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特開2022-75860インサート成形用機能性偏光素子および機能性偏光レンズ
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  • 特開-インサート成形用機能性偏光素子および機能性偏光レンズ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022075860
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】インサート成形用機能性偏光素子および機能性偏光レンズ
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20220511BHJP
   G02C 7/12 20060101ALI20220511BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20220511BHJP
   G02C 7/00 20060101ALI20220511BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
G02B5/30
G02C7/12
G02C7/10
G02C7/00
G02B5/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045195
(22)【出願日】2022-03-22
(62)【分割の表示】P 2020089356の分割
【原出願日】2020-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】513009336
【氏名又は名称】株式会社タレックス
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】田村 博男
(72)【発明者】
【氏名】和田 憲三
(57)【要約】
【課題】機能性染料の劣化が抑制され、かつ機能性染料を含有する樹脂層が剥離せずレンズに確実に保持されるようにし、レンズを構成する部材の歩留まりや製造効率も改善できるインサート成形用機能性偏光素子とし、または機能性偏光レンズとする。
【解決手段】偏光膜1の凹面側に、透明性接着剤100質量部に対して機能性染料を4~20質量部配合した塗材を塗装及び乾燥させて硬化塗膜2を形成し、偏光膜1の凸面側は透明性接着剤の硬化塗膜3で被覆された偏光素子Aからなるインサート成形用機能性偏光素子とし、これを用いたインサート成形によって得られる機能性偏光レンズとする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光膜の片面又は両面が、透明性接着剤100質量部に対して機能性染料を4~20質量部を含有する硬化塗膜で被覆された偏光素子からなるインサート成形用機能性偏光素子。
【請求項2】
上記透明性接着剤が、ウレタン樹脂系接着剤、アクリル樹脂系接着剤またはエポキシ樹脂系接着剤からなる透明性接着剤である請求項1に記載のインサート成形用機能性偏光素子。
【請求項3】
上記機能性染料が、赤外線吸収性染料、紫外線吸収性染料、特定波長域吸収性染料またはフォトクロミック染料である請求項1または2に記載のインサート成形用機能性偏光素子。
【請求項4】
前記硬化塗膜の厚さが、0.01~0.2mmである請求項1~3のいずれかに記載のインサート成形用機能性偏光素子。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のインサート成形用機能性偏光素子に対し、重ねて一体に樹脂製レンズ基材を設けた機能性偏光レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、偏光眼鏡等の光学レンズの製造に用いられるインサート成形用機能性偏光素子およびこれを用いた機能性偏光レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に偏光レンズは、偏光膜をレンズの表面またはレンズの層状構造の内部に組み込んだ構造を備えており、眼鏡レンズまたはその他の光学部品に広く用いられている。
