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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076344
(43)【公開日】2022-05-19
(54)【発明の名称】タフルプロスト点眼液
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/5575 20060101AFI20220512BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220512BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220512BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20220512BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20220512BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20220512BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20220512BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20220512BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20220512BHJP
【FI】
A61K31/5575
A61P27/02
A61K9/08
A61K47/18
A61K47/10
A61K47/44
A61K47/14
A61K47/34
A61P27/06
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020186711
(22)【出願日】2020-11-09
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-04-07
(71)【出願人】
【識別番号】594105224
【氏名又は名称】東亜薬品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(74)【代理人】
【識別番号】100188857
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 智文
(72)【発明者】
【氏名】鳥崎 真吾
(72)【発明者】
【氏名】平田 尚之
(72)【発明者】
【氏名】内藤 卓人
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB24
4C076DD26
4C076DD37R
4C076DD46
4C076DD49
4C076DD49R
4C076EE17R
4C076EE23
4C076FF65
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA02
4C086GA16
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA58
4C086ZA33
(57)【要約】
【課題】タフルプロストの新たな点眼液を提供する。
【解決手段】タフルプロストと、ビグアナイド系又はアルコール系の防腐剤と、を含有する点眼液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タフルプロストと、ビグアナイド系又はアルコール系の防腐剤と、を含有する点眼液。
【請求項2】
前記防腐剤としてポリヘキサニド、クロルヘキシジン、又はクロロブタノールを含有することを特徴とする、請求項1に記載の点眼液。
【請求項3】
前記防腐剤がポリヘキサニドであり、前記防腐剤の濃度が0.001mg/mL以上0.05mg/mL以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の点眼液。
【請求項4】
さらに、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油又はモノステアリン酸ポリオキシエチレングリコールを含有することを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の点眼液。
【請求項5】
さらに、0.1mg/mL以上25mg/mL以下のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を含有することを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の点眼液。
【請求項6】
タフルプロストの濃度が0.01mg/mL以上0.1mg/mL以下であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の点眼液。
【請求項7】
タフルプロストと、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油又はモノステアリン酸ポリオキシエチレングリコールと、防腐剤と、を含有し、エチレンジアミン四酢酸の濃度が0.5mg/mL未満である、点眼液。
【請求項8】
