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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076295
(43)【公開日】2022-05-19
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 15/06 20060101AFI20220512BHJP
   B60C 5/00 20060101ALI20220512BHJP
【FI】
B60C15/06 N
B60C5/00 H
B60C15/06 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020186648
(22)【出願日】2020-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】名塩 博史
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131AA39
3D131BA07
3D131BC05
3D131BC25
3D131BC31
3D131HA38
3D131HA43
3D131HA44
3D131HA45
3D131HA46
(57)【要約】
【課題】カーカスプライの損傷を抑制しつつ、リム組み性を悪化させることなく、耐リムずれ性を向上させた、空気入りタイヤを提供する
【解決手段】空気入りタイヤ1は、ビード部4に埋設された環状のビードコア11と、ビードコア11のタイヤ径方向の外周面に貼り付けられて、タイヤ径方向外側に延びる、ビードフィラー12と、トレッド部2からサイドウォール部3を介して前記ビード部4まで掛け渡されて、ビード部4の周りでタイヤ径方向外側に折り返された、カーカスプライ13と、ビードコア11のタイヤ内面側に隣接して配置されており、平行に配設された複数のスチールコード21がゴムで被覆された、補強層20とを備える。補強層20のタイヤ径方向における内端部22は、ビードコア11のタイヤ径方向の内端部11bを通りタイヤ軸方向に延びる第1直線L1よりもタイヤ径方向外側に位置している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビード部に埋設された環状のビードコアと、
前記ビードコアのタイヤ径方向の外周面に貼り付けられて、タイヤ径方向外側に延びる、ビードフィラーと、
トレッド部からサイドウォール部を介して前記ビード部まで掛け渡されて、該ビード部の周りでタイヤ径方向外側に折り返された、カーカスプライと、
前記ビードコアのタイヤ内面側に隣接して配置されており、平行に配設された複数のスチールコードがゴムで被覆された、補強層と
を備え、
前記補強層のタイヤ径方向における内端部は、前記ビードコアのタイヤ径方向の内端部を通りタイヤ軸方向に延びる第1直線よりもタイヤ径方向外側に位置している、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記補強層の前記内端部は、前記ビードコアのタイヤ径方向の外端部から前記ビードコアのタイヤ径方向における高さの80%だけタイヤ径方向内側に離れた位置を通りタイヤ軸方向に延びる第2直線と、前記ビードコアのタイヤ径方向の外端部から前記ビードコアのタイヤ径方向における高さの95%だけタイヤ径方向内側に離れた位置を通りタイヤ軸方向に延びる第3直線との間のタイヤ径方向範囲に位置している、
請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記補強層は、タイヤ径方向における外端部が、前記ビードフィラーのタイヤ径方向における高さの50%の位置を通りタイヤ軸方向に延びる第4直線と、前記ビードフィラーのタイヤ径方向の外端部からタイヤ径方向外側へ20mmの位置を通りタイヤ軸方向に延びる第5直線との間に位置している、
請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記補強層は、タイヤ径方向における外端部が、前記ビードコアのタイヤ径方向における外端部を通りタイヤ軸方向に延びる第6直線と、前記ビードコアの前記外端部から、前記ビードコアのタイヤ径方向における高さの50%だけタイヤ径方向外側に離れた位置を通りタイヤ軸方向に延びる第7直線との間のタイヤ径方向範囲に位置している、
