(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076188
(43)【公開日】2022-05-19
(54)【発明の名称】小領域生成装置
(51)【国際特許分類】
G06T 17/05 20110101AFI20220512BHJP
G09B 29/00 20060101ALI20220512BHJP
【FI】
G06T17/05
G09B29/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020186491
(22)【出願日】2020-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】390023249
【氏名又は名称】国際航業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】特許業務法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 元気
(72)【発明者】
【氏名】武田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 久美子
(72)【発明者】
【氏名】横山 亮
【テーマコード(参考)】
2C032
5B050
【Fターム(参考)】
2C032HB05
5B050AA07
5B050BA09
5B050BA11
5B050BA17
5B050CA06
5B050EA06
5B050EA07
5B050EA26
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、地物の種別に適した形状の小領域を生成することができる、小領域生成装置を提供することにある。
【解決手段】本願発明の小領域生成装置は、2次元地形モデル記憶手段と小領域生成手段、地物別形状記憶手段を備えたものである。小領域生成手段は対象領域の地物に対して地物分類が付与された2次元地形モデルを記憶する手段であり、小領域生成手段は対象領域に対して複数の小領域を生成する手段、地物別形状記憶手段は2次元地形モデルの地物分類に応じて設定される地物別形状を記憶する手段である。小領域生成手段は、2次元地形モデルの地物分類の地物別形状で、地物を分割するように小領域を生成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象領域の地物に対して地物分類が付与された2次元地形モデルを記憶する2次元地形モデル記憶手段と、
対象領域に対して複数の小領域を生成する小領域生成手段と、
前記2次元地形モデルの前記地物分類に応じて設定される地物別形状を記憶する地物別形状記憶手段と、を備え、
前記小領域生成手段は、前記2次元地形モデルの前記地物分類の前記地物別形状で、前記地物を分割するように前記小領域を生成する、
ことを特徴とする小領域生成装置。
【請求項2】
前記小領域生成手段は、前記地物に設定される軸方向と平行又は略平行となるように、前記小領域を生成する、
ことを特徴とする請求項1記載の小領域生成装置。
【請求項3】
前記地物別形状記憶手段は、2次元地形モデルの前記地物分類のうちの「道路」に対しては長方形を前記地物別形状として記憶し、
前記小領域生成手段は、道路を延長方向及び横断方向に分割するように前記小領域を生成する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の小領域生成装置。
【請求項4】
前記小領域生成手段は、道路延長方向が長方形の長手方向となるように前記小領域を生成する、
ことを特徴とする請求項3記載の小領域生成装置。
【請求項5】
対象領域内を計測して得られた複数の3次元計測点を記憶する点群記憶手段と、
前記小領域生成手段によって生成された前記小領域の高さである地物高を算出する地物高算出手段と、をさらに備え、
前記地物高算出手段は、道路縁に位置する前記小領域に設定された前記地物高に基づいて、該道路縁に対して高さ情報を付与する、
ことを特徴とする請求項3又は請求項4記載の小領域生成装置。
【請求項6】
複数種類の横断テンプレートを記憶するテンプレート記憶手段と、
前記テンプレート記憶手段が記憶する前記横断テンプレートから、所望の該横断テンプレートを選出するテンプレート選出手段と、
前記テンプレート選出手段によって選出された前記テンプレートを、道路の横断方向となるように配置するテンプレート配置手段と、をさらに備え、
前記横断テンプレートは、鉛直断面上に設定される2以上の線分によって形成され、
