(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076205
(43)【公開日】2022-05-19
(54)【発明の名称】歯車装置及び歯車
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20220512BHJP
F16H 55/17 20060101ALI20220512BHJP
【FI】
F16H1/32 A
F16H1/32 B
F16H55/17 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020186512
(22)【出願日】2020-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】田村 光拡
【テーマコード(参考)】
3J027
3J030
【Fターム(参考)】
3J027FA37
3J027GC02
3J027GC06
3J030BC03
3J030BC10
(57)【要約】
【課題】接触部品の高硬度化を好適に図ることができる技術を提供する。
【解決手段】偏心揺動型の歯車装置であって、本歯車装置の他の構成部品と接触する接触面44を有する接触部品42を備え、接触部品42は、母材46と、母材46の表面に肉盛され、母材46よりも高硬度であり、接触面44を構成する肉盛部48と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
揺動歯車と、
前記揺動歯車を揺動させる偏心体と、を備える偏心揺動型の歯車装置であって、
本歯車装置の他の構成部品と接触する接触面を有する接触部品を備え、
前記接触部品は、
母材と、
前記母材の表面に肉盛され、前記母材よりも高硬度であり、前記接触面を構成する肉盛部と、を備える歯車装置。
【請求項2】
前記接触部品は、前記偏心体であり、
前記偏心体の外周面は、前記肉盛部によって構成される高硬度領域と、前記高硬度領域よりも低硬度の低硬度領域とを備え、
前記低硬度領域は、前記偏心体の軸心周りの範囲のうち、前記軸心より反最大偏心方向に延びる基準線から±90度の範囲内に設けられる請求項1に記載の歯車装置。
【請求項3】
前記接触部品は、前記揺動歯車を構成する外歯歯車であり、
前記肉盛部は、前記外歯歯車の歯面に設けられる請求項1に記載の歯車装置。
【請求項4】
前記肉盛部は、前記歯面における歯丈方向の中央部に設けられ、
前記母材は、前記外歯歯車の歯底部において露出する請求項3に記載の歯車装置。
【請求項5】
前記肉盛部は、前記外歯歯車の歯面の全周に設けられ、
前記歯面は、高硬度領域と、前記高硬度領域よりも低硬度の低硬度領域と、を備え、
前記低硬度領域は、前記外歯歯車の歯底部に設けられる請求項3に記載の歯車装置。
【請求項6】
起振体と、
前記起振体により撓み変形させられる撓み歯車と、を備える撓み噛み合い型の歯車装置であって、
本歯車装置の他の構成部品と接触する接触面を有する接触部品を備え、
前記接触部品は、
母材と、
前記母材の表面に肉盛され、前記母材よりも高硬度であり、前記接触面を構成する肉盛部と、を備える歯車装置。
【請求項7】
前記接触部品は、前記起振体であり、
前記起振体の外周面は、前記肉盛部によって構成される高硬度領域と、前記高硬度領域よりも低硬度の低硬度領域とを備え、
前記低硬度領域は、前記起振体の回転中心線周りの範囲のうち、前記回転中心線から前記起振体の短軸方向に沿って延びる基準線から±45度の範囲内に設けられる請求項6に記載の歯車装置。
【請求項8】
歯車であって、
他の歯車と接触する接触面と、
母材と、
前記母材の表面に肉盛され、前記母材よりも高硬度であり、前記接触面を構成する肉盛部と、を備え、
本歯車の歯面は、前記肉盛部によって構成され、本歯車の歯丈方向の中央部に少なくとも設けられる高硬度領域と、前記高硬度領域よりも低硬度の低硬度領域とを備え、
前記低硬度領域は、本歯車の歯底部に設けられる歯車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、歯車装置及び歯車に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、歯車装置を開示する。この歯車装置は、偏心体と、偏心体と外歯歯車との間に配置される転動体を備える。この偏心体は、転動体と接触する接触面を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の偏心体は、歯車装置の他の部品と接触する接触部品の一例となる。この接触部品の他の例は、歯車装置の歯車等である。
【0005】
この接触部品においては、疲労強度の向上を図るため、接触面の高硬度化が要求される。これを実現するための表面処理として、ずぶ焼入れのような、接触部品を構成する母材の表面全体を高硬度化させる表面熱処理が主流である。
【0006】
しかしながら、このような表面熱処理を用いる場合、接触面の硬度が母材の特性に依存してしまう。つまり、接触部品の接触面の硬度が母材によって制約されてしまうため、高硬度化を図るにも限界があった。
【0007】
本開示の目的の1つは、接触部品の高硬度化を好適に図ることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の歯車装置は、揺動歯車と、前記揺動歯車を揺動させる偏心体と、を備える偏心揺動型の歯車装置であって、本歯車装置の他の構成部品と接触する接触面を有する接触部品を備え、前記接触部品は、母材と、前記母材の表面に肉盛され、前記母材よりも高硬度であり、前記接触面を構成する肉盛部と、を備える。
【0009】
本開示の他の歯車装置は、起振体と、前記起振体により撓み変形させられる撓み歯車と、を備える撓み噛み合い型の歯車装置であって、本歯車装置の他の構成部品と接触する接触面を有する接触部品を備え、前記接触部品は、母材と、前記母材の表面に肉盛され、前記母材よりも高硬度であり、前記接触面を構成する肉盛部と、を備える。
【0010】
本開示の歯車は、他の歯車と接触する接触面と、母材と、前記母材の表面に肉盛され、前記母材よりも高硬度であり、前記接触面を構成する肉盛部と、を備え、本歯車の歯面は、前記肉盛部によって構成され、本歯車の歯丈方向の中央部に設けられる高硬度領域と、前記高硬度領域よりも低硬度の低硬度領域とを備え、前記低硬度領域は、前記外歯歯車の歯底部に設けられる。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、接触部品の高硬度化を好適に図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態の歯車装置の側面断面図である。
