(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076249
(43)【公開日】2022-05-19
(54)【発明の名称】湿式潤滑用摺動部材、軸受用保持器、および転がり軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/44 20060101AFI20220512BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20220512BHJP
F16C 33/20 20060101ALI20220512BHJP
C08L 71/08 20060101ALI20220512BHJP
C08K 7/04 20060101ALI20220512BHJP
【FI】
F16C33/44
F16C19/06
F16C33/20 A
C08L71/08
C08K7/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020186578
(22)【出願日】2020-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000206901
【氏名又は名称】大塚化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼石 悠貴
【テーマコード(参考)】
3J011
3J701
4J002
【Fターム(参考)】
3J011AA08
3J011BA02
3J011DA01
3J011JA02
3J011KA02
3J011LA04
3J011MA12
3J011PA10
3J011QA20
3J011RA03
3J011SA02
3J011SA04
3J011SA05
3J011SC20
3J011SD10
3J011SE02
3J011SE05
3J701AA03
3J701AA13
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA49
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3J701DA01
3J701DA14
3J701EA02
3J701EA37
3J701EA41
3J701EA47
3J701EA76
3J701FA06
3J701FA31
3J701GA24
3J701XB03
3J701XB31
3J701XB33
3J701XE03
3J701XE22
4J002CH091
4J002DA016
4J002DE187
4J002DJ007
4J002FA046
4J002FA047
4J002FD016
4J002FD017
4J002GM00
4J002GM05
(57)【要約】
【課題】湿式潤滑方式の高速摺動条件下において、摩擦係数が小さく、摺動発熱が抑制され、耐久性に優れた湿式潤滑用摺動部材、該湿式潤滑用摺動部材を備える軸受用保持器、および該軸受用保持器を備える転がり軸受を提供する。
【解決手段】(A)ポリエーテル芳香族ケトン樹脂と、(B)平均繊維長が1mm以上の炭素繊維と、(C)平均繊維長が300μm以下の強化繊維とを含有する樹脂組成物の成形体からなる湿式潤滑用摺動部材において、前記摺動部材の表面粗さ(Sz)が60μm以下であり、前記摺動部材の曲げ弾性率が12GPa以上であることを特徴とする、湿式潤滑用摺動部材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリエーテル芳香族ケトン樹脂と、(B)平均繊維長が1mm以上の炭素繊維と、(C)平均繊維長が300μm以下の強化繊維とを含有する樹脂組成物の成形体からなる湿式潤滑用摺動部材において、
前記摺動部材の表面粗さ(Sz)が60μm以下であり、前記摺動部材の曲げ弾性率が12GPa以上であることを特徴とする、湿式潤滑用摺動部材。
【請求項2】
前記強化繊維の平均繊維長が1μm~300μmであることを特徴とする、請求項1に記載の湿式潤滑用摺動部材。
【請求項3】
前記強化繊維のモース硬度が5以下であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の湿式潤滑用摺動部材。
【請求項4】
前記強化繊維が、チタン酸カリウム繊維またはワラストナイト繊維である、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の湿式潤滑用摺動部材。
【請求項5】
前記炭素繊維の平均繊維長が1mm~30mmであることを特徴とする、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の湿式潤滑用摺動部材。
【請求項6】
