(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076253
(43)【公開日】2022-05-19
(54)【発明の名称】締結検査兼用装置
(51)【国際特許分類】
G01L 25/00 20060101AFI20220512BHJP
G01L 5/00 20060101ALI20220512BHJP
【FI】
G01L25/00 A
G01L5/00 103D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020186584
(22)【出願日】2020-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000151690
【氏名又は名称】株式会社東日製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】緒方 智博
(72)【発明者】
【氏名】辻 洋
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 聖司
【テーマコード(参考)】
2F051
【Fターム(参考)】
2F051AB09
2F051BA07
(57)【要約】
【課題】軸力検査の独立性を満足するとともに、検査処理の煩雑化を抑制する。
【解決手段】被締結体に締結部材を締結する締結処理と、前記被締結体に締結された前記締結部材の軸力を検査する検査処理とが可能な機構を備えた締結検査兼用装置であって、前記締結処理及び前記検査処理の際に前記締結部材の締結力を検出可能な互いに独立した複数のセンサを有することを特徴とする締結検査兼用装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被締結体に締結部材を締結する締結処理と、前記被締結体に締結された前記締結部材の軸力を検査する検査処理とが可能な機構を備えた締結検査兼用装置であって、
前記締結処理及び前記検査処理の際に前記締結部材の締結力を検出可能な互いに独立した複数のセンサを有することを特徴とする締結検査兼用装置。
【請求項2】
前記複数のセンサの個数は2であり、
それぞれのセンサから出力される出力信号を受信するコントローラと、
該締付検査兼用装置の故障を報知する報知部と、を有し、
前記コントローラは、前記締結処理の際にセンサの出力差が所定値以上に拡大した場合に、前記報知部を介して故障を報知することを特徴とする請求項1に記載の締付検査兼用装置。
【請求項3】
さらに、記憶部を有し、
前記2個のセンサのうち一方は前記締結処理の際に締め付け力を監視するために用いられる第1のセンサであり、他方は前記検査処理の際に軸力を監視するために用いられる第2のセンサであり、
前記記憶部には、予め前記締結処理時におけるセンサ出力と前記締結処理を行うための動力を生成するモータの回転角度との関係が関係情報として記憶されており、
前記コントローラは、前記締結処理の際にセンサの出力差が所定値以上に拡大した場合において、前記第1のセンサの出力と前記回転角度との関係が前記関係情報から乖離している場合には前記第1のセンサが故障していると判別し、前記第1のセンサの出力と前記回転角度との関係が前記関係情報から乖離してない場合には前記第2のセンサが故障していると判別することを特徴とする請求項2に記載の締付検査兼用装置。
【請求項4】
前記2個のセンサのうち一方は前記締結処理の際に締め付け力を監視するために用いられる第1のセンサであり、他方は前記検査処理の際に軸力を監視するために用いられる第2のセンサであり、
前記コントローラは、前記締結処理の際にセンサの出力差が所定値以上に拡大した場合において、前記締結処理に要する時間が所定の締結時間を満足しない場合には、前記第1のセンサが故障していると判別し、前記所定の締結時間を満足している場合には、前記第2のセンサが故障していると判別することを特徴とする請求項2に記載に締付検査兼用装置。
【請求項5】
前記複数のセンサの個数は2であり、
それぞれのセンサから出力される出力信号を受信するコントローラと、
該締付検査兼用装置の故障を報知する報知部と、を有し、
前記コントローラは、前記検査処理の際にセンサの出力差が所定値以上に拡大した場合に、前記報知部を介して故障を報知することを特徴とする請求項1に記載の締付検査兼用装置。
【請求項6】
さらに、記憶部を有し、
前記2個のセンサのうち一方は前記締結処理の際に締め付け力を監視するために用いられる第1のセンサであり、他方は前記検査処理の際に軸力を監視するために用いられる第2のセンサであり、
前記記憶部には、予め前記検査処理時におけるセンサ出力と前記検査処理を行うための動力を生成するモータの回転角度との関係が関係情報として記憶されており、
前記コントローラは、前記検査処理の際にセンサの出力差が所定値以上に拡大した場合において、前記第2のセンサの出力と前記回転角度との関係が前記関係情報から乖離している場合には前記第2のセンサが故障していると判別し、前記第2のセンサの出力と前記回転角度との関係が前記関係情報から乖離していない場合には前記第1のセンサが故障していると判別することを特徴とする請求項5に記載の締付検査兼用装置。
【請求項7】
前記2個のセンサのうち一方は前記締結処理の際に締め付け力を監視するために用いられる第1のセンサであり、他方は前記検査処理の際に軸力を監視するために用いられる第2のセンサであり、
前記コントローラは、前記検査処理の際にセンサの出力差が所定値以上に拡大した場合において、前記検査処理に要する時間が所定の締結時間を満足しない場合には、前記第2のセンサが故障していると判別し、前記所定の締結時間を満足する場合には、前記第1のセンサが故障していると判別することを特徴とする請求項2に記載に締付検査兼用装置。
【請求項8】
前記複数のセンサの個数は3以上であり、
それぞれのセンサから出力される出力信号を受信するコントローラと、
センサの故障を報知する報知部と、を有し、
前記コントローラは、前記締結処理及び/又は前記検査処理の際に一つのセンサの出力と、残りのセンサの出力との出力差が所定値以上の場合に、前記報知部を介して故障を報知することを特徴とする請求項1に記載の締結検査兼用装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締結部材を締結するとともに、締結した締結部材の軸力を検査する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車をはじめたとした多くの機械構造物の組み立てや固定にボルト、ナットなどの締
結体が用いられる。締結体の締め付け力が目標締め付け力より低いと、締結体に緩みが生
じやすくなり、締結体の疲労強度が低下する。そのため、締結体を目標締め付け力で精度
よく締結することが安全上重要である。
【0003】
安全性を担保する技術として、締結体を締め付ける締め付け工程において締め付け力を
検出及び監視するとともに、締め付け後に所望の締め付け力が得られているかを確認する
ために軸力を検査する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、締め付け時の検出と検査時の検出とを締付装置に実装された一つのセンサで実施すると、検査の独立性が担保できない。また、締め付け後に締付装置とは異なる別の検査装置を用いて軸力を検査する方法では、検査処理が煩雑となる。
【0006】
そこで、本願発明は、検査の独立性を満足するとともに、検査処理の煩雑化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本願発明に係る締結検査兼用装置は、(1)被締結体に締結部材を締結する締結処理と、前記被締結体に締結された前記締結部材の軸力を検査する検査処理とが可能な機構を備えた締結検査兼用装置であって、前記締結処理及び前記検査処理の際に前記締結部材の締結力を検出可能な互いに独立した複数のセンサを有することを特徴とする。
【0008】
(2)前記複数のセンサの個数は2であり、それぞれのセンサから出力される出力信号を受信するコントローラと、該締付検査兼用装置の故障を報知する報知部と、を有し、前記コントローラは、前記締結処理の際にセンサの出力差が所定値以上に拡大した場合に、前記報知部を介して故障を報知することを特徴とする上記(1)に記載の締付検査兼用装置。
【0009】
