(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076304
(43)【公開日】2022-05-19
(54)【発明の名称】スチレン系樹脂組成物及びシート
(51)【国際特許分類】
C08L 25/06 20060101AFI20220512BHJP
C08K 5/01 20060101ALI20220512BHJP
C08L 3/02 20060101ALI20220512BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20220512BHJP
C08L 101/12 20060101ALI20220512BHJP
【FI】
C08L25/06
C08K5/01 ZAB
C08L3/02
C08L53/02
C08L101/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020186663
(22)【出願日】2020-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】500199479
【氏名又は名称】PSジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【弁理士】
【氏名又は名称】貴志 浩充
(72)【発明者】
【氏名】上宮田 源
(72)【発明者】
【氏名】東 直樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 剛弘
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AB04Y
4J002BC04W
4J002BC07W
4J002BG04W
4J002BP01X
4J002BP01Z
4J002EA036
4J002FD206
4J002GG01
(57)【要約】
【課題】本発明は、植物由来の環境維持可能な材料を含むスチレン系樹脂組成物であって、優れた耐衝撃性と、高い靭性とを有するスチレン系樹脂組成物及びそれを用いたシートを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、(A)スチレン系樹脂、(B)澱粉系ポリマー、(C)スチレン系エラストマー並びに(D)スチレン二量体及びスチレン三量体を含有するスチレン系樹脂組成物であって、
前記(A)スチレン系樹脂と、前記(B)澱粉系ポリマーと、前記(C)スチレン系エラストマーとの合計100質量部に対して、
前記(A)スチレン系樹脂を5~95質量部と、
前記(B)澱粉系ポリマーを5~50質量部と、
前記(C)スチレン系エラストマーを5~95質量部と、
前記(D)スチレン二量体及びスチレン三量体の合計を0.05~0.7質量部と、を含有する、スチレン系樹脂組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)スチレン系樹脂、(B)澱粉系ポリマー、(C)スチレン系エラストマー並びに(D)スチレン二量体及びスチレン三量体を含有するスチレン系樹脂組成物であって、
前記(A)スチレン系樹脂と、前記(B)澱粉系ポリマーと、前記(C)スチレン系エラストマーとの合計100質量部に対して、
前記(A)スチレン系樹脂を5~95質量部と、
前記(B)澱粉系ポリマーを5~50質量部と、
前記(C)スチレン系エラストマーを5~95質量部と、
前記(D)スチレン二量体及びスチレン三量体の合計を0.05~0.7質量部と、を含有する、スチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記(C)スチレン系エラストマーが、少なくとも一種のビニル芳香族化合物重合体ブロックと、少なくとも一種の共役ジエン重合体ブロックとを有し、かつ前記ビニル芳香族化合物単量体単位51~95重量%と前記共役ジエン化合物単量体49~5重量%とからなる共重合体である、請求項1に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)スチレン系樹脂が、スチレン単独重合体及びスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~2のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項4】
前記(A)スチレン系樹脂と前記(B)澱粉系ポリマーと前記(C)スチレン系エラストマーとの合計100質量部に対して、(E)相容化剤を1~20質量部さらに含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項5】
前記(E)相容化剤が、極性の官能基を有するエラストマー(e1)である、請求項1~4のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項6】
前記(E)相容化剤が、マレイン化スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体又はエポキシ化スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体である、請求項1~5のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項7】
スチレン単量体の含有量が、200μg/g以下である、請求項1~6のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の樹脂組成物を押出成形して得られたシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系樹脂組成物及びそれを用いたシートに関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂は成形が容易であること、軽量であること等を生かして発泡体、シート、筐体等数多くの産業分野に使用されている。一方、近年、持続可能な社会を実現する観点から再生可能資源を利用が求められており、石油を原料としない非石油系樹脂が注目されている。非石油系樹脂の一種として澱粉組成物がある。澱粉組成物を構成する澱粉は、トウモロコシ、ジャガイモ、タピオカ、米又は麦などの農作物から採取することができ、かつ澱粉中の炭素原子は、大気中の炭酸ガスを光合成して固定化されたものであるために、たとえ焼却廃棄しても炭酸ガス総量を増加させることのない、いわゆる「カーボンニュートラル」な材料と言える。すなわち、石油から採取される原料と異なり枯渇するおそれがないため、永続的な使用可能性が期待されている。