【0003】
例えば、偏光フィルムとして、ヨウ素系化合物または二色性染料を含浸させたPVAフィルムを一軸延伸し、さらにその両面に保護フィルムを積層した偏光素子を用い、これをレンズの表面に積層し、偏光素子の表面にはハードコートなどのコーティングをすることが知られている(特許文献1)。
【0004】
また、レンズ基材(基礎透明光学素子)と偏光膜を組み込んだ層状構造の偏光光学素子について、前記層状構造に少なくとも一層の感圧接着剤層を備えたものとし、感圧接着剤に、粘着付与剤、柔軟剤、結合剤、酸化防止剤、安定剤、顔料、染料、分散剤および拡散剤を添加可能であることが知られている(特許文献2)。
【0005】
また、偏光フィルムの表裏両面に所定樹脂を主要成分とするレンズ基材層をインサート成形により一体に設けることや、偏光フィルムの両面に赤外線吸収剤を含有する樹脂で被覆した偏光素子と、レンズ度数調整の研削に用いる眼鏡用レンズ基材とを、インサート成形により一体化して偏光眼鏡用レンズを製造すること及びその積層一体化の不確実性が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9-258009号公報
【特許文献2】特開2012-252362号公報(段落[0021])
【特許文献3】特許第6553157号公報(請求項1、段落[0010])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2に記載されているような層状構造では、レンズ基材の表面に感圧接着剤を介して偏光素子を接着すると感圧接着剤が紫外線等で劣化して剥離しやすくなり、また感圧接着剤の粘着性は添加物が多くなると低下するから、染料や顔料の配合量をできるだけ少量に留める必要があり、所期した機能を発揮できるよう充分な量を配合することが困難であった。
【0008】
特に、複数の特定波長吸収域を有する機能性偏光レンズを製造するためには、複数種類の機能性染料を積算して多量に配合する必要があり、そのような多量の機能性染料を配合して、しかも剥離しない層状構造の機能性偏光レンズを得ることは困難であった。
【0009】
また、感圧接着剤は、非乾燥または粘着性のある状態でレンズ基材と接着(粘着)させる必要があるため、特許文献3に記載されているように、偏光素子をインサート成形して偏光眼鏡用レンズを製造する場合においても、偏光素子の表面を被覆する樹脂層として接着剤を採用されることはなかった。
【0010】
このような事情により、偏光レンズに複合的に機能を持たせる場合、接着剤層ではなく、レンズ基材に機能性染料を配合することが行われてきたが、レンズ基材に様々な機能性染料を配合するには、製造工程でレンズ基材成形用の樹脂タンクの洗浄または取り換え作業も必要であり、これらは煩雑な作業であるから、機能性偏光レンズの製造効率の低下や製品の歩留まりを招きやすく、これらの要因の排除と改善が必要であった。
【0011】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決して、機能性染料の劣化が抑制され、かつ機能性染料を含有する樹脂層が使用状態で剥離せずレンズに確実に保持されるようにし、さらにレンズを構成する部材の歩留まりや製造効率も改善できるインサート成形用機能性偏光素子であり、またはこれらの課題を解決できる機能性偏光レンズとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、この発明においては、偏光膜の片面又は両面が、透明性接着剤100質量部に対して機能性染料を4~20質量部配合した硬化塗膜で被覆された偏光素子からなるインサート成形用機能性偏光素子としたのである。
【0013】