タフルプロストと、ポリヘキサニドと、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油と、を含有する点眼液。
【請求項9】
タフルプロストと、タフルプロストの含有率低下防止剤と、を含有する点眼液であって、前記タフルプロストの含有率低下防止剤は、ポリヘキサニド、クロルヘキシジン、クロロブタノール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、又はモノステアリン酸ポリオキシエチレングリコールであることを特徴とする、点眼液。
【請求項10】
タフルプロストを含有する点眼液におけるタフルプロストの含有率低下を抑制する方法であって、ビグアナイド系若しくはアルコール系の防腐剤、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、又はモノステアリン酸ポリオキシエチレングリコールを前記点眼液に添加することを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
タフルプロスト(16-フェノキシ-15-デオキシ-15,15-ジフルオロ-17,18,19,20-テトラノルプロスタグランジンF2α)は、プロスタグランジンF2α誘導体であり、緑内障治療のために点眼剤として用いられている。特許文献1は、保存時のタフルプロストの分解を抑制するために、点眼液にエチレンジアミン四酢酸又はジブチルヒドロキシトルエンを添加することを提案している。特許文献1は、さらに、タフルプロストの樹脂製容器への吸着を抑制するために、点眼剤にポリソルベート80又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60を添加することを提案している。また、非特許文献1は、タフルプロストに加えて、ポリソルベート80、エチレンジアミン四酢酸、及びベンザルコニウム塩化物を含有するタプロス(登録商標)点眼液と、ベンザルコニウム塩化物を含まない使い捨て製剤であるタプロス(登録商標)ミニ点眼液と、を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0002】
【特許文献1】特開2002-161037号公報
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】タプロス(登録商標)点眼液0.0015%及びタプロス(登録商標)ミニ点眼液0.0015%添付文書
【非特許文献2】European Union Risk Assessment Report, tetrasodium ethylenediaminetetraacetate (Na4EDTA), 1st Priority List, Volume 51
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のとおり、タフルプロスト点眼剤は保存時に分解しやすいという課題があり、特許文献1及び非特許文献1ではエチレンジアミン四酢酸を添加することで安定性を向上させている。しかしながら、エチレンジアミン四酢酸は刺激性を有しており、例えば非特許文献2には、エチレンジアミン四酢酸を含有する点眼液が眼に対する感作性を示した例が報告されている。このため、タフルプロスト点眼剤中のエチレンジアミン四酢酸の含有量を減らすことが望まれる。
【0005】
本発明は、エチレンジアミン四酢酸の含有量を減らしながら実用的な保存性が実現された、タフルプロストの新たな点眼液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らが鋭意検討したところ、驚くべきことに、適切な防腐剤又は界面活性剤を選択することにより、エチレンジアミン四酢酸の含有量を減らしても実用的なタフルプロストの保存性が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明の目的を達成するために、本発明の一実施形態に係る点眼液は以下の構成を備える。すなわち、タフルプロストと、ビグアナイド系又はアルコール系の防腐剤と、を含有する。
【発明の効果】
【0008】
エチレンジアミン四酢酸の含有量を減らしながら実用的な保存性が実現された、タフルプロストの新たな点眼液を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴は任意に組み合わされてもよい。
【0010】
本発明の一実施形態に係る点眼液は、タフルプロストと、ビグアナイド系又はアルコール系の防腐剤と、を含有する。
【0011】
点眼液中のタフルプロストの含有量は、点眼液の用途に応じて適宜選択することができる。例えば、点眼液中のタフルプロストの含有量は、0.01mg/mL以上であってもよく、0.1mg/mL、0.05mg/mL以下又は0.02mg/mL以下であってもよい。
【0012】
ビグアナイド系又はアルコール系の防腐剤は、点眼液中の微生物の増殖を抑制することができる。これに加えて、ビグアナイド系又はアルコール系の防腐剤を、防腐剤としてよく用いられるベンザルコニウムの代わりに用いることにより、点眼液中のタフルプロストの含有率の低下を抑制することができる。すなわち、エチレンジアミン四酢酸を添加せずに防腐剤としてベンザルコニウムを用いる場合、点眼液中のタフルプロストの含有率が大きく低下することがある。一方で、エチレンジアミン四酢酸を添加しない場合であっても、代わりにビグアナイド系又はアルコール系の防腐剤を用いることにより、含有率の低下を大きく抑えることができる。このため、ビグアナイド系又はアルコール系の防腐剤は、タフルプロストを含有する点眼液の防腐剤として適している。