【0003】
このような植物由来の環境維持可能な材料を石油系樹脂に配合して使用することにより、石油系樹脂の使用量を削減する技術について、種々の検討が行われている(特許文献1、特許文献2参照)。石油系樹脂の代表格であるスチレン系樹脂の使用量が多いだけに、上記材料をスチレン系樹脂に配合して使用することができれば、石油系樹脂の削減量も多大であると考えられる。そのため、スチレン系樹脂の使用量を削減することは、石油使用量及び炭酸ガス総量を減らし、かつ環境負荷の低減につながる技術として注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-48067号公報
【特許文献2】特開2018-48248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、石油系樹脂及び植物由来の環境維持可能な材料を混合した混合組成物を使用する場合において、当該混合組成物から得られた成形品の耐衝撃性又はヒンジ特性等の機械的強度が、石油系樹脂と比べ著しく低下するため、改善の余地があった。また、スチレン系樹脂中の残留スチレン単量体の量、又はスチレンの二量体若しくは三量体の量が多いと、樹脂の射出成形時、非発泡又は発泡シートの押出時、或いはこれらのシートの加工時に臭気が発生する場合がある。特に食品容器においては、これらの臭気が容器内容物へ移行する場合があることから、樹脂中のスチレンの単量体又はスチレンの二量体若しくは三量体の低減が求められている。
しかし、スチレンの二量体及び三量体は組成物全体の流動性を向上させることにより成形温度が低減できるため、成形時のスチレン系樹脂の熱劣化を抑制できることから、スチレンの二量体及び三量体は一定量必要になる。
そこで本発明は、植物由来の環境維持可能な材料を含むスチレン系樹脂組成物であって、優れた耐衝撃性と、高い靭性とを有するスチレン樹脂組成物及びそれを用いたシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究し、実験を重ねた結果、特定組成のスチレン系樹脂と、澱粉系ポリマーと特定組成のスチレン系エラストマーとを特定の含有量で配合することにより、で配合することにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0007】
[1](A)スチレン系樹脂、(B)澱粉系ポリマー、(C)スチレン系エラストマー並びに(D)スチレン二量体及びスチレン三量体を含有するスチレン系樹脂組成物であって、
前記(A)スチレン系樹脂と、前記(B)澱粉系ポリマーと、前記(C)スチレン系エラストマーとの合計100質量部に対して、
前記(A)スチレン系樹脂を5~95質量部と、
前記(B)澱粉系ポリマーを5~50質量部と、
前記(C)スチレン系エラストマーを5~95質量部と、
前記(D)スチレン二量体及びスチレン三量体の合計を0.05~0.7質量部と、を含有する、スチレン系樹脂組成物。
【0008】
[2]前記(C)スチレン系エラストマーが、少なくとも一種のビニル芳香族化合物重合体ブロックと、少なくとも一種の共役ジエン重合体ブロックとを有し、かつ、前記ビニル芳香族化合物単量体単位51~95重量%と前記共役ジエン化合物単量体49~5重量%とからなる共重合体である、上記[1]に記載のスチレン系樹脂組成物。
【0009】
[3]前記(A)スチレン系樹脂が、スチレン単独重合体及びスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[1]~[2]のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【0010】
[4]前記(A)スチレン系樹脂と前記(B)澱粉系ポリマーと前記(C)スチレン系エラストマーとの合計100質量部に対して、(E)相容化剤を1~20質量部さらに含有する、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【0011】
[5]前記(E)相容化剤が、極性の官能基を有するエラストマー(e1)である、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【0012】
[6]前記(E)相容化剤が、マレイン化スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体又はエポキシ化スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体である、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【0013】
[7]スチレン単量体の含有量が、200μg/g以下である、上記[1]~[6]のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【0014】
[8]上記[1]~[7]のいずれか一項に記載の樹脂組成物を押出成形して得られたシート。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、植物由来の環境維持可能な材料を含むスチレン系樹脂組成物であって、優れた耐衝撃性と、高い靭性とを有するスチレン系樹脂組成物及びそれを用いたシートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」と言う。)について詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
<スチレン系樹脂組成物>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、(A)スチレン系樹脂、(B)澱粉系ポリマー、(C)スチレン系エラストマー並びに(D)スチレン二量体及びスチレン三量体を含有する。そして、前記(A)スチレン系樹脂と、前記(B)澱粉系ポリマーと、前記(C)スチレン系エラストマーとの合計100質量部に対して、前記(A)スチレン系樹脂を5~95質量部と、前記(B)澱粉系ポリマーを5~50質量部と、前記(C)スチレン系エラストマーを5~95質量部と、前記(D)スチレン二量体及びスチレン三量体の合計を0.05~0.7質量部と、を含有する。
以下、スチレン系樹脂組成物に含まれる各成分について説明する。
【0017】
