 生物発光酵素免疫測定法(BLEIA法)による血清検体の測定
実施例1に記載の方法で得た血清検体の分画試料を用いて、参考例1で得たクローン2、クローン8、クローン24を以下の表10に記載の通り組み合わせて、生物発光酵素免疫測定法(BLEIA法)で測定を行った。
【0115】
【表10】
【0116】
<測定方法(BLEIA法)>
特開平10-239314号公報(抗体と酵素の双方にビオチンを結合)に記載の方法で行った。詳細には、各種固相用抗体を磁性粒子に固相化した各種抗体固相化磁性粒子、各種標識用抗体とビオチン化試薬を混合して得られる各種ビオチン標識抗体、およびストレプトアビジン-ビオチン化ルシフェラーゼを作製した。そして、試薬3、7の組合せにおいて、それぞれ、ビオチン標識抗体溶液80μLと、試料100μLと、抗体固相化磁性粒子(1.5mg/mL)20μLを混合し、37℃で15分間反応させた。さらに、磁性粒子を含む反応溶液に、BL洗浄液(栄研化学)500μLを加え、BL洗浄液を除去した。続いて、ストレプトアビジン-ビオチン化ルシフェラーゼを80μL加えて、37℃で15分間反応させた。磁性粒子を含む反応溶液にBL洗浄液(栄研化学)500μLを加え、洗浄液を除去した。続いて、BL発光試薬セット(栄研化学)のBL発光試薬1 50μLとルシフェラーゼに対する基質液(ルシフェリン溶液)であるBL発光基質液 50μLを加え、発光強度を全自動生物化学発光免疫測定装置BLEIA-1200にて測定し試料中のAIM濃度を算出した。また、試薬1(比較例)を用いて、実施例2と同様の方法(サンドイッチELISA法)で測定を行った。
【0117】
測定結果を図5に示す。試薬3、試薬7のいずれにおいても、溶出時間(流量)が20分(10mL)付近の分画試料のピークのみが確認され、遊離AIM特異的であることが示された。すなわち、抗体クローン2同様に、抗体クローン24も検体中の遊離AIMを特異的に検出できることが示された。そして、これら抗体クローンにおけるエピトープの共通性から、AIMの1~229位からなるポリペプチドには結合せず、AIMの1~259位からなるポリペプチドに結合する抗体であれば、遊離AIMを特異的に検出できることが確認された。また、BLEIA法によっても検体の測定が可能であることも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0118】
以上説明したように、本発明によれば、遊離AIMを、特異的、高感度、かつ汎用的に検出することが可能となる。尿中の遊離AIMは急性腎障害などのマーカーとなることから、本発明は、研究上の利用にとどまらず、AIMが関係する疾患の診断においても大きく貢献し得るものである。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
【配列表】
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