(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022075615
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】ウシ抗SARS-CoV-2抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/04 20060101AFI20220511BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220511BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20220511BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220511BHJP
C07K 14/165 20060101ALN20220511BHJP
C12N 15/50 20060101ALN20220511BHJP
【FI】
C07K16/04
A61K39/395 D ZNA
A61P31/14
G01N33/53 D
C07K14/165
C12N15/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180214
(22)【出願日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2020184432
(32)【優先日】2020-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】500452385
【氏名又は名称】株式会社ハイマート
(71)【出願人】
【識別番号】506190267
【氏名又は名称】高橋 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】高橋 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】切替 照雄
(72)【発明者】
【氏名】大城 聡
(72)【発明者】
【氏名】多田 達哉
(72)【発明者】
【氏名】水谷 苗子
(72)【発明者】
【氏名】中村 孝人
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085BB36
4C085CC16
4C085EE01
4H045AA11
4H045CA01
4H045CA43
4H045DA75
4H045DA86
4H045EA20
4H045EA50
4H045EA53
4H045FA71
4H045FA74
(57)【要約】 (修正有)
【課題】牛乳に由来するウシ抗SARS-CoV-2を提供する。
【解決手段】牛乳に由来するウシ抗SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗体、および前記抗体を含む、SARS-CoV-2の中和剤、および診断剤を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
牛乳に由来するウシ抗SARS-CoV-2 スパイクタンパク質抗体。
【請求項2】
請求項1に記載の抗体を含む、SARS-CoV-2の中和剤。
【請求項3】
牛乳に由来するウシ抗SARS-CoV-2 スパイクタンパク質抗体が、ウシホエイIgG濃縮画分である、請求項2に記載の中和剤。
【請求項4】
請求項1に記載の抗体を含む、SARS-CoV-2の診断剤。
【請求項5】
牛乳に由来するウシ抗SARS-CoV-2 スパイクタンパク質抗体が、ウシホエイIgG濃縮画分である、請求項4に記載の診断剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、牛乳に由来するウシ抗SARS-CoV-2 スパイクタンパク質抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
牛乳製品には、消化管感染症を引き起こすロタウイルスおよびいくつかのヒト細菌病原体に対するIgGが含まれている(非特許文献1)。ウシIgGはヒト呼吸器合胞体ウイルス(RSV)およびインフルエンザウイルスにも結合した(非特許文献2)。いくつかのヒト消化管感染症の抗原で免疫された牛から得られた牛の初乳製剤を「高免疫ミルク」(非特許文献3)と呼んだ。これは特定の病原体に対する高い抗体活性によって特徴付けられる。臨床試験では免疫牛初乳が胃腸管感染症の感染時間を短縮することが実証された(非特許文献1)。
【0003】
第二世代の乳製品は、健康な非免疫グラスフェドウシ由来の初乳であった。初乳は仔ウシにおけるサルモネラ感染に対する免疫を有していた(非特許文献4、5)。非免疫ウシからの免疫グロブリン製剤には大腸菌O157:H7のベロトキシンに対する高レベルの抗体および中和活性が含まれていた(非特許文献6)。いくつかのレポートはウシIgGが細菌抗原に対する様々な抗体を有しヒト免疫系を活性化してレビューされた病原体から保護することを示している(非特許文献1)。しかし、ウシIgGがロタウイルス、RSV、インフルエンザウイルスを除くヒトウイルス病原体を認識しているかどうかは不明である。
【0004】
新規なコロナウイルス、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は2019年(WHO.,2020)以来コロナウイルス疾患(COVID-19)のパンデミックを引き起こしている。配列データ解析では、SARS-CoV-2を含むヒトコロナウイルスは、動物起源、特にコウモリ由来を有すると思われた(非特許文献7)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Ulfman LH., Leusen JHW., Savelkoul HFJ., Warner JO., van Neerven RJJ., 2018. Effects of Bovine Immunoglobulins on Immune Function, Allergy, and Infection. Front Nutr. 5:52.