(3)さらに、記憶部を有し、前記2個のセンサのうち一方は前記締結処理の際に締め付け力を監視するために用いられる第1のセンサであり、他方は前記検査処理の際に軸力を監視するために用いられる第2のセンサであり、前記記憶部には、予め前記締結処理時におけるセンサ出力と前記締結処理を行うための動力を生成するモータの回転角度との関係が関係情報として記憶されており、前記コントローラは、前記締結処理の際にセンサの出力差が所定値以上に拡大した場合において、前記第1のセンサの出力と前記回転角度との関係が前記関係情報から乖離している場合には前記第1のセンサが故障していると判別し、前記第1のセンサの出力と前記回転角度との関係が前記関係情報から乖離してない場合には前記第2のセンサが故障していると判別することを特徴とする上記(2)に記載の締付検査兼用装置。
【0010】
(4)前記2個のセンサのうち一方は前記締結処理の際に締め付け力を監視するために用いられる第1のセンサであり、他方は前記検査処理の際に軸力を監視するために用いられる第2のセンサであり、前記コントローラは、前記締結処理の際にセンサの出力差が所定値以上に拡大した場合において、前記締結処理に要する時間が所定の締結時間を満足しない場合には、前記第1のセンサが故障していると判別し、前記所定の締結時間を満足している場合には、前記第2のセンサが故障していると判別することを特徴とする上記(2)に記載に締付検査兼用装置。
【0011】
(5)前記複数のセンサの個数は2であり、それぞれのセンサから出力される出力信号を受信するコントローラと、該締付検査兼用装置の故障を報知する報知部と、を有し、前記コントローラは、前記検査処理の際にセンサの出力差が所定値以上に拡大した場合に、前記報知部を介して故障を報知することを特徴とする上記(1)に記載の締付検査兼用装置。
【0012】
(6)さらに、記憶部を有し、前記2個のセンサのうち一方は前記締結処理の際に締め付け力を監視するために用いられる第1のセンサであり、他方は前記検査処理の際に軸力を監視するために用いられる第2のセンサであり、前記記憶部には、予め前記検査処理時におけるセンサ出力と前記検査処理を行うための動力を生成するモータの回転角度との関係が関係情報として記憶されており、前記コントローラは、前記検査処理の際にセンサの出力差が所定値以上に拡大した場合において、前記第2のセンサの出力と前記回転角度との関係が前記関係情報から乖離している場合には前記第2のセンサが故障していると判別し、前記第2のセンサの出力と前記回転角度との関係が前記関係情報から乖離していない場合には前記第1のセンサが故障していると判別することを特徴とする上記(5)に記載の締付検査兼用装置。
【0013】
(7)前記2個のセンサのうち一方は前記締結処理の際に締め付け力を監視するために用いられる第1のセンサであり、他方は前記検査処理の際に軸力を監視するために用いられる第2のセンサであり、前記コントローラは、前記検査処理の際にセンサの出力差が所定値以上に拡大した場合において、前記検査処理に要する時間が所定の締結時間を満足しない場合には、前記第2のセンサが故障していると判別し、前記所定の締結時間を満足する場合には、前記第1のセンサが故障していると判別することを特徴とする上記(2)に記載に締付検査兼用装置。
【0014】
(8)前記複数のセンサの個数は3以上であり、それぞれのセンサから出力される出力信号を受信するコントローラと、センサの故障を報知する報知部と、を有し、前記コントローラは、前記締結処理及び/又は前記検査処理の際に一つのセンサの出力と、残りのセンサの出力との出力差が所定値以上の場合に、前記報知部を介して故障を報知することを特徴とする上記(1)に記載の締結検査兼用装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、機構的に締め付け及び軸力検査双方が可能な締結検査兼用装置において、互いに異なる少なくとも二つのセンサを実装することにより、検査の独立性を満足しながら、検査処理の煩雑化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】締結検査兼用装置の断面図である(第1実施形態)。
【
図2】被締結体及びボルトの断面図である(第1実施形態)。
【
図4(b)】被締結体及びボルト(変形例)の断面図である。
【
図5】第1実施形態の締結検査兼用装置の締付時の動作説明図である(前半)。
【
図6】第1実施形態の締結検査兼用装置の締付時の動作説明図である(後半)。
【
図7】ボルトの回転角度と軸力,引張力との関係を示したグラフである。
【
図8】締結検査兼用装置の検査時の動作説明図である(第1実施形態)。
【
図9】締結検査兼用装置の断面図である(第2実施形態)。
【
図10】(a)~(c)は仮締め処理を示す図である。
【
図11】(d)(e)は仮締め処理を示し、(f)は引張力の付加処理を示す図である。
【
図12】(g)~(j)は引張力Pを付加した状態でのナットの着座処理を示す図である。
【
図13】(k)は着座処理を示し、(l)は最終締め付け処理を示し、(m)(o)は締結検査兼用装置の取り外し処理を示す図である。
【
図14】ナットを着座した状態からドライブソケットと共にネジ込み方向に回転させた際の引張力とボルト・ナット締結体の締め付け力の関係を示す図である。
【
図15】締め付け力が目標締め付け力となった状態からナットのみを緩めた場合の引張力と締め付け力の関係を示す図である。
【
図16】締結検査兼用装置の検査時の動作説明図である(第2実施形態)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、締結検査兼用装置100を示す断面図である。締結検査兼用装置100は、第1モータ10と、第2モータ30と、ケース50とを含む。第1モータ10及び第2モータ30は互いに独立しており、コントローラ5によって駆動制御される。すなわち、コントローラ5は、例えばメモリ内のプログラムを読み込んで第1モータ10及び第2モータ30をそれぞれ独立して制御することができる。コントローラ5には、例えば、CPU(central processing unit)を用いることができる。
【0018】
ケース50は、ボディ51と、ボディ51の下面に固定される上端が凹状に形成されたベース52とを備える。ボディ51には、第1減速機11及び第2減速機31が収容されている。第1減速機11は出力軸11aを備えている。出力軸11aは、管状に形成されており、出力軸11aの管状部には動力伝達部品12が差し込まれて、固定されている。この動力伝達部品12は、出力軸11aとともに回転動作する。動力伝達部品12の下端部は、出力軸11aの下方に向かって突出しており、この突出部分は上下方向に延びる管状のビットホルダー13の管内に向かって延出して、固定されている。したがって、出力軸11aで得られた回転出力は、動力伝達部品12を介してビットホルダー13に伝達され、出力軸11a及びビットホルダー13を一体的に回転させることができる。
【0019】
出力軸11a及びビットホルダー13は略同軸上に配設されており、ベアリング14に対して回転可能に支持されている。ビットホルター13の内部には、磁石13aが設けられており、この磁石13aにはボルトを回転させるためのビット13bが吸着されている。ビット13bは、下方に向かって延びており、ビットホルダー13の下端部から延出している。上述の構成において、ビットホルダー13を回転動作させることにより、ビッド13bを上下方向に延びる軸周りに回転させることができる。
【0020】
ここで、磁石13a及びビット13bは、上下方向にスライド移動できるようにビットホルダー13の管内に収められており、磁石13aと動力伝達部品12との間にはスプリング13cが介在している。スプリング13cは、ビッドホルダー13の内壁に沿って配設されている。磁石13aが動力伝達部品12に接近する方向にスライド移動すると、スプリング13cが縮み方向にチャージされる。上述の構成によれば、後述するボルト70に追従するようにビッド13bを上下方向に動作させることができる。
【0021】
ビッド13bは、ボルト回転時に加わる負荷によって消耗する。本実施形態のように、ビッド13bを磁石13aに吸着させて固定することにより、消耗時にビッド13bを容易に交換することができる。
【0022】
第1モータ10には回転角センサRS1が設けられており、この回転角センサRS1はボルト70の回転角を所定の周期で検出する。検出した回転角は、コントローラ5に送信される。第2モータ30には回転角センサRS2が設けられており、この回転角センサRS2は後述するテンションロッド15の回転角を所定の周期で検出する。検出した回転角は、コントローラ5に送信される。
