(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076235
(43)【公開日】2022-05-19
(54)【発明の名称】減速機及び減速機の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16H 25/20 20060101AFI20220512BHJP
F16H 25/24 20060101ALI20220512BHJP
B23G 1/36 20060101ALI20220512BHJP
【FI】
F16H25/20 Z
F16H25/24 A
F16H25/24 B
B23G1/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020186558
(22)【出願日】2020-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】多田 誠二
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AA07
3J062AB21
3J062AC07
3J062BA27
3J062CD02
3J062CD22
3J062CD45
3J062CD54
3J062CD75
(57)【要約】
【課題】減速機におけるネジ及びナット間における摩擦をより低減可能とする。
【解決手段】ネジ20と、当該20ネジに螺合するナット30とを備える減速機(ネジ減速機10)であって、ネジ20またはナット30の一方の歯面221、222には、当該歯面221、222の螺旋方向に沿って所定の間隔で表面の滑らかな複数の凸部23が設けられている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネジと、当該ネジに螺合するナットとを備える減速機であって、
前記ネジまたは前記ナットの一方の歯面には、当該歯面の螺旋方向に沿って所定の間隔で表面の滑らかな複数の凸部が設けられている、
減速機。
【請求項2】
前記複数の凸部は、前記螺旋方向に沿って所定の周期で配置されている、
請求項1に記載の減速機。
【請求項3】
前記複数の凸部が前記ネジに形成されている場合、当該ネジのネジ山の頂には、当該ネジ山の最大径に対して凹んだ凹部が形成されており、
前記複数の凸部が前記ナットに形成されている場合、当該ナットのネジ溝の谷には、当該ネジ溝の最小径に対して凹んだ凹部が形成されている、
請求項1または2に記載の減速機。
【請求項4】
前記複数の凸部が前記ナットに形成されている場合、前記ナットにおけるネジ溝の形成領域と、前記形成領域の両側方に配置され、前記ネジ溝が形成されてない非形成領域との間では、当該ナットの歯面が前記形成領域における最も前記非形成領域に近い前記凸部に向けて滑らかな曲面に形成されている、
請求項1~3のいずれか一項に記載の減速機。
【請求項5】
前記ネジまたは前記ナットの一方の歯面には、前記複数の凸部に対応する箇所が、軸方向に直交する方向視において滑らかな凸状に形成されている、
請求項1~4のいずれか一項に記載の減速機。
【請求項6】
ネジと、当該ネジに螺合するナットとを備える減速機の製造方法であって、
前記ネジのネジ山または前記ナットのネジ溝に対応する砥面部を有する研磨工具を、前記ネジまたは前記ナットの一方の歯面に対して当該ネジまたは前記ナットの軸方向に交差する方向に沿って揺動させながら当該歯面を研磨することで、当該歯面の螺旋方向に沿って所定の間隔で表面の滑らかな複数の凸部を形成する、
減速機の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネジ及び当該ネジに螺合するナットを備える減速機及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ネジ及び当該ネジに螺合するナットを備える減速機においては、摩擦を低減するために、ネジの歯面(フランク)を当該ネジの断面視において凸面とすることで、当該凸面とナットの歯面との接触を線接触としている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、従前からネジ及びナット間での摩擦をより低減することが求められている。
【0005】
