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特開2022-76318配向膜付き樹脂基材、調光デバイス、窓、車両および建物
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  • 特開-配向膜付き樹脂基材、調光デバイス、窓、車両および建物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076318
(43)【公開日】2022-05-19
(54)【発明の名称】配向膜付き樹脂基材、調光デバイス、窓、車両および建物
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1333 20060101AFI20220512BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20220512BHJP
   G02F 1/1337 20060101ALI20220512BHJP
   B60J 3/04 20060101ALI20220512BHJP
   E06B 9/24 20060101ALI20220512BHJP
   E06B 3/66 20060101ALI20220512BHJP
【FI】
G02F1/1333 505
G02F1/13 505
G02F1/1337
B60J3/04
E06B9/24 C
E06B3/66 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020186678
(22)【出願日】2020-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 裕介
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 泰佑
(72)【発明者】
【氏名】黒川 裕香
【テーマコード(参考)】
2E016
2H088
2H190
2H290
【Fターム(参考)】
2E016AA01
2E016AA07
2E016BA00
2E016CA01
2E016CB01
2E016CB02
2E016EA05
2H088EA34
2H088HA01
2H088HA02
2H088HA03
2H088HA04
2H190HA04
2H190HB13
2H190HC08
2H190HC19
2H190HD03
2H190JB03
2H190LA01
2H190LA21
2H290BF13
2H290BF23
2H290CA32
2H290CA33
(57)【要約】
【課題】少なくとも透明導電膜と配向膜がこの順に形成された調光フィルム用の配向膜付き樹脂基材において、干渉ムラを発生させずに、100℃以上に加熱しても配向膜の配向性能が劣化することが無い配向膜付き樹脂基材を提供する。
【解決手段】配向膜付き樹脂基材10は、樹脂基材1上に、少なくとも、透明導電膜2と配向膜3がこの順に形成された調光フィルム用の配向膜付き樹脂基材において、前記透明導電膜と前記配向膜の間に、樹脂基材中で生成されたオリゴマーを透過させないオリゴマー防止層6を備えていることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材上に、少なくとも、透明導電膜と配向膜がこの順に形成された調光フィルム用の配向膜付き樹脂基材において、
前記樹脂基材と前記配向膜の間に、紫外線硬化型または熱硬化型の樹脂、または紫外線硬化型または熱硬化型の重合体からなる機能層を有することを特徴とする配向膜付き樹脂基材。
【請求項2】
前記機能層は前記樹脂基材から発生するオリゴマー防止機能を有することを特徴とする請求項1に記載の配向膜付き樹脂基材。
【請求項3】
前記前記紫外線硬化型または熱硬化型の樹脂、または紫外線硬化型または熱硬化型の重合体防止層が、100nm~200nmの厚さを備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の配向膜付き樹脂基材。
【請求項4】