【0023】
第2モータ30の回転力は、第2減速機31、ピニオンギヤ32及びアイドルギヤ33を介して、テンションロッド15に伝達される。すなわち、テンションロッド15の外周面に形成された駆動ギア151及びアイドルギヤ33が互いに係合しており、第2モータ30を動作させることによって、テンションロッド15を上下方向に延びる軸周りに回転させることができる。
【0024】
ベアリング34は、第2モータ30が回転動作するときに、ピニオンギヤ32及びアイドルギヤ33に加わる荷重を受けるために設置されている。アイドルギヤ33は、上下方向に延びるアイドルシャフト35によって回転駆動される。
【0025】
テンションロッド15は、ビットホルダー13及びベアリング14を収めるためのテンション収容部15aを有している。ビットホルダー13及びテンションロッド15の間には、テンションロッド15の回転動作を許容する隙間が形成されている。テンションロッド15は、ベアリング16及びスラストベアリング17により回転可能に支持されている。
【0026】
テンションロッド15の下端部における内径面には、テンションロッド雌ネジ部15a1が形成されている。このテンションロッド雌ネジ部15a1は、ボルトの引張時に、ボルト頭部に形成されたボルト雄ネジ部に螺合するが、詳細について後述する。
【0027】
サポータ18は、テンションロッド15を収めるためのサポータ収容部18aを有している。サポータ18の上端部はスラストベアリング17に接触しており、サポータ18の下端部はテンションロッド15の下端部よりも更に下方に延出している。したがって、締結検査兼用装置100全体が被締結体Hに向かって下降した時、サポータ18の下端部が被締結体Hに当接する。テンションロッド15及びサポータ18の間には、テンションロッド15の回転動作を許容する隙間が形成されている。
【0028】
サポータ18には、互いに独立した二つのセンサ181及びセンサ182が設けられている。センサ181及びセンサ182は、軸方向に並ぶ位置に設けることができる。センサ181は、起歪体181aと歪ゲージ181bとを備える。起歪体181aは、軸方向において中間部が縮径した円筒形状に形成されている。歪ゲージ181bは、起歪体181aの中間部に取り付けられている。センサ182は、起歪体182aと歪ゲージ182bとを備える。起歪体182aは、起歪体181aと同様に構成することができる。
【0029】
ただし、超歪体181a(超歪体182a)の異なる位置に二つの歪ゲージを貼り付けることによって、センサを構成してもよい。この場合、センサ182(センサ181)は省略することができる。
【0030】
ボルトの引張処理の際に、起歪体181a(起歪体182a)は、サポータ18から伝達される引張力と同等の上方向の力を受け、弾性変形域内で圧縮方向に歪む。歪ゲージ181b(歪ゲージ182b)は、起歪体181a(起歪体182a)の歪に応じて抵抗値を変化させ、コントローラ5に出力する出力電圧を変化させる。コントローラ5は、歪ゲージ181b(歪ゲージ182b)の出力電圧の変化量に基づいて、ボルトのネジ部の引張力を算出する。
【0031】
コントローラ5は、センサ181及びセンサ182の出力をボルトの締結時及び軸力検査時に監視しており、これらのセンサの出力差が拡大したときに、いずれか一方のセンサが故障したものと判別することができる。すなわち、センサは互いに固有の誤差があるため、それぞれのセンサ出力は正常時において異なる。この正常時のセンサ出力の差分を誤差として記憶しておき、ボルトの締結時及び軸力検査時に検出されたセンサ出力の差分が当該誤差を超えて所定値以上大きくなった時に、いずれか一方のセンサが故障したものと判別することができる。所定値は、誤差に応じて異なるから、特に限定しない。なお、故障を判定する処理は、ボルトの締結時及び軸力検査時の双方で行ってもよいし、いずれか一方でおこなってもよい。
【0032】
締結検査兼用装置100には、報知部20を実装することができる。報知部20は、いずれか一方のセンサが故障している場合に、音声を出力したり、ランプを点灯させることによってユーザに故障を報知することができる。ただし、報知部20による報知手段は、音声出力、ランプ点灯に限るものではなく、故障をユーザに報知することができる他の方法(例えば、ディスプレイに表示する方法)であってもよい。報知部20の制御は、コントローラ5が行うことができる。
【0033】
このように、互いに異なる二つのセンサ181及びセンサ182の出力の差分を監視することにより、センサ異常を早期に発見することができる。センサ異常の発見後に、締結検査兼用装置100の使用を停止することにより、締結不良、或いは検査不良の大量発生を未然に防止することができる。
【0034】
ここで、センサ181及びセンサ182のうち一方のセンサを締め付け時の軸力管理に用いるとともに、他方のセンサを軸力検査時の軸力管理に用いることができる。本実施形態では、センサ181を締め付け時における軸力管理センサ、センサ182を検査時における軸力管理センサとして用いるものとする。ただし、センサ182を締め付け時の軸力管理センサ、センサ181を検査時の軸力管理センサとして用いることもできる。
【0035】
ここで、ボルトの締め付け時に上述の故障(センサ出力差の拡大)が検知された場合、回転角センサRS1が検出した回転角に基づき、故障したセンサを特定することができる。この点について、具体的に説明する。ボルト70が正常に締結されるまでのボルト70の回転角とセンサ出力との関係を予め関係情報(以下、正常データともいう)として調べて記憶部5aに記憶させておき、実際の締め付け時におけるセンサ出力(本実施形態では、センサ181の出力)と回転角との関係が正常データから乖離している場合には、締め付け時の管理センサ(本実施形態では、センサ181のことである)が故障しているものと判別し、実際の締め付け時におけるセンサ出力(本実施形態では、センサ181の出力)と回転角との関係が正常データから乖離していない場合には、検査時の管理センサ(本実施形態では、センサ182のことである)が故障しているものと判別することができる。
【0036】
また、回転角ではなく締め付け時間から故障したセンサを特定することもできる。すなわち、ボルト70が正常に締結されるまでの時間(以下、正常締結時間ともいう)を予め調べておき、正常締結時間よりも早く締結作業を終了したり、正常締結時間を経過しても締結作業が完了しなかった場合に、締め付け時の管理センサ(本実施形態では、センサ181のことである)が故障していると判別することができる。一方、正常締結時間に締結作業が完了している場合には、検査時の管理センサ(本実施形態では、センサ182のことである)が故障していると判別することができる。なお、正常締結時間は、最小から最大まで幅を持った期間である。なお、正常締結時間は記憶部5aに記憶させておくことができる。
【0037】
また、検査時に上述の故障(センサ出力差の拡大)が検知された場合、回転角センサRS2が検出した回転角に基づき、故障したセンサを特定することができる。この点について、具体的に説明する。ボルト70の軸力検査が終わるまでの回転角とセンサ出力との関係を予め関係情報(以下、正常データともいう)として調べて記憶部5aに記憶させておき、実際の軸力検査時におけるセンサ出力(本実施形態では、センサ182の出力)と回転角との関係が正常データから乖離している場合には、軸力検査時の管理センサ(本実施形態では、センサ182のことである)が故障しているものと判別し、実際の軸力検査時におけるセンサ出力(本実施形態では、センサ182の出力)と回転角との関係が正常データから乖離していない場合には、締め付け時の管理センサ(本実施形態では、センサ181のことである)が故障しているものと判別することができる。締め付け時と同様に検査時間に基づき故障したセンサを特定する方法を採用してもよい。
【0038】
このように、ボルトの締め付け時と締結後の軸力検査時のセンサを別々に設けることにより、検査の独立性を担保することができる。すなわち、センサが一つのみの場合には、締め付け時の軸力測定と検査時の軸力測定とを同一のセンサを用いて行う必要があるため、検査の独立性を担保できない。本実施形態の構成によれば、センサを別々に設けることにより、検査の独立性を担保することができる。
【0039】
(変形例1)
