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特開2022-75862光刺激による脳波及び細胞活性制御装置及び方法、並びに脳機能を改善、予防又は増大する装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022075862
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】光刺激による脳波及び細胞活性制御装置及び方法、並びに脳機能を改善、予防又は増大する装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/06 20060101AFI20220511BHJP
   A61M 21/00 20060101ALI20220511BHJP
   A61M 21/02 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
A61N5/06 B
A61M21/00 Z
A61M21/02 B
A61M21/02 H
A61N5/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045285
(22)【出願日】2022-03-22
(62)【分割の表示】P 2019565489の分割
【原出願日】2019-08-01
(31)【優先権主張番号】P 2018145270
(32)【優先日】2018-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】513077162
【氏名又は名称】株式会社坪田ラボ
(71)【出願人】
【識別番号】000002912
【氏名又は名称】住友ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】早野 元詞
(72)【発明者】
【氏名】坪田 一男
(57)【要約】
【課題】バイオレットライト等の特定波長の光を常灯又は特定の点滅周波数で照射した光刺激による脳波及び細胞活性制御装置及び方法、並びに脳機能の改善、予防又は増大装置を提供する。
【解決手段】特定波長の光を常灯又は特定の点滅周波数で被験者に照射して脳波制御又は細胞活性制御を行う装置であって、前記特定波長の光を常灯又は特定の点滅周波数で照射する光源と、前記光を受けた前記被験者の脳波が前記光の照射状態と同じ若しくは略同じ又は異なる特定の脳波を誘導する光を発光制御する制御部とを有する、ことを特徴とする光刺激による脳波及び細胞活性制御装置特によって上記課題を解決する。このとき、光はバイオレットライトであり、光の照射状態が、常灯又は0Hz超~150Hzの点滅周波数であることが好ましい。
【選択図】図2


【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定波長の光を常灯又は特定の点滅周波数で被験者に照射して脳波制御又は細胞活性制御を行う装置であって、前記特定波長の光を常灯又は特定の点滅周波数で照射する光源と、前記光を受けた前記被験者の脳波が前記光の照射状態と同じ若しくは略同じ又は異なる特定の脳波を誘導する光を発光制御する制御部とを有する、ことを特徴とする、光刺激による脳波及び細胞活性制御装置。
【請求項2】
前記光がバイオレットライトである、請求項1に記載の脳波及び細胞活性制御装置。
【請求項3】
前記光の照射状態が、常灯又は0Hz超~150Hzの点滅周波数である、請求項1又は2に記載の脳波及び細胞活性制御装置。
【請求項4】
前記光を、放射照度で0.5~1000μW/cmの範囲内で照射する、請求項1~3のいずれか1項に記載の脳波及び細胞活性制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、携帯端末等の隔離コントローラーとの間の送受信により、前記光の照射状態(常灯又は点滅周波数を含む。)、放射照度、照射時間、照射開始時間、照射終了時間、常灯又は点滅周波数等の照射条件を変更して実行する、請求項1~4のいずれか1項に記載の脳波及び細胞活性制御装置。
【請求項6】
前記光源は、光源付きめがね、卓上光源、移動体端末装着光源等の顔前又は近傍設置型の光源である、請求項1~5のいずれか1項に記載の脳波及び細胞活性制御装置。
【請求項7】
前記光源は、携帯光源等の非設置型光源、又は、室内照明、卓上スタンド、専用装置等の設置型光源である、請求項1~5のいずれか1項に記載の脳波及び細胞活性制御装置。
【請求項8】
特定波長の光を常灯又は特定の点滅周波数で被験者に照射して脳波制御又は細胞活性制御を行う方法であって、前記光を受けた前記被験者の脳波が前記常灯又は特定の点滅周波数と同じ又は略同じ又は異なる特定の脳波を誘導する光を発光制御する、ことを特徴とする、光刺激による脳波及び細胞活性制御方法。
【請求項9】
バイオレットライト又は白色光を常灯又は特定の点滅周波数で被験者に照射して脳機能を改善、予防又は増大する装置であって、前記バイオレットライト又は白色光を発光する光源と、前記バイオレットライト又は白色光を常灯又は特定の点滅周波数とする発光周期制御部と、前記バイオレットライト又は白色光を特定の時間又は特定の期間照射する発光時間制御部と、を備え、鬱の改善又は予防、ストレスの抑制又は予防、集中力の改善又は増加、アルツハイマー病の改善又は予防、睡眠改善等をから選ばれるいずれか1又は2以上の目的で使用される装置である、ことを特徴とする、脳機能改善、予防又は増大装置。
【請求項10】
バイオレットライト又は白色光の常灯光を被験者に照射して認知機能を改善又は予防する装置であって、前記バイオレットライト又は白色光を発光する光源と、前記バイオレットライト又は白色光を特定の時間又は特定の期間照射する発光時間制御部と、を備える、ことを特徴とする、脳機能改善又は予防装置。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオレットライト等の特定波長の光を特定の点滅周波数で照射した光刺激による脳波及び細胞活性制御装置及び方法、並びに脳機能を改善、予防又は増大する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光の人体への影響は、近年、様々な観点から検討され、新たな知見に基づいて報告されている。例えば、太陽光を浴びることによりサーカディアンリズムが改善すること(非特許文献1)、LED照明やLEDをバックライトに使用した液晶ディスプレイ等から発する光が身体や心に大きく影響すること(非特許文献2)、バイオレットライトが近視の予防及び近視の発症を抑制すること(特許文献1)等が報告されている。特に最近、本発明者らは、バイオレットライトが眼に及ぼす影響についての興味ある報告をしており、例えば特許文献1及び非特許文献7には、特定波長の光が近視予防と近視抑制に効果的であることが提案され、近視の人口が依然として世界的に増えている近年、大きな期待が寄せられている
【0003】
また、各種の治療技術の研究開発も活発であり、特に薬を使用せず又はその使用を減らすことができ、身体への負荷を減らした治療技術の研究開発が行われている。本発明者らは、バイオレットライト等の特定波長の光を治療に応用する研究開発を行っている。その一例として、角膜上皮の剥離を伴うとともに高い放射照度でUVA照射する従来の侵襲的角膜クロスリンキングでの課題を解決し、医療機関で一定時間拘束された状態で処置を受けなくても、角膜上皮を剥離せずに日常生活の中での処置を可能にした非侵襲的角膜・強膜強化装置及び方法を提案している(未公開特許)。
【0004】
なお、特許文献2及び非特許文献4には、アルツハイマー病のマウスを使った研究において、ガンマ波の振動の同調を脳内で回復させると、脳内に蓄積されていたアミロイドβタンパク質が除去されることが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】羽鳥 恵、坪田一男、アンチ・エイジング医学-日本抗加齢医学会雑誌、Vol.11、No.3、065(385)-072(392),(2015)
【非特許文献2】坪田一男、「ブルーライト 体内時計への脅威」、集英社、2013年11月20日発行
【非特許文献3】Hidemasa Torii et al., EBioMedicine, 「DOI:http://dx.doi.org/10.1016/j.ebiom.2016.12.007」.
