(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076244
(43)【公開日】2022-05-19
(54)【発明の名称】紙シートの嵌合方法および紙成形品
(51)【国際特許分類】
D21J 3/00 20060101AFI20220512BHJP
B65D 1/00 20060101ALI20220512BHJP
D21J 5/00 20060101ALI20220512BHJP
【FI】
D21J3/00
B65D1/00 111
D21J5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020186568
(22)【出願日】2020-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000231361
【氏名又は名称】NISSHA株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大西 厚史
(72)【発明者】
【氏名】西川 哲
(72)【発明者】
【氏名】宮下 修平
(72)【発明者】
【氏名】仲川 元
【テーマコード(参考)】
3E033
4L055
【Fターム(参考)】
3E033BA10
3E033BB08
3E033CA20
3E033FA01
4L055BF06
4L055EA08
4L055FA22
4L055FA30
4L055GA05
(57)【要約】
【課題】紙シートどうしを容易に嵌合することができる紙シートの嵌合方法と、嵌合部を有する紙成形品とを提供する。
【解決手段】紙シートの嵌合方法は、紙シートの少なくとも一部の領域に吸水させる吸水ステップと、紙シートの吸水させた領域が、プレス金型の1組の第1成形面の間に位置するように配置する配置ステップと、プレス金型を閉じて、紙シートの吸水させた領域を1組の第1成形面で立体形状に成形する成形ステップと、プレス金型を開いて、成形済の紙シートに、吸水させていない別の紙シートを積層する積層ステップと、プレス金型を閉じて、積層物を1組の第1成形面で立体形状に成形することで、成形済の紙シートと、吸水させていない別の紙シートとを嵌合する嵌合ステップと、プレス金型を開いて、嵌合部を有する成形品を取り出す取出しステップとを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙シートの少なくとも一部の領域に吸水させる吸水ステップと、
前記紙シートの吸水させた領域が、プレス金型の1組の第1成形面の間に位置するように配置する配置ステップと、
前記プレス金型を閉じて、前記紙シートの吸水させた領域を前記1組の第1成形面で立体形状に成形する成形ステップと、
前記プレス金型を開いて、前記成形済の紙シートに、吸水させていない別の紙シートを積層する積層ステップと、
前記プレス金型を閉じて、積層物を前記1組の第1成形面で立体形状に成形することで、前記成形済の紙シートと、前記吸水させていない別の紙シートとを嵌合する嵌合ステップと、
前記プレス金型を開いて、嵌合部を有する成形品を取り出す取出しステップとを含む、紙シートの嵌合方法。
【請求項2】
前記嵌合ステップよりも前に、前記吸水させていない別の紙シートを、前記成形済の紙シートと同形状に成形するステップを含む、請求項1に記載の紙シートの嵌合方法。
【請求項3】
1枚の紙シートの半分の領域に吸水させる吸水ステップと、
前記紙シートの吸水させた領域が、プレス金型の1組の第1成形面の間に位置するように配置する配置ステップと、
前記プレス金型を閉じて、前記紙シートの吸水させた領域を前記1組の第1成形面で立体形状に成形する成形ステップと、
前記プレス金型を開いて、前記紙シートの吸水させていない領域を、前記成形済の紙シートの方へ折り曲げることで、前記成形済の紙シートと前記吸水させていない領域とを積層する積層ステップと、
前記プレス金型を閉じて、積層物を前記1組の第1成形面で立体形状に成形することで、前記成形済の紙シートと前記吸水させていない領域とを嵌合する嵌合ステップと、
前記プレス金型を開いて、嵌合部を有する成形品を取り出す取出しステップとを含む、紙シートの嵌合方法。