上述の実施形態では、センサの個数を2つとしたが、3つ以上としてもよい。これらのセンサは、軸方向に並べて配設することができる。例えば、互いに異なる3つのセンサ(センサ181、センサ182及びセンサ183)を用いて、軸力検出を行ってもよい。この場合、締め付け時の軸力測定センサと、検査時の軸力測定センサとをこれらのセンサ181~183の中から任意に選択することができる。締め付け時の軸力測定センサと、検査時の軸力測定センサとが互いに独立しているため、検査の独立性を担保することができる。また、これらのセンサ181~183のセンサ出力を監視しておき、いずれか一つのセンサ出力と残りの二つのセンサ出力との出力差が誤差の範囲を超えて所定値以上に拡大している場合には、センサ出力が乖離したセンサを故障したものと判別することができる。なお、この変形例1は、後述する第2実施形態にも適用可能である。
【0040】
センサの個数を3つ以上とする場合、それぞれのセンサを超歪体及び歪ゲージによって構成することができる。また、一つの超歪体に3つ以上の歪ゲージを貼り付けることによって、互いに独立した3つ以上のセンサを実現してもよい。
【0041】
次に、
図2及び
図3を参照しながら、本実施形態の締結検査兼用装置100によって締結されるボルトについて説明する。
図2はボルト及び被締結体の断面図であり、
図3はボルトの斜視図である。ボルト70は、六角穴付きボルトであり、ボルト軸部71及びボルト頭部72から構成されている。ボルト軸部71には雄ネジが形成されている。被締結体H(言い換えると、ワーク)は、上下方向において重ね合わされた被締結体H1及びH2からなり、これらの被締結体H1及びH2には夫々ボルト孔H1a及びH2aが形成されている。
【0042】
ボルト70をボルト孔H1a,H2aに挿入し、被締結体H(H2)の端面から下方に突出したボルト軸部71にナット80を螺合させることにより、ボルト70は被締結体Hに締結される。ただし、本願発明はナット80のないボルト70のみの締結体にも適用することができる。この場合、ボルト軸部71の雄ネジ部と螺合する雌ネジ部をボルト穴H2aの周面に形成することにより、ボルト70を被締結体Hに締結することができる。
【0043】
ボルト頭部72の頂面には、六角形状の差し込み穴72b(被係合部に相当する)が形成されている。この差し込み穴72bにビット13bの下端部(係合部に相当する)を差し込み、回転させることにより、被締結体Hにボルト70を締結することができる。ボルト頭部72の側面にはボルト頭部雄ネジ部72aが周方向に途切れることなく連続的に形成されている。このボルト頭部雄ネジ部72aにテンションロッド雌ネジ部15a1を螺合させた状態で、テンションロッド15を回転させることにより、ボルト70を引っ張ることができる。
【0044】
ここで、サポータ18及び被締結体Hの接触面積をS1と、ボルト頭部72及び被締結体Hの接触面積をS2としたときに、接触面積S1及びS2は互いに同一であることが望ましい。被締結体Hには、ボルト頭部72の座面及びサポータ18から面圧が働くため、接触面積S1及びS2が互いに異なると(つまり、面圧差が生じると)、被締結体Hの変形量が実際のボルト締め付け時と異なってしまう。また、面圧差が過度に大きくなると、サポータ18が被締結体Hを変形させて傷つけたり、変形量が相違することで締付け精度が低下する可能性がある。
【0045】
本実施形態では、差し込み穴72bを六角状に形成したが、本発明はこれに限るものではなく、八角等の他の多角形状であってもよい。また、ボルト頭部の形状が六角である六角ボルトにも本願発明は適用することができる。この場合、
図4(a)に図示するように、ボルト頭部72´の頂面に差し込み穴72b´を形成するとともに、ボルト頭部72´の側面における曲部にボルト頭部雄ネジ部72a´を間欠的に形成するとよい。また、ボルト頭部雄ネジ部72a(72a´)は、必ずしもボルト頭部72(72´)の上端から下端の全体に渡って形成する必要はなく、テンションロッド15を回転させるために必要な螺合長さが確保できれば、上端から下端の一部にのみ形成されていてもよい。
【0046】
また、本実施形態では、ボルト頭部72に形成された差し込み穴72bに、ビット13bを差し込むことにより、ボルト70を回転させたが、本発明はこれに限るものではなく、
図4(b)に図示するように、ボルト頭部72(72´)に突起部72c(被係合部に相当する)を形成し、この突起部72cをビット13bの下端部に形成された不図示の凹部(係合部に相当する)に差し込むことにより、ボルト70を回転させてもよい。つまり、本願発明は、ボルト頭部の側面にボルト頭部雄ネジ部が形成され、かつ、ボルト頭部にビットの係合部を係合させるための被係合部が形成されたボルトに広く適用することができる。また、本願発明は、ボルト頭部にフランジが形成されたフランジ付きボルトにも適用できる。
【0047】
次に、
図5及び
図6の動作説明図を参照しながら、ボルト締結時における締結検査兼用装置100の動作について説明する。ここで、初期状態(
図5(a)参照)において、ボルト70は被締結体Hに仮止めされており、ボルト頭部72は被締結体Hの上面から離隔した仮止め位置に位置しているものとする。また、ビット13bは、ボルト頭部72の差し込み穴72bに差し込まれているものとする。なお、以下の制御は、特に断らない限り、コントローラ5が行うものとする。
【0048】
第1モータ10を作動させると、第1減速機11、出力軸11a、動力伝達部品12及びビッドホルダー13が回転し、ビッドホルダー13に保持されたビット13bが矢印K1方向に回転する。ビッド13bが回転すると、ボルト70が下側に向かって螺進する。ここで、締結検査兼用装置100は、支持部(不図示)に対して自重によって下降することを許容するように支持されているため、ビッド13bが回転しながら、締結検査兼用装置100全体が下降し、その結果、テンションロッド雌ネジ部15a1及びボルト頭部雄ネジ部72aが螺合可能な状態になる(
図5(b)参照)。
【0049】
さらに、ボルト70を回転させ、ボルト頭部72が被締結体Hの上面に着座すると、第1モータ10が受ける第1モータ10を回転させようとする力が急激に増大し、帰還トルクが急激に増大する(
図5(c)参照)。コントローラ5は、第1モータ10の帰還トルクからボルト70が着座したことを検知して、第1モータ10を停止する。その後、第1モータ10を矢印K2方向に逆回転させることにより、ボルト頭部72を被締結体Hの上面から僅かに離隔した位置に戻す(
図5(d)参照)。
【0050】
次に、第1モータ10を停止して、第2モータ30を作動させる。第2モータ30を作動させると、テンションロッド15が矢印K1方向に回転しながら、締結検査兼用装置100全体が下向きに移動して、テンションロッド雌ネジ部15a1及びボルト頭部雄ネジ部72aが互いに螺合する(
図6(e)参照)。なお、この際、ビット13bは、スプリング13cの弾性力に抗しながら、ビットホルダー13の内部を上向きにスライド移動する。
【0051】
テンションロッド15をさらに回転させながら下向きに螺進させると、サポータ18の下端部が被締結体Hの上面に当接することにより締結検査兼用装置100の下降動作が停止する。テンションロッド15をさらに矢印K1方向に回転させようとしても、サポータ18が被締結体Hに接触しているため、テンションロッド15を下向きに螺進させることができない。ここで、ボルト頭部72の差し込み穴72bに差し込まれたビット13bによってボルト70の回転動作は禁止されているため、ボルト70にはテンションロッド15によって引き抜き方向(つまり、上向き)の荷重が働く。
【0052】
しかしながら、サポータ18が被締結体Hに接触しているため、テンションロッド15を回転させても引き抜き方向にボルト70を移動させることができない。その結果、ナット80及びサポータ18に引張力Pが働く(
図6(f)参照)。ここで、サポータ18の上端部は、スラストベアリング17に接しているため、スラストベアリング17及び被締結体Hによってサポータ18は圧縮され、この圧縮力が引張力Pとしてセンサ181により検出される。
【0053】
この際、センサ181及びセンサ182の出力差が誤差の範囲を超えている場合、コントローラ5はいずれか一方のセンサが故障しているものと判別することができる。故障したセンサの特定は、上述した通り回転角センサR1により検出された回転角等を用いることができるが、詳細については説明を繰り返さない。
【0054】
ここで、引張力Pの目標値を目標引張力(例えば、10kN)と定義したとき、第2モータ30のオーバーシュートを防止するために、引張力Pが目標引張力に近づくにしたがって、第2モータ30を減速し、目標引張力に到達した時に第2モータ30を停止させる(第2ステップに相当する)ことが望ましい。この目標引張力は、ボルト70の目標軸力でもある。