<<(A)スチレン系樹脂:(A)成分>>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物において、(A)スチレン系樹脂と、(B)澱粉系ポリマーと、(C)スチレン系エラストマーとの合計を100質量部としたときに、(A)スチレン系樹脂の含有量は5~95質量部である。環境負荷を低減する場合は、スチレン系樹脂の含有量は、好ましくは5~50質量部、より好ましくは5~30質量部、更に好ましくは5~20質量部である。耐衝撃性を重視する場合は、スチレン系樹脂の含有量は、好ましくは50質量部超~90質量部、より好ましくは55~84質量部、更に好ましくは60~79質量部である。
【0018】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、(A)スチレン系樹脂を必須に含有する。本実施形態で用いることができる(A)スチレン系樹脂は、スチレン系単量体(a1)と、必要に応じて当該スチレン系単量体(a1)と共重合可能な別のビニル系単量体とを重合して得られる樹脂であることが好ましい。換言すると、(A)スチレン系樹脂は、スチレン系単量体単位(a1)を有する重合体であることが好ましく、スチレン系単量体単位(a1)を必須に含み、当該スチレン系単量体単位(a1)に対して共重合可能な別のビニル系単量体を任意成分として有する重合体であることがより好ましい。当該スチレン系樹脂を構成するスチレン系単量体(a1)としては、スチレンの他に、α-メチルスチレン、パラメチルスチレン、t-ブチルスチレン、クロルスチレン等のスチレン系誘導体が挙げられる。中でも特に、スチレンが好ましい。これらのスチレン系単量体(a1)は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、本発明の効果を損なわない範囲で有れば、上記のスチレン系単量体(a1)と共重合可能な別の単量体を含有する共重合体であってもよく、スチレン系単量体(a1)を10質量%以上含む共重合体であることが好ましい。
【0019】
上記スチレン系単量体(a1)と共重合可能な別の単量体としては、水酸基、アミノ基、カルボニル基、アミド基及びカルボキシ基などの極性官能基を有する単量体が好ましく、具体的には、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、セチルメタクリレート等のアクリル酸及びメタクリル酸のエステル、或いはアクリロニトリル、ジメチルフマレート、エチルフマレート等の各種単量体が挙げられ、これらの単量体を1種単独でもしくは2種以上を混合して用いることができる。また、ジビニルベンゼン、アルキレングリコールジメタクリレート等の2官能性単量体を併用してもよい。
さらに、上記スチレン系樹脂としては、スチレン単独重合体であるポリスチレンと1,3-ブタジエンとを含有するハイインパクトポリスチレン(HIPS)等のゴム質を含有するものであってもよい。
【0020】
本実施形態のスチレン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は,好ましくは10万~50万、より好ましくは15万~45万、更に好ましくは20万~40万である。重量平均分子量が10万未満では得られる樹脂組成物が脆くなり易い。また、重量平均分子量が50万を越えると、樹脂組成物の流動性低下による加工性低下が大となる傾向にある。
なお本開示において、スチレン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、後述の実施例の欄に記載の条件を用いてゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0021】
本実施形態のスチレン系樹脂の重合方法としては、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法等の公知のスチレン重合方法が挙げられ、中でも、溶液重合或いは塊状重合がコストの点で好ましい。
上記重合において使用する反応器の形状は、特に制限はないが、完全混合型反応器、層流型反応器、及び循環型反応器を適宜組み合わせて使用することができる。
【0022】
重合溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン及びキシレン等のアルキルベンゼン類、アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン類、並びにヘキサン及びシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素等が使用できる。
本実施形態のスチレン系樹脂を得るために重合原料を重合させる際には、重合原料中に、典型的には重合開始剤を含有させることが好ましい。
【0023】
重合開始剤としては、有機過酸化物、例えば、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレレート等のペルオキシケタール類、ジ-t-ブチルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド等のジアルキルペルオキシド類、アセチルペルオキシド、イソブチリルペルオキシド等のジアシルペルオキシド類、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート類、t-ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル類、アセチルアセトンペルオキシド等のケトンペルオキシド類、t-ブチルヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類等を挙げることができる。分解速度と重合速度との観点から、中でも、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサンが好ましい。
重合開始剤は、スチレン系単量体(a1)に対して0.005~0.1質量%使用することが好ましい。
【0024】
本実施形態において、(A)スチレン系樹脂を連続重合により製造する場合、重合工程終了後に未反応モノマーと重合溶媒とを除去するために、脱揮工程が設けられるが、一般的には予熱器付きの真空脱揮槽や脱揮押出機等が用いられる。例えば、予熱器付きの真空脱揮槽を1段のみ使用したもの、予熱器付きの真空脱揮槽を直列に2段接続したもの、又は予熱器付きの真空脱揮槽と脱揮押出機を直列に接続したものが挙げられるが、揮発分を極力低減するためには、予熱器付きの真空脱揮槽を直列に2段接続したもの又は予熱器付きの真空脱揮槽と脱揮押出機を直列に接続したものが好ましい。予熱器付きの真空脱揮槽を直列に2段接続する場合、1段目の真空脱揮槽での樹脂温度は180~250℃に調整し、1段目出口の未反応モノマーと重合溶剤の合計量が3~7質量%となるよう圧力を調整し(おおよそ5~10kPa)、2段目の真空脱揮槽では樹脂温度を200~250℃、圧力2kPa未満で脱揮することが好ましい。また、1段目の真空脱揮槽で揮発分を低減した後、ポリマー流量に対して0.2~1.0質量%の水を添加し、ミキサーにて混合した後、2段目真空脱揮槽にて圧力2kPa未満で脱揮する方法も適用できる。
