(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022007591
(43)【公開日】2022-01-13
(54)【発明の名称】モジュールおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09J 201/00 20060101AFI20220105BHJP
C09J 5/00 20060101ALI20220105BHJP
B32B 7/12 20060101ALI20220105BHJP
B32B 17/10 20060101ALI20220105BHJP
B32B 3/30 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
C09J201/00
C09J5/00
B32B7/12
B32B17/10
B32B3/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020110661
(22)【出願日】2020-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】507066851
【氏名又は名称】AGCオートモーティブウィンドウシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】特許業務法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大貫 正浩
【テーマコード(参考)】
4F100
4J040
【Fターム(参考)】
4F100AB01C
4F100AG00A
4F100AK01C
4F100AK03B
4F100AK25B
4F100AK45C
4F100AK51B
4F100AK52B
4F100AK53B
4F100AK74C
4F100AN02B
4F100BA03
4F100BA41B
4F100CB02B
4F100CB05B
4F100DC22B
4F100DD05A
4F100DD05C
4F100GB31
4F100JB01B
4F100JB12B
4F100JJ03B
4F100JL11B
4F100JL13B
4J040CA001
4J040DA001
4J040DF021
4J040EF001
4J040EK031
4J040JA01
4J040JA09
4J040JB02
4J040JB09
4J040MA02
4J040MA05
4J040MA10
4J040MB05
4J040NA16
4J040PA25
(57)【要約】
【課題】より効率的に、より高い精度で固着可能なモジュールを提供する。
【解決手段】モジュールは、第1の面を有する第1の部材と、第1の面と対向する第2の面を有する第2の部材と、第2の面のうちの第1の領域に設けられ、第2の部材を第1の面に保持可能な第1の固着強度で第2の部材を第1の面に固着する第1の固着剤と、第2の面のうちの第2の領域に設けられ、第2の部材を第1の面に保持可能な第2の固着強度で第2の部材を第1の面に固着する第2の固着剤とを備える。第1の固着剤が所定の雰囲気中において硬化することで第1の固着強度を発現するまでの第1の硬化時間よりも、第2の固着剤が所定の雰囲気中において硬化することで第2の固着強度を発現するまでの第2の硬化時間のほうが短い。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面を有する第1の部材と、
前記第1の面と対向する第2の面を有する第2の部材と、
前記第2の面のうちの第1の領域に設けられ、前記第2の部材を前記第1の面に保持可能な第1の固着強度で前記第2の部材を前記第1の面に固着する第1の固着剤と、
前記第2の面のうちの第2の領域に設けられ、前記第2の部材を前記第1の面に保持可能な第2の固着強度で前記第2の部材を前記第1の面に固着する第2の固着剤と
を備え、
前記第1の固着剤が所定の雰囲気中において硬化することで前記第1の固着強度を発現するまでの第1の硬化時間よりも、前記第2の固着剤が前記所定の雰囲気中において硬化することで前記第2の固着強度を発現するまでの第2の硬化時間のほうが短い
モジュール。
【請求項2】
前記第1の部材は、ガラスを主成分とするガラス部材である
請求項1記載のモジュール。
【請求項3】
前記第2の部材は、樹脂を主成分とする樹脂部材または金属を主成分とする金属部材である
請求項1または請求項2記載のモジュール。
【請求項4】
前記第1の固着剤および前記第2の固着剤は、いずれも接着剤である
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のモジュール。
【請求項5】
前記第1の固着剤は接着剤であり、前記第2の固着剤は粘着剤である
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のモジュール。
【請求項6】
