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▶ 古川 憲一の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076429
(43)【公開日】2022-05-19
(54)【発明の名称】ガーメントプリント方式
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20220512BHJP
   D06P 5/28 20060101ALI20220512BHJP
   B41M 5/52 20060101ALI20220512BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20220512BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20220512BHJP
【FI】
B41M5/00 100
D06P5/28
B41M5/00 120
B41M5/52 100
B41M5/00 134
B41J2/01 501
C09D11/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2020195534
(22)【出願日】2020-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】591167946
【氏名又は名称】古川 憲一
(72)【発明者】
【氏名】古川 憲一
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4H157
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA13
2C056FC01
2C056FC06
2C056FD03
2C056FD20
2H186AB10
2H186AB13
2H186AB16
2H186AB23
2H186AB44
2H186AB46
2H186AB57
2H186BA11
2H186BB01X
2H186BB55X
2H186FA13
2H186FB53
4H157AA02
4H157BA12
4H157CA29
4H157CB13
4H157DA01
4H157DA24
4H157DA34
4H157FA16
4H157FA44
4H157FA45
4H157FA46
4H157GA05
4H157JA13
4H157JA14
4J039AE06
4J039BC09
4J039BE12
4J039EA36
4J039FA03
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】 あらゆる種類の繊維製品にインクジェット方式でカラー画像を印刷する。
【解決手段】 昇華性インクをセットするノズルとは別途に、繊維固着インクをセットするノズルを備えたインクジェットプリンタを準備する。繊維固着インクは水分散ポリエステル樹脂溶液、水混和性の高沸点液体、及び精製水を配合してなる。水転写紙に昇華性インクを用いてカラー画像をインクジェット噴射するのと同期して、繊維固着インクを用いてカラー画像のグレースケール画像をインクジェット噴射する。これにより水転写紙上には昇華性インクとポリエステル樹脂と高沸点液体が混合した画像が定着する。その水転写紙を繊維製品に重ねて190℃程度で30秒間程度熱圧着する。この結果、溶融したポリエステル樹脂は高沸点液体と混濁して粘度の低い染色された溶融樹脂インクとなって繊維内部に浸透して固着する。そのあと水転写紙の背面に水分を付与して水転写紙の基紙を剥離する。なお昇華性インクによるインクジェット噴射と、繊維固着インクによるインクジェット噴射を別工程に分離して実施しても差し支えない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透水性の基紙に水溶性樹脂をコーティングしてなる水転写紙に、昇華性インクを用いてカラー画像をインクジェット噴射し、乾燥後その水転写紙に水分散ポリエステル樹脂を含有する繊維固着インクを用いて、そのカラー画像のグレースケール画像をインクジェットで重ね噴射し、そのあとその水転写紙を繊維製品に重ねて熱圧着し、そのあと水転写紙の背面に水分を付与して基紙を剥離すること、を特徴とするガーメントプリント方式。
【請求項2】
透水性の基紙に水溶性樹脂をコーティングしてなる水転写紙に、昇華性インクを用いてカラー画像をインクジェット噴射するとき、それと同期して水分散ポリエステル樹脂を含有する繊維固着インクを用いて、そのカラー画像のグレースケール画像をインクジェット噴射し、そのあとその水転写紙を繊維製品に重ねて熱圧着し、そのあと水転写紙の背面に水分を付与して基紙を剥離すること、を特徴とするガーメントプリント方式。