【請求項4】
1枚の紙シートの半分の領域に吸水させる吸水ステップと、
前記紙シートの吸水させた領域が、第1プレス金型の1組の第1成形面の間に位置し、前記紙シートの吸水させていない領域が、前記1組の第1成形面とは別の領域に設けられた、前記1組の第1成形面の形状とは反対の形状を有する1組の第2成形面の間に位置するように、前記1枚の紙シートを配置する配置ステップと、
前記第1プレス金型を閉じて、前記紙シートの吸水させた領域を前記1組の第1成形面で立体形状に成形し、前記紙シートの吸水させていない領域を前記1組の第2成形面で前記立体形状と反対の立体形状に成形する成形ステップと、
前記第1プレス金型を開いて、前記1組の第2成形面で成形された紙シートを、前記1組の第1成形面で成形された紙シートの方へ折り曲げることで、前記1組の第1成形面で成形された紙シートと、前記1組の第2成形面で成形された紙シートとを積層する積層ステップと、
積層物を、前記1組の第1成形面と同じ形状の成形面を有する第2プレス金型の間に配置し、前記第2プレス金型を閉じて、前記積層物を押圧することで、前記第1プレス金型で成形された紙シートどうしを嵌合する嵌合ステップと、
前記第2プレス金型を開いて、嵌合部を有する成形品を取り出す取出しステップとを含む、紙シートの嵌合方法。
【請求項5】
前記紙シートの坪量は、350g/m2~600g/m2である、請求項1から4のいずれかに記載の紙シートの嵌合方法。
【請求項6】
前記嵌合ステップのときに、または前記取出しステップの後に、前記嵌合部の一部をアンダーカット形状に変形するステップを含む、請求項1から5のいずれかに記載の紙シートの嵌合方法。
【請求項7】
少なくとも一部の領域が2層の紙シートを含んでおり、前記領域は立体形状を有するとともに密着された嵌合部であり、前記嵌合部以外の領域は密着されていない、紙成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙シートの嵌合方法および紙成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、パルプを原料とした紙成形品が知られている。このような紙成形品や紙成形品を製造する方法はパルプモールドと呼ばれ、容器や緩衝材などに応用されている。従来の製造方法は、まず、凹状の成形面を有する抄型12が設置されたタンク内に、パルプ10を水に分散させたパルプ懸濁液11を注入し、抄型12に形成された吸引孔からパルプ懸濁液11を抄型12上に吸引脱水する(
図12(a)参照)。これにより、抄型12の成形面に、中間体13が形成される(
図12(b)参照)。次に、抄型12の凹状の成形面に嵌合する、凸状の成形面を有する押圧型14で中間体13を熱プレス成形する(
図12(c)参照)。そして、金型を開いてパルプ成形品15を取り出す(
図12(d)参照)。
【0003】
このようなパルプ成形品15を2つ積層させる方法として、たとえば、特許文献1に示す方法がある(
図13参照)。これは、
図12(b)で得られた中間体13に、パルプ成形品15を積層し(
図13(a)参照)、積層物を押圧型14で熱プレス成形し(
図13(b)参照)、パルプ成形品16を取り出すものである(
図13(c)参照)。この製造方法によれば、中間体13の持つ水分がパルプ成形品15に浸透し、水の表面張力によって両者内部のパルプ繊維が引き寄せられ、熱プレスによって水素結合が生じるため、中間体13とパルプ成形品15とが十分な接着力で接着されたパルプ成形品16を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の紙成形品の製造方法では、中間体13とパルプ成形品15との間の面は、すべて接着されてしまう。そのため、中間体13からパルプ成形品15を取り外すことができなかった。従来の製造方法では、取り外し可能なように紙成形品どうしを嵌合することができないといった問題があった。
【0006】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたものであり、紙シートどうしを容易に嵌合することができる紙シートの嵌合方法と、嵌合部を有する紙成形品とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の紙シートの嵌合方法は、
