(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076417
(43)【公開日】2022-05-19
(54)【発明の名称】複合固体電解質、全固体電池、複合固体電解質の製造方法及び全固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20220512BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220512BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20220512BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220512BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20220512BHJP
H01B 1/10 20060101ALI20220512BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/052
H01M10/0585
H01M4/62 Z
H01B1/06 A
H01B1/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020186846
(22)【出願日】2020-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 諒
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5G301CA05
5G301CA12
5G301CA16
5G301CA19
5G301CA30
5G301CD01
5H029AJ02
5H029AJ03
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5H050CA11
5H050CB01
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5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA09
5H050DA13
5H050HA01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】全固体電池の充放電サイクルにおけるクーロン効率の低下を抑制できる複合固体電解質及びその製造方法を提供する。
【解決手段】硫化物固体電解質と、添加剤とを含み、上記添加剤がS=O結合を有する硫黄系環状化合物、硝酸リチウム又はこれらの組み合わせである複合固体電解質。上記添加剤の含有割合が5質量%以上20質量%以下であることが好ましく、上記硫黄系環状化合物が環状スルホン酸エステルであることがより好ましい。硫化物固体電解質と添加剤とを混合して複合固体電解質を作製することを備え、上記添加剤がS=O結合を有する硫黄系環状化合物、硝酸リチウム又はこれらの組み合わせである複合固体電解質の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化物固体電解質と、添加剤とを含み、
上記添加剤がS=O結合を有する硫黄系環状化合物、硝酸リチウム又はこれらの組み合わせである複合固体電解質。
【請求項2】
上記複合固体電解質における上記添加剤の含有割合が5質量%以上20質量%以下である請求項1に記載の複合固体電解質。
【請求項3】
上記硫黄系環状化合物が環状スルホン酸エステルである請求項1又は請求項2に記載の複合固体電解質。
【請求項4】
負極と、正極と、上記負極及び上記正極の間に介在する電解質層とを備え、
上記負極、上記電解質層又はこれらの組み合わせが請求項1、請求項2又は請求項3の複合固体電解質を含有する全固体電池。
【請求項5】
硫化物固体電解質と添加剤とを混合して複合固体電解質を作製することを備え、
上記添加剤がS=O結合を有する硫黄系環状化合物、硝酸リチウム又はこれらの組み合わせである複合固体電解質の製造方法。
【請求項6】
上記複合固体電解質における上記添加剤の含有割合が5質量%以上20質量%以下である請求項5に記載の複合固体電解質の製造方法。
【請求項7】
請求項1、請求項2若しくは請求項3の複合固体電解質又は請求項5の複合固体電解質の製造方法で得られた複合固体電解質を用いて、負極及び電解質層の少なくとも1つを作製することを備える全固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合固体電解質、全固体電池、複合固体電解質の製造方法及び全固体電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン非水電解質二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、電気的に隔離された一対の電極を有する電極体、及び電極間に介在する非水電解質を備え、両電極間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。
【0003】
近年、非水電解質二次電池の安全性の向上を目的として、非水電解質として有機溶媒等を含有する液体の電解質に代えて硫化物固体電解質等を使用する全固体電池が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
硫化物固体電解質としては、70Li2S・30P2S5ガラスセラミックス及び60Li2S・25P2S5・10Li3Nガラスセラミックスが、10-3S/cm以上の高いイオン伝導度を示すことが報告されている(Solid State Ionics,177,2721(2006)、Solid State Ionics,304,85(2016))。
【0005】