上記したように構成されるこの発明のインサート成形用機能性偏光素子は、透明性接着剤を主成分とする硬化塗膜に機能発揮に所要量の機能性染料が、接着剤中に分散して偏光膜と一体に保持されているので、機能性染料には周囲からの熱が接着剤を介して伝わり難く、インサート成形時の機能性染料の熱劣化が抑制される。
【0014】
またレンズ基材の内側にインサート成形された偏光素子は、機能性染料を接着剤に内包された状態に保持されるから、機能性染料が外気に曝されることなく酸化等による劣化も防止される。また同様に、硬化塗膜を形成する接着剤も紫外線などによる劣化を防止されるので、接着力が維持されて耐候性などの耐久性が向上し、レンズ基材に対して機能性偏光素子が剥離し難い。
【0015】
また、このようなインサート成形用機能性偏光素子を用いた偏光レンズは、成形後のコーティング等の処理によって、別途機能性層を設ける必要はなく、インサート成形すると同時に所要の機能性が備わるので、製造効率にも優れた機能性偏光レンズになる。
【0016】
合成樹脂製のレンズ基材に対して接着性の良い上記透明性接着剤としては、ウレタン樹脂系接着剤、アクリル樹脂系接着剤またはエポキシ樹脂系接着剤を採用することが好ましい。
【0017】
このような接着剤に上記所定量を保持可能な上記機能性染料としては、赤外線吸収性染料、紫外線吸収性染料、特定波長域吸収性染料またはフォトクロミック染料を採用することが好ましい。
【0018】
前記特定波長域吸収性染料が、波長域450~500nm、波長域570~610nmおよび波長780nm以上の赤外線波長域から選ばれる1以上の特定波長域吸収性染料であるものを採用すると、ブルーライト遮断性、紫外線吸収性、ハイコントラスト性、赤外線吸収性に優れたインサート成形用機能性偏光素子を構成できる。
【0019】
さらにまた、機能性染料が塗膜層に斑なく均等に含まれ、機能が均質であるように、前記硬化塗膜の厚さが、0.01~0.2mmであることが好ましい。
【0020】
このようなインサート成形用機能性偏光素子を用いてインサート成形することにより、機能性染料を含有する樹脂層を内包し、重ねて一体に樹脂製レンズ基材を設けた機能性偏
光レンズが得られる。
【発明の効果】
【0021】
この発明は、機能性染料を4~20質量%含有する透明性接着剤を主成分とする塗膜で偏光膜を被覆したインサート成形用機能性偏光素子としたので、機能性染料を含有する樹脂層が剥離し難く、また機能性染料の劣化が防止された機能性偏光レンズを調製できるインサート成形用機能性偏光素子となる利点がある。
またこれを用いてインサート成形された機能性偏光レンズは、上記利点を備え、かつ製造効率も改善できるものであり、生産性に優れたものになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1実施形態を説明するインサート成形用機能性偏光素子の断面図
図2】第2実施形態を説明するインサート成形用機能性偏光素子の断面図
図3】第1実施形態をガスケット及びモールドに保持してインサート成形された機能性偏光レンズの断面図
図4】実施例5及び比較例2を分光光度計で測定した分光透過率を示す図表
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明の実施形態を以下に図面を参照して説明する。
図1に示す第1実施形態は、椀状にプレス成形されたポリビニルアルコール(PVA)フィルムからなる偏光膜1の凹面側に、透明性接着剤100質量部に対して機能性染料を4~20質量部配合した塗材を塗装及び乾燥させて硬化塗膜2を形成し、偏光膜1の凸面側は透明性接着剤の硬化塗膜3で被覆されたインサート成形用機能性偏光素子Aとしたものである。
【0024】
図2に示す第2実施形態は、第1実施形態において、椀状の偏光膜1の凹面側に硬化塗膜2を形成した後、凸面側にも同じように機能性染料を含有する硬化塗膜2の形成されたインサート成形用機能性偏光素子Bである。
【0025】
偏光膜(フィルム)は、ポリビニルアルコール(PVA)などの薄いフィルムを3~5倍程度に延伸し、ヨウ素や二色性染料からなる二色性色素を吸着させて結晶構造や分子を配向させたものである。
