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2022-75670ネコの全身性疾患の予防又は治療用アンジオテンシンII受容体拮抗薬
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  • -ネコの全身性疾患の予防又は治療用アンジオテンシンII受容体拮抗薬 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022075670
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】ネコの全身性疾患の予防又は治療用アンジオテンシンII受容体拮抗薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4184 20060101AFI20220511BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
A61K31/4184
A61P9/12
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022023799
(22)【出願日】2022-02-18
(62)【分割の表示】P 2020500145の分割
【原出願日】2018-07-05
(31)【優先権主張番号】62/529,587
(32)【優先日】2017-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】505258715
【氏名又は名称】ベーリンガー インゲルハイム フェトメディカ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Boehringer Ingelheim Vetmedica GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】アルブレヒト バラージュ
(72)【発明者】
【氏名】アンケ スヴェン
(72)【発明者】
【氏名】クライ サスキア
(72)【発明者】
【氏名】レーナー シュテファン ヨハネス
(72)【発明者】
【氏名】シュタルク マルクス
(72)【発明者】
【氏名】トラース アン ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】ツィンメリング ターニャ マルグリット
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、慢性腎臓病に対するネコの治療又は予防のための新規治療手法を提供することにある。
【解決手段】高血圧症の治療が必要なネコの高血圧症の予防又は治療方法を開示する。本方法は、ネコへの治療有効量のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)の投与を含み、治療有効量のサルタンは、治療期間にわたって変動する1日の薬用量で投与され、治療期間中の第1の期間のサルタンの1日の薬用量は1.0~5.0mg/kg(体重)であり、このサルタンの1日の薬用量は、治療期間中の第1の期間に続く第2の期間に減らされる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高血圧症の予防又は治療が必要なネコの該予防又は治療方法で用いるアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)であって、前記方法は、前記ネコへの治療有効量のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)の投与を含み、前記治療有効量のサルタンは、治療期間にわたって変動する1日の薬用量で投与され、前記治療期間中の第1の期間のサルタンの1日の薬用量は1.0~5.0mg/kg(体重)であり、このサルタンの1日の薬用量は、前記治療期間中の前記第1の期間に続く第2の期間に減らされる、前記アンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
【請求項2】
前記高血圧症が慢性腎臓病又は甲状腺機能亢進症と関連する、ネコの高血圧症の予防又は治療方法で用いる請求項1に記載のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
【請求項3】
前記高血圧症が特発性高血圧症である、ネコの高血圧症の予防又は治療方法で用いる請求項1に記載のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
【請求項4】
前記1日の薬用量が、前記ネコの収縮期血圧(SBP)測定値に基づいて変動する、ネコの高血圧症の予防又は治療方法で用いる請求項1~3のいずれか1項に記載のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
【請求項5】
前記サルタンの1日の薬用量が、前記第2の期間に0.10~0.50mg/kg(体重)の範囲の増分量で減らされる、ネコの高血圧症の予防又は治療方法で用いる請求項1~4のいずれか1項に記載のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
【請求項6】
前記ネコの収縮期血圧(SBP)測定値が、前記第1の期間前の該ネコのベースラインSBP測定値との関連で少なくとも10mmHg若しくは少なくとも20mmHg又は10~150mmHg、10~100mmHg、10~80mmHg、10~50mmHg、10~30mmHg、10~20mmHg、20~150mmHg、20~100mmHg、20~80mmHg、20~50mmHg、若しくは20~30mmHg低減すると、前記サルタンの1日の薬用量が減らされる、ネコの高血圧症の予防又は治療方法で用いる請求項1~5のいずれか1項に記載のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
【請求項7】
前記ネコの収縮期血圧(SBP)測定値が、前記第1の期間前の該ネコのベースラインSBP測定値から閾値(閾値以下)に低減すると、前記サルタンの1日の薬用量が減らされる、ネコの高血圧症の予防又は治療方法で用いる請求項1~6のいずれか1項に記載のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
【請求項8】
前記閾値が160又は170mmHgである、ネコの高血圧症の予防又は治療方法で用いる請求項7に記載のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
【請求項9】
前記第2の期間の前記サルタンの1日の薬用量が、前記第2の期間後の第3の期間に、前記第2の期間の最後に測定される前記ネコのSBPの変化に基づいて増やされるか又は減らされる、ネコの高血圧症の予防又は治療方法で用いる請求項1~8のいずれか1項に記載のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
【請求項10】
前記治療期間中の第1の期間の前記サルタンの1日の薬用量が2.0~3.0mg/kg(体重)であり、前記第2の期間の前記サルタンの1日の薬用量が0.125~2.0mg/kg(体重)である、ネコの高血圧症の予防又は治療方法で用いる請求項1~9のいずれか1項に記載のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
【請求項11】
前記第1の期間が、少なくとも14日、又は少なくとも28日、又は少なくとも120日である、ネコの高血圧症の予防又は治療方法で用いる請求項1~10のいずれか1項に記載のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
【請求項12】
前記1日の投与が経口投与である、ネコの高血圧症の予防又は治療方法で用いる請求項1~11のいずれか1項に記載のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
【請求項13】
前記治療期間の少なくとも一部の間の前記治療有効量の1日の投与が単一用量で実現される、ネコの高血圧症の予防又は治療方法で用いる請求項1~12のいずれか1項に記載のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
【請求項14】
前記治療期間の少なくとも一部の間の前記治療有効量の1日の投与が複数用量で実現される、ネコの高血圧症の予防又は治療方法で用いる請求項1~12のいずれか1項に記載のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
【請求項15】
前記方法が9カ月未満の齢を有するネコへの治療有効量のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)の投与を除外するか又は前記アンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)が少なくとも9カ月の齢のネコに投与されるか又は前記アンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)が9カ月以上の齢のネコに投与される、ネコの高血圧症の予防又は治療方法で用いる項目1~14のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
【請求項16】
下記:
アンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)と、1種以上の医薬的に許容される希釈剤及び/又は担体とを含む液体製剤状態の医薬組成物を、サルタンの量が高血圧症の治療を必要とするネコの高血圧症の予防又は治療のため治療的に有効である量で前記液体製剤中に存在するように含有する容器;及び
バレルを含み、かつ場合により0.25mL以下の増分又は0.10mL以下の増分で刻印された容積目盛線を場合により有するシリンジ
を含む、部品キット。
【請求項17】
前記容器の開口端と接続するアダプターをさらに含み、このアダプターは、該アダプターを通って伸長する開口部を含み、このアダプター開口部は、寸法が前記容器開口端より小さく、かつ場合により前記シリンジバレルは、前記バレル開口端が前記アダプター開口部に挿入されるときに前記バレル開口端と前記アダプターとの間の摩擦適合を容易にするため、前記アダプター開口部の形状と一致する形状を有する開口端を含む、請求項16に記載の部品キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、獣医学の分野、特にネコの全身性疾患の予防又は治療に関する。特に、本発明は、ネコの全身性疾患の予防又は治療方法であって、該治療が必要なネコへの治療有効量のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)の投与を含む方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
腎疾患の有病率は高齢ネコで高く、慢性腎不全が最も重要な疾患と考えられる。ネコの慢性腎臓病(CKD)の有病率は20%にまで達すると報告され、ネコの53%が7歳超だった(Lefebre, Toutain 2004,J. Vet. Pharm. Therap. 27, 265 - 281; Wolf AM North. Am. Vet. Congress 2006)。軽度乃至中等度の高窒素血症及び腎外臨床徴候(IRISステージ2&3)を有するネコの生存時間は1~3年に及んだ。初期の管理及び治療がCKDの予後に良好な影響を与えると考えられる(Wolf AM North Am. Vet Congress 2006)。
慢性腎不全(CRF)は、少なくともその最終ステージでは、根本原因と関係なく、腎臓の不可逆的構造病変を特徴とする。そのため、最初にネフロン(例えば糸球体、尿細管周囲毛細血管、尿細管又は間質)の一部に局在した進行性の不可逆的病変は、最終的に残部の病変発生の原因となるが、ネフロンの最初に影響を受けなかった部分は、それらの機能的相互依存のためそうでない。新しいネフロンが形成されて、病気により不可逆的に破壊されたネフロンに取って代わることはあり得ない。原発性腎臓高窒素血症を有するネコの生検所見の研究では、サンプルの70%に尿細管間質性腎炎が観察され、サンプルの15%で糸球体腎症が起こり、サンプルの11%にリンパ腫及びサンプルの2%にアミロイドーシスが観察された。CRFは腎機能低下又は腎損傷の存在によって認識される(Polzin, Osborne, Ross 2005 in: Ettinger SJ, Feldman CE (eds.) Textbook of Veterinary Internal Medicine, 6th, Vol 2. Chapter 260, 1756 -1785)。
【0003】
アンジオテンシンIIは、病態生理に重要な役割を果たし、特にヒトの血圧を上げる最も強力な因子である。その血圧を上昇させる効果に加えて、アンジオテンシンIIは、左室肥大、血管肥厚化、アテローム性動脈硬化、腎不全及び脳卒中に寄与する成長促進効果をも有することが知られている。小動物においては、いずれかのACE阻害薬によるアンジオテンシンII効果の抑制が、血圧を下げ、蛋白尿を制御するそれらの同時能力による腎保護効果を示すことが分かっている。
本療法は、腎機能、特に糸球体灌流の維持により糸球体機能を改善することによってネコの疾患の進行を遅らせることを目標とする。これには、食事性タンパク質制限、食事性脂質摂取の修正、ホスファート制限及びアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬による治療が含まれる(P.J. Barber (2004) The Kidney, in: Chandler EA, Gaskell CJ, Gaskell RM (eds.) Feline Medicine and Therapeutics, 3rd edition, Blackwell Publishing, Oxford, UK)。
【0004】
ACE阻害薬、特にエナラプリル、ベナゼプリル、イミダプリル及びラミプリルは、当初は慢性心不全(CHF)を制御するための小動物医薬の分野で開発された。慢性心不全の進行及び腎損傷の進行におけるレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)の病態生理学的役割に基づいて、これらの薬剤は、ネコを含めた小動物の疾患の進行を遅らせ、罹患率及び苦痛を減らすために慢性腎臓病(CKD)の治療に有用であることが分かった。このことの合理的根拠は、多分ネコのCRFの治療のための欧州におけるベナゼプリルの最近の認可である(Lefebre Toutain, 2004 J Vet Pharm Therap 27, 265-281)。しかしながら、ACE阻害薬の腎保護は、血圧降下によるのではなくおそらく蛋白尿への効果に媒介された。このことは、血圧への効果はプラセボの効果に匹敵したが、蛋白尿は低減したので、ラミプリルについて示された(Remuzzi et al., 2006, J Clin Invest 116, (2) 288-296)。
臨床観点から、ACE阻害薬は、アンジオテンシンIに対する特異性の欠如及びカテプシン、トリプシン又は心臓キマーゼ等の交代性酵素経路がアンジオテンシンIを変換することもできる「アンジオテンシンエスケープ」現象のため、RAASを遮断するための好ましい標的でない。さらに、ACE阻害薬による長期治療中に、ACE 活性は上方制御され、刺激されたレニン分泌のためアンジオテンシンIレベルが高くなる(Burnier & Brunner, 2000, The Lancet, 355, 637-645)。
【発明の概要】
【0005】
従って、本発明の1つの目的は、慢性腎臓病に対するネコの治療又は予防のための新規治療手法を提供することにある。
本発明のさらにより一般的な態様は、全身性疾患に対する;好ましくはアンジオテンシンIIに関連するか又はレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)と関係がある全身性疾患に対するネコの治療又は予防のための新規治療手法を提供することにある。