【0025】
<<(B)澱粉系ポリマー:(B)成分>>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物において、(A)スチレン系樹脂と、(B)澱粉系ポリマーと、(C)スチレン系エラストマーとの合計を100質量部としたときに、(B)澱粉系ポリマーの含有量は5~50質量部であり、好ましくは8~43質量部、より好ましくは13~37質量部、更に好ましくは18~33質量部である。
(B)澱粉系ポリマーの含有量が5質量部より少ないと環境負荷を低減する効果が十分に得られず、50質量部より多いと熱安定性を向上させる効果が十分に得られない。
上記澱粉系ポリマーの反応性水酸基は、アシル基又はエーテル基に置換されていてもよい。
【0026】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、(B)澱粉系ポリマーを必須に含有する。スチレン系樹脂組成物中の澱粉系ポリマーとしては、従来からの公知の澱粉を使用することができる。当該澱粉は、例えば、未加工澱粉及び加工澱粉のいずれであっても良い。未加工澱粉としては、例えば馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉等の地下澱粉及び小麦澱粉、コーンスターチ、サゴ澱粉、米澱粉等の地上澱粉、ワキシースターチ、ハイアミローススターチ等の特殊澱粉を挙げることが出来る。加工澱粉としては、白色デキストリン、黄色デキストリン、ブリテイシュガムなどの焙焼デキストリン、酸化澱粉、低粘度変性澱粉等の分解産物とアルファー澱粉を挙げることが出来る。さらに、澱粉誘導体としては酢酸エステル、若しくはリン酸エステル等の澱粉エステル;あるいは、カルボキシエチルエーテル、ヒドロキシエチルエーテル、ヒドロキシプロピルエーテル、若しくは陽性澱粉等の澱粉エーテル;を挙げることができる。
本実施形態において使用する澱粉系ポリマーには2つの形、すなわち、α-アミロース及びアミロペクチンがある。アミロースとアミロペクチンのモル比は、約0.1:1から約10:1の範囲であることが好ましく、約0.5:1から約5:1の範囲であることがより好ましく、又は約1:2から約2:1の範囲にあることがさらに好ましい。本実施形態において、澱粉系ポリマーの重量に対して、少なくとも50%、65%、70%、75%、80%、又は85%のアミロースに由来する繰返し単位を含むものであることが好ましい。
本実施形態において、アミロースの含有量は、アミロース-ヨウ素反応物を形成させアミロースの要素結合能を電位差測定または電流測定または比色測定すること等により測定することができる。
【0027】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物において、必要に応じて澱粉用可塑剤をさらに含有してもよい。
本実施形態のスチレン系樹脂組成物において、(A)スチレン系樹脂と、(B)澱粉系ポリマーと、(C)スチレン系エラストマーとの合計を100質量部としたときに、澱粉用可塑剤の含有量は0.1~20質量部であり、好ましくは0.5~18質量部、より好ましくは1~15質量部、更に好ましくは1.5~10質量部である。澱粉用可塑剤の含有量が5質量部より少ないと澱粉系ポリマー部の可塑化が十分に行われず分散不良となり耐衝撃性を向上する効果が十分に得られず、50質量部より多いと樹脂組成物の耐熱性が顕著に低下し、成形加工性が低下する場合がある。
【0028】
上記澱粉用可塑剤としては、水及び公知の可塑剤から適宜選択することができる。当該公知の可塑剤としては、例えば、生分解性を有する高沸点可塑剤を挙げることができる。そのような可塑剤の例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、ポリエチレングリコ-ル、ポリプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、イソデシルアルコール、n-デシルアルコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、ポリグリセリン、ジプロピレングリコール、n-オクチルアルコール等を挙げることができる。また、公知の可塑剤として、非生分解性を有する高沸点可塑剤を挙げることができる。そのような可塑剤の例としては、例えばフタル酸エステル、リン酸エステル、脂肪族二塩基酸エステル、グリコール誘導体、ポリエステル系可塑剤、エポキシ化合物系可塑剤等を挙げることができる。
【0029】
本実施形態において、(B)澱粉系ポリマーを製造するのに使用される澱粉(複数可)の分子量は、一般的には非常に大きく、500ダルトンを超える場合がある(例えば500ダルトンを超え、少なくとも1000ダルトン、少なくとも10,000ダルトン、少なくとも25,000ダルトン、少なくとも40,000ダルトンなど)。換言すると、澱粉系ポリマーを形成するのに使用される澱粉材料(例えば、天然澱粉)は、“環境負荷が低減される”持続可能ポリマー材料を製造するのに使用されるモノマー又は他の重合性成分よりも複雑な分子である。例えば、コーンスターチ(トウモロコシ由来の澱粉)は、約693ダルトンの分子量を有し得る。馬鈴薯澱粉は、例えば約20,000ダルトン~約400,000,000ダルトンの範囲で広く変動し得る分子量を有し得る(例えば、アミロースは約20,000ダルトン~約2,000,000ダルトンの範囲であり得るが、一方、アミロペクチンは、約65,000ダルトン~約400,000,000ダルトンの範囲であり得る)。タピオカ澱粉は、約40,000ダルトン~約340,000ダルトンの範囲の分子量を有し得る。
本実施形態における(B)澱粉系ポリマーの重量平均分子量の測定は、GPC-LALLS法等により求めることができる。澱粉系末端の数平均分子量は、浸透圧の測定や、分子の還元性末端基の化学的定量法等により求めることができる。
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物中の澱粉系ポリマーの含有量は、たとえば以下の通り測定している。