【0013】
一実施形態において、ビグアナイド系又はアルコール系の防腐剤は、点眼液に添加することにより経時的なタフルプロストの含有率の低下を抑制することができる。ビグアナイド系又はアルコール系の防腐剤によるタフルプロストの含有率の低下を抑制する効果は、エチレンジアミン四酢酸が添加されている場合にも確認できるものの、エチレンジアミン四酢酸の添加量が低減されている又は添加されていない場合に、より顕著である。
【0014】
ビグアナイド系の防腐剤とは、ビグアナイド骨格(N-C(=N)-N-C(=N)-N)を有する防腐剤である。ビグアナイド系の防腐剤の例としては、ポリヘキサニド(ポリヘキサメチレンビグアナイド)及びクロルヘキシジンが挙げられる。
【0015】
アルコール系の防腐剤とは、水酸基を有する防腐剤である。アルコール系の防腐剤の例としては、クロロブタノール、パラオキシ安息香酸メチル、及びパラオキシ安息香酸プロピル等が挙げられる。
【0016】
点眼液中の防腐剤の含有量は、求められる点眼液の防腐性に応じて適宜選択することができる。例えば、防腐剤としてポリヘキサニドを用いる場合、ポリヘキサニドの含有量は0.001mg/mL以上又は0.0025mg/mL以上であってもよく、0.05mg/mL以下又は0.02mg/mL以下であってもよい。また、防腐剤としてクロルヘキシジンを用いる場合、クロルヘキシジンの含有量は0.002mg/mL以上又は0.005mg/mL以上であってもよく、0.5mg/mL以下又は0.2mg/mL以下であってもよい。また、防腐剤としてクロロブタノールを用いる場合、クロロブタノールの含有量は1.0mg/mL以上又は2.5mg/mL以上であってもよく、25mg/mL以下又は10mg/mL以下であってもよい。
【0017】
なお、点眼液は、2種類以上の防腐剤を含有していてもよい。一方で、一実施形態に係る点眼液は、タフルプロストの含有率の低下を抑制するために、ベンザルコニウムを実質的に含有していない、又は全く含有していない。
【0018】
点眼液の溶媒は特に限定されないが、一般的には水が用いられる。点眼液のpHは点眼可能であれば特に制限されないが、例えば4以上又は6以上であってもよく、8以下又は7.5以下であってもよい。
【0019】
本発明の一実施形態に係る点眼液は、さらに界面活性剤を含有していてもよい。界面活性剤は、点眼液中のタフルプロストの溶解度を向上させることができる。界面活性剤の種類は特に限定されないが、界面活性剤としては例えば非イオン性界面活性剤を用いることができる。非イオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノステアリン酸ポリオキシエチレングリコール、ポリソルベート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、及びショ糖脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0020】
一実施形態においては、界面活性剤としてポリオキシエチレン硬化ヒマシ油又はモノステアリン酸ポリオキシエチレングリコールを点眼液に添加することにより、タフルプロストの経時的な含有率の低下を抑制することができる。このため、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油又はモノステアリン酸ポリオキシエチレングリコールは、タフルプロストを含有する点眼液の界面活性剤として適している。とりわけ、ビグアナイド系又はアルコール系の防腐剤を用い、さらに界面活性剤としてポリオキシエチレン硬化ヒマシ油又はモノステアリン酸ポリオキシエチレングリコールを用いることにより、エチレンジアミン四酢酸を添加しない場合であっても、タフルプロストの含有率の低下を顕著に抑制することができる。
【0021】
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油20、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油80、又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油100等を用いることができる。モノステアリン酸ポリオキシエチレングリコールとしては、モノステアリン酸ポリオキシエチレングリコール(25)、モノステアリン酸ポリオキシエチレングリコール(40)、又はモノステアリン酸ポリオキシエチレングリコール(100)等を用いることができる。
【0022】
点眼液中の界面活性剤の含有量は、タフルプロストの濃度に応じて適宜選択することができる。また、界面活性剤としてポリオキシエチレン硬化ヒマシ油又はモノステアリン酸ポリオキシエチレングリコールを用いる場合、その含有量は、求められる点眼液の安定性に応じて適宜選択することができる。例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油又はモノステアリン酸ポリオキシエチレングリコールの含有量は、0.1mg/mL以上又は0.25mg/mL以上であってもよく、25mg/mL以下又は10mg/mL以下であってもよい。一実施形態においては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油又はモノステアリン酸ポリオキシエチレングリコールの添加量を増やすことにより、タフルプロストの含有率の低下をより強く抑制することができる。このような観点から、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油又はモノステアリン酸ポリオキシエチレングリコールの含有量は、1.0mg/mL以上、2.5mg/mL以上、又は5.0mg/mL以上であってもよい。点眼液は、2種類以上の界面活性剤を含有していてもよい。