【0026】
偏光膜(フィルム)1は、その材質がPVAに限定されたものではなく、ポリエチレンテレフタレート(PET)またはPVA製フィルムにトリアセチルセルロースやポリカーボネートなどからなるフィルムを張り合わせた複合フィルム等を用いたものでもよい。
【0027】
一軸延伸されたPVA製などの偏光フィルム1は、メニスカス型のレンズの大きさに合わせて方形状にカットされた後、周知の加圧成形(プレス成形)によって、レンズのカーブ(曲率半径)に沿うように球面形の湾曲面を成形し、さらに硬化塗膜2を被覆してインサート成形に用いる。
【0028】
透明性接着剤としては、偏光膜及びインサート成形に用いるレンズ基材の樹脂と接着可能な透明樹脂を主成分とし、好ましくは硬化後にゴム状弾性体となる性状をもつ接着剤、または前記レンズ基材の樹脂に対する透明な溶剤を主成分とする接着剤などを採用できる。
【0029】
上記接着可能な透明樹脂は、均等膜厚で偏光膜の表面に硬化した状態で非粘着性の弾力性のある軟質または半硬質の樹脂塗膜が形成されるように、偏光膜に対して濡れ性のあるものを採用する。
【0030】
上記透明性接着剤として好ましいものを例示すると、透明な弾性接着剤であることが好ましく、ウレタン樹脂系接着剤、アクリル樹脂系接着剤またはエポキシ樹脂系接着剤が挙げられる。上記弾性接着剤とは、硬化後にゴム状弾性体となる性状をもつ接着剤である。
【0031】
ウレタン樹脂系の弾性のある接着剤としては、主剤及び硬化剤からなる2液反応型または反応性ホットメルト型のポリウレタン系接着剤を採用できる。これらの市販品としては、クライベリットジャパン社製の2液反応型PUR接着剤である商品名VP9446/10、または同社製の反応性ホットメルト接着剤である商品名VP9484/10などが挙げられる。
【0032】
また、アクリル樹脂系の弾性のある接着剤は、レンズ基材のアクリル樹脂に対する溶剤を主成分とする軟質または半硬質の接着剤であり、前記主成分である溶剤としては、ジクロロメタン、ジクロロエタンを含み、また硬化速度を遅らせる調整成分としてエチルアルコールや氷酢酸を添加して用いることもできる。
【0033】
さらにまた、エポキシ樹脂系の弾性のある接着剤としては、例えば透明かつ無溶剤でエポキシ樹脂を主剤として硬化剤を変性脂環式ポリアミンとする反応型のエポキシ樹脂系接着剤である市販品のコニシボンド E70等が挙げられる。
【0034】
この発明に用いる機能性染料としては、赤外線吸収性染料、紫外線吸収性染料または特定波長域吸収性染料またはフォトクロミック染料が挙げられ、さらにはサーモクロミック光吸収剤などであってもよい。
【0035】
紫外線吸収剤は、紫外線波長(100nm~380nm)についての吸収性を有する周知の紫外線吸収剤を使用可能であり、代表例として、以下の化合物を挙げることができる。
(1) 2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン
(2) 4-ドデシロキシ-2-ヒドロキシベンゾフェノン
(3) 2-2´-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン
【0036】
これらの紫外線吸収剤を用いる際には、波長の長いUV-A(315~400nm)と波長の短いUV-B(280~315nm)とそれ以下のUV-C(100~280nm)の全ての紫外線を吸収させることが好ましい。
【0037】
また、赤外線吸収剤は、赤外線波長(780nm~2500nm)について、吸収性を有する周知の赤外線吸収剤を使用可能であり、例えば以下の化合物が挙げられる。
(1) N,N,N´,N´-テトラキス(p-置換フェニル)-p-フェニレンジアミン類、ベンジジン類及びそれらのアルミニウム塩、ジイモニウム塩からなる赤外線吸収剤。
(2) N,N,N´,N´-テトラアリールキノンジイモニウム塩類。