さらに本発明のさらなる態様は、高血圧症に対するネコの治療又は予防のための新規治療手法を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】アンジオテンシンII受容体1拮抗薬による血圧上昇抑制のプロットである。
図2】実施例4及び5の研究のためのテルミサルタン及びプラセボ群に関するベースライン値からの収縮期血圧の変化のプロットである。
図3】実施例6のための研究デザインの概要を示す。
図4】実施例6の研究のためのテルミサルタン及びプラセボ群に関するベースライン値からの収縮期血圧の変化のボックスプロットである。
図5】実施例6の研究のための日14及び日28におけるテルミサルタン及びプラセボ群に関するベースライン値からの収縮期血圧の変化のプロットである。
図6A】本明細書に記載の方法で用いる部品キットとしての薬物含有投与システムの実施形態例を示し、このシステムはプランジャーと、薬物を貯蔵するための容器とを含む。
図6B図6Aのシステムのシリンジバレルに0.10mLの増分で刻印された容積目盛線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
発明の詳細な説明
本発明の実施形態の前に、本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用する場合、単数形「a」「an」、及び「the」は、文脈上明白に他の意味に解すべき場合を除き、複数の言及を含むことに留意すべきである。従って、例えば、「a」製剤との言及は、複数の該製剤を含み、「the」担体との言及は、1つの担体乃至1つ以上の担体及び当業者に周知のその等価物への言及である等である。別段の定義がない限り、本明細書で使用する全ての技術用語及び科学用語は、この発明が属する技術分野の当業者が普通に解釈するのと同じ意味を有する。全ての所与の範囲及び値は、別段の指示がない限り、或いは当業者により別に知られていない限り、1~5%変動し得る。従って、説明から用語「約」を省略した。本明細書に記載のものと同様又は等価ないずれの方法及び材料をも本発明の実施又は試験に使用できるが、好ましい方法、装置、及び材料についてこれから述べる。本明細書で言及する全ての刊行物は、該刊行物に報告されている、本発明に関連して用いる可能性のある物質、賦形剤、担体、及び方法論を記載及び開示する目的で参照することにより本明細書に組み込まれる。本明細書のいかなる記述も、本発明が、先行発明に基づいて該開示に先立つ権利を与えられないと認めることと解釈すべきでない。
【0008】
上記技術的課題の解決は、特許請求の範囲で特徴づけられる説明及び実施形態によって達成される。
本発明に従い、本明細書では、治療が必要なネコの高血圧症(高血圧と呼ぶこともある)の予防又は治療方法であって、ネコへの治療有効量のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)の投与を含み、治療有効量のサルタンは、治療期間にわたって変動する1日の薬用量で投与される方法を記載する。例えば、治療期間中の第1の期間のサルタンの1日の薬用量は1.0~5.0mg/kg(体重)であってよく、サルタンの1日の薬用量は、治療期間中の第1の期間に続く第2の期間に減らされる。
【0009】
特に、本明細書では下記項目を開示する。
1. 高血圧症の予防又は治療が必要なネコの該予防又は治療方法で用いるアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)であって、該方法は、ネコへの治療有効量のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)の投与を含み、治療有効量のサルタンは、治療期間にわたって変動する1日の薬用量で投与され、治療期間中の第1の期間のサルタンの1日の薬用量は1.0~5.0mg/kg(体重)であり、サルタンの1日の薬用量は、治療期間中の第1の期間に続く第2の期間に減らされる、アンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
2. 高血圧症が慢性腎臓病又は甲状腺機能亢進症と関連する、ネコの高血圧症の予防又は治療方法で用いる項目1のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
3. 高血圧症が特発性高血圧症である、ネコの高血圧症の予防又は治療方法で用いる項目1のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
4. 1日の薬用量が、ネコの収縮期血圧(SBP)測定値に基づいて変動する、ネコの高血圧症の予防又は治療方法で用いる項目1~3のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
5. サルタンの1日の薬用量が、第2の期間に0.10~0.50mg/kg(体重)の範囲の増分量で減らされる、ネコの高血圧症の予防又は治療方法で用いる項目1~4のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
6. ネコの収縮期血圧(SBP)測定値が、第1の期間前のネコのベースラインSBP測定値との関連で少なくとも10mmHg低減すると、サルタンの1日の薬用量が減らされる、ネコの高血圧症の予防又は治療方法で用いる項目1~5のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
7. ネコの収縮期血圧(SBP)測定値が、第1の期間前に決定されたネコのベースラインSBP測定値との関連で少なくとも20mmHg低減すると、サルタンの1日の薬用量が減らされる、ネコの高血圧症の予防又は治療方法で用いる項目1~6のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
8. ネコの収縮期血圧(SBP)測定値が、第1の期間前に決定されたネコのベースラインSBP測定値との関連で10~150mmHg、10~100mmHg、10~80mmHg、10~50mmHg、10~30mmHg、10~20mmHg、20~150mmHg、20~100mmHg、20~80mmHg、20~50mmHg、又は20~30mmHg低減すると、サルタンの1日の薬用量が減らされる、ネコの高血圧症の予防又は治療方法で用いる項目1~7のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
9. ネコの収縮期血圧(SBP)測定値が、第1の期間前のネコのベースラインSBP測定値から、閾値以下である値に低減すると、サルタンの1日の薬用量が減らされる、ネコの高血圧症の予防又は治療方法で用いる項目1~8のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
10. ネコの収縮期血圧(SBP)測定値が、第1の期間前のネコのベースラインSBP測定値から、閾値(閾値以下)に低減すると、サルタンの1日の薬用量が減らされる、ネコの高血圧症の予防又は治療方法で用いる項目1~8のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
【0010】
11. 閾値が160又は170mmHg以下である、ネコの高血圧症の予防又は治療方法で用いる項目9又は10のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
12. 閾値が160又は170mmHgである、ネコの高血圧症の予防又は治療方法で用いる項目9又は10のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
13. 第2の期間のサルタンの1日の薬用量が、第2の期間後の第3の期間に、第2の期間の最後に測定されるネコのSBPの変化に基づいて増やされるか又は減らされる、ネコの高血圧症の予防又は治療方法で用いる項目1~12のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
14. 治療期間中の第1の期間のサルタンの1日の薬用量が2.0~3.0mg/kg(体重)であり、第2の期間のサルタンの1日の薬用量が0.125~2.0mg/kg(体重)である、ネコの高血圧症の予防又は治療方法で用いる項目1~13のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
15. 第1の期間が、少なくとも14日、又は少なくとも28日、又は少なくとも120日である、ネコの高血圧症の予防又は治療方法で用いる項目1~14のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
16. 1日の投与が経口投与である、ネコの高血圧症の予防又は治療方法で用いる項目1~15のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
17. 治療期間の少なくとも一部の間、治療有効量の1日の投与が単一用量で実現される、ネコの高血圧症の予防又は治療方法で用いる項目1~16のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
18. 治療期間の少なくとも一部の間、治療有効量の1日の投与が複数用量で実現される、ネコの高血圧症の予防又は治療方法で用いる項目1~16のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
19. 方法が、9カ月未満の齢であるネコへの治療有効量のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)の投与を除外する、ネコの高血圧症の予防又は治療方法で用いる項目1~18のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
20. アンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)が、少なくとも9カ月又は9カ月以上の齢のネコに投与される、ネコの高血圧症の予防又は治療方法で用いる項目1~18のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)。
【0011】
21. 治療が必要なネコの高血圧症の予防又は治療方法であって、ネコへの治療有効量のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)の投与を含み、治療有効量のサルタンは、治療期間にわたって変動する1日の薬用量で投与され、治療期間中の第1の期間のサルタンの1日の薬用量は1.0~5.0mg/kg(体重)であり、サルタンの1日の薬用量は、治療期間中の第1の期間に続く第2の期間に減らされる方法。
22. 高血圧症が慢性腎臓病又は甲状腺機能亢進症と関連する、項目21の方法。
23. 高血圧症が特発性高血圧症である、項目21の方法。
24. 1日の薬用量が、ネコの収縮期血圧(SBP)測定値に基づいて変動する、項目21~23のいずれか1項の方法。
25. サルタンの1日の薬用量が、第2の期間に0.10~0.50mg/kg(体重)の範囲の増分量で減らされる、項目21~24のいずれか1項の方法。
26. ネコの収縮期血圧(SBP)測定値が、第1の期間前のネコのベースラインSBP測定値との関連で少なくとも10mmHg低減すると、サルタンの1日の薬用量が減らされる、項目21~25のいずれか1項の方法。
27. ネコの収縮期血圧(SBP)測定値が、第1の期間前に決定したネコのベースラインSBP測定値との関連で少なくとも20mmHg低減すると、サルタンの1日の薬用量が減らされる、項目26の方法。
28. ネコの収縮期血圧(SBP)測定値が、第1の期間前のネコのベースラインSBP測定値から、閾値以下である値に低減すると、サルタンの1日の薬用量が減らされる、項目21~25のいずれか1項の方法。
29. 閾値が160又は170mmHg以下である、項目28の方法。
【0012】
30. 第2の期間のサルタンの1日の薬用量が、第2の期間後の第3の期間に、第2の期間の最後に測定されるネコのSBPの変化に基づいて増やされるか又は減らされる、項目21~29のいずれか1項の方法。
31. 治療期間中の第1の期間のサルタンの1日の薬用量が2.0~3.0mg/kg(体重)であり、第2の期間のサルタンの1日の薬用量が0.125~2.0mg/kg(体重)である、項目31~30のいずれか1項の方法。
32. 第1の期間が、少なくとも14日、又は少なくとも28日、又は少なくとも120日である、項目21~31のいずれか1項の方法。
33. 1日の投与が経口投与である、項目21~32のいずれか1項の方法。
34. 治療期間の少なくとも一部の間、治療有効量の1日の投与が単一用量で実現される、項目21~33のいずれか1項の方法。
35. 治療期間の少なくとも一部の間、治療有効量の1日の投与が複数用量で実現される、項目21~33のいずれか1項の方法。
36. 方法が、9カ月未満の齢を有するネコへの治療有効量のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)の投与を除外する、項目21~35のいずれか1項の方法。
【0013】
37. 下記:
アンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)と、1種以上の医薬的に許容される希釈剤及び/又は担体とを含む液体製剤状態の医薬組成物を、サルタンの量が高血圧症の治療を必要とするネコの高血圧症の予防又は治療のため治療的に有効である量で液体製剤中に存在するように含有する容器;及び
場合により0.25mL以下の増分又は0.10mL以下の増分で刻印された容積目盛線を場合により有するバレルを含むシリンジ
を含む、部品キット。
前記容器の開口端と接続するアダプターをさらに含み、このアダプターは、該アダプターを通って伸長する開口部を含み、このアダプター開口部は、寸法が前記容器開口端より小さく、かつ場合により前記シリンジバレルは、前記バレル開口端が前記アダプター開口部に挿入されるときに前記バレル開口端と前記アダプターとの間の摩擦適合を容易にするため、前記アダプター開口部の形状と一致する形状を有する開口端を含む、請求項16に記載の部品キット。
含有する容器(サルタンの量は、高血圧症の予防又は治療のために該治療が必要なネコに治療有効量で液体製剤内に存在する);及び
場合により0.25mL以下の増分又は0.10mL以下の増分で刻印した容積目盛線を場合により有するバレルを含むシリンジ
を含む、部品キット。
38. 容器の開口端と接続するアダプターをさらに含み、このアダプターは、アダプターを通って伸長する開口部を含み、このアダプター開口部は、寸法が容器の開口端より小さい、項目37の部品キット。
39. シリンジバレルは、バレル開口端がアダプター開口部に挿入されるときにバレル開口端とアダプターとの間の摩擦適合を容易にするため、アダプター開口部の形状と一致する形状を有する開口端を含む、項目37又は項目38の部品キット。
40. ネコが少なくとも9カ月の齢であるか又は9カ月以上の齢のネコである、項目21~35のいずれか1項の方法又は項目37~39のいずれか1項の部品キット。
【0014】
ある適応症でネコにアンジオテンシンII受容体1拮抗薬(サルタン)を使用することは知られている。アンジオテンシンII受容体1の遮断は、ACE阻害薬で知られるアンジオテンシン変換酵素の遮断とは異なる治療概念である。受容体遮断は、より特異的かつ完全であり、RAAS系の生理的カスケードのさらに下流である。本発明は、特定の予想外の知見、すなわち、ネコの高血圧症の予防又は治療のためのサルタンの薬用量は、特にネコの反応が該治療から肯定的である(例えば、該治療の結果としてネコの収縮期血圧が低減し、さらに、投与するサルタンの薬用量を減らしたとしても、ある一定レベル以下で維持される)と判断されると、治療期間にわたってダウン滴定するか又は減らすことができることに基づいている。
