(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022075622
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】薬物送達キャリア及びそれを用いて多種類の治療剤を共同送達する医薬製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 9/127 20060101AFI20220511BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220511BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220511BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20220511BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20220511BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20220511BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20220511BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20220511BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20220511BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20220511BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220511BHJP
A61K 38/43 20060101ALI20220511BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20220511BHJP
A61K 47/56 20170101ALI20220511BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20220511BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220511BHJP
A61K 31/175 20060101ALI20220511BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20220511BHJP
A61K 31/7068 20060101ALI20220511BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20220511BHJP
A61K 33/243 20190101ALI20220511BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20220511BHJP
C07K 7/08 20060101ALN20220511BHJP
C12N 15/88 20060101ALN20220511BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20220511BHJP
【FI】
A61K9/127
A61K45/00 ZNA
A61K48/00
A61K47/34
A61K47/42
A61K47/18
A61K47/24
A61K31/713
A61K31/7105
A61K31/7088
A61P43/00 121
A61K38/43
A61K47/28
A61K47/56
A61K47/64
A61P35/00
A61K31/175
A61K31/337
A61K31/7068
A61K31/506
A61K33/243
A61K31/704
C07K7/08
C12N15/88 Z
C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180366
(22)【出願日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】202011214492.6
(32)【優先日】2020-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】505294816
【氏名又は名称】▲復▼旦大学
【氏名又は名称原語表記】Fundan University
(71)【出願人】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】魏 ▲剛▼
(72)【発明者】
【氏名】胡 ▲楊▼
(72)【発明者】
【氏名】江 ▲寛▼
(72)【発明者】
【氏名】王 勇
(72)【発明者】
【氏名】越仮 良樹
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C206
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076BB25
4C076CC27
4C076CC41
4C076DD50
4C076DD63
4C076DD70
4C076EE25
4C076EE41
4C076EE59
4C084AA02
4C084AA13
4C084AA20
4C084DC01
4C084MA02
4C084MA59
4C084NA05
4C084NA13
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA02
4C086BC42
4C086EA10
4C086EA16
4C086EA17
4C086GA07
4C086GA08
4C086GA12
4C086HA12
4C086HA24
4C086HA26
4C086HA28
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA59
4C086NA05
4C086NA13
4C086ZB26
4C086ZC75
4C206HA28
4C206MA03
4C206MA05
4C206MA79
4C206NA05
4C206NA13
4C206ZB26
4C206ZC75
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA17
4H045BA50
4H045BA55
4H045BA57
4H045EA20
4H045FA20
(57)【要約】
【課題】新規な薬物送達キャリアを提供する。
【解決手段】細胞透過性ペプチドで修飾したカチオン性リポソームと、正に帯電したポリアミノ酸、PEI、penetratin又はpenetratinの誘導体、PAMAMから選択されるカチオン性材料とを含む薬物送達キャリアを提供する。また、前記薬物送達キャリアが1種又は多種類の治療剤を送達するための使用、前記薬物送達キャリアを用いて調製された、多種類の治療剤を共同送達するための医薬製剤、及び前記薬物送達キャリアを用いて多種類の治療剤を共同送達するための医薬製剤を調製する方法を提供する。医薬製剤は、粒径が50nm~300nmであり、安定性がよく、多種類の治療剤を同一病変部位に同時に送達して、多種類の治療剤に相乗する治療効果を発揮させることができ、治療効果を格段に高めることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多種類の治療剤を共同送達する医薬製剤であって、
多種類の治療剤と、薬物送達キャリアとを含み、
前記薬物送達キャリアは、細胞透過性ペプチドで修飾したカチオン性リポソームと、カチオン性材料と、を含み、
前記細胞透過性ペプチドは、RX1IKIWFX2X3RRMKWKK(配列番号1、ここで、X1、X2、X3は、それぞれ独立して、グルタミン(Q)、アスパラギン(N)、アラニン(A)、バリン(V)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、プロリン(P)、フェニルアラニン(F)、トリプトファン(W)、メチオニン(M)、α-アミノ酪酸、α-アミノペンタン酸、α-アミノヘキサン酸及びα-アミノヘプタン酸からなる群より選択されるアミノ酸である。)で表されるアミノ酸配列を有するpenetratin又はその誘導体であり、
前記カチオン性材料は、正に帯電したポリアミノ酸、ポリエチレンイミン(PEI)、penetratin、penetratinの誘導体及びポリアミド-アミン(PAMAM)からなる群より選択される化合物であり、
前記多種類の治療剤は、少なくとも1種の非核酸治療剤と、少なくとも1種の核酸治療剤を含む、医薬製剤。
【請求項2】
前記核酸治療剤が、プラスミドDNA、低分子干渉RNA(siRNA)、miRNA、センスRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、アプタマー(aptamers)及びリボザイムからなる群から選ばれる治療剤であり、
前記非核酸治療剤が、化学療法剤である、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項3】
前記カチオン性リポソームはカチオン性脂質を含み、
前記非核酸治療剤の前記カチオン性脂質に対するモル比が1:1500~2000:1であり、
前記カチオン性材料と前記核酸治療剤との電荷比が1:1~30:1であり、
前記カチオン性リポソームと前記核酸治療剤との電荷比が1:1~30:1である、請求項1又は2に記載の医薬製剤。
【請求項4】
前記カチオン性リポソームは、カチオン性脂質、非カチオン性脂質、コレステロール、ポリエチレングリコール(PEG)化リン脂質、及び、細胞透過性ペプチドと共役したポリエチレングリコールリン脂質を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項5】
前記カチオン性脂質が、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(DOTAP)であり、前記非カチオン性脂質が、1,2-ジ-(9Z-オクタデカノイル)-sn-グリセリル-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)であり、前記ポリエチレングリコール(PEG)化リン脂質が、メトキシ-ポリエチレングリコール-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(mPEG-DSPE)であり、前記細胞透過性ペプチドと共役したポリエチレングリコールリン脂質が、Penetratin-PEG-DSPE又はPenetratin誘導体-PEG-DSPEである、請求項4に記載の医薬製剤。
【請求項6】
前記カチオン性脂質がDOTAPであり、前記非カチオン性脂質がDOPEであり、前記PEG化リン脂質がmPEG-DSPEであり、前記細胞透過性ペプチドと共役したポリエチレングリコールリン脂質が、Penetratin誘導体-PEG-DSPEであり、
(前記DOTAP):(前記DOPE):(前記コレステロール):(前記mPEG-DSPE及びPenetratin誘導体-PEG-DSPEの合計)のモル比が約28.5:28.5:38:5であり、
前記Penetratin誘導体-PEG-DSPEの、前記mPEG-DSPE及びPenetratin誘導体-PEG-DSPEの合計に対するモル比が60%であり、
前記非核酸治療剤とDOTAPのモル比が約1:1000であり、
前記カチオン性材料と前記核酸治療剤の電荷比が約5:1であり、
前記カチオン性リポソームと前記核酸治療剤の電荷比が約4:1であり、
前記非核酸治療剤と前記核酸治療剤のモル濃度比が両者のIC50値の比である、
請求項4又は5に記載の医薬製剤。
【請求項7】
経鼻投与用である、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項8】
細胞透過性ペプチドで修飾したカチオン性リポソームと、カチオン性材料と、を含み、
前記細胞透過性ペプチドは、RX1IKIWFX2X3RRMKWKK(配列番号1、ここで、X1、X2、X3は、それぞれ独立して、グルタミン(Q)、アスパラギン(N)、アラニン(A)、バリン(V)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、プロリン(P)、フェニルアラニン(F)、トリプトファン(W)、メチオニン(M)、α-アミノ酪酸、α-アミノペンタン酸、α-アミノヘキサン酸及びα-アミノヘプタン酸からなる群より選択されるアミノ酸である。)で表されるアミノ酸配列を有するpenetratin又はその誘導体であり、
前記カチオン性材料は、正に帯電したポリアミノ酸、ポリエチレンイミン(PEI)、penetratin、penetratinの誘導体及びポリアミド-アミン(PAMAM)からなる群より選択される化合物である、薬物送達キャリア。
【請求項9】
前記細胞透過性ペプチドが、RWIKIWFQNRRMKWKK(配列番号24)、RQIKIWFWNRRMKWKK(配列番号25)、RQIKIWFQWRRMKWKK(配列番号26)、RWIKIWFWNRRMKWKK(配列番号27)、RWIKIWFQWRRMKWKK(配列番号28)、RQIKIWFWWRRMKWKK(配列番号29)又はRWIKIWFWWRRMKWKK(配列番号30)で表されるアミノ酸配列からなるペプチドであり、
前記カチオン性リポソームは、カチオン性脂質、非カチオン性脂質、コレステロール、PEG化リン脂質、及び、前記細胞透過性ペプチドと共役したポリエチレングリコールリン脂質を含む、請求項8に記載の薬物送達キャリア。
【請求項10】
多種類の治療剤を共同送達するための請求項8又は9に記載の薬物送達キャリア。
【請求項11】
請求項4~7のいずれか一項に記載の医薬製剤の製造方法であって、
(a)前記カチオン性材料と前記核酸治療剤とを混合して、カチオン性材料-少なくとも1種の核酸治療剤からなる物理複合体を形成する工程と、
(b)前記カチオン性脂質、前記非カチオン性脂質、前記コレステロール及び前記非核酸治療剤を材料として、少なくとも1種の非核酸治療剤を封入したリポソームを調製する工程と、
(c)前記カチオン性材料-少なくとも1種の核酸治療剤からなる物理複合体と、前記少なくとも1種の非核酸治療剤を封入したリポソームとを混合して、脂質複合体を調製する工程と、
(d)前記脂質複合体を、前記PEG化リン脂質と、前記細胞透過性ペプチドと共役したポリエチレングリコールリン脂質とによって修飾する工程と、を含むか、又は、
(a’)前記カチオン性材料と前記核酸治療剤とを混合して、カチオン性材料-少なくとも1種の核酸治療剤からなる物理複合体を形成する工程と、
(b’)前記カチオン性脂質、前記非カチオン性脂質、前記コレステロール、前記PEG化リン脂質、前記細胞透過性ペプチドと共役したポリエチレングリコールリン脂質、前記非核酸治療剤を材料として、少なくとも1種の非核酸治療剤を封入したリポソームを調製する工程と、