【0055】
次に、引張力Pを付加した状態で、再び第1モータ10を矢印K1方向に回転させて、ボルト頭部72を被締結体Hに着座させる(第3ステップに相当する)。ここで、テンションロッド雌ネジ部15a1及びボルト軸部71に形成された雄ネジは、互いにネジピッチが同一であることが望ましい。仮に、これらのネジピッチが異なる場合、ビット13bの回転制御(つまり、第1モータ10の駆動制御)とテンションロッド15の回転制御(つまり、第2モータ30の駆動制御)とを同時に行う必要があり、制御が煩雑となる。一方、ネジピッチが互いに同一であれば、ビット13bのみを回転させるだけで、ボルトの締結作業が完了するため、煩雑な同期制御が不要となる。
【0056】
ここで、ボルト頭部72が被締結体Hに接触すると、引張力Pが低下し始め、逆にボルト70の軸力Fが増大する(
図6(g)及び
図7参照)。引張力Pの微分値であるdP/dθを常時監視しておき、dP/dθが不安定な曲線(非直線領域)から直線に変化し時にビット13の回転動作を停止させる(第4ステップに相当する)。なお、「dθ」はボルト70の回転角度に対応している。
【0057】
最後に、第2モータ30をボルト締結時とは反対方向に回転させることにより、締結検査兼用装置100を被締結体Hから退避させ、ボルト頭部72及びテンションロッド15の螺合状態を解除する(
図6(h)参照)。この時、ボルト70によって発生している軸力Fは目標引張力に近い値を示すため、精度の高い軸力Fを得ることができる。
【0058】
ここで、
図7に示すように、本実施形態では、目標軸力Fよりも高い軸力に到達した時にボルト70の締め付け動作を停止して、ボルト頭部72及びテンションロッド15の螺合状態を解除している。ボルト70が被締結体Hに着座した直後にボルト70の締め付け動作を停止して、ボルト頭部72及びテンションロッド15の螺合状態を解除すると、ボルト70や被締結体Hの弾性変形分だけ軸力が低下する。この低下分σは、dP/dθが曲線から直線に変化した時の軸力と目標軸力Fとの差分に対応している。ただし、着座後に軸力が低下することを見越して、予め引張力Pを低下分σだけ高い値に設定しておき、着座した直後にボルト70の締め付け作業を停止してもよい。この場合、ボルト頭部72及びテンションロッド15の螺合状態を解除すると、ボルト70の軸力が目標軸力Fに向かって降下する。
【0059】
次に、締結検査兼用装置100の検査時の動作について説明する。
図8(a)は、締結検査兼用装置100による軸力検出前の状態を図示している。締結検査兼用装置100をボルト70の軸力検出を行う位置にセットして、第2モータ30を作動させる。第2モータ30を作動させることにより、
図8(b)に図示するように、テンションロッド15が矢印K1方向に回転しながら、締結検査兼用装置100全体が下向きに移動して、テンションロッド雌ネジ部15a1及びボルト頭部雄ネジ部72aが互いに螺合する。なお、この際、ビット13bは、スプリング13cの弾性力に抗しながら、ビットホルダー13の内部を上向きにスライド移動する。
【0060】
テンションロッド15をさらに回転させながら下向きに螺進させると、サポータ18の下端部が被締結体Hの上面に当接することにより締結検査兼用装置100の下降動作が停止する。テンションロッド15をさらに矢印K1方向に回転させようとしても、サポータ18が被締結体Hに接触しているため、テンションロッド15を下向きに螺進させることができない。ここで、ボルト頭部72の差し込み穴72bに差し込まれたビット13bによってボルト70の回転動作は禁止されているため、ボルト70にはテンションロッド15によって引き抜き方向(つまり、上向き)の荷重が働く。
【0061】
しかしながら、サポータ18が被締結体Hに接触しているため、テンションロッド15を回転させても引き抜き方向にボルト70を移動させることができない。その結果、ナット80及びサポータ18に引張力Pが働く(
図8(c)参照)。テンションロッド15をさらに回転させると、引張力Pが締め付け軸力に向かって上昇するとともに、ボルト70の頭部が伸びる。そして、引張力Pが締め付け軸力よりも大きくなると、ボルト70全体が伸びる。
【0062】
コントローラ5は、引張力Pと回転角度(伸び量)との関係を常時監視しており、“引張力P<締め付け軸力”から“引張力P>締め付け軸力”に力関係が変化したときに、前記関係の勾配が変化するため、締め付け軸力を判定することができる。なお、回転角度は、回転角センサRS2の検出結果に基づきコントローラ5が算出する。ここで、サポータ18の上端部は、スラストベアリング17に接しているため、スラストベアリング17及び被締結体Hによってサポータ18は圧縮され、この圧縮力が引張力Pとしてセンサ181及びセンサ182により検出される。この際、センサ181及びセンサ182の出力差が誤差の範囲を超えて所定値以上に拡大した場合、コントローラ5はいずれか一方のセンサが故障しているものと判別することができる。また、上述したように、回転角に基づき、故障したセンサを特定することができる。
【0063】
(第2実施形態)
(締結検査兼用装置310の構成)
図9は、締結検査兼用装置310を示す断面図である。締結検査兼用装置310は、ボルト・ナット締結体301の締結を目標締め付け力で精度良く、かつ自動で行うとともに、締め付け後の軸力を検出する機能を有している。この点については、第1実施形態の締結検査兼用装置と同様である。
【0064】
ボルト・ナット締結体301は、被締結体313の孔に通されるボルト311と、ボルト311のネジ部に螺合するナット312とを備える。ナット312は、被締結体313をボルト311の頭部と共に締結する。ボルト311は、スタッドボルトであってもよい。スタッドボルトの一方の端部には、被締結体313に当接する雌ネジ部材が螺合し、他方の端部にはナット312が螺合すればよい。以下、締結検査兼用装置310の構成を説明した後、締結検査兼用装置310によるボルト・ナット締結体301の締結処理等について説明する。
【0065】
締結検査兼用装置310のケース304は、ボディ341と、ボディ341の下面に固定される凹状のベース342とを備える。ケース304の下面からは、ナット312を回転させるためのドライブソケット331が突出する。
【0066】
ドライブソケット331は、円筒状で軸周りに回転可能に保持されるとともに、軸方向には固定される。ドライブソケット331の下端側の開口部は、ナット312を保持可能な六角や十二角の形状になっている。ドライブソケット331は、該開口部にナット312が嵌められて第2モータ332に駆動されることにより、ナット312を回転させる。
【0067】
ドライブソケット331の上部は、ベース342内にあり、径方向に拡開する拡開部511となっている。拡開部511は、内側にベアリング512を収納する。拡開部511は、ベアリング513,514によって上下に挟まれる。これにより、ドライブソケット331が軸方向に固定される。該ベアリング513,514は、ドライブソケット331を軸周りに回転可能に保持する。上側のベアリング513は、止め輪515に抜け止めされる。拡開部511の外周には、第2モータ332から駆動力が伝達される歯車部516が設けられている。
【0068】
第2モータ332は、ボディ341の上部において、ドライブソケット331と径方向にずれた位置に取り付けられる。第2モータ332は、後述する第1モータ322の側方にある。
【0069】
減速機333は、ボディ341において第2モータ332の直下に取り付けられる。減速機333は、第2モータ332から入力される回転を減速して出力軸531から出力する。減速機333は、例えば2段の遊星歯車機構であり、上下段の内歯車がボディ341内に固定される。第2モータ332の出力は、減速機333の上段の太陽歯車、上段の一対の遊星歯車、上段の遊星キャリア、上段の遊星キャリアの出力軸上にある下段の太陽歯車、下段の一対の遊星歯車を介して下段の遊星キャリアに伝達され、下段の遊星キャリアの出力軸531から出力される。第2モータ332の出力軸、上段の遊星キャリアの出力軸、下段の遊星キャリアの出力軸531は同軸上である。
【0070】
