(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076500
(43)【公開日】2022-05-20
(54)【発明の名称】鉄筋コンクリートの補強構造
(51)【国際特許分類】
E04C 5/06 20060101AFI20220511BHJP
E02D 27/00 20060101ALI20220511BHJP
E04C 5/18 20060101ALI20220511BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20220511BHJP
E04B 1/21 20060101ALI20220511BHJP
E04G 21/12 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
E04C5/06
E02D27/00 D
E04C5/18 102
E04B1/58 511A
E04B1/21 Z
E04G21/12 105C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020185232
(22)【出願日】2020-11-05
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100099704
【弁理士】
【氏名又は名称】久寶 聡博
(72)【発明者】
【氏名】武田 篤史
【テーマコード(参考)】
2D046
2E125
2E164
【Fターム(参考)】
2D046AA15
2E125AA03
2E125AA45
2E125AB12
2E125AC04
2E125AC07
2E125AF01
2E125AG27
2E125AG28
2E125BA02
2E125BA44
2E125BB19
2E125BE07
2E125CA82
2E164AA02
2E164BA02
2E164BA25
2E164CA01
2E164CA03
2E164CA12
(57)【要約】
【課題】塑性変形によるエネルギー吸収作用が阻害されないように、主筋の座屈を防止することが可能な鉄筋コンクリートの補強構造を提供する。
【解決手段】本発明に係る鉄筋コンクリートの補強構造1は、柱2の柱脚部3を基礎4に接合してなるものであって、柱2は、その材軸方向に沿って主筋5a,5bを配置してあり、主筋5a,5bは、基礎4との境界面7を越えて該基礎に延設してある。主筋5aは、第1の群に属する主筋(第1主筋)として、鋼管11に挿通された状態でコンクリート6に埋設してあり、該鋼管は、境界面7を跨ぐようにその設置高さを位置決めしてある。一方、主筋5bは、第2の群に属する主筋(第2主筋)として、コンクリート6に露出した状態で該コンクリートに埋設してある。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの鉄筋コンクリート部材のうち、一方を接合部材、他方を被接合部材として、前記接合部材に配置され前記被接合部材との境界面を越えて該被接合部材に延びる複数の主筋を、それらの一部を第1の群として該第1の群に属する主筋が、前記境界面近傍に位置決めされ少なくとも前記接合部材の側に延設された鋼管に挿通された状態でコンクリートに埋設され、残りを第2の群として該第2の群に属する主筋がコンクリートに露出した状態で該コンクリートに埋設されるように配置したことを特徴とする鉄筋コンクリートの補強構造。
【請求項2】
前記接合部材の横断面のうち、互いに背中合わせとなる一対の縁部領域に前記第1の群に属する主筋と前記第2の群に属する主筋とをそれぞれ混在させた請求項1記載の鉄筋コンクリートの補強構造。
【請求項3】
前記横断面が矩形断面である場合において、前記各縁部領域のうち、各隅部に前記第2の群に属する主筋を、該各隅部を除く部位に前記第1の群に属する主筋をそれぞれ配置した請求項2記載の鉄筋コンクリートの補強構造。
【請求項4】
前記接合部材の幅をDとしたとき、前記鋼管の接合部材側端部から前記境界面までの長さL1を0.5D以上とした請求項1乃至請求項3のいずれか一記載の鉄筋コンクリートの補強構造。
【請求項5】
前記第1の群に属する主筋の外周面と前記鋼管の内周面との間に充填材を充填した請求項1乃至請求項4のいずれか一記載の鉄筋コンクリートの補強構造。
