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特開2022-7595フッ素系グラフト共重合体又はその塩、及びコーティング剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022007595
(43)【公開日】2022-01-13
(54)【発明の名称】フッ素系グラフト共重合体又はその塩、及びコーティング剤
(51)【国際特許分類】
   C08F 290/04 20060101AFI20220105BHJP
   C09D 151/00 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
C08F290/04
C09D151/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020110667
(22)【出願日】2020-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】吉川 諒
(72)【発明者】
【氏名】神戸 慎哉
【テーマコード(参考)】
4J038
4J127
【Fターム(参考)】
4J038CG041
4J038CG051
4J038CG141
4J038CG171
4J038CP071
4J038NA05
4J038NA07
4J038PC02
4J038PC03
4J038PC07
4J038PC08
4J038PC09
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4J127AA06
4J127BB021
4J127BB101
4J127BB221
4J127BC021
4J127BC031
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4J127BD061
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4J127BE11X
4J127BE211
4J127BE21X
4J127BE241
4J127BE24X
4J127BE251
4J127BE25X
4J127BE311
4J127BE31X
4J127BE331
4J127BE33X
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4J127BG08X
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4J127BG10Y
4J127BG131
4J127BG13X
4J127BG161
4J127BG16X
4J127BG171
4J127BG17X
4J127BG17Y
4J127BG271
4J127BG27Y
4J127BG331
4J127BG33X
4J127CB121
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4J127CB163
4J127CC022
4J127CC151
4J127CC233
4J127DA52
4J127DA61
4J127FA10
4J127FA56
(57)【要約】
【課題】水に溶解可能であり、かつ撥水・撥油性及び耐汚染性といったフッ素特性、帯電防止性、並びに耐久性をバランス良く発現する塗膜を形成できるフッ素系グラフト共重合体又はその塩を提供すること。
【解決手段】下記の(A)、(B)及び(C)を含む単量体成分を重合して得られるフッ素系グラフト共重合体又はその塩とする。(A)アミノ基を有する重合性不飽和単量体。(B)カルボキシル基を有する重合性不飽和単量体。(C)末端に重合性不飽和官能基を有するフッ素系マクロモノマー。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)、(B)及び(C)を含む単量体成分を重合して得られるフッ素系グラフト共重合体又はその塩。
(A)アミノ基を有する重合性不飽和単量体。
(B)カルボキシル基を有する重合性不飽和単量体。
(C)末端に重合性不飽和官能基を有するフッ素系マクロモノマー。
【請求項2】
前記単量体成分は、前記(C)フッ素系マクロモノマーを10~60質量%含む、請求項1に記載のフッ素系グラフト共重合体又はその塩。
【請求項3】
前記単量体成分は、前記(A)単量体を5~50質量%、及び前記(B)単量体を5~40質量%含む、請求項1又は2に記載のフッ素系グラフト共重合体又はその塩。
【請求項4】
前記(C)フッ素系マクロモノマーは、架橋性官能基含有単量体に由来する構造単位を含み、
前記架橋性官能基含有単量体は、環状エステル由来の構造又はポリエーテル構造を有する炭素数10以上の単量体を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のフッ素系グラフト共重合体又はその塩。
【請求項5】
前記環状エステル由来の構造を有する単量体における、環状エステルの平均付加モル数が2モル以上である、請求項4に記載のフッ素系グラフト共重合体又はその塩。
【請求項6】
前記(C)フッ素系マクロモノマーにおける架橋性官能基の含有量が、0.2~2.0meq/gである、請求項4又は5に記載のフッ素系グラフト共重合体又はその塩。
【請求項7】
前記(C)フッ素系マクロモノマーは、フッ素原子を有する単量体に由来する構造単位を、前記(C)フッ素系マクロモノマーの全構造単位に対して20~95質量%含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のフッ素系グラフト共重合体又はその塩。
【請求項8】
前記(C)フッ素系マクロモノマーの重量平均分子量は、4000~23000である、請求項1~7のいずれか1項に記載のフッ素系グラフト共重合体又はその塩。
【請求項9】
下記の(A)、(B)及び(C)を含む単量体成分を重合する工程を含む、フッ素系グラフト共重合体又はその塩の製造方法。
(A)アミノ基を有する重合性不飽和単量体。
(B)カルボキシル基を有する重合性不飽和単量体。
(C)末端に重合性不飽和官能基を有するフッ素系マクロモノマー。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載のフッ素系グラフト共重合体又はその塩を含有する、コーティング剤。
【請求項11】
更に架橋剤を含有する、請求項10に記載のコーティング剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素系グラフト共重合体又はその塩、及びコーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
基材表面に撥水・撥油性及び耐汚染性を付与するコーティング剤において、フッ素系マクロモノマーと他のモノマーとを共重合して得られるグラフト共重合体を用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、主鎖に架橋性官能基を有し、側鎖は架橋性官能基が導入されたフッ素系重合体からなるフッ素系グラフト共重合体、及び当該フッ素系グラフト共重合体を含有するコーティング液が開示されている。特許文献1では、共重合体におけるグラフト鎖の部分にフッ素セグメントを配置することにより、フッ素系グラフト共重合体のフッ素含有量をより低減して低コスト化を図りつつ、撥水・撥油性及び耐汚染性等のフッ素による特性を十分に発現する塗膜を得るようにしている。また、特許文献1では、溶剤としてメチルエチルケトンを用いてコーティング液を調製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-177494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
環境保護の観点から、塗料の水性化が検討されている。しかしながら、一般に、重合体を水性化すると、塗膜の撥水性や強靭性が低下する傾向がある。また、コーティング剤により形成された塗膜には、撥水・撥油性及び強靭性に加え、耐汚染性や、静電気を発生しにくい性質を示すことが求められる。
【0005】
引用文献1に記載のフッ素系グラフト共重合体は、フッ素含有量を低減しても撥水・撥油性を高いレベルで発現でき、良好なフッ素特性を示すとともに、主鎖及び側鎖に導入された架橋性官能基によって強靭な塗膜を形成可能である。しかしながら、引用文献1に記載のフッ素系グラフト共重合体は水に不溶であり、水性コーティング剤として使用することが困難である。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、水に溶解可能であり、かつ撥水・撥油性及び耐汚染性といったフッ素特性、帯電防止性、並びに耐久性をバランス良く発現する塗膜を形成できるフッ素系グラフト共重合体又はその塩を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討し、特定の官能基を主鎖に有し、フッ素セグメントを側鎖に有するグラフト共重合体を用いることにより本発明を完成したものである。本発明によれば以下の手段が提供される。