出力軸531において、ベース342内に配置される部位にピニオンギヤ334が設けられる。ベース342内において、ピニオンギヤ334とドライブソケット331の歯車部516の間には、アイドルギヤ335が回転可能に設けられる。第2モータ332の出力は、減速機333、減速機333のピニオンギヤ334、アイドルギヤ335を経て、ドライブソケット331の歯車部516に伝達され、ドライブソケット331を回転させる。出力軸531においてピニオンギヤ334の上側および下側の部位はそれぞれ、ベアリング541,542に保持される。上側のベアリング542は止め輪543に抜け止めされる。
【0071】
ナットホルダー323は、有底の円筒状である。ナットホルダー323は、ドライブソケット331の内側に嵌められ、ドライブソケット331に軸周りに回転可能に保持される。ナットホルダー323の上部はベアリング512に保持される。ナットホルダー323の上端の拡開するフランジ431は、拡開部511に支持されるとともに、上面がスラストベアリング432を介して後述するセンサ324bに抑えられる。
【0072】
ナットホルダー323は、軸方向において、底部433がドライブソケット331の下端から離間した設定位置に設けられる。底部433の中央には、ボルト311が通る円孔434がある。ナットホルダー323は、ボルト311のネジ部に引張力をかける引張処理の際に、底部433によってナット312の上方(ボルト311のネジ部の先端側)への移動を規制する。
【0073】
テンションロッド321は、長手状で外形が円柱状である。テンションロッド321は、ナットホルダー323の内側に嵌められ軸周りに回転可能である。テンションロッド321は、第1モータ322の出力が入力される減速機325の出力軸であり、軸方向において固定される。
【0074】
テンションロッド321、ナットホルダー323、ドライブソケット331は同軸上に設けられる。テンションロッド321の下端面の中心には、ネジ穴411がある。ネジ穴411には、ボルト311のネジ部が嵌められる。テンションロッド321は、ボルト311のネジ部において、ナット312よりも先端側に嵌められる。
【0075】
第1モータ322は、ボディ341の上部に配設されるとともに、テンションロッド321と同軸上となる位置に取り付けられる。
【0076】
減速機325は、第1モータ322から入力される回転を減速してテンションロッド321から出力する。減速機325には、例えば減速機333と同様の2段の遊星歯車機構を用いることができる。第1モータ322の出力軸およびテンションロッド321は同一軸上となる。
【0077】
テンションロッド321を、ボルト311に嵌められた状態で一方向に回転させると、ボルト311に上方向の力(軸方向先端側に向かう力)がかかる。本実施形態では、この一方向をネジ込み方向と呼び、ネジ込み方向と反対方向を緩み方向と呼ぶことがある。引張処理の際には、ナットホルダー323によってナット312を抑えながらテンションロッド321をネジ込み方向に回転させる。これにより、ボルト311に上方向の力がかかり、ボルト311のネジ部に引張力をかけることができる。
【0078】
テンションロッド321の径方向外側、かつ減速機325とナットホルダー323との間には、軸方向に並ぶセンサ324a及びセンサ324bが設けられている。なお、これらのセンサ324a及びセンサ324bがボルト311のネジ部にかかる引張力を検出するために設けられている点は、言うまでもない。センサ324aは減速機325側に配置され、センサ324bはナットホルダー323側に配置されている。センサ324aは、起歪体442aと歪ゲージ443aとを備える。センサ324bは、起歪体442bと歪ゲージ443bとを備える。起歪体442a、442bの構成は、第1実施形態の起歪体181aと同様であるから、詳細な説明を省略する。歪ゲージ443a、443bの構成は、第1実施形態の歪ゲージ181bと同様であるから詳細な説明を省略する。ただし、起歪体442a(起歪体442b)の異なる位置に二つの歪ゲージを貼り付けることによって、センサを構成してもよい。この場合、センサ324b(センサ324a)は省略することができる。
【0079】
引張処理の際に、起歪体442a(起歪体442b)は、引張力と同等の上方向の力をナットホルダー323から受け、弾性変形域内で圧縮方向に歪む。歪ゲージ443a(歪ゲージ443b)は、起歪体442a(起歪体442b)の歪に応じて抵抗値を変化させ、コントローラ309への出力電圧を変化させる。コントローラ309は、歪ゲージ443の出力電圧の変化量に基づいて、ボルト311のネジ部の引張力を算出する。なお、センサ324a,324bの上下に設けられたスラストベアリング441,432は、センサに、ナットホルダー323からの上方向の力以外の不要な外乱が伝達されることを抑制する。
【0080】
コントローラ309は、第1モータ322および第2モータ332をそれぞれ独立して制御し、後述するボルト・ナット締結体301の締結処理等を行う。コントローラ309は、例えばCPU(central processing unit)がメモリ内のプログラムを読み込んで実行することにより締結処理を行う。コントローラ309は、第1モータ322および第2モータ332の回転位置、および第2モータ332の出力トルクである帰還トルクを検出する。
【0081】
第1モータ322には回転角センサRS1が設けられており、この回転角センサRS1はテンションロッド321の回転角を所定の周期で検出する。検出した回転角は、コントローラ309に送信される。第2モータ332には回転角センサRS2が設けられており、この回転角センサRS2はナット312の回転角を所定の周期で検出する。検出した回転角は、コントローラ309に送信される。
【0082】
コントローラ309は、センサ324a及びセンサ324bの出力をナットの締結時及び締結後の軸力検査時に監視しており、これらのセンサの出力差が拡大したときに、いずれか一方のセンサが故障したものと判別することができる。すなわち、センサは互いに固有の誤差があるため、それぞれのセンサ出力は正常時において異なる。この正常時のセンサ出力の差分を誤差として記憶しておき、ボルトの締結時及び軸力検査時に検出されたセンサ出力の差分が当該誤差を超えて所定値以上大きくなった時に、いずれか一方のセンサが故障したものと判別することができる。
【0083】
締結検査兼用装置310には、報知部308を実装することができる点は、第1実施形態と同様である。
【0084】
このように、互いに異なる二つのセンサ324a及びセンサ324bの出力の差分を監視することにより、センサ異常を早期に発見することができる。センサ異常の発見後に、締結検査兼用装置310の使用を停止することにより、締結不良、或いは検査不良の大量発生を未然に防止することができる。
【0085】
ここで、センサ324a及びセンサ324bのうち一方のセンサを締め付け時の軸力管理に用いるとともに、他方のセンサを軸力検査時の軸力管理に用いることができる。本実施形態では、センサ324aを締め付け時における軸力管理センサ、センサ324bを検査時における軸力管理センサとして用いるものとする。ただし、センサ324bを締め付け時の軸力管理センサ、センサ324aを検査時の軸力管理センサとして用いることもできる。
【0086】
ここで、ナットの締め付け時に上述の故障(センサ出力差の拡大)が検知された場合、回転角センサRS2が検出した回転角に基づき、故障したセンサを特定することができる。この点について、具体的に説明する。ナット312が正常に締結されるまでのナット312の回転角とセンサ出力との関係を予め関係情報(以下、正常データともいう)として調べて記憶部309aに記憶させておき、実際の締め付け時におけるセンサ出力(本実施形態では、センサ324aの出力)と回転角との関係が正常データから乖離している場合には、締め付け時の管理センサ(本実施形態では、センサ324aのことである)が故障しているものと判別し、実際の締め付け時におけるセンサ出力(本実施形態では、センサ324aの出力)と回転角との関係が正常データから乖離していない場合には、検査時の管理センサ(本実施形態では、センサ324bのことである)が故障しているものと判別することができる。
【0087】
また、回転角ではなく締め付け時間から故障したセンサを特定することもできる。すなわち、ナット312が正常に締結されるまでの時間(以下、正常締結時間ともいう)を予め調べておき、正常締結時間よりも早く締結作業を終了したり、正常締結時間を経過しても締結作業が完了しなかった場合に、締め付け時の管理センサ(本実施形態では、センサ324aのことである)が故障していると判別することができる。一方、正常締結時間に締結作業が完了している場合には、検査時の管理センサ(本実施形態では、センサ324bのことである)が故障していると判別することができる。なお、正常締結時間は、最小から最大まで幅を持った期間である。なお、正常締結時間は、記憶部309aに記憶させておくことができる。