紙シートの少なくとも一部の領域に吸水させる吸水ステップと、
紙シートの吸水させた領域が、プレス金型の1組の第1成形面の間に位置するように配置する配置ステップと、
プレス金型を閉じて、紙シートの吸水させた領域を1組の第1成形面で立体形状に成形する成形ステップと、
プレス金型を開いて、成形済の紙シートに、吸水させていない別の紙シートを積層する積層ステップと、
プレス金型を閉じて、積層物を1組の第1成形面で立体形状に成形することで、成形済の紙シートと、吸水させていない別の紙シートとを嵌合する嵌合ステップと、
プレス金型を開いて、嵌合部を有する成形品を取り出す取出しステップとを含むものである。
上記態様において、嵌合ステップよりも前に、吸水させていない別の紙シートを、成形済の紙シートと同形状に成形するステップを含んでもよい。
【0008】
また、本発明の紙シートの嵌合方法は、
1枚の紙シートの半分の領域に吸水させる吸水ステップと、
紙シートの吸水させた領域が、プレス金型の1組の第1成形面の間に位置するように配置する配置ステップと、
プレス金型を閉じて、紙シートの吸水させた領域を1組の第1成形面で立体形状に成形する成形ステップと、
プレス金型を開いて、紙シートの吸水させていない領域を、成形済の紙シートの方へ折り曲げることで、成形済の紙シートと吸水させていない領域とを積層する積層ステップと、
プレス金型を閉じて、積層物を1組の第1成形面で立体形状に成形することで、成形済の紙シートと吸水させていない領域とを嵌合する嵌合ステップと、
プレス金型を開いて、嵌合部を有する成形品を取り出す取出しステップとを含むものである。
【0009】
また、本発明の紙シートの嵌合方法は、
1枚の紙シートの半分の領域に吸水させる吸水ステップと、
紙シートの吸水させた領域が、第1プレス金型の1組の第1成形面の間に位置し、紙シートの吸水させていない領域が、1組の第1成形面とは別の領域に設けられた、1組の第1成形面の形状とは反対の形状を有する1組の第2成形面の間に位置するように、1枚の紙シートを配置する配置ステップと、
第1プレス金型を閉じて、紙シートの吸水させた領域を1組の第1成形面で立体形状に成形し、紙シートの吸水させていない領域を1組の第2成形面で立体形状と反対の立体形状に成形する成形ステップと、
第1プレス金型を開いて、1組の第2成形面で成形された紙シートを、1組の第1成形面で成形された紙シートの方へ折り曲げることで、1組の第1成形面で成形された紙シートと、1組の第2成形面で成形された紙シートとを積層する積層ステップと、
積層物を、1組の第1成形面と同じ形状の成形面を有する第2プレス金型の間に配置し、第2プレス金型を閉じて、積層物を押圧することで、第1プレス金型で成形された紙シートどうしを嵌合する嵌合ステップと、
第2プレス金型を開いて、嵌合部を有する成形品を取り出す取出しステップとを含むものである。
【0010】
上記のいずれかの態様において、紙シートの坪量は、350g/m2~600g/m2であってもよい。
【0011】
上記のいずれかの態様において、嵌合ステップのときに、または取出しステップの後に、嵌合部の一部をアンダーカット形状に変形するステップを含んでもよい。
【0012】
本発明の紙成形品は、少なくとも一部の領域が2層の紙シートを含んでおり、領域は立体形状を有するとともに密着された嵌合部であり、嵌合部以外の領域は密着されていないものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の紙シートの嵌合方法によれば、紙シートどうしを容易に嵌合することができる。また、本発明の紙成形品は嵌合部を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】紙シートの嵌合方法の第1実施形態を示す模式的な断面図である。
【
図2】
図1の方法により得られる紙成形品の一例を示す模式的な斜視図である。
【
図3】第1実施形態の変形例の1つを示す模式的な断面図である。
【