【0008】
〔1〕 下記の(A)、(B)及び(C)を含む単量体成分を重合して得られるフッ素系グラフト共重合体又はその塩。
(A)アミノ基を有する重合性不飽和単量体。
(B)カルボキシル基を有する重合性不飽和単量体。
(C)末端に重合性不飽和官能基を有するフッ素系マクロモノマー。
〔2〕 前記単量体成分は、前記(C)フッ素系マクロモノマーを10~60質量%含む、上記〔1〕のフッ素系グラフト共重合体又はその塩。
〔3〕 前記単量体成分は、前記(A)単量体を5~50質量%、及び前記(B)単量体を5~40質量%含む、上記〔1〕又は〔2〕のフッ素系グラフト共重合体又はその塩。
〔4〕 前記(C)フッ素系マクロモノマーは、架橋性官能基含有単量体に由来する構造単位を含み、前記架橋性官能基含有単量体は、環状エステル由来の構造又はポリエーテル構造を有する炭素数10以上の単量体を含む、上記〔1〕~〔3〕のいずれか1のフッ素系グラフト共重合体又はその塩。
〔5〕 前記環状エステル由来の構造を有する単量体における、環状エステルの平均付加モル数が2モル以上である、上記〔4〕のフッ素系グラフト共重合体又はその塩。
〔6〕 前記(C)フッ素系マクロモノマーにおける架橋性官能基の含有量が、0.2~2.0meq/gである、上記〔4〕又は〔5〕のフッ素系グラフト共重合体又はその塩。
〔7〕 前記(C)フッ素系マクロモノマーは、フッ素原子を有する単量体に由来する構造単位を、前記(C)フッ素系マクロモノマーの全構造単位に対して20~95質量%含む、上記〔1〕~〔6〕のいずれか1のフッ素系グラフト共重合体又はその塩。
〔8〕 前記(C)フッ素系マクロモノマーの重量平均分子量は、4000~23000である、上記〔1〕~〔7〕のいずれか1のフッ素系グラフト共重合体又はその塩。
〔9〕 上記の(A)、(B)及び(C)を含む単量体成分を重合する工程を含む、フッ素系グラフト共重合体又はその塩の製造方法。
〔10〕 上記〔1〕~〔8〕のいずれか1のフッ素系グラフト共重合体又はその塩を含有する、コーティング剤。
〔11〕 更に架橋剤を含有する、上記〔10〕のコーティング剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、撥水・撥油性及び耐汚染性等のフッ素特性、帯電防止性、並びに耐久性をバランス良く発現する塗膜を形成することができる。また、本発明のフッ素系グラフト共重合体は水に溶解可能であることから、重合体成分を媒体中に含むコーティング剤を調製する際に有機溶媒を使用しなくて済む。このため、本発明によれば、環境に優しいコーティング剤を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳しく説明する。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基を意味する。
【0011】
《フッ素系グラフト共重合体又はその塩》
本発明のフッ素系グラフト共重合体又はその塩(以下、「本グラフト共重合体」ともいう)は、下記に示す(A)、(B)及び(C)を含む単量体成分を重合することにより得ることができる。
(A)アミノ基を有する重合性不飽和単量体。
(B)カルボキシル基を有する重合性不飽和単量体。
(C)末端に重合性不飽和官能基を有するフッ素系マクロモノマー。
以下、各単量体について説明する。
【0012】
<(A)単量体>
アミノ基を有する重合性不飽和単量体(以下、「(A)単量体」ともいう)としては、例えば、1級アミノ基含有ビニル系単量体、2級アミノ基含有ビニル系単量体、3級アミノ基含有ビニル系単量体又はこれらの塩、及び3級アミノ基含有ビニル系単量体と4級化剤とを反応させてなるビニル系単量体の第4級アンモニウム塩等が挙げられる。(A)単量体としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。(A)単量体の好ましい例としては、下記式(1)で表される化合物又はその塩が挙げられる。
CH=C(R)-CO-X-(CH-X …(1)
(式(1)中、Rは、水素原子又はメチル基である。Xは、-O-又は-NH-である。Xは、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基又は第4級アンモニウム塩構造を含む基である。aは1~5の整数である。)
【0013】
(A)単量体の具体例としては、1級アミノ基含有ビニル系単量体として、2-アミノエチル(メタ)アクリレート、3-アミノプロピル(メタ)アクリレート、2-アミノエチル(メタ)アクリルアミド、3-アミノプロピル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。2級アミノ基含有ビニル系単量体としては、2-(N-メチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2-(N-エチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2-(N-メチルアミノ)エチル(メタ)アクリルアミド、2-(N-エチルアミノ)エチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。3級アミノ基含有ビニル系単量体としては、2-(ジメチルアミノ)メチル(メタ)アクリレート、2-(ジエチルアミノ)メチル(メタ)アクリレート、2-(ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2-(ジエチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、3-(ジメチルアミノ)プロピル(メタ)アクリレート、3-(ジメチルアミノ)プロピル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。3級アミノ基含有ビニル系単量体と4級化剤とを反応させてなるビニル系単量体の第4級アンモニウム塩は、塩酸塩、硫酸塩等の無機酸塩であってもよいし、酢酸塩等の有機酸塩であってもよい。また、反応させる4級化剤としては、メチルクロライド、ベンジルクロライド、ジメチル硫酸、エピクロルヒドリン等が挙げられる。これらのうち、3級アミノ基含有ビニル系単量体又はその塩を好ましく使用することができる。
【0014】
本グラフト共重合体の製造に際し、(A)単量体の使用量は、本グラフト共重合体の製造に用いる単量体成分の全量に対して、1~60質量%であることが好ましい。(A)単量体の使用量が1質量%以上であると、本グラフト共重合体の水への溶解性を十分に高くでき、より強靭かつ帯電防止性に優れたコーティング層を形成できる。一方、(A)単量体の使用量が60質量%以下であると、本グラフト共重合体に対して(C)フッ素系マクロモノマーに由来する構造単位を十分に導入でき、得られる塗膜において、撥水・撥油性及び耐汚染性等のフッ素特性を十分に高くできる。こうした観点から、(A)単量体の使用量の下限については、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上が更に好ましい。(A)単量体の使用量の上限については、50質量%以下がより好ましく、40質量%以下が更に好ましい。(A)単量体の使用量の範囲は、単量体成分の全量に対して、5~50質量%がより好ましく、10~40質量%が更に好ましい。
【0015】
<(B)単量体>
カルボキシル基を有する重合性不飽和単量体(以下、「(B)単量体」ともいう)としては、カルボキシル基含有ビニル系単量体を使用でき、その具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、ケイヒ酸、無水マレイン酸、イタコン酸モノブチル、マレイン酸モノブチル、シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。(B)単量体の炭素数は特に限定されないが、好ましくは20以下であり、より好ましくは10以下であり、更に好ましくは6以下である。(B)単量体としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
本グラフト共重合体の重合に際し、(B)単量体の使用量は、本グラフト共重合体の製造に用いる単量体成分の全量に対して、1~50質量%であることが好ましい。(B)単量体の使用量が1質量%以上であることにより、本グラフト共重合体の水への溶解性を十分に高くでき、かつより強靭なコーティング層を形成できる。一方、(B)単量体の使用量が50質量%以下であることにより、本グラフト共重合体に(C)フッ素系マクロモノマーに由来する構造単位を十分に導入でき、塗膜のフッ素特性を十分に高くできる。こうした観点から、(B)単量体の使用量の下限については、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上が更に好ましい。(B)単量体の使用量の上限については、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下が更に好ましい。(B)単量体の使用量の範囲は、単量体成分の全量に対して、5~40質量%がより好ましく、10~30質量%が更に好ましい。