請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記空気入りタイヤは、前進時における回転方向が指定されており、
前記スチールコードは、タイヤ径方向の内側に向かって前記回転方向へ傾斜している、
請求項1~4のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記空気入りタイヤは、車両に装着されるときの向きが定められており、前記車両に装着されたときに、前記空気入りタイヤから前記車両の外側に向かう方向を車両装着時外側と称し、前記空気入りタイヤから前記車両の内側に向かう方向を車両装着時内側と称したとき、
前記補強層は、車両装着時外側にのみ設けられている、
請求項1~5のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記空気入りタイヤは、車両に装着されるときの向きが定められており、前記車両に装着されたときに、前記空気入りタイヤから前記車両の外側に向かう方向を車両装着時外側と称し、前記空気入りタイヤから前記車両の内側に向かう方向を車両装着時内側と称したとき、
前記補強層は、車両装着時外側に設けられた第1補強層と、車両装着時内側に設けられた第2補強層とを含んでおり、
前記第1補強層は、前記第2補強層よりもタイヤ径方向における剛性が高い、
請求項1~5のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ビード部のうちホイールリムのリムシート面と接するビードベース面の全面に、段差が10~300μmの凹凸が形成された空気入りタイヤが開示されている。この空気入りタイヤでは、凹凸によって、リムシート面に対するビードベース面の摩擦力を高めることによって、ビード部のホイールリムに対するタイヤ周方向へのずれ(リムずれとも称する)を防止することが企図されている。また、凹凸の段差の最大値を300μmに制限することによって、エア漏れの防止を図っている。
【0003】
また、特許文献2には、応力-伸び曲線にて低弾性域と高弾性域とを有する補強層が、カーカス本体(ビードコア及びビードフィラーのタイヤ内面側)に隣接して設けられた空気入りタイヤが開示されている。この空気入りタイヤでは、低空気圧静止時に、高弾性域の剛性によってフラットスポットの発生を抑制し、通常走行時では低弾性域の剛性によって乗心地の悪化を防止することが企図されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-268793号公報
【特許文献2】特開2006-298162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の空気入りタイヤによれば、リムシート面に対するビードシート面の摩擦力を増大させるものであり、リム組み性が悪化しやすい。また、空気入りタイヤに過大な横力が作用したときに、ビードベース面がリムシート面からタイヤ軸方向内側に外れる、いわゆるリム外れを抑制することも望まれている。なお、本明細書では、タイヤ軸方向とはタイヤ回転軸に平行な方向を意味しており、タイヤ軸方向において、空気入りタイヤの両側部からタイヤ赤道線へ向かう方向をタイヤ軸方向内側と称し、タイヤ赤道線から空気入りタイヤの両側部へ向かう方向をタイヤ軸方向外側と称する。
【0006】
また、特許文献2の空気入りタイヤによれば、補強層のタイヤ径方向の内端部が、ビードコアのタイヤ径方向の内端部まで延びているので、ビードコア周りに折り返されるカーカスプライが剛性の高い補強層の内端部において屈曲して損傷するおそれがある。
【0007】
本発明は、カーカスプライの損傷を抑制しつつ、リム組み性を悪化させることなく、耐リムずれ性を向上させた、空気入りタイヤを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
ビード部に埋設された環状のビードコアと、
前記ビードコアのタイヤ径方向の外周面に貼り付けられて、タイヤ径方向外側に延びる、ビードフィラーと、
トレッド部からサイドウォール部を介して前記ビード部まで掛け渡されて、該ビード部の周りでタイヤ径方向外側に折り返された、カーカスプライと、