前記第1の固着剤が前記第2の部材を前記第1の面に保持可能な第1の保持期間は、前記第2の固着剤が前記第2の面を前記第1の面に保持可能な第2の保持期間よりも長い
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のモジュール。
【請求項7】
前記第1の固着剤が有する化学的耐性および熱的耐性は、それぞれ、前記第2の固着剤が有する化学的耐性および熱的耐性よりも優れている
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のモジュール。
【請求項8】
前記第2の部材は、前記第2の面としての表面と縁部とを有する板状部材であり、
前記板状部材の前記表面のうち、前記第2の領域には、第1の溝が形成されている
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のモジュール。
【請求項9】
前記表面のうち、前記第1の固着剤が設けられた前記第1の領域と、前記第1の溝との間には、第2の溝が形成されている
請求項8記載のモジュール。
【請求項10】
前記第2の部材は、表面および縁部を有する板状部材であり、
前記第2の領域には、前記表面に立設して互いに対向する一対の壁部が設けられており、前記第2の固着剤が前記一対の壁部の間に設けられている
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のモジュール。
【請求項11】
前記第1の固着剤は、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂および変成シリコーン樹脂のうちの少なくとも一種を含む接着剤である
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載のモジュール。
【請求項12】
前記第2の固着剤は、合成ゴムおよびアクリルのうちの少なくとも一種を含む粘着剤、またはポリオレフィンを含む接着剤である
請求項1から請求項11のいずれか1項に記載のモジュール。
【請求項13】
前記第1の固着剤の塗布面積に対する前記第2の固着剤の塗布面積の比率は、単位面積当たりの前記第2の固着強度に対する単位面積当たりの前記第1の固着強度の比率以上である
請求項1から請求項11のいずれか1項に記載のモジュール。
【請求項14】
第1の面を有する第1の部材を用意することと、
第2の面を有する第2の部材を用意することと、
前記第2の面のうちの第1の領域に第1の固着剤を設けることと、
前記第2の面のうちの第2の領域に第2の固着剤を設けることと、
前記第1の固着剤および前記第2の固着剤を前記第1の面と前記第2の面との間に挟持するように、前記第1の部材と前記第2の部材とを固着させることと
を含み、
前記第1の固着剤として、前記第2の部材を前記第1の面に保持可能な第1の固着強度で前記第2の部材を前記第1の面に固着するものであって、所定の雰囲気中において硬化することで前記第1の固着強度を発現するまで第1の硬化時間を要するものを用い、
前記第2の固着剤として、前記第2の部材を前記第1の面に保持可能な第2の固着強度で前記第2の部材を前記第1の面に固着するものであって、前記所定の雰囲気中において硬化することで前記第2の固着強度を発現するまで第2の硬化時間を要するものを用いる
モジュールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1の部材に第2の部材が固着されたモジュール、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車用ガラスなどの第1の被着体に対し、接着剤を介して第2の被着体を接着した後、その第2の被着体を第1の被着体に対して固定せずに接着剤を硬化させる接着方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、2つの部材を接着などにより固着させる場合、より短時間で2つの部材を固着させることが望ましい。
【0005】
したがって、より効率的に、より高い精度で固着可能なモジュールおよびその製造方法を提供することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態としてのモジュールは、第1の面を有する第1の部材と、第1の面と対向する第2の面を有する第2の部材と、第2の面のうちの第1の領域に設けられ、第2の部材を第1の面に保持可能な第1の固着強度で第2の部材を前記第1の面に固着する第1の固着剤と、第2の面のうちの第2の領域に設けられ、第2の部材を第1の面に保持可能な第2の固着強度で第2の部材を第1の面に固着する第2の固着剤とを備える。ここで、第1の固着剤が所定の雰囲気中において硬化することで第1の固着強度を発現するまでの第1の時間よりも、第2の固着剤が所定の雰囲気中において硬化することで第2の固着強度を発現するまでの第2の時間のほうが短い。
