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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076251
(43)【公開日】2022-05-19
(54)【発明の名称】締結部材用の電動回転工具
(51)【国際特許分類】
   B25B 23/14 20060101AFI20220512BHJP
【FI】
B25B23/14 630N
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020186580
(22)【出願日】2020-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000232597
【氏名又は名称】株式会社ベッセル工業
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】永吉 健吾
【テーマコード(参考)】
3C038
【Fターム(参考)】
3C038BC04
3C038CC06
3C038EA06
(57)【要約】
【課題】締結部材の着座時等の手や手首の負担を抑えることができる締結部材用の電動回転工具を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、出力軸を有し、該出力軸を回転させることで締結部材を締結させるモータと、モータによる締結部材の締結が少なくとも着座によって停止したときに、締結部材の締結のときの出力軸の回転速度と対応する回転速度で該出力軸を所定時間逆回転させる制御部と、を備えることを特徴とする。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力軸を有し、該出力軸を回転させることで締結部材を締結させるモータと、
前記モータによる前記締結部材の締結が少なくとも着座によって停止したときに、前記締結部材の締結のときの前記出力軸の回転速度と対応する回転速度で該出力軸を所定時間逆回転させる制御部と、を備える、締結部材用の電動回転工具。
【請求項2】
前記逆回転は、前記締結部材の締結のときの前記出力軸の回転速度と同じ回転速度である、請求項1に記載の締結部材用の電動回転工具。
【請求項3】
前記制御部は、前記締結部材の締結の停止の際に前記モータにブレーキをかけ、前記出力軸の回転の停止後に該出力軸を前記逆回転させる、請求項1又は2に記載の締結部材用の電動回転工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの動力を利用して締結部材を締結する締結部材用の電動回転工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、モータの回転動力を利用してネジ等の締結部材を締結する電動ドライバー等の電動回転工具が知られている(特許文献1参照)。このような電動回転工具では、ネジ等の締結部材の締結時において該締結部材が着座したときに、モータの焼損やトルクによる締結部材の損傷を防ぐために、前記着座を検出してモータを停止する制御が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-306221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の電動回転工具では、締結部材が着座したときに、モータが停止することでモータの焼損等の発生は抑えられるが、締結部材の着座時の反作用によって電動回転工具を保持している持ち手が締結部材の回転していた方向と反対方向に回転させられようとするため、作業者の手や手首への負担が大きい。
【0005】
そこで、本発明は、締結部材の着座時の手や手首の負担を抑えることができる締結部材用の電動回転工具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る締結部材用の電動回転工具は、
出力軸を有し、該出力軸を回転させることで締結部材を締結させるモータと、
前記モータによる前記締結部材の締結が少なくとも着座によって停止したときに、前記締結部材の締結のときの前記出力軸の回転速度と対応する回転速度で該出力軸を所定時間逆回転させる制御部と、を備える。
【0007】