スチレン系樹脂組成物を1g(精秤しWa(g)とする)とり、テトラヒドロフラン30gに溶解・分散させ遠心分離により不溶分(A)を分離する。そして、不溶分(A)を130℃にて2時間真空乾燥を行い、恒量としたのち、凍結粉砕を行う。粉砕物に対して100mLの水を加え、撹拌しながら80℃で3時間加熱する。濾別により、ここでの不溶分(B)を取り除き、ロータリーエバポレーター等を用いてろ液から水分を除去し、その後130℃において2時間で真空乾燥を行い、恒量としたのち、残渣の重量(Wb)を測定する。この際、(Wb/Wa)×100を、スチレン系樹脂組成物中に含まれる澱粉系ポリマーの量とする。
【0030】
<<(C)スチレン系エラストマー:(C)成分>>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物において、(A)スチレン系樹脂と、(B)澱粉系ポリマーと、(C)スチレン系エラストマーとの合計を100質量部としたときに、(C)スチレン系エラストマーの含有量は5~95質量部であり、好ましくは8~90質量部、より好ましくは15~85質量部、更に好ましくは20~65質量部である。
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、(C)スチレン系エラストマーを必須に含有する。そして、本発明に係る(C)スチレン系エラストマーは、ブロック共重合体であり、好ましくはビニル芳香族化合物と共役ジエン単量体とのブロック共重合体であり、より好ましくはビニル芳香族化合物と共役ジエン単量体とを炭化水素溶媒中で有機アルカリ金属化合物等の開始剤を用いて逐次アニオンリビング重合により得られるブロック共重合体である。このブロック共重合体は、少なくとも二つのビニル芳香族化合物重合体ブロックと、少なくとも一つの共役ジエン重合体ブロックを有する重合体である。ただし、本明細書における(C)スチレン系エラストマーには、(A)スチレン系樹脂は含まれない。
本実施形態における(C)スチレン系エラストマーは、1種又は2種以上のビニル芳香族化合物重合体ブロックと、1種又は2種以上の共役ジエン重合体ブロックと、を有し、かつ、前記ビニル芳香族化合物単量体単位51~95重量%と、前記共役ジエン化合物単量体単位49~5重量%とからなるブロック共重合体であることが好ましい。
【0031】
具体的なビニル芳香族炭化水素-共役ジエン系ブロック共重合体のブロック構造は、例えば一般式(1)~(3)で表される直鎖ブロック共重合体及び一般式(4)~(7)で表されるラジアル状ブロック共重合体であることが好ましい。
(H-J)nH (1)
(H-J)m (2)
(J-H)mJ (3)
[(H-J)n]m-X (4)
[(J-H)n+1]m-X (5)
[(H-J)n-H]m-X (6)
[(J-H)n-J]m-X (7)
【0032】
(式中、Hはビニル芳香族化合物を主成分とし、数平均分子量5,000~200,000の範囲の重合体ブロックであり、各Hは同一構造でも、あるいは異なる構造であってもよい。Jは共役ジエンを主成分とし、数平均分子量10,000~500,000の範囲の重合体ブロックであり、各Jは同一構造でも、あるいは異なる構造であってもよい。Xは多官能のカップリング剤、nは1~3、mは2~4の整数を表す。)また、本発明の趣旨からして、J-X-J及びH-X-Hのブロック連鎖構造は、他の重合体ブロックで分割されているわけではなく、本発明の重合体ブロック分子量規定においては1つのブロックと考える。
【0033】
また、(C)スチレン系エラストマーは、上記のブロック構造規定に該当しない不完全なブロック重合体、例えばHの単独重合体、Jの単独重合体、あるいはH-Jジブロック共重合体等を、本発明の効果を阻害しない範囲で、少量含んでいても構わない。またHブロックとJブロックとの間に、共重合組成の順次変化する傾斜部分を含んでいても構わない。また、本明細書における「Yを主成分とする」とは、Yが当該重合体ブロック中の50質量%以上を占めることをいう。YはH及びJを表す。
【0034】
Hブロックはビニル芳香族化合物を主成分とする重合体ブロックであるが、少量の共重合可能な他の単量体、例えば共役ジエン類を含んでいても構わない。ここでのビニル芳香族化合物は主としてスチレン系単量体(c1)のことを言い、具体的にはスチレン、α-アルキル置換スチレン類、例えばα-メチルスチレン、各アルキル置換スチレン類、例えばo-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン等である。これらスチレン系単量体(c1)は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。中でもスチレンが好ましい。
【0035】
Jブロックは共役ジエンを主成分とする重合体ブロックであるが、少量の共重合可能な他の単量体、例えばビニル芳香族炭化水素を少量含んでいても構わない。ここでの共役ジエンとは、共役2重結合を有するオレフィン類で、例えば1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン等である。これら共役ジエン単量体は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。中でも1,3-ブタジエン又は2-メチル-1,3-ブタジエンが好ましい。
【0036】
(C)成分におけるビニル芳香族化合物の含有率は51~95重量%の範囲であり、共役ジエンの含有率は49~5重量%の範囲である。更に好ましいビニル芳香族化合物の含有率は55~90重量%、特に好ましくは60~85重量%の範囲である。ビニル芳香族化合物の含有率が51重量%未満では、(C)成分の剛性、耐熱性が低下し、得られるビニル芳香族化合物系重合体組成物の剛性、耐熱性も低下して好ましくない。また、成形時に共役ジエン由来の架橋物が増加し、成形品の外観を損ねる場合が多くなり好ましくない。一方、ビニル芳香族化合物の含有率が95重量%を超えると成分(C)の耐衝撃性、引張り伸び特性が劣り、得られるスチレン系樹脂組成物の引張り伸び特性が低下するため好ましくない。
【0037】
また、(C)成分の重量平均分子量は4万~40万の範囲である。好ましくは5万~30万、更に好ましくは6万~20万の範囲である。
分子量が低過ぎると、得られるビニル芳香族化合物系重合体組成物の機械的強度が低下して好ましくない。また分子量が高過ぎると加工性や、重合体成分の混合性、分散性が低下して、得られるスチレン系樹脂組成物の外観が悪化し好ましくない。
【0038】