【非特許文献2】Hartog. GD., Jacobino S., Bont L., Cox L., Ulfman LH., Leusen JHW., et al. 2014. Specificity and effector functions of human RSV-Specific IgG from bovine milk. PLoS One. 9:11:e112047.
【非特許文献3】Golay A., Ferrara JM., Felber JP., Schneider H., 1990. Cholesterol-lowering effect of skim milk from immunized cows in hypercholesterolemic patients. Am J Clin Nutr 52: 6: 1014-1019.
【非特許文献4】Griffiths OV., 1969. Colostral immunity against salmonella infection in calves. N Z Vet J 17: 3: 50.
【非特許文献5】Royal WA., Robinson RA., Duganzich DM., 1986. Colostral immunity against salmonella infection in calves. N Z Vet J 16: 8-9: 141-145.
【非特許文献6】Lissner R., Schmidit H., Karch H., 1996. A standard immunoglobulin preparation produced from bovine colostra shows antibody reactivity and neutralization activity against Shiga-like toxins and EHEC-hemolysin of Escherichia coli O157:H7. Infection 24: 5: 378-383.
【非特許文献7】Cui J., Li F., Shi Z., 2019. Origin and evolution of pathogenic coronaviruses. Nat rev Microbiol. 17(3):181-192.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、牛乳に由来するウシ抗SARS-CoV-2を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、NZの健康な非免疫グラスフェド牛から調製された牛ホエイIgG濃縮分画のなかにSARS-CoV-2スパイクタンパク質(S)に対するIgG抗体が存在することを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1] 牛乳に由来するウシ抗SARS-CoV-2 スパイクタンパク質抗体。
[2] [1]に記載の抗体を含む、SARS-CoV-2の中和剤、
[3] 牛乳に由来するウシ抗SARS-CoV-2 スパイクタンパク質抗体が、ウシホエイIgG濃縮画分である、[2]に記載の中和剤。
[4] [1]に記載の抗体を含む、SARS-CoV-2の診断剤。
[5] 牛乳に由来するウシ抗SARS-CoV-2 スパイクタンパク質抗体が、ウシホエイIgG濃縮画分である、[4]に記載の診断剤。
【0008】
牛乳は、市販の健康なウシ由来のものを使用することができる。好ましくは、牛乳は、非免牧草牛由来の牛乳であり、より好ましくは、非免牧草牛由来の初乳である。
【0009】
ウシホエイのIgG濃縮画分は、従来公知の任意の方法によって得ることができる。たとえば、遠心分離によって脂肪を除去し、免疫グロブリンを凝縮することによって得ることができる。
【0010】
SARS-CoV-2は、SARSコロナウイルス2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2のことであり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因となる、SARS関連コロナウイルス(SARSr-CoV)に属するコロナウイルスである。ヒトへの感染にACE2受容体を利用する点はSARSコロナウイルス(SARS-CoV)と共通しており、DPP-4受容体を利用するMERSコロナウイルス(MERS-CoV)や、アミノペプチダーゼN(APN)を利用するヒトコロナウイルス229Eとは異なる。ウイルスゲノムは29,903塩基で、一本鎖プラス鎖RNAウイルスである。
【0011】
ウイルス粒子(ビリオン)は、50~200nm(ナノメートル)ほどの大きさである。一般的なコロナウイルスと同様に、S(スパイク)タンパク質、N(ヌクレオカプシド)タンパク質、M(膜)タンパク質、E(エンベロープ)タンパク質として知られる4つのたんぱく質と、RNAにより構成されている。このうち、Nタンパク質がRNAと結合してヌクレオカプシドを形成し、脂質と結合したS、EおよびMタンパク質がその周りを取り囲んでエンベロープを形成する。エンベロープの最も外側に位置するSタンパク質は、細胞表面のACE2受容体に結合して細胞への感染を可能とする。
【0012】