研究では、ネコは、薬力学的に有効な用量のサルタンに耐えることが分かった。例えば、蛋白尿性腎症を有する非糖尿病性高血圧症のヒト患者の非盲検研究において低用量(80mgを1日1回)及び高用量(80mgを1日2回)のテルミサルタンの腎臓予後に及ぼす効果を比較した。結果は、より有効なRAAS阻害は1日160mgという高用量で達成されるという概念を強化した。この用量は、約2800±2400ng/ml(Cmax±SD)の血漿レベルに相当し、イヌ及びラット等の動物の毒性研究において影響を受けない用量を超えている(治験薬概要書(Investigator brochure) 1994, 社内資料(data on file))。結果としての約2~3mg/kg(体重、1日)という用量はネコに毒であると予測された。パイロット毒性研究は、驚いたことに該用量(3mg/kgまで)がネコによく耐えられることを示した。本明細書で使用する場合、用語「mg/kg」は、ネコの体重1kg当たりのmgの薬用量を指す。
【0015】
さらに、サルタンは、ネコにおいてもアンジオテンシンII受容体1を効果的に遮断することが分かった。この知見は、ネコの絶対的生物学的利用能は非常に低く、平均滞留時間及び血漿半減期はヒトに比べてネコではかなり短いので予想外だった。経口生物学的利用能はヒトに比べて33.6%と計算された。平均tmax経口は0.44時間であり、Cmax経口は138.1ng/mlだった。平均t1/2経口は2.17時間だった。平均AUC→~経口を計算すると150(ng x h/ml)であり、平均V/f経口は20.4リットル/kgだった。平均AUC→~静脈内を計算すると385(ng x h/ml)だった。平均t1/2静脈内は2.25時間であり、平均V/f経口は8.8リットル/kgだった。この新たに生まれた情報から、サルタン、好ましくはテルミサルタンを用いて、全身性疾患、例えば慢性腎臓病、例えば慢性腎機能障害を含めた慢性腎不全等を有するネコを治療可能であると結論づけることができる。
【0016】
表1:略語
【0017】
従って、一実施形態では、本発明は、ネコの全身性疾患の予防又は治療方法であって、該治療が必要な当該ネコへの治療有効量のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)の投与を含む方法に関する。
本明細書で使用する用語「全身性疾患」は、限定するものではないが、心血管疾患、例えば拡張型心筋症(DCM)、僧帽弁閉鎖不全(MI)、肥大型心筋症(HCM);並びに他の後天性又は遺伝性心疾患、例えば心肺疾患、全身性高血圧症、例えば腎疾患と関連する高血圧症、慢性腎不全及び他の血管疾患、又は糖尿病等の代謝障害を意味する。従って、別の態様によれば、本発明は、ネコの全身性疾患の、当該ネコへの治療有効量の前記のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)の投与による予防又は治療方法であって、全身性疾患が、心血管疾患、例えば拡張型心筋症(DCM)、僧帽弁閉鎖不全(MI)、肥大型心筋症(HCM)及び後天性又は遺伝性心疾患、高血圧症(全身性高血圧症を含めて)、糖尿病のような代謝障害の群から選択される方法に関する。
【0018】
本明細書で使用する用語「全身性高血圧症」は、限定するものではないが、腎疾患、慢性腎不全及び他の血管疾患と関連する高血圧症の形態を意味する。例えば、全身性高血圧症としては、原因不明の高血圧症、慢性腎臓病と関連する高血圧症、甲状腺機能亢進症と関連する高血圧症、制御された高血圧症及び特発性高血圧症が挙げられる。特に、全身性高血圧症(本明細書では高血圧症とも呼ぶ)は、全身血圧の継続的上昇(例えば160mmHg以上の収縮期血圧又はSBPを有する)と定義される。高血圧症には2つの細分類:基礎疾患を特定できない原発性(又は特発性)高血圧症、及び全身性疾患の合併症として起こる続発性高血圧症がある。近年は、特発性高血圧症が小動物医学で認識が高まってきた。ネコの続発性高血圧症の最も一般的な原因は慢性腎臓病(CKD)及び甲状腺機能亢進症である。高アルドステロン症又は褐色細胞腫等の他の疾患はネコの続発性高血圧症にとっては非常にまれな原因であり、通常は重症になり、治療抵抗性をもたらすことが多い。
【0019】
ネコ患者の特発性高血圧症の原因は完全には理解されていない。しかしながら、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)の活性化が罹患ネコに存在すると考えられる。慢性腎臓病関連HTは、RAASの活性化及び最終的にアルドステロン産生によって誘発されると考えられる。これらの影響は主にアンジオテンシン-IIの1型受容体(AT-1)によって媒介される。慢性RAAS活性化は、全身性血管収縮、血管内流体増大及び交感神経活性化を経て継続的高血圧症につながる。ネコの甲状腺機能亢進症続発性高血圧症の根底にあるメカニズムは、RAASの機能障害が疑われるが、はっきりしないままである。一部のネコでは、甲状腺機能亢進症の診断時に高血圧症が存在するが、他のネコでは、甲状腺機能正常状態が回復した後に高血圧症が発症する。
【0020】
原因に関係なく、高血圧症は、種々の臓器の血管床への破壊作用によって局所性又は全身性疾患をもたらす恐れがある。臨床的には、高血圧症関連損傷は眼、脳、腎臓、心臓及び血管で頻繁に認められる。イヌ及びネコの高血圧症に関するACVIM合意パネル(Brown et al., イヌ及びネコの全身性高血圧の識別、評価及び管理に関する指針(Guidelines for the identification, evaluation, and management of systemic hypertension in dogs and cats.) ACVIM Consensus Statement. J Vet Intern Med 2007; 21: 542-558)によれば、収縮期血圧(SBP)の継続的上昇に起因するこれらの臓器への傷害は標的臓器障害(TOD)と総称され、TODは一連の可逆的から不可逆的まで及び比較的軽度から致命的結果の可能性までを指す。ネコの高血圧症は、さらなる臓器障害の顕著なリスクを有する。RAASの活性化及び/又は機能障害が種々の原因のネコの高血圧症の発症において重大な役割を果たすようである。結果として、特発性高血圧症、又はCKD若しくは甲状腺機能亢進症に起因する続発性高血圧症のどちらを有する高血圧ネコにとってもRAASの阻害が合理的治療標的と思われる。
【0021】
従って、別の実施形態では、本発明は、ネコの全身性高血圧症(本明細書では高血圧症とも呼ぶ)の予防又は治療方法であって、該治療が必要なネコへの治療有効量のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)の投与を含み、高血圧症が、CKD、甲状腺機能亢進症、制御された高血圧症及び特発性高血圧症を含む(限定されない)1種以上の他の全身性疾患と関連する、方法に関する。さらなる実施形態では、治療有効量のサルタンは、治療期間にわたって変動する1日の薬用量でネコに投与される。治療期間の多様性は、治療期間中の第1の期間のサルタンの1日の薬用量が1.0~5.0mg/kg(体重)であり、治療期間中の第1の期間に続く第2の期間にサルタンの1日の薬用量が減らされることであり得る。サルタンの1日の薬用量は、第2の期間に0.10~0.50mg/kg(体重)の範囲の増分量で減らされ得る。一実施形態では、サルタンの1日の薬用量は、第2の期間に0.10~0.50mg/kg(ネコの体重)の範囲の増分量で減らされ得る。サルタンの1日の薬用量は、ネコの一定の基準、例えばネコの収縮期血圧(SBP)測定値に基づいて減らされ得る。例えば、ネコのSBP測定値が、第1の期間前のネコのベースラインSBP測定値との関連で少なくとも10mmHg低減すると、サルタンの1日の薬用量を減らすことができる。別の実施形態では、ネコのSBP測定値が所定値又は閾値(例えば、120mmHg)以下であると、サルタンの1日の薬用量を減らすことができる。本明細書に記載のように、サルタンの1日の薬用量は、様々な継続投薬期間にいずれの適切な量でも、該減少薬用量へのネコによる肯定的反応に基づいてさらに減らすことができる。
【0022】
ヒトでは、アンジオテンシンII受容体1(AT1受容体)拮抗薬(サルタン)は、糖尿病患者でも非糖尿病患者でも、軽度乃至中等度の慢性腎不全(CRF)を有する患者でさえ、蛋白尿を顕著に減らすことが知られている。さらに、II型糖尿病における腎症の治療のためのAT1受容体拮抗薬の効果的使用に関する公表されたエビデンスがある(Cupisti A, et al., 2003, Biomed Pharmacother; 57 (3-4):169-172; Rysava R, et al., 2005, Press Monit; (10(4):207-213; WO92/10182)。ネコでは尿細管間質性腎炎がCRFの主原因となる(>70%)知見であると報告されているが、ヒト及びイヌでは糸球体腎症がネコに比べて突出している。糸球体損傷はイヌ及びヒトに見られることが多く、結果としてイヌ及びヒトでは糸球体選択透過性の欠如に起因する中等度乃至著しい蛋白尿の臨床所見がより一般的である。ネコに見られる尿細管間質性腎炎は低蛋白尿を示した。蛋白尿は、自発性腎臓疾患を有するヒト及びイヌの疾患進行の重要な指標として認識されており、蛋白尿の減少は、腎症を患っているヒトにおけるACE又はARBによるRAASの遮断という腎保護効果を示すための臨床治験の改善された成果を伴う(Karalliede & Viberti, J Human Hypertension 2006)。CRFの尿細管間質性起源のためネコには蛋白尿が少ないという事実のため、CRFの進行を遅らせる際の腎保護効果として蛋白尿の低減はこの種ではあまり重要でないと予測される可能性がある。しかしながら、臨床野外試験においてCRFを患っているネコの蛋白尿(UPCとして測定)と生存率との間の非依存性かつ顕著な相関性が報告された。驚いたことに、ごくわずかな蛋白尿を有する高窒素血症ネコでさえ(IRISによれば、UPC<0.25)、この相関性は明白だった(Syme, Elliot 2006, J Vet Intern Med, 20, 528-535)。
従って、好ましい実施形態によれば、全身性疾患は慢性腎臓病、好ましくは、例えば、表2のステージII~IVとして定義されているような慢性腎不全である。
【0023】
慢性腎不全等の腎機能低下の診断は、腎前性及び腎後性原因並びに標準的血液マーカー、例えば血漿又は血清中の尿及びクレアチニンの排除に基づいている。これらのパラメーターの異常濃度は高窒素血症と記述される。腎機能低下の標準的尿マーカーとしては、尿比重、蛋白尿等がある(Polzin DJ, Osborne CA, Ross S, 2005: Chronic Kidney Disease, In: Ettinger SJ, Feldman EC (ed.)Textbook of Veterinary Internal Medicine 6th edition, W.B. Saunders Company, Philadelphia, USA)。国際腎臓関心協会(international renal interest society)(IRIS)は、CRF患者を定義するために高窒素血症に基づく病期分類システムを提案した(Polzin DJ, 2006: Treating feline kidney disease: an evidence-based approach, Proceedings of The North American Veterinary Conference)。病期分類のための主範疇は血漿クレアチニン[mg/dl]であり、ステージ、尿蛋白:クレアチニン比(UPC)及び血圧[mmHg]とは独立の2つの下位範疇により完成される。この適用システムを用いて、一連の進行性腎疾患に沿ってネコの患者を病期分類する。
【0024】
表2. ネコの慢性腎臓病のステージ
【0025】
本明細書に記載のように、ネコの慢性腎不全の予防又は治療方法は、該治療が必要なネコへの治療有効量のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)の投与を含み、前記慢性腎不全は、表2に収載のいずれか1つの臨床症状、又はその任意の組み合わせを特徴とする。例えば、本発明は、≧1.6(mg/dl血液)の血漿クレアチンを有し、及び/又は≧0.2の蛋白尿(下位範疇UPC)を有するネコの予防又は治療方法であって、該治療が必要なネコへの治療有効量のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)の投与を含む方法に関する。
アンジオテンシンII受容体拮抗薬の包括的リストは、参照することにより全て本明細書に組み込まれるWO 92/10182の2~22ページ及びWO 95/26188の7~18ページで見つけることができる。アンジオテンシンII受容体拮抗薬は、とりわけEP-A-253310、EP-A-323841、EP-A-324377、EP-A-420237、EP-A-443983、EP-A-459136、EP-A-475206、EP-A-502314、EP-A-504888、EP-A-514198, WO 91/14679、WO 93/20816、WO 02/092081、US 4,355,040、US 4,880,804及びUS 6,028,091に記載されている。頻繁に言及される形態は、サルタン、例えばカンデサルタン、エプロサルタン、イルベサルタン、ロサルタン、オルメサルタン、タソサルタン、テルミサルタン又はバルサルタン等である。本発明により特に好ましい形態は、イルベサルタン、ロサルタン及びテルミサルタンである。これらのサルタン、又はその医薬塩若しくは多形の全ては当業者に周知であり、その使用は、本発明の意義の範囲内である。
【0026】
従って本発明は、全身性疾患、好ましくは慢性腎臓病、例えば慢性腎不全を患っているネコの予防又は治療方法であって、該治療が必要なネコへの治療有効量のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)の投与を含み、アンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)は、カンデサルタン、エプロサルタン、イルベサルタン、ロサルタン、オルメサルタン、タソサルタン、テルミサルタン又はバルサルタン、好ましくはイルベサルタン、ロサルタン及びテルミサルタンから成る群より選択される方法に関する。
テルミサルタンは、EP-A-502314に開示されるように高血圧症の治療及び他の医療適用のために開発されたアンジオテンシンII受容体拮抗薬である。その化学名は4'-[2-n-プロピル-4-メチル-6-(1-メチルベンゾイミダゾール-2-イル)-ベンゾイミダゾール-1-イルメチル]-ビフェニル-2-カルボン酸であり、下記構造を有する。
【0027】
【化1】
【0028】
テルミサルタンは、ヒトの治療/予防のため商品名Micardis(登録商標)(Boehringer Ingelheim, Germany)で市販されている。また、テルミサルタンは、EUでネコのCKDに付随する蛋白尿の減少のため商品名Semintra(登録商標)で認可されている。テルミサルタンは、WO 00/43370、US 6,358,986及びUS 6,410,742に開示されているように2つの多形体で存在する。テルミサルタン並びにその溶媒和物、水和物、及び半水和物は、WO 03/037876に開示されている。
従って、さらなる態様によれば、本発明は、ネコの全身性疾患、例えば慢性腎臓病、例えば慢性腎不全の予防又は治療方法であって、治療有効量のテルミサルタン又はその医薬的に許容される塩、好ましくは上記テルミサルタンの投与を含む方法に関する。
本明細書で既に述べたように、テルミサルタンの使用は、驚いたことにネコのアンジオテンシンII受容体血圧反応を抑制することが分かった。さらに、ネコの体重1kg当たり0.05mg未満の用量は、試験ネコの大半で約75%の血圧反応抑制をもたらすことが分かった。さらに、テルミサルタンの投与前後の拡張期血圧のアンジオテンシンII誘導上昇を調査するために実験ネコの研究が確立された。この試験は、ネコにおけるサルタン、特にテルミサルタンの作用の効力並びに持続時間を評価するために確立された。最後の経口投与の約24時間後、アンジオテンシンIIの増え続ける静脈内用量への拡張期血圧反応は、テルミサルタンの標的用量をプラセボと比較すると顕著に減少した。従って、標的用量の投与は、短い排出半減期及び生物学的利用能にもかかわらず、1日1回投与されたネコでは、意図した薬力学的作用及び持続時間を示すことが可能と結論づけることができた。
【0029】