(3) ビス-(p-ジアルキルアミノフェニル)〔N,N-ビス(p-ジアルキルアミノフェニル)p-アミノフェニル〕アミニウム塩。
【0038】
また、特定波長域吸収性染料としては、例えば波長580~585nm近傍付近の特定可視光域を吸収してハイコントラスト性が得られるテトラアザポルフィリン化合物などが挙げられ、その市販品としては、例えば山田化学工業社製:TAP-2、TAP-9などを採用することができる。
【0039】
また、フォトクロミック染料は、フォトクロミック化合物とも称されるものであり、例えば周知のスピロオキサジン系化合物やテトラ(またはヘキサ)ベンゾプロピレン系化合
物が挙げられる。
【0040】
スピロオキサジン系化合物は、短波長の紫外線により耐候性が弱まる傾向が認められるから、微粒子状のスピロオキサジン系化合物を遮光性無機質皮膜で包んで樹脂マトリックス中に分散させることによって耐候性を持たせたものでもよい。
【0041】
また、サーモクロミック光吸収剤は、温度に依存して光吸収性が変化する化合物であり、そのような特性を有するサーモクロミック化合物としては、ロイコ染料及びサーモクロミック液晶が挙げられる。
【0042】
サーモクロミック液晶の具体例としては、ノナン酸コレステリル及びシアノビフェニルが挙げられる。ロイコ染料の具体例としては、スピロラクトン、フルオラン、スピロピラン、フルギド、及びこれらの組み合わせ例が挙げられる。重合可能な混合物に液晶及びロイコ染料をマイクロカプセル化して混合してもよい。
【0043】
上記した赤外線吸収性染料、紫外線吸収性染料または特定波長域吸収性染料またはフォトクロミック染料またはサーモクロミック光吸収剤など機能性塗料の添加量は、前記した透明性接着剤100質量部に対して4~20質量部を配合することが、所期した機能を充分に発揮させるために好ましく、より好ましくは、4.5~20質量部であり、さらに好ましくは5~20質量部である。
【0044】
レンズ基材としては、眼鏡レンズの注型(キャスト)成形可能な樹脂を広く使用可能である。例えば、熱可塑性樹脂として透明性に優れるメチルメタアクリレート樹脂(MMA)やポリカーボネート樹脂(PC)、注型タイプの熱硬化性樹脂の代表的な樹脂であるアリルジグリコールカーボネート(CR-39)や同様の成分が含まれる中屈折率樹脂(例
えば、日本油脂製:コーポレックス、屈折率1.56)、またイソシアネートとポリチオールを化合させた周知の高屈折率樹脂(例えば、三井化学社製:チオウレタン系樹脂MR-
7、屈折率1.67)であるチオウレタン樹脂も代表例として挙げられる。
【0045】
図3に示すように、この発明の機能性偏光レンズを設けるためのインサート成形は、表裏2枚のレンズ基材4,5中に埋め込むように偏光素子Aを配置できる成形手段であり、シリコーン樹脂などの柔軟性のある軟質樹脂で形成された2つの円筒状のガスケット6a、6bの端面同士を対向配置して重ね合わせ、レンズのカーブ(曲率半径)に沿うように球面形に湾曲した円盤状の偏光素子Aの周縁部を、前記端面に挟んで係止して注型成形する。
【0046】
円筒状のガスケット6a、6bには、筒型の壁面を貫通する樹脂注入孔7a、7bが偏光素子Aの両側に開口する位置に形成されており、さらに樹脂注入孔7a、7bの径方向に対向する位置には、壁面を貫通してオーバーフロー孔8a、8bが形成されている。
【0047】
レンズ基材4の表面を形成する凸型面と、レンズ基材5の裏面を形成する凹型面とを対向させて配置した一対のモールド9、10は、それらの周縁部がガスケット6a、6bにそれぞれ液密に嵌め合わされて保持されている。モールド9、10の円筒状のガスケット6a、6bの内側で軸方向に対向する面は、インサートされた偏光素子Aと適当な間隔を空けるように配置されており、ばねクリップ11等の保持具でモールド9、10の表面を挟んで前記間隔は保持されている。
【0048】
好ましくは樹脂注入孔7a、7bを下側に配置し、2つのモールドの対向面の間に形成されるキャビティーを上下方向に縦長に形成すれば、樹脂注入時にガス抜きされ易くなり、注入された樹脂材料には気泡が混じらないようにインサート成形を行いやすくなる。