前記道路縁における前記横断テンプレートの高さと、前記地物高算出手段によって付与された該道路縁の高さと、の差が、あらかじめ定めた閾値を上回るときは、該横断テンプレートの高さを該道路縁の高さとして採用する、
ことを特徴とする請求項5記載の小領域生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、地物に対して標高などの高さ情報を付与する技術に関するものであり、より具体的には、より現状に即した高さ情報を付与するため、地物の分類に応じた形状の小領域(メッシュ)を生成することができる小領域生成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近時、地形情報(空間情報)の需要が高まっており、道路上や沿道に設置された施設をより高度に管理することを目的として、その形状や設置位置といった施設の空間情報を要望する管理者が増加している。同時に、現在官民一体となって推進しているSociety5.0の実現にとっても、社会インフラストラクチャー(以下、単に「社会インフラ」という。)の高度な維持管理は重要な課題と位置付けられている。さらに、自動運転技術の実用化が進むなか、道路縁(道路境界線)をはじめとする道路に関する種々の空間情報が多方面から切望されているところである。
【0003】
従来、空間情報を示すものとしては、地形図など2次元(2D)の平面的な図面(平面図)が主流であった。平面図は、等高線や端点標高など高さ情報を示すことはあるものの、専ら平面位置を示すことに主眼が置かれており、3次元(3D)の空間として対象範囲を把握することは難しかった。一方近年では、計測技術の進歩に伴い大量の3次元計測点(以下、「3次元点群」という。)を容易に取得することができるようになり、しかも情報技術の進歩に伴いこの3次元点群を容易にハンドリングできるようになってきた。
【0004】
例えば道路を含む地形の3次元点群を取得するには、空中写真測量や航空レーザー計測、地上型レーザー計測、MMS(Mobile Mapping System)といった計測手法が採用されている。このうちMMSは、レーザースキャナやカメラ、自己位置を取得するための衛星測位システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)、IMU(Inertial Measurement Unit)、オドメトリなどのセンサを移動車両に搭載したものであり、これにより車道上を移動しながらレーザースキャナによって3次元点群を取得することができる。
【0005】
MMSなどによって得られた3次元点群は、計測対象の地形の3次元モデル(以下、「3Dモデル」という。)として利用するのが一般的である。この3Dモデルは、対象地形を3次元座標で表したものであって、DSM(Digital Surface Model)やDEM(Digital Elevation Model)に代表される地形モデルである。
【0006】
通常、3Dモデルは、対象とする平面範囲を複数分割した小領域によって構成される。この小領域は、メッシュとも呼ばれ、例えば直交するグリッドに区切られて形成されるもので、それぞれの小領域は代表点を備えている。計測によって得られる3次元点群はランダムデータ(平面的に不規則な配置のデータ)であることが多いため、小領域の代表点に高さを与えるには幾何計算されることが多い。この計算方法としては、ランダムデータから形成される不整三角網によって高さを求めるTIN(Triangulated Irregular Network)による手法、最も近いレーザー計測点を採用する最近傍法(Nearest Neighbor)による手法のほか、逆距離加重法(IDW:Inverse Distance Weighting)、Kriging法、平均法などを挙げることができる。
【0007】
3Dモデルは、対象地形を平面的かつ立体的に把握することができることから、平面図に比べると種々の用途に利用することができる。しかしながら、計測結果に基づく3Dモデルはあくまで3次元座標を基本とする空間情報を提示するにとどまり、地物の属性までは示すことができない。すなわち3Dモデルを目視しただけでは、オフィスビルの外縁(いわゆるエッジ)がどこなのか、道路縁がどこなのか、理解することができないわけである。
【0008】
3Dモデルに対して地物の属性情報を付与するとなると、地物の調査が必要となる。つまり、作業者が直接現地に赴いて目視した情報を図面に記録したり、あるいは空中写真を目視しながら地物の属性を抽出したりするなど、人による調査が必要になるわけである。しかしながら、例えば道路延長は一般に相当の延長を有していることから、調査にかかる作業量は膨大であり、その労力や作業時間を考えると多大なコストを要することとなる。