(c’)前記カチオン性材料-少なくとも1種の核酸治療剤からなる物理複合体と、前記少なくとも1種の非核酸治療剤を封入したリポソームとを混合して、前記医薬製剤を得る工程と、を含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物送達キャリア、前記薬物送達キャリアを用いて医薬製剤を調製する方法、及びこれによって調製された医薬製剤に関する。具体的に、本発明の薬物送達キャリアは、ポリエチレングリコールリン脂質と共役した細胞透過性ペプチドを含む細胞透過性ペプチドで修飾したカチオン性リポソームと、カチオン性材料とを含んでいる。本発明の薬物送達キャリアを用いて多種類の治療剤を共同送達する医薬製剤を調製することができ、前記医薬製剤は粒径が50nm~300nmであり、安定性がよく、多種類の治療剤を同一病変部位に同時に送達して、多種類の治療剤に相乗する治療効果を発揮させることができ、治療効果が格段に高まった。
【背景技術】
【0002】
細胞透過性ペプチド(cell-penetrating peptide、CPP)は、生理学的条件で正に帯電した短いペプチドであり、遺伝子、ポリペプチド、タンパク質等の薬物分子と共役結合又は非共役結合させ、薬物分子を細胞内に送達するか、又は薬物分子を担持して生体膜バリアを透過させることができる。しかし、単一の細胞透過性ペプチドは、薬物分子を担持する能力が非常に有限的であり、これにより、細胞透過性ペプチドと薬物分子によって形成される複合体は、粒径が大きくて安定性が悪くなる。
【0003】
従来、薬物分子(例えば、遺伝子、ポリペプチドやタンパク質等の薬物分子)を送達するキャリア、例えば、リポソームは、生体膜バリアを透過しにくく、送達効率が低く、所望の治療効果が得られない等の問題がある。リポソームの研究分野では、より効率的に多種類の薬物分子を同一病変部位まで送達して、多種類の薬物による相乗作用を発揮して、疾病の治療効果を高めるように、どのように生体膜バリアへのリポソームの透過性を改善して、リポソームに多種類の異なる治療薬を同時に封入させるかということがまだ大きな挑戦である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】中国特許出願公開第108976288号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本分野では、多種類の治療剤を共同送達して、同一病変部位に同時に送達した後に多種類の治療剤が相乗する治療効果を発揮させることで治療効果を高めるために、細胞透過性ペプチドを利用する新規な薬物送達キャリアが必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意研究によって、細胞透過性ペプチドを利用する新規な薬物送達キャリアを開発した。本発明の薬物送達キャリアは、ポリエチレングリコールリン脂質と共役した細胞透過性ペプチドを含む、細胞透過性ペプチドで修飾したカチオン性リポソームと、カチオン性材料とを含んでいる。前記カチオン性材料は、正に帯電したポリアミノ酸、ポリエチレンイミン(PEI)、penetratin又はpenetratinの誘導体、ポリアミド-アミン(PAMAM)から選択される。
【0007】
一実施形態において、本発明の薬物送達キャリアにおける細胞透過性ペプチドは、以下のアミノ酸配列を有するpenetratin又はpenetratinの親油性誘導体である。
RX1IKIWFX2X3RRMKWKK(配列番号1)
【0008】
ここで、X1、X2、X3は、独立して天然由来のアミノ酸グルタミン(glutamine,Q)、アスパラギン(asparagine,N)、アラニン(alanine,A)、バリン(valine,V)、ロイシン(leucine,L)、イソロイシン(isoleucine,I)、プロリン(proline,P)、フェニルアラニン(phenylalanine,F)、トリプトファン(tryptophan,W)、メチオニン(methionine,M)及び非天然由来のアミノ酸、α-アミノ酪酸(α-aminobutyric acid)、α-アミノペンタン酸(α-aminopentanoic acid)、α-アミノヘキサン酸(α-aminohexanoic acid)、α-アミノヘプタン酸(α-aminoheptanoic acid)から選択される。例えば、本発明の薬物送達キャリアにおけるいくつかの細胞透過性ペプチドは、Penetratin第2位のグルタミン(Q)及び/又は第8位のグルタミン(Q)及び/又は第9位のアスパラギン(N)を疎水性アミノ酸に変異させたPenetratin誘導体である。
【0009】
一実施形態において、本発明の薬物送達キャリアにおける細胞透過性ペプチドで修飾したリポソームは、次のような膜材料を含む。
【0010】
(i)カチオン性脂質は、1,2-ジ-0-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(DOTMA)、ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDAB)、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(DOTAP)、1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウム-プロパン(DODAP)、1,2-ジアシルオキシ-3-ジメチルアンモニウム-プロパン、1,2-ジアルコキシ-3-ジメチルアンモニウム-プロパン、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド(DODAC)、1,2-ジミリストイルオキシプロピル-1,3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE)、2,3-ジオレイルオキシ-N-[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N-N-ジメチル-1-プロパンアンモニウムトリフルオロアセテート(DOSPA)及びそれらの組合せを含むが、これらに限らない。好ましくはDOTMA、DOTAP、DODAC、DOSPAである。最も好ましくはDOTAPである;
(ii)非カチオン性脂質は、1,2-ジ-(9Z-オクタデカノイル)-sn-グリセリル-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセリル-3-ホスホコリン(DOPC)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセリル-3-ホスホコリン(DSPC)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセリル-3-ホスホコリン(DPPC)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセリル-3-ホスホエタノールアミン(DPPE)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセリル-3-ホスホエタノールアミン(DMPE)、2-ジオレオイル-sn-グリセリル-3-リン酸-(1’-rac-グリセロール)(DOPG)及びそれらの組み合わせを含むが、これらに限らない。好ましくはDOPE及び/又はDOPCである。最も好ましくはDOPEである;
(iii)コレステロール;及び
(iv)ポリエチレングリコール化(PEG化)リン脂質及びCPPと共役したポリエチレングリコールリン脂質;前記リン脂質は、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリンであり、好ましくは、前記PEG化リン脂質は、例えば、ポリエチレングリコール-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(PEG-DSPE)及びその誘導体であるメトキシ-ポリエチレングリコール-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(mPEG-DSPE)であり、CPPと共役した前記ポリエチレングリコールリン脂質は、例えば、Penetratin/Penetratin誘導体-PEG-DSPEである。
【0011】
本発明では、細胞透過性ペプチドで修飾していないカチオン性リポソームは、カチオン性リポソーム(略語:CLS)と略称される場合があり、上記の膜材料(i)、(ii)、及び(iii)を含む。
【0012】
いくつかの実施形態において、膜材料(i):(ii):(iii):(iv)のモル比が約20~40:20~40:20~40:1~20であり、CPPと共役したポリエチレングリコールリン脂質は膜材料(iv)に対するモル比が約20%~80%である。いくつかの具体的な実施形態において、膜材料(i):(ii):(iii):(iv)のモル比が約27.0~31.6:27.0~31.6:31.6~39.6:1~10であり、CPPと共役したポリエチレングリコールリン脂質は膜材料(iv)に対するモル比が約20%~80%である。
【0013】
いくつかの具体的な実施形態において、本発明の薬物送達キャリアにおける細胞透過性ペプチドで修飾したカチオン性リポソームは、膜材料として、(i)DOTAP;(ii)DOPE;(iii)コレステロール;(iv)mPEG2000-DSPE及び89WPenetratin-PEG3400-DSPEを含み、且つ膜材料(i):(ii):(iii):(iv)のモル比が約20~40:20~40:20~40:1~20であり、膜材料(iv)に対する89WPenetratin-PEG3400-DSPEのモル比が約20%~80%である。
【0014】
いくつかの実施形態において、膜材料(i):(ii):(iii):(iv)のモル比が約27.0~31.6:27.0~31.6:31.6~39.6:1~10で、且つ膜材料(iv)に対する89WPenetratin-PEG3400-DSPEのモル比が約20%~80%である。
【0015】
いくつかの実施形態において、本発明の薬物送達キャリアにおけるカチオン性リポソームは、膜材料として、(i)DOTAP;(ii)DOPE;(iii)コレステロール;(iv)mPEG2000-DSPEと89WPenetratin-PEG3400-DSPEから構成され、膜材料(i):(ii):(iii):(iv)のモル比が約28.5:28.5:38:5であり、膜材料(iv)に対する89WPenetratin-PEG3400-DSPEのモル比が約20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%である。
【0016】
別の態様では、本発明は、多種類の治療剤を共同送達する医薬製剤を提供し、前記多種類の治療剤は、少なくとも1種の非核酸治療剤と少なくとも1種の核酸治療剤を含み、本発明の薬物送達キャリアを用いて調製されたものである。
【0017】
一実施形態において、薬物送達キャリアに含まれるコンポーネントとしてのカチオン性材料と少なくとも1種の核酸治療剤を混合して、カチオン性材料-少なくとも1種の核酸治療剤からなる物理複合体を形成した。
【0018】
カチオン性リポソームの膜材料と少なくとも1種の非核酸治療剤を用いて、少なくとも1種の非核酸治療剤を封入したリポソームを調製した。
【0019】
前記カチオン性材料-少なくとも1種の核酸治療剤からなる物理複合体と、前記少なくとも1種の非核酸治療剤を封入したリポソームを混合して、脂質複合体を調製した。
【0020】
前記脂質複合体を細胞透過性ペプチドで修飾して前記医薬製剤を調製し、例えば、前記脂質複合体を、ポリエチレングリコール(PEG化)リン脂質と、細胞透過性ペプチドと共役したポリエチレングリコールリン脂質と混合して、前記医薬製剤を調製した。
【0021】
一実施形態において、薬物送達キャリアに含まれるコンポーネントとしてのカチオン性材料と少なくとも1種の核酸治療剤を混合してカチオン性材料-少なくとも1種の核酸治療剤からなる物理複合体を形成した。
【0022】
細胞透過性ペプチドで修飾したカチオン性リポソームの全ての膜材料と少なくとも1種の非核酸治療剤を用いて、少なくとも1種の非核酸治療剤を封入したリポソームを調製した。
【0023】
前記カチオン性材料-少なくとも1種の核酸治療剤からなる物理複合体と、前記少なくとも1種の非核酸治療剤を封入したリポソームを混合して、前記医薬製剤を調製した。
【0024】
送達しようとする少なくとも1種の非核酸治療剤としては、特に限定されず、化学療法剤、例えば、プラチナ類の薬物(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン)、タキサン類の薬物(例えば、パクリタキセル、ドセタキセル(DTX))、エトポシド、イリノテカン、ペメトレキサンド、ゲムシタビン、メルファラン、カルマチン(BCNU)、ドキソルビシン(DOX)、ボルテゾミブ、メトトレキセート、イマチニブ、ブレオマイシン、ビンカアルカロイド(例えば、ビンブラスチン)を含むが、これらに限らない。
【0025】
送達しようとする少なくとも1種の核酸治療剤としては、特に限定されず、プラスミドDNA、低分子干渉RNA(siRNA)のようなRNA、miRNA、センスRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、アプタマー(aptamers)、リボザイム等の核酸を含むが、これらに限らなく、例えば、前記核酸治療剤は、脳腫瘍(例えば、脳神経膠腫)の脳疾患に対するRNAであり、例えば、c-mycに対するsiRNAである。
【0026】
一実施形態において、前記医薬製剤のうち、非核酸治療剤(例えば、化学療法薬)とカチオン性リポソーム中のカチオン脂質(例えば、DOTAP)のモル比が約1:1500~2000:1であり、例えば、約1:1200、1:1000、1:500、1:200、1:100、1:5、5:1、100:1、200:1、500:1、1000:1、1200:1、1400:1、1600:1、1800:1であり、好ましくは約1:1000~2000:1であり、更に好ましくは約1:500~500:1である。
【0027】
一実施形態において、前記医薬製剤のうち、カチオン性材料(例えば、オリゴアルギニン、PEI、penetratin又はpenetratinの誘導体、PAMAM)と、核酸治療剤との電荷比は1:1~30:1であり、例えば、1:1、5:1、10:1、15:1、20:1、25:1、30:1である。
【0028】
一実施形態において、前記医薬製剤のうち、カチオン性リポソームと核酸治療剤との電荷比は、1:1~30:1であり、例えば、2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、8:1、10:1、12:1である。
【0029】