【請求項3】
繊維固着インクが水混和性の高沸点液体を含有すること、を特徴とする請求項1、及び2記載のガーメントプリント方式。
【請求項4】
高沸点液体がセロソルブ類、グリコール類、またはグリセリン類であること、を特徴とする請求項3記載のガーメントプリント方式。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維製品にカラー画像を印刷する技術に関する。詳しくはカラー画像を布帛やそれらの縫製品などの繊維製品に転写印刷する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維製品にカラー画像を印刷する場合、繊維製品に対して捺染顔料インクを用いてダイレクトにインクジェット印刷することが行なわれている。このインクには色材としての顔料とともにバインダ(結着樹脂)がインク溶液中に分散してあり、噴射されたインクは繊維に浸透して固着する。しかし、浸透し過ぎると印刷画像が滲んでしまうとともに表面濃度が落ちるので、事前に繊維製品の表面に樹脂加工を施して浸透を押えている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ダイレクトに捺染顔料インクでインクジェット印刷する方式は、フラットベッドを備えたタイプのプリンタで、XYZの3軸を駆動する必要があり、構造が複雑になり高価である。また平板な面に載せて印刷するので、Tシャツなどと違って凹凸のある形状に縫製された製品には適用出来ない。例えば上着、ズボン、コートである。これを解決することを目指して本発明者は「印刷画像のみの転写方法」(特開2014-162226号)を開示した。その概略は以下の通りである。透水性の基紙に水溶性樹脂をコーティングしてなる水転写紙に、昇華性インクを用いて画像をインクジェット噴射する。そのあと印刷画像上に接着性インクを用いてインクジェットで重ね噴射し、粘着性となった印刷画像に熱接着性のポリエステル樹脂粉体を付着させる。そしてその水転写紙を繊維製品と熱圧着し、そのあと水転写紙の背面より水分を含ませて基紙を剥離する転写方法である。これによりポリエステル樹脂粉体は昇華性染料により染色された溶融樹脂となって繊維に固着する。昇華性染料は顔料と違って分子状態になって発色するので着色力が大きく、自己よりもはるかに大きな体積の樹脂を着色出来る利点がある。そのうえ色彩も鮮やかである。この結果、繊維製品の素材、サイズ、形状にかかわりなく、印刷した水転写紙を繊維製品に重ねて、必要面積分だけアイロンで押圧加熱することで、あらゆる種類の繊維製品に手軽に印刷することが出来る。
【0004】
しかし、熱転写されたポリエステル樹脂層は溶融しても、溶融粘度が高いので冷却後はそのまま接着層として、フイルム状に繊維製品表面に固着する。そのため凹凸のある表面に織られている繊維の深部まで樹脂が浸透していないので、印刷画像の耐擦性および耐洗濯性が弱いという重大な難点があった。また100ミクロン以下の細かな粉体を、暴露環境でハンドリングするという作業上の難点もあった。故に本発明の課題は、前記発明が抱えるふたつの難点、即ち耐擦性、耐洗濯性、及び粉体ハンドリング問題を解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は鋭意検討の結果、前記発明における繊維製品への熱接着性ポリエステル樹脂の付与を、粉体方式に拠るのではなくインクジェット噴射方式で、即ち水分散ポリエステル樹脂溶液に水混和性である高沸点液体(セロソルブ類、グリコール類、グリセリン類など、以降、樹脂流動剤と称する。)を適量含有する繊維固着インクをインクジェット噴射する方式に転換することで、前記課題を両方とも抜本解決出来ることに思い到り本発明に到達したものである。
【0006】
印刷手順は以下の通りである。まず昇華性インクを用いて水転写紙にカラー画像をインクジェット噴射する。それを乾燥させたあと、繊維固着インクを用いてカラー画像のグレースケール画像を重ねインクジェット噴射する。これにより水転写紙上には昇華性インクとポリエステル樹脂と樹脂流動剤が混合した材料よりなる印刷画像が定着する。そのあと水転写紙と繊維製品を180℃程度で30秒程間ほど熱圧着し、冷却後、水転写紙背面に水分を付与して基紙を剥離する。以上である。これにより前記発明の課題であった粉体ハンドリング作業が取り除かれると同時に、水転写紙上の昇華性インク画像上に熱接着性ポリエステル樹脂層が積層される。なお一台のインクジェットプリンタにカラー画像噴射用のノズルとは別途に、繊維固着インク噴射用のノズルを設け、昇華性インクの噴射に同期して繊維固着インクを噴射して、1回の印刷だけで完結するのが作業が簡潔で最も好ましい。このときにおいてもミクロに見れば、昇華性インクとポリエステル樹脂と樹脂流動剤が混合して水転写紙上に定着する様は上記と同じである。耐擦性と耐洗濯性の解決については、具体的な使用材料をベースに以下に詳述する。