【非特許文献4】NATURE,Vol.540,8,DECEMBER 2016,p.231~235.
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2015/186723 A1
【特許文献2】US2017/0304584 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、発明者らがバイオレットライトの点滅周波数での照射が脳波に影響を生じさせていることを見いだし、その知見に基づいてさらに検討しで得られた成果であって、その目的は、バイオレットライト等の特定波長の光を常灯又は特定の点滅周波数で照射した光刺激による脳波及び細胞活性制御装置及び方法を提供することにある。
【0008】
また、本発明の目的は、バイオレットライトや白色光を常灯又は特定の点滅周波数で照射して、鬱の改善又は予防、ストレスの抑制又は予防、集中力の改善又は増加、アルツハイマー病の改善又は予防、認知機能の改善又は予防をする装置を提供すること、言い換えれば、脳機能を改善、予防又は増大する装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る光刺激による脳波及び細胞活性制御装置は、特定波長の光を常灯又は特定の点滅周波数で被験者に照射して脳波制御又は細胞活性制御を行う装置であって、前記特定波長の光を常灯又は特定の点滅周波数で照射する光源と、前記光を受けた前記被験者の脳波が前記光の照射状態と同じ若しくは略同じ又は異なる特定の脳波を誘導する光を発光制御する制御部とを有する、ことを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、光を受けた被験者の脳波が光の照射状態(常灯又は特定の点滅周波数)と同じ又は略同じとなるので、光の照射状態を制御することによって、脳に様々な刺激を付与することができ、又は体内の細胞活性を高めることができる。特に点滅周波数等を照射した場合は、照射した光の照射状態と同じ又は略同じ又は異なる特定の脳波を誘導することができるので、脳に対する刺激状態をコントロールすることができ、それに起因した様々な心身改善効果や治療効果に応用できる。
【0011】
本発明に係る脳波及び細胞活性制御装置において、前記光がバイオレットライトである。この発明によれば、可視光領域外波長のバイオレットライトを被験者に照射できるので、白色光のようなちらつきや眩しさを感じることなく、光の点滅周波数と同じ又は略同じ又は異なる特定の脳波を誘導することができる。なお、バイオレットライトは360~400nmの波長光であり、その波長光は白色光に比べて視覚感度が低く、被験者にとって違和感を感じない又は感じにくい波長域である。
【0012】
本発明に係る脳波及び細胞活性制御装置において、前記光の照射状態が、常灯又は0Hz超~150Hzの点滅周波数である。この発明によれば、こうした照射状態と同じ又は略同じ又は異なる特定の脳波を誘導することができる。
【0013】
本発明に係る脳波及び細胞活性制御装置において、前記光を、放射照度で0.5~1000μW/cmの範囲内で照射する。この発明によれば、上記放射照度の範囲内でバイオレットライト等を照射することができるので、脳波の周波数やその発生部位を任意にコントロールすることができる。特に微量の弱い光(光感度の弱い光)であっても上記特徴的な現象が生じていることが確認されており、脳への影響や細胞活性(遺伝子発現制御も含む。)への応用が期待できる。
【0014】
本発明に係る脳波及び細胞活性制御装置において、前記制御部は、携帯端末等の隔離コントローラーとの間の送受信により、前記光の照射状態(常灯又は点滅周波数を含む。)、放射照度、照射時間、照射開始時間、照射終了時間、常灯又は点滅周波数等の照射条件を変更して実行する。この発明によれば、上記した様々な照射条件を隔離コントロールするので、所望の脳波や細胞活性を生じさせるのに適した照射条件に任意に設定して、所望の効果を得ることができる。さらに、特定波長光の点滅周波数等での照射が、脳波や細胞活性にどのように影響し、心身への影響がどの程度になるかを測定評価し、実用に適用することができる。
【0015】
本発明に係る脳波及び細胞活性制御装置において、前記光源は、光源付きめがね、卓上光源、移動体端末装着光源等の顔前又は近傍設置型の光源であることが好ましい。この発明によれば、装着が容易で日常的に違和感のない光源付きめがね等の顔前又は近傍設置型の光源から特定の光を照射できるので、実用性が高く、様々な場面や環境でも常時照射することができる。
【0016】
本発明に係る脳波及び細胞活性制御装置において、前記光源は、携帯光源等の非設置型光源、又は、室内照明、卓上スタンド、専用装置等の設置型光源としてもよい。この発明によれば、使用環境に応じた種々の光源形態の装置とすることができる。
【0017】
(2)本発明に係る光刺激による脳波機能制御方法は、特定波長の光を常灯又は特定の点滅周波数で被験者に照射して脳波制御又は細胞活性制御を行う方法であって、前記光を受けた前記被験者の脳波が前記常灯又は特定の点滅周波数と同じ又は略同じ又は異なる特定の脳波を誘導する光を発光制御する、ことを特徴とする。
【0018】
(3)本発明に係る脳機能の改善、予防又は増大装置は、バイオレットライト又は白色光を常灯又は特定の点滅周波数で被験者に照射して脳機能を改善、予防又は増大する装置であって、前記バイオレットライト又は白色光を発光する光源と、前記バイオレットライト又は白色光を常灯又は特定の点滅周波数とする発光周期制御部と、前記バイオレットライト又は白色光を特定の時間又は特定の期間照射する発光時間制御部と、を備え、鬱の改善又は予防、ストレスの抑制又は予防、集中力の改善又は増加、アルツハイマー病の改善又は予防、睡眠改善等をから選ばれるいずれか1又は2以上の目的で使用される装置である、ことを特徴とする。