【
図5A】第1実施形態における加工方法を模式的に示す説明図であり、肉盛工程の途中状態を示す。
【
図5B】第1実施形態における加工方法を模式的に示す説明図であり、肉盛工程の終了後の状態を示す。
【
図5C】第1実施形態における加工方法を模式的に示す説明図であり、研削工程を示す。
【
図6】第1実施形態における肉盛加工の途中状態を示す側面図である。
【
図7】第1実施形態の外歯歯車を周辺構造とともに示す正面断面図である。
【
図8】第1実施形態の外歯歯車の一部を示す正面断面図である。
【
図9】第1実施形態の外歯歯車の一部を周辺構造とともに示す正面断面図である。
【
図10】第2実施形態の外歯歯車の一部を周辺構造とともに示す正面断面図である。
【
図11】第3実施形態の外歯歯車の一部を周辺構造とともに示す正面断面図である。
【
図12A】第3実施形態における加工方法を模式的に示す説明図であり、準備工程で準備する被加工材を示す。
【
図12B】第3実施形態における加工方法を模式的に示す説明図であり、肉盛工程の途中状態を示す。
【
図12C】第3実施形態における加工方法を模式的に示す説明図であり、肉盛工程の終了後の状態を示す。
【
図13】第4実施形態の外歯歯車の一部を周辺構造とともに示す正面断面図である。
【
図14】第5実施形態の歯車装置の側面断面図である。
【
図15】第5実施形態の起振体の正面断面図である。
【
図16】第6実施形態の複数の歯車の一部を示す正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態を説明する。同一の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面では、説明の便宜のため、適宜、構成要素を省略、拡大、縮小する。図面は符号の向きに合わせて見るものとする。
【0014】
(第1実施形態)
図1を参照する。本実施形態の歯車装置10は、偏心体26A、26Bによって揺動歯車を揺動させることで外歯歯車14及び内歯歯車18の一方を自転させ、その自転成分を出力する偏心揺動型の歯車装置である。偏心揺動型の歯車装置10は、クランク軸12と、クランク軸12によって揺動させられる揺動歯車としての外歯歯車14と、クランク軸12と外歯歯車14との間に配置される偏心体軸受16と、を備える。歯車装置10は、この他に、外歯歯車14と噛み合う内歯歯車18と、外歯歯車14に対して外歯歯車14の軸方向に配置されるキャリヤ20と、外歯歯車14の外周側に配置されるケーシング22と、を備える。
【0015】
クランク軸12は、駆動装置(不図示)から伝達される回転動力によって回転可能である。駆動装置は、例えば、モータ、ギヤモータ、エンジン等である。本実施形態の歯車装置10は、内歯歯車18の中心軸線CL1と同軸上にクランク軸12が設けられるセンタークランクタイプである。
【0016】
クランク軸12は、駆動装置から回転動力が伝達される軸体24と、軸体24と一体的に回転可能な複数の偏心体26A、26Bと、を備える。本実施形態の偏心体26A、26Bは、軸体24とは別体に設けられるが、その軸体24と同じ部材の一部として設けられてもよい。
【0017】
図2を参照する。偏心体26A、26Bは筒状をなし、その外周面は円形状をなす。偏心体26A、26Bの軸心CL2は回転中心線CL3に対して偏心量eだけ偏心している。偏心体26A、26Bは、その回転中心線CL3周りに回転することで、外歯歯車14Aを揺動させることが可能となる。本実施形態の歯車装置10は複数(詳しくは二つ)の偏心体26A、26Bを備える。複数の偏心体26A、26Bは、第1偏心体26Aと、第2偏心体26Bとを含む。第1偏心体26Aと第2偏心体26Bは同じ部材によって構成される。隣り合う偏心体26A、26Bの最大偏心方向(後述する)の位相はずれており、本実施形態では180°ずれている。なお、偏心体26A、26Bの個数は特に限定されないし、複数の偏心体26A、26Bは別体でもよい。
【0018】
図1を参照する。外歯歯車14は、複数の偏心体26A、26Bのそれぞれに対応して個別に設けられ、偏心体軸受16を介して対応する偏心体26A、26Bに回転自在に支持される。
【0019】
偏心体軸受16は、外歯歯車14と偏心体26A、26Bとの間において周方向に間隔を空けて配置される複数の転動体28を備える。本実施形態の転動体28はころである。偏心体軸受16は、専用の内輪を備えていない。この代わりに、偏心体26A、26Bの外周面が内輪を兼ねており、その外周面によって内輪転動面が構成される。偏心体軸受16は専用の外輪を備えていない。この代わりに、外歯歯車14の中央孔78(後述する)の内周面が外輪を兼ねており、その内周面によって外側転動面が構成される。転動体28は、内側転動面及び外側転動面のそれぞれを転動する。
【0020】
内歯歯車18は、ケーシング22と一体化される筒状の内歯歯車本体30と、内歯歯車本体30の内周部に設けられる複数の内歯32とを備える。本実施形態の内歯32は、内歯歯車本体30とは別体に設けられる複数のピン部材によって構成される。ピン部材は内歯歯車本体30の内周部に設けられるピン溝に回転可能に支持される。
【0021】
ケーシング22は、偏心体26A、26B等の歯車装置10の他の構成部品を収容する。
【0022】
被駆動装置に回転動力を出力する部材を出力部材34とし、歯車装置10を支持するために外部部材に固定される部材を被固定部材36という。出力部材34及び被固定部材36の一方はキャリヤ20であり、他方はケーシング22である。本実施形態ではキャリヤ20が出力部材34となる。出力部材34は、主軸受38を介して、被固定部材36に回転自在に支持される。
【0023】
以上の歯車装置10の動作を説明する。駆動装置からクランク軸12に回転動力が伝達されると、クランク軸12が回転中心線CL3周りに回転し、その偏心体26A、26Bによって外歯歯車14が揺動する。外歯歯車14が揺動すると、外歯歯車14と内歯歯車18の噛合位置が順次に周方向にずれる。この結果、クランク軸12が一回転する毎に、外歯歯車14と内歯歯車18の歯数差に相当する分、内歯歯車18及び外歯歯車14の一方が自転する。
【0024】
キャリヤ20が出力部材34となる場合、外歯歯車14が自転する。これに対して、ケーシング22が出力部材34となる場合、内歯歯車18が自転する。出力部材34は、外歯歯車14及び内歯歯車18の一方の自転成分と同期して回転することで、その自転成分を被駆動装置に出力する。このとき、クランク軸12の回転は、外歯歯車14と内歯歯車18の歯数差に応じた変速比で変速されたうえで被駆動装置に出力される。本実施形態の歯車装置10は、クランク軸12の回転を減速したうえで被駆動装置に出力する減速装置として機能する。