前記樹脂基材が、ポリエステル系樹脂からなることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の配向膜付き樹脂基材。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の配向膜付き樹脂基材を2枚使用し、それらの前記配向膜側を内側にして液晶材料からなる調光層を挟持した積層体からなることを特徴とする調光デバイス。
【請求項6】
前記調光層が、電圧を印加している時は不透明な状態となり、電圧を印加していない時は透明な状態となることを特徴とする請求項5に記載の調光デバイス。
【請求項7】
請求項5または6に記載の調光デバイスを用いたことを特徴とする窓。
【請求項8】
請求項7に記載の窓を使用したことを特徴とする車両。
【請求項9】
請求項7に記載の窓を使用したことを特徴とする建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調光フィルムに関する。更に詳しくは、リバースモードの調光フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
調光フィルムは、透明樹脂フィルムの片面に透明導電膜を形成した2枚の透明導電フィルムの透明導電膜側を内側にして、調光層を積層した積層体である。
【0003】
この様な調光フィルムの一対の透明導電膜の間に電圧を印加すると、調光層の光散乱度(ヘイズ値)を変化させることにより、透明と不透明の切替えが可能となる。
【0004】
調光フィルムには、電圧を印加している時に透明となり、電圧を切ると不透明になるノーマルモードの調光フィルムと、その逆に、電圧を印加している時に不透明となり、電圧を切ると透明になるリバースモードの調光フィルムと、が実用化されている。
【0005】
そのうち、リバースモードの調光フィルムは、不測の事態が発生して電源の機能が失われた場合に透明になることから、高い安全性が求められる自動車などの車両およびエレベータなどの窓ガラスへの適用が検討されている。
【0006】
リバースモードの調光フィルムにおいては、透明樹脂フィルムの片面に透明導電膜を形成した後、液晶材料からなる調光層を配向させる配向膜を形成する必要がある。配向膜は、配向機能および密着機能を有する特定の側鎖を有する樹脂からなる構造として形成され、更に安定した特性を維持する必要から、ポリイミド(PI)やシロキサン系の樹脂構造骨格が用いられて来た。それらの材料として用いる(1)テトラカルボン酸成分およびジアミン成分から得られるポリイミド前駆体、ポリイミド構造、(2)アルコキシシランの重縮合から得られるポリシロキサン系重合体は、いずれも100℃以上の加熱による熱硬化、焼成ポロセスが必要とされる。
【0007】
調光フィルムの樹脂フィルムとしては、優れた透明性と低価格であることから、ポリエステル系樹脂フィルムであるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが使用されている。しかしながら、PETフィルムを100℃以上に加熱すると、オリゴマーと呼ばれる低分子量成分がフィルムの内部から表面に析出し、結晶化などにより異物を形成することで、フィルム表面に凸状の構造物が形成され、表面の平滑性が損なわれる。
図2に示した様に、従来の配向膜付き樹脂基材10´においては、樹脂基材1であるPETフィルムの表面に、透明導電膜2と配向膜3が形成されており(図2(a))、100℃以上に加熱すると、樹脂基材1の中から、透明導電膜2に向かってオリゴマー4が析出する(図2(b))。配向膜3と透明導電膜2の界面に析出したオリゴマー4が結晶化されることにより、透明導電膜2と配向膜3を押し上げる形で凸状の構造物5が形成される為、液晶調光層の配向特性に悪影響が出ると考えられる。
【0008】