なお、本発明において「固着」とは「接着」および「粘着」の双方を含む包括的概念であり、「固着剤」とは「接着剤」および「粘着剤」の双方を含む包括的概念である。
【0007】
本発明の一実施形態としてのモジュールの製造方法は、第1の面を有する第1の部材を用意することと、第1の面と対向する第2の面を有する第2の部材を用意することと、第2の面のうちの第1の領域に第1の固着剤を設けることと、第2の面のうちの第2の領域に第2の固着剤を設けることと、第1の固着剤および第2の固着剤を第1の面と第2の面との間に挟持するように、第1の部材と第2の部材とを固着させることとを含む。第1の固着剤として、第2の部材を第1の面に保持可能な第1の固着強度で第2の部材を第1の面に固着するものであって、所定の雰囲気中において硬化することで第1の固着強度を発現するまで第1の時間を要するものを用いる。第2の固着剤として、第2の部材を第1の面に保持可能な第2の固着強度で第2の部材を第1の面に固着するものであって、所定の雰囲気中において硬化することで第2の固着強度を発現するまで第2の時間を要するものを用いる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施の形態におけるモジュールおよびその製造方法によれば、第1の部材と第2の部材とを、より効率的に、より高い精度で固着させることができる。
なお、本発明の効果はこれに限定されるものではなく、以下に記載のいずれの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施の形態に係るガラスモジュールの全体構成例を表す斜視図である。
【
図2A】
図1に示したブラケットの全体構成例を表す斜視図である。
【
図2B】
図1に示したブラケットの全体構成例を表す平面図である。
【
図3A】
図1に示したガラスモジュールのうちの、ガラス部材と貼り合わせる前の状態のブラケットの要部構成例を表す要部断面図である。
【
図3B】
図1に示したガラスモジュールの要部構成例を表す断面図である。
【
図4】
図1に示したガラスモジュールの製造方法を説明するフローチャートである。
【
図5A】第1変形例としてのブラケットの断面形状を表す要部断面図である。
【
図5B】第2変形例としてのブラケットの断面形状を表す要部断面図である。
【
図5C】第3変形例としてのブラケットの断面形状を表す要部断面図である。
【
図6A】ガラス部材と貼り合わせる前の状態の、第4変形例としてのブラケットの要部構成例を表す要部断面図である。
【
図6B】ガラス部材と貼り合わせた状態の、第4変形例としてのブラケットの要部構成例を表す要部断面図である。
【
図7A】ガラス部材と貼り合わせる前の状態の、第2の実施の形態に係るブラケットの要部構成例を表す要部断面図である。
【
図7B】ガラス部材と貼り合わせた状態の、第2の実施の形態に係るブラケットの要部構成例を表す要部断面図である。
【
図7C】第5変形例としてのブラケットの断面形状を表す要部断面図である。
【
図8A】せん断接着強度試験の様子を表した第1の模式図である。
【
図8B】せん断接着強度試験の様子を表した第2の模式図である。
【
図9A】第6変形例としてのブラケットの全体構成例を表す平面図である。
【
図9B】第7変形例としてのブラケットの全体構成例を表す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明は本発明の一具体例であって、本発明は以下の態様に限定されるものではない。また、本発明は、各図に示す各構成要素の配置や寸法、寸法比などについても、それらに限定されるものではない。説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態
第1の固着剤および第2の固着剤により第1の部材と第2の部材とが固着されており、第2の部材に溝を設けることで第2の固着剤のはみ出しを抑制するようにしたガラスモジュールの例。
2.第1の実施の形態の変形例
3.第2の実施の形態
第1の固着剤および第2の固着剤により第1の部材と第2の部材とが固着されており、第2の部材に一対の壁部を設けることで第2の固着剤のはみ出しを抑制するようにしたガラスモジュールの例。
4.第2の実施の形態の変形例
5.実験例
6.その他の変形例
【0011】
<1.第1の実施の形態>
[ガラスモジュール1の概略構成]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るモジュールとしてのガラスモジュール1の全体構成例を表す斜視図である。ガラスモジュール1は、例えば、自動車の車体の前方窓枠に取り付けられるフロントウィンドシールドとしてのガラス部材10と、そのガラス部材10の、自動車の車室側の面における上方中央部に固着されるブラケット20とを備えている。ガラス部材10とブラケット20とは、性質の異なる2種類の固着剤、すなわち第1固着剤30および第2固着剤40により互いに固着されている。