かかる構成によれば、締結部材の着座によって締結が停止したときに制御部が、前記停止前の出力軸の回転速度と対応する回転速度でモータの出力軸を所定時間逆回転させる、即ち、締結部材の締結と反対方向に前記対応する回転速度で回転させることで、締結部材が回転していた方向と反対方向への持ち手の回転が好適に抑えられ、これにより、手や手首の負担が抑えられる。
【0008】
前記締結部材用の電動回転工具では、
前記逆回転は、前記締結部材の締結のときの前記出力軸の回転速度と同じ回転速度であることが好ましい。
【0009】
このように、締結部材の締結のときの前記出力軸の回転速度と同じ回転速度で逆回転させることで、締結時の締結部材の回転速度に関わらず、着座等で停止したときの前記反対方向への持ち手の回転に起因する手や手首の負担が効果的に抑えられる。
【0010】
また、前記締結部材用の電動回転工具では、
前記制御部は、前記締結部材の締結の停止の際に前記モータにブレーキをかけ、前記出力軸の回転の停止後に該出力軸を前記逆回転させてもよい。
【0011】
このように、ブレーキをかけて出力軸の回転を停止させた後に該出力軸を逆回転させることで、モータの逆起電力(締結部材の締結時に印加していた電圧と逆方向の起電力)等によるモータ等の損傷が好適に防がれる。
【発明の効果】
【0012】
以上より、本発明によれば、締結部材の着座時等の手や手首の負担を抑えることができる締結部材用の電動回転工具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本実施形態に係る電動ドライバーの斜視図であって、ドライバー本体とドライバービットとを分離した状態の斜視図である。
図2図2は、前記電動ドライバーの構成を説明するための模式図である。
図3図3は、前記電動ドライバーの制御部を説明するための機能ブロック図である。
図4図4は、前記電動ドライバーによるネジのねじ込みの際にモータに流れる電流と、停止用閾値との関係を示す図である。
図5図5は、前記電動ドライバーによるネジのねじ込みのフローを説明するための図である。
図6図6は、ネジの着座時における前記電動ドライバーを把持する手に加わる力及び前記電動ドライバーの逆回転を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について、図1図6を参照しつつ説明する。
【0015】
本実施形態に係る締結部材用の電動回転工具は、締結部材であるネジを締結(締結・緩解)するための電動ドライバーである。この電動ドライバーは、図1及び図2に示すように、ドライバー本体2と、ドライバー本体2に着脱可能なドライバービット(以下、単に「ビット」とも称する。)3と、を備える。
【0016】
ビット3は、所定方向に延び且つ一端(先端)にネジ(詳しくは、ネジのネジ穴)と係合可能な係合部31を有する。また、ビット3は、他端(基端)に、ドライバー本体2に嵌入される嵌入部32を有する。この嵌入部32の前記所定方向と直交する断面形状は、非円形であり、本実施形態の嵌入部32の前記断面形状は、多角形である。
【0017】
ドライバー本体2は、躯体部4と、出力軸51を有し、該出力軸51を回転させることでネジを締結させるモータ5と、モータ5を制御可能な制御部6と、を備える。また、ドライバー本体2は、バッテリー7も備える。
【0018】
躯体部4は、上記の各構成5、6、7を収容すると共に、使用者が把持するグリップ部41と、ビット3が嵌入されるビット駆動部42と、スイッチ43と、を有する。
【0019】
ビット駆動部42は、ビット3が嵌入される凹部421を有し、該凹部421に嵌入されたビット3の中心軸周りに回動可能である。このビット駆動部42は、モータ5の出力軸51と直接又は間接に接続され、モータ5の出力軸51の回転と同期して前記中心軸周りに回転することで該モータ5の回転動力をビット3に伝達する。本実施形態のビット駆動部42は、減速機8を介してモータ5の出力軸51と接続されている。
【0020】
凹部421は、ビット3の嵌入方向(ビット3の中心軸方向)と直交する断面形状がビット3の嵌入部32と対応する形状(非円形)の内周面421aを有する。本実施形態の内周面421aの前記断面形状は、多角形である。
【0021】
スイッチ43は、ビット3の回転駆動のオン・オフ、及びビット3の回転方向を切り替える。本実施形態のスイッチ43は、ビット3の中心軸方向にスライドさせることで、ビット3の回転駆動のオン・オフ、及びビット3の回転方向を切り替える。