その様な事態を回避する先行技術としては、例えば、特許文献1に、加熱時に樹脂フィルム中で発生したオリゴマーが液晶層に拡散するのを防止する為に、樹脂フィルム上にハードコート層を設ける方法が開示されている。しかしながら、この方法ではハードコート層としての性能を発揮する為、硬度を優先した材料を選択する必要があると共に膜厚も厚い範囲に制限される為、光学的な干渉ムラが発生する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第6447757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の事情に鑑み、本発明は、樹脂フィルム上に少なくとも透明導電膜と配向膜がこの順に形成された調光フィルム用の配向膜付き樹脂基材において、干渉ムラを発生させずに、100℃以上に加熱しても配向膜の配向性能が劣化することが無い配向膜付き樹脂基材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決する手段として、本発明の第1の実施態様は、樹脂基材上に、少なくとも、透明導電膜と配向膜がこの順に形成された調光フィルム用の配向膜付き樹脂基材において、樹脂基材と前記配向膜の間に、樹脂基材中のオリゴマー生成を抑止するオリゴマー防止層を備えていることを特徴とする配向膜付き樹脂基材である。
【0012】
また、第2の実施態様は、前記オリゴマー防止層が、紫外線硬化型または熱硬化型の樹脂、または紫外線硬化型または熱硬化型の重合体からなることを特徴とする請求項1に記載の配向膜付き樹脂基材である。
【0013】
また、第3の実施態様は、前記オリゴマー防止層が、100nm~200nmの厚さを備えていることを特徴とする第1または第2の実施態様に記載の配向膜付き樹脂基材である。
【0014】
また、第4の実施態様は、前記樹脂基材が、ポリエステル系樹脂からなることを特徴とする第1~第3の実施態様のいずれかに記載の配向膜付き樹脂基材である。
【0015】
また、第5の実施態様は、第1~第4の実施態様のいずれかに記載の配向膜付き樹脂基材を2枚使用し、それらの前記配向膜側を内側にして液晶材料からなる調光層を挟持した積層体からなることを特徴とする調光デバイスである。
【0016】
また、第6の実施態様は、前記調光層が、電圧を印加している時は不透明な状態となり、電圧を印加していない時は透明な状態となることを特徴とする第5の実施態様に記載の調光デバイスである。
【0017】
また、第7の実施態様は、第5または第6の実施態様に記載の調光デバイスを用いたことを特徴とする窓である。
【0018】
また、第8の実施態様は、第7の実施態様に記載の窓を使用したことを特徴とする車両である。
【0019】
また、第9の実施態様は、第7の実施態様に記載の窓を使用したことを特徴とする建物である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の配向膜付き樹脂基材によれば、樹脂基材上に、少なくとも、透明導電膜と配向膜がこの順に形成されており、樹脂基材と前記配向膜の間に、樹脂基材中でのオリゴマー生成を抑止するオリゴマー防止層を備えている。その為、本発明の配向膜付き樹脂基材が100℃以上に加熱されても、樹脂基材中でオリゴマーが生成することがなく、配向膜の表面に析出することや、配向膜の表面にオリゴマー結晶体が生成されることも無い。その
為、配向特性に悪影響を与えることが無い。また、ハードコート層の様に厚い層を形成する必要が無い為、干渉ムラの発生を抑えることができる。
【0021】
また、本発明の調光デバイスによれば、本発明の配向膜付き樹脂基材を使用している為、配向性能が悪化することが無い。その為、配向性能の悪化による調光性能の劣化が起こることは無く、優れたリバースモードの調光デバイスを提供することが可能である。
【0022】
また、本発明の窓によれば、本発明の調光デバイスを使用している為、優れたリバースモードの調光性能を備えた窓を提供することができる。
【0023】
また、本発明の車両および建物によれば、本発明の窓を使用している為、優れたリバースモードの調光性能の窓を備えた車両および建物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の配向膜付き樹脂基材の断面構成を例示する断面説明図。
図2】従来の配向膜付き基材におけるオリゴマーの析出問題を説明する断面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<配向膜付き樹脂基材>
本発明の配向膜付き樹脂基材について、図1を用いて説明する。