【0009】
ところで、上記したように従来は主に平面図を利用していた。そしてこの平面図を、ラスターデータやベクターデータとして(つまりデジタル化して)利用するケースもあり、さらに地物を図形(ポリラインやポリゴン)化したうえで属性情報を付与したものを利用するケースもあった。あるいは、近年の機械学習技術の進歩によって、空中写真や平面図から機械的(自動的)に地物を抽出し、その図形と属性情報を抽出することも可能になってきた。このように、標高などの高さ情報は備えていないものの地物の属性情報を有する「2次元の地形モデル」が別に用意されているケースは考えられる。そして、この2次元の地形モデルを利用すれば、人による地物の調査は省略(あるいは大幅に削減)することができることとなる。
【0010】
そこで特許文献1では、2次元地図データに表される地物の形状線に、計測による点群を用いて標高を付与することで3次元の地物形状線を生成する技術について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記したとおり3Dモデルは、複数の小領域によって構成され、それぞれの小領域には高さ情報(例えば標高値)が付与される。3次元点群がランダムデータであることから、小領域内には複数の3次元計測点が配置されることもあり、その場合はそれら3次元計測点を用いた統計処理によって小領域の標高値が決定される。例えば、小領域内に5つの3次元計測点がある場合、その5点の標高値の平均値を求め、これを小領域の標高値として決定するわけである。小領域の標高値が決まれば、地物にも標高値を付与することができる。具体的には、地物を含む小領域を抽出するとともに、その小領域の標高値を用いて地物に標高値を付与していくことができる。
【0013】
ところで、3Dモデルを構成する複数の小領域は、直交するグリッドに区切られた正方形などすべて同一の形状とされ、しかもすべて同じ方向で設定されていた。しかしながら、地物の種別によっては、必ずしも正方形の小領域に含まれる3次元計測点を用いることが適当でないことも考えられる。例えば、地物が道路であるケースでは、道路横断方向に見ると顕著な高低差を示すのに対して、道路延長方向にはそれほど変化しない。したがって、他の地物と同様、小領域を正方形として設定するよりも、道路横断方向には「密」に道路延長方向には「疎」に分割するような長方形の小領域が適していると考えられる。また、道路上に設定する小領域の向きも、道路延長方向や道路横断方向に沿った方向にする方が、道路に対して現状に即した高さ情報を付与することができると考えられる。
【0014】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、地物の種別に適した形状の小領域を生成することができる、小領域生成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明は、地物の種別に適した小領域の形状をあらかじめ設定しておき、地物の種別を確認しながら適切な形状の小領域を適宜生成していく、という点に着目したものであり、従来にはなかった発想に基づいてなされた発明である。
【0016】
本願発明の小領域生成装置は、2次元地形モデル記憶手段と小領域生成手段、地物別形状記憶手段を備えたものである。このうち小領域生成手段は、対象領域の地物に対して地物分類が付与された2次元地形モデルを記憶する手段である。また、小領域生成手段は、対象領域に対して複数の小領域を生成する手段であり、地物別形状記憶手段は、2次元地形モデルの地物分類に応じて設定される地物別形状を記憶する手段である。そして小領域生成手段が、2次元地形モデルの地物分類の地物別形状で、地物を分割するように小領域を生成する。
【0017】
本願発明の小領域生成装置は、地物に設定される軸方向と略平行(平行を含む)となるように小領域を生成するものとすることもできる。
【0018】
本願発明の小領域生成装置は、2次元地形モデルの地物分類のうちの「道路」に対しては「長方形」を地物別形状としたものとすることもできる。この場合、小領域生成手段は、道路を延長方向と横断方向に分割するように小領域を生成する。
【0019】
本願発明の小領域生成装置は、道路延長方向が長方形の長手方向となるように小領域を生成するものとすることもできる。
【0020】