【0019】
(4)本発明に係る脳機能の改善又は予防装置は、バイオレットライト又は白色光の常灯光を被験者に照射して認知機能を改善又は予防する装置であって、前記バイオレットライト又は白色光を発光する光源と、前記バイオレットライト又は白色光を特定の時間又は特定の期間照射する発光時間制御部と、を備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、バイオレットライト等の特定波長の光を常灯又は特定の点滅周波数で照射して、その照射状態と同じ又は略同じ又は異なる特定の脳波を被験者に生じさせる脳波及び細胞活性制御装置及び方法を提供することができる。特に光を受けた被験者の脳波を、光の照射状態と同じ又は略同じ又は異なる特定の脳波を誘導することができる点に特徴があり、心身や脳に様々な刺激を与えることができる。
【0021】
本発明によれば、バイオレットライトや白色光を被験者に照射する装置により、鬱の改善又は予防、ストレスの抑制又は予防、集中力の改善又は増加、アルツハイマー病の改善又は予防、認知機能の改善又は予防、さらには睡眠改善等を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】脳の各部の説明図である。
図2】(A)は10Hzの点滅周波数のバイオレットライト照射により後頭葉で10Hz波が発生している結果であり、(B)は60Hzの点滅周波数のバイオレットライト照射により後頭葉で60Hz波が発生している結果である。
図3】(A)は10Hzの点滅周波数のバイオレットライト照射により前頭葉で10Hz波が発生している結果であり、(B)は60Hzの点滅周波数のバイオレットライト照射により前頭葉で60Hz波が発生している結果である。
図4】(A)は10Hzの点滅周波数のバイオレットライト照射により前頭葉で60Hz波が発生しなかった結果であり、(B)は60Hzの点滅周波数のバイオレットライト照射により前頭葉で10Hz波が発生しなかった結果である。
図5】バイオレットライトを照射するバイオレットライトめがねの一例である。
図6】紫色蛍光灯の光の分光放射照度と波長との関係を示すグラフである。
図7】ピーク波長が375nmのLEDの光スペクトラムである。
図8】一般的な脳波の説明図である。
図9】快眠度に貢献する要素の分析結果である。
図10】快眠度を減少する要素の分析結果である。
図11】快眠度に貢献する他の要素の分析結果である。
図12】(A)は、リポ多糖を用いた鬱の誘導と、VLの40Hz周波数刺激による鬱の改善の評価結果であり、(B)は、CUMSを用いた鬱の誘導と、VLの常灯又は40Hz周波数刺激による鬱の改善の評価結果である。
図13】(A)は計測箇所である左前頭前野Fp1(国際10-20法)の説明図であり、(B)は計測時間を30分間(1800秒)とし、その前後を1分間の安静時間とする説明図である。
図14】パワースペクトルの有意差の検定結果である。
図15】40Hzの周波数刺激によるストレスの抑制効果を示す結果である。
図16】各条件での刺激に対するストレス値の平均値を示すグラフである。
図17】40Hz周波数刺激によるリン酸化タウの減少の結果である。
図18図17と同様の40Hz周波数刺激によるリン酸化タウの減少の結果である。
図19】CFCテストにて行った恐怖記憶の評価結果である。
図20】常灯白色光刺激又は常灯VL刺激を与えた後、Barnes maze(バーンズ迷路)によって空間記憶を評価した結果である。
図21】常灯VL刺激を与えた後、running wheelを用いて活動量を評価した結果である。
図22】VL常灯刺激が与える遺伝子発現の変化を示すグラフである。
図23】VL常灯刺激が与える他の遺伝子発現の変化を示すグラフである。
図24】VL常灯刺激が与えるさらに他の遺伝子発現の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る光刺激による脳波及び細胞活性制御装置及び方法、並びに脳機能の改善、予防又は増大装置について図面を参照しつつ説明する。本発明は、以下の実施形態及び実施例の内容に限定されず、本発明の要旨を包含する範囲で種々の変形例や応用例を含む。
【0024】
[光刺激による脳波及び細胞活性制御装置]
本発明に係る光刺激による脳波及び細胞活性制御装置は、特定波長の光を常灯又は特定の点滅周波数で被験者に照射して脳波制御又は細胞活性制御を行う装置であって、前記特定波長の光を常灯又は特定の点滅周波数で照射する光源と、前記光を受けた前記被験者の脳波が前記光の照射状態と同じ若しくは略同じ又は異なる特定の脳波を誘導する光を発光制御する制御部とを有する、ことを特徴とする。また、光刺激による脳波機能制御方法についても、特定波長の光を常灯又は特定の点滅周波数で被験者に照射して脳波制御又は細胞活性制御を行う方法であって、前記光を受けた前記被験者の脳波が前記光の照射状態と同じ又は略同じ又は異なる特定の脳波を誘導する光を発光制御する、ことを特徴とする。
【0025】
この脳波及び細胞活性制御装置は、光を受けた被験者の脳波が光の照射状態と同じ又は略同じ又は異なる特定の脳波を誘導するので、光の照射状態を制御することによって、脳に様々な刺激を付与することができ、又は体内の細胞活性を高めることができる。特に点滅周波数等を照射した場合は、照射した光の照射状態と同じ又は略同じ状態の脳波やその照射状態と異なる特定の脳波を生じさせることができるので、脳に対する刺激状態をコントロールすることができ、それに起因した様々な心身改善効果や治療効果に応用できる。なお、こうした点滅周波数等の照射状態の光の照射とともに、音、振動、磁界、電場等を併せて付与することもでき、両者の複合的な作用を生じさせることができる。
