(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076170
(43)【公開日】2022-05-19
(54)【発明の名称】飛沫防止マウスピース
(51)【国際特許分類】
A41D 13/11 20060101AFI20220512BHJP
A61B 1/01 20060101ALI20220512BHJP
【FI】
A41D13/11 Z
A41D13/11 H
A61B1/01 514
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020186460
(22)【出願日】2020-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】596165589
【氏名又は名称】学校法人 聖マリアンナ医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】特許業務法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】森川 慶
【テーマコード(参考)】
4C161
【Fターム(参考)】
4C161AA07
4C161BB01
4C161GG23
(57)【要約】
【課題】内視鏡及びその他の器具を被施術者の口腔内へ挿入する等の施術時に被施術者の口から噴出する飛沫の拡散を抑制し、医療従事者が飛沫に曝露されにくくし、さらに簡易な構造により利便性を高めた飛沫防止マウスピースを提供する。
【解決手段】被施術者の口部内に第1器具を挿入するに際して被施術者の口部に咥えられ第1器具の挿入貫通路を形成する案内筒部と、案内筒部の開口先端部の近傍から開口先端部の左側または右側に延伸して第1器具と異なる第2器具の口部内への挿入を許容する側縁開口部と、開口先端部及び側縁開口部に被着して被施術者の口部内から噴出する飛沫を遮蔽するとともに第1器具の貫通部を備える遮蔽シート部とを備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被施術者の口部内に第1器具を挿入するに際して前記被施術者の前記口部に咥えられ前記第1器具の挿入貫通路を形成する案内筒部と、
前記案内筒部の開口先端部の近傍から前記開口先端部の左側または右側に延伸して前記第1器具と異なる第2器具の前記口部内への挿入を許容する側縁開口部と、
前記開口先端部及び前記側縁開口部に被着して前記被施術者の口部内から噴出する飛沫を遮蔽するとともに前記第1器具の貫通部を備える遮蔽シート部と、を備える
ことを特徴とする飛沫防止マウスピース。
【請求項2】
前記遮蔽シート部は樹脂フィルム部材から形成されていて、前記遮蔽シート部はゴムバンドにより前記案内筒部に固定される請求項1に記載の飛沫防止マウスピース。
【請求項3】
前記側縁開口部は、前記案内筒部の前記開口先端部の近傍の左側及び右側に延伸して、左側縁開口部及び右側縁開口部として形成されている請求項1または2に記載の飛沫防止マウスピース。
【請求項4】
前記左側縁開口部の左端部と、前記右側縁開口部の右端部に前記被施術者の頭部と固定する固定バンドが懸架される請求項3に記載の飛沫防止マウスピース。
【請求項5】
前記左端部及び前記右端部の双方に前記固定バンドを係止する係止部が備えられる請求項4に記載の飛沫防止マウスピース。
【請求項6】
前記遮蔽シート部が前記左側縁開口部または前記右側縁開口部の一方に係止されている請求項3ないし5のいずれか1項に記載の飛沫防止マウスピース。
【請求項7】
前記案内筒部が前記被施術者の前記口部に咥えられた際に、前記開口先端部に前記被施術者の口唇に当接し、前記案内筒部を前記口部に固定するフランジ部が備えられる請求項1ないし6のいずれか1項に記載の飛沫防止マウスピース。
【請求項8】
前記案内筒部に前記被施術者が前歯により咥えて保持する咥保持部が備えられる請求項1ないし7のいずれか1項に記載の飛沫防止マウスピース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は飛沫防止マウスピースに関し、特に口腔内に内視鏡等の器具を挿入する際に被施術者から生じる飛沫拡散を抑制する飛沫防止マウスピースに関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡は、被施術者への負担が少ないことから非侵襲の検査、また、被施術者の切開量も少ないことから手術において多用されている。例えば、気管支内視鏡(気管支鏡)は被施術者の口から挿入され、気管、気管支、肺へと挿通される。内視鏡が口腔内、気管等と接触する際に生じる刺激により、被施術者には麻酔が処置されているとしても被施術者は咳き込んだりくしゃみをしたりする場合がある。そうすると、肺、気管の表面に存在するウイルス、細菌が粘液、唾液等を通じて口から噴出する。特に、咳、くしゃみは噴出時の流速が増して、より遠くまで粘液、唾液等が飛沫(エアロゾル)として拡散する。