【請求項6】
前記充填材をモルタル又はセメントペーストとした請求項5記載の鉄筋コンクリートの補強構造。
【請求項7】
前記第1の群に属する主筋を前記鋼管の横断面縁部側に偏心させた請求項1乃至請求項6のいずれか一記載の鉄筋コンクリートの補強構造。
【請求項8】
前記接合部材を柱、前記被接合部材を基礎とした請求項1乃至請求項7のいずれか一記載の鉄筋コンクリートの補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲げモーメントが大きくなる部位における鉄筋コンクリートの補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート(以下、RC)で構造部材を構築するにあたり、柱では、主筋を取り囲むように帯鉄筋が配置され、梁では、同じく主筋を取り囲むようにあばら筋が配置され、壁では、主筋に対して直交配置された配力筋に架け渡すようにせん断補強筋が壁面直交方向に配置される。
【0003】
帯鉄筋やあばら筋を含めたこれらのせん断補強筋は、コンクリートの拘束や主筋の座屈を防止する機能を併せ持つものであって、これらの機能が総合的に発揮されることで、RC構造部材の靭性を向上させることができる。
【0004】
一方、せん断補強筋は、主筋や配力筋と交錯させながらの配筋作業となるため、本来的に施工が煩雑となりがちであるが、大断面橋脚のような中間帯鉄筋が不可欠となる場合などでは特に、各種鉄筋がより複雑に交錯するために配筋作業がきわめて煩雑になり、コンクリートの充填性確保の観点から要求される鉄筋間のあきを十分に確保できないおそれもある。
【0005】
そのため、せん断補強筋を十分に配筋することができず、その結果、主筋の座屈、かぶりコンクリートの剥落、コンクリートの圧壊といった事態を招く懸念があり、これを防止するためには、主筋の座屈を抑制する手だてが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8-105157号公報
【特許文献2】特開2013-155503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の
図6には、主筋1を円管1eに挿通することで該主筋を補剛した構成が開示されているとともに、円管1eは、主筋1を座屈補剛する役目を果たすと記載されている。
【0008】
しかしながら、同図に示されているような構成では、円管1eとその周囲に拡がるコンクリートとの間で付着を介した荷重伝達が期待できないため、円管1eの周囲に拡がるコンクリートには、曲げ変形に対してひび割れが分散せず、局所的な割れが発生する事態を招くとともに、それに伴って圧縮縁での応力が過大となってコンクリートが早々に圧壊し、結果として靭性に乏しい構造体となる。
【0009】
つまり、特許文献1記載の発明は、主筋の座屈が防止されるように該主筋を円管に挿通したものの、それが原因でコンクリートの早期圧壊を招き、RCの靱性を高めることができない結果となっている。
【0010】
ちなみに、接合部位での回転変形をあえて許容することで発生曲げモーメントの低減を図り、曲げ破壊を防止しようとする場合があり、例えば杭頭の半剛接構造がその典型例であるが(特許文献2)、このような構造は、塑性変形によるエネルギー吸収を狙った本願発明とは耐震設計思想が本質的に相違する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、局所的なコンクリートの割れによるコンクリートの早期圧壊を回避しつつ主筋の座屈を防止することにより、RCの靭性を高めることが可能な鉄筋コンクリートの補強構造を提供することを目的とする。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係る鉄筋コンクリートの補強構造は請求項1に記載したように、2つの鉄筋コンクリート部材のうち、一方を接合部材、他方を被接合部材として、前記接合部材に配置され前記被接合部材との境界面を越えて該被接合部材に延びる複数の主筋を、それらの一部を第1の群として該第1の群に属する主筋が、前記境界面近傍に位置決めされ少なくとも前記接合部材の側に延設された鋼管に挿通された状態でコンクリートに埋設され、残りを第2の群として該第2の群に属する主筋がコンクリートに露出した状態で該コンクリートに埋設されるように配置したものである。