【0026】
図8に一般的に理解されている脳波分類を示している。脳内では神経回路を介して電気的振動(脳波)が生じ、そうした脳波は、一般には、約4Hz以下のデルタ波、約4~7Hzのシータ波、約8~13Hzのアルファ波、約14~30Hzのベータ波、約30Hz以上のガンマ波に分類される。
【0027】
後述の実験では10Hzと60Hzの点滅周波数を例として実験しており、その範囲は、アルファ波とガンマ波の範囲ということができる。一般には、アルファ波は心身がリラックス時に発生する脳波といわれ、ガンマ波は興奮時に発生する脳波といわれている。本発明では、こうした脳波を照射した光の点滅周波数と同じ又は略同じ周波数の脳波を被験者に生じさせることができる。また、異なる特定の脳波を誘導することもできる。
【0028】
本発明では、照射光の点滅周波数と同じ又は略同じ周波数の脳波又は異なる特定の周波数の脳波を誘導することができる点に顕著な特徴があり、そうした脳波の発生を光照射条件によってコントロールすることで、上記した脳波に基づいた心身作用、例えば感情、意欲、記憶、集中、リラックス、高揚、覚醒、眠り、睡魔、睡眠導入、夢を見ること、等を被験者に付与することができる。現時点でも、人の実験によって、睡眠改善、リラックス、夢を見ること(夢はノンレム睡眠直前の記憶形成に有効)等、種々の点で結果が得られている。さらに、脳波に基づく細胞活性作用や疾病への作用、例えば、脳内伝達物質の変動、体内分泌の変動、タンパク質への影響、アルツハイマー病、脳機能障害、網膜の加齢黄斑変性、依存症、うつ病、解離性障害、強迫性障害、睡眠障害、摂食障害、双極性障害(躁うつ病)、適用障害、結合失調症、認知症、パーソナリティ障害、発達障害、パニック障害、PTSD、性同一性障害、てんかん等や、細胞活性に作用することが大いに期待され、様々な心身又は身体作用(治療効果を含む。)に影響させることが期待される。
【0029】
[光刺激による脳波の発生]
図2図4は、光を点滅照射したときの脳波を測定したものである。図2(A)及び図3(A)に示すように、10Hzの点滅周波数でバイオレットライトを照射することにより、後頭葉と前頭葉で10Hz波が発生している結果が得られた。また、図2(B)及び図3(B)に示すように、60Hzの点滅周波数でバイオレットライトを照射することにより、後頭葉及び前頭葉で60Hz波が発生している結果が得られた。一方、図4では、10Hzの点滅周波数でバイオレットライトを照射した際、前頭葉で60Hz波は発生せず、60Hzの点滅周波数でバイオレットライトを照射した際も、前頭葉で10Hz波は発生しなかった。これらの結果は、照射光の点滅周波数と同じ又は略同じ周波数の脳波が発生するという極めて驚くべき現象を示している。しかも、この実験では、弱い光(低い放射照度)で眩しくなく邪魔感が白色光に比べて小さいバイオレットライトを点滅照射しているので、白色光等の可視光の場合にしばしば起こる眩しさや邪魔感やちらつき感がなく、特に点滅周波数を点滅が気にならない程度に上げることで、日常生活での使用に耐える実用性を備えるという結果が得られている。
【0030】
図2図4の測定で使用した光源、照射条件、脳波測定等を以下に説明する。
【0031】
光源は、図2図4の実験例では最大出力310μW/cmの放射照度の375nmLEDをフレームに取り付けためがね(図5参照)を使用した。このLEDは、図7に示すスペクトル波長を示すものであり、360~400nmで定義されるバイオレットライトを発光する。この光源は、上記最大出力以下の範囲で出力調整できる制御部(電子回路部)を有している。また、点滅周波数も任意に可変できる機能を備えており、0(「常灯」のことである。直流光)~150Hzの範囲でバイオレットライトを発光させることができる。この実験での照射条件は、点滅周波数として10Hzと60Hzで行った。なお、使用した光源では、点滅周波数のデューティー比は50%としている。
【0032】
検査方法は、安静覚醒閉眼時(Awakerecord)での開閉眼試験を以下の順で行った。(1)光源付きめがね(以下単に「めがね」という。)をかけずに安静時における閉眼時とまばたき時の筋電図をとり、どれが脳波かを調べた。(2)その後、めがねをかけずにまばたきも自然に行う通常状態で5分間脳波を測定した。(3)その後、めがねをかけて点滅周波数10Hzのバイオレットライトを眼に5分間照射しつつ脳波を測定した。(4)その後、点滅周波数60Hzに変更したバイオレットライトを眼に5分間照射しつつ脳波を測定した。なお、脳波測定は、脳波計(日本光電工業株式会社製、EEG-1200シリーズモデル)で行った。
【0033】
図2図4の結果より、バイオレットライトの周波数を10Hzから60Hzに変えると、変更に追従して、脳波も10Hzから60Hzになっていた。また、脳波の光周波数への追従は、後頭葉だけでなく前頭葉でも起こっていることがわかり、バイオレットライトの照射で生じる脳波が周波数依存的であることがわかった。
【0034】
なお、図9図11は、本発明者が、光源を有するめがね(図5)を必要に応じて装着して日常生活を送っている場合のアプリケーションソフトでのデータである。図9及び図11は、バイオレットライトの点滅周波数を10Hz、40Hz、60Hzで照射した場合の快眠度に貢献する割合を表示したものであり、図10は、快眠度を減少させる割合を表示したものである。バイオレットライトの点滅周波数の照射は、その点滅周波数と同じ又は略同じ脳波を生じさせるので、そうして発生した脳波が、快眠度に対して一定の影響を生じさせることを確認できた。