前記炭素繊維の引張弾性率が190GPa~300GPaであることを特徴とする、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の湿式潤滑用摺動部材。
【請求項7】
前記炭素繊維が、ポリアクリロニトリル系炭素繊維であることを特徴とする、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の湿式潤滑用摺動部材。
【請求項8】
前記炭素繊維の含有量が、前記樹脂組成物100質量%中において30質量%未満であることを特徴とする、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の湿式潤滑用摺動部材。
【請求項9】
内輪、外輪、および転動体とともに転がり軸受を構成し、前記転動体を回転自在に保持する軸受用保持器において、
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の湿式潤滑用摺動部材を備えることを特徴とする、軸受用保持器。
【請求項10】
請求項9に記載の軸受用保持器を備えることを特徴とする、転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式潤滑用摺動部材、軸受用保持器および転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
温室効果ガス排出等による環境問題が深刻化する中、環境負荷が小さい電動車の普及が期待されている。電動車普及に向けた重要課題の一つが航続距離の延長であり、より大きな電池を搭載できるスペースが求められている。
【0003】
近年、自動車の燃費・電費の向上に直結する電動車用駆動システムの小型・軽量化と駆動モータの高出力化のニーズを背景として、モータ支持用の転がり軸受には従来以上に高速回転時に必要な性能が要求されている。具体的には、電動車駆動モータ用高速回転転がり軸受を高速で回転させた場合、摺動発熱の影響による潤滑不良に起因する焼付きの発生、また遠心力の影響による軸受用保持器(リテーナ)の変形に起因する部材の変形や破損、摺動時における振動や異音が問題となっている。
【0004】
特許文献1では、エアオイル潤滑またはオイルミスト潤滑等の油性潤滑剤を用いた湿式潤滑方式により軸受内部が潤滑される転動体によって案内されることを特徴とするターボ機械の回転軸を回転自在に支持する転がり軸受に関する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の軸受においても、湿式潤滑方式の高速摺動条件下において、摩擦係数および摺動発熱が大きく、耐久性が十分ではなかった。
【0007】
本発明の目的は、湿式潤滑方式の高速摺動条件下において、摩擦係数が小さく、摺動発熱が抑制され、耐久性に優れた湿式潤滑用摺動部材、該摺動部材を備える軸受用保持器(リテーナ)、および該軸受用保持器を備える転がり軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決することを目的とし鋭意検討を重ねた結果、ポリエーテル芳香族ケトン樹脂と、平均繊維長が1mm以上の炭素繊維と、平均繊維長300μm以下の強化繊維とを含有する樹脂組成物の成形体からなる摺動部材において、前記摺動部材の表面粗さ(Sz)が60μm以下で、曲げ弾性率が12GPa以上であることにより、湿式潤滑方式の高速摺動条件下のもとで、摩擦係数が小さく、摺動発熱が抑制され、耐久性に優れた摺動部材が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0009】
項1 (A)ポリエーテル芳香族ケトン樹脂と、(B)平均繊維長が1mm以上の炭素繊維と、(C)平均繊維長が300μm以下の強化繊維とを含有する樹脂組成物の成形体からなる湿式潤滑用摺動部材において、前記摺動部材の表面粗さ(Sz)が60μm以下であり、前記摺動部材の曲げ弾性率が12GPa以上であることを特徴とする、湿式潤滑用摺動部材。
【0010】
項2 前記強化繊維の平均繊維長が1μm~300μmであることを特徴とする、項1に記載の湿式潤滑用摺動部材。
【0011】
項3 前記強化繊維のモース硬度が5以下であることを特徴とする、項1または項2に記載の湿式潤滑用摺動部材。
【0012】
項4 前記強化繊維が、チタン酸カリウム繊維またはワラストナイト繊維である、項1~項3のいずれか一項に記載の湿式潤滑用摺動部材。
【0013】
項5 前記炭素繊維の平均繊維長が1mm~30mmであることを特徴とする、項1~項4のいずれか一項に記載の湿式潤滑用摺動部材。
【0014】
項6 前記炭素繊維の引張弾性率が190GPa~300GPaであることを特徴とする、項1~項5のいずれか一項に記載の湿式潤滑用摺動部材。