本発明における(C)成分は公知の方法により製造できる。例えば、炭化水素溶媒中で、有機リチウム開始剤を用い、バッチプロセスあるいは連続重合プロセスで、スチレン系単量体及び共役ジエン単量体を順次ブロック共重合することにより得られる。あるいは、共重合後、リチウム活性末端をカップリング反応することによりラジアル構造にブロック共重合体化することもできる。スチレン-共役ジエンブロック共重合体の具体的製造法としては、例えば、特公昭45-19388号公報、特公昭47-43618号公報の技術を挙げることができる。
【0039】
<<(D)スチレン二量体及びスチレン三量体:(D)成分>>
本実施形態において、スチレン系単量体の二量体であるスチレン二量体及びスチレン系単量体の三量体であるスチレン三量体は、(A)スチレン系樹脂の不純物として含まれるものであり、主に(A)スチレン系樹脂を重合する際に生じるスチレン系単量体の二量体(ダイマーとも称する。)及び三量体(トリマーとも称する。)をいう。これら二量体及び三量体の合計含有量が所定量を超える範囲となると、ダイマー又はトリマーの熱分解物が、臭気の原因となりうる。一方、ダイマー及びトリマーの含有量が所定量存在すると、スチレン系樹脂組成物の流動性が向上する。これによりスチレン系樹脂組成物の成形温度を低減でき、組成物中の樹脂の熱分解による分子量低下を抑制できる。また、成形時におけるダイマー又はトリマーの熱分解物の量も低減でき臭気の少ないスチレン系樹脂組成物を提供できる。
【0040】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物において、スチレン二量体及びスチレン三量体の合計含有量は、前記(A)スチレン系樹脂と、前記(B)澱粉系ポリマーと、前記(C)スチレン系エラストマーとの合計100質量部に対して、0.05~0.7質量部であり、好ましくは0.05~0.6質量部、より好ましくは0.06~0.5質量部であり、さらに好ましくは0.065~0.45質量部であり、よりさらに好ましくは0.07~0.4質量部である。
ダイマー及びトリマーの含有量が0.7質量部超であると、ダイマー及びトリマーの熱分解物(スチレン単量体、トルエン、エチルベンゼンなど)の量が増大し、臭気の原因となる。一方、ダイマー及びトリマーの含有量が0.05質量部未満であると、スチレン系樹脂組成物自体の流動性が低下するため、スチレン系樹脂組成物の成形温度を上げざるを得ず、それに伴い成形時におけるダイマー又はトリマーの熱分解物の量が増大して耐衝撃性の低下又は臭気の原因となる。
また、スチレン二量体及びスチレン三量体の化学構造は、上述の通り、使用する(A)スチレン系樹脂に含まれるスチレン系単量体の化学構造に依存する。
なお、本実施形態において、スチレン二量体及びスチレン三量体の合計量は、ガスクロマトグラフィーを用いて測定している。具体的には、以下の測定条件を使用している。
装置:Agilent 6850series GC system
試料:樹脂組成物1gをMEK10mlに溶解後、3mlのメタノールを加えて重合体を沈降させ、溶液中の成分濃度を測定した。
カラム:Agilent 19091Z-413E
入り口温度:250℃
検出器温度:280℃
なお、(A)スチレン系樹脂中のスチレン二量体及びスチレン三量体の量を所定値にする方法としては、(A)スチレン系樹脂を蒸留精製する手段が挙げられる。
【0041】
<<(E)相容化剤::成分(E)>>
本実施形態におけるスチレン系樹脂組成物は、(E)相容化剤をさらに含有してもよい。
本実施形態のスチレン系樹脂組成物において、(A)スチレン系樹脂と、(B)澱粉系ポリマーと、(C)エラストマーとの合計を100質量部としたときに、(E)相容化剤の含有量は1~20質量部であることが好ましく、より好ましくは2~15質量部、さらに好ましくは3~10質量部である。(E)相容化剤の含有量が1質量部より少ないと耐折強度を向上させる効果が十分に得られない。
本実施形態において、(E)相容化剤は、極性の官能基を有するエラストマー(e1)であることが好ましく、極性の官能基を有する変性されたブロック共重合体であることがより好ましい。ただし、(E)相容化剤は、(A)スチレン系樹脂及び(C)スチレン系エラストマーを含まない。上記極性の官能基を有するエラストマー(e1)とは、ビニル芳香族炭化水素-共役ジエン系ブロック共重合体若しくはビニル芳香族炭化水素-水添共役ジエン系ブロック共重合体のうち、共役ジエンブロック若しくは水添共役ジエンブロックが極性の官能基を有する原料で変性されたブロック共重合体である。当該極性の官能基を有する原料としては、無水マレイン酸、マレイン酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸や、過酸化水素、メタクロロ過安息香酸等の過酸化物を挙げることができる。より詳細には、本実施形態の(E)相容化剤は、ビニル芳香族炭化水素-共役ジエン系ブロック共重合体のブロック構造又はビニル芳香族炭化水素-水添共役ジエン系ブロック共重合体を、不飽和カルボン酸又は過酸化物により変性した変性共重合体であって、前記ビニル芳香族炭化水素-共役ジエン系ブロック共重合体又は前記ビニル芳香族炭化水素-水添共役ジエン系ブロック共重合体における共役ジエンブロック若しくは水添共役ジエンブロックが前記不飽和カルボン酸又は前記過酸化物により変性されている構造を有することが好ましい。市場から入手可能な例として、無水マレイン酸変性SEBS(旭化成株式会社製タフテックM1913)、エポキシ変性SEBS(ダイセル株式会社製エポフレンドAT501)を挙げることができる。
【0042】
<スチレン系樹脂組成物に含まれるスチレン単量体の含有量>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物に含まれるスチレン単量体の含有量(スチレン系樹脂組成物1g中に残留する残留スチレン単量体)は、好ましくは200μg/g以下であり、より好ましくは140μg/g以下である。200μg/g以下にすることにより臭気の点で大幅に改善される。また、成形品である食品包装容器から容器内容物等へのスチレン単量体の移行の点でも、スチレン単量体はより少ない方が好ましい。
【0043】
<<添加剤等>>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物には、所望に応じて、通常用いられている添加剤、例えば、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、可塑剤、染料、顔料、各種充填剤等を添加することができる。また、他の樹脂、例えば、一般のポリスチレン、スチレン-ブタジエン共重合エラストマー、部分的に又は完全に水素添加されたスチレン-ブタジエン共重合エラストマー、ポリフェニレンエーテル、ポリ乳酸やポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル等を配合することもできる。