図4】紙シートの嵌合方法の第2実施形態を示す模式的な断面図である。
【
図5】
図4の方法により得られる紙成形品の一例を示す模式的な斜視図である。
【
図6】プレス金型の別の例を示す模式的な断面図である。
【
図7】第2実施形態の変形例の1つを示す模式的な断面図である。
【
図8】第2実施形態の変形例の1つを示す模式的な断面図である。
【
図9】実施形態に共通の変形例の1つを示す模式的な断面図である。
【
図10】実施形態に共通の変形例の1つを示す模式的な断面図である。
【
図11】実施形態に共通の変形例の1つを示す模式的な断面図である。
【
図12】従来のパルプ成形品の製造方法を示す模式的な断面図である。
【
図13】従来のパルプ成形品の製造方法を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の紙シートの嵌合方法および紙成形品の実施形態の一例を説明する。
【0016】
(第1実施形態)
図1を参照して、紙シートの嵌合方法の第1実施形態を説明する。
<吸水ステップ>
まず、紙シート1の少なくとも一部の領域1aに吸水させる(
図1(a)参照)。領域1a以外は、吸水させていない領域1bである。領域1aは、後述する成形ステップで立体形状に成形される領域を含む。吸水させる領域1aは、図のように紙シート1の一部であってもよいし、紙シート1全体であってもよい。紙シート1に吸水させることで、紙シート1を立体形状に成形しやすくなる。紙シート1の坪量は、200g/m
2~800g/m
2とすることができる。好ましくは、350g/m
2~600g/m
2である。この範囲であると、後述する成形ステップや嵌合ステップにおいて、紙シートが破れにくい。また、剛性もあるため、嵌合部4aにおいて、紙シート1,2どうしがしっかりと密着する。
紙シート1に吸水させる時間は坪量に比例し、たとえば、200g/m
2では10秒、380g/m
2では10分、570g/m
2では15分とすることができる。
【0017】
<配置ステップ>
次に、紙シート1を、吸水させた領域1aが、プレス金型5の1組の第1成形面5aの間に位置するように配置する(
図1(b)参照)。図の下方の金型は、所定の立体形状の一方の面を成形するための、凹状の第1成形面を有している。凹部の深さHは、たとえば、3mm~20mmとすることができ、凹部の幅Wは、たとえば、10mm~50mmとすることができる。
上方の金型は、所定の立体形状の他方の面を成形するための、凸状の第1成形面を有している。これら凹状および凸状の第1成形面が、1組の第1成形面5aを構成している。紙シート1の吸水させた領域1aが、1組の第1成形面5aの間に位置するよう、紙シート1を位置決めして配置する。
第1実施形態では、紙シート1のY方向の長さは、プレス金型5のY方向の長さと同じであり、紙シート1のX方向の長さは、プレス金型5のX方向の長さと同じである。言い換えると、配置ステップにおいて、平面視したときに、紙シート1はプレス金型5からはみ出ている部分がない。
【0018】
<成形ステップ>
次に、プレス金型5を閉じて、紙シート1の吸水させた領域1aを1組の第1成形面5aで立体形状に成形する(
図1(c)参照)。加圧時間は、たとえば10秒とすることができ、荷重は、たとえば5kNとすることができる。プレス金型5によって、紙シート1をプレスするとともに加熱する。このときの金型温度は、たとえば、100℃とすることができる。加熱により紙シート1は完全には乾燥させない。その理由は、後述する嵌合ステップで説明する。
【0019】
<積層ステップ>
次に、プレス金型5を開いて、成形済の紙シート1に、吸水させていない別の紙シート2を積層する(
図1(d)参照)。紙シート2の坪量は、紙シート1と同じであってもよく、異なってもよい。ただし、紙シート2の坪量が紙シート1に対して小さすぎると(たとえば、紙シート1が570g/m
2に対して紙シート2が200g/m
2)、嵌合時のプレスの際に嵌合部がシワになったり、紙シートの乾燥時に嵌合部の食い込みが弱くなったりする。
なお、1枚目の紙シート1と、2枚目の紙シート2とで、繊維の方向が異なるように配置してもよい。このようにすると、立体形状のエッジ部分が破れにくくなる。