【0003】
このため、被施術者の周囲で処置をする医師、看護師、臨床検査技師等の医療従事者は被施術者から生じる飛沫に曝露される。また、拡散した飛沫による施術室内の汚染も看過できない。そこで、医療従事者は、飛散する飛沫を予防するため、フェイスシールド、ゴーグル、マスク、手袋、キャップ(帽子)、ガウン等の防護具を装着し、ほぼ全身を覆い施術に望んでいる。列記の防護具は、施術の度に交換しなければならないため資材の消耗量が多い。また、医療従事者は現在着ている防護具を脱いで新たな防護具を装着するため、時間と労力を多く割かなければならず、時間あたりの施術の効率も低下する。
【0004】
そこで、予め被施術者側にマスク等を装着してもらい、飛沫の拡散を抑制することが検討されている。例えば、鼻と口を覆う大きさの本体をドーム型でメッシュ形状に形成し、ドーム型の基礎にあたる部分を円環状で顔面の凹凸を曲成したマスク補助具が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
ここで、被施術者の口腔内に内視鏡を挿入するに際し、被施術者により内視鏡が噛み切られないようにするため、マウスピースが前歯に咥えられる。例えば、筒状の本体の正面に円盤状のフランジが形成されたマウスピースが提案されている(特許文献2参照)。ところが、気管支内視鏡の使用時においては、被施術者の口腔内に溜まった唾液等の吸引が行われ、吸引用器具の挿入も必要である。そうすると、特許文献2のマウスピースでは、内視鏡以外の器具の挿入には十分ではない。
【0006】
特許文献2のマウスピースを踏まえ、被施術者の口腔内に溜まった唾液等の吸引用器具の挿入に対応したマウスピースが提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、特許文献2及び3のマウスピースでは、被施術者の口部の被覆は十分ではなく、被施術者の口腔からの飛沫拡散の防止効果は期待されない。また、マウスピース側で被施術者の口部の被覆量を大きくしたフランジを備えると、フランジにより吸引用器具の挿入に支障が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-72522号公報
【特許文献2】特開2018-191907号公報
【特許文献3】実用新案登録第3214276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明者は、鋭意検討を重ねた結果、口腔内への内視鏡と共に、他の内視鏡とは異なる器具を挿入の施術に対応し、しかも、簡易な構造により作製可能な内視鏡用のマウスピースを完成させるに至った。
【0009】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであり、内視鏡及びその他の器具を被施術者の口腔内へ挿入する等の施術時に被施術者の口から噴出する飛沫の拡散を抑制し、医療従事者が飛沫に曝露されにくくし、さらに簡易な構造により利便性を高めた飛沫防止マウスピースを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、実施形態の飛沫防止マウスピースは、被施術者の口部内に第1器具を挿入するに際して被施術者の口部に咥えられ第1器具の挿入貫通路を形成する案内筒部と、案内筒部の開口先端部の近傍から開口先端部の左側または右側に延伸して第1器具と異なる第2器具の口部内への挿入を許容する側縁開口部と、開口先端部及び側縁開口部に被着して被施術者の口部内から噴出する飛沫を遮蔽するとともに第1器具の貫通部を備える遮蔽シート部とを備えることを特徴とする。
【0011】
さらに、飛沫防止マウスピースでは、遮蔽シート部は樹脂フィルム部材から形成されていて、遮蔽シート部はゴムバンドにより案内筒部に固定されていてもよい。
【0012】
さらに、飛沫防止マウスピースでは、側縁開口部は、案内筒部の開口先端部の近傍の左側及び右側に延伸して、左側縁開口部及び右側縁開口部として形成されていてもよい。
【0013】
さらに、飛沫防止マウスピースでは、左側縁開口部の左端部と、右側縁開口部の右端部に被施術者の頭部と固定する固定バンドが懸架されていてもよい。