しかしながら、Si:Cu:硫化物固体電解質(77.5Li2S・22.5P2S5)が1:1:5(m/m/m)の構成を有する全固体Li-Siハーフセルにより印加圧力とサイクル特性との関係を評価した場合に、ケイ素の孤立化が生じない程度の高い圧力(230MPa)を印加した状態であってもクーロン効率が低いことが報告されている(Journal of the electrochemical society,160,1,A77(2013))。また、硫化物固体電解質は、本質的に耐酸化性及び当該複合固体電解質の耐還元性が低いことが第一原理計算より明らかにされている(ACS Appl.Mater.Interfaces,7,23685(2015))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ハイブリッド電気自動車(以下、「HEV」ともいう。)やハイブリッド式の産業機械(重機、建機等)に用いられる非水電解質二次電池等の蓄電素子においては、充放電サイクルにおけるクーロン効率の低下を抑制することが求められており、全固体電池においてもさらなるクーロン効率の低下の抑制が望まれる。
【0008】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、全固体電池の充放電サイクルにおけるクーロン効率の低下を抑制できる複合固体電解質の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明の一側面は、硫化物固体電解質と、添加剤とを含み、上記添加剤がS=O結合を有する硫黄系環状化合物、硝酸リチウム又はこれらの組み合わせである複合固体電解質である。
【0010】
本発明の他の一側面は、硫化物固体電解質と添加剤とを混合して複合固体電解質を作製することを備え、上記添加剤がS=O結合を有する硫黄系環状化合物、硝酸リチウム又はこれらの組み合わせである複合固体電解質の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一側面に係る複合固体電解質は、全固体電池の充放電サイクルにおけるクーロン効率の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態における全固体電池を示す模式的断面図である。
【
図2】
図2は、実施例及び参考例の充放電サイクル数とクーロン効率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一側面は、硫化物固体電解質と、添加剤とを含み、上記添加剤がS=O結合を有する硫黄系環状化合物、硝酸リチウム又はこれらの組み合わせである複合固体電解質である。
【0014】
本発明者らは、全固体電池の充放電サイクルにおけるクーロン効率の低下に対する抑制効果の向上を図る上で、硫化物固体電解質の耐還元性を向上させることが必要であると考え、検討を行ったところ、特定の添加剤を用いることで、硫化物固体電解質に耐還元性を付与できることを知見した。そして、特定の添加剤と硫化物固体電解質とを組み合わせることにより、固体電解質の耐還元性を高め、全固体電池の充放電サイクルにおけるクーロン効率の低下を抑制できるのではないかと考え、本発明に至った。
【0015】
当該複合固体電解質は、硫化物固体電解質と、添加剤とを含み、上記添加剤がS=O結合を有する硫黄系環状化合物、硝酸リチウム又はこれらの組み合わせであることで、全固体電池の充放電サイクルにおけるクーロン効率の低下を抑制できる。この理由については定かでは無いが、以下の理由が推測される。一般的な硫化物固体電解質は、還元分解されやすく、大きな還元分解容量を示すことが知られている。当該複合固体電解質は、上記S=O結合を有する硫黄系環状化合物を硫化物固体電解質と組み合わせて、負極又は上記負極と正極との間に介在する電解質層の固体電解質として用いることで、上記S=O結合を有する硫黄系環状化合物が還元により開環して、電子絶縁性のLi2SおよびLi2Oを形成することが考えられる。これにより、極薄の電子絶縁性の被膜が負極又は電解質層の表面上に形成されるため、上記硫化物固体電解質の継続的な還元分解が抑制され、クーロン効率が向上したと推測される。一般的なリチウムイオン非水電解液二次電池に用いられる非水電解液の還元分解電位は1.0V未満(例えばエチレンカーボネートは約0.6V)であるため、例えばリチウムイオン非水電解液二次電池において添加剤としてS=O結合を有する硫黄系環状化合物である1,3-プロペンスルトンを使用した場合、非水電解液の他の構成成分よりも先に上記1,3-プロペンスルトンが分解して負極の表面上に被膜形成することで、非水電解液の分解を抑制できると推測される。これに対し、上記硫化物固体電解質は1,3-プロペンスルトンよりも高い還元分解電位を有しているため、当該複合固体電解質においては、リチウムイオン非水電解液二次電池の非水電解液とは異なったメカニズムによって、効果が得られると考えられる。
一方、当該複合固体電解質は、硫化物固体電解質よりも還元電位が高い硝酸リチウムを硫化物固体電解質と組み合わせて、負極又は上記負極と正極との間に介在する電解質層の固体電解質として用いることで、硝酸リチウムが硫化物固体電解質より先に還元分解される。その結果、負極表面上に硝酸リチウムの還元分解による電子絶縁性の薄い被膜(SEI:Solid Electrolyte Interphase)が形成される。
従って、当該複合固体電解質は、負極側で生じる継続的な固体電解質の還元分解が抑制されるとともに、充放電サイクルにおけるクーロン効率の低下を抑制できる。ここで、「SEI」とは、初回充電時に電解質の還元分解にともなって負極表面上に生じる被膜であり、その後の電解質の還元分解が抑制される不働態として機能すると同時に、リチウムイオン伝導によって負極と電解質との界面でのリチウムイオン脱挿入の場を提供する。
【0016】
上記複合固体電解質における上記添加剤の含有割合が5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。上記添加剤の含有割合が5質量%以上20質量%以下であることで、当該複合固体電解質の耐還元性がより向上し、全固体電池の充放電サイクルにおけるクーロン効率の低下に対する抑制効果をより高めることができる。
【0017】
上記硫黄系環状化合物が環状スルホン酸エステルであることが好ましい。上記硫黄系環状化合物が環状スルホン酸エステルであることで、当該複合固体電解質の耐還元性がより向上し、全固体電池の充放電サイクルにおけるクーロン効率の低下に対する抑制効果をより高めることができる。
【0018】
本発明の他の一側面に係る全固体電池は、負極と、正極と、上記負極及び上記正極の間に介在する電解質層とを備え、上記負極、上記電解質層又はこれらの組み合わせが当該複合固体電解質を含有する。当該全固体電池は、上記負極、上記電解質層又はこれらの組み合わせが当該複合固体電解質を含有するので、添加剤が硫化物固体電解質より先に還元分解される。その結果、負極側で添加剤の還元分解による電子絶縁性の被膜が形成されて、負極側で生じる継続的な上記硫化物固体電解質の還元分解が抑制されるとともに、充放電サイクルにおけるクーロン効率の低下に対する抑制効果が優れる。