【0088】
ここで、軸力の検査時に上述の故障(センサ出力差の拡大)が検知された場合、回転角センサRS1が検出した回転角に基づき、故障したセンサを特定することができる。この点について、具体的に説明する。ボルト311の軸力検査が終わるまでの回転角とセンサ出力との関係を予め関係情報(以下、正常データともいう)として調べて記憶部309aに記憶させておき、実際の軸力検査時におけるセンサ出力(本実施形態では、センサ324bの出力)と回転角との関係が正常データから乖離している場合には、軸力検査時の管理センサ(本実施形態では、センサ324bのことである)が故障しているものと判別し、実際の軸力検査時におけるセンサ出力(本実施形態では、センサ324bの出力)と回転角との関係が正常データから乖離していない場合には、締め付け時の管理センサ(本実施形態では、センサ324a)が故障しているものと判別することができる。なお、締め付け時と同様に検査時間に基づき故障したセンサを特定する方法を採用してもよい。
【0089】
このように、ナットの締め付け時と軸力検査時のセンサを別々に設けることにより、検査の独立性を担保することができる。すなわち、センサが一つのみの場合には、締め付け時の軸力測定と検査時の軸力測定とを同一のセンサを用いて行う必要があるため、検査の独立性を担保できない。本実施形態の構成によれば、センサを別々に設けることにより、検査の独立性を担保することができる。
【0090】
(締結処理の説明)
以下、締結検査兼用装置310によるボルト・ナット締結体301の締結処理を説明する。
【0091】
まず、
図10(a)に示すように、ドライブソケット331に嵌められたナット312がユーザ等によりボルト311の先端に被せられた状態とされる。この状態で、コントローラ309は、不図示の入力装置にてユーザから締結処理の実行指示を受け付ける。
【0092】
(仮締め処理)
コントローラ309は、最初に、ナット312の仮締め処理を行う。コントローラ309は、
図10(a)、
図10(b)に示すように、第1モータ322および第2モータ332を同時に駆動する。これにより、コントローラ309は、ドライブソケット331およびテンションロッド321をネジ込み方向に同じ回転数だけ回転させ、同期制御することができる。ナット312とテンションロッド321の雌ネジ部分のピッチは等しいので、ドライブソケット331およびテンションロッド321を同期制御することで、ドライブソケット331およびナット312を同時に同量だけ、ボルト311に螺合させることができる。
【0093】
図10(c)に示すようにナット312が着座すると、第2モータ332が受ける該第2モータ332を回転させようとする力が急激に増大し、帰還トルクが急激に増大する。コントローラ309は、第2モータ332の帰還トルクからナット312の着座を判定すると、第1モータ322および第2モータ332の駆動を停止する。
【0094】
ナット312の着座により発生するボルト311の引張方向の軸力を解除するため、コントローラ309は、
図11(d)に示すように、第2モータ332のみを駆動する。コントローラ309は、第2モータ332を逆方向に駆動し、ドライブソケット331を緩み方向に回転させる。これにより、ナット312は、上方に移動し、
図11(e)に示すように、被締結体313から離れ、ナットホルダー323の底部433に当接する。第2モータ332の駆動量は、設定量とする。
【0095】
(引張力Pの付加処理)
続いて、コントローラ309は、ボルト311のネジ部への引張力Pの付加処理(第1ステップ)を行う。コントローラ309は、
図11(f)に示すように、ナット312が被締結体313から浮いた状態で、第1モータ322のみを駆動し、テンションロッド321をネジ込み方向に回転させる。これにより、ボルト311に上向きの力が作用する。ここで、ナットホルダー323によってナット312の上方への移動が規制され、ひいてはナット312によりボルト311の上方への移動が規制される。
【0096】
図11(f)の拡大図に示すように、ボルト311は、ネジ山がナット312のネジ山に抑えられ、上方への移動が規制される。そのため、ボルト311のネジ部に作用する上向きの力は、該ボルト311のネジ部に引張力Pとして作用する。また、ボルト311のネジ山の上方への移動を規制するナット312のネジ山は、ボルト311のネジ山間において下側に位置付けられる。そのため、ナット312のネジ山の上面とボルト311のネジ山の下面との間にバックラッシュが生じる。
【0097】
コントローラ309は、引張力Pをセンサ324aで監視しながら引張力Pが目標締め付け力Fcと等しい大きさになったと判定するまで第1モータ322を駆動する。この過程(引張力Pの付加処理)で、センサ324a及びセンサ324bの出力差が大きい場合には、いずれかのセンサが故障したものと判別することができる。また、回転角センサRS2の出力等に基づき、故障したセンサを特定してもよい。この点については、説明を繰り返さない。コントローラ309は、引張力Pが目標締め付け力Fcと等しい大きさになったと判定すると第1モータ322を停止する。この際、実際は、第1モータ322のオーバーシュートにより、引張力Pは目標締め付け力Fcより大きい過大目標締め付け力Fc‘になる。例えば目標締め付け力Fcが10kNの場合、第1モータ322は、引張力Pが過大目標締め付け力Fc‘である11kNとなる時点で停止する。
【0098】
(引張力Pを付加した状態でのナット312の着座処理)
続いて、コントローラ309は、引張力Pを付加した状態でのナット312の着座処理(第2ステップ)を行う。まず、コントローラ309は、ボルト311のネジ部の引張力Pを目標締め付け力Fcとするために、
図12(g)に示すように、先に第2モータ332を駆動し、ドライブソケット331のみをネジ込み方向に回転させる。これにより、ナット312が下方に移動し、引張力Pが過大目標締め付け力Fc‘から低下する。
【0099】
コントローラ309は、引張力Pが目標締め付け力Fcまで低下すると、
図12(h)に示すように、第1モータ322も駆動し、ドライブソケット331およびテンションロッド321を同期制御する。同期制御により、テンションロッド321およびナット312は、互いの距離を保ったまま被締結体313に近づいていく。そのため、この間、引張力Pは低下しない。
【0100】
図14は、ナット312を着座した状態からドライブソケット331と共にネジ込み方向に回転させた際の引張力Pと、ボルト・ナット締結体301の締め付け力Fの関係を示す図である。なお、コントローラ309は、引張力Pのみを検出し、締め付け力Fは検出しない。
【0101】
ナット312の着座(
図12(i))により締め付け力Fが生じ、ナット312の締め付け方向への回転とともに締め付け力Fが増大する。ナット312に対して下向きに作用する引張力P(ナットホルダー31からの反力)に対し、ナット312に対して上向きに作用する締め付け力F(被締結体313からの反力)がある程度の大きさとなると、ナット312がボルト311に対して上方に移動を開始する。すなわち、
図12(j)に示すように、ナット312のネジ山が上方に移動し始める。すると、テンションロッド321およびナット312の距離が短くなるため、引張力Pが急激に上昇し始める(
図14参照)。
【0102】
コントローラ309は、該引張力Pの急激な上昇を検出し、検出される引張力から締め付け力Fが目標締め付け力Fcと同様のナット312の着座状態になったと判定すると、
図13(k)に示すように、第1モータ322および第2モータ332の駆動を停止する。この際、ナット312のネジ山は、該ネジ山を上下に挟むボルト311の各ネジ山から離れた位置に位置付けられる。また、本実施形態のように最終締付け処理を行う場合には、本判定は、締め付け力Fが目標締め付け力Fcよりも僅かに小さくなる点で行われる。コントローラ309は、引張力Pの急激な上昇を、dP/dθが一定範囲に継続して収まることで検出してもよいし、dP/dθが設定値よりも大きくなることで検出してもよい。
【0103】
以上のように、本処理では、引張力Pを目標締め付け力Fcとした後、ナット312を締め付け、締め付け力Fが目標締め付け力Fc(引張力P)と同様になった時に締め付けを終了する。これにより、本実施形態では、ボルト・ナット締結体301を目標締め付け力Fcで精度よく締結できる。