従って、別の態様によれば、本発明は、ネコの全身性疾患、好ましくは慢性腎臓病、例えば慢性腎不全の予防又は治療方法であって、該治療が必要なネコへの治療有効量のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)、好ましくはテルミサルタン又はその医薬的に許容される塩の投与を含み、該アンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬の治療有効量が約0.01~約10mg/kg(体重)である方法に関する。好ましくは、該アンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬の前記治療有効量は約0.05~約8mg/kg(体重)、さらに好ましくは約0.1~約5mg/kg(体重)、さらに好ましくは約0.2~約4mg/kg(体重)、さらに好ましくは約0.3~約3mg/kg(体重)、さらに好ましくは約0.4~約2.5mg/kg(体重)、さらに好ましくは約0.5~約2mg/kg(体重)、最も好ましくは約0.75~約1.5mg/kg(体重)である。従って、該アンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬の前記治療有効量は、例えば0.01、0.02、0.03、… 0.08、0.09、0.1等;0.11、0.12、0.125、0.13、… 0.18、0.19、0.2等;0.21、0.22、0.23、… 0.28、0.29、0.3等 …;0.81、0.82、0.83、… 0.88、0.89、0.9等;0.91、0.92、0.93、… 0.98、0.99、1.0等;1.01、1.02、1.03、… 1.08、1.09、1.1等;… 1.2、1.3、… 1.8、1.9、2.0等;2.1、2.2、2.3、… 2.8、2.9、3.0等; …;8.1、8.2、8.3、… 8.8、8.9、9.0等;9.1、9.2、9.3、… 9.8、9.9、10mg/kg(体重)である。アンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬、好ましくはテルミサルタンは、1日1回、2回又は3回、上記1日の薬用量で投与可能である。
【0030】
アンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬が非経口経路で投与される場合、前記アンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬、好ましくはテルミサルタンは、約0.01~約4mg/kg(体重)の薬用量で投与される。好ましくは、該アンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬の前記治療有効量は約0.05~約3mg/kg(体重)、さらに好ましくは約0.1~約2.5mg/kg(体重)、さらに好ましくは約0.15~約2.0mg/kg(体重)、さらに好ましくは約0.2~約1.5mg/kg(体重)、最も好ましくは約0.25~約1.25mg/kg(体重)である。従って、該アンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬の前記治療有効量は、例えば0.01、0.02、0.03、… 0.08、0.09、0.1等;0.11、0.12、0.13、… 0.18、0.19、0.2等;0.21、0.22、0.23、… 0.28、0.29、0.3等 … ; 0.81、0.82、0.83、… 0.88、0.89、0.9等;0.91、0.92、0.93、… 0.98、0.99、1.0等;1.01、1.02、1.03、… 1.08、1.09、1.1等;… 1.1、1.2、1.3、… 1.8、1.9、2.0等;2.1、2.2、2.3、… 2.8、2.9、3.0等;3.1、3.2、3.3、… 3.8、3.9、4mg/kg(体重)である。アンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬、好ましくはテルミサルタンは、1日1回、2回又は3回、上記1日の薬用量で投与可能である。
【0031】
アンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬、好ましくはテルミサルタンが経口、直腸、経鼻又は吸入経路で投与される場合、約0.03~約10mg/kg(体重)の薬用量が好ましい。好ましくは、該アンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬の前記治療有効量は約0.10~約8mg/kg(体重)、さらに好ましくは約0.20~約7.5mg/kg(体重)、さらに好ましくは約0.25~約7.0mg/kg(体重)、さらに好ましくは約0.25~約6.0mg/kg(体重)、最も好ましくは約0.25~約5mg/kg(体重)である。従って、該アンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬の前記治療有効量は、例えば0.03、0.04、0.05、… 0.08、0.09、0.1、等;0.11、0.12、0.13、… 0.18、0.19、0.2、等;0.21、0.22、0.23、… 0.28、0.29、0.3等 … ; 0.81、0.82、0.83、… 0.88、0.89、0.9等;0.91、0.92、0.93、… 0.98、0.99、1.0等;1.01、1.02、1.03、… 1.08、1.09、1.1等;… 1.1、1.2、1.3、… 1.8、1.9、2.0等;2.1、2.2、2.3、… 2.8、2.9、3.0等;… ; 8.1、8.2、8.3、… 8.8、8.9、9.0等;9.1、9.2、9.3、… 9.8、9.9、10mg/kg(体重)である。テルミサルタンは、1日1回、2回又は3回、上記1日の薬用量で投与可能である。
【0032】
本発明の別の態様によれば、本発明は、ネコの全身性疾患、例えば慢性腎臓病、例えば慢性腎不全の予防又は治療方法であって、該治療が必要なネコへの治療有効量のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)、好ましくはテルミサルタン又はその医薬的に許容される塩の投与を含み、該アンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬の治療有効量は、少なくとも0.025mg/kg(体重)(bw)の累積静脈内濃度をもたらす治療有効量で投与される方法に関する。好ましくは、前記アンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)、好ましくはテルミサルタンは、少なくとも0.05mg/kg(bw)、さらに好ましくは0.1mg/kg(bw)、さらに好ましくは0.15mg/kg(bw)、さらに好ましくは0.2mg/kg(bw)、さらに好ましくは0.25mg/kg(bw)、さらに好ましくは0.40mg/kg(bw)、さらに好ましくは0.5mg/kg(bw)、さらに好ましくは0.75mg/kg(bw)、さらに好ましくは1mg/kg(bw)の累積静脈内濃度まで投与される。約1mg/kg(bw)の累積静脈内濃度という上限はよく耐えられるが、5、4、3及び2mg/kg(bw)までのみならず前記アンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)のいずれのさらに高い無毒の累積静脈内濃度も本発明の意義の範囲内である。当業者には、本明細書で与える教示を考慮して、標準的な技術で無毒の上限累積静脈内濃度を評価する権利がある。
【0033】
任意に、アンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)、好ましくはテルミサルタンを他の薬物と組み合わせて投与することができる。このような他の薬物は、例えばCaチャネル遮断薬(例えばアムロジピン)、β遮断薬(例えばアテノロール、カルベジロール)、強心性Ca感受性増強薬(例えばピモベンダン、レボシメンダン)、選択的If電流阻害薬(すなわちシロブラジン、イバブラジン)、ACE阻害薬(例えばラミプリル、ベナゼプリル、エナラプリル);抗肥満薬(例えばアンフェタミン誘導体、シブトラミン、オルリスタット、リモナバット(Rimonabat))等である。従って、別の態様によれば、本発明は、ネコの全身性疾患、好ましくは慢性腎臓病、例えば慢性腎不全の予防又は治療方法であって、該治療が必要なネコへの治療有効量のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)、好ましくはテルミサルタン又はその医薬的に許容される塩の、別の活性物質との併用投与を含み、前記さらなる活性物質がCaチャネル遮断薬(例えばアムロジピン)、β遮断薬(例えばアテノロール、カルベジロール)、強心性Ca感受性増強薬(例えばピモベンダン、レボシメンダン)、選択的If電流阻害薬(すなわちシロブラジン、イバブラジン)、ACE阻害薬(例えばラミプリル、ベナゼプリル、エナラプリル);抗肥満薬(例えばアンフェタミン誘導体、シブトラミン、オルリスタット、リモナバット)等である方法に関する。
【0034】
テルミサルタン及び他の活性化合物は、種々多様の異なる剤形で経口投与することができる。すなわち、それらは、錠剤、カプセル剤、ロレンジ剤、トローチ剤、ハードキャンディー、散剤、噴霧剤、水性懸濁液、エリキシル剤、シロップ剤等の形態で種々の医薬的に許容される不活性な担体と配合可能である。該担体としては、固体希釈剤又はフィラー、無菌水性媒体及び種々の無毒有機溶媒がある。さらに、このような経口医薬製剤は、甘味付け及び/又は風味付けの目的で常用されるタイプの種々の薬剤を用いて適宜甘味付け及び/又は風味付けすることができる。一般に、本発明の化合物は、該経口剤形に総組成の約0.5質量%~約90質量の範囲の濃度レベルで、所望の単位薬用量を与えるのに十分な量で存在する。本発明の化合物に適した他の剤形としては、当業者に周知の制御放出製剤及びデバイスが挙げられる。
【0035】
経口投与の目的では、種々の賦形剤、例えばクエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム及びリン酸カルシウム等を含有する錠剤は、種々の崩壊剤、例えばデンプン、好ましくはジャガイモ若しくはタピオカデンプン、アルギン酸及び特定の複合ケイ酸塩等と共に、結合剤、例えばポリビニルピロリドン、スクロース、ゼラチン及びアカシア等と一緒に利用可能である。さらに、潤沢剤、例えばステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム及びタルク又は同様のタイプの組成物をフィラーとして充填軟ゼラチン及び硬ゼラチンカプセル剤に利用してもよく;ラクトース又は乳糖及び高分子量ポリエチレングリコールを含めてよい。経口投与のために水性懸濁剤及び/又はエリキシル剤が望ましいときには、その中の必須活性成分を種々の甘味剤又は香味料、着色物質若しくは色素、並びに要望があれば、乳化剤及び/又は水、エタノール、ポリエチレングリコール、グリセリン及びその種々の同様の組み合わせと併用してよい。
【0036】
非経口投与の目的では、ゴマ油若しくはピーナッツ油中又は水性プロピレングリコール中の化合物の溶液のみならず、対応する医薬的に許容される塩の無菌水溶液を利用してよい。該水溶液は、必要ならば適宜緩衝化すべきであり、液体希釈剤は十分な生理食塩水又はグルコースで等張性にすべきである。これらの特定の水溶液は、特に静脈内、筋肉内及び皮下注射目的に適している。これに関連して、利用する無菌水性媒体は、当業者に周知の標準的な技術で容易に得られる。例えば、通常は液体希釈剤として蒸留水を使用し、最終製剤を適切な細菌フィルター、例えば焼結ガラスフィルター又は珪藻土若しくは素焼磁器フィルムに通す。このタイプの好ましいフィルターとしては、吸引ポンプの助けを借りて流体を無菌容器に吸引するBerkefeld, the Chamberl及びAsbestos Disk-Metal Seitzフィルターがある。これらの注射液の調整全体にわたって必要な工程を行なって、最終製品が確実に無菌状態で得られるようにすべきである。
【0037】
経皮投与の目的では、特定化合物(複数可)の剤形には、例として、溶液、ローション、軟膏、クリーム、ゲル、座剤、律速徐放製剤及びそのデバイスが含まれる。該剤形は、特定の化合物(複数可)を含み、かつエタノール、水、浸透促進剤及び不活性な担体、例えばゲル生成材、鉱物油、乳化剤、ベンジルアルコール等を含めてよい。
活性物質のこれらの予配合剤は、一般的に1種以上の製剤アジュバント、例えばマンニトール、ソルビトール、キシリトール、サッカロース、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、ラクトース、クロスカルメロースナトリウム塩(セルロースカルボキシメチルエーテルナトリウム塩、架橋型)、クロスポビドン、デンプングリコール酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース(低置換)、トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドンと他のビニル誘導体のコポリマー(コポビドン)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、微結晶性セルロース若しくはデンプン、ステアリン酸マグネシウム、ステアリルフマル酸ナトリウム、タルク、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ポリ酢酸ビニル、水、水/エタノール、水/グリセロール、水/ソルビトール、水/ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、セチルステアリルアルコール、カルボキシメチルセルロース若しくは脂肪物質、例えば硬脂肪等又はその適切な混合物と共に通常のガレヌス製剤、例えばプレーン若しくはコーティング錠剤、カプセル剤、散剤、懸濁剤又は座剤に組み込まれる。
【0038】
錠剤は、例えば活性物質(複数可)を1種以上の賦形剤と混合し、引き続きそれらを圧縮することによって得ることができる。錠剤は、数層から成ってもよい。賦形剤の例は、下記:不活性な希釈剤、例えばマンニトール、ソルビトール、キシリトール、サッカロース、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム及びラクトース;
崩壊剤:例えばクロスカルメロースナトリウム塩(セルロースカルボキシメチルエーテルナトリウム塩、架橋型)、クロスポビドン、デンプングリコール酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース(低置換)及びトウモロコシデンプン;
結合剤、例えばポリビニルピロリドン、ビニルピロリドンと他のビニル誘導体のコポリマー(コポビドン)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、微結晶性セルロース又はデンプン;
潤沢剤、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリルフマル酸ナトリウム及びタルク;
遅延放出を達成するための薬剤、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース及びポリ酢酸ビニル;及び
医薬的に許容される着色剤、例えば着色酸化鉄である。
【0039】
さらに、テルミサルタンをネコの全身性疾患、好ましくは慢性腎臓病、例えば慢性腎不全の予防又は治療用の別の薬剤と併用する場合、本発明の医薬組成物は、下記:
治療有効量のテルミサルタン又はその医薬的に許容される塩と、1種以上の医薬的に許容される希釈剤及び/又は担体とを含む医薬組成物を含有する第1の容器;及び
全身性疾患、好ましくは慢性腎不全の予防又は治療用の別の薬剤、又はその生理学的に許容される塩と、1種以上の医薬的に許容される希釈剤及び/又は担体とを含有する第2の容器
を含む部品キットであってよい。
好ましい部品キットは、第2の容器に1種以上のCaチャネル遮断薬(例えばアムロジピン)、β遮断薬(例えばアテノロール、カルベジロール)、強心性Ca感受性増強剤(例えばピモベンダン、レボシメンダン)、選択的If電流阻害薬(すなわちシロブラジン、イバブラジン)、ACE阻害薬(例えばラミプリル、ベナゼプリル、エナラプリル);抗肥満薬(例えばアンフェタミン誘導体、シブトラミン、オルリスタット、リモナバット)等を含む。