【0035】
この実験では、使用した光の波長が360~400nmのバイオレットライト領域の光であり、周波数も10Hz、40Hz、60Hzでの結果ではあるが、脳波が照射光の点滅周波数に依存することは、他の周波数(例えば、9Hz、30Hz、60Hz以上)でも同様の現象が生じることを期待させる。また、ここで使用した光の波長はバイオレットライト域であるが、他の波長域の光でも照射する光の点滅周波数と同じ又は略同じ脳波が発生することも期待できる。しかも、脳波は、感情、意欲、記憶、集中、リラックス、高揚、覚醒等の心身作用に影響することが知られており、そうした心身作用を生じさせることが可能な装置とすることができる。さらに、脳波に基づく細胞活性や疾病への作用についても期待できる。
【0036】
(光源)
光源が発光する光の波長は特に限定されないが、上記実験では360~400nmで定義されるバイオレットライトを使用している。バイオレットライトの他、他の波長でも同様の効果があるものと期待でき、バイオレットライトとともに併用して利用することもできる。また、白色光についても、後述の結果に示すように、一定の効果を示していることから、白色光についても、光源から発する光としてもよいし、光の一部としてもよい。
【0037】
発振周波数は、0(常灯、直流光)~150Hzまで可能な光源を好ましく適用できる。周波数は、制御部の設定により、0.5Hz単位や1Hz単位で調整でき、任意の点滅周波数の光を生じさせることができる。点滅周波数を増していくと、個人差はあるものの点滅が気にならなくなるという利点もある。点滅周波数は、実験例で用いた10Hzや60Hzに限定されない。
【0038】
光源からの放射照度は、可変可能なものであってもよいし、一定値のものであってもよい。上記実験では、最大出力310μW/cmのものを使用しているがこれに限定されない。例えば1μW/cm(0.01W/m)~1000μW/cm(10W/m)の範囲内のものや、例えば0.5μW/cm(0.005W/m)~500μW/cm(5W/m)の範囲内のものや、0.5~1000μW/cmの範囲内のもの等、任意に構成できる。点滅周波数と同じ又は略同じ脳波の発生は、低い放射照度でも生じるので、開眼時でも閉眼時でも点滅周波数の照射により、所定の脳波を発生させることができる。さらに、こうした放射照度の光源であれば、めがね、その他の携帯型照射装置にも容易に適用できるので、日常生活の中でも装着することができる。特に微量の弱い光(光感度の弱い光)であっても上記特徴的な現象が生じていることが確認されており、脳への影響や細胞活性(遺伝子発現制御も含む意味で用いる。)への応用が期待できる。
【0039】
光を比視感度で特定してもよい。低い比視感度でも本発明の特徴は実現できるので、低い比視感度のもとで、脳波刺激を生じさせるバイオレットライトの点滅照射することができ、被験者に負担なく所望の部位を刺激することができる。
【0040】
光の照射時間は、その目的に応じて任意に設定することが好ましく、短時間であっても長時間であってもよい。光は、任意に間欠的(一定間隔又は不定期間隔)としたり、連続的としたりすることもできる。
【0041】
光源は、光源付きめがねであることが好ましい。そうしためがねは、装着が容易で日常的に違和感のないめがねに点滅周波数を発する光源を取り付けているので、実用性が高く、様々な場面や環境でも常時装着することができる。また、光源は、卓上光源、移動体端末装着光源等の顔前又は近傍設置型の光源であってもよいし、携帯光源等の非設置型光源、又は、室内照明、卓上スタンド、専用装置等の設置型光源であってもよく、使用環境に応じた種々の光源形態の装置とすることができる。
【0042】
(制御部)
制御部は、光源からの光の照射状態(常灯や点滅周波数)をコントロールする部分である。制御部は、光源に電力を供給するための電源(図示しない)を備えたものであってもよく、そうした電源はバッテリーであってもよいし、別の位置に装着したバッテリーまでケーブルで引き回したものであってもよい。また、一箇所で動かない場合には、家庭用電源等に接続する形態であってもよい。
【0043】
制御部は、携帯端末等の隔離コントローラーとの間の送受信により、光の点滅周波数、放射照度、照射時間、照射開始時間、照射終了時間、点滅周波数等の照射条件の変更を実行するものであることが好ましい。こうした制御部は、上記した様々な照射条件を隔離コントロールするので、所望の脳波や細胞活性を生じさせるのに適した照射条件に任意に設定して、所望の効果を得ることができる。さらに、特定波長光の点滅周波数での照射が、脳波や細胞活性にどのように影響し、心身への影響がどの程度になるかを測定評価し、実用に適用することができる。
【0044】
さらに、制御部は、光源のコントローラーやタイマー機能を備えていてもよい。コントローラーは、周波数や放射照度を可変したり、照射時間を設定したりする機能等を挙げることができる。また、タイマー機能は、光の放射照度時間を設定できるものを挙げることができる。こうしたコントローラーやタイマー機能は、器具と一体として設けられていてもよいし、別部材としてもよい。
【0045】
以上説明したように、本発明に係る光刺激による脳波及び細胞活性制御装置は、バイオレットライト等の特定波長の光を常灯又は特定の点滅周波数で照射して、その照射状態と同じ又は略同じ脳波を被験者に生じさせたり、異なる特定の脳波を被験者に誘導させたりすることができる。特に光を受けた被験者の脳波を、光の点滅周波数と同じ又は略同じ又は異なる特定の脳波を誘導することができ、心身や脳に様々な刺激を付与することができる。