【0013】
また、本発明に係る鉄筋コンクリートの補強構造は、前記接合部材の横断面のうち、互いに背中合わせとなる一対の縁部領域に前記第1の群に属する主筋と前記第2の群に属する主筋とをそれぞれ混在させたものである。
【0014】
また、本発明に係る鉄筋コンクリートの補強構造は、前記横断面が矩形断面である場合において、前記各縁部領域のうち、各隅部に前記第2の群に属する主筋を、該各隅部を除く部位に前記第1の群に属する主筋をそれぞれ配置したものである。
【0015】
また、本発明に係る鉄筋コンクリートの補強構造は、前記接合部材の幅をDとしたとき、前記鋼管の接合部材側端部から前記境界面までの長さL1を0.5D以上としたものである。
【0016】
また、本発明に係る鉄筋コンクリートの補強構造は、前記第1の群に属する主筋の外周面と前記鋼管の内周面との間に充填材を充填したものである。
【0017】
また、本発明に係る鉄筋コンクリートの補強構造は、前記充填材をモルタル又はセメントペーストとしたものである。
【0018】
また、本発明に係る鉄筋コンクリートの補強構造は、前記第1の群に属する主筋を前記鋼管の横断面縁部側に偏心させたものである。
【0019】
また、本発明に係る鉄筋コンクリートの補強構造は、前記接合部材を柱、前記被接合部材を基礎としたものである。
【0020】
本発明に係る鉄筋コンクリートの補強構造においては、一方を接合部材、他方を被接合部材とした2つの鉄筋コンクリート部材を相互に接合するにあたり、被接合部材との境界面を越えて該被接合部材に延びる接合部材の複数の主筋を、それらの一部(第1の群に属する主筋。以下、第1主筋とも呼ぶ)が鋼管に挿通された状態でコンクリートに埋設され、残り(第2の群に属する主筋。以下、第2主筋とも呼ぶ)がコンクリートに露出した状態で該コンクリートに埋設されるように配置してあり、鋼管は、境界面近傍に位置決めされるとともに、少なくとも接合部材の側に延設してある。
【0021】
このようにすると、まず、第1主筋が挿通された鋼管とその周辺コンクリートとの間では、従来同様、コンクリートとの荷重伝達が期待できないものの、第2主筋が、その周辺コンクリートとの間で荷重伝達を行うことにより、該コンクリートに生じるひび割れを分散させる機能が発揮される。
【0022】
そのため、従来のように、円管1eによって局所的な割れが発生し、それに起因してコンクリートが早々に圧壊するという事態を回避することが可能となり、第1主筋は、このようなコンクリートの早期圧壊に阻害されることなく、自らの座屈防止機能を発揮する。
【0023】
また、第1主筋は、鋼管によって自らの座屈が防止されるが、それによって該第1主筋を抱えるせん断補強筋の負担も軽減されるため、その分、せん断補強筋は、内部コンクリートをより確実に拘束するとともに、第2主筋をしっかりと抱えてその座屈を防止する。
【0024】
そのため、第1主筋、第2主筋とも、圧縮引張に伴う履歴減衰によるエネルギー吸収作用が確実に発揮されることとなり、かくして接合部位近傍における接合部材の靭性を大幅に向上させることが可能となる。
【0025】
なお、終局状態では、鋼管がその端面でコンクリートからの圧縮荷重を一部支持するため、上部構造の急激な圧壊あるいは沈下の防止が期待できる。
【0026】
2つの鉄筋コンクリート部材は、接合部位での曲げモーメントが大きくなる部材、例えば柱(橋脚や橋台を含む)や梁さらには耐震壁が対象となり、柱が接合部材となる場合には、柱脚部に接合される基礎(フーチング、基礎梁)や柱頭部に接合される上階梁が被接合部材となり、梁が接合部材となる場合には、梁端に接合される柱が被接合部材となり、耐震壁が接合部材となる場合には、壁脚部に接合される基礎や壁頂部に接合される上階梁が被接合部材となるが、構造物全体でみたとき、一般的には地震時曲げモーメントが柱脚部で最大となるため、柱を接合部材とし、それに接合される基礎を被接合部材とした構成が典型例となる。
【0027】
複数の主筋を第1の群と第2の群に分けるにあたっては、第2主筋がそのひび割れ分散機能を発揮することによって、第1主筋のみの場合に生じる局所的なコンクリートの割れを防止するとともに、第1主筋が鋼管による自らの座屈防止機能を発揮しつつせん断補強筋の健全性確保を介して第2主筋の座屈を併せて防止するという相補的な作用が発揮される限り、その配置に関する構成は任意であって、どの主筋をどちらの群に分けるかは適宜設定すればよい。