【0044】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物における添加剤の含有量は、3質量%以下であることが好ましく、他の樹脂の含有量は、30質量%以下であることが好ましい。
【0045】
本発明の別の態様は、上述した本発明のスチレン系樹脂組成物を用いて形成されてなる押出シートを提供する。押出シートは非発泡及び発泡のいずれでもよい。押出シートの製造方法としては、通常知られている方法を用いることができる。非発泡押出シートの製造方法としては、Tダイを取り付けた単軸又は二軸押出成形機で、一軸延伸機又は二軸延伸機でシートを引き取る装置を用いる方法等を用いることができ、発泡押出シートの製造方法としては、Tダイ又はサーキュラーダイを備え付けた押出発泡成形機を用いる方法等を用いることができる。
【0046】
本実施形態において、発泡押出シートを形成する場合、押出発泡時の発泡剤及び発泡核剤としては通常用いられる物質を使用できる。発泡剤としてはブタン、ペンタン、フロン、二酸化炭素、水等を使用することができ、ブタンが好適である。また発泡核剤としてはタルク等を使用できる。
【0047】
本実施形態において、発泡押出シートは、厚み0.5mm~5.0mmであることが好ましく、見かけ密度50g/L~300g/Lであることが好ましく、また坪量80g/m2~300g/m2であることが好ましい。本発明の発泡押出シートは、例えばフィルムを更にラミネートすること等によって多層化してもよい。使用するフィルムの種類は、一般のポリスチレンに使用されるもので差し支えない。
【0048】
本実施形態において、非発泡シートの厚みは、例えば、0.1~1.0mm程度であることが剛性及び熱成形サイクルの観点から好ましい。また、一軸シートは、通常の低倍率のロール延伸のみで形成してもよく、二軸延伸シートは、ロールで流れ方向(MD)に1.3倍から7倍程度延伸した後、テンターで垂直方向(TD)に1.3倍から7倍程度延伸することが強度の面で好ましい。また、非発泡シートは、スチレン系樹脂組成物以外のポリスチレン樹脂等のスチレン系樹脂と多層化して用いてもよい。更にスチレン系樹脂以外の樹脂と多層化して用いてもよい。当該スチレン系樹脂以外の樹脂としては、PET樹脂、ナイロン樹脂等が挙げられる。
【0049】
本発明の別の態様は、上述した本発明の非発泡押出シート又は発泡押出シートを用いて形成されてなる成形品を提供する。発泡押出シート又はこれを含む多層体は、例えば真空成形により成形してトレー等の容器を作製できる。また非発泡押出シートは、例えば真空成形により成形して弁当の蓋材又は惣菜等を入れる容器を作製できる。
【0050】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記例に限定されることは無く、適宜変更を加えることができる。
【実施例0051】
以下、本発明を実施例及び比較例に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されると解されるべきでない。
[(B)澱粉系ポリマー]
ハイアミロースコーンスターチ250gをジメチルスルホキシド(DMSO)2000gに懸濁させ、攪拌しながら90℃まで昇温し、20分間その温度に保持して糊化させる。この溶液に重炭酸ナトリウム200gを触媒として添加し、90℃を維持して酢酸ビニル399gを添加し1時間反応させた。その後、反応液を純水中に流し込んで高速攪拌・粉砕を行い、濾過・脱水乾燥して澱粉エステルを調製した。さらに、トリアセチンを20部添加し二軸押し出し機で混練し可塑化することで、澱粉系ポリマーを製造した。
【0052】
[(A)スチレン系樹脂]
本実施例と比較例において、スチレン系樹脂は、以下のPS-1~PS-3を用いた。
<PS-1:スチレン-アクリル酸ブチル共重合体>
スチレン75.0質量部、アクリル酸ブチル16.0質量部、エチルベンゼン9.0質量部及び1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン0.025質量部を混合してなる重合原料組成液を、1リットル/時の速度で、容量が4リットルの完全混合型反応器、次いで2リットルの層流型反応器からなる重合装置に、更には未反応モノマー、重合溶媒など揮発分を除去する単軸押出機を連結した脱揮装置に連続的に順次供給し、7日間の連続重合を行った。重合工程における重合反応条件は、完全混合反応器は重合温度110℃、層流型反応器は温度120~140℃。脱揮された未反応ガスは-5℃の冷媒を通した凝縮器で凝縮し、未反応液として回収した。7日間の連続重合した後、樹脂組成物をペレットとして採取し、評価した。樹脂ペレット中、アクリル酸ブチル単量体単位の含有量は18.0質量%、残留スチレン(=残留スチレン単量体)は137ppm、スチレン二量体とスチレン三量体の合計量は4621ppmであった。
【0053】
<PS-2:スチレン単独重合体>
スチレン88.0質量部、エチルベンゼン11.975質量部、及び1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン0.025質量部を混合してなる重合原料組成液を、0.8リットル/時の速度で、容量が4リットルの完全混合型反応器に、更には未反応モノマー、重合溶媒など揮発分を除去する単軸押出機を連結した脱揮装置に連続的に順次供給し、7日間の連続重合を行った。重合工程における重合反応条件は、完全混合反応器は重合温度134℃、脱揮された未反応ガスは-5℃の冷媒を通した凝縮器で凝縮し、未反応液として回収した。7日間の連続重合した後、樹脂組成物をペレットとして採取し、評価した。残留スチレン単量体(=スチレン単量体)は214ppm、(D)スチレン二量体とスチレン三量体の合計量は7220ppmであった。また、Mwは25万であった。
【0054】
<PS-3:スチレン単独重合体-2>