【0014】
さらに、飛沫防止マウスピースでは、左端部及び右端部の双方に固定バンドを係止する係止部が備えられていてもよい。
【0015】
さらに、飛沫防止マウスピースでは、遮蔽シート部が左側縁開口部または右側縁開口部の一方に係止されていてもよい。
【0016】
さらに、飛沫防止マウスピースでは、案内筒部が被施術者の口部に咥えられた際に、開口先端部に被施術者の口唇に当接し、案内筒部を口部に固定するフランジ部が備えられていてもよい。
【0017】
さらに、飛沫防止マウスピースでは、案内筒部に被施術者が前歯により咥えて保持する咥保持部が備えられていてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の飛沫防止マウスピースによると、被施術者の口部内に第1器具を挿入するに際して被施術者の口部に咥えられ第1器具の挿入貫通路を形成する案内筒部と、案内筒部の開口先端部の近傍から開口先端部の左側または右側に延伸して第1器具と異なる第2器具の口部内への挿入を許容する側縁開口部と、開口先端部及び側縁開口部に被着して被施術者の口部内から噴出する飛沫を遮蔽するとともに第1器具の貫通部を備える遮蔽シート部とを備えているため、内視鏡及びその他の器具を被施術者の口腔内へ挿入する等の施術時に被施術者の口から噴出する飛沫の拡散を抑制し、医療従事者が飛沫に曝露されにくくし、さらに簡易な構造により利便性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態の飛沫防止マウスピースを示す全体正面図である。
【
図2】飛沫防止マウスピースの使用状態の全体断面正面である。
【
図3】(A)マウスピース本体の正面図、(B)マウスピース本体の上面図、(C)マウスピース本体の側面図である。
【
図4】(A)実施形態の飛沫防止マウスピースの上面図、(B)遮蔽シート部を変更した飛沫防止マウスピースの上面図である。
【
図5】(A)飛沫防止マウスピースに第1器具を挿入した正面図、(B)さらに第2器具を挿入した正面図である。
【
図6】(A)遮蔽シート部を変更した飛沫防止マウスピースに第1器具を挿入した正面図、(B)さらに第2器具を挿入した正面図である。
【
図7】飛沫防止マウスピースを使用した際の粒子計測結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施形態の飛沫防止マウスピースは、被施術者(患者)の口腔内に内視鏡を挿入する臨床検査または手術に際に被施術者の顔面の口部に装着され、被施術者の両顎の前歯により咥えられる器具である。内視鏡として、主に口腔から気管、気管支を経由して肺に挿入される気管支内視鏡が想定されている。内視鏡等の器具が被施術者の口腔の奥、咽頭、食道等に接触すると、接触時の刺激により咳、くしゃみが誘発され、被施術者の唾液、粘液等が被施術者の口腔内から噴出する飛沫(エアロゾル)として拡散する。
【0021】
そこで、実施形態の飛沫防止マウスピースは、内視鏡の挿入等の施術時の利便性を確保しつつ、被施術者の口からの飛沫拡散を抑制する器具となる。また、内視鏡の挿入時、口腔内に溜まる唾液を吸引する吸引具(吸引チューブ)の挿入も可能とする。以降、
図1等を用い、実施形態の飛沫防止マウスピースについて詳述する。
【0022】
実施形態において、第1器具は内視鏡61(気管内視鏡)(
図2参照)である。第2器具は第1器具の内視鏡61と異なる器具であり唾液吸引用の吸引具62(
図5,6参照)である。むろん、第1器具と第2器具は内視鏡、吸引具以外の組み合わせとすることができる。
【0023】
図1の正面図は、被施術者が飛沫防止マウスピース1を装着した状態を示す。飛沫防止マウスピース1は、マウスピース本体10とこれに付随する遮蔽シート部40または45(
図4,6参照)を備える。また、マウスピース本体10は固定バンド50により、被施術者の頭部、頭頸部に固定される。固定バンド50は公知の伸縮に富むゴム紐であり、図示の実施形態では、点列状に切れ目が形成されている。
【0024】
図1から示されるように、マウスピース本体10は被施術者の口部80(
図2参照)に咥えられ、被施術者の顔面70の鼻71の直下に固定される。そして、マウスピース本体10の中央に位置する開口先端部12には、遮蔽シート部40の開口部分が形成されており、この開口部分から第1器具の内視鏡61が口腔81内に挿入される(
図2参照)。
【0025】
図2は飛沫防止マウスピース1を装着した状態の縦断面図であり、被施術者の口腔部分を示す。マウスピース本体10は案内筒部11と側縁開口部20及び30を備える(後出の