【0023】
なお、点眼液は、2種類以上の界面活性剤を含有していてもよい。一方で、一実施形態に係る点眼液は、タフルプロストの含有率の低下を抑制するために、ポリソルベートを実質的に含有していない、又は全く含有していない。
【0024】
点眼液は、さらなる添加剤を含有していてもよい。添加剤の例としては、安定化剤、等張化剤、緩衝剤、pH調節剤、及び粘稠化剤等が挙げられる。
【0025】
安定化剤の例としては、アスコルビン酸、トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、及びポピドン等が挙げられる。一方で、一実施形態において、点眼液はエチレンジアミン四酢酸の含有量が低減されている。例えば、一実施形態において、点眼液の刺激性を低減する観点から、点眼液中のエチレンジアミン四酢酸の濃度は、0.5mg/mL未満、0.3mg/mL未満、又は0.15mg/mL未満であってもよく、点眼液がエチレンジアミン四酢酸を実質的に含有していない、又は全く含有していなくてもよい。
【0026】
等張化剤の例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グルコース、ソルビトール、マンニトール、トレハロース、マルトース、及びスクロース等が挙げられる。
【0027】
緩衝剤の例としては、リン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、酒石酸塩、ホウ酸塩、及びトロメタモール等が挙げられる。
【0028】
pH調節剤の例としては、塩酸、リン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、及び炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0029】
粘稠化剤の例としては、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒプロメロース、メチルセルロース、及びグリセリン等が挙げられる。
【0030】
一実施形態に係る点眼剤は、容器に収容することができる。容器の種類は特に限定されないが、ガラス容器又は樹脂製容器であってもよい。樹脂製容器の材質は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、又は環状ポリオレフィンであってもよい。
【0031】
点眼液の製造方法は特に限定されない。例えば、タフルプロストと、ビグアナイド系又はアルコール系の防腐剤と、必要に応じてその他の添加剤とを、精製水に溶解することにより、点眼液を製造することができる。
【0032】
本発明の別の一実施形態に係る点眼液は、タフルプロストと、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油又はモノステアリン酸ポリオキシエチレングリコールと、を含有している。すなわち、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油又はモノステアリン酸ポリオキシエチレングリコールを、界面活性剤としてよく用いられるポリソルベートの代わりに用いることにより、点眼液中のタフルプロストの含有率の低下を抑制することができる。例えば、エチレンジアミン四酢酸を添加せずに界面活性剤としてポリソルベートを用いる場合、点眼液中のタフルプロストの含有率が大きく低下することがある。一方で、エチレンジアミン四酢酸を添加しない場合であっても、代わりにポリオキシエチレン硬化ヒマシ油又はモノステアリン酸ポリオキシエチレングリコールを界面活性剤として用いることにより、含有率の低下を大きく抑えることができる。このため、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油又はモノステアリン酸ポリオキシエチレングリコールは、タフルプロストを含有する点眼液の界面活性剤として適している。
【0033】
一実施形態においては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油又はモノステアリン酸ポリオキシエチレングリコールを点眼液に添加することにより、タフルプロストの経時的な含有率の低下を抑制することができる。ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油又はモノステアリン酸ポリオキシエチレングリコールによるタフルプロストの含有率の低下を抑制する効果は、エチレンジアミン四酢酸が添加されている場合にも確認できるものの、エチレンジアミン四酢酸の添加量が低減されている又は添加されていない場合に、より顕著である。
【0034】