【0017】
本グラフト共重合体の製造に用いる(A)単量体と(B)単量体との比率は、質量比で、(A)単量体/(B)単量体=10/90~90/10であることが好ましい。(A)単量体と(B)単量体との比率が上記範囲であると、本グラフト共重合体の水への溶解性、及び塗膜の耐久性の改善効果を十分に得ることができる点で好ましい。(A)単量体/(B)単量体は、より好ましくは15/85~85/15であり、更に好ましくは20/80~80/20である。
【0018】
<(C)フッ素系マクロモノマー>
(C)フッ素系マクロモノマーは、末端に重合性不飽和官能基を有するフッ素原子含有の高分子量モノマーである。(C)フッ素系マクロモノマーを(A)単量体及び(B)単量体と共重合することにより、側鎖にフッ素原子を有するグラフト共重合体を得ることができる。また、フッ素セグメントを側鎖に有する構造とすることにより、共重合体がフッ素特性を有効に示すことができる。これにより、フッ素含有量が比較的少なくても、フッ素系コーティング剤として優れた性能を発揮することができる。すなわち、本グラフト共重合体によれば、低コスト化を図りながら、撥水・撥油性及び耐汚染性に優れたコーティング層を与えるコーティング剤を得ることができる。
【0019】
(C)フッ素系マクロモノマーが有する重合性不飽和官能基は、共重合性の観点から、ビニル基を含む官能基が好ましく、(メタ)アクリロイル基又はビニルフェニル基がより好ましく、(メタ)アクリロイル基が更に好ましい。(C)フッ素系マクロモノマーは、フッ素原子を有する単量体(以下、「フッ素含有単量体」ともいう)を含む単量体成分を重合することにより得ることができる。
【0020】
(フッ素含有単量体)
フッ素含有単量体は、ビニル系単量体であることが好ましい。フッ素含有単量体の具体例としては、トリフルオロメチル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘプタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ノナフルオロブチル(メタ)アクリレート、ウンデカフルオロペンチル(メタ)アクリレート、トリデカフルオロヘキシル(メタ)アクリレート、ペンタデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、及び下記式(2)で表される化合物等の(メタ)アクリル系単量体;モノフルオロエチレン、ジフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン等のフルオロエチレン類;フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、ヘキサフルオロプロピレン等が挙げられる。
CH=C(R)-COO-(CH-(CF-Z …(2)
(式(2)中、Rは、水素原子又はメチル基である。Zは、水素原子又はフッ素原子である。mは1~4の整数である。nは1~20の整数である。)
【0021】
上記式(2)において、Zはフッ素原子であることが好ましい。mは、入手容易性の観点から、1又は2が好ましい。nは、フッ素特性を十分に発現するコーティング層を得る観点から、2以上が好ましく、4以上がより好ましい。nの上限については、化合物の安全性、水への溶解性及び他の成分との相溶性を確保する観点から、12以下が好ましく、10以下がより好ましく、8以下が更に好ましい。
【0022】
上記式(2)で表される化合物の具体例としては、商品名で、CHEMINOX FAAC-4、同FAAC-6、同FAMAC-4、同FAMAC-6(以上、ユニマテック社製);R-1420、R-1620、R-5410、R-5610、M-1420、M-1620、M-5410、M-5610(以上、ダイキン社製);ライトアクリレートFA-108(共栄社化学社製);ビスコート-3FM、同-8F、同-8FM(以上、大阪有機化学工業社製)等が挙げられる。
【0023】
フッ素含有単量体としては、これらのうち、共重合性及び取扱い性の観点から(メタ)アクリル系単量体が好ましく、入手のし易さ及びコストの点から、上記式(2)で表される化合物がより好ましい。また、フッ素の特性が現れ易くなり、耐久性も高くなる傾向があることから、フッ素含有単量体としてはアクリレート化合物をより好ましく使用することができる。
【0024】
(架橋性官能基含有単量体)
(C)フッ素系マクロモノマーは、フッ素含有単量体に由来する構造単位と共に、架橋性官能基を有する単量体(以下、「架橋性官能基含有単量体」ともいう)に由来する構造単位を含むことが好ましい。(C)フッ素系マクロモノマーに架橋性官能基を導入することにより、耐久性により優れた強靭なコーティング層を得ることができる。架橋性官能基は、架橋反応の制御のしやすさ、及び架橋後のコーティング層の物性の観点から、水酸基、カルボキシル基又は(メタ)アクリロイル基が好ましい。これらの中でも、水酸基又はカルボキシル基がより好ましく、水酸基が特に好ましい。
【0025】
架橋性官能基含有単量体は、架橋反応を十分に行わせる観点から、重合性不飽和官能基とは反対側の末端の位置(すなわちω位)に架橋性官能基を有していることが好ましい。より具体的には、架橋性官能基含有単量体は、ω位に架橋性官能基を有する炭素数5以上の単量体を含むことがより好ましく、ω位に架橋性官能基を有する炭素数10以上の単量体(以下、「単量体M1」ともいう)を含むことが特に好ましい。単量体M1により側鎖(枝ポリマー)に架橋性官能基が導入された場合、枝ポリマーから十分に離れた位置に架橋点が存在することにより、フッ素セグメントの表面配向が妨げられにくく、優れた撥水・撥油性を確保できる点で好適である。
【0026】
単量体M1は、耐久性の高いコーティング層を得ることができる点で、環状エステル由来の構造又はポリエーテル構造を有していることが好ましい。このような単量体M1としては、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに環状エステルが付加された化合物(以下、「環状エステル付加体」ともいう)、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート類、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。単量体M1は、炭素数12以上40以下がより好ましく、炭素数12以上30以下が更に好ましい。
【0027】
環状エステル付加体の具体例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートに、ε-カプロラクトン、δ-バレロラクトン等の環状エステルを付加した化合物が挙げられる。当該化合物の市販品としては、商品名でプラクセルFA1DDM、同FA2D、同FA3D、同FA10L、同FM2D、同FM3及び同FM5(以上、ダイセル社製)が挙げられる。ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート類の具体例としては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びポリエチレン/ポリプロピレンブロック体の(メタ)アクリレート化物等が挙げられる。ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレートの具体例としては、商品名でアロニックスM-5300(東亞合成社製)が挙げられる。
【0028】
また、(C)フッ素系マクロモノマーの製造に際しては、架橋性官能基含有単量体として炭素数10未満の単量体を使用してもよい。炭素数10未満の単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート及び3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル類等が挙げられる。
【0029】
上記のうち、耐久性の高いコーティング層を得ることができる点で、架橋性官能基含有単量体は、環状エステル由来の構造又はポリエーテル構造を有する炭素数10以上の単量体を含むことが好ましく、環状エステル由来の構造を有する炭素数10以上の単量体を含むことがより好ましい。環状エステル由来の構造を有する炭素数10以上の単量体において、環状エステルの平均付加モル数は、2モル以上であることが好ましく、2~4モルであることがより好ましい。なお、架橋性官能基含有単量体としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0030】
(他の単量体)
(C)フッ素系マクロモノマーの製造に際しては、フッ素特性を損なわない範囲で、フッ素含有単量体及び架橋性官能基含有単量体とは異なる単量体(以下、「他の単量体」ともいう)を併用してもよい。他の単量体としては、フッ素含有単量体、架橋性官能基含有単量体と共重合可能な単量体であれば特に限定されない。
【0031】