【0015】
項7 前記炭素繊維が、ポリアクリロニトリル系炭素繊維であることを特徴とする、項1~項6のいずれか一項に記載の湿式潤滑用摺動部材。
【0016】
項8 前記炭素繊維の含有量が、前記樹脂組成物100質量%中において30質量%未満であることを特徴とする、項1~項7のいずれか一項に記載の湿式潤滑用摺動部材。
【0017】
項9 内輪、外輪、および転動体とともに転がり軸受を構成し、前記転動体を回転自在に保持する軸受用保持器において、項1~項8に記載の湿式潤滑用摺動部材を備えることを特徴とする、軸受用保持器。
【0018】
項10 項9に記載の軸受用保持器を備えることを特徴とする、転がり軸受。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、湿式潤滑方式の高速摺動条件下において、摩擦係数が小さく、摺動発熱が抑制され、耐久性に優れた摺動部材、該摺動部材を備えた軸受用保持器、ならびに該軸受用保持器を備えた転がり軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る転がり軸受を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0022】
本発明に係る湿式潤滑用摺動部材は、グリース潤滑剤や油性潤滑剤を用いる湿式潤滑下で摺動する部材であり、好ましくは油性潤滑剤を用いる湿式潤滑下で摺動する部材である。油性潤滑剤としては、エンジン油、スピンドル油、タービン油、マシン油、シリンダー油、キヤー油などの鉱油;ひまし油などの植物油;鯨油などの動物油;シリコーンなどの合成油などの潤滑油が挙げられ、これらは単独または必要に応じて2種以上組み合わせて使用される。
【0023】
上記摺動部材は、(A)ポリエーテル芳香族ケトン樹脂と、(B)平均繊維長が1mm以上の炭素繊維と、(C)平均繊維長300μm以下の強化繊維とを含有する樹脂組成物の成形体である。ここで、本願明細書において、(A)ポリエーテル芳香族ケトン樹脂中に充填物(B)、(C)を含有してなる樹脂組成物をもって成形された部材を、「摺動部材」ともいう。摺動部材は、一般的には射出成形により製造されるが、切削その他の加工法により製造することも可能である。
【0024】
本発明において、摺動部材の表面粗さ(Sz)は、60μm以下であり、好ましくは25μm以下である。また、好ましくは12μm以上であり、より好ましくは16μm以上である。
【0025】
本願明細書において摺動部材の表面粗さ(Sz)とは、ISO25178に定義される三次元表面粗さであって、測定対象領域内における最大高さ、すなわち最も高い点から最も低い点までの高さ方向の距離をいう。表面粗さ(Sz)は、レーザー顕微鏡を用いて測定することができ、具体的な操作測定条件は、測定対象物や測定装置に応じて適切に設定される。
【0026】
本発明において、摺動部材の曲げ弾性率は、12GPa以上であり、好ましくは14GPa以上である。摺動部材の曲げ弾性率の上限値は、特に限定されないが、例えば、17GPaである。本願明細書において、摺動部材の曲げ弾性率はJIS K7272に準拠して測定される。
【0027】
摺動部材の表面粗さ(Sz)および曲げ弾性率を上記範囲内とすることで、湿式潤滑方式の高速摺動条件下において、摩擦係数が小さく、摺動発熱を抑制でき、優れた耐久性を得ることができる。また、本発明の摺動部材は優れた摺動特性を有していることから、部材の摺動表面をコーティングすることなく用いることができる。
【0028】
以下、本発明の湿式潤滑用摺動部材の各構成要素等についてより詳細に説明する。
【0029】
<樹脂組成物>
本発明に用いる樹脂組成物は、(A)ポリエーテル芳香族ケトン樹脂と、(B)平均繊維長が1mm以上の炭素繊維と、(C)平均繊維長が300μm以下の強化繊維とを含有し、必要に応じて、(D)硫酸バリウム、その他添加剤をさらに含有することができる。
【0030】
本発明に用いる樹脂組成物の各構成成分等について以下説明する。
【0031】
((A)ポリエーテル芳香族ケトン樹脂)
本発明に用いる樹脂組成物に含まれるポリエーテル芳香族ケトン樹脂は、その構造単位に、芳香族核結合、エーテル結合、およびケトン結合を含む熱可塑性樹脂である。
【0032】
その具体例としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)樹脂等のポリアリーレンケトン樹脂を用いることができる。
【0033】
なかでも、下記の一般式(1)で表わされる繰り返し単位を有するPEEK樹脂が好適に使用される。
【0034】
【0035】
なお、PEEK樹脂は、上記の基本繰り返し単位(1)と共に、本発明の本質的な特性を損なわない範囲内で、下記の一般式(2)で表わされる繰り返し単位を1種または2種以上を含むことができる。