【0020】
<嵌合ステップ>
次に、プレス金型5を閉じて、積層物3を1組の第1成形面5aで立体形状に成形することで、成形済の紙シート1と、吸水させていない別の紙シート2とを嵌合する(
図1(e)参照)。成形ステップと同様に、プレス金型5によって、積層物3をプレスするとともに加熱する。このときの金型温度は、たとえば100℃とすることができ、加圧時間は、たとえば60秒とすることができ、荷重は、たとえば5kNとすることができる。
前述した通り、成形ステップ(
図1(c)参照)では紙シート1は完全には乾燥されておらず、わずかに膨潤している。そして、嵌合ステップつまり2回目の熱プレス成形で、紙シート1は完全に乾燥される。このとき、紙シート1が収縮するために、紙シート1,2どうしの嵌合強度が大きくなる。
【0021】
<取出しステップ>
最後に、プレス金型5を開いて、紙成形品4を取り出す(
図1(f)参照)。紙成形品4は、嵌合部4aと、嵌合部4a以外の領域4cとを有する。紙成形品4は、
図1(f)のように断面視で全体が2層の紙シート1,2で構成されており、嵌合部4aは立体形状を有している。嵌合部4a以外の領域4cでは、紙シート1,2どうしは密着されていないため、たとえば
図2のように、嵌合部4a以外の領域4cを上下方向に動かすことができる。嵌合部4aは紙シート1,2が密着しているが、接着はしていない。そのため、紙シート1,2それぞれの領域4cを持ち、力を加えれば、紙シート1,2どうしを分離することができる。言い換えると、紙シート1から紙シート2を取り外すことができる。
【0022】
このようにして、2枚の紙シート1,2を嵌合させた嵌合部4aを有する紙成形品4を容易に得ることができる。
【0023】
(第1実施形態の変形例)
第1実施形態は、嵌合ステップ(
図1(e)参照)よりも前に、吸水させていない別の紙シート2を、成形済の紙シート1と同形状に成形するステップを含んでもよい。言い換えると、このステップは、吸水させていない別の紙シート2を、紙シート1と同じ立体形状に予め成形するステップである。成形した別の紙シート2を、吸水させた成形済の紙シート1の上に配置し(
図3参照)、プレス金型5を閉じて、紙シート1,2を嵌合する(
図1(e)参照)。
この変形例では、紙シート2を予め成形しておくため、生産性を向上させることができる。
【0024】
(第2実施形態)
図4を参照して、紙シートの嵌合方法の第2実施形態を説明する。第2実施形態は、1枚の紙シートを使用した嵌合方法である点で、第1実施形態とは異なる。以下、異なる点を中心に説明する。
【0025】
<吸水ステップ>
まず、1枚の紙シート1の半分の領域1aに吸水させる(
図4(a)参照)。紙シート1のもう半分は、吸水させていない領域1bである。領域1bは、後述する嵌合ステップで立体形状に成形される領域を含む。
なお、吸水させる領域は、紙シート1の半分の領域すべてではなく、紙シート1の半分の領域の一部であってもよい。
【0026】
<配置ステップ>
次に、紙シート1を、吸水させた領域1aが、プレス金型5の1組の第1成形面5aの間に位置するように配置する(
図4(b)参照)。紙シート1の吸水させた領域1aが、1組の第1成形面5aの間に位置するよう、紙シート1を位置決めして配置する。このとき、吸水させていない領域1bは、後の嵌合ステップで成形するため、プレス金型5からはみ出た状態となっている。つまり、第2実施形態では、紙シート1のX方向の長さは、プレス金型5のX向の長さよりも長い。また、紙シート1のY方向の長さは、プレス金型5のY方向の長さと同じである。
【0027】
<成形ステップ>
次に、プレス金型5を閉じて、紙シート1の吸水させた領域1aを1組の第1成形面5aで立体形状に成形する(
図4(c)参照)。このとき、プレス金型5によって、紙シート1の領域1aをプレスするとともに加熱する。第1実施形態と同様、加熱により領域1aは完全には乾燥させない。
【0028】
<積層ステップ>
次に、プレス金型5を開いて、紙シート1の吸水させていない領域1bを、成形済の紙シートの方へ折り曲げることで、成形済の紙シートと、紙シート1の吸水させていない領域1bとを積層する(