一実施形態において、前記医薬製剤の非核酸治療剤(例えば、化学療法薬)に対する封入量は、医薬製剤に対して、非核酸治療剤(例えば、化学療法薬)が約0.01%~40%(w/w)、好ましくは約0.02%~25%(w/w)である。一つの具体的な実施形態では、前記医薬製剤のドセタキセル(DTX)に対する封入量は0.04%w/wである。
【0030】
一実施形態において、前記医薬製剤中のカチオン性材料(例えば、オリゴアルギニン、PEI、penetratin又はpenetratinの誘導体、PAMAM)と、送達しようとする核酸治療剤との電荷比は、1:1~30:1であり、好ましくは5:1であり、且つカチオン性リポソームと核酸治療剤との電荷比は、1:1~30:1であり、好ましくは4:1である。
【0031】
一実施形態において、本発明の医薬製剤は、粒径が50nm~300nmであり、好ましくは80nm~150nmであり、且つ安定性がよく、含まれている多種類の治療剤に対してよりよい保護を提供することができ、siRNAと薬物を病変部位の深部組織に送達することにも有利である。
【0032】
更に別の態様では、本発明は、医薬製剤の調製方法であって、(a)本発明の薬物送達キャリアに含まれるコンポーネントとしてのカチオン性材料と少なくとも1種の核酸治療剤を混合してカチオン性材料-少なくとも1種の核酸治療剤からなる物理複合体を形成すること、(b)カチオン性リポソームの膜材料と少なくとも1種の非核酸治療剤を用いて、少なくとも1種の非核酸治療剤を封入したリポソームを調製すること、(c)前記カチオン性材料-少なくとも1種の核酸治療剤からなる物理複合体と、前記少なくとも1種の非核酸治療剤を封入したリポソームを混合して、脂質複合体を調製すること、及び、(d)前記脂質複合体をポリエチレングリコール(PEG化)リン脂質と、細胞透過性ペプチドと共役したポリエチレングリコールリン脂質とによって修飾することを含む医薬製剤の調製方法を提供する。
【0033】
別の態様として、本発明は、医薬製剤の調製方法であって、(a)本発明の薬物送達キャリアに含まれるコンポーネントとしてのカチオン性材料と少なくとも1種の核酸治療剤を混合してカチオン性材料-少なくとも1種の核酸治療剤からなる物理複合体を形成すること、(b)細胞透過性ペプチドで修飾したカチオン性リポソームの全ての膜材料と少なくとも1種の非核酸治療剤を用いて、少なくとも1種の非核酸治療剤を封入したリポソームを調製すること、及び、(c)前記カチオン性材料-少なくとも1種の核酸治療剤からなる物理複合体と、前記少なくとも1種の非核酸治療剤を封入したリポソームを混合して、前記医薬製剤を調製することを含む医薬製剤の調製方法を提供する。
【0034】
本発明の薬物送達キャリアを用いて調製された医薬製剤は、例えば、口腔、鼻腔、目、気道、消化道、生殖道、局所的なインプラント、注射、又は輸注(硬膜外、動脈内、関節内、嚢内、心臓内、脳室内、頭蓋内、皮内、筋肉内、眼窩内、眼内、腹腔内、脊椎内、胸骨内、髄腔内、静脈内、くも膜下、被膜下、皮膚下、気管、直腸、舌下等の経路)を介して投与し、疾患の治療及び/又は予防に用いることができる。
【0035】
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書で言及されたすべての刊行物、特許出願、特許及び他の参考文献は、参照のために、引用によって本明細書に完全に組み込まれた。また、本明細書に記載の材料、方法、及び例は、例示に過ぎず、限定することを意図するものではない。本発明の他の特徴、目的、及び利点は、本明細書及び図面、ならびに添付の特許請求の範囲から明らかなものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1は、カチオン性材料/siRNA複合体のアガロースゲル電気泳動結果を示すものである。左側はR8(8個アルギニンのポリマー)とsiRNAの異なる電荷比(図中の数値は正電荷/負電荷の割合を示す)のアガロースゲル電気泳動写真であり、右側はPenetratinとsiRNAの異なる電荷比(図中の数値は正電荷/負電荷の割合を示す)のアガロースゲル電気泳動写真である。
【
図2】
図2は、カチオン性材料/siRNA複合体のアガロースゲル電気泳動結果を示すものである。左側はCLSとsiRNAの異なる電荷比(図中の数値は正電荷/負電荷の割合を示す)のアガロースゲル電気泳動写真であり、右側はPEIとsiRNAの異なる電荷比(図中の数値は正電荷/負電荷の割合を示す)のアガロースゲル電気泳動写真である。
【
図3】
図3は、PAMAMとsiRNAの異なる電荷比(図中の数値は正電荷/負電荷の割合を示す)のアガロースゲル電気泳動写真を示すものである。
【
図4】
図4は、R8とsiRNAの異なる電荷比(図中の横軸の数値は正電荷/負電荷の割合を示す)の粒径結果を示すものである。
【
図5】
図5は、R8とsiRNAの異なる電荷比(図中の横軸の数値は正電荷/負電荷の割合を示す)の電位結果を示すものである。
【
図6】
図6は、PenetratinとsiRNAの異なる電荷比(図中の横軸の数値は正電荷/負電荷の割合を示す)の粒径結果を示すものである。
【
図7】
図7は、PenetratinとsiRNAの異なる電荷比(図中の横軸の数値は正電荷/負電荷の割合を示す)の電位結果を示すものである。
【
図8】
図8は、PEIとsiRNAの異なる電荷比(図中の横軸の数値は正電荷/負電荷の割合を示す)の粒径結果を示すものである。
【
図9】
図9は、PEIとsiRNAの異なる電荷比(図中の横軸の数値は正電荷/負電荷の割合を示す)の電位結果を示すものである。
【
図10】
図10は、CLSとsiRNAの異なる電荷比(図中の横軸の数値は正電荷/負電荷の割合を示す)の粒径結果を示すものである。
【
図11】
図11は、CLSとsiRNAの異なる電荷比(図中の横軸の数値は正電荷/負電荷の割合を示す)の電位結果を示すものである。
【
図12】
図12は、PAMAMとsiRNAの異なる電荷比(図中の横軸の数値は正電荷/負電荷の割合を示す)の粒径結果を示すものである。
【
図13】
図13は、PAMAMとsiRNAの異なる電荷比(図中の横軸の数値は正電荷/負電荷の割合を示す)の電位結果を示すものである。
【
図14】
図14は、CLS/カチオン性材料/siRNA複合体の粒径を示すものである。第1グループ:CLS/siRNA複合体、CLS/PEI/siRNAリポソーム複合体、PEI/siRNA複合体;第2グループ:CLS/siRNA複合体、CLS/Penetratin/siRNAリポソーム複合体、Penetratin/siRNA複合体;第3グループ:CLS/siRNA複合体、CLS/PAMAM/siRNAリポソーム複合体、PAMAM/siRNA複合体。
【
図15】
図15は、CLS/カチオン性材料/siRNA複合体の放置過程における粒径の変化を示すものである。
【
図16】
図16は、表面に細胞透過性ペプチドが異なる割合で修飾した医薬製剤に対する細胞摂取の定量的評価結果を示すものである。Lipo2000グループは市販されている遺伝子トランスフェクション試薬としてのカチオン性リポソームLipofectamine 2000とsiRNAの非共役結合複合体である。
【
図17】
図17は、実施例7の表2に示した細胞透過性ペプチドで修飾したリポソームのコンポーネントとしての、異なる配合比の膜材料を用いて調製された医薬製剤に対する細胞の摂取状況を示すものである。
【
図18】
図18は、細胞透過性ペプチドで修飾したリポソームの膜材料に対する成分(iv)のモル比が1%、5%、8%、10%であるリポソーム医薬製剤の粒径を示すものである。
【
図19】
図19は、R8とsiRNAの電荷比が1:1である場合、CLSとsiRNAの異なる電荷比で調製されたCLS/R8/siRNAリポソーム複合体に対する細胞の摂取状況を示すものである。
【
図20】
図20は、異なるオリゴアルギニンを用いた医薬製剤によるLUC-U87細胞へのトランスフェクション効果の定性的評価と定量的評価の結果を示すものである。
【
図21】
図21は、siRNAを封入した医薬製剤によるbEnd.3細胞とU87細胞のアポトーシス促進効果の評価と細胞毒性の評価結果を示すものである。
【
図22】
図22は、各化学療法薬又は遺伝子薬物の半分最大阻害濃度IC
50値の測定結果を示すものである。
【
図23】
図23は、遺伝子薬物と異なる化学療法剤を併用することによるインビトロ抗腫瘍薬力学的評価結果を示すものである。
【
図24】
図24は、遺伝子薬物と異なる化学療法剤を併用するコンビネーションインデックス及び用量低減指数の結果を示すものである。
【
図25】
図25は、遺伝子薬物と異なる化学療法剤を併用することによるインビトロ抗腫瘍薬効学スクリーニング結果を示すものである。
【
図26】
図26は、遺伝子薬物が化学療法薬ドセタキセル(DTX) を併用した本発明の医薬製剤によるインビトロ抗腫瘍薬力学的結果を示すものである。
【
図27】
図27は、細胞膜蛍光プローブDiDでラベルされたキャリアがFAM-siRNAを封入した後にU87細胞又はCalu-3細胞によって摂取された結果を示すものである。
【
図28】
図28は、遺伝子薬物が化学療法薬ドセタキセル(DTX) を併用した本発明の医薬製剤によるU87細胞のアポトーシス促進能力の評価効果を示すものである。
【
図29】
図29は、遺伝子薬物が化学療法薬ドセタキセル(DTX) を併用した本発明の医薬製剤による抗U87原位置脳腫瘍の薬力学的評価の結果を示すものである。
【
図30】
図30は、遺伝子薬物が化学療法薬ドセタキセル(DTX) を併用した本発明の医薬製剤による抗U87原位置脳腫瘍の薬力学的試験における動物体重曲線を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明は、細胞透過性ペプチドで修飾したカチオン性リポソームと、正に帯電したポリアミノ酸、PEI、penetratin又はpenetratinの誘導体、PAMAMから選択されるカチオン性材料とを含む、新規な薬物送達キャリアを提供する。
【0038】
前記薬物送達キャリアを利用して、少なくとも1種の非核酸治療薬及び少なくとも1種の核酸治療薬を含む医薬製剤を調製する過程において、薬物送達キャリアに含まれるカチオン性材料は、核酸治療薬を一度圧縮し(compact)、薬物送達キャリアに含まれるカチオン性リポソームは、カチオン性材料-少なくとも1種の核酸治療薬からなる物理複合体に対して二次圧縮を行うことによって、カチオン性材料-少なくとも1種の核酸治療薬からなる物理複合体の粒径が顕著に減少し、安定性が顕著に向上し、リポソーム表面を修飾し且つ細胞透過性を有する細胞透過性ペプチドは、被験者体内の生体膜バリアへの医薬製剤の透過を助ける。
【0039】
本発明の薬物送達キャリアは、多種類の薬物の担持、多種類の薬物の送達、及び組織透過能力が強く、組織毒性が低く、様々な投与経路を介して多種類の薬物分子を被験者体内の標的部位に効率的に送達することができ、被験者の生体膜バリアにより多種類の薬物が標的部位に到達するのが困難であるという技術課題を克服することができ、疾病を治療するための多種類の薬物の併用の有効性を高め、良好な生物学的安全性を有する。したがって、本発明は、更に前記薬物送達キャリアを用いて調製された多種類の治療剤を共同送達するための医薬製剤を提供する。
【0040】
本発明の薬物送達キャリアの様々な特徴について以下に検討する。
【0041】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、指定された値の±10%の調整を意味する。たとえば、「約5%」という用語は、4.5%~5.5%の範囲を含むことを意味する。
【0042】
本明細書で使用される場合、「含む」又は「含み」という用語は、記載された要素、整数、又はステップを含むことを意味するが、任意の他の要素、整数又はステップを除外するものではない。
【0043】
本明細書で使用される場合、「カチオン性材料」という用語は、正に帯電したポリアミノ酸、PEI、penetratin又はpenetratinの誘導体、PAMAMから選ばれるカチオン性材料を指すものである。
【0044】
<I、表面に細胞透過性ペプチドで修飾したリポソームの膜材料>
本明細書で使用される「リポソーム」という用語は、脂質二重層から構成される人工的に調製された小胞を指す。本発明において細胞透過性ペプチドで修飾したリポソームのタイプは限定されず、脂質小胞を形成し、薬物を封入することができる任意のものであり得る。
【0045】
本明細書で使用される「脂質」という用語は、疎水性又は両性の小分子を指し、例えば、脂肪酸、リン脂質、グリセリド、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、糖脂質、又はポリケチド(polyketide)であるが、これらに限定されない。
【0046】
いくつかの実施形態において、本発明の表面に細胞透過性ペプチドで修飾したカチオン性リポソームは、以下の膜材料を含む:
【0047】
[(i)カチオン性脂質]
リポソームには、1つ又は複数のカチオン性脂質が含まれている。本明細書で使用される場合、「カチオン性脂質」という用語は、選択されたpH(例えば、生理pH)で正味の正電荷を持つ脂質である。多くのカチオン性脂質は市販されているものである。リポソームに用いられるのに特に適切なカチオン性脂質には、国際特許公開WO2010/053572及びWO2012/170930に記載されているカチオン性脂質が含まれ、前記2件の特許文献のいずれも、参照のために引用して本明細書に組み込まれた。
【0048】
リポソームに含まれるカチオン性脂質について、選択されたpH(例えば、生理pH)で正味の正電荷を持つリポソームである限り、特に制限はなく、1,2-ジ-0-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(DOTMA)、ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDAB)、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(DOTAP) 、1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウム-プロパン(DODAP)、1,2-ジアシルオキシ-3-ジメチルアンモニウム-プロパン、1,2-ジアルコキシ-3-ジメチルアンモニウム-プロパン、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド(DODAC)、1,2-ジミリストイルオキシプロピル-1,3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE)、2,3-ジオレイルオキシ-N-[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N-N-ジメチル-1-プロパンアンモニウムトリフルオロアセテート(DOSPA)及びそれらの組み合わせを使用することができるが、これらに限らない。好ましいカチオン性脂質は、DOTMA、DOTAP、DODAC及びDOSPAである。最も好ましいカチオン性脂質は、DOTAPである。