【0036】
【0037】
上記PEEK樹脂の市販品としては、VICTREX社製、商品名:「PEEK151G」、「PEEK381G」、「PEEK450G」などが挙げられる。
【0038】
本発明において、ポリエーテル芳香族ケトン樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ポリエーテル芳香族ケトン樹脂は、キャピラリーレオメーターで融点より57℃高い溶融温度で測定したずり速度1.0×103sec-1での溶融粘度が1.0×105mPa・s~4.0×105mPa・sであるものが好ましい。
【0039】
((B)炭素繊維)
本発明で用いる樹脂組成物に含まれる炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系、セルロース系、炭化水素による気相成長系炭素繊維、黒鉛繊維などを用いることができ、これらを単独で用いてもよく、これらを2種以上併用してもよい。好ましくは、機械強度、摺動性をより一層向上させる観点からポリアクリロニトリル系炭素繊維が好ましい。
【0040】
本発明において、炭素繊維の平均繊維長は、1mm以上、好ましくは3mm以上である。炭素繊維の平均繊維長を上記下限値以上とすることでより一層優れた曲げ弾性率(剛性)を得ることができる。また、炭素繊維は、成形性の観点からチョップドファイバー(短繊維)などの非連続繊維であることが好ましく、炭素繊維の平均繊維長は、好ましくは30mm以下であり、より好ましくは15mm以下であり、さらに好ましくは10mm以下である。
【0041】
本発明で用いる樹脂組成物に含まれる炭素繊維は、平均繊維径が1μm~50μmであることが好ましく、3μm~20μmであることがより好ましい。平均繊維径がこの範囲であると、本発明で用いる樹脂組成物に含まれる炭素繊維の含有量を高くしても、流動性の低下をより一層抑制することができる。上記平均繊維径であれば収束剤等で凝集した炭素繊維の束となっていてもよい。
【0042】
本発明においては、炭素繊維の引張弾性率は、190GPa~300GPaが好ましく、230GPa~300GPaがより好ましい。炭素繊維の引張弾性率が小さすぎると、炭素繊維による摺動界面の補強効果が小さく摩擦粉が過剰に発生し、摩擦係数が不安定になるおそれがある。一方、引張弾性率が大きすぎると、摺動界面に脱離したものが大きな抵抗となるおそれがある。炭素繊維の引張弾性率は、JIS R7606(2000)のA法に準拠して測定された値を示す。
【0043】
本発明で用いる樹脂組成物では、湿式潤滑用摺動部材とした際の曲げ弾性率などの剛性に関する性能をより一層高め、かつ、流動性をより一層高める観点から、炭素繊維は15質量%以上含まれることが好ましく、20質量%以上含まれていることがより好ましく、30質量%未満含まれていることがさらに好ましい。炭素繊維の含有量が30質量%以上のとき、表面平滑性が悪くなり、十分な摺動特性(摩擦係数が低い、摺動発熱の抑制、耐久性など)が得られない場合がある。
【0044】
((C)強化繊維)
本発明で用いる樹脂組成物に含まれる強化繊維としては、特に限定されるものではないが、好ましくは無機繊維である。無機繊維としては、摺動部材の摺動特性をより一層高める観点から、モース硬度が5以下の無機繊維であることが好ましい。モース硬度とは、物質の硬さを表す指標であり、鉱物同士を擦り付けて傷ついたほうが硬度の小さい物質となる。モース硬度が5以下の無機繊維としては、例えば、チタン酸カリウム繊維、ワラストナイト繊維、酸化亜鉛、塩基性硫酸マグネシウム、アルミナ繊維、シリコンカーバイド繊維、ボロン繊維等の無機繊維が挙げられる。これらの強化繊維は、1種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
【0045】
強化繊維は、繊維状粒子から構成される粉末であることが好ましい。表面粗さ(Sz)をより一層低減しつつ、曲げ弾性率をより一層高める観点から、平均繊維長は300μm以下、好ましくは1μm~300μmであり、より好ましくは1μm~200μmであり、さらに好ましくは3μm~100μmであり、特に好ましくは5μm~50μmである。平均アスペクト比は、好ましくは3~200であり、より好ましくは3~100であり、さらに好ましくは3~50であり、特に好ましくは3~40である。
【0046】
本発明において繊維状粒子とは、粒子に外接する直方体のうち最小の体積をもつ直方体(外接直方体)の最も長い辺を長径L、次に長い辺を短径B、最も短い辺を厚さT(B>T)と定義したときに、L/BおよびL/Tがいずれも3以上の粒子のことをいい、長径Lが繊維長、短径Bが繊維径に相当する。
【0047】