【0019】
本発明の他の一側面に係る複合固体電解質の製造方法は、硫化物固体電解質と添加剤とを混合して複合固体電解質を作製することを備え、上記添加剤がS=O結合を有する硫黄系環状化合物、硝酸リチウム又はこれらの組み合わせである。
【0020】
当該複合固体電解質の製造方法が、硫化物固体電解質と添加剤とを混合して複合固体電解質を作製することを備え、上記添加剤がS=O結合を有する硫黄系環状化合物、硝酸リチウム又はこれらの組み合わせであることで、耐還元性を有し、全固体電池の充放電サイクルにおけるクーロン効率の低下に対する抑制効果が優れる複合固体電解質を製造できる。
【0021】
当該複合固体電解質の製造方法が、上記複合固体電解質における上記添加剤の含有割合が5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。上記添加剤の含有割合が5質量%以上20質量%以下であることで、耐還元性がより向上し、全固体電池の充放電サイクルにおけるクーロン効率の低下に対する抑制効果がより優れる複合固体電解質を製造できる。
【0022】
本発明の他の一側面に係る全固体電池の製造方法は、当該複合固体電解質又は当該複合固体電解質の製造方法で得られた複合固体電解質を用いて、負極及び電解質層の少なくとも1つを作製することを備える。当該全固体電池の製造方法が、当該複合固体電解質又は当該複合固体電解質の製造方法で得られた複合固体電解質を用いて、負極及び電解質層の少なくとも1つを作製することを備えるので、充放電サイクルにおけるクーロン効率の低下に対する抑制効果が優れる全固体電池を製造できる。
【0023】
以下、本発明に係る複合固体電解質、全固体電池、複合固体電解質の製造方法及び全固体電池の製造方法の実施形態について詳説する。
【0024】
<複合固体電解質>
当該複合固体電解質は、硫化物固体電解質と、添加剤とを含み、上記添加剤がS=O結合を有する硫黄系環状化合物、硝酸リチウム又はこれらの組み合わせである。当該複合固体電解質は、硫化物固体電解質と、添加剤とを含み、上記添加剤がS=O結合を有する硫黄系環状化合物、硝酸リチウム又はこれらの組み合わせであることで、耐還元性に優れ、全固体電池の充放電サイクルにおけるクーロン効率の低下を抑制できる。当該複合固体電解質は、イオン伝導性を必要とする任意の用途に用いることができる。中でも、当該複合固体電解質は、リチウム全固体電池に用いられることが好ましい。
【0025】
上記硫化物固体電解質としては、リチウムイオン伝導性が高いことが好ましく、例えばLi2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiI、Li2S-P2S5-LiCl、Li2S-P2S5-LiBr、Li2S-P2S5-Li2O、Li2S-P2S5-Li2O-LiI、Li2S-P2S5-Li3N、Li2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-LiBr、Li2S-SiS2-LiCl、Li2S-SiS2-B2S3-LiI、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-B2S3、Li2S-P2S5-ZmS2n(ただし、m、nは正の数、Zは、Ge、Zn、Gaのいずれかである。)、Li2S-GeS2、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-LixMOy(ただし、x、yは正の数、Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれかである。)、Li10GeP2S12等を挙げることができる。これらの中でも、リチウムイオン伝導性が良好な観点から、Li2S-P2S5が好ましく、xLi2S・(100-x)P2S5(70≦x≦80)がより好ましい。
【0026】
添加剤は、S=O結合を有する硫黄系環状化合物、硝酸リチウム又はこれらの組み合わせである。当該複合固体電解質は、上記S=O結合を有する硫黄系環状化合物を添加剤として用いることで、上記硫黄系環状化合物が還元により開環して、電子絶縁性のLi2SおよびLi2Oを形成することが考えられる。これにより、極薄の電子絶縁性の被膜が負極又は電解質層の表面上に形成されると考えられる。一方、当該複合固体電解質は、硫化物固体電解質よりも還元電位が高い硝酸リチウムを添加剤として用いることで、硝酸リチウムが硫化物固体電解質より先に還元分解される。その結果、負極又は電解質層の表面上にSEIが形成される。このように、当該複合固体電解質は、負極側で生じる継続的な上記硫化物固体電解質の還元分解が抑制されるとともに、充放電サイクルにおけるクーロン効率の低下を抑制できる。
【0027】
上記S=O結合を有する硫黄系環状化合物としては、スルトン系化合物、環状サルフェート化合物、環状サルファイト化合物、スルホラン系化合物、環状ジスルホネート系化合物、スルホ安息香酸無水物等が挙げられる。
【0028】
スルトン化合物としては、1,3-プロパンスルトン、1,3-プロペンスルトン、2,4-ブタンスルトン、1,4-ブタンスルトン等が挙げられる。
【0029】
環状サルファイト化合物としては、エチレンサルファイト、1,2-プロピレングリコールサルファイト、トリメチレンサルファイト、1,3-ブチレングリコールサルファイト等が挙げられる。
【0030】
スルホラン系化合物としては、スルホラン、3-スルホレン、1,1-ジオキソチオフェン、3-メチルスルホラン、3-メチル-2,5-ジヒドロチオフェン-1,1-ジオキシド、3-スルホレン-3-カルボン酸メチル等が挙げられる。
【0031】
環状ジスルホネート系化合物としては、メチレン-メタンジスルホン酸エステル、エチレン-メタンジスルホン酸エステル等が挙げられる。
【0032】
上記硫黄系環状化合物としては、環状スルホン酸エステルであることが好ましい。上記硫黄系環状化合物が環状スルホン酸エステルであることで、当該複合固体電解質の耐還元性がより向上し、全固体電池の充放電サイクルにおけるクーロン効率の低下に対する抑制効果をより高めることができる。
【0033】