本発明のSARS-CoV-2中和剤又は診断剤は、各種の物質、例えば、賦形剤、希釈剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、風味剤、甘味剤、可溶化剤等を補助剤として含むことができる。具体的には、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、ラクトース、マンニトール及びその他の糖類、タルク、ゼラチン、澱粉、セルロース及びその誘導体、動物及び植物油、ポリエチレングリコール、グリセロールを挙げることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のSARS-CoV-2中和剤は、SARS-CoV-2を中和することができる。また、本発明のSARS-CoV-2診断剤は、SARS-CoV-2の存在を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質(S)およびヌクレオカプシドタンパク質(N)および組換えSARS-CoV-2 SおよびNの領域のトポロジーである。a)SARS-CoV-2、および組換えSARS-CoV-2 Sの5つの領域の全トポロジー。NTD、N末端ドメイン;RBD、受容体結合ドメイン;RDM、受容体結合モチーフ;SD1、サブドメイン1;SD2、サブドメイン2;FP、融合ペプチド;HR1、ヘプタドリピート1;HR2、ヘプタドリピート2;TM、膜貫通領域;IC、細胞内ドメイン。b) SARS-CoV-2 Nと組換えSARS-CoV-2 Nの領域の全トポロジー。NTD、N末端ドメイン;CTD、C末端ドメイン。
【
図2a】
図2は、SARS-CoV-2に対するIgGを含むウシIgG濃縮画分である。組換えSARS-CoV-2 Sの部分長(aa 177-512、288-512、348-578、387-516および408-664)、完全組換えSARS-CoV-2 N(aa 1-419)および組換えSARS-CoV-2 Nの部分長(aa 1-120、111-220、1-220および210-419)(
図1)をコーティング抗原として使用した直接酵素結合免疫吸着アッセイを実施した。2019年および2018年に調製したウシIgG濃縮画分の2つの異なるロットを使用した(それぞれ2aおよび2b)。代表的なELISA結果の写真を2cに示した。
【
図2b】
図2は、SARS-CoV-2に対するIgGを含むウシIgG濃縮画分である。組換えSARS-CoV-2 Sの部分長(aa 177-512、288-512、348-578、387-516および408-664)、完全組換えSARS-CoV-2 N(aa 1-419)および組換えSARS-CoV-2 Nの部分長(aa 1-120、111-220、1-220および210-419)(
図1)をコーティング抗原として使用した直接酵素結合免疫吸着アッセイを実施した。2019年および2018年に調製したウシIgG濃縮画分の2つの異なるロットを使用した(それぞれ2aおよび2b)。代表的なELISA結果の写真を2cに示した。
【
図2c】
図2は、SARS-CoV-2に対するIgGを含むウシIgG濃縮画分である。組換えSARS-CoV-2 Sの部分長(aa 177-512、288-512、348-578、387-516および408-664)、完全組換えSARS-CoV-2 N(aa 1-419)および組換えSARS-CoV-2 Nの部分長(aa 1-120、111-220、1-220および210-419)(
図1)をコーティング抗原として使用した直接酵素結合免疫吸着アッセイを実施した。2019年および2018年に調製したウシIgG濃縮画分の2つの異なるロットを使用した(それぞれ2aおよび2b)。代表的なELISA結果の写真を2cに示した。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明する。
【実施例0016】
組換えSARS-CoV-2スパイクタンパク質(S)およびヌクレオキャプシドタンパク質(N)の構造および精製
SARS-CoV-2S遺伝子の部分長(2,055bp)およびSARS-CoV-2 N遺伝子の全長(1,260bp)はSARS-CoV-2単離2019-nCoV WHU01に基づいて完全なゲノムを合成した。(accession no. MN988668)。アミノ酸(aa)177-512、288-512、348-578、387-516、408-664に対応するSARS-CoV-2 S遺伝子の5つの配列(529-1,536bp、862-1,536bp、1,042-1,734bp、1,159-1,548bp、1,222-1,992bp)、そしてアミノ酸(aa)1-120,111-220,1-220,210-419、1-419に対応するSARS-CoV-2 N遺伝子の5つの配列(1-360bp、330-660bp、1-660bp,628-1,260bp、1-1,260bp)を 配列表に記載のプライマー(配列番号1~15)を使用してpET28a発現ベクター(Novagen, Inc., USA)でクローニングした。
【0017】
構築されたプラスミドを用いて、大腸菌BL21-コドンプラス(DE3)-RIP(Agilent Technologies, USA)をトランスフォームした。組換えSARS-CoV-2タンパク質を、製造元の指示(Qiagen、ドイツ)に従ってNi-NTAアガロースを使用して精製し、直接酵素結合免疫吸着アッセイにおけるコーティング抗原として使用した。
【0018】
牛ホエイIgG濃縮画分
IgG濃縮ホエイ分画(IgG30+;アオテアロア、東京)は、NZ酪農グループによる健全で非免疫のグラスフェドニュージーランド牛のミルクから、遠心分離によって脂肪を除去し免疫グロブリンを凝縮する事で調製した。IgG濃縮画分の2ロットが使用され、それらは2018年11月と2019年8月に作成された。牛は殺虫剤にさらされることも抗生物質や成長ホルモンを投与されることも決してなかった。初乳の粉末の組成は以下のとおりであった。タンパク質84.7%(w/w),脂肪8.4%以下,ラクトフェリン7.0mg/g、免疫グロブリン327.7mg/g.