【0049】
[(ii)非カチオン性脂質]
リポソームには、1つ又は複数の非カチオン性脂質が含まれている。本明細書で使用される場合、「非カチオン性脂質」という用語は、任意の中性イオン、双性イオン又はアニオン性脂質を指す。本明細書で使用される場合、「アニオン性脂質」という用語は、生理pH等の選択されたpHで正味の負電荷をもつ多くの脂質物質のいずれかを指す。
【0050】
リポソームに含まれる非カチオン性脂質に特別な制限はなく、任意の中性イオン、両性イオン、又はアニオン性脂質を使用でき、1,2-ジ-(9Z-オクタデカノイル)-sn-グリセリル-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセリル-3-ホスホコリン(DOPC)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセリル-3-ホスホコリン(DSPC)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセリル-3-ホスホコリン(DPPC)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセリル-3-ホスホエタノールアミン(DPPE)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセリル-3-ホスホエタノールアミン(DMPE)、2-ジオレオイル-sn-グリセリル-3-リン酸-(1’-rac-グリセロール)(DOPG)及びそれらの組み合わせを使用することができるが、これらに限られない。好ましい非カチオン性脂質は、DOPE及び/又はDOPCである。最も好ましい非カチオン性脂質は、DOPEである。
【0051】
[(iii)コレステロール]
コレステロールは、哺乳類動物の細胞膜を構成する重要な組成成分であり、細胞膜脂質の20%以上を占めている。「コレステロール」という用語は、本明細書で最も広い意味で使用され、コレステロール誘導体をカバーしている。研究によると、コレステロールは、温度が高いときに細胞膜二重層の無秩序化を防ぐことができ、温度が低いときに細胞膜二重層の秩序化を妨げ、液晶の形成を阻止し、細胞膜二重層の流動性を維持することができる。
【0052】
リポソーム膜二重層におけるコレステロールの重要性を考慮すると、本発明のカチオン性リポソームはコレステロールも含む。
【0053】
[(iv)PEG化リン脂質、CPPと共役したポリエチレングリコールリン脂質]
リポソームはPEG化リン脂質と、CPPと共役したポリエチレングリコールリン脂質とを含む。本明細書では、PEG化リン脂質はCPPが連結されたポリエチレングリコールリン脂質を含まない。
【0054】
PEG化リン脂質は、1つ又は複数のポリエチレングリコール分子(PEG)にリン脂質を共役結合させることによって形成される。PEG化リン脂質は、長さが10kDaまでのポリエチレングリコール鎖、例えば、1kDa、2kDa、3kDa、4kDa、5kDa、6kDa、7kDa、8kDa、9kDa、10kDa及びそれらの間の任意の値のポリエチレングリコール鎖を含むが、これらに限らず、リン脂質と共役結合する。前記リン脂質は、合成された、半合成された、又は天然のリン脂質とすることができ、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリンである。いくつかの実施形態において、前記PEG化リン脂質は、例えば、ポリエチレングリコール-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(PEG-DSPE)及びその誘導体のメトキシ-ポリエチレングリコール-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(mPEG-DSPE)であり、そのうち、PEGの分子量は1kDa~10kDaの間の任意の値である。
【0055】
CPPと共役したポリエチレングリコールリン脂質は、CPPをポリエチレングリコールリン脂質に共役結合して形成される。
【0056】
本発明で使用されるCPPは、野生型ポリペプチドpenetratin(アミノ酸配列:RQIKIWFQNRRMKWKK(配列番号2))だけでなく、例えばPenetratinの第2位のグルタミン(Q)及び/又は第8位のグルタミン(Q)及び/又は第9位のアスパラギン(N)を疎水性アミノ酸に突然変異させたPenetratin誘導体のような一連の親油性誘導体も含む。いくつかの実施形態において、Penetratin親油性誘導体は、中国特許出願CN201710414334.7に開示されているような誘導体であり、前記誘導体は、結膜嚢内点眼投与後は、多くの目のバリア(角膜、結膜、強膜等)を透過して眼内への薬物の進入を促進することができ、ひいてはその担持している遺伝子、ポリペプチドやタンパク質等の生体大分子薬物を、目の後ろの網膜の部位に送達することができる。中国特許出願CN201710414334.7に開示されているPenetratin親油性誘導体のアミノ酸配列は、以下のように引用されている。
【0057】
【0058】
本発明によれば、CPPは、ポリエチレングリコールリン脂質との共役結合によりリポソームの脂質二重層の一部に結合している化合物である。本明細書において、「リポソームの脂質二重層の一部」という用語は、CPP-PEG-リン脂質におけるリン脂質が脂質二重層に組み込まれているという事実を表すものである。前記リン脂質は、合成された、半合成された又は天然のリン脂質、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリンであり得る。
【0059】
CPP-PEG-リン脂質におけるポリエチレングリコール鎖は、長さが10kDaまでのポリエチレングリコール鎖、例えば、1kDa、2kDa、3kDa、4kDa、5kDa、6kDa、7kDa、8kDa、9kDa、10kDa及びそれらの間の任意の値のポリエチレングリコール鎖を含むが、これらに限らなく、両端がそれぞれリン脂質、CPPと共役結合する。いくつかの実施形態において、前記CPPと共役したポリエチレングリコールリン脂質は、例えば、Penetratin/Penetratin誘導物-PEG-DSPEであり、そのうち、PEGの分子量は1kDa~10kDaの間の任意の値である。
【0060】
本発明では、カチオン性リポソームの表面にCPPで修飾することは、薬物送達キャリアの組織内透過能力を高めることによって、多種類の薬物分子を担持しているリポソームが標的部位に到達して、疾患の治療及び/又は予防の効果を奏するのを助けることを意図する。
【0061】
いくつかの実施形態において、細胞透過性ペプチドで修飾したリポソームの膜材料(iv)において、PEG化リン脂質及びCPPと共役したポリエチレングリコールリン脂質におけるポリエチレングリコールは、鎖長が同じではなく、CPPと共役したポリエチレングリコールリン脂質におけるポリエチレングリコールの鎖は、PEG化リン脂質におけるポリエチレングリコールの鎖より長く、例えば、0.5kDa~5kDaでより長く、好ましくは0.75kDa~4kDaでより長く、更に好ましくは1kDa~2kDaの間の任意の値でより長い。
【0062】
一実施形態において、細胞透過性ペプチドで修飾したリポソームの膜材料(iv)中のPEG化リン脂質のポリエチレングリコール鎖長は、それぞれ1kDa、2kDa、3kDaであり、CPPと共役したポリエチレングリコールリン脂質のポリエチレングリコール鎖長は、それぞれ約2.5kDa、3.5kDa、4.5kDaである。
【0063】
いくつかの実施形態において、本発明の表面に細胞透過性ペプチドで修飾したカチオン性リポソーム膜材料(i):(ii):(iii):(iv)のモル比は、約20~40:20~40:20~40:1~20であり、CPPと共役したポリエチレングリコールリン脂質は、膜材料(iv)に対するモル比が約20%~80%であり、細胞透過性ペプチドで修飾したリポソームの膜材料の全体に対する約2%~8%のモル比に対応する。
【0064】
いくつかの実施形態において、膜材料(i):(ii):(iii):(iv)のモル比は、約27.0~31.6:27.0~31.6:31.6~39.6:1~10であり、CPPと共役したポリエチレングリコールリン脂質は、膜材料(iv)に対するモル比が約20%~80%であり、細胞透過性ペプチドで修飾したリポソームの膜材料の全体に対する約2%~8%のモル比に対応する。
【0065】
いくつかの具体的な実施形態において、本発明の薬物送達キャリアにおけるカチオン性リポソームは、膜材料として、(i)DOTAP、(ii)DOPE、(iii)コレステロール、(iv) PEG-DSPE (例えば、mPEG2000-DSPE)及びPenetratin/Penetratin誘導体-PEG-DSPE(例えば、89WPenetratin-PEG3400-DSPE)を含み、且つ膜材料(i):(ii):(iii):(iv)のモル比は、約20~40:20~40:20~40:1~20であり、Penetratin/Penetratin誘導体-PEG-DSPE(例えば、89WPenetratin-PEG3400-DSPE)は、膜材料(iv)に対するモル比が約20%~80%である。
【0066】
いくつかの実施形態において、膜材料(i):(ii):(iii):(iv)のモル比は、約27.0~31.6:27.0~31.6:31.6~39.6:1~10であり、且つPenetratin/Penetratin誘導体-PEG-DSPE(例えば、89WPenetratin-PEG3400-DSPE)は、膜材料(iv)に対するモル比が約20%~80%である。
【0067】
いくつかの実施形態において、本発明の薬物送達キャリアにおけるカチオン性リポソームは、膜材料として、(i)DOTAP、(ii)DOPE、(iii)コレステロール、(iv)mPEG2000-DSPEと89WPenetratin-PEG3400-DSPEから構成され、膜材料(i):(ii):(iii):(iv)のモル比は、約28.5:28.5:38:5であり、89WPenetratin-PEG3400-DSPEは、膜材料(iv)に対するモル比が約20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%である。
【0068】
<II.カチオン性材料>
本発明の薬物送達キャリアに含まれるコンポーネントとしてのカチオン性材料は、核酸治療剤を圧縮するために使用される。前記カチオン性材料は、正に帯電したポリアミノ酸、ポリエチレンイミン(PEI)、penetratin又はpenetratinの誘導体、ポリアミド-アミン(PAMAM)から選択される。
【0069】
いくつかの実施形態において、前記カチオン性材料は正に帯電したポリアミノ酸であり、選択されたpH(例えば、生理pH)で正味の正電荷を持つポリアミノ酸である。ポリアミノ酸におけるアミノ酸残基の重合度に特別な制限はなく、例えば、重合度が2~50の正に帯電したポリアミノ酸(すなわち、正に帯電したポリアミノ酸は2~50個のアミノ酸残基を有する)、例えば、重合度が6~12のアルギニン及び/又はリジンのポリアミノ酸であり、前記重合度が2~50である正に帯電したポリアミノ酸の中には、1~20個(例えば、1~6個)の生理条件での非荷電アミノ酸残基が介在していてもよい。正に帯電したポリアミノ酸は線状又は環状であり得、且つアミノ酸残基のコンフィギュレーションはL型又はD型である。好ましくは、前記正に帯電したポリアミノ酸は、重合度が6~12のポリアルギニンであり、前記ポリアルギニンの空間構造は線状及び環状を含み、ポリアルギニンのコンフィギュレーションはL型又はD型である。
【0070】
いくつかの実施形態において、正に帯電したポリアミノ酸は、オリゴアルギニン(oligo-arginine)であり、6ポリアルギニン(アミノ酸配列はRRRRRR,R6(配列番号85))、8ポリアルギニン(アミノ酸配列はRRRRRRRR,R8(配列番号86))、10ポリアルギニン(アミノ酸配列はRRRRRRRRRR,R10(配列番号87))、12ポリアルギニン(アミノ酸配列はRRRRRRRRRRRR,R12(配列番号88))のような線状ポリペプチドと、環化6-ポリアルギニン(c-R6)、環化8ポリアルギニン(c-R8)、環化10ポリアルギニン(c-R10)、環化12ポリアルギニン(c-R12)のような環化ポリペプチド、L型オリゴアルギニンや6-ポリD-アルギニン(アミノ酸配列はrrrrrr、D-R6)、8-ポリD-アルギニン(アミノ酸配列はrrrrrrrr、D-R8)、10-ポリD-アルギニン(アミノ酸配列はrrrrrrrrrr)、D-R10)、12ポリ-D-アルギニン(アミノ酸配列はrrrrrrrrrrrr、D-R12)のようなD型オリゴアルギニンのような異なる構成のポリペプチドと、を含む。
【0071】
以下に、本発明の薬物送達キャリアを用いて多種類の治療剤を共同送達する医薬製剤を調製する方法を説明し、医薬製剤の特徴を説明する。
【0072】
本発明の薬物送達キャリアを使用することにより、カチオン性リポソームの表面にCPPで修飾し、組織への強い透過能力を有し、多種類の治療剤を共同送達する医薬製剤を調製することができる。
【0073】
一実施形態において、本発明の医薬製剤の調製方法は以下の通りである。
(1)上記の本発明のリポソーム膜材料と、少なくとも1種の非核酸治療剤とを秤量し、ここで、膜材料(i):(ii):(iii):(iv)モル比が、約20~40:20~40:20~40:1~20であり、CPPと共役したポリエチレングリコールリン脂質は、膜材料(iv)に対するモル比が約20%~80%であり、細胞透過性ペプチドで修飾したリポソームの膜材料の全体に対する約2%~8%のモル比に対応する。
【0074】
(2)膜材料(i):(ii):(iii):(iv)及び少なくとも1種の非核酸治療剤を有機溶媒に加えて溶解し、蒸発させて有機溶媒を除去し、均一な乾燥脂質膜を得る。
【0075】
(3)得られた乾燥脂質膜を水含有溶液で完全に水和した後、リポソームをミニ押出機を使用して押し出す(核孔膜の順序は、順に200nm、100nm及び50nmである)。
【0076】
(4)カチオン性材料(例えば、正に帯電したポリアミノ酸、PEI、penetratin又はpenetratinの誘導体、PAMAM)と少なくとも1種の核酸治療剤とを適切な溶液中で混合及びインキュベートして、カチオン性材料-少なくとも1種の核酸治療剤からなる物理的複合体を得る。
【0077】
(5)上記(3)で得られたリポソームと上記(4)で得られたカチオン性材料-少なくとも1種の核酸治療剤からなる物理的複合体を一定のモル比又は電荷比で混合し、リポソーム複合体の形態の、少なくとも1種の非核酸治療剤と少なくとも1種の核酸治療剤とを含む医薬製剤を得る。
【0078】
一実施形態において、本発明の医薬製剤の調製方法は、以下の通りである。