【0028】
例えば、第1主筋と第2主筋とを横断面で交互になるように配置するいわば交互配置が採用可能である。交互配置は、第1主筋と第2主筋とをそれぞれ一本ずつ交互に配置する構成のほか、それぞれを任意の本数ずつ交互に配置する構成が包摂される。
【0029】
ここで、接合部材の横断面のうち、互いに背中合わせとなる一対の縁部領域に第1の群に属する主筋と第2の群に属する主筋とをそれぞれ混在させたならば、該一対の縁部領域がそれぞれ圧縮縁、引張縁となる場合において、上述した相補的な作用が確実に発揮され、より高い靭性能の発揮が期待できる。
【0030】
特に、横断面が矩形断面である場合において、上述した各縁部領域のうち、各隅部に第2の群に属する主筋を、該各隅部を除く部位に第1の群に属する主筋をそれぞれ配置した構成とするならば、隅部を除く部位では第1主筋が鋼管によって座屈が防止されるとともに、隅部においては、せん断補強筋に対する第1主筋の上記負担軽減作用に加え、帯鉄筋やあばら筋がそれらの角部で抱え込むことにより、第2主筋の座屈がより確実に防止される。
【0031】
鋼管は、第1主筋の座屈が防止されるように構成される限り、その構成は任意であって、その全長Lは適宜設定すればよいが、本出願人が行った実証試験に基づけば、接合部材の幅をDとしたとき、該鋼管の接合部材側端部から境界面までの長さL1は、0.25D以上、望ましくは0.5D以上、さらに望ましくはD以上とするのがよい。
【0032】
このようにすれば、第1主筋に対する鋼管の座屈防止作用がより確実となる。
【0033】
第2主筋は、付着によるコンクリートとの荷重伝達によって、ひび割れを分散発生させる機能を発揮するが、ひび割れ発生に伴って開放されるコンクリートの引張応力が該第2主筋に確実に伝達されるような鉄筋量とする、すなわち、第2主筋の鉄筋量は、コンクリートのひび割れ発生とともに該第2主筋が降伏に至ることのない量とするのが望ましい。
【0034】
第1主筋を鋼管に挿通するにあたり、該鋼管によって第1主筋の座屈が適切に防止される限り、必ずしもそれらの隙間に充填材を充填する必要はないが、該第1主筋(第1の群に属する主筋)の外周面と鋼管の内周面との間に充填材を充填した構成とすれば、それらの間に空隙が形成されないため、より確実な座屈防止が可能となる。
【0035】
ここで、上述の充填材をモルタル又はセメントペーストとしたならば、第1主筋との間に過大な空隙が形成されることによる鋼管の座屈防止機能の低下を防ぎつつ、第1主筋と鋼管との付着を切ることで、第1主筋からの圧縮力が鋼管に伝達し、それによって鋼管自体が座屈するのを未然に防止することができる。
【0036】
モルタル又はセメントペーストは、例えば標準よりも水量を多くしたモルタル又はセメントペーストで構成することができる。
【0037】
第1主筋(第1の群に属する主筋)を鋼管の横断面縁部側に偏心させた構成とすれば、鉄筋中心間距離を大きくとることができるため、より大きな曲げ抵抗を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本実施形態に係る鉄筋コンクリートの補強構造1を示した斜視図。
【
図2】同じく鉄筋コンクリートの補強構造1の図であり、(a)は横断面図、(b)はA-A線方向から見た矢視図。
【
図3】鋼管11とそれに挿通された主筋5aとの詳細図であり、(a)は一部を側面で表示した縦断面図、(b)はB-B線に沿う横断面図。
【
図5】変形例に係る鉄筋コンクリートの補強構造の横断面図。
【
図6】別の変形例に係る鉄筋コンクリートの補強構造の横断面図。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明に係る鉄筋コンクリートの補強構造の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0040】
図1は、本実施形態に係る鉄筋コンクリートの補強構造1を示した斜視図、
図2は同じく横断面図及びA-A線方向から見た矢視図である。
【0041】