他の単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸アミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、及び(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸tert-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロドデシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル及び(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル等の(メタ)アクリル酸の脂肪族環式エステル類;メタクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシメチル、(メタ)アクリル酸2-フェノキシエチル及び(メタ)アクリル酸3-フェノキシプロピル等の(メタ)アクリル酸の芳香族エステル類;スチレン、α-メチルスチレン及びp-メチルスチレン等のスチレン類;が挙げられる。他の単量体としては、これらの1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。他の単量体は、アミノ基を有する単量体を含まないことが好ましい。
【0032】
(フッ素系マクロモノマーの製造)
(C)フッ素系マクロモノマーを製造する方法は特に限定されないが、共重合性の観点から、ラジカル重合法によることが好ましい。(C)フッ素系マクロモノマーは、例えば、複数種の活性水素基を有する連鎖移動剤の存在下において、溶液重合法等の公知のラジカル重合法を採用して上記単量体を重合することにより、活性水素基を重合末端に有する重合体を得た後、得られた重合体と、重合性不飽和官能基を有し且つ活性水素基と反応し得る化合物(以下、「重合性末端付与化合物」ともいう)とを反応させることにより製造することができる。
【0033】
溶液重合法による場合、有機溶媒及び単量体を反応器に仕込み、重合開始剤を添加して共重合することにより、目的とする重合体を得ることができる。単量体を含む各原料の仕込み方法は、全ての原料を一括して仕込むバッチ式の初期一括仕込みでもよく、少なくとも1種の原料を連続的に反応器中に供給するセミ連続仕込みでもよく、全原料を連続供給し、同時に反応器から連続的に生成樹脂を抜き出す連続重合方式でもよい。
【0034】
溶液重合法において使用する有機溶媒は、有機炭化水素系化合物が好ましい。有機溶媒の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン及びアニソール等の芳香族化合物;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル及び酢酸ブチル等のエステル化合物;アセトンメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン及びシクロヘキサノン等のケトン化合物;テトラヒドロフラン及びジオキサン等の環状エーテル類;ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、アルコール等が挙げられる。有機溶媒としては、これらの1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
重合開始剤としては、アゾ化合物、有機過酸化物及び過硫酸塩等の公知のラジカル重合開始剤を使用することができる。これらの中でも、安全上取り扱いやすく、ラジカル重合時の副反応が起こりにくい点で、アゾ化合物が好ましい。アゾ化合物の具体例としては、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)等が挙げられる。重合開始剤としては、1種のみ使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
重合開始剤の使用量は、特に制限されないが、重合反応を安定的に行う観点から、(C)フッ素系マクロモノマーの重合に使用する単量体の全量に対して、0.01質量%以上とすることが好ましく、0.05質量%以上とすることがより好ましい。重合開始剤の使用量の上限については、(C)フッ素系マクロモノマーの重合に使用する単量体の全量に対して、10質量%以下とすることが好ましく、5質量%以下とすることがより好ましい。
【0037】
連鎖移動剤としては、公知の化合物を使用できるが、例えば、2-メルカプトエタノール、3-メルカプトプロパノール、チオグリセリン等の水酸基含有チオール化合物;チオグリコール酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、α-メルカプトイソ酪酸、メルカプトプロピオン酸メチル、メルカプトプロピオン酸エチル、チオ酢酸、チオリンゴ酸、チオサリチル酸等のカルボキシル基含有チオール化合物;等が挙げられる。(C)フッ素系マクロモノマーの製造に際し、連鎖移動剤として水酸基含有チオール化合物を使用することにより、水酸基を重合末端に導入することができる。また、連鎖移動剤としてカルボキシル基含有チオール化合物を使用することにより、カルボキシル基を重合末端に導入することができる。また更に、重合反応を連鎖移動剤の存在下で実施することにより、マクロモノマーの分子量を調整することができる。連鎖移動剤の使用量は、特に制限されないが、(C)フッ素系マクロモノマーの重合に使用する単量体の全量に対して、例えば0.01~5質量%である。連鎖移動剤としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
上記重合反応において、フッ素含有単量体の使用量は、(C)フッ素系マクロモノマーの重合に使用する単量体の全量に対して、20質量%以上とすることが好ましい。フッ素含有単量体の使用量が20質量%以上であると、撥水性、撥油性及び耐汚染性等のフッ素特性を十分に発現する塗膜を得ることができる。フッ素含有単量体の使用量は、(C)フッ素系マクロモノマーの重合に使用する単量体の全量に対して、30質量%以上とすることがより好ましく、40質量%以上とすることがより更に好ましい。フッ素含有単量体の使用量の上限については、耐久性の高いコーティング層を得る観点から、(C)フッ素系マクロモノマーの重合に使用する単量体の全量に対して、99質量%以下とすることが好ましく、95質量%以下とすることがより好ましく、85質量%以下とすることが更に好ましい。フッ素含有単量体の使用量の範囲は、(C)フッ素系マクロモノマーの重合に使用する全単量体に対して、20~99質量%とすることが好ましく、20~95質量%とすることがより好ましく、40~85質量%とすることが更に好ましい。
【0039】
架橋性官能基含有単量体の使用量は、(C)フッ素系マクロモノマーの重合に使用する単量体の全量に対して、1質量%以上とすることが好ましい。架橋性官能基含有単量体の使用量が1質量%以上であると、本グラフト共重合体を用いて形成される塗膜の耐久性を十分に高くできる。架橋性官能基含有単量体の使用量は、(C)フッ素系マクロモノマーの重合に使用する単量体の全量に対して、2質量%以上とすることがより好ましく、5質量%以上とすることが更に好ましく、10質量%以上とすることがより更に好ましい。架橋性官能基含有単量体の使用量の上限については、フッ素特性を十分に確保する観点から、(C)フッ素系マクロモノマーの重合に使用する全単量体に対して、80質量%以下とすることが好ましく、70質量%以下とすることがより好ましく、60質量%以下とすることが更に好ましい。架橋性官能基含有単量体の使用量の範囲は、(C)フッ素系マクロモノマーの重合に使用する単量体の全量に対して、1~80質量%とすることが好ましく、5~80質量%とすることがより好ましく、15~60質量%とすることが更に好ましい。
【0040】
架橋性官能基含有単量体のうち単量体M1(より好ましくは、環状エステル由来の構造又はポリエーテル構造を有する単量体)の使用量は、架橋性官能基含有単量体の全量に対して、10質量%以上とすることが好ましく、15質量%以上とすることがより好ましく、20質量%以上とすることが更に好ましい。
【0041】
なお、本グラフト共重合体を用いて得られる塗膜の耐久性を高くする観点から、架橋性官能基含有単量体の全量に対し、炭素数10未満の単量体の使用量は、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下が更に好ましく、1質量%以下がより更に好ましい。
【0042】
他の単量体の使用量は、本発明の効果を十分に得る観点から、(C)フッ素系マクロモノマーの重合に使用する全単量体に対して、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下であり、更に好ましくは20質量%以下であり、より更に好ましくは10質量%以下である。
【0043】
重合反応における反応温度は、好ましくは40~150℃であり、より好ましくは45~110℃である。反応温度が40℃以上であると、重合反応を円滑に進めることができ、150℃以下であると、副反応を抑制できるとともに、使用できる重合開始剤や有機溶媒に関する制限が緩和される点で好ましい。反応時間は、使用する単量体等に応じて適宜設定され得るが、1~48時間が好ましく、3~24時間がより好ましい。