(1)上記の本発明のリポソーム膜材料を秤量し、ここで、膜材料(i):(ii):(iii):(iv)のモル比が、約20~40:20~40:20~40:1~20であり、CPPと共役したポリエチレングリコールリン脂質は、膜材料(iv)に対するモル比が約20%~80%であり、細胞透過性ペプチドで修飾したリポソームの膜材料の全体に対する約2%~8%のモル比に対応する。
【0079】
(2)膜材料(i):(ii):(iii)と少なくとも1種の非核酸治療剤を有機溶媒に加えて溶解し、蒸発させて有機溶媒を除去し、均一な乾燥脂質膜を得る。
【0080】
(3)得られた乾燥脂質膜を水含有溶液で完全に水和した後、リポソームをミニ押出機を使用して押し出す(核孔膜の順序は、順に200nm、100nm及び50nmである)。
【0081】
(4)カチオン性材料(例えば、正に帯電したポリアミノ酸、PEI、penetratin又はpenetratinの誘導体、PAMAM)と少なくとも1種の核酸治療剤とを適切な溶液中で混合及びインキュベートして、カチオン性材料-少なくとも1種の核酸治療剤からなる物理的複合体を得る。
【0082】
(5)上記(3)で得られたリポソームと上記(4)で得られたカチオン性材料-少なくとも1種の核酸治療剤からなる物理的複合体を一定のモル比又は電荷比で混合し、そして膜材料(iv)と混合し、インキュベートして、本発明の医薬製剤を得る。
【0083】
送達しようとする少なくとも1種の非核酸治療剤は特に限定されない。前記非核酸治療剤は、受験者に送達される広範囲なタイプの化合物を含み、以下のものを含むが、これらに限らない:抗生物質及び抗ウイルス薬等の抗感染薬;鎮痛剤及び鎮痛剤の組み合わせ;食欲抑制剤;駆虫薬;抗関節炎薬;抗喘息薬;抗けいれん薬;抗うつ薬;抗糖尿病薬;下痢止め;抗ヒスタミン薬;抗炎症薬;抗片頭痛薬;悪心薬;抗腫瘍薬;抗振戦麻痺薬;抗掻痒薬;抗精神病薬;抗発熱薬;抗痙攣薬;抗コリン作動薬;交感神経刺激薬;キサンチン誘導体;カリウムチャネル遮断薬、カルシウムチャネル遮断薬、β-遮断薬、α-遮断薬及び抗不整脈剤を含む心血管薬;抗高血圧薬;利尿薬及び抗利尿薬;全身神経、心神経、周囲神経と脳神経、中枢神経系のアゴニスト、血管抑制薬を含む血管拡張薬;充血除去薬を含む咳及び風邪製剤;コルチコステロイドを含むエストラジオール及び他のステロイド等のホルモン;催眠薬;免疫抑制薬;筋弛緩薬;副交感神経遮断薬;精神刺激薬;鎮静剤及び安定剤。本発明の薬物送達キャリアは、イオン化、非イオン化、遊離塩基、酸付加塩等のすべての形態の薬物を送達することができ、高分子量又は低分子量の薬物を送達することができる。
【0084】
送達しようとする少なくとも1種の核酸治療剤についても特に限定されず、プラスミドDNA、低分子干渉RNA(siRNA)のようなRNA、miRNA、センスRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、アプタマー(aptamers)、リボザイム等の核酸を含む。例えば、前記核酸治療剤は、脳腫瘍(例えば、脳神経膠腫)の脳疾患に対するRNAであり、例えば、c-mycに対するsiRNAである。
【0085】
本発明の医薬製剤は、口腔、鼻腔、目、気道、消化道、生殖道、局所的なインプラント、注射又は輸注(硬膜外、動脈内、関節内、嚢内、心臓内、脳室内、頭蓋内、皮内、筋肉内、眼窩内、眼内、腹腔内、脊椎内、胸骨内、髄腔内、静脈内、くも膜下、被膜下、皮膚下、気管、直腸、舌下及び他の経路を経由して)投与することができる。
【0086】
当技術分野で知られている医療機器を使用して、本発明の医薬製剤を投与することができる。例えば、一実施形態において、無針頭皮皮下注射装置、例えば、米国特許第5,399,163号に開示されている機器を用いて本発明の医薬製剤を投与することができる。
【0087】
一実施形態において、本発明の薬物送達キャリアを用いて化学療法薬と核酸薬物siRNAを共同送達するための医薬製剤を調製することにより、相乗的に癌を治療する作用を発揮することができる。
【0088】
化学療法は今でも最も一般的に使用されている癌治療法の1つである。しかし、化学療法薬は、分裂細胞(癌細胞の特徴の1つ)を能動的に標的するが、血液細胞等の健康な分裂細胞や、腸、口、髪における細胞も影響を受けるため、強い副作用を生じる。科学者たちは、これらの副作用を最小限になるために、化学療法薬の投与と組み合わせを改善するために取り組んできた。
【0089】
更に、核酸治療剤は、疾患(例えば、癌)の治療における使用において大きな注目を集めている。核酸治療薬は癌治療に潜在効力を有するが、環境中に遍在する酵素によって攻撃されて容易に分解される可能性があり、また、核酸はそれ自体では細胞に侵入できず、既存の送達システムは低い送達効率低いだけを有する。
【0090】
本発明の薬物送達キャリアの使用によって、化学療法薬の副作用を最小限になり、核酸治療剤が細胞に効率的に侵入することを可能にし、核酸治療剤が環境中に遍在する酵素によって容易に攻撃されない。
【0091】
一実施形態において、本発明の化学療法薬及び核酸薬物siRNAを共同送達するための医薬製剤は、経鼻投与され、化学療法薬及び核酸薬物siRNAを鼻脳経路を介して脳に効率的に送達する。前記化学療法薬及び核酸薬物siRNAが脳腫瘍細胞に摂取された後、細胞透過性ペプチド及びカチオン性リポソームの表面正電荷の助けを借りてエンドソームを脱出し、化学療法薬及び核酸薬物siRNAを細胞質に放出して、脳腫瘍(例えば、神経膠腫)の化学的死滅及び遺伝子治療の役割を果たす。
【0092】
本分野の技術者が周知しているように、脳の特別な生理学的構造及び機能的複雑さ、特に血液脳関門の存在及びある薬物自体の物理的及び化学的特性によって、治療薬物が通常、脳組織に到達しにくい。しかし、経鼻的に脳に投与する経路は、脳疾患の治療に実行可能なアイデアを提供し、薬物を経鼻的に脳に投与するための直接的な経路が2つあり、1つは、嗅神経経路であり、鼻腔を通って脳に入るために血液脳関門をバイパスする最も直接的な方法であり、薬物が鼻粘膜によって吸収され、嗅神経によって摂取された後、軸索を介して嗅球に運ばれ、更に嗅脳に到達する過程である。もう1つは、鼻粘膜上皮経路であり、薬物が基底膜を通過して固有層に入り、更に末梢嗅神経に到達して、中枢神経系に送達され、最終的に脳への蓄積を実現する。経鼻的に脳に投与することは、無傷性を有するため、患者のコンプライアンスは良好である(Agrawal M et al., Nose-to-brain drug delivery: An update on clinical challenges and progress towards approval of anti-Alzheimer drugs, Journal of Controlled Release, 2018, 281:139-177)。
【0093】
一方、神経膠腫等の脳腫瘍は、発生率が高く生存率が低い中枢神経系の悪性腫瘍であり、ヒト健康への被害は極めて大きくて、臨床予後は楽観的ではなく、主に、手術の再発、化学療法の薬剤耐性等に現われ、それに、血液脳関門、血液脳腫瘍関門の存在により、全身投与後の薬物の脳内到着量は非常に少なく、そのため、従来から、人々は効果的な薬物治療方式を見つけるために努力している。
【0094】
本発明の化学療法薬及び核酸薬物siRNAを共同送達するための医薬製剤は、経鼻投与後、化学療法薬及び核酸薬物siRNAを同時に脳に薬物を送達し、相乗的に脳腫瘍に対する治療作用を発揮することができる。また、本発明の医薬製剤は、経鼻投与により脳内投与が可能であるため、患者のコンプライアンスを改善するのに有益である。
【実施例0095】
以下の実施例は、本発明の理解を助けるために記載される。実施例は、本発明の保護範囲を制限するものとして決して解釈されるべきではない。
【0096】
[実施例1]
(カチオン性リポソームの調製)
膜材料を、28.5:28.5:38:5のモル比で、すなわち、3.5mgのDOTAP(上海艾韋特医薬科技有限公司、132172-61-3)、3.72mgのDOPE(上海艾韋特医薬科技有限公司、4004-05-1)、2.59mgのコレステロール(Sigma-Aldrich、C8667)及び2.46mgのmPEG2000-DSPE(上海艾韋特医薬科技有限公司、147867-65-0)を秤量した。
【0097】
上記の量のDOTAP、DOPE、コレステロールを50mLの丸底フラスコに入れ、1mLのクロロホルムを加え、脂質膜材料としての前記DOTAP、DOPE、コレステロールを溶解し、すなわち、16.67μmolのCLSは5μmolのDOTAP、5μmolのDOPE及び6.67μmolのコレステロールを含む。得られた溶液をロータリーエバポレーター(上海申生科技有限公司、R201L)によって、クロロホルムを除去し、均一な乾燥脂質膜を得た。
【0098】
得られた乾燥脂質膜を、37℃の水浴中で1mLの5%グルコース水溶液で約10分間超音波で水和した。脂質膜が完全に水和した後、ミニ押出機(Hamilton,81320)を使用してリポソームを押し出し(核孔膜の順序は、順に200nm、100nm及び50nmである)、細胞透過性ペプチドで修飾していないカチオン性リポソーム(本明細書ではCLSともいう)を得た。
【0099】
調製したカチオン性リポソームを2.46mgのmPEG2000-DSPE(水に溶ける)と混合した上で、55℃で30分間インキュベートして、mPEG2000-DSPEを含むカチオン性リポソームを得た。
【0100】
[実施例2]
(カチオン性材料による遺伝子薬物の圧縮作用)
アガロースゲル電気泳動実験は、薬物送達キャリアに含まれるカチオン性材料が核酸等の薬物に対する封入能力を測定するためによく使用される。本実施例では、R8/siRNA複合体、Penetratin/siRNA複合体、CLS/siRNA複合体、PEI/siRNA複合体、PAMAM/siRNA複合体を調製し、アガロースゲル電気泳動実験によって、R8、Penetratin、CLS、ポリエチレンイミン(Polyethylenlmlne,PEI,分子量:25000)と3世代ポリアミド‐アミン(PAMAM)が核酸に対する封入能力を測定した。
【0101】
33μgのsiRNA(この実施例では、c-mycに対する低分子干渉RNAが使用され、以下、siRNAとも略称され、そのセンス鎖(5’-3’)は、AACGUUAGCUUCACCAACAdTdT(配列番号79)であり、アンチセンス鎖(5’-3’)はUGUUGGUGAAGCUAACGUUdTdT(配列番号80))であり、125μLのDEPC処理水に溶解して、20μMのsiRNA溶液を調製した。
【0102】
オリゴアルギニンR8(上海▲忻▼浩生物科技有限公司)、Penetratin(上海▲忻▼浩生物科技有限公司)、実施例1で調製したCLS、PEI(Sigma-Aldrich(上海))、PAMAM(威海晨源分子新材料有限公司)をそれぞれ純水に溶解し、特定の電荷比でsiRNAと混合し、30秒間ボルテックスし、37℃で30分間インキュベートして、R8/siRNA複合体、Penetratin/siRNA複合体、CLS/siRNA複合体、PEI/siRNA複合体及びPAMAM/siRNA複合体を得た。
【0103】
製造したR8/siRNA複合体、Penetratin/siRNA複合体、CLS/siRNA複合体、PEI/siRNA複合体、PAMAM/siRNA複合体をそれぞれアガロースゲルローディングホールにそっと添加し、遊離siRNA対照グループを設定して、電気泳動を行った。電気泳動終了後、暗所でGelRedワーキング液(Biotium Inc.)で30分間染色し、UV302nm条件でゲルを画像化した。結果を
図1~
図3に示す。
【0104】
製造したR8/siRNA複合体、Penetratin/siRNA複合体、CLS/siRNA複合体、PEI/siRNA複合体、PAMAM/siRNA複合体に対してそれぞれ粒径測定とζ電位測定を行った。動的光散乱技術を用いて粒径を直接に測定した。ζ電位分析器を採用して、23℃で5V/cmの電界強度、0.4cmの電極間隔で水中でζ電位を測定した。結果を
図4~
図13に示す。
【0105】
R8の1つのアミノ窒素は1つの正電荷を持ち、siRNAの1つのリン酸基は1つの負電荷を持っているので、1μMのR8は8μMのアミノ窒素を含み、すなわち、1μMのR8は8μMの正電荷を含み、1μMのsiRNAは42μMのリン酸基を含み、すなわち、1μMのsiRNAは42μMの負電荷を含み、R8とsiRNAの電荷比は、(R8のμM値×8)/(siRNAのμM値×42)=0.19×R8(μM)/siRNA(μM)である。
【0106】
Penetratinの1つのアミノ窒素は1つの正電荷を持ち、siRNAの1つのリン酸基は1つの負電荷を持っているので、1μMのPenetratinは7μMのアミノ窒素を含み、すなわち、1μMのPenetratinは7μMの正電荷を含み、1μMのsiRNAは42μMのリン酸基を含み、すなわち、1μMのsiRNAは42μMの負電荷を含み、PenetratinとsiRNAの電荷比は(PenetratinのμM値×7)/(siRNAのμM値×42)=0.17×Penetratin(μM)/siRNA(μM)である。
【0107】
DOTAPの1つのアミノ窒素は1つの正電荷を持ち、siRNAの1つのリン酸基は1つの負電荷を持っているので、16.67μMのCLSは5μMのDOTAPを含み、すなわち、1μMのCLSは0.3μMの正電荷を含み、1μMのsiRNAは42μMの負電荷を含み、CLSとsiRNAの電荷比は、(CLSのμM値×0.3)/(siRNAのμM値×42)=0.007×CLS(μM)/siRNA(μM)である。
【0108】
PEIの1つのアミノ窒素は1つの正電荷を持つため、その繰り返し構造モノマーのうち、2つの炭素原子ごとに、窒素原子を含む1級及び2級アミンが付着された。つまり、PEIでは43分子量当たり1個のN原子に対応し、siRNAの1つのリン酸基は1つの負電荷を持ち、siRNAの平均分子量が13300であり、1MのsiRNAは42Mのリン酸基を含み、すなわち、siRNAでは、317分子量あたり1個のリン酸基に対応し、PEIとsiRNAの電荷比は、(PEIの質量mg)/(siRNAの質量mg)×(317/43)=7.37×PEI(mg)/siRNA(mg)である。
【0109】
PAMAMの1つのアミノ窒素は1つの正電荷を持ち、siRNAの1つのリン酸基は1つの負電荷を持っているので、文献中の式によれば、PAMAMとsiRNAの電荷比=1.53×PAMAM(mg)/siRNA(mg)である。
【0110】
[実施例3]
(カチオン性リポソームを用いて二回圧縮した後の粒径と電位特徴)
実施例2で調製されたPenetratin/siRNA複合体、PEI/siRNA複合体、PAMAM/siRNA複合体を使用して、それぞれ、CLSとリポソーム複合体を調製した。具体的には、8μLのPenetratin/siRNA複合体、PEI/siRNA複合体、PAMAM/siRNA複合体を、それぞれ2.67μLの実施例1で調製した16.67μMカチオン性リポソームCLSと混合し、30秒間ボルテックスし、37℃で30分間インキュベートして、リポソーム複合体CLS/Penetratin/siRNA、CLS/PEI/siRNA、CLS/PAMAM/siRNAを得た。