当該複合固体電解質における上記添加剤の含有割合の下限としては、1質量%が好ましく、3質量%がより好ましく、5質量%がさらに好ましい。一方、上記添加剤の含有割合の上限としては、20質量%が好ましく、18質量%がより好ましく、15質量%がさらに好ましい。上記添加剤の含有割合が上記範囲であることで、当該複合固体電解質の耐還元性がより向上し、全固体電池の充放電サイクルにおけるクーロン効率の低下に対する抑制効果をより高めることができる。当該複合固体電解質における上記添加剤の含有割合の好ましい範囲は、リチウムイオン非水電解液二次電池における添加剤の含有割合と比べて高くなっている。これは、リチウムイオン非水電解液二次電池では負極-非水電解液界面で添加剤が消費されても、バルクからの拡散により負極-非水電解液界面に添加剤が供給されるため、添加剤の含有割合が少ない範囲であっても効果を得ることができる。一方、全固体電池においては、固体電解質中に粒子状の添加剤が分散された状態で存在することから、上記リチウムイオン非水電解液二次電池のような状態が生じにくくなる結果、添加剤の含有割合がリチウムイオン非水電解液二次電池のように少ない範囲では効果が得がたいためと推測される。
【0034】
当該複合固体電解質の25℃におけるイオン伝導度の下限としては、1.0×10-5S/cmが好ましく、5.0×10-5S/cmがより好ましく、1.0×10-4がさらに好ましい。当該複合固体電解質の25℃におけるイオン伝導度が上記範囲であることで、全固体電池の高率充放電性能を向上できる。
【0035】
当該複合固体電解質は、全固体電池の負極用固体電解質及び電解質層用固体電解質として好適に使用できる。
【0036】
<全固体電池>
当該全固体電池は、負極と、正極と、上記負極及び上記正極の間に介在する電解質層とを備える。
図1は、本発明の一実施形態における全固体電池10を示す模式的断面図である。二次電池である全固体電池10は、負極1と、正極2とが固体電解質層3を介して配置される。負極1は、負極基材4及び負極合剤層5を有し、負極基材4が負極1の最外層となる。正極2は、正極基材7及び正極合剤層6を有し、正極基材7が正極2の最外層となる。
図1に示す全固体電池10においては、正極基材7上に、正極合剤層6、固体電解質層3、負極合剤層5及び負極基材4がこの順で積層されている。
【0037】
当該全固体電池は、負極1、固体電解質層3又はこれらの組み合わせが当該複合固体電解質を含有する。当該全固体電池は、負極1、固体電解質層3又はこれらの組み合わせが当該複合固体電解質を含有するので、充放電サイクルにおけるクーロン効率の低下に対する抑制効果が優れる。
【0038】
当該全固体電池は、当該複合固体電解質以外のその他の固体電解質を併せて用いるようにしてもよい。その他の固体電解質としては、当該複合固体電解質以外の硫化物固体電解質であってもよいし、酸化物系固体電解質、ドライポリマー電解質、ゲルポリマー電解質、疑似固体電解質であってもよい。
【0039】
当該複合固体電解質以外の硫化物固体電解質としては、上述の硫化物固体電解質を用いることができる。
【0040】
[負極]
負極1は、負極基材4と、この負極基材4の表面に積層される負極合剤層5とを備える。負極1は負極基材4と負極合剤層5との間に図示しない中間層を有していてもよい。
【0041】
(負極基材)
負極基材4は導電性を有する層である。負極基材4の材質としては、導電体であれば限定されない。例えば、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル、タンタル、ニオブ、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス、アンチモン、金、銀、鉄、白金、クロム、スズ、インジウム及びこれらの一種以上を含む合金並びにステンレス合金からなる群から選択される一種以上の金属を挙げることができる。
【0042】
負極基材4の平均厚さの下限としては、3μmが好ましく、5μmがより好ましく、8μmがさらに好ましい。負極基材4の平均厚さの上限としては、200μmが好ましく、100μmがより好ましく、50μmがさらに好ましい。負極基材4の平均厚さを上記下限以上とすることで、負極基材4の強度を十分に高くできるため、負極1を良好に形成できる。負極基材4の平均厚さを上記上限以下とすることで、他の構成要素の体積を十分に確保できる。
【0043】
(負極合剤層)
負極合剤層5は、負極活物質を含むいわゆる負極合剤から形成することができる。負極合剤は、負極活物質と固体電解質とを含む混合物又は複合体を含有してもよい。固体電解質は当該複合固体電解質であってもよい。また、負極合剤は、負極活物質と混合物又は複合体を形成していない当該複合固体電解質を含有してもよい。負極合剤は、必要に応じて、当該複合固体電解質以外の固体電解質、導電剤、バインダー、フィラー等の任意成分を含む。
【0044】
〈負極活物質〉
負極活物質としては、公知の負極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。負極活物質としては、例えば、金属Li;Si、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Ti酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;Li4Ti5O12、LiTiO2、TiNb2O7等のチタン含有酸化物;ポリリン酸化合物;炭化ケイ素;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。これらの材料の中でも、黒鉛及び非黒鉛質炭素が好ましい。負極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0045】
「黒鉛」とは、充放電前又は放電状態において、X線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。安定した物性の材料を入手できるという観点で、人造黒鉛が好ましい。
【0046】
「非黒鉛質炭素」とは、充放電前又は放電状態においてX線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.34nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。非黒鉛質炭素としては、難黒鉛化性炭素や、易黒鉛化性炭素が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、例えば、樹脂由来の材料、石油ピッチまたは石油ピッチ由来の材料、石油コークスまたは石油コークス由来の材料、植物由来の材料、アルコール由来の材料等が挙げられる。