表面粗さ(Sz)をより一層低減し、摺動特性をより一層高める観点から、強化繊維は、チタン酸カリウム繊維およびワラストナイト繊維のうち少なくとも一方であることが好ましく、チタン酸カリウム繊維またはワラストナイト繊維がより好ましく、チタン酸カリウム繊維が特に好ましい。チタン酸カリウム繊維は、例えば、一般式K2O・nTiO2(式中nは2~8の整数)、または一般式K2O・nTiO2・1/2H2O(式中nは2~8の整数)で表される単結晶繊維等を挙げることができる。その具体例としては、4-チタン酸カリウム繊維、6-チタン酸カリウム繊維、8-チタン酸カリウム繊維等やこれらの混合物が挙げられる。
【0048】
チタン酸カリウム繊維の寸法は、上述の寸法の範囲であれば特に制限はないが、平均繊維長が好ましくは1μm~50μm、より好ましくは3μm~30μm、さらに好ましくは3μm~20μmである。平均繊維径が好ましくは0.01μm~1μm、より好ましくは0.05μm~0.8μm、さらに好ましくは0.1μm~0.7μmである。平均アスペクト比が好ましくは10以上、より好ましくは10~100、さらに好ましくは15~35である。これらの強化繊維は市販品でも使用でき、例えば、大塚化学社製の「TISMO D」(平均繊維長15μm、平均繊維径0.5μm)、「TISMO N」(平均繊維長15μm、平均繊維径0.5μm)等を使用することができる。
【0049】
ワラストナイト繊維としては、メタ珪酸カルシウムからなる無機繊維であり、従来公知のものを広く使用できる。ワラストナイト繊維の寸法は上述の強化繊維の寸法の範囲であれば特に制限はないが、平均繊維長が好ましくは5μm~180μm、より好ましくは10μm~100μm、さらに好ましくは20μm~40μmである。平均繊維径が好ましくは0.1μm~15μm、より好ましくは1μm~10μm、さらに好ましくは2μm~7μmである。平均アスペクト比が好ましくは3以上、より好ましくは3~30、さらに好ましくは3~15である。これらの強化繊維は市販品でも使用でき、例えば、大塚化学社製の「バイスタルW」(平均繊維長25μm、平均繊維径3μm)等を使用することができる。
【0050】
上述の平均繊維長および平均繊維径は、走査型電子顕微鏡の観察により測定することができ、平均アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)は平均繊維長および平均繊維径より算出することできる。例えば、走査型電子顕微鏡により、複数の強化繊維を撮影し、その観察像から強化繊維を任意に300個選択し、それらの繊維長および繊維径を測定し、繊維長の全てを積算して個数で除したものを平均繊維長、繊維径の全てを積算し個数で除したものを平均繊維径とすることができる。
【0051】
本発明で用いる樹脂組成物では、表面平滑性の観点から、強化繊維の含有量が0.5質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、剛性の観点から20質量%未満であることが好ましい。
【0052】
本発明で用いる樹脂組成物に含まれる炭素繊維と強化繊維の質量比((B)炭素繊維/(C)強化繊維)は、0.75~60であることが好ましく、0.75~6であることがより好ましく、1~6であることがさらに好ましい。炭素繊維と強化繊維の質量比を、上記範囲とすることで、湿式潤滑の高速摺動条件下のもとで、本発明で用いる樹脂組成物で成形された摺動部材の表面平滑性をより一層高めつつ、摺動部材の剛性をより一層高めることができ、摺動特性をより一層向上させることができる。
【0053】
<本発明で用いる樹脂組成物の任意成分>
(硫酸バリウム(D))
本発明で用いる樹脂組成物は、必要に応じて、硫酸バリウム(D)(以下「成分(D)」という場合がある。)を含有することができる。成分(D)には、重晶石と呼ばれる鉱物を粉砕して脱鉄洗浄、水簸して得られる簸性硫酸バリウム(バライト粉)と、人工的に合成する沈降性硫酸バリウムがある。沈降性硫酸バリウムは合成時の条件により粒子の大きさを制御することができ、目的とする粗大粒子の含有量が少ない、微細な硫酸バリウムを製造することができる。不純物をより一層少なくし、粒度分布をより一層均一にする観点から、沈降性硫酸バリウムを用いることが好ましい。
【0054】
成分(D)は、粉末であることが好ましく、その平均粒子径は、好ましくは0.1μm~50μmであり、より好ましくは0.1μm~30μmであり、さらに好ましくは0.1μm~5μmであり、さらにより好ましくは0.3~1.2μmであり、特に好ましくは0.3μm~0.8μmであり、最も好ましくは0.3μm~0.5μmである。平均粒子径を上記範囲とすることで摺動時の摩擦係数をより一層小さくすることができる。
【0055】