【0049】
キャビティー内に完全に樹脂材料が充填できた後、加熱養生を行なって、樹脂材料を重合および硬化させることにより、特定の光吸収機能と偏光機能を併有する複合機能性の偏光レンズをインサート成形できる。
【実施例0050】
[実施例1]
ポリビニルアルコール(PVA)フィルムを椀状にプレス成形した偏光膜の凹面側に特定波長域吸収性が備わるように、2液反応型のポリウレタン系で透明性の弾性接着剤(クライベリットジャパン社製:VP9446/10)100質量部に対してハイコントラスト用機能性染料(山田化学工業社製:TAP9)を8質量部配合して溶解した塗材を用意し、これをスプレーコーティングし、乾燥させて厚さ20μmの硬化塗膜を形成した。
【0051】
このように偏光膜の凹面側に非粘着性で弾性のある硬化塗膜を形成した後、その凸面側には前記ポリウレタン系の透明な弾性接着剤のみで前記同様に塗装して硬化塗膜を形成し、偏光素子の両面が弾性接着剤からなる厚さ20μmの硬化塗膜で被覆されたハイコントラスト性のあるインサート成形用機能性偏光素子を製造した。
【0052】
[実施例2]
ポリビニルアルコール(PVA)フィルムを椀状にプレス成形した偏光膜にフォトクロミック機能性が備わるように、2液反応型のポリウレタン系で透明性の弾性接着剤(クライベリットジャパン社製:VP9446/10)100質量部に対して、スピロオキサジン系フォトクロミック化合物(山田化学工業社製:PSP-33)20質量部を配合し溶解した塗材を用意し、これをディップコーティング(浸漬塗装)し、乾燥硬化させて厚さ100μmの硬化塗膜を形成し、偏光膜の両面にフォトクロミック機能性のある非粘着性で弾性のある硬化塗膜を被覆したインサート成形用機能性偏光素子を製造した。
【0053】
[実施例3]
ポリビニルアルコール(PVA)フィルムを椀状にプレス成形した偏光膜の凹面側に特定3波長域に吸収性をもたせるため、ジクロロメタンを主成分とするアクリル系で透明性の弾性接着剤(三陽工業社製:サンボンド)100質量部に対して、ハイコントラスト用機能性染料(山田化学工業社製:TAP9)4質量部、波長473nmに最大吸収波長とするブルーライトカット染料(山田化学社製:FDB006)2質量部、波長754nmに最大吸収波長とする赤外線吸収性染料(山田化学社製:FDN001)1.5質量部を配合して溶解した塗材を用意し、これをスプレーコーティングし、乾燥させて厚さ40μmの弾性のある非粘着性の硬化塗膜を形成した。
【0054】
このように偏光膜の凹面側に硬化塗膜を形成した後、その凸面側には前記アクリル系透明性接着剤のみで前記同様に塗装して乾燥させ、両面が接着剤からなる厚さ40μmの弾性のある非粘着性の硬化塗膜で被覆された偏光素子からなり、3波長域に吸収性のあるインサート成形用機能性偏光素子を製造した。
【0055】
[実施例4]
ポリビニルアルコール(PVA)フィルムを椀状にプレス成形した偏光膜の凹面側に特定2波長域の吸収性が備わるように、ジクロロメタンを主成分とするアクリル系で透明性の弾性接着剤(三陽工業社製:サンボンド)100質量部に対し、ハイコントラスト用機能性染料(山田化学工業社製:TAP9)6質量部、波長473nmに最大吸収波長とするブルーライトカット染料(山田化学社製:FDB006)3質量部を配合して溶解した塗材を用意し、これをスピンコーティングし、乾燥させて非粘着性の厚さ30μmの弾性硬化塗膜を形成した。
【0056】
このように凹面側に硬化塗膜を形成した後、偏光膜の凸面側には前記アクリル系透明性接着剤のみで前記同様にスピンコーティングして乾燥させ、両面が弾性接着剤からなる厚さ30μmの硬化塗膜で被覆された偏光素子からなり、2波長域に吸収性のあるインサート成形用機能性偏光素子を製造した。
【0057】
[比較例1]
アリルジグリコールカーボネート樹脂(CR39)を用いて肉厚10mmの透明レンズを、肉厚8mm~20mmの範囲で種々のカーブ(1カーブ、2カーブ、4カーブ、6カーブ、8 カーブなど)の透明レンズを作製した。