【0019】
直接酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)
IgG濃縮画分がSARS-CoV-2SおよびNに対して交差反応性を有するIgG抗体を有するかどうかを調べるために、コーティング抗原として組換えSARS-CoV-2 Sの部分長、組換えSARS-CoV-2 Nの全長、及び組換えSARS-CoV-2Nの部分長を用いて直接酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を行った。 0.05Mカーボネートバッファー(pH9.0)中に各組換えSまたはNを含むトリプリケート100 μlアリコートを96プレートのウェルに添加した。
【0020】
プレートを室温で1時間培養した、そして以下の各段階毎にPBS-0.1%Tween20で3回の洗浄を行った:PBS(Thermo Scientific., USA) (150 μl/well)にSuperBlockブロッキングバッファでウェルを30分室温でブロッキングした:室温で1時間、牛IgG 濃縮分画のIgG(PBS-0.1% Tween 20中0.003. 0.03 0.3 3および30 μg/ml)の100 μl/well添加。:室温で30分間、ペルオキシダーゼ共役抗牛IgG(全分子)(1:10,000希釈) (Sigma-Aldrich, USA)100 μl/well添加。:50mlTMBペルオキシダーゼELA基質キット(BIO-RAD, USA)10分間添加。10分間の培養後、ペルオキシダーゼ反応を停止させるために50μl1M H2SO4を添加した。照合の為450nmおよび620nmの吸光度をインフィネイトF50マイクロプレートリーダー(TECAN, Switzerland)を用いて測定した。
【0021】
組換え SARS-CoV-2 SおよびN
合計10個の組換えSARS-CoV-2 SとN(S5個とN5個)を大腸菌BL21-コドンプラス(DE3)-RIPを用いた発現システムにより作成した。
図1に示すように、SARS-CoV-2 SおよびNの全体的な構造によって、SARS-CoV-2 SはN末端ドメイン(NTD)、受容体結合ドメイン(RBD)、サブドメイン(SD)、融合ペプチド(FP)、ヘプタド反復(HRs)、膜貫通ドメイン(TM)および細胞間ドメイン(IC)(Lan et al., 2020)を含み、SARS-CoV-2 Nには、N末端ドメイン(NTD)、(SR)リッチリンカーおよびC末端ドメイン(CTD)が含まれている。(Kang S., et al)。
【0022】
組換えSARS-CoV-2 Sの領域(aa177-512,288-512,348-578,387-516,408-664)は細胞受容体ACE(
図1a)と相互作用すると報告された受容体結合モチーフ(RBM、aa438-506)を含むRBD(aa333-526)の周りから選択した(Lan et al.,2020)(
図1a)。組換えSARS-CoV-2N(aa1-120、111-220、1-220、210-419、1-419)の全長および部分長を調製した(
図1b)(Kang S., et al)。
【0023】
IgG濃縮画分には、SARS-CoV-2に対する抗体が含まれている。
直接酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)は、コーティング抗原としてSARS-CoV-2 SおよびN由来の10個の組換えタンパク質を使用して行い、IgG濃縮画分がSARS-CoV-2SおよびNに対して交差反応性を有するIgG抗体を有するかどうかを調べた。2つの異なるIgG濃縮画分のロットをELISAで分析した。ELISAの結果、IgG濃縮画分には、実験した全ての組換えタンパク質に結合するIgGが含まれていることが明らかになった(
図2)。
【0024】
SARS-CoV-2 Sに対するIgGの反応性は、SARS-CoV-2 Nの反応性よりも高かった(
図2)。ウシIgG濃縮画分は、SARS-CoV-2 Sの他の領域と比較して、SARS-CoV-2 Sの288-512領域を強く認識した(
図2)。画分はSARS-CoV-2 Nの全長(aa1-419)を、SARS-CoV-2 Nの他の部分長より強く認識した(