【0040】
さらなる態様によれば、本発明は、ネコの全身性疾患の治療のために治療有効量のアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬を含む医薬組成物の製造のための、前記アンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)、好ましくはテルミサルタンの使用にも関する。
好ましくは全身性疾患は、心血管疾患、例えば拡張型心筋症(DCM)、僧帽弁閉鎖不全(MI)、肥大型心筋症(HCM)及び他の後天性又は遺伝性心疾患等、全身性高血圧症、例えば腎疾患と関連する高血圧症、慢性腎臓病(CKD)及び他の血管疾患、糖尿病のような代謝障害から成る群より選択される。例えば、全身性疾患は、CKD、甲状腺機能亢進症、制御された高血圧症及び特発性高血圧症の1つ以上と関連する全身性高血圧症である。
好ましいサルタンは、例示様式で上述したものである。例えばMicardis(登録商標)又はSemintra(登録商標)等のテルミサルタン又はその医薬的に許容される塩の使用が最も好ましい。本発明に従って使用できる好ましい用量は上述したものである。好ましい投与経路は、経口、口腔、非経口、経鼻、直腸又は局所であるが、経口投与が最も好ましい。非経口投与としては、皮下、静脈内、筋肉内及び胸骨内注射及び注入技術が挙げられる。
【0041】
本発明の別の実施形態では、ネコの治療中にネコに付随する状態に基づいて、ある薬用量のサルタン(例えばテルミサルタン)の投与を調節する。薬用量の調節は、ある一定の治療期間後に、ネコの身体状態の測定された変化(例えば、改善)に基づいて修正可能である。例えば、高血圧症(例えば、CKD、甲状腺機能亢進症、制御された高血圧症及び特発性高血圧症の1つ以上と関連する高血圧症)に対するネコの治療においては、初期薬用量(例えば、本明細書で既に述べた適切な薬用量のいずれか)でネコにサルタンを投与してから、ある一定期間後に修正することができ、この薬用量の修正は、ネコの収縮期血圧(SBP)測定値に基づき得る。ネコのSBPは、いずれの適切な方法でも(例えば、ネコの尾又は肢に巻付ける血圧カフを利用して)測定可能である。実施形態例(例えば、本明細書に記載の特定例等)では、ある一定期間にわたってネコに初期の1日の薬用量を投与することができ、該期間後にネコのSBPを測定する。ネコのSBP測定値が閾値以下である場合、1日の薬用量をより少ない量に減らすか又はダウン滴定することができる。ネコのSBPが閾値以下のままであり、及び/又は閾値よりさらに降下さえする場合の投与計画では、1日の薬用量のさらなる低減又はダウン滴定を行なうことができる。或いは、他の実施形態では、ネコのSBP測定値が閾値を所定量超えるレベルにある場合には1日の薬用量を増やすか又はアップ滴定することもできる。薬用量は、任意の適切な様式、例えば本明細書で既に述べた様式(例えば、経口、非経口等)で投与可能であり、さらに任意の適切な形態(例えば、固体又は液体)であってよく、本明細書に既述の任意の他の適切な活性成分又は任意の他の賦形剤若しくは他の物質と併用し得る。
【0042】
本発明のさらなる態様によれば、本発明は、ネコの高血圧症の治療方法で使用するためのアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬(サルタン)、好ましくはテルミサルタン又はその医薬的に許容される塩に関し、治療有効量のサルタンが治療期間にわたって変動する1日の薬用量で投与され、治療期間中の第1の期間のサルタンの1日の薬用量は1.0~5.0mg/kg(体重)であり、サルタンの1日の薬用量は、治療期間中の第1の期間に続く第2の期間に減らされる。特定実施形態では、前記高血圧症は、慢性腎臓病若しくは甲状腺機能亢進症と関連する高血圧症であるか又は前記高血圧症は特発性高血圧症である。
【0043】
実施形態例では、初期薬用量のサルタンは、高血圧症の治療のために約0.10~約8.0 mg/kg、例えば約0.10~約5.0mg/kg、約0.75~約5.0mg/kg、又は約1.0~3.0mg/kg(例えば、約1.5mg/kg又は約2.0mg/kg)の量で投与可能であり、該薬用量は、1日1回、1日2回又は1日3回投与可能である。例えば、ネコに投与すべきサルタンの1日の薬用量は、約0.10~約8.0mg/kg、例えば約1.0~約4.0mg/kg、約2.0~約3.0mg/kg等であり得る。第1の所定又は規定期間と第2の(次の)規定期間との間の1日の薬用量の減少又はダウン滴定(並びに増加又はアップ滴定)は、任意の適切な量、例えば、約0.05~約1.0mg/kg、又は約0.1~約0.5mg/kg等の範囲の1日の薬用量の変化又は増分変化(すなわち、増分増加若しくは減少、すなわち、換言すれば所定量又は段階的量ずつの増加又は減少)であり得る。例えば、第1の規定期間と第2の(次の)規定期間との間の1日の薬用量滴定の変化は、約1.0mg/kg、約0.9mg/kg、約0.8mg/kg、約0.75mg/kg、約0.5mg/kg、約0.4mg/kg、約0.3mg/kg、約0.25mg/kg、約0.2mg/kg、約0.125mg/kg、約0.1mg/kgの差分又は増分(減少又は増加)変化、0.05mg/kg又は任意の他の適切な増分量(すなわち、任意の他セットの減少又は他セットの増加量)で修正又は調整可能である。
【0044】
ネコに投与されるサルタンの1日の薬用量は、任意の選択数の時間間隔にわたって調整可能である。例えば、高血圧症の治療のためにネコに投与されるサルタンの初期の1日の薬用量に関する初期期間(例えば、治療の1日目を含む期間)は、約1日~約30日以上、例えば約5日~約28日、約7日~約14日等であり得る。初期期間の最後に、1日の薬用量に為される調整は、約1日~約30日以上、例えば約5日~約28日、約7日~約14日等であり得る第2の又は次の期間に実施可能である。望みどおりに、治療の有効性に基づいて、1日の薬用量の任意のさらなる数の次の期間の調整をさらに行なうことができる。一部の実施形態では、変動する1日の薬用量で(例えば、ある一定の期間にわたって)ネコを治療できる総治療期間は、少なくとも約120日であり得る(例えば、治療期間は少なくとも3カ月、少なくとも4カ月、少なくとも5カ月、少なくとも6カ月等であり得る)。
【0045】
サルタンの投与(治療期間中のサルタンの薬用量の修正を含む)によるネコの高血圧症の治療又は予防方法は、様々な齢のネコに有効であることが判明した。しかしながら、9カ月未満の齢を有するネコに対する該方法の有効性を判定する研究は行なわれたことがない。従って、本明細書に記載の治療方法は、好ましくは少なくとも9カ月の齢(すなわち、9カ月以上の齢)を有するネコのための方法である。さらに、本明細書に記載の治療方法は、9歳未満の齢を有するネコを除外する。
本明細書で述べるように、サルタンのネコへの投与によるネコの高血圧症の治療又は予防のために、ネコへの1日の薬用量の調整を行なえるかどうかを判定するための基準としてネコのSBPを使用することができる。実施形態例では、ネコのSBPが第1の閾値以下に降下したか(ダウン滴定又は低減投薬のため)又は第2の閾値以上に上昇した(アップ滴定又は増加投薬)ときに、ネコに投与されるサルタンの1日の薬用量を調整するのが望ましいであろう。例えば、初期治療期間後に、ネコのSBPが第1の閾値以下に降下するか又は第1の閾値以下であるというシナリオでは、ネコへの投与用の1日の薬用量を任意の量(例えば、本明細書に記載の任意の薬用量増分値)だけ減らすことができる。SBPの閾値例は、例えば、約120mmHg~約170mmHgの範囲内に設定可能である。例えば、SBP閾値は、約170mmHg以下、約165mmHg以下、約160mmHg以下、約155mmHg以下、約150mmHg以下、約145mmHg以下、約140mmHg以下、約135mmHg以下、約130mmHg以下、約125mmHg以下、約120mmHg以下又はこれらの間の任意の値に設定可能である。
【0046】
これとは別に、SBP閾値の確立と組み合わせて、ネコのSBP値の変化すなわち差分SBP値(変化又は差分は2つのSBP値間の差である)が、ネコに投与される1日の薬用量修正のきっかけとなることもある。例えば、ネコに投与される1日の薬用量の変更のきっかけとなるSBP値の変化は、約10mmHg~約150mmHg、約10mmHg~約100mmHg、約10mmHg~約80mmHg、約10mmHg~約50mmHg、約10mmHg~約30mmHg、約10mmHg~約20mmHg、約20mmHg~約150mmHg、約20mmHg~約100mmHg、約20mmHg~約80mmHg、約20mmHg~約50mmHg、約20mmHg~約30mmHg、又は約5mmHg~約30mmHg、例えば約10mmHg~約25mmHgであり得る。さらなる例は、少なくとも約5mmHg、少なくとも約10mmHg、少なくとも約15mmHg、少なくとも約20mmHg、少なくとも約25mmHg、又は少なくとも約30mmHgのSBP値の変化である。
好ましい実施形態では、調節(薬用量の変更)方法は、液体製剤(例えば、本明細書で既に述べたタイプの任意の適切な液体製剤)としてネコにサルタンを投与することによって行なわれる。該実施形態では、適切なディスペンサーを設けて、変動する薬用量での投与を容易にすることができる。しなしながら、固体製剤として(例えば、錠剤として)サルタンを投与することによって調節方法を実行することもできる。
【0047】
液体製剤のためには、治療有効量のテルミサルタン又はその医薬的に許容される塩と、1種以上の医薬的に許容される希釈剤及び/又は担体を含む医薬組成物の液体製剤を含有する容器、並びに本明細書に記載の投薬計画に従って変動する量でネコに投薬するのに適したディスペンサーを含む部品キットを提供することができる。換言すれば、適切なディスペンサーを設けて、治療過程中のネコの身体状態の変化(例えば、SBPの変化)に基づいた薬用量の変更(例えば、薬用量の減少/ダウン滴定又は増加/アップ滴定)を容易にする。
液体製剤に適したディスペンサーは、ネコに投与するためにシリンジバレルに汲み上げるべき液体製剤の任意の適切な数の容積増分を画定するしるし又は目盛線がシリンジバレルに印刷されているシリンジを含む。実施形態例では、シリンジは1.0mLから6.0mL以上(例えば、2.0mL~5.0mL)の範囲のサイズを有し、さらに0.05mL増分、0.1mL増分、0.25mL増分、0.50mL増分、及び/又は任意の他の適切な段階若しくは増分の目盛線を含む。溶液中に適切な濃度のサルタンを有する液体製剤を用意することによって、シリンジの該容積増分が、ネコの体重に基づいて異なる薬用量(例えば、0.1~8.0mg/kg)でネコにサルタンを適切に投与できるようにする。
【0048】
ダウン滴定投薬スキームのいくつかの非限定例(下記実施例4~6でもさらに詳述する)は以下のとおりである。
A. サルタン(例えば、テルミサルタン)を液体形態で(例えば、10mg/mLのテルミサルタン溶液、及び0.10mL以下の増分で区分された2mLの投薬シリンジを用いて)、14日の初期期間にわたって高血圧症の治療又は予防のためネコに3.0mg/kgの1日の薬用量(例えば、1日2用量、それぞれ薬用量は1.5mg/kgである)で投与する。例えば、定期的な動物病院来診(例えば、2~4週間毎)時のネコのSBP測定値に基づいて1日の薬用量を修正する。ネコは、慢性腎臓病(CKD)と関連する高血圧症、甲状腺機能亢進症と関連する高血圧症、制御された高血圧症及び/又は特発性高血圧症を有し得る。最初に(例えば、日0の1回目の動物病院来診時又はその前に)、ネコのベースラインSBPを測定する。最初の14日の治療期間後に(例えば、2回目の動物病院来診時、例えば治療期間の日14に)、1日の薬用量を2.0mg/kg(例えば、1日1用量)に減らすか又はダウン滴定する。1日の薬用量は、ネコのSBP測定値に応じて(例えば、3回目の来診時、例えば治療期間の日28に)さらに減らすことができる。例えば、ベースラインSBP値(サルタンの投与の初期期間前にネコについて得た)からの少なくとも20mmHgのSBP低減は、1日の薬用量の減少をもたすことができる。或いは(又はSBP測定値のベースラインSBPからの低減と組み合わせて)、閾値以下(閾値は、例えば、120mmHgである)の値へのSBPの低減は、1日の薬用量の減少をもたらすことができる。1日の薬用量を約1.0mg/kg以下(例えば、約0.5mg/kg、約0.4mg/kg、約0.3mg/kg、約0.25mg/kg、約0.2mg/kg、約0.15mg/kg、約0.125mg/kg、約0.1mg/kg又は約0.05mg/kg)減らすことができる。定期的(例えば、治療期間の2回目の来診時、3回目の来診時等)に、SBP値を閾値以下の値で維持し、及び/又は十分な期間(例えば、14日以下)にわたってSBPの少なくとも約20mmHgの低減を維持するネコに基づいて同一又は異なる増分量で薬用量をさらに減らすことができる。この例では、初期の1日の薬用量は3.0mg/kgであり、この1日の薬用量を(SBPの十分な低減に基づいて)0.125mg/kg~2.0mg/kgの範囲の1日の薬用量に減らすか又はダウン滴定することができる。例えば、1日の薬用量を3.0mg/kg→2.0mg/kg→1.0mg/kg→0.5mg/kg等にダウン滴定することができる。該ダウン滴定は、ネコのSBP値が一定期間(例えば、14日以下)後に閾値以下(例えば、120mmHg以下)で維持され、及び/又はネコのベースラインSBP値から少なくとも約20mmHg低い値で維持されるときに行なわれる。特定の実施形態例では、ネコのSBPが120~180mmHg以内に維持されるとネコの1日の薬用量を2.0mg/kg(例えば、単一の1日の薬用量)に設定することができ、ネコのSBPが120mmHg以下で維持されると、さらにダウン滴定する(例えば、1.5mg/kg→1.0mg/kg→0.5mg/kg)。ネコの治療期間は、例えば、ネコのSBP測定値に基づいてサルタンの1日の薬用量を調整すべきかどうか(例えば、120mmHg以下に維持されるネコのSBP値に基づいて1日の薬用量を減らすことができる)を判定するために2~4週間毎の来診を伴う26週間(すなわち、6カ月)であり得る。
【0049】
B. サルタン(例えば、テルミサルタン)を液体形態で(例えば、4mg/mLのテルミサルタン溶液、及び0.25mL以下の増分で区分された5mLの投薬シリンジを用いて)、28日の初期期間にわたって高血圧症の治療又は予防のためネコに2.0mg/kgの1日の薬用量(例えば、1日1用量)で投与する。例えば、定期的な動物病院来診(例えば、2~4週間毎)時のネコのSBP測定値に基づいて1日の薬用量を修正する。ネコは、慢性腎臓病(CKD)と関連する高血圧症、甲状腺機能亢進症と関連する高血圧症、制御された高血圧症及び/又は特発性高血圧症を有し得る。初期期間後、ネコが160mmHg以下のSBPを有する場合に1日の薬用量を減らすか又はダウン滴定する。1日の薬用量のダウン滴定は、1.0mg/kg以下(例えば、約0.5mg/kg、約0.4mg/kg、約0.3mg/kg、約0.25mg/kg、約0.2mg/kg、約0.15mg/kg、約0.125mg/kg、約0.1mg/kg又は約0.05mg/kg)の増分であり得る。例えば、ネコのSBPが160mmHg以下である場合、2.0mg/kgという初期の1日の薬用量を1.5mg/kgに減らすか又はダウン滴定することができる。来診間(例えば、現来診と前の来診との間)の十分な期間(例えば、2~4週間)にわたって現在の1日の薬用量でネコのSBPが160mmHg以下で維持されると、1日の薬用量のさらなる引き続く減少又はダウン滴定(例えば、1.5mg/kg→1.0mg/kg→0.5mg/kg)を行なうこともできる。この例では、初期の1日の薬用量が2.0mg/kgであり、このような1日の薬用量は、ネコのSBP値が閾値以下(例えば、160mmHg以下のSBP)であると0.125mg/kg~2.0mg/kgの範囲(例えば、0.5mg/kg~2.0mg/kg)の1日の薬用量に減らすか又はダウン滴定(SBPの十分な低減に基づいて)が可能である。
【0050】