この場合のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油及びモノステアリン酸ポリオキシエチレングリコールの添加量は、上記の実施形態と同様にすることができる。この点眼液は、さらに、上記のビグアナイド系若しくはアルコール系の防腐剤、又はベンザルコニウムのようなその他の防腐剤を含有していてもよい。また、この点眼液は、上記のように、その他の添加剤を含有していてもよく、エチレンジアミン四酢酸の含有量が低減されていてもよい。すなわち、点眼液の刺激性を低減する観点から、点眼液中のエチレンジアミン四酢酸の濃度は、0.5mg/mL未満、0.3mg/mL未満、又は0.15mg/mL未満であってもよく、点眼液がエチレンジアミン四酢酸を実質的に含有していない、又は全く含有していなくてもよい。
【0035】
本発明のさらなる一実施形態に係る点眼液は、タフルプロストと、ポリヘキサニドと、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油と、を含有している。ポリヘキサニドとポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とは、それぞれタフルプロストの含有率の低下を抑制する作用を有しており、これらを組み合わせて用いることにより、タフルプロストの含有率の低下を顕著に抑制することができる。この点眼液は、上記のように、さらにその他の添加剤を含有していてもよく、エチレンジアミン四酢酸の含有量が低減されていてもよい。
【0036】
一実施形態に係る点眼液は、タフルプロストと、タフルプロストの含有率低下防止剤と、を含有している。ここで、タフルプロストの含有率低下防止剤としては、ビグアナイド系若しくはアルコール系の防腐剤、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、又はモノステアリン酸ポリオキシエチレングリコールを用いることができる。また、タフルプロストの含有率低下防止剤としては、ポリヘキサニド、クロルヘキシジン、又はクロロブタノールを用いることができる。このようなタフルプロストの含有率低下防止剤を添加することにより、添加しない場合と比較して、タフルプロストを含有する点眼液における、経時的なタフルプロストの含有率低下を抑制することができる。この点眼液は、上記のように、さらにその他の添加剤を含有していてもよく、エチレンジアミン四酢酸の含有量が低減されていてもよい。
【0037】
一実施形態において、タフルプロストの含有率低下防止剤は、タフルプロストを含有する点眼液を40℃で1ヶ月保管した後におけるタフルプロストの含有率を、含有率低下防止剤を含有しない場合と比較して、10%以上、20%以上、30%以上、又は50%以上増加させることができる。
【0038】
また、上述の各実施形態に係る点眼液を、40℃で1ヶ月間保管した後におけるタフルプロストの含有率は、80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上であってもよい。さらに、上述の各実施形態に係る点眼液を、40℃で3ヶ月間保管した後におけるタフルプロストの含有率は、80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上であってもよい。さらに、上述の各実施形態に係る点眼液を、60℃で4週間保管した後におけるタフルプロストの含有率は、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、又は99%以上であってもよい。
【0039】
また、本発明の一実施形態は、タフルプロストを含有する点眼液におけるタフルプロストの含有率低下を抑制する方法に関する。この方法は、ビグアナイド系若しくはアルコール系の防腐剤、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、又はモノステアリン酸ポリオキシエチレングリコールを、タフルプロストを含有する点眼液に添加することを含むことができる。また、この方法は、ポリヘキサニド、クロルヘキシジン、又はクロロブタノールを、タフルプロストを含有する点眼液に添加することを含んでいてもよい。上記のように、点眼液にはさらにその他の添加剤を含有していてもよく、点眼液におけるエチレンジアミン四酢酸の含有量が低減されていてもよい。一実施形態においては、これらの添加剤をタフルプロストを含有する点眼液に添加することにより、添加しない場合と比較して、点眼液を40℃で1ヶ月保管した後におけるタフルプロストの含有率を、10%以上、20%以上、30%以上、又は50%以上増加させることができる。
【実施例0040】
(実施例1)
タフルプロスト(3mg)、ポリソルベート80(100mg)、リン酸二水素ナトリウム水和物(400mg)、及び20%塩酸ポリヘキサニド液(2mg)を、精製水に溶解させ、塩酸(又は水酸化ナトリウム)を添加してpHを6.0に調整することにより、200mLの点眼液を調製した。
【0041】
次に、得られた点眼液の安定性試験を行った。具体的には、得られた点眼液9mLを9mLのガラス容器に充填し(表5では、点眼液3mLを5mLポリエチレン容器に充填)、40℃(加速試験)で1ヶ月(及び実施例によっては3ヶ月)保管した。その後、高速液体クロマトグラフ法によりタフルプロストの定量を行うことにより、タフルプロストの残存率を測定した。
【0042】
(実施例2~16)
実施例1と同様の方法で、表1~5に示す組成の点眼液を調製した。また、実施例1と同様に、得られた点眼液の安定性試験を行った。
【0043】
(比較例1~4)