【0026】
本発明の配向膜付き樹脂基材10は、樹脂基材1上に、少なくとも、透明導電膜2と配向膜3がこの順に備えられた層構成である。
【0027】
更に、本発明の配向膜付き樹脂基材10の特徴は、樹脂基材1と配向膜3の間に、樹脂基材1中でオリゴマーの発生を抑止するオリゴマー防止層6を備えていることである。
【0028】
このオリゴマー防止層6が、樹脂基材1と配向膜3の間に備えられていることにより、100℃以上の加熱で、樹脂基材から析出したオリゴマーが結晶体を生成することが防止される。これについては後ほど詳述する。また樹脂基材1の中でオリゴマーが生成しても、オリゴマー防止層6で遮断される。その為、配向膜3にまでオリゴマーが至ることは無く、オリゴマーが結晶化などにより凸状の構造物が配向膜の表面に形成されることを避けることができる。その様な凸状の構造物が形成されることが無い為、配向性能に悪影響を与えることを回避することができる。
上記オリゴマー防止層は詳述する効果により樹脂基材1上に直接設けられていることが好ましいが、透明導電膜2の厚みなどの状態次第では、当面導電膜2の上であってもオリゴマーの発生を抑止することが可能である。重要なことは樹脂基材1と配向膜3の間にオリゴマー防止層6を備えていることである。
【0029】
(樹脂基材)
樹脂基材1は、透明な樹脂から作製されたフィルム状または板状の基材であれば、特に限定する必要は無い。例えば、透明性や価格などの点から、ポリエステル系樹脂であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを挙げることができるが、これに限定する必要は無い。例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート(CR-39)、ポリ-4-メチルペンテン-1(TPX)、脂環式アクリル樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂などを挙げることができる。本発明では、前記基材フィルム中のオリゴマーの溶出防止
を目的とするため、前記基材フィルムのなかでも、縮合反応を経て合成されるフィルム、更にはポリエステルフィルムを用いた場合に好適である。
【0030】
(透明導電膜)
透明導電膜2は、低抵抗且つ透明度が高い透明導電膜が得られる為、ITO(Indium Tin Oxide、4価の錫がドープされた酸化インジウム)を好適に使用することができるが、これに限定する必要は無い。例えば、IZO(In-ZnO系透明導電膜)、AZO(アルミニウムがドープされた酸化亜鉛系透明導電膜)、GZO(ガリウムがドープされた酸化亜鉛系透明導電膜)、ATO(5価のアンチモンをドープした酸化錫系透明導電膜)などを挙げることができる。
【0031】
(配向膜)
一対の本発明の配向膜付き樹脂基材10の配向膜3側を内側にして、液晶材料からなる調光層を挟持した積層が、本発明の調光デバイスである。調光層の液晶分子群を一定方向に配列させるための膜として、配向膜3が使用される。配向膜3としては、液晶材料を配向可能な膜であれば、如何なる材料であっても良いし、如何なる形成方法であっても構わない。
【0032】
配向膜3を形成する材料としては、一般に、最も安定した配向性能を示すポリイミドが使用される。配向膜の形成は、ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸を基材上に塗布した後、熱処理することによりポリイミド膜を得ることができる。なお本発明のリバースモードでは垂直配向膜を用いるため、垂直配向機能を有する置換基を有するポリイミドを塗布するだけで液晶材料に配向規制力の付与が可能である。
この他、ラビング処理により配向規制力を得る方式を採用しても良い、この場合、前述のようにして得たポリイミド膜の表面を、ラビング布で擦るラビング処理を行うことにより、配向膜を得ることができる。
【0033】
この様に、ラビング処理を行うと、ポリイミド膜の表面に微細な溝が形成され、その溝が液晶分子を配向させる機能を持っていると考えられている。さらに別方式としてラビング処理の他に、化学的な処理や光配向処理によっても液晶材料を配向可能な表面を得ることもできる。