【0046】
[脳機能改善又は増大装置]
本発明では、さらにバイオレットライトや白色光による光刺激の影響についての研究を行った。その結果、バイオレットライトや白色光の照射による光刺激により、鬱の改善又は予防、ストレスの抑制又は予防、集中力の改善又は増加、アルツハイマー病の改善又は予防、認知機能の改善又は予防等が期待できることがわかった。バイオレットライトや白色光による光刺激でのこうした効果が見られたことは従来にない初めての知見であり、本発明に係る脳機能を改善、予防又は増大する装置に至った。
【0047】
本発明に係る脳機能の改善、予防又は増大装置は、バイオレットライト又は白色光を常灯又は特定の点滅周波数で被験者に照射して脳機能を改善、予防又は増大する装置であって、前記バイオレットライト又は白色光を発光する光源と、前記バイオレットライト又は白色光を常灯又は特定の点滅周波数とする発光周期制御部と、前記バイオレットライト又は白色光を特定の時間又は特定の期間照射する発光時間制御部と、を備え、鬱の改善又は予防、ストレスの抑制又は予防、集中力の改善又は増加、アルツハイマー病の改善又は予防、睡眠改善、から選ばれるいずれか1又は2以上の目的で使用される装置である、ことを特徴とする。
【0048】
また、本発明に係る脳機能の改善又は予防装置は、バイオレットライト又は白色光の常灯光を被験者に照射して認知機能を改善又は予防する装置であって、前記バイオレットライト又は白色光を発光する光源と、前記バイオレットライト又は白色光を特定の時間又は特定の期間照射する発光時間制御部と、を備える、ことを特徴とする。
【0049】
これら脳機能の改善又は増大について順に説明する。以下では、バイオレットライトを「VL」で表す。
【0050】
(鬱の改善)
常灯白色光刺激(WL continuous)、常灯VL刺激(VL continuous)、VLの40Hz周波数刺激(VL 40Hz)を、それぞれのマウスに照射し、光刺激を与えた。マウスは、8~13週齢のC57BL/6マウスを用いた。
【0051】
鬱の評価方法は、マウスの尻尾を持って吊り下げて、マウスがどの程度もがくのかを定量するtail suspension test(TST、https://www.jove.com/video/3769/?language=Japanese)と、小さなプールの中で強制的に泳がせてどれだけもがくかを測定するforced swim test(FST、https://www.jove.com/video/3638/the-mouse-forced-swim-test)があり、今回はTSTで評価した。なお、うつ状態は、どれだけ「あきらめる」のかが鬱の指標となっており、その評価についての非特許文献として、「Journal of Visualized Experiments January 2012,59,e3638,Page1 of 5」、「Journal of Visualized Experiments January 2012,59,e3769,Page1 of 5」、「Neuron 53, 337-351, February 1,2007 a2007 Elsevier Inc. 337」を挙げることができる。
【0052】
図12(A)は、リポ多糖(LPS/Lipopolysaccharide)を用いた鬱の誘導と、VLの40Hz周波数刺激による鬱の改善の評価結果である。マウスにLPSを投与し、急性炎症性にうつ状態を誘発した。LPS投与前と投与当日の計8日間VLの40Hz周波数刺激を行ない、Tail suspension test(TST/尾懸垂試験)によって鬱を評価した。LPSを用いた鬱の誘導実験に使用した参考文献は、https://www.nature.com/articles/s41598-019-42286-8、である。図12(A)に示すように、VLの40Hz周波数刺激によって、鬱の症状の低下が観察された。TSTの無動時間をANY-maze(Video Tracking System/室町機械株式会社)で計測し、GraphPad Prism 8.0 softwareにて、コントロール群、LPS群、LPS+40Hz周波数刺激群の間での統計学的な有意差を検定し、図12中に示した。なお、「*」はp<0.05であり、「**」はp<0.01である。
【0053】
図12(B)は、CUMS(Chronic unpredictable mild stress/予測不可能な慢性的な軽度ストレス)を用いた鬱の誘導と、VLの常灯又は40Hz周波数刺激による鬱の改善の評価結果である。CUMSによって鬱を誘導した実験に使用した参考文献は、https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0149763418304378?via%3Dihub、である。マウスに対し、比較的軽微な様々なストレスを日替わりで長期間(7週間)与え、慢性心理的にうつ状態を誘発した。その間、VL常灯刺激又はVL40Hz周波数刺激を行い、TSTによって鬱を評価した。図12(B)に示すように、VL常灯刺激又はVL40Hz周波数刺激によって鬱症状が改善した。
【0054】
(ストレスの抑制、集中力の増加)
VLによるストレスの抑制及び集中力の増加について解析した。ストレスのデータについて、脳波(electroencephalogram;EEG)の測定方法とその評価方法は、「Sensors 2018,18(12),4477」(https://doi.org/10.3390/s18124477、https://www.mdpi.com/1424-8220/18/12/4477/htm)に記載の非特許文献に記載の方法で行った。