【0111】
リポソーム複合体CLS/Penetratin/siRNA、CLS/PEI/siRNA、CLS/PAMAM/siRNAにおいて、siRNAの電荷数に基づいて、カチオン性リポソームCLSとsiRNAの電荷比を4に固定した(DOTAPの1つのアミノ窒素は1つの正電荷を持ち、siRNAの1つのリン酸基は1つの負電荷を持っているため、16.67μMのCLSは5μMのDOTAPを含み、すなわち、1μMのCLSは0.3μMの正電荷を含み、1μMのsiRNAは42μMの負電荷を含み、CLSとsiRNAの電荷比は、(CLSのμM値×0.3)/(siRNAのμM値×42)=0.007×CLS(μM)/siRNA(μM)である。
【0112】
調製したリポソーム複合体CLS/Penetratin/siRNA、CLS/PEI/siRNA、CLS/PAMAM/siRNAに対してそれぞれ粒径測定を行い、リポソーム複合体の放置過程における粒径変化を観察した。結果を
図14と
図15に示す。
【0113】
結果は、CLS/カチオン性材料/siRNAリポソーム複合体を調製する過程で、CLSの二回圧縮を経て、CLS/siRNA複合体のみ、カチオン性材料/siRNA複合体のみと比較して、粒径が顕著に減少することを示している。したがって、CLS/カチオン性材料/siRNAリポソーム複合体は、CLS/siRNA複合体のみ、カチオン性材料/siRNA複合体のみよりも安定しており、siRNA及び薬物に対してよい保護を提供することができ、siRNA及び薬物を病変部位の深部組織に送達することに有利である。
【0114】
[実施例4]
(カチオン性リポソーム及びカチオン性材料が遺伝子薬物を封入した医薬製剤の調製)
正に帯電したポリアミノ酸、すなわち、オリゴアルギニンR8(上海▲忻▼浩生物科技有限公司)4mgをカチオン性材料として、DEPC処理水(大連美侖生物技術有限公司、MA0018)に溶解して、4mg/mLのオリゴアルギニンR8溶液を調製した。
【0115】
33μgのsiRNA(この実施例では、c-mycに対する低分子干渉RNAが使用され、以下、siRNAとも略称され、そのセンス鎖(5’-3’)は、AACGUUAGCUUCACCAACAdTdT(配列番号79)であり、アンチセンス鎖(5’-3’)はUGUUGGUGAAGCUAACGUUdTdT(配列番号80)である)を125μLのDEPC処理水に溶解して、20μMのsiRNA溶液を調製した。
【0116】
オリゴアルギニンR8溶液とsiRNA溶液を電荷比が5であるように等体積混合し(R8の1つのアミノ窒素は1つの正電荷を持ち、siRNAの1つのリン酸基は1つの負電荷を持っているので、1μMのR8は8μMのアミノ窒素を含み、すなわち、1μMのR8は8μMの正電荷を含み、1μMのsiRNAは42μMのリン酸基を含み、すなわち、1μMのsiRNAは42μMの負電荷を含み、R8とsiRNAの電荷比は、(R8のμM値×8)/(siRNAのμM値×42)=0.19×R8(μM)/siRNA(μM)である)、30秒間ボルテックスし、37℃で30分間インキュベートして、R8/siRNA複合体を得た。
【0117】
調製したR8/siRNA複合体とCLSを混合してCLS/R8/siRNA脂質複合体を調製した。具体的には、8μLのR8/siRNA複合体(すなわち、4μLのsiRNA溶液と4μLのR8溶液で調製したもの)を取って、2.67μLの実施例1で調製した16.67μMカチオン性リポソームCLSと混合し、30秒間ボルテックスし、37℃でインキュベートして、脂質複合体CLS/R8/siRNAを得た。前記脂質複合体CLS/R8/siRNAでは、siRNAの電荷数に基づいて、カチオン性リポソームCLSとsiRNAの電荷比は4に固定された(DOTAPの1つのアミノ窒素が1つの正電荷を持ち、siRNAの1つのリン酸基が1つの負電荷を持っているので、16.67μMのCLSは5μMのDOTAPを含み、すなわち、1μMのCLSは0.3μMの正電荷を含み、1μMのsiRNAは42μMの負電荷を含み、CLSとsiRNAの電荷比は、(CLSのμM値×0.3)/(siRNAのμM値×42)=0.007×CLS(μM)/siRNA(μM)である)。類似するように、前記siRNAのセンス鎖の5’でFAMが修飾したFAM-siRNA溶液及びCLS/R8/FAM-siRNA複合体を調製した。
【0118】
[実施例5]
(表面が修飾されたリポソーム医薬製剤の調製)
リポソーム医薬製剤に対して細胞透過性ペプチドを用いて表面修飾を行って、表面が修飾された医薬製剤を得た。
【0119】
《i.細胞透過性ペプチド-PEG-リン脂質の調製》
DSPE-ポリエチレングリコールマレイミド(DSPE-PEG3400-マレイミド)(Laysan Bio、146-123)と末端にシステインで修飾されたpenetratin誘導体(89WPenetratin-Cys)とは、1つのステップで反応して、細胞透過性ペプチド-PEG-DSPEを得た。
【0120】
具体的には、20mgのDSPE-PEG3400-マレイミドを1mLのN,N-ジメチルホルムアミドに溶かし、10mLリン酸緩衝液(10mM、pH7.2)溶媒に溶解した18mgの89WPenetratin-Cysを撹拌状態で加え、25℃の条件で反応を完了するために一晩攪拌し続けた。反応が終わった後、得られた混合物を氷浴の条件で純水中に置いて2日間透析し、冷凍乾燥して、白い凝集物である89WPenetratin-PEG3400-DSPEを得た。
【0121】
ここで、前記ポリペプチド89WPenetratinは、penetratinの誘導体であり、具体的なアミノ酸配列はRQIKIWFWWRRMKWKK(本明細書では、89Wは、penetratin第8位のグルタミン及び第9位のアスパラギンに対してトリプトファンの変異を行った産物を示す)である。細胞透過性ペプチド-PEG-DSPEにおける細胞透過性ペプチドは、他のpenetratin誘導体を使用してもよく、具体的に中国特許出願CN201710414334.7を参照すればよい。
【0122】
ポリエチレングリコール末端基との反応を容易にするために、細胞透過性ペプチド89WPenetratin又は他のpenetratin誘導体のN-端又はC-端に1つのシステイン残基(cysteine,C)を追加してもよい。
【0123】
《ii.表面が修飾されたリポソーム医薬製剤の調製》
細胞透過性ペプチドで修飾したリポソームの全体に対するモル比が5%であるmPEG2000-DSPEと89WPenetratin-PEG3400-DSPEについて、それぞれ、mPEG2000-DSPEと89WPenetratin-PEG3400-DSPEに対するモル比が0%、20%、40%、60%、80%、100%である89WPenetratin-PEG3400-DSPEの混合物を調製した。すなわち、89WPenetratin-PEG3400-DSPEは、細胞透過性ペプチドで修飾したリポソームの全体に対するモル比が、それぞれ0%、1%、2%、3%、4%、5%であった。
【0124】
実施例4で得られたCLS/R8/FAM-siRNA複合体を、それぞれ、mPEG2000-DSPEと89WPenetratin-PEG3400-DSPEに対するモル比が0%、20%、40%、60%、80%、100%である89WPenetratin-PEG3400-DSPEの混合物と混合した後、55℃で30分間インキュベートした後に、表面に細胞透過性ペプチドが0%、1%、3%、4%、5%の割合で修飾したリポソーム医薬製剤、すなわち、89W-CLS/R8/FAM-siRNAを得た。
【0125】
[実施例6]
(表面に細胞透過性ペプチドが異なる割合で修飾した医薬製剤に対する細胞摂取の定量的評価)
U87細胞(ヒト神経膠腫細胞、ATCCより購入)をDMEM完全培地(FBS 10%とペニシリン-ストレプトマイシン1%が添加されたDMEM培地)で培養した。成長状態のよいU87細胞を取って、DMEM完全培地に再懸濁し、5×105個の細胞/ウェル、ウェルごとに1mLで6ウェルプレートに播種し、播種後、毎日新鮮な培養液を1回変えて、2~3日培養した後に実験を行った。
【0126】
培養液を捨てた後、無菌PBSでU87細胞を3回洗浄し、実施例5で調製した、表面に細胞透過性ペプチドが異なる割合で修飾したリポソーム医薬製剤1mL(FAMでラベルされたsiRNAを封入した)の無血清DMEM培地を加え、37℃、5%、CO2の条件で4時間インキュベートした。
【0127】
続いて、培養液を捨て、0.02mg/mLヘパリンナトリウムを含むPBS緩衝溶液で、ウェルや細胞表面に吸着した正電性物質を洗い流した。トリプシンで細胞を処理し、200μLの無菌PBS緩衝溶液で再懸濁し、均一に吹き付けた後に試料ごとに細胞を数え、10
4個の細胞を取ってフローサイトメトリー検出を行った。無血清DMEM培地でインキュベートした細胞を陰性対照グループとする。すべての実験は三重に実施し、結果を
図16に示した(平均値±SD,n=3、*p<0.05、*は2つのグループの間で統計学的に著しい違いがあることを示している。**p<0.01、***p<0.001、**と***は2つのグループの間に統計学的に非常に著しい違いがあることを示している)。
【0128】
図16中、横軸における「0%、1%、2%、3%、4%、5%」は、表面に細胞透過性ペプチドがそれぞれ0%、1%、2%、3%、4%、5%の割合で修飾したリポソーム医薬製剤、すなわち89W-CLS/R8/siRNAを表す。
【0129】
図16から分かるように、細胞透過性ペプチドで修飾したリポソームの膜材料全体に対する、
89WPenetratin-PEG
3400-DSPEのモル比が2%、3%、4%である場合、表面に細胞透過性ペプチドが前記割合で修飾した医薬製剤に対する細胞の摂取効果は、市販されている遺伝子トランスフェクション試薬Lipo 2000より優れていた。
【0130】
[実施例7]
(細胞透過性ペプチドで修飾したリポソームの膜材料を異なる配合比で用いて調製された医薬製剤に対する細胞摂取の定量的評価)
U87細胞(ヒト神経膠腫細胞、ATCCより購入)をDMEM完全培地(FBS 10%とペニシリン-ストレプトマイシン1%が添加されたDMEM培地)で培養した。成長状態のよいU87細胞を取って、DMEM完全培地に再懸濁し、5×105個の細胞/ウェル、ウェルごとに1mLで6ウェルプレートに播種し、播種後、毎日新鮮な培養液を1回変えて、2~3日培養した後に実験を行った。
【0131】
実施例5に記載の方法にしたがって、細胞透過性ペプチドで修飾したリポソームの膜材料の配合比が表2に示すような医薬製剤(FAMでラベルされたsiRNAを封入した)を調製した。
【0132】
【0133】
U87細胞の培養液を捨てた後、無菌PBSで3回洗った。各ウェルにはそれぞれフォーミュラ1、フォーミュラ2、フォーミュラ3によって調製されたリポソーム医薬製剤を含む1mLの無血清DMEM培地を加え、37℃、5%、CO2条件で4時間インキュベートした。
【0134】
続いて、培養液を捨て、0.02mg/mLヘパリンナトリウムを含むPBS緩衝溶液でウェルや細胞表面に吸着した正電性物質を洗い流した。トリプシンで細胞を処理して、200μL無菌PBS緩衝溶液に再懸濁し、均一に吹き付けて試料ごとに細胞を数え、10
4個の細胞を取ってフローサイトメトリー検出を行った。無血清DMEM培地でインキュベートした細胞を用いて陰性対照グループとした。すべての実験は三重に実施し、結果を
図17に示した(平均値±SD,n=3、*p<0.05、*は2つのグループの間で統計学的に著しい違いがあることを示している。**p<0.01、***p<0.001、**と***は2つのグループの間に統計学的に非常に著しい違いがあることを示している)。
【0135】
図17から分かるように、フォーミュラ1、フォーミュラ2、フォーミュラ3によって調製されたリポソーム医薬製剤はいずれも細胞によって摂取でき、対照グループと比較して著しい差異があり、更に、フォーミュラ2によって調製されたリポソーム医薬製剤に対する細胞の摂取効果が最適であった。
【0136】
[実施例8]
(成分(iv)が異なる配合比である細胞透過性ペプチドで修飾したリポソームの膜材料を用いて調製された医薬製剤の粒径)
実施例5に記載の方法にしたがって、細胞透過性ペプチドで修飾したリポソームの膜材料の成分(i):成分(ii):成分(iii)のモル比が3:3:4sであり、成分(iv)の配合比が表3に示すようなリポソーム医薬製剤(FAMでラベルされたsiRNAを封入した)を調製した。
【0137】
【0138】
細胞透過性ペプチドで修飾したリポソームの膜材料に対する成分(iv)のモル比が1%、5%、8%、10%リポソーム医薬製剤を得た。前記リポソーム医薬製剤について粒径測定を行った。
【0139】
粒径測定結果を
図18に示す。
図18中、横軸における「1%、5%、8%、10%」は、それぞれ細胞透過性ペプチドで修飾したリポソームの膜材料に対する成分(iv)のモル比が1%、5%、8%、10%であるリポソーム医薬製剤を示す。
【0140】
図18から分かるように、細胞透過性ペプチドで修飾したリポソームの膜材料に対する成分(iv)のモル比が1%~10%である場合、医薬製剤の粒径は100nm~200nmにある。更に、細胞透過性ペプチドで修飾したリポソームの膜材料に対する成分(iv)のモル比が増加するにつれて、粒径が増大する傾向を示した。
【0141】
[実施例9]
(カチオン性リポソーム/siRNAが異なる電荷比で調製された医薬製剤に対する細胞摂取の定量的評価)
U87細胞(ヒト神経膠腫細胞、ATCCより購入)をDMEM完全培地(FBS 10%とペニシリン-ストレプトマイシン1%が添加されたDMEM培地)で培養した。成長状態のよいU87細胞を取って、DMEM完全培地に再懸濁し、5×105個の細胞/ウェル、ウェルごとに1mLで6ウェルプレートに播種し、播種後、毎日新鮮な培養液を1回変えて、2~3日培養した後に実験を行った。
【0142】
実施例5に記載の方法にしたがって、オリゴアルギニンR8溶液と20μMのFAM-siRNA溶液を電荷比が5である割合で等体積で混合し、30秒間ボルテックスし、37℃の条件で30分間インキュベートして、複合体R8/FAM-siRNAを得た。
【0143】
8μLのR8/FAM-siRNA複合体を取って、調製されたカチオン性リポソームCLSと、リポソームとFAM-siRNAの電荷比が2、4、6、8、10、12の割合で混合し、30秒間ボルテックスし、カチオン性リポソーム/siRNAが異なる電荷比のCLS/R8/FAM-siRNA複合体を得た。
【0144】
更に、実施例5に記載の方法にしたがって、表面に3%の細胞透過性ペプチドで修飾した医薬製剤、すなわち89W-CLS/R8/FAM-siRNA複合体を得た。
【0145】
U87細胞の培養液を捨てた後、無菌PBSで3回洗った。ウェルごとにカチオン性リポソーム/siRNAの電荷比が2、4、6、8、10、12である医薬製剤を含む1mL無血清DMEM培地をそれぞれ添加し、37℃、5%、CO2条件で4時間インキュベートした。