これらの図でわかるように、鉄筋コンクリートの補強構造1は、2つの鉄筋コンクリート部材のうち、一方の接合部材としての柱2の柱脚部3を、他方の被接合部材としての基礎4に接合してなるものであって、柱2は、その材軸方向に沿って主筋5a,5bを配置するとともに該主筋の周囲にせん断補強筋である帯鉄筋12を巻回した上、これらをコンクリート6に埋設して構成してあり、主筋5a,5bは、基礎4との境界面7を越えて該基礎に延設してある。
【0042】
ここで、主筋5aは、第1の群に属する主筋(第1主筋)として、鋼管11に挿通された状態でコンクリート6に埋設してあり、該鋼管は、境界面7を跨ぐようにその設置高さを位置決めしてある。
【0043】
一方、主筋5bは、第2の群に属する主筋(第2主筋)として、コンクリート6に露出した状態で該コンクリートに埋設してある。
【0044】
鋼管11は、柱2の幅をDとしたとき、該鋼管の接合部材側端部、すなわち柱側端部から境界面7までの長さL1をDとしてある。
【0045】
鋼管11は、例えば一般構造用鋼管を用いて構成することが可能で、主筋5a,5bが例えばD13であれば、厚み1.9mm、外径21.7mm程度のものを用いればよい。
【0046】
主筋5a及び主筋5bは、地震時水平力の主たる方向(
図2の左右方向)に応じて配置してあり、該水平力による曲げ変形時に圧縮縁あるいは引張縁となる側(
図2では左右側)を互いに背中合わせとなる一対の縁部領域とし、該各縁部領域のうち、それらの隅部に主筋5bを、該隅部を除く中間部位に4本の主筋5aをそれぞれ配置する形で各縁部領域に主筋5a及び主筋5bを混在させてあるとともに、地震時水平力の従たる作用方向(主たる方向に直交する方向)についても、その際の曲げ変形時に圧縮縁あるいは引張縁となる側(
図2(a)では上下側)を互いに背中合わせとなる一対の縁部領域とし、該各縁部領域のうち、それらの隅部と該隅部に隣り合う部位に主筋5bを、それらを除く中間部位に2本の主筋5aをそれぞれ配置する形で各縁部領域に主筋5a及び主筋5bを混在させてある。なお、隅部に配置される主筋5bについては、左右方向と上下方向で共通である。
【0047】
主筋5aは
図3に示すように、鋼管11の座屈防止機能を享受できないような空隙が該鋼管との間に形成されることがないよう、該主筋の外周面と鋼管11の内周面との間に充填材31を充填してある。
【0048】
充填材31は、主筋5aと鋼管11との付着が切れるようにすることで、主筋5aからの圧縮力が鋼管11に実質的に伝達しないようにするのが望ましく、例えばモルタル又はセメントペーストで構成することができる。
【0049】
モルタル又はセメントペーストは、標準よりも水量を多くした配合とすればよい。
【0050】
また、主筋5aは
図3に示すように、該主筋の鉄筋中心間距離(背中合わせとなる側に配置された主筋5aとの中心間距離)が大きくなるよう、鋼管11の横断面縁部側(同図右側)に偏心させて配置してあり、かかる構成により、主筋5a,5a間の鉄筋中心間距離は、主筋5b,5bの鉄筋中心間距離よりも鋼管11の肉厚の2倍程度小さいだけにとどまる。
【0051】
なお、主筋5bは、上述したように、付着によるコンクリート6との荷重伝達によって、ひび割れを分散発生させる機能を発揮するが、ひび割れ発生に伴って開放されるコンクリートの引張応力が該主筋で確実に支持されるような鉄筋量とする、すなわち、主筋5bの鉄筋量は、コンクリート6のひび割れ発生とともに該主筋が降伏に至ることのない量とするのが望ましい。
【0052】
本実施形態に係る鉄筋コンクリートの補強構造1においては、接合部材である柱2と、被接合部材である基礎4とを相互接合するにあたり、境界面7を越えて基礎4に延びる柱2の複数の主筋のうち、主筋5aが、第1主筋として鋼管11に挿通された状態でコンクリート6に埋設され、残りの主筋5bが第2主筋としてコンクリート6に露出した状態で該コンクリートに埋設されるように配置してあり、鋼管11は、境界面7近傍に位置決めされるとともに、柱2の側に延設してある。
【0053】
このようにすると、まず、主筋5aが挿通された鋼管11とその周辺のコンクリート6との間では、従来同様、主筋5aとコンクリート6との荷重伝達が実質的に行われないものの、主筋5bが、その周辺のコンクリート6との間で荷重伝達を行うので、該コンクリートに生じるひび割れは、その発生位置が徐々に拡がる形で分散発生する。
【0054】