【0025】
図2~
図4を参照する。歯車装置10は、歯車装置10の他の構成部品40と接触する接触部品42を備える。以下、接触部品42は偏心体26A、26Bであり、構成部品40は転動体28である例を説明する。
【0026】
接触部品42は、構成部品40と接触する接触面44を備える。接触面44は、接触部品42の周面に設けられる。本明細書での「周面」とは、言及している構成要素(ここでは接触部品42)の外周面及び内周面の何れかをいう。本実施形態のように、接触部品42が偏心体26A、26Bとなり、構成部品40が転動体28となる場合、接触面44は、その周面となる外周面に設けられる。本明細書での「内周面」には、接触部品42の軸心を取り囲む面の他に、その軸心から径方向にオフセットした位置に設けられる面(例えば、
図7の偏心孔80の内周面)も含まれる。
【0027】
接触面44は、構成部品40に対して、転がり接触及び滑り接触の少なくとも一方によって接触する。接触面44は、歯車装置10の運転時において、構成部品40に対する接触位置が連続的に変わる面と捉えることができる。
【0028】
接触部品42は、母材46と、母材46の表面に肉盛りされる肉盛部48と、を備える。母材46は、肉盛加工によって加工される対象となる。肉盛部48は、肉盛加工によって母材46上に盛られる層状をなす。肉盛加工は、例えば、レーザークラッディング、粉末プラズマ溶接等である。本実施形態の肉盛部48は、母材46の表面の一部となる母材46の外周面に盛られる。肉盛部48は、接触面44を構成する。
【0029】
母材46は、例えば、クロムモリブデン鋼(SCM材)等の機械構造用鋼材、つまり、金属を素材とする。肉盛部48は、母材46よりも高硬度の金属によって構成される。この金属は、例えば、高速度工具鋼等の工具鋼である。
【0030】
母材46の硬度は、例えば、ビッカース硬度で250以上400以下の範囲となる。肉盛部48の硬度は、例えば、母材46の硬度よりも、ビッカース硬度で100[HV]以上大きくなる。接触面44の硬度は、接触面44を構成する母材46の表面を高硬度化させる表面熱処理を用いる場合、例えば、800[HV]未満となる。ここでの表面熱処理とは、例えば、浸炭焼入れ等の表面焼入れの他、窒化処理等を想定している。これに対して、肉盛加工を用いる場合、接触面44を構成する肉盛部48の硬度は、例えば、1000[HV]以上にできる。母材46よりも肉盛部48が高硬度であるという条件を満たしさえすれば、母材46と肉盛部48の硬度は特に限定されない。
【0031】
接触部品42は、接触部品42の軸方向外側を向く部品側面50を備える。母材46は、肉盛部48によって覆われることなく外部に露出する露出部52を備える。露出部52は、例えば、接触部品42の部品側面50を構成する母材46の側面部によって構成される。
【0032】
以上の工夫点に関する効果を説明する。
【0033】
(A)接触部品42は、母材46よりも高硬度の肉盛部48を備える。よって、接触部品42を構成する母材46の影響を受けることなく接触面44の高硬度化を好適に図ることができる。これは、母材46の表面熱処理(例えば、浸炭焼入れ、窒化処理等)によって得られる硬度よりも、接触面44の硬度を大きくできることを意味する。ひいては、接触部品42の疲労強度を向上でき、接触部品42の長寿命化を図ることができる。
【0034】
(B)この他にも、接触部品42の接触面44以外の箇所に母材46の露出部52を設けることができる。母材46の露出部52の硬度は、肉盛部48と比べて低くなる。よって、母材46の表面全体を表面熱処理する場合と比べ、母材46の露出部52において良好な加工性を維持できる。つまり、接触部品42の接触面44における疲労強度の向上を図りつつ、母材46の露出部52における加工性を維持できるようになる。例えば、本実施形態の偏心体26においては、モータ軸を挿入するための軸方向貫通孔が母材46の露出部52に形成される。この軸方向貫通孔を形成するうえで良好な加工性を維持できる。
【0035】
(C)この他にも、接触部品42の接触面44を高硬度化するうえで、母材46の表面全体の表面熱処理が不要となるため、表面熱処理に起因する母材46全体の変形を抑えることができる。
【0036】
次に、他の工夫点を説明する。接触部品42の接触面44となる偏心体26A、26Bの外周面は、肉盛部48によって構成される高硬度領域54と、高硬度領域54よりも低硬度の低硬度領域56とを備える。
図3では、低硬度領域56をハッチングで示し、高硬度領域54はハッチングを付していない。ここでの硬度は、接触面44を含む接触部品42の表面部の硬度をいう。この硬度は、接触部品42の接触面44から深さ方向(法線方向)に所定の範囲(例えば、1.0mm)に関して、所定の単位深さ(たとえば、0.1mm)毎に測定される全硬度の平均値をいう。
【0037】
本実施形態において、低硬度領域56は、後述する肉盛加工によって、肉盛部48において軟化した部分によって構成される。また、高硬度領域54は、肉盛部48における低硬度領域56以外の部分によって構成される。本実施形態においては、低硬度領域56と高硬度領域54の何れもが肉盛部48によって構成されることになる。この他にも、後述のように、低硬度領域56は母材46によって構成し、高硬度領域54は肉盛部48によって構成してもよい。いずれの場合でも、高硬度領域54と低硬度領域56の硬度差は、例えば、ビッカース硬度で50HV以上となる。本実施形態の低硬度領域56は、偏心体26A、26Bの軸方向に延びるとともに、その軸方向に対して傾斜する帯状をなす。
【0038】
偏心体26A、26Bの回転中心線CL3から軸心CL2に向かう方向を最大偏心方向Pa1といい、最大偏心方向Pa1とは回転中心線CL3に対して正反対に延びる方向を反最大偏心方向Pa2という。最大偏心方向Pa1及び反最大偏心方向Pa2は、軸心CL2と回転中心線CL3とを通る半直線に沿った方向となる。偏心体26A、26Bの軸心CL2とは、偏心体26A、26Bの軸方向に直交する断面において、偏心体26A、26Bの外周面のなす形状の幾何中心(重心)をいう。本実施形態においては偏心体26A、26Bの外周面の形状が円形状となるため、その円形状の中心が偏心体26A、26Bの軸心CL2となる。
【0039】