【0047】
ここで、「放電状態」とは、負極活物質として炭素材料を含む負極を作用極として、金属Liを対極として用いた単極電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態をいう。開回路状態での金属Li対極の電位は、Liの酸化還元電位とほぼ等しいため、上記単極電池における開回路電圧は、Liの酸化還元電位に対する炭素材料を含む負極の電位とほぼ同等である。つまり、上記単極電池における開回路電圧が0.7V以上であることは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されていることを意味する。
【0048】
「難黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.36nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。
【0049】
「易黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.34nm以上0.36nm未満の炭素材料をいう。
【0050】
負極合剤における負極活物質の含有量の下限としては、10質量%が好ましく、15質量%がより好ましい。負極活物質の含有量の上限としては、60質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、80質量%がさらに好ましく、90質量%がよりさらに好ましく、95質量%が特に好ましい。負極活物質の含有量を上記範囲とすることで、当該全固体電池の電気容量を高めることができる。
【0051】
〈混合物又は複合体〉
上記混合物とは、負極活物質及び当該複合固体電解質をメカニカルミリング等で混合することにより作製される混合物である。例えば、負極活物質と当該複合固体電解質との混合物は、粒子状の負極活物質及び粒子状の当該複合固体電解質を混合して得ることができる。
上記複合体としては、負極活物質及び当該複合固体電解質間で化学的又は物理的な結合を有する複合体、負極活物質及び当該複合固体電解質を機械的に複合化させた複合体等が挙げられる。上記複合体は、一粒子内に負極活物質及び当該複合固体電解質が存在しているものであり、例えば、負極活物質及び当該複合固体電解質が凝集状態を形成しているもの、負極活物質の表面の少なくとも一部に当該複合固体電解質含有被膜が形成されているものなどが挙げられる。
上記混合物又は複合体は、当該複合固体電解質以外の固体電解質を含有してもよい。
負極合剤が含有する負極活物質及び当該複合固体電解質が、混合物又は複合体を構成することで、高いイオン伝導度を維持しつつ当該複合固体電解質の耐還元性を向上できるので、充放電サイクルにおけるクーロン効率の低下に対する抑制効果が優れる。
【0052】
負極合剤が当該複合固体電解質を含有する場合、負極合剤における当該複合固体電解質の含有量の下限としては、5質量%であってもよく、10質量%が好ましい。負極合剤における当該複合固体電解質の含有量の上限は、90質量%が好ましく、85質量%がより好ましく、80質量%がさらに好ましく、75質量%が特に好ましい。負極合剤における当該複合固体電解質の含有量を上記範囲とすることで、上記負極が当該複合固体電解質を含有する場合に全固体電池の充放電サイクルにおけるクーロン効率の低下に対する抑制効果をより向上できる。
【0053】
負極合剤は、当該複合固体電解質以外の固体電解質を含有してもよい。負極合剤が当該複合固体電解質以外の固体電解質を含有する場合、負極合剤における固体電解質の全含有量の下限としては、5質量%であってもよく、10質量%が好ましい。負極合剤における固体電解質の全含有量の上限は、90質量%が好ましく、85質量%がより好ましく、80質量%がさらに好ましく、75質量%が特に好ましい。固体電解質の全含有量を上記範囲とすることで、当該全固体電池の電気容量を高めることができる。
【0054】
〈その他の任意の成分〉
上記導電剤としては、特に限定されない。このような導電剤としては、天然又は人造の黒鉛、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、金属、導電性セラミックスなどが挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。上記負極合剤における導電剤の含有量としては、例えば0.5質量%以上30質量%以下とすることができる。上記負極合剤は、導電剤を含有しなくてもよい。
【0055】
上記バインダーとしては、特に限定されない。バインダーとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0056】
上記フィラーとしては、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、アルミナ、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。
【0057】
負極合剤層5の平均厚さの下限としては、30μmが好ましく、60μmがより好ましい。負極合剤層5の平均厚さの上限としては、1000μmが好ましく、500μmがより好ましく、200μmがさらに好ましい。負極合剤層5の平均厚さを上記下限以上とすることで、高いエネルギー密度を有する全固体電池を得ることができる。負極合剤層5の平均厚さを上記上限以下とすることで、高率放電性能に優れ、活物質利用率の高い負極を備える全固体電池を得ることができる。
【0058】
(中間層)
上記中間層は、負極基材4の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで負極基材4と負極合剤層5との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば樹脂バインダー及び導電性粒子を含有する組成物により形成できる。
【0059】
[固体電解質層]