図3参照)。
図2は断面図であるため、側縁開口部20及び30の図示は省略されている。マウスピース本体10は被施術者の口部80に差し込まれると、案内筒部11は上顎の前歯75と下顎の前歯76により咥えられる。また、案内筒部11には咥保持部15,16が上下に備えられる。案内筒部11が咥えられた際に前歯75により咥保持部15が引っ掛かり滑り止めとなり、前歯76により咥保持部16が引っ掛かり、滑り止めとなる。
【0026】
また、
図2からわかるように、案内筒部11の上下方向の開口先端部12には、フランジ部13,14が備えられる。案内筒部11が被施術者の口部80に咥えられた際に、被施術者の口唇の上唇73にフランジ部13が当接し、下唇74にフランジ部14が当接する。こうして、開口先端部12を通じて案内筒部11は口部80に固定される。フランジ部13,14は蓋となって上唇73と下唇74に当接することにより、案内筒部11が口腔81の内部に深く入り込まなくなる。
【0027】
案内筒部11では、被施術者の口部80、口腔81内に第1器具の内視鏡61を挿入するに際し、被施術者の口部80に咥えられ案内筒部11の内部に内視鏡61の挿入貫通路17が形成される。第1器具の内視鏡61はマウスピース本体10の開口先端部12から案内筒部11の挿入貫通路17を通過して口腔81に挿入され、気管78内へ挿通される。内視鏡61は案内筒部11により前歯75,76から保護され、不意な顎の動きによる内視鏡61の断裂等は回避される。
図2中、符号77は舌、79は食道、82は鼻腔、83は軟口蓋である。
【0028】
図2の案内筒部11の口径と内視鏡61の断面径(直径)の差から理解されるように、案内筒部11の口径は内視鏡61の断面径よりも明らかに大きい。従って、何らの措置が無ければ、被施術者の唾液、粘液等が開口先端部12から飛沫(エアロゾル)として拡散する。そこで、開口先端部12を塞ぐ目的から遮蔽シート部40,45が開口先端部12に備えられる。
【0029】
続いて、
図3の各図を用いマウスピース本体10の構造をさらに説明する。
図3(A)はマウスピース本体10の正面図である。案内筒部11の開口先端部12の上下(鼻と顎に延びる方向)に板状のフランジ部13,14が形成される。
【0030】
案内筒部11の開口先端部12の近傍から開口先端部12の左側または右側に延伸して側縁開口部が備えられる。そして、側縁開口部には固定バンド50を係止する係止部が備えられる。側縁開口部は第1器具の内視鏡61と異なる第2器具である吸引具62(吸引チューブ)の口部80内への挿入を許容する部材である。実施形態のマウスピース本体10では、開口先端部12の右側に右側縁開口部20と、左側に左側縁開口部30が形成されている。
【0031】
右側縁開口部20と左側縁開口部30は左右対称であり枠形状を成している。吸引具62は右側縁開口部20の右挿入部21または左側縁開口部30の左挿入部31のいずれかから挿入される。右側縁開口部20の右端部22には右係止部23が備えられ、左側縁開口部30の左端部32には左係止部33が備えられる。
【0032】
図3(B)はマウスピース本体10の上面図である。開口先端部12の周囲のフランジ部13(14)は板状であり、フランジ部13(14)が左右に湾曲して延びるように右側縁開口部20と左側縁開口部30が形成されている。マウスピース本体10は公知の樹脂製であるため右側縁開口部20と左側縁開口部30は撓む等の形状変形が可能である。そこで、マウスピース本体10は被施術者の口部80、顔面70の形状に順応して撓むことにより装着時の隙間が少なくなる。
【0033】
図3(C)はマウスピース本体10の側面図であり左側縁開口部30が示されている。図示より、フランジ部13,14は案内筒部11の開口先端部12側から延びていることがわかる。また、
図2からも理解されるように、案内筒部11がフランジ部13,14により被施術者の口部80から口腔81の奥に入り込まないようになっている。また、いったん、マウスピース本体10が被施術者に咥えられた後、口部80からの脱落防止として、案内筒部11に設けられた突条の咥保持部15,16が機能する。
【0034】
マウスピース本体10は、主に樹脂により形成される。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂である。一般に1回毎の使い捨て(ディスポーザブル)の使用が想定されており、これらの樹脂は射出成形等により、各部位の一体化した成形品として量産される。むろん、マウスピース本体10は部位ごとに成形、製造され、事後組み立てる手法としても良い。