前記ビードコアのタイヤ内面側に隣接して配置されており、平行に配設された複数のスチールコードがゴムで被覆された、補強層と
を備え、
前記補強層のタイヤ径方向における内端部は、前記ビードコアのタイヤ径方向の内端部を通りタイヤ軸方向に延びる第1直線よりもタイヤ径方向外側に位置している、空気入りタイヤを提供する。
【0009】
ホイールリムのうち空気入りタイヤのビード部が組み付けられるリムシート面には、タイヤ径方向外側に隆起するハンプが形成されている。空気入りタイヤがホイールリムに適正に組み付けられたとき、ビード部がハンプのタイヤ軸方向外側に位置する状態でリムシート面に嵌合される。ハンプによって、ビード部のタイヤ軸方向内側への移動が抑制されており、これによってビード部のリムシート面からの脱落(リム外れ)が抑制されている。しかしながら、タイヤ軸方向への過大な横力が作用した場合、空気入りタイヤは、ビード部のうちタイヤ軸方向内側の端部がハンプに接触し、ハンプを起点としてタイヤ軸方向の内側に倒れつつハンプをタイヤ軸方向の内側に乗り越えることがある。この結果、ビード部のリムシート面からの脱落すなわちリム外れに至る。
【0010】
本発明によれば、ビード部には、ビードコアのタイヤ内面側に隣接して補強層が配置されている。その結果、タイヤ軸方向内側への過大な横力が作用して、ビード部はハンプを起点としてタイヤ軸方向内側に倒れたときに、ビードコアとハンプとの間に補強層が位置することになる。ここで、補強層は、スチールコードを含んでいるので、剛性が高い。
【0011】
すなわち、ビード部がハンプをタイヤ軸方向内側に乗り越えるには、ビードコアをハンプの高さ分、タイヤ径方向外側に拡径させることに加えて、補強層の厚み分もタイヤ径方向外側に拡径させることを要する。その結果、補強層が設けられていない場合に比して、ビード部を、ハンプを乗り越えるようにタイヤ径方向外側への拡径に要する荷重が増大するので、ビード部がハンプを乗り越え難くなる。よって、耐リム外れ性が向上する。
【0012】
一方、空気入りタイヤはホイールリムに組み付けられるとき、ビード部のうちタイヤ軸方向外側の端部を、まずハンプをタイヤ軸方向外側に乗り越えさせることを要する。ビード部には、タイヤ軸方向外側に、補強層が設けられていないので、タイヤ軸方向外側においてビードコアをタイヤ径方向外側に拡径させるのに要する荷重は、増大することがない。よって、補強層を設けながらもリム組み時性の悪化が抑制される。
【0013】
また、補強層は、第1直線よりもタイヤ径方外側に位置しているので、カーカスプライのうち、ビードコア周りをタイヤ径方向外側に折り返される部分が、補強層のタイヤ径方向の内端部に対応して位置することがない。よって、補強層を剛性の高いスチールコードを有するように構成しつつも、補強層のタイヤ径方向の内端部によってカーカスプライが損傷することが抑制される。
【0014】
よって、カーカスプライの損傷を抑制しつつ、耐リム外れ性を向上させながらもリム組み性の悪化が抑制される。
【0015】
また、前記補強層の前記内端部は、前記ビードコアのタイヤ径方向の外端部から前記ビードコアのタイヤ径方向における高さの80%だけタイヤ径方向内側に離れた位置を通りタイヤ軸方向に延びる第2直線と、前記ビードコアのタイヤ径方向の外端部から前記ビードコアのタイヤ径方向における高さの95%だけタイヤ径方向内側に離れた位置を通りタイヤ軸方向に延びる第3直線との間のタイヤ径方向範囲に位置していてもよい。
【0016】
本構成によれば、補強層を適度に、ビードコアの内端部よりもタイヤ径方向外側に配置でき、上記発明の効果が好適に発揮される。
【0017】
補強層の内端部が、第2直線よりもタイヤ径方向外側に位置していると、上記タイヤ軸方向内側へ過大な横力が作用したときに、ビードコアとハンプとの間に位置する補強層が不足しやすい。この結果、ビードコアをタイヤ径方向に拡径させる荷重の、補強層による増大効果が不足しやすく、耐リム外れ性の向上効果が不足しやすい。
【0018】
一方、補強層の内端部が、第3直線よりもタイヤ径方向内側に位置していると、補強層の内端部がカーカスプライのうちビードコアの周りに折り返される部分に近接する。この結果、カーカスプライの折り返される部分が破損する場合がある。