【0022】
モータ5は、ドライバービット3を回転駆動するための動力源である。本実施形態のモータ5は、直流(DC)モータである。
【0023】
制御部6は、モータ5を制御することによってビット駆動部42の回転(即ち、ビット3の回転)を制御する。本実施形態の制御部6は、PWM(Pulse Width Modulation)制御によってモータ5を制御している。
【0024】
この制御部6は、図3に示すように、モータ5を流れる電流を検出する電流検出部62と、第一停止用閾値T1を導出する第一閾値導出部63と、第二停止用閾値(停止用閾値)T2を導出する第二閾値導出部64と、ネジの締結を停止するときの制御を行う停止制御部65と、を機能的に有する。
【0025】
電流検出部62は、モータ5を流れる電流を検出し、検出した電流に応じた電流値信号(検出電流値)を第一閾値導出部63、第二閾値導出部64、及び、停止制御部65にそれぞれ出力する。
【0026】
第一閾値導出部63は、スイッチ43が操作されてビット3が回転し始めるとき(電源投入時)にモータ5を流れる電流の変化(電流値の変化)が大きいとき(図4における初期電流期間D1参照)に用いられる閾値(第一停止用閾値)T1を導出する。この第一閾値導出部63は、予め設定されている最大停止電流値にデューティ比を乗じることで第一停止用閾値T1を導出する。
【0027】
尚、本実施形態の初期電流期間D1は、スイッチ43の操作によってビット3が回転し始めてから加速によって該回転が一定の速度で安定するまでの期間(加速回転期間)である。一方、ビット3の回転が一定(又は略一定)の速度で安定している期間(詳しくは、ネジ等を締結することなくビット3を回転させたときに一定の速度で回転が安定している期間)を、本実施形態では、定常電流期間D2と称する。また、この定常電流期間D2においてモータ5に流れている電流(図4参照)のことを、本実施形態では、定常電流と称する。この定常電流の電流値(定常電流値)は、初期電流期間D1においてモータ5に流れる電流(初期電流)の最大値より小さい。本実施形態の電動ドライバー1では、スイッチ43の操作によってビット3が回転し始めたときに、モータ5に印加する電圧がPWM制御によって徐々に上がり(初期電流期間D1)、モータ5に印加している電圧が目標値に達したら(初期電流期間D1終了)、デューティ比を一定にして、その印加電圧が維持される(定常電流期間D2)。また、最大停止電流値とは、モータ5を流れる電流(負荷電流)の増大によるモータ5の焼損の防止や、ネジ穴の潰れ等の締結時のトルクに起因する締結部材の損傷の防止等の観点から定められた締結の停止用閾値の最大値である。
【0028】
第二閾値導出部64は、初期電流後のビット3の回転が安定したときに用いられる閾値(第二停止用閾値)T2を導出する。この第二閾値導出部64は、モータ5の回転が安定した後、電流検出部62によって検出された定常電流の電流値(検出電流値)から第二停止用閾値T2を導出する。
【0029】
具体的に、第二閾値導出部64は、検出電流値に1より大きく且つ2以下の数を乗じることで第二停止用閾値T2を導出する。この検出電流値に乗じる値の上限値は、電動ドライバー1によるネジの締結時に通常動作(略一定速度でネジを締結方向に回転させる動作)を維持し続けることのできる数のうちのなるべく小さい数、換言すると、ネジの着座以外の母材の状態が変わったことによる過電流保護による停止が発生しない範囲でのなるべく小さい数である。本実施形態の前記上限値は、カット&トライによって設定されている。
【0030】
また、第二閾値導出部64は、モータ5の作動時において所定の時間間隔(例えば、0.05~0.15秒間隔)で第二停止用閾値T2を導出する。本実施形態の第二閾値導出部64は、0.1秒経過毎に新たな第二停止用閾値T2(T2a、T2b、T2c、・・・)を導出する。即ち、第二閾値導出部64は、0.1秒間隔で第二停止用閾値T2を更新し続ける。
【0031】
停止制御部65は、検出電流値が所定の値(閾値)になると、モータ5によるネジの締結を停止させる。具体的に、停止制御部65は、検出電流値に基づいて締結の停止を判断する判断部651と、判断部651の判断に基づいて締結を停止させる停止実行部652と、を機能的に有する。
【0032】