なお、ガラス部材10は本発明の「第1の部材」に対応する一具体例であり、ブラケット20は本発明の「第2の部材」に対応する一具体例である。
【0012】
(ガラス部材10)
ガラス部材10は、ガラスを主成分とする部材であり、少なくとも可視光を透過する透明なガラス部分11と、そのガラス部分11の内面11Aのうちの周縁部に設けられた黒色部分12とを有している。黒色部分12の上方中央部はガラス部分11の下方へ向けて拡張された拡張領域12Aとなっている。なお、ガラス部分11のうち、自動車の車室側を向く面を内面11Aといい、自動車の外側に向く面を外面11Bという。ガラス部分11は、例えば2枚以上の薄板状ガラスが積層された合わせガラスであり、薄板状ガラスの間に例えば透明樹脂フィルムなどの中間膜が介在したものであってもよい。また、黒色部分12は、例えばビスマス(Bi)の酸化物などを含む黒色のセラミックがプリントされたものであり、紫外光の透過を抑制するものである。
内面11Aは、本発明の「第1の面」に対応する一具体例である。
【0013】
(ブラケット20)
ブラケット20は、ガラス部分11の内面11Aのうち、黒色部分12の拡張領域12Aに取り付けられている。
図2Aおよび
図2Bは、それぞれ、ブラケット20の全体構成例を表す斜視図および平面図である。さらに、
図3Aおよび
図3Bは、それぞれ、
図2Bに示したA-A切断線に沿った矢視方向の断面を表す要部断面図である。ただし、
図2Bおよび
図3Aは、それぞれ、ガラス部材10と固着される前段階のブラケット20の状態を表している。これに対し
図3Bは、ガラス部材10とブラケット20とが第1固着剤30および第2固着剤40によって貼り合わされた状態を表している。ブラケット20は、例えば自動車の前方の画像を撮影するカメラをガラス部材10に装着するためのカメラブラケットであり、例えばABS樹脂やポリカーボネートなどのプラスチック材料を主成分とする樹脂部材である。なお、ブラケット20は、ステンレス鋼などの金属を主成分とする金属部材であってもよい。あるいは、ブラケット20は、樹脂部材と金属部材とを組み合わせたものであってもよい。ブラケット20は、表面22と外縁23とを有する板状部材である。さらに、ブラケット20には、内縁26により画定される輪郭を有する凹部27が設けられていてもよい。
【0014】
図2Bに示したように、ブラケット20の表面22には、第1固着剤30が塗布される第1の領域AR1と、第2固着剤40が塗布される第2の領域AR2とがそれぞれ複数に設けられている。なお、
図2Aでは、第1の領域AR1および第2の領域AR2の記載を省略している。
図2Bにおいて、第1の領域AR1は、表面22のうち破線で囲まれた略円形の領域であり、第2の領域AR2は、表面22のうち二点鎖線で囲まれた略四角形および略V形状の領域である。なお、
図2Bでは、第1の領域AR1および第2の領域AR2はそれぞれ6か所ずつ設けられているが、第1の領域AR1および第2の領域AR2の配置の数、位置、および形状は、
図2Bに示した態様に限定されるものではなく、任意に設定可能である。
【0015】
図2Bに示したように、ブラケット20の表面22のうち、第2の領域AR2の一部には、それぞれ、溝25が設けられている。
図3Aに示したように、各々の溝25は、外縁23または内縁26に沿って延在している。溝25は、例えば外縁23に近づくほど増大する深さを有している。例えば
図3Aに示したように、溝25の最深部P25は、溝25の延在方向と直交する断面において、溝25における幅方向中央の位置よりも外縁23または内縁26に近い位置にある。溝25は、例えばガラスモジュール1の製造過程においてガラス部材10とブラケット20との貼り合わせを行う際、
図3Bに示したように、ガラス部分11の内面11Aとブラケット20の表面22との間に挟まれてつぶされた第2固着剤40の一部が流れ込んで蓄積されるバッファ部分となる。したがって、ガラス部材10とブラケット20とが固着される前の段階では、
図3Aに示したように、第2固着剤40は、第2の領域AR2のうちの溝25以外の位置に設けられているとよい。特に、第2固着剤40は、
図3Aに示したように、第2の領域AR2のうち、溝25から見て外縁23または内縁26と反対側の内側領域AR21に設けられるとよい。押しつぶされた第2固着剤40の一部が外縁23または内縁からブラケット20の外側にはみ出すのを効果的に防ぐためである。なお、溝25は、本発明の「第1の溝」に対応する一具体例である。さらに、ブラケット20は、表面22における任意の場所に突起28を1または複数有していてもよい。突起28は、ガラス部分11の内面11Aとブラケット20の表面22との間隔を規定するスペーサとなるからである。
【0016】
(第1固着剤30)