本願発明の小領域生成装置は、点群記憶手段と地物高算出手段をさらに備えたものとすることもできる。このうち点群記憶手段は、対象領域内を計測して得られた複数の3次元計測点を記憶する手段であり、地物高算出手段は、小領域生成手段によって生成された小領域の高さ(地物高)を設定する手段である。この場合、地物高算出手段は、道路縁に位置する小領域に設定された地物高に基づいて道路縁に対して高さ情報を付与する。
【0021】
本願発明の小領域生成装置は、テンプレート記憶手段とテンプレート選出手段、テンプレート配置手段をさらに備えたものとすることもできる。このうちテンプレート記憶手段は、複数種類の横断テンプレートを記憶する手段であり、テンプレート選出手段は、テンプレート記憶手段が記憶する横断テンプレートから所望の横断テンプレートを選出する手段であり、テンプレート配置手段は、テンプレート選出手段によって選出されたテンプレートを道路の横断方向となるように配置する手段である。なお、横断テンプレートは、鉛直断面上に設定される2以上の線分によって形成される。そして、道路縁における横断テンプレートの高さと、地物高算出手段によって付与された道路縁の高さとの差が、あらかじめ定めた閾値を上回るときは、横断テンプレートの高さを道路縁の高さとして採用する。
【発明の効果】
【0022】
本願発明の小領域生成装置には、次のような効果がある。
(1)地物の種別に応じた形状や方向で設定された小領域の3次元計測点を用いて、地物に高さ情報を付与することから、従来に比してより現状に即した3Dモデルを生成することができる。
(2)現状に即した3Dモデルが得られることから、道路施設等をより高度に管理することができ、また自動運転にとってより有益な地図情報を提供することができる。
(3)地物分類が付与された2次元地形モデルを利用することによって、人による地物の調査を省略あるいは大幅に削減することができる。
(4)例えば道路縁の一部が街路樹などに覆われて不可視となっている箇所、すなわち街路樹による部分的な隠蔽(オクルージョン)が生じている個所であっても、横断テンプレート(テンプレート高)を利用することによって道路縁に適切な高さを付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本願発明の小領域生成装置の主な構成を示すブロック図。
【
図2】(a)は小領域が生成される前の道路の一部を模式的に示す平面図、(b)は小領域が生成された道路の一部を模式的に示す平面図。
【
図3】学校と道路、集合住宅に対して生成された小領域MSを模式的に示す平面図。
【
図4】平面位置を合わせたうえで重ねられた3次元点群と小領域グループを模式的に示すモデル図。
【
図5】(a)は拝み勾配の道路横断を表す横断テンプレートを模式的に示すモデル図、(b)は中央分離帯がある拝み勾配の道路横断を表す横断テンプレートを模式的に示すモデル図、(c)は歩道高が異なる拝み勾配の道路横断を表す横断テンプレートを模式的に示すモデル図。
【
図6】(a)は道路縁における地物高とテンプレート高の差分高が閾値を下回る道路を模式的に示す鉛直断面図、(b)は道路縁における地物高とテンプレート高の差分高が閾値を上回る道路を模式的に示す鉛直断面図。
【
図7】本願発明の地物高付与装置の主な処理の流れを示すフロー図。
【
図8】地物高修正手段によって道路縁の地物高が修正される主な処理の流れを示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本願発明の小領域生成装置の一例を、図に基づいて説明する。
【0025】
図1は、本願発明の小領域生成装置100の主な構成を示すブロック図である。この図に示すように小領域生成装置100は、小領域生成手段101と2次元地形モデル記憶手段108、地物別形状記憶手段109を含んで構成され、さらに地物高算出手段102やテンプレート選出手段103、テンプレート配置手段104、地物抽出手段105、地物別形状取得手段106、地物高修正手段107、点群記憶手段110、テンプレート記憶手段111、生成条件記憶手段112を含んで構成することもできる。
【0026】
小領域生成装置100を構成する小領域生成手段101と地物高算出手段102、テンプレート選出手段103、テンプレート配置手段104、地物抽出手段105、地物別形状取得手段106、地物高修正手段107は、専用のものとして製造することもできるし、汎用的なコンピュータ装置を利用することもできる。このコンピュータ装置は、CPU等のプロセッサ、ROMやRAMといったメモリを具備しており、さらにマウスやキーボード等の入力手段やディスプレイを含むものもあり、例えばパーソナルコンピュータ(PC)やサーバなどによって構成することができる。