判断部651は、モータ5に初期電流が流れている間(即ち、モータ5の出力軸が加速(回転速度が増大)している間)は、検出電流値が第一停止用閾値T1に達したときに、電動ドライバー1の締結動作を停止する判断を行って停止指示信号を出力し、モータ5に定常電流が流れている間(即ち、モータ5の出力軸の回転速度が安定した後)は、検出電流値が第二停止用閾値T2に達したときに、電動ドライバー1の締結動作を停止する判断を行って停止指示信号を出力する。
【0033】
この判断部651は、モータ5の出力軸の回転速度が安定した後では、新たな第二停止用閾値T2bが導出されるまで、前回導出された第二停止用閾値T2aを記憶し、この記憶している第二停止用閾値T2aと検出電流値との比較を行う。そして、判断部651は、新たな第二停止用閾値T2bが導出されると、前回導出された第二停止用閾値T2aを消去して新たな第二停止用閾値T2bを記憶し直し(更新し)、次の第二停止用閾値T2cが導出されるまで、この新たな第二停止用閾値T2bを記憶し続け、この第二停止用閾値T2bと検出電流値との比較を行う。このようにして、モータ5の出力軸の回転速度が安定した後、判断部651は、検出電流値が第二停止用閾値T2に達したか否かを判断する。
【0034】
停止実行部652は、判断部651からの停止指示信号を受信したときに、電動ドライバー1の締結動作の停止を実行する。本実施形態の停止実行部652は、電動ドライバー1の締結動作の停止時にモータ5を逆回転させる。
【0035】
具体的に、停止実行部652は、停止指示信号を受信したときにモータ5の出力軸51の回転を停止させる停止部6521と、モータ5の出力軸51の回転が停止したときに該出力軸51を逆回転させる回転制御部6522と、を機能的に有する。
【0036】
停止部6521は、判断部651からの停止指示信号を受信したときに、モータ5の両極をショートさせることで該モータ5にブレーキをかけて出力軸51の回転(以下では、「順方向の回転」とも称する。)を停止(略停止を含む。)させる。ここで、出力軸51の回転の「略停止」とは、出力軸51が順方向に極僅かに回転しているが、逆電圧(出力軸51を逆回転させるための電圧)を印加して出力軸51を逆回転させるときに、モータ5で発生する逆起電力、及び前記逆電圧を印加することによりモータ5に流れる電流によってモータ5や制御部(回路)6等が損傷しない程度まで、出力軸51の回転数が落ちた状態のことである。本実施形態の停止部6521は、モータ5にブレーキを20ms(ミリ秒)間かけることで、出力軸51の回転を停止させる。尚、モータ5のブレーキについての具体的な構成は限定されない。
【0037】
回転制御部6522は、モータ5の出力軸51が停止(略停止を含む)した後、締結部材を締結しているときの出力軸51の回転速度と対応する回転速度で該出力軸51を所定時間逆回転(順方向の回転と逆方向に回転)させる。本実施形態の回転制御部6522は、モータ5の出力軸51の回転停止直後に該出力軸51を所定時間逆回転させ、その後、モータ5にブレーキをかけて出力軸51の前記逆回転を停止させる。
【0038】
より具体的に、回転制御部6522は、逆回転させる直前のモータ5の出力軸51の回転(順方向の回転)の回転速度に応じた速度で該出力軸51を逆回転させる。本実施形態の回転制御部6522は、停止部6521によってモータ5にブレーキがかけられる直前の出力軸51の回転速度と同じ回転速度で該出力軸51を逆回転させる。また、本実施形態の回転制御部6522が出力軸51を逆回転させる時間は、例えば、30ms(ミリ秒)である。
【0039】
バッテリー7は、モータ5に電力を供給する。本実施形態のバッテリー7は、繰り返し充放電可能な二次電池である。
【0040】
次に、電動ドライバー1によるネジのねじ込み(締結部材の締結)について図5も参照しつつ説明する。
【0041】
ビット3の係合部31がネジのネジ穴に差し込まれ(ステップS1)、ビット3の係合部31とネジとが係合した状態で、スイッチ43が操作される(ステップS2)。これにより、ビット3が回転し始め、ネジのねじ込みが開始される。
【0042】
電動ドライバー1でネジをねじ込むときに、本実施形態の電動ドライバー1では、ネジの頭をなめない(即ち、ネジ穴が潰れない)ように、プログラム等によってビット3の回転速度がゆっくりと上昇する(スロースタートする)が、このとき、モータ5には急激に電流値が上昇する初期電流が流れる(図4の初期電流期間D1参照)。本実施形態の電動ドライバー1では、この初期電流が流れているときに、第一閾値導出部63が、第一停止用閾値T1を導出し(ステップS3)、判断部651が検出電流値と第一停止用閾値T1との比較を行う。