図4(d)参照)。成形済の紙シートとは、紙シート1の領域1aを指す。
なお、折り曲げやすくなるように、領域1aと領域1bとの境界に折目や切れ込みを形成したり、境界部分の厚みを薄くしたりしてもよい。
【0029】
<嵌合ステップ>
次に、プレス金型5を閉じて、積層物3を1組の第1成形面5aで立体形状に成形することで、成形済の紙シートと吸水させていない領域1bとを嵌合する(
図4(e)参照)。成形ステップと同様に、プレス金型5によって、積層物3をプレスするとともに加熱する。前述した通り、成形ステップ(
図4(c)参照)では紙シート1の領域1aは完全には乾燥されておらず、わずかに膨潤している。そして、嵌合ステップつまり2回目の熱プレス成形で、領域1aは完全に乾燥される。このとき、吸水させた領域1aが収縮するために、嵌合部4aにおける紙シートどうしの嵌合強度が大きくなる。
【0030】
<取出しステップ>
最後に、プレス金型5を開いて、紙成形品4を取り出す(
図4(f)参照)。紙成形品4は、嵌合部4aと、嵌合部4a以外の領域4cと、折曲部4dを有する。紙成形品4は、
図4(f)のように断面視で全体が2層構成となっており、嵌合部4aは立体形状を有している。嵌合部4a以外の領域4cでは、紙シートどうしは密着されていないため、たとえば
図5のように、嵌合部4aよりも左側の領域4cを上下方向に動かすことができる。ただし、嵌合部4aよりも右側の領域4cは、折曲部4dを有しているため、動かすことはできない。
嵌合部4aは紙シート1どうしが密着しているが、接着はしていない。そのため、たとえば
図5を参照して、嵌合部4aよりも左側にある2つの領域4cをそれぞれ持ち、力を加えれば、紙シート1どうしを分離することができる。言い換えると、嵌合部4aから、上側の紙シートを取り外すことができる。
【0031】
このようにして、1枚の紙シート1から、嵌合部4aを有する紙成形品4を容易に得ることができる。
【0032】
(第2実施形態の変形例1)
プレス金型5は、1組の第1成形面5aとは別の領域に、1組の第1成形面5aの形状とは反対の形状を有する1組の第2成形面5bを備えていてもよい(
図6参照)。1組の第2成形面5bのうち、図の下方は、所定の立体形状の一方の面を成形するための、凸状の第2成形面を有している。図の上方は、所定の立体形状の他方の面を成形するための、凹状の第2成形面を有している。これら凸状および凹状の第2成形面が、1組の第2成形面5bを構成している。1組の第1成形面5aと、1組の第2成形面5bとは、互いに上下反対の方向を向いている。
【0033】
このようなプレス金型5を用いた嵌合方法を説明する(
図7参照)。
まず、吸水ステップ(
図7(a)参照)では、第2実施形態と同様、1枚の紙シート1の半分の領域1aに吸水させる。もう半分の領域は、吸水させていない領域1bである。
【0034】
次に、配置ステップ(
図7(b)参照)では、吸水させた領域1aを、1組の第1成形面5aの間に配置し、吸水させていない領域1bを、1組の第2成形面5bの間に配置する。
【0035】
次に、成形ステップ(
図7(c)参照)では、プレス金型5を閉じて、1組の第1成形面5aで、吸水させた領域1aを立体形状に成形する。それと同時に、1組の第2成形面5bで、吸水させていない領域1bを立体形状に成形する。
【0036】
次に、積層ステップ(
図7(d)参照)では、プレス金型5を開いて、1組の第2成形面5bで成形された紙シート(吸水させていない領域1b)を、1組の第1成形面5aで成形された紙シート(吸水させた領域1a)の方へ折り曲げる。これにより、互いに上下反対方向を向いた立体形状を有する、1枚の紙シートが積層される。
【0037】
次に、嵌合ステップ(
図7(e)参照)では、プレス金型5を閉じて、積層物3を1組の第1成形面5aで押圧することで、1組の第1成形面5aで成形された紙シート(吸水させた領域1a)と、1組の第2成形面5bで成形された紙シート(吸水させていない領域1b)とを嵌合する。
【0038】
最後に、取出しステップ(
図7(f)参照)では、プレス金型5を開いて、嵌合部4aを有する成形品4を取り出す。成形品4は、第2実施形態における成形品と同様に、一方の端部に折曲部4dを有する。