図2)。SARS-CoV-2 SとNからの組換えタンパク質に対する反応性に実験に使用した二つのロット間では相違はなかった。まとめるとELISAのこれらの結果は、ウシIgG濃縮分画がSARS-CoV-2SおよびNに対するIgG抗体を含むことを示している。
【0025】
ウシIgG濃縮画分についての考察
グラスフェドの健全なニュージーランドのウシがSARS-CoV-2に曝露されたり自然に免疫化されている可能性は低いと思われる。IgG濃縮画分の2ロットは2019年12月に中国でSARS-CoV-2が登場する前に、それぞれ2018年11月と2019年8月に作成されていた。しかしながら、ウシがSARS-CoV-2の免疫原性を共有する未知のコロナウイルスにさらされたことを排除することはできない。
【0026】
IgG濃縮画分は、SARS-CoV-2を中和することができる。SARS-CoV-2 Sはホモトリマーを形成し、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)を利用して細胞に入る(Walls AC., 2020)。SARS-CoV-2 Sマウスポリクローナル抗体は、細胞内へのSARS-CoV-2媒介の侵入を強力に阻害し、保存されたSエピトープを標的とする交差中和抗体がワクチン接種時に誘導され得ることを示唆している。(Walls AC., 2020)。ヒトモノクローナル抗体は、スパイクRBDの保存エピトープと結合しSARS-CoV-2を中和した(Wang C. 2020)。
SARS-CoV-2 Nは、ウイルスRNAの転写および複製のための多機能RNA結合タンパク質を有する細胞間タンパク質である(Lan etal., 2020, Kang S., 他)。SARS-CoV-2 Nは、牛に対して比較的低い抗原性を有すると思われる。その結果、IgG濃縮分画はSARS-CoV-2 Sと比較してSARS-CoV-2 Nに対する活性は少ないのかもしれない。
【0027】
参考文献
Kang S., Yang M., Hong Z., Zhang L., Huang Z., Chen X., et al. 2020. Crystal structure of SARS-CoV-2 nucleocapsid protein RNA binding domain potential unique drug targeting sites. Acta Pharmaceutica Sinica B. 10(7):1228-1238.
Lan J., Ge J., Yu J., Shan S., Zhou H., Fan S., et al., 2020. Structure if the SARS-CoV-S spike receptor-binding domain bound to the ACE2 receptor. Nature. 581(7807):215-220
Wall AC., Xiong X., Park YJ., Tortorici MA., Snijder J., Quispe J., Unexpected receptor functional mimicry elucidates activation of coronavirus fusion. Cell. 176:1026-1039.
Wang C., Li W., Drabek D., Okba NMA., Haperen RV., Osterhaus ADM., 2020. A human monoclonal antibody blocking SARS-CoV-2 infection. Nature Communications. 11:2251.
WHO. Coronavirus disease 2019 (COVID-19) Situation Report. https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/situation-reports
本発明の牛乳に由来するウシ抗SARS-CoV-2 スパイクタンパク質抗体は、SARS-CoV-2の中和剤SARS-CoV-2の中和剤及び/又はSARS-CoV-2の診断剤に用いることができる。