【0019】
また、前記補強層は、タイヤ径方向における外端部が、前記ビードフィラーのタイヤ径方向における高さの50%の位置を通りタイヤ軸方向に延びる第4直線と、前記ビードフィラーのタイヤ径方向の外端部からタイヤ径方向外側へ20mmの位置を通りタイヤ軸方向に延びる第5直線との間に位置していてもよい。
【0020】
本構成によれば、補強層によってビード部のタイヤ軸方向における剛性を増大させることができる。これによって、上記タイヤ軸方向内側への過大な横力が作用したときに、上記、補強層によるビードコアの拡径荷重の増大が生じると共に、ビード部のタイヤ軸方向内側への倒れ変形が抑制されるので、より一層、耐リム外れ性が向上する。
【0021】
補強層の外端部が、第4直線よりもタイヤ径方向の内側に位置していると、補強層によるビード部のタイヤ軸方向における剛性の増大効果が不足しやすい。一方、補強層の外端部が、第5直線よりもタイヤ径方向の外側に位置していると、補強層によるビード部のタイヤ軸方向における剛性の増大効果が生じにくい部分が無駄に存在することになり、質量が増大する。
【0022】
また、前記補強層は、タイヤ径方向における外端部が、前記ビードコアのタイヤ径方向における外端部を通りタイヤ軸方向に延びる第6直線と、前記ビードコアの前記外端部から、前記ビードコアのタイヤ径方向における高さの50%だけタイヤ径方向外側に離れた位置を通りタイヤ軸方向に延びる第7直線との間のタイヤ径方向範囲に位置していてもよい。
【0023】
本構成によれば、補強層を、ビードコアについて上記拡径荷重を増大させるのに必要十分な大きさに構成でき、上記発明の効果が好適に発揮される。
【0024】
補強層の外端部が、第6直線よりもタイヤ径方向内側に位置していると、上記タイヤ軸方向内側へ過大な横力が作用したときに、ビードコアとハンプとの間に位置する補強層が不足しやすい。この結果、ビードコアをタイヤ径方向に拡径させる荷重の、補強層による増大効果が不足しやすく、耐リム外れ性の向上効果が不足しやすい。
【0025】
一方、補強層の外端部が、第7直線よりもタイヤ径方向外側に位置していると、上記タイヤ軸方向内側へ過大な横力が作用したときに、補強層がビードコアとハンプとの間に位置する部分を超えて存在することになり、ビードコアの拡径荷重の増大に寄与しない部分が増大する。この結果、質量が増大してしまう。
【0026】
また、前記空気入りタイヤは、回転方向が指定されており、
前記スチールコードは、タイヤ径方向の内側に向かって、前記回転方向に傾斜していてもよい。
【0027】
一般に、急制動時に、ホイールリムに対して空気入りタイヤが回転方向の前側に進むようにタイヤサイド部に捻れ変形したときに、リム外れが生じやすい。本構成によれば、スチールコードは、タイヤ径方向の内側に向かって回転方向に傾斜しているので、制動時にはタイヤサイド部の捻れ変形によってスチールコードはタイヤ径方向に対する傾斜が減少するように変形する。したがって、制動時にスチールコードはタイヤ径方向に沿って延びやすい結果、補強層のタイヤ径方向における剛性が増大するので、耐リム外れ性が向上する。
【0028】
また、前記空気入りタイヤは、車両に装着されるときの向きが定められており、前記車両に装着されたときに、前記空気入りタイヤから前記車両の外側に向かう方向を車両装着時外側と称し、前記空気入りタイヤから前記車両の内側に向かう方向を車両装着時内側と称したとき、
前記補強層は、車両装着時外側にのみ設けられていてもよい。
【0029】
一般に、旋回しつつ急制動をかけるようなときに、空気入りタイヤは、車両装着時外側においてリム外れが生じやすい。本構成によれば、補強層は、車両装着時外側にのみ設けられているので、耐リム外れを効果的に抑制しつつ、車両装着時内側にも補強層が設けられている場合に比して、質量の増大を抑制できる。
【0030】
また、前記空気入りタイヤは、車両に装着されるときの向きが定められており、前記車両に装着されたときに、前記空気入りタイヤから前記車両の外側に向かう方向を車両装着時外側と称し、前記空気入りタイヤから前記車両の内側に向かう方向を車両装着時内側と称したとき、
前記補強層は、車両装着時外側に設けられた第1補強層と、車両装着時内側に設けられた第2補強層とを含んでおり、
前記第1補強層は、前記第2補強層よりもタイヤ径方向における剛性が高くてもよい。