【0034】
(オリゴマー防止層)
オリゴマーとは、一般に、分子量が10000以下の低重合体を指す。例えば、PETフィルム中には、1~2重量%の環状オリゴマーが含まれ、3量体から5量体の環状オリゴマーとして含まれていることが知られている。この様なオリゴマーの生成を抑止する樹脂としては紫外線硬化型樹脂と熱硬化型樹脂を挙げることができる。
【0035】
紫外線硬化型樹脂としては、紫外線を照射することにより液体から固体に変化する樹脂を全て含む。ベース樹脂、反応性希釈剤、光重合開始剤、添加剤などを含んでいる。ベース樹脂としては、例えば変性アクリレートを使用する。エポキシ、ポリエステル、ウレタンなどの主鎖の両末端にアクリル基を付加させたもので、このアクリル基が紫外線により重合する反応基となる。反応性希釈剤としては、例えばアクリレートモノマーを使用する。ベース樹脂の粘度を低下させ、硬化する際に架橋剤として機能するものである。光重合開始剤としては、例えばベンゾインエーテル類やアミン類を使用する。ベース樹脂どうし、またはベース樹脂と反応性希釈剤との共重合、架橋などの反応の促進を行う。またアクリル基自体が持つ紫外線重合の増感剤として機能する。添加剤としては、発現させたい対象によって各種の材料を添加剤として使用する。接着性付与剤、充填剤、重合禁止剤、熱硬化触媒、嫌気性触媒、着色剤、などを挙げることができる。
【0036】
熱硬化型樹脂としてはフェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド、などが挙げられる。
【0037】
これらの紫外線硬化型樹脂や熱硬化型樹脂は、紫外線照射およびその後の加熱処理、または加熱処理によって重合および架橋することにより立体的な網目構造が形成される。
この網目構造がオリゴマーの生成防止を抑止する効果については定かでないが下記が想定される。即ち、オリゴマーは初期状態で、例えばポリエステルフィルムに存在している非結晶部(非晶部)に溶解した状態で存在している。
しかしポリエステルフィルムが加熱加工されることによりポリエステル非晶部の結晶化が進んでしまう。これにより非晶部の減少したポリエステルフィルムからオリゴマーの溶解平衡が失われ、オリゴマーがフィルム表面へ排出される。更に排出されたオリゴマーは安定化の為、結晶化し、この結晶が表面平滑性を阻害する、と推察される。
本発明のオリゴマー防止層は、ポリエステルフィルムの表層に立体網目構造つまり分子配列の不規則な非晶状態として隣接存在している。この非晶層であるオリゴマー防止層は、高温加熱時のポリエステルフィルム表層の結晶化を抑止する。これによりポリエステルフィルム表層付近の非晶状態を維持し、オリゴマーの溶解平衡を維持させていると推察される。
言い換えるなら、本発明のオリゴマー防止層は、基材表層に取りつくことで、自らの非晶状態をポリエステル基材に伝播させ、ポリエステルの結晶化を抑止し、非晶状態をもたらすことにより、オリゴマーの存在許容領域の確保を幇助している。
こうして表層へ排出されたオリゴマーが抑止されることで表層での結晶化が抑止され、表面平滑性は維持することが出来る。
【0038】
上記の様なオリゴマー防止層6の厚さは、その機能発現メカニズムから100nm~200nmで十分なオリゴマーの防止層としての機能を発揮することができる。200nmを超えていても良いが、経済的な側面からはできるだけ材料の消費量が少ないことが望ましい。100nm未満では、基材の被覆領域が不十分になり基材の非晶領域の確保が不安定になることでオリゴマー防止としての機能が十分では無い場合が出てくる。
【0039】
<調光デバイス>
本発明の調光デバイスは、本発明の配向膜付き樹脂基材を2枚使用し、それらの配向膜側を内側にして、液晶材料からなる調光層を挟持した積層体からなる。本発明の配向膜付き樹脂基材を使用している為、配向膜の形成時に100℃以上の加熱処理を行っていても、PETフィルムなどの樹脂基材の中から生成されるオリゴマーが、配向膜の表面に凸状の構造物を形成することが無い。その為、ヘイズ値が高くなる不具合を生じることがない。また、ハードコート層の様な1000nm以上の層を形成することが無い為、干渉ムラの発生を抑えることができる。