成分(D)の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により測定することができ、レーザー回折・散乱法により測定される粒度分布における体積基準累積50%時の粒子径(体積基準累積50%粒子径)、すなわちD50(メジアン径)である。この体積基準累積50%粒子径(D50)は、体積基準で粒度分布を求め、全体積を100%とした累積曲線において、粒子サイズの小さいものから粒子数をカウントしていき、累積値が50%となる点の粒子径である。
【0056】
成分(D)の粒子形状は、球状、柱状、板状、棒状、円柱状、ブロック状、不定形状等の非繊維状粒子であれば特に限定されないが、好ましくは球状、板状または不定形である。硫酸バリウムの粒子形状は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)観察から解析することができる。
【0057】
本発明で用いる樹脂組成物における成分(D)の含有量は、本発明で用いる樹脂組成物全量100質量%中において1質量%~30質量%が好ましく、1質量%~20質量%がより好ましく、1質量%~15質量%がさらに好ましく、1.5質量%~2.5質量%であることが最も好ましい。
【0058】
(その他添加材)
本発明に用いる樹脂組成物は、その好ましい物性を損なわない範囲において、その他添加剤を含有することができる。その他添加剤としては、非繊維状無機充填材(例えば炭酸カルシウム、雲母、マイカ、セリサイト、イライト、タルク、カオリナイト、モンモリナイト、ベーマイト、スメクタイト、バーミキュライト、パリゴルスカイト、パイロフィライト、ハイロサイト、珪藻土、二酸化チタン、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸マグネシウムカリウム、チタン酸リチウムカリウム等);導電性充填剤(例えば金属粒子(例えばアルミニウムフレーク)、金属繊維、金属酸化物粒子、炭素粒子(例えば黒鉛、膨張黒鉛、鱗片状黒鉛、グラフェン、カーボンブラック、黒鉛化カーボンブラック)、カーボンナノチューブ等);帯電防止剤;酸化防止剤および熱安定剤;紫外線吸収剤;光安定剤;耐候剤;耐光剤;離型剤;滑剤;流動性改良剤;可塑剤;耐衝撃性改良剤;難燃剤;ドリッピング防止剤;核形成剤;分散剤;制振剤;中和剤;ブロッキング防止剤等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を含有することができる。
【0059】
本発明に用いる樹脂組成物がその他添加剤を含む場合、その配合量は、本発明に係る湿式潤滑用摺動部材の好ましい物性を損なわない範囲であれば特に制限はない。樹脂組成物の合計量100質量%中に10質量%以下、好ましくは5質量%以下である。
【0060】
<本発明に用いる樹脂組成物の製造方法>
本発明に用いる樹脂組成物は、(A)ポリエーテル芳香族ケトン樹脂と、(B)平均繊維長が1mm以上の炭素繊維と、(C)平均繊維長300μm以下の強化繊維とを含有し、(D)硫酸バリウム、その他添加剤を含む混合物を、混合および加熱(特に、溶融混練)することによって製造できる。
【0061】
溶融混練には、例えば、二軸押出機等の公知の溶融混練装置を使用することができる。具体的には、(1)混合機(タンブラー、ヘンシェルミキサー等)で各成分を予備混合して、溶融混練装置で溶融混練し、ペレット化手段(ペレタイザー等)でペレット化する方法;(2)所望する成分のマスターバッチを調整し、必要により他の成分を混合して溶融混練装置で溶融混練してペレット化する方法;(3)各成分を溶融混練装置に供給してペレット化する方法等により製造することができる。
【0062】
溶融混練における加工温度は、(A)ポリエーテル芳香族ケトン樹脂が溶融し得る温度であれば特に限定はない。通常、溶融混練に用いる溶融混練装置のシリンダー温度をこの範囲に調整する。かくして、所望の効果を発揮する本発明に用いる樹脂組成物が製造される。
【0063】
<湿式潤滑用摺動部材の製造方法および用途>
本発明に用いる樹脂組成物は、目的とする成形体の種類、用途、形状等に応じて、射出成形、インサート成形、圧縮成形、ブロー成形、インフレーション成形等の公知の樹脂成形方法により、各種成形品とすることができ、射出成形、インサート成形が好ましい。また、上記の成形方法を組み合わせた成形方法を採用することができる。本発明に用いる樹脂組成物を成形することで得られる摺動部材は、湿式潤滑方式の高速摺動条件下のもとで、摩擦係数が小さく、摺動発熱が抑制され、耐久性に優れた部材とすることができる。このため、本発明に用いる樹脂組成物を成形することで得られる湿式潤滑用摺動部材は、例えば、高速回転(摺動)領域で使用される電動車駆動モータ用の転がり軸受を構成する摺動部品の製造に好適に使用される。