そのため、特許文献1記載の従来技術のように、円管1eによって大きな割れが局所的に発生し、それに起因してコンクリートが早々に圧壊するという事態が回避される。
【0055】
また、主筋5aは、鋼管11によって自らの座屈が防止されるが、それによって該主筋を抱える帯鉄筋12の負担も軽減される。
【0056】
[実施例]
長さが845mmで幅Dが400mmの正方形断面の柱にD13(SD345)の主筋を、64mmピッチ、被り厚さ40mmで
図1,2と同様に配筋するとともに、該図と同じ位置の主筋に構造用鋼管(STK400、外径21.7mm、厚み1.9mm)を被せ、D6(SD345)の帯筋を70mmピッチで巻回して試験体とした。
【0057】
試験体は、構造用鋼管の柱側端部から境界面までの長さ(
図2のL
1に相当)を200mm(=0.5D)としたものと400mm(=D)としたものの2種類を準備した。
【0058】
試験方法は、156.8kN(0.98MPa)の軸力を載荷した状態で、境界面からの距離、すなわちせん断スパンが1,245mmの高さ位置で正負水平荷重を載荷した。
【0059】
正負交番載荷は、降伏変位δyを基準に、δy ,-δy ,2δy ,-2δy ,3δy ,-3δy・・・と順次変位が大きくパターンで行った。
【0060】
【0061】
まず、構造用鋼管の柱側端部から境界面までの長さが0.5Dの場合には(同図(a))、"Reference"と記された既往実験(鋼管なし)の結果と比べると、最大耐力となった変位が、既往実験では3δyであるのに対し、本発明では6δyとなっているとともに、履歴形状は最大耐力を越えた後も概ね紡錘形を呈していて、良好なエネルギー吸収が認められることから、靭性が向上していることがわかる。
【0062】
次に、構造用鋼管の柱側端部から境界面までの長さがDの場合には(同図(b))、既往実験結果と比べると、最大耐力となった変位が、本発明では7δyとさらに靭性が延びているとともに、履歴形状も上記ケースと同様、概ね紡錘形であって良好なエネルギー吸収が認められることから、靭性がいっそう改善されていることがわかる。
【0063】
これらの比較を下表にまとめた。なお、同表でNo.1、No.2は、構造用鋼管の柱側端部から境界面までの長さを0.5D,Dとした場合にそれぞれ該当する。
【表1】
【0064】
以上説明したように、本実施形態に係る鉄筋コンクリートの補強構造1によれば、主筋5bがその周辺のコンクリート6との間で荷重伝達を行うので、該コンクリートに生じるひび割れを分散させる機能が発揮されることとなり、かくして、すべての主筋に鋼管を被せることで生じる局所的な割れに起因したコンクリートの早期圧壊が未然に防止され、主筋5aは、このようなコンクリートの早期圧壊に阻害されることなく、自らの座屈防止機能を発揮する。
【0065】
加えて、主筋5aが鋼管11による座屈防止機能を享受することで自らの座屈が防止されることにより、該主筋を抱える帯鉄筋12の負担が軽減されるという作用も発揮されるため、その分、帯鉄筋12は、内部のコンクリート6をより確実に拘束するとともに、主筋5bをしっかりと抱えてその座屈を防止する。
【0066】
そのため、主筋5a、主筋5bとも、圧縮引張に伴う履歴減衰によるエネルギー吸収作用が確実に発揮されることとなり、かくして、上述した主筋5a,5bの役割分担により、接合部位近傍における柱2の靭性を大幅に向上させることが可能となる。
【0067】
なお、終局状態では、鋼管11がその端面でコンクリート6からの圧縮荷重を一部支持するため、上部構造の急激な圧壊あるいは沈下の防止が期待できる。
【0068】
また、本実施形態に係る鉄筋コンクリートの補強構造1によれば、柱2の横断面のうち、互いに背中合わせとなる一対の縁部領域に主筋5aと主筋5bとをそれぞれ混在させたので、該一対の縁部領域がそれぞれ圧縮縁、引張縁となる場合において、上述した相補的な作用が確実に発揮され、より高い靭性能の発揮が期待できる。
【0069】
また、本実施形態に係る鉄筋コンクリートの補強構造1によれば、横断面が矩形断面である柱2において、左右側の各縁部領域のうち、各隅部には主筋5bを、該各隅部を除く部位には主筋5aをそれぞれ配置し、上下側の各縁部領域のうち、各隅部とそれに隣り合う部位には主筋5bを、それらを除く部位には主筋5aをそれぞれ配置したので、主筋5aが配置された部位では該主筋が鋼管11によって座屈が防止されるとともに、主筋5bが配置された隅部においては、帯鉄筋12に対する主筋5aの上記負担軽減作用に加え、帯鉄筋12がそれらの角部で抱え込むことにより、主筋5bの座屈がより確実に防止される。