本発明は、ネジ及びナット間における摩擦をより低減可能な減速機及び減速機の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る減速機は、ネジと、当該ネジに螺合するナットとを備える減速機であって、ネジまたはナットの一方の歯面には、当該歯面の螺旋方向に沿って所定の間隔で表面の滑らかな複数の凸部が設けられている。
【0007】
また、本発明の一態様に係る減速機の製造方法は、ネジと、当該ネジに螺合するナットとを備える減速機の製造方法であって、ネジのネジ山またはナットのネジ溝に対応する砥面部を有する研磨工具を、ネジまたはナットの一方の歯面に対して当該ネジまたはナットの軸方向に交差する方向に沿って揺動させながら当該歯面を研磨することで、当該歯面の螺旋方向に沿って所定の間隔で表面の滑らかな複数の凸部を形成する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ネジ及びナット間における摩擦をより低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1に係る減速機の概略構成を示す模式図である。
【
図2】実施の形態1に係るネジの概略構成を示す断面図である。
【
図3】実施の形態1に係るネジの歯面の表面形状を示すグラフである。
【
図4】実施の形態1に係るネジにおいて、一方の歯面の複数の凸部を示す斜視図である。
【
図5】実施の形態1に係るネジにおいてネジ山における外形形状を軸方向視に投影した投影図である。
【
図6】実施の形態1に係るネジの歯面に対する表面加工方法の一工程を示す上面図である。
【
図7】実施の形態2に係るナットの概略構成を示す斜視図である。
【
図8】実施の形態2に係るナットにおいてネジ溝における外形形状を軸方向視に投影した投影図である。
【
図9】実施の形態2に係るナットにおいて、ネジ溝の形成領域と、ネジ溝が形成されていない非形成領域との間の表面形状を示すグラフである。
【
図10】実施の形態2に係る歯面に対する表面加工方法の一工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0011】
また、図面は、本発明を示すために適宜強調や省略、比率の調整を行った模式的な図となっており、実際の形状や位置関係、比率とは異なる場合がある。
【0012】
(実施の形態1)
[減速機]
図1は、実施の形態1に係る減速機の概略構成を示す模式図である。本実施の形態に係る減速機は、ネジ減速機10である。ネジ減速機10は、例えば自動車のステアリングシステムに組み込まれている。ネジ減速機10は、自動車のステアリングギアボックス(図示省略)の油浴内に収容されている。ネジ減速機10は、ネジ20と、当該ネジ20に螺合するナット30と、ナット30に噛み合うセクタギア40とを備えている。
【0013】
ネジ20は、単一の金属から形成された金属部材である。ネジ20は、ステアリングボックスの壁を貫通し、かつ一対の軸受50によりステアリングボックスに対して回転自在に支持されている。ネジ20におけるステアリングボックス外の一端部は、自動車のステアリングシャフトに相対回転自在に挿入されている。また、ネジ20において、一対の軸受50の間にはネジ山21が形成されている。このネジ山21に対して、ナット30が螺合している。つまり、ネジ20が回転することに連動して、ナット30もその軸方向に沿って移動する。
【0014】
ナット30は、単一の金属(例えば硬鋼)から形成された金属部材である。ナット30の外周面には、その軸方向に沿って並んだラックギア39が形成されている。ラックギア39は、セクタギア40に噛み合っている。ナット30がその軸方向に沿って移動すると、ラックギア39に噛み合うセクタギア40が回動する。セクタギア40は、自動車のピットマンアーム(図示省略)に連結されているので、セクタギア40が回動するとピットマンマームに伝達され、自動車の転舵輪が転舵される。
【0015】
[ネジの歯面]
次に、ネジ20における歯面221、222について説明する。
図2は、実施の形態1に係るネジ20の概略構成を示す断面図である。
図2に示すようにネジ20のネジ山21は、一対の歯面221、222を有している。歯面221は、ネジ山21における一側方側のフランクであり、歯面222は、ネジ山21における他側方側のフランクである。一対の歯面221、222には、螺旋方向(歯すじ方向)に沿って所定の間隔で滑らかな複数の凸部23が形成されている。