また、本発明の調光デバイスは、電圧を印加している時は不透明な状態となり、電圧を印加していない時は透明な状態となるリバースモードの調光デバイスであっても良い。
【0040】
<窓>
本発明の窓は、本発明の調光デバイスを使用していることが特徴である。その為、透明な状態におけるヘイズ値10%程度とすることが可能である。また、干渉ムラの発生を抑制した調光デバイスとすることができる。
また、電圧印加時に不透明な状態とし、停電などにより電圧を印加できない場合は透明な状態となるリバースモードの窓とすることができる。
【0041】
<車両、建物>
本発明の車両および建物は、本発明の窓を使用することが特徴である。その為、本発明
の特徴をそのまま備えている窓を備えた車両および建物とすることができる。
【0042】
その為、例えば、リバースモードの本発明の窓を採用した車両においては、正常に機能している状態では、電圧を印加することで不透明とし、電圧を印加しないことで透明とすることができる。このことは、不測のこと態が発生し、電源が機能を失った場合に、窓が透明となる。その為、車両の内部を容易に確認可能となる為、車両においては本発明のリバースモードの窓を採用することが望ましい。
【0043】
また、本発明の建物においては、本発明の窓が、ノーマルモードの調光デバイスを使用したものであっても、リバースモードの調光デバイスを使用したものであっても構わない。例えば、何らかの原因で電源が失われても、ノーマルモードにおいては不透明な窓となり、リバースモードにおいては透明な窓となるだけであり、危険な状態や困難な状態をもたらすことにはならない。
【実施例0044】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0045】
<実施例1>
(配向膜付き樹脂基材の作製)
・ オリゴマー防止層用塗液の調整
ナノシリカ粒子と重合性有機化合物を含むオリゴマー防止層として、オプスターZ7540(JSR社製)を、溶媒(酢酸ブチル/メチルエチルケトン(MEK))にて固形分濃度が5重量%となる様に調整した。
【0046】
・ オリゴマー防止層の形成
PETフィルム(ルミラーT60、東レ社製)の片面に、オリゴマー防止層用塗液を、ワイヤーバーコータを用いて塗布し、クリーンオーブンにて120℃、1分間の熱乾燥を行うことにより、PETフィルム上にオリゴマー防止層となる樹脂層を形成した。
次に、高圧水銀灯を用いて、この樹脂層に300mJ/cmの条件にて露光することにより、厚さ500nmのオリゴマー防止層を得た。
次に、同様にして、オリゴマー防止層を設けたPETフィルムのもう一方の面に対してもオリゴマー防止層を形成することにより、両面にオリゴマー防止層を設けたPETフィルムを作製した。
【0047】
・ 透明導電層の形成
平行平板方式のスパッタリング装置を用いて、ガスの流量比がアルゴンガス:酸素ガス=8:2、チャンバー内圧力が0.4Paの雰囲気にて、反応性スパッタリングを行うことにより、両面にオリゴマー防止層を設けたPETフィルムの片面に、厚さ25nmの非晶性ITO薄膜を形成した。
この様にして形成したITO薄膜に対して、空気中にて140℃、90分間の熱処理を行うことにより、オリゴマー防止層上に結晶化した透明導電層を形成した。
【0048】
・ 配向膜形成用塗液の調整
ポリアミック酸を主材料とする配向膜用塗料SE-H682(日産化学社製)を溶媒(プロピレングリコールモノメチルエーテル:γブチルラクトン=8:2、重量比)を用い、固形分が1.5重量%となる様に調整した。
【0049】
・ 配向膜の形成
結晶化した透明導電層の上に、配向膜形成用塗液を、ワイヤーバーコータを用いて塗布した後、クリーンオーブン中にて150℃、5分間の乾燥処理を行うことにより、配向
膜付き樹脂基材を得た。
【0050】
・ 配向膜の観察
作製した配向膜付き樹脂基材の配向膜について、TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて断面観察を行った。その結果、配向膜の膜厚は210nmであり、表面は良好な平滑性を備えていることを確認した。
【0051】
(調光フィルムの作製)