実施例1と同様の方法で、表1,2,5に示す組成の点眼液を調製した。また、実施例1と同様に、得られた点眼液の安定性試験を行った。
【0044】
表1は、比較例1~3及び実施例1~6で得られた点眼液の組成及び安定性試験の結果を示す。
【0045】
【表1】
【0046】
比較例1~3からわかるように、非特許文献1のように、ベンザルコニウム(防腐剤)とポリソルベート80(界面活性剤)の組み合わせを用いる場合、タフルプロストの分解を防ぐためにはエチレンジアミン四酢酸の添加が必要であり、エチレンジアミン四酢酸を添加しないとタフルプロストの安定性は大きく低下した。
【0047】
一方で、比較例3と実施例1との比較からわかるように、防腐剤としてベンザルコニウムの代わりにポリヘキサニドを用いることにより、エチレンジアミン四酢酸を添加しない場合であっても、タフルプロストの安定性は大きく改善した。
【0048】
一方で、比較例3と実施例2との比較からわかるように、界面活性剤としてポリソルベートの代わりにポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を用いることにより、エチレンジアミン四酢酸を添加しない場合であっても、タフルプロストの安定性は大きく改善した。
【0049】
上記のようにタフルプロストの安定性を向上できることが確認されたポリヘキサニドとポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とを組み合わせて用いた実施例3では、それぞれを単独で用いた実施例1,2よりもさらに高い安定性が得られた。また、比較例1,2においては、ポリソルベートの添加量を増やしても安定性は改善しなかったものの、実施例3,4においては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の添加量を増やすことによりタフルプロストの安定性がさらに改善することが確認された。実施例3,4のようにポリヘキサニドとポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とを組み合わせて用いた際の安定性は、比較例1,2のようにエチレンジアミン四酢酸を用いる際の安定性よりも向上していた。
【0050】
なお、実施例3,4のように、ポリヘキサニドとポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とを組み合わせた際の安定性は、実施例5,6のように、さらにエチレンジアミン四酢酸を加えた場合の安定性と同等以上であった。すなわち、ポリヘキサニドとポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とを組み合わせた際に得られる安定性は、さらにエチレンジアミン四酢酸を添加しても明確な改善が認められない程度にまで向上していた。
【0051】
これらの結果は、ポリヘキサニド及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油のそれぞれがタフルプロストの安定性を向上させる高い作用を有していることを示している。また、これらの結果は、これらの添加剤を用いる場合には、エチレンジアミン四酢酸の添加量を減らしても、実用的な安定性を有するタフルプロストの点眼液が得られることを示している。
【0052】
表2は、ポリヘキサニド及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の安定化効果をより詳細に検討するために行われた、比較例1及び実施例3~6で得られた点眼液についての、40℃3ヶ月の加速試験の結果を示す。
【0053】
【表2】
【0054】
表2は、実施例3,4のようにポリヘキサニドとポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とを組み合わせて用いることにより、比較例1のようにエチレンジアミン四酢酸を用いる場合よりも、安定性が際立って向上することをより明確に示している。また、表2は、実施例3,4のように、ポリヘキサニドとポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とを組み合わせた際の安定性は、実施例5,6のように、さらにエチレンジアミン四酢酸を加えた場合の安定性を上回ることをより明確に示している。とりわけ、ポリヘキサニドとポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とを併用することにより、99%以上という極めて高いタフルプロストの残存率を達成可能であることが確認された。
【0055】
表3は、実施例1,3,4,7~10で、様々な界面活性剤を用いて得られた点眼液の組成及び安定性試験の結果を示す。
【0056】
【表3】
【0057】
表3に示すように、様々な種類のモノステアリン酸ポリオキシエチレングリコール及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を用いた場合に、ポリソルベートを用いた場合よりもタフルプロストの残存率が高くなることが確認された。
【0058】
表4は、実施例2~3,11~14で、様々な防腐剤を用いて得られた点眼液の組成及び安定性試験の結果を示す。
【0059】
【表4】
【0060】
表4に示すように、ポリヘキサニド、クロルヘキシジン、及びクロロブタノールを用いた場合に、ベンザルコニウムを用いた場合よりもタフルプロストの残存率が高くなることが確認された。