【0027】
また、2次元地形モデル記憶手段108と地物別形状記憶手段109、点群記憶手段110、テンプレート記憶手段111、生成条件記憶手段112は、汎用的コンピュータ(例えば、パーソナルコンピュータ)の記憶装置を利用することもできるし、データベースサーバに構築することもできる。データベースサーバに構築する場合、ローカルなネットワーク(LAN:Local Area Network)に置くこともできるし、インターネット経由(つまり無線通信)で保存するクラウドサーバとすることもできる。
【0028】
以下、本願発明の小領域生成装置100を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0029】
(2次元地形モデル記憶手段)
2次元地形モデル記憶手段108は、対象とする平面範囲(以下、「対象領域」という。)の「2次元地形モデル」を記憶するものである。ここで2次元地形モデルとは、高さ情報を備えていない地形図といった2次元の地形情報であり、地物に関する情報(以下、「地物情報」という。)を具備する地形モデルである。また地物情報とは、ポリゴンやポリラインなど地物の平面位置と形状に関する情報(以下、「地物図形」という。)と、地物に関する属性情報を含むものである。さらに地物の属性情報には道路や道路縁、建物や建物の外縁、公園、学校といった地物の種別(以下、「地物分類」という。)が含まれている。つまり、対象領域内に地物図形が平面配置され、この地物図形には地物に関する属性情報(地物分類を含む)が関連付けられているわけである。
【0030】
(点群記憶手段)
点群記憶手段110は、「3次元点群」を記憶するものである。ここで3次元点群とは、空中写真測量や航空レーザー計測、地上型レーザー計測、MMSなどの手法によって対象領域を計測した結果取得された多数の3次元計測点の集合であり、この3次元計測点は当然ながら平面位置と高さ情報からなる3次元座標で表すことができる。
【0031】
ところで、DSMやDEMといった3次元の地形モデル(3Dモデル)は、上記した3次元点群と複数の小領域によって生成することができる。ここで小領域とは、地物など対象とする平面範囲を例えば直交するグリッドで区切られて形成される分割領域(いわゆるメッシュ)であり、2次元位置(平面位置)を示す情報で構成され、標高といった高さ情報を有していない。3Dモデルは、通常、複数の小領域によって構成され、そしてそれぞれの小領域に設けられる代表点に対して高さ情報(例えば標高)を付与することで3Dモデルは生成される。計測(例えばレーザー計測)によって得られる3次元点群はランダムデータであることが多いため、小領域の代表点に標高を与えるには幾何計算されることが多い。この算出方法としては、既述したとおりTINによる手法、最近隣法のほか、逆距離加重法、Kriging法、平均法などを挙げることができる。
【0032】
(地物別形状記憶手段)
地物別形状記憶手段109は、地物分類と地物別形状を関連付けて記憶するものである。ここで地物別形状とは、後述する小領域生成手段101が生成する小領域の平面形状であって、その地物分類にとって最も適した平面形状であり、例えば地物分類が「道路」であれば「長方形」を地物別形状とし、地物分類が「建物」や「公園」であれば「正方形」を地物別形状とすることができる。具体的には、あらかじめ地物分類と地物別形状を関連付けたテーブルを作成し、地物別形状記憶手段109がその「地物分類-地物別形状テーブル」を記憶する。
【0033】
(地物抽出手段)
地物抽出手段105は、2次元地形モデルが具備する地物情報に基づいて所定の地物図形(ポリゴン等)を抽出する手段である。地物図形を抽出するにあたっては、2次元地形モデルが具備するすべての地物図形を順次抽出する仕様とすることもできるし、オペレーターが指定した地物分類の地物図形を抽出する仕様とすることもできる。あるいは、オペレーターが表示手段(液晶ディスプレイなど)に表示された2次元地形モデルを目視しながら、ポインティングデバイス(マウスやタッチパネル、ペンタブレット、タッチパッド、トラックパッド、トラックボールなど)やキーボード等を利用して所望の地物図形を抽出する仕様とすることもできる。
【0034】
(地物別形状取得手段)
地物別形状取得手段106は、地物抽出手段105によって抽出された地物図形に係る地物の地物別形状を取得する手段である。具体的には、当該地物に係る地物分類をもって地物別形状記憶手段109に照会することで地物別形状を取得する(
図1)。