特定のシナリオでは、治療期間の前の部分で薬用量を減らしたか又はダウン滴定した後にネコのSBPが望ましくない値まで上昇したか又は望ましくない量上昇した場合、薬用量を増やすか又はアップ滴定することができる。例えば、ネコへのサルタンの1日の薬用量を1日3.0mg/kgから1日1mg/kgに減らした(SBPの120mmHg以下への低減及び/又はベースラインSBPから少なくとも20mmHgの低減のため)シナリオを考慮されたい。次の期間(例えば、薬用量のダウン滴定の14日以内)に、ネコのSBPが顕著に上昇したら(例えば、現SBPが120mmHg以上であるか又は現SBPがもはやベースラインSBPより少なくとも20mmHg少なくない)、ネコのためのサルタンの1日の薬用量をより高い値(例えば、最初の量、又は3.0mg/kg又は2.0mg/kg)に増やすか又はアップ滴定することができる。ネコのSBPを測定する次の期間中に、1日の薬用量の任意的なさらなる調整(減少又は増加)は、薬用量の変化に対するネコの反応に応じて(前のSBP測定値及び/又はベースラインSBPに対する現在のSBP測定値に基づいて)実行可能である。
【0051】
前述したように、治療有効量のサルタン(例えば、テルミサルタン又はその医薬的に許容される塩)と、1種以上の医薬的に許容される希釈剤及び/又は担体とを含む医薬組成物の液体製剤の格納システム、並びに本明細書の実施形態に記載の投薬計画に従って変動する量でネコに薬用量を分配する(例えば、ダウン滴定する、アップ滴定する等)に適したディスペンサーを含む部品キットを提供することができる。部品キットの実施形態例を図6A及び6Bに示す。図6Aを参照すると、部品キットは、バレル10と、バレル10内に伸縮様式で適合し、擦られるように動くか又は滑るように形成されたプランジャーとを具備して(プランジャーの吸引を促して流体をバレルに引き入れて、プランジャーによって流体をバレルから押し流す)シリンジ、バイアル又は容器40、及び使用中に容器40の開口端からバレル10への流体の引き抜きを促すように形成されたプラグインアダプター30を含む。シリンジ及び容器構成要素は、治療されるネコに所望薬用量のサルタンを送達するための構成要素の有効な操作の確保に許容されるいずれの適切な材料でも構成可能である。例えば、バレル10はポリプロピレン材料で構成され、プランジャー20は高密度ポリエチレン材料で構成され、プラグインアダプター30は低密度ポリエチレン材料で構成され、容器40は高密度ポリエチレン材料で構成され得る。さらに、シリンジ及び容器構成要素は、互いの適切な相互作用力及び治療されるネコへのサルタン溶液の投与中の適切な操作性能を助長する任意の適切な寸法及び幾何学的形状を有し得る。一実施形態例では、容器40は、少なくとも約45mLの容積を有し、10mg/mLのテルミサルタン溶液を含有する。容器40は、不使用期間中に容器の開口端を閉じるためのキャップ(図示せず)をさらに含む。
【0052】
シリンジ及び容器構成要素は、それらの意図した目的に適した任意の寸法(長さ、幅、内径、外径等)をさらに有し得る。例として、バレル10は、87mm~89mmの長さ寸法、8.0mm~8.6mmの外径及び6.6mm~6.8mmの内径を有することができ、該寸法は、バレルが少なくとも2.0mLの溶液を保持できるようにする。プランジャー20及び他の容器構成要素もシリンジバレルとの適切な係合及び/又は相互作用を促す適切な寸法を有し得る。
シリンジバレル10は、容器40から溶液が通って(プランジャー20を介して)吸引される開口端15を含む。バレル開口端15は、アダプター30の対応中心開口部35と幾何学的形状及び寸法が対応する円錐台形状を有し、アダプターの中心開口部35はアダプターを通って(例えば、アダプターの中心軸に沿って)伸長する。特に、アダプター中心開口部35を画定する内壁面は、バレル開口端15がアダプター中心開口部35内に挿入されるとき、バレル開口端が摩擦によってアダプター中心開口内にぴったりフィットするように寸法と形状が対応している。バレル開口端15とアダプター中心開口部35の内壁面との間の摩擦係合は、さらにバレル10とアダプター30との間の係合面部分間の流体の密封をもたらすことができ、その結果、流体が容器40から、アダプター中心開口部35を通って、その開口端15経由でのみバレルの中に移行する。図6Bを参照すると、バレル10は、容器40からバレルに0.1mLの増分で正確な量のサルタン溶液を吸引する一助となる区分線をその外面にさらに含む。特に、区分線は0から2.0mLまで0.1mLの増分で存在する。該増分の区分線は、容器40内の溶液中のサルタンの量と相まって、本明細書に記載の任意の適切な量で(本明細書に記載の任意の適切な量でダウン滴定することを及びアップ滴定することを含めて)サルタンの薬用量をネコに投与することを容易にする。
【0053】
プラグインアダプター30も、容器40とのぴったりした摩擦及び液密適合をもたらすように容器40内の開口部と対応する適切な外径又は横断面を有する。アダプター中心開口部35は、断面寸法又は直径が容器開口端の断面寸法又は直径より小さい。従って、アダプター30は、プラグ適合配置で挿入され、容器40の開口部に(容器開口部の上方で又は容器開口から離れて向かい合うアダプター開口部35と)固定されると、アダプター30は、開口部又は容器40からの流路の寸法を縮小し、容器からのサルタン溶液の引き抜きを容易にする。
バレル開口端15とアダプター中心開口部35との対応する幾何学及び寸法は、さらにシリンジバレル10(図6Bに示すように区分線を有する)だけがアダプター30と確実に効果的に使用できるようにする「キー」として働く。換言すれば、異なる形状及び/又は異なる寸法の開口端を有するいずれの他のシリンジバレルも、容器40からの流体の十分な吸引を促すようにアダプター中心開口部35内にしっかりと適合しない。同時に、シリンジバレル10は、この部品キットで提供されるアダプター30と共に使用するのにだけ適している。従って、このことは、バレル10(その区分線を有する)が異なるタイプの薬物を含む異なるアダプター及び/又は容器を含み得る別の部品キット(例えば、異なる薬物又は溶液中に異なるmg/mL量のサルタンを有するサルタン溶液を有する容器を含む部品キット)と交換できないようにする。
【実施例0054】
下記実施例は、本発明をさらに説明するために役立つが、下記実施例は、本明細書で開示する発明の範囲の限定と解釈すべきでない。
実施例1
この探索研究の目的は、単回経口又は静脈内投与後の雄ネコ及び雌ネコにおけるテルミサルタンの血漿中の薬物動態挙動及び絶対的生物学的利用能を調べることだった。
この研究では2.6~4.2kgの範囲の体重を有する4匹の臨床的に健康な雄及び雌の短毛家ネコ(HsdCpb:CADS)を用いた。動物を無作為に2つの群に割り当て、1群当たり2匹の動物だった。1mg/kg(体重)の用量で単一の経口又は静脈内で試験品テルミサルタンを与える2×2交差試験(すなわち、2つの期間、日1及び15)として研究をデザインした。
各治療後0時間(すなわち治療前)、5(静脈内注射後のみ)、15、30及び60分並びに2、4、8、24、72及び96時間で血液サンプルを採取した。これらの時点で臨床観察をも行なった。血漿サンプルを分析研究室に送り、そこで有効な方法を用いて分析した。各動物について測定した血漿レベルを種々の薬物動態計算に供した。
この研究の結果を以下のようにまとめることができる。
研究の全過程中に特異的臨床徴候に気付かなかった。
テルミサルタンの薬物動態分析により下記結果が明らかになった。
【0055】
表3:
【0056】
絶対的生物学的利用能についての点推定は、それぞれ0.086~1.165及び0.0,90~1.245の95%信頼区間で、AUC 0→tについて0.316、AUC 0→∞について0.336だった。個々のデータは、生物学的利用能が101番の動物(すなわちAUC 0→∞について0.116)は、他の動物(すなわち0.387~0.582)に比べて明らかに低いことを示した。
試験品テルミサルタンは、1mg/kg(体重)の用量でのネコへの単回経口又は静脈内投与後に良い耐容性を示した。
平均血漿濃度は、テルミサルタンの経口投与後15~30分まで上昇し、その後急速に低減した。両経路、すなわち経口及び静脈内経路後24時間には量を定めることができる血漿濃度は見られなかった。
経口投与後の絶対的生物学的利用能は33%であることが分かった。
【0057】
実施例2
この研究の目的は、アンジオテンシンIIの投与後に麻酔下ネコの血圧反応に及ぼすテルミサルタンの上昇する静脈内用量の効果を調べることだった。研究の最初に意図したエンドポイントは、アンジオテンシン血圧反応の≧90%を抑制するテルミサルタンの用量を見出すことだった。
この研究では2.5~3.5kgの範囲の体重を有する4匹の臨床的に健康な成体の雄及び雌の短毛家ネコ(HsdCpb:CADS)を使用した。ペントバルビタールナトリウムで動物に麻酔をかけ、希釈麻酔薬の連続注入により麻酔を持続した。頚動脈にカテーテルを挿入し、動脈圧の登録のため圧力トランスデューサーに接続した。アンジオテンシンII(A2)又は試験品テルミサルタンの投与のため別のカテーテルを大腿静脈に入れた。後述するように別々の間隔で頚動脈の収縮期及び拡張期血圧[mmHg]を記録して分析した。
まず最初に、拡張期血圧を5分毎に6回登録した。これらの6つの測定値の平均をベースライン血圧として設定した。次に10分間隔でA2のボーラス注射を0.1μg/kgの用量で2回投与した。2回目のA2ボーラスから得た拡張期血圧の、ベースライン血圧に対する最大上昇を対照アンジオテンシンII血圧反応(すなわち参照値)として利用した。
【0058】
参照値を得た5分後に、テルミサルタンの第1回の注射を投与した。30分後に拡張期血圧を記録し、その直後に0.1μg/kgの用量でA2のボーラス注射を投与し、拡張期血圧の最大上昇を得た。実験の意図したエンドポイント(すなわち≧90%抑制に相当する対照A2-圧力反応の≦10%のA2-圧力反応)に到達するまでこの手順を繰り返さなければならかった。実験の過程において、効果を高めるために単一の時点でテルミサルタンの用量を増やさなければならないことが分かった。さらに、4匹の動物のうち3匹では、上記いくつかの連続工程後でさえ90%の抑制というエンドポイントに達することができなかった。その結果、これらの個々の動物では早く実験を終わらせた。実験の最後に、麻酔下動物を過量のペントバルビタールナトリウムで安楽死させた。
この研究の結果を以下のように要約し得る(図1参照)。
個々の動物の平均ベースライン拡張期血圧は82~99mmHgの範囲であり、対照アンジオテンシンII血圧反応は34~63mmHgだった。
テルミサルタンによる治療後、反応パターンは3匹の動物(すなわち動物番号102、151、152)で同様だった。これらの動物では、対照アンジオテンシンII血圧反応に対する血圧上昇の最大抑制は、動物番号101の50%抑制と対照的にほぼ80~95%だった。
【0059】
しかしながら、この動物では試験品の最終累積用量はたった0.1mg/kgであるのに対して、他の動物ではこの用量は0.34~0.4mg/kgの範囲だった。
101番の動物では、0.05mg/kgの累積用量で50%抑制という最大効果に達した。102番及び152番の動物では、それぞれ0.04及び0.02mg/kgの第1の用量後既に73%抑制に達した。151番の動物では、0.04mg/kgの累積用量で73%という同一の抑制に達した。4匹全ての動物において、用量のさらなる上昇は、用量の増加に適切に相関する顕著に高い効果をもたらさなかった。
結論として、試験品テルミサルタンの上昇する静脈内用量は、アンジオテンシンIIの投与後の麻酔下ネコの拡張期血圧の抑制につながった。
4匹のうち3匹の動物で0.04mg/kgのテルミサルタンの累積用量で73%の抑制が見られた。1匹の動物では、0.05mg/kgの累積用量で50%の最大抑制が観察された。4匹全ての動物において、さらなる用量増加は適切な用量反応関係をもたらさなかった。
【0060】
実施例3
この盲検対照無作為探索研究の目的は、4週間にわたる反復経口投与後の雄及び雌ネコにおけるテルミサルタンの安全性を調べることだった。
この研究では2.5~5.1kgの体重範囲を有する12匹の臨床的に健康な約1歳の雄及び雌の短毛家ネコ(HsdCpb:CADS)を使用した。動物を1群当たり4匹の動物の3つの群に割り当てた。全ての動物を試験品テルミサルタン又は対照品(すなわちプラセボ)で日0~27まで1日1回治療した。0.0(プラセボ;群I)、1(群II)及び3(群III)mgのテルミサルタン/kg(体重)という3つの異なる用量レベルで試験/対照品を投与した。試験/対照品を含むボトルは、盲検法を達成するため動物番号を除いて外観は同一だった。
血液学及び臨床化学用の血液サンプルを動物から日-1(すなわち第1回の治療前)に採取し、日3、7、14、28に再び採取した。体重を毎週測定し、心電図検査記録を日-1、14、21及び28に行なった。直腸温度及び呼吸数の測定を含めた詳細な身体検査を日-1、7、14、22及び28に行なった。治療前から始めて検死まで毎週5日、収縮期血圧(1日1回)及び心拍数(1日2回)を測定した。治療全体にわたる種々の時点で採点システムを用いて投与品の嗜好性を評価した。研究の日28に、全ての動物に検死を施し、胃及び腎臓を病理組織学的に調査した。適切な統計手順を用いて関連パラメーターを解析した。
【0061】
この研究の結果を以下のように要約することができる。
全研究期間を通して試験品による治療に明らかに起因し得る臨床所見は観察されなかった。
顕著な差異は見られなかったが、嗜好性の評価結果は、試験品製剤のわずかに損なわれた嗜好性を指摘する可能性がある。しかしながら、嗜好性は、両治療群II及びIIIの動物においてほとんど良いか又は許容された。
身体検査及びECG検査は、調査の全ての時点での治療関連所見を明らかにしたわけではない。
研究過程中の体重、直腸温度、呼吸数及び心拍数に顕著な差異は見られなかった。
収縮期血圧は、治療開始後の単一の機会に対照群に比べて治療群II及びIIIで顕著に低かった。さらに、治療前の時間を含め、ボーダーラインの有意差が見られた。ベースラインからの変化は治療群と対照群との間の顕著な差異を明らかにしなかった。しかしながら、経時的な平均値の過程は日20以降に群Iに比べて群II及びIIIの収縮期血圧のわずかな低減の傾向を示唆する可能性がある。
【0062】
研究中の各日の検査時の差動的白血球数を含め、血液学及び臨床化学のパラメーターの治療群と対照群との間の治療に関連する差は見られなかった。尿検査も治療効果の証拠を与えなかった。
動物は、検死中に如何なる特異的所見をも示さなかった。
病理組織診断は、胃及び腎臓のいくつかの所見を明らかにしたが、治療に関連すると考えられる病理組織学的所見はなかった。
この研究の探索的性質のため、1治療群当たりの動物数はかなり少なかった。この事実を考慮して、本研究の結果は下記結論を許容し得る。
テルミサルタンを含有する試験品製剤のわずかに損なわれた嗜好性を明らかにし得る。
経時的な平均値の過程は、研究期間の最後に向かってテルミサルタンで治療した動物における収縮期血圧のわずかな低減の傾向を示唆し得る。
試験品テルミサルタンは、1及び3mg/kg(体重)の用量でのネコへの4週間にわたる反復経口投与後に良い耐容性を示した。
【0063】
実施例4
あるU.S.研究を行なって、全身性高血圧症を有するネコにおけるテルミサルタンの安全性及び有効性を評価した。この研究における統計解析用の主要変数は、ベースライン(日0)から来診2(日14±2)及び来診3(日28±2)までの平均収縮期血圧(mSBP)の低減だった。ベースラインから来診3までのmSBPの変化は、mSBPの低減が少なくとも20mmHgである場合、臨床的に有意であるとみなされた。
このプロトコルに規定されている登録基準を満たす1歳以上の家ネコを、2:1無作為化スキームでテルミサルタン経口溶液(Investigational Veterinary Product, IVP)又はプラセボ(Investigational Control Product, ICP)による治療に無作為に割り当てた。スクリーニングした総計9,157の症例(7,605匹の個々のネコに相当する)のうち、290の症例が登録基準を満たした。スクリーニング失敗の最も一般的な理由(症例の90%)は、ネコが高血圧症でないことだった。290の症例のうち2例は、即座に研究から除去され、如何なるIVP又はICPをも受けなかったので、安全性及び有効性集団から除いた。米国(US)及びカナダ内の総計33か所で安全性要約に用いた残りの288匹のネコのうち、192匹はIVPを受け、96匹はICPを受けた。この集団から、さらに67匹のネコを除いて、20カ所から142匹のIVP治療ネコ及び79匹のICP治療ネコに相当する総計221匹のネコを残して有効性解析に含めた。全体的に、集団動態学並びに年齢、体重、mSBP、網膜/胃底変化、及び臨床検査値を含めたベースライン特性に関して両治療群を均等に分配した。この研究に登録したネコの年齢中位数は14.2歳だった。
ネコを高血圧症の3つの亜集団の1つ以上に属するとして分類した:CKD及び/又は甲状腺機能亢進症及び特発性高血圧症。亜集団に分類した研究におけるネコの特有の障害を下表4に示す。
【0064】
表4:各亜集団のネコの数
【0065】
ネコがCKDと甲状腺機能亢進症の両疾患を有する場合、このネコはCKD及び甲状腺機能亢進集団に登録された可能性がある。安全性及び有効性集団の大半(約68%)はCKD亜集団に登録された。特発性高血圧症亜集団は、登録ネコの約29%に相当し、甲状腺機能亢進亜集団が約14%で続いた。甲状腺機能亢進亜集団のネコの大半がCKD亜集団にも相当したので百分率は総計100%にならない。この群をさらなる亜集団(CKD及甲状腺機能亢進)に分けると、それは安全性及び有効性集団の約11%に相当する。
2つの治療群(IVP及びICP)は、ベースラインmSBPに関して同様にバランスが取れていた(来診1で判定した)。最小及び最大mSBPは両治療群で同一だった。全体的に、表5に示すように、2つの治療群は、治療前mSBP値においては同等だった。
【0066】
表5:ベーラインの平均SBP値
【0067】
研究に登録したら、飼い主自身がネコにテルミサルタンを経口投与した。飼い主には、食物に対してか又はシリンジを介してか治療薬を投与する選択肢を与えた。投薬シリンジには、0.1mL増分の区分線並びに0.1mL単位に四捨五入した与えるべき用量及び体積を設けた(計算は来診1における各ネコのkgの体重に基づき、その後の各来診時に現体重を用いて用量を再計算した)。
ネコのmSBP低減のためにIVP又はICPの1.5mg/kgの1日2回(BID)用量(すなわち、3mg/kgの1日の薬用量)で開始した。来診2(日14くらい)後に、用量を2mg/kgの1日1回(SID)維持用量に減らした。この研究におけるネコの減少及び維持投薬計画を下表6に示す。
【0068】
表6:治療群
【0069】
本研究におけるネコの維持用量は、ネコのmSBPが来診2(日14前後)以降120mmHg未満で維持された場合にさらにダウン滴定可能だった。このようにmSBPが低減したネコについては、現薬容量を50%減らすことによって用量を減らした(例えば、薬用量は2mg/kg SIDから1mg/kg SIDに、次いで1mg/kg SIDから0.5mg/kg SIDに減少した)。mSBPを120mmHg未満で維持するネコについてのダウン滴定投薬計画を下表7に示す。
【0070】
表7:維持投薬
【0071】
安全性集団の14匹のネコだけが研究中に用量のダウン滴定を有したが、ネコの大半は来診2後に2mg/kg SIDの維持用量で維持した。
mSBP及び網膜写真を含め、ベースラインの身体検査パラメーターを得、来診2及び来診3(日28前後)と比較して、考えられる高血圧症関連標的臓器障害(TOD)を評価した。ベースラインの血液及び尿の値を得、来診3と比較して臨床検査値変化の臨床的有意性を決定した。来診2時及び予定外の来診時に、研究者の自由裁量で血液及び尿のサンプルを採取した。適切な場合、治療群別並びに亜集団別に全てのパラメーターの変化を要約した。
統計解析用の主要変数は、来診2で観察されたベースラインからのmSBP低減だった。さらに、臨床的関連性を実証するためには、来診3におけるテルミサルタン群の算術平均低減が≧20mmHgでなければならかった。テルミサルタンは、後述するように、有効性に関する両主要基準を満たすのに成功した。
下表8に示すように、各ネコについてベースライン(来診1)から来診2までのmSBPの変化を計算し、各治療群についてベースラインからの平均変化を決定した。
【0072】
表8:mSBPの変化

+1匹のネコは有効な来診3を有したが、有効な来診2はなかったので、来診2の平均計算から除外した。
*LSM:最小二乗平均
**CI=信頼区間
【0073】
テルミサルタン及びプラセボ群間には統計的有意差(p=0.0005)があった。テルミサルタン群は、23.3mmHgというmSBPの平均低減を有したが、プラセボ群は7.5mmHgというmSBPの平均低減を有した。本研究ではプラセボ効果が見られたが、それはmSBPの臨床的関連低減であるとみなされなかった。従って、テルミサルタンはプラセボと比較してmSBPを統計的に有意に下げることに成功した。さらに、来診3(日28前後)におけるテルミサルタン群のmSBPの臨床的関連低減を≧20mmHgであると予め定義し、ベースライン(来診1)における治療群の平均から来診3における治療群の平均を減算した。IVP群について結果として23.9mmHgという算術平均を決定した。この研究の有効性分析のこれらの結果は、テルミサルタンがネコの高血圧症の軽減及び制御に有効であることを確証する。
120mmHg未満のmSBPを維持するネコに対するダウン滴定(1日の薬用量の減少)の有効性に関して、表9のデータは、本研究の特定ネコへのテルミサルタンのダウン滴定を示す。
【0074】
表9:各来診時に新しい用量でダウン滴定した症例及び治療群
*症例305-402は、予定外の来診時に用量を滴定したが、ネコは急性腎不全であり、飼い主が全ての薬物療法の停止を指示したのでこの表には含まれない。
【0075】
来診2において、<120mmHgのmSBPを有するため14匹のネコ(11匹はテルミサルタン及び3匹はプラセボ)をより低い用量(1.0mg/kg SID)に割り当てた。来診3において11匹のテルミサルタンネコのうち10匹を延長使用研究に登録した(実施例5参照)。10匹のテルミサルタンネコのうちの3匹(329-454、323-416、及び358-406)は来診2後に<120mmHgのmSBPを有し続け、用量をさらに0.5mg/kg SIDに減らした。10匹のテルミサルタンネコの残りの7匹は、研究の最後まで1.0mg/kgの用量のままだった。11匹目のテルミサルタンネコ(263-567)は来診2において、より低い用量に割り当てたが、重篤有害事象(SAE)経験のため当該来診時に迅速に研究から除外した。来診3には、8匹のテルミサルタンネコを1.0mg/kg SIDという低用量に割り当て、2匹のテルミサルタンネコは、mSBP<120mmHgを有するため0.5mg/kg SIDという低用量に割り当てた。10匹全てのネコを引き続き延長使用研究に登録した(実施例5)。
【0076】
この研究では、標的臓器障害(TOD)の発生率はIVP群及びプラセボ群で同様であり、全体的に低かった。網膜病変を評価すると、写真の大半は「同一」スコアだったが、「より良い」スコアのICPネコ(8.1%)に比べてIVPネコの百分率(11.5%)のわずかな数値増加があり、「より悪い」スコアの網膜病変を有するネコの百分率には2つの治療群間でほとんど差がなかった。従って、この研究は、テルミサルタンは網膜悪化を引き起こさず、網膜への高血圧症の有害作用を減らすことによる改善を促進し得ることを示唆している。この研究は、高血圧ネコのこの集団内のテルミサルタンの安全性をさらに確証する。テルミサルタンに起因し得る重篤有害事象(SAE)はほとんどなかった。最も一般的なAE(嘔吐、下痢、嗜眠、及び体重減少)は、特にネコが経口薬物療法を受けるときの老齢期ネコ研究の共通所見である。嘔吐、下痢、及び嗜眠は、ICP群に比べてIVP群でわずかに多く起こった。
結論として、この研究からのデータは、1.5mg/kg BIDの用量(すなわち、3.0mg/kg/日)で2週間、次に、個別に血圧反応に合わせて調整するための用量ダウン(例えば、0.5mg/kg/日増分で)滴定する能力を有しながら維持用量として2mg/kg/日の臨床条件下でネコの高血圧症をコントロールするテルミサルタン経口溶液の安全性と有効性を実証する。
【0077】
実施例5
延長使用研究を行なって、ネコの全身性高血圧症の制御のためネコに経口投与するテルミサルタン経口溶液の6カ月の安全性を評価した。特に、この延長使用研究にはテルミサルタンを受け、実施例4の研究を終了したネコを利用した。この延長使用研究の評価の主要変量は、有害事象及び網膜写真におけるベースラインからの変化だった。一般に、この実施例の研究は、テルミサルタンによるネコの長期治療についてさらに支持する安全性データを示すために行なわれた。
この延長使用研究の登録には実施例4の研究の登録基準を満たした1歳超の家ネコがふさわしかった。さらに、ネコの平均収縮期血圧(mSBP)は、前の実施例4の研究で来診3(日28±2)において≦180mmHgでなければならなかった。総計107匹のネコが登録基準を満たし、それらをこの研究に利用した。この研究でプラセボ群は使用しなかった。
ネコを実施例4と同じ3つの亜集団(CKD及び/又は甲状腺機能亢進症又は特発性高血圧症)の1つ以上に属すると見なした。この場合、ネコがCKDと甲状腺機能亢進症の両疾患を有する場合、該ネコはCKD及び甲状腺機能亢進集団に登録された可能性がある。この研究のネコの亜集団を下表10に示す。
【0078】
表10:亜集団割り当て(4集団)
【0079】
表10に示すように、この延長使用研究に登録された集団は、大半がCKD亜集団(68.2%)に登録された。特発性亜集団は29.0%に相当し、次いで甲状腺機能亢進亜集団は12.1%に相当した。甲状腺機能亢進亜集団ネコの大半がCKD亜集団にも含まれるので、百分率は総計100%でない。甲状腺機能亢進亜集団をさらなる亜集団(CKD及び甲状腺機能亢進)に分けると、それは研究集団の9.3%に相当する。
実施例4におけるように、この研究の各ネコについての投与計画は、0.1mL増分で区分された投与シリンジを用いて、各来診時のネコの体重に基づいて行なった。この延長使用研究への登録時、ネコの大半(90.7%)は1日1回(SID)2mg/kgの維持用量を受けていた。いずれかの来診時にmSBPが120~160mmHgの目標範囲未満であれば、維持用量をダウン滴定した。当該症例では、用量を1mg/kgに減らし、mSBPが目標範囲未満のままであれば、さらに0.5mg/kg SIDに減らした。107匹のネコのうち26匹はこの延長使用研究中に用量をダウン滴定してもらった。
特に、この延長使用研究に登録されたネコに最初は2mg/kg SIDの用量のテルミサルタンを投与した。ネコのmSBPが目標範囲未満(<120mmHg)に降下した場合、0.5~2mg/kg SIDの範囲内に用量を減らすか又はダウン滴定した。下表11中のmSBP値に基づいて用量を選択した。
【0080】
表11:投薬
【0081】
このように、必要ならば、各来診時に、表11に示すmSBP基準に従って各ネコの1日のテルミサルタン用量を滴定した。いずれの来診時でも、ネコが以前に受けたことがあり、かつ当該用量は該ネコには多過ぎるか又は少な過ぎる(すなわち、それは動物のmSBPを120~160mmHgという目標範囲外にした)ことが分かっている用量と同一だった場合、代替用量(0.5~2.0mg/kg SIDの許容範囲内)を任意に選択して目標範囲(120~160mmHg)に動物を維持した。この研究で、あるネコがダウン滴定及びアップ滴定によってその1日の薬用量をどのように修正してもらったかの例を下表12に示す。
【0082】
表12:ネコ329-454の投薬
【0083】
mSBP>180mmHgのため8匹のネコだけを研究から除き、レスキュー症例とみなした。要約すれば、レスキュー症例は全ての最終研究成果の7.5%(8/107)を占めた。このことは、症例の90.7%(97/107)において、SBPが目標範囲(120~180mmHg)内に維持されたことを示している。2匹のネコ(1.9%の症例)は低血圧症のため救出された。
週4、14、及び26(それぞれ、日28±2、98±7、及び182±7)にmSBPの変化及び網膜写真を評価して、血圧の制御をモニターし、考えられ高血圧症関連標的臓器障害(TOD)を判定した。血液及び尿の値を週4、14、及び26に記録してテルミサルタンの安全性を立証した。週8(日56±7)、週20(日140±7)、及び予定外の来診時に、研究者の自由裁量で血液及び尿のサンプルを採取した。研究者は、臨床的有意性について全てのパラメーターを評価した。そして治療群別のみならず、適切な場合は亜集団別にもパラメーターをベースラインと比較し、変化を要約した。
週4、8、14、20及び26における血圧測定値の群平均及びmSBPの平均変化のデータをそれぞれ下表13及び14に示す。
【0084】
表13:来診別の群mSBP
【0085】
表14:来診別のベースラインからの平均変化
【0086】
本研究で各来診時にネコについて測定したmSBPはベースラインの176mmHgに比べて安定していた:148mmHg(週4及び8)、142mmHg(週14)、145mmHg(週20)、及び150mmHg(週26)。これは、テルミサルタンがこの集団のネコのSBPを長期間にわたって制御できることを示唆している。
ネコの大半(90.7%)は、2.0mg/kg SIDの用量で本研究に登録された。8匹のネコ(7.5%)は、1.0mg/kg SIDの用量で登録され、2匹のネコ(1.9%)は0.5mg/kg SIDの用量で登録された。研究期間全体を通じて、ほとんどのネコ(86.7%~88.8%)は、2.0mg/kgの用量で維持された。残りのネコは1.0mg/kg又は0.5mg/kgにダウン滴定された。研究の最後に、ほとんどのネコ(87.7%)は2.0mg/kg用量を受けていた。表15は、各来診時のネコの用量レベルのデータを提供する。
【0087】
表15:各来診時の用量レベル
【0088】
120mmHg未満のSBPを有するため研究中により少ない用量を割り当てたられたネコ(全部で26匹のネコ)を特定する具体的症例を下表16に示す。
【0089】
表16:各来診時に新用量でダウン滴定した症例

+両ネコは、0.5mg/kg SIDへのダウン滴定後の来診時に<120mmHgのmSBPに基づいた救出とみなされた。いずれのネコにも低血圧に関連する臨床徴候はなかったが、それでもこれらのネコは、EDCシステムのスポンサーからの間違った終了催促のため研究から除去された。
【0090】
表16のデータは、9匹のネコが週8の来診時に、11匹のネコが週14の来診時に、5匹のネコが週20の来診時に、9匹のネコが予定外の来診時に、より少ない用量に割り当てられたことを示している。このれらのネコのうち、7匹のネコは研究期間内に2回ダウン滴定され、2匹のネコは3回ダウン滴定された。2匹のネコ(263-579及び323-533)は、最低許容用量への低減後に持続的低血圧(mSBP<120mmHg)のため研究から除去された。
研究中に24匹のネコ(22.4%)に重篤AE(SAE)が起こり、91匹のネコ(85.0%)に非重篤AE(NSAE)が起こった。最も一般的に報告されたSAEは体重減少(8.4%)、貧血及び脱水症(6.5%)、食欲不振、嘔吐(5.6%)、及び嗜眠であり、最も一般的なNSAEは体重減少、嘔吐、脱水症、及び下痢だった。全体的に、11のSAEは、テルミサルタンに起因する可能性があると判断された(10.3%)。一般に、登録集団の高齢(平均14.1歳)及び動員標的にされたネコ(CKD及び/又は甲状腺機能亢進症又は特発性高血圧症を有する高血圧ネコ)を考慮すると、SAEの全体的な発生率は予想どおりだった。最も一般的なNSAE(嘔吐、下痢、及び体重減少)は、高齢ネコ研究に共通する所見であり、所与の経口薬物療法において予想される。AE評価には、高血圧症関連TODの発症又は悪化の臨床評価をも含めた。この研究結果により、テルミサルタンに関連する可能性があると考えられるTODのSAEは、文献に典型的として提案された値より実質的に低い頻度であることが分かった。
網膜写真の変化の評価については、大半のネコが変化なしだった。さらに、全ての次の来診時に、ベースラインに比べて6.9%~7.4%改善した。これは、テルミサルタンが網膜憎悪を引き起こさず、網膜への高血圧症の有害作用を低減させることによって改善を促し得ることを示している。
CKD亜集団並びにCKD及び甲状腺機能亢進亜集団に登録され、ベースラインの臨床検査値を有する全てのネコについてIRISステージ分類及びサブステージ分類を決定した。研究期間中、大半のネコは、IRISステージ分類及び蛋白尿サブステージ分類に関して変化なしだった。さらに、血圧サブステージ分類において83.0%~98.1%のネコが「より良い」と評価され、「より悪い」と評価されたネコはいないことに気づくのが重要である。