偏心体26A、26Bの軸心CL2周りの範囲のうち、偏心体26A、26Bの軸心CL2より反最大偏心方向Pa2に延びる線を第1基準線La1といい、その軸心CL2より最大偏心方向Pa1に延びる線を第2基準線La2という。偏心体26A、26Bの第1基準線La1から±90度の範囲を非負荷範囲Sa1といい、第2基準線La2から±90度の範囲を負荷範囲Sa2という。偏心体26A、26Bには、負荷範囲Sa2において最大荷重が付加され、非負荷範囲Sa1においてはほとんど荷重が付加されない。非負荷範囲Sa1において第1基準線La1から±30度の範囲Sa3には特に荷重が付加されない。
【0040】
低硬度領域56は、非負荷範囲Sa1内に設けられる。低硬度領域56の全体は、非負荷範囲Sa1に収まるように設けられるということである。これに対して、高硬度領域54は、負荷範囲Sa2の全体、かつ、非負荷範囲Sa1において低硬度領域56以外の箇所に設けられる。
【0041】
(D)肉盛加工を用いる場合、接触部品42の接触面44に高硬度領域54と低硬度領域56が現われることがある。この場合でも、非負荷範囲Sa1内に低硬度領域56を設けることで、低硬度領域56に大荷重が付与される事態を避けることができる。ひいては、肉盛加工を用いることで低硬度領域56が現れた場合でも、低硬度領域56に付与される大荷重に起因する寿命の低下を防止できる。
【0042】
この観点から、本実施形態の低硬度領域56は、偏心体26A、26Bの外周面において、第1基準線La1から±30度の範囲Sa3に設けられると好ましい。
【0043】
次に、接触部品42の加工方法の一例を説明する。本加工方法は、準備工程と、肉盛工程と、研削工程とを含む。
【0044】
図5A、
図6を参照する。準備工程は、肉盛加工の素材となる母材46を被加工材58として準備する工程である。被加工材58となる母材46は、肉盛部48が盛られる箇所において、接触部品42から肉盛部48の厚み分を除いた外形を持つ。
【0045】
肉盛工程は、肉盛装置60を用いて、母材46の肉盛予定位置に肉盛部48を盛る肉盛加工をすることによって行われる。ここでの肉盛予定位置とは、母材46において肉盛部48を盛るべき位置をいう。本実施形態では肉盛加工としてレーザークラッディングを用いる。肉盛装置60は、金属粉末62を供給するノズル64と、金属粉末62に入熱するための熱源66を照射するヘッド68とを備える。レーザークラッディングを用いる場合、熱源66としてレーザー光が用いられる。熱源66は、この他にも、アーク、電子ビーム等が用いられてもよい。肉盛加工は、ノズル64によって金属粉末62を供給しつつ、ヘッド68から照射される熱源66によって金属粉末62を溶融させることで行われる。
【0046】
本実施形態の肉盛加工は、金属粉末62の供給位置及び熱源66の照射位置と、被加工材58との相対位置を連続的に変化させることで、母材46の肉盛予定位置の全域において周方向に連続的に行う。これを実現するため、本実施形態では、被加工材58は、被加工材58の軸心CL4周りに回転治具によって回転可能に支持する。この被加工材58の軸心CL4は、被加工材58の加工後に得られる接触部品42の軸心CL2と一致する。回転治具によって被加工材58を軸心CL4周りに回転させることで、ヘッド68及びノズル64の位置は変化させずに、母材46の位置(位相)を連続的に変化させている。この他にも、これを実現するうえで、ヘッド68及びノズル64を用いて金属粉末62の供給位置及び熱源66の照射位置を変化させてもよい。
【0047】
図5Bを参照する。母材46の周方向に連続的に肉盛部48を盛ることで、肉盛加工の開始位置側にある肉盛部48の始端部70と、肉盛加工の終了位置側にある肉盛部48の終端部72とが設けられる。本実施形態の肉盛工程では、これら始端部70と終端部72とをオーバーラップさせることでオーバーラップ部74を形成する。このとき、始端部70は、終端部72をオーバーラップさせる過程において、熱源66によって再入熱される。これにより、始端部70は、熱源66によって再入熱されていない他の箇所と比べて軟化する。この結果、始端部70には、熱源66によって再入熱されていない他の箇所と比べて低硬度の低硬度領域56が設けられる。これに対して、肉盛部48における他の箇所は、熱源66によって再入熱されることで軟化しないため、低硬度領域56よりも高硬度の高硬度領域54が設けられる。
【0048】
本実施形態において、高硬度領域54は、熱源66による入熱によって、金属粉末62の素材となる金属を焼入れすることで得られる。また、本実施形態において、低硬度領域56は、熱源66による再入熱によって、焼入れされた金属を焼き戻すことで得られる。よって、高硬度領域54には、例えば、マルテンサイト等を主相とする焼入れ組織が設けられる。また、低硬度領域56には、例えば、フェライトとオーステナイトの混合組織等を主相とする焼き戻し組織が設けられる。
【0049】
オーバーラップ部74は、前述した非負荷範囲Sa1に収まるように設定される。これにより、非負荷範囲Sa1に低硬度領域56が設けられ、他の箇所に高硬度領域54が設けられる。オーバーラップ部74は、前述の低硬度領域56と同様に帯状をなすよう、ヘッド68による熱源66の照射位置、照射角度及び照射範囲等が調整される。
【0050】
図5Cを参照する。肉盛工程に続く研削工程では、所望の接触部品42の形状となるように、肉盛工程において盛られた肉盛部48の表面を研削する。接触部品42の接触面44に所定の表面粗さが要求される場合、その表面粗さの接触面44が得られるように肉盛部48の表面を研削する。この他に、本実施形態では、オーバーラップ部74を含む範囲で肉盛部48の終端部72を除去するように肉盛部48を研削する。これにより、オーバーラップ部74を形成していた肉盛部48の始端部70が外部に露出する。この後、肉盛部48の始端部70を含む範囲で肉盛部48の表面を研削することで、その表面上において所望の表面粗さの接触面44を得る。
【0051】
ここまで肉盛部48を設ける接触部品42が偏心体26A、26Bである場合を例に説明した。次に、肉盛部48を設ける接触部品42が、偏心揺動型の歯車装置10に用いられる外歯歯車14となる例を説明する。
【0052】
図7、
図8を参照する。外歯歯車14は、外歯歯車14の歯面に設けられる複数の歯76を備える。本実施形態において、複数の歯76は、エピトロコイド平行曲線を持つトロコイド歯形である。
【0053】
以下、接触部品42が外歯歯車14(以下、「歯車14、110」ともいう)となり、接触部品42と接触する構成部品40が内歯歯車18(以下、「他の歯車18、112」ともいう)となる例を説明する。この場合、接触部品42の接触面44は、歯面のある歯車14、110の周面に設けられる。
【0054】