固体電解質層3は、固体電解質層用電解質を含有する。固体電解質層用電解質としては、上述の当該複合固体電解質以外にも、例えば酸化物系固体電解質、その他の硫化物固体電解質、ドライポリマー電解質、ゲルポリマー電解質、疑似固体電解質などを挙げることができる。これらの中では、イオン伝導度が良好であり、界面形成が容易であるなどの観点から硫化物固体電解質が好ましく、当該複合固体電解質がより好ましい。固体電解質層3が、当該複合固体電解質を含有することで、高いイオン伝導度を維持しつつ当該複合固体電解質の耐還元性を向上できるので、充放電サイクルにおけるクーロン効率の低下に対する抑制効果が優れる。
【0060】
固体電解質層用電解質は、結晶構造を有してもよく、結晶構造を有さない非晶質であってもよい。固体電解質層用電解質には、Li3PO4等の酸化物やハロゲン、ハロゲン化合物等を添加してもよい。
【0061】
固体電解質層3の平均厚さの下限としては、1μmが好ましく、3μmがより好ましい。固体電解質層3の平均厚さの上限としては、50μmが好ましく、20μmがより好ましい。固体電解質層3の平均厚さを上記下限以上とすることで、正極と負極とを確実に絶縁することが可能となる。固体電解質層3の平均厚さを上記上限以下とすることで、全固体電池のエネルギー密度を高めることが可能となる。
【0062】
[正極]
正極2は、正極基材7と、この正極基材7の表面に積層される正極合剤層6とを備える。正極2は、負極1と同様、正極基材7と正極合剤層6との間に中間層を有していてもよい。この中間層は負極1の中間層と同様の構成とすることができる。
【0063】
(正極基材)
正極基材7は、負極基材4と同様の構成とすることができる。正極基材7の材質としては、導電体であれば限定されない。例えば、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル、タンタル、ニオブ、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス、アンチモン、金、銀、鉄、白金、クロム、スズ、インジウム及びこれらの一種以上を含む合金、並びにステンレス合金からなる群から選択される一種以上の金属を挙げることができる。
【0064】
正極基材7の平均厚さの下限としては、3μmが好ましく、5μmがより好ましい。正極基材7の平均厚さの上限としては、200μmが好ましく、100μmがより好ましく、50μmがさらに好ましい。正極基材7の平均厚さを上記下限以上とすることで、正極基材7の強度を十分に高くできるため、正極2を良好に形成できる。正極基材7の平均厚さを上記上限以下とすることで、他の構成要素の体積を十分に確保できる。
【0065】
(正極合剤層)
正極合剤層6は、正極活物質を含むいわゆる正極合剤から形成することができる。正極合剤は、正極活物質と上記硫化物固体電解質とを含む混合物又は複合体を含有してもよい。正極合剤は、正極活物質と混合物又は複合体を形成していない上記硫化物固体電解質を含有してもよい。上記硫化物固体電解質は、当該複合固体電解質であってもよい。正極合剤層6を形成する正極合剤は、負極合剤と同様、必要に応じて、上記硫化物固体電解質以外の固体電解質、導電剤、バインダー、フィラー等の任意成分を含む。
【0066】
〈正極活物質〉
正極合剤層6に含まれる正極活物質としては、全固体電池に通常用いられる公知のものが使用できる。上記正極活物質としては、正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。正極活物質としては、例えば、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LixNi1-x]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγCo(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixCo(1-x)]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγMn(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixNiγMnβCo(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)、Li[LixNiγCoβAl(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、LixMn2O4、LixNiγMn(2-γ)O4等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4、Li3V2(PO4)3、Li2MnSiO4、Li2CoPO4F等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。これらの材料は表面が他の材料で被覆されていてもよい。正極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。正極合剤層6においては、これら化合物の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0067】
また、正極活物質としては、Li-Al、Li-In、Li-Sn、Li-Pb、Li-Bi、Li-Ga、Li-Sr、Li-Si、Li-Zn、Li-Cd、Li-Ca、Li-Ba等のリチウム合金や上記一般式で表される化合物以外のMnO2、FeO2、TiO2、V2O5、V6O13、TiS2等の、反応電位が負極材料よりも貴な材料を用いることができる。
【0068】
正極合剤における正極活物質の含有量の下限としては、10質量%が好ましく、15質量%がより好ましい。正極活物質の含有量の上限としては、60質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、80質量%がさらに好ましく、90質量%がよりさらに好ましく、95質量%が特に好ましい。正極活物質の含有量を上記範囲とすることで、当該全固体電池の電気容量を高めることができる。
【0069】
〈混合物又は複合体〉
上記混合物とは、正極活物質及び上記硫化物固体電解質等をメカニカルミリング等で混合することにより作製される混合物である。例えば、正極活物質と上記硫化物固体電解質等との混合物は、粒子状の正極活物質及び粒子状の上記硫化物固体電解質等を混合して得ることができる。