7.調光層形成用塗液の調整
ロックタイト3736(ヘンケル社製):22重量部、1、9-ノナンジオールメタクリレート:20重量部、1.4-ビス(3メルカプトブチリルオキシ)ブタン:2.7重量部、を混合した後、液晶材料MLC-6608(メルク社製):49重量部、その他の添加剤:6.7重量部を混合することにより、調光層形成用塗液を得た。
【0052】
8.ビーズスペーサの散布
作製した配向膜付き樹脂基材を一対準備する。このうち1枚の配向膜付き樹脂基材上に、IPA(イソプロピルアルコール)で希釈した6μmのジビニルべンゼンを主成分とするビーズスペーサを専有面積が1.5%となるよう塗布した後、100℃で乾燥させ、ビーズスペーサ散布済の配向膜付き基材を得た。
【0053】
9.調光層の形成
ビーズスペーサ散布済の配向膜付き樹脂基材上に、調光層形成用塗液をワイヤーバーコータで塗布して調光層を形成した後、一対のうち、残ったもう一方の配向膜付き樹脂基材を、調光層の上に貼合した。次いで、照度20mW/cmの高圧水銀灯を用いて350nm以下の波長をカツトし、窒素雰囲気下、照射時間30秒で紫外線照射を行った。その際、紫外線を照射している際の照射装置内の温度は25℃に制御した。以上により、調光体を得た。
【0054】
10.調光フィルムの特性評価
(1)調光フィルムへの電極付与
得られた調光体の調光層を挟持している両面の透明導電フィルムのうち、任意の片面(表面)の透明導電フィルムのみに切り込みを入れ、調光体の端部から内部に向かって25mmまでを全幅に渡り金属板を用いて剥離した。剥離により露出した調光層を、イソプロピルアルコール(酢酸エチル、トルエンでも良い。)の溶媒に含浸した後、金属針で磨耗することで調光層の除去を行い、透明電極層を露出させた。ついで反対側端部、かつ処理した反対面(裏面)の透明導電フィルムにも同様の処理を行った。これにより給電可能となった調光体を得た。
【0055】
(2)調光フィルムの電気光学特性の測定
1)電圧無印可状態のヘイズ測定:JIS K7136に基づいて、電圧無印可状態の調光体のへイズを測定した。
2)電圧印可状態でのヘイズの測定:露出させた透明電極を鰐口クリップで挟み込み、交流電源装置(菊水電子製 PCR300WE)を用い、60Hz、40Vの交流電圧を印加して、ヘイズを測定した。
【0056】
(3)その他の評価
1)ハードコート(HC)性の評価:作製した配向膜付き樹脂基材に対して、JIS K5400に従って、鉛筆硬度の評価を行った。鉛筆硬度が2H(500g)以上の場合を〇(HC性有り)、1H以下を×(HC性無し)とした。
2)オリゴマーの発生に関する評価:作製した配向膜付き樹脂基材に対して、目
視および100倍の光学顕微鏡観察により、配向膜の表面を観察した。光の散乱を引き起こす様な微細な粒子状または凸状の表面の構造物の有無を観察した。
3)干渉ムラの評価:作製した配向膜付き樹脂基材に対して、目視により干渉ムラが発生しているかどうかを確認した。
以上の結果を表1に示す。
【0057】
実施例1においては、HC性は無く、オリゴマーの発生、または、凸状の表面構造物の発生は無く、干渉ムラも認められなかった。ヘイズ値については、初期値10%、電圧印加時85%であった。
【0058】
【表1】
【0059】
<実施例2>
実施例1の2.オリゴマー防止層の形成において、オリゴマー防止層の厚さが500nmであったのを200nmとしたこと以外は、実施例1と同様にしてサンプルを作製した。得られた配向膜は良好な平滑性を有していた。更に得られた調光フィルムも良好な光学特性を示した。その他の評価結果を含めて、この結果を表1に示す。
実施例2においては、実施例1と同じ結果であった。
【0060】
<実施例3>
実施例1の2.オリゴマー防止層の形成において、オリゴマー防止層の厚さが500nmであったのを100nmとしたこと以外は、実施例1と同様にしてサンプルを作製した。得られた配向膜は良好な平滑性を有していた。更に得られた調光フィルムも良好な光学特性を示した。その他の評価結果を含めて、この結果を表1に示す。
実施例3においても、実施例1と同じ結果であった。
【0061】
<実施例4>
以下の変更点以外は実施例1と同様にしてサンブルを作製した。