スチレン88.0質量部、エチルベンゼン11.958質量部、及びt-ブチルパーオキシー 2-エチルヘキサノエート0.042質量部を混合してなる重合原料組成液を、0.8リットル/時の速度で、容量が4リットルの完全混合型反応器に、更には未反応モノマー、重合溶媒など揮発分を除去する単軸押出機を連結した脱揮装置に連続的に順次供給し、7日間の連続重合を行った。重合工程における重合反応条件は、完全混合反応器は重合温度95℃、脱揮された未反応ガスは-5℃の冷媒を通した凝縮器で凝縮し、未反応液として回収した。7日間の連続重合した後、樹脂組成物をペレットとして採取し、評価した。残留スチレン単量体(=スチレン単量体)は207ppm、(D)スチレン二量体とスチレン三量体の合計量は950ppmであった。また、Mwは17万であった。
【0055】
[(C)スチレン系エラストマー]
旭化成株式会社製スチレン-共役ジエンブロック共重合体、製品名「アサフレックス825」、スチレン含有量77%。
【0056】
[(E)相容化剤]
旭化成株式会社製マレイン化スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体、製品名「タフテックM1913」、スチレン成分30質量%、Mw=5万。
【0057】
[スチレン系樹脂組成物の製造]
実施例及び比較例のスチレン系樹脂組成物の製造は、表1に記載のスチレン系樹脂組成物の組成に基づいて、上記で製造した澱粉系ポリマーとスチレン系樹脂(種類:PS-1~PS-2)とスチレン系エラストマーと相容化剤とを混合した後、20mmφの二軸押出機(ナカタニ機械社製、AS-20二軸押出機)を用いて160℃~200℃の樹脂温度で、吐出量2kg/hr、回転数100rpmでストランド状に押出し、冷却後、ペレット化した。得られたスチレン系樹脂組成物の物性を以下の表1に示す。
【0058】
(実施例のスチレン系樹脂組成物及び比較例の樹脂組成物に対する試験)
(1)シャルピー衝撃試験
上記の実施例のスチレン系樹脂組成物及び比較例の樹脂組成物から220℃でJIS K 7152に準拠して射出成形片を作製し、JIS K7111に準拠して、当該成形片(試験片)のシャルピー衝撃強さ(kJ/m2)を測定した。試験条件は1eAとした。
【0059】
(2)シートの作製及びその耐折強度試験
25mmφ単軸シート押出機(創研社製)にて、実施例のスチレン系樹脂組成物及び比較例の樹脂組成物のそれぞれから厚み0.35mmのシートを作製した。 そして、作製したシートのTD方向、MD方向のそれぞれから、長さ110mm、幅15mmの試験片を作成し、JIS P8115に準拠し、のMIT耐折強度(回)を測定した。ヒンジ特性の評価として、折り曲げに対する耐折強度を測定した。
【0060】
(3)臭気試験
実施例のスチレン系樹脂組成物及び比較例の樹脂組成物をそれぞれ直径50mm、高さ100mmのガラスの円筒容器に30g入れ、金属キャップで密閉、50℃で3時間、恒温槽で加熱後、キャップを外し、以下の基準で臭気の有無を判定した。
◎:スチレン臭が感じられない。
○:スチレン臭がほとんど感じられない。
△:スチレン臭がやや感じられる。
【0061】
(4)数平均分子量Mn及び重量平均分子量Mwの測定
(A)スチレン系樹脂、(C)スチレン系エラストマー及び(E)相容化剤の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定した。
試料調製 :テトラヒドロフランに上記各(A)、(C)及び(E)成分を約0.05質量%となるよう溶解した。
測定条件
機器 :TOSOH HLC-8220GPC
(ゲルパーミエイション・クロマトグラフィー)
カラム :super HZM-H
温度 :40℃
キャリア :THF 0.35mL/min
検出器 :RI 、UV:254nm
検量線 :TOSOH製の標準PS11種類(F-850、F-450、F-128、F-80,F-40,F-20,F-10,F-4、F-2,F-1、A-5000)を用いた。
上記実施例・比較例で得られた組成物の組成比及び実験結果を表1に示す。
【0062】
【0063】
[実施例1~4の評価結果]
実施例1~実施例4のスチレン系樹脂組成物は、(B)澱粉系ポリマー、(A)スチレン系樹脂(PS1~2)、(C)スチレン系エラストマー、及び(E)相容化剤を、それぞれ所定量配合し、溶融混合して得られたスチレン系樹脂組成物であり、シャルピー衝撃強度が2.0kJ/m2以上と高く耐衝撃性に優れる。さらに、耐折回数がTD方向、MD方向にそれぞれ30回以上であり、耐ヒンジ性にも優れる。特に、実施例1及び2の(E)相容化剤(M1913)を5質量部添加した組成では、シャルピー衝撃強度が、可塑剤を添加していない実施例3及び実施例4と比べて高くなり、耐衝撃性がさらに向上し、耐折回数がTD方向、MD方向にそれぞれ1000回以上であり、ヒンジ特性にも極めて優れていた。これは、(E)相容化剤の効果により、(B)澱粉系ポリマー相とスチレン系樹脂相との分散性が向上したこと等によると考えられる。
【0064】
[比較例1及び比較例2の評価結果]
比較例1の(B)澱粉系ポリマーと(A)スチレン系樹脂(PS-1)を含む樹脂組成物及び比較例2の(B)澱粉系ポリマーとPS-2とからなる樹脂組成物は、耐衝撃性が低く、耐折回数もTD方向、MD方向双方ともに低かった。(C)スチレン系エラストマーが存在しない場合、耐衝撃性が低く、耐折回数が低いことが分かる。また、比較例2はスチレン単量体、並びに(D)スチレン二量体及び三量体が多く、若干臭気が感じられた。
【0065】
[比較例3~5の評価結果]
比較例3の(B)澱粉系ポリマーと(A)スチレン系樹脂(PS-1)と(E)相容化剤とを含む樹脂組成物及び比較例4の(B)澱粉系ポリマーと(A)スチレン系樹脂(PS-2)と(E)相容化剤とを含む樹脂組成物は、耐衝撃性が低く、耐折回数もTD方向、MD方向双方ともに低かった。また、(E)澱粉系ポリマー30質量部と(A)スチレン系樹脂(PS-2)70質量部と(E)相容化剤5質量部とした場合でも、耐衝撃性が低く、耐折回数もTD方向、MD方向双方ともに低かった。このことから、(E)相容化剤を添加するのみでは耐衝撃性と耐折回数を向上させる効果は期待できず、(C)スチレン系エラストマーと(E)相容化剤とを組み合わせることによって、実施例1及び実施例2に示すようなきわめてすぐれた耐折回数を表すことが分かる。
【0066】
[比較例6~7]
比較例6の(A)スチレン系樹脂(PS-1)と(E)相容化剤(M1913)を含む樹脂組成物及び比較例7のPS-2とM1913を含む樹脂組成物では、耐衝撃性が低く、耐折回数もTD方向、MD方向双方ともに低かった。さらに、比較例7の樹脂組成物ではスチレン単量体並びに(D)スチレン二量体及びスチレン三量体が多く、若干臭気が感じられた。
本発明のスチレン系樹脂組成物は、低環境負荷であり、耐衝撃性に優れ、高いヒンジ性を有するため、食品トレイや包装ラップ等の容器包装分野に加えてOA機器や家電部品等の家電分野での利用が有利になる。