【0043】
この比較において、検出電流値が第一停止用閾値T1に達しない、即ち、検出電流値<第一停止用閾値T1の場合には(ステップS4:Yes)、ネジのねじ込みが続く。
【0044】
一方、前記比較において、検出電流値が第一停止用閾値T1に達する、即ち、検出電流値≧第一停止用閾値T1となった場合には(ステップS4:No)、判断部651が停止指示信号を出力し、この停止指示信号を受信した停止部6521がモータ5にブレーキをかけて出力軸51を停止させる(ステップS8)。そして、モータ5の出力軸51が停止(略停止を含む。)すると、回転制御部6522が、ブレーキをかける直前の出力軸51の回転速度と同じ回転速度で該出力軸51を30ms間逆回転させ(ステップS9)、その後、モータ5にブレーキをかけて前記逆回転を停止させる(ステップS10)。
【0045】
スイッチ43の操作によるビット3の回転開始後、モータ5の出力軸51の回転が安定し始めると(ステップS5:図4の定常電流期間D2参照)、第二閾値導出部64が、検出電流値に基づいて最初の第二停止用閾値T2を導出し、その後、0.1秒経過毎に第二停止用閾値T2を更新(導出)し続ける(ステップS6)。
【0046】
このモータ5の出力軸51の回転が安定している間に、ネジがねじ込まれる材質やネジの長さ等によって、トルクが徐々に上昇したり、トルクが僅かに上下したりするため、モータ5を流れる電流の電流値が一定しない場合があるが、本実施形態の電動ドライバー1では、このネジのねじ込み時等における電流値の僅かな上下(変動)に合わせて第二停止用閾値T2が上下(変動)するように更新され続ける(図4における定常電流期間D2参照)。
【0047】
そして、ネジが着座すると、検出電流値が急峻に変化することで第二停止用閾値T2に達するため(ステップS7)、判断部651が停止指示信号を出力し、この停止指示信号を受信した停止部6521が、モータ5にブレーキをかけて出力軸51の回転(出力軸の順方向の回転)を停止させる(ステップS8)。そして、出力軸51が停止(略停止を含む。)すると、回転制御部6522が、ブレーキをかける直前の出力軸51の回転速度と同じ回転速度で該出力軸51を30ms間逆回転させ(ステップS9)、その後、モータ5にブレーキをかけて前記逆回転を停止させる。以上によりネジのねじ込みが終了する。
【0048】
以上の電動ドライバー1によれば、ネジ等の締結部材の着座等によって締結が停止したときに、制御部6(詳しくは、回転制御部6522)が停止前の出力軸51の回転速度と対応する回転速度でモータ5の出力軸51を所定時間逆回転させる、即ち、締結部材の締結と反対方向に前記対応する回転速度で回転させることで、締結部材が回転していた方向と反対方向への持ち手の回転(電動ドライバー1を保持した手に加わるビット3の回転していた方向と逆向きの回転方向の力)が好適に抑えられ、これにより、手や手首の負担が抑えられる。
【0049】
例えば具体的には、図6に示すように、ネジ(締結部材)Nが電動ドライバー1によって時計回り(図6の上段の図の矢印A参照)に回転させされることでねじ込まれている(締結されている)ときに、該ネジNが着座すると、この着座時の反作用によってドライバー本体2に反時計回りの力Bが加わり(図6の中段の矢印B参照)、手や手首が反時計回りに回転しようとする。本実施形態の電動ドライバー1では、このねじNの着座時に、モータ5の出力軸51を逆回転させる(即ち、ビット3をドライバー本体2に対して逆回転させる)ことで、ドライバー本体2に時計回りの力Cが加わり(図6の下段の矢印C参照)、これにより、ネジNの着座時の前記反作用によって手や手首に加わる力Bの一部又は全部が、前記逆回転によってドライバー本体2に加わった時計回りの力Cによって打ち消され、その結果、ドライバー本体2を把持する手や手首の着座時の負担が抑えられる。尚、図6の中段の図は、ネジNの着座時に手や手首に加わる反作用を分かり易くするために、手首の回転(反時計回りの回転)を誇張して示しているが、実際の手首の回転は、図よりも小さい、若しくは、ほぼ回転しない状態である。
【0050】