【0016】
図3は、実施の形態1に係るネジ20の歯面221、222の表面形状を示すグラフである。
図3では、横軸が、螺旋方向(歯すじ方向)における1ピッチ分の歯面221、222の位置を示し、縦軸が歯面の変動を示している。なお、以下の説明において、「歯面の幅方向」も出現するが、当該方向は、歯面221、222上において螺旋方向に直交する方向である。
【0017】
図3に示すように、歯面221、222は、所定の周期で滑らかに変動している。例えば、
図3において、縦軸における負方向での頂点部分を歯面221、222の底面とすると、底面から突出した部分が表面の滑らかな凸部23となる。つまり、歯面221、222には、所定の周期で複数の凸部23が配置されている。なお、
図3では、1ピッチ分の歯面221、222の位置を示しているが、ネジ20における他のピッチにおいても同様に複数の凸部23が形成されている。
【0018】
また、
図2の円C1では、歯面222の一部を拡大して示している。歯面222において各凸部23に対応する箇所は、軸方向に直交する方向視において滑らかな凸状に形成されている。各凸部23は、螺旋方向だけでなく歯面222の幅方向においても滑らかな凸曲面状に形成されている。つまり、各凸部23は、略球面状に形成されている。なお、ここでは歯面222の各凸部23を例示して説明したが、歯面221における各凸部23においても同様である。
【0019】
図4は、実施の形態1に係るネジ20において、一方の歯面221の複数の凸部23を示す斜視図である。なお、
図4では、歯面221に対して黒色の濃淡を示しており、この黒色の濃度は歯面221がナット30から受ける接触面圧を示している。黒色が濃ければ接触面圧が大きく、薄ければ接触面圧が小さいことを示している。なお、ナット30においては、そのネジ溝31の歯面321、322が螺旋方向において凹凸がなく、さらに軸方向に直交する方向視において凹凸がないものとする。
【0020】
図4に示すように、歯面221において各凸部23では接触面圧が大きくなっている。特に各凸部23の頂点部分に近づくほど接触面圧が大きくなっている。しかしながら、歯面221全体でみると接触面圧の大きい箇所はわずかであり、これにより摩擦が低減されていることがわかる。特に、本実施の形態では、各凸部23が略球面状に形成されているので、ナット30の歯面321上をよりスムーズに滑ることとなり、あたかもボールネジを採用した場合と同等の円滑性を実現することが可能である。
【0021】
図5は、実施の形態1に係るネジ20においてネジ山21における外形形状を軸方向視に投影した投影図である。
図5では、ネジ山21における最大径を基準とした円C2を一点鎖線で示している。
図5に示すように、ネジ山21の頂には、円C2に対して凹んだ複数の凹部24が周方向において均等に形成されている。この凹部24は、ナット30に螺合した際にナット30のネジ溝31から離間し、隙間を形成する。この隙間が潤滑油の油路となり、ネジ20のネジ山21とナット30のネジ溝31との間に潤滑油を浸透させ油膜を形成する。油膜は、各凸部23間にも浸透するのでより摩擦を低減することができる。
【0022】
[減速機の製造方法]
次に、ネジ減速機10の製造方法について説明する。具体的には、ネジ20の歯面221、222に対する表面加工方法である。
図6は、実施の形態1に係るネジ20の歯面221、222に対する表面加工方法の一工程を示す上面図である。
図6中、ネジ20の軸方向がx軸方向、x軸方向に直交する上下方向がy軸方向、x軸方向及びy軸方向に直交する方向がz軸方向である。
【0023】
図6に示すように、ネジ20の歯面221、222の表面加工には、研磨工具100が用いられており、この研磨工具100でネジ20の歯面221、222を研磨することにより、上述した複数の凸部23を有する歯面221、222を形成している。
【0024】
研磨工具100は、図示しない加工機に取り付けられ、回転軸L1を中心に高速回転しながら、ネジ20の歯面221、222を研磨する。研磨工具100は、本体部101と、刃部102とを一体的に有する砥石である。本体部101は、円筒状に形成されており、その中空部が加工機により軸支される。刃部102は、本体部101の外周面から径方向外方に向けて突出した環状の部位である。刃部102の外周面には、断面視略V字状に凹んだ砥面103、104が形成されている。砥面103、104は、刃部102の外周面の全周にわたって連続的に形成されている。この砥面103、104は、ネジ20のネジ山21に対応した形状となっている。