【0104】
しかし、本処理終了後の状態でテンションロッド321をボルト311から外すと、ナット312に下向きに作用する引張力P(ナットホルダー31からの反力)が無くなり、ナット312には上向きの締め付け力F(被締結体313からの反力)が作用する。ナット312のネジ山と、該ネジ山の上側にあるボルト311のネジ山との間には隙間があるため、締め付け力Fにより、該隙間分だけ、ナット312が上方に移動してしまう。そして、ナット312が上方に移動することにより、締め付け力Fが目標締め付け力Fcと同様の状態から低下してしまう。
【0105】
(最終締め付け処理)
そこで、コントローラ309は、ナット312のネジ山と、該ネジ山の上側にあるボルト311のネジ山との隙間を無くす最終締め付け処理を行う。コントローラ309は、
図13(l)に示すように、第2モータ332のみを駆動し、ドライブソケット331のみをネジ込み方向に回転させ、ナット312を締める。
【0106】
図15は、締め付け力Fが目標締め付け力Fcとなった状態からナット312のみ締めた場合の引張力Pと締め付け力Fの関係を示す図である。
【0107】
ナット312のみを締めると、締め付け力Fが増大し、これによりナット312のネジ山がボルト311のネジ山に対して上方に移動する。ナット312のネジ山が上方に移動し、ボルト311のネジ山との隙間を埋めていく間は、引張力Pおよび締め付け力Fは、ほぼ一定に推移する。詳細には、ナット312が僅かではあるが締結されるために、締め付け力Fは僅かに増大する。また、ボルト311におけるテンションロッド321とナット312との距離が僅かではあるが伸びるために引張力Pは低下する。
【0108】
ナット312のネジ山が上方に移動してボルト311のネジ山との隙間がなくなり、ボルト311のネジ山に密接すると、ナット312とボルト311のネジ山は弾性変形し始める。この弾性変形が開始する時点で締め付け力Fが目標締め付け力Fcとなる。この状態とするために、前段のナット312の着座処理におけるテンションロッド321およびナット312の駆動停止の判定ポイントが設定されている。弾性変形が始まると、ナット312とテンションロッド321との距離が伸び始めることにより、引張力Pが急激に低下する。また、締め付け力Fが急激に上昇する。コントローラ309は、該引張力Pの急激な低下を検出し、第2モータ332の駆動を停止する。本処理により、締め付け力Fを略目標締め付け力Fcに維持した状態で、ナット312のネジ山を、上側にあるボルト311のネジ山で抑えた状態にできる。
【0109】
(締結検査兼用装置310の取り外し処理)
最後に、コントローラ309は、締結検査兼用装置310の取り外し処理を行う。
図13(m)に示すように、コントローラ309は、第1モータ322のみを駆動する。コントローラ309は、第1モータ322を逆方向に駆動し、テンションロッド321を、ボルト311から外れるまで緩み方向に回転させる。これにより、ボルト311のネジ部にかかる引張力Pが解除される。
【0110】
引張力Pの解除により、ナット312には、上向きの締め付け力F(被締結体313からの反力)がかかる。しかし、ナット312のネジ山がボルト311のネジ山によって上側から抑えられた状態なので、ナット312は上方に移動することがなく、締め付け力Fは、弾性変形により増大した分が無くなり、目標締め付け力Fcに戻った状態で維持される。
【0111】
従って、以上の締結処理により、締結検査兼用装置310は、自動でボルト・ナット締結体301を目標締め付け力Fcで締結できる。その後、ユーザにより、
図13(o)に示すように、締結検査兼用装置310がボルト311から外される。
【0112】
(効果)
本発明では、ナットホルダー323でナット312を抑えながらテンションロッド321およびナット312の回転制御を行うことで、ボルト・ナット締結体301を目標締め付け力で精度よく締結できる。本発明では、センサ324にて検出される引張力Pを監視しながら、テンションロッド321およびナット312を回転させるための第1、第2モータ22,32を駆動制御することで、ボルト・ナット締結体301の締結処理を実行できる。従って、本発明は自動化が容易である。
【0113】
本発明では、第1モータ322、テンションロッド321、ナットホルダー323、およびドライブソケット331が同軸上に配置されるので、締結検査兼用装置310をコンパクトにできる。
【0114】
本発明では、コントローラ1は、ボルト・ナット締結体301の締結処理として、ボルト311のネジ部への引張力Pの付加処理(第1ステップ)を行う。該処理では、コントローラ1は、ナット312が被締結体313から浮いた状態で、引張力Pが目標締め付け力Fcと等しい大きさになったと判定するまで、テンションロッド321を、ボルト311に対する締め付け方向に回転させる。また、コントローラ1は、締結処理として、ナット312の着座処理(第2ステップ)を行う。該処理では、コントローラ1は、ボルト311のネジ部に引張力Fcをかけた状態で、検出される引張力Pから締め付け力Fが目標締め付け力Fcと同様のナット312の着座状態になったと判定するまで、テンションロッド321およびナット312を締め付け方向に回転させる。これにより、本発明では、ボルト・ナット締結体301を目標締め付け力Fcと同様の大きさの締め付け力Fで締結することを、自動で行うことができる。
【0115】
本発明では、コントローラ1は、引張力Pの付加処理(第1ステップ)において、引張力Pが目標締め付け力Fcに達すると第1モータ322の駆動を停止する。この際、第1モータ322のオーバーシュートにより、引張力Pは、目標締め付け力Fcより大きい過大目標締め付け力Fc‘となる。そこで、コントローラ1は、ナット312の着座処理(第2ステップ)では、始めに、ナット312のみを回転させ、引張力Pが目標締め付け力Fcまで低下したと判定した時にテンションロッド321も回転させ始める。これにより、本発明では、引張力Pの目標締め付け力Fcへの補正、およびナット312の着座・締結を連続して行うことができ、処理時間を短縮できる。
【0116】
(変形例)
ナットホルダー323の底部433は、ナット312を上側から抑えることができ、かつボルト311を通すことができればどのような形態でもよい。底部433は、例えばナットホルダー323の下端の開口部の縁から中心軸近辺に向かって延びる複数の突起部を備えていてもよい。
【0117】
(検査時の動作)
次に、締結検査兼用装置310の検査時の動作について説明する。まず、
図16(a)に図示するように、コントローラ309は、第1モータ322及び第2モータ332のうち第1モータ322だけを駆動して、テンションロッド321を矢印方向に回転させながら、下方に向かって螺進させる。すなわち、テンションロッド321のネジ穴411にボルト311のネジ部を螺合させながら、テンションロッド321を下方に向かって螺進させる。テンションロッド321をさらに螺進させると、ナットホルダー323がナット312の上面に着座し、帰還トルクが急激に増大する。コントローラ309は、第1モータ322の帰還トルクからナットホルダー323が着座したことを検知して、第1モータ322を停止する。
【0118】
次に、
図16(b)に図示するように、コントローラ309は、第1モータ322を更に同じ方向に駆動して、テンションロッド321に対して矢印方向に回転させる力を付与する。このとき、ナットホルダー323によってナット312が押さえつけられているため、ナットホルダー323に圧縮力が働き、ボルトの軸力を検出することができる。すなわち、
図13(k)に示すように、ボルト311及びナット312のネジ山が互いに接触しなくなる位置まで駆動したときに検出されるセンサ324bの出力に基づき、ボルトの軸力を検出することができる。この際、センサ324a及びセンサ324bの出力差が誤差の範囲を超えて所定値以上となっている場合、コントローラ309はいずれか一方のセンサが故障しているものと判別することができるが、この点については上述しているので詳細な説明を省略する。
【0119】
上述の検査によって、ボルト70の軸力を確認することができる。なお、軸力検出の理論として、例えば特許第4028254号に記載された方法を用いることができる。
【符号の説明】
【0120】
5 コントローラ
10 第1モータ
20 第2モータ
100 締結検査兼用装置