第1固着剤30は、ブラケット20の表面22のうちの第1の領域AR1に設けられ、ブラケット20を内面11Aに保持可能な第1の固着強度F1(例えば2MPa以上)でブラケット20を内面11Aに対して固着する接着剤である。なお、第1固着剤30は、所定の雰囲気中、例えば室温(25℃)の空気中において硬化することで第1の固着強度F1を発現するまで、第1の硬化時間TA1(例えば168時間程度)を要する。また、第1固着剤30がブラケット20を内面11Aに保持可能な第1の保持期間TB1は、例えば数年から十数年以上の長期である。第1の保持期間TB1とは、通常の使用環境下において、ブラケット20が内面11Aに固着した固着状態を第1固着剤30が保持可能な期間を意味する。さらに、第1固着剤30が有する化学的耐性および熱的耐性は、それぞれ、第2固着剤40が有する化学的耐性および熱的耐性よりも優れていることが望ましい。また、第1の固着強度F1は、後述の第2の固着強度F2よりも強いことが望ましい。このような第1固着剤30としては、例えばエポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、および変成シリコーン樹脂のうちの少なくとも一種を含む接着剤が挙げられる。
【0017】
(第2固着剤40)
第2固着剤40は、ブラケット20の表面22のうちの第2の領域AR2に設けられ、ブラケット20を内面11Aに保持可能な第2の固着強度F2でブラケット20を内面11Aに固着する接着剤もしくは粘着剤である。なお、先に述べたように、第1固着剤30が有する第1の固着強度F1のほうが、第2固着剤40が有する第2の固着強度F2よりも強い。第2固着剤40は、例えば、合成ゴムおよびアクリルのうちの少なくとも一種を含む粘着剤、またはポリオレフィンを含む接着剤である。第2固着剤40は、所定の雰囲気中、例えば室温(25℃程度)の空気中において硬化することで第2の固着強度F2を発現するまで、第1の硬化時間TA1よりも短い第2の硬化時間TA2を要する。第2の硬化時間TA2は、例えば数秒程度以下であるとよい。また、第2固着剤40がブラケット20を内面11Aに保持可能な第2の保持期間TB2は、第1固着剤30における第1の保持期間TB1よりも短くてもよい。なお、第2の保持期間TB2とは、通常の使用環境下において、ブラケット20が内面11Aに固着した固着状態を第2固着剤40が保持可能な期間を意味する。
【0018】
[ガラスモジュール1の製造方法]
次に、
図4に示したフローチャートを参照して、ガラスモジュール1の製造方法について説明する。
【0019】
まず、ガラス部分11の内面11Aに黒色部分12が形成されたガラス部材10を用意する(ステップS101)。次に、表面22を有するブラケット20を用意する(ステップS102)。次に、表面22のうちの第1の領域AR1に第1固着剤30を設け(ステップS103)、さらに、表面22のうちの第2の領域AR2に第2固着剤40を設ける(ステップS104)。第1固着剤30および第2固着剤40は、例えば加熱吐出装置などを用いて所望の領域に吐出させるようにする。その際、適宜加温して粘度を調整するようにしてもよい。続いて、ブラケット20を、内面11Aのうちの拡張領域12Aと対向させたのち、第1固着剤30および第2固着剤40を内面11Aと表面22との間に挟持するようにガラス部材10とブラケット20とを固着させる(ステップS105)。以上により、ガラスモジュール1の製造が完了する(エンド)。ここで、第1固着剤30として、上述したように、ブラケット20を内面11Aに保持可能な第1の固着強度F1でブラケット20を内面11Aに固着するものであって、所定の雰囲気中において硬化することで第1の固着強度F1を発現するまで第1の硬化時間TA1を要するものを用いる。また、第2固着剤40として、ブラケット20を内面11Aに保持可能な第2の固着強度F2でブラケット20を内面11Aに固着するものであって、所定の雰囲気中において硬化することで第2の固着強度F2を発現するまで第2の硬化時間TA2を要するものを用いる。上述したように、第2の硬化時間TA2は、例えば数秒程度以下であるとよい。
【0020】
[ガラスモジュール1の作用効果]
このように、本実施の形態のガラスモジュール1では、ガラス部材10とブラケット20とを、硬化時間の異なる2種類の固着剤、すなわち第1固着剤30および第2固着剤40を用いて固着するようにしている。このため、製造後、ガラス部材10とブラケット20との相対位置精度を損なうことなく、出荷するまでの期間を短縮できる。例えば、第1固着剤30が第1の接着強度F1を発現しない期間、すなわち第1の硬化時間TA1が経過するまでの期間であっても、第1の硬化時間TA1より短い第2の硬化時間TA2で第2の固着強度F2を発現する第2固着剤40により、ガラス部材10に対しブラケット20が保持される。第1の硬化時間TA1が経過したのちは、固着強度に優れる第1固着剤30により、ガラス部材10に対しブラケット20が恒久的に保持される。したがって、本実施の形態のガラスモジュール1によれば、例えば第1固着剤30のみによってガラス部材10とブラケット20との貼り合わせを行った場合と比べて、第1の硬化時間TA1の経過前に搬送や出荷が可能となる。このため、保管期間や保管設備等を削減できる。特に、第1固着剤30として、第2固着剤40の保持期間TB2よりも長い保持期間TB1を有し、第2固着剤40における化学的耐性および熱的耐性よりもそれぞれ優れる化学的耐性および熱的耐性を有する接着剤を用いるようにすれば、よりいっそう長期信頼性を向上させることができる。このように、本実施の形態のガラスモジュール1によれば、品質上の信頼性を担保しつつ、製造工程全体での生産効率を向上させることができる。