【0039】
このように、2組の成形面5a,5bを有するプレス金型5を用いて、1度だけ成形することで、1枚の紙シートを互いに上下反対の方向を向いた立体形状に成形することができる。つまり、生産性を向上することができる。
【0040】
(第2実施形態の変形例2)
上記変形例1は、配置ステップ(
図7(b)参照)から嵌合ステップ(
図7(e)参照)まで、2組の成形面を有するプレス金型5を用いていたが、成形ステップ(
図7(c)参照)以降は1組の成形面を有するプレス金型5を用いてもよい(
図8参照)。成形ステップ(
図7(c)参照)の後に、立体形状に成形された紙シート1を取り出し、1組の第2成形面5bで成形された紙シート(吸水させていない領域1b)を、1組の第1成形面5aで成形された紙シート(吸水させた領域1a)の方へ折り曲げる(
図8(a)参照)。次に、積層物3を、1組の第1成形面5aを有するプレス金型5(第1実施形態で用いたもの、
図4参照)の間に配置する(
図8(b)参照)。次に、プレス金型5を閉じて、紙シートを嵌合する(
図8(c)参照)。
この変形例では、2種類のプレス金型を使い分けるため、サイクルタイムを向上させることができる。
【0041】
(実施形態に共通の変形例1)
第1実施形態、第2実施形態、およびそれらの変形例において、嵌合ステップのときに、または取出しステップの後に、嵌合部4aの一部をアンダーカット形状4bに変形するステップを含んでもよい。嵌合部4aの一部をアンダーカット形状4bに変形することで、嵌合部4aの嵌合強度を上げることができる。
【0042】
取出しステップの後に行うとは、嵌合された紙成形品4に追加工を行うということである。たとえば、紙成形品4を治具に載せ、アンダーカット形状4bを付けたい箇所をピンなどで押し込むといった方法を用いて、嵌合部4aの一部を、嵌合部4aの内側に突出するアンダーカット形状4bに変形することができる(
図9(a)参照)。なお、
図9(b)のように、アンダーカット形状4bの突出方向を
図9(a)よりも下を向くようにすると、より嵌合強度を上げることができる。
【0043】
嵌合ステップのときにアンダーカット形状に変形するには、たとえば
図10に示すようなプレス金型5を用いることができる。プレス金型5の凹型(図の下方)は、スライドピン51を有しており、嵌合ステップよりも前のステップでは凹型内部に収まっている(
図10(a)参照)。スライドピン51は、嵌合ステップのときにプレス金型5の凸型(図の上方)の方へ向かって突き出す(
図10(b)参照)。凸型のアンダーカット形状に相当する箇所は、突き出たスライドピン51を逃げられ、かつ紙成形品をプレス金型5から簡単に取り外せるような形状である。
【0044】
(実施形態に共通の変形例2)
嵌合部の平面視の形状は、上述した実施形態および変形例では長方形(
図2、
図5参照)であり、その位置は紙シートの一方の端部寄りであったが、これに限られない。たとえば、平面視でX形状であり紙シートの中央に配置されてもよいし(
図11(a)参照)、平面視で2個の長方形が互いに異なる角度で傾けられて配置されてもよい(
図11(b)参照)。これらの形状および配置であると、より嵌合強度を上げることができる。また、平面視で円形状であってもよい(
図11(c)参照)し、平面視で2個の四角形が紙シートの隅に配置されてもよい(
図11(d)参照)。
なお、
図11(a)や(c)の嵌合部の数は2個以上であってもよいし、
図11(b)や(d)の嵌合部の数は3個以上であってもよい。
なお、
図11に示す紙成形品4は、折曲部4dを有していてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 :紙シート
1a :吸水させた領域
1b :吸水させていない領域
2 :別の紙シート
3 :積層物
4 :紙成形品
4a :嵌合部
4b :アンダーカット形状
4c :嵌合部以外の領域
4d :折曲部
5 :プレス金型
5a :1組の第1成形面
5b :1組の第2成形面
51 :スライドピン
10 :パルプ
11 :パルプ懸濁液
12 :抄型
13 :中間体
14 :押圧型
15,16:パルプ成形品