図6の円C3では、砥面103の一部を拡大して示している。
図6の円C3に示すように、砥面103は、断面視で円弧状に窪んでいる。具体的には、砥面103は、当該砥面103に直角な断面で基準円直径の法線方向に曲率半径Rの中心を持っている。なお、砥面104においても砥面103と同様に断面視で円弧状に窪んでいる。
【0025】
加工機は、研磨工具100の回転軸を、ネジ20の進み角γだけねじらせている。また、加工機は、研磨時においてネジ20の軸方向に交差する方向に沿って研磨工具100を揺動させる。具体的には、研磨工具100の揺動方向は、y軸方向である。
【0026】
これにより、研磨工具100は、ネジ20の軸心に対して近づいたり離れたりを繰り返す。具体的には、研磨工具100は、ネジ20の一回転(360deg)でリードL分だけ所定の周期で揺動する。ここで、リードLは、L=πmKで示され、mはネジ20の軸直角モジュールであり、Kはネジ20のウォーム定数である。加工機は、ネジ20がθ(deg)回転するのと同期するように、研磨工具100を軸方向にLθ/360(mm)だけ進ませる。このとき、ネジ20の回転角θ、一回転あたりの凸部23の個数W、螺旋方向の歯面221、222の振幅をA(mm)とすると、切込み変化量Cは、以下の式(1)で表される。
【0027】
C=Af(Wθ)-A・・・(1)
【0028】
なお、f(Wθ)は、三角関数またはその他の周期関数である。
【0029】
この表面加工方法によってネジ20の歯面221、222に複数の凸部23が螺旋方向に沿って所定の周期で配置されることになる。ここで、凸部23における螺旋方向の凹凸は、研磨工具100の揺動に依存して形成される。一方、歯面221、222の幅方向における凸部23の凸曲面状については、研磨工具100の砥面103、104の曲率半径Rに依存して形成される。
【0030】
また、本実施の形態では、研磨工具100の砥面103、104の角部においても、ねじ20のネジ山21の頂を研磨している。上述したように、研磨時において研磨工具100は揺動しているので、ネジ山21の頂にも螺旋方向の凹凸が形成される。つまり、
図5に示したように、ネジ山21の頂には、円C2に対して凹んだ複数の凹部24が周方向において均等に形成されることになる。
【0031】
[効果]
以上のように、本実施の形態によれば、ネジ20の歯面221、222には、当該歯面221、222の螺旋方向に沿って所定の間隔で表面の滑らかな複数の凸部23が設けられている。これにより、歯面221、222では、各凸部23での接触面圧が大きくなるものの、その他の部分では接触面圧が小さくなる。したがって、歯面221、222全体としての摩擦をより低減することができる。
【0032】
また、複数の凸部23が、螺旋方向に沿って所定の周期で配置されているので、接触面圧が集中する箇所(凸部23)をバランスよく配置することができる。したがって、歯面221、222上で接触面圧が集中する箇所が偏ることがなくなり、摩擦をより低減することができる。
【0033】
また、ネジ20のネジ山21の頂には、当該ネジ20の最大径(円C)に対して凹んだ凹部24が形成されているので、凹部24がナット30のネジ溝31との間に隙間を形成する。この隙間は潤滑油の油路となり、ネジ20のネジ山21とナット30のネジ溝31との間に潤滑油を浸透させ油膜を形成する。油膜は、各凸部23間にも浸透するのでより摩擦を低減することができる。
【0034】
また、ネジ20の歯面221、222のうち複数の凸部23に対応する箇所が、軸方向に直交する方向視で滑らかな凸状に形成されているので、各凸部23の表面形状を略球面状にすることができる。これにより、各凸部23は、ナット30の歯面321、322上をよりスムーズに滑ることとなり、あたかもボールネジを採用した場合と同等の円滑性を実現することが可能である。
【0035】
(実施の形態2)
上記実施の形態1では、ネジ20の歯面221、222のそれぞれに複数の凸部23が形成され、ナット30の歯面321、322のそれぞれは螺旋方向に凹凸のない場合を例示した。しかしながら、この関係性は逆であってもよい。以下、実施の形態2に係るナット30Aについて