【0021】
また、本実施の形態によれば、第2固着剤40を塗布すべき領域が複雑な形状であっても、例えば第2固着剤40の代わりに両面テープを用いた場合と比較して容易に第2固着剤40の塗布作業を行うことができる。さらに、両面テープを用いた場合には作業の機械化が困難であり手作業を要するが、第2固着剤40を塗布する場合には機械による自動化が容易である。
【0022】
また、本実施の形態によれば、溝25を表面22の第2の領域AR2に設けるようにした。このため、ガラス部材10とブラケット20とを貼り合わせる際、内面11Aと表面22との間に挟まれてつぶされた第2固着剤40の一部が溝25に流れ込んで蓄積され、溝25の延在方向に沿って第2固着剤40が広がり、溝25の幅方向への第2固着剤40の広がりを抑制できる。そのため、外縁23からブラケット20の外側に第2固着剤40がはみ出すのを防ぐことができる。また、第2固着剤40が第1固着剤30と接触するのを防ぐことができる。さらに、第2固着剤40が第2の領域AR2において広がることにより、第2固着剤40がブラケット20と接触する面積が増大し、固着強度が向上する。
【0023】
また、本実施の形態によれば、溝25を設けるようにしたので、表面22のうちの第2固着剤40を塗布すべき位置を明確化することができ、第2固着剤40の塗布作業の際、誤った位置に第2固着剤40を塗布するのを防ぐことができる。
【0024】
<2.第1の実施の形態の変形例>
(第1変形例)
図5Aは、第1変形例としてのブラケット20Aおける溝25Aの形状を表している。溝25Aの最深部P25Aは、溝25Aの延在方向と直交する断面において、溝25Aにおける幅方向のほぼ中央の位置にある。
【0025】
(第2変形例)
図5Bは、第2変形例としてのブラケット20Bにおける溝25Bの形状を表している。溝25Bは、溝25Bの延在方向と直交する断面において、略矩形の形状を有している。第2変形例としての溝25Bを有するブラケット20Bによれば、上記第1変形例の溝25Aを有するブラケット20Aと比較して、溝25Aの深さと溝25Bの深さとが同じであれば、内面11Aと接触する第2固着剤40の幅を狭くできる。
【0026】
(第3変形例)
図5Cは、第3変形例としてのブラケット20Cにおける溝25Cの形状を表している。溝25Cは、溝25Cの延在方向と直交する断面において、湾曲した形状を有している。第3変形例としてのブラケット20Cによれば、上記第1変形例の溝25Aを有するブラケット20Aと比較して、溝25Cに塗布される第2固着剤40が幅方向において左右により均等に広がり、溝25Cからの第2固着剤40の広がり領域を精度よく制御できる。
【0027】
(第4変形例)
図6Aおよび
図6Bは、第4変形例としてのブラケット20Dの断面形状を表している。
図6Aは、
図6Aおよび
図6Bは、それぞれ、
図3Aおよび
図3Bに相当する要部断面図である。ただし、
図6Aは、ガラス部材10と固着される前段階のブラケット20Dの状態を表している。これに対し
図6Bは、ガラス部材10とブラケット20Dとが第1固着剤30および第2固着剤40によって貼り合わされた状態を表している。
【0028】
図6Aおよび
図6Bに示したように、ブラケット20Dの表面22のうち、第1固着剤30が設けられた第1の領域AR1と、第2固着剤40が設けられた第2の領域AR2との間に、溝29がさらに形成されている。溝29は、例えば溝25に沿って延びている。溝29の深さ、断面形状および平面形状は、溝25の深さ、断面形状および平面形状とそれぞれ実質的に一致していてもよいし、それらの一部または全部が異なっていてもよい。なお、溝29は、本発明の「第2の溝」に対応する一具体例である。
【0029】
溝29は、例えばガラスモジュール1の製造過程においてガラス部材10とブラケット20Dとの貼り合わせを行う際、溝25と同様、
図6Bに示したように、ガラス部分11の内面11Aとブラケット20Dの表面22との間に挟まれてつぶされた第2固着剤40の一部が流れ込んで蓄積されるバッファ部分となる。したがって、ガラス部材10とブラケット20Dとが固着される前の段階では、
図6Aに示したように、第2固着剤40は、第2の領域AR2のうちの、溝25と溝29とによって挟まれた中間領域AR22に設けられているとよい。押しつぶされた第2固着剤40の一部が溝25に収容されることで、外縁23や内縁26からブラケット20の外側にはみ出すのを効果的に防ぐことができる。そのうえ、押しつぶされた第2固着剤40の他の一部が溝29に収容されることで、第1固着剤30と接触して混合されるのを防ぐことができる。その結果、第1の固着強度F1、第2の固着強度F2、第1の硬化時間TA1および第2の硬化時間TA2などを適切に維持することができ、長期信頼性を確保できる。