・ 実施例1の1.オリゴマー防止層用塗液の調整、について下記の様に変更した。
塗料としてLiodurasLCH6701(東洋インキ製)を、MEKを用いて固形分が50重量%となるように調整した。
・ 実施例1の2.オリゴマー防止層の形成、について下記の様に変更した。
PETフィルム(ルミラーT60、東レ社製)の片面に、実施例1の1.オリゴマー防止層用塗液の調整、にて調整したオリゴマー防止層用塗液をワイヤーバーコータで塗布した後、60℃、1分間、クリーンオーブンにて乾燥させた。更に、高圧水銀灯にて300mJ/cmで露光し、厚さ150nmのオリゴマー防止層を得た。
この様に処理した面の反対面も同様に処理し、両面にオリゴマー防止層を形成したPETフィルムを得た。なお、このオリゴマー防止層は鉛筆硬度2H(500g)の機能も兼ね備えていた。
得られた配向膜は良好な平滑性を有していた。更に得られた調光フィルムも良好な光学特性を示した。
以上の結果と、その他の評価結果を含めて、表1に示す。
実施例4においては、HC性が認められた(〇)こと以外は、実施例1と同じ結果であった。
【0062】
<比較例1>
実施例1の2.オリゴマー防止層の形成、におけるオリゴマー防止層の厚みを50nmとした以外は、実施例1と同様にサンプルを作製した。得られた配向膜は目視観察でオリゴマーと思われる微細な表面析出物(または、凸状の構造物)が多数確認出来た。さらに
表面を光学顕徹鏡(100倍)で観察したところ、配向膜を押し上げるような形で結晶性と思われる凸状の構造物が確認出来た。
これを用いて作製した調光フィルムは、透過状態での白濁(高いヘイズ値)がみられ、調光フィルムとして用いるには不十分であった。以上の結果と、その他の評価結果を含めて、表1に示す。
表1に示す様に、比較例1においては、HC性は無く、オリゴマーの発生は認められた。干渉ムラは認められなかった。ヘイズ値については、初期値が30%、電圧印加時90%となり、何れも実施例1~4より大きかった。
【0063】
<比較例2>
比較例2においてオリゴマー防止層の厚みを2000nmとした以外は、同様にサンプルを作製した。得られた配向膜は良好な平滑性を有していた。但し調光フィルムとしたのち、太陽光下で目視観察したところ、虹色の厶ラが著しく、調光フィルムとしての外観に難点が見られた。その他の評価結果も含めて表1に示す。
また、表1に示した様に、比較例2においては、HC性が認められた。これは、オリゴマー防止層の厚さが2000nmと厚かったためであると考えられる。その為、オリゴマーの発生は認められなかった。また、干渉ムラは認められた。これも、オリゴマー防止層の厚さが2000nmと厚かったためであると考えられる。ヘイズ値については、初期値が10%、電圧印加時85%となり、実施例1~4と同等であった。
【0064】
<比較例3>
実施例1においてオリゴマー防止層を設けなかった以外は、実施例1と同様にしてサンプルを作製した。得られた配向膜は目視観察で所々に凸状の構造物が確認出来た。さらに表面を光学顕微鏡(100倍)で観察したところ、配向膜を押し上げるような形で結晶性と思われる凸状の構造物が確認出来た。調光フィルムとした後は透過状態での白濁(高いヘイズ値)がみられ、調光フィルムとして用いるには不十分であった。これを用いて作製した調光フィルムは、透過状態での白濁(高いヘイズ値)がみられ、調光フィルムとして用いるには不十分であった。その他の評価結果も含めて表1に示す。
【0065】
表1に示した様に、比較例3においては、HC性が認められなかった。これは、オリゴマー防止層が形成されなかったためであると考えられる。その為、当然ながらオリゴマーの発生は認められた。また、干渉ムラは認められなかった。これも、オリゴマー防止層が形成されなかったためであると考えられる。ヘイズ値については、初期値が30%、電圧印加時90%となり、オリゴマー防止層の厚さが50nmと薄かった比較例2と同等であった。
【符号の説明】
【0066】
1・・・樹脂基材
2・・・透明導電膜
3・・・配向膜
4・・・析出したオリゴマー
5・・・(析出したオリゴマーによる)凸状の構造物
6・・・オリゴマー防止層
10、10´・・・配向膜付き樹脂基材
図1
図2