【0035】
遮蔽シート部40は、公知のポリエチレン、ポリプロピレン等の樹脂製の袋(樹脂フィルム部材)である。袋に適度な穴として貫通部43(
図5参照)が開けられ、その穴の周りにゴムバンド(髪止め用のゴムバンド)、輪ゴム等が配置され開けられた穴の形を維持するように保持される。必要に応じてテープ等が貼られる(図示せず)。そして、遮蔽シート部40はマウスピース本体10に被せられる。遮蔽シート部40の貫通部43は、周囲のゴムバンドの伸縮性により、常時はほぼ閉じられており、第1器具の内視鏡61の挿入時にのみ器具に応じて拡張可能となる。
【0036】
遮蔽シート部45は、主に膝等の関節の手術時に切開部位等に被着される樹脂製のシート(樹脂フィルム部材)等である。遮蔽シート部45は遮蔽シート部40よりも伸縮性が高い。そこで、遮蔽シート部45には第1器具である内視鏡61(気管内視鏡)を挿通させるための穴として貫通部46(
図6参照)が予め形成される。そして、遮蔽シート部45はマウスピース本体10に被せられる。遮蔽シート部45の貫通部46においても、遮蔽シート部45自体の伸縮性により、常時はほぼ閉じられており、第1器具の内視鏡61の挿入時にのみ器具に応じて拡張可能となる。なお、遮蔽シート部40,45に共通して、綿等の天然繊維、ポリエステル等の化学繊維、レーヨンの織布、不織布を使用することができる。
【0037】
図4(A)は遮蔽シート部40をマウスピース本体10に装着した状態の上面図である。貫通部43を形成した遮蔽シート部40は、貫通部43を中央に保ちながらマウスピース本体10の開口先端部12側から案内筒部11内に押し込まれる。そして、残りの遮蔽シート部40の部位はマウスピース本体10のフランジ部13,14と右側縁開口部20及び左側縁開口部30に被せられる。こうして、被施術者の上唇73と下唇74を含む周辺はマウスピース本体10と遮蔽シート部40により覆われる。
【0038】
遮蔽シート部40とマウスピース本体10との固定は自由であり、相互に接着としても良い。なお、実施形態においては、装着の簡便さからゴムバンド41(いわゆる輪ゴム)が用いられる。
図4(A)では、フランジ部13,14を跨いで折り返された遮蔽シート部40の端は案内筒部11に達し、ここにゴムバンド41が重ねられる。そうして、遮蔽シート部40はマウスピース本体10に固定される。
【0039】
また、図示では、遮蔽シート部40の左右の端の左側が左係止部33に食い込まれ、右側は右係止部23から離れている。特に、固定バンド50は、遮蔽シート部40の左側が左係止部33に食い込まれた上から左係止部33に係止されている。
【0040】
図4(B)は遮蔽シート部45をマウスピース本体10に装着した状態の上面図である。貫通部46を形成した遮蔽シート部45は、貫通部46をマウスピース本体10の開口先端部12の中央に重ねられる。そして、残りの遮蔽シート部45の部位により、マウスピース本体10のフランジ部13,14と右側縁開口部20及び左側縁開口部30は被覆される。こうして、被施術者の上唇73と下唇74を含む周辺はマウスピース本体10と遮蔽シート部45により覆われる。
【0041】
遮蔽シート部45においても、遮蔽シート部45とマウスピース本体10との固定は自由であり、相互に接着としても良い。実施形態では、相互の装着の簡便さからゴムバンド(いわゆる輪ゴム)が用いられる。
図4(B)でも、フランジ部13,14を跨いで折り返された遮蔽シート部45の端は案内筒部11に達し、ここにゴムバンドが重ねられる。そうして、遮蔽シート部45はマウスピース本体10に固定される。また、図示では、遮蔽シート部45の左右の端の左側が左係止部33に食い込まれ、右側は右係止部23から離れている。
【0042】
また、図示では、遮蔽シート部45の左右の端の左側が左係止部33に食い込まれ(係止され)、右側は右係止部23から離れている。特に、固定バンド50は、遮蔽シート部45の左側が左係止部33に食い込まれた上から左係止部33に係止されている。
【0043】
図5と
図6は飛沫防止マウスピース1の使用状態を示す。
図5(A)は、被施術者に飛沫防止マウスピース1(遮蔽シート部40を使用)を装着した際の正面図である。飛沫防止マウスピース1が被施術者へ装着された後、開口先端部12に位置する貫通部43へ第1器具となる内視鏡61(気管内視鏡)が挿入される。
【0044】
気管内視鏡の内視鏡61の挿入時、口腔内には唾液が溜まりやすく、適時口腔内から吸引する必要がある。そこで、