【0030】
<3.第2の実施の形態>
[ブラケット20Eの概略構成]
図7Aおよび
図7Bは、本発明の第2の実施の形態に係るブラケット20Eの断面形状を表している。
図7Aおよび
図7Bは、それぞれ、上記第1の実施の形態で説明した
図3Aおよび
図3Bに相当する要部断面図である。ただし、
図7Aは、ガラス部材10と固着される前段階のブラケット20Eの状態を表している。これに対し
図7Bは、ガラス部材10とブラケット20Eとが第1固着剤30および第2固着剤40によって貼り合わされた状態を表している。
【0031】
ブラケット20Eにおける第2の領域AR2には、表面22に立設して互いに対向する一対の壁部31,32が設けられている。一対の壁部31,32は、それぞれ、外縁23、または内縁26に沿って延在している。第2固着剤40は、壁部31と壁部32との間の収容部33に設けられるようになっている。なお、壁部31と壁部32とはZ軸方向において同じ高さを有していることが望ましい。ただし、壁部31の幅および高さと、壁部32の幅および高さとは、それぞれ互いに異なっていてもよい。
【0032】
[ブラケット20Eの作用効果]
本実施の形態では、一対の壁部31,32を有するブラケット20Eを備え、壁部31と壁部32との間に第2固着剤40を設けるようにした。このため、ガラス部材10とブラケット20Eとを貼り合わせる際、内面11Aと表面22との間に挟まれてつぶされた第2固着剤40が外縁23や内縁26からブラケット20Eの外側にはみ出すのを防ぐことができる。特に、壁部31および壁部32のうちの少なくとも一方が所定の高さを有するようにすれば、ガラス部分11の内面11Aとブラケット20Eの表面22との間隔を適切に維持することができる。その場合、第1の実施の形態で説明した突起28は設けなくてもよい。さらに、壁部31および壁部32が互いに同じ高さを有することにより、スペーサとして、ガラス部分11の内面11Aとブラケット20Eの表面22との間隔を安定的に規定することができるうえ、第2固着剤40のはみ出しを効果的に抑止できる。
【0033】
さらに、壁部31,32を立設させるようにしたことにより、上記第1の実施の形態のように、表面22から掘り下げた溝25を設けるようにした場合と比べて、ブラケット20Eの機械的強度を向上させることができる。
【0034】
また、壁部31,32を立設させるようにしたことにより、上記第1の実施の形態のように、表面22から掘り下げた溝25を設けるようにした場合と比べて、第2固着剤40の面方向への広がりを抑制し、第2固着剤40の厚さを厚くすることができる。上記第1の実施の形態の場合、特に、高温環境下において粘度の低下を生じるような第2固着剤40を用いると、その第2固着剤40は、第2領域AR2に塗布した直後に面内方向へ広がってしまうので、第2固着剤40自体の厚さを十分に確保できないことが予想される。
【0035】
また、壁部31,32を立設させるようにしたことにより、上記第1の実施の形態と比べ、ガラス部材10に対してブラケット20を押圧して貼り合わせる際、安定した抵抗感が得られやすい。上記第1の実施の形態では、ガラス部材10の内面11Aとブラケット20の表面22とが直接触れるわけではないうえ、表面22の第2領域AR2に塗布された第2固着剤40も押圧されることで面内方向に広がってしまうので、例えば貼り合わせを行う作業者の手に抵抗感を与えにくい。これに対し、本実施の形態では、壁部31,32の上端がガラス部材10に触れるうえ、壁部31と壁部32との間隔以上に第2固着剤40が広がることはないので、ガラス部材10に対しブラケット20を押圧する際、貼り合わせを行う作業者の手に所定の抵抗感を与えやすい。このため、ガラス部材10に対してブラケット20を押し付ける力を所定の範囲に収めることが容易となり、安定した貼り合わせ作業が可能となる。よって、よりいっそう長期信頼性に優れるガラスモジュール1が得られる。
【0036】
<4.第2の実施の形態の変形例>
なお、本実施の形態では、例えば
図7Cに示した第5の変形例としてのブラケット20Fのように、壁部31および壁部32とは別に、スペーサとしての突起28を、表面22の任意の場所に設けるようにしてもよい。その場合、壁部31および壁部32の高さを任意に設定することができる。
【0037】
<5.実験例>
本発明の第1の固着剤および第2の固着剤として利用可能性を有する接着剤および粘着剤について、固着強度の評価を行った。ここでは、
図8Aおよび
図8Bに示したように、ガラス部材の構成材料としてのガラスからなるガラス板S11と、ブラケットの構成材料としてのポリカーボネートおよびABSからなるプラスチック板S20とを固着剤S40を挟むように対向させて固着したサンプルを作成したのち、そのサンプルについてせん断接着強度試験を実施した。なお、