【0035】
(小領域生成手段)
小領域生成手段101は、地物抽出手段105によって抽出された地物図形に対して小領域を生成する手段である。具体的には、地物別形状取得手段106によって取得された地物別形状と、生成条件記憶手段112から読み出した(
図1)「生成条件」に基づいて、地物図形を分割するように複数の小領域を生成する。ここで生成条件とは、例えば「道路幅員方向には4分割する」など地物図形を分割する数、あるいは「長方形のうちの短辺の長さは10cmとする」といった小領域の一部の寸法などを定めた条件であり、文字どおり小領域を生成するための条件である。地物別形状は、正方形や長方形、あるいは正三角形などあくまで平面形状が規定されるだけであり、あらゆる相似形が対象となる。そこで、地物別形状と生成条件とによって、小領域生成手段101が生成する小領域の形状及び大きさを決定するわけである。
【0036】
図2は、2次元地形モデルが有する地物のうちの道路の一部を模式的に示す図であり、(a)は小領域MSが生成される前の道路を示す平面図、(b)は小領域MSが生成された道路を示す平面図である。既述したとおり、道路は道路横断方向に見ると顕著な高低差を示すのに対して、道路延長方向にはそれほど変化しない。そこで
図2の例では、道路(地物)の地物別形状として長方形が設定されており、すなわち地物別形状取得手段106が地物別形状記憶手段109から長方形(地物別形状)を取得するとともに、小領域生成手段101が長方形(地物別形状)と生成条件に基づいて道路を分割するように複数の小領域MSを生成している。また小領域生成手段101は、
図2(b)に示すように長方形の長手方向(長辺の方向)が道路延長方向となるように小領域MSを生成している。これにより、道路横断方向には小領域MSが「密」に配置され、そして道路延長方向には小領域MSが「疎」に配置されるわけである。
【0037】
通常、DSMやDEMといった3Dモデルを構成する複数の小領域は、すべて同じ形状であり、またすべて同じ方向に配置される。しかしながら、地物によってはその主な方向(以下、「軸方向」という。)に合わせて小領域を配置する方が良いケースもある。例えば道路を含む3Dモデルを作成する場合、道路延長方向や道路横断方向に沿った方向で小領域を配置する方が、道路に対して現状に即した高さ情報(標高など)を付与することができると考えられる。
【0038】
図3は、学校と道路、集合住宅に対して生成された小領域MSを模式的に示す平面図である。この図に示す学校は、紙面の上下方向や左右方向に平行に配置されており、したがってこの学校の軸方向は上下方向(あるいは左右方向)に設定することができる。一方、道路と集合住宅は、紙面の上下方向に対して傾斜するように配置されており、したがってこれら道路と集合住宅の軸方向は上下方向に対して傾斜した方向に設定することができる。そして小領域生成手段101は、学校と道路、集合住宅の軸方向と略平行(平行を含む)な配置となるようにそれぞれ小領域MSを生成している。すなわち、学校に対しては正方形の小領域MSが紙面の上下方向と略平行な配置となるように、道路に対しては長方形の小領域MSが紙面の上下方向から傾斜した配置となるように、集合住宅に対しては正方形の小領域MSが紙面の上下方向から傾斜した配置となるように、それぞれ小領域MSが生成されている。
【0039】
(地物高算出手段)
地物高算出手段102は、小領域生成手段101によって生成された小領域MSの高さ(以下、「地物高」とい。)を算出する手段である。
図4に示すように、平面位置を合わせたうえで3次元点群と小領域MSを重ねると、小領域MSには複数の3次元計測点が配置されることもある。この場合、地物高算出手段102は、これら3次元計測点を用いた統計処理を行うことによって、その小領域MSの地物高を算出する。具体的には、小領域MSに含まれる複数の3次元計測点を用い、平均値(以下、「平均高」という。)や最小値(以下、「最小高」という。)、最大値(以下、「最大高」という。)、最頻値(以下、「最頻高」という。)、中央値(以下、「中央高」という。)などを地物高として算出することができる。
【0040】
ところで、地物の種別(つまり地物分類)によっては、必ずしも小領域MS内にある3次元計測点の平均高を採用することが適当でないことも考えられる。例えば、地物が道路縁であるケースでは、小領域MS内にある3次元計測点のうち最小値を採用する方が現状に即していると考えられ、また地物が建物(オフィスビルなど)の外縁であるケースでは、小領域MS内にある3次元計測点のうち最大高を採用する方が現状に即していると考えられる。