【0031】
本構成によれば、補強層は、車両装着時外側に位置する部分が、車両装着時内側に位置する部分に比して、タイヤ径方向における剛性が高いので、耐リム外れ性を効果的に抑制しつつ、質量の増大を抑制できる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、カーカスプライの損傷を抑制しつつ、リム組み性を悪化させることなく、耐リムずれ性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤの子午線断面図。
図2図1のビード部の周辺を拡大して示す図。
図3】空気入りタイヤの平面図。
図4】旋回時における空気入りタイヤの挙動を模式的に示す子午線断面図。
図5】リム組み時における空気入りタイヤの挙動を模式的に示す子午線断面図。
図6】制動時におけるスチールコードの挙動を模式的に示す側面図。
図7】変形例に係る空気入りタイヤを示す図2と同様の断面図。
図8】他の変形例に係る空気入りタイヤの子午線断面図。
図9】さらなる変形例に係る空気入りタイヤの子午線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係る実施形態を添付図面に従って説明する。なお、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、あるいは、その用途を制限することを意図するものではない。また図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは相違している。
【0035】
図1は、本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤ1の子午線断面図である。空気入りタイヤ1は、トレッド部2と、トレッド部2のタイヤ軸方向の両側部からタイヤ径方向内側に延びる一対のサイドウォール部3と、一対のサイドウォール部3のそれぞれのタイヤ径方向の内側端部に位置する一対のビード部4とを備えている。
【0036】
図2は、図1のビード部4の周辺を拡大して示している。図2には、ホイールリム50が併せて示されている。ビード部4には環状のビード10が埋設されている。一対のビード10(図2において一方側のみ示されている)にわたってタイヤ軸方向にカーカスプライ13が掛け渡されている。カーカスプライ13は、一対のビード10の間にわたって掛け渡されたカーカスプライ本体部13aと、ビード10の周りをタイヤ径方向の外側へ巻き上げられた一対のカーカスプライ巻き上げ部13bとを含んでいる。
【0037】
カーカスプライ13の外表面側およびタイヤ径方向内側には、ビード10の周囲にリムストリップゴム15もしくはチェーファ部材(不図示)が配置されている。また、カーカスプライ13の内表面側にはインナーライナ16が配置されている。ビード10は、鋼線等の収束体をゴム被覆してなる環状のビードコア11と、ビードコア11の外周面に貼り付けられてタイヤ径方向外側に延びており断面略三角形状をなす硬質ゴム製のビードフィラー12とを含んでいる。
【0038】
ホイールリム50は、タイヤ軸方向に延びるリムシート面51と、リムシート面51からタイヤ径方向外側に隆起するハンプ52とを有している。空気入りタイヤ1は、ビード部4においてリムシート面51に嵌合されてホイールリム50に組み付けられる。空気入りタイヤ1がホイールリム50に適正に組み付けられた状態で、ビード部4はハンプ52のタイヤ軸方向外側に位置している。ハンプ52によって、ビード部4のタイヤ軸方向内側への移動が抑制されており、これによってビード部4のリムシート面51からの脱落(リム外れ)が抑制されている。
【0039】
子午線断面に係る各図においてハッチングを付して示すように、一対のビード部4にはそれぞれ、補強層20がさらに配置されている。補強層20は、ビード10のタイヤ内面側に隣接して配置されている。具体的には、タイヤ軸方向において、ビード10と一対のカーカスプライ本体部13aとの間それぞれに補強層20が配置されている。本実施形態では、補強層20は、タイヤ軸方向に一対に配置されており、それぞれ同じ仕様に構成されており、ビードコア11のタイヤ軸方向内側の内側面11aからビードフィラー12のタイヤ軸方向内側の内側面12aにわたってタイヤ径方向外側へ延びている。