本実施形態の肉盛部48は、歯面のある歯車14、110の周面に設けられる。本実施形態の肉盛部48は、歯車14、110の歯面の全周に設けられる。図示はしないが、母材46の露出部52は、前述と同様、接触部品42の部品側面50を構成する母材46の側面部によって構成される。
【0055】
接触部品42の接触面44となる歯車14、110の歯面は、前述と同様、肉盛部48によって構成される高硬度領域54と、高硬度領域54よりも低硬度の低硬度領域56とを備える。低硬度領域56は、前述と同様、肉盛部48において肉盛加工によって軟化した部分によって構成される。また、高硬度領域54は、肉盛部48において低硬度領域56以外の部分によって構成される。
【0056】
高硬度領域54は、少なくとも一つの歯76に関する歯面における歯丈方向の中央部76aに少なくとも設けられる。詳しくは、全ての歯76に関する歯面における歯丈方向の中央部76aに少なくとも設けられる。ここでの歯丈方向は、歯車14の径方向をいう。また、歯車14、110の歯76に外接する歯先円C1の半径と、歯車14、110の歯底に内接する歯底円C2の半径との差に相当する幅をWとし、幅Wを等分するとともに歯先円C1及び歯底円C2と同心となる円をC3とする。このとき、歯76の中央部76aとは、歯面と円C3との交点の周辺部分をいう。この他にも、本実施形態の高硬度領域54は、歯面における全ての歯76に関する歯先部76bにも設けられる。
【0057】
低硬度領域56は、歯面における複数の歯底部76cのうちの少なくとも一つの歯底部76cに設けられる。本実施形態では、低硬度領域56は、複数の歯底部76cのうちの一つの歯底部76cのみに設けられ、他の歯底部76cには高硬度領域54が設けられる。
【0058】
以上のように、接触部品42となる歯車14、110の肉盛部48は、その歯面に設けられる。これにより、歯車14、110を対象として、前述の(A)、(B)、(C)で説明した効果を得られる。
【0059】
(E)この他に、歯車14、110の低硬度領域56は、歯車14、110の歯底部76cに設けられる。他の歯車18、112との接触によって、歯車14、110には歯丈方向の中央部76aにおいて大荷重が付加され、その歯底部76cや歯先部76bにはほとんど荷重が付加されない。このような歯底部76cに低硬度領域56を設けることで、前述の(D)と同様、歯車14、110の接触面44に高硬度領域54と低硬度領域56が現れる場合でも、低硬度領域56に大荷重が付与される事態を避けることができる。
【0060】
また、歯車14、110の歯面の一部に母材46を残す場合、母材46の一部に凸部90(後述する
図12Aを参照)を設ける必要が生じ、母材46の形状の複雑化を招く。これに対して、歯車14、110の歯面の全周に肉盛部48を設ける場合、母材46の一部に凸部90を設けずに済む利点がある。なお、これは、接触部品42の接触面44の全周に肉盛部48を設けることで得られる効果とも捉えることができる。
【0061】
次に、接触部品42が外歯歯車14となり、構成部品40がローラ84(後述する)となる例を説明する。ローラ84の周辺構造を説明する。
図7を参照する。外歯歯車14は、自らの軸心CL5を取り囲む中央孔78の他に、その軸心CL5から外歯歯車14の径方向にオフセットした位置に設けられる複数の偏心孔80を備える。
【0062】
歯車装置10は、キャリヤ20に支持されるピン体82と、ピン体82に回転自在に支持されるローラ84と、を備える。
【0063】
ピン体82は、外歯歯車14の偏心孔80を外歯歯車14の軸方向に貫通する。ピン体82は、外歯歯車14が揺動するときに、外歯歯車14から荷重を受けるとともに外歯歯車14の自転成分と同期可能である。ここでの「自転成分と同期」するとは、ゼロを含めた数字範囲内で、外歯歯車14の自転成分と、ピン体82の公転成分とを同じ大きさに維持することをいう。例えば、出力部材34がキャリヤ20となる場合、正の数字範囲内の自転成分を持って、外歯歯車14が自転する。これに連動して、外歯歯車14の自転成分と同じ大きさの公転成分を持ってピン体82が公転することで、外歯歯車14の自転成分とピン体82が同期する。これに対して、出力部材34がケーシング22となる場合、ピン体82によって外歯歯車14の自転が拘束され、外歯歯車14の自転成分がゼロの状態が維持される。これと同時に、ピン体82の公転成分がゼロの状態に維持されることで、外歯歯車14の自転成分とピン体82が同期する。
【0064】
ローラ84は、ピン体82の外周側に配置される。ローラ84は、偏心孔80内に配置され、偏心孔80の内周面に接触する。
【0065】
図9を参照する。接触部品42が外歯歯車14となり、接触部品42と接触する構成部品40がローラ84となる場合、接触部品42の接触面44は、接触部品42の偏心孔80の内周面となる。
【0066】
本実施形態の肉盛部48は、偏心孔80の内周面に設けられる。本実施形態の肉盛部48は、偏心孔80の内周面の全周に設けられる。図示はしないが、接触部品42の母材46の露出部52は、前述と同様、接触部品42の部品側面50を構成する母材46の側面部によって構成される。
【0067】
接触部品42の接触面44となる偏心孔80の内周面は、前述と同様、肉盛部48によって構成される高硬度領域54と、高硬度領域54よりも低硬度の低硬度領域56とを備える。低硬度領域56は、前述と同様、肉盛部48において肉盛加工によって軟化した部分によって構成される。また、高硬度領域54は、肉盛部48において低硬度領域56以外の部分によって構成される。
【0068】
偏心孔80の内周面は、接触部品42の軸方向から見て、偏心孔80の孔中心CL6に対して径方向内側の内側領域86と、その孔中心CL6に対して外周側の外側領域88とを備える。ここでの孔中心CL6とは、接触部品42の軸方向に直交する断面を軸方向から見たときに、偏心孔80の内周面のなす形状の幾何中心(重心)をいう。外歯歯車14の軸心CL5と孔中心CL6とを通る直線Lb1に対して直交する線を仮想線Lb2という。内側領域86と外側領域88は、仮想線Lb2を境界として、接触部品42の径方向に区分けされる領域となる。低硬度領域56は、偏心孔80の内側領域86に収まるように設けられる。これに対して、高硬度領域54は、外側領域88の全体、かつ、内側領域86において低硬度領域56以外の箇所に設けられる。
【0069】
ローラ84との接触によって、外歯歯車14には外側領域88に大荷重が付加され、内側領域86にはほとんど荷重が付加されない。このような箇所に低硬度領域56を設けることで、前述の(D)と同様、接触部品42の接触面44に高硬度領域54と低硬度領域56が現れる場合でも、低硬度領域56に大荷重が付与される事態を避けることができる。ここで説明した効果との関係では、接触部品42と接触する構成部品40は外歯歯車14の偏心孔80内に配置されるピン体82でもよい。