図7を参照して説明する。なお、図示は省略するが、実施の形態2に係るネジにおいては、一対の歯面のそれぞれが螺旋方向に凹凸がない。また、以降の説明では、上記実施の形態1と同一部分については同一の符号を付してその説明を省略する場合がある。
【0036】
図7は、実施の形態2に係るナット30Aの概略構成を示す斜視図である。
図7に示すように、ナット30Aのネジ溝31aには、その歯面321、322に複数の凸部33が螺旋方向に所定の周期で設けられている。なお、
図7では、歯面321の複数の凸部33は図示されていない。各凸部33の表面は、略球面状に形成されている。また、
図7では、歯面322に対して黒色の濃淡を示しており、この黒色の濃度は歯面322がネジから受ける接触面圧を示している。黒色が濃ければ接触面圧が大きく、薄ければ接触面圧を小さいことを示している。つまり、歯面322において各凸部33では接触面圧が大きくなっている。特に各凸部33の頂点部分に近づくほど接触面圧が大きくなっている。しかしながら、歯面322全体でみると接触面圧の大きい箇所はわずかであり、これにより摩擦が低減されていることがわかる。特に、本実施の形態では、各凸部33が略球面状に形成されているので、ネジの歯面上をよりスムーズに滑ることとなり、あたかもボールネジを採用した場合と同等の円滑性を実現することが可能である。
【0037】
図8は、実施の形態2に係るナット30Aにおいてネジ溝31aにおける外形形状を軸方向視に投影した投影図である。
図8では、ネジ溝31a最小径を基準とした円C4を一点鎖線で示している。
図8に示すように、ネジ溝31aの谷は、円C4に対して凹んだ複数の凹部34が周方向において均等に形成されている。この凹部34は、ネジに螺合した際に当該ネジのネジ溝から離間し、隙間を形成する。この隙間が潤滑油の油路となり、ナット30Aのネジ溝31aとネジのネジ山との間に潤滑油を浸透させ油膜を形成する。油膜は、各凸部33間にも浸透するのでより摩擦を低減することができる。
【0038】
図9は、実施の形態2に係るナット30Aにおいて、ネジ溝31aの形成領域と、ネジ溝31aが形成されていない非形成領域との間の表面形状を示すグラフである。なお、
図9では、形成領域と、当該形成領域の一側方に配置された非形成領域との間の表面形状を示しているが、形成領域と、当該形成領域の他側方に配置された非形成領域との間の表面形状においても同様である。
【0039】
図9に示すように、形成領域と非形成領域との間では、ナット30Aの歯面321、322が形成領域における最も非形成領域に近い凸部33に向けて滑らかな曲面に形成されている。これにより、エッジロードが回避され、より摩擦を低減することができる。
【0040】
次に、ナット30Aの製造方法について説明する。具体的には、ナット30Aの歯面321、322に対する表面加工方法である。
図10は、実施の形態2に係るナット30Aの歯面321、322に対する表面加工方法の一工程を示す上面図である。
図10においてはナット30Aを断面図で示している。
図10中、ナット30Aの軸方向がx軸方向、x軸方向に直交する上下方向がy軸方向、x軸方向及びy軸方向に直交する方向がz軸方向である。
【0041】
図10に示すように、ナット30Aの歯面321、322の表面加工には、研磨工具100Aが用いられており、この研磨工具100Aでナット30Aの歯面321、322を研磨することにより、上述した複数の凸部33を有する歯面321、322を形成している。
【0042】
研磨工具100Aは、図示しない加工機に取り付けられ、回転軸L2を中心に高速回転しながら、ナット30Aの歯面321、322を研磨する。研磨工具100Aは、本体部111と、刃部112とを一体的に有する砥石である。本体部111は、円筒状に形成されており、その中空部が加工機により軸支される。刃部112は、本体部111の外周面から径方向外方に向けて突出した環状の部位である。刃部112の外周面には、断面視略V字状に突出した砥面113、114が形成されている。砥面113、114は、刃部112の外周面の全周にわたって連続的に形成されている。この砥面113、114は、ナット30Aのネジ溝31aに対応した形状となっている。