【0070】
また、本実施形態に係る鉄筋コンクリートの補強構造1によれば、柱2の幅をDとしたときに、鋼管11の柱側端部から境界面7までの長さL1をDとしたので、主筋5aに対する鋼管11の座屈防止作用がより確実に発揮される。
【0071】
また、本実施形態に係る鉄筋コンクリートの補強構造1によれば、主筋5aの外周面と鋼管11の内周面との間に充填材31を充填するようにしたので、両者の間に実質的な空隙が形成されなくなり、かくして主筋5aは、鋼管11による座屈防止機能を確実に享受することが可能となる。
【0072】
また、本実施形態に係る鉄筋コンクリートの補強構造1によれば、充填材31をモルタル又はセメントペーストで構成するようにしたので、主筋5aと鋼管11との付着が確実に切断され、主筋5aからの圧縮力が鋼管11に伝達して該鋼管自体が座屈するのを未然に防止することができる。
【0073】
また、本実施形態に係る鉄筋コンクリートの補強構造1によれば、主筋5aを鋼管11の横断面縁部側(同図右側)に偏心させて配置するようにしたので、柱2の柱脚部3において、より大きな曲げ抵抗を得ることが可能となる。
【0074】
本実施形態では、主筋5a,5bを配置するにあたり、柱2の横断面において、隅部又はそれに加えて隣り合う部位に主筋5bを、それらの部位を除く中間部位に複数本の主筋5aを配置するようにしたが、本発明において、互いに背中合わせとなる一対の縁部領域に第1主筋と第2主筋とをそれぞれ混在させるにあたり、実施形態の構成に限定されるものではなく、
図5に示すように各縁部領域の中央にのみ第1主筋である主筋5aを配置し、それ以外は第2主筋である主筋5bを配置するようにしてもよいし、必ずしも隅部に第2主筋である主筋5bを配置する必要もなく、
図6に示すように、主筋5aと主筋5bを横断面で交互になるように配置するようにしてもかまわない。
【0075】
さらに言えば、本発明においては、第2主筋がそのひび割れ分散機能を発揮することによって、第1主筋のみの場合に生じる局所的なコンクリートの割れを防止するとともに、第1主筋が鋼管による自らの座屈防止機能を発揮しつつせん断補強筋の健全性確保を介して第2主筋の座屈を併せて防止するという相補的な作用が発揮される限り、それらの配置構成は任意であって、必ずしも上記一対の縁部領域に第1主筋と第2主筋とをそれぞれ混在させる必要はなく、例えば曲げ変形時に圧縮縁あるいは引張縁となる側にそれぞれ第1主筋のみを、それ以外の部位には第2主筋を並べた構成を採用することも可能である。
【0076】
また、本実施形態では、鋼管11の柱側端部から境界面7までの長さL
1をDとしたが、
図4(a)や表1に示したように、L
1が0.5Dの場合であっても一定の効果が発揮されるので、実施形態の構成に代えて、鋼管11の柱側端部から境界面7までの長さL
1を0.5Dとしてもかまわない。
【0077】
また、上述の試験は、構造用鋼管を基礎に埋め込まない形で行ったので、鋼管11の基礎側端部を境界面7を越えて基礎4に延設した本実施形態においては、鋼管11の柱側端部から境界面7までの長さL1を0.25Dとしても、一定の効果が期待できる。
【0078】
また、本実施形態では、主筋5aの外周面と鋼管11の内周面との間に充填材31を充填するようにしたが、鋼管11の座屈防止機能を享受できないほどの空隙が該鋼管との間に形成されないのであれば、必ずしも充填材を用いる必要はない。
【0079】
また、本実施形態では、主筋5aを鋼管11の横断面縁部側に偏心させて配置したが、主筋の鉄筋中心間距離が十分確保できるのであれば、このような偏心配置とせず、材軸が概ね一致するような配置としてもかまわない。
【符号の説明】
【0080】
1 鉄筋コンクリートの補強構造
2 柱(接合部材、2つの鉄筋コンクリート部材の一方)
3 柱脚部(接合部材の端部)
4 基礎(被接合部材、2つの鉄筋コンクリート部材の他方)
5a 主筋(第1の群に属する主筋、第1主筋)
5b 主筋(第2の群に属する主筋、第2主筋)
6 コンクリート
7 境界面
31 充填材