【0044】
(C)フッ素系マクロモノマーを得るには、続いて、上記重合反応により得られる、活性水素基を重合末端に有する重合体と、重合性末端付与化合物とを反応させる。重合性末端付与化合物としては、活性水素基と反応可能な官能基と重合性不飽和官能基とを有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリロイル基を有するエポキシ化合物、ビニルフェニル基を有するエポキシ化合物、(メタ)アクリロイル基を有するカルボン酸、ビニルフェニル基を有するカルボン酸、(メタ)アクリロイル基を有するイソシアネート化合物等が挙げられる。重合性末端付与化合物としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を使用してもよい。
【0045】
活性水素基を重合末端に有する重合体と、重合性末端付与化合物との反応は、好ましくは有機溶媒中、必要に応じて適当な触媒の存在下で実施される。反応に使用する有機溶媒としては、重合溶媒として使用する有機溶媒として例示した溶媒が挙げられる。反応温度及び反応時間は、反応に使用する化合物等に応じて適宜設定することができるが、例えば、40~170℃、1~24時間の条件で実施することができる。本グラフト共重合体を得るための以下の重合反応では、上記反応により得られた(C)フッ素系マクロモノマーを、有機溶媒に溶解された溶液として用いてもよいし、加熱減圧処理等により有機溶媒を留去して用いてもよい。
【0046】
(C)フッ素系マクロモノマーの重量平均分子量(Mw)は、4000以上であることが好ましい。Mwが4000以上であると、フッ素特性を十分に高くできる。(C)フッ素系マクロモノマーのMwは、より好ましくは4500以上であり、更に好ましくは5000以上である。また、(C)フッ素系マクロモノマーのMwの上限については、23000以下であることが好ましい。Mwが23000を超えると、本グラフト共重合体の重合性が低下する場合がある。また、側鎖が導入されないリニア型重合体の割合が増加することに起因して、フッ素特性が効果的に表れない場合がある。Mwの上限については、15000以下がより好ましく、10000以下が更に好ましい。(C)フッ素系マクロモノマーのMwの範囲は、好ましくは4000~23000であり、より好ましくは4500~20000であり、更に好ましくは5000~15000であり、より更に好ましくは5000~10000である。なお、本明細書において(C)フッ素系マクロモノマーの重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の値である。
【0047】
(C)フッ素系マクロモノマーにおいて、架橋性官能基の含有量は、0.1~4.0meq/gの範囲であることが好ましい。架橋性官能基の含有量が0.1meq/g以上であると、本グラフト共重合体を用いて形成される塗膜の耐久性を十分に高くできる。また、架橋性官能基の含有量が4.0meq/g以下であると、塗膜表面の耐汚染性を十分に確保できる。こうした観点から、架橋性官能基の含有量は、0.2meq/g以上がより好ましく、0.3meq/g以上が更に好ましく、0.4meq/g以上がより更に好ましく、0.5meq/g以上が特に好ましい。架橋性官能基の含有量の上限については、3.0meq/g以下がより好ましく、2.0meq/g以下が更に好ましく、1.0meq/g以下がより更に好ましく、0.8meq/g以下が特に好ましい。架橋性官能基の含有量の範囲は、0.1~3.0meq/gがより好ましく、0.2~2.0meq/gが更に好ましく、0.2~1.0meq/gがより更に好ましい。なお、架橋性官能基の含有量は、単量体の仕込み比率から算出することができる。
【0048】
本グラフト共重合体の製造に際し、(C)フッ素系マクロモノマーの使用量は、本グラフト共重合体の単量体成分の全量に対して、5~75質量%であることが好ましい。(C)フッ素系マクロモノマーの使用量が5質量%以上であると、本グラフト共重合体において、撥水・撥油性及び耐汚染性等のフッ素特性を十分に高くでき、75質量%以下であると、水への溶解性を高くできる。こうした観点から、(C)フッ素系マクロモノマーの使用量の下限については、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上が更に好ましく、20質量%以上がより更に好ましく、30質量%以上が特に好ましい。(C)フッ素系マクロモノマーの使用量の上限については、70質量%以下がより好ましく、65質量%以下が更に好ましく、60質量%以下が特に好ましい。また、(C)フッ素系マクロモノマーの使用量の範囲は、単量体成分の全量に対して、10~70質量%がより好ましく、10~60質量%が更に好ましい。
【0049】
<(D)単量体>
本グラフト共重合体の製造に用いる単量体成分は、(A)単量体、(B)単量体及び(C)フッ素系マクロモノマーとは異なる単量体(以下、「(D)単量体」ともいう)を更に含んでいてもよい。(D)単量体としては、(A)単量体、(B)単量体及び(C)フッ素系マクロモノマーと共重合可能な単量体であれば特に限定されない。(D)単量体としては、(C)フッ素系マクロモノマーの製造に使用してもよい他の単量体として例示した化合物が挙げられる。本グラフト共重合体のガラス転移温度を高くでき、強度の高い塗膜を得ることができる点で、(D)単量体は、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソボニル及びスチレン類よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、(メタ)アクリル酸メチル及び(メタ)アクリル酸イソボニルよりなる群から選択される少なくとも1種が特に好ましい。なお、本グラフト共重合体は、主鎖にフッ素原子を実質的に有しない。具体的には、(D)単量体は、フッ素原子を有する単量体を含まないことが好ましい。
【0050】
本グラフト共重合体の重合に際し、(D)単量体の使用量は、本グラフト共重合体の製造に使用する単量体成分の全量に対して、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることが更に好ましい。(D)単量体の使用量の下限については、本グラフト共重合体の製造に使用する単量体成分の全量に対して、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましい。(D)単量体としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0051】
<フッ素系グラフト共重合体の製造>
本グラフト共重合体を製造する方法は特に限定されないが、共重合性の観点から、ラジカル重合法によることが好ましい。本グラフト共重合体は、溶液重合法等の公知のラジカル重合法を採用して、上述した(A)単量体、(B)単量体及び(C)フッ素系マクロモノマーを含む単量体成分を重合することにより得ることができる。重合反応に使用する溶媒、重合開始剤等の詳細については、(C)フッ素系マクロモノマーの製造方法についての上記説明を適用することができる。重合反応により得られた本グラフト共重合体は、有機溶媒に溶解された溶液としてそのままコーティング剤の調製に用いられてもよいし、加熱減圧処理等により有機溶媒が留去されて用いられてもよい。
【0052】
本グラフト共重合体が塩の形態である場合、本グラフト共重合体が有するカチオン性官能基及びアニオン性官能基の対イオンの種類は特に限定されない。対イオンの具体例としては、アニオン性の対イオンとして、例えば塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン等を;カチオン性の対イオンとして、例えばナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン等を;それぞれ挙げることができる。
【0053】
本グラフト共重合体の重量平均分子量(Mw)は、10000以上であることが好ましい。Mwが10000以上であると、本グラフト共重合体を用いて得られる塗膜の強度を十分に高くでき、耐久性を高くできる。本グラフト共重合体のMwは、より好ましくは12000以上であり、更に好ましくは15000以上である。本グラフト共重合体のMwの上限については、100000以下であることが好ましい。Mwが100000以下であると、塗膜を形成するための溶液の粘度が高くなりすぎず、塗工性を良好にすることができる。こうした観点から、Mwの上限については、80000以下がより好ましく、50000以下が更に好ましい。本グラフト共重合体のMwの範囲は、好ましくは10000~100000であり、より好ましくは15000~50000である。なお、本明細書において本グラフト共重合体のMwは、GPCにより測定したポリスチレン換算の値である。
【0054】
《コーティング剤》