【0070】
(第2実施形態)
図10を参照する。本実施形態の歯車装置10は、第1実施形態とは異なり、内歯歯車18の中心軸線(不図示)から径方向にオフセットした位置に複数のクランク軸12が配置される振り分けタイプである。本図では単数のクランク軸12のみ示す。複数のクランク軸12は、内歯歯車18の中心軸線周りに間を空けて配置される。複数のクランク軸12は、共通の振り分け歯車(不図示)と噛み合う。複数のクランク軸12には、駆動装置の回転動力が振り分け歯車を介して振り分けられ、同一の回転速度で同一の方向に回転可能である。複数のクランク軸12は、外歯歯車14の偏心孔80を外歯歯車14の軸方向に貫通する。外歯歯車14の偏心孔80とクランク軸12との間には偏心体軸受16の転動体28が配置される。
【0071】
以下、接触部品42が外歯歯車14となり、接触部品42と接触する構成部品40が転動体28となる例を説明する。この場合、接触部品42の接触面44は、その偏心孔80の内周面となる。
【0072】
接触部品42の接触面44となる偏心孔80の内周面は、前述と同様、肉盛部48によって構成される高硬度領域54と、高硬度領域54よりも低硬度の低硬度領域56とを備える。低硬度領域56は、前述と同様、肉盛部48において肉盛加工によって軟化した部分によって構成される。また、高硬度領域54は、肉盛部48において低硬度領域56以外の部分によって構成される。
【0073】
低硬度領域56は、前述と同様、偏心孔80の内側領域86に収まるように設けられる。これに対して、高硬度領域54は、外側領域88の全体、かつ、内側領域86において低硬度領域56以外の箇所に設けられる。これにより、前述の(D)と同様、接触部品42の接触面44に高硬度領域54と低硬度領域56が現れる場合でも、低硬度領域56に大荷重が付与される事態を避けることができる。
【0074】
(第3実施形態)
図11を参照する。本実施形態において、第1実施形態と同様、接触部品42は、偏心揺動型の歯車装置10に用いられる外歯歯車14となり、接触部品42と接触する構成部品40は内歯歯車18となる。
【0075】
本実施形態の肉盛部48は、歯車14、110の歯面の全周ではなく、歯面に部分的に設けられる。詳しくは、肉盛部48は、歯面における母材46の露出部52(後述する)以外の箇所の全域に設けられる。
【0076】
接触部品42の接触面44となる歯車14、110の歯面は、第1実施形態と同様、肉盛部48によって構成される高硬度領域54と、高硬度領域54よりも低硬度の低硬度領域56とを備える。低硬度領域56は、
図8の例と比べ、肉盛部48ではなく母材46によって構成した点において相違する。この低硬度領域56を構成する母材46は、歯車14の歯底部76cにおいて露出する露出部52を構成する。この露出部52は、歯面における複数の歯底部76cのうちの一つの歯底部76cに設けられる。
【0077】
高硬度領域54は、母材46によって構成される低硬度領域56以外の部分によって構成される。このような高硬度領域54は、少なくとも一つの歯76に関する歯面における歯丈方向の中央部76aに少なくとも設けられる。詳しくは、全ての歯76に関する歯面における歯丈方向の中央部76aに設けられる。この他にも、本実施形態の高硬度領域54は、歯面における全ての歯に関する歯先部76bにも設けられる。肉盛部48は、歯面における歯丈方向の中央部76aに少なくとも設けられるとも捉えることができる。
【0078】
本実施形態においても、歯車14、110を対象として、前述の(A)、(B)、(C)で説明した効果を得られる。
【0079】
この他に、母材46によって構成される低硬度領域56は、歯車14の歯底部76cに設けられる。このような箇所に低硬度領域56を設けることで、前述の(E)と同様、歯車14、110の接触面44に高硬度領域54と低硬度領域56が現れる場合でも、低硬度領域56に大荷重が付与される事態を避けることができる。
【0080】
以上のように、接触部品42の接触面44となる周面に部分的に肉盛部48を設ける場合の、接触部品42の加工方法の一例を説明する。
図12を参照する。本図では、歯車14、110を円柱体によって模式的に示し、歯車14の歯76を省略する。
【0081】
図12Aを参照する。この場合、前述の準備工程において、歯面の一部となる凸部90を周面の一部に設けた母材46を被加工材58として準備する。凸部90は、接触面44の一部になるとも捉えることができる。凸部90は、母材46の低硬度領域56を構成する。
【0082】
図12B、
図12Cを参照する。準備工程に続く肉盛工程では、前述と同様、母材46の肉盛予定位置の全域において周方向に連続的に肉盛加工を行う。このとき、母材46の凸部90に対して周方向の一方側に肉盛部48の始端部70を設け、その凸部90に対して周方向の他方側に肉盛部48の終端部72を設ける。第1実施形態とは異なり、肉盛加工の始端部70と終端部72とをオーバーラップさせないことになる。
【0083】
肉盛工程に続く研削工程では、所望の接触部品42の形状となるように、肉盛工程において盛られた肉盛部48の表面を研削する。このとき、接触部品42の接触面44に所定の表面粗さが要求される場合、その表面粗さが得られるように、接触面44を構成する肉盛部48及び母材46の両方の表面を研削する。
【0084】
(第4実施形態)
図13を参照する。本実施形態では、
図11の例と同様、構成部品40が内歯歯車18であり、接触部品42が外歯歯車14である。前述のように、他の歯車18、112との接触によって、歯車14、110の歯底部76cや歯先部76bにはほとんど荷重が付加されない。本実施形態では、このような歯車14、110の全ての歯底部76c及び全ての歯先部76bに低硬度領域56を設けている。これにより、前述の(E)と同様、歯車14、110の接触面44に高硬度領域54と低硬度領域56が現れる場合でも、低硬度領域56に大荷重が付与される事態を避けることができる。
【0085】
低硬度領域56は、
図11の例と同様、母材46の露出部52によって構成される。高硬度領域54は、
図11の例と同様、肉盛部48によって構成される。本実施形態の高硬度領域54(肉盛部48)は、周方向に間を空けて複数設けられる。母材46によって構成される低硬度領域56と肉盛部48によって構成される高硬度領域54とは周方向に交互に設けられることになる。本実施形態の肉盛部48は、図示はしないが、母材46の肉盛予定位置に周方向又は軸方向に連続的に肉盛加工を行うことで母材46上に盛られる。
【0086】
(第5実施形態)