【0007】
水分散ポリエステル樹脂溶液は多様なタイプが東洋紡社より市販されている。スペックは以下の通りである。
銘柄 固形分(%) 粘度 有機溶剤(%) 分子量 Tg(℃) 特徴
MD-1200 34 20~80 11 15000 67 非晶性
MD-1500 30 0.1~1 15 8000 77 非晶性
MD-2000 40 9 - 18000 67 非晶性
MD-1480 25 <1.0 - 15000 20 非晶性
MD-1985 27 0.1~1.3 9 25000 -20 結晶性
これらの銘柄の粘度であれば、そのまま、もしくはその半分以下の水で希釈すれば十分にインクジェット噴射可能である。
【0008】
インクジェット噴射されるものが水分散ポリエステル樹脂溶液だけであれば、水転写紙上の印刷画像は溶融粘度が高いので、熱圧着工程で染色された樹脂層となって、前記発明と同様に冷却後フイルム状に繊維製品に固着してしまう可能性が高い。しかし、このとき水分散ポリエステル樹脂溶液に樹脂流動剤が適量含まれておれば、熱圧着工程において、印刷画像中のポリエステル樹脂は染色されると同時に、溶融して液相の樹脂流動剤と混濁し、粘度の低い溶融樹脂インクとなって繊維に浸透し、冷却後固化して繊維に固着する。これはまさに捺染顔料インクが繊維に浸透し、乾燥後固着するのと類似のプロセスである。
【0009】
繊維固着インク中に含まれる樹脂流動剤の比率は、ポリエステル樹脂固形分10に対して2~20、好ましくは5~15程度である。これより少ないと繊維への浸透性に劣り、これより多いと浸透性は促進されるが画像に滲みが発生する。なおこのとき印刷画像中に少量残留する樹脂流動剤は樹脂との相溶性がないので、洗濯時に早期に水中に溶け出てしまう。またインクジェット方式においてはヘッドが乾燥してノズルが詰まる現象が発生しやすいが、樹脂流動剤は吸湿性がありヘッドの乾燥を防止するうえで好都合である。また一台のインクジェットプリンタ内で、昇華性インクと繊維固着インクのノズルが同一のノズルプレート面に開口していても、両インクが共に水系インクなのでノズル閉塞などのトラブルは起きにくい。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、専用の高価な装置と較べて一桁廉価な市販のインクジェットプリンタに、昇華性インクと繊維固着インクをセットして水転写紙に印刷し、繊維製品に重ねてアイロンで押圧加熱するだけなので、あらゆる種類の繊維製品へのカラー画像印刷が、極めてローコスト、小スペースで実施出来るようになる。
【発明を実施するための形態】
【実施例0011】
本発明の実施態様は多数存在し得るが、ここではその典型的な態様の実施例のみを記す。
繊維固着インク
MD-1985(前記、東洋紡社製) 30部
エチレングリコール 10部
精製水 60部
A4型インクジェットプリンタ「EW-M752T」(商標、セイコーエプソン社製)の別途の顔料インク用カートリッジに繊維固着インクを、染料カラー用の4カートリッジに市販の4色セットの昇華性インクを充填した。
次に上記インクジェットプリンタを使用して、水転写紙「SPA」(商標、丸繁紙工社製)にカラー画像をインクジェット噴射するのと同期して、繊維固着インクを用いてカラー画像のグレースケール画像もインクジェットで重ね噴射した。
次に白色のTシャツ用綿布に、上記手順で印刷した水転写紙を重ねて、190℃に昇温したアイロンで30秒間押圧し、そのあと水転写紙の背面に水分を付与して綿布より基紙を剥離した。この結果、高解像で濃色に印刷された綿布を得た。
【産業上の利用可能性】
【0012】
本方式は装置も消耗品コストも極めて廉価である。しかも近頃、プリンタ業界においてA4サイズでもA3サイズでも、一台のプリンタに文書印刷向けの黒色顔料インク用ノズルと、カラー印刷向けの染料インク用ノズルを両方装備したタイプが販売されており、これを使うことにより一台のプリンタに本発明実施に必要なインクを全て充填出来るようになったので、本方式を一層小スペースで極めて簡便に実施出来るようになる。この結果、家庭での個人ユースから、スポーツ用品店、一般販売店、印刷所、事業所、NPO、学校、各種クラブなど、従来方式では想定していないような多様な分野で利用される可能性がある。催し場やイベントでのお客への製造即売という用途も有力である。