【0055】
実験は、VLと白色光を使用し、点滅と常時点灯(「常灯」という。)で光刺激を行った。計測した脳波の解析は、前処理としてフィルタリングを行い、FFT(高速フーリエ変換)でパワースペクトルを算出し、その結果に基づいて有意差検定を行った。被験者数はのべ162名とし、計測箇所は図13(A)に示す左前頭前野Fp1(国際10-20法)とし、図13(B)に示すように計測時間を30分間(1800秒)とし、その前後は1分間の安静時間とした。計測時の光刺激として、白色光常灯刺激、白色光周波数刺激、VL常灯刺激、VL周波数刺激とした。VL刺激は、図5に示すVLめがねにて行い、白色光刺激は40Hzの周波数刺激にて行った。計測機器は、簡易脳波計(サンプリング周波数:512Hz、MindWave mobile BMD version, Neurosky Inc.)を使用した。
【0056】
解析は、以下の手順で行った。脳波は、VL刺激81人、白色光刺激81人に対し、8条件(光刺激各7条件と、消灯の1条件)で光刺激を行って計測した。光刺激時間は図13(B)に示したように30分間(1800秒)とした。得られた計測データは、ノイズ除去(1~70Hzを有効とするフィルタリング)、パワースペクトル算出(ヒルベルト変換、スプライン補間)を行い、片側パワースペクトルを算出した。この手順を標準手順として行った。
【0057】
有意差の検定は、光刺激が影響する脳波の周波数成分を解析するために行った。具体的には、健常人の男女に対する両側2標本t検定(有意水準:5%)で行った。1Hzのパワースペクトル(被験者の平均)に対して、周波数刺激と常灯刺激各7条件と、常時消灯とを比較し、有意差検定を行った。なお、パワースペクトル2~45Hzについても比較した。パワースペクトルの有意差検定結果(光刺激時vs消灯時)を図14に示した。図14の結果に示すように、10Hz、12Hz、13Hz、15Hz、40Hz、60Hzの周波数刺激では、40Hzの周波数刺激の場合に、16Hz,38Hz,44Hzでパワースペクトルが有意に大きかった(有意水準:5%)。一方、10Hz、12Hz、13Hz、15Hz、60Hzの周波数刺激では有意差は確認されなかった。また、常時点灯では、3Hzのパワースペクトルが有意に小さかった。
【0058】
次に、40Hzの周波数刺激によるストレスの抑制について検討した。健常人の男女に白色光の40Hz周波数刺激、VLの40Hz周波数刺激を、タスクの前、中、後において与えた。簡易脳波計を用いて計測した脳波からノイズ除去とパワースペクトル解析を行い、ストレス値(%)を検定し、算出した。解析手段は、https://www.mdpi.com/1424-8220/18/12/4477、に基づいて行った。その結果を図13に示した。図15(A)は刺激なしの場合の前後のストレス値であり、図15(B)はVL40Hzの周波数刺激前後のストレス値であり、図15(C)は白色光40Hz周波数刺激前後のストレス値である。40Hz周波数刺激によって、刺激前や刺激なしのタスク後と比較して、ストレスが減少したことがわかった。
【0059】
図16は、各条件での刺激に対するストレス値の平均値を示すグラフである(「*」はp<0.05である)。健常人の男女に、10Hz、12Hz、13Hz、15Hz、40Hz、60Hzの各VL周波数刺激と、常灯刺激を与えた。簡易脳波計を用いて計測した脳波からノイズ除去とパワースペクトル解析を行い、ストレス値(%)を検定した。この結果より、10Hzと40Hzの周波数刺激によってストレスが減少した。
【0060】
被験者に対して、光刺激実験中の論文はよく読めたか否かを5段階で評価してもらい、知的生産性の向上の可能性を調べた。その結果、VLの周波数刺激では、「とても良く読めた:5.9%」、「良く読めた:41.2%」、「普通だった:47.1%」、「あまり読めなかった:5.9%」、「ぜんぜん読めなかった:0%」であった。一方、白色光の周波数刺激では、「とても良く読めた:0%」、「良く読めた:5.9%」、「普通だった:70.6%」、「あまり読めなかった:23.5%」、「ぜんぜん読めなかった:0%」であった。
【0061】
(アルツハイマー病の改善)
アルツハイマー病の改善効果について、常灯白色光刺激(WL continuous)、白色光の40Hz周波数刺激(WL 40Hz)、常灯VL刺激(VL continuous)、VLの40Hz周波数刺激(VL 40Hz)をそれぞれマウスに与えて評価した。
【0062】
アルツハイマー病については、人でアルツハイマー原因遺伝子としてタウ(Tau)が知られている。この遺伝子に変異を持つとアルツハイマー病を発症することが知られているが、1999年にタウの遺伝子変異S301Pはパーキンソン病又は前頭側頭型認知症の家族性遺伝病の変異として見つかっている。実験では、ヒトのS301Pタウをもつマウスを用いて評価し、実際には、タウがリン酸化されることがアルツハイマー病の診断になり、AT8(pSer202/Thr205)という抗体を用いて検出している。S301Pマウスを用いてアルツハイマー病として評価した最初の論文は、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17270732であり、今回の実験で適用した。
【0063】