また、本実施形態の電動ドライバー1において、回転制御部6522によるモータ5の出力軸51の逆回転は、締結部材の締結のときの出力軸51の回転速度と同じ回転速度である。このように、締結部材の締結のときの出力軸51の回転速度と同じ回転速度で逆回転させることで、締結時の締結部材の回転速度に関わらず、着座等で停止したときの反対方向への持ち手の回転に起因する手や手首の負担が効果的に抑えられる。
【0051】
また、上記実施形態の電動ドライバー1では、停止実行部652が、モータ5にブレーキをかけることで出力軸51の回転が停止した後、該出力軸51を逆回転させている。
【0052】
このように、ブレーキをかけて出力軸51の回転を一旦停止させた後に該出力軸51を逆回転させることで、モータ5の逆起電力(締結部材の締結時に印加していた電圧と逆方向の起電力)等によるモータ5等の損傷が好適に防がれる。
【0053】
また、本実施形態の電動ドライバー1では、締結部材を締結するときに実際にモータ5を流れる電流から第二停止用閾値(停止用閾値)T2を導出することによって使用毎に使用環境(締結部材や被締結部材の種類等)に応じた適切な第二停止用閾値T2が設定されるため、締結部材を適切に締結することができる。即ち、モータ5を停止するための電流値(停止用閾値)が予め設定されている場合(即ち、停止用閾値が固定値の場合)に比べ、第二停止用閾値T2をより低く(検出電流値との差がより小さくなるように)設定することが可能となり、停止用閾値T2の大き過ぎによるモータ5の焼損やネジ(締結部材)の損傷等の発生、作業者の手の巻き込まれ、作業者が締結作業のために保持していた電動ドライバー1の落下等を防ぐことができると共に、停止用閾値T2の小さ過ぎによる締結部材の着座等以外の意図しない締結の停止を防ぐことができる。
【0054】
また、本実施形態の電動ドライバー1では、制御部6(詳しくは、第二閾値導出部64)が、モータ5の作動時における初期電流後の検出電流値から第二停止用閾値T2を導出している。このように、電流値が大きくなりやすい初期電流を用いず、モータ5の回転が安定した後の電流値(定常電流の電流値)を用いて停止用閾値を導出することで、ネジ(締結部材)をより適切に締結することができる。
【0055】
また、本実施形態の電動ドライバー1では、第二閾値導出部64は、モータ5の作動時において所定時間の間隔で第二停止用閾値T2を導出している。かかる構成によれば、第二停止用閾値T2をより低く設定でき、これにより、ネジ(締結部材)をより適切に締結することができる。即ち、硬い木材に長ビスをねじ込むときのようにネジに加わるトルクやモータ5の負荷電流の値が緩やかに変化する場合には、この変化に合わせて第二停止用閾値T2が更新されることで第二停止用閾値T2がより低く(即ち、定常電流の電流値との差がより小さくなるように)設定されてもネジの締結が適切に続けられる一方、ネジの着座時に前記トルクや前記負荷電流が急峻に変化したときにネジの締結の停止が即座に行われ、これにより、電動ドライバー1及びネジの負荷、作業者の手の巻き込まれ、保持していた電動ドライバー1の落下が防がれる。
【0056】
また、従来の電動ドライバー等(停止用閾値が固定値の電動回転工具)では、ネジ(締結部材)の着座前のトルク変化によって回転が停止しないように、停止用閾値を、モータの定常電流値の5~10倍程度にしている。しかし、本実施形態の電動ドライバー1では、第二停止用閾値T2は、1より大きく且つ2以下の数を検出電流値に乗じた値とすることで、第二停止用閾値T2と締結時のモータ5に流れる電流の電流値との差を抑えている。これにより、着座時等のようなネジに加わるトルクやモータ5の負荷電流の値が急峻に変化したときに、締結を停止するまでの時間をより短くでき、その結果、モータ5やネジ(締結部材)等の負担をより好適に抑えることができる。
【0057】
尚、本発明の締結部材用の電動回転工具は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。
【0058】
上記実施形態の締結部材用の電動回転工具1は、電動ドライバーである、即ち、上記実施形態の電動回転工具1が締結する部材(締結部材)は、ネジやビスであるが、この構成に限定されない。電動回転工具1は、電動レンチ等であってもよい。即ち、電動回転工具1が締結する部材がナットやボルト等であってもよい。
【0059】