図14を参照する。本実施形態の歯車装置10は、起振体100によって撓み歯車を撓み変形させることで外歯歯車14及び内歯歯車18の一方を自転させ、その自転成分を出力する撓み噛み合い型の歯車装置である。本実施形態の歯車装置10は、複数の内歯歯車18を用いた、筒型の撓み噛み合い型の歯車装置である。撓み噛み合い型の歯車装置10は、起振体100と、起振体100によって撓み変形させられる撓み歯車としての外歯歯車14と、起振体100と外歯歯車14との間に配置される起振体軸受102とを備える。歯車装置10は、この他に、外歯歯車14と噛み合う内歯歯車18と、外歯歯車14に対して外歯歯車14の軸方向に配置されるキャリヤ20と、外歯歯車14の外周側に配置されるケーシング22と、を備える。
【0087】
起振体100は、駆動装置(不図示)から伝達される回転動力によって回転可能である。起振体100は、自らの回転により外歯歯車14を撓み変形させることができる程度の剛性を持つ筒状部材である。起振体100は、自らの軸方向の中間部に中間軸部100aを備える。起振体100の中間軸部100aの外周形状は、軸方向に直交する断面において楕円状をなす。本明細書での「楕円」とは、幾何学的に厳密な楕円に限定されず、略楕円も含まれる。
【0088】
本実施形態の外歯歯車14は、起振体100の中間軸部100aの外周側に配置される可撓性を持つ筒状部材である。外歯歯車14は、起振体軸受102を介して、起振体100に回転自在に支持される。
【0089】
本実施形態の起振体軸受102は、後述の複数の内歯歯車18A、18Bのそれぞれに対応しており、その対応する内歯歯車18A、18Bの内側に個別に配置される。起振体軸受102は、起振体100と外歯歯車14との間において周方向に間隔を空けて配置される複数の転動体104と、複数の転動体104の外周側に配置される可撓性を持つ外輪106と、を備える。外輪106は、外歯歯車14と同様、起振体100によって撓み変形させられる。起振体軸受102は、専用の内輪を備えていない。この代わりに、起振体100の中間軸部100aの外周面が内輪を兼ねており、その外周面によって内輪転動面が構成される。
【0090】
内歯歯車18は、外歯歯車14の外周側に配置される環状部材である。内歯歯車18は、起振体100の回転に追従して変形しない程度の剛性を持つ。本実施形態の内歯歯車18は、外歯歯車14の外歯数とは異なる内歯数の変速用内歯歯車18Aの他に、外歯歯車14の外歯数と同数の内歯数の出力用内歯歯車18Bを含む。
【0091】
第1実施形態と同様、出力部材34及び被固定部材36の一方はキャリヤ20であり、他方はケーシング22である。本実施形態ではキャリヤ20が出力部材34となる。
【0092】
以上の歯車装置10の動作を説明する。駆動装置から起振体100に回転動力が伝達されると、起振体100が回転する。起振体100が回転すると、内歯歯車18との噛合位置を周方向に変えつつ、起振体100の形状に合わせた楕円状をなすように外歯歯車14が撓み変形させられる。これにより、起振体100が一回転する毎に、外歯歯車14と変速用内歯歯車18Aとの歯数差に相当する分、変速用内歯歯車18A及び外歯歯車14の一方が自転する。
【0093】
キャリヤ20が出力部材34となる場合、出力用内歯歯車18Bとともに外歯歯車14が自転する。これに対して、ケーシング22が出力部材34となる場合、変速用内歯歯車18Aが自転する。出力部材34は、外歯歯車14及び変速用内歯歯車18Aの一方の自転成分と同期して回転することで、その自転成分を被駆動装置に出力する。このとき、起振体100の回転は、外歯歯車14と内歯歯車18の歯数差に応じた変速比で変速されたうえで被駆動装置に出力される。本実施形態の歯車装置10は、起振体100の回転を減速したうえで被駆動装置に出力する減速装置として機能する。
【0094】
以下、接触部品42は起振体100であり、接触部品42と接触する構成部品40は転動体104である例を説明する。
図15を参照する。接触部品42の接触面44は、第1実施形態と同様、その周面となる外周面に設けられる。本実施形態の肉盛部48は、起振体100の接触面44となる外周面を構成する。本実施形態の肉盛部48は、起振体100の接触面44の全周に亘る範囲で接触面44を構成する。
【0095】
これにより、撓み噛み合い型の歯車装置10によっても、前述の(A)~(C)と同様の効果を得られる。
【0096】
接触部品42の接触面44となる起振体100の外周面は、第1実施形態と同様、肉盛部48によって構成される高硬度領域54と、高硬度領域54よりも低硬度の低硬度領域56とを備える。本実施形態においても、低硬度領域56は、肉盛部48において肉盛加工によって軟化した部分によって構成される。また、高硬度領域54は、肉盛部48において低硬度領域56以外の部分によって構成される。
【0097】
起振体100の回転中心線CL7より起振体100の短軸方向Daに沿って延びる線を第3基準線Lc1とし、回転中心線CL7より長軸方向Dbに沿って延びる線を第4基準線Lc2とする。この短軸方向Daとは、起振体100の断面形状のなす楕円の短軸方向をいう。短軸方向Daは、起振体100の回転中心線CL7から外周面までの距離が最小となる二つの短軸位置を結ぶ直線に沿った方向でもある。長軸方向Dbとは、起振体100の断面形状のなす楕円の長軸方向をいう。ここでの起振体100の断面形状とは、その回転中心線CL7に直交する断面での形状をいう。起振体100の回転中心線CL7周りの範囲のうち、第3基準線Lc1から±45度の範囲を非負荷範囲Sb1といい、第4基準線Lc2から±45度の範囲を負荷範囲Sb2という。
【0098】
起振体100には、負荷範囲Sb2に最大荷重が付加され、非負荷範囲Sb1にはほとんど荷重が付与されない。低硬度領域56は、この非負荷範囲Sb1内に設けられる。低硬度領域56の全体は、この非負荷範囲Sb1に収まるように設けられるということである。これに対して、高硬度領域54は、負荷範囲Sb2の全体、かつ、非負荷範囲Sb1の低硬度領域56以外の箇所に設けられる。これにより、前述の(D)と同様、接触部品42の接触面44に高硬度領域54と低硬度領域56が現れる場合でも、低硬度領域56に大荷重が付与される事態を避けることができる。この観点から、低硬度領域56は、起振体100の外周面において第3基準線Lc1から±30度の範囲に設けられると好ましい。
【0099】
(第6実施形態)