【0061】
表5は、比較例4、実施例4,6,15,16で得られた点眼液の組成、及び容器としてポリエチレン容器を用いた場合の安定性試験の結果を示す。
【0062】
【表5】
【0063】
表5に示すように、容器としてポリエチレン容器を用いた場合も、ガラス容器を用いた場合と同様の傾向が見られた。すなわち、比較例4と実施例15との比較からわかるように、防腐剤としてベンザルコニウムの代わりにポリヘキサニドを用いることにより、エチレンジアミン四酢酸を添加しない場合であっても、タフルプロストの安定性は大きく改善した。また、比較例4と実施例16との比較からわかるように、界面活性剤としてポリソルベートの代わりにポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を用いることにより、エチレンジアミン四酢酸を添加しない場合であっても、タフルプロストの安定性は大きく改善した。
【0064】
さらに、ポリヘキサニドとポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とを組み合わせて用いた実施例4では、それぞれを単独で用いた実施例15,16よりもさらに安定性が向上した。そして、実施例4のように、ポリヘキサニドとポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とを組み合わせた際の安定性は、実施例6のように、さらにエチレンジアミン四酢酸を加えた場合の安定性と同等以上であった。
【0065】
これらの結果は、容器にかかわらず、ポリヘキサニド及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油のそれぞれがタフルプロストの安定性を向上させる高い作用を有していることを示している。また、これらの結果は、容器にかかわらず、これらの添加剤を用いる場合には、エチレンジアミン四酢酸の添加量を減らしても、実用的な安定性を有するタフルプロストの点眼液が得られることを示している。
【0066】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【手続補正書】
【提出日】2021-01-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タフルプロストと、ビグアナイド系の防腐剤又はクロロブタノールと、を含有する点眼液。
【請求項2】
前記防腐剤としてポリヘキサニド又はクロルヘキシジンを含有することを特徴とする、請求項1に記載の点眼液。
【請求項3】
前記防腐剤がポリヘキサニドであり、前記防腐剤の濃度が0.001mg/mL以上0.05mg/mL以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の点眼液。
【請求項4】
さらに、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油又はモノステアリン酸ポリオキシエチレングリコールを含有することを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の点眼液。
【請求項5】
さらに、0.1mg/mL以上25mg/mL以下のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を含有することを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の点眼液。
【請求項6】
タフルプロストの濃度が0.01mg/mL以上0.1mg/mL以下であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の点眼液。
【請求項7】
タフルプロストと、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油又はモノステアリン酸ポリオキシエチレングリコールと、防腐剤と、を含有し、
エチレンジアミン四酢酸を含有しないか、又は、0.5mg/mL未満の濃度のエチレンジアミン四酢酸をさらに含有する、点眼液。
【請求項8】
タフルプロストと、ポリヘキサニドと、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油と、を含有する点眼液。
【請求項9】
タフルプロストと、タフルプロストの含有率低下防止剤と、を含有する点眼液であって、前記タフルプロストの含有率低下防止剤は、ポリヘキサニド、クロルヘキシジン、クロロブタノール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、又はモノステアリン酸ポリオキシエチレングリコールであることを特徴とする、点眼液。
【請求項10】
タフルプロストを含有する点眼液におけるタフルプロストの含有率低下を抑制する方法であって、ビグアナイド系の防腐剤若しくはクロロブタノール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、又はモノステアリン酸ポリオキシエチレングリコールを前記点眼液に添加することを含む方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
本発明の目的を達成するために、本発明の一実施形態に係る点眼液は以下の構成を備える。すなわち、タフルプロストと、ビグアナイド系の防腐剤又はクロロブタノールと、を含有する。