【0040】
図3は、空気入りタイヤをタイヤ軸線方向から見た平面図であり、補強層20が破線で示されている。図3に示されるように、補強層20は、複数本のスチールコード21がゴム被覆して構成されている。スチールコード21は、鋼線であって、JIS G 3510-1992の6.4に準拠して測定される切断荷重が、400Nより大きく、1000Nより小さい。
【0041】
スチールコード21は、タイヤ径方向に対して傾斜して延びている。スチールコード21のタイヤ径方向に対する傾斜角度Aは、15°以上35°以下である。また、スチールコード21のエンド数(スチールコード21が延びる方向に直交する方向に見て、1インチ当たりの打ち込み数)は、15本以上30本以下である。なお、本実施形態では、空気入りタイヤ1は前進時のタイヤ回転方向が矢印R(図2において時計周り)で示す方向に指定されている。スチールコード21は、タイヤ径方向内側に向かってタイヤ回転方向Rへ傾斜している。
【0042】
図2を参照して、補強層20のタイヤ径方向における位置について説明する。補強層20は、タイヤ径方向の内側端部に位置する内端部22から、タイヤ径方向の外側端部に位置する外端部23まで、タイヤ径方向に延びている。
【0043】
内端部22は、ビードコア11のタイヤ径方向内側の内端部11bを通りタイヤ軸方向に延びる第1直線L1よりもタイヤ径方向外側に位置している。具体的には、内端部22は、ビードコア11のタイヤ径方向の外端部11cからビードコア11のタイヤ径方向における高さH1の80%の長さZ2だけタイヤ径方向内側に離れた位置を通りタイヤ軸方向に延びる第2直線L2と、ビードコア11の外端部11cから高さH1の95%の長さZ3だけタイヤ径方向内側に離れた位置を通りタイヤ軸方向に延びる第3直線L3との間のタイヤ径方向範囲R1に位置している。
【0044】
外端部23は、ビードフィラー12のタイヤ径方向外側の外端部12bから、ビードフィラー12のタイヤ径方向における高さH2の50%の長さZ4だけタイヤ径方向内側に離れた位置を通りタイヤ軸方向に延びる第4直線L4と、ビードフィラー12の外端部12bからタイヤ径方向外側へ20mmの長さZ5だけタイヤ径方向外側に離れた位置を通りタイヤ軸方向に延びる第5直線L5との間のタイヤ径方向範囲R2に位置している。
【0045】
上述した第1~第5直線L1~L5および高さH1,H2等(後述する第6直線L6および第7直線L7も含む)は、空気入りタイヤをタイヤ周方向の所定範囲(例えばタイヤ周方向に20mmの範囲)においてタイヤ径方向にカットしたサンプルを、一対のビード部4間を標準リム幅にセットした状態で定義される。
【0046】
上記説明した空気入りタイヤ1によれば、次の効果を奏する。
【0047】
(1)図4に示されるように、ホイールリム50に組み付けられた空気入りタイヤ1が車両に装着された状態で、例えば急旋回等でトレッド部2にタイヤ軸方向(図3において右側)に向かう過大な力が作用した場合、空気入りタイヤ1は、ビード部4がハンプ52に対してタイヤ軸方向外側から接触する。
【0048】
ここで、ビード部4には、ビードコア11のタイヤ内面側に隣接して補強層20が配置されている。その結果、タイヤ軸方向内側への過大な横力が作用して、ビード部4はハンプ52を起点としてタイヤ軸方向内側に倒れたときに、ビードコア11とハンプ52との間に補強層20が位置することになる。ここで、補強層20は、スチールコード21を含んでいるので、剛性が高い。
【0049】
すなわち、ビード部4がハンプ52をタイヤ軸方向内側に乗り越えるには、ビードコア11をハンプ52の高さ分、タイヤ径方向外側に拡径させることに加えて、補強層20の厚み分もタイヤ径方向外側に拡径させることを要する。その結果、補強層20が設けられていない場合に比して、ビード部4を、ハンプ52を乗り越えるようにタイヤ径方向外側への拡径に要する荷重が増大するので、ビード部4がハンプ52を乗り越え難くなる。よって、耐リム外れ性が向上する。
【0050】