【0041】
そこで地物高算出手段102は、地物分類に応じて、すなわちその地物分類にとって最も適した統計処理(以下、「最適統計処理」という。)で地物高を算出する仕様とすることもできる。具体的には、あらかじめ地物分類と最適統計処理を関連付けた「地物分類-最適統計処理テーブル」を作成しておき、地物高算出手段102がこの地物分類-最適統計処理テーブルに基づいて地物高を算出する。例えば、道路縁(地物)に対して小領域MSが生成されているケースでは地物高算出手段102が地物高として最小高を算出し、建物(オフィスビルなど)の外縁に対して小領域MSが生成されているケースでは地物高算出手段102が地物高として最大高を算出し、公園に対して小領域MSが生成されているケースでは地物高算出手段102が地物高として平均高を算出するわけである。
【0042】
(テンプレート記憶手段)
テンプレート記憶手段111は、「横断テンプレート」を記憶するものである。ここで横断テンプレートとは、その道路の代表的な横断面形状を示すものであり、鉛直面上に設定される2以上の線分によって形成される図形データである。例えば
図5では、3種類の横断テンプレートが設定されており、(a)は拝み勾配の道路横断を表す横断テンプレート、(b)は中央分離帯がある拝み勾配の道路横断を表す横断テンプレート、(c)は歩道高が異なる拝み勾配の道路横断を表す横断テンプレートをそれぞれ示している。なお
図5に示すように、横断テンプレートは道路中心も含んで形成するとよい。
【0043】
(テンプレート選出手段とテンプレート配置手段)
テンプレート選出手段103は、オペレーターがポインティングデバイスやキーボード等を利用して、テンプレート記憶手段111に記憶される横断テンプレートの中から所望の横断テンプレートを選出する手段である。なおテンプレート選出手段103は、オペレーター操作によって所望の横断テンプレートを選出する仕様とすることもできるし、横断面上の「地物分類」から自動選出する仕様とすることもできる。例えば、街路樹が歩道を隠蔽している場合、道路延長方向における前後の横断テンプレートを参照することによって適当な横断テンプレートを自動選出する仕様とすることもできるし、歩道位置における縦断線を生成するとともに前後の横断テンプレートに基づく内挿処理によって横断テンプレートを自動選出する仕様とすることもできる。またテンプレート配置手段104は、選出された横断テンプレートを道路の横断方向となるように配置する手段である。以下、テンプレート配置手段104が横断テンプレートを配置する処理について、詳しく説明する。
【0044】
事前に、道路に対して地物高を付与しておく。具体的には、地物抽出手段105によって道路の地物図形(ポリゴンなど)を抽出し、小領域生成手段101によって生成された小領域MSに対して地物高算出手段102がその地物高を算出する。そして、算出された地物高に基づいて、鉛直面上に投影された道路の断面図(以下、「測定断面図」という。)を作成し、その測定断面図に2次元地形モデルが有する道路中心(地物)と道路縁(地物)を設定する。なお測定断面図は、オペレーターが指定した位置で作成する仕様とすることもできるし、道路延長方向に一定間隔(例えば、20mピッチなど)で自動生成する仕様とすることもできる。測定断面図が作成されると、
図6に示すように道路中心線と道路中心における路面高を合わせたうえで、横断テンプレートを配置する。このとき横断テンプレートは、測定断面図上に、すなわち道路の横断方向となるように配置される。したがって2次元地形モデルは、地物として道路中心や道路縁とともに道路の横断方向も備えるとよい。
【0045】
(地物高修正手段)
地物高修正手段107は、地物高算出手段102によって算出された道路縁の地物高を必要に応じて修正する手段である。具体的には、道路縁における地物高と、道路縁における横断テンプレートの高さ(以下、「テンプレート高」という。)との較差(以下、「差分高」という。)が、あらかじめ定められた閾値を上回るとき、地物高修正手段107は道路縁の地物高を修正する。すなわち、地物高算出手段102によって算出された道路縁の地物高に代えて、テンプレート高を新たに道路縁の地物高として設定する。一方、差分高が閾値を下回るとき、地物高修正手段107は道路縁の地物高をそのまま維持する。
【0046】
図6(a)の例では、道路縁における地物高とテンプレート高との差分高が閾値を下回っており、したがって地物高修正手段107は道路縁の地物高をそのまま維持する。これに対して