図17図18は、40Hz周波数刺激によるリン酸化タウの減少の結果である。図17図18において、(A)はDAPI,p-Tau,GFAPについての測定画像であり、(B)はその画像を解析して得たGFAPの面積%のグラフである。3ヶ月齢のS301P変異マウスに対し、常灯白色光刺激、白色光の40Hz周波数刺激、VLの40Hz周波数刺激をそれぞれ4週間に与えた。リン酸化タウ(Ser202,Thr205)をAT8抗体を用いて検出した。VLの40Hz周波数刺激によって、Hippocampusのリン酸化タウ(図17(B)の左側のグラフ)の蓄積が減少し、CA3領域のリン酸化タウ(図18(B)のグラフ)の蓄積が減少し、アストロサイトのGFAP(図17(B)の右側のグラフ)が増加した。
【0064】
(認知機能の改善)
高齢マウスにおける認知機能の改善効果について、常灯白色光刺激(WL continuous)、白色光の40Hz周波数刺激(WL 40Hz)、常灯VL刺激(VL continuous)、VLの40Hz周波数刺激(VL 40Hz)をそれぞれマウスに与えて評価した。
【0065】
認知記憶実験について、記憶は恐怖記憶と空間記憶の2種類で評価されるが、恐怖記憶は、電気ショックを与えてフリーズして動きが止まっている時間で評価する。電気刺激を与えた直後はフリーズしているが、次の日に電気ショックを与える機械の中にいれて前日のことを覚えていなければフリーズする時間が減る(参考文献:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK5223/)。一方、空間記憶は、マウスを白い円盤の上において強い光をあてると、夜行性のマウスは暗いところに逃げようとする。円盤には20個の穴があり、19個は塞がれているが、1つだけ穴に逃げることができる。マウスはその1個の穴の場所を覚えるトレーニングを6日間受けることになる。その穴の場所をどれだけ記憶していられるか、1日後、1週間後に評価する方法とした(参考文献:https://www.nature.com/protocolexchange/protocols/349Reiserer)。
【0066】
CFCテスト(Contextual fear conditional test)にて恐怖記憶の評価を行った。64週齢の高齢マウスに7週間の常灯白色光刺激又は常灯VL刺激を与えた後、CFCによって恐怖記憶を評価した。図19に示すように、常灯VL刺激によってCFCのFreezingのスコアが改善しているのを確認した。
【0067】
バーンズ迷路テスト(Barnes maze test)を行った。64週齢の高齢マウスに11週間の常灯白色光刺激又は常灯VL刺激を与えた後、Barnes maze(バーンズ迷路)によって空間記憶を評価した。トレーニングによって6日間迷路(maze)を記憶させ、7日後にprobe(記憶試験)を行なって長期記憶を測定した。その結果、図20に示すように、常灯VL刺激によって老齢マウスでのスコアが改善した。2元配置分散分析(two-way ANOVA)で検定し、P値<0.05であった。
【0068】
活動量(Activity)を評価した。75週齢の高齢マウスに12週間の常灯VL刺激を与えた後、running wheelを用いて活動量を評価した。図21に示すように、白色光の40Hz周波数刺激、常灯VL刺激、VLの40Hz周波数刺激それぞれにおいて老齢マウスでの活動量スコアが改善していた。
【0069】
VL常灯刺激が与える遺伝子発現の変化を調べ、図22図24に示した。67週齢の老齢マウスに常灯VL刺激を13週間与えた。そのマウスと、15週齢の若齢マウス(young)及び67週齢の老齢マウス(aged)の常灯白色光条件下のマウスとの遺伝子発現変化を比較した。「*」はp<0.05であり、「**」はp<0.01であり、「***」はp<0.001である。
【0070】
図22図24に示すように、常灯VL刺激によって、opn5遺伝子発現が上昇し(図22(A)参照)、アポトーシス関連遺伝子Baxが上昇し(図22(B)参照)、Bcl2の遺伝子発現が上昇し(図22(C)参照)、アポトーシス関連遺伝子Caspase3が上昇し(図23(A)参照)、Caspase9の遺伝子発現が上昇し(図23(B)参照)、酸化ストレス及びミトコンドリア関連遺伝子であるGlutathione peroxidase及びPGC1αの遺伝子発現が上昇し(図24(A)(B)参照)、細胞周期及び細胞老化関連のp21遺伝子発現が上昇していた(図24(C)参照)。
【0071】
VL刺激がどのような原理で脳機能や細胞の活性化に効いているかについては、現時点では、OPN5と呼ばれるVL特異的光受容体(ニューロプシン)を介していると考察している。OPN5がVLのニューロプシンで、網膜にあることを示している参考文献として、https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0026388、がある。ただし、上記した本発明での光刺激は、必ずしも眼を通しているとは限らず、頭蓋骨を貫通して脳に直接効いているとも考えられる(参照:https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(14)00603-4)。本発明では、上記した図22の結果からも、VLを照射することでOPN5の遺伝子発現が上昇すると考えられる。
【0072】
以上の結果に示したように、本発明に係る脳機能改善又は増大装置によれば、バイオレットライトや白色光を被験者に照射する装置により、鬱の改善又は予防、ストレスの抑制又は予防、集中力の改善又は増加、アルツハイマー病の改善又は予防、認知機能の改善又は予防、さらには睡眠改善等を行うことができる。



図1
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図3
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