【0064】
本発明の湿式潤滑用摺動部材の潤滑方式は、軸受内部空間(内輪と外輪の間の環状空間)に封入したグリース潤滑剤により部材を潤滑するグリース潤滑と、軸受外部から軸受内部空間に次々に供給される油性潤滑剤により部材を潤滑する油性潤滑とに大別されるが、潤滑・冷却効率を高める必要があることから、本発明の湿式潤滑用摺動部材の潤滑方式は油性潤滑の方式が好ましい。さらに油性潤滑の方式は、ジェット潤滑、アンダーレース潤滑、エアオイル潤滑、オイルミスト潤滑などに大別されるが、単位時間あたりの油性潤滑剤の供給量が格段に少なく、油性潤滑剤の使用量(潤滑に要するコスト)を抑制できることから、本発明の湿式潤滑用摺動部材に適用される油性潤滑の方式はエアオイル潤滑またはオイルミスト潤滑の方式が好ましい。
【0065】
本発明の一つの実施態様としては、例えば、内輪、外輪、および転動体とともに転がり軸受を構成し、転動体を回転自在に保持する本発明の湿式潤滑用摺動部材を備えた軸受用保持器が挙げられる。また、その構成部材として、該軸受用保持器の製造に用いる部材として好適に使用される。
【0066】
図1は、本発明の一実施形態に係る転がり軸受を示す模式的断面図である。
図1に示すように、転がり軸受1は、内輪2、外輪3、転動体4、及び軸受用保持器10を備える。軸受用保持器10は、上述した本発明の湿式潤滑用摺動部材により構成されている。
【0067】
軸受用保持器10は、その内径面10aとポケット部11のポケット面11aの少なくとも一方に、潤滑油を保持するための凹部を無数に設けることができる。このようにすれば、潤滑油を効率よく保持することができるので、軸受内部空間に供給される潤滑油量が少なくても、ポケット面11aでの油膜形成性を高めることができ、軸受用保持器10の摩耗を効果的に防止することができる。
【0068】
なお、軸受用保持器10は、上述した本発明の湿式潤滑用摺動部材により構成されるので、上記凹部に対応する凸部の型部を軸受用保持器10の成形型に設けることにより、上記凹部を容易に設けることができる。ポケット部11のポケット面11aは、例えば、ポケット部11の中心線と平行な面に形成することができる。また、ポケット部11の輪郭線は、矩形状に形成することができる。
【0069】
本発明のその他の実施形態としては、上記軸受用保持器を構成部品として備える電動車駆動モータ用の転がり軸受が挙げられる。上記電動車駆動モータ用の転がり軸受は、内側軌道面を有し、電動車駆動モータの回転軸に装着される内輪と、外側軌道面を有する外輪と、内側軌道面と外側軌道面の間に転動自在に配された複数の転動体と、内輪と外輪の間に配置され、複数の転動体を個別に保持した複数のポケット部を有する軸受用保持器とを備え、エアオイル潤滑またはオイルミスト潤滑等の潤滑方式により軸受内部が潤滑される転がり軸受であって、内輪および外輪が、400℃以上で焼戻しされた鋼材で形成され、転動体が、400℃以上で焼戻しされた鋼材またはセラミックスで形成され、かつ、軸受用保持器が、本発明の湿式潤滑用摺動部材で形成されると共に、転動体によって案内されることを特徴とする。なお、「回転軸」は、上記電動車駆動モータの主軸の他、この主軸の回転を受けて従動回転する従動回転軸も含む概念である。
【0070】
上記のように、内輪および外輪を400℃以上で焼戻しされた鋼材で形成すれば、電動車駆動モータの軸受使用温度範囲(80℃~350℃程度)での強度低下や寸法変化を可及的に防止できる。また、転動体を軌道輪と同様の鋼材で形成すれば、転動体の強度低下や寸法変化を可及的に防止することができる。転動体はセラミックスで形成しても良く、この場合には、上記の特徴に加え、低発熱で耐スミアリング性に優れた転動体を得ることができる。さらに、本発明の湿式潤滑用摺動部材は、機械的強度特に剛性に優れることから、これを構成部材とする軸受用保持器を形成すると共に、軸受用保持器の案内形式を転動体案内とすれば、エアオイル潤滑またはオイルミスト潤滑等の油性潤滑剤により部材を潤滑する潤滑方式のように、軸受内部への潤滑油の供給量が乏しい潤滑方式の採用下で内輪または外輪が高速で回転する場合においても、内輪または外輪と軸受用保持器との接触・摺動を避けることができる。これにより、内輪、外輪および軸受用保持器に摩耗や焼付き等の不具合が生じるのを可及的に防止することができる。
【0071】
以上の作用効果が相俟って、本発明の転がり軸受は、湿式潤滑方式の高速摺動条件下において、潤滑油の供給量が乏しい過酷条件下で使用される場合であっても、所定の軸受性能を長期間に亘って安定的に発揮することができて信頼性に富む、という特徴を有する。
【0072】
本発明の転がり軸受の構成部品のうち、転動体としてはボールまたは円筒ころを使用するのが好ましい。
【0073】