一方、図5に示されるように、空気入りタイヤ1はホイールリム50に組み付けられるとき、ビード部4のうちタイヤ軸方向外側の端部を、まずハンプ52をタイヤ軸方向外側に乗り越えさせることを要する。ビード部4には、タイヤ軸方向外側に、補強層20が設けられていないので、タイヤ軸方向外側においてビードコア11をタイヤ径方向外側に拡径させるのに要する荷重は、増大することがない。よって、補強層20を設けながらもリム組み時性の悪化が抑制される。
【0051】
また、図2に示されるように、補強層20は、第1直線L1よりもタイヤ径方外側に位置しているので、カーカスプライ13のうち、ビードコア11周りをタイヤ径方向外側に巻き上げられる、カーカスプライ巻き上げ部13bが、補強層20のタイヤ径方向の内端部に対応して位置することがない。よって、補強層20を剛性の高いスチールコード21を有するように構成しつつも、補強層20のタイヤ径方向の内端部によってカーカスプライ13が損傷することが抑制される。
【0052】
よって、カーカスプライ13の損傷を抑制しつつ、耐リム外れ性を向上させながらもリム組み性の悪化が抑制される。
【0053】
(2)補強層20の内端部22は、第2直線L2と第3直線L3との間のタイヤ径方向範囲R1に位置しているので、補強層20を適度に、ビードコア11の内端部11bよりもタイヤ径方向外側に配置でき、上記(1)に記載の効果が好適に発揮される。
【0054】
補強層20の内端部22が、第2直線L2よりもタイヤ径方向外側に位置していると、上記タイヤ軸方向内側へ過大な横力が作用したときに、ビードコア11とハンプ52との間に位置する補強層20が不足しやすい。この結果、ビードコア11をタイヤ径方向に拡径させる荷重の、補強層20による増大効果が不足しやすく、耐リム外れ性の向上効果が不足しやすい。
【0055】
一方、補強層20の内端部22が、第3直線L3よりもタイヤ径方向内側に位置していると、補強層20の内端部22がカーカスプライ巻き上げ部13bに近接する。この結果、カーカスプライ巻き上げ部13bが破損する場合がある。
【0056】
(3)補強層20の外端部23は、第4直線L4と第5直線L5との間のタイヤ径方向範囲R2に位置しているので、補強層20によってビード部4のタイヤ軸方向における剛性を増大させることができる。これによって、上記タイヤ軸方向内側への過大な横力が作用したときに、上記、補強層20によるビードコア11の拡径荷重の増大が生じると共に、ビード部4のタイヤ軸方向内側への倒れ変形が抑制されるので、より一層、耐リム外れ性が向上する。
【0057】
補強層20の外端部23が、第4直線L4よりもタイヤ径方向の内側に位置していると、補強層20によるビード部4のタイヤ軸方向における剛性の増大効果が不足しやすい。一方、補強層20の外端部23が、第5直線L5よりもタイヤ径方向の外側に位置していると、補強層20によるビード部4のタイヤ軸方向における剛性の増大効果が生じにくい部分が無駄に存在することになり、質量が増大する。
【0058】
(4)図6に示されるように、一般に、急制動時に、ホイールリム50(図6において省略されている)にタイヤ回転方向Rとは反対方向の力Fが作用する結果、空気入りタイヤ1のうちサイドウォール部3が、ホイールリム50に対してタイヤ回転方向Rの前側に進むように捻れたときにリム外れが生じやすい。上記実施形態では、スチールコード21は、タイヤ径方向の内側に向かって回転方向に傾斜しているので、制動時にはサイドウォール3部の捻れ変形によってスチールコード21は傾斜角度Aが減少するように変形する。
【0059】
したがって、上記急制動時にスチールコード21はタイヤ径方向に沿って延びるように変形し、その結果、補強層20のタイヤ径方向における剛性が増大するので、耐リム外れ性が向上する。
【0060】
なお、本発明は、前記実施形態に記載された構成に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【0061】
上記実施形態では、前進時のタイヤ回転方向が指定された場合を例にとって説明したが、タイヤ回転方向が指定されていない空気入りタイヤにも適用してもよい。その場合、タイヤの片流れ性を考慮して、補強層20についてスチールコード21のタイヤ径方向に対する傾斜方向を決定してもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、補強層20の外端部23がタイヤ径方向範囲R2に位置する場合を例にとって説明したが、これに限らない。図7に示されるように、補強層30の外端部33が、ビードコア11の外端部11cを通りタイヤ軸方向に延びる第6直線L6と、ビードコア11の外端部11cからビードコア11の高さH1の50%の長さZ7だけタイヤ径方向外側に離れた位置を通りタイヤ軸方向に延びる第7直線L7との間のタイヤ径方向範囲R3内に位置するように構成してもよい。