本発明のコーティング剤(以下、「本コーティング剤」ともいう)は、上記で得られた本グラフト共重合体を含有する。なお、本コーティング剤に含有される本グラフト共重合体は、1種のみでもよく、2種以上であってもよい。また、本コーティング剤は、上記で得られた本グラフト共重合体のみからなるものであってもよいが、必要に応じて、本グラフト共重合体とは異なる成分を更に含有してもよい。
【0055】
(架橋剤)
本コーティング剤は、必要に応じて、フッ素系グラフト共重合体に加えて、更に架橋剤を含むものとすることができる。使用する架橋剤は、本グラフト共重合体に導入された架橋性官能基と架橋反応し得るものであれば特に限定されない。架橋剤としては、水溶性化合物を好ましく使用でき、例えば、エポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、アミノ樹脂系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、ヒドラジド系架橋剤、及びオキサゾリン系架橋剤等が挙げられる。これらの中でも、反応性及び制御のし易さ等から、エポキシ系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、及びイソシアネート系架橋剤よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0056】
架橋剤の具体例としては、エポキシ系架橋剤として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ系樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂、及び水添ビスフェノール型エポキシ樹脂等のビスフェノール型のエポキシ樹脂;エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルアミン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン及び1,3-ビス(N,N’-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0057】
イソシアネート系架橋剤の具体例としては、p-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニレンジイソシアネート、1,5-オクチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,3-シクロペンタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチル2,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル2,6-シクロヘキサンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、1,4-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート及びカルボジイミド変性4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
【0058】
アミノ樹脂系架橋剤としては、アルキルエーテル化メラミン、アルキルエーテル化尿素樹脂及びアルキルエーテル化ベンゾグアナミン等が挙げられる。これらのうち、アルキルエーテル化メラミンとしては、ヘキサメトキシメチロールメラミン、ヘキサブトキシメチロールメラミン等の完全アルキルエーテル化メラミン、アルキルエーテル化度が5以下の部分アルキルエーテル化メラミン等が挙げられる。また、アルキルエーテル化メラミンの2量体、3量体等の多量体も使用できる。
【0059】
カルボジイミド系架橋剤としては、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、ポリカルボジイミド樹脂等が挙げられる。ポリカルボジイミド樹脂としては、市販品で、カルボジライトV-02、同V-02-L2、同SV-02、同V-04、同V-10、同SW-12G(以上、日清紡ケミカル(株)社製)等が挙げられる。
【0060】
架橋剤の配合量は、本グラフト共重合体が有する架橋性官能基量に対して0.1~10当量の範囲となる量が好ましく、0.2~5当量となる量がより好ましく、0.5~2当量となる量が更に好ましい。本グラフト共重合体の架橋反応は、使用する架橋性官能基及び架橋剤の種類等に応じて適宜設定され得るが、例えば80~200℃程度の加熱条件で実施することができる。また、架橋反応を促進させる目的で、架橋剤とともに公知の硬化触媒(例えば有機塩基等)を配合してもよい。
【0061】
架橋性官能基が重合性ビニル基である場合には、必要に応じて光重合開始剤を添加することにより、活性エネルギー線硬化型のコーティング剤とすることができる。光重合開始剤を配合する場合において、光重合開始剤としては、ベンゾイン及びそのアルキルエーテル類、アセトフェノン類、アントラキノン類、チオキサントン類、ケタール類、ベンゾフェノン類、キサントン類、アシルホスフィンオキシド類、並びにα-ジケトン類等が挙げられる。これらの中でも、ベンゾフェノン類及びチオキサントン類が、重合速度が速い点で好ましい。光重合開始剤の配合量は、本グラフト共重合体100質量部に対して、0.01~10質量部が好ましい。
【0062】
また、活性エネルギー線による感度を向上させることを目的として、光重合開始剤と共に、光増感剤を使用することもできる。光増感剤としては、安息香酸系及びアミン系光増感剤等が挙げられる。ここで、活性エネルギー線としては、可視光線、紫外線、X線及び電子線等が挙げられる。これらのうち、安価な装置を使用できることから、活性エネルギー線としては紫外線を使用することが好ましい。紫外線を使用する際の光源としては、超高圧、高圧、中圧又は低圧の水銀灯、メタルハライド灯、キセノンランプ、無電極放電ランプ、及びカーボンアーク灯等が挙げられる。紫外線照射は、例えば数秒~数分間とすることができる。
【0063】
本コーティング剤には更に、単独でコーティング層を形成可能なフッ素非含有のバインダー成分を配合してもよい。フッ素非含有のバインダーとしては、公知汎用の各種ポリマー及びオリゴマー等を用いることができる。これらの中でも、本発明のフッ素系グラフト共重合体と同種の架橋性官能基を有するアクリル系ポリマーを好ましく使用することができる。フッ素非含有のバインダーの配合量は、固形分で、本グラフト共重合体の1質量部に対して、5質量部以下が好ましく、2質量部以下がより好ましい。
【0064】
本コーティング剤は、当該コーティング剤を用いて形成される塗膜のフッ素特性及び耐久性を損なわない範囲で、塗膜強度の向上及び体積抵抗率の調整等を目的として、シリカや酸化チタン等を配合することもできる。これらの配合割合は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜設定できる。
【0065】
本コーティング剤は、本グラフト共重合体、及び必要に応じて配合される添加剤が、溶剤に分散又は溶解された組成物であってもよい。溶剤としては、例えば水、有機溶媒、及び水と有機溶媒との混合溶媒等が挙げられる。これらのうち、溶剤は、本グラフト共重合体を溶解可能な溶媒が好ましく、水、又は水に溶解可能な有機溶媒と水との混合溶媒がより好ましく、水が特に好ましい。
【0066】
水と共に使用される有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール及びブタノール等のアルコール類;アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルキレングリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸エチル等のエステル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;等が挙げられる。有機溶媒としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。有機溶媒の使用量は、溶剤の全量に対して、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0067】
本コーティング剤の溶剤成分として水性溶剤を用いる場合、本グラフト共重合体を水性溶剤に溶解させるために中和剤を使用してもよい。中和剤としては特に限定されず、公知の酸又は塩基を使用できる。中和剤の具体例としては、酸として、例えば塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸、クエン酸等を;塩基として、例えばアンモニア、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等をそれぞれ挙げることができる。中和剤の使用量は、中和剤の種類等に応じて適宜設定され得るが、例えば、本グラフト共重合体が有するイオン性官能基に対して、0.2~1.5モル当量である。
【0068】