【0146】
続いて、培養液を捨て、0.02mg/mLヘパリンナトリウムを含むPBS緩衝溶液でウェルや細胞表面に吸着した正電性物質を洗い流した。トリプシンで細胞を処理して、200μL無菌PBS緩衝溶液に再懸濁し、均一に吹き付けて試料ごとに細胞を数え、10
4個の細胞を取ってフローサイトメトリー検出を行った。無血清DMEM培地でインキュベートした細胞を用いて陰性対照グループとした。すべての実験は三重に実施し、結果を
図19に示した(平均値±SD,n=3、*p<0.05、*は2つのグループの間で統計学的に著しい違いがあることを示している。**p<0.01、***p<0.001、**と***は2つのグループの間に統計学的に非常に著しい違いがあることを示している)。
【0147】
図19に示すように、カチオン性リポソーム/siRNAの電荷比が2、4、6、8、10、12であるように調製された医薬製剤はいずれも細胞に摂取され、対照グループと比較して、著しい違いがあり、そのうち、カチオン性リポソーム/siRNAの電荷比が4である場合に調製されたリポソーム医薬製剤に対する細胞の摂取効果が最適であった。
【0148】
[実施例10]
(異なる構造タイプのカチオン性材料を含む医薬製剤によるLUC-U87細胞へのトランスフェクション効果の定性と定量的な評価)
R8、R10、R12、c-R8、c-R10、c-R12等のオリゴアルギニンを異なる構造タイプの正に帯電したポリアミノ酸として使用し、前記オリゴアルギニンとsiRNAとの電荷比を5、CLSとLUC-siRNAの電荷比を4とし、実施例5にしたがって、異なるオリゴアルギニンを含み、表面に細胞透過性ペプチドを3%の割合で修飾したリポソーム医薬製剤を調製した。使用したLUC-siRNAは、センス鎖(5’-3’)がGCUGCACUCUGGCGACAUUTT(配列番号83)であり、アンチセンス鎖(5’-3’)がAAUGUCGCCAGAGUGCAGCTT(配列番号84)であった。
【0149】
成長状態のよいU87細胞(ATCCより購入)を取って、5×104個の細胞/ウェルでそれぞれ48ウェルプレートに播種し、播種後、毎日培養液を1回変えて、2~3日培養した後に実験を行った。DMEM完全培地を捨てた後、無菌PBSで3回洗って、それぞれ400nM LUC-siRNAを封入したリポソーム医薬製剤を含む無血清DMEM培地を加え、37℃、5%、CO2条件で4時間インキュベートした。続いて、薬液を捨てて、DMEM完全培地を加えて引き続き24時間インキュベートし(本明細書ではLUC-U87細胞ともいう)、0.02mg/mLヘパリンナトリウムを含むPBS緩衝溶液で正電性吸着物質を洗い流して、ホタルルシフェラーゼ基質を加え、小動物生体蛍光/生物発光イメージングシステム(IVIS Spectrum)で蛍光強度を測定した。
【0150】
小動物生体光学イメージングシステムの目的領域(Region of interest,ROI)の定量サークル選択機能を利用して定性的に分析した。結果を
図20A及び
図20Bに示す。
【0151】
この実施例は、異なる構造タイプの正に帯電したポリアミノ酸の遺伝子ノックダウンに対する効果を探究するためであり、
図20A及び
図20Bから、リポソーム医薬製剤におけるオリゴアルギニンの重合度と構造を変更することが遺伝子のノックダウン作用に顕著な影響を及ぼさないことがわかった。
【0152】
[実施例11]
(siRNAを封入した送達キャリアによるbEnd.3細胞とU87細胞のアポトーシス促進能力の評価)
DMEM培地における対数周期の成長状態が良好なbEnd.3細胞とU87細胞(いずれもATCCより購入)を取って、5×104/ウェルの濃度で、それぞれ12ウェルプレートに播種し、37℃、5%、CO2条件で、細胞の単層がウェル底を覆うまで培養した。
【0153】
培養液を捨て、無菌PBS緩衝溶液で3回洗った後、400nmol/L siRNAを含む、実施例5で調製した医薬製剤(89W-CLS/R8/siRNA)(当該医薬製剤には、オリゴアルギニンとsiRNAの電荷比が5であり、CLSとsiRNAの電荷比が4であり、表面に89WPenetratin-PEG3400-DSPEを3%の割合で修飾した)400μLを加え、インキュベーター中で6時間インキュベートした。続いて、薬液を捨て、無菌PBS緩衝溶液で3回洗った後、完全培地1mLを入れて引き続き18時間培養した。続いて、細胞を集め、PBSで洗浄し、EDTA不含トリプシンで1分間処理し、DMEM培養液で処理を終了した。
【0154】
続いて細胞を遠心管に集め、細胞アポトーシス検査キット(南京凱基生物科学技術発展有限公司、KGA108)を用いて細胞を二重染色し、フローサイトメトリーを用いて検出した。無血清DMEM培地でインキュベートした細胞を陰性対照グループとした。すべての実験は三重に実施し、結果を
図21A~Dに示した(平均値±SD,n=3、*p<0.05、*は2つのグループの間で統計学的に著しい違いがあることを示している。**p<0.01、***p<0.001、**と***は2つのグループの間に統計学的に非常に著しい違いがあることを示す)。
【0155】
その結果、本発明の設計した送達キャリアは、腫瘍細胞U87のアポトーシスを特異的に促進することができ、正常細胞bEnd.3細胞の成長に大きな影響を及ぼさないことが明らかとなった。
【0156】
[実施例12]
(各化学療法薬及び遺伝子薬物の半分最大阻害濃度IC50値の測定)
化学療法薬の半分最大阻害濃度IC50値を測定した。すなわち、密度が3×104細胞/mLのU87単細胞懸濁液を調製し、ウェルごとに100μLで96ウェルプレートに播種し、エッジのウェルを滅菌PBS緩衝液で充填し、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2、飽和湿度)に移して24時間インキュベートした。
【0157】
続いて、培地を廃棄し、化学療法薬として、カルムスチン(BCNU、大連美侖生物技術有限公司、MB130)と、ドセタキセル(DTX、大連美侖生物技術有限公司、MB1081)、ゲムシタビン(Gemcitabine、大連美侖生物技術有限公司、MB5386)、イマチニブ(Imatinib、大連美侖生物技術有限公司、MB2031)、シスプラチン(Cisplatin、大連美侖生物技術有限公司、MB1055)、ドキソルビシン(DOX、大連美侖生物技術有限公司、MB1087)を含み、又は化学療法剤を含まない培地200μLに取り替えて、細胞培養した。
【0158】
48時間後、cck-8溶液(上海碧云天生物技術有限公司、C0042)10μLを各ウェルに加え、37℃で2時間インキュベートを続け、マイクロプレートリーダー(BioTek、PowerWave XS)の490nm波長で各ウェルのOD値を測定した。
【0159】
遺伝子薬物の半分最大阻害濃度IC50値を測定した。すなわち、密度が1×105細胞/mLのU87単細胞懸濁液を調製し、ウェルごとに500μLで24ウェルプレートに播種し、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2、飽和湿度)に移し、24時間培養した。
【0160】
続いて培地を廃棄し、siRNAを含む、実施例5で調製したリポソーム製剤(89WP-CLS/R8/siRNA)400μLを添加した。そのリポソーム製剤は、オリゴアルギニンとsiRNAの電荷比が5であり、CLSとsiRNAの電荷比が4であり、表面に89WPenetratin-PEG3400-DSPEを3%の割合で修飾したリポソーム医薬製剤であった。
【0161】
6時間後に薬液を廃棄し、細胞を再度処理し、96ウェルプレートに3000個細胞/ウェルの濃度で播種し、新鮮なDMEM完全培地(10%FBS及び1%ペニシリン-ストレプトマイシンが添加されたDMEM培地)を加えて培養を続けた。48時間後、各ウェルにcck-8溶液10μLを加え、37℃で2時間インキュベートした後に、マイクロプレートリーダー(BioTek、PowerWave XS)の490nm波長で各ウェルのOD値を測定した。
【0162】
細胞生存率(%)=(ODs-ODblank)/(ODcontrol-ODblank)×100%
[式中、ODsは薬物グループの吸光度、ODcontrolはブランク対照グループの吸光度(ウェルには細胞、DMEM完全培地及びcck-8のみが添加された)、ODblankはブランクウェルの吸光度である(ウェルにはDMEM完全培地及びcck-8のみが添加された)。]
【0163】
すべての実験は三重に実施され、実験結果をGraphpadPrismソフトウェアによって分析した。結果を
図22に示す。
【0164】
結果は、化学療法薬BCNU、DTX、Gemcitabine、Imatinib、Cisplatin、DOXの半分最大阻害濃度IC50値は、それぞれ92.04μM、15.52nM、0.11μM、41.59μM、5.62μM、0.17μMであることを示した。遺伝子薬物siRNAの半分最大阻害濃度IC50値は90.99nMであった。
【0165】
[実施例13]
(遺伝子薬物と異なる化学療法薬とを併用することによるインビトロ抗腫瘍薬力学的評価)
密度が1×105細胞/mLのU87単細胞懸濁液を調製し、ウェルごとに500μLで24ウェルプレートに播種し、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2、飽和湿度)に移した。24時間培養し、培地を廃棄し、siRNAを含む、実施例5で調製したリポソーム製剤(89WP-CLS/R8/siRNA)400μLを添加した。
【0166】
リポソーム製剤は、オリゴアルギニンとsiRNAの電荷比が5であり、CLSとsiRNAの電荷比が4であり、表面に89WPenetratin-PEG3400-DSPEを3%の割合で修飾したリポソーム医薬製剤であった。
【0167】
6時間後に薬液を廃棄し、細胞を再度処理し、96ウェルプレートに3000細胞/ウェルの濃度で播種し、新鮮なDMEM完全培地(10%FBS及び1%ペニシリン-ストレプトマイシンが添加されたDMEM培地)を加えて引き続き12時間培養した。続いて、培地を異なる化学療法薬(BCNU、DTX、Gemcitabine、Imatinib、Cisplatin、DOX)を含有する完全培地に取り替えて引き続き培養した(遺伝子薬物と化学療法薬のモル濃度比は、両者の半分最大阻害濃度IC50値の比である)。48時間後、各ウェルにcck-8溶液10μLを加え、37℃で2時間インキュベートした後に、マイクロプレートリーダーの490nm波長で各ウェルのOD値を測定した。
【0168】
細胞生存率(%)=(ODs-ODblank)/(ODcontrol-ODblank)×100%
[式中、ODsは薬物グループの吸光度、ODcontrolはブランク対照グループの吸光度(ウェルには細胞、DMEM完全培地及びcck-8のみが添加された)、ODblankはブランクウェルの吸光度である(ウェルにはDMEM完全培地及びcck-8のみが添加された)。]
【0169】
すべての実験は三重に実施した。結果を
図23に示す。結果は、遺伝子薬物と異なる化学療法薬を併用するコンビネーションインデックスと用量低減指数を取得することを目的として、CompuSynソフトウェアで更に分析した。
【0170】
計算結果を
図24A及び
図24Bに示す。
図24A及び
図24Bに示すように、異なる化学療法薬であるBCNU、DTX、Gemcitabine、Imatinib、Cisplatin、DOXが、それぞれ遺伝子薬物siRNAと相乗的に細胞の生存率を低下させる役割を果たしていた。特に、化学療法薬DTX、Gemcitabine、Cisplatin、DOXと遺伝子薬物のコンビネーションインデックスは1未満であり、用量低減指数は1より大きく、相乗効果を発揮する好ましい併用治療効果を有することを示す。
【0171】
また、化学療法薬BCNU、Imatinibと遺伝子薬物とのコンビネーションインデックスは1より大きく、用量低減指数は1未満であり、相乗効果を発揮する役割を果たすが、併用療法で使用される用量減少は化学療法薬DTX、Gemcitabine、Cisplatin、DOXほどではなかった。よって、化学療法薬DTX、Gemcitabine、Cisplatin、DOXは、特定の総薬物用量で遺伝子薬物と併用する最適な化学療法薬をスクリーニングするためのさらなる実験に用いた。
【0172】
[実施例14]
(遺伝子薬物と異なる化学療法薬とを併用することによるインビトロ抗腫瘍薬力学的スクリーニング)
密度が1×105細胞/mLのU87単細胞懸濁液を調製し、ウェルごとに500μLで24ウェルプレートに播種し、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2、飽和湿度)に移し、24時間培養し、元の培地を廃棄し、siRNAを含む、実施例5で調製したリポソーム製剤(89WP-CLS/R8/siRNA)400μLを添加した。
【0173】
リポソーム製剤は、オリゴアルギニンとsiRNAの電荷比が5であり、CLSとsiRNAの電荷比が4であり、表面に89WPenetratin-PEG3400-DSPEを3%の割合で修飾したリポソーム医薬製剤であった。
【0174】
6時間後に薬液を廃棄し、細胞を再度処理し、96ウェルプレートに3000個細胞/ウェルの濃度で播種し、新鮮なDMEM完全培地(10%FBS及び1%ペニシリン-ストレプトマイシンが添加されたDMEM培地)を加えて引き続き12時間培養した。続いて、培地を異なる化学療法薬(DTX、Gemcitabine、Cisplatin、DOX)を含むDMEM完全培地に取り替えて培養を継続した(遺伝子薬物と化学療法薬の濃度比は、両者の半分最大阻害濃度IC50値の比であり、遺伝子薬物と化学療法薬物の濃度の合計は200nMである)。
【0175】
48時間後、各ウェルにcck-8溶液10μLを加え、37℃で2時間インキュベートした後に、マイクロプレートリーダーの490nm波長で各ウェルのOD値を測定した。
【0176】
細胞生存率(%)=(ODs-ODblank)/(ODcontrol-ODblank)×100%
[式中、ODsは薬物グループの吸光度、ODcontrolはブランク対照グループの吸光度(ウェルには細胞、DMEM完全培地及びcck-8のみが添加された)、ODblankはブランクウェルの吸光度である(ウェルにはDMEM完全培地及びcck-8のみが添加された)。]
【0177】
すべての実験は三重に実施し、実験結果をGraphpadPrismソフトウェアによって分析した。結果を
図25に示す(平均値±SD,n=3、*p<0.05、*は2つのグループの間で統計学的に著しい違いがあることを示している。***p<0.001、***は2つのグループの間に統計学的に非常に著しい違いがあることを示している。nsは2つのグループの間に統計学的に著しい違いがないことを示している)。
【0178】