また、上記実施形態の締結部材用の電動回転工具1では、締結動作が締結部材の着座等によって停止したときに行われる出力軸51の逆回転の時間が30msであるが、この構成に限定されない。この逆回転の時間は、締結部材が回転していた方向と反対方向への持ち手の回転による手や手首の負担を抑える点と、締結部材の着座等によって前記反対方向への持ち手の回転以上に持ち手が逆方向に回されないようにする点と、逆回転によって締め込まれた締結部材が緩むことにならないようにする点と、のうちの少なくとも一つの観点から、いわゆるカット&トライによって求められる。
【0060】
また、上記実施形態の締結部材用の電動回転工具1では、逆回転の回転速度が、締結部材の締結時の回転速度(逆回転の直前の順回転の回転速度)と同じであるが、この構成に限定されない。逆回転の回転速度は、締結部材の締結時の回転速度に応じた速度(例えば、締結時の回転速度(回転数)が大きいときは逆回転の回転速度(回転数)も大きくなり、締結時の回転速度が小さいときは逆回転の回転速度も小さくなる構成)であれば、締結部材の締結時の回転速度と異なっていてもよい。即ち、逆回転の回転速度と逆回転の回転時間とは、制御部6のプログラム上においてフレキシブルに設定可能である。
【0061】
また、上記実施形態の締結部材用の電動回転工具1では、締結方向に回転中の出力軸51が締結部材の着座等のスイッチ操作に寄らずに停止したときに、該出力軸51を逆回転させるが、この構成に限定されない。例えば、緩解(取り外し)方向に回転中の出力軸51がスイッチ操作に寄らずに停止したときにも、該出力軸51を逆回転させてもよい。
【0062】
また、上記実施形態の締結部材用の電動回転工具1では、第二停止用閾値T2が所定間隔で更新されるが、この構成に限定されない。制御部6は、モータ5の出力軸51が定常回転になった後、第二停止用閾値T2を一度だけ導出する構成でもよい。この場合でも、停止用閾値が予め設定されている構成(停止用閾値が固定されている構成)に比べ、使用毎に使用環境(締結部材や被締結部材の種類等)に応じた適切な停止用閾値が設定され、これにより、締結部材を適切に締結することができる。
【0063】
また、上記実施形態の締結部材用の電動回転工具1では、ビット3がドライバー本体2に着脱可能であるが、この構成に限定されない。ビット3が取り外しできない状態でドライバー本体2に取り付けられていてもよい。また、ビット3が電動回転工具1の構成要素に含まれていなくてもよい。
【0064】
また、上記実施形態の締結部材用の電動回転工具1は、バッテリー7を備えているが、この構成に限定されない。締結部材用の電動回転工具1は、先端にプラグ(コンセントプラグ)を有する電源コードを備え、前記プラグをコンセントに差し込む構成、即ち、外部から電力が供給される構成等であってもよい。
【0065】
また、上記実施形態の締結部材用の電動回転工具1では、締結作業時において、モータ5に初期電流が流れる間に用いられる停止用閾値(第一停止用閾値)T1は、最大停止電流値(固定値)にデューティ比を乗じることで導出されているが、この構成に限定されない。モータ5に初期電流が流れる間に用いられる停止用閾値として固定値(例えば、最大停止電流値)が用いられてもよい。
【0066】
また、上記実施形態の締結部材用の電動回転工具1では、締結部材を締結するときに実際にモータ5を流れる電流から第二停止用閾値T2を導出することによって使用毎に使用環境(締結部材や被締結部材の種類等)に応じた適切な第二停止用閾値T2が設定されるが、この構成に限定されない。停止用閾値は、予め設定されている固定値であってもよい。
【符号の説明】
【0067】
1…電動ドライバー(電動回転工具)、2…ドライバー本体、3…ドライバービット(ビット)、31…係合部、32…嵌入部、4…躯体部、41…グリップ部、42…ビット駆動部、421…凹部、421a…内周面、43…スイッチ、44…モード切替スイッチ、5…モータ、51…出力軸、6…制御部、61…モード切替部、62…電流検出部、63…第一閾値導出部、64…第二閾値導出部、65…停止制御部、651…判断部、652…停止実行部、6521…停止部、6522…回転制御部、7…バッテリー、8…減速機、A…ネジの回転方向、B…着座時の反作用によってドライバー本体に加わる力、C…着座時の逆回転によってドライバー本体に加わる力、D1…初期電流期間、D2…定常電流期間、N…ねじ(締結部材)、T1…第一停止用閾値(停止用閾値)、T2、T2a、T2b、T2c…第二停止用閾値(停止用閾値)
図1
図2
図3
図4
図5
図6