本コーティング剤が液状である場合、本コーティング剤の固形分濃度(すなわち、本コーティング剤の全体質量に対する、本コーティング剤中の溶剤以外の成分の質量の割合)は、好ましくは1~60質量%である。固形分濃度が1質量%以上であることにより、十分な厚み及び強度を有するコーティング層を形成することができる。また、固形分濃度が60質量%以下であることにより、良好な塗工性を確保でき、均一な厚みのコーティング層を形成しやすい。本コーティング剤の固形分濃度は、より好ましくは3~50質量%であり、更に好ましくは5~30質量%である。
【0069】
本コーティング剤は、樹脂やゴム、金属、ガラス、セラミック、木材、繊維、皮等の各種材料からなる基材の表面に、撥水・撥油性及び耐汚染性を付与するための用途に有用である。具体的には、建築用や自動車用、電子部品等の塗料、表面改質剤、撥水撥油性付与剤、及び帯電防止剤等として用いることができる。また、インクジェットプリンターのインク吐出部、感光体、ゴムロール、キャリア及びその他内部部品等といった複写機周辺部材のコーティング剤として用いることができる。
【実施例0070】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下において、特に断らない限り、「部」は「質量部」を意味し、「%」は「質量%」を意味する。各例において得られたマクロモノマー、グラフト共重合体、及びコーティング剤については、以下の物性及び性質を測定することにより評価した。
【0071】
(1)マクロモノマー及びグラフト共重合体の特性
a)固形分
測定サンプル約1gを秤量(a)し、次いで、通風乾燥機155℃、30分間乾燥後の残分を測定(b)し、以下の数式より算出した。測定には秤量ビンを使用した。その他の操作については、JIS K 0067-1992(化学製品の減量及び残分試験方法)に準拠した。
[固形分(%)]=(b/a)×100
b)分子量
分子量はゲル浸透クロマトグラフ(GPC法)により測定した。まず、試料をテトラヒドロフラン(以下、「THF」という)に溶解して濃度0.2%の溶液を調製し、次いで、該溶液100μLをカラム(東ソー社製、「TSK-GEL MULTIPORE HXL-M」(4本))に注入し、カラム温度40℃でTHFを流速1.0mL/分でカラムに通してカラムに吸着した成分を溶離させることにより測定した。数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、分子量が既知のポリスチレンを標準物質として用いて予め作成した検量線から算出した。
c)グラフト共重合体の水への溶解性
グラフト共重合体と水を混合し、ここに中和剤を加え、固形分1%の混合液を調製した。この混合液を40℃で10分加熱し、25℃に冷却した後の外観を目視で確認し、以下の基準に従い評価した。中和剤としては、グラフト共重合体A1~A33、B1及び共重合体B3に対しては、各共重合体のカルボキシル基量と当量(モル比、以下同じ)のアンモニアを使用した。また、グラフト共重合体B2に対しては、グラフト共重合体B2のアミノ基量と当量の塩酸を使用した。
○:完全に溶解
△:一部溶解
×:不溶
【0072】
(2)コーティング剤の特性
a)接触角、摩耗試験後の接触角、及び摩擦耐久性
自動接触角測定装置「OCA-20」(Dataphysics社製)を用い、各試験用塗膜サンプルに対する純水、n-ヘキサデカン(HD)の接触角をそれぞれ測定した。なお、純水の接触角が大きいほど撥水性が良好であり、n-ヘキサデカンの接触角が大きいほど撥油性が良好であるといえる。
その後、塗膜サンプル上にナイロンたわしを載せ、ラビングテスター(大英科学精器製作所製、学振型染色物摩擦堅牢度試験機)で1kgの荷重をかけて10往復の摩擦試験を行い、上記と同様に純水、n-ヘキサデカンの接触角(摩擦試験後の接触角)をそれぞれ測定した。また、摩擦耐久性の指標として、試験前の接触角に対する試験後の接触角の比率Rt[Rt=(試験後の接触角/試験前の接触角)×100、単位:%]を純水、n-ヘキサデカンのそれぞれについて算出した。比率Rtの値が大きいほど摩擦耐久性に優れているといえる。
b)帯電防止性
温度25℃×湿度40%RHの環境下で、試験用塗膜サンプルを100%ナイロン製布で30回こすり、1分間静置した後、静電気測定器「スタチロンDZ4」(シシド静電気社製)を用い、塗膜表面の静電気量を測定した。静電気量を負の値で表し、数値が大きいほど(すなわち、絶対値が小さいほど)、帯電防止性が良好であるといえる。
c)耐マジック汚染性
各試験用塗膜サンプルの表面に黒色マジックインキで線を引き、1時間後にペーパータオルでインキのふき取りを行った。その際のインキのふき取りやすさを以下の基準に従い評価した。
◎:軽い力でふき取ることができ、痕跡が残らない
○:やや強い力をかければふき取ることができるが、僅かな痕跡が残る
△:強い力をかければふき取ることができるが、明瞭な痕跡が残る
×:ほとんどふき取ることができない
【0073】
<マクロモノマーの製造>
〔合成例1:マクロモノマーAの製造〕
攪拌機、滴下ロート、還流冷却器、窒素ガス導入管及び温度計を備えたガラス製フラスコに、単量体として2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート(ユニマテック社製、商品名「CHEMINOX FAMAC-6」)80部、2-ヒドロキシエチルメタクリレートのカプロラクトン2mol付加品(ダイセル社製、商品名「プラクセルFM2D」)20部、重合溶剤として酢酸ブチル100部、連鎖移動剤として3-メルカプトプロピオン酸(以下、「MPA」という)2.5部を仕込み、窒素気流下で90℃に加熱攪拌した。別容器にて、酢酸ブチル20部に2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(日本ファインケム社製、商品名「ABN-E」)0.5部を添加、溶解して重合開始剤溶液を調製し、フラスコ内溶液を90℃に保ったまま、この重合開始剤溶液を3時間かけてフラスコへ滴下した。さらに3時間加熱攪拌を継続することにより重合を完結させ、片末端にカルボキシル基を有する重合体を得た。窒素気流を空気バブリングに切り替えて、引き続き同じフラスコ内に、メトキシフェノール0.01部、テトラブチルアンモニウムブロミド0.6部、重合性末端付与化合物としてグリシジルメタクリレート(以下、「GMA」という)3.5部を加えて110℃で7時間加熱した後に室温まで冷却し、酢酸ブチルを添加して固形分を50%に調整することにより、片末端にメタクリロイル基を有するマクロモノマーAの酢酸ブチル溶液を得た。
得られたマクロモノマーAの分子量を測定したところ、数平均分子量(Mn)=5,900、重量平均分子量(Mw)=8,500であった。このマクロモノマーAは、架橋性官能基として0.54meq/g相当の水酸基を有する。
【0074】
〔合成例2~15、17、18:マクロモノマーB~O、Q、Rの製造]
単量体、連鎖移動剤及び重合性末端付与化合物を表1に示す通り用いた以外は合成例1と同様の操作を行い、マクロモノマーB~O、Q、Rの酢酸ブチル溶液を得た。得られた各マクロモノマーの物性値を表1に示す。
【0075】
〔合成例16:マクロモノマーPの製造〕
攪拌機、滴下ロート、還流冷却器、窒素ガス導入管及び温度計を備えたガラス製フラスコに、単量体として2-(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート(ユニマテック社製、商品名「CHEMINOX FAAC-6」)を80部、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトン(n≒2)モノアクリレート(東亞合成社製、商品名「アロニックスM-5300」)20部、重合溶剤として酢酸ブチル100部、連鎖移動剤として2-メルカプトエタノール(以下、「MTG」という)1.1部を仕込み、窒素気流下で90℃に加熱攪拌した。別容器にて、酢酸ブチル20部にABN-E 1.0部を添加、溶解して重合開始剤溶液を調製し、フラスコ内溶液を90℃に保ったまま、この重合開始剤溶液を3時間かけてフラスコへ滴下した。さらに3時間加熱攪拌を継続することにより重合を完結させ、片末端に水酸基を有する重合体を得た。窒素気流を空気バブリングに切り替えて、引き続き同じフラスコ内にメトキシフェノール0.02部、ジオクチルスズジラウレート(日東化成社製、商品名「ネオスタンU-810」)0.01部、重合性末端付与化合物として2-イソシアナトエチルメタクリレート(昭和電工社製、商品名「カレンズMOI」)2.2部を加えて110℃で3時間加熱した後に室温まで冷却し、酢酸ブチルを添加して固形分を50%に調整することにより、片末端にメタクリロイル基を有し、架橋性官能基としてカルボキシル基を有するマクロモノマーPの酢酸ブチル溶液を得た。得られたマクロモノマーPの物性値を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表1に示す化合物の詳細は以下の通りである。
・3FM:2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(大阪有機化学工業社製、商品名「ビスコート-3FM」)