結果は、遺伝子薬物と化学療法薬の濃度比が両者の半分最大阻害濃度IC50値の比であり、遺伝子薬物と化学療法薬の濃度の合計が200nMである場合、遺伝子薬物及び化学療法薬DTXの併用は細胞生存率に対して最大の抑制作用を有することを示し、最適なインビトロ抗腫瘍効果を有することを示している。この結果に基づいて、特定の総薬物量で、遺伝子薬物と化学療法薬DTXを併用して後の実験研究に用いた。
【0179】
[実施例15]
(カチオン性リポソーム及び正に帯電したポリアミノ酸が遺伝子薬物及び化学療法薬を封入した医薬製剤の調製)
実施例1に記載されているように、膜材料、すなわち、3.5mgのDOTAP、3.72mgのDOPE、2.59mgのコレステロールを秤量し、4μgのDTX薬物物質(大連美侖生物技術有限公司、MA1081)を加え、共にクロロホルムに溶解した。
【0180】
得られた溶液をロータリーエバポレーター(上海申生科技有限公司、R201L)によってクロロホルムを除去し、得られた乾燥脂質フィルムを37℃の水浴中で1mLの5%グルコース水溶液で約10分間超音波で水和した。脂質膜が完全に水和した後、ミニ押出機(Hamilton, 81320)を使用してリポソームを押し出し(核孔膜の順序は、順に200nm、100nm及び50nmであった)、DTXを封入したCLSを得た(CLS/DTX)。
【0181】
実施例4と類似するように、調製されたR8/siRNA複合体とCLS/DTXとを使用して、リポソーム複合体CLS/DTX/R8/siRNAを調製した。
【0182】
実施例5と類似するように、調製されたCLS/DTX/R8/siRNA複合体と、mPEG2000-DSPEと89WPenetratin-PEG3400-DSPEの全体に対するモル比が60%である89WPenetratin-PEG3400-DSPEの混合物とを55℃で30分間インキュベートして、表面に細胞透過性ペプチドを%の割合で修飾したリポソーム医薬製剤、すなわち89WP-CLS/DTX/R8/siRNAを得た。リポソーム医薬製剤は、遺伝子薬物siRNAと化学療法薬DTXのモル濃度比が、両者のIC50値の比(すなわち、約6)であり、且つ遺伝子薬物siRNAのモル濃度が約6.20μMであり、化学療法薬DTXのモル濃度が1.03μMであった。
【0183】
[実施例16]
(遺伝子薬物とドセタキセル(DTX)とを併用することによるインビトロ抗腫瘍薬力学的評価)
密度が5×104個/mLのU87単細胞懸濁液を調製し、ウェルごとに500μLで24ウェルプレートに播種し、CO2インキュベーター(37℃、5%CO2、飽和湿度)に移して24時間インキュベートした。続いて、培地を廃棄し、それぞれsiRNAを含む実施例15で調製されたリポソーム製剤89WP-CLS/DTX/R8/siRNA又はCLS/DTX/R8/siRNA 400μLを加え、又は、89WP-CLS/R8/siRNA+DTX400μLを加えた。
【0184】
リポソーム製剤は、オリゴアルギニンとsiRNAの電荷比が5であり、CLSとsiRNAの電荷比が4であり、表面に89WPenetratin-PEG3400-DSPEを3%の割合で修飾したリポソーム医薬製剤であった。前記89WP-CLS/R8/siRNA+DTXは、89WP-CLS/R8/siRNAとDTXを物理的に混合して得たものである。遺伝子薬物siRNAと化学療法薬DTXのモル濃度比は、いずれも両者のIC50値の比であった。
【0185】
6時間後に薬液を廃棄し、細胞を再度処理し、96ウェルプレートに3000個細胞/ウェルの濃度で播種し、新鮮なDMEM完全培地(10%FBS及び1%ペニシリン-ストレプトマイシンが添加されたDMEM培地)を加えて培養を継続した。48時間後、各ウェルにcck-8溶液10μLを加え、37℃で2時間インキュベートした後に、マイクロプレートリーダーの490nm波長で各ウェルのOD値を測定した。
【0186】
細胞生存率(%)=(ODs-ODblank)/(ODcontrol-ODblank)×100%
[式中、ODsは薬物グループの吸光度、ODcontrolはブランク対照グループの吸光度(ウェルには細胞、DMEM完全培地及びcck-8のみが添加された)、ODblankはブランクウェルの吸光度である(ウェルにはDMEM完全培地及びcck-8のみが添加された)。]
【0187】
すべての実験は三重に実施され、実験結果をGraphpadPrismソフトウェアによって分析した。結果を
図26に示す(平均値±SD,n=3、nsは2つのグループの間に統計学的に著しい違いがないことを示している)。
【0188】
結果は、
図26に示すように、リポソーム製剤89WP-CLS/DTX/R8/siRNAでは、DTXの半分最大阻害濃度IC
50値は8.9nMであり、リポソーム製剤CLS/DTX/R8/siRNAでは、DTXの半分最大阻害濃度IC
50値は24.7nMであり、リポソーム製剤89WP-CLS/R8/siRNAがDTXと併用した場合、DTXの半分最大阻害濃度IC
50値は10.3nMであった。上記から分かるように、DTXが6時間しか機能しない場合、siRNAとDTXの本発明のリポソーム製剤への併用によって、DTXの半分最大阻害濃度を顕著に低下させることができ、より効果的な腫瘍阻害効果を有していた。
【0189】
[実施例17]
(DiD細胞膜蛍光プローブでラベルされたキャリアがFAM-siRNAを封入した後に細胞によって摂取された状況に対する探究)
実施例1と類似するように、膜材料を秤量し、キットの説明に記載されているようにDiD細胞膜蛍光プローブ(大連美侖生物技術有限公司、MB6190)を添加して、DiD細胞膜蛍光プローブでラベルされたCLS、すなわち、CLS/DiDを調製した。
【0190】
33μgのFAMでラベルされたsiRNA(この実施例では、c-mycに対するsiRNAが使用され、そのセンス鎖(5’-3’)は、FAM-AACGUUAGCUUCACCAACAdTdTであり、すなわち、5’はFAMで修飾し、アンチセンス鎖(5’-3’)はUGUUGGUGAAGCUAACGUUdTdTである)を125μLのDEPC処理水に溶解して、20μMのFAM-siRNA溶液を調製し、DiD及び/又はFAM蛍光でラベルされた各医薬製剤を調製した。
【0191】
U87細胞(ヒト神経膠腫細胞、ATCCより購入)又はCalu-3細胞(ヒト肺腺癌細胞、ATCCより購入)をDMEM完全培地(FBS 10%とペニシリン-ストレプトマイシン1%が添加されたDMEM培地)で培養した。成長状態のよいU87細胞又はCalu-3細胞を取って、DMEM完全培地に再懸濁し、5×105個の細胞/ウェル、ウェルごとに1mLで6ウェルプレートに播種し、播種後、毎日新鮮な培養液を1回変えて、2~3日培養した後に実験を行った。
【0192】
U87細胞又はCalu-3細胞の培養液を捨てた後、無菌PBSで3回洗浄した。各ウェルにそれぞれsiRNAが異なる蛍光でラベルされた医薬製剤1μMを含有する、1mL無血清DMEM培地を添加し、37℃、5%CO2の条件で4時間インキュベートした。
【0193】
続いて、培養液を捨てて、0.02mg/mLヘパリンナトリウムを含むPBS緩衝溶液でウェルや細胞表面に吸着した正電性物質を洗い流した。トリプシンで細胞を処理して、200μLの無菌PBS緩衝溶液で再懸濁し、均一に吹き付けた後に試料ごとに細胞を数え、104個の細胞を取ってフローサイトメトリー検出を行った。
【0194】
実験では、ブランクの無血清DMEM培地でインキュベートした細胞を陰性対照グループとして設定した。更に、2つの陽性対照グループ、すなわち、FAMのみを含む89WP-CLS/R8/FAM-siRNAと、DiDのみを含む89WP-CLS/DiDを設定した。更に、以下の製剤グループ:89WP-CLS/DiD/R8/siRNAグループ、CLS/DiD/R8/FAM-siRNAグループ、89WP-CLS/DiD/R8/FAM-siRNAグループを設定した。
【0195】
すべての実験は三重に実施した。すべての製剤の用量は1mLであり、そのうち、siRNAの濃度は約1μMであり、DTXの濃度は約0.1667μM(DTXとsiRNAのモル濃度比はIC50値の比、すなわち6である)、オリゴアルギニンとsiRNAの電荷比が5であり、CLSとsiRNAの電荷比が4であり、表面に3%の割合で89WPenetratin-PEG3400-DSPEを修飾した。
【0196】
結果を
図27に示す(平均値±SD,n=3、***p<0.001、***は2つのグループの間に統計学的に非常に著しい違いがあることを示している)。
【0197】
図27の結果から、U87細胞及びCalu-3細胞における89WP-CLS/DiD/R8/FAM-siRNA医薬製剤の摂取は、より強いDiD及びFAM二重蛍光陽性の結果を示したため、リポソーム膜に嵌入された蛍光プローブDiDとリポソームに封入されたsiRNAは、遊離の形で摂取されるのではなく、脂質複合体の形で共同で入胞することが分かった。化学療法薬DTXと蛍光プローブDiDの物理的及び化学的特性が類似しているため、遺伝子薬物と化学療法薬を共同封入した医薬製剤89WP-CLS/DTX/R8/siRNAが細胞によって摂取されるにあたって、遺伝子薬物siRNAと化学療法薬DTXも脂質複合体の形で共同で摂取されて入胞すると推測された。
【0198】
[実施例18]
(遺伝子薬物とDTX化学療法薬とを併用することによるU87細胞のアポトーシス促進能力の評価)
DMEM培地における対数周期の成長状態が良好なU87細胞(ATCCより購入)を取って、5×104/ウェルの濃度で、それぞれ12ウェルプレートに播種し、37℃、5%CO2条件で、細胞の単層がウェル底を覆うまで培養した。
【0199】
培養液を捨て、無菌PBS緩衝溶液で3回洗った後、150nmol/L siRNAを含む、実施例15で調製したリポソーム製剤89WP-CLS/DTX/R8/siRNA、CLS/DTX/R8/siRNA、実施例5で調製した89WP-CLS/R8/siRNA、89WP-CLS/R8/siRNAとDTXとの物理的混合物400μLを添加した。すなわち、各製剤の用量は400μLであった。siRNAの濃度は150nmol/Lに希釈された。
【0200】
リポソーム製剤は、オリゴアルギニンとsiRNAの電荷比が5であり、CLSとsiRNAの電荷比が4であり、表面に3%の割合で89WPenetratin-PEG3400-DSPEを修飾し、DTXとsiRNAのモル濃度比は、IC50値の比であり、すなわち、6であった。
【0201】
インキュベーター中で6時間インキュベートした後、薬液を捨て、無菌PBS緩衝溶液で3回洗った後、完全培地の1mLを入れて引き続き18時間培養した。その後、細胞を集め、PBSで洗浄し、EDTA不含トリプシンで1分間処理し、DMEM培養液で処理を終了した。続いて、細胞を遠心管に集め、細胞アポトーシス検査キット(南京凱基生物科学技術発展有限公司、KGA108)を用いて細胞を二重染色し、フローサイトメトリーを用いて検出した。
【0202】
無血清DMEM培地でインキュベートした細胞を陰性対照グループとした。すべての実験は三重に実施し、結果を
図28に示す(平均値±SD,n=3、**p<0.01、***p<0.001、**と***は2つのグループの間に統計学的に非常に著しい違いがあることを示している)。
【0203】
結果は、本発明で設計された遺伝子薬物及び化学療法薬を共同送達する医薬製剤は、腫瘍細胞U87のアポトーシス率を顕著に向上させ、より効率的な腫瘍抑制効果を有することを示した。
【0204】
[実施例19]
(遺伝子薬物とDTX化学療法薬とを併用することによる抗U87原位置脳腫瘍の薬力学的評価)
対数成長期のU87細胞を取って、数え、PBS緩衝溶液で細胞を再懸濁した。各BALB/cヌードマウス(上海西普爾-必凱試験動物有限公司、中国)に6×105個のU87細胞(5μLのPBS緩衝溶液に分散している)を接種した。ヌードマウスを7%含水クロラールで麻酔し、脳立体定位器で固定し、細胞を線条体部位(ブレグマ前0.6mm、右1.8mm、奥3mm)にマイクロシリンジで接種し、U87原位置脳腫瘍モデルを構築した。
【0205】
前述の実施例に記載の方法にしたがって、それぞれ、リポソーム医薬製剤、すなわち、CLS/DTX/R8/siRNA、89WP-CLS/R8/siRNA、89WP-CLS/DTX/R8/siRNA、及び89WP-CLS/R8/siRNA+DTXの物理的混合物を調製した。
【0206】
U87原位置脳腫瘍を接種した後、マウスをランダムに分け、6つのグループ(n=10)、すなわち、生理食塩水グループ、DTXグループ、CLS/DTX/R8/siRNAグループ、89WP-CLS/R8/siRNAグループ、89WP-CLS/DTX/R8/siRNAグループ、89WP-CLS/R8/siRNA+DTXグループを設定した。
【0207】
U87原位置脳腫瘍を接種した後5日目から経鼻投与した。投与量は、0.66mg/kg siRNA(CLS/DTX/R8/siRNAグループ、89WP-CLS/R8/siRNAグループ、89WP-CLS/DTX/R8/siRNAグループ、89WP-CLS/R8/siRNA+DTXグループ)、6.66μg/kg DTX(DTXグループ、CLS/DTX/R8/siRNAグループ、89WP-CLS/DTX/R8/siRNAグループ、89WP-CLS/R8/siRNA+DTXグループ)であった。
【0208】
全ての投与製剤において、オリゴアルギニンとsiRNAの電荷比が5であり、CLSとsiRNAの電荷比が4であり、表面に3%の割合で89WPenetratin-PEG3400-DSPEを修飾し、DTXとsiRNAのモル濃度比は、IC50値の比であり、すなわち、6であった。
【0209】
投与を1日1回行って、合計22回投与し、マウスの体重と生存期間を記録し、体重変化曲線及び生存曲線を描いた。結果を
図29、
図30に示す(**p<0.01、***p<0.001、**と***は2つのグループの間に統計学的に非常に著しい違いがあることを示している)。
【0210】
その結果、生理食塩水グループ、DTXグループ、CLS/DTX/R8/siRNAグループ、89WP-CLS/R8/siRNAグループ、89WP-CLS/R8/siRNA+DTXグループの生存期間中央値は、それぞれ20日、21日、27日、27日、28.5日であった。
【0211】
89WP-CLS/DTX/R8/siRNAグループの生存期間中央値は、33.5日まで延長に成功し、生存曲線は他のグループと交差せず、最も顕著な抗脳神経膠腫効果を達成した。これらのデータは、89WP-CLS/DTX/R8/siRNAが、脳腫瘍に薬物を送達して抗腫瘍効果を発揮することができ、その独特な送達利点がより高い治療効果に変換され得ることを実証した。
【0212】
本発明を例示する目的でいくつかの代表的な実施形態及び詳細を示したが、主題発明の範囲から逸脱することなく、それらに対して様々な変更及び修正を行うことができることは、当業者にとって自明である。この点において、本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲によってのみ限定される。