(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022075787
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】管継手の軸力測定装置及び軸力測定方法
(51)【国際特許分類】
G01L 25/00 20060101AFI20220511BHJP
G01L 5/00 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
G01L25/00 A
G01L5/00 103B
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022036667
(22)【出願日】2022-02-18
(62)【分割の表示】P 2019127215の分割
【原出願日】2019-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】390039929
【氏名又は名称】三桜工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】郡司 崇浩
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 篤史
(57)【要約】
【課題】管継手の軸力を、締付トルクを基礎とした計算によらずに測定値として直接取得できる管継手の軸力測定装置及び方法を提供する。
【解決手段】軸力測定装置は、管継手Sがねじ込まれるとともにチューブTが結合される試験用部材TMを保持する相手部材保持部103を備える。試験用部材TMは、管継手Sと噛み合う雌ねじ115bが形成されたねじ穴115にて貫かれた第1パーツTMaと、環状部TRが押し付けられる底部116を有する第2パーツTMbとを有する。これらパーツはねじ穴115と底部116とが同心状に突き合わされた状態で保持され、第2パーツTMbはロードセル117を介在させた状態で基準軸線SAx方向に拘束されている。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームと、
管径方向外側に突出する環状部が形成されたチューブに装着されたねじ式の管継手に対する締付操作を行う締付操作部と、
前記管継手がねじ込まれるとともに前記チューブが結合される試験用部材を保持する相手部材保持部とを備え、
前記管継手の中心線及び前記チューブの管軸の方向に延びる基準軸線方向に前記締付操作部と前記相手部材保持部とが並ぶようにして前記フレームに設けられた管継手の軸力測定装置であって、
前記試験用部材は、前記管継手と噛み合う雌ねじが形成されたねじ穴にて貫かれた第1パーツと、前記チューブの前記環状部が押し付けられる底部を有する第2パーツとを有し、
前記相手部材保持部は、前記第1パーツの前記ねじ穴と前記第2パーツの前記底部とが同心状に突き合わされた状態で前記第1パーツ及び前記第2パーツを保持し、
前記第1パーツ又は前記第2パーツのいずれか一方は、前記基準軸線方向に移動不能な状態で前記相手部材保持部にて保持され、
前記第1パーツ又は前記第2パーツのいずれか他方は、前記基準軸線方向の荷重に応じた信号を出力するロードセルを介在させた状態で前記基準軸線方向に拘束されている管継手の軸力測定装置。
【請求項2】
前記相手部材保持部は、前記第1パーツ又は前記第2パーツのいずれか一方を保持するとともに前記フレームに固定された第1冶具と、前記第1パーツ又は前記第2パーツのいずれか他方を保持するとともに前記ロードセルを介在させた状態で前記基準軸線方向に拘束された第2冶具とを有する請求項1の軸力測定装置。
【請求項3】
管径方向外側に突出する環状部が形成されたチューブに装着された状態で試験用部材にねじ込まれるねじ式の管継手に生じる軸力を測定する管継手の軸力測定方法であって、
前記試験用部材として、前記管継手と噛み合う雌ねじが形成されたねじ穴にて貫かれた第1パーツと、前記チューブの前記環状部が押し付けられる底部を有する第2パーツとを、前記チューブの管軸の方向に延びる基準軸線方向に並ぶように配置する工程と、
前記第1パーツの前記ねじ穴と前記第2パーツの前記底部とを同心状に突き合わせた状態で前記第1パーツ又は前記第2パーツのいずれか一方を前記基準軸線方向に移動不能に保持するとともに前記第1パーツ又は前記第2パーツのいずれか他方を前記基準軸線方向に拘束して前記管継手を前記第1パーツにねじ込む工程と、
前記第1パーツ又は前記第2パーツのいずれか他方に働く前記基準軸線方向の荷重を前記管継手の軸力として測定する工程と、
を備える管継手の軸力測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は管継手の軸力測定装置及び軸力測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
規格化されたボルトやナット等のねじ部材の緩み止めや軸力を高める目的で、ねじ部材の表面に潤滑剤や接着剤を塗布したり、めっき等の表面処理を施したりすることが周知である。また、自動車のブレーキチューブ等に使用されるねじ式の管継手に樹脂コーティングを施す技術が知られている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0003】
ねじ部材を相手部材に締結する締付トルクが一定であると、ねじ部材と相手部材との間に働く摩擦力が小さいほど軸力が大きくなる。そこで、ねじ部材に表面処理を施して摩擦力を低下させる。これによって同じ締付トルクで大きな軸力を得ることができる。このことは、規格化されたねじ部材に限らず、ねじ式の管継手も同様である。例えば、管継手は金属製のチューブの結合に使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-230099号公報
【特許文献2】特開2009-299895号公報
【特許文献3】欧州特許出願公開第2706277号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ねじ部材やねじ式の管継手の軸力は締付トルクをトルク係数及びねじの呼び径で除算して算出することが一般的であった。トルク係数は一定ではなく適当な値が経験的に設定されるので計算される軸力は概略値にすぎない。そのため、管継手の軸力を正確に取得するには、管継手の軸力を直接測定できる装置及び方法が必要であった。
【0006】
そこで、本発明の一つの目的は、管継手の軸力を、締付トルクを基礎とした計算によらずに測定値として直接取得できる管継手の軸力測定装置及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の軸力測定装置は、フレームと、管径方向外側に突出する環状部が形成されたチューブに装着されたねじ式の管継手に対する締付操作を行う締付操作部と、前記管継手がねじ込まれるとともに前記チューブが結合される試験用部材を保持する相手部材保持部とを備え、前記管継手の中心線及び前記チューブの管軸の方向に延びる基準軸線方向に前記締付操作部と前記相手部材保持部とが並ぶようにして前記フレームに設けられた軸力測定装置であって、前記試験用部材は、前記管継手と噛み合う雌ねじが形成されたねじ穴にて貫かれた第1パーツと、前記チューブの前記環状部が押し付けられる底部を有する第2パーツとを有し、前記相手部材保持部は、前記第1パーツの前記ねじ穴と前記第2パーツの前記底部とが同心状に突き合わされた状態で前記第1パーツ及び前記第2パーツを保持し、前記第1パーツ又は前記第2パーツのいずれか一方は、前記基準軸線方向に移動不能な状態で前記相手部材保持部にて保持され、前記第1パーツ又は前記第2パーツのいずれか他方は、前記基準軸線方向の荷重に応じた信号を出力するロードセルを介在させた状態で前記基準軸線方向に拘束されている。
【0008】
本発明の軸力測定方法は、管径方向外側に突出する環状部が形成されたチューブに装着された状態で試験用部材にねじ込まれるねじ式の管継手に生じる軸力を測定する管継手の軸力測定方法であって、前記試験用部材として、前記管継手と噛み合う雌ねじが形成されたねじ穴にて貫かれた第1パーツと前記チューブの前記環状部が押し付けられる底部を有する第2パーツとを、前記チューブの管軸の方向に延びる基準軸線方向に並ぶように配置する工程と、前記第1パーツの前記ねじ穴と前記第2パーツの前記底部とを同心状に突き合わせた状態で前記第1パーツ又は前記第2パーツのいずれか一方を前記基準軸線方向に移動不能に保持するとともに前記第1パーツ又は前記第2パーツのいずれか他方を前記基準軸線方向に拘束して前記管継手を前記第1パーツにねじ込む工程と、前記第1パーツ又は前記第2パーツのいずれか他方に働く前記基準軸線方向の荷重を前記管継手の軸力として測定する工程とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】 管継手が装着され曲げ加工された複数のブレーキチューブがアッセンブリされた状態を示した図。
【
図2】 管継手の一例であるフレアナットを示した図。
【
図3】 環状部の一例であるISOフレアが端末に形成されたブレーキチューブを示した図。
【
図4】 相手部材の一例であるマスターシリンダにブレーキチューブが結合された状態を示した図。
【
図6】 樹脂コーティング層の形成方法の概要を示した図。
【
図7】 管継手の他の一例であるフレアナットを示した図。
【
図8】 環状部の他の一例であるダブルフレアが端末に形成されたブレーキチューブを示した図。
【
図9】
図5のブレーキチューブが結合される相手部材の一例であるマスターシリンダの一部を示した断面図。
【
図14A】 評価結果をまとめて合格サンプルと不合格サンプルとを整理した図。
【
図15】 単位面積質量と耐食性との関係を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
一例として、自動車のブレーキチューブは、マスターシリンダで発生した圧力を車輪毎に設けられたブレーキユニットまで伝達する配管として使用される。多くの場合、マスターシリンダからブレーキユニットまでには、ABSユニットやESCユニットが設けられており、ブレーキチューブはこれらユニット間の連結にも使用される。これらユニット間に要求される耐圧条件等の諸条件に合わせて管径の異なる複数のブレーキチューブが選定される。
【0011】
図1に示すように、複数のブレーキチューブBT…は、例えば樹脂製のクランプCによってまとめられ、かつ自動車の底部レイアウトに従ってそれぞれ曲げ加工されたアッセンブリ製品として自動車の組み立てラインに供給される。各ブレーキチューブBTは、ブレーキの作動圧に耐えるため、鋼板等の金属板材を素材とし耐圧強度に優れた二重巻きチューブが使用される。ブレーキチューブの場合、一例として、外径φが4.76~8.00[mm]の範囲内のチューブが選択される。各ブレーキチューブBTには、その外径に適合するフレアナットFN…が装着されている。自動車の組み立てラインでは、作業者は各ブレーキチューブBTに装着されたフレアナットFNを予め規定された共通の締付トルクにて上記各ユニットに対して締結することによりブレーキチューブBTの結合を一括して実施する。
【0012】
各ブレーキチューブBTの端末には、フレアナットFNが装着された状態で高圧用の端末加工が施されている。高圧用の端末加工としては、国際標準化機構(ISO)で規定されたISOフレアや日本自動車技術会規格(JASO)で規定されたダブルフレア等の環状部Rpを形成する端末加工がある。各ブレーキチューブBTはフレアナットFNが外周に装着された状態で環状部Rpを形成する端末加工と曲げ部Bpを形成する曲げ加工が行われる。そのため、フレアナットFNは環状部Rpとその環状部Rpから離れた位置に設けられた曲げ部BpとによってブレーキチューブBTから抜け止めされる。
【0013】
(第1の形態)
図2には、ISOフレアに適したフレアナット1Aが示されている。フレアナット1Aは本発明の軸力測定対象となり得る管継手の一例に相当する。フレアナット1Aはチューブを挿入可能な貫通孔10が形成された中空状の管継手である。フレアナット1Aは雄ねじ12aが形成されたねじ部12と、ねじ部12の一端側に設けられた頭部13と、ねじ部12の他端側に設けられた接触部14とを備える。これら頭部13、ねじ部12及び接触部14は中心線CL1方向に延びる貫通孔10にて貫かれている。図示のフレアナット1Aの貫通孔10は軸方向に一定の内径を有する形状であるが、例えば、貫通孔10の代わりに軸方向の所定箇所で内径が変化する段付き孔形状の貫通孔に変更できる。
【0014】
ねじ部12に形成された雄ねじ12aは、一例として、ISOで規格化されたメートル並目ねじであり相手部材に形成された雌ねじ12b(
図4参照)と噛み合う。もっとも、雄ねじ12aは一例として同規格のメートル細目ねじに変更してもよい。細目ねじは並目ねじに比べてリード角が小さいので、細目ねじに変更することで同一軸力でより緩みにくいフレアナットを提供できる。なお、上述したブレーキチューブBTに適用されるフレアナット1Aのねじ部12のサイズとして、装着するチューブの外径が大きいほど大きなサイズのねじが採用される傾向がある。特殊な事情がない限り、ねじ部12のサイズとしては、呼び径がM10~M14すなわち外径が10.0~14.0[mm]の範囲内であることが一般的である。なお、インチねじをフレアナット1Aに設ける場合は、呼び径が3/8インチ~1/2インチ(約9.53~12.7[mm])の範囲内のねじが採用される。したがって、フレアナット1Aに採用され得る雄ねじ12aは、その外径が9.53~14.0[mm]の範囲内である。
【0015】
頭部13は、締結時に締付トルクが入力される部位であり、フレアナットレンチ等の一般的な工具で締結できるように規格化された六角形状を有する。頭部13のサイズは、ねじ部12のサイズに合わせて選ばれるが、規格化されたボルトの頭部の場合とは異なり、工具の交換回数を削減するためある程度共通化される。
【0016】
接触部14は、中心線CL1に沿った
図2の右側の端部、換言すると締結時における雄ねじ12aの進行方向側の端部に設けられている。接触部14は、相手部材への締結時にISOフレアとして形成された環状部16(
図3参照)に接触しながら、環状部16を相手部材に押し付ける機能を持つ。
図2のフレアナット1Aの場合、接触部14はねじ部12から端部側に延びる円筒部分を含む。接触部14と貫通孔10との境界部には、中心線CL1方向に対して約45°に傾斜する面取り部10aが設けられている。面取り部10aによって、締結時におけるチューブ外装とフレアナット1Aとの干渉や貫通孔10と接触部14との境界部への応力集中が緩和される。なお、面取り部10aは、中心線CL1に関する断面に現れる稜線が直線となる円錐面を有する。この面取り部10aの代わりに、その稜線が中心側に凸となる一又は複数の円弧で描かれた曲線となる曲面を有する加工部に変更してもよい。
【0017】
接触部14の内径は貫通孔10の内径で決まる。接触部14の内径dは、例えば、ブレーキチューブBTの外径φが4.76[mm]の場合は4.98[mm]に、外径φが6.0[mm]の場合は6.24[mm]に、外径φが6.35[mm]の場合は6.59[mm]に、外径φが8.0[mm]の場合は8.29[mm]に、それぞれ設定される。接触部14の内径dは、一例として、+0.15[mm]の誤差が許容される。したがって、フレアナット1Aに採用され得る接触部14は、その内径dが4.98~8.44[mm]の範囲内である。
【0018】
図3に示すように、環状部16はブレーキチューブBTの端末に形成される。その形成手順の一例として、初めにブレーキチューブBTの樹脂被覆層BTaを端末から管軸Tx方向の所定範囲について周方向に亘って剥離し、その後樹脂被覆層が剥離された剥離部分BTbの端末部に対して管軸Txと直交する管径方向外側に突出するISOフレア形状の環状部16を形成する。なお、樹脂被覆層BTaの樹脂材料によっては、樹脂被覆層BTaを剥離せずに、ブレーキチューブBTの端末部に対して環状部16を形成する場合もある。
【0019】
フレアナット1Aの使用例として、
図4を参照しながらマスターシリンダMC1にブレーキチューブBTを結合する場合を説明する。相手部材の一例であるマスターシリンダMC1はハウジング40を有する。ハウジング40にはブレーキチューブBTが挿入される挿入穴41が形成されている。挿入穴41はハウジング40の外部に開口しており、その開口部の反対側はハウジング40に形成された液通路42に連通している。液通路42は挿入穴41の底部43にて開口する。底部43は、ブレーキチューブBTの環状部16の形状に適合するように装置内部側に後退した形状に形成されている。挿入穴41が形成されたハウジング40の内周面には、フレアナット1Aの雄ねじ12aと噛み合う雌ねじ12bが形成されている。
【0020】
まず、フレアナット1Aを端末から離れる方向に移動させた状態で、ブレーキチューブBTの環状部16が挿入穴41の底部43に突き当たるようにしてブレーキチューブBTを挿入する。その状態で、フレアナット1Aを挿入穴16に近づけてねじ部12の雄ねじ12aとハウジング40の雌ねじ12bとを噛合わせる。フレアナット1Aを締結方向に回転させると接触部14が環状部16に接触する。そして、接触部14を環状部16に接触させながらフレアナット1Aを締め付けると、接触部14によって環状部16は底部43に押し付けられる。フレアナット1Aが締め付けられている間、環状部16は接触部14と底部43とに挟まれて弾性変形から塑性変形に移行しながら徐々に変形する。これにより、ブレーキチューブBTはマスターシリンダMC1に対して液密に結合される。ブレーキチューブBTの結合力はこのような締結操作時に働く最大の軸力によって決まる。
【0021】
ブレーキチューブBTを強固に結合させるため、
図5に示すように、フレアナット1Aには締結時の軸力を大きくあるいは安定化させるため樹脂コーティング層18が設けられている。フレアナット1Aは金属素地M1の上に亜鉛系めっき層P1が形成された表面17を有しており、樹脂コーティング層18はその表面17に設けられている。なお、亜鉛系めっき層P1は主として耐食性を向上させるために設けられている。亜鉛系めっき層P1を形成するため、亜鉛めっき、亜鉛鉄合金めっき、または亜鉛ニッケル合金めっきのいずれかを実施してよい。この形態では、亜鉛系めっき層P1として亜鉛ニッケル合金めっき層が設けられている。
【0022】
樹脂コーティング層18は、少なくとも、ねじ部12及び接触部14の各表面を含むコーティング領域R(
図2参照)に形成される。このコーティング領域Rはフレアナット1Aの全表面に設定されている。すなわち、コーティング領域Rはフレアナット1Aのねじ部12、頭部13及び接触部14の各表面並びに貫通孔10にて貫かれたフレアナット1Aの内周面に設定される。樹脂コーティング層18は、ポリエチレン系物質、潤滑物、及び固体粒子を成分として含み、かつ所定の粘度に調整されたコーティング剤Cがコーティング領域Rに付着することにより形成される。ポリエチレン系物質としては、例えば、ポリエチレン又はポリエチレン共重合体を選択できる。潤滑物としては、例えば、ポリエチレンワックス、二硫化モリブデン、グラファイト、若しくは窒化ホウ素のいずれか一つ又はこれらの任意の組み合わせを選択できる。潤滑物は固体でも液体でもよい。また、固定粒子としては、例えば、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、若しくは窒化チタンのいずれか一つ又はこれらの任意の組み合わせを選択できる。
【0023】
なお、亜鉛系めっき層P1に化成処理が施された表面17に対して樹脂コーティング層18が設けられてもよい。換言すれば、亜鉛系めっき層P1と樹脂コーティング層18との間に化成処理層が存在してもよい。これにより、表面17と樹脂コーティング層18との密着性が高まる。化成処理層には、チタン、ジルコニウム、モリブテン、タングステン、バナジウム、マンガン、ニッケル、コバルト、クロム、及び鉛から選ばれる金属原子が含まれてよい。また、これらの金属原子の一部は酸化物等の化合物として化成処理層に含まれてよい。化成処理層はクロムフリー化成処理層でもよい。化成処理層を形成する化成処理工程は、反応型又は塗布型でもよく、三価クロム化成処理でも、クロムフリー化成処理でもよい。なお、樹脂コーティング層18の摩擦係数は亜鉛系めっき層P1又は化成処理層が形成された表面17の摩擦係数よりも小さい。
【0024】
一例として、
図6を参照しながら樹脂コーティング層18の形成方法を説明する。まず、準備工程Aにおいて、上述しためっき処理が施され、かつ樹脂コーティング層18が未形成の未処理ナット1′を準備する。未処理ナット1′は複数個準備してよい。準備した未処理ナット1′を所定サイズの網目を持つ処理用カゴ30に投入する。次のコーティング工程Bは処理用カゴ30に未処理ナット1′が収められた状態で実施される。
【0025】
コーティング工程Bでは、一例としてディップコーティング法が実施される。コーティング工程Bは、コーティング剤Cに未処理ナット1′を浸漬させる浸漬工程b1と、未処理ナット1′に付着したコーティング剤Cを乾燥させる乾燥工程b2とを含む。
【0026】
浸漬工程b1において、コーティング剤Cが所定レベルまで収容された浸漬槽31に対し、その上方から未処理ナット1′が収められた処理用カゴ30を沈める。浸漬槽31は槽内に収容された液体の温度を調整する機能を有する。コーティング剤Cの温度は、一例として、30~40[℃]の範囲内に調整される。浸漬槽31には、被処理物である未処理ナット1′の浸漬によるコーティング剤Cの温度変化を無視できる程度に十分な分量のコーティング剤Cが収容されている。
【0027】
その後、浸漬槽31に沈められた処理用カゴ30を浸漬槽31から引き上げて乾燥工程b2を実施する。乾燥工程b2では、未処理ナット1′が収められた処理用カゴ30を乾燥機32に投入する。乾燥機32は、所定の温度範囲に調整可能な処理空間33と、処理用カゴ30を保持した状態で軸線Axの回りに回転する回転機構34とを有する。乾燥工程b2では、処理空間33内の温度を所定温度に保持したうえで、回転機構34に保持された処理用カゴ30を所定速度で回転させる。回転機構34は回転速度を変更できる。例えば、100~900[rpm]の範囲内で回転速度を調整できる。乾燥機32による処理時間は適宜に設定される。これにより、余分なコーティング剤Cが回転機構34の遠心力で振り切られ、かつコーティング領域Rに付着したコーティング剤Cが乾燥して定着する。この乾燥工程b2の実施によって、樹脂コーティング層18を備えたフレアナット1Aが製造される。
【0028】
フレアナット1Aに設けられた樹脂コーティング層18はその厚さが制御される。後述するように、樹脂コーティング層18の厚さがフレアナット1Aの軸力等の機械的特性に影響する要因であることが分かっている。また、樹脂コーティング層18の厚さがフレアナット1Aの耐食性にも影響があることも分かっている。例えば、粘度調整されたコーティング剤Cを準備し、かつ被処理物の浸漬時におけるコーティング剤Cを温度調整することにより、樹脂コーティング層18の厚さを制御できる。さらに、上述した乾燥工程b2における処理空間33内の温度と回転機構32の回転速度を調整することによって樹脂コーティング層18の厚さを制御できる。つまり、樹脂コーティング層18の厚さを制御するパラメータは、コーティング剤Cの粘度、浸漬時における温度、並びに乾燥時の温度及び回転速度である。なお、樹脂コーティング層18の厚さがフレアナット1Aの部位に関わらずに一様になることがないため、その厚さと相関する物理量として後述する単位面積質量を用いて樹脂コーティング層18の厚さを定量的に制御ないし管理する。
【0029】
(第2の形態)
図7には、ダブルフレアに適したフレアナット1Bが示されている。フレアナット1Bは本発明の軸力測定対象となり得る管継手の一例に相当する。フレアナット1Bはチューブを挿入可能な貫通孔20が形成された中空状の管継手である。フレアナット1Bは雄ねじ22aが形成されたねじ部22と、ねじ部22の一端側に設けられた頭部23と、ねじ部22の他端側に設けられた接触部24とを備える。これら頭部23、ねじ部22及び接触部24は中心線CL2方向に延びる貫通孔20にて貫かれている。フレアナット1Bの場合、貫通孔20は軸方向に一定の内径を有する形状であるが、例えば貫通孔20の代わりに軸方向の所定箇所で内径が変化する段付き孔形状の貫通孔に変更できる。
【0030】
ねじ部22に形成された雄ねじ22aは、第1の形態のフレアナット1Aのねじ部12に設けられた雄ねじ12aと同じ仕様であり、フレアナット1Bとして採用され得る雄ねじ22aは、その外径が9.53~14.0[mm]の範囲内である。また、頭部23の仕様もフレアナット1Aの頭部13の仕様と同じである。接触部24の仕様もフレアナット1Aの接触部14の仕様と同じであり、フレアナット1Bとして採用され得る接触部24は、その内径dが4.98~8.44[mm]の範囲内である。
【0031】
接触部24は、中心線CL2に沿った
図7の右側の端部に、換言すれば締結時における雄ねじ22aの進行方向側の端部に設けられている。接触部24は、相手部材の締結時にダブルフレアとして形成された環状部26(
図8参照)に接触しながら、環状部26を相手部材に押し付ける機能を持つ。フレアナット1Bの場合、接触部24はねじ部22の終端付近に設けられ、フレアナット1Aの接触部14のように明確な円筒部分が存在しない。もっとも、ダブルフレアに適したフレアナットとして、フレアナット1Aの接触部14のような円筒部分を明確に含むものも存在する。接触部24は軸方向に対して約42°の傾斜角を持つ円錐面状の接触面24aを有する。
【0032】
図8に示すように、環状部26はブレーキチューブBTの端末に形成される。その形成手順の一例として、初めにブレーキチューブBTの樹脂被覆層BTaを端末から管軸Tx方向の所定範囲について周方向に亘って剥離し、その後樹脂被覆層BTaが剥離された剥離部分BTbの端末部に対して管軸Txと直交する管径方向外側に突出するダブルフレア形状の環状部26を形成する。なお、樹脂被覆層BTaの樹脂材料によっては、樹脂被覆層BTaを剥離せずに、ブレーキチューブBTの端末部に対して環状部26を形成する場合もある。
【0033】
環状部26が形成されたブレーキチューブBTが結合される相手部材には、
図9に示した構造の挿入穴51が形成される。例えば、挿入穴51は相手部材の一例であるマスターシリンダMC2に形成される。挿入穴51はハウジング50の外部に開口しており、その開口部の反対側はハウジング50に形成された液通路52に連通している。液通路52は挿入穴51の底部53に開口する。底部53は、ブレーキチューブBTの環状部26の形状に適合するように装置外部側に突出した形状に形成されている。挿入穴51が形成されたハウジング50の内周面には、フレアナット1Bの雄ねじ22aと噛み合う雌ねじ22bが形成されている。フレアナット1Bを使用したブレーキチューブBTの結合についてはフレアナット1Aの場合と同様であるため説明を省略する。
【0034】
図10に示すように、フレアナット1Bには、樹脂コーティング層28が設けられている。フレアナット1Bは金属素地M2の上に亜鉛系めっき層P2が形成された表面27を有しており、樹脂コーティング層28はその表面27に設けられている。なお、亜鉛系めっき層P2は主として耐食性を向上させるために設けられている。亜鉛系めっき層P2を形成するため、亜鉛めっき、亜鉛鉄合金めっき、または亜鉛ニッケル合金めっきのいずれかを実施してよい。この形態では、亜鉛系めっき層P2として亜鉛ニッケル合金めっき層が設けられている。第1の形態と同様に、亜鉛系めっき層P2と樹脂コーティング層28との間に化成処理層が存在してもよい。また、第1の形態と同様に、樹脂コーティング層28の摩擦係数は亜鉛系めっき層P2又は化成処理層が形成された表面27の摩擦係数よりも小さい。樹脂コーティング層28の形成方法は
図6に示した形成方法と同じである。
【実施例
】
A:締結試験
【0035】
上述した各フレアナット1A、1Bに対して、同じ締付トルクによる締結とその解除を繰り返すことにより、その繰り返し数の増加に応じて締結時の軸力が低下する傾向があった。そして、以下に説明する締結試験によって、樹脂コーティング層の厚さが軸力低下率に影響する主な要因であることが分かった。なお、締結試験の試験結果に対して、フレアナット1A及びフレアナット1Bの両者に有意な差を見出せなかったため、以下フレアナット1Aについて実施した試験結果を開示する。
【0036】
1.試験サンプル
(1)試験サンプルの準備
図11A及び
図11Bに示したように、4種類のコーティング剤C1~C4を使用し、形状やサイズが異なる3種類のフレアナットのそれぞれに樹脂コーティング層を形成して、これらを合計12種類のグループG1~G12に分類した。樹脂コーティング層の形成方法としては上述したディップコーティング法を採用した。各グループG1~G12には、樹脂コーティング層の厚さが互いに異なる複数個のサンプルが含まれる。上述したように、樹脂コーティング層の厚さを制御するパラメータは、コーティング剤の粘度、浸漬時における温度、並びに乾燥時の温度及び回転速度である。これらの条件を変化させることにより、グループG1~G12毎にコーティング層の厚さが異なる複数のサンプルを準備した。なお、コーティング層の厚さは、その厚さに相関する後述の単位面積質量w[g/m
2]にて定量化した。
【0037】
(2)コーティング剤の粘度測定
コーティング剤の準備にあたり各コーティング剤の粘度を以下の方法で測定した。
【0038】
・使用機器:ISO 2555:1990の規格に準拠した回転粘度計
(機器名:TVB-10M、製造元:東機産業株式会社)
・スピンドル回転速度:60[rpm]
・上記条件で25[℃]における粘度を測定
【0039】
(3)コーティング剤の粘度
コーティング剤C1~C4の25[℃]における粘度は次の通りである。
・コーティング剤C1: 4.51[mPa・s]
・コーティング剤C2: 5.27[mPa・s]
・コーティング剤C3: 4.25[mPa・s]
・コーティング剤C4: 4.24[mPa・s]
(4)コーティング剤の成分
コーティング剤C1~C4のそれぞれは、上述したポリエチレン系物質、潤滑物、及び固体粒子を共通の成分として含有する。
(5)単位面積質量の計算
樹脂コーティング層の厚さはコーティング領域に付着した物質の質量と相関する。そこで、樹脂コーティング層の厚さと相関する物理量として、樹脂コーティング層の有無による質量差をコーティング領域の表面積で除算して得られる値を単位面積質量w[g/m2]と定義した。この単位面積質量wを用いて樹脂コーティング層の厚さを定量化した。
【0040】
単位面積質量wは、樹脂コーティング処理前のフレアナットの質量と樹脂コーティング層形成後のフレアナットの質量との質量差を、フレアナットの全表面積で除算することによって算出した。なお、この方法とは逆に、単位面積質量wは、樹脂コーティング層が形成されたフレアナットの質量と樹脂コーティング層を除去した後のフレアナットの質量との質量差を、フレアナットの全表面積で除算して算出してもよい。樹脂コーティング層の除去方法としては、例えば、樹脂コーティング層が形成されたフレアナットを高温の有機溶剤に浸漬した後に、浸漬後のフレアナットを洗浄用として別途用意した有機溶剤で洗浄して乾燥させる方法がある。フレアナットを浸漬する有機溶剤としては、例えば、ベンゼンやデカリン等のポリエチレンを溶解し得る有機溶剤を用いることができる。この浸漬時間や乾燥時間は、樹脂コーティング処理前のフレアナットと同一視できる程度に設定される。例えば、有機溶剤への浸漬時間を5時間とし、洗浄用の有機溶剤で洗浄後、乾燥時間を1時間としてよい。この処理によって樹脂コーティング層を除去したフレアナットは、樹脂コーティング処理前のフレアナットと同一視できる。
【0041】
フレアナットの全表面積は、フレアナットの設計図面データに基づいてCADソフトウエアに付属する表面積算出機能を用いて算出した。同機能を利用することにより、フレアナットの任意の範囲について表面積を算出できる。
【0042】
なお、CADソフトウエアによって表面積の算出値に若干の差異が生じる場合があるが、その差異は小数点以下2桁で算出する単位面積質量wの算出上は無視できる。また、CADソフトウエアによる算出値と、現物の外形寸法を三次元計測し、その計測データに基づいて算出した算出値との誤差も同様に無視できる程度にすぎない。
【0043】
(6)サンプル番号
図11A及び
図11Bに示すように、各サンプルにはこれらを互いに区別するサンプル番号♯101~#421を付与した。なお、サンプル番号の一桁目の数字はコーティング剤C1~C4の種類に対応して付与されている。
【0044】
2.締結試験方法
(1)軸力測定装置
各サンプルの軸力を測定するために
図12に示した軸力測定装置を使用した。
図12は軸力測定装置100の構成を模式的に示している。軸力測定装置100にはブレーキチューブBTに相当する試験用チューブTがセットされる。試験用チューブTは、その管軸Txと基準軸線SAxとが一致するようにして軸力測定装置100にセットされる。試験用チューブTにはフレアナットのサンプルSが装着されており、試験用チューブTの端末には試験用環状部TRが形成されている。軸力測定装置100は、サンプルSに対して所定の締付トルクに至るまで締付操作を行って試験用チューブTを相手部材に相当する試験用部材TMに結合する。軸力測定装置100は締付操作の過程でサンプルSの軸力や他の物理量を測定する。
【0045】
軸力測定装置100はフレーム101を備え、フレーム101は一例として試験室の床部等に設置される。軸力測定装置100のフレーム101には、サンプルSに対する締付操作を行う締付操作部102と、試験用部材TMを保持する相手部材保持部103と、試験用チューブTを保持するチューブ保持部104とがそれぞれ設けられている。締付操作部102、相手部材保持部103、及びチューブ保持部104は基準軸線SAx方向に並ぶようにしてフレーム101に設けられる。
【0046】
締付操作部102はサンプルSの頭部に嵌め合わされる工具110と、工具110を基準軸線SAxの回りに回転駆動するモータ111と、工具110の駆動抵抗に応じた信号を出力する締付トルクセンサ112とを含む。
【0047】
相手部材保持部103は基準軸線SAx方向に分割された第1冶具103a及び第2冶具103bにて試験用部材TMを保持する。試験用部材TMは基準軸線SAx方向に分割されており、一方の第1パーツTMaが第1冶具103aに、他方の第2パーツTMbが第2冶具103bにそれぞれ保持される。第1パーツTMaはサンプルSの雄ねじと噛み合う雌ねじ115bが形成されたねじ穴115を有する。第2パーツTMbは試験用チューブTの試験用環状部TRが押し付けられる底部116を有する。ねじ穴115と底部116とが同心状に突き合わされると上述した挿入穴41、51に相当する穴形状になる。第1冶具103a及び第2冶具103bは第1パーツTMaのねじ穴115と第2パーツTMbの底部116とが同心状に突き合わされた状態に保持できる。第1冶具103aはフレーム101に固定されている。一方、第2冶具103bは第1パーツTMaと第2パーツTMbとが突き当てられ、かつロードセル117が介在した状態で基準軸線SAx方向に拘束される。
【0048】
チューブ保持部104は、試験用チューブTの端末から所定距離(例えば、0.3[m])に設定された固定位置をクランプする固定機構118と、固定機構118に生じる基準軸線SAx回りのトルクに応じた信号を出力する供回りトルクセンサ119とを備えている。
【0049】
締付操作部101によってサンプルSに対する締付操作が行われると、サンプルSが試験用部材TMの第1パーツTMaに形成された雌ねじ115bに噛み合いながら進み、試験用環状部TRが第2パーツTMbに形成された底部116に押し付けられる。これにより、第1パーツTMa及び第2パーツTMbには、これらを基準軸線SAx方向に互いに引き離す力が作用する。第1パーツTMaはフレーム101に固定された第1冶具103aに保持されることにより基準軸線SAx方向に移動不能な状態となる一方、第2パーツTMbは第2冶具103bに保持されることによりロードセル117を介在させた状態で基準軸線SAx方向に拘束される。したがって、第2パーツTMbに働く荷重はサンプルSの軸力の反力に相当するため、ロードセル117の検出値を軸力の測定値として扱うことができる。つまり、サンプルSの軸力を、締付トルクを基礎とした計算によらずにロードセル117の出力信号に基づいて直接的に測定できる。締付トルクセンサ112、ロードセル117、及び供回りトルクセンサ119の各信号は制御装置120に入力される。制御装置120は、一例としてパーソナルコンピュータでもよい。制御装置120は、各センサからの入力信号に対して所定の処理を実行し、サンプルSに入力した締付トルクに対して軸力及び供回りトルクが対応付けられたデータを測定結果として記憶し、かつ必要に応じて当該測定結果を例えばディスプレイ等の出力手段に対して出力できる。
【0050】
(2)試験方法
図12に示した軸力測定装置100を使用し、未使用の試験用チューブTに未使用のサンプルSを装着して上述した締結操作を行い、その後、締付操作部101にてサンプルの締結を緩めて試験用チューブTの試験用部材TMへの結合を解除する解除操作を行う。なお、ロードセル117の検出値が初期値(例えば、0.0[kN])に復帰することをもって、試験用チューブTの結合が解除されたものと判断した。締付操作部101による締結時の締付トルクは、一例として、12.0[Nm]~22.0[Nm]の範囲内の値、例えば17.0[Nm]に設定した。以上の操作を1回目の締結試験とし、試験用チューブTとサンプルSとを交換せずに締付操作、軸力等の測定及び解除操作を含む締結試験を合計5回繰り返した。各締結試験においては、軸力測定装置100よって軸力と供回りトルクとを測定値として取得して記録した。各締結試験間のインターバルは一例として60[sec]とした。
【0051】
なお、締結試験の繰り返し回数は自動車のブレーキチューブが新車時から廃車時までの期間内で取り外される回数の限界に基づいて定めた。自動車のブレーキチューブが取り外される機会は頻繁にはないが、その取り外し回数を確率変数とした離散確率分布に基づいてその限界を見積った。ここでは、ブレーキチューブが結合される相手部材としてABSユニット、マスターシリンダ及びブレーキユニットの3要素を想定し、これら3要素の故障時にフレアナットを必ず再利用することを前提条件として、3要素の故障発生確率、ブレーキチューブの結合箇所数、新車時から廃車時までの期間の平均値その他のパラメータを考慮した。これにより、ブレーキチューブの取り外し回数が6回又は6回を超えることが無視できるほど低確率と推定された。よって締結試験の繰り返し回数を6回未満の5回とした。
【0052】
(3)軸力低下率
同じフレアナットに対して締結試験を繰り返すことによる軸力変化を評価するパラメータとして、軸力低下率α[kN/回]を以下の式1で定義した。
【0053】
α=-(Fn-F1)/(n-1)……1
【0054】
ここで、F1[kN]は1回目の締結試験で生じる最大軸力である初回軸力である。Fn[kN]はn回目(但し、1<n<6)の締結試験で生じる最大軸力であるn回目軸力である。但し、式1は、n-1回目で生じるn-1回目軸力をFn-1とした場合において、0<Fn<Fn-1が成立することを条件とする。したがって、α>0である。
【0055】
上述したように、この試験では繰り返し回数を6回未満のn=5としたので、軸力低下率αを定義する上記式1は、5回目の軸力をF5とすると以下の式1′に書き換え得る。
【0056】
α=-(F5-F1)/4………1′
【0057】
3.試験結果及び評価
上記要領で実施した締結試験の試験結果を
図13A及び
図13Bに示す。
【0058】
(1)評価基準
各サンプルを、フレアナットの機械的特性に基づく以下の基準a及び基準bにて評価した。
・基準a 初回軸力F1が14.0[kN]未満であること
・基準b 軸力低下率αが1.75[kN/回]未満であること
【0059】
基準aは初回軸力F1の上限値を規定する。この上限値は供回りトルクの上限値に基づいて定めた。供回りトルクの上限値はチューブの強度及び車両の振動を考慮して決定され、一例として1.0[Nm]である。供回りトルクと軸力とは相関し、供回りトルクの上限値に対応する軸力は一意に決定される。その軸力は一例として14.0[kN]である。供回りトルクはチューブに形成された環状部の塑性変形を伴う初回締結時が最大であり、フレアナットの再使用時から低下して再使用の回数によってあまり変化しない傾向があった。したがって、軸力が基準aに適合することにより、再使用時においても供回りトルクが上限値未満になることが保証される。なお、初回軸力F1の下限値は、フレアナットの再使用時に軸力が低下してもチューブに要求される結合力を確保できるように設定される。例えば、初回軸力F1の下限値としては、10.0[kN]が好ましく、11.0[kN]がより好ましく、12.0[kN]がさらに好ましい。つまり、初回軸力F1は、10.0<F1<14.0が好ましく、11.0<F1<14.0がより好ましく、12.0<F1<14.0がさらに好ましい。
【0060】
基準bは軸力低下率αの上限値を規定する。軸力低下率αが一例として1.75[kN/回]以上になると、再使用時において初回締結時と同じ締付トルクにてフレアナットを締結しても軸力の下限値を下回ることが多い。この軸力の下限値はブレーキチューブに要求される結合力の下限値に基づいて設定される。基準bに適合することにより、フレアナットの再使用時に初回締結時と同じ締付トルクで締結しても軸力の下限値を下回ることを回避できる。これにより、フレアナットの再使用時においてもブレーキチューブに要求される結合力を確保できる。なお、軸力低下率αは、α>0であることを条件として、小さければ小さいほどよい。
【0061】
(2)評価結果
評価結果を
図14A及び
図14Bに示す。これらの図では、各サンプルを単位面積質量wが小さいものから大きいものへ順番に並べて、基準a及び基準bの両者に適合した合格サンプルと、これらの基準a及び基準bの少なくとも一方が不適合であった不合格サンプルとをまとめた。なお、
図14A及び
図14Bにおいて、基準a又は基準bに適合した場合を「y」、不適合の場合を「n」とそれぞれ表記した。また、基準a及び基準bの両者に適合した場合を「YES]、基準a及び基準bの少なくとも一方が不適合であった場合を「NO」とそれぞれ表記した。
(3)考察
図14A及び
図14Bから理解できるように、基準a及び基準bの適否はコーティング剤の異同に関わらず単位面積質量wに依存する。単位面積質量wが大きくなるに従って、概ね初回軸力F
1が増加する一方で軸力低下率αが減少する傾向がある。逆に、単位面積質量wが小さくなるに従って、概ね初回軸力F
1が減少する一方で軸力低下率αが増加する傾向がある。単位面積質量wが大きすぎると基準aが不適合となり、単位面積質量wが小さすぎると基準bが不適合となることが判明した。合格サンプルを概観すると、合格サンプルの単位面積質量wは0.79<w<10.07の範囲内となる。初回軸力F
1が小さいほどチューブに必要な結合力を確保しつつチューブへのダメージを低減できる。また、フレアナットの大量生産を考慮した場合、コーティング剤の使用量はできるだけ少ないほうが生産コスト面で有利である。そこで、機械的特性だけでなく、チューブへのダメージ及びフレアナットの生産コストを考慮した場合、単位面積質量wの上限値としては、例えば、9.00[g/m
2]未満が好ましく、7.50[g/m
2]未満がより好ましく、6.00[g/m
2]未満がさらに好ましい。すなわち、単位面積質量wは、0.79<w<9.00が好ましく、0.79<w<7.50がより好ましく、0.79<w<6.00がさらに好ましい。
【0062】
単位面積質量wが上記のいずれかの範囲内であればフレアナットに要求される機械的特性を満足する。しかし、単位面積質量wが小さすぎると、フレアナットの機械的特性を満足するが再使用時におけるフレアナットの耐食性に問題があることが分かった。
【0063】
B:腐食試験
フレアナットの耐食性と単位面積質量wとの関係を腐食試験にて確認した。
【0064】
(サンプルの準備)
寸法及び形状が共通し単位面積質量wが互いに異なる所定個数のフレアナットを準備し、これらのフレアナットに対して上記締結試験を実施し、以下の要領で同試験の試行回数が異なる試験サンプル群を作成した。一例として、上記締結試験を1回試行して試験用チューブから取り外した初回サンプル群と、同試験を3回試行して試験用チューブから取り外した3回目サンプル群と、同試験を5回試行して試験用チューブから取り外した5回目サンプル群とを準備した。また、比較例として、これら試験サンプル群と同じ寸法及び形状を有し単位面積質量wが互いに異なる未使用の比較サンプル群を準備した。
【0065】
(試験方法及び結果)
各試験サンプル群及び比較サンプル群のそれぞれに対して腐食試験を実施した。この試験は、JASO 104-86で規定された塩水噴霧試験に適合する。試験結果をまとめると、耐食性と単位面積質量との間に
図15に示す関係があることが分かった。
図15の縦軸は、試験開始から白錆発生までの時間[hr]でありフレアナットの耐食性を意味する。
図15の横軸は樹脂コーティング層の厚さに相関する単位面積質量wである。
【0066】
(考察)
図15に示したように、全体的な耐食性の傾向として、単位面積質量wが大きいほど耐食性が向上することが分かる。そして、各試験サンプル群と比較サンプル群とを比較すると、単位面積質量wが1.20以下の領域では、各試験サンプル群は比較サンプル群に比べて同程度の単位面積質量wであっても短時間で白錆が発生する傾向がある。つまり単位面積質量wが1.20以下の領域では、再使用によって耐食性が低下する。そして、同領域において各試験サンプル群を互いに比較すると、繰り返し回数が多いほど耐食性が低い傾向がある。これらの傾向は単位面積質量wが0.40~1.00の範囲内において顕著である。
【0067】
一方、単位面積質量wが1.20を超える領域では各試験サンプル群と比較サンプル群とは単位面積質量wに対して耐食性に有意な差がないことが分かる。つまり、単位面積質量wが1.20を超える領域では再使用の回数によって耐食性は変化しない。したがって、単位面積質量wが1.20を超える場合には、フレアナットの再使用時においても初回使用時と同等の耐食性を確保できる。なお、単位面積質量wが1.20を超えれば初回使用時と同等の耐食性を確保できるが、初回使用時と遜色のない耐食性を確実に得るためには単位面積質量wが1.50を超えることが好ましく、1.80を超えることがより好ましく、2.00を超えることがさらに好ましい。
【0068】
C:まとめ
以上の締結試験及び耐食性試験の各試験結果を総合すると、フレアナットに要求される機械的特性を満足させつつ再使用時において初回使用時と同等の耐食性を確保するためには、締結試験によって得られた条件:0.79<w<10.07と、耐食性試験によって得られた条件:1.20<wとを充足する必要がある。したがって、単位面積質量wに関して、少なくとも以下の式2が成立する必要がある。
【0069】
1.20<w<10.07 ……2
【0070】
上記形態から特定可能な発明を以下に開示する。なお、開示発明の理解を容易にするため、上記各形態の説明に用いた参照符号や図番をかっこ内に記載したが、図示した構成の形状や構造等に限定されない。
【0071】
開示発明の軸力測定装置は、フレーム(101)と、管径方向外側に突出する環状部(R)が形成されたチューブに装着されたねじ式の管継手(S)に対する締付操作を行う締付操作部(102)と、前記管継手がねじ込まれるとともに前記チューブが結合される試験用部材(TM)を保持する相手部材保持部(103)とを備え、前記管継手の中心線(CL)及び前記チューブの管軸(Tx)の方向に延びる基準軸線(SAx)方向に前記締付操作部と前記相手部材保持部とが並ぶようにして前記フレームに設けられた軸力測定装置であって、前記試験用部材は、前記管継手と噛み合う雌ねじ(115b)が形成されたねじ穴(115)にて貫かれた第1パーツ(TMa)と、前記チューブの前記環状部が押し付けられる底部(116)を有する第2パーツ(TMa)とを有し、前記相手部材保持部は、前記第1パーツの前記ねじ穴と前記第2パーツの前記底部とが同心状に突き合わされた状態で前記第1パーツ及び前記第2パーツを保持し、前記第1パーツ又は前記第2パーツのいずれか一方は、前記基準軸線方向に移動不能な状態で前記相手部材保持部にて保持され、前記第1パーツ又は前記第2パーツのいずれか他方は、前記基準軸線方向の荷重に応じた信号を出力するロードセル(117)を介在させた状態で前記基準軸線方向に拘束されている軸力測定装置である。
【0072】
この軸力測定装置によれば、チューブに装着された管継手が試験用部材にねじ込まれると管継手が第1パーツの雌ねじに噛み合いながら進み第2パーツに環状部が押し付けられる。これにより、第1パーツ及び第2パーツにはこれらを基準軸線方向に互いに引き離す力が作用する。第1パーツ又は第2パーツのいずれか一方が基準軸線方向に移動不能な状態で保持される一方で、第1パーツ又は第2パーツのいずれか他方がロードセルを介在させた状態で基準軸線方向に拘束されている。そのため第1パーツ又は第2パーツのいずれか他方に作用する基準軸線方向の荷重が管継手の軸力の反力に相当する。したがって、管継手の軸力を、締付トルクを基礎とした計算によらずにロードセルの出力信号に基づいて測定値として直接取得できる。
【0073】
この軸力測定装置の一態様において、前記相手部材保持部は、前記第1パーツ又は前記第2パーツのいずれか一方を保持するとともに前記フレームに固定された第1冶具(103a)と、前記第1パーツ又は前記第2パーツのいずれか他方を保持するとともに前記ロードセルを介在させた状態で前記基準軸線方向に拘束された第2冶具(103b)とを有してもよい。
【0074】
開示発明の軸力測定方法は、管径方向外側に突出する環状部(TR)が形成されたチューブ(T)に装着された状態で試験用部材(TM)にねじ込まれるねじ式の管継手(S)に生じる軸力を測定する管継手の軸力測定方法であって、前記試験用部材として、前記管継手と噛み合う雌ねじ(115b)が形成されたねじ穴(115)にて貫かれた第1パーツ(TMa)と前記チューブの前記環状部が押し付けられる底部(116)を有する第2パーツ(TMb)とを、前記チューブの管軸(Tx)の方向に延びる基準軸線(SAx)方向に並ぶように配置する工程と、前記第1パーツの前記ねじ穴と前記第2パーツの前記底部とを同心状に配置した状態で前記第1パーツ又は前記第2パーツのいずれか一方を前記基準軸線方向に移動不能に保持するとともに前記第1パーツ又は前記第2パーツのいずれか他方を前記基準軸線方向に拘束しておき、前記管継手を前記第1パーツにねじ込む工程と、前記第1パーツ又は前記第2パーツのいずれか他方に働く前記基準軸線方向の荷重を前記管継手の軸力として測定する工程とを備える。
【符号の説明】
【0075】
1A、1B フレアナット(管継手)
10、20 貫通孔
12、22 ねじ部
12a、22a 雄ねじ
14、24 接触部
16 ISOフレア(環状部)
18、28 コーティング層
26 ダブルフレア(環状部)
BT ブレーキチューブ(チューブ)
FN フレアナット
MC1、MC2 マスターシリンダ(相手部材)
R コーティング領域
T 試験用チューブ
TM 試験用部材
TR 試験用環状部