図5(B)の正面図のとおり、内視鏡61の挿入と並行して、第2器具である吸引具62(吸引チューブ)が右側縁開口部20から口腔内に挿入される。このとき、遮蔽シート部40の左端は左係止部33に係止されているものの、右端は右係止部23には係止されておらず浮いた状態である(
図4(A)も参照される。)。
【0045】
従って、遮蔽シート部40の浮いている右端がめくり上げられて右側縁開口部20の右挿入部21が露出する。そこで、吸引具62は右側縁開口部20の右挿入部21へ挿入される。
【0046】
図6(A)は、被施術者に飛沫防止マウスピース1(遮蔽シート部45を使用)を装着した際の正面図である。飛沫防止マウスピース1が被施術者へ装着された後、開口先端部12に位置する貫通部46へ第1器具となる内視鏡61(気管内視鏡)が挿入される。
【0047】
図6(B)の正面図においても、内視鏡61の挿入と並行して、第2器具である吸引具62(吸引チューブ)が右側縁開口部20から口腔内に挿入される。このとき、遮蔽シート部40の左端は左係止部33に係止されているものの、右端は右係止部23には係止されておらず浮いた状態である(
図4(B)も参照される。)。
【0048】
従って、遮蔽シート部45の浮いている右端がめくり上げられて右側縁開口部20の右挿入部21が露出する。そこで、吸引具62は右側縁開口部20の右挿入部21へ挿入される。
【0049】
図5及び
図6のとおり、第1器具となる内視鏡61(気管内視鏡)に加えて第2器具である吸引具62(吸引チューブ)の挿入に際し、遮蔽シート部40(45)の浮いている端がめくり上げられる。そのため、吸引具62(吸引チューブ)の挿入時に飛沫防止マウスピース1を被施術者の顔から浮かせたりずらしたりすることなく、第2器具のために最小限開けるだけで済み、飛沫防止マウスピース1における遮蔽シート部40(45)の飛沫拡散防止の遮蔽効果は常時確保される。
【0050】
なお、図示では、吸引具62は右側縁開口部20の右挿入部21へ挿入としている。これに代えて、吸引具62は反対側の左側縁開口部30の左挿入部31への挿入とすることもできる(図示せず)。その場合、遮蔽シート部40(45)の右端が右係止部23に係止され、左側は左係止部33から離れている。
【実施例0051】
発明者は、図示し詳述した飛沫防止マウスピース1(遮蔽シート部40を使用)の有効性を確認するべく検証を行った。具体的には、マウスピース本体10のみ使用の場合(I)と、飛沫防止マウスピース1(マウスピース本体10に遮蔽シート部40を被着した形態)を使用した場合(II)の2種類について、被施術者の口から飛散する飛沫の撮影及び粒子数を計測した。
【0052】
被施術者には実際の臨床における口腔内への内視鏡の挿入を模擬して横たわってもらい、マウスピース本体10の場合(I)をコントロール群として、被施術者の口から真っ直ぐ50cm位置の粒子数(A)を計測した。次に、飛沫防止マウスピース1の場合(II)について、被施術者の口から真っ直ぐ20cm位置の粒子数(B-1)、50cm位置の粒子数(B-2)、及び遮蔽シート部40がマウスピース本体10に係止されていない側(
図5参照)の20cm位置の粒子数(B-3)を計測した。
図7のグラフは結果を示す。
【0053】
マウスピース本体10の場合(I)と飛沫防止マウスピース1の場合(II)について、暗視下にてLED光源を照射し、超高感度カメラにより撮影した。撮影と併せてポータブル可視化システムを用い計数面積(20cm×4cm)における粒子数として、(A)、(B-1)、(B-2)、(B-3)のそれぞれについて9回または10回計数した。
【0054】
撮影の結果、マウスピース本体10のみの場合(I)、飛沫は50ないし100cmにわたり飛散した。飛沫防止マウスピース1の場合(II)、飛沫の拡散はほぼ皆無であった。
【0055】
図7のグラフにおいて、紙面左側の縦軸数値は拡散した飛沫の粒子数である。(A)、(B-1)、(B-2)、(B-3)の順に並べて示した。グラフから明らかであるように、飛沫防止マウスピース1の使用は、飛散する飛沫の粒子数を激減させることを確認した。
【0056】
従って、口腔内へ内視鏡等の機器、器具を挿入する臨床の検査、施術において、飛沫防止マウスピースの使用は被施術者から発生する飛沫を大きく減ずることができ、医療従事者への飛沫の曝露の危険性を引き下げることができる。しかも手術室等の環境への汚損も抑制されて極めて好都合である。また、飛沫防止マウスピース自体は簡易な構造であり、使用される部材数も少ない。このため、資材使用量も抑制され、施術時の経費負担も軽減される。