上記複合体としては、正極活物質及び上記硫化物固体電解質等間で化学的又は物理的な結合を有する複合体、正極活物質及び上記硫化物固体電解質等を機械的に複合化させた複合体等が挙げられる。上記複合体は、一粒子内に正極活物質及び上記硫化物固体電解質等が存在しているものであり、例えば、正極活物質及び上記硫化物固体電解質等が凝集状態を形成しているもの、正極活物質の表面の少なくとも一部に上記硫化物固体電解質等含有被膜が形成されているものなどが挙げられる。
【0070】
正極合剤が固体電解質を含有する場合、固体電解質の含有量の下限としては、5質量%であってもよく、10質量%が好ましい。正極合剤における固体電解質の含有量の上限は、90質量%が好ましく、85質量%がより好ましく、80質量%がさらに好ましく、75質量%が特に好ましい。固体電解質の含有量を上記範囲とすることで、当該全固体電池の電気容量を高めることができる。
【0071】
正極合剤層6の平均厚さの下限としては、30μmが好ましく、60μmがより好ましい。正極合剤層6の平均厚さの上限としては、1000μmが好ましく、500μmがより好ましく、200μmがさらに好ましい。正極合剤層6の平均厚さを上記下限以上とすることで、高いエネルギー密度を有する全固体電池を得ることができる。正極合剤層6の平均厚さを上記上限以下とすることで、高率放電性能に優れ、活物質利用率の高い正極を備える全固体電池を得ることができる。
【0072】
<複合固体電解質の製造方法>
当該複合固体電解質の製造方法は、硫化物固体電解質と添加剤とを混合して複合固体電解質を作製することを備える。上記添加剤としては、上述のS=O結合を有する硫黄系環状化合物、硝酸リチウム又はこれらの組み合わせを用いる。
【0073】
上記複合固体電解質を作製する方法としては、例えば(1)始めに硫化物固体電解質を合成した後、添加剤を混合して複合固体電解質を合成する方法、(2)硫化物固体電解質の出発原料と添加剤とを混合して、添加剤を含む複合固体電解質前駆体を作製した後、上記複合固体電解質前駆体から複合固体電解質を合成する方法等が挙げられる。
【0074】
(1)硫化物固体電解質合成後に添加剤を含む複合固体電解質を合成する方法
本方法においては、硫化物固体電解質合成工程後、複合固体電解質合成工程が行われる。
【0075】
(硫化物固体電解質合成工程)
本工程では、例えば、以下の手順により、硫化物固体電解質を作製する。
所定のモル比の硫化物固体電解質の出発原料(Li2S、P2S5等)を乳鉢等で混合した後、硫化物固体電解質を作製する。硫化物固体電解質を作製する方法としては、例えばメカニカルミリング法、溶融急冷法等を用いることができる。
硫化物固体電解質ガラスセラミックスを作製する場合は、硫化物固体電解質を作製後に、結晶化温度以上で熱処理することにより、硫化物固体電解質ガラスセラミックスを作製することができる。上記結晶化温度は、示差走査熱計(DSC)による測定で求めることができる。
【0076】
(複合固体電解質合成工程)
本工程では、例えばメカニカルミリング法等を用いて上記硫化物固体電解質と、添加剤とを混合し、硫化物固体電解質と添加剤とを混合することにより、複合固体電解質を合成する。上記複合固体電解質における添加剤の含有割合の好ましい範囲は、上述した通りである。
【0077】
(2)硫化物固体電解質の出発原料と添加剤との混合後に複合固体電解質を合成する方法
本方法においては、硫化物固体電解質の出発原料(Li2S、P2S5等)と、添加剤とを混合して、添加剤を含む複合固体電解質前駆体を作製する。その後、例えばメカニカルミリング法、溶融急冷法、熱処理等により、複合固体電解質を作製することができる。
【0078】
当該複合固体電解質の製造方法は、硫化物固体電解質と上記添加剤とを混合して複合固体電解質を作製することを備えるので、耐還元性を有し、全固体電池の充放電サイクルにおけるクーロン効率の低下に対する抑制効果が優れる複合固体電解質を製造できる。
【0079】
<全固体電池の製造方法>
当該全固体電池の製造方法は、当該複合固体電解質又は当該複合固体電解質の製造方法で得られた複合固体電解質を用いて、負極及び電解質層の少なくとも1つを作製することを備える。また、当該全固体電池の製造方法は、その他の工程として、例えば負極合剤作製工程と、固体電解質層用電解質作製工程と、正極合剤作製工程と、負極、固体電解質層及び正極を積層する積層工程とを備えていてもよい。当該複合固体電解質及び当該複合固体電解質の製造方法で得られた複合固体電解質の詳細は、上述の通りである。
【0080】
(負極合剤作製工程)
本工程では、負極を形成するための負極合剤が作製される。負極合剤が、負極活物質と、当該複合固体電解質とを含む混合物又は複合体を含有する場合、本工程では、例えばメカニカルミリング法等を用いて負極活物質と、当該複合固体電解質とを混合し、負極活物質と当該複合固体電解質との混合物又は複合体を作製することを備える。また、上記メカニカルミリング法を用いずに、負極合剤を作製してもよい。この場合、例えば、負極活物質、固体電解質、導電剤等を含有する負極合剤ペーストを作製することと、負極基材に塗布することを備えていてもよい。なお、負極合剤が当該複合固体電解質を含む場合、当該複合固体電解質又は当該複合固体電解質の製造方法で得られた複合固体電解質を用いる。
【0081】
(固体電解質層作製工程)
本工程では、固体電解質層が作製される。本工程では、固体電解質層用電解質の所定の材料をメカニカルミリング法により処理して得ることができる。溶融急冷法により固体電解質層用電解質の所定の材料を溶融温度以上に加熱して所定の比率で両者を溶融混合し、急冷することにより固体電解質層用電解質を作製してもよい。その他の固体電解質層用電解質の合成方法としては、例えば減圧封入して焼成する固相法、溶解析出などの液相法、気相法(PLD)、メカニカルミリング後にアルゴン雰囲気下で焼成する方法などが挙げられる。なお、固体電解質層用電解質が当該複合固体電解質である場合は、固体電解質層用電解質として、当該複合固体電解質又は当該複合固体電解質の製造方法で得られた複合固体電解質を用いる。
【0082】
(正極合剤作製工程)