本発明によれば、転がり軸受を高速で回転(摺動)させた場合、摩擦係数が小さく、摺動発熱が抑制され、耐熱性および耐久性に優れる。また、本発明の湿式潤滑用摺動部材を備える軸受用保持器は、高速摺動時の転動体の遠心力の影響による変形や破損の低減、および振動や異音の低減が期待できる。
【実施例0074】
以下に実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明の要旨を損なわない限り、何らこれに限定されるものではない。なお、本実施例および比較例で使用した原材料は具体的には以下の通りである。
【0075】
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂:溶融粘度3.5×105mPa・s、融点343℃(VICTREX社製、商品名「PEEK450G」)
炭素繊維:ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、引張弾性率294GPa、平均繊維長6mm、平均繊維径5μm(日本ポリマー社製、商品名:「CFAU3」)
チタン酸カリウム繊維:平均繊維長15μm、平均繊維径0.5μm(大塚化学社製、商品名「ティスモN102」)
【0076】
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂の溶融粘度は、溶融粘度測定装置(東洋精機製作所社製、商品名「キャピログラフ1D」)を用いて400℃、ずり速度が1.0×103sec-1の条件にて1.0mmφ×10mmのキャピラリーレオメーターを用いて、溶融粘度を測定した。
【0077】
<実施例1~実施例4および比較例1~比較例4>
表1に示す配合割合で、二軸押出機を用いて溶融混練し、それぞれペレットを製造した。なお、二軸押出機のシリンダ温度は、380℃であった。
【0078】
得られたペレットを射出成形にて、JIS試験片(曲げ試験片)、摩擦摩耗試験片(外径25.6mm、内径20mm、高さ15mmの中空円筒)を作製した。なお、射出成形機のシリンダ温度は400℃、金型温度は180℃であった。
【0079】
<評価>
(引張り強さ)
JIS K7162に準拠して、引張り強さを測定した。
【0080】
(曲げ強度、曲げ弾性率)
JIS K7271に準じ、オートグラフAG-5000(島津製作所社製)にて支点間距離60mmの3点曲げ試験により曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。結果を表1に示した。
【0081】
(表面粗さ)
表面粗さSzは、KEYENCE社製の商品名「形状解析レーザー顕微鏡」、品番「VK-X250」を使用して、対物レンズ:10倍、測定面積:1060μm×1425μmの条件で、摩擦摩耗試験前の摩擦摩耗性試験片の摺動表面を計測した。最大高さと最大谷深さから表面粗さをSz(最大高さ)とし測定した。
【0082】
(摩擦摩耗試験)
上記で作製した摩擦摩耗性試験片について、JIS K7218 A法に準じ、鈴木式摩擦摩耗試験機(EFM-III-F、エー・アンド・デイ社製)を用いて、試験を開始してから10分経過以降、試験終了までの安定時の摩擦係数の平均値と相手鋼材温度、さらにメルトまでの耐久距離を測定した。試験条件は、摩擦摩耗性試験片の表面にトヨタ自動車社製、ATFフルードオイル(ATFグレード:TYPE-TIVを塗布し、面圧0.2MPa、周速度4m/秒、走行距離300km以上、相手鋼材は機械構造用炭素鋼(S45C)(摺動面を#1000のサンドペーパーで研磨)とし、試験時間は摺動部材(摩擦摩耗性試験片)がメルトするまでの時間とした。
【0083】
【0084】
表1から明らかなように、ポリエーテル芳香族ケトン樹脂と、平均繊維長が1mm以上の炭素繊維と、平均繊維長300μm以下の強化繊維とを含有する樹脂組成物の成形体であって、該成形体の表面粗さ(Sz)が60μm以下で、かつ、曲げ弾性率が12GPa以上の範囲内にある実施例1~実施例4の湿式潤滑用摺動部材では、摩擦係数が小さく、相手鋼材温度の発熱が抑えられており、かつ、メルトまでの耐久距離が高められていることが分かる。一方、成形体の表面粗さ(Sz)が60μm以下で、かつ、曲げ弾性率が12Gpa以上の範囲内にない比較例1~比較例4の湿式潤滑用摺動部材では、メルトまでの耐久距離の試験結果が十分ではなかった。この結果から、本発明の摺動部材では、耐久性に優れるという予期せぬ効果が奏されていることが分かった。
【0085】
従って、本発明に用いる樹脂組成物から成形された湿式潤滑用摺動部材は、例えば、湿式潤滑の高速摺動条件下において、摩擦係数が小さく、摺動発熱が抑制され、耐久性に優れていることから、湿式潤滑の高速摺動条件で使用される軸受用保持器、当該軸受用保持器を備えた転がり軸受等に好適に用いることができる。