・FAAC-4:2-(パーフルオロブチル)エチルアクリレート(ユニマテック社製、商品名「CHEMINOX FAAC-4」)
・FAAC-6:2-(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート(ユニマテック社製、商品名「CHEMINOX FAAC-6」)
・FAMAC-6:2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート(ユニマテック社製、商品名「CHEMINOX FAMAC-6」)
・FA-108:2-(パーフルオロオクチル)エチルアクリレート(共栄社化学社製、商品名「ライトアクリレートFA-108」)
・HEA:2-ヒドロキシエチルアクリレート
・FA1DDM:HEAのカプロラクトン1mol付加物(ダイセル社製、商品名「プラクセルFA1DDM」)
・FA2D:HEAのカプロラクトン2mol付加物(ダイセル社製、商品名「プラクセルFA2D」)
・FM2D:2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)のカプロラクトン2mol付加物(ダイセル社製、商品名「プラクセルFM2D」)
・FA3D:HEAのカプロラクトン3mol付加物(ダイセル社製、商品名「プラクセルFA3D」)
・AE-200:ポリエチレングリコールモノアクリレート(日油社製、商品名「ブレンマーAE-200」)
・M-5300:ω-カルボキシ-ポリカプロラクトン(n≒2)モノアクリレート(東亞合成社製、商品名「アロニックスM-5300」)
・MMA:メチルメタクリレート
・MPA:3-メルカプトプロピオン酸
・MTG:2-メルカプトエタノール
・GMA:グリシジルメタクリレート
・MOI:2-イソシアナトエチルメタクリレート(昭和電工社製、商品名「カレンズMOI」)
【0078】
<共重合体の製造>
〔製造例1:グラフト共重合体A1の製造〕
攪拌機、滴下ロート、還流冷却器、窒素ガス導入管及び温度計を備えたガラス製フラスコに、上記で得られたマクロモノマーAの酢酸ブチル溶液を20部(固形分として10部)、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート(三菱ガス化学社製、以下、「DAM」という)18部、メタクリル酸(以下、「MAA」という)10部、メチルメタクリレート(以下、「MMA」という)62部、メチルエチルケトン(以下、「MEK」という)50部、及びイソプロピルアルコール(以下、「IPA」という)150部を仕込み、窒素気流下で80℃に加熱攪拌した。別容器にて、MEK10部及びIPA10部にABN-E 1.0部を添加、溶解して重合開始剤溶液を調製した。フラスコ内溶液を80℃に保ったまま、この重合開始剤溶液を2時間かけてフラスコへ滴下した。さらに3時間加熱攪拌を継続することにより重合を完結させ、グラフト共重合体A1のMEK/IPA溶液を得た。得られたグラフト共重合体溶液を60℃で12時間真空乾燥して、粉砕することにより、粉末状のグラフト共重合体A1を得た。グラフト共重合体A1の水への溶解性を確認したところ、水に完全に溶解した。
【0079】
〔製造例2~33:グラフト共重合体A2~A33の製造〕
主鎖を構成する単量体及び側鎖となるマクロモノマーを表2及び表3に示す通り用いた以外は製造例1と同様の操作を行い、グラフト共重合体A2~A33を得た。得られた各グラフト共重合体の水への溶解性の評価結果を表2及び表3に示す。
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
〔比較製造例1~3:グラフト共重合体B1、B2及び共重合体B3の製造〕
単量体及びマクロモノマーを表4に示す通り変更した以外は製造例1と同様の操作を行い、各共重合体B1~B3を得た。なお、比較製造例3ではマクロモノマーを使用しなかった。得られた各共重合体B1~B3の水への溶解性の評価結果を表4に示す。
【0083】
【表4】
【0084】
表2~表4に示す化合物の詳細は以下の通りである。
・DAM:2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート(三菱ガス化学社製)
・DMAPAA:3-(ジメチルアミノ)プロピルアクリルアミド(KJケミカルズ社製)
・MAA:メタクリル酸
・MMA:メチルメタクリレート
・IBXMA:イソボルニルメタクリレート(共栄社化学社製、商品名「ライトエステルIB-X」)
【0085】
上記の各例で製造した共重合体のうち、製造例A1~A7、A9~A33及び比較製造例B1、B3の共重合体は、水に完全に溶解した。また、製造例A8の共重合体は水に一部溶解した。これは、製造例A8の共重合体は、フッ素系マクロモノマー単位の含有量が他の実施例に比べて多いためと考えられる。一方、不飽和カルボン酸単量体単位を有さない比較製造例B2の共重合体は水に不溶であった。
【0086】
<コーティング剤の製造及び評価>
〔実施例1〕
製造例1で得られたグラフト共重合体A1を固形分で100部、中和剤として25%アンモニア水4.0部(グラフト共重合体のカルボキシル基量の半当量)、架橋剤としてデナコールEX-810(ナガセケムテックス社製、エポキシ系架橋剤)10.1部(グラフト共重合体のカルボキシル基量と当量)及び硬化触媒としてDBU(1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン)0.5部(グラフト共重合体に対して0.5%)を混合し、固形分10%になるように水で希釈してコーティング液を調製した。このコーティング液をバーコーターNo.24を用いてPETフィルム(東洋紡社製、商品名「A4300」188μm)上に塗布した後、通風乾燥機にて100℃で30分間、乾燥・架橋することにより試験用塗膜サンプルA1を得た。塗膜サンプルA1に関し、コーティング液の各種特性評価を行った結果を表6に示す。
【0087】
〔実施例2~34及び比較例1~3〕
共重合体、架橋剤及び硬化促進剤の種類及び量を表5に示す通り変更するとともに、中和剤について、各共重合体A1~A33、B1及びB3に対しては各共重合体のカルボキシル基量の半当量のアンモニアを使用し、グラフト共重合体B2に対してはグラフト共重合体B2のアミノ基量の半当量の塩酸を使用した以外は実施例1と同様の操作により塗膜サンプルを得た。各塗膜サンプルの評価結果を表6に示す。なお、表5中、架橋剤及び硬化触媒の数値は、共重合体100部に対する各成分の配合量[部]を示す。表6中、「HD」はn-ヘキサデカンを表す。
【0088】
【表5】
【0089】
表5で用いた化合物の詳細を以下に示す。
(架橋剤)
EX-810:デナコールEX810(ナガセケムテックス社製、エポキシ系架橋剤)
V-02:カルボジライトV-02(日清紡ケミカル社製、ポリカルボジイミド樹脂)
(硬化触媒)
DBU:ジアザビシクロウンデセン
【0090】
【表6】
【0091】
本発明のグラフト共重合体を用いた実施例1~34では、良好な撥水・撥油性を示す塗膜を得ることができた。また、実施例1~34で得られた塗膜は、その表面に付着したマジックインキをふき取り可能であり、耐汚染性も良好であった。特に、(C)フッ素系マクロモノマー単位の含有量が50~60質量%である実施例5~7では、表面のマジックインキを軽い力でふき取ることができ、優れた耐汚染性を示した。
【0092】
また、実施例1~34で得られた塗膜は、摩擦耐久性及び帯電防止性も良好であった。摩擦耐久性について詳しく見ると、架橋性官能基を有するフッ素系グラフト共重合体を用いた実施例1~32、34は、架橋性官能基を有さないフッ素系グラフト共重合体を用いた実施例33に比べて、試験後の接触角/試験前の接触角の値(比率Rt)が大きく、耐久性に優れていた。ただし、(C)フッ素系マクロモノマー中の架橋性官能基の含有量が0.14meq/gと比較的少ない場合には(実施例21)、架橋性官能基が十分に多い場合(例えば、実施例18)に比べて、比率Rtの値が小さかった。また、架橋性官能基含有単量体として炭素数10以上の単量体を用いた実施例(例えば、実施例1~20、22~31)では、2-ヒドロキシエチルアクリレートを用いた実施例32よりも摩擦試験後の接触角が高く、より良好な耐久性を示した。
【0093】
これに対し、(B)単量体単位を有し(A)単量体単位を有さないグラフト共重合体を用いた比較例1、及び(A)単量体単位を有し(B)単量体単位を有さないグラフト共重合体を用いた比較例2では、摩擦試験後の接触角が水及びn-ヘキサデカンの両者とも小さく、実施例1~34に比べて摩擦耐久性に劣っていた。また、比較例1で得られた塗膜は、静電気量が-4.5kVと負側に大きい値を示し、帯電防止性にも劣っていた。(C)フッ素系マクロモノマー単位を有さない共重合体を用いた比較例3では、フッ素特性及び耐久性が共に劣っていた。
【0094】
以上の結果から、本発明のフッ素系グラフト共重合体又はその塩を用いることにより、撥水・撥油性、耐汚染性、帯電防止性及び耐久性をバランス良く発現する塗膜を形成できることが明らかとなった。