【0058】
次いで、インサート成形用のガラスモールド(雄型と雌型)にガスケットをセットする際に、前記透明レンズをモールドの代用にし、ポリビニルアルコール(PVA)フィルムを椀状にプレス成形して得られた偏光膜の両側約1mmの隙間に、CR39モノマー100質量部に対してハイコントラスト用機能性染料(山田化学工業社製:TAP9)を8質量部配合した成形樹脂材料を注型成形した。
【0059】
このように2回の注型2段成形(2段重合とも呼ばれる)で作製したレンズは、一時的にはきれいに積層一体化されたように見えたが、常温でしばらく放置しておくと凸面層、凹面層および偏光フィルムの層間が簡単に剥離するという実用性の低いものであった。
【0060】
[実施例5、6]
実施例1、2で得られたインサート成形用機能性偏光素子を用いてインサート成形により眼鏡用の機能性偏光レンズ(実施例5,6)を製造した。
【0061】
すなわち、図3に示すように、2つのモールド9、10の対向面の間に形成されたキャビティーは、一対の円筒型ガスケット6a、6bの対向する端面に挟まれて固定された機能性偏光素子Aで2分割されており、実施例1または実施例2の機能性偏光素子AまたはBの両側に形成された各キャビティーに対し、樹脂注入孔7a、7bからポリウレタン系樹脂材料(ポリイソシアネートとポリヒドロキシ化合物を反応させたプレポリマーに硬化剤として芳香族ポリアミン(MOCA)を添加したもの)を注入し、40℃で3時間維持した後、徐々に加熱して昇温し、100℃で24時間キュアした後、冷却して前記モールドから取り出し、眼鏡用の機能性偏光レンズを得た。
【0062】
[比較例2]
実施例5において、実施例1で得られた機能性偏光素子を用いてインサート成形することに代えて、ヨウ素を吸着させたポリビニルアルコール(PVA)フィルムを椀状にプレス成形したヨウ素系の偏光膜を用い、さらにインサート成形に用いるポリウレタン系樹脂材料に対して、ハイコントラスト用機能性染料(山田化学工業社製:TAP9)を実施例1で用いた量と同量添加したこと以外は、実施例5と同様に作製して眼鏡用の機能性偏光レンズを得た。
【0063】
[実施例7、8]
実施例3、4で得られたインサート成形用機能性偏光素子を用い、実施例5、6と同様にインサート成形して眼鏡用の機能性偏光レンズを製造した。
【0064】
実施例5、6において、ポリウレタン系樹脂材料の注入工程に代えて、実施例3または実施例4の機能性偏光素子BまたはAの両側に形成されたキャビティーにアリルジグリコールカーボネート樹脂(CR39)を注入し、30℃で7時間維持した後、徐々に加熱して昇温し、80~100℃で8時間キュアし、冷却して前記モールドから取り出し、機能
性眼鏡用偏光レンズを得た。
【0065】
実施例5-8で得られた機能性眼鏡用偏光レンズは、いずれもレンズ基材には各種の機能性染料を添加する必要がないため、注型成形作業も簡単に行なうことができ、生産性に優れた機能性偏光レンズであった。また機能性染料を含有する樹脂層がレンズ基材に内包されているために、感圧接着剤が紫外線等で劣化し難く、耐候性も改良されており、構造上、機能性染料の劣化や層間剥離も防止されたものであった。
【0066】
また、実施例5及び比較例2の機能性眼鏡用偏光レンズについて、分光透過率を分光光度計(日立製作所社製:U-2000スペクトロフォトメーター)で測定し、波長200~1100nmについて、波長と透過率との関係を図4に示した。
【0067】
図4に示された結果からも明らかなように、実施例5の機能性眼鏡用偏光レンズは、比較例2に比べて585nm付近の最大吸収波長が、5nm程度、短波長側に寄っていること、及び比較例2に比べて透過率が高くなり透明性が高いことから、インサート成形時の機能性染料の劣化が抑制されていることが分かる。
【符号の説明】
【0068】
1 偏光膜
2、3 硬化塗膜
4、5 レンズ基材
6a、6b ガスケット
7a、7b 樹脂注入孔
8a、8b オーバーフロー孔
9、10 モールド
11 ばねクリップ
図1
図2
図3
図4