図10の円C5では、砥面113の一部を拡大して示している。
図10の円C5に示すように、砥面113は、断面視で円弧状に窪んでいる。具体的には、砥面113は、当該砥面113に直角な断面で基準円直径の法線方向に曲率半径Rの中心を持っている。なお、砥面114においても砥面113と同様に断面視で円弧状に窪んでいる。
【0043】
加工機は、研磨工具100Aの回転軸を、ナット30Aの進み角γだけy軸周りにねじらせている。また、加工機は、研磨時においてナット30Aの軸方向に交差する方向に沿って研磨工具100Aを揺動させる。具体的には、研磨工具100Aの揺動方向は、y軸方向である。
【0044】
これにより、研磨工具100Aは、ナット30Aの外周面に対して近づいたり離れたりを繰り返す。この表面加工方法によってナット30Aの歯面321、322に複数の凸部33が螺旋方向に沿って所定の周期で配置されることになる。ここで、凸部33における螺旋方向の凹凸は、研磨工具100Aの揺動に依存して形成される。一方、歯面321、322の幅方向における凸部33の凸曲面状については、研磨工具100Aの砥面113、114の曲率半径Rに依存して形成される。
【0045】
[その他]
以上、本発明に係る減速機及びその製造方法について、各実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、各実施の形態に限定されるものではない。
【0046】
例えば、実施の形態1では、硬鋼により全体が形成されたナット30を例示しているが、ナットは異なる金属材料から形成されていてもよい。
図11は、変形例に係るナット30Bを示す断面図である。
図11に示すように、ナット30Bは、ネジ溝31bを有するネジ部35が第一金属材料で形成されており、ラックギア39を有するラック部36が第2金属材料で形成されている。ネジ部35は、ラック部36に圧入または締結により固定されている。ネジ部35をなす第一金属材料は、ネジ20との静摩擦係数を下げるため、例えばリン青銅などの摩擦係数の低い金属材料が採用されている。一方、ラック部36をなす第二金属材料は、硬鋼などが採用されている。
【0047】
また、上記実施の形態では、複数の凸部23、33は、螺旋方向に所定の周期で配置されている場合を例示したが、螺旋方向に離散的に配置されていてもよい。
【0048】
また、上記実施の形態では、ネジ20またはナット30Aの一方の歯面221、222、231、232では、複数の凸部23、33に対応する箇所が、軸方向に直交する方向視において滑らかな凸状に形成されている場合を例示した。しかしながら、当該箇所は軸方向に直交する方向視において直線状であってもよい。つまり、各凸部23、33は、螺旋方向にのみ滑らかに突出していればよい。
【0049】
また、上記のネジまたはナットの歯面形状は、セルフロック機能付きネジ減速機(ステアリングコンプレーサー等双方向クラッチ機能付き)にも適用可能である。また、本開示のネジ減速機は、後輪操舵システム用セルフロック付き減速機や、電動ブレーキ等にも適用可能である。本開示のネジ減速機は、自動車に用いられる減速機以外にも、船舶用のステアバイワイヤの減速機に対しても適用することができる。自動車または船舶において、上記した以外の減速機使用部位に対しても本開示の減速機を適用してもよい。さらに、その他の移動体における減速機使用部位に対しても本開示の減速機を適用してもよい。
【0050】
また、上記実施の形態では、研磨工具として砥石を例示したが、研磨工具としてホブカッターを採用することも可能である。
【0051】
その他、実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で実施の形態及び変形例における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、移動体に備わる減速機に適用可能である。
【符号の説明】
【0053】
10…ネジ減速機、20…ネジ、21…ネジ山、23、33…凸部、24、34…凹部、30、30A、30B…ナット、31、31a、31b…ネジ溝、35…ネジ部、36…ラック部、39…ラックギア、40…セクタギア、50…軸受、100、100A…研磨工具、101、111…本体部、102、112…刃部、103、104、113、114…砥面、221、222、321、322…歯面