本工程では、正極を形成するための正極合剤が作製される。正極合剤の作製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、正極活物質の圧縮成形、正極合剤の所定の材料のメカニカルミリング処理、正極活物質のターゲット材料を用いたスパッタリング等が挙げられる。正極合剤が、正極活物質と硫化物固体電解質とを含む混合物又は複合体を含有する場合、本工程では、例えばメカニカルミリング法等を用いて正極活物質と、硫化物固体電解質とを混合し、正極活物質と硫化物固体電解質との混合物又は複合体を作製することを備える。また、上記負極合剤作製工程と同様、上記メカニカルミリング法を用いずに、正極合剤を作製してもよい。この場合、例えば、正極活物質、固体電解質、導電剤等を含有する正極合剤ペーストを作製することと、正極基材に塗布することを備えていてもよい。
【0083】
(積層工程)
本工程は、負極基材及び負極合剤層を有する負極、固体電解質層、並びに正極基材及び正極合剤層を有する正極が積層される。本工程では、負極、固体電解質層、及び正極を順次積層してもよいし、この逆であってもよく、各層の積層の順序は特に問わない。上記負極は、例えば負極基材及び負極合剤を加圧成型することにより形成され、上記固体電解質層は、例えば固体電解質層用電解質を加圧成型することにより形成され、上記正極は、例えば正極基材及び正極合剤を加圧成型することにより形成される。
【0084】
負極基材、負極合剤、固体電解質層用電解質、正極基材及び正極合剤を一度に加圧成型することにより、負極、固体電解質層及び正極が積層されてもよい。正極、負極、又はこれらの層を予め成形し、固体電解質層と加圧成型して積層してもよい。
【0085】
当該全固体電池の製造方法は、当該複合固体電解質又は当該複合固体電解質の製造方法で得られた複合固体電解質を用いて、負極及び電解質層の少なくとも1つを作製することを備えるので、充放電サイクルにおけるクーロン効率の低下に対する抑制効果が優れる全固体電池を製造できる。
【0086】
[その他の実施形態]
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記実施形態の他に、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【0087】
本発明に係る全固体電池は、その他の構成として例えば中間層や接着層のように、負極、正極及び固体電解質層以外の層を備えていてもよい。
【0088】
<実施例>
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0089】
[複合固体電解質の作製]
(実施例1)
露点-50℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内でLi2S(99.98質量%、Aldrich製)及びP2S5(99質量%、Aldrich製)をモル比で75:25となるように秤量した後に、乳鉢で混合した。この混合試料を、密閉式のジルコニアポットに投入した。遊星ボールミル(FRITSCH社製、型番Premium line P-7)によって公転回転数510rpmで45時間のミリング処理を行い、75Li2S・25P2S5を得た。
【0090】
次に、75Li2S・25P2S5と添加剤である硝酸リチウムとを質量比で90:10となるように秤量・混合した後に、遊星型ボールミルを用いて公転回転数370rpmで2時間メカニカルミリングすることにより、実施例1の複合固体電解質を合成した。
【0091】
(実施例2)
添加剤を環状スルホン酸エステルである1,3-プロペンスルトン(PRS)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の複合固体電解質を合成した。
【0092】
(比較例1)
実施例1における添加剤を混合する前の75Li2S・25P2S5を比較例1とした。
【0093】
(比較例2)
添加剤をヨウ化リチウムに変更したこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の複合固体電解質を合成した。
【0094】
[耐還元性評価セルの作製]
内径10mmのポリカーボネート製チューブに、実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2それぞれの固体電解質を120mg挿入した後に360MPaで加圧成型した。圧力解放後に、対極側に金属Li箔を、作用極側に金属ln箔をそれぞれ貼り合わせた後に、120MPaで加圧成型し、ペレットを得た。これを宝泉製HSセル内に挿入することにより耐還元性評価用セルを作製した。なお、各耐還元性評価セル内におけるペレットは、HSセル内のバネにより5MPa程度加圧された状態になっている。
【0095】
[評価]
(充放電サイクル試験:クーロン効率)
(1)充放電サイクル試験
各耐還元性評価セルを、50℃の恒温槽内に30分保管した後、電流密度0.1mAhcm
-1で、充放電時間10時間の定電流定電圧充放電を行った。充電は、充電終止電圧0.2Vとした。放電は、放電終止電圧1.1Vとした。充電及び放電の工程の後、それぞれ30分間の休止を設けた。これら充電及び放電の工程を1サイクルとして、実施例1、実施例2及び比較例1については3サイクル繰り返し、比較例2については4サイクル繰り返した。充電、放電及び休止ともに、50℃の恒温槽内で行った。
(2)クーロン効率
上記充放電サイクル試験における各耐還元性評価セルについて、1から5サイクルにおける充電電気量(Ah)に対する1から5サイクルにおける放電容量(Ah)の百分率を1から5サイクルにおける「クーロン効率(%)」として求めた。結果を
図2に示す。
【0096】
図2に示されるように、S=O結合を有する硫黄系環状化合物又は硝酸リチウムを添加剤として含む実施例1及び実施例2の複合固体電解質は、添加剤を含まない比較例1及び添加剤としてヨウ化リチウムを含む比較例2と比べて充放電サイクルにおけるクーロン効率低下に対する抑制効果が優れていた。
【0097】
以上の結果から、本発明の一側面に係る複合固体電解質は、全固体電池の充放電サイクルにおけるクーロン効率の低下を抑制できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明に係る複合固体電解質及び全固体電池は、充放電サイクルにおけるクーロン効率の低下に対する抑制効果が優れるので、例えばHEV用の全固体電池及びそれに用いられる固体電解質として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0099】
1 負極
2 正極
3 固体電解質層
4 負極基材
5 負極合剤層
6 正極合剤層
7 正極基材
10 全固体電池