図8Aおよび
図8Bは、せん断接着強度試験の実施の様子を模式的に表した正面図および上面図である。具体的には、ガラス板S11の、プラスチック板S20に固着された端部と反対側の端部を固定部51により把持し、プラスチック板S20の、ガラス板S11に固着された端部と反対側の端部を可動部52により把持し、可動部52を200mm/分のせん断速度で引っ張るときの破壊強度を計測した。測定開始から数秒程度で破断するので、測定は各サンプルが破断した時点で終了とした。なお、固着剤S40の平面形状は25mm×25mmの正方形とし、厚さは0.8mmとした。また、固着剤S40としては、合成ゴムを主成分とする粘着剤(実験例1)、アクリルを主成分とする粘着剤(実験例2)、合成ゴムを主成分とする他の粘着剤(実験例3)、ポリオレフィンを主成分とする接着剤(実験例4)、両面テープ(実験例5)、ポリウレタンを主成分とする接着剤(実験例6)、2液型変成シリコーンを主成分とする接着剤(実験例7)をそれぞれ用いた。各実験例1~7の平均強度および硬化時間を表1に示す。
【0038】
【0039】
表1に示したように、実験例1~4,6~7の粘着剤または接着剤によれば、実験例5の両面テープと同等以上の固着強度が得られることがわかった。また、実験例1~4の粘着剤または接着剤を本発明の第2の固着剤として適用すると共に、実験例6,7の接着剤を本発明の第1の固着剤として適用することが可能であることが確認できた。すなわち、平均強度がより高い実験例6,7の接着剤を第1の固着剤として用いると共に、極めて硬化時間の短い実験例1~4のホットメルト型の粘着剤または接着剤を第2の固着剤として用いることにより、品質上の信頼性を担保しつつ製造工程全体での生産効率を向上させることができるモジュール(例えばガラスモジュール1)を実現できることが確認できた。具体的には実験例6,7の接着剤のみを用いた場合には例えば168時間、あるいは24時間の硬化時間を経なければ、第1の部材(例えばガラス部材10)と第2の部材(例えばブラケット20)との相対位置ずれが生じてしまうところ、本発明のように第1の固着剤と第2の固着剤とを併用することにより、第1の部材と第2の部材との相対位置精度を損なうことなく、出荷するまでの期間を短縮できることが確認できた。なお、表1に示したように、第2の固着剤としての実験例1~4のホットメルト型の粘着剤または接着剤における単位面積あたりの固着強度は、第1の固着剤としての実験例6,7の接着剤における単位面積あたりの固着強度の1/2~1/5程度である。したがって、第2の固着剤による全体の固着強度を第1の固着剤による全体の固着強度と同等にするには、第2の固着剤の塗布面積を第1の固着剤の塗布面積の2~5倍程度とすればよい。すなわち、第1の固着剤の塗布面積に対する第2の固着剤の塗布面積の比率を、単位面積当たりの第2の固着剤の固着強度に対する単位面積当たりの第1の固着剤の固着強度の比率以上とすればよい。さらに、本願発明では、両面テープ(実験例5)が不要となるので、両面テープの貼り付け作業の費用や両面テープの費用を削減できることがわかった。
【0040】
<6.その他の変形例>
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々の変形が可能である。例えば上記実施の形態等では、第1の部材として、自動車用のフロントウィンドウを例示したが、本発明の第1の部材はこれに限定されるものではなく、例えば自動車用のリアウィンドウなどであってもよい。また、第1の部材はガラス部材に限定されるものではなく、金属部材や樹脂部材であってもよい。また、第2の部材として、カメラを第1の部材であるガラス部材に取り付けるためのカメラブラケットを例示して説明するようにしたが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明の第2の部材は、例えば、カメラのかわりに、レーダー(radar)やLiDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)、あるいはソナー(sonar)などを第1の部材に取り付けるためのブラケットであってもよい。
【0041】
また、第2の固着剤の形成箇所は上記実施の形態等で説明したものに限定されず、種々の変形が可能である。例えば
図9Aに示した第6変形例としてのブラケット20Fや、
図9Bに示した第7変形例としてのブラケット20Gなどのように、外縁23に沿って第2固着剤40を塗布するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1…ガラスモジュール、10…ガラス部材、11…ガラス部分、12…黒色部分、20…ブラケット、22…表面、23…外縁、25,25A~25C,29…溝、28…突起、31,32…壁部、33…収容部、AR1…第1領域、AR2…第2領域。