図6(b)の例では、右側の道路縁における地物高とテンプレート高との差分高が閾値を上回っており、したがって地物高修正手段107はテンプレート高を新たに右側の道路縁の地物高として設定する。現実の道路縁には、途中に擁壁などが設置されていることもあり、その場合はその擁壁を地物高として求めることとなるため、一連の道路縁を把握する結果とはならないことも考えられる。そこで、その道路横断を代表する横断テンプレートと著しく異なる形状となる場合は、3次元点群に基づいて設定された道路縁の地物高よりも、横断テンプレートのテンプレート高を採用することで、一連の道路縁を把握するわけである。
【0047】
(処理の流れ)
以下、
図7を参照しながら地物高修正手段107の主な処理について詳しく説明する。
図7は、本願発明の地物高修正手段107の主な処理の流れを示すフロー図である。なおこのフロー図では、中央の列に実施する行為を示し、左列にはその行為に必要なものを、右列にはその行為から生ずるものを示している。
【0048】
図7に示すように、まず地物抽出手段105によって2次元地形モデルが有する地物図形を抽出する(Step201)。地物図形が抽出されると、地物別形状取得手段106がその地物に係る地物別形状を地物別形状記憶手段109から取得する(Step202)。そして小領域生成手段101が、地物別形状取得手段106によって取得された地物別形状と、生成条件記憶手段112から読み出した生成条件に基づいて、地物図形を分割するように複数の小領域MSを生成する(Step203)。小領域MSが生成されると、地物高算出手段102がそれぞれの小領域MSに対して地物高を算出する(Step204)。このとき地物高算出手段102は、地物分類に設定された最適統計処理で地物高を算出することもできる。
【0049】
次に、
図8を参照しながら地物高修正手段107が道路縁の地物高を修正する処理について詳しく説明する。
図8は、地物高修正手段107によって道路縁の地物高が修正される主な処理の流れを示すフロー図である。なおこのフロー図では、中央の列に実施する行為を示し、左列にはその行為に必要なものを、右列にはその行為から生ずるものを示している。
【0050】
図8に示すように、地物高算出手段102によって道路縁の地物高が算出されると(Step204)、オペレーターがポインティングデバイスやキーボード等を利用して、テンプレート記憶手段111から所望の横断テンプレートを選出する(Step205)。そしてテンプレート配置手段104が、
図6に示すように道路中心線と道路中心における路面高を合わせたうえで、測定断面図に重ねて横断テンプレートを配置する(Step206)。このとき横断テンプレートは、道路の横断方向となるように配置される。
【0051】
横断テンプレートが所定位置に配置されると、地物高修正手段107が道路縁における地物高と横断テンプレートとの差分高を求め(Step207)、その差分高と閾値を照らし合わせる(Step208)。そして、差分高が閾値を上回るときは(Step208のYes)、地物高修正手段107は地物高算出手段102によって算出された道路縁の地物高に代えて、テンプレート高を新たに道路縁の地物高として設定する(Step209)。一方、差分高が閾値を下回るときは(Step208のNo)、地物高修正手段107は道路縁の地物高をそのまま維持する。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本願発明の小領域生成装置は、道路施設をはじめとする様々な施設の管理や、自動運転に使用される地図情報として、特に好適に利用することができる。また本願発明によれば、高齢者や車いすにとって有益な段差情報を高い精度で提供することができ、さらに防災計画にも有効活用することができるなど、本願発明の小領域生成装置は、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明である。
【符号の説明】
【0053】
100 本願発明の小領域生成装置
101 (小領域生成装置の)小領域生成手段
102 (小領域生成装置の)地物高算出手段
103 (小領域生成装置の)テンプレート選出手段
104 (小領域生成装置の)テンプレート配置手段
105 (小領域生成装置の)地物抽出手段
106 (小領域生成装置の)地物別形状取得手段
107 (小領域生成装置の)地物高修正手段
108 (小領域生成装置の)2次元地形モデル記憶手段
109 (小領域生成装置の)地物別形状記憶手段
110 (小領域生成装置の)点群記憶手段
111 (小領域生成装置の)テンプレート記憶手段
112 (小領域生成装置の)生成条件記憶手段
MS 小領域