【0091】
図2にプロットしたデータは、実施例4及び5のそれぞれについて各研究の開始時におけるベースライン(平均ベースラインは約176mmHgであり、プラセボの平均ベースラインは約175mmHgだった)からのSBP変化を示す。プロットデータから明らかなように、ベースラインからの(SBPの低減による)SBP変化は、日14及び日28のそれぞれでプラセボ群に対してテルミサルタン群で大きかった。さらに、各来診についてテルミサルタン群のSBPの変化は20mmHgより大きかった。
結論として、臨床条件下で、この研究からのデータは、個別に血圧反応に合わせて用量を滴定して調整する能力を有しながら、2mg/kg/日の用量でネコの高血圧症をコントロールするテルミサルタン経口溶液の安全性及び有効性の実質的証拠を提供する。この結論は、mSBPの変化、有害事象(AE)、網膜写真の変化、及びIRISステージ分類及びサブステージ分類の評価に基づいている。
【0092】
実施例6
欧州の研究を行なってネコの全身性高血圧症の治療用テルミサルタン経口溶液の有効性及び安全性を調べた。研究の第1部又は相(日1~日28)は、28日のプラセボ対照二重盲検治療期間(治療の有効性相)にわたって行なわれた。研究の第2部又は相(日29~日120)では、追加の92日の延長治療期間にわたって平均収縮期血圧(mSBP)制御に及ぼすテルミサルタンの効果及び安全性をも評価した(研究の延長使用相)。各研究来診時の3回の血圧測定値の算術平均としてmSBPを定義した。スクリーニング来診日-14~-2及びスクリーニング来診日-1におけるmSBPの算術平均としてベースラインSBPを定義した。
この研究の標的集団は、中等度乃至重度の全身性高血圧症を有する依頼者所有の家ネコ(少なくとも約160mmHgのmSBPを有するネコ)だった。51の研究場所(独国の24、仏国の9、英国の11、ニュージーランドの4及びスイスの3)からの総計285匹の依頼者所有家ネコを2:1比のテルミサルタン(189匹のネコ、1日1回2.0mg/kgの用量で開始、日28以降第2[延長使用]相中、用量を減らす可能性がある)又はプラセボ(96匹のネコ、1日1回0.0mg/kg)による治療について無作為化した。研究及び2相の治療の図式的概観を図3に示す。両治療群について同様の治療前mSBP(約177~179mmHg)が観察された。
【0093】
治療開始14日以内の2回の別々のスクリーニング来診で「ACVIM合意声明(consensus statement):イヌ及びネコの全身性高血圧の識別、評価及び管理に関する指針(Guidelines for the Identification, Evaluation, and Management of Systemic Hypertension in Dogs and Cats)」(Brown et al. イヌ及びネコの全身性高血圧の識別、評価及び管理に関する指針(Guidelines for the identification, evaluation, and management of Systemic Hypertension in dogs and cats)). ACVIM Consensus Statement. J Vet Intern Med 2007; 21: 542-558)に従って中等度乃至重度全身性高血圧症と診断されたネコがこの研究に適していた。高血圧症の原因を慢性腎臓病(CKD)に起因、甲状腺機能亢進症に起因、CKDと甲状腺機能亢進症の両方に起因として又は特発性高血圧症として割り当てた。治療開始の14日前から、血圧に影響することが分かっている如何なる物質をもネコに許容しなかった。スクリーニング来診時にネコのmSBPが悪性範囲(>200mmHg)であるか、又はネコが非常に可変性血圧測定値(3回の連続測定値についての差が>20%)を有する場合、これらのネコは排除した。さらなる排除基準には、制御されない甲状腺機能亢進症(総T4>60nmol/L)、急性又は重篤TOD、血圧に影響を与え及び/又は研究結果と相互作用する可能性があると疑われるか若しくは確証される随伴性疾患、高窒素血症(急性又は非代償性腎疾患、腎前性若しくは腎後性要因又は研究若しくは入院の未完了のリスクを示すことに起因)、又は妊娠中/授乳中の雌ネコ及び育種を意図したネコが含まれた。
【0094】
この研究で用いた送達経路はテルミサルタン溶液(及びプラセボ)の経口投与だった。テルミサルタンの開発中、最初は1日当たり1.0、1.5、2.0及び3.0mg/kgの治療用量で研究を行なった。この研究の第1相の開始用量は、経口で1日当たり2.0mg/kgのテルミサルタンに設定した。第1相のために5mLの(0.25mL増分で区分された)投薬シリンジを使用し、また2mLの(必要に応じてダウン滴定を達成するため0.1mL増分で区分された)投薬シリンジを用いて直接ネコの口中に又は非常に小量の食物と共に投薬を行なった。
研究の第1(有効性)相のため、全ての加入ネコを日14及び日28の2回の来診時に検査した。検査には、mSBPの測定、完全身体検査、眼底検査、生活の質の評価、及び簡易な臨床病理学(血液学及び性化学)検査を含めた。日28に、アンマスキングを行ない、テルミサルタンに割り当てたネコだけを研究の第2(延長使用)相のため前向きに続けた。これらのネコを日56、84及び120の来診について上述したようにさらに検査した。研究の第2(延長)相中に、上述したように特定ネコについて用量を減らすか又はダウン滴定することができた。特に、(研究のこの第2相では)<160mmHgのSBP測定値を有するネコのテルミサルタンの薬用量を研究者の自由裁量に基づいて1日1回0.5mg/kgという可能な最低用量まで0.5mg/kg減分又は量でダウン滴定する(例えば、2mg/kg→1.5mg/kg→1mg/kg→0.5mg/kg、SIDの段階様式で減らす)ことができた。
【0095】
研究の当初は、テルミサルタン又はプラセボを投与するネコの集団は、テルミサルタン群の189匹のネコ及びプラセボ群の96匹のネコから成った。種々の理由(例えば、200を超えるmSBPを有する、特定の重篤TODを有する、特定のネコは研究を完了しない等)に起因する結果として特定のネコを研究から選別した。研究の最後にテルミサルタン群の174匹のネコ及びプラセボ群の88匹のネコから成る選別集団を利用して両治療相の安全性を評価した。研究の結果は、14日の治療後のプラセボを超えるテルミサルタンの優位性を確証し、さらに28日の治療後のmSBPの臨床的関連低減(20mmHg以上)を実証した。
治療群は、種族、性別、年齢、体重、ベースラインSBP、病歴及び高血圧症の分類に関して均一だった。1群(テルミサルタン及びプラセボ)当たりの各高血圧症分類のネコの数に関するデータを下表17に示す。
【0096】
【0097】
研究中に多種多様の同時薬物を投与したが、120日の治療後にテルミサルタン治療ネコに身体的又は臨床病理学的パラメーターの臨床的関連変化は観察されなかった。両治療群で同様の食欲が観察されたが、日28にはプラセボ群でテルミサルタン治療群より多くのネコが普通の食欲を有した。しかしながら、日-1と28の間にはテルミサルタン群では食欲が増したネコの割合が上昇し、プラセボ群では減少した(プラセボ治療ネコの5.9%に比べて11%のテルミサルタン治療ネコが食欲増大を有した)。全体的に、両治療群及び両治療相にわたって149匹のネコで総計271の有害事象が記録された。有効性相中に、テルミサルタン群では、総計115の有害事象が58匹のネコ(29.9%)についてコード化され、プラセボ群では、総計36の有害事象が29匹のネコ(29%)についてコード化された。下記範疇において群間でいくつかの差異が観察された:腎臓及び泌尿器障害、眼障害、全身性障害及び気道障害。上記障害の差異は、気道障害を除いてネコの集団に典型的に含まれ、種々のまれな医学的状態に関係があった。気道障害に関する2つの群間の差異は、上下の両気道に関連する多数の単発性偶発的障害が原因だった。治療に最も起因し得ると研究者が考えた知見は、胃腸管徴候だった。第2(延長使用)相中に、62匹のネコ(32.0%)は少なくとも1つの有害事象を有した。TODの診断は両治療群で非常に低かった。
テルミサルタン及びプラセボの両群について研究の第1(有効性)相(日14及び日28)におけるSBPの変化に関するデータを下表18に示す(このデータの視覚表示をも図5にプロットする)。
【0098】
表18:第1(有効性)相中の平均SBP変化
【0099】
日14のSBP変化のベースラインと比べた平均差異は、テルミサルタン群では-19.219mmHg、プラセボ群では-9.045mmHgだった。両側不等変数t検定は、p値<0.0001でプラセボに対するテルミサルタンの優位性を実証した。ベースラインSBPと研究来診日28のSBPとの間の平均差異は、テルミサルタン群について-24.629mmHgだった。この値は、治療効果の臨床的関連を実証するために必要とされる20mmHgという最小閾値を超えた。従って、ネコの高血圧症の治療におけるプラセボと比べたテルミサルタンの有効性を実証している。
研究の第2(延長使用)相(日56、日84及び日120)におけるテルミサルタン群のSBPの変化に関するデータを下表19に示す。
【0100】
表19:第2(延長使用)相中のmSBP変化
【0101】
表20に提示するデータは、下記2つの範疇に分けたテルミサルタン群とプラセボ群の両方のネコに関する研究の様々な間隔/期間にわたる平均SBP低減を示す:160~179mmHgであるベースラインmSBP及び180~200mmHgであるベースラインmSBP。
【0102】
表20:下記範疇でのmSBP変化
【0103】
下表21のデータは、mSBP値が160mmHg未満に維持された各群内のネコの数の比較を要約する。
【0104】
表21:mSBP<160mmHgを有するネコの頻度
【0105】
各来診日における各薬用量のネコの数を下表22に示す。
【0106】
表22:テルミサルタン用量の概要
【0107】
図4及び5でプロットしたデータは、ベースライン(この研究の第1相及び第2相のそれぞれについて研究の開始時)からのSBP変化を示す。プロットデータから明らかなように、ベースラインからのSBP変化(SBPの低減による)は、第1相(日14及び日28)においてプラセボ群に対してテルミサルタン群で大きかった。さらに、テルミサルタン群についてSBPの平均変化は、各来診日について20mmHgより大きかった。
第2(延長使用)相は、テルミサルタンによる治療が120日の全研究持続期間にわたって20mmHgを超えるmSBPの持続性臨床関連低減をもたらしたことを指し示す。テルミサルタン治療ネコの62.0%でSBPは正常又は軽度若しくは最小リスクでしかないとみなされるレベル(<160mmHg)に回復し、テルミサルタン治療ネコの21.7%で用量を<2mg/kgにダウン滴定することができた。
この研究の間、ネコについていくつかの他の(SBP測定値に加えて)身体パラメーター(例えば、平均体重、平均心拍数、呼吸数、及び直腸温度)をモニターした。テルミサルタンによる120日の治療後にこれらのパラメーターのいずれにも臨床的に有意な変化は観察されなかった。
結論として、この研究は、全身性高血圧症と診断されたネコにおいて、2mg/kgのテルミサルタン経口溶液による治療は、28日の有効性相内にmSBPを臨床的に意義のある量下げるという点でプラセボより優れていることを明らかにする。テルミサルタン経口溶液によるさらに92日の治療は安全であり、mSBPの臨床的に意義のある低減を維持した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
【手続補正書】
【提出日】2022-03-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネコにおける高血圧症の予防又は治療方法で用いるための、テルミサルタンであるアンジオテンシンII受容体1(AT-1)拮抗薬を含む医薬組成物であって、前記方法は、前記ネコへのテルミサルタンの投与を含み、前記テルミサルタンは、治療期間にわたって変動する1日の薬用量で投与され、前記治療期間中の第1の期間のテルミサルタンの1日の薬用量は1.0~5.0mg/kg(体重)であり、前記テルミサルタンの1日の薬用量は、前記治療期間中の前記第1の期間に続く第2の期間に低減されている、前記医薬組成物。
【請求項2】
前記高血圧症が慢性腎臓病又は甲状腺機能亢進症と関連する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記高血圧症が特発性高血圧症である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記テルミサルタンの1日の薬用量が、前記ネコの収縮期血圧(SBP)測定値に基づいて変動する、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記テルミサルタンの1日の薬用量が、前記第2の期間に0.10~0.50mg/kg(体重)の範囲の増分量で低減されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記ネコの収縮期血圧(SBP)測定値が、前記第1の期間前の該ネコのベースラインSBP測定値に対し、少なくとも10mmHg若しくは少なくとも20mmHg又は10~150mmHg、10~100mmHg、10~80mmHg、10~50mmHg、10~30mmHg、10~20mmHg、20~150mmHg、20~100mmHg、20~80mmHg、20~50mmHg、若しくは20~30mmHg低減すると、前記テルミサルタンの1日の薬用量が低減される、請求項1~5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記ネコの収縮期血圧(SBP)測定値が、前記第1の期間前の該ネコのベースラインSBP測定値から閾値(または閾値以下)に低減すると、前記テルミサルタンの1日の薬用量が低減される、請求項1~6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記閾値が160又は170mmHgである、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記第2の期間の前記テルミサルタンの1日の薬用量が、前記第2の期間後の第3の期間に、前記第2の期間の最後に測定される前記ネコのSBPの変化に基づいて増加されているか又は低減されている、請求項1~8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記治療期間中の第1の期間の前記テルミサルタンの1日の薬用量が2.0~3.0mg/kg(体重)であり、前記第2の期間の前記テルミサルタンの1日の薬用量が0.125~2.0mg/kg(体重)である、請求項1~9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記第1の期間が、少なくとも14日、又は少なくとも28日、又は少なくとも120日である、請求項1~10のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記投与が経口投与である、請求項1~11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記治療期間の少なくとも一部の間の前記テルミサルタンの1日の薬用量が単回投与または複数投与で実現される、請求項1~12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記医薬組成物が液体製剤であり、テルミサルタンの濃度が10mg/mLである、請求項1~13のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記方法が9カ月未満の齢を有するネコへのテルミサルタンの投与を除外するか又は前記テルミサルタンが少なくとも9カ月の齢のネコに投与されるか又は前記テルミサルタンが9カ月以上の齢のネコに投与される、請求項1~14のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【外国語明細書】