【0063】
この場合、補強層30を、ビードコア11について上記拡径荷重を増大させるのに必要十分な大きさに構成できる。
【0064】
補強層30の外端部33が、第6直線L6よりもタイヤ径方向内側に位置していると、上記タイヤ軸方向内側へ過大な横力が作用したときに、ビードコア11とハンプ52との間に位置する補強層30が不足しやすい。この結果、ビードコア11をタイヤ径方向に拡径させる荷重の、補強層30による増大効果が不足しやすく、耐リム外れ性の向上効果が不足しやすい。
【0065】
一方、補強層30の外端部33が、第7直線L7よりもタイヤ径方向外側に位置していると、上記タイヤ軸方向内側へ過大な横力が作用したときに、補強層20がビードコア11とハンプ52との間に位置する部分を大きく超えて存在することになり、ビードコア11の拡径荷重の増大に寄与しない部分が増大する。この結果、質量が増大してしまう。
【0066】
また、上記実施形態では、補強層20を、一対のビード部4のそれぞれにおいて同様に構成した場合を例にとって説明したがこれに限らない。例えば、図8に示されるように、車両に装着されるときの向きが定められた空気入りタイヤ40において、車両に装着されたときに、空気入りタイヤ40から車両の外側に向かう方向を車両装着時外側と称し、空気入りタイヤから車両の内側に向かう方向を車両装着時内側と称したとき、補強層41をタイヤ軸方向において車両装着時外側にのみ設けるように構成してもよい。
【0067】
一般に、旋回しつつ急制動をかけるようなときに、空気入りタイヤは、車両装着時外側においてリム外れが生じやすい。変形例に係る空気入りタイヤ40では、補強層41は、車両装着時外側にのみ設けられているので、耐リム外れを効果的に抑制しつつ、車両装着時内側にも補強層が設けられている場合に比して、質量の増大を抑制できる。
【0068】
また、図9に示されるように、車両に装着されるときの向きが定められた空気入りタイヤ60において、車両に装着されたときに、空気入りタイヤ60から車両の外側に向かう方向を車両装着時外側と称し、空気入りタイヤから車両の内側に向かう方向を車両装着時内側と称したとき、補強層を、車両装着時外側に設けられた第1補強層61と、車両装着時内側に設けられた第2補強層62とにより構成し、第1補強層61を、第2補強層62よりもタイヤ径方向における剛性が高くなるように構成してもよい。
【0069】
第1補強層61のタイヤ径方向における剛性を、第2補強層62よりも高くするには、例えば、図9に示されるように、第1補強層61のタイヤ径方向における高さを、第2補強層62よりも高くしてもよい。また、第1補強層61のエンド数を、第2補強層62のエンド数よりも増大させてもよい。さらにまた、第1補強層61に含まれるスチールコード(不図示)の線径を、第2補強層62に含まれるスチールコード(不図示)の線径よりも大きくしてもよい。さらにまた、第1補強層61に含まれるスチールコード(不図示)の傾斜角度Aを、第2補強層62に含まれるスチールコード(不図示)の傾斜角度Aよりも小さくしてもよい。
【0070】
さらなる変形例に係る空気入りタイヤ60では、車両装着時外側に位置する第1補強層61が、車両装着時内側に位置する第2補強層62に比して、タイヤ径方向における剛性が高いので、耐リム外れ性を効果的に抑制しつつ、質量の増大を抑制できる。
【符号の説明】
【0071】
1 空気入りタイヤ
4 ビード部
10 ビード
11 ビードコア
12 ビードフィラー
13 カーカスプライ
20 補強層
21 スチールコード
22 内端部
23 外端部
50 ホイールリム
51 リムシート面
52 ハンプ
L1~L7 第1~第7直線
R1~R3 第1~第3タイヤ径方向範囲
H1 ビードコアのタイヤ径方向における高さ
H2 ビードフィラーのタイヤ径方向における高さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9