図16を参照する。肉盛加工される接触部品42が歯車110となる場合、歯車110が用いられる歯車装置10の種類は特に限定されない。接触部品42となる歯車110は、偏心揺動型及び撓み噛み合い型の歯車装置10以外の歯車装置10に用いられてもよいということである。この歯車装置とは、例えば、遊星歯車機構、直交軸歯車機構、平行軸歯車機構等を用いた歯車装置である。ここではこの歯車110としてインボリュート歯車を一例とする。この場合、接触部品42としての歯車110は、構成部品40としての他の歯車112に接触することになる。
図8等を用いた説明事項のうち、「歯車14、110」、「他の歯車18、112」の文言を用いた説明事項は、このような種類によらない歯車装置10の歯車110、112にも適用できる。
【0100】
このように歯車110に用いる場合も、
図8を用いて説明した内容と同様、歯車110の接触面44は、歯面がある歯車110の周面に設けられる。この場合も、歯車110の接触面44は、転がり接触及び滑り接触の少なくとも一方によって他の歯車112と接触する。
【0101】
肉盛部48は、
図8を用いて説明した内容と同様、歯面がある歯車110の周面に設けられる。本実施形態の肉盛部48は、歯車110の歯面の全周に設けられる。図示はしないが、歯車110の母材46の露出部52は、前述と同様、歯車110の部品側面50を構成する母材46の側面部によって構成される。
【0102】
接触面44となる歯車110の歯面は、第1実施形態と同様、肉盛部48によって構成される高硬度領域54と、高硬度領域54よりも低硬度の低硬度領域56とを備える。低硬度領域56は、第1実施形態と同様、肉盛部48において肉盛加工によって軟化した部分によって構成されてもよい。この他にも、低硬度領域56は、第3実施形態と同様、歯面において露出する母材46によって構成してもよい。高硬度領域54は、低硬度領域56以外の部分によって構成される。
【0103】
高硬度領域54は、第1実施形態と同様、歯車110の歯丈方向の中央部76aに少なくとも設けられる。低硬度領域56は、第1実施形態と同様、歯面における複数の歯底部76cのうちの少なくとも一つの歯底部76cに設けられる。低硬度領域56は、一つまたは二つ以上の歯底部76cに設けられていてもよいということである。この他にも、低硬度領域56は、複数の歯先部76bのうちの一つまたは二つ以上の歯先部76bに設けられてもよい。
【0104】
本実施形態によれば、歯車110を対象として、前述の(A)、(B)、(C)、(E)で説明した効果を得られる。
【0105】
ここでは、歯車110に肉盛部48を設ける例を説明した。この他にも、歯車110及び他の歯車112の両方に肉盛部48を設けてもよい。
【0106】
各構成要素の他の変形形態を説明する。
【0107】
偏心揺動型の歯車装置10において、接触部品42が外歯歯車14となる場合、その歯形は特に限定されない。実施形態においては、揺動歯車として外歯歯車14を揺動させるタイプの偏心揺動型の歯車装置10を説明した。この他にも、揺動歯車として内歯歯車18を揺動させるタイプの偏心揺動型の歯車装置10であってもよい。
【0108】
撓み噛み合い型歯車装置10の場合、その具体的な種類は特に限定されない。筒型の他にも、例えば、カップ型、シルクハット型でもよい。実施形態においては、撓み歯車として外歯歯車14を撓み変形させるタイプの撓み噛み合い型の歯車装置10を説明した。このほかにも、撓み歯車として内歯歯車を撓み変形させるタイプの撓み噛み合い型の歯車装置10であってもよい。
【0109】
偏心揺動型の歯車装置10において、肉盛部48を備える接触部品42の具体例は、偏心体26A、26B及び外歯歯車14に限定されない。撓み噛み合い型の歯車装置10において、肉盛部48を備える接触部品42の具体例は、起振体100に限定されない。撓み噛み合い型及び偏心揺動型の何れにおいても、肉盛部48を備える接触部品42は、例えば、内歯歯車18等でもよい。
【0110】
接触部品42が偏心体26A、26Bである場合を説明する。偏心体26A、26Bにおいて低硬度領域56の設けられる位置は特に限定されない。例えば、低硬度領域56は、偏心体26A、26Bの負荷範囲Sa2に設けられていてもよい。
【0111】
接触部品42が歯車110である場合を説明する。接触部品42において低硬度領域56が設けられる箇所は特に限定されない。例えば、接触部品42の低硬度領域56は、歯面における複数の歯底部76cのうちの2つ以上の歯底部76cに設けられてもよい(例えば、
図13参照)。この他にも、低硬度領域56は、歯面における複数の歯先部76bのうちの少なくとも一つの歯先部76bに設けられてもよい(例えば、
図13参照)。いずれの場合も、歯面における歯丈方向の中央部76aに高硬度領域54を設けることを想定している。これにより、前述の(E)と同様の効果を得ることができる。
【0112】
接触部品42の低硬度領域56を母材46によって構成する場合、母材46は、複数の歯底部76cのうちの2つ以上の歯底部76cにおいて露出していてもよい。この他にも、低硬度領域56を構成する母材46は、歯面における歯底部76c以外の箇所において露出していてもよい。
【0113】
歯車装置10の種類によらない歯車110を接触部品42とする場合、歯車110の種類は特に限定されない。歯車110は、例えば、平歯車の他にも、内歯車、はすば歯車等でもよい。
【0114】
以上の実施形態及び変形形態は例示に過ぎない。これらを抽象化した技術的思想は、実施形態及び変形形態の内容に限定的に解釈されるべきではない。実施形態及び変形形態の内容は、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態」との表記を付して強調している。しかしながら、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0115】
以上の構成要素の任意の組み合わせも有効である。例えば、実施形態に対して他の実施形態の任意の説明事項を組み合わせてもよいし、変形形態に対して実施形態及び他の変形形態の任意の説明事項を組み合わせてもよい。
【0116】
例えば、第1実施形態のセンタークランクタイプの歯車装置10において、
図4の偏心体26A、26Bと、
図8及び
図9の少なくとも一方の外歯歯車14とのそれぞれを組み合わせてもよい。同様に、第2実施形態の振り分けタイプの歯車装置10において、
図4の偏心体26A、26Bと、
図8及び
図10の少なくとも一方の外歯歯車14とを組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0117】
10…歯車装置、14…外歯歯車、26A、26B…偏心体、40…構成部品、42…接触部品、44…接触面、46…母材、48…肉盛部、54…高硬度領域、56…低硬度領域、76…歯、76a…中央部、76c…歯底部、100…起振体、110,112…歯車。